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  • 特開-抽出エキスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024211
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】抽出エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20230209BHJP
【FI】
A23L27/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021145792
(22)【出願日】2021-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 博士
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG21
4B047LG25
4B047LG39
4B047LG42
4B047LG55
4B047LG56
4B047LP01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、香りが強く、かつ濁りを抑えた抽出エキス及びその製造方法、並びに該抽出エキスを含む飲食品等を提供する。
【解決手段】
Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを抽出溶媒として、乾物を50~125℃で抽出することで、香りが強く、かつ濁りを抑えた抽出エキスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾物を、Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを用いて、50~125℃で抽出することを特徴とする、抽出エキスの製造方法。
【請求項2】
出汁原料である乾物を使用する、請求項1記載の抽出エキスの製造方法。
【請求項3】
90~125℃で抽出する、請求項1又は2記載の抽出エキスの製造方法
【請求項4】
OD600nmが0.40以下である抽出エキスを製造する、請求項1~3の何れか1項に記載の抽出エキスの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法により得られた、抽出エキス。
【請求項6】
請求項5記載の抽出エキスを含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖及び/又は糖アルコールを用いた抽出エキスの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
保存性や食味の向上を目的として水分を抜き乾燥させた食品である乾物から、エキスを抽出する方法として、熱水による抽出が一般的に行われているが、熱水による抽出物は、濁りが強く、香りが弱いエキスであることが知られている。また、乾物に水分を添加して膨潤させる第一工程と膨潤した乾物に糖及び/又は糖アルコールを添加し、0℃以上40℃未満でエキス成分を抽出する第二工程を逐次経由するエキスの製造方法(特許文献1)が知られていたが、工程が多く煩雑な上、40℃未満の抽出では、香りが強いエキスは得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4106080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記に鑑みてなされたものであり、香りが強く、かつ濁りを抑えた抽出エキス及びその製造方法、並びに該抽出エキスを含む飲食品等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを抽出溶媒として、乾物を50~125℃で抽出することで、香りが強く、かつ濁りを抑えた抽出エキスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]の態様に関する。
[1]乾物を、Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを用いて、50~125℃で抽出することを特徴とする、抽出エキスの製造方法。
[2]出汁原料である乾物を使用する、[1]記載の抽出エキスの製造方法。
[3]90~125℃で抽出する、[1]又は[2]記載の抽出エキスの製造方法。
[4]OD600nmが0.40以下である抽出エキスを製造する、[1]~[3]の何れかに記載の抽出エキスの製造方法。
[5][1]~[4]の何れかに記載の製造方法により得られた、抽出エキス。
[6][5]記載の抽出エキスを含む、飲食品。
【発明の効果】
【0007】
糖及び/又は糖アルコールを用いた抽出でも、40℃未満の抽出では、香りが強いエキスは得られなかったが、Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを抽出溶媒として、乾物を50~125℃で抽出することで、香りが強く、かつ濁りを抑えた抽出エキスを製造できるようになった。さらに、該抽出エキスを使用することで、香りが強く、かつ経時的にオリが生じ難い飲食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】各Brixの抽出溶媒を用いて得られた昆布エキスの濁度(OD600nm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に記載の抽出エキスは、乾物を、Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを用いて、50~125℃で抽出することで得られる。
【0010】
