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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024131
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】血液分離器具
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230209BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20230209BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230209BHJP
   A61B 5/15 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N1/10 B
G01N33/48 H
A61B5/15 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130233
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】511040492
【氏名又は名称】株式会社雅精工
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100188156
【弁理士】
【氏名又は名称】望月 義時
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】山川 雅己
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4C038
【Fターム(参考)】
2G045BA08
2G045BB04
2G045CA25
2G045HB02
2G045HB07
2G052AA30
2G052AD09
2G052AD29
2G052BA22
2G052DA02
2G052DA12
2G052DA15
2G052DA27
2G052EA02
2G052EA17
2G052GA29
2G052JA08
4C038TA10
4C038UB10
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で、部品の破断片が血液試料中に混入することが防止可能な血液分離器具を提供する。
【解決手段】血液分離器具1は、容器本体10と、血液分離シリンダ30と、蓋部材50とを備える。蓋部材50をねじ込んでいくと、芯棒57と血液分離シリンダ30との軸線方向の相対的な位置関係が保たれたまま、蓋部材50に押されて血液分離シリンダ30が第1の位置まで挿入され、蓋部材50をさらにねじ込んでいくと、ストッパ片35が塑性変形することにより、芯棒57が血液分離シリンダ30の奧側へと移動可能となり、蓋部材50を固定位置までねじ込むと、封止栓59が血液分離シリンダ30内の貫通孔31hに嵌合して貫通孔31hが閉止される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取された血液を収容する収容部を有する容器本体と、
筒状に形成されるとともに、血液を分離する濾過材が内部に設けられ、前記収容部に上方から挿入される血液分離シリンダと、
前記血液分離シリンダが前記収容部に挿入された状態で、前記容器本体の上端部に螺合により取り付けられる蓋部材と、を備え、
前記蓋部材をねじ込んでいくことにより前記蓋部材に押されて前記血液分離シリンダが前記収容部内へと挿入されていく間に前記濾過材によって血液が分離される血液分離器具であって、
前記蓋部材は、先端に封止栓が取り付けられた芯棒を有し、
前記血液分離シリンダは、前記蓋部材をねじ込む際に前記蓋部材に当接するストッパ片を有し、
前記蓋部材をねじ込んでいくと、前記芯棒と前記血液分離シリンダとの軸線方向の相対的な位置関係が保たれたまま、前記蓋部材に押されて前記血液分離シリンダが第1の位置まで挿入され、
前記蓋部材をさらにねじ込んでいくと、前記ストッパ片が塑性変形することにより、前記芯棒が前記血液分離シリンダの奧側へと移動可能となり、前記蓋部材を固定位置までねじ込むと、前記封止栓が前記血液分離シリンダ内の貫通孔に嵌合して前記貫通孔が閉止される、
血液分離器具。
【請求項2】
前記血液分離シリンダは円筒形状であり、
前記ストッパ片は、前記血液分離シリンダの上端部から前記蓋部材側に向かって突出するように形成されている、
請求項1に記載の血液分離器具。
【請求項3】
一対の前記ストッパ片が設けられており、
