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特開2023-23942発泡解繊成形用の樹脂組成物、発泡解繊成形体、発泡解繊成形体の成形方法および発泡解繊体シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023942
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】発泡解繊成形用の樹脂組成物、発泡解繊成形体、発泡解繊成形体の成形方法および発泡解繊体シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20230209BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230209BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20230209BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
C08L67/04 ZAB
C08L101/16 ZBP
C08K5/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129932
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】余 力
(72)【発明者】
【氏名】清水 正樹
(72)【発明者】
【氏名】又吉 智也
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4F074AA68
4F074AA98
4F074AB05
4F074AD13
4F074AG02
4F074AG03
4F074BA13
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA23
4F074DA33
4F074DA46
4F074DA59
4J002CF18W
4J002CF18X
4J002ER006
4J002FD020
4J002FD206
4J002FD320
4J002GC00
4J002GD00
4J002GG02
4J002GJ01
4J002HA09
4J200AA04
4J200AA06
4J200BA07
4J200BA14
4J200CA01
4J200DA17
4J200DA19
4J200DA24
4J200EA22
(57)【要約】
【課題】繊維をより緻密にし、気泡をより均一にした発泡解繊成形を製造できる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】発泡解繊成形用の樹脂組成物は、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)を含む。ポリカルボン酸エステル(A)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR(A))は、0.1g/10分以上100g/10分以下であり、ポリカルボン酸エステル(B)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR(B))は、0.1g/10分以上100g/10分以下であり、MFR(A)は、MFR(B)よりも大きく、かつMFR(A)およびMFR(B)は次式(I)で示されるMFR比を満たす。
(I)式 1.3≦ MFR(A)/MFR(B)≦100
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)を含み、
ポリカルボン酸エステル(A)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(A)と呼称)であり、
ポリカルボン酸エステル(B)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(B)と呼称)であり、
MFR(A)は、MFR(B)よりも大きく、かつMFR(A)およびMFR(B)は次式(I)で示されるMFR比を満たす発泡解繊成形用の樹脂組成物。
(I)式 1.3≦ MFR(A)/MFR(B)≦100
【請求項2】
前記ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の少なくとも一方は、ポリ乳酸エステルである、請求項1に記載の発泡解繊成形用の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)を含み、
ポリカルボン酸エステル(A)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(A)と呼称)であり、
ポリカルボン酸エステル(B)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(B)と呼称)であり、
MFR(A)は、MFR(B)よりも大きく、かつMFR(A)およびMFR(B)は次式(I)で示されるMFR比を満たす発泡解繊成形体。
(I)式 1.3≦ MFR(A)/MFR(B)≦100
【請求項4】
