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特開2023-23898半導体基板、半導体ウエハ、及び半導体ウエハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023898
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】半導体基板、半導体ウエハ、及び半導体ウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/365 20060101AFI20230209BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20230209BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20230209BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20230209BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230209BHJP
   H01L 29/24 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
H01L21/365
C30B29/16
C30B25/02 Z
C23C16/40
H01L21/20
H01L29/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129837
(22)【出願日】2021-08-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】林 家弘
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB02
4G077AB09
4G077BB10
4G077DB05
4G077EA02
4G077EA05
4G077EB01
4G077ED06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TA07
4G077TB02
4G077TB03
4G077TC06
4G077TC08
4G077TC10
4G077TK01
4G077TK06
4K030AA03
4K030AA05
4K030BA42
4K030BB02
4K030CA01
4K030CA12
4K030JA01
4K030LA15
5F045AA03
5F045AB40
5F045AC03
5F045AC05
5F045AC11
5F045AF13
5F045BB02
5F045BB12
5F045DA67
5F152LL03
5F152LN03
5F152MM18
5F152NN01
5F152NN27
5F152NQ01
(57)【要約】
【課題】膜厚分布及びドナー濃度分布が小さくかつ結晶欠陥の密度が小さい酸化ガリウム系のエピタキシャル膜をHVPE法により成膜することができる酸化ガリウム系の半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル膜を備えた半導体ウエハ、及び半導体ウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】一実施の形態として、少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面11とする半導体基板10であって、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなり、成長下地面11が(001)面であり、成長下地面11の70面積%以上の連続した領域において、[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にあり、成長下地面11の前記領域において、[001]方向のオフ角が、-1°以上かつ1°以下の範囲内にあり、直径が2インチ以上である、半導体基板10を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面とする半導体基板であって、
酸化ガリウム系半導体の単結晶からなり、
前記成長下地面が(001)面であり、
前記成長下地面の70面積%以上の連続した領域において、[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にあり、
前記成長下地面の前記領域において、[001]方向のオフ角が、-1°以上かつ1°以下の範囲内にあり、
直径が2インチ以上である、
半導体基板。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体基板と、
前記半導体基板の前記成長下地面上の、HVPE法の原料に由来するClを含む酸化ガリウム系半導体の単結晶からなるエピタキシャル膜と、
を備え、
