(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024121
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】チャイルドシート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/28 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
B60N2/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130219
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】310019730
【氏名又は名称】グラコ・チルドレンズ・プロダクツ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 直志
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CE07
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で、子供を乗せ下ろしする場合に肩ベルトが邪魔になることがないチャイルドシートを提供すること。
【解決手段】チャイルドシート(1)は、座面部(2)と背もたれ部(3)とを有する座席本体(11)と、座席本体に着座した子供の体を拘束する一対の肩ベルト(12)と、背もたれ部の前面上に重なって、上下方向に摺動可能であり、一対の肩ベルトを貫通させる一対の肩ベルト通し孔を有する中央領域(41)と、中央領域の両側部に設けられる側部領域(42)とを含むスライド部材(4)と、スライド部材の側部領域に設けられ、一対の肩ベルトを開いた状態で保持する一対の肩ベルト保持部(5)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面部と背もたれ部とを有する座席本体と、
前記座席本体に着座した子供の体を拘束する一対の肩ベルトと、
前記背もたれ部の前面上に重なって、上下方向に摺動可能であり、前記一対の肩ベルトを貫通させる一対の肩ベルト通し孔を有する中央領域と、前記中央領域の両側部に設けられる側部領域とを含むスライド部材と、
前記スライド部材の側部領域に設けられ、前記一対の肩ベルトを開いた状態で保持する一対の肩ベルト保持部とを備える、チャイルドシート。
【請求項2】
前記スライド部材の中央領域は、前記子供の頭部の後方を保護するための立壁部であり、
前記スライド部材の側部領域は、前記立壁部の両端から前方に突出し、前記子供の頭部の側方を保護するための一対の側壁部であり、
前記肩ベルト保持部は、前記一対の側壁部に設けられる、請求項1に記載のチャイルドシート。
【請求項3】
前記一対の側壁部は、前記子供の頭部に当接する内側部と、前記子供から遠い側の外側部とを含み、
前記一対の肩ベルト保持部は、前記一対の側壁部の外側部に設けられる、請求項2に記載のチャイルドシート。
【請求項4】
前記一対の肩ベルトの途中位置には、前記肩ベルト保持部に係合する一対の係止具が設けられる、請求項1~3のいずれかに記載のチャイルドシート。
【請求項5】
前記一対の係止具は、弾性部材を介して前記肩ベルトに接続されている、請求項4に記載のチャイルドシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、肩ベルトを備えたチャイルドシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、チャイルドシートには、座席シートに着座した子供を拘束する肩ベルト、腰ベルト、および股ベルトが設けられている。
【0003】
特開2008-290587号公報(特許文献1)には、ベルトカバーに固定された第1磁石を、シート本体の側方に設けられる第2磁石に保持させることで、着座空間をシートベルトの介在がない開放空間に維持することが開示されている。
【0004】
