(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024253
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/38 20060101AFI20230209BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20230209BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20230209BHJP
【FI】
G01S13/38
G01S13/34
G01S13/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033509
(22)【出願日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2021129947
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸上 高明
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD05
5J070AD13
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF01
5J070AF03
5J070AH12
5J070AH25
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH40
5J070AK13
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】レーダ装置において物標を精度良く検知すること。
【解決手段】レーダ装置10は、送信周期毎に、第1中心周波数の第1送信信号、及び、第1中心周波数よりも高い中心周波数である第2中心周波数の第2送信信号を交互に出力する送信回路と、第1送信信号と第2送信信号とを送信する送信アンテナと、を具備する。第2中心周波数は、第1中心周波数の(1+1/N
c)倍よりも高い周波数である(N
cは、所定期間内で第1送信信号及び第2送信信号のそれぞれが送信周期毎に送信される回数を示す整数)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信周期毎に、第1中心周波数の第1送信信号、及び、前記第1中心周波数よりも高い中心周波数である第2中心周波数の第2送信信号を出力する送信回路と、
前記第1送信信号と前記第2送信信号とを送信する送信アンテナと、
を具備し、
前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(1+1/Nc)倍よりも高い周波数である(Ncは、所定期間内で前記第1送信信号及び前記第2送信信号のそれぞれが前記送信周期毎に送信される回数を示す整数)、
レーダ装置。
【請求項2】
前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の1.25倍よりも低い周波数である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(7/6)倍よりも低い周波数である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信アンテナは、前記送信周期毎に、前記第1送信信号と前記第2送信信号とを交互に送信する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記送信アンテナは、前記送信周期毎に、前記第1送信信号と前記第2送信信号とを同時に送信する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記送信アンテナは、複数の送信アンテナであり、
前記複数の送信アンテナのうち、前記第1送信信号を送信する送信アンテナの数と、前記第2送信信号を送信する送信アンテナの数とは、同数または1つ異なる、
請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する受信アンテナと、
前記第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、
前記判定回路は、
前記第1反射波信号により観測される前記第1ドップラ周波数の第1ピーク位置を推定し、
前記第1ピーク位置と、前記第1中心周波数と前記第2中心周波数との比率とに基づいて、前記第2ドップラ周波数の第2ピーク位置を推定し、
前記第2ピーク位置と、前記第2反射波信号により観測される第3ピーク位置との一致度に基づいて、前記ターゲットのドップラ周波数の折り返し回数を判定する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記送信アンテナは、複数の送信アンテナであり、
前記送信回路は、前記複数の送信アンテナから送信される前記第1送信信号及び前記第2送信信号の少なくとも一つに、ドップラ周波数の折り返し回数の判定の対象となるドップラ周波数範囲を不等間隔に分割した間隔のドップラシフト量を付与する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記不等間隔に分割したドップラシフト量の間隔を
【数1】
とした場合に(Ntは、前記複数の送信アンテナの数を示す整数、δは1以上の整数であり、T
rsは前記第1送信信号及び前記第2送信信号のセットが送信される送信周期)、
前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の
【数2】
よりも高い周波数である、
請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記第1送信信号が複数のターゲットに反射した複数の第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記複数のターゲットに反射した複数の第2反射波信号を受信する受信アンテナと、
前記複数の第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記複数の第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、
前記判定回路は、前記第1ドップラ解析回路及び前記第2ドップラ解析回路のうち、前記第1反射波信号及び前記第2反射波信号が分離されるドップラ解析回路の推定したドップラ周波数に基づいて、前記複数のターゲット間のピーク位置の間隔と、前記ドップラシフト量の間隔とに基づいて、前記複数のターゲットそれぞれのドップラ周波数の折り返し回数を判定する、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記第1送信信号が複数のターゲットに反射した複数の第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記複数のターゲットに反射した複数の第2反射波信号を受信する受信アンテナと、
前記複数の第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記複数の第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、
前記受信回路は、前記第1ドップラ解析回路及び前記第2ドップラ解析回路のうち、前記第1反射波信号及び前記第2反射波信号が分離されるドップラ解析回路の推定したドップラ周波数に基づいて、方向推定を行う方向推定回路を、更に具備する、
請求項9に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する受信アンテナと、
前記第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、
前記受信アンテナは、第1受信アンテナと、第2受信アンテナとを含み、
前記第1ドップラ解析回路は、偶数番目及び奇数番目の何れか一方の送信周期において前記第1受信アンテナで受信された前記第1反射波信号を処理し、偶数番目及び奇数番目の何れか他方の送信周期において前記第2受信アンテナで受信された前記第1反射波信号を処理し、
前記第2ドップラ解析回路は、前記一方の送信周期において前記第2受信アンテナで受信された前記第2反射波信号を処理し、前記他方の送信周期において前記第1受信アンテナで受信された前記第2反射波信号を処理する、
請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項13】
第1の受信アンテナと第2の受信アンテナとを含む複数の受信アンテナと、
第1の周期毎に、前記第1の受信アンテナで受信した信号に対して前記第1送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号を出力し、前記第1の周期と異なる第2の周期毎に、前記第1の受信アンテナで受信した信号に対して前記第2送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第2送信信号がターゲットに反射した第2反射波信号を出力する第1受信回路と、
前記第1の周期毎に、前記第2の受信アンテナで受信した信号に対して前記第2送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第2反射波信号を出力し、前記第2の周期毎に、前記第2の受信アンテナで受信した信号に対して前記第1送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第1反射波信号を出力する第2受信回路と、を更に具備する、
請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記第1送信信号及び前記第2送信信号はチャープ信号であり、
前記第1中心周波数のチャープ信号と、前記第2中心周波数のチャープ信号とで、周波数掃引帯域幅が同一である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記第1中心周波数のチャープ信号と、前記第2中心周波数のチャープ信号とで、周波数掃引時間が異なる、
請求項14に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号を受信する第1受信アンテナと、
前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する第2受信アンテナと、
前記第1反射波信号を処理する第1受信回路と、
前記第2反射波信号を処理する第2受信回路と、を更に具備し、
前記送信回路は、前記第1送信信号を出力する第1送信回路と、前記第2送信信号を出力する第2送信回路と、を含み、
前記送信アンテナは、前記第1送信信号を送信する第1送信アンテナと、前記第2送信信号を送信する第2送信アンテナと、を含み、
前記第1送信アンテナと、前記第1送信回路と、前記第1受信アンテナと、前記第1受信回路とは、第1チップに含まれ、
前記第2送信アンテナと、前記第2送信回路と、前記第2受信アンテナと、前記第2受信回路とは、第2チップに含まれる、
請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する第1受信アンテナと、
前記第1反射波信号、及び、前記第2反射波信号を受信する第2受信アンテナと、
偶数番目及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、前記第1受信アンテナで受信した前記第1反射波信号を処理し、偶数番目及び奇数番目の何れか他方の送信周期において、前記第1受信アンテナで受信した前記第2反射波信号を処理する第1受信回路と、
前記一方の送信周期において、前記第2受信アンテナで受信した前記第2反射波信号を処理し、前記他方の送信周期において、前記第2受信アンテナで受信した前記第1反射波信号を処理する第2受信回路と、
を更に具備し、
前記送信回路は、前記第1送信信号を出力する第1送信回路と、前記第2送信信号を出力する第2送信回路と、を含み、
前記送信アンテナは、前記第1送信信号を送信する第1送信アンテナと、前記第2送信信号を送信する第2送信アンテナと、を含み、
前記第1送信アンテナと、前記第1送信回路と、前記第1受信アンテナと、前記第1受信回路とは、第1チップに含まれ、
前記第2送信アンテナと、前記第2送信回路と、前記第2受信アンテナと、前記第2受信回路とは、第2チップに含まれる、
請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項18】
第1中心周波数の第1送信信号、及び、前記第1中心周波数よりも高い中心周波数である第2中心周波数の第2送信信号に、ドップラ周波数の折り返し回数の判定の対象となるドップラ周波数範囲を不等間隔に分割した間隔のドップラシフト量を付与する送信回路と、
前記ドップラシフト量が付与された前記第1送信信号と前記第2送信信号とを送信する複数の送信アンテナと、
を具備し、
前記送信回路は、送信周期毎に、前記第1送信信号及び前記第2送信信号を出力し、
前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(1+1/N
c)倍よりも高い周波数であり(N
cは、所定期間内で前記第1送信信号及び前記第2送信信号のそれぞれが前記送信周期毎に送信される回数を示す整数)、
前記不等間隔に分割したドップラシフト量の間隔を
【数3】
とした場合に(Ntは、前記複数の送信アンテナの数を示す整数、δは1以上の整数であり、T
rsは前記第1送信信号及び前記第2送信信号のセットが送信される送信周期)、
前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の
【数4】
よりも高い周波数である、
レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分解能が得られるマイクロ波又はミリ波を含む波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置の検討が進められている。また、屋外での安全性を向上させるために、車両以外にも、歩行者又は落下物等の小物体を広角範囲で検知するレーダ装置(広角レーダ装置)の開発が求められている。
【0003】
広角な検知範囲を有するレーダ装置の構成として、複数のアンテナ(アンテナ素子)で構成されるアレーアンテナによって反射波を受信し、素子間隔(アンテナ間隔)に対する受信位相差に基づく信号処理アルゴリズムによって反射波の到来角(到来方向)を推定する手法(到来角推定手法。Direction of Arrival (DOA) estimation)を用いる構成がある。例えば、到来角推定手法には、フーリエ法(Fourier法)、又は、高い分解能が得られる手法としてCapon法、MUSIC(Multiple Signal Classification)及びESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)が挙げられる。
【0004】
また、レーダ装置として、例えば、受信部に加え、送信部にも複数のアンテナ(アレーアンテナ)を備え、送受信アレーアンテナを用いた信号処理によりビーム走査を行う構成(MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダと呼ぶこともある)が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-304417号公報
【特許文献2】特表2011-526371号公報
【特許文献3】特開2014-119344号公報
【特許文献4】国際公開第2019/054504号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Li, and P. Stoica, "MIMO Radar with Colocated Antennas", Signal Processing Magazine, IEEE Vol. 24, Issue: 5, pp. 106-114, 2007
【非特許文献2】M. Kronauge, H.Rohling,"Fast two-dimensional CFAR procedure", IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., 2013, 49, (3), pp. 1817-1823
【非特許文献3】Direction-of-arrival estimation using signal subspace modeling Cadzow, J.A.; Aerospace and Electronic Systems, IEEE Transactions on Volume: 28 , Issue: 1 Publication Year: 1992 , Page(s): 64 - 79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レーダ装置(例えば、MIMOレーダ)において物標(又はターゲット)を検知する方法について十分に検討されていない。
【0008】
本開示の非限定的な実施例は、物標を精度良く検知できるレーダ装置の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、送信周期毎に、第1中心周波数の第1送信信号、及び、前記第1中心周波数よりも高い中心周波数である第2中心周波数の第2送信信号を出力する送信回路と、前記第1送信信号と前記第2送信信号とを送信する送信アンテナと、を具備し、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(1+1/Nc)倍よりも高い周波数である(Ncは、所定期間内で前記第1送信信号及び前記第2送信信号のそれぞれが前記送信周期毎に送信される回数を示す整数)。
【0010】
なお、これらの包括的または具体的な実施例は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施例によれば、レーダ装置において物標を精度良く検知できる。
【0012】
本開示の一実施例における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
MIMOレーダは、例えば、時分割、周波数分割又は符号分割を用いて多重した信号(レーダ送信波)を複数の送信アンテナ(又は送信アレーアンテナと呼ぶ)から送信し、周辺物体において反射された信号(レーダ反射波)を複数の受信アンテナ(又は受信アレーアンテナと呼ぶ)を用いて受信し、それぞれの受信信号から、多重された送信信号を分離して受信する。このような処理により、MIMOレーダは、送信アンテナ数と受信アンテナ数との積で示される伝搬路応答を取り出すことができ、これらの受信信号を仮想受信アレーとしてアレー信号処理を行う。
【0015】
また、MIMOレーダでは、送受信アレーアンテナにおける素子間隔を適切に配置することにより、仮想的にアンテナ開口を拡大し、角度分解能の向上を図ることができる。
【0016】
[時分割多重送信]
例えば、特許文献1には、MIMOレーダの多重送信方法として、送信アンテナ毎に送信時間をずらして信号を送信する時分割多重送信を用いたMIMOレーダ(以下、「時分割多重MIMOレーダ」と呼ぶ)が開示されている。時分割多重送信は、周波数多重送信又は符号多重送信と比較し、簡易な構成で実現できる。また、時分割多重送信は、送信時間の間隔を十分に広げることにより、送信信号間の直交性を良好に保つことができる。時分割多重MIMOレーダは、送信アンテナを所定の周期で逐次的に切り替えながら、送信信号の一例である送信パルスを出力する。時分割多重MIMOレーダは、送信パルスが物体で反射された信号を複数の受信アンテナで受信し、受信信号と送信パルスとの相関処理後に、例えば、空間的なFFT(Fast Fourier Transforma)処理(反射波の到来方向推定処理)を行う。
【0017】
時分割多重MIMOレーダは、送信信号(例えば送信パルス又はレーダ送信波)を送信する送信アンテナを、所定の周期で逐次的に切り替える。したがって、時分割多重送信は、周波数分割送信又は符号分割送信と比較し、全ての送信アンテナから送信信号を送信し終えるまでに要する時間が長くなり得る。このため、例えば、特許文献2のように、各送信アンテナから送信信号を送信し、それらの受信位相変化からドップラ周波数(例えば、ターゲットの相対速度)の検出を行う場合、ドップラ周波数を検出するためにフーリエ周波数解析を適用するにあたり、受信位相変化の観測の時間間隔(例えば、サンプリング間隔)が長くなる。よって、サンプリング定理に基づく最大ドップラ周波数範囲(例えば、折り返しなしで検出可能なドップラ周波数範囲、又は、検出可能なターゲットの相対速度範囲)が低減する。
【0018】
また、サンプリング定理に基づく最大ドップラ周波数を超えるドップラ周波数を有するターゲットからの反射波信号の受信が想定される場合、レーダ装置では、真の周波数とは異なる折り返し(エリアシング)成分のドップラ周波数が観測され得る。この場合、レーダ装置は、反射波信号が折り返し成分か否かを特定することが困難であり、ドップラ周波数(例えば、ターゲットの相対速度)の曖昧性(不確定性、Ambiguity)が生じる。
【0019】
例えば、レーダ装置が、Nt個の送信アンテナを所定の周期Trで逐次的に切り替えることによって送信信号(送信パルス)を送信する場合、全ての送信アンテナから送信信号を送信し終えるまでの送信時間がTr×Ntとなる。このような時分割多重送信をNc回繰り返して、ドップラ周波数の検出(相対速度の検出)のためにフーリエ周波数解析を適用する場合、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、サンプリング定理より、±1/(2Tr×Nt)となる。したがって、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、送信アンテナ数Ntが増大するほど低減し、より低速な相対速度でもドップラ周波数の曖昧性が生じやすくなる。
【0020】
[ドップラ多重送信]
時分割多重MIMOレーダには上述したようなドップラ周波数の曖昧性が生じる恐れがあるため、以下では、一例として、複数の送信アンテナから送信信号を同時に多重して送信する方法に着目する。
【0021】
複数の送信アンテナから送信信号を同時に多重して送信する方法として、例えば、受信部においてドップラ周波数軸上で複数の送信信号を分離できるように信号を送信する方法(以下、ドップラ多重送信と呼ぶ)がある(例えば、非特許文献3を参照)。
【0022】
ドップラ多重送信において、送信部では、例えば、基準となる送信アンテナから送信される送信信号に対して、基準となる送信アンテナと異なる送信アンテナから送信される送信信号に、受信信号のドップラ周波数帯域幅よりも大きなドップラシフト量が与えられ、複数の送信アンテナから送信信号が同じ送信周期(同じ送信スロット)で送信される。ドップラ多重送信において、受信部では、ドップラ周波数軸上でフィルタリングすることにより、各送信アンテナから送信された送信信号が分離して受信される。
【0023】
ドップラ多重送信では、複数の送信アンテナから送信信号を同じ送信周期で送信することにより、時分割多重送信と比較して、ドップラ周波数(又は、相対速度)の検出のためにフーリエ周波数解析を適用する際の受信位相変化を観測する時間間隔を短縮できる。しかし、ドップラ多重送信では、ドップラ周波数軸上でフィルタリングすることにより各送信アンテナの送信信号を分離するため、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数帯域幅が制限されてしまう。
【0024】
例えば、ドップラ多重送信において、レーダ装置が、Nt個の送信アンテナから周期Trで送信信号を送信する場合について説明する。このようなドップラ多重送信を所定期間内でNc回繰り返して、ドップラ周波数(又は、相対速度)の検出のためにフーリエ周波数解析を適用すると、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、サンプリング定理より±1/(2×Tr)となる。例えば、ドップラ多重送信において折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲は、時分割多重送信の場合(例えば、±1/(2Tr×Nt))と比較してNt倍に拡大される。なお、所定期間内は、ドップラ多重送信期間(周期Tr×Nc)+無送信期間で構成される。