前記エピタキシャル膜中のエッチピットとして現れる結晶欠陥の密度が5×10cm-3未満である、
半導体ウエハ。
【請求項3】
前記エピタキシャル膜がアズグロウンの状態であり、
前記エピタキシャル膜の70面積%以上の連続した領域において、膜厚の分布が±10%未満である、
請求項2に記載の半導体ウエハ。
【請求項4】
前記エピタキシャル膜が意図的に添加されたドナーを含まず、
前記エピタキシャル膜のドナー濃度の分布が±40%未満である、
請求項2又は3に記載の半導体ウエハ。
【請求項5】
前記エピタキシャル膜の表面の70面積%以上の連続した領域において、前記エピタキシャル膜の表面から前記半導体基板の表面まで達するピットの面内密度が、0.1個/cm以下である、
請求項2~4のいずれか1項に記載の半導体ウエハ。
【請求項6】
少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面とする、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなり、直径が2インチ以上である半導体基板を用意する工程と、
前記半導体基板の前記成長下地面上に、酸化ガリウム系半導体の単結晶をHVPE法によりエピタキシャル成長させて、エピタキシャル膜を形成する工程と、
を含み、
前記成長下地面が(001)面であり、
前記成長下地面の70面積%以上の連続した領域において、[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にあり、
前記成長下地面の前記領域において、[001]方向のオフ角が、-1°以上かつ1°以下の範囲内にある、
半導体ウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、半導体ウエハ、及び半導体ウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法により、酸化ガリウム系単結晶からなる基板上に酸化ガリウム系単結晶膜をエピタキシャル成長させる発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された発明によれば、基板の主面の方位を所定の方位に設定することにより、HVPE法によるエピタキシャル膜の成長レートを高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-109902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術により作製された直径が2インチ以上の酸化ガリウム系のエピタキシャルウエハには、エピタキシャル膜の膜厚分布が11%と大きく、また、ドナー濃度の分布が大きくなる(意図的にドナーを添加しない場合にはドナー分布が40%以上となる)という問題があった。また、膜厚分布が小さくなるような条件で成膜を行う場合には、エッチピットとして現れるエピタキシャル成長に起因する結晶欠陥の密度が5×10cm-3以上と大きくなっていた。これらの問題により、従来の酸化ガリウム系のエピタキシャルウエハを用いて酸化ガリウム系のパワーデバイスを歩留まりよく製造することが困難であった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、膜厚分布及びドナー濃度分布が小さくかつ結晶欠陥の密度が小さい酸化ガリウム系のエピタキシャル膜をHVPE法により成膜することができる酸化ガリウム系の半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル膜を備えた半導体ウエハ、及びその半導体ウエハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]の半導体基板、下記[2]~[5]の半導体ウエハ、下記[6]の半導体ウエハの製造方法を提供する。
【0007】
[1]少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面とする半導体基板であって、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなり、前記成長下地面が(001)面であり、前記成長下地面の70面積%以上の連続した領域において、[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にあり、前記成長下地面の前記領域において、[001]方向のオフ角が、-1°以上かつ1°以下の範囲内にあり、直径が2インチ以上である、半導体基板。
[2]上記[1]に記載の半導体基板と、前記半導体基板の前記成長下地面上の、HVPE法の原料に由来するClを含む酸化ガリウム系半導体の単結晶からなるエピタキシャル膜と、を備え、前記エピタキシャル膜中のエッチピットとして現れる結晶欠陥の密度が5×10cm-3未満である、半導体ウエハ。
[3]前記エピタキシャル膜がアズグロウンの状態であり、前記エピタキシャル膜の70面積%以上の連続した領域において、膜厚の分布が±10%未満である、上記[2]に記載の半導体ウエハ。
