(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023787
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ティグ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20230209BHJP
B23K 9/167 20060101ALI20230209BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B23K9/095 515A
B23K9/167 A
B23K31/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129616
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】本田 怜央
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
(57)【要約】
【課題】電極の消耗度を自動判別して、研磨時期を報知することができるティグ溶接装置を提供すること。
【解決手段】非消耗の電極1と母材2との間にアーク3を発生させて溶接するティグ溶接装置において、アーク3の発生部の画像Cmを撮影するカメラCMと、画像Cmから電極1の消耗度を判別する電極消耗度判別部HD1と、電極消耗度判別部の判別結果Hd1に基づいて報知する報知部ARと、を備えている。電極消耗度判別部HD1は、画像Cmからアーク3の形状の面積を検出して電極1の消耗度を判別する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗の電極と母材との間にアークを発生させて溶接するティグ溶接装置において、
前記アークの発生部の画像を撮影するカメラと、
前記画像から前記電極の消耗度を判別する電極消耗度判別部と、
前記電極消耗度判別部の判別結果に基づいて報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするティグ溶接装置。
【請求項2】
前記電極消耗度判別部は、前記画像から前記アークの形状の面積を検出して前記電極の前記消耗度を判別する、
ことを特徴とする請求項1に記載のティグ溶接装置。
【請求項3】
非消耗の電極と母材との間にアークを発生させて溶接するティグ溶接装置において、
前記アークが消弧しているときの前記電極の先端部の画像を撮影するカメラと、
前記画像から前記電極の消耗度を判別する電極消耗度判別部と、
前記電極消耗度判別部の判別結果に基づいて報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするティグ溶接装置。
【請求項4】
前記電極消耗度判別部は、前記画像から前記電極の先端形状の面積を検出して前記電極の前記消耗度を判別する、
ことを特徴とする請求項3に記載のティグ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非消耗電極の消耗度を判別することができるティグ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非消耗の電極と母材との間にアークを発生させて溶接するティグ溶接装置が慣用されている。上記の電極としては、タングステン等が使用される。電極は、先端を鋭角の円錐状に研磨して使用される。これは、電極の先端が鋭角の円錐状であると、アークの硬直性が強くなり安定した溶接状態となるからである。溶接を継続していると、電極の先端が溶融して消耗し、先端角度が次第に大きくなる。電極の消耗が進行すると、アークの硬直性が弱くなり、溶接状態が不安定になりやすい。このために、溶接作業者は、電極先端の形状を観察して、電極の研磨の時期を判断している。
【0003】
特許文献1の発明は、アーク発生部をカメラで撮影し、溶接状態を判別して溶接装置の出力制御に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、溶接作業者は、電極の先端形状を観察して、研磨の時期を判断している。このために、溶接作業者によって判断基準がばらばらであるので、溶接品質にばらつきが生じるという問題がある。さらには、未熟練作業者にとっては、電極の研磨時期を判断することが難しいという問題もある。
【0006】
そこで、本発明では、電極の消耗度を自動判別して、研磨時期を報知することができるティグ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
非消耗の電極と母材との間にアークを発生させて溶接するティグ溶接装置において、
前記アークの発生部の画像を撮影するカメラと、
前記画像から前記電極の消耗度を判別する電極消耗度判別部と、
前記電極消耗度判別部の判別結果に基づいて報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするティグ溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記電極消耗度判別部は、前記画像から前記アークの形状の面積を検出して前記電極の前記消耗度を判別する、
ことを特徴とする請求項1に記載のティグ溶接装置である。
【0009】
請求項3の発明は、
非消耗の電極と母材との間にアークを発生させて溶接するティグ溶接装置において、
前記アークが消弧しているときの前記電極の先端部の画像を撮影するカメラと、
前記画像から前記電極の消耗度を判別する電極消耗度判別部と、
前記電極消耗度判別部の判別結果に基づいて報知する報知部と、
を備えたことを特徴とするティグ溶接装置である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記電極消耗度判別部は、前記画像から前記電極の先端形状の面積を検出して前記電極の前記消耗度を判別する、
ことを特徴とする請求項3に記載のティグ溶接装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るティグ溶接装置によれば、電極の消耗度を自動判別して、研磨時期を報知することができる。この結果、溶接作業者による研磨時期のばらつきをなくし、溶接品質を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るティグ溶接装置のブロック図である。
【
図2】第1電極消耗度判別回路HD1によるCCDカメラCMからの画像データCmを処理して電極1の消耗度を判別する方法を示す図である。
【
図3】第2電極消耗度判別回路HD2によるCCDカメラCMからの画像データCmを処理して電極1の消耗度を判別する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るティグ溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0015】
