(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023023989
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】距離計測システム、距離計測装置、および、距離計測方法
(51)【国際特許分類】
G01C 3/06 20060101AFI20230209BHJP
G01S 17/894 20200101ALI20230209BHJP
G01S 7/493 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01C3/06 120Q
G01S17/894
G01S7/493
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021129994
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克美
(72)【発明者】
【氏名】泉 克彦
(72)【発明者】
【氏名】杉山 久貴
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD03
2F112BA07
2F112CA12
2F112DA32
2F112EA11
2F112FA03
2F112FA21
2F112FA41
2F112FA43
5J084AA04
5J084AA05
5J084AA13
5J084AB07
5J084AD01
5J084BA02
5J084BA04
5J084BA34
5J084BA40
5J084BB01
5J084CA10
5J084CA53
5J084CA65
5J084CA67
5J084EA04
5J084EA11
(57)【要約】
【課題】
マルチパスの影響を把握し、画素毎の距離に補正を行うことにより、実際の距離との誤差を抑制して距離精度を改善する距離計測システム、距離計測装置、および、距離計測方法を提供する。
【解決手段】
距離計測システムは、距離計測装置と、外部処理装置と、を備えている。ここで、距離計測装置は、照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する。外部処理装置は、距離計測装置から計測距離を取得してデータ処理を行う。そして、外部処理装置は、マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測する。外部処理装置は、計測距離を補正する補正式を生成する。外部処理装置は、補正式を用いて、距離計測装置から取得する計測距離を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、
各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する距離計測装置と、
前記距離計測装置から計測距離を取得してデータ処理を行う外部処理装置と、
を備え、
前記外部処理装置は、
マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測し、
計測距離を補正する補正式を生成し、
前記補正式を用いて、前記距離計測装置から取得する計測距離を補正する、
ことを特徴とする距離計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の距離計測システムであって、
前記距離計測装置は、
複数の連続した第1の露光期間と第2の露光期間と第3の露光期間とを有しており、照射光を照射するフレームにおいて、電荷量A0を計測する前記の第1の露光期間と、電荷量A1を計測する前記の第2の露光期間と、電荷量A2を計測する前記の第3の露光期間と、に分けて反射光を露光し、
前記外部処理装置は、
A0/A1の値と、A2/A1の値と、が一致するときの距離誤差の関係式を求め、
前記の距離誤差の関係式を用いて、マルチパスの影響による距離誤差を求める、
ことを特徴とする距離計測システム。
【請求項3】
請求項2に記載の距離計測システムであって、
前記外部処理装置は、
予測した計測距離に基づいて、前記補正式として、マルチパスの影響が実質的なくなる実際の距離をLとするときに、実際の距離0から1/2Lまでの計測距離を補正する補正式と、実際の距離1/2LからLまでの計測距離を補正する補正式と、を生成する、
ことを特徴とする距離計測システム。
【請求項4】
請求項3に記載の距離計測システムであって、
前記距離計測装置は、
A0=A2のときに切り替わる第1の距離演算式と第2の距離演算式を用いて距離を演算する、
ことを特徴とする距離計測システム。
【請求項5】
請求項1に記載の距離計測システムであって、
前記距離計測装置は、
照射光を照射して反射光を露光するフレームと、照射光を照射しないで環境光を露光するフレームと、に基づく計測を行い、
前記外部処理装置は、
前記補正式を生成するにあたって、各フレームで計測される電荷量の情報を取得し、
照射光を照射しないで環境光を露光するフレームで計測される電荷量を差し引くことで、反射光から環境光による影響を除去する、
ことを特徴とする距離計測システム。
【請求項6】
照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、
各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する距離計測装置であって、
前記距離計測装置は、
マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測し、
計測距離を補正する補正式を生成し、
前記補正式を用いて、計測した計測距離を補正する、