【0025】
ただし、ドップラ多重送信では、上述したように、ドップラ周波数軸上でフィルタリングすることによって送信信号が分離される。そのため、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数帯域幅は、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲よりも狭い。例えば、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲±1/(2×Tr)を、Nt個の送信信号に等分割すると、各信号の実効的なドップラ周波数範囲は1/(Tr×Nt)に制限されるので、時分割多重送信を行った場合と同様なドップラ周波数範囲となる。また、ドップラ多重送信において、送信信号あたりの実効的なドップラ周波数範囲を超えたドップラ周波数帯域では、当該送信信号と異なる他の送信信号のドップラ周波数帯域の信号と混在するため、送信信号を正しく分離することが困難となる可能性がある。
【0026】
[不等間隔ドップラ多重送信]
このようなドップラ多重送信において検出可能な最大ドップラ周波数範囲を拡大する方法として、例えば、折り返しなしでドップラ周波数を検出できるドップラ周波数範囲±1/(2Tr)をNt+1個に等分割し、Nt+1個に分割されたドップラシフト量のうち、Nt個のドップラシフト量をNt個の送信信号に割り当てて、Nt個の送信アンテナから同時に送信信号を送信する方法がある(例えば、特許文献4を参照)。
【0027】
このドップラ多重送信では、例えば、Nt+1個に等分割されるドップラシフト量のうち一部には送信信号が割り当てられないため、ドップラ多重される送信信号に付与するドップラシフト間隔(以下、「ドップラ多重間隔」と呼ぶ)は、不等間隔となる。以下、このようなドップラ多重送信を「不等間隔ドップラ多重送信」と呼ぶ。
【0028】
次に、不等間隔ドップラ多重送信を用いる場合のレーダ反射波の受信処理の例について説明する。
【0029】
ドップラ周波数検出(相対速度検出)のためにフーリエ周波数解析を適用した出力において、例えば、Nt+1個に等分割されたドップラシフト量のうち、送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラの受信電力レベルは、送信信号が割り当てられたドップラシフト量に相当するドップラの受信電力レベルよりも低い。レーダ装置は、例えば、この受信電力レベルの違いを利用して、ドップラ周波数を推定してよい。この推定処理により、レーダ装置は、ドップラ周波数範囲±1/(2Tr)にてレーダ反射波のドップラ周波数を推定可能となる。
【0030】
このように、ドップラ周波数領域において不等間隔となるドップラシフトを付与する不等間隔ドップラ多重送信により、分割されるドップラ周波数領域±1/(2Tr×(Nt+1))を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合でも、レーダ装置は、不等間隔となるドップラ領域を検出することにより、ドップラ周波数の曖昧性を抑制して、検出可能な最大ドップラ周波数を1/2Trまで拡大できる。これにより、不等間隔ドップラ多重送信では、例えば、特許文献3に記載の方法と比較して、検出可能なドップラ周波数範囲はNt倍に拡大される。
【0031】
例えば、特許文献4では、フーリエ周波数解析のサンプリング定理の制約から、検出可能な最大ドップラ周波数1/2Trを超えるドップラ周波数(又は、相対速度)は検出されない。例えば、送信周期Trの短縮によりドップラ検出範囲の拡大は可能であるが、検出可能な距離範囲又は距離分解能を維持したまま、送信周期Trを短縮するには、より高速なサンプリングレートのA/D変換器を用いるため、ハードウェア構成が複雑化する。また、A/D変換器のサンプリングレートの高速化によって、レーダ装置における消費電力又は発熱量も増加し得る。その一方で、A/D変換器のサンプリングレートの制約下において、送信周期Trを短縮した場合、検出可能な距離範囲の縮小、又は、距離分解能の劣化により、レーダ装置における距離検出範囲又は距離分離性能が劣化し得る。
【0032】
また、不等間隔ドップラ多重送信では、例えば、レーダ装置に対して同程度の距離から、複数の反射波がある場合、かつ、それらの反射波のドップラ間隔がドップラ多重間隔(例えば、「ΔfDDM」と表す)あるいはドップラ多重間隔の倍数に一致する場合、レーダ装置において、不等間隔となるドップラ領域の検出誤りが発生しやすくなり、多重波の分離誤り又は複数の反射波の測角誤差が増加しやすくなる。
【0033】
例えば、
図1に示すように、レーダ装置が、Nt=2の送信アンテナを用いて、3(=Nt+1)等分割されたドップラシフト量のうち、2つのドップラシフト量を用いた不等間隔ドップラ多重送信を行い、レーダ装置に対して同一距離の物標からの反射波#1及び反射波#2を受信し、反射波#1及び反射波#2のドップラ周波数の差がΔf
DDMである場合について説明する。
【0034】
図1の(a)、(b)及び(c)は、ドップラ周波数検出(又は、相対速度検出)のためにフーリエ周波数解析を適用した出力(例えば、周波数解析部の出力)を示し、
図1の(a)には反射波#1の受信電力を示し、
図1の(b)には、反射波#2の受信電力を示し、
図1の(c)には反射波#1及び反射波#2の受信信号の合成結果を示す。反射波#1及び反射波#2のドップラ周波数の差がΔf
DDMであるので、
図1の(b)の反射波#2は、
図1の(a)の反射波#1がドップラ周波数軸上を+Δf
DDMシフトした位置にある。
【0035】
図1の(a)及び(b)のように、Nt+1個に等分割されたドップラシフト量のうち、送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数の受信電力レベルは、送信信号が割り当てられるドップラシフト量に相当するドップラの受信電力レベルよりも、低くなる(ノイズレベル程度になる)のに対して、
図1の(c)では、他方の反射波の受信電力を含むため高くなりやすい。
【0036】
例えば、
図1の(c)の場合、反射波#1で、送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数-1/2T
r+2Δf
DDMには、他方の反射波#2における送信信号が割り当てられたドップラシフト量に相当するドップラ周波数と一致するため、受信電力レベルが高くなりやすい。同様に、反射波#2で、送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数-1/2T
rには、他方の反射波#1における送信信号が割り当てられたドップラシフト量に相当するドップラ周波数と一致するため、受信電力レベルが高くなりやすい。
【0037】
また、受信信号は位相及び振幅で構成されるため、複数の送信信号が合成された受信電力は、位相の値によって、合成される振幅の値が変化する。例えば、
図1の(c)の場合、-1/2T
r+Δf
DDMのドップラ周波数成分は、反射波#1及び反射波#2で、送信信号が割り当てられたドップラシフト量に一致しているため、それぞれが合成された受信電力となり、位相の値によって、合成される振幅の値が変化する。
【0038】
不等間隔ドップラ多重送信を用いたレーダ装置におけるレーダ受信部は、不等間隔ドップラ多重を分離するため、例えば、後述するドップラ多重分離部を用いて、送信信号を割り当てたドップラ多重間隔に一致するドップラピーク位置を検出し、ドップラ多重送信信号を分離する。この際、ドップラ多重分離部は、ドップラ多重送信信号が割り当てられないドップラ多重間隔のドップラ周波数成分の受信電力が、十分に低いことを利用して、
ドップラ多重送信信号を分離する。
【0039】
このような受信電力レベルの違いを利用することで、ドップラ周波数は、ドップラ周波数範囲±1/(2T
r)において一意に推定でき、ドップラ多重送信信号の分離処理を行うことができる。例えば、
図1の(a)において、反射波#1の受信電力は、ドップラ多重間隔Δf
DDMに一致する-1/2T
rと、-1/2T
r +Δf
DDMのドップラ周波数成分のドップラピーク位置が検出され、さらに、これらのドップラピーク位置から、ドップラ多重間隔Δf
DDMずれたドップラ周波数成分(-1/2T
r+2Δf
DDM)の受信電力は十分に低い受信電力となっており、ドップラ周波数の推定及び、ドップラ多重送信信号の分離がなされる。
【0040】
しかしながら、例えば、
図1の(c)でのドップラ周波数-1/2T
r+2Δf
DDMにおける受信電力は、
図1の(a)でのドップラ周波数-1/2T
r+2Δf
DDMにおける受信電力より高いドップラ位置となり、反射波#1のドップラ周波数推定を誤りやすくなり、送信アンテナの分離性能が劣化する。同様に、例えば、
図1の(c)でのドップラ周波数-1/2T
rにおける受信電力は、
図1の(b)でのドップラ周波数-1/2T
rにおける受信電力よりも高いドップラ位置となり、反射波#2のドップラ周波数推定を誤りやすくなり、送信アンテナの分離性能が劣化する。
【0041】
また、
図1の(c)では、ドップラ周波数(-1/2T
r+1Δf
DDM)では、それぞれ異なる位相及び振幅である反射波#1のTx#2のドップラと、反射#2のTx#1のドップラとが合成されるため、それぞれ、
図1の(a)(b)の状態から位相及び振幅が変化し、測角精度が劣化する。
【0042】
例えば、
図1の(c)において、反射波#1と反射波#2とのドップラ周波数の差は+Δf
DDMであるため、反射波#1で送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数(実線×印、-1/2T
r+2Δf
DDM)には、反射波#2のうちTx#2による送信信号が割り当てられるドップ周波数成分が重複して受信される。
【0043】
また、反射波#2と反射波#1のドップラ周波数の差は-ΔfDDMであるため、反射波#2で送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数(点線丸印、-1/2Tr)には、反射波#1のうちTx#1による送信信号が割り当てられるドップ周波数成分が重複して受信される。
【0044】
従って、同一距離の物標からの反射波#1及び反射波#2を受信し、反射波#1及び反射波#2のドップラ周波数の差がΔf
DDMである場合、送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数(
図1の(c)実線×印あるいは点線丸印)は、本来、送信信号が割り当てられるドップラシフト量(
図1の(a)での反射波#1のTx#1及びTx#2、
図1の(b)での反射波#2でのTx#1及びTx#2)に相当するドップラの受信電力レベルより低くなる。
【0045】
しかしながら、送信信号が割り当てられないドップラシフト量に相当するドップラ周波数は、他方の反射波の受信電力を含むため高くなりやすい。例えば、
図1の(a)の実線×印にとっては、
図1の(b)の反射波#2のTx#2を含むため、
図1の(c)のドップラ周波数=-1/2T
r+2Δf
DDM での合成受信電力が高くなりやすい。
【0046】
このため、レーダ装置は、
図1の(c)の状態では、ドップラ周波数の推定を誤る確率が増大する。レーダ装置は、ドップラ周波数推定を誤った場合、送信アンテナの適切な分離も誤りやすくなり、測角誤差も増大しやすくなる。
【0047】
また、仮に、ドップラ周波数が正しく推定される場合でも、
図1の(c)に示すように、反射波#1のドップラ多重信号と反射波#2のドップラ多重信号とが一致するドップラ成分が含まれる場合(ドップラ周波数が-1/2T
r+1Δf
DDM)、それらが複素信号として加わる(合成される)ため、
図1の(a)(b)の状態から振幅成分又は位相成分が変化し、レーダ装置の測角精度が劣化しやすくなる。
【0048】
そこで、本開示の非限定的な実施例では、ドップラ多重送信において、折り返しが発生しない(例えば、曖昧性が生じない)ドップラ周波数の範囲を拡大させる方法について説明する。これにより、本開示に係る一実施例のレーダ装置は、より広いドップラ周波数範囲において、物標を精度良く検知できる。
【0049】
また、本開示の非限定的な実施例では、レーダ装置に対して同程度の距離の複数の物標それぞれからの反射波のドップラ間隔が、ドップラ多重間隔(又は、ドップラ多重間隔の倍数)に一致する場合でも、各反射波の分離検出を可能にする方法について説明する。
【0050】
また、本開示の非限定的な実施例では、ドップラ多重送信において、折り返しが発生しないドップラ周波数(相対速度)の範囲を拡大し、また、レーダ装置に対して同程度の距離の複数の物標それぞれからの反射波のドップラ間隔が、ドップラ多重間隔(又は、ドップラ多重間隔の倍数)に一致する場合でも、各反射波の分離検出を可能にする方法について説明する。
【0051】
なお、本開示の一実施例に係るレーダ装置は、例えば、車両といった移動体に搭載されてよい。移動体に搭載されるレーダ装置の測位出力(推定結果に関する情報)は、例えば、衝突安全性を高める先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)、又は、自動運転システムといった制御ECU(Electronic Control Unit)(図示せず)に出力され、車両駆動制御又は警報発呼制御に利用されてもよい。
【0052】
また、本開示の一実施例に係るレーダ装置は、例えば、路側の電柱又は信号機といった比較的高所の構造物(図示せず)に取り付けられてよい。このようなレーダ装置は、例えば、通行する車両又は歩行者の安全性を高める支援システム、又は、不審者の侵入防止システムにおけるセンサとして利用可能である。また、レーダ装置の測位出力は、例えば、安全性を高める支援システム又は不審者侵入防止システムにおける制御装置(図示なし)に出力され、警報発呼制御又は異常検出制御に利用されてもよい。
【0053】
なお、レーダ装置の用途はこれらに限定されず、他の用途に利用されてもよい。
【0054】
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
【0055】
以下では、レーダ装置において、送信ブランチにおいて、複数の送信アンテナから同時に多重された異なる送信信号を送出し、受信ブランチにおいて、各送信信号を分離して受信処理を行う構成(例えば、MIMOレーダ構成)について説明する。
【0056】
また、以下では、一例として、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式(例えば、チャープパルス送信(fast chirp modulation)とも呼ぶ)の構成について説明する。ただし、変調方式は、周波数変調に限定されない。例えば、本開示の一実施例は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いたレーダ方式についても適用可能である。
【0057】
(実施の形態1)
[レーダ装置の構成]
図2のレーダ装置10は、レーダ送信部(送信ブランチ)100と、レーダ受信部(受信ブランチ)200と、を有する。
【0058】
レーダ送信部100は、レーダ信号(レーダ送信信号)を生成し、複数の送信アンテナ106-1~106-Ntによって構成される送信アレーアンテナを用いて、レーダ送信信号を所定の送信周期にて送信する。
【0059】
レーダ受信部200は、物標(ターゲット。図示せず)により反射したレーダ送信信号である反射波信号を、複数の受信アンテナ202-1~202-Naを含む受信アレーアンテナを用いて受信する。レーダ受信部200は、各受信アンテナ202において受信した反射波信号を信号処理し、例えば、物標の有無検出又は反射波信号の到来方向の推定を行う。
【0060】
なお、物標はレーダ装置10が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石などを含む。
【0061】
[レーダ送信部100の構成]
レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101と、信号生成制御部104と、ドップラシフト部105-1~105-Ntと、送信アンテナ106-1~106-Ntと、を有する。例えば、レーダ送信部100は、Nt個の送信アンテナ106を有し、各送信アンテナ106は、それぞれ個別のドップラシフト部105に接続されている。
【0062】
レーダ送信信号生成部101は、例えば、信号生成制御部104からの制御に基づいて、レーダ送信信号を生成する。レーダ送信信号生成部101は、例えば、変調信号発生部102及びVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)103を有する。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
【0063】
変調信号発生部102は、例えば、のこぎり歯形状の変調信号を周期的に発生させる。ここで、レーダ送信周期をTrとする。
【0064】
VCO103は、変調信号発生部102から出力される変調信号に基づいて、周波数変調信号(以下、例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号と呼ぶ)を生成し、ドップラシフト部105-1~105-Nt、及び、レーダ受信部200(後述するミキサ部204)へ出力する。
【0065】
信号生成制御部104は、レーダ送信信号生成部101(例えば、変調信号発生部102及びVCO103)に対して、レーダ送信信号の生成を制御する。例えば、信号生成制御部104は、中心周波数の異なるチャープ信号を交互に送信するように、チャープ信号に関するパラメータ(例えば、変調パラメータ)を設定してよい。
【0066】
以下では、中心周波数の異なる2つのチャープ信号をそれぞれ、「第1チャープ信号」及び「第2チャープ信号」と呼ぶ。
【0067】
図3は、チャープ信号(例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号)の例を示す。
【0068】
図3に示すように、チャープ信号に関する変調パラメータには、例えば、中心周波数f
c(q)、周波数掃引帯域幅B
w(q)、掃引開始周波数f
cstart(q)、掃引終了周波数f
cend(q)、周波数掃引時間T
sw(q)、及び、周波数掃引変化率D
m(q)が含まれてよい。なお、D
m(q)=B
w(q)/T
sw(q)である。また、B
w(q)= f
cend(q)-f
cstart(q)及びf
c (q)=(f
cstart(q)+f
cend(q))/2である。また、例えば、q=1,2であり、q=1の場合には第1チャープ信号の変調パラメータを表し、q=2の場合には第2チャープ信号の変調パラメータを表してよい。
【0069】
また、周波数掃引時間T
sw(q)は、例えば、後述するレーダ受信部200のA/D変換部207におけるA/Dサンプルデータを取り込む時間範囲(又は、レンジゲートと呼ぶ)に対応する。周波数掃引時間T
sw(q)は、例えば、
図3の(a)に示すようにチャープ信号の全体の区間に設定されてもよく、
図3の(b)に示すように、チャープ信号の一部の区間に設定されてもよい。
【0070】
なお、
図3では、変調周波数が時間の経過とともに徐々に高くなるアップチャープの波形の例を示すが、これに限定されず、変調周波数が時間の経過とともに徐々に低くなるダウンチャープが適用されてもよい。変調周波数がアップチャープ及びダウンチャープの何れであるかに依らず同様な効果を得ることができる。
【0071】
信号生成制御部104は、例えば、所定の条件を満たす中心周波数fc(q)を設定(又は、選定)してよい(例については後述する)。
【0072】
なお、以下では、一例として、第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに設定される変調パラメータのうち、中心周波数fc(q)が互いに異なり、中心周波数以外の他の変調パラメータは同じ(又は、共通)である場合について説明する。しかし、これに限定されず、本開示の一実施例の適用には、例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号において距離軸の分解能が一致すればよいので、周波数掃引帯域幅Bw(q)が同一の関係となるチャープ信号が設定されればよい(例については後述する)。
【0073】
また、以下では、信号生成制御部104は、例えば、中心周波数fc(q)の異なる2つのチャープ信号のそれぞれをNc回ずつ交互に送信するように、変調信号発生部102及びVCO103を制御してよい。
【0074】
図4は、信号生成制御部104の制御に基づいてレーダ送信信号生成部101が出力するチャープ信号の一例を示す。
【0075】
図4において、第1チャープ信号の送信周期T
r1及び第2チャープ信号の送信周期T
r2は、異なってもよく(T
r1≠T
r2)、同じでもよい(T
r1=T
r2)。また、以下では、各送信周期T
r1及びT
r2を合わせた周期を「T
rs」と表す。例えば、送信周期T
rsは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号のセットが送信される送信周期を示し、T
rs=T
r1+T
r2である。また、以下の説明では、特に明記しない場合には、各送信周期T
r1及びT
r2は、同じ値のパラメータを表し(例えば、T
r1=T
r2)、便宜的に、送信周期T
rと表記することもある。
【0076】
同様に、周波数掃引帯域幅、周波数掃引時間(又は、レンジゲートと呼ぶ)、及び、周波数掃引変化率は、特に明記しない場合には、第1チャープ信号及び第2チャープ信号それぞれに対して同じ値のパラメータを表し、Bw(1)=Bw(2)=Bw、Tsw(1)=Tsw(2)=Tsw、Dm(1)=Dm(2)=Dmと表すことがある。
【0077】
また、中心周波数の異なる各チャープ信号の周波数掃引帯域幅は、
図4の(a)に示すように、重複する帯域を含まなくてもよく、
図4の(b)に示すように、重複する帯域を含んでもよい。本開示の一実施例は、例えば、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間の中心周波数の関係が所定条件を満たせば、周波数掃引帯域幅が重複する帯域を含むか否かに依らず、同様な効果が得られる。
【0078】
なお、本開示の一実施例において、送信周期Trsは、例えば、数百μs程度以下に設定されてよく、レーダ送信信号の送信時間間隔は比較的短く設定されてよい。これにより、例えば、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間で中心周波数が異なる場合でも、受信反射波のビート信号の周波数(例えば、ビート周波数インデックス)は変化しないので、レーダ装置10は、ドップラ周波数の変化として検出可能である。
【0079】
レーダ送信信号生成部101(例えば、VCO103)から出力される各チャープ信号は、例えば、レーダ受信部200の各ミキサ部204、及び、Nt個のドップラシフト部105にそれぞれ入力される。
【0080】
ドップラシフト部105は、VCO103から入力されるチャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期(例えば、Tr1又はTr2)毎にドップラシフト量DOPnを付与するために、位相回転φnを付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106に出力する。ここで、n=1,…,Ntである。なお、ドップラシフト部105におけるドップラシフト量DOPn(例えば、位相回転φn)を付与する方法の一例については後述する。
【0081】
ドップラシフト部105-1~105-Ntの出力信号は、所定の送信電力に増幅され各送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#Nt)から空間に放射される。
【0082】
[レーダ受信部200の構成]
図2において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナ202(例えば、Rx#1~Rx#Na)を備え、アレーアンテナを構成する。また、レーダ受信部200は、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR(Constant False Alarm Rate)部211と、ドップラ多重分離部212と、ドップラ判定部213と、方向推定部214と、を有する。
【0083】