第1のストッパ片と第2のストッパ片とは、前記血液分離シリンダの円周方向に180°間隔で形成されている、
請求項2に記載の血液分離器具。
【請求項4】
前記ストッパ片は、
前記蓋部材に当接する部分である突出部と、
前記突出部と前記血液分離シリンダの円筒部とを繋ぎ、前記ストッパ片が塑性変形する際に優先的に変形するように形成された支持部と、
を有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の血液分離器具。
【請求項5】
前記ストッパ片の突出部は、前記蓋部材が固定位置に向けてねじ込まれる途中に、前記血液分離シリンダの径方向内側に向かって倒れるように構成されている、請求項4に記載の血液分離器具。
【請求項6】
前記支持部は、前記蓋部材が固定位置に向けてねじ込まれる途中に破断し、これにより前記突出部の突出量が減少して前記芯棒が前記血液分離シリンダの奧側へと移動可能となるように構成されている、
請求項4に記載の血液分離器具。
【請求項7】
前記突出部の頂部が半円形状に形成されている、請求項4から6のいずれか一項に記載の血液分離器具。
【請求項8】
前記容器本体のネジ部と前記蓋部材のネジ部とのネジ結合は、前記ネジ部どうしが噛み合ってから前記蓋部材が固定位置までねじ込まれるまで、前記蓋部材を4回転以上回す必要があるように構成されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の血液分離器具。
【請求項9】
前記封止栓は、前記封止栓が前記貫通孔にいったん嵌合した後に蓋部材を回して前記芯棒を引き抜くと、前記芯棒から外れるように構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の血液分離器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液分離器具に関し、特に、簡単な構造で、部品の破断片が血液試料中に混入することが防止可能な血液分離器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検者から採取した血液を遠心分離機を使用することなく分離することができる生体試料分離器具が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の生体試料分離器具は、採血容器とその採血容器に挿入される筒体とを有し、筒体には血液を分離する分離膜が設けられている。被検者から採取した血液を採血容器に入れ、ここに筒体を挿入していくことにより、血液が分離膜を通過し血球成分と血清または血漿とに分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-270239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の生体試料分離器具は、筒体を採血容器の奥へと移動できるようにするために、筒体を採血容器内に挿入している途中で筒体の一部の薄肉部が破断するように構成されている。しかしながら、薄肉部は筒体の径方向に拡がる円盤状の領域であり、特許文献1ではこの薄肉部をねじり切って破断させるものであるため、使用者が摘み部を回す強さ次第で薄肉部の破断の態様がばらつき、場合によっては破断片が筒体内に混入してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、遠心分離機を使用することなく血液の分離が可能な血液分離器具に関し、簡単な構造で、部品の破断片が血液試料中に混入することが防止可能な血液分離器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血液分離器具は、被検者から採取された血液を収容する収容部を有する容器本体と、
筒状に形成されるとともに、血液を分離する濾過材が内部に設けられ、前記収容部に上方から挿入される血液分離シリンダと、
前記血液分離シリンダが前記収容部に挿入された状態で、前記容器本体の上端部に螺合により取り付けられる蓋部材と、を備え、
前記蓋部材をねじ込んでいくことにより前記蓋部材に押されて前記血液分離シリンダが前記収容部内へと挿入されていく間に前記濾過材によって血液が分離される血液分離器具であって、
前記蓋部材は、先端に封止栓が取り付けられた芯棒を有し、
前記血液分離シリンダは、前記蓋部材をねじ込む際に前記蓋部材に当接するストッパ片を有し、
前記蓋部材をねじ込んでいくと、前記芯棒と前記血液分離シリンダとの軸線方向の相対的な位置関係が保たれたまま、前記蓋部材に押されて前記血液分離シリンダが第1の位置まで挿入され、