ことを特徴とする距離計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載の距離計測装置であって、
前記距離計測装置は、
複数の連続した第1の露光期間と第2の露光期間と第3の露光期間とを有しており、照射光を照射するフレームにおいて、電荷量A0を計測する前記の第1の露光期間と、電荷量A1を計測する前記の第2の露光期間と、電荷量A2を計測する前記の第3の露光期間と、に分けて反射光を露光し、
A0/A1の値と、A2/A1の値と、が一致するときの距離誤差の関係式を求め、
前記の距離誤差の関係式を用いて、マルチパスの影響による距離誤差を求める、
ことを特徴とする距離計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の距離計測装置であって、
前記距離計測装置は、
予測した計測距離に基づいて、前記補正式として、マルチパスの影響が実質的なくなる実際の距離をLとするときに、実際の距離0から1/2Lまでの計測距離を補正する補正式と、実際の距離1/2LからLまでの計測距離を補正する補正式と、を生成する、
ことを特徴とする距離計測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の距離計測装置であって、
前記距離計測装置は、
A0=A2のときに切り替わる第1の距離演算式と第2の距離演算式を用いて距離を演算する、
ことを特徴とする距離計測装置。
【請求項10】
請求項6に記載の距離計測装置であって、
前記距離計測装置は、
照射光を照射して反射光を露光するフレームと、照射光を照射しないで環境光を露光するフレームと、に基づく計測を行い、
前記補正式を生成するにあたって、照射光を照射しないで環境光を露光するフレームで計測される電荷量を差し引くことで、反射光から環境光による影響を除去する、
ことを特徴とする距離計測装置。
【請求項11】
照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する距離計測装置を用いた距離計測方法であって、
マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測し、
計測距離を補正する補正式を生成し、
前記補正式を用いて、計測した計測距離を補正する、
ことを特徴とする距離計測方法。
【請求項12】
請求項11に記載の距離計測方法であって、
複数の連続した第1の露光期間と第2の露光期間と第3の露光期間とを有しており、照射光を照射するフレームにおいて、電荷量A0を計測する前記の第1の露光期間と、電荷量A1を計測する前記の第2の露光期間と、電荷量A2を計測する前記の第3の露光期間と、に分けて反射光を露光し、
A0/A1の値と、A2/A1の値と、が一致するときの距離誤差の関係式を求め、
前記の距離誤差の関係式を用いて、マルチパスの影響による距離誤差を求める、
ことを特徴とする距離計測方法。
【請求項13】
請求項12に記載の距離計測方法であって、
予測した計測距離に基づいて、前記補正式として、マルチパスの影響が実質的なくなる実際の距離をLとするときに、実際の距離0から1/2Lまでの計測距離を補正する補正式と、実際の距離1/2LからLまでの計測距離を補正する補正式と、を生成する、
ことを特徴とする距離計測方法。
【請求項14】
請求項13に記載の距離計測方法であって、
A0=A2のときに切り替わる第1の距離演算式と第2の距離演算式を用いて距離が演算される、
ことを特徴とする距離計測方法。
【請求項15】
請求項11に記載の距離計測方法であって、
照射光を照射して反射光を露光するフレームと、照射光を照射しないで環境光を露光するフレームと、に基づく計測を行い、
前記補正式を生成するにあたって、照射光を照射しないで環境光を露光するフレームで計測される電荷量を差し引くことで、反射光から環境光による影響を除去する、
ことを特徴とする距離計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離計測システム、距離計測装置、および、距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、距離計測装置を用いて対象物までの距離を計測するときに、距離誤差が発生する場合があることについて知られている。ここで、特許文献1は、高い検知精度または高い測定精度を有し、かつその精度が環境照度に依存しない3次元の検知、測定、表示、または描写の実現に関する技術を開示する。
【0003】
すなわち、特許文献1は、第一の露光信号による露光量a0の総和をA0、第二の露光信号による露光量a1の総和をA1、第三の露光信号による露光量a2の総和をA2とすると、信号処理部にて、画素毎に、A0とA2との大小関係の判定を行い、その判定結果(式2および式4)に従って、式3および式5の演算を行うことにより、被写体までの距離を算出する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報第2017/150246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
壁、床などに反射率が高い素材が使用された環境で使用する場合、壁、床などからの不要な反射により、光路長が長くなったように見えるマルチパス現象が発生することが一般的に知られている。従って、レーザーから出射した出射光(例えば、赤外線)が対象物に反射し、受光素子に戻ってくるまでの時間を計測することで距離計測を行う場合(すなわち、TOFとして知られるタイムオブフライトに基づく距離計測を行う場合)、マルチパスの影響を強く受ける環境下では、計測する対象物までの実際の距離に対してTOFによって計測される距離が長くなることで、距離誤差が発生するという課題がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、このようなマルチパスの影響による距離誤差の発生に関して、十分な対応ができないと考えられた。
