(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023987
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】接着物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/48 20060101AFI20230209BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20230209BHJP
C09J 5/02 20060101ALI20230209BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
B29C65/48
C09J201/00
C09J5/02
B32B27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129992
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】321011088
【氏名又は名称】シーカ・ハマタイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】松木 裕一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 愛美
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AA00A
4F100AC10A
4F100AC10C
4F100AD11A
4F100AD11C
4F100AG00A
4F100AG00C
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK03A
4F100AK07A
4F100AK07C
4F100AK25B
4F100AK51B
4F100AK52B
4F100AK53B
4F100AT00C
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4F100EJ511
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4F100EJ51C
4F100GB32
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4F211TN46
4F211TN47
4J040EC021
4J040EF131
4J040EF281
4J040JA01
4J040JA13
4J040JB02
4J040MA10
4J040MA11
4J040MB05
4J040NA16
4J040PA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す接着物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】接着剤が、プラスチックを含有し下記条件A1でフレーム処理された部分を有する第1部材と、第2部材とを接着し、第1部材は、フレーム処理された部分で接着剤と接着し、第1部材と接着剤との間にプライマーを介さない、接着物。
(条件A1)フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤が、プラスチックを含有し下記条件A1でフレーム処理された部分を有する第1部材と、第2部材とを接着し、
前記第1部材は、前記フレーム処理された部分で前記接着剤と接着し、
前記第1部材と前記接着剤との間にプライマーを介さない、接着物。
(条件A1)前記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、前記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
【請求項2】
前記第1部材が、前記プラスチックとしてのポリオレフィン系樹脂と、無機物とを含む、請求項1に記載の接着物。
【請求項3】
前記接着剤が、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、変性シリコーン系接着剤、又は、アクリル系接着剤である、請求項1又は2に記載の接着物。
【請求項4】
前記第2部材が、プラスチックを含有し、下記条件A2でフレーム処理された部分を有し、前記フレーム処理された部分で前記接着剤と接着する、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着物。
(条件A2)前記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA2と、前記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(2)を満たす。
0.8≦体積比RA2/体積比RP≦1 (2)
【請求項5】
前記燃焼ガスが、プロパンガス又は天然ガスを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の接着物。
【請求項6】
プラスチックを含有する第1部材に対して、下記条件A1でフレーム処理を行う、表面処理工程と、
前記フレーム処理を行った第1部材に、プライマーを介さずに、接着剤を付与する、接着剤付与工程と、
前記接着剤に第2部材を貼り合わせて、前記第1部材と前記接着剤と前記第2部材とを接着させる、接着工程とを備える、接着物の製造方法。
(条件A1)前記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、前記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
【請求項7】
前記第2部材が、プラスチックを含有し、
前記接着工程の前に、予め、前記第2部材に対して、下記条件A2でフレーム処理を行う、表面処理工程を備え、
前記接着工程において、前記接着剤に、前記フレーム処理を行った第2部材を貼り合わせる、請求項6に記載の接着物の製造方法。
(条件A2)前記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA2と、前記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(2)を満たす。
0.8≦体積比RA2/体積比RP≦1 (2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボディ、フロントドア、リヤドア、バックドア、フロントバンパー、リアバンパー、ロッカーモールなど自動車の内外装部材には、鋼板が使用されているが、自動車の軽量化を図る観点から、上記内外装部材にポリプロピレン樹脂などのプラスチックが使用されることが増えている。
