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  • 特開-ボールペン用水性インク組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024243
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20230209BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003924
(22)【出願日】2022-01-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2021129797
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】米谷 彩
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA01
4J039AD01
4J039BC31
4J039BC35
4J039BC52
4J039BC55
4J039BC56
4J039BC64
4J039BE01
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE30
4J039CA06
4J039EA15
4J039EA19
4J039EA31
4J039EA36
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができる、筆記具用水性インク組成物、これを搭載した筆記具を提供する。
【解決手段】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲となることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲となることを特徴とする、筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
前記オレフィン系樹脂粒子(B)の含有量がインク組成物全量に対して、0.01~20質量%であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項3】
前記の筆記具用水性インク組成物中における、溶存酸素濃度が5%O以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物
【請求項4】
剪断速度383sec-1における粘度(25℃)が80mPa・s以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項5】
表面張力が15~60mN/m(25℃)であることを特徴とする請求項1~4の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項6】
前記請求項1~5の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができ、しかも、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もない、筆記具用水性インク組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、優れた定着性、ボール座の摩耗抑制及び濃い筆跡の提供、耐擦過性が良好となる筆記具用水性インク組成物などとして、例えば、
1)高い筆圧で筆記した場合であっても容易に消すことができると同時に、優れた定着性を発揮することができるインキ組成物として、少なくとも着色剤と粘着性樹脂を含むインキ組成物であって、上記着色剤の平均粒子径が2μm以上であり、前記粘着性樹脂の平均粒子径が2μm以上で、かつその粒子径2μm以下のものが当該粘着性樹脂中に30重量%以上含むことを特徴とする消去性インキ組成物(例えば、特許文献1参照)、
2)インキの漏れ出しを抑制し、ボール座の摩耗抑制に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペンとして、インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に少なくとも水、着色剤、オレフィン系樹脂粒子及び/または含窒素樹脂粒子である有機樹脂粒子、剪断減粘性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、ボールペンチップのボールの軸方向への移動量が15μm以上であり、有機樹脂粒子の平均粒子径が15μm以下であることを特徴とする水性ボールペン(例えば、特許文献2参照)、
【0003】
3)PETフィルム等の非吸収面に筆記した描線が、従来のサインペンで筆記したものに比べて優れた耐擦過性を実現したものになる、水性顔料インキ組成物として、顔料、水、分散樹脂、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有してなる筆記具用の水性顔料インキ組成物であって、シリコーン系樹脂エマルジョンと、それ以外の樹脂エマルジョンとが、その固形分の質量比が、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1~0.8の範囲内となる量で併用されており、且つ、円錐平板型回転粘度計で、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が、2.0mPa・sを超えて8mPa・s以下である筆記具用の水性顔料インキ組成物(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、3の筆記具用インク組成物などは、それぞれ、粘着性樹脂や、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有することなどにより耐擦過性などを良好とするものであるが、被筆記面が、例えば、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などにおいて、未だ耐擦過性が十分でなく、これらの紙面を含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができる、筆記具用水性インク組成物が切望されているのが現状であった。
上記特許文献2の筆記具用インク組成物は、オレフィン系樹脂粒子を用いる点で一部共通しているが、本発明とは発明の課題や技術思想(発明の構成及びその作用効果)等が相違するものである。
【0005】
一方、従来より、筆記具用水性インク組成物において、気泡発生による筆記時の擦れ、外観不良などの課題があった。これらの課題は、例えば、ペン体の落下による衝撃、ノック式ボールペンであればノック衝撃によって、インク中にキャピテーションが発生し、気泡の発生が促進されやすくなることなどにより生じていた。また、一度発生した微小な気泡は、経時的に合一、拡大されて、大きな気泡となってインク、ペン体内に留まり、筆記性に悪影響を及ぼすなどの課題も生じていた。
これらの気泡に起因した課題として、例えば、ペン先に気泡が入り込むことでの筆記時の擦れ、また、ボールペンであれば、インク―フォロワ界面に拡大された気泡が溜まることで、外観不良を起こす、という問題もしばしば発生していた。
従来では、筆記具用水性インク組成物ではその製造の際等に脱泡処理することなどが普通に行われているが、上記の気泡に起因した課題は水性ボールペンで使用している場合などに生じるものであった。
【0006】
他方、筆記具用水性インク組成物中の溶存酸素濃度に言及した従来技術としては、例えば、
4) 着色剤、水溶性有機溶剤及び水を少なくとも含有するインキ組成物からなり、インク中の溶存気体量を不飽和状態(溶存酸素量基準で3mg/l以下、20℃)とした水性インク(例えば、特許文献4参照)、
5) 着色剤と水と2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールのモノマー又はオリゴマーを含有する水性インキ組成物を内蔵すると共に、前記インキの消費に伴って追従するインキ逆流防止体をインキ後端に密接配置してなる水性ボールペン、並びに、前記水性インキ組成物の20℃における溶存酸素量が0.1~10mg/Lである水性ボールペン(例えば、特許文献5参照)、