前記蓋部材をさらにねじ込んでいくと、前記ストッパ片が塑性変形することにより、前記芯棒が前記血液分離シリンダの奧側へと移動可能となり、前記蓋部材を固定位置までねじ込むと、前記封止栓が前記血液分離シリンダ内の貫通孔に嵌合して前記貫通孔が閉止される。
【0007】
本発明の一実施形態では、前記血液分離シリンダは円筒形状であり、前記ストッパ片は、前記血液分離シリンダの上端部から前記蓋部材側に向かって突出するように形成されている。
【0008】
本発明の一実施形態では、一対の前記ストッパ片が設けられており、第1のストッパ片と第2のストッパ片とは、前記血液分離シリンダの円周方向に180°間隔で形成されている。
【0009】
本発明の一実施形態では、前記ストッパ片は、前記蓋部材に当接する部分である突出部と、前記突出部と前記血液分離シリンダの円筒部とを繋ぎ、前記ストッパ片が塑性変形する際に優先的に変形するように形成された支持部と、を有する。
【0010】
本発明の一実施形態では、前記ストッパ片の突出部は、前記蓋部材が固定位置に向けてねじ込まれる途中に、前記血液分離シリンダの径方向内側に向かって倒れるように構成されている。
【0011】
本発明の一実施形態では、前記支持部は、前記蓋部材が固定位置に向けてねじ込まれる途中に破断し、これにより前記突出部の突出量が減少して前記芯棒が前記血液分離シリンダの奧側へと移動可能となるように構成されている。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記突出部の頂部が半円形状に形成されている。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記容器本体のネジ部と前記蓋部材のネジ部とのネジ結合は、前記ネジ部どうしが噛み合ってから前記蓋部材が固定位置までねじ込まれるまで、前記蓋部材を1440°以上回転させる必要があるように構成されている。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記封止栓は、前記封止栓が前記貫通孔いったん嵌合した後に蓋部材を回して前記芯棒を引き抜くと、前記芯棒から外れるように構成されている。
【0015】
(語句の説明)
血液を分離する場合、検査目的に応じて、血液は血球成分と血漿とに分離される場合と、血球成分と血清とに分離される場合とがあるが、本明細書ではこれらを詳細に区別せず例えば、「血球成分と血漿等に分離する」のように表現することもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遠心分離機を使用することなく血液の分離が可能な血液分離器具に関し、簡単な構造で、部品の破断片が血液試料中に混入することが防止可能な血液分離器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】血液分離器具の構成要素を分離して示す図である。
図2】容器本体を示す図であり、図2(a)が正面図であり、図2(b)が底面図である。
図3】血液分離シリンダを示す図であり、図3(a)が平面図であり、図3(b)が正面図である。
図4】液体分離シリンダの断面図である。
図5】血液分離器具の使用手順を示すフローチャートである。
図6】血液分離シリンダを容器本体内に挿入していく様子を示す図である。
図7】ストッパ片が径方向内側へと倒れるように変形する様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、血液分離器具の構成要素を分離して示す図である。図2は容器本体を示す図であり、図2(a)が正面図であり、図2(b)が底面図である。図3は血液分離シリンダを示す図であり、図3(a)が平面図であり、図3(b)が正面図である。図4は液体分離シリンダの断面図である。以下の説明では、図面に描かれた構成要素の方向に対応して「上下」や「左右」といった方向を示す用語を用いる。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の血液分離器具1は、容器本体10と、血液分離シリンダ30と、蓋部材50とを備えている。血液分離器具1は、被検者から採取した血液を分離する機能と、分離された血液を収容保持する機能とを有するものである。図1において、符号Axは、容器本体10、血液分離シリンダ30および蓋部材50の軸線を示している。図1から理解されるように、本実施形態では、血液分離器具1は、組立てた状態で、容器本体10、血液分離シリンダ30および蓋部材50は同軸となるように構成されている。
【0020】