[4]前記エピタキシャル膜が意図的に添加されたドナーを含まず、前記エピタキシャル膜のドナー濃度の分布が±40%未満である、上記[2]又は[3]に記載の半導体ウエハ。
[5]前記エピタキシャル膜の表面の70面積%以上の連続した領域において、前記エピタキシャル膜の表面から前記半導体基板の表面まで達するピットの面内密度が、0.1個/cm以下である、上記[2]~[4]のいずれか1項に記載の半導体ウエハ。
[6]少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面とする、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなり、直径が2インチ以上である半導体基板を用意する工程と、前記半導体基板の前記成長下地面上に、酸化ガリウム系半導体の単結晶をHVPE法によりエピタキシャル成長させて、エピタキシャル膜を形成する工程と、を含み、前記成長下地面が(001)面であり、前記成長下地面の70面積%以上の連続した領域において、[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にあり、前記成長下地面の前記領域において、[001]方向のオフ角が、-1°以上かつ1°以下の範囲内にある、半導体ウエハの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜厚分布及びドナー濃度分布が小さくかつ結晶欠陥の密度が小さい酸化ガリウム系のエピタキシャル膜をHVPE法により成膜することができる酸化ガリウム系の半導体基板、その半導体基板とエピタキシャル膜を備えた半導体ウエハ、及びその半導体ウエハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る半導体ウエハの垂直断面図である。
図2図2(a)、(b)は、成長下地面の[010]方向のオフ角の設定値を0°として製造された半導体ウエハをエピタキシャル膜の表面側から写した写真である。
図3図3は、成長下地面の[010]方向のオフ角の設定値を0°として製造された半導体ウエハをエピタキシャル膜の表面側から写した写真である。
図4図4は、成長下地面の[010]方向のオフ角の設定値を0.1°として製造された半導体ウエハをエピタキシャル膜の表面側から写した写真である。
図5図5(a)は、サファイア基板上にHVPE法により成膜されたGa膜の膜厚分布を示す平面図である。図5(b)は、中心部の膜厚を1.00として規格化されたサファイア基板上のGa膜の膜厚分布を示す平面図である。
図6図6は、規格化されたサファイア基板上のGa膜の膜厚分布を用いて補正された、図2(b)に示されるエピタキシャル膜の膜厚分布を示す平面図である。
図7図7は、25枚のエピタキシャル膜の線状のモフォロジーを有する領域と、線状のモフォロジーを有しない領域におけるドナー濃度の測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施の形態〕
(半導体ウエハの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体ウエハ1の垂直断面図である。半導体ウエハ1は、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板10と、半導体基板10の成長下地面11上にエピタキシャル成長により形成された、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなるエピタキシャル膜20を備える。
【0011】
ここで、酸化ガリウム系半導体とは、Ga、又は、Al、Inなどの元素が添加されたGaをいう。例えば、酸化ガリウム系半導体は、(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。GaにAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0012】
半導体基板10とエピタキシャル膜20を構成する酸化ガリウム系半導体の単結晶は、β型の結晶構造を有する。また、半導体基板10とエピタキシャル膜20は、Si、Snなどのドーパントを含んでいてもよい。
【0013】
半導体基板10は、HVPE法によるエピタキシャル結晶成長用の下地基板として用いられる基板である。半導体基板10は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法等の融液成長法により育成したGa系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。
【0014】
エピタキシャル膜20は、Clを含む原料ガスを用いるHVPE法により成膜される。このため、エピタキシャル膜20は、HVPE法の原料に由来するClを含む。エピタキシャル膜20に含まれるClの濃度は、5×1016atoms/cm以下である。HVPE法以外の方法により酸化ガリウム系半導体のエピタキシャル膜を形成する場合には、Clを含む原料を用いないため、通常、エピタキシャル膜中にClが含まれることはなく、少なくとも、1×1016cm-3以上のClが含まれることはない。