このように自動車の内外装部材にプラスチック(樹脂)を使用する場合、通常、樹脂部材の接着面に対してプライマーを塗布してから接着剤を塗布して貼り合わせることが行われている。しかし、上記の場合、作業工程が増えるなどの問題からプライマーを使用しなくても樹脂部材に対して優れた接着性を有する接着剤組成物が求められている。
これまでに、プライマーを使用しなくても乾式処理のような表面処理が施された樹脂部材に対して優れた接着性を示す、積層部材の製造方法(例えば特許文献1)やイソシアネート系接着剤(例えば特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-128052号公報
【特許文献2】特許第6756393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、自動車に使用される接着剤による樹脂部材の接着性に対して、さらなる向上が求められている。
このようななか、本発明者らが特許文献1、2を参考に、プライマーを使用せずに、フレーム処理された部材と接着剤を用いて接着物を製造したところ、その接着性には改善の余地があると考えられた。
【0005】
本発明は、上記実情を鑑みて、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す接着物を提供することを主たる目的とする。
【0006】
また、本発明者らは、上記課題(プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す接着物の提供)に関連して、以下の2つの問題点を見出している。
1つは、プラスチック基材に対する乾式処理においてこれまで行われてきたエアリッチな条件が接着性の向上に適するか否か、もう1つは、乾式処理後のぬれ張力がこれまで接着性が良いと考えられてきた評価基準に当てはまるにも関わらず、接着性が劣るケースがあるのはなぜか、である。
【0007】
通常、乾式処理後のプラスチック部材は、JIS K6768:1999に規定されている混合液(ぬれ試薬)を用いて、そのぬれ張力が確認される。
従来、上記のぬれ張力が大きいほど、接着剤に対するぬれ性が高く、プラスチック部材と接着剤との接着性が向上すると言われている。例えば、フレーム処理前の、ポリプロピレンを含有する基材のぬれ張力は28~30mN/m程度であるが、フレーム処理後のぬれ張力はおよそ40mN/m以上であることが、接着性が良好になる目安とされている。
【0008】
また、一般的に、フレーム処理のような乾式処理において、火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RK(体積比RK=乾式処理の火炎の発生での、空気/燃焼ガス)は、燃焼ガスが完全燃焼した際の空気と燃焼ガスとの体積比RP(体積比RP=燃焼ガスが完全燃焼した際の、空気/燃焼ガス)よりも大きく設定されている。体積比RKを体積比RPよりも大きく設定する場合、つまり、エアリッチな条件下でフレーム処理を行う場合、得られたぬれ張力をフレーム処理前よりもかなり大きくできるからである。例えばポリプロピレンを含有する基材であればフレーム処理後のぬれ張力を40mN/m以上のようにすることができる。
このように、エアリッチな状態でプラスチック基材の乾式処理(例えばフレーム処理。以下同様)を行い、ぬれ張力を乾式処理前よりもかなり大きくすること(例えばフレーム処理前後でのぬれ張力の差が10mN/m以上)によって、乾式処理後の基材と接着剤との接着性が向上すると従来考えられていた。
【0009】
しかし、上記予想に反して、プラスチック基材にエアリッチな状態で乾式処理を行い、プラスチック基材のぬれ張力が乾式処理前よりもかなり大きくなった基材を使用したにも関わらず、上記基材と接着剤との接着性が必ずしも向上しないことを本発明者らは知見している。上記知見から、本発明者らは上記の2つの問題点も見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題(プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す接着物の提供)について鋭意検討した結果、プラスチックを含有する部材に対する乾式処理において、従来行われてきたエアリッチな条件は接着性の向上に必ずしも適さず、ガスリッチ又は燃焼ガスの完全燃焼の条件下(以下、ガスリッチ等の条件下ともいう)で乾式処理を行うことで、上記課題を解決できることを見出した。
また、従来、接着性を確認するために行われていたぬれ試薬によるぬれ張力の評価において、乾式処理前後でのぬれ張力の上昇がプラスチック部材と接着剤との接着性と必ずしも相関しないことを見出し、ガスリッチ等の条件でプラスチック基材の乾式処理を行った場合、乾式処理前後でぬれ張力の増加が小さくとも(例えばフレーム処理前後でのぬれ張力の差が8mN/m以下)、乾式処理後のプラスチック基材と接着剤との接着性が向上することを見出した。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0011】
[1]
接着剤が、プラスチックを含有し下記条件A1でフレーム処理された部分を有する第1部材と、第2部材とを接着し、
上記第1部材は、上記フレーム処理された部分で上記接着剤と接着し、
上記第1部材と上記接着剤との間にプライマーを介さない、接着物。
(条件A1)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
[2]
上記第1部材が、上記プラスチックとしてのポリオレフィン系樹脂と、無機物とを含む、[1]に記載の接着物。
[3]
上記接着剤が、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、変性シリコーン系接着剤、又は、アクリル系接着剤である、[1]又は[2]に記載の接着物。
[4]
上記第2部材が、プラスチックを含有し、下記条件A2でフレーム処理された部分を有し、上記フレーム処理された部分で上記接着剤と接着する、[1]~[3]のいずれかに記載の接着物。
(条件A2)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA2と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(2)を満たす。
0.8≦体積比RA2/体積比RP≦1 (2)
[5]
上記燃焼ガスが、プロパンガス又は天然ガスを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の接着物。
【0012】
[6]
プラスチックを含有する第1部材に対して、下記条件A1でフレーム処理を行う、表面処理工程と、
上記フレーム処理を行った第1部材に、プライマーを介さずに、接着剤を付与する、接着剤付与工程と、