【0007】
そこで、本発明は、マルチパスの影響を把握し、画素毎の距離に補正を行うことにより、実際の距離との誤差を抑制して距離精度を改善する距離計測システム、距離計測装置、および、距離計測方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、下記の距離計測システムが提供される。すなわち、距離計測システムは、距離計測装置と、外部処理装置と、を備える。距離計測装置は、照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する。外部処理装置は、距離計測装置から計測距離を取得してデータ処理を行う。外部処理装置は、マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測し、計測距離を補正する補正式を生成し、補正式を用いて距離計測装置から取得する計測距離を補正する。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、下記の距離計測装置が提供される。すなわち、距離計測装置は、照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する。そして、距離計測装置は、マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測し、計測距離を補正する補正式を生成し、補正式を用いて計測した計測距離を補正する。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、下記の距離計測方法が提供される。すなわち、距離計測方法は、照射光を照射するフレームにおいて、複数の露光期間に分けて被写体からの反射光を露光し、各露光期間で露光した電荷量に応じて複数の距離演算式を切り替えて各露光期間で露光した電荷量から被写体までの計測距離を演算する距離計測装置を用いた方法である。そして、この方法は、マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を予測し、計測距離を補正する補正式を生成し、補正式を用いて計測した計測距離を補正する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マルチパスの影響を把握し、画素毎の距離に補正を行うことにより、実際の距離との誤差を抑制して距離精度を改善する距離計測システム、距離計測装置、および、距離計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】距離計測システムの構成の一例を示すブロック図。
【
図2】TOFカメラによる距離の計算の一例について説明するための図。
【
図4】理想状態における計測と、マルチパスの影響を含む計測と、の計測距離の違いについて説明するための図。
【
図5】屋内でのマルチパスによる影響の一例について説明するための図。
【
図7】電荷量の取得方法の一例について説明するための図。
【
図8】理想条件での電荷量の比について説明するための図。
【
図9】マルチパスの弱い影響がある場合の電荷量の比について説明するための図。
【
図10】マルチパスの強い影響がある場合の電荷量の比について説明するための図。
【
図11】距離誤差の関係式を求める方法の一例について説明するための図。
【
図12】距離誤差の関係式を求める方法の一例について説明するための図。
【
図13】距離誤差の関係式を求める方法の一例について説明するための図。
【
図14】1/2Lの位置での距離誤差について説明するための図。
【
図15】補正式の求め方の一例について説明するための図。
【
図16】補正演算の効果の一例について説明するための図。
【
図17】本実施形態とは別の方法による補正式の求め方の一例について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の距離計測システム1について、図面を参照しながら説明する。
図1は、距離計測システムの構成の一例を示すブロック図である。
【0014】
図1に示すように、距離計測システム1は、TOFカメラ10(
図1において、TOFと記載)と、外部処理装置20と、を備える。また、TOFカメラ10と外部処理装置20は、インタフェース(不図示)を備え、外部処理装置20は、TOFカメラ10からデータを取得することができる。
【0015】
先ず、TOFカメラ10の構成について説明する。TOFカメラ10は、いわゆるTOF(タイムオブフライト)に基づいて距離を測定する装置(距離計測装置)であり、TOFカメラ10は、発光部11と、受光部12と、発光制御部13と、距離計算部14と、画像処理部15と、電源部16と、を備える。
【0016】
発光部11は、レーザダイオード(LD)や発光ダイオード(LED)等の光源(
図1の例では、LD)で発光したパルス状の照射光を出射する。受光部12は、反射して戻ってきたパルス状の反射光を、CCDやCMOSなどの2次元状に画素を配列したイメージセンサ(
図1の例では、CCDセンサ)で露光し、電気信号に変換する。
【0017】
発光制御部13は、光源の点灯あるいは消灯、もしくは発光量の調整を行う光源駆動回路を有し、後述するCPU18からの指令に従い、光源駆動回路を制御することができる。そして、光源からの照射光は、被写体の存在する領域に向けて出射される。
【0018】
距離計算部14は、受光部12から出力されるイメージセンサの電気信号(