なお、CFAR部211は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応するCFAR部211-1及びCFAR部211-2を備えてよい。同様に、ドップラ多重分離部212は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応するドップラ多重分離部212-1及びドップラ多重分離部212-2を備えてよい。なお、
図2は、CFAR部211を並列的に設けた構成(CFAR部211-1及び211-2)を示しているが、1つのCFAR部211を設け、その入力を遂次的に切り替えて処理する構成としてもよい。また、
図2は、ドップラ多重分離部212を並列的に設けた構成(ドップラ多重分離部212-1及び212-2)を示しているが、1つのドップラ多重分離部212を設け、その入力を遂次的に切り替えて処理する構成としてもよい。
【0084】
各受信アンテナ202は、物標(ターゲット)に反射したレーダ送信信号である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0085】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0086】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF(low pass filter)205と、を有する。受信無線部203において、ミキサ部204は、受信した反射波信号(受信信号)に対して、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。また、ミキサ部204の出力を、LPF205に通過させることにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が取り出される。例えば、送信信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数(又は、ビート信号)として得られる。
【0087】
各アンテナ系統処理部201-z(ただし、z=1~Naの何れか)の信号処理部206は、A/D変換部207と、ビート周波数解析部208と、ドップラ解析部210と、を有する。なお、ドップラ解析部210は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応するドップラ解析部210-1及びドップラ解析部210-2を備えてよい。
【0088】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、A/D変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0089】
ビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、所定の時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。ここで、レンジゲートは、周波数掃引時間Tsw(q)を設定する。ここで、例えば、q=1,2であり、q=1の場合には第1チャープ信号の周波数掃引時間を表し、q=2の場合には第2チャープ信号の周波数掃引時間を表す。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。なお、FFT処理の際、ビート周波数解析部208は、例えば、Han窓又はHamming窓等の窓関数係数を乗算してもよい。窓関数係数を用いることにより、ビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0090】
ここで、第qチャープ信号の第m番目のチャープパルス送信によって得られる第z番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答をRFTz,q(fb, m)で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,~,Ndata/2-1であり、z=1,~,Naであり、m=1,~,NCであり、q=1あるいは2である。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(例えば、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0091】
また、ビート周波数インデックスf
bは、次式(1)を用いて距離情報R(f
b)に変換できる。そのため、以下では、ビート周波数インデックスf
bを「距離インデックスf
b」と呼ぶ。
【数1】
【0092】
ここで、Bwは、チャープ信号における周波数掃引帯域幅を表し、C0は光速度を表す。また、式(1)において、C0/2Bwは距離分解能を表す。以下では、距離分解能ΔR=C0/2Bwと表す。
【0093】
出力切替部209は、信号生成制御部104から出力される制御信号に基づいて、第1チャープ信号の送信周期あるいは第2チャープ信号の送信周期に応じて、ビート周波数解析部208の出力を、2個のドップラ解析部210の何れかに選択的に切り替えて出力する。例えば、出力切替部209は、第1チャープ信号(例えば、q=1)の送信周期Tr1におけるビート周波数解析部208の出力を、ドップラ解析部210-1に出力する。また、例えば、出力切替部209は、第2チャープ信号(例えば、q=2)の送信周期Tr2におけるビート周波数解析部208の出力を、ドップラ解析部210-2に出力する。
【0094】
第qドップラ解析部210(ドップラ解析部210-qとも表す)は、出力切替部209から出力される、第qチャープ信号のNC回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答RFTz,q(fb, 1)、RFTz,q(fb, 2)、~、RFTz,q(fb, NC)を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。例えば、第qドップラ解析部210は、第qチャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定してよい。
【0095】
例えば、Ncが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用できる。この場合、FFTサイズはNcであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(2Trs)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Nc×Trs)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs = -Nc/2, ~, 0, ~, Nc/2-1である。
【0096】
以下では、一例として、Ncが2のべき乗値である場合について説明する。なお、Ncが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズとしてFFT処理が可能である。また、ドップラ解析部210は、FFT処理の際に、Han窓又はHamming窓などの窓関数係数を乗算してもよい。窓関数を適用することでビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0097】
例えば、第z番目の信号処理部206の第qドップラ解析部210の出力VFT
z,q(f
b, f
s)は、次式(2)に示す。なお、jは虚数単位であり、z=1~Naであり、q=1,2である。
【数2】
【0098】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0099】
図2において、CFAR部211は、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部210からの出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、局所的なピーク信号を与える距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarを抽出する。
図2に示すように、CFAR部211は、第1ドップラ解析部210の出力を用いてCFAR処理を行う第1CFAR部211(又は、CFAR部211-1と表す)、及び、第2ドップラ解析部210の出力を用いてCFAR処理を行う第2CFAR部211(又は、CFAR部211-2と表す)を備えてよい。
【0100】
第qCFAR部211(q=1,2)は、例えば、次式(3)のように、第1~第Na番目の信号処理部206の第qドップラ解析部210の出力VFT
1,q(f
b, f
s)、VFT
2,q(f
b, f
s)、~、VFT
Na,q(f
b, f
s)を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。2次元のCFAR処理又は1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理については、例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。
【数3】
【0101】
第qCFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q))を第qドップラ多重分離部212に出力する。
【0102】
ドップラ多重分離部212は、第1ドップラ解析部210及び第1CFAR部211の出力を用いてドップラ多重分離処理を行う第1ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-1と表す)、及び、第2ドップラ解析部210-2及び第2CFAR部211の出力を用いてドップラ多重分離処理を行う第2ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-2と表す)を備えてよい。
【0103】
第qドップラ多重分離部212(q=1,2)は、第qCFAR部211から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q)))に基づいて、第qドップラ解析部210からの出力を用いて、ドップラ多重送信された信号(以下、「ドップラ多重信号」と呼ぶ)から、各送信アンテナ106から送信される送信信号(例えば、当該送信信号に対する反射波信号)を分離する。第qドップラ多重分離部212は、例えば、分離した信号に関する情報を、ドップラ判定部213及び方向推定部214に出力する。分離した信号に関する情報には、例えば、分離した信号に対応する距離インデックスfb_cfar(q)、及び、ドップラ周波数インデックス(以下、分離インデックス情報と呼ぶこともある)(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), …, fdemul_Tx#Nt(q))が含まれてよい。また、第qドップラ多重分離部212は、第qドップラ解析部210からの出力を方向推定部214に出力する。
【0104】
以下、第qドップラ多重分離部212の動作例について、ドップラシフト部105の動作とともに説明する。
【0105】
[ドップラシフト量の設定方法]
まず、ドップラシフト部105において付与されるドップラシフト量の設定方法の一例について説明する。
【0106】
ドップラシフト部105-1~105-Ntは、各々に入力されるチャープ信号に対して異なるドップラシフト量DOPnを付与する。本開示の一実施例では、ドップラシフト部105-1~105-Nt間(例えば、送信アンテナ106-1~106-Nt間)において、ドップラシフト量DOPnの間隔(ドップラシフト間隔)は、等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように設定される。
【0107】
例えば、第n番目のドップラシフト部105は、入力された第m番目の第qチャープ信号に対して、互いに異なるドップラシフト量DOPnとなる位相回転φn(m)を付与して出力する。これにより、複数の送信アンテナ106から送信される送信信号には、それぞれ異なるドップラシフト量が付与される。例えば、一実施例では、ドップラ多重数NDM=Ntである。ここで、m=1~NCの整数であり、n=1~Ntの整数であり、q=1,2である。
【0108】
また、第qドップラ解析部210において、サンプリング定理から導出される、折り返しが発生しないドップラ周波数fdの範囲は-1/(2Trs) ≦ fd <1/(2Trs)である。
【0109】
このことから、仮に、Nt個の送信アンテナ106から送信される送信信号に対して、ドップラシフト間隔が等間隔1/(Nt×T
rs)となる位相回転φ
n(m)は、次式(4)で表される。
【数4】
【0110】
ここで、φ0は初期位相であり、Δφ0は基準ドップラシフト位相である。また、round(x)は実数値xに対して四捨五入した整数値を出力するラウンド関数である。なお、round(NC/Nt)の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入されている。
【0111】
仮に、例えば、式(4)に示す位相回転φn(m)を用いる場合、第m番目の第qチャープ信号に対して付与される送信信号間の位相回転の間隔は、全て等しくなり、2πround(NC/Nt)/NCとなる。
【0112】
一例として、式(4)において、Nt=2、Δφ0=0、φ0=0として位相回転φn(m)が付与される場合、ドップラシフト量は、DOP1=0、DOP2=-1/(2Trs)となる。
【0113】
例えば、複数の送信アンテナ106から送信される送信信号に対して付与されるドップラシフト量の各間隔は、レーダ装置10(レーダ受信部200)においてドップラ周波数の範囲(例えば、折り返しが発生しないドップラ周波数範囲))において等間隔に設定される。例えば、Nt=2個の送信アンテナ106から送信される送信信号に対して付与されるドップラシフト量の間隔は、折り返しが発生しないドップラ周波数範囲(例えば、-1/(2Trs) ≦ fd <1/(2Trs))を送信アンテナ106の数(例えば、Nt=2)で分割した間隔(上記例では1/(2Trs))に設定される。このため、ドップラピークP1とドップラピークP2との間のドップラ間隔は1/(2Trs)である。
【0114】
図5は、仮に、Nt=2個の送信アンテナ106(以下、Tx#1及びTx#2と呼ぶ)から送信される送信信号に対して、DOP
1=0、DOP
2=-1/(2T
rs)のドップラシフト量を用いた場合に、ドップラ解析部210でのドップラ解析(FFT)により得られるドップラピークの一例を示す。
【0115】
図5に示すように、測定する1つのターゲットのドップラ周波数(target doppler)f
d_TargetDopplerに対して、Nt個(
図5ではNt=2)のドップラピークが発生する。
【0116】
以下、一例として、
図5において、測定するターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler= ‐1/(4T
rs)の場合及びf
d_TargetDoppler = 1/(4T
rs)の場合の送信アンテナTx#1から送信された送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークと、送信アンテナTx#2らの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークと、の位置関係を比較する。
【0117】
<ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=-1/(4T
rs)の場合>
f
d_TargetDoppler=-1/(4T
rs)の場合、
図5に示すように、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークは、折り返した信号のピーク(P2A)としてFFT出力される。そのため、f
d_TargetDoppler=1/(4T
rs)の場合、
図5に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P1)と、上記折り返した信号のドップラピーク(P2A)との位置関係となる。ドップラピーク(P1)とドップラピーク(P2A)との間のドップラ間隔は1/(2T
rs)である。なお、ドップラピーク(P2’)は折り返す前の信号を参考のために記載したが、実際にはFFT出力に存在しない。
【0118】
<ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=1/(4T
rs)の場合>
f
d_TargetDoppler=1/(4T
rs)の場合、
図5に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P1)と、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P2)との位置関係となる。ドップラピーク(P1)とドップラピーク(P2)との間のドップラ間隔は1/(2T
rs)である。
【0119】
このように、f
d_TargetDoppler=‐1/(4T
rs)の場合、及び、f
d_TargetDoppler=1/(4T
rs)の場合において、送信アンテナTx#1に対応するドップラピーク(P1)と、送信アンテナTx#2に対応するドップラピーク(P2又はP2A)との間のドップラ間隔は双方とも1/(2T
rs)となる。このため、f
d_TargetDoppler=‐1/(4T
rs)及び1/(4T
rs)では、Tx#1及びTx#2に対応するドップラピークの位置関係の区別がつかなくなり、曖昧性が生じる。従って、
図5に示す例では、曖昧性が生じないターゲットのドップラ周波数範囲は、例えば、-1/(4T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler < 1/(4T
rs)となる。
【0120】
これに対して、
図6に示すように、本開示の一実施例に係るドップラシフト部105では、ドップラ多重間隔が不等間隔となるドップラシフト量が設定される。例えば、ドップラシフト部105は、ドップラ周波数の折り返し回数の判定の対象となるドップラ周波数範囲を不等間隔に分割した間隔のドップラシフト量を付与してよい。例えば、ドップラシフト部105では、送信アンテナ106から送信される送信信号に対して付与されるドップラシフト量DOP
n(又は位相回転φ
n(m))の間隔は少なくとも1つ異なる。
【0121】
また、例えば、ドップラシフト部105は、Nt個の送信アンテナ106から送信される送信信号に付与されるドップラシフト量の間隔を可能な限り離し、位相回転φn(m)の少なくとも1つの間隔が異なるようにドップラシフトDOPnを付与する。これにより、ドップラ多重の分離性能を向上できる。
【0122】
例えば、第n番目のドップラシフト部105は、入力された第m番目の第1チャープ信号あるいは第2チャープ信号に対して、各ドップラシフト部間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nとなる、次式(5)のような位相回転φ
n(m)を付与する。
【数5】
【0123】
ここで、Aは1又は‐1の正負の極性を与える係数である。また、δは1以上の整数である。なお、round(NC/(Nt+δ))の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入しているが、これに限定されず、式(5)における(2π/NC)×round(NC/(Nt+δ))の項の代わりに、2π/(Nt+δ)を用いてもよい。
【0124】
例えば、レーダ装置10は、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対して、同一のドップラ多重間隔で不等間隔ドップラ多重を行う。
【0125】
一例として、式(5)において、Nt=2、Δφ0=0、φ0=0、A=1、δ=1、NCを3の倍数として位相回転φn(m)が付与される場合、ドップラシフト量は、DOP1=0、DOP2=1/(3Trs)となる。
【0126】
図6は、Nt=2個の送信アンテナ106(以下、Tx#1及びTx#2と呼ぶ)から送信される送信信号に対して、DOP
1=0、DOP
2=1/(3T
rs)のドップラシフト量を用いた場合に、ドップラ解析部210でのドップラ解析により得られるドップラピークの一例を示す。
【0127】
図6に示すように、測定する1つのターゲットのドップラ周波数(target doppler)f
d_TargetDopplerに対して、Nt個(
図6ではNt=2)のドップラピークが発生する。
【0128】
以下、一例として、
図6は、ドップラ解析部210の出力において、測定するターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler = ‐1/(4T
rs)の場合及びf
d_TargetDoppler= 1/(4T
rs)の場合の送信アンテナTx#1から送信された送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークと、送信アンテナTx#2から送信された送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークと、の位置関係を比較する。
【0129】
<ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=‐1/(4T
rs)の場合>
f
d_TargetDoppler=‐1/(4T
rs)の場合、
図6に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P1)と、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P2)との位置関係となる。ドップラピークP1とドップラピークP2との間のドップラ間隔は1/(3T
rs)である。
【0130】
<ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler= 1/(4T
rs)の場合>
f
d_TargetDoppler = 1/(4T
rs)の場合、
図6に示すように、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークは、折り返した信号のピーク(P2A)としてFFT出力される。そのため、f
d_TargetDoppler = 1/(4T
rs)の場合、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P1)と、上記折り返した信号のドップラピーク(P2A)との位置関係となる。ドップラピーク(P1)とピーク(P2A)との間のドップラ間隔は2/(3T
rs)である。
【0131】
図6に示すように、ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler= ‐1/(4T
rs)の場合、及び、f
d_TargetDoppler = 1/(4T
rs)の場合において、送信アンテナTx#1に対応するドップラピーク(P1)と、送信アンテナTx#2に対応するドップラピーク(P2又はP2A)との位置関係は互いに異なる。
【0132】
よって、
図6に示す例では、ドップラ多重分離部212は、ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=‐1/(4T
rs)の場合(例えば、折り返し無しの場合)と、f
d_TargetDoppler=1/(4T
rs)の場合(例えば、折り返し有りの場合)とを区別できる。
【0133】
例えば、想定するターゲットドップラ周波数が-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler < 1/(2T
rs)の場合、ドップラ多重分離部212は、ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler = -1/(4T
rs)の場合に、折り返し信号を含まないと判別できる。よって、例えば、
図6に示すf
d_TargetDoppler = -1/(4T
rs)の場合、ドップラ多重分離部212は、折り返し信号を含まず、周波数が最も小さいドップラピークから、それぞれ送信アンテナTx#1、Tx#2からの送信信号に対する反射波信号であると判別できる。