また、特開2001-158263号公報(特許文献2)には、肩ベルトの先端金具をチャイルドシート本体に固着したアップリケで保持することにより、ベルト回避場所でベルトを固定可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-290587号公報
【特許文献2】特開2001-158263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されたチャイルドシートは、子供を乗せ下ろしする場合に、着座空間をシートベルトの介在がない開放空間に維持することが可能であるが、構造が複雑であった。さらに、上記特許文献2に開示されたチャイルドシートは、シートベルトが垂れ下がっているため、子供を乗せ下ろしする際に、依然として肩ベルトが邪魔になっていた。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、簡易な構造で、子供を乗せ下ろしする場合に肩ベルトが邪魔になることがないチャイルドシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため、本発明の一態様に係るチャイルドシートは、座面部と背もたれ部とを有する座席本体と、座席本体に着座した子供の体を拘束する一対の肩ベルトと、背もたれ部の前面上に重なって、上下方向に摺動可能であり、一対の肩ベルトを貫通させる一対の肩ベルト通し孔を有する中央領域と、中央領域の両側部に設けられる側部領域とを含むスライド部材と、スライド部材の側部領域に設けられ、一対の肩ベルトを開いた状態で保持する一対の肩ベルト保持部とを備える。
【0009】
好ましくは、スライド部材の中央領域は、子供の頭部の後方を保護するための立壁部であり、スライド部材の側部領域は、立壁部の両端から前方に突出し、子供の頭部の側方を保護するための一対の側壁部であり、肩ベルト保持部は、一対の側壁部に設けられる。
【0010】
好ましくは、一対の側壁部は、子供の頭部に当接する内側部と、子供から遠い側の外側部とを含み、一対の肩ベルト保持部は、一対の側壁部の外側部に設けられる。
【0011】
好ましくは、一対の肩ベルトの途中位置には、肩ベルト保持部に係合する一対の係止具が設けられる。
【0012】
好ましくは、一対の係止具は、弾性部材を介して肩ベルトに接続されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構造で、子供を乗せ下ろしする場合に肩ベルトが邪魔になることがないチャイルドシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態に係るチャイルドシートの斜視図である。
【
図2】本実施の形態に係るチャイルドシートであって、背もたれ部の被覆部材を取り除いた状態の正面図であり、(a)はスライド部材の下方位置を示し、(b)はスライド部材の上方位置を示す。
【
図3】背もたれ部のフレーム部分の後面およびスライド部材のフレーム部分の後面を示す背面図である。
【
図4】ベルトの配置を示す模式図であり、(a)は通常の状態であり、(b)は肩ベルトを引き出す動作を表す。
【
図5】チャイルドシートの一対の肩ベルトおよび一対のパッドを取り出して示す斜視図である。
【
図6】チャイルドシートの一対のパッドを取り出して示す正面図である。
【
図7】肩ベルト保持部を取り出して示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は平面図であり、(c)は
図7(b)のc線における断面図である。
【
図8】肩ベルトを肩ベルト保持部で保持する動作を説明する図である。
【
図9】ベッド状態にしたチャイルドシートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
(チャイルドシートの概要について)
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るチャイルドシート1について説明する。チャイルドシート1の説明において、前後方向は、チャイルドシート1に着座する子供の前後方向に対応する。幅方向は、チャイルドシート1に着座する子供の左右方向、あるいはベルトの短手方向に対応する。また、内側は、チャイルドシート1に着座する子供に向かう側に対応する。外側は、チャイルドシート1に着座する子供とは反対側に対応する。