図1において、画像DATAと記載)に基づいて、被写体までの距離を計算する。画像処理部15は、距離計算部14から出力される計算された距離(
図1において、距離DATAと記載)に基づいて、被写体までの距離をカラーで表現した距離画像を生成する。画像処理部15は、一例として、被写体までの距離が近いほど赤色となり、被写体までの距離が遠いほど青色となる画像を生成することができる。また、イメージセンサにおける各画素位置での受光タイミングのずれから、被写体各部分の距離の差、すなわち被写体の凹凸形状を求めることができる。
【0019】
電源部16は、電力の供給に用いられる構成である。TOFカメラ10には、適宜の手法に基づいて電力が供給される。TOFカメラ10には、一例として、PoE(Power оf Ethernet)により電力が供給されてもよい。この場合、インタフェースの構成は、電源部16により実現され、TOFカメラ10と外部処理装置20は、LANケーブルにより接続される。その一方で、TOFカメラ10には、適宜に接続される電源コードより電力が供給されてもよい。
【0020】
上記した距離計算部14および画像処理部15はプログラムである。また、TOFカメラ10は、発光制御部13の制御を行うことに用いるプログラムである発光処理部17を備える。そして、TOFカメラ10は、これらのプログラム(14,15,17)を実行する主体となるCPU18を備える。なお、この例では、プログラムを動作させる主体であるプロセッサとしてCPU18が用いられるが、所定の処理を実行する主体であればよく、CPU18に代えて他の半導体デバイスが用いられてもよい。また、TOFカメラ10は、プログラム等のデータを記憶する適宜の記憶装置(例えば、ROM)を備えてもよい。また、TOFカメラ10は、データ処理時にデータを一時的に記憶するRAMを備えてもよい。
【0021】
本実施形態では、TOFカメラ10の測定はフレーム単位で実行され、露光/非露光動作を示す受光部12からの露光信号を基準として、例えば30フレーム/secのレートでの測定が行われる。従って、受光部12の露光信号のタイミングを基準として、各部(14,15,17)の動作タイミングが決定される。ここで、発光処理部17は、露光信号に基づいて発光制御部13を制御して、発光部11の発光期間/消灯期間を制御する。距離計算部14は、露光信号に基づいて距離を計算する。画像処理部15は、露光信号に基づいて画像処理を実行する(もしくは、露光信号に基づいて画像処理を停止する)。
【0022】
次に、外部処理装置20について説明する。外部処理装置20は、一般的なコンピュータとすることができ、プロセッサを備える。プロセッサは、所定の処理を実行する主体であればよく、一例として、CPUとすることができるが、他の半導体デバイス(例えば、GPU)であってもよい。また、外部処理装置20は、データを記憶することができるROM等の記憶装置を備えてもよい。また、外部処理装置20は、データ処理時にデータを一時的に記憶するRAMを備えてもよい。本実施形態では、外部処理装置20のプロセッサは、TOFカメラ10からのデータを取得し、後で詳しく説明するデータ処理を行い、TOFカメラ10が計測する距離を補正する。
【0023】
次に、
図2を参照しながら、TOFカメラ10による距離計算についてより詳しく説明する。
図2は、TOFカメラによる距離の計算の一例について説明するための図である。
【0024】
上記したように発光部11が発光制御部13により制御され、被写体2(この例では、人物)へ距離測定用の照射パルス31が出射される。そして、照射パルス31は被写体2にて反射され、反射光パルス32となり、反射光パルス32はレンズ33を介して受光部12で受光される。受光部12は、CCDセンサなどの2次元状に配列した2次元センサであるイメージセンサ34で反射光32を露光し、各画素位置での露光量を電気信号に変換する。距離演算部14は、受光部12での電気信号から被写体2までの距離Zを演算し、2次元の距離データを生成する。
【0025】
被写体2までの距離Zは、発光部11が照射パルス31を出射してから受光部12が反射光パルス32を受光するまでの時間差をtとすると、Z=c×t/2(cは光速)で計測することができる。ここで、時間差tは、照射パルス31のパルス幅と、イメージセンサ34において複数の露光期間で検出される電荷量と、に基づいて求めることができる。
【0026】
被写体2までの距離Zは、複数の数式を条件に応じて切り替えて求められてもよく、一例として、
図3に示す数式1および数式2に基づいて計測することができる。
【0027】
ここで、数式1および数式2は、露光期間を3つに分けて露光して計測する場合に用いられる式である。すなわち、この例では、第1の露光期間、第2の露光期間、第3の露光期間の連続した順で、露光が行われる。そして、第1の露光期間で計測する電荷量はA0、第2の露光期間で計測する電荷量はA1、第3の露光期間で計測する電荷量はA2で表される。なお、数式1および数式2において、Zは距離であり、cは光速であり、Tpは照射パルスのパルス幅である。
【0028】
数式1および数式2の切り替わり条件について説明する。計測する電荷量の値に着目して、A0≧A2の条件では、距離Zの計算にあたって数式1(第1の距離演算式であり、この式をNear式と呼ぶことがある)が用いられる。その一方で、A0<A2の条件では、距離Zの計算にあたって数式2(第2の距離演算式であり、この式をFar式と呼ぶことがある)が用いられる。
【0029】
理想状態では、数式1および数式2を用いることで優れた計測精度を実現することができるが、マルチパスの影響を受ける環境では、距離誤差が発生する。ここで、
図4を参照しながら、理想状態における計測と、マルチパスの影響を含む計測と、の計測距離の違いについて説明する。