本発明に記載の乾物は、保存性や食味の向上を目的として水分を抜き乾燥させた食品であればよく、海藻類、魚介類、キノコ類、畜肉類、野菜類、果実類、香草類、種実類等の食品を乾燥して得られた食品であれば特に限定されないが、出汁原料として一般に使用される旨味成分を多く含む乾物が好ましく、例えば乾燥昆布、魚節類、乾燥椎茸、干しエビ、干し貝柱、干し肉等を例示できる。出汁原料を使用することで、香りが強く、濁りを抑えた抽出エキスで、かつ旨味も有する抽出エキスを得ることができる。該乾物は、本発明の抽出溶媒中にエキスを抽出できれば特に限定されず、原料自体が小さいものはそのままでもよいが、細切するのが好ましく、例えば一辺が50mm以下、30mm以下、20mm以下又は10mm以下の細片が例示でき、固液分離時に目詰まりが起こらない程度に粗粉砕するのが好ましい。
【0011】
抽出溶媒となる糖及び/又は糖アルコールは、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、澱粉加水分解物、還元澱粉加水分解物、果糖ブドウ糖液糖、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖、グルコオリゴ糖シラップ、液状デキストリン、難消化性デキストリン、マルトオリゴ糖等が例示でき、一種又は二種以上を組み合わせて用いてもよく、Brix45~80%であれば特に限定されないが、75%以下が好ましく、73%以下がより好ましく、71%以下がさらに好ましい。Brixが45%より低い抽出溶媒を用いると、香りが不十分で、濁りが強いエキスとなるため好ましくなく、Brixが80%より高い抽出溶媒を用いると、粘度が高過ぎて固液分離が困難となり、抽出後に加水又は加熱により低粘度に調整する必要があり、煩雑かつ風味低下が懸念されるため、好ましくない。Brix45~80%の糖及び/又は糖アルコールを使用することで、香りが強く、濁りの少ない本発明の抽出エキスが得られる。Brixは、20℃のショ糖溶液の質量百分率に相当する値であって、市販の糖度計を使用して測定できる。
【0012】
本発明では、抽出溶媒100重量部に対して乾物は0.5~50重量部が好ましく、1~25重量部がより好ましく、2~20重量部がさらに好ましく、5~15重量部が特に好ましい。
【0013】
本発明における抽出は、50~125℃で実施すれば本発明の抽出エキスが得られるが、さらに濁りを抑えた抽出エキスを得る場合は、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましい。また、加熱調理感を付与した抽出エキスを得る場合は、90~125℃が好ましく、95~125℃がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。抽出時間は適宜設定できるが、5分~20時間が好ましく、10分~15時間がより好ましく、15分~10時間がさらに好ましく、20分~5時間が特に好ましい。さらに、抽出後に、抽出エキスと固形物とを分離する固液分離を行えばよく、分離方法は特に限定されず、不織布、メッシュ等を用いたろ過、遠心分離等が例示できる。
【0014】
上記工程を含むことにより、香りが強く、かつ濁りを抑えた、本発明の抽出エキスが得られる。本発明の抽出エキスは、抽出された成分により抽出溶媒のBrixより高いBrixとなっており、例えばBrix48~87%程度、50~85%以下、80%以下又は78%以下が例示できる。また、濁度(OD600nm)が0.40以下であるのが好ましく、0.35以下であるのがより好ましく、0.30以下であるのがさらに好ましい。なお、本発明の濁度とは、波長600nmにおけるOD(Optical Density)を表し、常法に従い、一般の分光光度計で測定することができる。Brixが高いため、濃縮が不要で、濃縮による香気成分の喪失が起こらないため、強い香りを保持した抽出エキスであり得る。また、工程数が少なく、常温流通が可能なため、製造コストを抑え易い。
【0015】
本発明の抽出エキスは、香りが強く、かつ濁りを抑えた抽出エキスであるため、濁りにより経時的に発生するオリの発生を抑えることができ、各種調味料等の飲食品に広く利用できる。各飲食品に添加することにより、好ましい香りを付与することができ、また飲食品の濁度に影響を与えにくく、オリの発生を抑えた飲食品を製造することができる。各飲食品等への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~8重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%である。
【実施例0016】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例0017】
抽出溶媒に、糖アルコールとして、還元澱粉糖化物であるPO‐500(三菱商事ライフサイエンス社製、Birx70.9%)300gを用い、85℃に加熱した後、被抽出物である乾物として日高昆布粗砕物30gを投入、混合し、85℃で30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品1の昆布エキス224.5gを得た。
【0018】
[評価試験1]
糖アルコール抽出で得られた実施品1の評価として、同じ日高昆布粗砕品を用いて抽出した熱水抽出エキスと、香り、出汁感及び濁りについて比較を行った。香りについては、磯風味が弱いものを×、やや弱いものを△、やや強いものを○、強いものを◎とし、出汁感については、出汁の旨味が弱いものを×、やや弱いものを△、やや強いものを○、強いものを◎とし、濁りについては、クリアで不溶性成分が少ないものを○、不溶性成分が多く濁っているものを×として、結果を表1に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
表1に示すとおり、糖アルコール抽出エキスである実施品1は、熱水抽出エキスに比べ、香りが強く、熱水抽出エキスよりは弱いが、出汁感も有していた。また、クリアで濁りが少なく、濁りは、調味料成分として使用した際に経時的にオリが発生する原因となるため、本エキスを使用することで、オリが発生し難い調味料を調製できることが分かった。
