IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越ポリマー株式会社の特許一覧

特開2023-23956導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性積層体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023956
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20230209BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20230209BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20230209BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C08G61/12
C08L65/00
C08L25/18
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129952
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【テーマコード(参考)】
4J002
4J032
5G323
【Fターム(参考)】
4J002BC122
4J002CE001
4J002FD112
4J002FD202
4J032BA04
4J032BA05
4J032BB01
4J032BC01
4J032BC03
4J032BC12
4J032BC13
4J032BD05
4J032BD07
4J032CA04
4J032CB01
4J032CB12
4J032CC01
4J032CD01
4J032CE18
4J032CG01
5G323BA05
5G323BB02
5G323BB06
(57)【要約】
【課題】大気暴露耐性が向上した導電層を備えた導電性積層体の製造方法と、その製造方法において使用する導電性高分子含有液の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアニオンと、水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンと、を含む導電性高分子含有液を得る重合工程を含む、導電性高分子含有液の製造方法であって、前記重合前の前記ポリアニオンの重量平均分子量Xに対する、前記重合後の前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンの重量平均分子量Yの、Y/Xで表される比が0.67以上である、導電性高分子含有液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオンと、水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、
前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンと、を含む導電性高分子含有液を得る重合工程を含む、導電性高分子含有液の製造方法であって、
前記重合前の前記ポリアニオンの重量平均分子量Xに対する、前記重合後の前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンの重量平均分子量Yの、Y/Xで表される比が0.67以上である、導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項2】
前記反応液中に塩基性化合物を含む、請求項1に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項3】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1又は2に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項4】
前記反応液に酸化剤、塩基性化合物及び触媒を添加することにより前記モノマーを重合した後、前記導電性高分子含有液から前記酸化剤、前記塩基性化合物及び前記触媒を除去する、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項5】
前記導電性高分子含有液を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方に接触させることにより前記酸化剤、前記触媒、及び前記塩基性化合物を除去する、請求項4に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程で得た前記導電性高分子含有液に、エポキシ化合物を反応させ、得られた反応生成物と有機溶剤とを含む導電性高分子含有液を得る、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項7】
前記重合工程で得た前記導電性高分子含有液に、アミン化合物又は第四級アンモニウム化合物を反応させ、得られた反応生成物と有機溶剤とを含む導電性高分子含有液を得る、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項8】
前記重合工程で得た前記導電性高分子含有液に、エポキシ化合物及び、アミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を反応させ、得られた反応生成物と有機溶剤とを含む導電性高分子含有液を得る、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の製造方法により導電性高分子含有液得る工程と、前記導電性高分子含有液を、基材の少なくとも一部の面に塗工する工程とを有する、導電性積層体の製造方法。
【請求項10】
前記基材がフィルム基材である、請求項9に記載の導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子含有液の製造方法、及び導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムを製造することができる。また、導電性高分子含有液のフィルム基材に対する濡れ性を高めたり、形成する導電層の導電性を高めたりする目的で、導電性複合体にエポキシ化合物を反応させることがある。さらに、導電性複合体を含む導電層の大気中での経時的な導電性が低下することを抑制する技術として、例えば特許文献1には、特定の化学式で表される芳香族化合物を導電層に含有させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-143202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大気暴露耐性が向上した導電層を備えた導電性積層体の製造方法と、その製造方法において使用する導電性高分子含有液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] ポリアニオンと、水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンと、を含む導電性高分子含有液を得る重合工程を含む、導電性高分子含有液の製造方法であって、前記重合前の前記ポリアニオンの重量平均分子量Xに対する、前記重合後の前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンの重量平均分子量Yの、Y/Xで表される比が0.67以上である、導電性高分子含有液の製造方法。
[2] 前記反応液中に塩基性化合物を含む、[1]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[3] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[4] 前記反応液に酸化剤、塩基性化合物及び触媒を添加することにより前記モノマーを重合した後、前記導電性高分子含有液から前記酸化剤、前記塩基性化合物及び前記触媒を除去する、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[5] 前記導電性高分子含有液を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の少なくとも一方に接触させることにより前記酸化剤、前記触媒、及び前記塩基性化合物を除去する、[4]に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[6] 前記重合工程で得た前記導電性高分子含有液に、エポキシ化合物を反応させ、得られた反応生成物と有機溶剤とを含む導電性高分子含有液を得る、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[7] 前記重合工程で得た前記導電性高分子含有液に、アミン化合物又は第四級アンモニウム化合物を反応させ、得られた反応生成物と有機溶剤とを含む導電性高分子含有液を得る、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[8] 前記重合工程で得た前記導電性高分子含有液に、エポキシ化合物及び、アミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を反応させ、得られた反応生成物と有機溶剤とを含む導電性高分子含有液を得る、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の製造方法。
[9] [1]~[8]の何れか一項に記載の製造方法により導電性高分子含有液得る工程と、前記導電性高分子含有液を、基材の少なくとも一部の面に塗工する工程とを有する、導電性積層体の製造方法。
[10] 前記基材がフィルム基材である、[9]に記載の導電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、大気暴露耐性が優れた導電層を備えた導電性積層体を容易に製造できる。