【0134】
また、例えば、想定するターゲットドップラ周波数が-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler < 1/(2T
rs)の場合、ドップラ多重分離部212は、ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler = 1/(4T
rs)の場合に、折り返したドップラピーク(例えば、P2A)が含まれると判別でき、ドップラ周波数f
d_TargetDoppler= 1/(4T
rs)であると判定できる。よって、例えば、
図6に示すf
d_TargetDoppler= 1/(4T
rs)の場合、折り返し信号(P2A)が含まれるので、ドップラ多重分離部212は、ドップラピークの間隔が2/(3T
rs)となるドップラピークのうち高い方のドップラピークが送信アンテナTx#1に対応する反射波信号であり、低い方のドップラピークが送信アンテナTx#2に対応する反射波信号であると判別できる。なお、
図6において、P1'、P2'は、説明を容易にするために記載したが、実際にはドップラ解析部210の出力に存在しない。
【0135】
次に、他の例として、
図6において、測定するターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler= ‐1/(2T
rs)の場合及びf
d_TargetDoppler = 1/(2T
rs)の場合の送信アンテナTx#1から送信された送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークと、送信アンテナTx#2から送信された送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークと、の位置関係を比較する。
【0136】
<ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=‐1/(2T
rs)の場合>
f
d_TargetDoppler=‐1/(2T
rs)の場合、
図6に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P1)と、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P2)との位置関係となる。ドップラピーク(P1)とドップラピーク(P2)との間のドップラ間隔は1/(3T
r)である。
【0137】
<ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=1/(2T
rs)の場合>
f
d_TargetDoppler=1/(2T
rs)の場合、
図6に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークは、折り返した信号のドップラピーク(P1A)としてFFT出力され、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピークは、折り返した信号のドップラピーク(P2A)としてFFT出力される。そのため、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(P1A)と、上記折り返した信号のドップラピーク(P2A)との位置関係となる。ドップラピーク(P1A)とドップラピーク(P2A)との間のドップラ間隔は1/(3Tr)である。
【0138】
このように、ターゲットのドップラ周波数f
d_TargetDoppler=‐1/(2T
rs)の場合、及び、f
d_TargetDoppler=1/(2T
rs)の場合において、送信アンテナTx#1に対応するドップラピーク(P1)と、送信アンテナTx#2に対応するドップラピーク(P2又はP2A)との間のドップラ間隔は双方とも1/(3T
rs)となる。このため、f
d_TargetDoppler=‐1/(2T
rs)の場合及びf
d_TargetDoppler=1/(2T
rs)では、Tx#1及びTx#2に対応するドップラピークの位置関係の区別がつかなくなり、曖昧性が生じる。従って、
図6に示す例では、ドップラ多重分離部212において曖昧性が生じないターゲットのドップラ周波数範囲は、例えば、-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler< 1/(2T
rs)となる。
【0139】
したがって、
図6のドップラシフト設定では、曖昧性が生じないターゲットのドップラ周波数範囲を、時分割多重、又はドップラシフト量を等間隔にする場合のドップラ多重(例えば、
図5を参照)と比較して、Nt倍(例えば、
図6では2倍)に拡大できる。
【0140】
本実施の形態では、後述するドップラ判定部213の処理により、曖昧性が生じないターゲットのドップラ周波数範囲を更に拡大する方法について説明する。
【0141】
次に、ドップラ多重分離部212における各送信アンテナ106に対応する信号の分離方法の一例について説明する。
【0142】
一例として、Nt=2の場合のドップラ多重分離部212の動作について説明する。
【0143】
以下では、ドップラシフト部105において、一例として、式(5)に示す位相回転φn(m)が付与される場合について説明する。なお、以下では、一例として、Δφ0=0、φ0=0、δ=1、NCを3の倍数とする。A=1の場合、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量はDOP1=0、DOP2=1/(3Tr)であり、A=-1の場合、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量はDOP1=0、DOP2=-1/(3Tr)である。
【0144】
この場合、第qドップラ多重分離部212は、第qCFAR部211から入力される閾値よりも大きい受信電力となるピーク(距離インデックスfb_cfar(q)及びドップラ周波数インデックスfs_cfar(q))を用いて、ドップラ多重信号を分離する。
【0145】
例えば、第qドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(q)が同一の複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)に対して、送信アンテナTx#1~Tx#Ntから送信される送信信号の何れに対応する反射波信号であるかを判定する。ドップラ多重分離部212は、判定した送信アンテナTx#1~Tx#Nt毎の反射波信号を分離して出力する。
【0146】
以下では、距離インデックスfb_cfar(q)が同一の複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)がNs個ある場合の動作について説明する。例えば、fs_cfar(q)∈{fd#1,fd#2…,fd#Ns}とする。
【0147】
ここで、送信アンテナTx#1及びTx#2からそれぞれ送信される送信信号に付与されるドップラシフト量DOP
1、DOP
2によって、1つのターゲットドップラ周波数f
d_TargetDopplerに対して、Nt=2個のドップラピークが発生する。このドップラピーク間のドップラ間隔に相当するドップラインデックス間隔は、次式(6)に示す送信アンテナTx#1に対する位相回転φ
1(m)と送信アンテナTx#2に対する位相回転φ
2(m)との差分から、round(N
c/(Nt+1))となる。また、折り返し信号を含む場合、ドップラピーク間のドップラ間隔に相当するドップラインデックス間隔は、N
c-round(N
c/(Nt+1))となる。
【数6】
【0148】
第qドップラ多重分離部212は、例えば、距離インデックスfb_cfar(q)が同一の複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)∈{fd#1,fd#2…,fd#Ns}に対して、ドップラインデックス間隔を算出する。そして、第qドップラ多重分離部212は、折り返し信号を含まない場合のドップラシフト量の間隔に相当するドップラインデックス間隔round(Nc/(Nt+1))と一致するドップラ周波数インデックス、又は、折り返し信号を含む場合のドップラシフト量の間隔に相当するドップラインデックス間隔(Nc-round(Nc/(Nt+1)))と一致するドップラ周波数インデックスを探索する。
【0149】
第qドップラ多重分離部212は、上述した探索の結果に基づいて、以下の処理を行う。
【0150】
(1)折り返し信号を含まない場合のドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔round(Nc/(Nt+1))と一致するドップラ周波数インデックスがある場合、第qドップラ多重分離部212は、それらのドップラ周波数インデックスのペア(例えば、fd#p,fd#qと表す)を、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q))として出力する。
【0151】
ここで、送信アンテナTx#1及びTx#2に対するドップラシフト量がDOP1<DOP2の関係の場合、第qドップラ多重分離部212は、fd#p,fd#qのうち大きい方をTx#2に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#2(q)と判定し、低い方をTx#1に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#1(q)と判定する。一方、送信アンテナTx#1及びTx#2に対するドップラシフト量がDOP1>DOP2の関係の場合、ドップラ多重分離部212は、fd#p,fd#qのうち大きい方をTx#1に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#1(q)と判定し、低い方をTx#2に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#2(q)と判定する。
【0152】
(2)折り返し信号を含む場合のドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔Nc- round(Nc/(Nt+1))と一致するドップラ周波数インデックスがある場合、第qドップラ多重分離部212は、それらのドップラ周波数インデックスのペア(例えば、fd#p,fd#q)を、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q))として出力する。
【0153】
ここで、送信アンテナTx#1及びTx#2に対するドップラシフト量がDOP1<DOP2の関係の場合、第qドップラ多重分離部212は、fd#p,fd#qのうち大きい方をTx#1に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#1(q)と判定し、低い方をTx#2に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#2(q)と判定する。一方、送信アンテナTx#1及びTx#2に対するドップラシフト量がDOP1>DOP2の関係の場合、第qドップラ多重分離部212は、fd#p,fd#qのうち大きい方をTx#2に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#2(q)と判定し、低い方をTx#1に対応するドップラ周波数インデックスfdemul_Tx#1(q)と判定する。
【0154】
(3)折り返し信号を含まない場合のドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔round(Nc/(Nt+1))と一致するドップラ周波数インデックス、及び、折り返し信号を含む場合のドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔Nc-round(Nc/(Nt+1))と一致するドップラ周波数インデックスが無い場合、第qドップラ多重分離部212は、発生したドップラピークをノイズ成分と判定する。この場合、ドップラ多重分離部212は、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q))を出力するこを省略してもよい。
【0155】
以上のようにして、第qドップラ多重分離部212は、ドップラ多重信号を分離できる。
【0156】
なお、Nt=2の場合のドップラ多重の動作例について説明したが、送信アンテナ数Ntは2個に限らず、3個以上でもよい。以下、他の例として、Nt=3の場合のレーダ装置10の動作について説明する。
【0157】
以下では、ドップラシフト部105において、一例として、式(5)に示す位相回転φn(m)が付与される場合について説明する。なお、以下では、一例として、Δφ0=0、φ0=0、A=1、δ=1とする。この場合、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量はDOP1=0、DOP2=1/(4Trs)、DOP3=-1/(2Trs)である。
【0158】
このようなドップラシフト量を用いる場合、例えば、
図7に示すように、測定する1つのターゲットドップラ周波数f
d_TargetDopplerに対して、Nt個(
図7では3つ)のドップラピークが発生する。なお、
図7は、横軸にターゲットドップラ周波数を示し、縦軸に第qドップラ解析部210(FFT)の出力を示した場合のNt=3のドップラピークの変化を示した図である。
【0159】
<ターゲットドップラ周波数が0≦ f
d_TargetDoppler <1/(2T
rs)の場合>
図7に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(実線)と、送信アンテナTx#3からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(一点鎖線)との間のドップラ間隔は1/(2T
rs)である。また、この場合、0≦f
d_TargetDoppler<1/(4T
rs)において、何れの送信アンテナTx#1、Tx#2、Tx#3についても折り返し信号を含まないため、第qドップラ多重分離部212は、周波数が低いドップラピークから、それぞれ、送信アンテナTx#3、Tx#1、Tx#2からの送信信号に対する反射波信号であると判別できる。
【0160】
また、この場合、1/(4Trs)≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)において、Tx#2に関して折り返し信号を含む。そのため、第qドップラ多重分離部212は、ドップラピークの間隔が1/(2Trs)となるドップラピークのうち高い方のドップラピーク(実線三角)が送信アンテナTx#1に対応する反射波信号であり、低い方のドップラピーク(実線四角)が送信アンテナTx#3に対応する反射波信号であり、残りのドップラピークが送信アンテナTx#2からの反射波信号であると判別できる。
【0161】
<ターゲットドップラ周波数が-1/(2T
rs)≦ f
d_TargetDoppler <0の場合>
図7に示すように、Tx#1に関して折り返し信号を含むため、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(実線)と、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(点線)との間のドップラ間隔は1/(4T
rs)である。また、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(点線)と、送信アンテナTx#3からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(一定鎖線)との間のドップラ間隔は1/(4T
rs)である。
【0162】
また、この場合、送信アンテナTx#1について折り返し信号を含むため、第qドップラ多重分離部212は、周波数が低いドップラピークから、それぞれ、送信アンテナTx#1、Tx#2、Tx#3からの送信信号に対する反射波信号であると判別できる。
【0163】
したがって、
図7に示す例では、曖昧性が生じないターゲットのドップラ周波数範囲は、例えば、-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler<1/(2T
rs)となる。
【0164】
次に、第qドップラ多重分離部212における各送信アンテナ106に対応する信号の分離方法の一例について説明する。
【0165】
以下では、ドップラシフト部105において、一例として、式(5)に示す位相回転φn(m)が付与される場合について説明する。なお、以下では、一例として、Nt=3、Δφ0=0、φ0=0、δ=1、NCを3の倍数とする。A=1の場合、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量はDOP1=0、DOP2=1/(4Trs)、DOP3=1/(2Trs) =-1/(2Trs)、であり、A=-1の場合、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量はDOP1=0、DOP2=-1/(4Trs)、DOP3=-1/(2Trs)である。
【0166】
第qドップラ多重分離部212は、第qCFAR部211から入力される閾値よりも大きい受信電力となるピーク(距離インデックスfb_cfar(q)及びドップラ周波数インデックスfs_cfar(q))を用いて、ドップラ多重信号の分離を行う。
【0167】
例えば、第qドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(q)が同一の複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)に対して、送信アンテナTx#1~Tx#Ntから送信される送信信号の何れに対応する反射波信号であるかを判定する。第qドップラ多重分離部212は、判定した送信アンテナTx#1~Tx#Nt毎の反射波信号を分離して出力する。
【0168】
以下では、距離インデックスfb_cfar(q)が同一の複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)がNs個ある場合の動作について説明する。例えば、fs_cfar(q)∈{fd#1,fd#2…,fd#Ns}とする。
【0169】
例えば、第qドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(q)が同一の複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar (q)∈{fd#1,fd#2…,fd#Ns}に対して、ドップラインデックス間隔を算出する。そして、第qドップラ多重分離部212は、3つのドップラ周波数インデックスを小さい順に見た場合の2つのドップラインデックス間隔が、折り返し信号を含まない場合のドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔と一致するドップラ周波数インデックスの組み合わせを探索する。又は、第qドップラ多重分離部212は、3つのドップラ周波数インデックスを小さい順に見た場合の2つのドップラインデックス間隔が、折り返し信号を含む場合のドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔と一致するドップラ周波数インデックスの組み合わせを探索する。
【0170】
第qドップラ多重分離部212は、上述した探索の結果に基づいて、以下の処理を行う。
【0171】
(1)折り返し信号を含まず、ドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔と一致するドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、それらのドップラ周波数インデックスの組(例えば、fd#p1,fd#p2,fd#p3と表す)を、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), fdemul_Tx#3(q))として出力する。
【0172】
ここで、送信アンテナTx#1~Tx#3に対するドップラシフト量がDOP
3<DOP
1<DOP
2の関係の場合、第qドップラ多重分離部212は、fd
#p1,fd
#p2,fd
#p3のうち大きい方から、Tx#2、Tx#1、Tx#3にそれぞれ対応するドップラ周波数インデックスf
demul_Tx#2(q), f
demul_Tx#1(q), f
demul_Tx#3(q)と判定する(
図7の0≦ f
d_TargetDoppler<1/(4T
rs))。また、送信アンテナTx#1~Tx#3に対するドップラシフト量がDOP
1>DOP
2>DOP
3の関係の場合、第qドップラ多重分離部212は、fd
#p1,fd
#p2,fd
#p3のうち大きい方から、Tx#1、Tx#2、Tx#3にそれぞれ対応するドップラ周波数インデックスf
demul_Tx#1(q), f
demul_Tx#2(q), f
demul_Tx#3(q)と判定する。
【0173】
(2)折り返し信号を含み、ドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔と一致するドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、それらのドップラ周波数インデックスの組(例えば、fd#q1,fd#q2,fd#q3と表す)を、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), fdemul_Tx#3(q))として出力する。
【0174】
例えば、送信アンテナTx#1~Tx#3に対するドップラシフト量がDOP
3<DOP
1<DOP
2の関係であり、DOP
3に対応するドップラ周波数が折り返し信号となるドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、fd
#q1,fd
#q2,fd
#q3のうち大きい方からTx#3、Tx#2、Tx#1にそれぞれ対応するドップラ周波数インデックスf
demul_Tx#2(q), f
demul_Tx#1(q), f
demul_Tx#3(q)と判定する(
図7の-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler<0)。また、送信アンテナTx#1~Tx#3に対するドップラシフト量がDOP
1>DOP
2>DOP
3の関係であり、DOP
3に対応するドップラ周波数が折り返し信号となるドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、fd
#q1,fd
#q2,fd
#q3のうち大きい方からTx#3、Tx#1、Tx#2にそれぞれ対応するf
demul_Tx#2(q), f
demul_Tx#3(q), f
demul_Tx#1(q)と判定する。
【0175】
(3)折り返し信号を含み、ドップラシフト量の間隔に相当するインデックス間隔と一致するドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、それらのドップラ周波数インデックスの組(例えば、fd#u1,fd#u2,fd#u3と表す)を、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), fdemul_Tx#3(q))として出力する。
【0176】
ここで、送信アンテナTx#1~Tx#3に対するドップラシフト量がDOP
3<DOP
1<DOP
2の関係であり、DOP
2に対応するドップラ周波数が折り返し信号となるドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、fd
#u1,fd
#u2,fd
#u3のうち大きい方からTx#1、Tx#3、Tx#2にそれぞれ対応するf
demul_Tx#3(q), f
demul_Tx#2(q), f
demul_Tx#1(q)と判定する(
図7の1/(4T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler<1/(2T
rs))。
【0177】
