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  • 特開-動体の軌跡の補正装置 図1
  • 特開-動体の軌跡の補正装置 図2
  • 特開-動体の軌跡の補正装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023977
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】動体の軌跡の補正装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/48 20100101AFI20230209BHJP
【FI】
G01S19/48
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129981
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰史
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA09
5J062BB05
5J062CC07
5J062DD23
5J062DD24
5J062DD25
5J062FF01
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】GPS装置を装備した動体がトンネルに入ったり、通信ができない地域を歩行したりして通信が遮断され、通信が再開したときに、連続的に動体の軌跡を再現する。
【解決手段】GPS通信を行って動体の位置を測定する手段と、前記動体が装備する方向角センサと予め定められた前記動体の移動距離によって前記動体の軌跡を演算する自己位置推定機能を併有し、前記GPS通信による前記動体の位置の測定が途絶えるか、信頼性が低い場合は動体の軌跡は前記自己位置推定機能による測定に切り替え、再度信頼性を有するGPS測定が復活すると前記GPS測定による動体の軌跡に切り替え、前記GPS測定による動体の軌跡と前記自己位置推定による軌跡を合成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動体が装備するGPS装置と、GPS衛星の間でGPS通信を行って前記動体の位置を測定する手段と、前記動体が装備する方向角センサと予め定められた前記動体の移動距離によって前記動体の軌跡を演算する自己位置推定機能を併有し、前記GPS通信による前記動体の位置の測定が途絶えるか、信頼性が低い場合には動体の軌跡は前記自己位置推定機能による測定に切り替え、再度信頼性を有するGPS測定が復活すると前記GPS測定による動体の軌跡に切り替え、前記GPS測定による動体の軌跡と前記自己位置推定による軌跡を合成することを特徴とする動体の軌跡の補正装置。
【請求項2】
動体のGPS測定と、方向角センサの進行方向のデータは1秒ごとに取得し、連続するN回の平均値によって前記GPS測定と方向角センサによる測定の位置関係の乖離を算出し、この算出値が予め定めた閾値を超えた場合にはエラーとして判断する請求項1記載の動体の軌跡の補正装置。
【請求項3】
さらにGPS測定と方向角センサの測定の乖離を算出し、予め定めた閾値を超えなくなった場合には正常値として判断する請求項2記載の動体の軌跡の補正装置。
【請求項4】
エラーを判断した箇所と、正常値を判断した箇所にはマーキングをし、これらマーキングの間は自己位置推定機能を優先する請求項3記載の動体の軌跡の補正装置。
【請求項5】
方向角センサは9軸センサである請求項1~3のいずれか記載の動体の軌跡の補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS衛星測位システムを利用して位置情報を取得する場合に、例えば動体がトンネル内に入ってGPS衛星と受信装置の間の通信が途絶えて測位情報が取得できない場合に、当該動体の軌跡を補正するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSを利用した位置情報を取得するシステムは、自動車などのナビゲーションシステムなどで民間においても極めて広く利用されている。GPSは、軌道上にある複数の衛星のうちの3つの衛星と、移動体などに設置された送受信装置が通信を行うことによって、移動体の位置を三次元座標によって特定するシステムである。
【0003】