【0030】
先ず、理想状態での反射光の露光について説明する。上記した数式1および数式2の説明の場合と同様に、露光期間を3つに分けてそれぞれのタイミングで反射光を露光することを考える。ここで、3つに分けた露光期間それぞれの長さは、発光パルスの出射期間(発光期間)と同じ長さに設定される。そして、発光パルスが照射されて反射光が戻ってくるとき、第1の露光期間において一部の反射光が露光され、第2の露光期間において残りの反射光が露光される。また、
図4の例では、それぞれの露光期間において、同じ強度の環境光が露光されている。
【0031】
このような理想状態では、それぞれの露光期間での電荷量(A
0~A
3)を用いることで、数式1および数式2から、
図4のグラフ(理想状態の計測結果)に示すように、直線性が確保された(言い換えれば、精度の良い)計測結果が取得される。しかしながら、マルチパスによる外乱がある場合では、正規測定光とは異なる外乱反射光が露光されるので、理想状態の場合と比較して計測される電荷量の値に差分が発生する。このような場合では、
図4のグラフ(マルチパスなどの外乱光を含んだ計測結果)に示すように、上記で説明したような直線性が確保されなくなり、計測誤差が発生することになる。
【0032】
図4のグラフを参照しながら、マルチパスによる計測距離への影響について説明する。マルチパスによる計測誤差は、計測距離が増加するに従って大きくなる傾向がある。そして、ある距離を境界として、それ以降での影響が小さくなっていく傾向がある。ここで、TOFカメラ10の計測環境において、マルチパスの影響が小さくなっていってマルチパスの影響が実質的になくなり、その結果として計測誤差が実質的になくなった距離をLとするとき、マルチパスによる影響が小さくなり始める境界となる距離は、概ね1/2L(すなわち、0.5L)である。
【0033】
ここで、理想状態では、上記した数式1および数式2を用いるとき、1/2Lの位置においてA0=A2の関係となる電荷量が計測され、距離が計測される。すなわち、計測距離として1/2Lを計測するときにA0=A2の関係が成り立つ。従って、理想状態では、実際の距離0から1/2Lまでについて、数式1(Near式)に基づいて、精度の良い計測距離が求められる。また、実際の距離1/2LからLまでについて、数式2(Far式)に基づいて、精度の良い計測距離が求められる。
【0034】
しかしながら、マルチパスによる影響がある場合では、距離誤差が計測距離に含まれるので、A
0=A
2の関係となる電荷量が計測される位置が変わる。例えば、
図4のグラフでは、実際の距離1/2Lよりも短い位置において計測距離として1/2Lが計測され、このタイミングでA
0=A
2の関係となる電荷量が計測される。従って、上記したNear式およびFar式の適用範囲が理想状態とはズレることになり、実際の距離1/2Lのタイミングで、Near式とFar式が切り替わらなくなる。
【0035】
次に、
図5を参照しながら、屋内でのマルチパスによる影響の一例について説明する。
図5に示すように、TOFカメラ10は、一例として、屋内の天井に設置され、対象となるエリアの計測を行うことがある。
【0036】
TOFカメラ10が、例えば、狭い通路や部屋、光反射率が高い壁材が使用されるエレベータホール等で被写体を計測する場合、上記の説明と同様に、マルチパスの影響による計測誤差が発生する。すなわち、
図5に示すように、計測距離が概ね0から1/2Lまでの範囲で計測誤差が大きくなっていき、計測距離が概ね1/2LからLまでの範囲で計測誤差が小さくなっていく。
【0037】
上記で説明したように、マルチパスの影響により計測距離の精度が低下する。そこで、本実施形態では、
図6に示す補正処理フローを行って、マルチパスの影響による距離誤差を含む計測距離を補正する。なお、本実施形態の距離計測システム1では、外部処理装置20のプロセッサがTOFカメラ10からデータを取得し、補正処理フローを実行する。ここで、補正処理フローの実行に用いるプログラムは、外部処理装置20のプロセッサにより実行されればよく、一例として、外部処理装置20が備える記憶装置に記憶される。
【0038】
図6に示す補正処理フローの一例では、距離値を補正する補正式が生成され、この補正式を用いて理想的な距離となるように補正演算が行われる。外部処理装置20は、補正式の生成にあたり、TOFカメラ10から、光源(
図6の例では、LD)を発光させない状態で計測される電荷量(A
0、A
1、A
2)を取得する(ステップ101)。すなわち、ステップ101では、計測環境における環境光、ショットノイズ等の成分が取得される。
【0039】
また、外部処理装置20は、TOFカメラ10から、光源を発光させた状態で計測される電荷量(A0、A1、A2)を取得する(ステップ102)。すなわち、ステップ102では、ステップ101で取得される成分と、被写体に反射して戻ってくる反射光の成分と、が取得される。ここで、反射光の成分には、計測環境におけるマルチパスの成分が含まれている。なお、ステップ101とステップ102は、後述するステップ103の前に実行されればよく、ステップ101とステップ102の実行タイミングは適宜に変更されてもよい。
【0040】
ここで、
図7を参照しながら、ステップ101およびステップ102における電荷量(A
0、A
1、A
2)の取得方法の一例について説明する。
図7は、電荷量の取得方法の一例について説明するための図である。
【0041】
一般的には、発光期間と露光期間の両方を含む複数のフレームを繰り返すことで距離の計測が行われるが、この例では、発光期間と露光期間の両方を含むフレーム(
図7では、奇数フレームと記載)と、発光期間を含まずに露光期間を含むフレーム(