また、送信アンテナTx#1~Tx#3に対するドップラシフト量がDOP1>DOP2>DOP3の関係であり、DOP1に対応するドップラ周波数が折り返し信号となるドップラ周波数インデックスの組み合わせがある場合、第qドップラ多重分離部212は、fd#u1,fd#u2,fd#u3のうち大きい方からTx#2、Tx#3、Tx#1にそれぞれ対応するfdemul_Tx#3(q), fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q)と判定する。
【0178】
(4)第qドップラ多重分離部212は、上記の(1)、(2)及び(3)の何れにも該当しないドップラ周波数インデックスに対応するドップラピークをノイズ成分と判定する。この場合、第qドップラ多重分離部212は、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), fdemul_Tx#3(q))を出力することを省略してもよい。
【0179】
以上のようにして、ドップラ多重分離部212は、ドップラ多重信号を分離できる。
【0180】
また、送信信号に付与されるドップラシフト量DOPnに対応する位相回転の一例として、式(5)に示す位相回転φn(m)を用いる場合について説明した。しかし、位相回転は、式(5)に示す位相回転φn(m)に限定されない。
【0181】
他の例として、第n番目のドップラシフト部105は、入力された第m番目のチャープ信号(送信信号)に対して、式(5)を用いる場合と異なるドップラシフト量DOP
nとなる次式(7)の位相回転φ
n(m)を付与してよい。なお、round(N
C/(Nt+δ))の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入しているが、これに限定されず、式(7)における(2π/N
C)×round(N
C/Nt)の項の代わりに、2π/Ntを用いてもよい。
【数7】
【0182】
ここで、dpnは位相回転をドップラ周波数範囲において不等間隔とする成分である。例えば、dp1、dp2、…、dpNtは、-round(NC/Nt)/2< dpn < round(NC/Nt)/2の範囲内の値であり、全てが同一の値ではなく、少なくとも一つは異なる値の成分を含む。なお、round(NC/Nt)の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入されている。
【0183】
一例として、式(7)において、Nt=2、Δφ0=0、φ0=0、A=1、dp1=0、dp2=π/5とした場合の位相回転φn(m)が付与される場合、ドップラシフト量は、DOP1=0、DOP2=1/(2Trs)+1/(10Trs)=6/(10Trs)=-4/(10Trs)となる。
【0184】
図8は、横軸にターゲットドップラ周波数を示し、縦軸にドップラ解析部210(FFT)の出力を示した場合のNt=2、DOP
1=0、DOP
2=-4/(10T
rs)のドップラピークの変化を示した図である。この場合、DOP
1>DOP
2である。
【0185】
<ターゲットドップラ周波数が-1/(10T
rs)≦ f
d_TargetDoppler <1/(2T
rs)の場合>
図8に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(実線)と、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(点線)との間のドップラ間隔は4/(10T
rs)である。
【0186】
また、この場合、何れの送信アンテナTx#1、Tx#2についても折り返し信号を含まない。
そのため、第qドップラ多重分離部212は、ドップラピークの間隔が4/(10Trs)となるドップラピークのうち高い方のドップラピーク(実線三角)が送信アンテナTx#1に対応する反射波信号であり、低い方のドップラピーク(実線四角)が送信アンテナTx#2に対応する反射波信号であると判別できる。
【0187】
<ターゲットドップラ周波数が-1/(2T
rs)≦ f
d_TargetDoppler < -1/(10T
rs)の場合>
図8に示すように、送信アンテナTx#1からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(実線)と、送信アンテナTx#2からの送信信号に対する反射波信号を受信した際に発生するドップラピーク(点線)との間のドップラ間隔は6/(10T
rs)である。
【0188】
また、この場合、Tx#2に関して折り返し信号を含む(実線丸)。そのため、第qドップラ多重分離部212は、例えば、周波数が低いドップラピーク(点線三角)から、それぞれ送信アンテナTx#1、Tx#2からの送信信号に対する反射波信号であると判別できる。
【0189】
したがって、
図8に示す例では、曖昧性が生じないターゲットのドップラ周波数範囲は、例えば、-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler<1/(2T
rs)となる。
【0190】
以上、ドップラ多重分離部212の動作例について説明した。なお、上記のドップラ多重分離部212の動作例の説明において、レーダ装置10は、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対して、同一(不等分割)のドップラ多重間隔で不等間隔ドップラ多重を行う場合について説明を行ったが、これに限定されず、レーダ装置10は、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対して、異なる(不等分割)ドップラ多重間隔といった異なるパラメータを用いて不等間隔ドップラ多重を行ってもよい。
【0191】
例えば、Nt=2の場合に、第1チャープ信号に対し、ドップラシフト部105において、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量をDOP1=0、DOP2=1/(3Tr)とし、第2チャープ信号に対し、ドップラシフト部105において、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量をDOP1=0、DOP2=1/(4Tr)とし、第1チャープ信号及び第2チャープ信号間で異なるドップラ多重間隔となるパラメータを用いて不等間隔ドップラ多重を行ってもよい。
【0192】
あるいは、例えば、Nt=2の場合に、第1チャープ信号に対し、ドップラシフト部105において、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量をDOP1=0、DOP2=1/(3Tr)とし、第2チャープ信号に対し、ドップラシフト部105において、各送信アンテナ106に対するドップラシフト量をDOP1=1/(4Tr)、DOP2=-1/(2Tr)とし、第1チャープ信号及び第2チャープ信号間で異なるドップラ多重間隔となるパラメータを用いて不等間隔ドップラ多重を行ってもよい。
【0193】
このような場合においても、レーダ受信部200において、第1チャープ信号に対しては第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212にて処理され、第2チャープ信号に対しては第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212にて互いに独立して処理されるため、上記の説明した動作の適用が可能である。このように、レーダ装置10では、各チャープ信号に対して個別に受信処理されるため、不等間隔ドップラ多重を行うパラメータをチャープ信号間で共通にすることを省略してもよい。
【0194】
図2において、ドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212及び第2ドップラ多重分離部212それぞれの出力に基づいて、ドップラピークに対応するドップラ周波数を判定する。例えば、ドップラ判定部213は、物標のドップラ周波数f
d_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2T
rs) ≦ f
d_TargetDoppler<1/(2T
rs)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合でも、物標のドップラ周波数を判定することにより、ドップラ検出範囲を更に拡大できる。
【0195】
例えば、ドップラ判定部213は、距離インデックスfb_cfar(1)とfb_cfar(2)とが共通である、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1), ...,fdemul_Tx#Nt(1))及び第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2), ...,fdemul_Tx#Nt(2))を用いて、ドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Trs)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定する。
【0196】
ドップラ判定部213におけるドップラ周波数の判定は、信号生成制御部104及びレーダ送信信号生成部101によって生成されるレーダ送信信号である第1チャープ信号と第2チャープ信号との間で中心周波数が互いに異なることを利用する。
【0197】
以下、ドップラ周波数の判定処理の動作原理、及び、ドップラ判定部213の動作例について説明する。
【0198】
なお、以下では、ドップラ判定部213が距離インデックスfb_cfar(1)とfb_cfar(2)とが共通である、第1ドップラ多重分離部212及び第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報を用いる処理を行う例について説明する。このため、以下では、距離インデックスを「fb_cfar」(=fb_cfar(1)=fb_cfar(2))と省略して表記する。
【0199】
例えば、第1チャープ信号の中心周波数と第2チャープ信号の中心周波数とが異なると、反射波のドップラ周波数も変化する。例えば、レーダ装置10が静止状態であり、物標が速度vでレーダ装置10の方向に向かって移動する場合、第1チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数fd(1)は、fd(1)=2v×fc(1)/C0となり、第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数fd(2)は、fd(2)=2v×fc(2)/C0となる。したがって、両者のドップラ周波数の関係は、fd(2)/fd(1)=fc(2)/fc(1)と表される。例えば、fd(2)は、fd(1)に中心周波数比fc(2)/fc(1)を乗算することにより算出できる(fd(2)=(fc(2)/fc(1))×fd(1))。ここで、C0は光速度を表す。
【0200】
また、例えば、物標のドップラ周波数fd_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Trs)を超えると想定され、第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212において検出されるドップラ周波数推定値がfd_VFT(1)である場合、物標のドップラ周波数fd_TargetDopplerは、ドップラ折り返しを考慮して、次式(8)で表される。ここで、nalはドップラ折り返し回数を表し、整数値をとる。
fd_TargetDoppler= fd_VFT(1)+ nal/Trs (8)
【0201】
ドップラ折り返し回数nalは、第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212の出力からは確定することが困難なため、第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212の出力を用いて確定できる条件を以下に導出する。ここで、第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数は、次式(9)のように、式(8)に中心周波数比fc(2)/fc(1)を乗算することで得られる。
fc(2)/fc(1)×fd_TargetDoppler= fc(2)/fc(1)×(fd_VFT(1)+ nal/Trs) (9)
【0202】
例えば、第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数は、ドップラ折り返し回数nal=0の場合にはfc(2)/fc(1)×fd_VFT(1)となり、ドップラ折り返し回数nal=1の場合にはfc(2)/fc(1)×(fd_VFT(1)+1/Trs)となり、ドップラ折り返し回数nal=-1の場合にはfc(2)/fc(1)×(fd_VFT(1)-1/Trs)となる。他のドップラ折り返し回数についても同様である。
【0203】
このように、ドップラ折り返し回数nalの違いによるドップラ周波数差は、fc(2)/fc(1) /Trsの整数倍となる関係を有する。
【0204】
ここで、fc(2)/fc(1) /Trsと、第2ドップラ解析部210の折り返し周波数間隔である1/Trsとの差分が、第2ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δfdより大きい場合、ドップラ判定部213は、ドップラ折り返し回数nalの違いによるドップラ周波数差を検出可能(例えば、判定可能)となる。
【0205】
よって、例えば、レーダ装置10(例えば、信号生成制御部104)は、次式(10)に示す条件(又は、判定可能条件と呼ぶ)を満たすように、第1チャープ信号の中心周波数f
c(1)及び第2チャープ信号の中心周波数f
c(2)を決定してよい。
【数8】
【0206】
ここで、例えば、f
c(2)>f
c(1)の場合、式(10)に示すf
c(1)及びf
c(2)に対する判定可能条件は次式(11)で表される。
【数9】
【0207】
また、例えば、f
c(2)<f
c(1)の場合、式(10)に示すf
c(1)及びf
c(2)に対する判定可能条件は次式(12)で表される。
【数10】
【0208】
また、例えば、次式(13)に示す判定可能条件を用いてもよい。ただしα≧1である。
【数11】
【0209】
式(13)は、fc(2)/fc(1) /Trsと、第2ドップラ解析部210の折り返し周波数間隔である1/Trsとの差分が、第2ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δfdの整数倍αより大きい条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)の条件を規定する。式(13)に示す判定可能条件によれば、ドップラ判定部213は、式(10)に示す判定可能条件と比較して、ドップラ折り返し回数nalの違いによるドップラ周波数差をより容易に判定できる。例えば、式(13)に示す判定可能条件により、式(10)に示す判定可能条件と比較して、受信信号レベルが低い場合といった雑音影響がある場合でも判定精度を向上できる。
【0210】
ここで、例えば、f
c(2)>f
c(1)の場合、式(13)に示すf
c(1)及びf
c(2)に対する判定可能条件は次式(14)で表される。
【数12】
【0211】
また、例えば、f
c(2)<f
c(1)の場合、式(13)に示すf
c(1)及びf
c(2)に対する判定可能条件は次式(15)で表される。
【数13】
【0212】
一例として、fc(1)=78GHzの場合、fc(2)>fc(1)とすると、式(14)に基づいて、α=1、Nc=128ではfc(2)は78.61GHzより大きく設定され、α=2、Nc=128ではfc(2)は79.22GHzより大きく設定される。
【0213】
このように、式(10)~式(15)の何れかの判定可能条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)の設定により、ドップラ判定部213は、ドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Trs)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合(例えば、ドップラ折り返しが発生する場合)でも、物標のドップラ周波数を判定できる。
【0214】
例えば、ドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1), ~fdemul_Tx#Nt(1))、及び、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2)~fdemul_Tx#Nt(2))を用いて、以下のようなドップラ判定処理を行ってよい。
【0215】
例えば、ドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1)~fdemul_Tx#Nt(1))が1つであり、また、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2)~fdemul_Tx#Nt(2))が1つである場合、下記のドップラ判定動作を行ってよい。
【0216】
また、ドップラ判定部213は、例えば、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報が複数あり、また、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報が複数ある場合、それらのインデックスの示す受信電力を比較して、同程度の受信電力レベルの分離インデックス情報をそれぞれのペアとして関連付けてよい。
【0217】
以降、ドップラ判定部213は、ペアとして関連づけられた第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とを用いて、下記のドップラ判定動作を行ってよい。例えば、ドップラ判定部213は、関連付けられた、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とのペア毎に、順次下記のドップラ判定動作を行ない、全てのペアに対し下記の動作が終了するまで繰り返してよい。
【0218】
以下、ドップラ判定部213におけるドップラ判定動作の例について説明する。
【0219】
まず、ドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1), ...,fdemul_Tx#Nt(1))に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出する。
【0220】
ここで、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1) ~fdemul_Tx#Nt(1))には、レーダ送信部100において送信アンテナ106毎に付与された所定のドップラシフト量の成分が含まれる。例えば、ドップラ判定部213は、ドップラシフト量の成分を取り除いたドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出してよい。
【0221】
同様に、ドップラ判定部213は、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2)~fdemul_Tx#Nt(2))に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(2)を算出する。
【0222】
ここで、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2)~fdemul_Tx#Nt(2)には、レーダ送信部100において送信アンテナ106毎に付与された所定のドップラシフト量の成分が含まれる。例えば、ドップラ判定部213は、ドップラシフト量の成分を取り除いたドップラ周波数推定値fd_VFT(2)を算出してよい。
【0223】
次に、ドップラ判定部213は、次式(16)が最小となるドップラ折り返し回数n
alを算出する。
【数14】
【0224】
ここで、ドップラ折り返し回数nalは整数値であり、想定されるターゲットのドップラ周波数範囲をカバーする整数値の範囲内において算出される。
【0225】
また、f
est(f
d_VFT(1), n
al)は、例えば、次式(17)のように、ドップラ周波数推定値f
d_VFT(1)が仮にドップラ折り返し回数n
alである場合のドップラ周波数(f
d_VFT(1)+n
al/T
rs)を算出し、中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数に変換するためにf
c(2)/f
c(1)を乗算した値を出力する関数を表わす。例えば、f
est(f
d_VFT(1), n
al)は、ドップラ周波数推定値f
d_VFT(1)に基づいて推定される第2チャープ信号に対応するドップラ周波数推定値を表す。
【数15】
【0226】
なお、式(17)において、Fmod[x]は、±1/2Trsのドップラ解析部210の折り返しを考慮したドップラ周波数を算出する関数であり、x≧1/(2Trs)の場合、nmod=floor((x-1/(2Trs))/Trs)+1を算出し、x - nmod/Trsを出力する。また、x<-1/(2Trs)の場合、Fmod[x]は、nmod=ceil((|x|-1/(2Trs))/Trs)を算出し、x + nmod/Trsを出力する。ここで、floor(x)は床関数であり、xを超えない最大の整数値を出力する関数である。また、ceil(x)は天井関数であり、xを超える最小の整数値を出力する関数である。
【0227】
以下、ドップラ折り返し回数nalを可変した場合のドップラ周波数fest(fd_VFT(1), nal)と、ドップラ周波数推定値fd_VFT(2)との一致性(又は、一致度、近さ)が最も高い場合のドップラ折り返し回数nal(例えば、式(16)が最小となるnal)を「ドップラ折り返し回数推定値nalest」と表記する。
【0228】
次に、
図9を用いて上述したドップラ判定動作の例について説明する。
図9において、横軸は物標のドップラ周波数を表し、縦軸は第1ドップラ多重分離部212及び第2ドップラ多重分離部212の出力に基づくドップラ周波数推定値を表す。
【0229】
また、
図9において、実線は、中心周波数f
c(1)の第1チャープ信号を用いた場合のドップラ周波数推定値(例えば、f
d_VFT(1))を表し、点線は中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号を用いた場合のドップラ周波数推定値(f
d_VFT(2))を表す。ただし、
図9では、f
c(2)>f
c(1)の場合の例を示す。
【0230】
また、
図9において、丸印は、ドップラ周波数f
d_VFT(1)+n
al/T
rsに対する第1ドップラ多重分離部212の出力に基づくドップラ周波数推定値を表す。
図9に示すように、丸印によって示されるドップラ周波数推定値(縦軸の値)は、ドップラ折り返し回数n
alに依存しない値(例えば、f
d_VFT(1))となる。
【0231】
また、
図9において、四角印は、ドップラ周波数f
d_VFT(1)+n
al/T
rsに対する第2ドップラ多重分離部212の出力に基づくドップラ周波数推定値を表す。
図9に示すように、四角印によって示されるドップラ周波数推定値(縦軸の値)は、ドップラ折り返し回数n
alに依存した値(例えば、f
est(f
d_VFT(1), n
al))となる。また。例えば、
図9の四角印の縦軸方向の間隔は、第2ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δf
dよりも大きい間隔であり、ドップラ折り返し回数n
alに応じてそれぞれ異なるドップラ周波数推定値として検出可能である。
【0232】
ドップラ判定部213は、例えば、
図9に示す四角印のプロットを、ドップラ周波数推定値f
d_VFT(1)に基づいて、式(17)に示すf
est(f
d_VFT(1), n
al)を用いて算出してよい。そして、ドップラ判定部213は、例えば、算出した値(
図9に示す四角印のプロットの縦軸の値)と、中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号を用いた場合のドップラ周波数推定値f
d_VFT(2)(
図9に示す点線)とが最も一致するドップラ折り返し回数n
al(例えば、式(16)が最小となるn
al)を、ドップラ折り返し回数推定値n