6) 少なくとも、水、有機溶剤、着色剤、スルフィド基および/またはジスルフィド基を含む化合物、糖類からなり、25℃、剪断速度2500sec-1におけるインキ粘度が500mPa・s以下であるボールペン用インキ組成物、並びに、前記ボールペン用インキ組成物の溶存酸素量が4.0mg/L以下であるボールペン用インキ組成物(例えば、特許文献6参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献4~6の筆記具用インク組成物などにおいて、溶存酸素量を規定しただけでは、過酷な条件での長期経時において十分な効果が得られないことがあったり、また、上記特許文献5、6などの2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールのモノマーや糖類などを配合して化学的な除去作用などで気泡の発生を抑制するものもあるが、未だ十分な効果を奏するものといえず、更なる改善等が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-26926号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2016-124179号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2019-14769号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平8-183923号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2009-234093号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2017-201000号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、通常の被筆記面の他、被筆記面が、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができると共に、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もない、筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、顔料を含む着色剤と、水とを含む配合系に、特定物性のオレフィン系樹脂粒子を含むことなどにより、上記目的の水性ボールペン用インク組成物などが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲となることを特徴とする。
前記オレフィン系樹脂粒子(B)の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~20質量%であることが好ましい。
筆記具用水性インク組成物の剪断速度383sec-1における粘度(25℃)は、80mPa・s以下であることが好ましい。
前記筆記具用水性インク組成物中における、溶存酸素濃度が5%O以上であることが好ましい。
筆記具用水性インク組成物の表面張力は、15~60mN/mであることが好ましい。
本発明の筆記具は、上記構成の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通常の被筆記面の他、被筆記面が、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができると共に、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もない、筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の筆記具の一例となるボールペンに適用した場合におけるボールペンチップの構造等を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲となることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に用いる着色剤(A)は、顔料を含む着色剤であり、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料、熱変色性顔料、光変色性粒子等、また、水に溶解もしくは分散する全ての染料等を制限なく使用することができる。
【0016】
用いることができる無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブル3ー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0017】
用いることができるアルミニウム顔料は、粉砕助剤の種類によって、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプに大別されており、これらをそれぞれ、または、組み合わせて使用することができる。市販品では、例えば、ノンリーフィングタイプのアルペースト1100MA、CS420、CS460や、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW-120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕等が挙げられる。
【0018】
用いることができる熱変色性顔料としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
用いることができる光変色性粒子としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性粒子などを挙げることができる。
本発明(実施例等含む)において、上記「着色剤の平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、測定したD50の値若しくは濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0019】
上記熱変色性顔料のマイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂等となる樹脂原料を使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより熱変色性マイクロカプセル顔料を製造することができる。この熱変色性顔料では、ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
また、上記光変色性粒子のマイクロカプセル化法としては、上述の熱変色性の樹脂粒子の製造と同様に調製することができる。
この光変色性粒子は、フォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などを好適に用いることにより、例えば、室内照明環境(室内での白熱灯、蛍光灯、ランプ、白色LEDなどから選ばれる照明器具)において無色であり、紫外線照射環境(200~400nm波長の照射、紫外線を含む太陽光での照射環境)で発色する性質を有するものとすることができる。
【0020】
用いることができる染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターブラックR445、イエロー#6-Cウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0021】
これらの着色剤(A)は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの着色剤(A)のうち、全て顔料の使用でも良く、水に分散する顔料や、樹脂粒子顔料、疑似顔料、白色系プラスチック顔料、多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料、熱変色性顔料、光変色性粒子等の顔料の平均粒子径は、ボール径、インク組成・粘度などにより変動するが、平均粒子径が0.05~20μmのものが望ましい。
これらの着色剤(A)の含有量は、インクの描線濃度に応じて適宜増減することが可能であり、また、本発明では、後述するように、用いるオレフィン系樹脂粒子(B)と着色剤(A)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕を最適化することが必要となるものであるが、インク組成物全量に対して、0.1~30質量%(以下、「質量%」を単に「%」という)が望ましい。
【0022】
本発明に用いるオレフィン系樹脂粒子(B)は、針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であるものが使用される。
この特性のオレフィン系樹脂粒子を用いることなどにより、本発明の作用効果である、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができ、また、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もないものとなる(これらの作用などについては更に後述する)。
針入度法硬度が1未満のもの、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm超過のオレフィン系樹脂粒子では、本発明の効果を発揮できないこととなる。
好ましくは、本発明の効果を更に向上させる点などから、針入度法硬度が1以上で、コールカウンター法で測定した平均粒子径が10μm以下のオレフィン系樹脂粒子(B)の使用が望ましい。