前記ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0質量部より多く10質量部以下となる量の、加水分解抑制剤を含む、請求項3に記載の発泡解繊成形体。
【請求項5】
微細繊維の集合体である、請求項3または4に記載の発泡解繊成形体。
【請求項6】
シート状またはフィルム状である、請求項3または4に記載の発泡解繊成形体。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0.2質量部以上10質量部以下となる量の発泡剤を含む、請求項1または2に記載の発泡解繊成形用の樹脂組成物を押出して押出物を得る工程と、
前記押出物を発泡解繊させる工程と、を含む
発泡解繊成形体の成形方法。
【請求項8】
前記押出物を得る工程において、前記ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0質量部より多く10質量部以下となる量の加水分解抑制剤を前記発泡解繊成形用の樹脂組成物に添加する、請求項7に記載の発泡解繊成形体の成形方法。
【請求項9】
ポリカルボン酸エステルを含む発泡解繊体シートであって、
前記ポリカルボン酸エステルは、重量平均分子量が10,000以上1,000,000以下のポリカルボン酸エステルを含み、
前記発泡解繊体シートの平均厚さは100μm以上500μm以下であり、
幅方向(TD)に5mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に存在せず、かつ幅方向(TD)に2mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に5か所未満である、
発泡解繊体シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡解繊成形用の樹脂組成物、発泡解繊成形体、発泡解繊成形体の成形方法および発泡解繊体シートに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を発泡させながら溶融押出し、発泡した押出物を引き延ばして解繊させた成形体(発泡解繊成形体)が知られている。発泡解繊成形体の製造に用いる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、グリコール類と脂肪族二塩基酸(コハク酸、アジピン酸など)との反応により得られる脂肪族ポリエステル(特許文献1および特許文献2など)、ポリ乳酸(特許文献3など)などが知られている。これらの文献には、発泡解繊成形体は、油や浮遊物質の吸着剤、不織布、ろ過材、接着用資材、包装材などの各種用途に用いられ得ると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-172578号公報
【特許文献2】特開平8-325918号公報
【特許文献3】特開平5-177734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば発泡解繊成形体を吸着材やろ過材として使用するとき、発泡解繊成形体の繊維をより緻密にして表面積をより大きくし、かつ気泡をより均一にすると、吸着効率がより高まると考えられる。また、不織布として使用するときも、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にすることで、外観をより良好にすることができると考えられる。さらには、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にすることで、上記効能を得つつ、発泡解繊成形体をより軽量にすることができる。
【0005】
これらの事情に鑑み、本発明は、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にした発泡解繊成形を製造できる樹脂組成物、当該樹脂組成物から製造された発泡解繊成形体、当該樹脂組成物を用いる発泡解繊成形体の成形方法、および発泡解繊体シートを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に関する発泡解繊成形用の樹脂組成物は、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)を含む。ポリカルボン酸エステル(A)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(A)と呼称)であり、ポリカルボン酸エステル(B)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(B)と呼称)であり、MFR(A)は、MFR(B)よりも大きく、かつMFR(A)およびMFR(B)は次式(I)で示されるMFR比を満たす。
(I)式 1.3≦ MFR(A)/MFR(B)≦100
【0007】