alestに設定してよい。
【0233】
このように、ドップラ判定部213は、中心周波数f
c(1)の第1チャープ信号に対応する反射波信号により観測されるドップラピーク(例えば、
図9の丸印、第1ピーク位置)、及び、中心周波数f
c(1)と中心周波数f
c(2)との比率f
c(2)/f
c(1)に基づいて、中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号に対応する反射波信号のドップラピーク(例えば、
図9の四角印、第2ピーク位置)を推定し、推定されたドップラピークと、第2チャープ信号に対応する反射波信号により観測されるドップラピーク(例えば、
図9の点線、第3ピーク位置)との一致度(近さ)に基づいて、折り返し回数n
alestを判定してよい。なお、一致度は折り返しによりドップーピークの値が変化することを考慮した近さである。
【0234】
なお、fc(2)>fc(1)においてfc(2)/fc(1)が大きいほど、あるいは、fc(2)<fc(1)においてfc(2)/fc(1)が小さいほど、折り返し回数nalに応じたfest(fd_VFT(1), nal)の違い(例えば、fd_VFT(1)との差異)が大きくなるので、ドップラ判定部213では、折り返し回数nalによるドップラ周波数の区別(例えば、折り返し回数nalの判定)が容易になる。
【0235】
その一方で、折り返し回数nalによるドップラ周波数の違いが大きくなり、±1/(2Trs)を超えると、ドップラ周波数の曖昧さが生じるため、ドップラ折り返し回数推定値nalestの推定誤りの確率が増加し得る。
【0236】
ここで、ドップラ折り返し回数n
alの場合に、中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数の折り返し成分n
al×f
c(2)/f
c(1) /T
rsと、第2ドップラ解析部210の折り返し回数n
alの周波数間隔であるn
al/T
rsとの差分が±1/(2T
rs)を超えない条件は、次式(18)で表される。
【数16】
【0237】
例えば、n
alが正の場合、次式(19)を満たす最大のn
alまでは、Δn
alが±1/(2T
rs)の範囲となり、ドップラ判定部213は曖昧さなく折り返しを推定できる。なお、次式(19)を満たす最大のn
alを「n
almax」と表記する。また、例えば、n
alが負の場合、n
al=-n
almaxとすると次式(19)を同様に満たす。これらのことから、ドップラ周波数の検出範囲は、例えば、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲に対して、n
almax倍に拡大される。
【数17】
【0238】
例えば、nalmax=2の場合、fc(2)>fc(1)の場合には、fc(2)は、fc(1)の1.25倍よりも低い周波数に設定されてよく、fc(2)<fc(1)の場合には、fc(1)は、fc(2)の1.25倍よりも低い周波数に設定されてよい。また、例えば、例えば、nalmax=3の場合、fc(2)>fc(1)の場合には、fc(2)は、fc(1)の(7/6)倍よりも低い周波数に設定されてよく、fc(2)<fc(1)の場合には、fc(1)は、fc(2)の(7/6)倍よりも低い周波数に設定されてよい。なお、nalmaxの値は、2又は3に限定されず、他の値でもよい。
【0239】
例えば、fc(1)及びfc(2)がnalmax=2の場合の条件を満たせば、ドップラ周波数fdの検出範囲は、±2/(Trs)となり、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲に対して2倍に拡大される。
【0240】
なお、レーダ送信部100又はレーダ受信部200の通過周波数範囲内において、fc(1)及びfc(2)が設定されてよく、ドップラ周波数の検出範囲の拡大は、レーダ送信部100又はレーダ受信部200の通過周波数特性の制約も受け得る。
【0241】
例えば、fc(1)及びfc(2)の設定では、想定する物標の最大ドップラ周波数に基づいて、最大のドップラ折り返し回数nalmaxが決定され、判定可能条件、及び、式(17)を満たすfc(1)及びfc(2)が決定されてもよい。また、fc(1)及びfc(2)がレーダ送信部100又はレーダ受信部200の通過周波数範囲内となるように、fc(1)及びfc(2)が決定されてよい。
【0242】
以上、ドップラ判定部213の動作例について説明した。
【0243】
図2において、方向推定部214は、第qドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスf
b_cfar(q)、及び、ドップラ多重信号(q)の分離インデックス情報(f
demul_Tx#1(q), f
demul_Tx#2(q)~ f
demul_Tx#Nt(q)))に基づいて、ターゲットの方向推定処理を行う。
【0244】
例えば、方向推定部214は、第qドップラ多重分離部212の出力から、距離インデックスfb_cfar(q)及びドップラ多重信号(q)の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q)~ fdemul_Tx#Nt(q))に基づいて、第qドップラ解析部210の出力を抽出し、次式(20)に示すような第q仮想受信アレー相関ベクトルhq(fb_cfar(q), fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q)~ fdemul_Tx#Nt(q))を生成し、方向推定処理を行う。ここで、q=1,2である。
【0245】
第q仮想受信アレー相関ベクトルh
q(f
b_cfar(q), f
demul_Tx#1(q), f
demul_Tx#2(q)~ f
demul_Tx#Nt(q))は、式(20)に示すように、送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積であるNt×Na個の要素を含む。仮想受信アレー相関ベクトルh
q(f
b_cfar(q), f
demul_Tx#1(q), f
demul_Tx#2(q)~ f
demul_Tx#Nt(q))は、ターゲットからの反射波信号に対して各受信アンテナ202間の位相差に基づく方向推定を行う処理に用いる。ここで、整数z=1~Naである。なお、方向推定部214は、同じ距離インデックスの第1及び第2ドップラ多重分離部212の出力を用いて方向推定処理を行うため、f
b_cfar(1)= f
b_cfar(2)= f
b_cfarとする。
【数18】
【0246】
式(20)において、hcal[b]は、送信アレーアンテナ間及び受信アレーアンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。整数b=1~(Nt×Na)である。
【0247】
方向推定部214は、例えば、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar, fdemul_Tx#1(1)~ fdemul_Tx#Nt(1), fdemul_Tx#1(2)~ fdemul_Tx#Nt(2))における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変として空間プロファイルを算出する。方向推定部214は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力する。
【0248】
なお、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar, fdemul_Tx#1(1)~ fdemul_Tx#Nt(1), fdemul_Tx#1(2)~ fdemul_Tx#Nt(2))は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0249】
例えば、Nt×Na個の仮想受信アレーが等間隔d
Hで直線状に配置される場合、ビームフォーマ法は次式(21)のように表すことができる。ビームフォーマ法の他にも、Capon, MUSICといった手法も同様に適用可能である。なお、式(21)において、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。
【数19】
【0250】
また、式(21)においてa
q(θ
u)は、方位方向θ
uの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルを示し、式(22)で表される。式(22)において、λ
qは、中心周波数f
c(q)の場合のレーダ送信信号(例えば、第qチャープ信号)の波長であり、λ
q=C
0/f
c(q)である。
【数20】
【0251】
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内を所定の方位間隔β1で変化させたベクトルである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uβ1、整数u=0~ NU
NU=floor[(θmax-θmin)/β1]+1
ここでfloor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0252】
方向推定部214は、例えば、式(22)に示す方向ベクトルa
q(θ
u)の代わりに、式(23)に示すように、中心周波数f
c(1)とf
c(2)との平均中心周波数における方位方向θの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルa(θ
u)を共通に用いてもよい。ここで、λ
aは中心周波数(f
c(1)+ f
c(2))/2の場合のレーダ送信信号の波長であり、λ
a=2C
0/(f
c(1)+f
c(2))である。この場合、方向推定部214は、仮想受信アレーの方向ベクトルa(θ
u)を、各チャープ信号に対する処理に共通に用いることができ、仮想受信アレーの方向ベクトルを記憶するためのメモリ容量を削減できる効果も得られる。
【数21】
【0253】
また、上述した例では、方向推定部214が到来方向推定値として方位方向を算出する例について説明したが、これに限定されず、仰角方向の到来方向推定、又は、矩形の格子状に配置されたMIMOアンテナを用いることにより、方位方向及び仰角方向の到来方向推定も可能である。例えば、方向推定部214は、到来方向推定値として方位方向及び仰角方向を算出して、測位出力としてもよい。
【0254】
以上の動作により、方向推定部214は、測位出力として、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), ...,fdemul_Tx#Nt(q))における到来方向推定値を出力してよい。また、方向推定部214は、更に、測位出力として、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), ...,fdemul_Tx#Nt(q))を出力してよい。方向推定部214は、測位出力(又は、測位結果)を、例えば、図示しない、車載レーダでは車両の制御装置、インフラレーダではインフラ制御装置に、出力してもよい。
【0255】
また、方向推定部214は、例えば、ドップラ判定部213において判定したドップラ周波数情報fd_VFT(1)+nalest/Trs、及び、fc(2)/fc(1)(fd_VFT(1)+nalest/Trs)の何れか一方、又は、両方を出力してもよい。
【0256】
また、距離インデックスfb_cfarは、式(1)を用いて距離情報に変換して出力されてもよい。
【0257】
また、ドップラ判定部213において判定されたドップラ周波数情報は、相対速度情報に変換して出力されてもよい。ドップラ判定部213において判定された、中心周波数f
c(1)によるドップラ周波数情報f
d_VFT(1)+n
alest/T
rsを相対速度v
dに変換するには、次式(24)を用いて変換することができる。
【数22】
【0258】
同様に、ドップラ判定部213において判定された、中心周波数f
c(2)によるドップラ周波数情報f
c(2)/f
c(1)(f
d_VFT(1)+n
alest/T
rs)を相対速度v
dに変換すると、次式(25)のように、式(24)と同じ値となるので、相対速度成情報は、異なる中心周波数に対して共通の値(又は、統一した値)として出力されてもよい。
【数23】
【0259】
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置10は、送信アンテナ106から送信信号が送信される送信周期毎に、例えば、式(10)~式(15)の何れかを満たす第1中心周波数と第2中心周波数とを交互に切り替える。これにより、レーダ装置10は、中心周波数の違いに応じたドップラ解析におけるドップラ周波数のずれに基づいて、折り返し回数を判定できる。よって、レーダ装置10は、例えば、判定可能な折り返し回数に応じて、ドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大できる。
【0260】
以上のように、本実施の形態によれば、曖昧性が生じないドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大させることができる。これにより、レーダ装置10は、より広いドップラ周波数範囲において、物標(例えば、到来方向)を精度良く検知することができる。
【0261】
また、本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数の設定によりドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲を拡大するので、例えば、A/D変換器のサンプリングレートの高速化といった方法を適用することを省略してもよい。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10におけるハードウェア構成の複雑化を抑制し、また、レーダ装置10における消費電力又は発熱量の増加を抑制できる。また、本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数の設定によりドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲を拡大するので、送信周期Trの短縮といった方法を適用することを省略してもよい。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10における検出可能な距離範囲の縮小、又は、距離分解能の劣化を抑制できる。
【0262】
なお、本実施の形態では、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に関する変調パラメータにおいて、中心周波数と異なる他のパラメータが共通である場合について説明したが、これに限定されない。本開示の一実施例の適用には、例えば、距離分解能が一致すればよく、周波数掃引帯域幅Bw(q)が同一の関係となるチャープ信号であればよい。
【0263】
例えば、
図10に示すように、B
w(1)=B
w(2)、T
sw(1)≠T
sw(2)、D
m(1)≠D
m(2)となる変調パラメータによって設定される第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いてもよい。この場合、第1チャープ信号及び第2チャープ信号の周波数掃引時間T
SWが異なるが、周波数掃引帯域幅B
wが同一であり、距離分解能ΔR(=C
0/2B
w)は一致するので、レーダ装置10は、上述した本開示の一実施例に係る動作を行うことで同様な効果が得られる。
【0264】
また、例えば、
図10に示すように、T
sw(1)≠T
sw(2)の設定により、各受信無線部203から出力されるビート信号をそれぞれの信号処理部206のA/D変換部207において離散的にサンプルリングする際に、所定時間範囲(レンジゲート)T
sw(1)≠T
sw(2)で得られる離散サンプリングデータ数は異なる。よって、ビート周波数解析部208は、例えば、送信周期T
r毎に所定時間範囲(レンジゲート)T
swで得られるN
data個の離散サンプリングデータを、FFT処理する代わりに、以下の動作を行ってもよい。
【0265】
例えば、ビート周波数解析部208は、第1チャープ信号が送信される周期において、所定時間範囲(レンジゲート)Tsw(1)で得られるNdata(1)個の離散サンプリングデータをFFT処理し、また、第2チャープ信号が送信される周期において、所定時間範囲(レンジゲート)Tsw(2)で得られるNdata(2)個の離散サンプリングデータをFFT処理してもよい。そして、ビート周波数解析部208は、例えば、Ndata(1)個とNdata(2)個のうち、小さい方をNdata個として、後続の処理を行ってよい。
【0266】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るレーダ装置は、
図2に示すレーダ装置10と同様でよい。
【0267】
実施の形態1では、第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)に関するドップラ折り返し回数の判定可能条件について説明した。例えば、実施の形態1では、判定可能条件を満たす場合のドップラ判定部213におけるドップラ折り返し回数の判定動作について説明し、ドップラ周波数範囲を1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲よりも2倍以上に拡大可能であることを説明した。
【0268】
ここで、例えば、不等間隔ドップラ多重送信を用いるMIMOレーダにおいて、同程度の距離から複数の反射波がある場合、また、それらの反射波のドップラ間隔がドップラ多重間隔(又は、ドップラ多重間隔の倍数)に一致する場合、レーダ装置10において不等間隔となるドップラ周波数領域の検出を誤りやすくなり、ドップラ多重信号の分離を誤ったり、複数の反射波の測角誤差が大きくなったりする可能性がある。
【0269】
本実施の形態では、実施の形態1の効果に加え、このような状況でも検出性能を向上できるレーダ装置について説明する。例えば、本実施の形態では、第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)に関する複数の反射波の判定可能条件について説明する。例えば、レーダ送信部100の信号生成制御部104において設定される第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)の設定条件(判定可能条件)、及び、ドップラ判定部213の動作が実施の形態1と異なる。以下、本実施の形態について、実施の形態1と異なる部分の動作を主に説明する。
【0270】
[判定可能条件]
まず、レーダ送信部100の信号生成制御部104において設定される第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)の設定条件(判定可能条件)について説明する。
【0271】
レーダ送信部100のドップラシフト部105は、例えば、式(4)に示す位相回転φ
n(m)を用いてよい。この場合、ドップラ多重間隔Δf
DDMは、次式(26)で表される。
【数24】
【0272】
式(26)に示すドップラ多重間隔ΔfDDMのうち一部はドップラ多重に使用されず、送信信号が割り当てられないため、ドップラ多重間隔の倍数で不等間隔となる。ここで、δは1以上の整数である。δが1の場合にドップラ多重間隔ΔfDDMが最も広くなり、δが増えるにつれドップラ多重間隔ΔfDDMが狭くなる。例えば、ドップラ多重間隔が狭いほど、ドップラ多重信号間の相互干渉が増加するため、δ=1といった、より小さい整数に設定されることがより好適である。
【0273】
例えば、同一の距離インデックスで検出される2つの物標(以下、「Target#1」及び「Target#2」と表す)からの反射波のドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となる間隔で到来する場合、ドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2は次式(27)、(28)で表され、ドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2は、式(29)の関係を有する。なお、ここでは、中心周波数fc(1)の第1チャープ信号を用いる場合の関係式を示す。
fd1_T#1= fd_T#1_VFT(1)+ nal_T#1/Trs (27)
fd1_T#2= fd1_T#2_VFT(1)+ nal_T#2/Trs (28)
|fd1_T#1 - fd1_T#2|= Nmul×ΔfDDM (29)
【0274】
ここで、fd_T#1_VFT(1)は、第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#1のドップラ周波数推定値であり、fd1_T#2_VFT(1)は、第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#2のドップラ周波数推定値である。また、nal_T#1はTarget#1のドップラ折り返し回数を表し、nal_T#2はTarget#2のドップラ折り返し回数を表す。また、nal_T#1及びnal_T#2は整数値をとる。
【0275】
また、Nmulは想定するドップラ周波数範囲内の自然数である。例えば、Nmulは、式(19)を満たす最大の折り返し回数nalmaxを用いて、Nmul∈{1,…,(Nt+δ)×nalmax}に設定されてもよく、Nmul∈{1,…,(Nt+δ)×nalmax}よりも狭い範囲内の値に設定されてもよい。
【0276】
上記のように表される2つの物標(Target#1,Target#2)の関係式に対して、レーダ装置10が中心周波数fc(2)の第2チャープ信号を用いてドップラ周波数を観測した場合について、次式(30)、(31)、(32)の関係式が得られる。なお、式(30)、(31)、(32)の関係式は、中心周波数fc(2)の第2チャープ信号を用いた場合のドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2が、ドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2に、中心周波数比fc(2)/fc(1)を乗算することにより算出可能であることを利用している。
fd2_T#s1= fc(2)/fc(1)×(fd_T#1_VFT(1)+ nal_T#1/Trs) (30)
fd2_T#2= fc(2)/fc(1)×(fd1_T#2_VFT(1)+ nal_T#2/Trs) (31)
|fd2_T#1 - fd2_T#2|= fc(2)/fc(1)×(Nmul×ΔfDDM ) (32)
【0277】
ここで、fc(2)/fc(1)×(Nmul×ΔfDDM )と、ドップラ多重間隔であるNmul×ΔfDDMとの差分(例えば、式(32)の値と式(29)の値との差分)が、第2ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δfdより大きくなるように、中心周波数比fc(2)/fc(1)が設定されてよい。
【0278】
例えば、レーダ装置10は、次式(33)の「第2判定可能条件(1)」を満たすように、第1チャープ信号の中心周波数f
c(1)及び第2チャープ信号の中心周波数f
c(2)を決定してよい。
【数25】
【0279】
これにより、例えば、中心周波数fc(2)の第2チャープ信号を用いた第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212の出力を用いると、Target#1及びTarget#2のそれぞれのドップラ周波数は、第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#1及びTarget#2のそれぞれのドップラ周波数推定値(例えば、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ΔfDDMの倍数)の間隔)から、少なくとも第2ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δfdよりもずれたドップラ周波数として観測される。
【0280】