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、上記の導電性高分子含有液を容易に製造できる。
【0007】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪導電性高分子含有液の製造方法≫
本発明の第一態様は、ポリアニオンと、水系分散媒とを含む反応液で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを重合することにより、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンと、を含む導電性高分子含有液を得る重合工程を含む、導電性高分子含有液の製造方法である。
【0010】
前記重合前の前記ポリアニオンの重量平均分子量Xに対する、前記重合後の前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンの重量平均分子量Yの、Y/Xで表される比は0.67以上であり、0.69以上が好ましく、0.71以上がより好ましく、0.73以上がさらに好ましく、0.75以上が最も好ましい。
前記Y/Xで表される比の上限値の目安としては、2.00以下が挙げられる。
上記範囲であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成された導電層の大気暴露耐性をより高めることができる。
【0011】
本態様の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。本明細書において、特に明記しない限り、分散状態と溶解状態とを区別しない。
【0012】
<ポリアニオン>
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能し、π共役系導電性高分子の導電性を向上させ得る。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0013】
ポリアニオンの重量平均分子量(Mw)は、9万以上100万以下が好ましく、10万以上80万以下がより好ましく、11万以上70万以下がさらに好ましく、12万以上60万以下が特に好ましく、13万以上55万以下が最も好ましい。
ここで、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により測定し、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として求めた質量基準の平均分子量(質量平均分子量と呼んでもよい)である。
重量平均分子量が上記の好適な範囲であると、前記導電層の導電性がより高まる。
なお、ポリアニオンの水溶液をGPCに供する前に、水溶液中に含まれる不純物等を除去する目的で、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターにより濾過し、そのろ液をGPC測定に供する。
【0014】
特定の重量平均分子量のポリアニオンを合成する方法として、例えば、ポリアニオンを構成するモノマーを重合する酸化剤の添加量を調整する方法が挙げられる。具体的には、酸化剤の濃度を高くすると、モノマーの重合により形成されるポリアニオンの重量平均分子量を小さくすることができる。この方法により、例えば、重量平均分子量Mwが9万以上100万以下のポリスチレンスルホン酸を得ることができる。
【0015】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
導電性複合体を形成したポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0016】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0017】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0018】
[重合工程]
前記π共役系導電性高分子を形成するモノマーと、前記ポリアニオンとを任意の含有比で含む反応液を調製し、前記モノマーを重合させることにより、π共役系導電性高分子を形成する。前記反応液において、π共役系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープし、π共役系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体が形成される。
【0019】
前記反応液は塩基性化合物を含むことが好ましい。ここで、塩基性化合物とは、ポリアニオンが有するドープに関与しない余剰のアニオン基のプロトンを受け取ることが可能な化合物であり、プロトンを受け取るための電子対を有する化合物であることが好ましい。詳細なメカニズムは未解明であるが、塩基性化合物を含むことにより、前記Y/Xで表される比を0.67以上に調整することが容易になる。
前記塩基性化合物としては、例えば、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。例えば、アルカリ金属の水酸化物、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
アミンとしては、脂肪族3級アミン、含窒素複素環式芳香族化合物等が挙げられる。脂肪族3級アミンとしては、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。含窒素複素環式芳香族化合物としては、ピロール、インドール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン及びこれらのアルキル置換体(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1~4のアルキル基での置換体)、ハロゲン置換体(例えば、フロロ、クロロ、ブロム等のハロゲン基での置換体)、ニトリル置換体等の誘導体が挙げられる。
なかでも、イミダゾール、トリエチルアミンが好ましい。
塩基性化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記反応液には触媒を添加してもよい。前記触媒は、前記モノマーの重合を促進させるものであれば特に制限されず、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。なかでも、室温におけるモノマーの重合が安定に進むことから、鉄を含む触媒を使用することが好ましい。
【0021】
前記反応液には前記触媒とともに、酸化剤を含有させることが好ましい。酸化剤は、前記モノマーを重合させることができる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。
前記酸化剤は予めイオン交換水に溶解した酸化剤溶液として、前記モノマー、前記ポリアニオン、前記塩基性化合物、及び前記触媒を含む混合液S1に対してゆっくり添加し、重合を開始することが好ましい。
前記酸化剤溶液の濃度は、1.0質量%以上3.0質量%以下が好ましい。
前記酸化剤溶液を添加する前の前記混合液S1の体積をV1、前記酸化剤溶液の体積をV2としたとき、V1/V2で表される体積比は、1.0~2.0が好ましく、1.2~1.5がより好ましい。
前記混合液S1に前記酸化剤溶液の全てを添加する際、添加開始から添加終了までに要する時間は、1~8時間が好ましく、2~7時間がより好ましく、3~6時間がさらに好ましい。
前記酸化剤溶液を添加する前の前記混合液S1と、前記酸化剤溶液の各々の温度は、それぞれ独立に、5~30℃が好ましい。
【0022】
前記酸化剤溶液の全てを添加し終えて得られた反応液の温度は、5~30℃に保ち、重合反応を行うことが好ましい。
前記反応液における反応終了までに要する反応時間の目安は4~12時間であり、6~10時間で反応終了することが好ましい。重合反応の終了は、ガスクロマトグラフィーによってπ共役系導電性高分子を形成するモノマーが消失していることを確認することで知ることができる。
【0023】
前記混合液S1に含まれる前記モノマー:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:2)~(1:5)が好ましく、(1:2)~(1:4)がより好ましく、(1:2)~(1:3)がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、ポリアニオンによるドープ効果が充分に発揮され、導電性複合体の分散安定性がより向上する。
上記範囲の上限値以下であると、導電性に優れた導電性高分子含有液が得られる。また、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0024】
前記混合液S1の総質量に対する前記モノマーの含有量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が容易に進む。また、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0025】
前記混合液S1の総質量に対する前記ポリアニオンの含有量は、前記モノマーに対する前記含有比に基づいて設定されることが好ましい。例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上8.0質量%以下がより好ましく、0.6質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0026】
前記混合液S1に含有させるポリアニオンの重量平均分子量は前述の範囲であることが好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0027】
前記混合液S1における前記塩基性化合物の含有割合は、前記混合液S1中の前記モノマー100質量部に対して、5質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上500質量部以下がより好ましく、20質量部以上200質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0028】