上記接着剤に第2部材を貼り合わせて、上記第1部材と上記接着剤と上記第2部材とを接着させる、接着工程とを備える、接着物の製造方法。
(条件A1)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
[7]
上記第2部材が、プラスチックを含有し、
上記接着工程の前に、予め、上記第2部材に対して、下記条件A2でフレーム処理を行う、表面処理工程を備え、
上記接着工程において、上記接着剤に、上記フレーム処理を行った第2部材を貼り合わせる、[6]に記載の接着物の製造方法。
(条件A2)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA2と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(2)を満たす。
0.8≦体積比RA2/体積比RP≦1 (2)
【発明の効果】
【0013】
本発明の接着物は、プライマーを使用しなくても接着性が優れる。
本発明の製造方法によれば、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す接着物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法の一実施態様を工程順に示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、比較例1に示す条件(エアリッチ)でフレーム処理した後の第1部材の断面をTEMで分析し10万倍の倍率で拡大して撮影した画像である。
【
図3】
図3は、比較例1の条件2で剪断試験を行った後、目視でAF(界面破壊)したと評価された部分の接着剤層の断面をTEMで分析し10万倍の倍率で拡大して撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[本発明の接着物]
本発明の接着物は、
接着剤が、プラスチックを含有し下記条件A1でフレーム処理された部分を有する第1部材と、第2部材とを接着し、
上記第1部材は、上記フレーム処理された部分で上記接着剤と接着し、
上記第1部材と上記接着剤との間にプライマーを介さない、接着物である。
(条件A1)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
【0017】
本発明の接着物はこのような構成をとるため、優れた接着性を示すものと推測される。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
(ガスリッチ等の条件下でのフレーム処理による接着性の向上)
従来、上述のとおり、ぬれ試薬によるぬれ張力の差を乾式処理前後で大きくするために、乾式処理は燃焼ガスに対してエアリッチな状態、つまり、燃焼ガスの完全燃焼の条件よりも燃焼ガスに対して酸素が多い雰囲気下で行われた。
しかし、エアリッチな条件下での乾式処理はプラスチック部材の表面に酸素原子を過剰に導入し、これによりプラスチック部材の表面が脆くなると本発明者らは考える。つまり、プラスチック部材の表面への酸素原子の過剰な導入は、プラスチック部材の表面でのプラスチック材料の分子切断(プラスチックがポリプロピレンを含む場合は酢酸のようなカルボン酸の生成等)を引き起こし、このような表面状態のプラスチック基材を接着剤と接着させ、剪断試験で評価した場合、プラスチック基材が界面破壊(目視(肉眼で見ること。以下同じ)での観察結果としての界面破壊)等すると考える。
【0018】
上記界面破壊を透過電子顕微鏡(TEM)でより厳密に観察すると、上記界面破壊は、プラスチック基材の表面からプラスチック基材の薄層が剥離する材料破壊を含む場合があることが分かった。上記の事項を添付の図面を用いて以下に説明する。なお、本発明は添付の図面に制限されない。
図2は、比較例1に示す条件(エアリッチ)でフレーム処理した後の第1部材の断面をTEMで分析し10万倍の倍率で拡大して撮影した画像である。
図2において、フレーム処理後の第1部材201の表面に層205を観察できた。埋設樹脂203は、TEMのサンプル作製のために使用された樹脂である。
層205は、フレーム処理した後、第1部材(#4)の樹脂成分(主にポリプロピレン)が第1部材(#4)の表面に遍在したスキン層に相当すると考えられる。層205の厚さは30~40nmであった。
【0019】
図3は、比較例1の条件2で剪断試験を行った後、目視でAF(界面破壊)したと評価された部分の接着剤層の断面をTEMで分析し10万倍の倍率で拡大して撮影した画像である。
図3において、接着剤層301の表面に層305を観察できた。埋設樹脂303は、TEMのサンプル作製のために使用された樹脂である。
層305は、剪断試験で、
図2における第1部材の層205が接着剤と接着した後、剪断試験で接着剤層301とともに剥離した、
図2における第1部材の層205(スキン層)であると考えられる。層305の厚さは30nm程度であった。
このように、目視ではAF(界面破壊)したと評価された部分は、詳細には、第1部材の表面における薄層の材料破壊を含む場合があることが確認できた。
以上のように、剪断試験後の破壊状態が目視ではAFではあるものの、拡大による観察では第1部材の表面における薄層の材料破壊が観察されたことは、エアリッチな条件下での乾式処理がプラスチック部材の表面を脆くすることを証明すると考える。脆くなった表面は剥がれやすいので、剪断試験では、脆くなった表面は接着剤とともにプラスチック部材から薄くはがれて、その結果、剪断試験後の破壊状態が目視ではAFと評価され、拡大による観察では第1部材の表面における薄層の材料破壊が観察されたと考えられる。
【0020】
本発明において、上記TEMによる分析の詳細は以下のとおりである。
(1)TEMのサンプルの作製
フレーム処理後又は剪断試験後の第1部材を樹脂で包埋し、包埋して得た試料をウルトラミクロトームを用いた超薄切片法(凍結雰囲気下、-100℃)にて、およそ100~200μmの厚さに薄膜化し、重金属染色(RuO
4)を行って、薄片(サンプル)を得た。
(2)TEM
上記のとおり作製された薄片を用いて、TEM観察を行った。TEMの分析装置及び分析条件の詳細は以下のとおりである。
【化1】
【0021】
一方、ガスリッチ等の条件下でのフレーム処理では、エアリッチの条件下の場合よりも、プラスチック部材の表面への窒素が導入されやすくなる。ガスリッチ等の条件下での窒素の導入の増加、酸素の導入の減少は、エアリッチの条件下での酸素の過剰な導入よりも、プラスチック部材の表面のプラスチック分子の分子切断を招きにくくすると考えられる。
【0022】
(ぬれ試薬によるぬれ張力の上昇と接着性との関係)