【0015】
エピタキシャル膜20の原料ガスには、GaClガス、GaClガス、GaClガス、(GaClガスなどのGa塩化物ガスであるGaの原料ガスと、OガスやHOガスなどの酸素含有ガスであるOの原料ガスと、SiClガス、GeClガス、SnClガス、PbClガスなどのドーパント含有ガスであるドーパントの原料ガスを用いる。また、エピタキシャル膜20がAlやInを含む場合には、AlClなどのAl塩化物ガスであるAlの原料ガスや、InClなどのIn塩化物ガスであるInの原料ガスを用いる。
【0016】
また、エピタキシャル膜20は、結晶成長速度の速いHVPE法により形成されるため、厚く形成することができ、例えば、1000nm以上の厚さに形成することができる。また、産業用のHVPE法によるエピタキシャル膜20の成長速度は200μm/h程度であり、この場合は、1000μmまでの厚さであれば、現実的な時間で成膜することができる。すなわち、例えば、厚さ1000nm以上1000μm以下のエピタキシャル膜20を形成することができる。なお、MBE法を用いる場合の酸化ガリウム系半導体のエピタキシャル膜の結晶成長速度は120nm/h程度であり、1000nm以上の厚さに形成するためには8時間以上の時間が必要となるため、生産現場においては現実的ではない。
【0017】
半導体基板10は、少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面11とする。半導体基板10の成長下地面11は、(001)面である。成長下地面11の70面積%以上の連続した領域(成長下地面11の全体の70%以上の面積を有する連続した領域)において、[010]方向のオフ角((001)面からの傾斜角度)が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にある。好ましくは、成長下地面11の80面積%以上の連続した領域、より好ましくは、成長下地面11の90面積%以上の連続した領域における[010]方向のオフ角((001)面からの傾斜角度)が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にある。また、この[010]方向のオフ角((001)面からの傾斜角度)が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にある領域においては、[001]方向のオフ角が、-1°以上かつ1°以下の範囲内にある。
【0018】
なお、成長下地面11のオフ角は、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、原子間力顕微鏡で成長下地面11を観察すると、(001)面をテラスとしたステップテラス構造の情報が得られ、そのテラスの長さとステップの高さから、三角関数を用いてオフ角を得ることができる。
【0019】
成長下地面11の[001]方向のオフ角が、-0.01°より大きくかつ0.01°より小さい範囲内にある領域が存在する場合、エピタキシャル膜20の表面21のその領域上の部分から線状のモフォロジーが広がる。
【0020】
図2(a)、(b)、図3は、半導体ウエハ1をエピタキシャル膜20の表面21側から写した写真である。図2(a)、(b)に示されるエピタキシャル膜20は、粉降り(後述する)を抑制することのできる同一の条件で形成されたGa膜であり、それぞれ3μm、6μmの厚さを有する。図2(a)、(b)に示されるエピタキシャル膜20の表面21の領域Aは線状のモフォロジーを有する領域であり、領域Bは黒色の粗面化した領域であり、領域Cは白色の粗面化した領域である。
【0021】
図3は、図2(b)に示される半導体ウエハ1の写真上に、エピタキシャル膜20の下の半導体基板10の成長下地面11上の9つの点における[010]方向のオフ角の値を示したものである。図3の破線の円で囲まれた領域は、成長下地面11のオフ角が0°近傍である領域である。なお、図2(a)、(b)、図3に示される半導体ウエハ1の半導体基板10は、成長下地面11の[010]方向のオフ角の設定値を0°(オフ角なし)として製造されたものであり、オフ角の分布は、スライス加工や研磨加工の加工誤差や酸化ガリウム系単結晶の捻れにより生じるものである。
【0022】
図2(a)、(b)、図3によれば、エピタキシャル膜20の表面21の線状のモフォロジーは、成長下地面11のオフ角が0°近傍である領域上に成長した部分から広がっていることがわかる。
【0023】
エピタキシャル膜20の表面21に線状のモフォロジーを有する部分は成膜速度が低いため、表面21に線状のモフォロジーを有する部分と有しない部分が混在すると、エピタキシャル膜20の膜厚の分布が大きくなる。また、エピタキシャル膜20の線状のモフォロジーを有する部分においては、ドナー濃度が高くなる。ドナー濃度の上昇は、意図せずに取り込まれるHVPE法の原料に含まれるClが起源であると推測される。
【0024】