前記混合液S1における前記塩基性化合物の含有割合は、前記混合液S1中の前記ポリアニオン100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下が好ましく、3質量部以上100質量部以下がより好ましく、6質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0029】
前記混合液S1の総質量に対する前記塩基性化合物の含有量は、0.01質量%以上、1.0質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0030】
酸化剤を全て添加し終えた前記反応液の総質量に対する、前記触媒の含有量は、例えば、前記反応液の総質量に対して、0.001質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1.0質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、ポリアニオンとの複合化が容易に進む。また、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0031】
酸化剤を全て添加し終えた前記反応液の総質量に対する、前記酸化剤の添加量は、例えば、0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.2質量%以下がさらに好ましく、0.7質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、ポリアニオンとの複合化が容易に進む。また、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0032】
酸化剤を全て添加し終えた前記反応液の総質量に対する、前記モノマーの反応前の仕込み量は、例えば、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、重合反応を安定に進められるので、反応系に存在するポリアニオンとの複合化が容易に進む。また、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0033】
酸化剤を全て添加し終えた前記反応液の総質量に対する、前記ポリアニオンの反応前の仕込み量は、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上6.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0034】
酸化剤を全て添加し終えた前記反応液の総質量に対する、前記塩基性化合物の含有量は、例えば、0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.03質量%以上0.60質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.30質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、目的のY/X比を有する導電性高分子含有液が容易に得られる。
【0035】
前記反応液を構成する前記水系分散媒は、少なくとも水を含み、さらに水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。水溶性有機溶剤の具体例は後述する。
前記水系分散媒の総質量に対する水の含有割合は、例えば、60質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、90質量%以上100質量%以下が特に好ましい。
【0036】
(触媒、塩基性化合物及び酸化剤の除去)
触媒、塩基性化合物及び酸化剤を添加した反応液を用いた場合、反応後に得られた導電性高分子含有液から触媒、塩基性化合物及び酸化剤を除去することが好ましい。
除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子含有液を接触させ、触媒、塩基性化合物及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子含有液を限外ろ過することにより水系分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0037】
(分散処理)
導電性高分子含有液の使用に際しては、攪拌して導電性複合体の分散処理を施すことが好ましい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高圧ホモジナイザー等の高剪断力の分散機を用いて攪拌してもよいが、分散性を高める観点から高圧ホモジナイザー等を用いることが好ましい。
【0038】
以上の方法により、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、前記水系分散媒と、前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンとを含み、前記重合前の前記ポリアニオンの重量平均分子量Xに対する、前記重合後の前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンの重量平均分子量Yの、Y/Xで表される比が0.67以上である導電性高分子含有液を得ることができる。
【0039】
前記ポリアニオンの重量平均分子量Yは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定し、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として求めた質量基準の平均分子量である。
以上の方法で得た導電性高分子含有液から、前記導電性複合体を形成していない前記ポリアニオンを分離したうえで、その重量平均分子量Yを測定すると、導電性複合体の影響を受けずに正確に測定できるので好ましい。
前記分離の方法としては、例えば、平均孔径0.2μmのメンブレンフィルターを用いて導電性高分子含有液を濾過し、導電性複合体をフィルターにトラップする一方、導電性複合体を形成していないポリアニオンを透過させ、ろ液中に回収する方法が挙げられる。
【0040】
以上の方法で得た導電性高分子含有液を用い、下記の析出回収工程を行い、導電性複合体を修飾し、疎水化してもよい。
【0041】
[析出回収工程]
重合工程で得た水系分散媒を含む導電性高分子含有液(以下では、導電性高分子分散液ということがある。)に、エポキシ化合物、アミン化合物及び第四級アンモニウム化合物から選択される1種以上を添加することにより、前記導電性複合体を含む反応生成物を析出させることができる。また、導電性複合体を形成していないポリアニオンも同様に反応し、析出する。
本工程で析出した反応生成物のスルホン酸基等のアニオン基は、添加した上記の化合物が反応して、次の置換基(A)~(C)の何れかが形成されて疎水化されている。
【0042】
ポリアニオンが有するドープに関与しない余剰のアニオン基を以下では「一部のアニオン基」ということがある。
一部のアニオン基とエポキシ化合物との反応によって下記の置換基(A)が形成される。
一部のアニオン基とアミン化合物との反応によって下記の置換基(B)が形成される。
一部のアニオン基と第四級アンモニウム化合物との反応によって下記の置換基(C)が形成される。
【0043】
(置換基A)
置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0044】
【化1】
【0045】
[式(A1)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0046】
【化2】
【0047】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR、複数のR、複数のR、及び複数のRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよい。]
【0048】
式(A1)及び(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、スルホン酸基等のアニオン基のプロトンと置換していることを表す。
【0049】
式(A1)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、RとRとが前記炭化水素基であり、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
式(A2)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
ここで、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0050】
エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物(エポキシ基含有化合物)である。凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
前記一部のアニオン基と反応するエポキシ化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0051】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0052】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましい。
【0053】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0054】