本発明(後述する実施例などを含む)における「針入度法硬度」は、JIS K2207に準拠して測定される値である。
【0023】
用いることができるオレフィン系樹脂粒子は、上記特性、すなわち、針入度法硬度が1以上であること、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であるものであれば、その形状、構造などは特に限定されずに用いることができ、例えば、市販品では、三井化学社製のケミパールW100、W200、W400、W500などを挙げることができ、同種のオレフィン系樹脂粒子(ケミパール製品)であっても、ケミパールW300、W308、W310、W700、W900などは上記特性(針入度法硬度など)を充足しないものである。
【0024】
これらのオレフィン系樹脂粒子(B)の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~20質量%、好ましくは、1~5質量%が望ましい。
このオレフィン系樹脂粒子(B)の含有量が0.01質量%未満のとき、本発明の効果を充分に実現できず、一方、20質量%超過のとき筆記カスレなどの不具合が生じることがある。
【0025】
本発明において、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕は、1~100の範囲とすることが必要である。この固形分の質量比〔(A)/(B)〕が上記範囲に含まれない場合(1未満、100超過の場合)には、本発明の効果を発揮できないこととなる。
本発明の効果を更に発揮せしめる点から、上記固形分の質量比〔(A)/(B)〕を1~10とすることが望ましい。
【0026】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、上記顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)の他に、水溶性溶剤、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)を含むことが好ましく、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、筆記具の用途(ボールペン用、マーキングペン等)により、分散剤、潤滑剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0027】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、5~40%とすることが望ましい。
【0028】
本発明に用いることができる分散剤は、水溶性高分子分散剤や界面活性剤などを適宜選択して、配合することが必要である。
水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、マレイン酸樹脂等が挙げられ、具体的には、アクリル樹脂、スチレンアクリル酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂等の樹脂を塩の形にして水溶性にしたものを用いる。塩を形成するアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが代表的であり、アミンとしてはモノ、ジ又はトリメチルアミン等の脂肪族第1から第3級アミン、モノ、ジ又はトリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルコールアミンその他、アンモニア、モルホリン及びN-メチルホリン等が代表的である。
【0029】
分散剤となる界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸部分エステル、糖の高級脂肪酸エステルなどが挙げられ、具体的には、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物などが挙げられる。
また、アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸アミドのアルキル化スルフォン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられ、具体的には、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルメチルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
これらの分散剤は、顔料の分散性を更に向上せしめるものであれば特に限定されず、夫々単独で、または2種以上混合して用いることができる
【0030】
用いることができる潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、発酵セルロース、酸化セルロース、結晶セルロース、デンプングリコール酸及びその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0031】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、チアゾリン系化合物、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
上記分散剤、潤滑剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などの各成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる
【0032】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0033】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、剪断速度383sec-1における粘度が25℃で80mPa・sec以下であることが好ましく、更に好ましくは、50mPa・sec以下、特に好ましくは、5~20mPa・secの範囲が望ましい。
この粘度が上記剪断速度で80mPa・sを越えて粘度が高くなると、インク流量が低下し、筆感が重くなり、滑らかに書きづらくなり、一方、5mPa・sec以上とすることにより、筆跡の滲みや裏抜け抑制効果が発揮されやすくなる。
【0034】
また、本発明の筆記具用水性インク組成物は、好ましくは、レベリング性の点から、表面張力は15~60mN/mであることが望ましく、更に好ましくは、20~40mN/mが望ましい。
なお、本発明(後述する実施例などを含む)において、インクの表面張力(25℃)は、協和界面科学社製、表面張力測定装置:CBVP-Zにて測定した値をいう。
さらに、本発明の筆記具用水性インク組成物は、好ましくは、ペン先チップやインク収容体などの金属製部品において、金属腐食を緩和できる点、具体的には金属がインクと接触している界面に、酸素が介在することで、金属表面の酸化膜による金属素地の腐食反応を和らげる点があることから、筆記具用水性インク組成物中における、溶存酸素濃度が5%O以上であることが好ましい。
また、本発明は、低温条件下での保管後の気泡による筆記カスレの抑制に特に期待ができる。低温条件下では、インク中に空気が溶解しやすいため、常温環境下に移し、落下やノックによる衝撃を加えて筆記を行った際に、不溶化した空気がインク中で微小な気泡を生じ、継ぎ手内等に溜まり、インク流路を阻害し、筆記不良につながる可能性がある。
上記剪断速度における上記粘度値の範囲、表面張力の範囲の調整等は、用いる上記顔料を含む着色剤と、オレフィン系樹脂粒子、水溶性溶剤などを好適に組み合せ、これらの各含有量を好適に調整すること、更に、好適な混練方法などの選択により行うことができる。また、上記溶存酸素濃度が5%O以上などとするには、気泡抑制剤を添加することや、インク製造時の撹拌条件などにより、調整することができる。
用いることができる気泡抑制剤は、従来利用されているものであればよく、システイン及びその誘導体、グルタチオン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンの誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、エリソルビン酸、エリソルビン酸の誘導体や、それらの塩、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマーなどの少なくとも1種が利用できる。この気泡抑制剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01~5.0質量%の範囲で使用し、上記溶存酸素濃度を調整することが好ましい。
【0035】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、他の水性インク組成物の製造方法と比べて特に変わるところはなく製造することができる。