容器本体10は、図1および図2に示すように全体として円筒状に形成されて、内部に収容部15が設けられている。容器本体10は、一例として樹脂材料で形成されている。本実施形態では樹脂材料は透明である。収容部15は、略円柱状の空間である。収容部15の内部には隔壁17が形成されており、この隔壁17が収容部15の底面を構成している。本実施形態では、隔壁17は、平板状ではなく、なだらかにカーブした凹面状に形成されている。
【0021】
収容部15の内径は一定であってもよいが、本実施形態では、収容部15の内壁がわずかにテーパ状に形成され、収容部15の内径が隔壁17に近づくにつれて徐々に小さくなるように設けられている。収容部15には、被検者から採取された血液が収容される。収容部15には、予め所定量の緩衝液が収容されていてもよい。
【0022】
収容部15の上端部は開口しており、容器本体10の上端部外周には螺旋状のネジ山を有するネジ部13が形成されている。このネジ部13は、後述する蓋部材50のネジ部(詳細な図示は省略する)と螺合するように形成されており、これにより、蓋部材50を容器本体10に螺合させて取り付けることができるようになっている。
【0023】
容器本体10の内部において隔壁17の下方にはリブ19が形成され、これにより隔壁17が補強されている。リブ19は特定の形状に限定されるものではないが、例えば、十時形状に形成されていてもよい。
【0024】
血液分離シリンダ30は、容器本体10内に挿入される部材であり、図3および図4に示すように全体として細長い円筒形状に形成されている。血液分離シリンダ30の内部空間31内には、液体成分収容部32、濾過材収容部33、および、貫通孔31hが設けられている。
【0025】
液体成分収容部32は、血液分離シリンダ30の筒内に設けられた円筒状の空間であり、図4に示すように、第1の空間32aと、その下方に形成された相対的に小さい内径に形成された第2の空間32bとを有している。
【0026】
貫通孔31hは、血液分離シリンダ30の筒内に形成された環状突出部34のところに形成されている。環状突出部34は、血液分離シリンダ30の筒内の内周面から径方向内側に向かって張り出すように形成された部分である。貫通孔31hは、図3(b)に示すように、輪郭が円形の孔である。貫通孔31hの中心の位置は、血液分離シリンダ30の筒の軸線Axと一致している。環状突出部34は、後述するように、蓋部材50の芯棒57の先端に設けられた封止栓59が押し付けられる構造部である。封止栓59による密閉性が高まるように、環状突出部34には、逆円錐台状のテーパ面34sが形成されていてもよい。
【0027】
濾過材収容部33は、血液分離シリンダ30の筒内の下端部に形成されている。濾過材収容部33は円柱状の空間であり、貫通孔31hを介して液体成分収容部32と連通している。濾過材収容部33に配置される濾過材21は、血液中の血漿または血清の通過は許容するが血球成分の通過は許容しない材質で形成されている。濾過材21は例えば分離膜であってもよい。
【0028】
血液分離シリンダ30の下端部外周には、図4に示すようにゴム製のガスケット42が取り付けられる。ガスケット42は、血液分離シリンダ30を容器本体10内に挿入していく際に、血液が血液分離シリンダ30の外周面と容器本体10の内周面との間を通って漏出しないようにするための部材である。ガスケット42自体の断面形状は特に限定されるものではなく、例えば外周面に適宜リブ状の環状突起等を設けてもよい。
【0029】
続いて、血液分離シリンダ30の外周部および上端部に設けられた構造部について説明する。
【0030】
血液分離シリンダ30の外周部には、1つまたは複数のフランジ部38(図3参照)が形成されている。この例では、第1のフランジ部38aおよび第2のフランジ38bが形成されている。下方に位置する第1のフランジ部38aは、血液分離シリンダ30を容器本体10に挿入したときに容器本体10の周壁上端部に当接し、血液分離シリンダ30と容器本体10との軸線方向の相対的な移動を規制する機能を有する。
【0031】
血液分離シリンダ30の上端部には、また、一対のストッパ片35-1、35-2(単にストッパ片35ともいう)が形成されている。各ストッパ片35-1、35-2は、血液分離器具1の組立時に蓋部材50側となる方向に向かって突出している。一対のストッパ片35-1、35-2は図3(b)に示すように、この例では、血液分離シリンダの円周方向に沿って180°間隔に形成されている。別の言い方をすれば、2つのストッパ片35-1、35-2は円周方向に等間隔に形成されている。ストッパ片35は、血液分離の最終段階まで、後述する封止栓59が貫通孔35hに挿入されることを防止し、血液分離の最中に、分離された血漿等が液体成分収容部32内に流入できる状態を保つ役割を果たす。一対のストッパ片35-1、35-2はこの例では同形状である。