エポキシ化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2000以下であることが好ましい。また、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ化合物は、炭素数が4以上120以下のものが好ましく、7以上100以下のものがより好ましく、10以上80以下のものがさらに好ましく、15以上50以下のものが特に好ましい。
【0055】
(置換基B)
前記置換基(B)は、下記式(B)で表される基であると推測される。
【0056】
-HN111213 ・・・(B)
[式(B)中、R11~R13はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R11~R13のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0057】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷、例えばスルホン酸基の負電荷「-SO 」と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。
【0058】
化学式(B)におけるR11~R13は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(B)におけるR11~R13は後述するアミン化合物に由来する置換基である。
化学式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0059】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。前記一部のアニオン基と反応するアミン化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性複合体の導電性を高められることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0060】
有機溶剤への分散性、特に、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、6以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがさらに好ましい。この窒素原子上の置換基の炭素数の上限値は特に制限されず、溶剤への溶解性や反応性を考慮して、例えば、50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。
また、アミン化合物が有する前記R11~R13の合計の炭素数は、6~33が好ましく、9~30がより好ましく、12~27がさらに好ましい。
前記窒素原子上の各置換基の炭素数の数は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0061】
前記一部のアニオン基が、置換基(A)及び置換基(B)を有する場合、[置換基(A)]:[置換基(B)]で表される質量比(以下、A/B比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/B比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ化合物を反応させて得られる反応生成物Aの質量)-(エポキシ化合物と反応させる前の導電性複合体及び導電性複合体を形成していないポリアニオンの質量)]で算出することができる。また、[置換基(B)]の質量は、[(前記反応生成物Aとアミン化合物とを反応させて得られる反応生成物Bの質量)-(前記反応生成物Aの質量)]から算出することができる。
【0062】
(置換基C)
置換基(C)は下記式(C)で表される基であると推測される。
【0063】
-N11121314 ・・・(C)
[式(C)中、R11~R14はそれぞれ独立に、置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0064】
置換基(C)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷、例えばスルホン酸基の負電荷「-SO 」と、第四級アンモニウムカチオンの正電荷とが結合していることを表す。
【0065】
化学式(C)におけるR11~R14は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
化学式(C)におけるR11~R14は第四級アンモニウム化合物に由来する置換基である。
化学式(C)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0066】
有機溶剤への分散性が高くなり、導電性が向上することから、第四級アンモニウム化合物は、窒素原子上に炭素数が3以上の置換基を有することが好ましく、5以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が7以上の置換基を有することがさらに好ましい。この窒素原子上の各置換基の炭素数の上限値は特に制限されず、溶剤への溶解性や反応性を考慮して、例えば、40以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
また、第四級アンモニウム化合物が有する前記R11~R14の合計の炭素数は、8~44が好ましく、12~40がより好ましく、16~36がさらに好ましい。
前記窒素原子上の各置換基の炭素数の数は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0067】
第四級アンモニウム化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラ-n-オクチルアンモニウム塩、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩、テトラナフチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
アンモニウムカチオンのカウンターアニオンとしては、例えば、臭素イオン、塩素イオン等のハロゲンイオンやヒドロキシイオンが挙げられる。
【0068】
前記導電性複合体が、置換基(A)及び置換基(C)を有する場合、[置換基(A)]:[置換基(C)]で表される質量比(以下、A/C比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/C比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ化合物と反応させて得られる反応生成物Aの質量)-(エポキシ化合物と反応させる前の導電性複合体及び導電性複合体を形成していないポリアニオンの質量)]で算出することができる。また、[置換基(C)]の質量は、[(前記反応生成物Aと第四級アンモニウム化合物とを反応させて得られる反応生成物Cの質量)-(前記反応生成物Aの質量)]から算出することができる。
【0069】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する、前記反応生成物の含有量は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子含有液を塗布して形成する導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子含有液における前記反応生成物の分散性を高め、均一な導電層を形成することができる。
【0070】
導電性高分子分散液にエポキシ化合物の1種以上を添加する場合、エポキシ化合物の添加量は、導電性高分子分散液に含まれる、π共役系導電性高分子及び全ポリアニオン(導電性複合体を形成しているポリアニオンを含む)100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のエポキシ化合物による導電性低下を防止できる。
エポキシ化合物の添加の際には反応促進のために加熱してもよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0071】
導電性高分子分散液にアミン化合物の1種以上を添加する場合、アミン化合物の添加量は、導電性高分子分散液に含まれる、π共役系導電性高分子及び全ポリアニオン(導電性複合体を形成しているポリアニオンを含む)100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、100質量部以上2000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のアミン化合物による導電性低下を防止できる。
【0072】
導電性高分子分散液に第四級アンモニウム化合物の1種以上を添加する場合、第四級アンモニウム化合物の添加量は、導電性高分子分散液に含まれる、π共役系導電性高分子及び全ポリアニオン(導電性複合体を形成しているポリアニオンを含む)100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、50質量部以上2000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応の第四級アンモニウム化合物による導電性低下を防止できる。
第四級アンモニウム化合物は、アミン化合物と類似した反応機構で、アミン化合物よりも少ない添加量で良好な反応性を示す。第四級アンモニウム化合物によって修飾された導電性複合体を含む導電層の導電性は、アミン化合物によって修飾された場合よりも優れる傾向がある。
【0073】
導電性高分子分散液にエポキシ化合物、アミン化合物及び第四級アンモニウム化合物から選択される1種以上を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。添加する有機溶剤は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0074】
前記導電性高分子分散液に、エポキシ化合物と、アミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との両方を添加する場合、その添加順序は特に限定されない。合成中間体(反応中間体)の取り扱いが容易であることから、まずエポキシ化合物を添加して反応させた後、アミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物を添加して反応させることが好ましい。