したがって、レーダ装置10は、例えば、同一距離にて観測される2つの反射波間におけるドップラ多重信号成分の重複を抑制し、2つの反射波それぞれのドップラ多重信号の分離性能を向上できる。例えば、第2判定可能条件(1)は、第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#1及びTarget#2のドップラ周波数推定値が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ΔfDDMの倍数)の間隔となり、Target#1及びTarget#2についてドップラ多重分離が困難な場合でも、第2チャープ信号を用いた第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212の出力に基づいてTarget#1及びTarget#2についてドップラ多重分離でき、Target#1及びTarget#2のドップラ周波数推定値が得られる条件となる。
【0281】
ここで、f
c(2)> f
c(1)の場合、第2判定可能条件(1)におけるf
c(1)及びf
c(2)の条件は次式(34)で表される。
【数26】
【0282】
例えば、N
mul=1を満たせば、N
mul>1の場合も成り立つことから、第2判定可能条件(1)は、次式(35)のように表されてもよい。
【数27】
【0283】
同様に、f
c(2)< f
c(1)の場合、第2判定可能条件(1)におけるf
c(1)及びf
c(2)の条件は次式(36)で表される。
【数28】
【0284】
例えば、N
mul=1を満たせば、N
mul>1の場合も成り立つことから、第2判定可能条件(1)は、次式(37)のように表されてもよい。
【数29】
【0285】
同様に、同一の距離インデックスで検出される2つの物標(例えば、Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となる間隔で到来する場合、ドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2は、次式(38)、(39)で表され、ドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2は、式(40)の関係を有する。なお、ここでは、中心周波数fc(2)の第2チャープ信号を用いる場合の関係式を示す。
fd2_T#1= fd_T#1_VFT(2)+ nal_T#1/Trs (38)
fd2_T#2= fd1_T#2_VFT(2)+ nal_T#2/Trs (39)
|fd2_T#1 - fd2_T#2| = Nmul×ΔfDDM (40)
【0286】
ここで、fd_T#1_VFT(2)は、第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#1のドップラ周波数推定値であり、fd1_T#2_VFT(2)は、第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#2のドップラ周波数推定値である。また、nal_T#1はTarget#1のドップラ折り返し回数を表し、nal_T#2はTarget#2のドップラ折り返し回数を表す。また、nal_T#1及びnal_T#2は整数値をとる。
【0287】
上記のように表される2つの物標(Target#1,Target#2)の関係式に対して、レーダ装置10が中心周波数fc(1)の第1チャープ信号を用いてドップラ周波数を観測した場合について、次式(41)、(42)、(43)の関係式が得られる。なお、式(41)、(42)、(43)の関係式は、中心周波数fc(1)の第1チャープ信号を用いた場合のドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2が、ドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2に、中心周波数比fc(1)/fc(2)を乗算することにより算出可能であることを利用している。
fd1_T#1= fc(1)/fc(2)×(fd_T#1_VFT(2)+ nal_T#1/Trs) (41)
fd1_T#2= fc(1)/fc(2)×( fd1_T#2_VFT(2)+ nal_T#2/Trs) (42)
|fd1_T#1 - fd1_T#2|= fc(1)/fc(2)×(Nmul×ΔfDDM ) (43)
【0288】
ここで、fc(1)/fc(2)×(Nmul×ΔfDDM )と、ドップラ多重間隔であるNmul×ΔfDDMとの差分(例えば、式(43)の値と式(40)の値との差分)が、第1ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δfdより大きくなるように、中心周波数比fc(1)/fc(2)が設定されてよい。
【0289】
例えば、レーダ装置10は、次式(44)の「第2判定可能条件(2)」を満たすように、第1チャープ信号の中心周波数f
c(1)及び第2チャープ信号の中心周波数f
c(2)を決定してよい。
【数30】
【0290】
これにより、例えば、中心周波数fc(1)の第1チャープ信号の用いた第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212の出力を用いると、Target#1及びTarget#2のそれぞれのドップラ周波数は、第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#1及びTarget#2のそれぞれのドップラ周波数推定値(例えば、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ΔfDDMの倍数の間隔)から、少なくとも第1ドップラ解析部210におけるドップラ周波数分解能Δfdよりもずれたドップラ周波数として観測される。
【0291】
したがって、レーダ装置10は、例えば、同一距離にて観測される2つの反射波間におけるドップラ多重信号成分の重複を抑制し、2つの反射波それぞれのドップラ多重信号の分離性能を向上できる。例えば、第2判定可能条件(2)は、第2ドップラ解析部210及び第2ドップラ多重分離部212において検出されるTarget#1及びTarget#2のドップラ周波数推定値が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ΔfDDMの倍数の間隔)となり、Target#1及びTarget#2についてドップラ多重分離が困難な場合でも、第1チャープ信号を用いた第1ドップラ解析部210及び第1ドップラ多重分離部212の出力に基づいてTarget#1及びTarget#2についてドップラ多重分離でき、Target#1及びTarget#2のドップラ周波数推定値が得られる条件となる。
【0292】
ここで、f
c(2)> f
c(1)の場合、第2判定可能条件(2)におけるf
c(1)及びf
c(2)の条件は次式(45)で表される。
【数31】
【0293】
例えば、N
mul=1を満たす場合(N
mul>1も成り立つことを意味する)、第2判定可能条件(2)は、次式(46)のように表されてもよい。
【数32】
【0294】
また、次式(47)のように第2判定可能条件(2)を満たすと、第2判定可能条件(1)も満たす。
【数33】
【0295】
したがって、例えば、次式(48)をf
c(2)>f
c(1)の場合の「第2判定可能条件」と呼ぶ。
【数34】
【0296】
同様に、f
c(2)<f
c(1)の場合、第2判定可能条件(2)におけるf
c(1)及びf
c(2)の条件は次式(49)で表される。
【数35】
【0297】
例えば、N
mul=1を満たす場合(N
mul>1も成り立つことを意味する)、第2判定可能条件(2)は、次式(50)のように表されてもよい。
【数36】
【0298】
また、例えば、式(37)及び式(50)より、次式(51)のように第2判定可能条件(2)を満たすと、第2判定可能条件(1)も満たす。
【数37】
【0299】
したがって、例えば、次式(52)をf
c(2)<f
c(1)の場合の「第2判定可能条件」と呼ぶ。
【数38】
【0300】
また、例えば、式(33)又は式(44)に示す第2判定可能条件において、ドップラ周波数分解能Δf
dの整数倍(例えば、α倍)より大きい条件を満たす中心周波数f
c(1)及びf
c(2)の条件としてもよい(ただし、α≧1)。この場合、レーダ装置10は、αが大きいほど、受信信号レベルが低い場合といった雑音影響がある場合でもドップラ分離をより容易に行うことができる。また、例えば、f
c(2)>f
c(1)の場合の式(48)に示す第2判定可能条件、及び、f
c(2)<f
c(1)の場合の式(52)に示す第2判定可能条件のそれぞれは、次式(53)及び式(54)のように表されてもよい。
【数39】
【数40】
【0301】
一例として、fc(1)=78GHzの場合、fc(2)>fc(1)とすると、α=1、Nc=128、Nt=3、δ=1ではfc(2)は80.51GHzより大きく設定され、α=2、Nc=128ではfc(2)=83.2GHzに設定される。また、例えば、α=1、Nc=256、Nt=3、δ=1ではfc(2)=79.23GHzに設定され、α=2、Nc=256ではfc(2)は80.51GHzより大きく設定される。
【0302】
なお、第2判定可能条件は、第1判定可能条件よりもチャープ信号の中心周波数間の差|fc(2)-fc(1)|が拡がる条件となる。例えば、第2判定可能条件を満たす場合には、第1判定可能条件も満たすことになる。
【0303】
また、レーダ送信部100又はレーダ受信部200の通過周波数範囲内において、fc(1)及びfc(2)が設定されてよく、ドップラ周波数の検出範囲の拡大は、レーダ送信部100又はレーダ受信部200の通過周波数特性の制約も受け得る。
【0304】
また、第2判定可能条件においても、式(18)又は式(19)に示す周波数条件の制約も同様に考慮して設定されてよい。これにより、実施の形態1の効果を同様に得ることができる。
【0305】
また、第2判定可能条件において、f
c(1)とf
c(2)とで観測されるドップラ周波数の差がドップラ多重間隔Δf
DDM未満となる周波数条件を加えてもよい。例えば、次式(55)及び式(56)に示す条件を満たすようにf
c(1)及びf
c(2)が設定されてもよい。
【数41】
【数42】
【0306】
ここで、Nmulは想定するドップラ周波数の範囲内の自然数である。例えば、Nmulは、式(19)を満たす最大の折り返し回数nalmaxを用いて、Nmul∈{1,…,(Nt+δ)×nalmax}に設定されてもよく、Nmul∈{1,…,(Nt+δ)×nalmax}よりも狭い範囲内の値に設定されてもよい。
【0307】
以上、判定可能条件について説明した。
【0308】
[ドップラ判定方法]
次に、ドップラ判定部213は、上述した第2判定可能条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)を用いて、以下のような動作を行ってよい。
【0309】
ドップラ判定部213は、例えば、距離インデックスfb_cfarにおいて、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とが、同数含まれる場合、実施の形態1と同様の動作を行ってよい。これにより、実施の形態1と同様な効果が得られる。
【0310】
その一方で、ドップラ判定部213は、例えば、距離インデックスfb_cfarにおいて、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とが同数含まれない場合、以下の処理を行ってよい。例えば、ドップラ判定部213は、例えば、レーダ装置10に対して同程度の距離からの複数の反射波が存在し、第1チャープ信号に対するドップラ解析及び第2チャープ信号に対するドップラ解析のうち、一方において複数の反射波が分離され、他方において複数の反射波が分離されない可能性がある場合に、以下の処理を行ってよい。
【0311】
<ケース1>
ケース1では、例えば、距離インデックスfb_cfarにおいて、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が複数含まれ、また、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合について説明する。例えば、ケース1では、第1ドップラ多重分離部212においてドップラ多重信号が分離され、第2ドップラ多重分離部212においてドップラ多重信号が分離されない場合であり、例えば、以下のような場合である。
【0312】
レーダ装置10に対して同程度の距離からの2つの反射波が存在する場合、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とには、2つの反射波に対するドップラ多重信号の分離インデックス情報が、それぞれ出力されることが期待される。
【0313】
しかしながら、第2チャープ信号を用いて送信することによって、例えば、
図1の(c)で示されるように、反射波#1と反射波#2がドップラ多重間隔Δf
DDM、あるいはドップラ多重間隔の倍数に一致する場合、反射波#1と反射波#2間で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがある。このため、ドップラ多重信号の分離が困難となり、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合となる。
【0314】
一方で、このような反射波が存在する場合でも、第1チャープ信号を用いて送信することによって、レーダ装置10が第2判定可能条件を満たすので、反射波#1と反射波#2で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがなくなる。そのため、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まる場合となる。このような場合に、以下の動作を行う。
【0315】
以下では、一例として、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報として、2つの物標(例えば、Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれる場合について説明する。
【0316】
ドップラ判定部213は、例えば、中心周波数fc(2)のチャープ信号を用いる場合、2つの物標(Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来したと判断してよい(みなしてよい)。この場合、ドップラ判定部213は、以下のような到来波重複時のドップラ判定処理を行ってよい。
【0317】
例えば、ドップラ判定部213は、次式(57)が最小となるTarget#1のドップラ折り返し回数n
al_#T1、及び、Target#2のドップラ折り返し回数n
al_#T2を算出してよい。
【数43】
【0318】
ここで、ドップラ折り返し回数nal_#T1及びnal_#T2は整数値であり、想定されるターゲットのドップラ周波数範囲をカバーする整数値の範囲内にて算出されてよい。例えば、nal_#T1及びnal_#T2は、式(19)を満たす最大の折り返し回数nalmaxを用いて±nalmaxの範囲内にて算出されてもよい。また、ドップラ折り返し回数nal_#T1及びnal_#T2を可変した場合に式(57)が最小となるそれぞれのドップラ折り返し回数をnalest_#T1及びnalest_#T2と表記する。また、mod[x,y]はxをyで割ったときの剰余を表す関数である。
【0319】
例えば、中心周波数fc(2)のチャープ信号を用いる場合、2つの物標(Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd2_T#1及びfd2_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来する条件を満たす場合に式(57)が最小となる。ドップラ判定部213は、このことを利用して、Target#1及びTarget#2のドップラ折り返し回数nalest_#T1及びnalest_#T2を推定する。
【0320】
なお、式(57)において、例えば、ドップラ折り返し回数nal_#T1、nal_#T2の場合のドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2のそれぞれは、fest(fd_T#1_VFT(1), nal_T#1)及びfest(fd_T#2_VFT(1), nal_T#2)を用いて推定される。ここで、fest(fd_VFT(1), nal)は、式(17)に示す関数でよい。また、ドップラ周波数推定値fd_T#1_VFT(1)及びfd_T#2_VFT(1)のそれぞれは、例えば、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfarにおけるドップラ多重信号の分離インデックス情報に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値である。
【0321】
<ケース2>
ケース2では、例えば、距離インデックスfb_cfarにおいて、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が複数含まれ、また、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合について説明する。例えば、ケース2では、第1ドップラ多重分離部212においてドップラ多重信号が分離されず、第2ドップラ多重分離部212においてドップラ多重信号が分離される場合であり、例えば、以下のような場合である。
【0322】
レーダ装置10に対して同程度の距離からの2つの反射波が存在する場合、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とには、2つの反射波に対するドップラ多重信号の分離インデックス情報が、それぞれ出力されることが期待される。
【0323】
しかしながら、第1チャープ信号を用いて送信することによって、例えば、
図1の(c)で示されるように、反射波#1と反射波#2がドップラ多重間隔Δf
DDM、あるいはドップラ多重間隔の倍数に一致する場合、反射波#1と反射波#2間で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがある。
【0324】
このため、ドップラ多重信号の分離が困難となり、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合となる。
【0325】
一方で、このような反射波が存在する場合でも、第2チャープ信号を用いて送信することによって、レーダ装置10が第2判定可能条件を満たすので、反射波#1と反射波#2で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがなくなる。そのため、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まる場合となる。このような場合に、以下の動作を行う。
【0326】
以下では、一例として、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報として、2つの物標(例えば、Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれる場合について説明する。
【0327】
ドップラ判定部213は、例えば、中心周波数fc(1)のチャープ信号を用いる場合、2つの物標(Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来したと判断してよい(みなしてよい)。この場合、ドップラ判定部213は、以下のような到来波重複時のドップラ判定処理を行ってよい。
【0328】
例えば、ドップラ判定部213は、次式(58)が最小となるTarget#1,Target#2のドップラ折り返し回数n
al_#T1及びn
al_#T2を算出してよい。
【数44】
【0329】
ここで、ドップラ折り返し回数nal_#T1及びnal_#T2は整数値であり、想定されるターゲットのドップラ周波数範囲をカバーする整数値の範囲内にて算出されてよい。例えば、nal_#T1及びnal_#T2は、式(19)を満たす最大の折り返し回数nalmaxを用いて±nalmaxの範囲内にて算出されてもよい。また、ドップラ折り返し回数nal_#T1及びnal_#T2を可変した場合に式(58)が最小となるそれぞれのドップラ折り返し回数をnalest_#T1及びnalest_#T2と表記する。
【0330】
例えば、中心周波数fc(1)のチャープ信号を用いる場合、2つの物標(Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd1_T#1及びfd1_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来する条件を満たす場合に式(58)が最小となる。ドップラ判定部213は、このことを利用して、Target#1及びTarget#2のドップラ折り返し回数nalest_#T1及びnalest_#T2を推定する。
【0331】
なお、式(58)において、例えば、ドップラ折り返し回数nal_#T1、nal_#T2の場合のドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2のそれぞれ、fest2(fd_T#1_VFT(2), nal_T#1)及びfest2(fd_T#2_VFT(2), nal_T#2)を用いて推定される。また、ドップラ周波数推定値fd_T#1_VFT(2)及びfd_T#2_VFT(2)のそれぞれは、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfarにおけるドップラ多重信号の分離インデックス情報に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値である。
【0332】
また、f
est2(f
d_VFT(2), n
al)は、次式(59)に示す関数であり、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報に基づいて算出されるドップラ周波数推定値f
d_VFT(2)が仮にドップラ折り返し回数n
alである場合のドップラ周波数(f
d_T#1_VFT(2)+n
al/T
rs)を算出し、中心周波数f
c(1)の第1チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数に変換するためにf
c(1)/f
c(2)を乗算した値を出力する関数を表わす。
【数45】
【0333】
以上のようなドップラ判定部213の動作により、距離インデックスfb_cfarにおいて、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とが同数含まれない場合でも、ドップラ判定部213は、ケース1又はケース2のように、一方のドップラ多重分離部212において得られるドップラ多重信号の分離インデックス情報に基づいて、他方の中心周波数のチャープ信号を用いる場合の反射波のドップラ周波数が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来しているとみなして、そのドップラ折り返し回数を推定できる。
【0334】
例えば、ドップラ判定部213は、例えば、第1チャープ信号に対応するドップラ解析、及び、第2チャープ信号に対応するドップラ解析のうち、複数の反射波信号が分離される一方のドップラ解析の結果に基づいて、複数の反射波信号が分離されない他方のドップラ解析における複数の物標それぞれのドップラピークを推定し、推定される複数の物標間のドップラピークの間隔と、ドップラ多重間隔とに基づいて、複数の物標それぞれのドップラ周波数の折り返し回数を判定する。
【0335】
本実施の形態において、レーダ装置10の以降の処理は、実施の形態1と同様でよい。また、レーダ装置10は、例えば、推定したドップラ折り返し回数であるnalest_#T1及びnalest_#T2を用いて、ドップラ周波数推定値を測位出力として出力してよい。以上により、本実施の形態において、レーダ装置10は、第2判定可能条件を満たす第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)を用いて、実施の形態1の効果を得ることができる。
【0336】
