(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024140
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】押出成形方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/243 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
C22B1/243
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130252
(22)【出願日】2021-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤坂 岳之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001BA14
4K001CA30
(57)【要約】
【課題】非焼成塊成鉱を押出成形法により製造するプロセスにおいて、押出成形時の原料の適正な粒度を決定する方法を提供する。
【課題手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鉄系原料を含む原料の押出成形方法であって、動的付着性と押出成形の態様との相関を特定するための評価用原料を準備する工程と、押出成形が正常に行われる際の評価用原料の動的付着性を動的付着性の適正範囲として求める工程と、使用予定原料の動的付着性が適正範囲内となるように、使用予定原料の押出成形時の粒度を決定する工程と、を含むことを特徴とする、押出成形方法が提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系原料を含む原料の押出成形方法であって、
動的付着性と押出成形の態様との相関を特定するための評価用原料を準備する工程と、
押出成形が正常に行われる際の評価用原料の動的付着性を前記動的付着性の適正範囲として求める工程と、
使用予定である使用予定原料の動的付着性が前記適正範囲内となるように、前記使用予定原料の押出成形時の粒度を決定する工程と、を含むことを特徴とする、押出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粉状の鉄鉱石や製鉄所内で発生するダストを塊成化する方法として、焼結法や焼成ペレット法が一般に用いられているが、省エネルギーの観点から焼成工程を必要としない非焼成塊成化法も用いられている。非焼成塊成化法では、その製造物となる非焼成塊成鉱に高炉での使用に耐え得る強度を発現させるために、結合剤としてセメントが用いられる。非焼成塊成化法における主な成形方法として転動造粒法や押出成形法が知られている。これらの方法のうち、押出成形法はより強固な成形体を得ることができるので有効な方法である。押出成形法では、押出成形機(例えばスクリュー式押出成形機等)に非焼成塊成鉱用の原料を投入すると、押出成形機内で原料が所定方向に押し出されつつ圧密(造粒)され、成形体として排出される。得られた成形体は所定の期間養生され、セメントの水和にともなう硬化作用により強度が発現し、非焼成塊成鉱となる。ここに、押出成形法で安定的に成形体を生産するためには、原料の粒度調整が重要となる。
【0003】
より具体的に説明すると、押出成形法では、原料の粒度が大きく(粗く)なりすぎると、原料の可塑性が低下し、成形体の形状が維持できず、成形体の歩留まりが低下する。一方、原料の粒度が小さく(細かく)なりすぎると、原料の投入口や押出成形機の内壁面に原料が付着するという問題が発生しうる。原料の投入口や押出成形機の内壁面に付着した原料は、セメントの硬化作用により徐々に成長し、原料供給に悪影響を及ぼす。例えば、原料の投入口が原料の付着物で閉塞される。このため、原料の付着物を除去するために清掃作業が必要になる。この結果として生産性が低下する。このため、押出成形法で安定的に成形体を生産するためには原料の粒度を適正範囲に調整する必要がある。原料の粒度を適正範囲に調整することができれば、上述した問題を回避しつつ、成形体を安定して製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-31768号公報