図7では、偶数フレームと記載)と、が交互に設定される。そして、TOFカメラ10は、設定されたフレームに基づいて計測を行う。ここで、発光期間を含まずに露光期間を含むフレームでは、環境光の成分だけが露光され、このフレームで露光される環境光等の成分は、例えば、直前のフレーム(
図7では、直前の奇数フレーム)で露光される環境光等の成分に対応すると考えられる。
【0042】
本実施形態では、このように交互に設定されたフレームに基づいて、ステップ101で説明された成分と、ステップ102で説明された成分と、が取得される。すなわち、ステップ101において説明された成分が、発光期間を含まずに露光期間を含むフレームに基づいて取得され、ステップ102において説明された成分が、発光期間と露光期間の両方を含むフレームに基づいて取得される。なお、上記では、フレームを交互に設定する例について説明されたが、計測環境における環境光の成分が適切に取得されればよく、例えば、発光期間を含まずに露光期間を含むフレームの周期は、実際の計測環境を考慮して、適宜に変更してもよい。
【0043】
ステップ101およびステップ102の後、ステップ102で取得された成分(すなわち、ステップ102で計測された電荷量A0、A1、A2)から、ステップ101で取得された成分(すなわち、環境光BGに関する電荷量A0、A1、A2)が除去される(ステップ103)。ステップ103において、環境光の成分を差し引くことで環境光の成分が除去され、マルチパスの影響を含む反射光の成分(すなわち、環境光の成分が除去された電荷量A0′、A1′、A2′)が取得される。
【0044】
次に、ステップ103で求めた1フレーム内の各画素(イメージセンサ34の各画素)から、A0′=A2′となる画素が探索される(ステップ104)。すなわち、Near式とFar式の演算式が切り替わる画素がピックアップされる。
【0045】
次に、ステップ104で探索されたA
0′=A
2′となる画素から、A
0′/A
1′の値、および、A
2′/A
1′の値が求められ、A
0′/A
1′(=A
2′/A
1′)の値が求められる(ステップ105)。ここで、
図8を参照しながら、電荷量の比の意義について説明する。
図8は、理想条件での電荷量の比について説明するための図である。
【0046】
マルチパスおよび環境光が含まれない状態(理想状態)では、1/2Lの位置を基準にA0に関する電荷量がゼロになり、A2に関する電荷量が計測されるようになる。すなわち、1/2Lの位置で、A0=A2の関係が成立し、この位置を基準として、Near式とFar式の適用範囲が切り替わる。
【0047】
このときの電荷量の比について着目すると、A0/A1は、Near式の適用範囲内で0よりも大きく、Near式の適用範囲外で0である。同様に、A2/A1は、Far式の適用範囲内で0よりも大きく、Far式の適用範囲外で0である。そして、演算式の切り替わりの位置(すなわち、1/2Lの位置)で、これらの比の値が同じになる(つまり、A0/A1=A2/A1が成り立つ)。
【0048】
次に、理想条件とは異なり、マルチパスの弱い影響がある場合について説明する。
図9は、マルチパスの弱い影響がある場合の電荷量の比について説明するための図である。
【0049】
図9に示すように、マルチパスの弱い影響があり、且つ、環境光が含まれない状態では、計測される電荷量は、理想条件の場合とは異なり、A
0およびA
2に関する電荷量がゼロにならない。そして、A
0/A
1とA
2/A
1の値が同じになる位置は、1/2Lの位置からズレる。従って、Near式とFar式の切り替わりとなる位置(つまり、A
0/A
1=A
2/A
1となる位置)は、1/2Lの位置からズレる。
【0050】
次に、理想条件とは異なり、マルチパスの強い影響がある場合について説明する。
図10は、マルチパスの強い影響がある場合の電荷量の比について説明するための図である。
【0051】
図10に示すように、マルチパスの強い影響があり、且つ、環境光が含まれない状態では、計測される電荷量は、理想条件の場合と異なり、A
0およびA
2に関する電荷量がゼロにならない。また、A
0/A
1とA
2/A
1の値が同じになる位置(つまり、Near式とFar式の切り替わりとなる位置)は、マルチパスの弱い影響がある場合よりも大きくズレる。
【0052】
上記したステップ105において、A
0′/A
1′(=A
2′/A
1′)の値が求められた場合、距離誤差の関係式が求められる。そして、この距離誤差の関係式から、実際の距離1/2Lでの距離誤差が求められる(ステップ106)。次に、
図11から
図13を参照しながら、距離誤差の関係式を求める方法について説明する。また、
図14を参照しながら、1/2Lの位置での距離誤差について説明する。
図11から
図13は、距離誤差の関係式を求める方法の一例について説明するための図である。
図14は、1/2Lの位置での距離誤差について説明するための図である。
【0053】
図11のグラフは、上記で説明した理想状態およびマルチパスの影響がある状態での電荷量の比の関係を示している。上記で説明したように、理想状態では、Near式とFar式が切り替わる点(つまり、A
0′/A
1′=A
2′/A
1′が成り立つ点)は、1/2Lの位置であるが、この演算式が切り替わる点は、マルチパスの影響により1/2Lからズレてゆき、マルチパスの影響が強いほど大きくズレる。従って、この電荷量の比の関係(すなわち、マルチパスの影響が弱いほど1/2Lからのズレが小さくなり、マルチパスの影響が強いほど1/2Lからのズレが大きくなるという特性)に基づいて、ステップ105において取得する電荷量の比の大きさから、計測環境におけるマルチパスの影響の強さが評価される。
【0054】