乾式処理によるプラスチック基材への酸素の導入は、酸素の導入が過剰な場合や窒素の導入が少ない場合には、JIS K6768:1999に規定されている混合液(ぬれ試薬)で上記の状況を有効に評価できると考えられる。なお、上記混合液による評価結果が、必ずしも接着性の向上につながるとは考えられないことが本発明者らの見解である。特に乾式処理後のぬれ張力が乾式処理前よりも非常に高い場合、プラスチック基材への酸素の導入が過剰であることが予測されるからである。
一方、乾式処理によるプラスチック基材への窒素の導入が多い場合や酸素の導入が少ない場合には、上記JIS規格の評価結果を基に、接着性に良い表面状態又は乾式処理の条件を探し出すことは困難であることが分かった。
例えば、表面処理なしの無垢なポリプロピレン系部材に対する、ぬれ試薬によるぬれ張力は一般的に28~30mN/m程度であるが、本発明者らは、ガスリッチ等の条件下でフレーム処理されたポリプロピレン系部材が、ぬれ張力40mN/m以上の評価用のぬれ試薬に反応しないにもかかわらず(ぬれ試薬を使用しても、各ぬれ試薬の液膜が2秒間以上、破れを生じないで、塗布されたときの状態を保つ)、優れた接着性を示すことが本発明において見出されている。このことから、ガスリッチ等の条件下で乾式処理されたプラスチック基材の表面の接着性をぬれ試薬によって単に評価することはできないと考えた。
【0023】
(燃焼ガスの完全燃焼、エアリッチ、ガスリッチについて)
フレーム処理には、通常、燃焼ガスとして、プロパンガスや、主成分がメタンである天然ガスが使用される。
プロパンの完全燃焼反応は以下のとおりである。
C3H8+5O2→3CO2+4H2O
プロパンが完全燃焼した際の空気と燃焼ガス(プロパン)との体積比R(空気/プロパン)は、空気中の酸素濃度を81%とすると、23.8/1となる。
上記から、例えば、プロパンを完全燃焼させるために空気の流量(流量は単位時間当たりの流量。以下同様)を100L/min.と設定した場合、プロパンの流量は4.20L/min.となる。
【0024】
天然ガスの主成分であるメタンの完全燃焼反応は以下のとおりである。
CH4+2O2→CO2+2H2O
天然ガスが完全燃焼した際の空気と燃焼ガス(天然ガス)との体積比R(空気/天然ガス)は、空気中の酸素濃度を81%とすると、9.2/1となる。
上記から、例えば、天然ガスが完全燃焼させるために空気の流量を100L/min.と設定した場合、天然ガスの流量は10.87L/min.となる。
【0025】
燃焼ガスが完全燃焼するときの体積比RP(空気/燃焼ガス)において、例えば、空気の流量を固定して、燃焼ガスの流量を大きくすれば、空気と燃焼ガスの混合ガスはガスリッチ(燃焼ガスリッチ)の状態となる。このときの体積比RA(体積比RAは、フレーム処理の際の空気/燃焼ガスの体積比。以下体積比RAについて同様)は体積比RPより小さく、体積比RA/体積比RPは1より小さい。
逆に、上記体積比RP(空気/燃焼ガス)において、燃焼ガスの流量を小さくすれば、空気と燃焼ガスの混合ガスはエアリッチ(空気リッチ)の状態となる。このときの体積比RAは体積比RPより大きく、体積比RA/体積比RPは1より大きい。
以下、本発明の接着物について説明する。
【0026】
[第1部材]
本発明において、第1部材は、プラスチックを含有する部材である。なお、本発明の接着物が自動車のバックドアなど、自動車用外装部材として用いられる場合、第1部材は内側の部材(インナー部材)として用いられることが好ましい。
【0027】
〔プラスチック〕
プラスチックは結晶性の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのメタクリル系樹脂;ポリスチレン、ABS、ASなどのポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ1,4-シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)などのポリエステル系樹脂;ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6T)、ポリヘキサンメチレンイソフタラミド(ナイロン6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)などのナイロン樹脂およびナイロン共重合体樹脂から選ばれるポリアミド樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリオキシメチレン(POM);ポリカーボネート(PC)樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリエーテルイミド(PEI)樹脂;ポリスルホン(PSF)樹脂;ポリエーテルスルホン(PES)樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂;ポリエーテルケトン(PEK)樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂;ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂;ポリイミド(PI)樹脂;ポリアミドイミド(PAI)樹脂;フッ素樹脂;これらの樹脂を変性させた変性樹脂またはこれらの樹脂の混合物などが挙げられる。
【0028】
第1部材は、本発明の効果がより優れるという観点から、プラスチックとしてポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましく、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含むことがより好ましく、ポリプロピレンを含むことがさらに好ましい。
【0029】
第1部材中のプラスチックの含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、第1部材全量中の10~100質量%であることが好ましく、60~100質量%であることがより好ましい。
【0030】
(無機物)
第1部材は、更に、無機物を含むことが好ましい態様の1つとして挙げられる。
無機物としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などが挙げられる。
無機物は、本発明の効果がより優れるという観点から、タルク、炭素繊維、及びガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、タルクを含むことがより好ましく、タルク及びガラス繊維を含むことが更に好ましい。
第1部材が更に無機物を含む場合、第1部材中の無機物の含有量は、本発明の効果がより優れるという観点から、第1部材全量中の5~40質量%であることが好ましい。
【0031】
〔フレーム処理〕
フレーム処理は、部材を火炎によって表面処理する、乾式処理の1種である。
本発明において、第1部材は、下記条件A1(「特定条件」とも言う)でフレーム処理された部分を有する。