本発明の他の態様に関する発泡解繊成形体は、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)を含む。ポリカルボン酸エステル(A)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(A)と呼称)であり、ポリカルボン酸エステル(B)の、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上100g/10分以下(以下MFR(B)と呼称)であり、MFR(A)は、MFR(B)よりも大きく、かつMFR(A)およびMFR(B)は次式(I)で示されるMFR比を満たす
(I)式 1.3≦ MFR(A)/MFR(B)≦100
【0008】
本発明の他の実施形態に関する発泡解繊成形体の成形方法は、前記ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0.2質量部以上10質量部以下となる量の発泡剤を含む、前記発泡解繊成形用の樹脂組成物を押出して押出物を得る工程と、前記押出物を発泡解繊させる工程と、を含む。
【0009】
本発明の他の実施形態に関する発泡解繊シートは、ポリカルボン酸エステルを含む発泡解繊体シートであって、前記ポリカルボン酸エステルは、重量平均分子量が10,000以上1,000,000以下のポリカルボン酸エステルを含み、前記発泡解繊体シートの平均厚さは100μm以上500μm以下であり、幅方向(TD)に5mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に存在せず、かつ幅方向(TD)に2mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に5か所未満である、発泡解繊シートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にした発泡解繊成形を製造できる樹脂組成物、当該樹脂組成物から製造された発泡解繊成形体、および当該樹脂組成物を用いる発泡解繊成形体の成形方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.第1の実施形態
本発明の第1の実施形態は、発泡解繊成形用の樹脂組成物に関する。上記樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)が異なる少なくとも2種類のポリカルボン酸エステルを含む。上記ポリカルボン酸エステルのうちひとつのポリカルボン酸エステル(A)のMFR(MFR(A))は、上記ポリカルボン酸エステルのうち別のポリカルボン酸エステル(B)のMFR(MFR(B))よりも大きく、かつMFR(A)およびMFR(B)は次式(I)で示されるMFR比を満たすこれらMFRが異なるポリカルボン酸エステルは、溶融混錬時に完全には相溶せず、MFRがより大きいポリカルボン酸エステルの中にMFRがより小さいポリカルボン酸エステルが微分散すると考えられる。そして、これらポリカルボン酸エステルの界面において、より微細かつ均一に気泡が発生しやすくなることにより、より微細かつ均一な繊維を形成することができると考えられる。
(I)式 1.3≦ MFR(A)/MFR(B)≦100
【0012】
上記観点からは、ポリカルボン酸エステル間のMFRの比は、1.3以上であり、1.5以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。なお、MFRが異なる3種類以上のポリカルボン酸エステルを樹脂組成物が含むときは、MFRの比が最も小さいポリカルボン酸エステル同士のMFRの比が上記範囲であればよい。上記MFRの比の最大値は、発泡解繊成形体の伸び、耐衝撃性および製造時の流動性の低下を抑制する観点から、80とすることが好ましく、50とすることがより好ましく、10とすることがさらに好ましい。
【0013】
上記ポリカルボン酸エステルは、ヒドロキシカルボン酸の重縮合反応、またはポリカルボン酸とポリオールとの重縮合反応、またはヒドロキシカルボン酸とポリカルボン酸とポリオールとの重縮合反応により得ることができる、主鎖にエステル構造を有する重合体である。上記ポリカルボン酸エステルは分子内に、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位のみを有してもよいし、ポリカルボン酸に由来する構成単位およびポリオールに由来する構成単位のみを有してもよいし、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位、ポリカルボン酸に由来する構成単位およびポリオールに由来する構成単位のすべてを有してもよい。また、上記ポリカルボン酸エステルは、これら以外のモノマーに由来する構成単位を有してもよい。
【0014】
上記ヒドロキシカルボン酸は、分子内にカルボキシル基およびヒドロキシ基を有する化合物である。上記ポリカルボン酸エステルの合成に使用し得るヒドロキシカルボン酸の例には、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、およびヒドロキシヘプタン酸ならびにこれらの誘導体、ラクトン(ε-カプロラクトンおよびδ-バレロラクトンなど)のこれらが分子内脱水縮合した化合物、ならびに、ラクチドおよびグリコリドなどのこれらが2分子間で脱水縮合した化合物などが含まれる。なお、乳酸は、L-乳酸およびD-乳酸のいずれでもよいし、これらの双方が用いられていてもよい。