半導体基板10の成長下地面11の[010]方向のオフ角が、-0.01°以下、又は0.01°以上であれば、エピタキシャル膜20の表面21における線状のモフォロジーの発生を抑制でき、エピタキシャル膜20の成膜速度の面内のばらつきが抑えられるため、アズグロウンの状態(研磨処理などを施していない成長したままの状態)のエピタキシャル膜20の膜厚の分布が±10%未満(最も厚い部分の膜厚と最も薄い部分の膜厚のそれらの中心値からのずれが中心値の±10%未満、すなわち最も厚い部分の膜厚と最も薄い部分の膜厚の、それらの中心値との差の絶対値が、中心値の10%未満)に抑えられる。成長下地面11は、70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域における[010]方向のオフ角が、-0.01°以下、又は0.01°以上であるため、アズグロウンの状態のエピタキシャル膜20の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域において、膜厚の分布が±10%未満となる。なお、エピタキシャル膜20の膜厚は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により測定することができる。
【0025】
図4は、成長下地面11の[010]方向のオフ角の設定値を0.1°として製造された半導体ウエハ1をエピタキシャル膜20の表面21側から写した写真である。図4に示される半導体ウエハ1は、半導体基板10の成長下地面11の図示される9つの点における[010]方向のオフ角が-0.01°以下であり、それら9つの点を含む成長下地面11の大部分を占める領域が白色の粗面化した領域(線状のモフォロジーを有しない領域)である。
【0026】
なお、成膜中に原料ガスが気相反応することによりGa酸化物の粉が気相中で生成されて成長下地面11に付着する(以下、粉降りと呼ぶ)条件を用いると、Ga酸化物の粉は成長下地面11上に満遍なく降り積もるため、成長下地面11のオフ角に起因したエピタキシャル膜20の膜厚の面内のばらつきを緩和することができる。しかしながら、粉降りに起因して、エッチピットとして現れる結晶欠陥の密度が5×10cm-3以上に増加し、半導体ウエハから製造されるデバイスの耐圧を低下させるなどの不具合を生じさせるため、粉降りが生じる条件で製造された半導体ウエハは実用できない。
【0027】
上記のエッチピットとして現れる結晶欠陥の密度は、85℃に加熱された10%のKOH溶液を用いて半導体ウエハ1に30分間のエッチングを施し、微分干渉顕微鏡を用いてエピタキシャル膜20の表面に現れたエッチピットの密度を計測することにより得られる。
【0028】
粉降りが生じる条件でエピタキシャル膜20を成膜することなく、半導体基板10の成長下地面11の所定の領域における[010]方向のオフ角を-0.01°以下、又は0.01°以上とすることにより、エピタキシャル膜20の所定の領域における膜厚の分布を±10%未満に抑える場合には、エッチピットとして現れるエピタキシャル成長に起因する結晶欠陥の密度は5×10cm-3未満となる。
【0029】
また、半導体基板10の成長下地面11の[010]方向のオフ角が、-0.01°以下、又は0.01°以上であれば、エピタキシャル膜20の表面21に線状のモフォロジーがほぼ観察されず、Clの意図しない取り込みが抑えられる。そのため、エピタキシャル膜20に意図的にドナーを添加する場合に、より正確にドナー濃度を制御することができる。なお、エピタキシャル膜20に意図的にドナーを添加しない場合には、エピタキシャル膜20のドナー濃度の分布が±40%未満(最も濃度の高い部分の濃度と最も低い部分の濃度のそれらの中心値からのずれが中心値の±40%未満、すなわち最も濃度の高い部分の濃度と最も濃度の低い部分の濃度の、それらの中心値との差の絶対値が、中心値の40%未満)となる。成長下地面11は、70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域における[010]方向のオフ角が、-0.01°以下、又は0.01°以上であるため、エピタキシャル膜20に意図的にドナーを添加しない場合には、エピタキシャル膜20の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域において、ドナー濃度の分布が±40%未満となる。なお、エピタキシャル膜20のドナー濃度は、容量測定(C-V測定)により求めることができる。
【0030】
半導体基板10の成長下地面11の[010]方向のオフ角が、-0.3°以下、又は0.3°以上である領域が存在する場合、その領域において、エピタキシャル膜20の表面21から半導体基板10まで到達する深いピット(以下、貫通ピットと呼ぶ)が発生しやすくなる。
【0031】