(条件A1)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
【0032】
(燃焼ガス)
フレーム処理に使用される燃焼ガスは、プロパンガス又は天然ガスを含むことが好ましい。なお、本発明において、上記燃焼ガスは大気中の酸素を含まないものとする。
【0033】
〔体積比RA1〕
本発明において、第1部材のフレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1(空気/燃焼ガス)は、空気の流量と燃焼ガスの流量の比(空気の流量/燃焼ガスの流量)で求めることができる。
燃焼ガスがプロパンを含む場合、燃焼ガスの流量は、本発明の効果がより優れるという観点から、空気の流量が100L/分である場合、4.2~5.25L/分であることが好ましく、4.3~4.7L/分がより好ましい。
燃焼ガスが天然ガスを含む場合、燃焼ガスの流量は、本発明の効果がより優れるという観点から、空気の流量が100L/分である場合、11.0~13.5L/分であることが好ましく、11.4~12.0L/分がより好ましい。
【0034】
〔体積比RP〕
本発明において、第1部材のフレーム処理において火炎の発生に使用された燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPは、計算値として求めることができる。
燃焼ガスがプロパンを含む場合、プロパンが完全燃焼した際の空気と燃焼ガス(プロパン)との体積比RP(空気/プロパン)は、上述のとおり、空気中の酸素濃度を81%とすると、23.8/1となる。
燃焼ガスが天然ガス(主成分がメタン)を含む場合、天然ガスが完全燃焼した際の空気と燃焼ガス(天然ガス)との体積比RP(空気/天然ガス)は、空気中の酸素濃度を81%とすると、9.2/1となる。
【0035】
〔式(1)〕
本発明において、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
体積比RA1/体積比RPは、本発明の効果がより優れるという観点から、0.85~0.95が好ましい。
【0036】
(フレーム処理のその他の条件)
・フレーム処理装置
フレーム処理装置は、使用中の空気の流量と燃焼ガスの流量とを設定できる装置であることが好ましい。
【0037】
フレーム処理装置のバーナー(の先端)と部材との距離は、例えば、10~100mmとすることができる。
フレーム処理において、火炎の酸化炎を部材の表面に当てることが好ましい態様の1つとして挙げられる。
フレーム処理装置のバーナーを部材に対して動かす速度は、例えば、300~1000mm/秒とすることができる。
パス回数(バーナーを掃引した回数)は、例えば、1~5回とすることができる。
本発明において、フレーム処理を特定条件で行う場合、フレーム処理における特定条件以外の条件(例えば、上述の条件)を上記のように広い範囲で行っても、優れた接着性を得ることができ、ロバスト性が優れる。
【0038】
第1部材は、その全体がフレーム処理されていてもよく、一部がフレーム処理されていてもよい。
【0039】
(ぬれ張力)
上述のとおり、本発明において、所定の条件A1によるフレーム処理がされた第1部材の表面について、JIS K6768:1999に準じて得られたぬれ張力を、一般的な評価基準(例えば、乾式処理後のぬれ張力が40mN/m以上である、又は、乾式処理前のぬれ張力より10mN/m以上大きくなる)で単に評価することは適切ではない。以下、第1部材の特定条件によるフレーム処理の結果は、第2部材おいて所定の条件A2によるフレーム処理がされた場合についても同様である。
第1部材において上記フレーム処理を行った部分の表面の状態をぬれ張力で確認する場合、ぬれ張力は例えば38mN/m以下であってもよい。本発明においては、第1部材の上記特定条件でフレーム処理を行った部分のぬれ張力が38mN/m以下であっても、接着性が優れることが知見されている。
また、第1部材の上記特定条件でフレーム処理を行った部分のぬれ張力は、本発明の効果がより優れるという観点から、32~38mN/mが好ましく、32~35mN/mがより好ましいことが分かっている。
【0040】
(フレーム処理前後でのぬれ張力の差)
フレーム処理前後での第1部材のぬれ張力の差は、本発明の効果がより優れるという観点から、10mN/m未満であることが好ましく、8mN/m以下がより好ましい。
【0041】
(窒素原子の導入)
第1部材の上記フレーム処理を行った部分のX線光電子分光(XPS)による分析によれば、上記部分における窒素原子の量が、フレーム処理前の第1部材の表面の窒素原子の量より多いことがわかる。
また、特定条件でフレーム処理を行った第1部材の表面の窒素原子の量は、特定条件以外の条件でフレーム処理を行った部材の表面の窒素原子の量より多く、酸素の導入が適切であることがわかる。
本発明において、フレーム処理を特定条件で行うことによって、第1部材の表面の窒素原子の量が多くなり、酸素の過剰な導入による部材の表面の脆化が抑制され、その結果、接着性が向上すると推測される。
【0042】
〔第1部材と接着剤との接着〕
本発明において、第1部材は、上記のようにフレーム処理された部分で、後述する接着剤と接着する。
第1部材における接着領域は、フレーム処理された部分の全体であってもよく、一部であってもよい。
【0043】
[第2部材]
本発明の接着物は第2部材を有する。第2部材は特に制限されない。例えば、第1部材と同様のものが挙げられる。第2部材として第1部材と同じ部材を使用することができる。
【0044】
第2部材は、本発明の効果がより優れるという観点から、プラスチックを含有することが好ましい。第2部材の材料は、第1部材と同様とすることができる。
第2部材は、本発明の効果がより優れるという観点から、下記条件A2でフレーム処理された部分を有することが好ましい。
(条件A2)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA2と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(2)を満たす。
0.8≦体積比RA2/体積比RP≦1 (2)
条件A2は、条件A1と同様とすることができる。
第2部材は、上記のようにフレーム処理された部分で、後述する接着剤と接着することが好ましい。第2部材がフレーム処理された部分で接着剤と接着することは、第1部材で述べたことと同様とすることができる。
【0045】
[接着剤]
本発明の接着物は接着剤を有する。
本発明において、接着剤が、第1部材と、第2部材とを接着する。
【0046】
接着剤は、本発明の効果がより優れるという観点から、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、変性シリコーン系接着剤、又は、アクリル系接着剤であることが好ましく、ウレタン系接着剤であることがより好ましい。