【0015】
上記ポリカルボン酸は、2価のカルボン酸でもよいし、3価以上のカルボン酸でもよいが、2価のカルボン酸が好ましい。上記ポリカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸、ドデカン二酸、クエン酸などの飽和ポリカルボン酸、ならびにフマル酸、マレイン酸、イタコン酸およびシトラコン酸などの不飽和ポリカルボン酸などが含まれる。
【0016】
上記ポリオールは、2価のジオールでもよいし、3価以上のポリオールでもよいが、2価のジオールが好ましい。上記ジオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールコポリマー、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、およびトリメチロールプロパンなどが含まれる。
【0017】
上記ポリカルボン酸エステルの例としては、乳酸に由来する構成単位を含む重合体が挙げられる、あるいは、乳酸に由来する構成単位および乳酸以外の他のヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位の双方を含んでいても良い。さらに、乳酸に由来する構成単位とグリコール酸またはヒドロキシカプロン酸に由来する構成単位の双方を含んでもよい。好ましくは、実質的に乳酸に由来する構成単位のみからなる重合体である。実質的にとは、乳酸以外のヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸またはポリオールに由来する構成単位の量が、ポリカルボン酸エステルの全質量に対して2質量部未満であることを意味する。
【0018】
上記ポリカルボン酸エステルは、公知のカップリング剤により分子量を高められていてもよい。上記カップリング剤の例には、ジイソシアナート、オキサゾリン、ジエポキシ化合物および酸無水物などが含まれる。
【0019】
上記ポリカルボン酸エステルは、公知の触媒により公知の方法で合成することができる。あるいは、市販のポリカルボン酸エステル用いてもよい。
【0020】
また、上記ポリカルボン酸エステルは、生物由来の重合体であってもよい。生物由来の重合体の例には、微生物由来のポリヒドロキシアルキルカルボン酸などが含まれる。
【0021】
上記樹脂組成物は、MFRが異なる少なくとも2種類のポリカルボン酸エステルを含む。これら少なくとも2種類のポリカルボン酸エステルのうち、MFRがより大きいポリカルボン酸エステル(A)は、MFRが0.1g/10分以上100g/10分以下である。また、MFRがより小さいポリカルボン酸エステル(B)も、MFRが0.1g/10分以上100g/10分以下である。ただし、上述したように、ポリカルボン酸エステル(A)のMFRとポリカルボン酸エステル(B)のMFRとの比は、1.3以上である。
【0022】
なお、ポリカルボン酸エステルのMFRは、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるMFRである。
【0023】
ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)は、同種のモノマーに由来する構成単位を有する重合体であってもよいし、互いに異なる種類のモノマーに由来する構成単位を有する重合体であってもよい。発泡解繊成形体の分解性を高める観点からは、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)の少なくとも一方は、ポリ乳酸エステルであることが好ましく、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)の双方が、ポリ乳酸エステルであることがより好ましい。なお、ポリ乳酸エステルとは、重合体を構成する構成単位のうち、モル基準で最も量が多い構成単位が、乳酸に由来する構成単位であるようなポリカルボン酸エステルを意味する。ポリ乳酸エステルは、L-乳酸に由来する構成単位およびD-乳酸に由来する構成単位のいずれを有していてよいし、これらの双方の構成単位を有していてもよい。なお、単に「乳酸に由来する構成単位の量」というときは、L-乳酸に由来する構成単位およびD-乳酸に由来する構成単位を含めた量を意味する。
【0024】
ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)は、いずれも、重量平均分子量が50,000以上2,000,000以下であることが好ましい。分子量が50,000以上であると、成形が容易であり、かつ成形された発泡解繊成形体の強度が高まりやすい。分子量が2,000,000以下であると、溶融押出が容易である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された、ポリスチレン換算の分子量である。
【0025】
ポリカルボン酸エステル(A)とポリカルボン酸エステル(B)との配合比率は、(ポリカルボン酸エステル(A)/ポリカルボン酸エステル(B))=(40/60)以上(60/40)以下であることが好ましい。上記配合比率が上記範囲内であると、微細かつ均一な気泡を形成できる2種類のポリカルボン酸エステルの界面がより多く形成されるため、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にした発泡解繊成形を製造することができる。