【0017】
本実施形態に係るチャイルドシート1は、自動車の座席の上に配置され、乳児や幼児などの子供を安全に乗車させるための子供用座席装置である。チャイルドシート1は、ベース本体10および座席本体11を備える。ベース本体10は、乗用自動車の座席シート上に載置され、座席本体11を下方から支持する。座席本体11は、ベース本体10の上側に取り付けられ、ベース本体10に対して回転自在に支持される。
【0018】
座席本体11には、子供が着座する。このため、座席本体11は、子供用座席ともいい、子供の臀部を支持する座面部2と、座面部2の後方から立ち上がり、子供の背部を支持する背もたれ部3とを有する。また、座面部2のフレームには、座面部2用の被覆部材20が取り外し可能に装着されている。背もたれ部3のフレームには、背もたれ部3用の被覆部材30が取り外し可能に装着されている。これらの被覆部材20,30は、柔らかい布製部材、たとえば、クッション素材、あるいはメッシュ素材によって形成される。
【0019】
背もたれ部3には、背もたれ部3に重なって、上下方向に摺動可能なスライド部材4が設けられる。スライド部材4は、子供の頭部を支持するヘッドレストであり、図示しないロック機構により任意の高さ位置に固定することができる。なお、
図1に示されるように、スライド部材4は、カバー部材によりスライド部材4の前面が覆われていてもよい。背もたれ部3は、座面部2に対して傾斜することでリクライニング可能に設けられていてもよいし、座面部2に対する傾斜角度が固定されていてもよい。この場合、座席本体11は、ベース本体10に対してスライド可能に設けられていてもよい。
【0020】
チャイルドシート1には、子供の体を拘束するベルトが複数設けられている。背もたれ部3に設けられるベルトは、子供の両肩を拘束する1対の肩ベルト12を含む。肩ベルト12は、スライド部材4および背もたれ部3を貫通するように配置されている。肩ベルト12の一端は、背もたれ部3の後面側で図示しないベルト長さ調節機構と接続する。肩ベルト12の途中領域および他端は、背もたれ部3の前面側に配置される。
【0021】
また、座面部2に設けられるベルトは、座席本体11に着座した子供の両太腿の間を延びる股ベルト13と、座席本体11を左右方向に横断するように延びて子供の腰を拘束する腰ベルト14とを含む。股ベルト13の一端は座面部2の幅方向中央部分に固定される。腰ベルト14は左右にそれぞれ配置され、各腰ベルト14の一端は座面部2の幅方向両側部分にそれぞれ固定される。
【0022】
これらのベルト12,13,14の他端同士は、股ベルト13の先端に設けられる連結具15により、子供の腹部付近で連結される。連結具15は、着脱可能に設けられるバックルであることが好ましい。なお、本実施の形態では、肩ベルト12および腰ベルト14は、同一の長尺状のベルトにより形成されており、その途中位置に、連結具15に連結されるタング19が設けられる。
【0023】
背もたれ部3およびスライド部材4と、肩ベルト12との関係について説明する。
図2は、本実施の形態に係るチャイルドシート1の正面図であり、背もたれ部3の被覆部材30を取り除いた状態を表す。さらに、
図2は、一対の肩ベルト12を一対の肩ベルト保持部5で保持している状態を示している。
図2(a)は、スライド部材4が一番低い高さで固定されている状態を示す正面図であり、
図2(b)は、スライド部材4が一番高い高さで固定された状態を示す正面図である。なお、理解容易のため、スライド部材4に薄墨を付して示している。
【0024】
スライド部材4は、背もたれ部3のフレームに摺動可能に取り付けられる。スライド部材4は、任意の高さ位置に摺動可能であり、図示しないロック機構によって任意の高さ位置に固定される。スライド部材4は、子供の体の大きさに伴って、上下に摺動可能である。子供の体が小さい場合には、