ウレタン系接着剤及びエポキシ系接着剤は1液型または2液型であることが好ましい。
1液型ウレタン系接着剤としては、例えばイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型接着剤が挙げられる。
2液型ウレタン系接着剤としては、例えば、ウレタンプレポリマーを含む主剤と、ポリオールを含む硬化剤とを有する接着剤が挙げられる。
1液型エポキシ系接着剤としては、例えば、ケチミンやオキサゾリジン、アルジミン系化合物などの潜在性硬化剤と液状エポキシ樹脂を含む常温硬化または加熱硬化型接着剤が挙げられる。
2液型のエポキシ樹脂系接着剤としては、例えば、液状エポキシ樹脂から選ばれる主剤(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、又はノボラック型エポキシ樹脂等)と、硬化剤(例えば、鎖状脂肪族アミン、環状脂肪族アミンもしくは芳香族アミン等、イミダゾール化合物等の含窒素芳香族等のアミン系硬化剤、アミドアミン硬化剤、ケチミン等)とを有する接着剤が挙げられる。
変性シリコーン系接着剤としては、例えば、加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン等を含有する接着剤が挙げられる。
【0047】
〔プライマー〕
本発明において、第1部材と接着剤との間にプライマーを介さない。つまり、第1部材と接着剤とは直接接着することができる。
第2部材と接着剤とはプライマーを介してもよい。第2部材が上記条件A2でフレーム処理された部分を有する場合、第2部材と接着剤とはプライマーを介さないことが好ましい。
【0048】
(用途)
本発明の接着物の用途としては、例えば、自動車のボディ、フロントドア、リヤドア、バックドア、フロントバンパー、リアバンパー、ロッカーモールのような、自動車の内外装部材が挙げられる。
【0049】
[本発明の接着物の製造方法]
本発明の接着物の製造方法としては、以下の製造方法が挙げられる。
本発明の接着物の製造方法(本発明の製造方法)は、
プラスチックを含有する第1部材に対して、下記条件A1でフレーム処理を行う、表面処理工程と、
上記フレーム処理を行った第1部材に、プライマーを介さずに、接着剤を付与する、接着剤付与工程と、
上記接着剤に第2部材を貼り合わせて、上記第1部材と上記接着剤と上記第2部材とを接着させる、接着工程とを備える、接着物の製造方法である。
(条件A1)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA1と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(1)を満たす。
0.8≦体積比RA1/体積比RP≦1 (1)
【0050】
本発明の接着物の製造方法における、第1部材、第2部材、接着剤、フレーム処理、条件A1、条件A2等は、本発明の接着物と同様である。
【0051】
〔表面処理工程〕
本発明において、表面処理工程は、プラスチックを含有する第1部材に対して、上記の条件A1でフレーム処理を行う工程である。
表面処理工程において使用される第1部材は、プラスチックを含有する第1部材(フレーム処理前の第1部材)である。
【0052】
〔接着剤付与工程〕
本発明において、接着剤付与工程は、表面処理工程においてフレーム処理を行った第1部材に、プライマーを介さずに、接着剤を付与する工程である。
【0053】
(接着剤を付与する方法)
フレーム処理を行った第1部材に接着剤を付与する方法は特に限定されない。例えば、ディップコーティング法、ダブルロールコータ、スリットコータ、エアナイフコータ、ワイヤーバーコータ、スライドホッパー、スプレーコーチィング、ブレードコータ、ドクターコータ、スクイズコータ、リバースロールコータ、トランスファーロールコータ、エクストロージョンコータ、カーテンコータ、ディップコーター、ダイコータ、グラビアロールによる塗工法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法などが挙げられる。
【0054】
〔接着工程〕
本発明において、上記接着剤に第2部材を貼り合わせて、上記第1部材と上記接着剤と上記第2部材とを接着させる工程である。
【0055】
接着工程において、接着剤に第2部材を貼り合わせる方法は特に制限されない。
接着剤に第2部材を貼り合わせた後、圧着してもよい。
接着剤を硬化させるために、第2部材を貼り合わせた後に、室温条件下(例えば15~30℃程度)に置いて、養生させてもよい。
また、接着剤を硬化させるために、第2部材を貼り合わせた後に、加熱等を行ってもよい。
【0056】
また、本発明の効果がより優れるという観点から、上記第2部材が、プラスチックを含有し、
上記接着工程の前に、予め、上記第2部材に対して、下記条件A2でフレーム処理を行う、表面処理工程を備え、
上記接着工程において、上記接着剤に、上記フレーム処理を行った第2部材を貼り合わせることが好ましい。第2部材として第1部材と同じ部材を使用することができる。
(条件A2)上記フレーム処理において火炎の発生に使用された空気と燃焼ガスの体積比RA2と、上記燃焼ガスが完全燃焼した場合における空気と燃焼ガスの体積比RPとが、下記式(2)を満たす。
0.8≦体積比RA2/体積比RP≦1 (2)
【0057】
図面を用いて、本発明の製造方法について説明する。
図1は、本発明の製造方法の一実施態様を工程順に示す模式的な断面図である。
図1(a)は、表面処理工程で使用される第1部材10を表す。
まず、表面処理工程において、第1部材10の表面10aに対して特定条件でフレーム処理を行う。フレーム処理後の第1部材12が得られる(
図1(b))。
次に、接着剤付与工程において、フレーム処理後の第1部材12のフレーム処理を行った表面12aにプライマーを介さずに接着剤30を付与する(
図1(c))。
さらに、接着工程において、接着剤30上に第2部材20を貼り合わせる。接着剤32(接着剤30が硬化した層)が、第1部材12と、第2部材20とを接着する接着物100が得られる(
図1(d))。
【実施例0058】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<接着剤の調製>
下記表1の各成分を、同表に示す組成(質量部)で撹拌機を用いて混合し、同表上段に示す主剤と同表下段に示す硬化剤とを調製した。
次いで、調製した主剤100gと、硬化剤10gとを混合し、接着剤1~2を得た。
上記接着剤1はウレタン系接着剤であり、上記接着剤2はエポキシ系及び変性シリコーン系の接着剤である。
【0060】
【0061】
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
(主剤)