【0026】
なお、ポリカルボン酸エステルの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンを基準に換算した値である。
【0027】
上記樹脂組成物は、上記ポリカルボン酸エステルに加えて、上記ポリカルボン酸エステル以外の公知の熱可塑性樹脂や添加剤を含んでもよい。
【0028】
上記ポリカルボン酸エステル以外の熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、発泡解繊成形体の分解性を高める観点からは、ポリグリコール酸およびポリε-カプロラクトンなどの分解性重合体が好ましい。
【0029】
上記添加剤の種類も特に限定されず、公知の加水分解抑制剤、可塑剤、酸化防止剤、安定化剤、紫外線吸収剤、着色剤および結晶化促進剤など、ならびに発泡解繊成形体の用途に応じた有効物質などを用いることができる。
【0030】
上記加水分解抑制剤の例には、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型の化合物が含まれる。
【0031】
上記加水分解抑制剤の含有量は、ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0質量部より多く10質量部以下となる量であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下となる量であることがより好ましい。加水分解抑制剤の含有量が10質量部以下であると、発泡解繊成形体の成形性、機械的強度および各種物性などを低下させにくい。
【0032】
上記可塑剤の例には、脂肪酸エステル系界面活性剤、ジ-n-オクチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、およびジベンジルフタレートなどを含むフタル酸誘導体、ジイソオクチルフタレートなどを含むイソフタル酸誘導体、ジ-n-ブチルアジペート、およびジオクチルアジペートなどを含むアジピン酸誘導体、ジ-n-ブチルマレートなどを含むマレイン酸誘導体、トリ-n-ブチルシトレートなどを含むクエン酸誘導体、モノブチルイタコネートなどを含むイタコン酸誘導体、ブチルオレートなどを含むオレイン酸誘導体、グリセリンモノリシノレートなどを含むリシノール酸誘導体、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェートなどを含むリン酸エステル系可塑剤、乳酸、直鎖状乳酸オリゴマー、環状乳酸オリゴマーならびにラクチドなどが含まれる。
【0033】
上記可塑剤の含有量は、ポリカルボン酸エステル(A)および前記ポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0.1質量部以上20質量部以下となる量であることが好ましい。可塑剤の含有量が0.1質量部以上であると、発泡解繊成形体の靭性を高め、柔軟性を保ちつつ、引っ張っても破れにくくすることができる。可塑剤の含有量が20質量部以下であると、発泡解繊成形体の成形性、機械的強度および各種物性などを低下させにくい。
【0034】
2.発泡解繊成形体の成形方法
上記樹脂組成物は、発泡解繊成形体の成形に用いることができる。具体的には、発泡剤を含む上記樹脂組成物を溶融押出して押出物を得る工程と、上記押出物を発泡解繊する工程と、により発泡解繊成形体を成形することができる。
【0035】
2-1.押出物の作製
まず、発泡剤を含む上記樹脂組成物を用意する。発泡剤は、化学発泡剤として、上記樹脂組成物に予め含ませておいてもよいし、溶融押出を行うとき(押出機への投入前または投入後)に上記樹脂組成物に添加してもよい。また、押出機のシリンダー内に二酸化炭素、窒素などのガスを注入するなどして、物理発泡により押出物を作製しても良い。
【0036】
上記発泡剤は、公知の発泡剤とすることができる。上記発泡剤の例には、アゾ系、ヒドラジン系、トリアゾール系、N-ニトロン系およびクエン酸などの有機発泡剤、炭化水素ナトリウムおよびアジド類などの無機発泡剤、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、塩化メチル、塩化エチル、クロロホルム、塩化メチレンおよび臭化メチレン等の揮発性液体、ならびに、窒素、二酸化炭素、アンモニア、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレンおよび気状ハロゲン化炭化水素などの室温で気体の化合物が含まれる。これらのうち、発泡効率が十分であり、かつ副作用としてのポリカルボン酸エステルの加水分解が生じにくいことから、有機発泡剤が好ましく、アゾ系の有機発泡体がより好ましい。
【0037】
なお、上記樹脂組成物について説明した加水分解抑制剤などの添加剤も、溶融押出を行うとき(押出機への投入前または投入後)に上記樹脂組成物に添加してもよい。このときの加水分解抑制剤などの添加剤の添加量は、上記樹脂組成物について説明した含有量と同量とすることができる。