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、上記顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)の他に、水溶性溶剤、残部として溶媒である水、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ミキサー等、更に、例えば、強力な剪断を加えることができるビーズミル、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌条件を好適な条件に設定等して混合撹拌することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を製造することができる。
【0036】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン、サインペン等に搭載される。
本発明におけるボールペンとしては、上記組成の筆記具用水性インク組成物をボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられ、例えば、該筆記具用水性インク組成物を、直径が0.18~2.0mmのボールを有するボールペンチップを備えた水性ボールペン体に充填することにより作製することができる。
【0037】
水性ボールペン体であれば、筆記時にペン先(ボールペンチップ)からの空気の巻き込みが起こりやすくなり、ペン先から取り込まれた空気(酸素を含む)がインク中に溶解され、さらなる気泡発生の要因となりやすい。そのため、ボールペンチップは、例えば、図1に示すように、ボール10の中心を通り、軸方向に対して垂直方向での、ボールハウス20の直径をA、ボール10の直径をBとしたときに、空気を巻き込んだインクの流路となる(A-B)/2=5~30μmの範囲であること、さらに好ましくは、10~25μmの範囲であることがより好ましい。これにより、筆記時の耐擦れ性に効果があり、良好な描線が得られることとなり、描線の耐擦過性の向上にも期待することができる。
なお、ボールペン、マーキングペン、サインペンなどの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンなどであってもよいものである。
【0038】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物にあっては、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲とすることで、通常の被筆記面の他、被筆記面が、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができるものとなる。
【0039】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具が、何故、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、上記特有の作用を発揮するものとなるのは、描線塗膜の表面にオレフィン粒子が介在することで摺動性が向上し、描線の摩擦抵抗が低減されるためと推測される。
また、本発明の筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具が、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もないものとなるかは以下の作用機構が働くものと推測される。すなわち、本発明において、上記特性のオレフィン系樹脂粒子(B)の含有によって、インク組成物中で発生した微小な気泡をトラップし、気泡が合一して大きくなるのを抑制することとなる。このメカニズムは、上記特性のオレフィン系樹脂粒子が疎水性の性質であり、比較的気液界面に吸着しやすく、そのため、筆記具の落下やノック式ボールペンなどの衝撃によって発生した気泡とインクの界面に吸着し、気泡同士が直接接触して合一するのを抑制する効果があるものと推測される。特に自己分散型のオレフィン系樹脂粒子の場合には、立体障害もないため、より気液界面に吸着しやすく、効果を得られやすい。さらには、本発明で用いるポリオレフィン樹脂粒子は、針入度法硬度が1以上であり、例え、ペン先で乾燥したとしても、柔軟な塗膜を形成しやすく、書き出し時の擦れに影響を及ぼすことなく、気泡発生の抑制に効果を発揮することが可能となる。
本発明の筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具では、本発明の上述の作用効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れており、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、更に水性であるために経時的な安定性にも優れたものとなる。
【実施例0040】
次に、筆記具用水性インク組成物及びこれを搭載した筆記具の実施例1~6及び比較例1~4により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0041】
〔実施例1~6及び比較例1~4〕
下記表1に示す、各着色剤(A)、各特性(針入度法硬度、コールカウンター法で測定した平均粒子径)のオレフィン系樹脂粒子(B)、水溶性溶剤などの配合処方にしたがって、常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記各方法により剪断速度383sec-1(25℃)における粘度(mPa・s)の測定、表面張力、溶存酸素濃度、下記構造の筆記具を作製して、下記評価方法により耐擦過性、耐掠れ性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0042】
〔剪断速度383sec-1(25℃)における粘度、表面張力の測定方法〕
EMD型粘度計(東京計器社製)〕を用いて、測定温度25℃で剪断速度383sec-1のインク粘度(mPa・s)を測定した。
また、表面張力(25℃)は、協和界面科学社製、表面張力測定装置:CBVP-Zにて測定した。
【0043】
(溶存酸素濃度の測定方法)
ニードル式酸素濃度計 MicroxTX3 (PreSens社製)を用いて、測定温度25℃で溶存酸素濃度%Oを測定した。この「%O」は、インク中に溶解している空気のうちの酸素濃度を示したものである。
【0044】
(筆記具)
ノック式ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:ユニボールシグノRT〕の軸を使用し、各インク追従体の直径が各内径となる、内径3.8mm、長さ113mmのポリプロピレン製インク収容体とボールペンチップ(ホルダー:ステンレス製、ボール:超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに、上記で得られた各筆記具用水性インク組成物を充填し、インク後端にポリブテンからなるインク追従体を充填して筆記具(各5本)を作製した。また、このノック式ボールペンにおける図1に準拠する〔(A-B)/2〕は、15μmであった。
【0045】
<耐擦過性の評価方法>
上記筆記具を用いてコート紙(ニューユポ80、株式会社ユポ・コーポレーション)表面に丸書き筆記し、筆跡を乾燥させた。この筆跡を、500gの分銅を載せたキムワイプを5回移動させることによって擦過して、筆跡の耐擦過性を下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:試験後に観察した際に、筆跡に剥がれがまったく生じなかった。
B:試験後に観察した際に、筆跡に少し剥がれが生じたが、筆跡はほとんど残っていた。
C:試験後に観察した際に、筆跡が残らないほど剥がれが生じた。
【0046】
<気泡発生の評価方法>
上記のノック式水性ボールペンについて、温度5℃の環境下にて1カ月静置した後、温度25℃の環境下にて1日静置したのち、ペン先を下向きにした状態で、ノック動作を20回行った。25℃の環境下に1週間放置後の気泡発生有無を下記基準に基づいて評価を行った。
評価基準:
A:気泡は認められない。
B:直径0.5mm未満の気泡が1つ認められる。
C:直径0.5mm以上1mm未満相当の気泡が認められる。
D:直径1mm以上相当の気泡が認められる。
【0047】
<耐掠れ性の評価方法>
上記筆記具を用いて温度5℃の環境下にて1カ月静置した後、温度25℃の環境下にて1日静置したのち、ペン先を下向きにした状態で、ノック動作を20回行った。筆記用紙に直径2cmのらせんを筆記することで、気泡発生による耐擦れ性の有無について下記基準に基づいて評価を行った。
評価基準:
A:筆記描線は良好である。
B:書き進めていくと若干の擦れがあるが、さらに筆記を進めていくと擦れが改善される。