【0032】
ストッパ片35は、より具体的には図3(b)に示すように、血液分離シリンダ30の上端部から上方に向かって突き出した突出部35aと、その突出部35aと血液分離シリンダ30の円筒部とを繋ぐ支持部35bとを有している。突出部35aは、板状に形成され、その上端は半円形状のR部となっている。
【0033】
突出部35aの上端部は、後述するように蓋部材50の内面に対して擦れながら動く部分である。したがって、スムースに摺動するようにこのようなR部が形成されていることが好ましい。このような形状の場合、突出部35aの頂部が蓋部材50の内面に対して点接触することとなるので、スムースな摺動が実現される。図4の断面図に示すように、ストッパ片35の頂部にR部35rが形成されていてもよい。
【0034】
支持部35bの機能は、突出部35aに対して鉛直下方(血液分離シリンダ30の軸方向下向き)に所定以上の力がかかったときにこの部分が優先的に塑性変形してストッパ片35-1、35-2を径方向内向きに変形させるというものである。このような機能を有するものであれば、支持部35bはどのような形状であってもよい。図3(a)の例では、突出部35aの下方に開口部37が形成されるとともに、突出部35aはその上方に位置し、左右両側に2つの支持部35bによって突出部35aが血液分離シリンダ30の円筒部に接続された状態となっている。血液分離シリンダ30の円筒部上面から突出部35aが突出する高さは、製品全体のサイズ等にもよるが、例えば1mm~10mm(1mm以上10mm以下)の範囲内、特には、2mm~5mmの範囲内であることが好ましい。
【0035】
蓋部材50は、図1に示すように、蓋本体55と、芯棒57と、封止栓59とを有している。
【0036】
蓋本体55は、血液分離シリンダ30の上端開口部を塞ぐ部材であり、上面部51と、その上面から下向きに形成された円筒状の周壁部52と、芯棒57を支持する支持部53とを有している。周壁部52の内周面には、ネジ部(詳細な図示は省略する)が形成されており、このネジ部が血液分離シリンダ30のネジ部13に螺合する。
【0037】
上面部51の内面51aは平らな面として形成されている。図示は省略するが、内面51aは蓋本体55を下面側から見たときに円環状に形成されている。内面51aは、後述するように、蓋部材50を血液分離シリンダ30に取り付ける際に突出部35aの先端部(図3参照)が摺動する面である。
【0038】
芯棒57は、蓋部材50の軸線Axの方向に沿ってまっすぐ延びている。限定されるものではないが、芯棒57は、蓋本体55とは別体に形成され支持部53に保持されるものであってもよい。または、芯棒57は、蓋部材50の一部として設けられたものであってもよい。
【0039】
芯棒57の先端には、封止栓59が取り付けられている。封止栓59は、例えば弾性を有する樹脂材料で形成されてる。封止栓59は、貫通孔31hに挿入されてその孔を塞ぐ部材である。
【0040】
芯棒57と封止栓59とは、例えば、芯棒57の先端が封止栓59に形成された円柱状の穴に挿入されることにより接続されるものであってもよい。一方、封止栓59が貫通孔31hに挿入された後、芯棒57を引き抜くと、封止栓59は貫通孔31hから外れずに、芯棒57の先端が封止栓59の穴から抜けるように形成されていてもよい。これにより、被検者の血液を分離したままの状態で検査に供することが可能となる。
【0041】
(血液分離器具の使用手順)
上述のように構成された血液分離器具1の使用手順について、以下、図5図8も参照しながら説明する。図5は、血液分離器具1の使用手順を示すフローチャートである。以下では、使用者が自身の血液を採取して血液分離器具1に収納する手順について説明する。使用前の状態では、不図示のランセットおよび微量定量採血器等が用意されているものとする。なお、採取のための器具は特定のものに限定される必要はないが、例えば特許第5909470号等の微量定量採血器を使用してもよい。
【0042】
まず、ステップS1において、使用者はランセットにより指先を微小針で刺し、血液を流出させ、上記の微量定量血液定量採取器で採取する。使用者は、採取した血液を、微量定量血液採取器の先端のスポイト部を押すことによって、容器本体10に移して緩衝液と混合させる。
【0043】