図2(a)に示すようにスライド部材を一番低い高さで固定し、子供の体が大きくなった場合には、
図2(b)に示すようにスライド部材を一番高い高さで固定する。スライド部材4は、複数の高さ位置で固定することができる。
【0025】
スライド部材4は、一対の肩ベルト12を貫通させる一対の肩ベルト通し孔43を有し、子供の頭部の後方を保護するための立壁部41と、立壁部41の両端から前方に突出し、子供の頭部の側方を保護するための一対の側壁部42とを含む。スライド部材4は、子供の頭部を保護するヘッドレストとして機能することが好ましいが、ヘッドレストでなくてもよい。その場合、立壁部41は、中央領域であり、一対の肩ベルト通し孔43を有していればよい。さらに、側壁部42は、側部領域であり、中央領域の両側部に設けられる。つまり、側部領域は、肩ベルト通し孔43の両側部に設けられていればよく、前方に突出している必要はない。
【0026】
上述のように、立壁部41には、1対の肩ベルト12を貫通させる1対の肩ベルト通し孔43が左右に形成される。各肩ベルト通し孔43は、座席本体11の幅方向に延びる横長断面であり、肩ベルト12の断面に対応する。
【0027】
背もたれ部3の肩ベルト通し孔43に対面する位置には、上下方向に延びる1対の開口32(
図3)が設けられている。これにより、各肩ベルト12は、スライド部材4のスライド部材4の肩ベルト通し孔43、および背もたれ部3の開口32を通過する。
【0028】
特に
図2を参照して、一対の側壁部42は、その下端部が肩ベルト通し孔43よりも上方に位置し、その上端部が立壁部41の上端部と略一致することが好ましい。また、
図1を参照して、一対の側壁部42は、子供の頭部に当接する内側部42aと、子供から遠い側の外側部42bとを含む。具体的には、内側部42aは、立壁部41を向く側であり、外側部42bは、立壁部41とは反対側を向く側である。外側部42bには、一対の肩ベルト保持部5が設けられることが好ましい。肩ベルト保持部5は、肩ベルト12を開いた状態で保持する部材であるが、詳細は後述する。
【0029】
図3は、背もたれ部3の後面を示す背面図である。肩ベルト通し孔43に通される肩ベルト12の一端部12tは、肩ベルト通し孔43よりも上方へ延び、ピン33に掛け渡されることにより、ピン33から下方へ向きを変えてさらに延びる。一対の一端部12tは、スライド部材4よりも下方で、1本の調節ベルト16に連結される。このため、一対の一端部12tおよび1本の調節ベルト16はY字状に配置される。ただし、図面の理解を容易にするため、
図3では、Y字状の連結領域を図略し、各ベルトの一部のみを示す。
【0030】
ピン33は、開口32よりも上方で背もたれ部3に取付固定される。またピン33は、背もたれ部3の左側領域および右側領域にそれぞれ配置され、背もたれ部3の幅方向に延びる。なお、
図3には、開口32よりも後方に配置され、開口32の幅寸法よりも大きな形状の後方部材44を示す。後方部材44の左右領域には、肩ベルト通し孔43がそれぞれ貫通して形成される。
【0031】
図4(a)および
図4(b)は、ベルトの配置を座席本体の側方からみた模式図である。調節ベルト16の途中部分は、座面部2の中を通されて前後方向に延びる。調節ベルト16の後端は、座面部2から後方へ突出し、一対の一端部12t,12tに接続される。調節ベルト16の前端は、座面部2の前側領域の中に設けられるベルトロック機構17に通される。ベルトロック機構17は、調節ベルト16の任意の位置をロックする。また、ベルトロック機構17には、操作子18が設けられ、チャイルドシート1の操作者(子供の保護者)が操作子18を操作する間、調節ベルト16のロックを解放する。そうすると僅かな力によって調節ベルト16は後方へ移動することが可能であり、1対の肩ベルト12は長くされる。あるいは、操作者が操作子18を操作しながら調節ベルト16の前端16fを引き出すことにより、調節ベルト16は前方へ移動し、1対の肩ベルト12は短くされる。操作子18はボタンあるいはレバーであり、操作者がボタンを押す間、あるいはレバーを倒す間、調節ベルト16はベルトロック機構17に対して自由な移動を許容される。