このGPSの利点は、衛生軌道上には多数のGPS衛星が存在するので、送受信装置がそのうちの3つのGPS衛星との送受信を獲得することが容易であり、移動体の現在の位置情報を正確に把握することができる。その反面、GPS衛星と送受信装置は電波通信を行って移動体の座標を特定する必要があるため、電波事情が悪い場所では正確な位置座標を取得することができない。とりわけ、移動体がトンネル内や上面が遮蔽されたような場所に所在する場合にはGPS衛星との通信が絶たれてしまう結果、座標情報の取得が不可能になるという問題がある。この場合、例えばディスプレイ面の地図に現在位置として表示された輝点は座標の追跡を失って迷走したり、座標を失った位置で停止したりするので、監視者は実際の位置の特定をすることができなくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-191498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、地図の作図にGPSを利用するものであり、測定誤差を補正する構成が記載されている。しかしながら、当該明細書に記載されているように、特許文献1の発明ではグラフ最適化を実施するためにグラフ最適化部という手段を用い、グラフ構造データ全体で、エッジが表す制約から誤差量を表す誤差関数を作成している。そして、各エッジの誤差関数の和が最小となるように、各ノードの位置・姿勢を補正している。そして、最適化後のグラフ構造データをグラフ最適化部記憶部に保存する。誤差関数としては、各エッジに対する計測誤差の総和を用いている。この構成では、瞬間的に生じた誤差を補正することはできるが、GPS装置が搭載された移動体が長時間衛星と通信を遮断されたような場合の補正をすることはできない。
【0006】
また、GPSによる測定は基本的には衛星との通信条件が良好な場合には信頼性が高いが、何らかの悪条件、例えば太陽の活動による電波障害などが発生した場合には通信が乱れるという不可避的な問題がある。
【0007】
本発明では、GPS装置を装備した移動体、例えば人がGPSを装備してフィールドを自由に移動するような場合に、装備者がトンネルに入ったり、通信ができない地域を歩行したりして通信が遮断され、通信が再開したときに、GPS装置によって追跡することができなかった軌跡を仮想的に再現することを目的とするものである。また、GPS通信によって獲得したデータが何らかの障害で信頼性が低いと判断した場合には適宜仮想的な軌跡を優先して選択する信頼性の高い装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、動体が装備するGPS装置と、GPS衛星の間でGPS通信を行って前記動体の位置を測定するGPS測定をひとつの手段とした。また、前記動体が装備する方向角センサと予め定められた前記動体の移動距離によって前記動体の軌跡を演算する自己位置推定機能を併有した。そして、GPS測定と自己位置推定による測定は常時駆動し、GPS測定の結果を主とし、GPS測定の信頼性が低くなった場合には自己位置推定による測定を優先するという手段を用いた。つまり、前記GPS通信による前記動体の位置の測定が途絶えるか、信頼性が低い場合には動体の軌跡は前記自己位置推定機能による測定に切り替え、再度信頼性を有するGPS測定が復活すると前記GPS測定による動体の軌跡に切り替え、前記GPS測定による動体の軌跡と前記自己位置推定による軌跡を合成することとした。この手段によって、GPS測定が何らかの原因によってデータを取得できない場合でも、動体が装備する自己位置推定機能を補完的に利用することができる。
【0009】
また、GPS測定と自己位置推定による測定の切り替えについては、動体のGPS測定と、方向角センサの進行方向のデータを1秒ごとに取得し、連続するN回の平均値によって前記GPS測定と方向角センサによる測定の位置関係の乖離を算出し、この算出値が予め定めた閾値を超えた場合にはエラーとして判断し、GPS測定から自己位置推定による測定に切り替えるという手段を用いた。
【0010】
さらにGPS測定と方向角センサの測定の乖離を算出し、予め定めた閾値を超えなくなった場合には正常値に復帰したと判断して、GPS測定を優先するという手段を用いることとした。すなわち、エラーを判断した箇所と、正常値を判断した箇所にはマーキングをし、これらマーキングの間は自己位置推定機能を優先するという手段を用いた。なお、方向角センサは9軸センサを用いることとした。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、動体を追跡するに際してこの動体が装備するGPS装置とGPS衛星間の通信によって精密な動体の位置を捕捉することが可能となる。そして、GPS通信によって取得したデータになんらかの原因で信頼性が低いと判断したり、遮蔽物などによってGPS通信が困難な場合には自己位置推定機能によって動体の軌跡を捕捉し、これを優先的に採用することとしたので、動体を途切れることなく追跡することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】動体が移動する典型的な平面を示す模式図