【0075】
析出した反応生成物を回収する方法は特に制限されず、例えば、ろ過処理、デカンテーション等によって回収することができる。
【0076】
回収した反応生成物(析出物)の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましいが、実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含んでもよい。
水分量を少なくする方法としては、例えば、有機溶剤で反応生成物を洗い流す方法、反応生成物を乾燥する方法等が挙げられる。
【0077】
[洗浄工程]
析出回収工程で回収した反応生成物を洗浄する洗浄工程を有してもよい。この洗浄工程によって、残留する水、未反応のエポキシ化合物、未反応のアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物、及びエポキシ化合物の加水分解物等を除去する。
洗浄用有機溶剤は、反応生成物の溶解を最低限に抑えつつ洗浄可能なものが好ましい。このため、洗浄用有機溶剤としては、アルコール系溶剤が好ましい。洗浄用有機溶剤に含まれる有機溶剤は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、反応生成物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して反応生成物を洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で攪拌して反応生成物を洗浄してもよい。
【0078】
[添加工程]
本工程は反応生成物に分散媒を添加して導電性高分子含有液を得る工程である。添加する分散媒は、反応生成物を分散できるものであればよく、有機溶剤を含むことが好ましい。
導電性高分子含有液が疎水化された導電性複合体を含む場合の前記分散媒の総質量に対する前記有機溶剤の含有量は、70質量%以上100質量%以下が好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0079】
<有機溶剤>
前記有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。前記有機溶剤は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0080】
前記有機溶剤は水溶性有機溶剤であってもよいし、非水溶性有機溶剤であってもよい。
水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤から選択される1種以上が好ましい。
【0081】
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の二価アルコールが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤及び炭化水素系溶剤の例は、後述する。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
上記に分類されない溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0082】
(エステル系溶剤)
エステル系溶剤は、エステル基(-C(=O)-O-)を有するエステル基含有化合物である。
前記導電性複合体がエポキシ化合物及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との反応によって修飾されている場合、前記有機溶剤がエステル系溶剤を含むと、導電性複合体の分散性がより高まるので好ましい。
導電性複合体の分散性を高める観点から、下記式1zで表される1種類以上のエステル系溶剤を含むことが好ましい。
式1z:R21-C(=O)-O-R22
[式中、R21は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、R22は炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0083】
導電性複合体の分散性を高める観点から、R21はメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、R22の炭素数は2~5が好ましく、2~4がより好ましい。
【0084】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等が挙げられる。
【0085】
前記有機溶剤に含まれるエステル系溶剤の含有量は、前記有機溶剤の総質量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がより一層好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。エステル系溶剤の含有量が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0086】
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤を含む場合、エステル系溶剤以外の有機溶剤がさらに1種類以上含まれていても構わない。
エステル系溶剤以外の有機溶剤としては、例えば、後述の炭化水素系溶剤、前述のケトン系溶剤、アルコール系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。
【0087】
(炭化水素系溶剤)
本態様の導電性高分子含有液に含まれる導電性複合体がエポキシ化合物及びアミン化合物若しくは第四級アンモニウム化合物との反応によって修飾されている場合、分散媒として炭化水素系溶剤が含まれると、プラスチックフィルム基材に対する濡れ性が高くなり、低極性のバインダ成分を容易に添加できるので好ましい。
【0088】
前記炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。なかでも、導電性複合体の分散性が高いことから、トルエンが好ましい。また、バインダ成分としてシリコーン化合物を添加した場合には、シリコーン化合物の溶解性に優れることから、ヘプタン及びトルエンの少なくとも一方が好ましい。
【0089】
炭化水素系溶剤に加えてさらにメチルエチルケトンを含有すると、導電性複合体の分散性がより高くなるので好ましい。例えば、炭化水素系溶剤100質量部に対して、メチルエチルケトンは20質量部以上120質量部以下が好ましく、30質量部以上100質量量部以下がより好ましく、40質量部以上80質量部以下がさらに好ましい。
【0090】
炭化水素系溶剤の含有量は、前記有機溶剤の総質量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がより一層好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。炭化水素系溶剤の含有量が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0091】
本態様の導電性高分子含有液が炭化水素系溶剤を含む場合、炭化水素系溶剤以外の有機溶剤がさらに1種類以上含まれていても構わない。
炭化水素系溶剤以外の有機溶剤としては、前述したケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。
【0092】
以上のなかでも有機溶剤は、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、及びエステル系溶剤から選択される1種類以上が好ましく、イソプロパノール、メチルエチルトン、及び酢酸エチルから選択される1種類以上がより好ましい。これらの好適な有機溶剤を用いることにより、導電性高分子含有液に含まれる導電性複合体の分散性をより一層高めることができる。
【0093】
(分散処理)
反応生成物に分散媒を添加した後には導電性高分子含有液を攪拌して分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高圧ホモジナイザー等の高剪断力の分散機を用いて攪拌してもよいが、分散性を高める観点から高圧ホモジナイザー等を用いることが好ましい。
【0094】
(任意成分の添加)
以上で得られた導電性高分子含有液に、さらにバインダ成分やその他の添加剤を添加してもよい。
【0095】
<バインダ成分の添加>
本態様の導電性高分子含有液は、バインダ成分をさらに含んでいてもよい。バインダ成分を含有する導電性高分子含有液を用いることにより、形成する導電層の強度を向上させたり、粘着性や離型性を付与したりすることができる。
バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子、前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
前記バインダ成分は後述する粘着剤であってもよい。
本態様で添加するバインダ成分は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0096】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
【0097】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0098】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0099】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるバインダ成分(ただし、後述するシリコーン化合物を除く。)の含有割合は、前記π共役系導電性高分子及び全ポリアニオンの1質量部に対して、例えば、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、100質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層に含まれるバインダ成分の特性を充分に発揮させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層の充分な導電性を確保できる。