溶接電源PSは、一般的なティグ溶接用の溶接電源であり、定電流特性を有する。
【0016】
溶接トーチ4の先端には電極1が取り付けられている。溶接トーチ4及び母材2には溶接電源PSからの出力が供給される。電極1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電して、アーク3が発生する。
【0017】
CCDカメラCMは、溶接方向前方からアーク発生部が撮影できるように溶接トーチ4に取り付けられており、画像データCmを出力する。
【0018】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。通電判別回路CDは、上記の電流検出信号Idを入力として、この値が閾値 (10A程度)以上のときはアーク発生状態にあると判別してHighレベルとなる通電判別信号Cdを出力する。
【0019】
第1電極消耗度判別回路HD1は、上記の画像データCm及び上記の通電判別信号Cdを入力として、通電判別信号CdがHighレベル(アーク発生状態)であるときに所定周期ごとに画像データCmを処理し、電極1の消耗度が基準状態以上であると判別したときはHighレベルとなる第1電極消耗度判別信号Hd1を出力する。所定周期は、例えば60秒である。画像データCmの処理方法については、
図2で詳述する。
【0020】
第2電極消耗度判別回路HD2は、上記の画像データCm及び上記の通電判別信号Cdを入力として、通電判別信号CdがLowレベル(アーク消弧状態)に変化するごとに画像データCmを処理し、電極1の消耗度が基準状態以上であると判別したときはHighレベルとなる第1電極消耗度判別信号Hd2を出力する。画像データCmの処理方法については、
図3で詳述する。
【0021】
報知回路ARは、上記の第1電極消耗度判別信号Hd1及び上記の第2電極消耗度判別信号Hd2を入力として、両値の論理和がHighレベルのときは表示灯、ブザー、外部への報知信号の出力等によって外部に報知する。溶接作業者は、この報知によって、電極1の研磨時期が来たことを認識することができる。また、報知信号を、ロボット溶接にあってはロボット制御装置又はネットワークを介して溶接工程を管理しているコンピュータに送信するようにしても良い。
【0022】
図2は、第1電極消耗度判別回路HD1によるCCDカメラCMからの画像データCmを処理して電極1の消耗度を判別する方法を示す図である。同図(A)は電極1の先端を鋭角に研磨した直後のアーク発生部の画像であり、同図(B)は電極1の先端が消耗したときのアーク発生部の画像である。以下、同図を参照して消耗度判別方法について説明する。
【0023】
同図において、電極1の先端部及び母材2はアーク3の光によって見えないので、破線で示している。アーク3の形状については、画像データCmから基準値以上の輝度の部分を抽出して、その輪郭を実践で示している。同図(A)の場合のアーク3の形状の面積はSaとなり、同図(B)の場合のアーク3の形状の面積はSbとなっている。同図(A)は電極1が研磨直後であるので、アーク3はシャープな形状となっている。それに対して、同図(B)は電極1の先端が消耗しているので、アーク3は広がった形状となっている。そこで、以下の処理によって、電極1の消耗度が基準状態以上になったことを判別する。
1)研磨直後の画像データCmからアーク形状面積Saを算出して記憶する。
2)アーク発生中に、周期的に画像データCmからアーク形状面積Sbを算出する。
3)Sb/Saの除算値が基準値以上になると、消耗度が基準状態以上になったと判別する。例えば、基準値は1.2である。
【0024】
図3は、第2電極消耗度判別回路HD2によるCCDカメラCMからの画像データCmを処理して電極1の消耗度を判別する方法を示す図である。同図(A)は電極1の先端を鋭角に研磨した直後のアーク消弧時の画像であり、同図(B)は電極1の先端が消耗したときのアーク消弧時の画像である。以下、同図を参照して消耗度判別方法について説明する。
【0025】
同図において、電極1及び母材2は実線で示し、アーク3は消弧しているので、点線で示している。電極1の先端形状については、画像データCmを輝度によって判別して、その輪郭を示している。同図(A)の場合の電極1の先端形状の面積はScとなり、同図(B)の場合の電極1の先端形状の面積はSdとなっている。同図(A)は電極1が研磨直後であるので、先端形状は鋭角な円錐状となっている。それに対して、同図(B)は電極1の先端が消耗しているので、先端形状は球状となっている。そこで、以下の処理によって、電極1の消耗度が基準状態以上になったことを判別する。
1)研磨直後の画像データCmから電極先端形状面積Scを算出して記憶する。
2)アーク3が消弧するごとに画像データCmから電極先端形状面積Sdを算出する。
3)Sd/Scの除算値が基準値以上になると、消耗度が基準状態以上になったと判別する。例えば、基準値は1.2である。
【0026】
上述した実施の形態に係るティグ溶接装置は、アークの発生部の画像を撮影するカメラと、画像から前記電極の消耗度を判別する電極消耗度判別部と、前記電極消耗度判別部の判別結果に基づいて報知する報知部と、を備えている。電極消耗度判別部は、画像からアークの形状の面積を検出して電極の消耗度を判別する。電極の消耗が進行するのに伴い、アークは次第に広がった形状になる。そこで、アークの形状の面積を算出して、研磨直後の面積と比較することによって、電極の消耗度を判別することができる。この結果、本実施の形態では、電極の消耗度を自動判別して、研磨時期を報知することができる。
【0027】
また、上述した実施の形態に係るティグ溶接装置は、アークが消弧しているときの電極の先端部の画像を撮影するカメラと、画像から電極の消耗度を判別する電極消耗度判別部と、電極消耗度判別部の判別結果に基づいて報知する報知部と、を備えている。電極消耗度判別部は、画像から電極の先端形状の面積を検出して電極の消耗度を判別する。電極の消耗が進行するのに伴い、電極の先端形状は円錐状から次第に球状へと変化する。そこで、電極の先端形状の面積を算出して、研磨直後の面積と比較することによって、電極の消耗度を判別することができる。この結果、本実施の形態では、電極の消耗度を自動判別して、研磨時期を報知することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 電極
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
AR 報知回路
CD 通電判別回路
Cd 通電判別信号
CM CCDカメラ
Cm 画像データ
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Iw 溶接電流
PS 溶接電源
Sa 研磨直後のアーク形状面積
Sb 消耗後のアーク形状面積
Sc 研磨直後の電極先端形状面積
Sd 消耗後の電極先端形状面積
Vw 溶接電圧