半導体基板10の成長下地面11の[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ0.3°よりも小さい範囲内にあれば、エピタキシャル膜20の表面21における貫通ピットの面内密度が0.1個/cm以下に抑えられる。成長下地面11は、70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域における[010]方向のオフ角が、-0.3°よりも大きくかつ0.3°よりも小さい範囲内にあるため、エピタキシャル膜20の表面21の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域において、貫通ピットの面内密度が0.1個/cm以下となる。なお、エピタキシャル膜20に含まれる貫通ピットの面内密度は、光学顕微鏡を用いて測定することができる。
【0032】
上記の「成長下地面11の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域における[010]方向のオフ角((001)面からの傾斜角度)が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にある」の条件を満たすことにより得られる各種の効果は、少なくとも、その領域における[001]方向のオフ角が-1°以上かつ1°以下の範囲内にあれば得られる。
【0033】
なお、「成長下地面11の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域における[010]方向のオフ角((001)面からの傾斜角度)が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にある」の条件を満たすことは、半導体基板10の直径が大きくなるほど難しくなるが、半導体基板10は、2インチ以上の大きさであってもこの条件を満たす。また、少なくとも、この条件を満たす、8インチまでの直径の半導体基板10を製造することができる。
【0034】
(半導体ウエハの製造方法)
本発明の実施の形態に係る半導体ウエハ1の製造方法は、少なくとも一方の主面を結晶の成長下地面11とする、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなり、直径が2インチ以上である半導体基板10を用意する工程と、半導体基板10の成長下地面11上に、酸化ガリウム系半導体の単結晶をHVPE法によりエピタキシャル成長させて、エピタキシャル膜20を形成する工程と、を含む。
【0035】
エピタキシャル膜20を形成する工程においては、HVPE装置の反応チャンバー内の半導体基板10がセットされる空間の圧力と温度を、例えば、それぞれ0.5~1.5atm、900~1100℃に保ち、その空間にGaの原料ガス、Oの原料ガス(さらに、エピタキシャル膜20がAlを含む場合はAlの原料ガス、Inを含む場合はInの原料ガス、ドーパントを含む場合はドーパントの原料ガス)をキャリアガスとしての不活性ガスとともに流入させ、半導体基板10の成長下地面11上に酸化ガリウム系半導体の単結晶をエピタキシャル成長させる。
【0036】
ここで、例えば、GaCl分圧を1.5×10-3atm以下、VI/III比(GaClとOの供給比)を10、反応チャンバー内部のガスの線速度を150cm/s以上にしてエピタキシャル膜20を形成することにより、上述の粉降りの発生を抑え、エピタキシャル膜20におけるエッチピットとして現れるエピタキシャル成長に起因する結晶欠陥の密度を5×10cm-3未満とすることができる。
【0037】
また、Gaの原料ガスであるGa塩化物ガスとして、GaClガスを用いることが好ましい。GaClガスは、Ga塩化物ガスの中で、Ga系半導体の単結晶の成長駆動力を最も高い温度まで保つことのできるガスである。高純度、高品質のGa系半導体の単結晶を得るためには、高い成長温度での成長が有効であるため、高温において成長駆動力の高いGaClガスを用いることが好ましい。
【0038】
また、ドーパントの原料ガスとしては、意図しない他の不純物の混入を抑制するために、塩化物系ガスを用いることが好ましく、例えば、14族元素であるSi、Ge、Sn、又はPbをドーパントとする場合は、それぞれSiCl、GeCl、SnCl、PbCl等の塩化物系ガスが用いられる。また、塩化物系ガスは、塩素のみと化合したものに限られず、例えば、SiHCl等のシラン系ガスを用いてもよい。
【0039】
また、エピタキシャル膜20を形成する際の雰囲気に水素が含まれていると、エピタキシャル膜20の表面21の平坦性及び結晶成長駆動力が低下するため、Oの原料ガスとして、水素を含まないOガスを用いることが好ましい。
【0040】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、半導体基板10の成長下地面11のオフ角を所定の範囲内に納めることにより、膜厚分布及びドナー濃度分布が小さくかつ結晶欠陥の密度が小さいエピタキシャル膜20をHVPE法により成膜することができる。
【0041】