【特許文献2】特開2006-322058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、粒度の適正範囲は原料の種類、配合割合等に応じて様々に変動するため、原料が変化した場合には試行錯誤的に粒度を調整しなければならず、生産トラブル(すなわち上述した問題)が度々発生するという問題があった。なお、特許文献1、2には非焼成塊成鉱の製造方法に関する技術が開示されているものの、原料の粒度を適正範囲に調整するということに関しては何ら記載がなく、示唆もされていない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、非焼成塊成鉱を押出成形法により製造するプロセスにおいて、押出成形時の原料の適正な粒度を決定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鉄系原料を含む原料の押出成形方法であって、動的付着性と押出成形の態様との相関を特定するための評価用原料を準備する工程と、押出成形が正常に行われる際の評価用原料の動的付着性を動的付着性の適正範囲として求める工程と、使用予定原料の動的付着性が適正範囲内となるように、使用予定原料の押出成形時の粒度を決定する工程と、を含むことを特徴とする、押出成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の上記観点によれば、非焼成塊成鉱を押出成形法により製造するプロセスにおいて、押出成形時の原料の適正な粒度を決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】押出成形機の一例であるスクリュー式押出成形機の概要を示す模式図である。
【
図2】押出成形機の一例であるローラー式押出成形機の概要を示す模式図である。
【
図3】原料の粒度の適正範囲の一例を示すグラフである。
【
図4】原料のメジアン径と動的付着性との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施形態で使用される各原料は多数の粒子の集合体となっている。特に断りがない限り、各原料の原料名はその原料を構成する粒子の集合体を意味するものとする。また、「~」を用いて表される数値限定範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。
【0011】
<1.押出成形工程>
本実施形態は、押出成形工程において成形体が正常に形成されるように、原料の粒度を調整するものである。そこで、押出成形工程について簡単に説明する。押出成形工程は、押出成形機を用いて成型品を押出成形する工程である。
【0012】
本実施形態で使用対象となる原料(使用予定原料)は、一般に非焼成塊成鉱の製造に用いられるものであればどのようなものであってもよく、鉄系原料を含む。使用予定原料は、例えば鉄鉱石、コークス粉、製鉄ダストを含み、結合剤としてセメントを含む。原料は、通常、押出成形機に投入される前に、粒径が1mm以下となるようにボールミル等で粉砕される。粉砕された原料は押出成形に適した水分で調湿され、押出成形機で成形される。本実施形態では、原料の粒度を適正な範囲内とするものである。得られた成形体は所定の期間養生され、セメント水和反応の硬化作用により強度が発現し、非焼成塊成鉱となる。
【0013】
押出成形機としては、例えば
図1に示すスクリュー式押出成形機1A、
図2に示すローラー式押出成形機1B等が挙げられる。スクリュー式押出成形機1Aは、本体部10と、原料投入口11と、スクリュー12と、ダイス13を備える。本体部10は、中空構造となっており、
図1中左右方向に延びている。本体部10の一方の端部は閉塞されており、他方の端部にダイス13が設けられている。原料投入口11は、本体部10の閉塞側の端部の上側に設けられており、原料投入口11から原料Xが本体部10内、すなわちスクリュー式押出成形機1A内に投入される。スクリュー12は本体部10内に設置されており、矢印A方向に回転する。これにより、本体部10内の原料Xは、
図1中右方向に押し出されつつ圧密(造粒)され、ダイス13から成形体Yとして排出される。ダイス13には隙間13aが形成されており、この隙間13aから成形体Yが排出される。ここに、原料Xの粒度が大きく(粗く)なりすぎると、原料Xの可塑性が低下し、成形体Yの形状が維持できず、成形体Yの歩留まりが低下する。一方、原料Xの粒度が小さく(細かく)なりすぎると、原料投入口11や押出成形機1Aの内壁面に原料Xが付着するという問題が発生しうる。原料投入口11や押出成形機1Aの内壁面に付着した原料Xは、セメントの硬化作用により徐々に成長し、原料供給に悪影響を及ぼす。例えば、原料投入口11が原料Xの付着物で閉塞される。このため、原料Xの付着物を除去するために清掃作業が必要になる。この結果として生産性が低下する。
【0014】
図2に示すローラー式押出成形機1Bは、本体部20と、原料投入口21と、回転ローラー22aと、回転軸22bと、ダイス23を備える。本体部20は円筒形状となっており、上端面が開口している。この開口面は原料投入口21となっている。本体部20の下端面にはダイス23が設けられている。原料投入口21から原料Xが本体部20内、すなわちローラー式押出成形機1B内に投入される。回転軸22bは、本体部20内に挿入されており、矢印B方向に回転する。回転ローラー22aは、回転軸22bの回転に連動して駆動し、本体部20の内周面に沿って回転する。これにより、本体部20内の原料Xは、