・ポリマー1:下記で合成したウレタンプレポリマー
ポリオキシプロピレンジオール(平均分子量2000)700g、ポリオキシプロピレントリオール(平均分子量3000)300g、および4,4′-ジイソシアネートフェニルメタン(分子量250)499gを混合し(この時NCO/OH=2.0)、更にフタル酸ジイソノニル500gを加えて、窒素気流中、80℃で12時間撹拌を行い、反応させて、イソシアネート基を2.10%含有するウレタンプレポリマー(ポリマー1)を合成した。
・ポリマー2:主鎖がポリオキシプロピレンであり末端に加水分解性シリル基としてメチルジメトキシシリル基を有する変性シリコーン樹脂。カネカMSポリマーS203(カネカ社製)
【0062】
・エポキシ樹脂1:アデカレジンEP-4100(アデカ社製)
・エポキシ樹脂2:アデカレジンEP-4006(アデカ社製)
【0063】
・化合物1:ヘキサメチレンジイソシネートのイソシアヌレート体(Tolonate HDT、パーストープ社製)
・化合物2:ダイマロン(ヤスハラケミカル社製)
・カーボンブラック:#200MP(新日化カーボン社製)
・炭酸カルシウム1:スーパーS(丸尾カルシウム社製)
・炭酸カルシウム2:カルファイン200(丸尾カルシウム社製)
・可塑剤1:フタル酸ジイソノニル(ジェイプラス社製)
・可塑剤2:シェルゾールTM(ジャパンケムテック社製)
・触媒1:ジモルホリノジエチルエーテル(サンアプロ社製)
【0064】
(硬化剤)
・化合物3:3官能ポリプロピレンポリオール(エクセノール1030、旭硝子社製)
・化合物4:ポリブタジエンジオール(Poly bd R-45HT、出光興産社製、水酸基価:0.8mol/kg)
・化合物5:ターピネオール(ヤスハラケミカル社製)
・化合物6:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン サイラエース S-510(チッソ社製)
・化合物7:ビニルトリメトキシシラン KBM 1003(信越化学工業社製)
・化合物8:ケチミン型潜在性硬化剤 エピキュア H-30(三菱化学社製)
・炭酸カルシウム2:カルファイン200(丸尾カルシウム社製)
・触媒1:ジモルホリノジエチルエーテル(サンアプロ社製)
・触媒2:スズ系触媒 ネオスタンU-303(日東化成社製)
【0065】
<部材>
表2の「部材」欄に本実施例で使用された第1部材、第2部材を「#*/#*」として示す。「#*/#*」において初めの「#*」は第1部材として使用された部材の番号を示す。後の「#*」は第2部材として使用された部材の番号を示す。
部材#4~#7の詳細は以下のとおりである。以下、「GF」はガラスファイバーを意味する。
【0066】
・部材♯4:Celanese社製PP-GF40-0453。ポリプロピレンとタルクとガラスファイバーとを少なくとも含む複合材料。部材♯4は黒色。複合材料全量中、ガラスファイバーの含有量は40質量%。フレーム処理前のぬれ張力30mN/m
・部材♯5:Celanese社製PP-GF40-0453。ポリプロピレンとタルクとガラスファイバーとを少なくとも含む複合材料。部材♯5は灰色。複合材料全量中、ガラスファイバーの含有量は40質量%。フレーム処理前のぬれ張力30mN/m
・部材♯6:タルク入りPP(タルク入りポリプロピレン)による部材。Lyondell Basell Hifax社製TYC1235Xを成形することで得られた。フレーム処理前のぬれ張力28mN/m
・部材♯7:CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)による部材。東洋紡社製CFRTP 製品名CTT(炭素繊維含有量:50体積%、繊維方向:面内ランダム、マトリックス樹脂はポリプロピレン)を成形することで得られた。フレーム処理前のぬれ張力30mN/m
【0067】
<<接着物の製造>>
<表面処理工程>
(部材、フレーム処理の有無)
表2の「部材」欄に示す第1部材(幅25mm、長さ75mm、厚さ3mm)、第2部材(幅25mm、長さ75mm、厚さ3mm)を準備した。
第2表の「各部材のフレーム処理の有無」欄に、第1部材、第2部材のフレーム処理の有無を示した。
【0068】
(フレーム処理の条件A1,A2)
第1部材の一方の表面に、表2の「フレーム処理の条件A1,A2」欄に示す条件でフレーム処理を行った。第2部材についても同様の条件でフレーム処理を行った。フレーム処理の各条件の詳細は以下のとおりである。
【0069】
・条件A1及び条件A2で使用された燃焼ガス:プロパンガス(プロパン100%とする)。
【0070】
・条件A1及び条件A2で使用されたフレーム処理装置1(燃焼ガス及び空気の流量を調節できる)
・・フレーム処理装置1:Arcogas社製のFTS 201。フレーム処理装置1は、燃焼ガス及び空気の流量を調節できる。空気の流量を100L/分に固定し、燃焼ガスの流量を以下のように調節した。
【0071】
・・ガスリッチの条件(実施例)
フレーム処理においてフレーム処理装置1を使用した場合、空気の流量を100L/分、燃焼ガス(プロパン)の流量を4.6L/分とした。このときの体積比RA1(空気/プロパン)は21.7/1であり、プロパンの完全燃焼反応のときの体積比RP(空気/プロパン)は23.8/1なので、体積比RA1/体積比RP=0.91となる。体積比RA2、体積比RA2/体積比RPは、上記体積比RA1、体積比RA1/体積比RPとそれぞれ同様である。
【0072】
・・エアリッチの条件(比較例)
フレーム処理においてフレーム処理装置1を使用した場合、空気の流量を100L/分、燃焼ガス(プロパン)の流量を3.7L/分とした。このときの体積比RA1(空気/プロパン)は27.0/1であり、プロパンの完全燃焼反応のときの体積比RP(空気/プロパン)は23.8/1なので、体積比RA1/体積比RP=1.14となる。体積比RA2、体積比RA2/体積比RPは上記と同様である。
【0073】
・条件A1及び条件A2で使用されたフレーム処理装置2,3(燃焼ガスの流量を調節できる)
フレーム処理装置2、3は、燃焼ガスの流量を調節できるが、空気の流量は不明であり、これを調節することはできない。フレーム処理装置2、3を使用する場合、空気の流量によるエアー/ガス比は調節できない。
・・フレーム処理装置2:ボンベ(プリンス ガストーチ用ボンベ GT-5000、プリンスガス社製。以下同様)を、ガス圧(燃料ガス圧)を調節できるレギュレーター(タイムオートマシン社製)にセットしたもの。ガス圧は2MPa。バーナーの先端は円形であり、その内径は6mm。
・・フレーム処理装置3:ボンベ(上記GT-5000と同様)を、ガス圧を調節できるレギュレーター(上記と同様)にセットしたもの。ガス圧は0.04MPa。バーナーの先端は扇形で、その弧の幅が25mm、中心角は135°。
【0074】
・条件A1、A2でのフレーム処理装置のバーナーと部材との距離:20~50mmから選択