【0032】
これにより、調節ベルト16およびベルトロック機構17は、ベルト長さ調節機構を構成する。ベルト長さ調節機構によって1対の肩ベルト12は長さを調節される。本実施形態では、操作子18を操作しない間、つまり常態で、ベルトロック機構17は調節ベルト16をロックしている。このため、調節ベルト16は、ベルトロック機構17に対して相対移動しないよう固定されている。
【0033】
図1に示すように、一対の肩ベルト12には、パッド21がそれぞれ取り付けられる。
【0034】
図5および
図6は、1対のパッド21を取り出して示す図である。特に、
図6において、理解容易の為、左側のパッド21は2つに縦折りされた状態を示し、右側のパッド21は広げた状態を示している。パッド21は、
図6に示すように、2つに縦折りされた布材であってもよいが、たとえば筒状に縫製された布材であってもよい。パッド21は、背もたれ部3(
図4)に近い上側の一端部21uと、背もたれ部から遠い下側の他端部(外側端部21t、内側端部22t)と、子供に当接する内側部分に設けられるクッション材22と、子供から遠い外側部分21vを有する。
【0035】
クッション材22と外側部分21vは、布筒(および筒孔)を構成する。肩ベルト12は、パッド21の筒孔を通過して延びる。このため、パッド21は、肩ベルト12に沿って相対的に摺動可能である。パッド21の内側部分(子供の肩に当接する面状部分)に縫着されるクッション材22は、肩ベルト12と子供の肩の当たり具合を柔らかくする。なお、本実施の形態の縫着とは、結合あるいは連結の一態様であると理解されたい。
【0036】
パッド21は、連結材23を介してスライド部材4に連結される。連結材23は、肩ベルト12に沿って上下方向に延び、連結材23の下側の一端23dがパッド21の上側の一端部に縫着される。連結材23は、肩ベルト12よりも幅狭のベルトであり、前述した肩ベルト通し孔43に通され、
図4に示すようにスライド部材4の後面まで延びる。連結材23の上側の他端23uは、環状に縫製されており、ピン45を通される。ピン45は、スライド部材4の幅方向に延び、後方部材44に附設される。
【0037】
なお、連結材23は、座席本体11のいずれかの部分に連結されて、パッド21が肩ベルト12に沿って脱落することを防止するものであればよく、スライド部材4に代えて、背もたれ部3に直接連結されていてもよい。
【0038】
図5に示すように、一対の肩ベルト12の途中位置には、係止具24がそれぞれ設けられる。係止具24は、操作者の指が通されるのに好適なリング部24rと、2本の軸部24s,24tを有する。係止具24は、パッド21からみて上側の連結材23とは反対側(下側)に配置される。
【0039】
リング部24rは、大人の指1本が入る程度の孔を構成する。リング部24rは、上述した肩ベルト保持部5に係合する役割も果たす。軸部24s,24tは、隣り合って平行に延び、これら軸部間に肩ベルト12が通される。軸部24tは、肩ベルト12よりも内側(子供に近い側)に位置する。軸部24sおよびリング部24rは、肩ベルト12よりも外側(子供から遠い側)に位置する。また、軸部24tは上側に位置し、リング部24rは下側に位置し、軸部24sは軸部24tとリング部24rの間に位置する。これにより、係止具24は、肩ベルト12に摺動可能に取り付けられる。なお、軸部24tは、その長さが肩ベルト12の幅よりもやや大きく、軸部24sとの間で、肩ベルト12の断面形状に適合する長孔を区画する。
【0040】
係止具24は、弾性部材25を介してパッド21に連結される。弾性部材25は、肩ベルト12よりも幅狭のベルトであり、パッド21の筒孔内を延びる。弾性部材25の上側の一端25uは、パッド21の上側領域に縫着される。弾性部材25の下側の他端は、環状に縫製され、係止具24の軸部24sが通される。なお、弾性部材25は、肩ベルト12の外側面に重なっている。
【0041】
弾性部材25は、たとえばゴム糸を編んでなる帯状のゴムひもであり、
図6の仮想線で示すように、弾性的に伸縮可能である。したがって、弾性部材25の他端領域は、パッド21の下側の他端部から弾性的に引き出される。