【0100】
(シリコーン化合物)
本態様の導電性高分子含有液の分散媒が炭化水素系溶剤又はエステル系溶剤を含む場合、シリコーン化合物の分散性がより高められるので好ましい。
シリコーン化合物としては、硬化型シリコーンが挙げられる。バインダ成分が硬化型シリコーンである場合、硬化型シリコーンを硬化させることにより、導電層に離型性を付与することができる。
【0101】
硬化型シリコーンは、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンのいずれであってもよい。本態様では、付加硬化型シリコーンを使用しても硬化阻害が生じにくいため、好ましい。
【0102】
付加硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。このような付加硬化型シリコーンは、付加反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。硬化を促進させるために白金系硬化触媒を用いてもよい。
付加硬化型シリコーンの具体例としては、KS-3703T、KS-847T、KM-3951、X-52-151、X-52-6068、X-52-6069(信越化学工業社製)等が挙げられる。
付加硬化型シリコーンは有機溶剤に溶解又は分散しているものが好適に使用される。
【0103】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるシリコーン化合物の含有割合は、前記π共役系導電性高分子及び全ポリアニオンの100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層に充分な離型性を付与することができる。
上記範囲の上限値以下であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層の充分な導電性を確保できる。
【0104】
[粘着剤]
本態様の導電性高分子含有液は、バインダ成分として粘着剤を含有してもよい。粘着剤を含む導電性高分子含有液を用いることにより、粘着性を有する導電層を形成することができる。
本態様の導電性高分子含有液の分散媒が炭化水素系溶剤又はエステル系溶剤を含む場合、炭化水素系溶剤又はエステル系溶剤に予め分散された粘着剤と容易に混合することができ、その混合液中において導電性複合体を安定に分散できるので好ましい。
【0105】
前記粘着剤が有する粘着性の程度は特に制限されず、貼付した後で、手で容易に剥離可能な程度の粘着性であってもよいし、貼付した後で剥離することが難しい程度の粘着性であってもよい。剥離することが困難な粘着性は接着性と言い換えることができる。つまり、粘着性は半永久的に接着することが可能な程度であってもよい。
【0106】
前記粘着剤として、公知の粘着剤が適用できる。導電性を維持しつつ良好な粘着性を発揮させる観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0107】
(アクリル系粘着剤)
アクリル系粘着剤は、同種又は異種の固体の面と面とを貼り合せて一体化させることができる。アクリル系粘着剤は、アクリル系樹脂(アクリル系重合体)を含む。
【0108】
アクリル系樹脂を形成するアクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等のアクリレート;テトラエチレングリコールジメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等のメタクリレート;ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルホルモリン、N-メチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、アクリロイルピペリジン、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
前記アクリル系樹脂を形成するアクリルモノマーは1種類でもよいし、2種以上でもよい。アクリルモノマーを2種以上組み合わせることにより粘着性を調整することができる。
【0109】
アクリル系樹脂は、アクリルモノマーと、アクリルモノマー以外のビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。
ビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸等が挙げられる。
上記共重合体におけるアクリルモノマー単位の含有量は、50モル%以上100モル%未満であることが好ましく、70モル%以上98モル%以下であることがより好ましい。
アクリルモノマー単位の含有量が前記下限値以上であれば、粘着性を容易に発現できる。
上記共重合体におけるビニル系モノマー単位の含有量は、例えば、2モル%以上20モル%以下とすることができる。
【0110】
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。ガラス転移温度が80℃を超えるアクリル系樹脂は、粘着性が低い。アクリル系樹脂のガラス転移温度は-80℃以上であり、それよりガラス転移温度が低いものを得ることは困難である。アクリル系樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定又は動的粘弾性測定により求めることができる。
アクリル系樹脂のガラス転移温度を低くする傾向を有するアクリルモノマーとして、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート(特にn-ブチルアクリレート)、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。アクリル系樹脂において、これらのモノマー単位の割合が多くなる程、ガラス転移温度が低くなる。
【0111】
アクリル系樹脂の質量平均分子量は1万以上200万以下であることが好ましく、3万以上100万以下であることがより好ましい。アクリル系樹脂の質量平均分子量が前記下限値以上であれば、充分な凝集力を確保できる。前記上限値以下であれば、粘着性をより向上させることができる。
【0112】
アクリル系樹脂が、反応性官能基を有するアクリルモノマー単位を有する場合には、硬化剤と反応させて硬化させてもよい。アクリル系樹脂を硬化させると、粘着剤を含む導電層の凝集力が向上して強度を向上させることができる。また、導電層の凝集力を向上させることによって、接着と剥離を繰り返すことが可能な再剥離性の導電層とすることもできる。
前記反応性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、エポキシ基等が挙げられる。後述する多官能イソシアネートと反応させる場合には、反応性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
ヒドロキシ基を有するアクリルモノマーとしては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート等が挙げられる。
カルボキシ基を有するアクリルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。
アミノ基を有するアクリルモノマーとしては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
アミド基を有するアクリルモノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等が挙げられる。
エポキシ基を有するアクリルモノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
硬化剤として多官能イソシアネートを用いる場合には、前記反応性官能基を有するアクリルモノマーのなかでも、硬化性及びコストを勘案すると、ヒドロキシ基を有するアクリルモノマーが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートがより好ましい。
前記アクリル樹脂を形成する、前記反応性官能基を有するアクリルモノマーは、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0113】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる粘着剤の含有割合は、前記π共役系導電性高分子及び全ポリアニオンの1質量部に対して10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層に充分な粘着性を付与できる。
上記範囲の上限値以下であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層の充分な導電性を確保できる。
【0114】
(硬化剤)
本態様の導電性高分子含有液に含まれる前記粘着剤が反応性官能基を有する場合、本態様の導電性高分子含有液は硬化剤を含有することが好ましい。
硬化剤としては、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有する多官能イソシアネート等のイソシアネート系硬化剤、1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物等のエポキシ系硬化剤等が挙げられる。これら硬化剤のなかでも、反応性の点から、多官能イソシアネートが好ましい。特に、粘着剤が、ヒドロキシ基を有するアクリルモノマー単位を有する場合には、硬化剤が多官能イソシアネートであることが好ましい。
【0115】