次いで、ステップ2において、使用者は、先端に封止栓59を有する芯棒57を血液分離シリンダ30に差し込み、蓋部材50と共に血液分離シリンダ30を容器本体10内に挿入する。血液分離シリンダ30が容器本体10内にある程度の位置まで挿入されるまでは、蓋部材50のネジ部(不図示)と容器本体10のネジ部13とが噛み合う状態とならないため、使用者は手で蓋部材50を押し、血液分離シリンダ30を容器本体10内に押し込んでいく。
【0044】
図6(a)は、ストッパ片35の頂部と蓋部材50の内面51aとが当接しているが、封止栓59は貫通孔31hを未だ閉止していない状態を示している。血液分離シリンダ30および蓋部材50は、蓋部材50のネジ部(不図示)が容器本体10のネジ部13に噛み合う位置まで押し下げられる。
【0045】
次いで、ステップ3において、蓋部材50をねじ込んで血液分離シリンダ30を容器本体10内に挿入していく。具体的には、蓋部材50を容器本体10のネジ部13に対してねじ込んでいくと、蓋部材50に押されて血液分離シリンダ30がゆっくりと下方に押し下げられていく。この際、血液分離シリンダ30は軸線Ax周りには回転することなく、下方に向かってのみ移動する。一方、蓋部材50は軸線Ax周りに回転するので、ストッパ片35の頂部と蓋部材50の内面51aとは互いに擦れながら相対的に回転することとなる。
【0046】
血液分離シリンダ30がゆっくりと下方に押し下げられていく際に、容器本体10内に収容されていた血液と緩衝液との混合物が、濾過材21を通過する。混合物のうち、液体成分である血漿または血清が濾過材21を通過して、貫通孔31hを通って血液分離シリンダ30内へと少しずつ流れ込む。血球成分は濾過材21によって移動が阻止され、血液分離シリンダ30の先端と容器本体10の収容部15と間にとどまる。例えば血液分離シリンダ30を使用者が手で容器本体10内に押し込むような構成とは異なり、血液分離に際して混合液に略均一な圧力が加わるので溶血の発生も防止される。
【0047】
血液分離シリンダ30の移動速度は、混合物が濾過材21を通過する速度に対応している。仮に、ネジ結合を利用することなく、血液分離シリンダ30を単に使用者が手で押して挿入していく方式の場合、血液分離シリンダ30の移動速度が速くなりすぎて溶血が生じる可能性もある。これに対して、本実施形態の構成では、蓋部材50と容器本体10のネジ部13とのネジ結合を利用してゆっくりと血液分離シリンダ30を押し込んでいく方式であるので、溶血の問題を生じさせることなく、血液を良好に分離することができる。
【0048】
ステップS3の挿入工程は、血液分離シリンダ30が容器本体10内の第1の位置に移動するまで行われる。ここで、「第1の位置」とは、血液分離シリンダ30の外周のフランジ部38aが容器本体10のネジ部13の上端に当接して、血液分離シリンダ30を容器本体10内にそれ以上押し込めなくなった状態である。
【0049】
次いで、ステップ4において、上記の状態から蓋部材50をさらにねじ込む。この状態では、血液分離シリンダ30の移動はフランジ部38によって規制されているので、蓋部材50の回転にともなって蓋部材50が血液分離シリンダ30に強く押し付けられていくこととなる。
【0050】
蓋部材50をねじ込んでいくと、図6(b)に示すように、蓋部材50の内面51aがストッパ片35に押し当たって、徐々にストッパ片35が塑性変形していく。具体的には、ストッパ片35は、図7に示すように、一対の突出部35aが径方向内側(シリンダの中心側)に向かって倒れるように変形する。この変形によって、寸法h分だけ血液分離シリンダ30の全長が短くなる。したがって、蓋部材50を寸法h分だけ容器本体10側に移動させることが可能となる(図7は変形を分かり易く示すため、ストッパ片35が途中まで倒れた状態を示している。最終的には、ストッパ片35はほぼ直角になるまで倒れる構成であってもよい。この場合、ストッパ片35の高さとほぼ同じ寸法h分だけ、蓋部材50を移動させることが可能となる)。
【0051】
なお、ストッパ片35の変形は、具体的には、支持部35bのみが塑性変形することによって突出部35aが径方向内側に向かって移動する(突出部35a自体の形状は変わらない)態様であってもよいし、または、突出部35a自体も変形しながら(例えば突出部35aが頂部側から徐々に径方向内側に曲がるように変形する)ストッパ片35が徐々に変形していく態様であってもよい。突出部35aが径方向内側に倒れる原理としては、例えば、突出部35aの頂部が蓋部材50の側壁内面に押し付けられて変形することによるものであってもよい。なお、本発明としては他にも、ストッパ片35が蓋部材50の内面51aに押し付けられた後、一方または両方の支持部35bが破断し、突出部35aがそのまま下方に潰れるような構成であってよい。具体的には、突出部35aは開口部37内へ入り込むように下方へと移動する。