【0042】
ここで、パッド21の下側の他端部につき附言すると、
図5に示すようにパッド21の他端部は、子供の肩に当接する内側端部22tと、子供から遠い外側端部21tを含む。内側端部22tは外側端部21tよりも突出するよう舌状に形成される。弾性部材25が伸びていない原形長さで、舌状の内側端部22tが、子供の肩と係止具24の間に介在する。これにより硬質の係止具24は子供の肩に当接しない。なお、内側端部22tはクッション材22の下端部に相当する。
【0043】
弾性部材25は、係止具24が脱落しないよう規制する。これにより、係止具24はパッド21の他端部に隣接して配置される。なお、図示しない変形例として、弾性部材25の一端25uは、パッド21に代えて、連結材23の一端23dと結合していてもよい。あるいは一端25uは、背もたれ部3またはスライド部材4と結合していてもよい。
【0044】
図4(a)に示すように、パッド21のうち、子供の肩に当接する内側部分の表面には、すべり止め層21sが設けられる。すべり止め層21sは摩擦係数の高い材質、例えばゴム、であり、パッド21の内側部分に施される滑り止め加工により形成される。これによりパッド21は子供の肩をしっかりとグリップする。
【0045】
次に、肩ベルト構造の作用について説明する。
【0046】
図5に示す通常状態で、肩ベルト12は適正な長さとされる。適正な長さの肩ベルト12は、座席本体11に着座する子供(図略)の肩の前側に沿って延びる。1対の肩ベルト12の下端は、連結具15を介して股ベルト13および1対の腰ベルト14と接続し(
図1参照)、子供を拘束する。弾性部材25は、原形長さにされ、係止具24を吊り下げている。係止具24は、軸部24tを上側にし、リング部24rを下側にして、内側端部22tの外側面に接触している。
【0047】
肩ベルト12の長さが不足する場合、操作者は、一方の手で操作子18を操作しつつ、他方の手で1対の係止具24を
図4(a)の矢印で示すように引き起こし、
図4(b)中の前方Fへ引っ張るとよい。これにより、ベルトロック機構17は調節ベルト16の自由な移動を許容し、調節ベルト16は
図4(b)中の矢印で示す方向に後方へスライド移動し、肩ベルト12は肩ベルト通し孔43から背もたれ部3よりも前方へ引き出される。これにより、肩ベルト12は長くされる。なお、操作者が係止具24を引っ張る際、弾性部材25は弾性的に伸長し、係止具24は内側端部22tから離れて前方移動する。操作者が係止具24から手を放すと、弾性部材25は原形長さに復帰し、係止具24は内側端部22tの外側面に戻される。
【0048】
本実施形態によれば、肩ベルト12がパッド21で覆われているために、操作者が肩ベルト12に直接アクセスすることは困難であるが、係止具24をつかんで肩ベルト12を前方へ容易に引き出すことができる。したがって、円滑な肩ベルト長さ調節が実現し、操作者の労務が軽減される。
【0049】
肩ベルト12の長さが余る場合、操作者は一方の手で操作子18を操作しつつ、他方の手で調節ベルト16の前端16fをつかんで前方へ引っ張るとよい。これにより、ベルトロック機構17は、調節ベルト16の自由な移動を許容し、調節ベルト16は
図6中の細矢印で示す方向とは反対に前方へスライド移動し、肩ベルト12が肩ベルト通し孔43から背もたれ部3よりも後方へ引き込まれる。これにより、肩ベルト12は短くされる。
【0050】
本実施形態の肩ベルト構造は、子供が着座する座席本体11に設けられる調節ベルト16およびベルトロック機構17と、調節ベルト16およびベルトロック機構17により長さ調節される1対の肩ベルト12,12と、肩ベルト12に摺動可能に設けられる部材であって、座席本体11に着座する子供の肩に当接するパッド21と、一端が座席本体11と結合し、他端がパッド21と結合する連結材23と、肩ベルト12に摺動可能に係止して肩ベルト12を引き出す係止具24と、一端がパッド21と結合し、他端が係止具24と結合する弾性部材25とを備える。
【0051】
本実施形態の弾性部材25は、パッド21に通されて、一端がパッドの上側の一端部と結合し、他端がパッド21の下側に引き出されて係止具24の軸部24sに連結される。