多官能イソシアネートとしては、脂肪族多官能イソシアネート、脂環族多官能イソシアネート及び芳香族多官能イソシアネートが挙げられる。
多官能イソシアネートの具体例としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジシクロメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタトリイソシアネート、トリメチルへキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
多官能イソシアネートは、前記ジイソシアネートを、NCO/OHモル比が2/1以上となるように変性した変性多官能イソシアネートより形成した変性ジイソシアネートであってもよい。
多官能イソシアネートは、変性ポリイソシアネートであってもよい。変性ポリイソシアネートしては、例えば、前記多官能イソシアネートを多価アルコールと反応させて得られるポリウレタンポリイソシアネート、多官能イソシアネートを重合させることによって得られる、イソシアヌレート環を含んだポリイソシアネート、多官能イソシアネートと水と反応させて得られる、ビュレット結合を含んだポリイソシアネート等が挙げられる。
本態様の導電性高分子含有液に含まれる硬化剤の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0116】
本態様の導電性高分子含有液に含まれる硬化剤の含有割合は、前記粘着剤100質量部に対して、例えば、1質量部以上100質量部以下が好ましく、2質量部以上50質量部以下がより好ましく、3質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、本態様の導電性高分子含有液によって形成される導電層に充分な粘着性を付与することができる。
【0117】
(高導電化剤)
本態様の導電性高分子含有液は、高導電化剤を含んでもよい。
ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤、粘着剤、硬化剤、及びバインダ成分は、高導電化剤に分類しない。なお、前記エポキシ化合物、前記アミン化合物、前記第四級アンモニウム化合物、前記塩基性化合物は、ここで説明する高導電化剤に該当していてもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上の水酸基を有する化合物、1個以上の水酸基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
本態様の導電性高分子含有液に含有される高導電化剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は前記π共役系導電性高分子及び全ポリアニオンの100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、100質量部以上2500質量部以下がさらに好ましい。
高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0118】
(その他の添加剤)
本態様の導電性高分子含有液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の導電性高分子含有液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、前記π共役系導電性高分子及び全ポリアニオンの100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0119】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第二態様は、第一態様の製造方法により導電性高分子含有液を得る工程と前記導電性高分子含有液を、基材の少なくとも一部の面に塗工する工程とを有する、導電性積層体の製造方法である。
【0120】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0121】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0122】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0123】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0124】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0125】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0126】
導電性高分子含有液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0127】
導電性高分子含有液の基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0128】
基材上に塗工した導電性高分子含有液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
乾燥後にUV照射を行い、塗膜に含まれるバインダ成分を硬化させてもよい。
【0129】
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0130】
前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚みが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
導電層の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【実施例0131】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造1
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
次に、得られたポリスチレンスルホン酸10gをイオン交換水90gに溶解して10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
【0132】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として、上記で得たポリスチレンスルホン酸(PSS)の重量平均分子量(Mw)を測定した結果、重量平均分子量18万であった。
重量平均分子量の測定は、株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ装置Prominenceを使用し、溶媒として0.1%NaNO3水溶液を使用し、カラムとしてShodex OHpack SB-806M HQを使用し、検出器としてRID-20Aを使用し、溶媒温度40℃に設定し、流速0.6ml/minに設定し、試料中のPSS濃度0.1質量%にして、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した試料100μlを注入し、解析ソフトウェアLabSolutions(島津製作所製)を使用して行った。
【0133】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸の製造2
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した0.38gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
次に、得られたポリスチレンスルホン酸10gをイオン交換水90gに溶解して10質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。
製造例1と同様にGPCを用いて測定した、上記で得たポリスチレンスルホン酸(PSS)の重量平均分子量は54万であった。
【0134】
(実施例1)
3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)3.0gと、製造例1の10質量%PSS水溶液90gと、イミダゾール0.75gと、イオン交換水325gを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、硫酸第二鉄1.2gを添加した。
次に、6.6gの過硫酸ナトリウムを293.4gのイオン交換水に溶かした酸化剤溶液(25℃)を4時間かけてゆっくり添加し、全ての酸化剤溶液を添加し終えて得られた反応液(25℃)を8時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS)と、分散媒である水と、イミダゾールとを含む導電性高分子含有液を得た。
この導電性高分子含有液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)39gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)39gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤、前記触媒、前記イミダゾールが除去された導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.4質量%)を得た。
次に、得られた導電性高分子含有液にイオン交換水を加え、不揮発成分濃度を1.0質量%に調整し、高圧ホモジナイザーを用いて分散した後、#4のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、120℃で1分間乾燥して導電性フィルムを得た。この導電性フィルムの表面抵抗値Rを測定した結果を表1に示す。
【0135】
上記の塗布に用いた導電性高分子含有液をガスクロマトグラフィー質量分析計で分析したところ、未反応のEDOTは測定限界以下であった。この結果からほぼ全てのEDOTがPEDOTを形成したことが分かった。また、イミダゾールが含まれていない(測定限界以下である)ことも確認した。