・フレーム処理装置のバーナーを動かす速度:400~800mm/秒から選択
・条件A1、A2での共通事項
本実施例、比較例ではいずれも、フレーム処理において火炎の酸化炎部分を部材の表面に当てた。また、フレーム処理装置のパス回数(バーナーを掃引した回数)を1回とした。
【0075】
・・フレーム処理後の各部材のぬれ張力:ぬれ張力は、JIS K6768:1999に準じて、ぬれ試薬として富士フィルム和光純薬社製のぬれ張力試験用混合液を使用し、測定された。
【0076】
(接着剤付与工程)
次に、第1部材のフレーム処理を行った表面に直接、表2の「接着剤」欄に記載の接着剤1、2のいずれかを付与した(接着剤1、2について表1参照)。接着剤付与工程においてプライマーは使用しなかった。
【0077】
(接着工程)
第1部材と第2部材とがシングルラップジョイントになるように、接着剤上に、第2部材のフレーム処理を行った部分を貼り合わせて、圧着し、23℃、相対湿度50%の環境下に3日間置いて養生させ、第1部材と第2部材とを接着剤(厚さ1.5mm)で接着させた接着物(試験体)を得た。接着領域は25mm×25mmである。
【0078】
<接着性の評価>
・剪断試験
上記のとおり製造された各接着物(各サンプル数は5個)について、以下の条件で、JIS K6850-1999に準じて各接着物の剪断試験(引張速度5.1cm/分)を行い、剪断強度を測定し、各接着物の破壊状態及びその面積の割合(%表示)を目視で観察した。平均剪断強度、最低剪断強度、目視で観察した平均破壊状態の結果を表2に示す。
【0079】
(剪断試験の条件)
条件1.加熱(121℃)条件下で剪断試験を行った。
条件2.熱老化(大気中、80℃の条件下に250時間置く)後に、室温(23℃、60%RH)条件で剪断試験を行った。
条件3.環境試験後(-30℃条件下で16時間、その後に80℃条件下で8時間を1サイクルとして、これを10サイクル行う)に、室温(23℃、60%RH)条件で剪断試験を行った。
【0080】
(破壊状態)
・CF:接着剤の凝集破壊
・AF:接着剤と部材との界面破壊(なお、目視によるAFは、上述のとおり、目視で確認できない、部材の薄層の材料破壊を含む場合があるが、表2に示す平均破壊状態の結果は目視による観察結果である。)
・SF:材料破壊のうち、接着剤との接着部分における部材の材料破壊(少なくとも目視で確認できる部材の薄層の材料破壊を含む)
・SF-FMB:材料破壊のうち、接着剤との接着部分から離れた部分における部材の材料破壊
破壊状態を示すアルファベットの記号の後の数値は、接着領域において各破壊状態が占める面積の割合(%)を示す。
【0081】
・接着性の評価基準
本発明において、条件1~3の剪断試験の評価結果のすべてで、CFが占める面積とSF及びSF-FMBが占める面積との合計が100%であった(つまりAFがなかった)場合、接着性が優れると評価した。
条件1~3の剪断試験の評価結果のすべてでAFがなく、以下の条件を満たした場合、接着性がより優れると評価した。
【0082】
条件1での平均剪断強度が1.0MPa以上であったこと、
条件2での平均剪断強度が3.0MPa以上(又は4.0MPa以上)であったこと、及び、
条件3での平均剪断強度が3.0MPa以上(又は4.0MPa以上)であったことのうちの少なくとも1つを満たす。
【0083】
一方、条件1~3の剪断試験の評価結果のいずれかにおいて、AFがあった場合、接着性が悪いと評価した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
表2に示す結果から、特定条件以外の条件でフレーム処理を行った比較例1~10は接着性が悪かった。
【0088】
一方、特定条件でフレーム処理を行った本実施例の接着物は、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示した。
以上から、本発明の接着物は、プライマーを使用しなくても接着性が優れる。
【0089】
ここで、本発明者らは、実施例4及び比較例9でフレーム処理された後の部材の表面をX線光電子分光法(XPS又はESCAとも言う)で分析した。上記分析の条件は以下のとおりである。結果を表3に示す。
(X線光電子分光法による分析条件)
・装置:AXIS-NOVA(KRATOS社製)
・X線源:単色化AIKa
・分析領域:700μm×300μmm
【0090】
【0091】
表3から、比較例9は、元素分析の結果、酸素が多く、C1sピークの解析の結果、pk5部分のピーク面積が大きかった。上記pk5の結果から、エアリッチの条件下でフレーム処理された部材の表面は、酸化が過度に進行したことが分かる。また、表2の比較例9の結果を参照すると、条件1、2において平均破壊状態にAFが見られた。以上、比較例9の接着性及びXPSの結果から、エアリッチの条件下でフレーム処理された部材の表面は、酸化が過度に進行し、これによるプラスチック分子の切断の影響で、脆弱化した可能性があると考えられる。
【0092】
一方、実施例4のXPSは、比較例9よりも、元素分析では窒素が多く酸素が少なかった。また、C1sピークではpk5部分のピーク面積が小さかった。上記の結果から、ガスリッチ等の条件下でフレーム処理された部材の表面は、窒素原子の導入量が多く、したがって窒素原子の導入により生じた窒素含有官能基を多く有すること、及び、酸化は過度ではないことが分かる。また、表2の実施例4の結果を参照すると、条件1、2、3のいずれにおいても平均破壊状態にAFはなく、実施例4は接着性が優れた。以上、実施例4の接着性及びXPSの結果から、ガスリッチ等の条件下でフレーム処理された部材の表面は、窒素原子の導入によりプラスチック分子は切断しにくくなり、一方、酸化は適度に進行するため部材表面の脆弱化は抑制されると考えられる。また、プラスチック分子が過度の酸化によって切断したとしても、上記切断によって生じたカルボン酸が、窒素含有官能基と反応しうることによって、上記切断を回復できると考えられる。更に、窒素含有官能基を多く有することによって、接着剤との反応性が高くなる。以上の観点から、本発明においては部材にプライマーを使用しなくても部材との優れた接着性を示す接着物が得られるものと考えられる。
なお、上記のメカニズムは本発明者らの推測であり、本発明のメカニズムは上記に限定されない。
【0093】
また、本発明の製造方法によれば、プライマーを使用しなくても優れた接着性を示す接着物を得ることができる。
更に、本発明の製造方法に関しては、上記の実施例の結果から、フレーム処理のような乾式処理ではガスリッチ等の条件下のほうがエアリッチよりも接着性能を担保できる表面処理条件(例えば、フレーム処理装置のバーナーと部材との距離、フレーム処理装置のバーナーを動かす速度、使用する部材の種類)のロバスト性(許容範囲が広く、ばらつきが小さい等の観点)が優れると言うことができる。