【0052】
パッド21の下側の他端部は、子供の肩に当接する内側端部22tが外側端部21tよりも突出するよう舌状に形成される。弾性部材25の原形長さで、舌状の内側端部22tが係止具24よりも内側(子供に近い側)に位置する。これにより内側端部22tは、子供の肩と係止具24の間に介在し、硬質の係止具24が子供の肩に当接することを回避できる。
【0053】
図5に示すように、肩ベルト12は肩ベルト通し孔43を通されている。肩ベルト12を短くするよう調節する際、肩ベルト12は肩ベルト通し孔43を経由して背もたれ部3の後方へ引き込まれるが、1対のパッド21は弾性部材25に連結されることから肩ベルト通し孔43を通り抜けることができない。したがって、パッド21は、肩ベルト通し孔43を経由して背もたれ部3の後方へ引き込まれない。
【0054】
パッド21のうち、子供の肩に当接する内側部分の表面には、すべり止め加工が施され、すべり止め層21sが形成される。これにより子供の肩はパッド21にグリップされる。
【0055】
(肩ベルト保持部について)
図1,2および
図7(a)~(c)を参照して、肩ベルト保持部5について説明する。
【0056】
特に
図1,2に示すように、一対の肩ベルト保持部5は、スライド部材4の一対の側壁部42にそれぞれ設けられ、一対の肩ベルト12を開いた状態で保持する。具体的には、一対の肩ベルト保持部5は、一対の側壁部42の外側部42bに設けられる。これにより、一対の肩ベルト保持部5は、一対の肩ベルト通し孔43よりも外方に設けられ、肩ベルト通し孔43よりも前方に設けられる。さらに、肩ベルト保持部5は、肩ベルト通し孔43と同じ高さ、または、それよりも高い位置に設けられる。このように肩ベルト保持部5が一対の肩ベルト通し孔43よりも上方、外方、かつ前方に設けられることで、肩ベルト12の開き量を大きくすることができる。
【0057】
肩ベルト保持部5の形状の一例について説明する。肩ベルト保持部5は、側壁部42とは別の部材で設けられ、側壁部42の外側部42bに取り付けられる。肩ベルト保持部5の素材は、特に限定されないが、たとえば熱可塑性ポリウレタン(TPU)などの軟質樹脂であることが好ましい。
【0058】
図7(a)~(c)を参照して、肩ベルト保持部5は、台座部51と、台座部51から上方に立ち上がるフック部52とを含む。台座部51は、側壁部42の外側部42bに固定されている。台座部51の側壁部42への固定方法は限定されない。たとえば肩ベルト保持部5は、台座部51がネジなどの連結具で側壁部42に取り付けられていてもよいし、側壁部42のカバーに縫製により取り付けられていてもよいし、肩ベルト保持部5の台座部51がカバー内に埋め込まれ、カバーに設けられる切込みからフック部52だけが外方に突出している形状であってもよい。
【0059】
フック部52は、肩ベルト12に設けられる一対の係止具24に係合する。フック部52は、柱部53と、柱部53から後方(紙面上の右側)に向かって突出する突出部54とを有する。柱部53は係止具24が係合した場合の引っ掛かり部であり、突出部54は抜け止め部として機能する。なお、突出部54が、上下方向にて台座部51と重なる部分には、貫通孔55が設けられていてもよい。以上、肩ベルト保持部5の形状について説明したが、あくまで一例であり、肩ベルト12を保持するものであれば様々な形状を取り得る。
【0060】
(肩ベルト保持部の作用について)
次に、
図8(a)~(c)を参照して、肩ベルト12を肩ベルト保持部5に保持する方法を説明する。
【0061】
図8(a)には、座席本体11上に肩ベルト12が置かれた状態が示されている。肩ベルト12を肩ベルト保持部5に保持する際には、
図8(b)に示すように、肩ベルト12の係止具24に指を掛けて、座席本体11の外方に移動させる。係止具24は、弾性部材25を介して肩ベルト12に接続されている。そのため、係止具24の移動に追従して肩ベルト12も外方に広がる。さらに、係止具24を引っ張って、弾性部材25を弾性的に伸長させ、