図12のグラフは、実際の距離と、マルチパスの影響による距離誤差と、の関係を示す。すなわち、上記で説明したように、マルチパスの影響による距離誤差は、1/2Lの位置において最大となり、マルチパスの影響は、1/2Lの位置を境界として小さくなっていく。そこで、上記で説明された評価したマルチパスの影響の強さと、実際の距離およびマルチパスの影響による距離誤差の関係を示すデータと、に基づいて、実際の距離が1/2Lである位置の距離誤差(言い換えれば、最大の距離誤差)が求められる。なお、実際の距離およびマルチパスの影響による距離誤差の関係を示すデータ(例えば、
図12のグラフに関するデータ)は、補正処理フローにおいて利用することができるように、予め準備されてもよい。
【0055】
そして、ステップ105において取得された電荷量の比の大きさと、1/2Lの位置での距離誤差と、の関係をまとめた距離誤差の関係式が生成される。距離誤差の関係式は、一例として、
図13に示すように、αx(αは係数)とすることができるが、適切な関係式であればよく、一次式でも多項式でもよい。距離誤差の関係式は、ステップ101からステップ105の手法で取得される実測の電荷量の比に基づいて、求められてもよい。その一方で、ステップ101からステップ105と同様の手法により、環境光の影響を除去した電荷量の比の大きさが予測され、予測された電荷量の比の大きさを用いたシミュレーションにより、距離誤差の関係式が求められてもよい。
【0056】
ステップ106では、
図14に示すように、距離誤差の関係式を用いて、実際の計測環境において取得される電荷量の比の大きさ(すなわち、ステップ101からステップ105により取得される電荷量の比の大きさ)に基づいて、B点に関する距離誤差が求められる。ここで、B点は、実際の距離1/2Lにおける計測距離を示す点であり、この計測距離(
図14においてB点距離)は、距離誤差αx+1/2Lとして考えることができる。なお、グラフ上において、A点は(0、0)に対応し、C点は(L、L)に対応する。
【0057】
ステップ106において、B点の距離誤差が求められた場合、B点での計測距離が予測される(ステップ107)。すなわち、理想状態での計測距離(すなわち、1/2L)に距離誤差が加算された計測距離(
図6においてDepth(1/2L)と記載されている)が予測される。なお、B点での計測距離は、距離誤差を用いて適宜に予測されればよいが、一例として、下記の方法により予測されてもよい。すなわち、距離を計測する範囲として、0からLまでの範囲が予め設定されてもよく、この設定されたデータから1/2Lの値が求められ、この値に距離誤差が加算され、B点での計測距離が予測されてもよい。
【0058】
B点での計測距離が予測された場合、マルチパスの影響を補正する補正式が生成される。そして、Near側(実際の距離0から1/2Lまでの範囲)とFar側(実際の距離1/2LからLまでの範囲)を理想値に近付けるように、補正演算が行われる(ステップ108)。先ず、
図15を参照しながら、補正式の求め方の一例について説明する。
【0059】
この例では、マルチパスの影響によって計測誤差を含んで計算されるNear側の計測距離(
図15において、A-B間に対応する)を、理想状態の直線に近付ける補正式が求められる。すなわち、B点の距離が推測されれば、A-B間の補正パラメータを求めることができるので、この補正パラメータに基づいて、A-B間の補正式が求められる。この例では、A-B間の傾きに対応する補正パラメータである補正係数α
nearに基づいて、理想状態に近付ける補正式が求められている。ここで、Depth
nearは、理想状態での計測距離を示し、Depthは、A-B間での計測距離を示す。
【0060】
同様にして、マルチパスの影響によって計測誤差を含んで計算されるFar側の計測距離(
図15において、B-C間に対応する)を、理想状態の直線に近付ける補正式が求められる。すなわち、B点の距離が推測されれば、B-C間の補正パラメータを求めることができるので、この補正パラメータに基づいて、B-C間の補正式が求められる。この例では、B-C間の傾きに対応する補正パラメータである補正係数α
farと、B-C間の切片の値を調整する補正パラメータであるβ
farと、に基づいて理想状態に近付ける補正式が求められている。ここで、Depth
farは、理想状態での計測距離を示し、Depthは、B-C間での計測距離を示す。
【0061】
このように、ステップ108では、Near側とFar側の計測距離を補正する補正式が生成される。そして、Near側の計測距離、言い換えれば、A点(0,0)からB点(1/2L,Depth(1/2L))の計測距離が理想的となるように、TOFカメラ10が計測する計測距離に補正演算が行われる。また、B点(1/2L,Depth(1/2L))からC点(L,L)の計測距離が理想的となるように、TOFカメラ10が計測する計測距離に補正演算が行われる。
【0062】
ここで、計測距離の補正にあたって、補正する計測距離がB点距離よりも小さい(または、B点距離以下である)場合、Near側の補正式が用いられる。補正する計測距離がB点距離よりも大きい(または、B点距離以上である)場合、Far側の補正式が用いられる。補正する計測距離がB点距離と同じである場合、何れの補正式が用いられてもよい。また、本実施形態の補正処理フローによれば、外部処理装置20のプロセッサは、生成した補正式を用いて、イメージセンサ34の各画素から取得される計測距離について補正演算を行うことができる。また、
図15の例では、一次式の補正式を生成する一例について説明されたが、理想値の直線に適切に近づける補正演算が行われればよく、多項式の補正式が生成されてもよい。
【0063】