【0038】
本工程における上記発泡剤の量は、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)の合計質量を100質量部としたときに、0.2質量部以上10質量部以下となる量であることが好ましい。発泡剤の量が0.2質量部以上であると、樹脂組成物をより十分に発泡させることができる。発泡剤の量が10質量部以下であると、押出がより容易である。
【0039】
上記発泡剤を含む上記樹脂組成物を、まず押出機で溶融混錬し、環状または線状のスリットを有するダイから押し出す。このようにして、フィルム状の押出物がダイから押し出される。
【0040】
押出機は、公知の一軸スクリュー式押出機でもよいし、二軸スクリュー型押出機でもよい。シリンダーにおける混錬温度は、100℃以上270℃以下とすることができ、130℃以上250℃以下とすることが好ましい。ダイからの押出温度も同様に、100℃以上270℃以下とすることができ、130℃以上250℃以下とすることが好ましい。また、このときのスクリューの回転速度は、5m/min以上50m/min以下であることが好ましく、10m/min以上30m/min以下であることがより好ましい。また、ダイのリップ開度は、0.2mm以上0.6mm以下であることが好ましい。
【0041】
2-2.押出物の解繊
次に、ダイから押し出された押出物を発泡解繊する。具体的には、押し出された直後のフィルム状の押出物を風冷により急速冷却する。これにより、押出物中で気泡が急速に拡大する。その後、キャスティングロールにより気泡が拡大した押出物を冷却固化する。その後、ドラフトをかけながら押出物を引き取ると、押出物の伸張により拡大した気泡が破裂して合一していき、これにより押出物が繊維状に解繊して、発泡解繊成形体を得ることができる。得られた発泡解繊成形体をロール状に巻き取ってもよい。このときの引き取り速度は、0.2m/min以上5m/min以下であることが好ましく、0.5m/min以上3m/min以下であることがより好ましい。また、巻き取り速度は、0.2m/min以上5m/min以下であることが好ましく、0.5m/min以上3m/min以下であることがより好ましい。また、ドラフト比は、1以上1.5以下であることが好ましく、1以上1.2以下であることがより好ましい。
【0042】
上記方法により、微細繊維が網目状に集合した集合体である発泡解繊維成形体を得ることができる。
【0043】
なお、押出物の解繊方法は上記方法に限定されず、たとえばキャスティングロールを用いないインフレーション法でもよい。インフレーション法により、シート状またはフィルム状の発泡解繊維成形体を得ることができる。
【0044】
これらの発泡解繊維成形体には、上述した他の樹脂や、加水分解抑制剤および可塑剤などの添加剤が含まれていてもよい。発泡解繊維成形体の、これらの他の樹脂や添加剤の含有量は、通常は上記樹脂組成物中における含有量と同一である。
【0045】
なお、発泡解繊維成形体の靭性を高める観点からは、製造時における過剰の混錬によりポリカルボン酸エステルを低分子量化させすぎないことが好ましい。上記観点から、発泡解繊維成形体において、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)は、いずれも、重量平均分子量が20,000以上500,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が20,000以上であると、発泡解繊成形体の強度が高まりやすい。重量平均分子量が500,000以下であると、発泡解繊成形体の柔軟性が高まりやすい。
【0046】
上記発泡解繊維成形体がシート状の成形体であるとき、当該成形体(発泡解繊体シート)に含まれるポリカルボン酸エステルの重量平均分子量の測定値が、10,000以上1,000,000以下であることが好ましく、20,000以上500,000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると、発泡解繊体シートの強度が高まりやすい。重量平均分子量が1,000,000以下であると、発泡解繊成形体の柔軟性が高まりやすい。なお、当該測定値とは、ポリカルボン酸エステル(A)およびポリカルボン酸エステル(B)などの複数種のポリカルボン酸エステル全体の重量平均分子量である。
【0047】
また、上記シート状の成形体は、平均厚さが100μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上400μm以下であることがより好ましく、100μm以上300μm以下であることがさらに好ましい。平均厚さが100μm以上であると、発泡解繊体シートの強度が高まりやすい。平均厚さが500μm以下であると、発泡解繊成形体の柔軟性が高まりやすい。なお、当該平均厚さとは、成形体の任意の10か所について観察した厚さの平均値である。
【0048】