上記のガスクロマトグラフィー測定は、島津製作所社製のGCMS-QP2010Plusを使用し、キャリアガスとしてヘリウムを使用し、カラムとしてDB-5MSを使用し、検出器としてコンバージョン・ダイオード付き二次電子倍増管を使用し、気化温度250℃に設定し、流速1.2mL/分に設定し、試料1μLを注入し、試料中のPEDOT-PSS濃度1.0質量%にして、解析ソフトウェアGCMSsolutionを使用して、行った。
【0136】
上記の塗布に用いた導電性高分子含有液を、孔径0.2μmのメンブレンフィルター(メンブレンソリューションジャパン社製、型番:NY-030022)で濾過し、PEDOT-PSSをメンブレン上にトラップする一方、導電性高分子含有液中に含まれている単独のPSS(PEDOT-PSSを形成していないもの)を透過させ、ろ液中に回収した。このろ液に含まれるPSSの重量平均分子量を製造例1で説明した様にGPCで測定したところ、12.8万であった。
従って、EDOT重合前のPSSの重量平均分子量X=18万、PEDOT-PSS形成後に余ったPSSの重量平均分子量Y=12.8万であり、Y/X≒0.71であった。
【0137】
(実施例2)
実施例1の「イミダゾール0.75g」を「イミダゾール1.5g」に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.4質量%)を得た。
【0138】
(実施例3)
実施例1の「イミダゾール0.75g」を「イミダゾール3.0g」に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.5質量%)を得た。
【0139】
(実施例4)
実施例1の「イミダゾール0.75g」を「トリエチルアミン0.75g」に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.4質量%)を得た。なお、重合反応液中のトリエチルアミンは、イミダゾールの場合と同様にイオン交換樹脂によって除去した。
【0140】
(実施例5)
実施例1の「イミダゾール0.75g」を「トリエチルアミン1.5g」に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.4質量%)を得た。なお、重合反応液中のトリエチルアミンは、イミダゾールの場合と同様にイオン交換樹脂によって除去した。
【0141】
(比較例1)
実施例1の「イミダゾール0.75g」を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.2質量%)を得た。
【0142】
(実施例6)
実施例1の「製造例1の10質量%PSS水溶液90gと、イオン交換水325gを20℃で混合した。」を「製造例1の10質量%PSS水溶液150gと、イオン交換水265gを20℃で混合した。」に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.8質量%)を得た。
【0143】
(比較例2)
実施例6の「イミダゾール0.75g」を添加しなかったこと以外は実施例6と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.8質量%)を得た。
【0144】
(実施例7)
実施例1の「製造例1の10質量%PSS水溶液90g」を「製造例2の10質量%PSS水溶液90g」に変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性高分子含有液710g(不揮発成分濃度1.4質量%)を得た。
【0145】
(比較例3)
実施例7の「イミダゾール0.75g」を添加しなかったこと以外は実施例7と同様にして導電性高分子分散液710g(不揮発成分濃度1.3質量%)を得た。
【0146】
以上の各例で得た導電性高分子含有液を用い、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製して表面抵抗値を測定した。また、実施例1と同様にしてガスクロマトグラフィー測定を行い、EDOT重合反応後のEDOTの残量(残量P)を測定した。さらに、実施例1と同様にして、PEDOT-PSS形成後に余ったPSSの重量平均分子量YをGPCで測定した。これらの結果を表1に示す。
【0147】
[表面抵抗値の測定]
各例で作製した導電性フィルムについて、導電層の表面抵抗値Rを、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表中、「1.0E+05」は「1.0×10」を意味し、他も同様である。
【0148】
[大気暴露試験]
表面抵抗値Rを測定した導電性フィルムを、温度25℃、湿度50%RHの条件下で、大気に暴露した状態で30日間放置した後、再び上記と同様にして表面抵抗値Rを測定した。その結果と、表面抵抗値の上昇比(R/R)を表1に示す。
【0149】
【表1】
【0150】
(実施例8)
実施例1の導電性高分子含有液(不揮発成分濃度1.0質量%)100gに、イソプロパノール50gとトリオクチルアミン10gを添加して1時間攪拌し、導電性複合体の一部のスルホン酸基にトリオクチルアミンを反応させた。その結果、反応生成物がすべて反応液上層に浮遊した。この反応液を濾過し、導電性複合体とトリオクチルアミンの反応生成物の粉体を得た。この粉体にイソプロパノールを加えて500gの混合液とし、高圧ホモジナイザーを用いて分散して500gの導電性高分子含有液を得た。この含有液の不揮発成分濃度を測定した結果を表2に示す。
次に、得られた導電性高分子含有液を#8のバーコーターでPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。その表面抵抗値Rの測定結果を表2に示す。
【0151】
(比較例4)
実施例1の導電性高分子含有液100gを、比較例1の導電性高分子含有液(不揮発成分濃度1.0質量%)100gに変更したこと以外は実施例8と同様にして、イソプロパノールを分散媒とする導電性高分子含有液を得て、導電性フィルムを作製した。その結果を表2に示す。
【0152】
(実施例9)
実施例1の導電性高分子含有液(不揮発成分濃度1.0質量%)100gに、エポキシ化合物(共栄社化学株式会社製、エポライトM-1230、C12,13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌し、導電性複合体の一部のスルホン酸基にエポキシ化合物を反応させた。その結果、反応生成物が析出した。この析出物を濾過し、導電性複合体とエポキシ化合物の反応生成物を回収した。この反応生成物にメチルエチルケトンを加えて300gの混合液とし、高圧ホモジナイザーを用いて分散して300gの導電性高分子含有液を得た。この含有液の不揮発成分濃度を測定した結果を表2に示す。
次に、得られた導電性高分子含有液を#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0153】
(比較例5)
実施例1の導電性高分子含有液100gを、比較例1の導電性高分子含有液(不揮発成分濃度1.0質量%)100gに変更したこと以外は実施例9と同様にして、メチルエチルケトンを分散媒とする導電性高分子含有液を得て、導電性フィルムを作製した。その結果を表2に示す。
【0154】
(実施例10)
実施例1の導電性高分子含有液(不揮発成分濃度1.0質量%)100gに、エポキシ化合物(共栄社化学株式会社製、エポライトM-1230、C12,13混合高級アルコールグリシジルエーテル)25gを加え、60℃で4時間加熱攪拌した。次に、イソプロパノール50gとトリオクチルアミン10gを添加して1時間攪拌することにより、導電性複合体の一部のスルホン酸基にエポキシ化合物及びトリオクチルアミンが反応した。その結果、反応生成物が析出した。この析出物を濾過し、導電性複合体とエポキシ化合物及びトリオクチルアミンとの反応生成物を得た。この反応生成物に酢酸エチルを加えて800gの混合液とし、高圧ホモジナイザーを用いて分散して800gの導電性高分子含有液を得た。この含有液の不揮発成分濃度を測定した結果を表2に示す。
次に、得られた導電性高分子含有液を#8のバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、100℃で1分間乾燥して、導電性フィルムを得た。
【0155】
(比較例6)
実施例1の導電性高分子含有液100gを、比較例1の導電性高分子含有液(不揮発成分濃度1.0質量%)100gに変更したこと以外は実施例10と同様にして、酢酸エチルを分散媒とする導電性高分子含有液を得て、導電性フィルムを作製した。その結果を表2に示す。
【0156】
以上の各例で得た導電性フィルムについて、実施例1と同様にして大気暴露試験を行い、表面抵抗値Rを測定した。これらの結果を表2に示す。
【表2】
【0157】
<結果>
前述の重合反応液におけるEDOT重合前のPSSの重量平均分子量Xと、PEDOT-PSS形成後に余ったPEDOT-PSSを形成していないPSSの重量平均分子量Yとの(Y/X)で表される比が0.67以上である実施例の導電性高分子含有液を用いて形成した導電性フィルムの大気暴露耐性は、Y/X比が0.67未満である比較例の導電性高分子含有液を用いて形成した導電性フィルムの大気暴露耐性よりも優れていた。
また、Y/Xを0.67以上とするためには、重合反応液中に塩基性化合物を添加することが有効であることが明らかである。
【0158】
<作用メカニズム>
上記の通りY/X比が0.67以上となる導電性高分子含有液を使用することにより導電層の大気暴露耐性が向上するメカニズムは次のように推測される。Y/X比が0.67以上である場合、導電性複合体を形成していないポリアニオンの分子量が大きく、そのポリアニオンが塗膜表面に配置しやすくなるのでπ共役系導電性高分子の酸化劣化が抑えられ大気暴露耐性が高くなる。Y/X比が0.67未満の場合、導電性複合体を形成していないポリアニオンの分子量が小さく、そのポリアニオンが塗膜表面に配置しにくくなるのでπ共役系導電性高分子の酸化劣化が抑えられず大気暴露耐性が低くなる。