C:書き進めていくと顕著な擦れがあり、さらに筆記を進めても擦れが改善されない。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~6の筆記具用インク組成物を搭載した筆記具は、本発明の範囲外となる比較例1~4に較べ、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができ、しかも、気泡発生による筆記時の掠れもない、筆記具用水性インク組成物、これを搭載した筆記具となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
水性ボールペン、マーキングペンなどに好適な筆記具用水性インク組成物、これを搭載した筆記具が得られる。
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-04-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み
、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウン
ター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン
系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲であり、かつ前記オレフィン系樹脂粒子(B)の含有量がインク組成物全量に対して、0.01~20質量%であり、かつ、ボールペン用水性インク組成物中における、溶存酸素濃度が5%O 以上であることを特徴とする、ボールペン用水性インク組成物。
【請求項2】
剪断速度383sec-1における粘度(25℃)が80mPa・s以下であることを
特徴とする請求項に記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項3】
表面張力が15~60mN/m(25℃)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペン用水性インク組成物。
【請求項4】
前記請求項1~3の何れか一つに記載のボールペン用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする水性ボールペン。
【請求項5】
前記水性ボールペンがボールペンチップを備え、該ボールペンチップはボールの中心を通り、軸方向に対して垂直方向でのボールハウスの直径をA、ボールの直径をBとしたときに、インク流路となる(A-B)/2が5~30μmであることを特徴とする請求項4に記載の水性ボールペン
【請求項6】
前記水性ボールペンがノック式であることを特徴とする請求項4又は5記載の水性ボールペン。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができ、しかも、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もない、ボールペン用水性インク組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、優れた定着性、ボール座の摩耗抑制及び濃い筆跡の提供、耐擦過性が良好となる筆記具用水性インク組成物などとして、例えば、
1)高い筆圧で筆記した場合であっても容易に消すことができると同時に、優れた定着性を発揮することができるインキ組成物として、少なくとも着色剤と粘着性樹脂を含むインキ組成物であって、上記着色剤の平均粒子径が2μm以上であり、前記粘着性樹脂の平均粒子径が2μm以上で、かつその粒子径2μm以下のものが当該粘着性樹脂中に30重量%以上含むことを特徴とする消去性インキ組成物(例えば、特許文献1参照)、
2)インキの漏れ出しを抑制し、ボール座の摩耗抑制に優れ、濃い筆跡とする水性ボールペンとして、インキ収容筒の先端部にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して装着し、前記インキ収容筒内に少なくとも水、着色剤、オレフィン系樹脂粒子及び/または含窒素樹脂粒子である有機樹脂粒子、剪断減粘性付与剤からなる水性ボールペン用インキ組成物を収容してなる水性ボールペンであって、ボールペンチップのボールの軸方向への移動量が15μm以上であり、有機樹脂粒子の平均粒子径が15μm以下であることを特徴とする水性ボールペン(例えば、特許文献2参照)、
【0003】
3)PETフィルム等の非吸収面に筆記した描線が、従来のサインペンで筆記したものに比べて優れた耐擦過性を実現したものになる、水性顔料インキ組成物として、顔料、水、分散樹脂、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有してなる筆記具用の水性顔料インキ組成物であって、シリコーン系樹脂エマルジョンと、それ以外の樹脂エマルジョンとが、その固形分の質量比が、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1~0.8の範囲内となる量で併用されており、且つ、円錐平板型回転粘度計で、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が、2.0mPa・sを超えて8mPa・s以下である筆記具用の水性顔料インキ組成物(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1、3の筆記具用インク組成物などは、それぞれ、粘着性樹脂や、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有することなどにより耐擦過性などを良好とするものであるが、被筆記面が、例えば、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などにおいて、未だ耐擦過性が十分でなく、これらの紙面を含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができる、筆記具用水性インク組成物が切望されているのが現状であった。
上記特許文献2の筆記具用インク組成物は、オレフィン系樹脂粒子を用いる点で一部共通しているが、本発明とは発明の課題や技術思想(発明の構成及びその作用効果)等が相違するものである。
【0005】
一方、従来より、筆記具用水性インク組成物において、気泡発生による筆記時の擦れ、外観不良などの課題があった。これらの課題は、例えば、ペン体の落下による衝撃、ノック式ボールペンであればノック衝撃によって、インク中にキャピテーションが発生し、気泡の発生が促進されやすくなることなどにより生じていた。また、一度発生した微小な気泡は、経時的に合一、拡大されて、大きな気泡となってインク、ペン体内に留まり、筆記性に悪影響を及ぼすなどの課題も生じていた。
これらの気泡に起因した課題として、例えば、ペン先に気泡が入り込むことでの筆記時の擦れ、また、ボールペンであれば、インク―フォロワ界面に拡大された気泡が溜まることで、外観不良を起こす、という問題もしばしば発生していた。
従来では、筆記具用水性インク組成物ではその製造の際等に脱泡処理することなどが普通に行われているが、上記の気泡に起因した課題は水性ボールペンで使用している場合などに生じるものであった。
【0006】
他方、筆記具用水性インク組成物中の溶存酸素濃度に言及した従来技術としては、例えば、
4) 着色剤、水溶性有機溶剤及び水を少なくとも含有するインキ組成物からなり、インク中の溶存気体量を不飽和状態(溶存酸素量基準で3mg/l以下、20℃)とした水性インク(例えば、特許文献4参照)、
5) 着色剤と水と2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールのモノマー又はオリゴマーを含有する水性インキ組成物を内蔵すると共に、前記インキの消費に伴って追従するインキ逆流防止体をインキ後端に密接配置してなる水性ボールペン、並びに、前記水性インキ組成物の20℃における溶存酸素量が0.1~10mg/Lである水性ボールペン(例えば、特許文献5参照)、