【0052】
蓋部材50を、このようにストッパ片35を変形させながらねじ込んでいくと、図7(b)に示すように、芯棒57の先端の封止栓59が貫通孔31hまで移動し、最終的に、封止栓59が貫通孔31h内に圧入され、貫通孔31hが閉じられる(ステップS5、この位置を「第2の位置」とする)。ここまでの工程により、血液の分離および封入が完了する。
【0053】
なお、本実施形態の構成では、前述したように容器本体10の隔壁17がなだらかにカーブした凹面状に形成されている。したがって、隔壁17内面とシリンダ30先端の濾過材21との間、分離膜内に残置される血液および緩衝剤の量(デッドボリューム)が少なくなる。
【0054】
次いで、ステップS6において、血液分離器具1が検査センター等に輸送される。その後、ステップS7において、医療従事者が血液分離器具1の蓋部材50を回して外す。この際、芯棒57の先端の封止栓59は芯棒57から外れて貫通孔31hが閉止された状態が維持されるので、血液は分離したままの状態となる。その後、血球成分、および、血漿または血清がそれぞれ所定の分析機器を用いて分析される。
【0055】
以上説明した本実施形態の血液分離器具1では、血液分離シリンダ30の上端部に形成されたストッパ片35が、(i)血液分離の最終段階までは封止栓59を貫通孔31hの手前に位置させ、かつ、(ii)血液分離の後は、封止栓59を移動できるようにし貫通孔31hの閉止を可能にする機能を有している。ストッパ片35が塑性変形することにより、封止栓59による貫通孔31hの閉止が可能となるが、ストッパ片35は、蓋部材50から軸線方向の力を受けてゆっくりと変形するものであるので、ストッパ片35の破断片が生じにくく、その結果、破断片が血液試料中に混入することが防止される。
【0056】
また、ストッパ片35は、血液分離シリンダ30の周壁上端部に一体的に形成されたものであるので、上記のような機能を簡単な構造で実現することができる。
【0057】
なお、本実施形態の血液分離シリンダは、上記の構造のため、比較的安価であるとともに、ユーザーの操作が簡単であり、個人差がほとんど生じることなしに、検査に必要な量の血清が所定期間確保されるという効果が得られる。
【0058】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく種々変更可能である。例えば、ストッパ片35は、上記実施形態では2つのみであったが、3つまたは4つ以上の複数のストッパ片35が形成されていてもよい。
【0059】
ストッパ片35の頂部の形状(図3(b)参照)は、半円状に限らず、先端側に近づくにつれて幅寸法が徐々に短くなる他の形状としてもよい。例えば、三角形型としてもよい。ストッパ片35の厚みについて、例えば、突出部35aの厚みは全体にわたって一定であってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、先端側がより変形しやすいように、突出部35aの先端側ほど厚みが薄くなるように形成されていてもよい。
【0060】
容器本体10のネジ部13と蓋部材50のネジ部(不図示)とのネジ結合は、例えば、ネジ部どうしが噛み合ってから蓋部材50が固定位置までねじ込まれるまでに、蓋部材50を4回転以上(または、4.5回転以上)回す必要がある構成としてもよい。また、ネジ山のピッチは、製品の全体サイズに応じて適宜設定可能ではあるものの、例えば0.5mmから1.5mmの範囲内としてもよい。このような構成によれば、蓋部材50を回した際に血液分離シリンダ30をゆっくりと進行させることができる。また、仮に何らかの原因で蓋部材50が固定位置から緩んで少し回転したとしても、内容物が漏出する位置となるまでは十分なストロークが確保されているので漏出が発生する可能性もない。
【0061】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0062】
1 血液分離器具
10 容器本体
13 ネジ部
15 収容部
17 隔壁
19 リブ
21 濾過材
30 血液分離シリンダ
31 内部空間
31h 貫通孔
32 液体成分収容部
33 濾過材収容部
34 環状突出部
34s テーパ面
35 ストッパ片
35a 突出部
35b 支持部
35h 貫通孔
37 開口部
38 フランジ部
42 ガスケット
50 蓋部材
51 上面部
51a 内面
52 周壁部
53 支持部
55 蓋本体
55h 貫通孔
57 芯棒
59 封止栓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7