【実施例0021】
抽出溶媒に、ソルビトールであるソルビットL‐70(三菱商事ライフサイエンス社製、Birx68.2%)(実施例2-1)、水飴であるサンシラップH‐70(日本コーンスターチ社製、Birx73.2%)(実施例2-2)、上白糖204gと水102gとを混合した砂糖液(Brix66.5%)(実施例2-3)、又はブドウ糖145.6gと水160gとを混合したブドウ糖液(Brix47.3%)(実施例2-4)を用いる以外は実施例1と同様に実施し、実施品2-1の昆布エキス224.5g、実施品2-2の昆布エキス250.1g、実施品2-3の昆布エキス242.4g又は実施品2-4の昆布エキス201.7gを得た。得られた昆布エキスは、何れも実施品1と同様に、香りが強く、出汁感も有しており、濁りも少なかった。
【0022】
[試験例1]
Brixが20%又は45%となるように、還元澱粉糖化物であるPO‐500と水とを混合した糖アルコール溶液300gを用いる以外は実施例1と同様に実施し、試験品1-1及び1-2の昆布エキスを得た。
【0023】
[試験例2]
抽出時の温度を25℃、抽出時間を16時間に設定する以外は実施例1と同様に実施し、試験品2-1の昆布エキスを得た。また、抽出時の温度を50℃に設定する以外は実施例1と同様に実施し、試験品2-2の昆布エキスを得た。さらに、還元澱粉糖化物であるPO‐500 300gと、日高昆布粗砕品30gとを混合後、オートクレーブに入れ、121℃達温後、30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、試験品2-3の昆布エキスを得た。
【0024】
[評価試験2]
試験品1-1及び1-2、並びに2-1~2-3の各昆布エキスについて、香り及び濁りについて比較を行った。香りについては、磯風味が弱いものを×、やや弱いものを△、やや強いものを○、強いものを◎とし、濁りについては、分光光度計(U-2000:日立製作所製)を用いて、光路長1cm、波長600nmの条件で測定し、濁度(OD600nm)として、結果を表2、3及び図1に示した。尚、実施品1の濁度も同様に測定し、表2、3及び図1に記載した。
【0025】
【表2】
【0026】
Brix20%の抽出溶媒を用いると、香りがやや弱く、濁りが強いエキスとなり、Brix45%以上の抽出溶媒を用いることで、本発明で求める香りが強い昆布エキスが得られることが分かった。
また、表2及び図1より、抽出溶媒のBrixが高くなる程、濁度が低くなり、濁りが少ないエキスとなると共に、より強い香りを有するエキスが得られることが分かった。
【0027】
【表3】
【0028】
表3より、25℃の抽出温度では、香りが弱いエキスとなり、50℃以上で抽出することで、本発明で求める香りが強く濁りが少ない昆布エキスが得られることが分かった。尚、121℃で抽出した昆布エキスは、磯風味があると共に、さらに加熱調理感が付与されたエキスだった。
【実施例0029】
還元澱粉糖化物であるPO‐500 300gを85℃に加熱した後、被抽出物である乾物としてカツオ節粗砕物60gを投入、混合し、85℃で30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品3-1のカツオ節エキス243.0gを得た。また、還元澱粉糖化物であるPO‐500 300gと、カッオ節粗砕物60gとを混合後、オートクレーブに入れ、121℃達温後、30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品3-2のカツオ節エキス225.4gを得た。得られたカツオ節エキスは、何れもカツオ節の香りが強く、出汁感も有しており、濁りも少なかった。また、121℃で抽出した実施品3-2のエキスは、カツオ節の香り共に、加熱調理感も付与されていた。
【実施例0030】
還元澱粉糖化物であるPO‐500 300gを85℃に加熱した後、被抽出物である乾物として乾燥椎茸粗砕物30gを投入、混合し、85℃で30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品4-1の椎茸エキス138.4gを得た。また、還元澱粉糖化物であるPO‐500 300gと、乾燥椎茸粗砕物30gとを混合後、オートクレーブに入れ、121℃達温後、30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品4-2の椎茸エキス132.2gを得た。得られた椎茸エキスは、何れも椎茸の香りが強く、出汁感も有しており、濁りも少なかった。また、121℃で抽出した実施品4-2のエキスは、椎茸の香り共に、加熱調理感も付与されていた。
【実施例0031】
還元澱粉糖化物であるPO‐500 225gと、乾燥白ネギ輪切り15gとを混合後、オートクレーブに入れ、121℃達温後、30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品5のネギエキス117.0gを得た。得られたネギエキスは、ネギの香りが強いのに加え、煮込んだネギの調理感と甘みを有し、濁りも少なかった。
【実施例0032】
還元澱粉糖化物であるPO‐500 225gと、凍結乾燥イチゴ15gとを混合後、オートクレーブに入れ、121℃達温後、30分抽出した後に、80メッシュで固液分離を行い、実施品6のイチゴエキス164.0gを得た。得られたイチゴエキスは、鮮やかな赤色を呈し、イチゴの香りが強いのに加え、加熱調理感を有し、酸味と甘みのバランスが良く、濁りも少なかった。また、得られたイチゴエキスを、透明のポリ袋に入れ、一週間、自然光の下に放置したが、色の変化は見られなかった。
【実施例0033】
実施品1の昆布エキスを用いて、下記の処方にて麺つゆを作成し評価したところ、昆布の香りが強く風味豊かな澄んだ麺つゆが得られた。
【0034】
醤油 7.5g
みりん 3.8g
砂糖 3.0g
昆布エキス(実施品1) 1.0g
L-グルタミン酸ナトリウム 0.9g
食塩 0.2g
水 83.6g
図1