図2】GPS測定と自己位置推定による測定を切り替える一例を示す模式図
図3】GPS測定による軌跡と自己位置推定による測定の軌跡の誤差を補正する一例を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に従って説明する。図1は本発明装置を適用する場所の一典型例を示す模式図であって、1a、1bは電波的に上空に対して障壁が存在しない開放路、2はGPS電波が届かないかGPSの通信精度が良好ではない閉鎖空間であり、トンネルなどが代表的に例示される。このような地形において、GPS送受信装置を携帯した人などの動体3が矢印方向に進行した場合には、開放路1aを進行している場合にはGPS衛星との通信によって動体3の位置は捕捉されている。動体3が閉鎖空間2に侵入してGPS電波の送受信に障害をきたすと、動体3が携帯するGPS送受信装置はGPS衛星の電波を走査して捕捉する動作を繰り返すが、トンネルに深く侵入して安定した送受信ができなくなれば、閉鎖空間2に侵入する前まで連続していた動体3の軌跡は乱れて不連続になってしまう。あるいは、現在地を示す輝点が停止したままになってしまい、実際の精確な位置を捕捉することができない。そして、動体3がさらに進んでいき通路1bに再度出現すると、動体3のGPS送受信装置はGPS衛星との交信が再度成立して正確な位置を捕捉する。このように、動体3が携帯するGPS送受信装置とGPS衛星との交信は障害物の影響を受けるので、移動場所や環境によってはGPSによる軌跡だけでは正確な動体3の軌跡を捕捉することができない。
【0014】
このような現象はGPSを利用する場合には不可避である。そこで、本発明ではGPSによる動体3の軌跡を追跡する手段に対して、GPS交信ができない状態における動体3の軌跡をGPSによって補足した軌跡に合成する手段を補完的に用いる。図2はGPS送受信によっては補足されなかった範囲を映像解析などによって自己位置を推定する態様を模式的に示している。図中、1a、1bおよび2は図1と同じ条件の開放路であり、あるいは閉鎖空間である。点線で示した線分は、動体3の実際の軌跡であるが、閉鎖空間2においてGPS通信が精確でない場合には例えば1点鎖線のように軌跡が乱れてしまう。その場合にはGPS通信に代えて自己位置推定(VO)によって位置情報を算出しながらその軌跡を追跡する。VOを算出するための構成として、動体3はGPS送受信装置とともにカメラを備えている。このカメラには、方向角の算出によって動体3の位置を特定する9軸センサが備えられ、動体3の進行方向を常時測定している。9軸センサはカメラに内臓してもよいが、別体でもよい。必要なことは、動体3の動作に応じて9軸センサによって方向角を監視できることであり、具体的な構造は問わない。
【0015】
GPSによる位置特定機能と9軸センサの進行方向の乖離は例えば1秒ごとにデータを取得し、連続する5回の平均値を計算してGPSと9軸センサとの位置関係の乖離を算出する。この場合、動体3の標準的な移動距離を閾値とし、この閾値を超えるような計算値が出された場合にはこれをエラーとして判断する。動体3は具体的に特定する必要はないが、例えば人の場合であれば人の平均的な移動距離を基準とする。本実施形態では人がフィールドワークを行う場合に通常歩行で移動することを想定すると、移動距離(移動速度)は1時間に3~5km程度を閾値として設定する。そして、エラーとして判断された箇所、すなわちGPSの測定結果が実際の動体3の位置とずれたとみなす位置の取得時間をマーキングするとともに、照査を続行する。この場合の軌跡は、9軸センサによる進行方向と、予め設定された平均的な移動距離を合成して作成されることになる。このような操作を繰り返し、GPSによる動体3の位置情報と9軸センサによる乖離が上記のように予め設定された閾値を超えなくなった箇所が出現すると、この場所においてGPS情報が精確に取得された、すなわち正常値に復帰したと判断して、この個所をマーキングする。すなわち、最初のマーキングとその次に出現するマーキングの箇所の間はGPS通信による位置情報の取得が実際の動体3の軌跡ではないと判断して、自己位置推定機能を優先してこの機能に基づいて作成された上記軌跡をGPSによる軌跡に合成する。