この補正処理フローによれば、マルチパスの影響によってNear式およびFar式の適用範囲が理想状態とはズレることになり、実際の距離1/2Lのタイミングで、Near式とFar式が切り替わらなくなる場合であっても、適切な補正を行って計測距離を補正することができる。
【0064】
次に、
図16を参照しながら、補正演算の効果の一例について説明する。
図16は、補正演算の効果の一例について説明するための図である。
【0065】
図16の例では、TOFカメラ10が屋内に設置され、通路において計測が行われる。この計測環境では、壁や床等によりマルチパスが発生すると考えられる。そして、画像(距離データの画像)における鎖線で示される部分の計測距離は、縦方向の計測距離の関係を表すグラフ、および、横方向の計測距離の関係を表すグラフに示すように、マルチパスの影響により理想値から離れている。ここで、上記で説明したステップ108の補正演算に基づいて計測距離が補正されることで、マルチパスの影響による距離誤差が抑制され、計測誤差が軽減される。
【0066】
以上の通り、露光期間を3つに分けた、第1の露光期間で計測するA0、第2の露光期間で計測するA1、第3の露光期間で計測するA2を用いて、且つ、計測された各電荷量の条件に応じて切り替える2つの計算式(Near式、およびFar式)を用いた距離演算方式を例にして、マルチパスによる距離演算誤差を改善する方法について説明してきた。
【0067】
すなわち、距離演算式が切り替わる位置(すなわち、マルチパスによる影響がない場合において、理想的な距離が明確である位置であり、前述の説明においては1/2Lに相当する位置)における、距離演算に使用される各電荷量比の値(例えば、A0/A1とA2/A1の値が同じになる値)の大きさから計測環境におけるマルチパスの影響の強さが評価される。
【0068】
距離演算式が切り替わる位置での電荷量比の値とマルチパスの影響によって生じる距離誤差の関係を求めることにより、前述した
図13に示すように、距離誤差との関係式が生成される。
【0069】
距離誤差の関係式を用いて、実際の計測環境において取得される電荷量の比の大きさに基づいて、距離演算が切り替わる位置(すなわち、マルチパスによる影響がない場合において、理想的な距離が明確である位置)に関する距離誤差が求められる。
【0070】
以上の通り、理想的な距離が明確である位置の距離誤差が求められることにより、前述したように、理想状態での計測距離の理想値に近づけるように補正式を求め、補正演算を行うことができる。これらのプロセスに基づいて計測距離が補正されることで、マルチパスの影響が抑制され、計測誤差が軽減される。
【0071】
また、ここまで、3つの露光期間と2つの計算式を用いた距離演算方式を一例として説明してきたが、3つの露光期間と2つの計算式を用いた距離演算方式に限られたものではなく、それ以上の、複数の露光期間と、複数の計算式と、を用いた距離演算方式にも適用できることは、想像に難くない。
【0072】
なお、複数点(異なる複数の距離位置)における実際の距離と計測距離の相関性から補正係数等を求め、補正式を求める方法が考えられる。一例として、
図17に示すように、1mごとに被写体を実際に位置させ、1mごとに位置させた被写体から取得する計測距離との相関性に基づいて補正係数等を求め、補正式を求める方法が考えられる。しかしながら、この方法では、複数点での距離位置での計測が必要となり、柔軟な運用を実現することができないと考えられる。例えば、複数台のTOFカメラ10を設置する場合、一台あたりの調整時間が必要となり、複数台の調整には多大な時間が必要になる。これに対して、本実施形態によれば、計測誤差の予測アルゴリズムを有しており、補正処理フローを実行して補正式を生成するので、柔軟な運用を実現することができる。
【0073】
以上、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0074】
補正処理された距離データは、一例として、人物を対象とした動線追跡や人数カウント等に用いられてもよい。これにより、計測誤差が軽減された精度の良い処理が実現される。なお、動線追跡や人数カウントは、一例として、適宜のプロセッサがアプリを実行することによって実現される。ここで、外部処理装置20は、このアプリと補正処理フローの実行に用いるプログラムを連携させて処理を行ってもよい。
【0075】
外部処理装置20は、補正処理フロー等のデータ処理を適切に実行することができればよく、データ処理の用いるデータは、外部処理装置20に接続される外部の記憶装置に記憶されてもよい。そして、外部処理装置20は、外部の記憶装置からデータを取得して処理を行ってもよい。また、外部処理装置20は、例えば、TOFカメラ10と同じ設置場所に配置されてもよいし、TOFカメラ10の設置場所とは異なる遠隔地に配置されてもよい。外部処理装置20は、有線通信によりデータを取得してもよいし、無線通信によりデータを取得してもよい。
【0076】
本実施形態では、補正処理フローの実行に用いるプログラムが外部処理装置20に実行され、外部処理装置20が補正処理フローを実行するシステムについて説明されたが、TOFカメラ10が補正処理フローの実行に用いるプログラムを実行して、補正演算された計測距離を出力してもよい。この場合、外部処理装置20が省略される。そして、一例として、補正処理フローを実行するプログラムは、TOFカメラ10の記憶装置に記憶され、このプログラムは、TOFカメラ10のプロセッサ(例えば、CPU18)により実行されてもよい。これにより、マルチパスの影響を把握し、画素毎の距離に補正を行うことにより、実際の距離との誤差を抑制して距離精度を改善することができるTOFカメラ10(距離計測装置)が提供される。
【符号の説明】
【0077】
1 距離計測システム
10 TOFカメラ(距離計測装置)
20 外部処理装置