6) 少なくとも、水、有機溶剤、着色剤、スルフィド基および/またはジスルフィド基を含む化合物、糖類からなり、25℃、剪断速度2500sec-1におけるインキ粘度が500mPa・s以下であるボールペン用インキ組成物、並びに、前記ボールペン用インキ組成物の溶存酸素量が4.0mg/L以下であるボールペン用インキ組成物(例えば、特許文献6参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献4~6の筆記具用インク組成物などにおいて、溶存酸素量を規定しただけでは、過酷な条件での長期経時において十分な効果が得られないことがあったり、また、上記特許文献5、6などの2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールのモノマーや糖類などを配合して化学的な除去作用などで気泡の発生を抑制するものもあるが、未だ十分な効果を奏するものといえず、更なる改善等が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-26926号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2016-124179号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2019-14769号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平8-183923号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2009-234093号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2017-201000号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、通常の被筆記面の他、被筆記面が、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができると共に、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もない、ボールペン用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、顔料を含む着色剤と、水とを含む配合系に、特定物性のオレフィン系樹脂粒子を含むことなどにより、上記目的のボールペン用水性インク組成物などが得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲となることを特徴とする。
前記オレフィン系樹脂粒子(B)の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~20質量%であることが好ましい。
ボールペン用水性インク組成物の剪断速度383sec-1における粘度(25℃)は、80mPa・s以下であることが好ましい。
前記ボールペン用水性インク組成物中における、溶存酸素濃度が5%O以上であることが好ましい。
ボールペン用水性インク組成物の表面張力は、15~60mN/mであることが好ましい。
本発明の水性ボールペンは、上記構成のボールペン用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通常の被筆記面の他、被筆記面が、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができると共に、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もない、ボールペン用水性インク組成物及びこれを搭載した水性ボールペンが提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の筆記具の一例となるボールペンに適用した場合におけるボールペンチップの構造等を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲となることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に用いる着色剤(A)は、顔料を含む着色剤であり、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料、熱変色性顔料、光変色性粒子等、また、水に溶解もしくは分散する全ての染料等を制限なく使用することができる。
【0016】
用いることができる無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブル3ー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0017】
用いることができるアルミニウム顔料は、粉砕助剤の種類によって、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプに大別されており、これらをそれぞれ、または、組み合わせて使用することができる。市販品では、例えば、ノンリーフィングタイプのアルペースト1100MA、CS420、CS460や、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW-120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕等が挙げられる。
【0018】
用いることができる熱変色性顔料としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
用いることができる光変色性粒子としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性粒子などを挙げることができる。
本発明(実施例等含む)において、上記「着色剤の平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装社製)〕にて、測定したD50の値若しくは濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0019】
上記熱変色性顔料のマイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂等となる樹脂原料を使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより熱変色性マイクロカプセル顔料を製造することができる。この熱変色性顔料では、ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
また、上記光変色性粒子のマイクロカプセル化法としては、上述の熱変色性の樹脂粒子の製造と同様に調製することができる。
この光変色性粒子は、フォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などを好適に用いることにより、例えば、室内照明環境(室内での白熱灯、蛍光灯、ランプ、白色LEDなどから選ばれる照明器具)において無色であり、紫外線照射環境(200~400nm波長の照射、紫外線を含む太陽光での照射環境)で発色する性質を有するものとすることができる。
【0020】
用いることができる染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターブラックR445、イエロー#6-Cウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0021】
これらの着色剤(A)は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの着色剤(A)のうち、全て顔料の使用でも良く、水に分散する顔料や、樹脂粒子顔料、疑似顔料、白色系プラスチック顔料、多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料、熱変色性顔料、光変色性粒子等の顔料の平均粒子径は、ボール径、インク組成・粘度などにより変動するが、平均粒子径が0.05~20μmのものが望ましい。
これらの着色剤(A)の含有量は、インクの描線濃度に応じて適宜増減することが可能であり、また、本発明では、後述するように、用いるオレフィン系樹脂粒子(B)と着色剤(A)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕を最適化することが必要となるものであるが、インク組成物全量に対して、0.1~30質量%(以下、「質量%」を単に「%」という)が望ましい。
【0022】
本発明に用いるオレフィン系樹脂粒子(B)は、針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であるものが使用される。
この特性のオレフィン系樹脂粒子を用いることなどにより、本発明の作用効果である、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができ、また、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もないものとなる(これらの作用などについては更に後述する)。
針入度法硬度が1未満のもの、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm超過のオレフィン系樹脂粒子では、本発明の効果を発揮できないこととなる。
好ましくは、本発明の効果を更に向上させる点などから、針入度法硬度が1以上で、コールカウンター法で測定した平均粒子径が10μm以下のオレフィン系樹脂粒子(B)の使用が望ましい。
本発明(後述する実施例などを含む)における「針入度法硬度」は、JIS K2207に準拠して測定される値である。
【0023】