【0016】
このような構成によって、本実施形態では動体3の位置情報の取得精度を向上させることが可能となる。つまり、GPS装置によって取得することができない動体3の位置情報を自己位置推定機能によって作成された軌跡と合成することになり、GPS装置と動体3との通信が再開されたことを判断するとGPSによる軌跡を優先することになるので、連続的な位置情報の取得が可能となる。なお、自己位置推定機能には平面的な移動のみならず、垂直方向に対する移動も検知する機能を備えている。
【0017】
また、本実施形態では方向角を9軸センサによって算出するため、動体3の進行方向や、例えば人の頭に9軸センサが装着される場合には視線の方向も定量化することができる。つまり、動体3の移動速度や移動距離などの状態によって特定した時点における動体3の注視箇所をカメラ機能による動画によって記録できるため、動体3の行動基準を特定することができる。なお、この手段によって獲得した記録は、別途通信手段によってホスト側に蓄積することもできる。
【0018】
ところで、GPSによる計測を主としている場合であっても、例えば深い森林などを踏査する際には何らかの障害でGPS通信が一定時間途絶えることがある。この場合においても、本実施形態ではGPSによる計測の信頼性を常時監視し、信頼性が低いと判断した場合には即座に自己位置推定機能に切り替える機能を備えている。すなわち、GPS通信のロギングは常時1秒間隔で行っている。そして、現在獲得した計測値と1秒前の計測値とを比較するとともに、動体3の加速度を比較して自己位置推定機能への切り替えの判定を行っている。GPSについては、発明者が試験的に複数回行った実績値を参考にし、現在値と1秒前の値から算出した移動速度の差分が予め定めた数値(一例として15m/s)を超えた場合には通常の動体3の動きではなく異常値であると判断する。なお、この差分については、動体3の性質や装備するGPS装置などに応じて任意に設定できるようにしている。加速度については、同様にして得た実績値を参考にし、現在地と1秒前の値から算出した加速度差分が予め定めた数値(一例として1.2m/s2)を超えた場合には通常の動体3の加速ではなく異常値として判断する。この数値についても適宜動体3の性質などに応じて設定できる。このようにして、上記一例に従えば移動速度差分/加速度差分=12.5を上回る場合には異常値判断を行って自己推定機能に切り替えるようにしている。つまり、GPSによる計測と自己位置推定のための計測を常時並行して行い、その切り替えをすることによってより適切な軌跡を獲得している。
【0019】
さらに、GPS計測と自己位置推定による計測とは何を計測するかという技術が基本的に異なっているので、その計測結果には誤差が生じる。これを解消するために、GPS計測によって得られた距離によって、自己位置推定によって得られた方向角を按分することによって相互の乖離を併合する。図3はこの処理を行う前(図3a)と行った後の結果(図3b)を示した図である。図3aに示したように、処理を行わない場合には最初のマーキング、すなわちGPS計測から自己位置推定機能への切り替え点H1と、次のマーキングである自己位置推定機能からGPS計測への切り替え点H2との間は自己位置推定による軌跡が選択されるが、誤差Rが発生する。この誤差を、測量学におけるトラバースの併合方法によって図3bのように解消している。按分量は、次のように計算される。
(R/D(H2-H1)+1)×Sn
ここで、Rは誤差、Dは2つのマーキング間の距離、H1,H2はそれぞれ最初と次のマーキング箇所、Snは自己位置推定の距離である。
これによって、GPS計測の結果と自己位置推定機能に基づく計測の結果に不連続が生ずることなく合成することができる。
【0020】
上記説明したように、本実施形態ではGPSによる計測を主とし、GPS通信ができない場所や電波障害によってGPS計測の信頼性が低いと判断した場合には方向角と平均的な移動速度、移動距離などを演算して自己位置推定を行い、GPS計測と自己位置推定の結果を合成するので、動体の軌跡は断絶することなく補足される。また、GPS計測と自己位置推定による計測に誤差が生じた場合にはその補正を行って連続的に軌跡を合成するので、動体の軌跡を不自然なく再現することができる。
【符号の説明】
【0021】
1a,1b 開放路
2 閉鎖空間
3 動体
図1
図2
図3