図2中下方向に押し出されつつ圧密(造粒)され、ダイス23から成形体Yとして排出される。ダイス23には隙間23aが形成されており、この隙間23aから成形体Yが排出される。ここに、原料Xの粒度が大きく(粗く)なりすぎると、原料Xの可塑性が低下し、成形体Yの形状が維持できず、成形体Yの歩留まりが低下する。一方、原料Xの粒度が小さく(細かく)なりすぎると、原料投入口21や押出成形機1Bの内壁面に原料Xが付着するという問題が発生しうる。原料投入口21や押出成形機1Bの内壁面に付着した原料Xは、セメントの硬化作用により徐々に成長し、原料供給に悪影響を及ぼす。例えば、原料投入口21が原料Xの付着物で閉塞される。このため、原料Xの付着物を除去するために清掃作業が必要になる。この結果として生産性が低下する。本実施形態に係る押出成形方法は、上記の問題が生じうる押出成形機に好適に適用される。したがって、上記の問題が生じうる押出成形機であれば、上述したスクリュー式押出成形機1A及びローラー式押出成形機1B以外の押出成形機にも本実施形態に係る押出成形方法が好適に適用される。
【0015】
<2.動的付着性>
押出成形に用いられる原料には押出成形機から排出可能な程度の流動性が求められる。また、押出成形機内での原料付着を抑制する観点からも原料の流動性が高いことが望ましい。一方、原料の流動性が高すぎると成形体が形成されなくなるため、原料には適度な付着性も求められる。
【0016】
本発明者は、原料の付着と成形のいずれも原料が流動した状態での現象であることに着目し、事前に原料の動的な状態での付着性(動的付着性)を評価することで原料の粒度の適正範囲を決定する方法を考案した。その概要は以下である。
【0017】
本実施形態では、まず、動的付着性を評価するための原料(評価用原料)を準備する。ついで、押出成形が正常に行われるときと、押出成形に異常が発生したとき(すなわち、上述したように成形体の形状が維持できない、原料投入口や押出成形機の内壁面に付着した原料がセメントの硬化作用により徐々に成長し、原料供給に悪影響を及ぼす等)とのそれぞれで原料を採取する。ついで、原料の動的付着性を測定する。そして、これらの結果に基づいて、動的付着性の適正範囲を求める。
【0018】
ついで、押出成形で使用予定の原料(使用予定原料)を事前に採取し、原料の粒度を変化させて動的付着性を測定する。そして、動的付着性が適正範囲内となる原料の粒度を決定する。
【0019】
ここに、動的付着性の適正範囲の下限値は、成形体が形成可能な動的付着性の最小値に対応する。動的付着性の適正範囲の上限値は、押出成形機内で原料が付着しない(押出成形機内で原料が成長しない)ときの動的付着性の最大値に対応する。これらは成形体が形成されなかったときと押出成形機内で原料付着が発生したときの原料の動的付着性を測定することで求められる。
【0020】
つぎに、動的付着性の測定方法について説明する。動的付着性は、粉体原料の流動性を評価するための指標の1種であり、その測定方法は、例えば非特許文献1(長島ら、「通気および撹拌による動的流動特性に基づいた微粉体の流動性の評価」、粉体工学会誌、第52巻(2015)、第10号、576-584)、非特許文献2(Reg Freeman、“Measuring the flow properties of consolidated, conditioned and aerated powders - A comparative study using a powder rheometer and a rotational shear cell”,Powder Technology 174(2007) 25-33)に開示されている。
【0021】
本実施形態では、以下の方法で原料の動的付着性を測定する。まず、直径(内径)25mm、高さ50mmの円筒状容器に測定対象の原料(評価用原料)を充填し、高さ50mmですり切り、充填層を作製する。次に、回転するブレードを充填層内に降下させる。ここに、ブレード先端(ここでは径方向の外縁端部)が100mm/sの速度でらせん軌道を描くようにブレードを回転させながら充填層内に降下、侵入させる。その一方で、ブレードの回転軸に作用するトルクT及び垂直荷重Fが連続的に測定される。次に、以下の数式(1)により流動エネルギーEを算出する。数式(1)から明らかな通り、流動エネルギーEはブレードが回転方向及び垂直方向に移動する際の仕事量の和で定義される。
【0022】
垂直方向の仕事量は回転方向の仕事量に比べて小さいので、簡易的には、流動エネルギーEを回転方向の仕事量のみで定義してもよい。しかし、流動エネルギーEを回転方向及び垂直方向の両方の仕事量の和とすることで、より精度よく原料の動的付着性を評価できる。
【0023】
【0024】
数式(1)において、TおよびFが、それぞれ、前述のように計測されたブレードの回転軸に作用するトルクおよび垂直荷重である。また、Rはブレード半径、αはブレードの先端軌跡と水平面とがなす角度(らせん角度)、H1、H2は充填層の高さ位置であり、それぞれR=11.75mm、α=5°、H1=5mm、H2=50mmとする。もちろん、パラメータの具体的な値はこれらに限定されない。
【0025】