用いることができるオレフィン系樹脂粒子は、上記特性、すなわち、針入度法硬度が1以上であること、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であるものであれば、その形状、構造などは特に限定されずに用いることができ、例えば、市販品では、三井化学社製のケミパールW100、W200、W400、W500などを挙げることができ、同種のオレフィン系樹脂粒子(ケミパール製品)であっても、ケミパールW300、W308、W310、W700、W900などは上記特性(針入度法硬度など)を充足しないものである。
【0024】
これらのオレフィン系樹脂粒子(B)の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~20質量%、好ましくは、1~5質量%が望ましい。
このオレフィン系樹脂粒子(B)の含有量が0.01質量%未満のとき、本発明の効果を充分に実現できず、一方、20質量%超過のとき筆記カスレなどの不具合が生じることがある。
【0025】
本発明において、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕は、1~100の範囲とすることが必要である。この固形分の質量比〔(A)/(B)〕が上記範囲に含まれない場合(1未満、100超過の場合)には、本発明の効果を発揮できないこととなる。
本発明の効果を更に発揮せしめる点から、上記固形分の質量比〔(A)/(B)〕を1~10とすることが望ましい。
【0026】
本発明のボールペン用水性インク組成物には、上記顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)の他に、水溶性溶剤、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)を含むことが好ましく、更に、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0027】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。この水溶性溶剤の含有量は、インク組成物全量に対して、5~40%とすることが望ましい。
【0028】
本発明に用いることができる分散剤は、水溶性高分子分散剤や界面活性剤などを適宜選択して、配合することが必要である。
水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、マレイン酸樹脂等が挙げられ、具体的には、アクリル樹脂、スチレンアクリル酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂等の樹脂を塩の形にして水溶性にしたものを用いる。塩を形成するアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが代表的であり、アミンとしてはモノ、ジ又はトリメチルアミン等の脂肪族第1から第3級アミン、モノ、ジ又はトリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルコールアミンその他、アンモニア、モルホリン及びN-メチルホリン等が代表的である。
【0029】
分散剤となる界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン系界面活性剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸部分エステル、糖の高級脂肪酸エステルなどが挙げられ、具体的には、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物などが挙げられる。
また、アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸アミドのアルキル化スルフォン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられ、具体的には、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルメチルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
これらの分散剤は、顔料の分散性を更に向上せしめるものであれば特に限定されず、夫々単独で、または2種以上混合して用いることができる
【0030】
用いることができる潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、発酵セルロース、酸化セルロース、結晶セルロース、デンプングリコール酸及びその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0031】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、チアゾリン系化合物、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
上記分散剤、潤滑剤、増粘剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などの各成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる
【0032】
また、本発明のボールペン用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0033】
本発明のボールペン用水性インク組成物は、剪断速度383sec-1における粘度が25℃で80mPa・sec以下であることが好ましく、更に好ましくは、50mPa・sec以下、特に好ましくは、5~20mPa・secの範囲が望ましい。
この粘度が上記剪断速度で80mPa・sを越えて粘度が高くなると、インク流量が低下し、筆感が重くなり、滑らかに書きづらくなり、一方、5mPa・sec以上とすることにより、筆跡の滲みや裏抜け抑制効果が発揮されやすくなる。
【0034】
また、本発明のボールペン用水性インク組成物は、好ましくは、レベリング性の点から、表面張力は15~60mN/mであることが望ましく、更に好ましくは、20~40mN/mが望ましい。
なお、本発明(後述する実施例などを含む)において、インクの表面張力(25℃)は、協和界面科学社製、表面張力測定装置:CBVP-Zにて測定した値をいう。
さらに、本発明のボールペン用水性インク組成物は、好ましくは、ペン先チップやインク収容体などの金属製部品において、金属腐食を緩和できる点、具体的には金属がインクと接触している界面に、酸素が介在することで、金属表面の酸化膜による金属素地の腐食反応を和らげる点があることから、ボールペン用水性インク組成物中における、溶存酸素濃度が5%O以上であることが好ましい。
また、本発明は、低温条件下での保管後の気泡による筆記カスレの抑制に特に期待ができる。低温条件下では、インク中に空気が溶解しやすいため、常温環境下に移し、落下やノックによる衝撃を加えて筆記を行った際に、不溶化した空気がインク中で微小な気泡を生じ、継ぎ手内等に溜まり、インク流路を阻害し、筆記不良につながる可能性がある。
上記剪断速度における上記粘度値の範囲、表面張力の範囲の調整等は、用いる上記顔料を含む着色剤と、オレフィン系樹脂粒子、水溶性溶剤などを好適に組み合せ、これらの各含有量を好適に調整すること、更に、好適な混練方法などの選択により行うことができる。また、上記溶存酸素濃度が5%O以上などとするには、気泡抑制剤を添加することや、インク製造時の撹拌条件などにより、調整することができる。
用いることができる気泡抑制剤は、従来利用されているものであればよく、システイン及びその誘導体、グルタチオン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンの誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、エリソルビン酸、エリソルビン酸の誘導体や、それらの塩、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマーなどの少なくとも1種が利用できる。この気泡抑制剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01~5.0質量%の範囲で使用し、上記溶存酸素濃度を調整することが好ましい。
【0035】
本発明のボールペン用水性インク組成物は、他の水性インク組成物の製造方法と比べて特に変わるところはなく製造することができる。
すなわち、本発明のボールペン用水性インク組成物は、少なくとも、上記顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)の他に、水溶性溶剤、残部として溶媒である水、その他の各成分をボールペン用インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ミキサー等、更に、例えば、強力な剪断を加えることができるビーズミル、ホモミキサー、ホモジナイザー等を用いて撹拌条件を好適な条件に設定等して混合撹拌することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によってボールペン用水性インク組成物を製造することができる。