一般的に、半導体デバイスのウエハ面内での製造歩留まりは60%以上が求められるが、それを達成するためにはウエハの有効面積(半導体デバイスの製造に用いることができる面積)が60%よりもさらに大きい、例えば70%以上であることが求められる。上述のように、半導体ウエハ1においては、成長下地面11の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域において、[010]方向のオフ角((001)面からの傾斜角度)が、-0.3°よりも大きくかつ-0.01°以下の範囲、又は0.01°以上かつ0.3°よりも小さい範囲内にあるため、エピタキシャル膜20の70面積%以上(好ましくは80面積%以上、より好ましくは90面積%以上)の連続した領域において、膜厚分布、ドナー濃度分布、及び貫通ピットの面内密度が小さくなる。このため、半導体ウエハ1の有効面積は70%以上、80%、又は90%以上であり、半導体デバイスの製造歩留まりを大きく高めることができる。
【実施例0042】
上記の実施の形態で述べた現象「成長下地面11の[010]方向のオフ角が、-0.01°より大きくかつ0.01°より小さい範囲内にある領域が存在する場合、エピタキシャル膜20の表面21のその領域上の部分から線状のモフォロジーが広がる」、及び「エピタキシャル膜20の表面21に線状のモフォロジーを有する部分は成膜速度が低い」について、実験結果を示しつつ説明する。
【0043】
エピタキシャル膜20の膜厚に分布が生じる原因には、半導体基板10の成長下地面11の[010]方向のオフ角の分布の他に、製造工程上の要因がある。このため、本実施例では、成長下地面11の[010]方向のオフ角とエピタキシャル膜20の膜厚分布の関係を正確に判断するために、まず、HVPE装置による製法上の原因を補正により取り除く。
【0044】
図5(a)は、C面を主面とするサファイア基板上にHVPE法により成膜されたGa膜の膜厚分布を示す平面図である。サファイア基板のオフ角の面内分布は±0.05度以内に収まっており、主面全体のオフ角をほぼ0°と見做すことができる。さらに、C面を主面とするサファイア基板上に成膜したGa膜の膜厚分布は、サファイア基板のオフ角にはほぼ依存しないことがわかっていた。このため、サファイア基板上のGa膜の膜厚分布は、ほぼ製造工程上の要因によるものである。具体的には、HVPE装置の反応チャンバー内で、図の上側から基板上に原料ガスを流入させており、原料ガスの流れの下流側(図の下側)で膜厚が大きくなっている。
【0045】
このサファイア基板上のGa膜とエピタキシャル膜20は同じHVPE装置を用いて同様の条件で成膜されるため、サファイア基板上のGa膜の膜厚分布を利用してエピタキシャル膜20の膜厚分布を補正し、成長下地面11のオフ角がエピタキシャル膜20の膜厚分布に及ぼす影響のみを抽出することができる。
【0046】
図5(b)は、中心部の膜厚を1.00として規格化されたサファイア基板上のGa膜の膜厚分布を示す平面図である。図5(b)に示されるサファイア基板上のGa膜の各点の規格化された膜厚を補正値として用いる。
【0047】
図6は、規格化されたサファイア基板上のGa膜の膜厚分布を用いて補正された、図2(b)に示されるエピタキシャル膜20の膜厚分布を示す平面図である。図6の各点の数値は補正後の膜厚(単位はμm)を示し、括弧内の数値は補正前の膜厚を示す。補正は、エピタキシャル膜20の各点の膜厚を補正値(図5(b)に示されるサファイア基板上のGa膜の規格化された膜厚)で除することにより行われる。
【0048】
図6によれば、エピタキシャル膜20の線状のモフォロジーを有する部分の膜厚が、他の部分の膜厚と比較して小さいことが確認できる。
【0049】
次に、上記の実施の形態で述べた現象「エピタキシャル膜20の線状のモフォロジーを有する部分においては、ドナー濃度が高くなる」を示す実験結果について説明する。
【0050】
図7は、25枚のエピタキシャル膜20の線状のモフォロジーを有する領域(上述の領域Aに対応)と、線状のモフォロジーを有しない領域(上述の領域B及び領域Cに対応)における実効ドナー濃度(Nd-Na)の測定値を示すグラフである。図7に係る25枚のエピタキシャル膜20には、いずれも濃度1×1016cm-3程度の微量のSiが添加されている。
【0051】
図7は、線状のモフォロジーを有する領域のドナー濃度が、線状のモフォロジーを有しない領域のドナー濃度と比較して、全体的に高く、かつばらつきが大きいことを示している。これは、線状のモフォロジーを有する領域が、ドナーとして働く不純物(HVPE法の原料に含まれるClと推測される)を取り込みやすいためと考えられる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態及び実施例の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0053】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0054】
1…半導体ウエハ、10…半導体基板、11…成長下地面、20…エピタキシャル膜、21…表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7