なお、流動エネルギーEの測定値は、原料の充填状態が不均一であると大きくばらつく傾向がある。そこで、回転するブレードを充填層内で上下に繰り返し往復させ、上昇時と下降時の流動エネルギーEをそれぞれ数式(1)に基づいて測定する。回転するブレードを充填層内で繰り返し往復させることで充填層がほぼ均質となる。そこで、6往復目と7往復目のブレード上昇時の流動エネルギーEを取得し、これらの平均値を流動エネルギーEとする。なお、ブレード上昇時の流動エネルギーEを採用している理由は、ブレード下降時の流動エネルギーEにはブレードが原料を押し込む力(圧密力)の影響が含まれているためである。すなわち、押出成形機の内壁面(例えば原料投入口の内壁面)に付着する原料には圧密力はほとんど加わらない。このため、圧密力がほとんど加わらない状態での押出成形機の内壁面への付着性を評価する指標としてブレード上昇時のほうがより適切であると言える。なお、上述した例では、流動エネルギーEを常に測定していたが、6往復目と7往復目のブレード上昇時の流動エネルギーEのみ測定してもよい。また、他の往復目のブレード上昇時の流動エネルギーEを採用してもよい。圧密力の影響が含まれることになるが、ブレード下降時の流動エネルギーEを採用してもよい。以下の説明では、流動エネルギーEは、6往復目と7往復目のブレード上昇時の流動エネルギーEを取得し、これらの平均値を流動エネルギーEとして求めることで得られたものとする。
【0026】
さらに、流動エネルギーEは測定時の原料の重量にも依存する。そこで、重量による影響を排除するために原料1g当たりの流動エネルギーEを動的付着性として用いる。したがって、動的付着性は、外部荷重がない状態の湿潤粉体(原料)の流動しにくさを示す。動的付着性の数値が大きいほど原料が流動しにくいことを意味する。
【0027】
<3.実施形態の詳細な説明>
次に、本実施形態に係る押出成形方法について詳細に説明する。本実施形態に係る押出成形方法は、評価用原料の押出成形が正常に行われる際の動的付着性の適正範囲を求める工程(ステップ1)と、使用予定原料の動的付着性が上記適正範囲内となるように、使用予定原料の粒度範囲を決定する工程(ステップ2)を含む。
【0028】
(ステップ1)動的付着性の適正範囲の決定
まず、動的付着性と押出成形の態様との相関を特定するための評価用原料を準備する。評価用原料は、非焼成塊成鉱の原料となりうるものであればどのようなものであってもよい。評価用原料は、実際は、複数の原料(鉄鉱石粉、焼結集塵ダスト、コークス粉、及び早強セメント等)の配合原料となっている。評価用原料は、可能であれば複数種類準備する。ついで、評価用原料を構成する各原料の配合率、粒度、水分量等を任意に変更して押出成形を行う。そして、少なくとも1回以上、押出成形が正常に行われるときと、成形体が形成されないときと、押出成形機の内壁面に付着物が成長するときの評価用原料をそれぞれ採取し、それらの動的付着性を測定する。動的付着性の適正範囲の下限値は、押出成形が正常なときの動的付着性の最小値Aminと成形体が形成されないときの動的付着性の最大値Bmaxの平均値として求めることができる。また、動的付着性の適正範囲の上限値は、押出成形が正常なときの動的付着性の最大値Amaxと装置内壁面に付着物が成長するときの動的付着性の最小値Cminの平均値として求めることができる。
【0029】
ここに、押出成形機の内壁面に付着物が成長しているか否かは、例えば原料投入口を目視することで確認することができる。また、押出成形機の内壁面に付着物が成長するとき、押出成形の成否は問われない。また、「押出成形が正常に行われるとき」とは、成形体が形成されないとき、及び押出成形機の内壁面に付着物が成長するときのいずれにも該当しない場合を意味する。すなわち、「押出成形が正常に行われるとき」とは、概略的には、成形体が形成され、かつ押出成形機の内壁面に付着物が成長しない状態を意味する。
【0030】
測定結果の一例を
図3に示す。横軸は押出成形が正常に行われるときと、成形体が形成できないときと、押出成形機の内壁面に付着物が成長するときをそれぞれ示し、縦軸は原料の動的付着性(原料1g当たりの流動エネルギー(mJ/g))を示す。点P1は押出成形が正常に行われるときの動的付着性を示し、点P2は成形体が形成できないときの動的付着性を示し、点P3は押出成形機の内壁面に付着物が成長するときの動的付着性を示す。
図3の例では、押出成形の状況ごとに原料の流動エネルギーを5回測定している。
【0031】
ついで、押出成形が正常に行われるときの動的付着性の最小値Aminと成形体が形成できないときの動的付着性の最大値Bmaxの算術平均値を適正範囲の下限値として求める。さらに、押出成形が正常に行われるときの動的付着性の最大値Amaxと押出成形機の内壁面に付着物が成長するときの動的付着性の最小値Cminの算術平均値を適正範囲の上限値として求める。
図3のグラフL1は、適正範囲の下限値を示し、グラフL2は適正範囲の上限値を示す。したがって、グラフL1、L2の間の領域が適正範囲となる。この例では、概ね13~18mJ/gが動的付着性の適正範囲となる。もちろん、適正範囲の求め方はこの方法に限られない。