図8(c)に示すように、側壁部42に設けられている肩ベルト保持部5に引っ掛けて保持させ、弾性部材25を原形長さに復帰させる。これにより、肩ベルト12を簡単に開いた状態で保持することができる。
【0062】
このように肩ベルト12を開いた状態で肩ベルト保持部5に保持させ、子供を座席本体11に着座させたり、子供を座席本体11から下ろしたりすることができる。
【0063】
これにより、子供を座席本体11に着座させたり下ろしたりする際に肩ベルト12を開いた状態で保持することができるため、肩ベルト12が子供の下敷きにならないため、子供の乗せ下ろしを容易に行うことができる。また、係止具24が弾性部材25を介して肩ベルト12に接続されているため、係止具24を肩ベルト保持部5に引っ掛ける際にその弾性的な伸縮を利用することができ、係止具24の保持を容易に行うことが可能となる。
【0064】
従来のチャイルドシートは、座席本体の側方に肩ベルトを保持するための保持部が設けられていた。そのため、子供の成長にあわせてスライド部材を上方に移動させると、肩ベルトの保持位置が肩ベルト通し孔よりもかなり下方になり、肩ベルト通し孔に対する肩ベルトの保持位置および肩ベルトの開き具合が変位してしまっていた。そのため、子供の成長に対応した構造となっておらず、使い勝手が悪かった。それに対し、本実施の形態のチャイルドシート1は、肩ベルト保持部5がスライド部材4に設けられているため、子供の成長に合わせてスライド部材4を変位させても、肩ベルト通し孔43に対する肩ベルト12の保持位置および肩ベルト12の開き具合が変位しない。そのため、子供の成長に合わせたものとなる。
【0065】
また、上述のように、本実施の形態のチャイルドシート1は、背もたれ部3をリクライニングさせることで、ベッド状態にすることが可能である。
図9では、チャイルドシート1をベッド状態にし、肩ベルト12を肩ベルト保持部5に保持した状態を示している。
図9に示すように、チャイルドシート1をベッド状態にした場合でも、肩ベルト12を肩ベルト保持部5で保持することができ、横になった子供を乗せ下ろしする際に肩ベルト12が邪魔になることがない。
【0066】
なお、本実施の形態では、肩ベルト保持部5に保持されるのは、係止具24であったが、肩ベルト12自体であってもよいし、肩ベルト12に接続されている部材、たとえばパッド21、連結材23などであってもよい。
【0067】
また、本実施の形態では、肩ベルト保持部5にフック形状の係止具24を係合させることで、肩ベルト12を開いた状態で保持していたが、その構造に限定されない。肩ベルト保持部5および肩ベルト12に設けられるのは、たとえば磁石、面ファスナなどであってもよい。すなわち、肩ベルト保持部5は、少なくとも一時的に肩ベルト12を保持する部材であればよい。
【0068】
さらに、肩ベルト保持部5が係合する部材は、肩ベルト12に間接的に設けられるものであってもよい。たとえば、スライド部材4の両側部に設けられる肩ベルト保持部5が、ループ形状のものであり、肩ベルト12にタング19が接続されており、そのタング19を肩ベルト保持部5に挿通して引っ掛けることで、肩ベルト12を開いて保持してもよい。
【0069】
また、本実施の形態の肩ベルト保持部5は、側壁部42の外側部42bに固定されていたが、側壁部42のいずれかの位置に設けられていてもよい。すなわち、内側部42aに設けられていてもよいし、内側部42aと外側部42bの境界部に設けられていてもよい。また、上述したように、スライド部材4がヘッドレストではなく、単に肩ベルト通し孔43が設けられる部材である場合は、肩ベルト保持部5は、肩ベルト通し孔43の両側部の側部領域に設けられていればよく、必ずしも一対の肩ベルト通し孔43よりも上方かつ前方に設けられていなくてもよい。
【0070】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 チャイルドシート、2 座面部、3 背もたれ部、4 スライド部材、5 肩ベルト保持部、11 座席本体、12 肩ベルト、24 係止具、25 弾性部材、41 立壁部、42 側壁部、42a 内側部、42b 外側部、43 肩ベルト通し孔。