【0036】
本発明のボールペン用水性インク組成物は、ボールペンチップなどのペン先部を備えたボールペンに搭載される。
本発明における水性ボールペンとしては、上記組成のボールペン用水性インク組成物をボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等がインク追従体として収容されるものが挙げられ、例えば、該ボールペン用水性インク組成物を、直径が0.18~2.0mmのボールを有するボールペンチップを備えた水性ボールペン体に充填することにより作製することができる。
【0037】
水性ボールペン体であれば、筆記時にペン先(ボールペンチップ)からの空気の巻き込みが起こりやすくなり、ペン先から取り込まれた空気(酸素を含む)がインク中に溶解され、さらなる気泡発生の要因となりやすい。そのため、ボールペンチップは、例えば、図1に示すように、ボール10の中心を通り、軸方向に対して垂直方向での、ボールハウス20の直径をA、ボール10の直径をBとしたときに、空気を巻き込んだインクの流路となる(A-B)/2=5~30μmの範囲であること、さらに好ましくは、10~25μmの範囲であることがより好ましい。これにより、筆記時の耐擦れ性に効果があり、良好な描線が得られることとなり、描線の耐擦過性の向上にも期待することができる。
なお、ボールペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成のボールペン水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペンなどであってもよいものである。
【0038】
このように構成される本発明のボールペン用水性インク組成物にあっては、少なくとも、顔料を含む着色剤(A)と、オレフィン系樹脂粒子(B)と、水とを含み、前記オレフィン系樹脂粒子(B)の針入度法硬度が1以上であると共に、コールカウンター法で測定した平均粒子径が15μm以下であり、前記着色剤(A)と前記オレフィン系樹脂粒子(B)の固形分の質量比〔(A)/(B)〕が1~100の範囲とすることで、通常の被筆記面の他、被筆記面が、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができるものとなる。
【0039】
このように構成される本発明のボールペン用水性インク組成物及びこれを搭載した水性ボールペンが、何故、インクジェットはがき紙や微塗工紙など、水性インクが浸透しにくい紙面などを含む被筆記面に対して、上記特有の作用を発揮するものとなるのは、描線塗膜の表面にオレフィン粒子が介在することで摺動性が向上し、描線の摩擦抵抗が低減されるためと推測される。
また、本発明のボールペン用水性インク組成物及びこれを搭載した水性ボールペンが、気泡発生による筆記時の掠れや外観不良もないものとなるかは以下の作用機構が働くものと推測される。すなわち、本発明において、上記特性のオレフィン系樹脂粒子(B)の含有によって、インク組成物中で発生した微小な気泡をトラップし、気泡が合一して大きくなるのを抑制することとなる。このメカニズムは、上記特性のオレフィン系樹脂粒子が疎水性の性質であり、比較的気液界面に吸着しやすく、そのため、筆記具の落下やノック式ボールペンなどの衝撃によって発生した気泡とインクの界面に吸着し、気泡同士が直接接触して合一するのを抑制する効果があるものと推測される。特に自己分散型のオレフィン系樹脂粒子の場合には、立体障害もないため、より気液界面に吸着しやすく、効果を得られやすい。さらには、本発明で用いるポリオレフィン樹脂粒子は、針入度法硬度が1以上であり、例え、ペン先で乾燥したとしても、柔軟な塗膜を形成しやすく、書き出し時の擦れに影響を及ぼすことなく、気泡発生の抑制に効果を発揮することが可能となる。
本発明のボールペン用水性インク組成物及びこれを搭載した水性ボールペンでは、本発明の上述の作用効果を発揮せしめる持続効果が極めて優れており、しかも、その効果の発現期間・持続時間も長く、更に水性であるために経時的な安定性にも優れたものとなる。
【実施例0040】
次に、ボールペン用水性インク組成物及びこれを搭載した水性ボールペンの実施例1~6及び比較例1~4により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0041】
〔実施例1~6及び比較例1~4〕
下記表1に示す、各着色剤(A)、各特性(針入度法硬度、コールカウンター法で測定した平均粒子径)のオレフィン系樹脂粒子(B)、水溶性溶剤などの配合処方にしたがって、常法により各ボールペン用水性インク組成物を調製した。
得られた各ボールペン用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記各方法により剪断速度383sec-1(25℃)における粘度(mPa・s)の測定、表面張力、溶存酸素濃度、下記構造の筆記具を作製して、下記評価方法により耐擦過性、耐掠れ性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0042】
〔剪断速度383sec-1(25℃)における粘度、表面張力の測定方法〕
EMD型粘度計(東京計器社製)を用いて、測定温度25℃で剪断速度383sec-1のインク粘度(mPa・s)を測定した。
また、表面張力(25℃)は、協和界面科学社製、表面張力測定装置:CBVP-Zにて測定した。
【0043】
(溶存酸素濃度の測定方法)
ニードル式酸素濃度計 MicroxTX3 (PreSens社製)を用いて、測定温度25℃で溶存酸素濃度%Oを測定した。この「%O」は、インク中に溶解している空気のうちの酸素濃度を示したものである。
【0044】
(筆記具)
ノック式ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:ユニボールシグノRT〕の軸を使用し、各インク追従体の直径が各内径となる、内径3.8mm、長さ113mmのポリプロピレン製インク収容体とボールペンチップ(ホルダー:ステンレス製、ボール:超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに、上記で得られた各ボールペン用水性インク組成物を充填し、インク後端にポリブテンからなるインク追従体を充填して筆記具(各5本)を作製した。また、このノック式ボールペンにおける図1に準拠する〔(A-B)/2〕は、15μmであった。
【0045】
<耐擦過性の評価方法>
上記のノック式ボールペンを用いてコート紙(ニューユポ80、株式会社ユポ・コーポレーション)表面に丸書き筆記し、筆跡を乾燥させた。この筆跡を、500gの分銅を載せたキムワイプを5回移動させることによって擦過して、筆跡の耐擦過性を下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:試験後に観察した際に、筆跡に剥がれがまったく生じなかった。
B:試験後に観察した際に、筆跡に少し剥がれが生じたが、筆跡はほとんど残っていた。
C:試験後に観察した際に、筆跡が残らないほど剥がれが生じた。
【0046】
<気泡発生の評価方法>
上記のノック式水性ボールペンについて、温度5℃の環境下にて1カ月静置した後、温度25℃の環境下にて1日静置したのち、ペン先を下向きにした状態で、ノック動作を20回行った。25℃の環境下に1週間放置後の気泡発生有無を下記基準に基づいて評価を行った。
評価基準:
A:気泡は認められない。
B:直径0.5mm未満の気泡が1つ認められる。
C:直径0.5mm以上1mm未満相当の気泡が認められる。
D:直径1mm以上相当の気泡が認められる。
【0047】
<耐掠れ性の評価方法>
上記ボールペンを用いて温度5℃の環境下にて1カ月静置した後、温度25℃の環境下にて1日静置したのち、ペン先を下向きにした状態で、ノック動作を20回行った。筆記用紙に直径2cmのらせんを筆記することで、気泡発生による耐擦れ性の有無について下記基準に基づいて評価を行った。
評価基準:
A:筆記描線は良好である。
B:書き進めていくと若干の擦れがあるが、さらに筆記を進めていくと擦れが改善される。
C:書き進めていくと顕著な擦れがあり、さらに筆記を進めても擦れが改善されない。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~6のボールペン用水性インク組成物を搭載した水性ボールペンは、本発明の範囲外となる比較例1~4に較べ、筆記して形成された筆跡の繰り返しの擦過や、より強い力での擦過に耐えることができる筆跡をもたらすことができ、しかも、気泡発生による筆記時の掠れもない、ボールペン用水性インク組成物、これを搭載した水性ボールペンとなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
水性ボールペンに好適なボールペン用水性インク組成物、これを搭載した水性ボールペンが得られる。