【0032】
(ステップ2)原料の粒度の決定
ついで、新たに押出成形で使用予定の原料(使用予定原料。実際は複数の原料を配合した配合原料)の粒度を変化させて動的付着性を測定する。そして、動的付着性がステップ1で求めた適正範囲内になるように使用予定原料の粒度を調整する。ここに、原料の粒度は例えばレーザー回折散乱法または篩分けによる分級により測定される。いずれの測定方法でも、原料の粒度はメジアン径D50(積算50%粒子径)とすることが好ましい。ここに、原料の粒度をレーザー回折散乱法で求めた場合、50%粒子径は体積基準の粒子径となる。原料の粒度を篩分けで測定した場合、50%粒子径は重量基準の粒子径となる。結果の一例を
図4に示す。
図4の横軸は原料のメジアン径D50(μm)を示し、縦軸は原料の動的付着性(mJ/g)を示す。
図4の点P4は原料のメジアン径及び動的付着性の測定結果を示し、グラフL4は点P4を連結したものである。
【0033】
動的付着性の適正範囲が
図3に示す13~18mJ/gとなる場合、原料の粒度(メジアン径D50)の適正範囲は概ね160~250μmと決定できる。したがって、原料の粒度(メジアン径D50)を160~250μmに調整して押出成形を行うことで、成型品を安定して形成することができる。なお、動的付着性は汎用性のあるパラメータであり、同じ押出成形機を使用する限り、動的付着性の適正範囲として同じ範囲を使用することができる。逆に、押出成形機を変える場合には、動的付着性の適正範囲を測定しなおす必要がある。
【0034】
ついで、決定された粒度に調整された使用予定原料を用いて、押出成形を行う。これにより、押出成形を適正に行うことができる。すなわち、成形体が形成され、かつ押出成形機の内壁面に付着物が成長しない。
【実施例0035】
つぎに、本実施形態の実施例を説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(ステップ1)原料の流動エネルギーの適正範囲の決定
ローラー式押出成形機(不二パウダル社製、型式F-5S/11-175D型、ダイス孔径10mm)を用いて様々な評価用原料を押出成形した。このとき、評価用原料を構成する各原料(鉄鉱石粉等)の配合率、粒度、及び水分量の1種以上を様々に変動させた。これと並行して、各評価用原料の動的付着性を測定した。押出成形が正常に行われるときと、成形体を形成できないときと、ローラー式押出成形機内壁面に付着物が成長するときの各5回について、結果を
図3に示す。このとき、Amin=14mJ/g、Bmax=12mJ/g、Amax=17mJ/g、Cmin=19mJ/gであった。したがって、動的付着性の適正範囲の下限値と上限値は13mJ/gと18mJ/gとそれぞれ求められた。
【0037】
(ステップ2)使用予定原料の粒度の決定
ついで、新たに押出成形で使用予定の配合原料1(使用予定原料)の粒度(メジアン径)を変化させて、動的付着性を測定した。なお、配合原料1は、鉄鉱石粉40質量%、焼結集塵ダスト35質量%、コークス粉20質量%、早強セメント5質量%で構成され、水分は12質量%(外数)とした。表1に測定結果を示す。なお、粒度は体積基準のメジアン径とした。
【0038】
【0039】
粒度(メジアン径)が200μmのとき動的付着性は16mJ/gとなり、ステップ1で求めた適正範囲内になった。これにより、この配合原料の目標粒度を200μmに決定した。そこで、使用予定原料の粒度(メジアン径)を200μmとし、上述したローラー式押出成形機を用いて押出成形したところ、ローラー式押出成形機内で原料が付着することなく成形物を正常に成形することができた。一方、粒度を310μmまたは118μmとしたところ、成形体を形成できないか、ローラー式押出成形機内壁面に付着物が成長してしまった。
【0040】
次に、別の配合原料2(使用予定原料)について同様の試験を行った。配合原料2は、鉄鉱石粉20質量%、焼結集塵ダスト55質量%、コークス粉20質量%、早強セメント5質量%で構成され、水分は12質量%(外数)とした。表2に測定結果を示す。なお、粒度は体積基準のメジアン径とした。
【0041】
【0042】
粒度(メジアン径)が160μmのとき動的付着性は15mJ/gとなり、ステップ1で求めた適正範囲内になった。これにより、この配合原料の目標粒度を160μmに決定した。そこで、使用予定原料の粒度(メジアン径)を160μmとし、上述したローラー式押出成形機を用いて押出成形したところ、ローラー式押出成形機内で原料が付着することなく成形物を正常に成形することができた。一方、粒度を200μmまたは110μmとしたところ、成形体を形成できないか、ローラー式押出成形機内壁面に付着物が成長してしまった。
【0043】
なお、上記の実験の結果、上記で求めた動的付着性に汎用性がある(様々な使用予定原料に適用できる)ことも確認することができた。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。