このようにして製造された発泡解繊維成形体は、坪量が10g/m以上200g/m以下であることが好ましく、20g/m以上150g/m以下であることがより好ましく、20g/m以上100g/m以下であることがさらに好ましく、20g/m以上50g/m以下であることが特に好ましい。上記発泡解繊維成形体は、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にできるため、坪量を低くしつつ、十分な強度を有することができる。
【0049】
また、このようにして製造された発泡解繊維成形体(または発泡解繊維体シート)は、解繊状態が良好である。具体的には、発泡解繊維成形体(または発泡解繊維体シート)の表面のうち面積が100cmの範囲を観察したとき、幅方向(TD方向)に5mm以上の解繊または開孔されない部分が存在せず、かつ、幅方向(TD方向)に2mm以上の解繊または開孔されない部分が5か所未満とし得る。上記幅方向(TD方向)に2mm以上の解繊または開孔されない部分の数は、2か所未満であることが好ましい。なお、当該観察は、任意の10か所について観察した結果の平均値であることが好ましい。本実施形態では、発泡解繊時に、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にした結果、このように解繊または開孔されない部分が少ない発泡解繊維成形体(または発泡解繊維体シート)を得ることができる。
【0050】
3.発泡解繊成形体の用途
このようにして得られた発泡解繊成形体は、各種用途に用いることができる。また、上記発泡解繊成形体は、ポリカルボン酸エステルを材料とするため、生分解性に優れる。そのため、上記発泡解繊成形体は、水まわり(台所、浴室用品):水切りネットおよびフィルターなどの、台所用品および浴室用品を含む水まわり用品、油などの液体の吸収材、マスク、オムツおよびガーゼなどを含む衛星用品、ならびに、通気性マルチフィルム、植生ネット、幼齢木保護ネットおよび堆肥用ゴミ袋などを含む園芸用品などに好適に用いることができる。
【実施例0051】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0052】
1.材料の用意
1-1.ポリカルボン酸エステル(A)
NatureWorks LLC製の「4032D」を用いた。このポリカルボン酸エステルは、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、7g/10分、重量平均分子量(Mw)が78,100の、実質的に乳酸に由来する構成単位のみからなる重合体である。
【0053】
1-2.ポリカルボン酸エステル(B)の合成
三井化学株式会社製の「H440」を用いた。このポリカルボン酸エステルは、ASTM D1238に準じて測定された、210℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、3.3g/10分、重量平均分子量(Mw)が175,100の、実質的に乳酸に由来する構成単位のみからなる重合体である。
【0054】
1-3.発泡剤
アゾ系の有機発泡剤であるアゾジカルボンアミド(ADCA)を用いた。
【0055】
1-4.加水分解抑制剤
カルボジイミゾ化合物を用いた。
【0056】
1-5.可塑剤
太陽化学株式会社製、チラバゾールVR-17を用いた。
【0057】
2.発泡解繊成形体の成形
上記材料を、表1に示す割合で押出機に投入して表1に示すシリンダー温度、ダイからの押出温度およびシリンダーの回転速度で溶融混錬し、スリットを有するダイから押出して、フィルム状の押出物を得た。
【0058】
ダイからの押出直後に押出物を風冷し、表1に示す温度のキャスティングロールで冷却固化させた後、ドラフトをかけながら表1に示す回転速度の引取ロールで引き取り、表1に示す回転速度の巻取ロールで巻き取って、発泡解繊成形体を得た。
【0059】
3.評価
得られた発泡解繊成形体を、以下の基準で評価した。
【0060】
3-1.坪量
得られた発泡解繊成形体から切り取った5cm四方の広さの試料の重量を測定し、1m当たりの重量に換算して、坪量(g/m)とした。
【0061】
3-2.解繊状態
得られた発泡解繊成形体の任意の10か所を観察し、以下の基準で評価した。
〇 幅方向(TD)に5mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に1つもなく、かつ幅方向(TD)に2mm以上の解繊、開孔されない部分wが100cm内に5か所未満である
△ 幅方向(TD)に5mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に1か所以上あるか、幅方向(TD)に2mm以上の解繊、開孔されない部分が100cm内に5か所以上ある
【0062】
得られた発泡解繊成形体の製造条件および評価結果を、表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、MFRが異なる2種類のポリカルボン酸エステルを用いると、より軽量であり、かつ解繊状態がより良好な発泡解繊成形体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の樹脂組成物によれば、繊維をより緻密にし、気泡をより均一にした発泡解繊成形体を製造することができる。そのため、本発明は、発泡解繊成形の適用可能性をさらに広げ、発泡解繊成形のさらなる普及に寄与すると期待される。