さらに、レーダ装置10において、例えば、2つの物標からの反射波のドップラ周波数がドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来し、一方のチャープ信号を用いてそれらの物標のドップラ多重分離が困難な場合があり得る。この場合でも、レーダ装置10は、他方のチャープ信号に関しては、2つの物標からの反射波のドップラ周波数がドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔とは一致せず、少なくともドップラ解析部210のドップラ分解能よりも異ならせることで、2つの物標のドップラ多重分離を行うことができる。
【0337】
これにより、本実施の形態では、レーダ装置10は、同一距離から到来する複数波の検出性能を向上でき、レーダ装置10における物標検出確率を向上し、未検出確率を低減でき、レーダ検出性能を向上できる。
【0338】
(実施の形態2の変形例)
実施の形態2の変形例として、想定する物標のドップラ周波数fd_TargetDopplerが-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)のドップラ周波数範囲である場合に、レーダ装置10は、第2判定可能条件を満たす第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)を用いて、ドップラ判定部213において折り返し回数推定処理を省略した処理を行ってもよい。例えば、レーダ装置10は、例えば、折り返し回数を推定せずに、複数の反射波の分離検出処理を行ってもよい。
【0339】
この場合、ドップラ判定部213は、例えば、上述したケース1、ケース2の処理の代わりに、以下のケース1a、ケース2aの処理を行ってよい。
【0340】
<ケース1a>
ケース1aでは、例えば、距離インデックスfb_cfarにおいて、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が複数含まれ、また、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合であり、例えば、以下のような場合である。
【0341】
レーダ装置10に対して同程度の距離からの2つの反射波が存在する場合、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とには、2つの反射波に対するドップラ多重信号の分離インデックス情報が、それぞれ出力されることが期待される。
【0342】
しかしながら、第2チャープ信号を用いて送信することによって、例えば、
図1の(c)で示されるように、反射波#1と反射波#2がドップラ多重間隔Δf
DDM、あるいはドップラ多重間隔の倍数に一致する場合、反射波#1と反射波#2間で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがある。
【0343】
このため、ドップラ多重信号の分離が困難となり、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合となる。一方で、このような反射波が存在する場合でも、第1チャープ信号を用いて送信することによって、レーダ装置10が第2判定可能条件を満たすので、反射波#1と反射波#2で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがなくなる。
【0344】
そのため、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まる場合となる(ケース1と同様な反射波#1と#2が到来するケースを想定)。このような場合に、以下のケース1と異なる動作の説明を行う。
【0345】
以下では、一例として、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報として、2つの物標(例えば、Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれる場合について説明する。
【0346】
ドップラ判定部213は、例えば、中心周波数fc(2)のチャープ信号を用いる場合、2つの物標(Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd2_T#1、fd2_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来したと判断してよい(みなしてよい)。この場合、ドップラ判定部213は、例えば、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報を方向推定部214に出力してよい。
【0347】
方向推定部214は、第1ドップラ多重分離部212からドップラ多重分離出力された距離インデックスfb_cfar及びドップラ多重信号(q=1)の分離インデックス情報を用いて方向推定処理を行う。方向推定部214は、例えば、式(21)において、q=1を用いて方向推定処理を行ってよい。
【0348】
<ケース2a>
ケース2aでは、例えば、距離インデックスfb_cfarにおいて、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が複数含まれ、また、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合であり、例えば、以下のような場合である。
【0349】
レーダ装置10に対して同程度の距離からの2つの反射波が存在する場合、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報と、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報とには、2つの反射波に対するドップラ多重信号の分離インデックス情報が、それぞれ出力されることが期待される。
【0350】
しかしながら、第1チャープ信号を用いて送信し、例えば、
図1の(c)で示されるように、反射波#1と反射波#2がドップラ多重間隔Δf
DDM、あるいはドップラ多重間隔の倍数に一致する場合、反射波#1と反射波#2間で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがある。
【0351】
このため、ドップラ多重信号の分離が困難となり、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれない場合となる。
【0352】
一方で、このような反射波が存在する場合でも、第2チャープ信号を用いて送信することによって、レーダ装置10が第2判定可能条件を満たすので、反射波#1と反射波#2で一部のドップラ多重信号が重複したドップラ周波数成分として受信されることがなくなる。そのため、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まる場合となる(ケース2と同様な反射波#1と#2が到来するケースを想定)。このような場合に、以下のケース2と異なる動作の説明を行う。
【0353】
以下では、一例として、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報として、2つの物標(例えば、Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ多重信号の分離インデックス情報が含まれる場合について説明する。
【0354】
ドップラ判定部213は、例えば、中心周波数fc(1)のチャープ信号を用いる場合、2つの物標(Target#1及びTarget#2)からの反射波のドップラ周波数fd1_T#1、fd1_T#2が、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来したと判断してよい(みなしてよい)。この場合、ドップラ判定部213は、例えば、第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報を方向推定部214に出力してよい。
【0355】
方向推定部214は、第2ドップラ多重分離部212からドップラ多重分離出力された距離インデックスfb_cfar及びドップラ多重信号(q=2)の分離インデックス情報を用いて方向推定処理を行う。方向推定部214は、例えば、式(21)において、q=2を用いて方向推定処理を行ってよい。
【0356】
以上、ケース1a及びケース2aについて説明した。
【0357】
このように、物標のドップラ周波数fd_TargetDopplerが-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)のドップラ周波数範囲において、第2判定可能条件を満たす第1チャープ信号の中心周波数fc(1)及び第2チャープ信号の中心周波数fc(2)を用いることにより、以下の効果を得ることができる。
【0358】
例えば、2つの物標からの反射波のドップラ周波数がドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔で到来し、一方のチャープ信号に基づく物標のドップラ多重分離が困難となる場合があり得る。この場合でも、他方のチャープ信号(中心周波数の異なるチャープ信号)の使用により、2つの物標からの反射波のドップラ周波数の間隔を、ドップラ多重間隔ΔfDDM(又は、ドップラ多重間隔の倍数Nmul×ΔfDDM)となるドップラ周波数間隔と一致せず、少なくともドップラ解析部210のドップラ分解能よりも大きい間隔に異ならせることができる。よって、レーダ装置10は、2つの物標のドップラ多重分離を可能とする。
【0359】
このように、実施の形態2の変形例では、レーダ装置10は、第1チャープ信号に対するドップラ解析、及び、第2チャープ信号に対するドップラ解析のうち、複数の反射波信号が分離される一方のドップラ解析の結果に基づいて、方向推定処理を行ってよい。
【0360】
これにより、例えば、一方のチャープ信号に対応する反射波信号のドップラ解析において、レーダ装置10に対して同程度の距離の複数の反射波に対応するドップラ周波数(ドップラピーク)の間隔が、ドップラ多重間隔(又は、ドップラ多重間隔の倍数)に一致する場合でも、レーダ装置10は、他方のチャープ信号に対応する反射波信号のドップラ解析結果に基づいて、複数の反射波のそれぞれに対応するドップラ多重信号を分離検出できる。
【0361】
これにより、実施の形態2の変形例において、レーダ装置10は、同一距離から到来する複数の反射波の検出性能を向上でき、レーダ装置10における物標の検出確率を向上し、未検出確率を低減できる。よって、実施の形態2の変形例によれば、レーダ装置10におけるレーダ検出性能を向上できる。
【0362】
(実施の形態3)
実施の形態1では、1個のレーダ送信信号生成部を含むレーダ装置の構成例を示したが、レーダ装置の構成はこれに限定されず、複数個のレーダ送信信号生成部を含むレーダ装置を用いてもよい。
【0363】
例えば、
図11は、レーダ装置10aのレーダ送信部100aに、2個のレーダ送信信号生成部101を含む構成例を示す。実施の形態1では、レーダ装置10は1個のレーダ送信信号生成部101を含む構成であり、異なる中心周波数のレーダ送信波(例えばチャープ信号)を、送信周期T
r毎に時間的に切り替えて、交互に送信する動作について説明した。これに対して、本実施の形態では、
図11に示すように、複数個のレーダ送信信号生成部101を含むレーダ装置10aは、異なる中心周波数のレーダ送信波(例えば、チャープ信号)を、送信周期T
r毎に複数の送信アンテナ106から同時に送信する。このような構成でも、実施の形態1と同様、検出可能なドップラ周波数範囲を拡大する効果が得られる。
【0364】
以下、本実施の形態における動作について、主に、実施の形態1と異なる動作例について説明する。
【0365】
[レーダ送信部100aの構成例]
図11は、一例として、レーダ装置10aのレーダ送信部100aに、2個のレーダ送信信号生成部101を含む構成を示す。以下では、2個のレーダ送信信号生成部101のそれぞれを「第1レーダ送信信号生成部101(又は、レーダ送信信号生成部101-1)」、及び、「第2レーダ送信信号生成部101-2(又は、レーダ送信信号生成部101-2)」と呼ぶ。
【0366】
図11において、各々のレーダ送信信号生成部101の構成は、実施の形態1と同様でよい。各レーダ送信信号生成部101のそれぞれは、例えば、信号生成制御部104からの制御に基づいてレーダ送信信号を生成する。
【0367】
信号生成制御部104は、第1及び第2レーダ送信信号生成部101(例えば、変調信号発生部102及びVCO103)に対して、レーダ送信信号の生成を制御する。例えば、信号生成制御部104は、第1及び第2レーダ送信信号生成部101のそれぞれから、中心周波数の異なるチャープ信号を送信するように、チャープ信号に関するパラメータ(例えば、変調パラメータ)を設定してよい。以下、第1レーダ送信信号生成部101において生成されるチャープ信号を「第1チャープ信号」と呼び、第2レーダ送信信号生成部101において生成されるチャープ信号を「第2チャープ信号」と呼ぶ。
【0368】
チャープ信号に関する変調パラメータには、実施の形態1と同様に、例えば、中心周波数fc(q)、周波数掃引帯域幅Bw(q)、掃引開始周波数fcstart(q)、掃引終了周波数fcend(q)、周波数掃引時間Tsw(q)、及び、周波数掃引変化率Dm(q)が含まれてよい。なお、Dm(q)=Bw(q)/Tsw(q)である。また、Bw(q)= fcend(q)-fcstart(q)及びfc (q)=(fcstart(q)+fcend(q))/2である。また、例えば、q=1,2であり、q=1の場合には第1チャープ信号の変調パラメータを表し、q=2の場合には第2チャープ信号の変調パラメータを表してよい。
【0369】
信号生成制御部104は、実施の形態1と同様に、例えば、所定の条件を満たす中心周波数fc(q)を設定(又は、選定)してよい。また、以下では、一例として、第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに設定される変調パラメータのうち、中心周波数fc(q)が互いに異なり、中心周波数以外の他の変調パラメータは同じ(又は、共通)である場合について説明する。しかし、これに限定されず、本開示の一実施例の適用には、例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号において距離軸の分解能が一致すればよいので、周波数掃引帯域幅Bw(q)が同一の関係となるチャープ信号が設定されればよい。
【0370】
また、信号生成制御部104は、例えば、中心周波数fc(q)の異なる2つのチャープ信号のそれぞれをNc回ずつ、同時に送信(又は、出力)するように、変調信号発生部102及びVCO103を制御してよい。
【0371】
図12は、信号生成制御部104の制御に基づいて第1及び第2レーダ送信信号生成部101が出力するチャープ信号(例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号)の一例を示す。なお、
図12では、変調周波数が時間の経過とともに徐々に高くなるアップチャープの波形の例を示すが、これに限定されず、変調周波数が時間の経過とともに徐々に低くなるダウンチャープが適用されてもよい。変調周波数がアップチャープ及びダウンチャープの何れであるかに依らず同様な効果を得ることができる。
【0372】
図12において、第1チャープ信号及び第2チャープ信号は、それぞれ送信周期T
rで同時に送信される。なお、以下では、周波数掃引帯域幅、周波数掃引時間(又は、レンジゲートと呼ぶ)、及び、周波数掃引変化率は、特に明記しない場合には、第1チャープ信号及び第2チャープ信号それぞれに対して同じ値のパラメータを表し、B
w(1)=B
w(2)=B
w、T
sw(1)=T
sw(2)=T
sw、D
m(1)=D
m(2)=D
mと表すことがある。
【0373】
また、中心周波数の異なる各チャープ信号の周波数掃引帯域幅は、
図12の(a)に示すように、重複する帯域を含まなくてもよく、
図12の(b)に示すように、重複する帯域を含んでもよい。本開示の一実施例は、例えば、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間の中心周波数の関係が所定条件を満たせば、周波数掃引帯域幅が重複する帯域を含むか否かに依らず、同様な効果が得られる。
【0374】
なお、本開示の一実施例において、送信周期Trは、例えば、数百μs程度以下に設定されてよく、レーダ送信信号の送信時間間隔は比較的短く設定されてよい。これにより、例えば、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間で中心周波数が異なる場合でも、受信反射波のビート信号の周波数(例えば、ビート周波数インデックス)は変化しないので、レーダ装置10aは、ドップラ周波数の変化として検出可能である。
【0375】
第1レーダ送信信号生成部101(例えば、VCO103)から出力される第1チャープ信号は、Nt個のドップラシフト部105のうち、例えば、N1個のドップラシフト部105(例えば、ドップラシフト部105-1~105-N1と表す)にそれぞれ入力される。また、第1レーダ送信信号生成部101から出力される第1チャープ信号は、レーダ受信部200aのNa個のミキサ部204のうち、例えば、N3個のミキサ部204(例えば、アンテナ系統処理部201-1~201-N3のミキサ部204)にそれぞれ入力される。
【0376】
一方、第2レーダ送信信号生成部101(例えば、VCO103)から出力される第2チャープ信号は、Nt個のドップラシフト部105のうち、例えば、N2個のドップラシフト部105(例えば、ドップラシフト部105-N1+1~105-Nt)にそれぞれ入力される。また、第2レーダ送信信号生成部101から出力される第2チャープ信号は、レーダ受信部200aのNa個のミキサ部204のうち、例えば、N4個のミキサ部204(例えば、アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Na)にそれぞれ入力される。
【0377】
ここで、N1+N2=Ntとし、N3+N4=Naとする。なお、N1,N2はそれぞれ2以上であり、Ntは4以上でよい。また、N3,N4はそれぞれ1以上であり、Naは2以上でよい。
【0378】
そして、第1チャープ信号が入力されるN1個のドップラシフト部105の出力信号は、所定の送信電力に増幅され各送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)から空間に放射される。また、第2チャープ信号が入力されるN2個のドップラシフト部105の出力信号は、所定の送信電力に増幅され各送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)から空間に放射される。これにより、第1チャープ信号及び第2チャープ信号は、それぞれ送信周期Tr毎に、同時に送信される。
【0379】
以下では、第1チャープ信号が入力されるN1個のドップラシフト部105(例えば、ドップラシフト部105-1~105-N1)と、これらN1個のドップラシフト部105の出力信号を送信する各送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)を、「第1送信サブブロック」と呼ぶ。また、第2チャープ信号が入力されるN2個のドップラシフト部105(例えば、ドップラシフト部105-N1+1~105-Nt)と、これらN2個のドップラシフト部105の出力信号を送信する各送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)を、「第2送信サブブロック」と呼ぶ。
【0380】
例えば、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105は、第1チャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎にドップラシフト量DOPnsub1を付与するために、位相回転φnsub1を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)に出力する。ここで、nsub1=1~N1の整数である。また、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105は、第2チャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎にドップラシフト量DOPnsub2を付与するために、位相回転φnsub2を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)に出力する。ここで、nsub2=1~N2の整数である。
【0381】
なお、第1及び第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105におけるドップラシフト量DOPnsub1(又は、位相回転φnsub1)、及び、ドップラシフト量DOPnsub2(又は、位相回転φnsub2)を付与する方法の一例については後述する。
【0382】
また、Ntが偶数の場合、例えば、N1=N2に設定することで、第1及び第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106の数を同数としてもよい。また、Ntが奇数の場合、例えば、N1=(Nt+1)/2、あるいはN1=(Nt-1)/2に設定することで、第1及び第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106の数を、1送信アンテナ差とし、ほぼ同数としてもよい。このように、第1サブブロックに含まれる送信アンテナ106(例えば、第1チャープ信号を送信する送信アンテナ106)の数と、第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106(例えば、第2チャープ信号を送信する送信アンテナ106)の数は、同数、又は、1つ異なるように設定されてよい。第1及び第2サブブロックにそれぞれ含まれる送信アンテナ106を同数あるいはほぼ同数に設定することで、レーダ装置10aは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いて、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を、実施の形態1と比較して、より拡大する効果(例えば、2倍程度に拡大する効果)が得られる。
【0383】
また、実施の形態1では、第1チャープ信号と第2チャープ信号とを時分割で切り替える(例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号は、送信周期T
r毎に交互に送信される)。このため、ドップラ周波数範囲±1/2T
rsにおいて、ドップラ多重信号が多重送信される(ここで、T
rs>T
rである)。その一方で、本実施の形態では、
図12に示すように、第1チャープ信号及び第2チャープ信号は、送信周期T
r毎に同時に送信されるため、ドップラ周波数範囲±1/2T
rにてドップラ多重信号の多重が可能となる。例えば、実施の形態1におけるT
rs=2T
rでドップラ多重送信する場合と比較して、本実施の形態では、2倍のドップラ周波数範囲においてドップラ多重信号の多重送信が可能となる。したがって、第1及び第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106の数を同数あるいはほぼ同数とすることにより、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いてドップラ多重する際のドップラ多重間隔は、実施の形態1と比較して、約4倍程度に拡大する効果が得られる。
【0384】
例えば、ドップラ多重送信する際のドップラ多重間隔が近接すると、ドップラ成分が拡がりを持つような物標の場合に、ドップラ多重信号間の干渉が発生しやすくなり、方向推定精度が劣化し、物標の検出精度が劣化しやすくなる。本実施の形態では、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、このようなドップラ多重信号間の干渉の発生を低減でき、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。
【0385】
また、本実施の形態では、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、より多くの送信アンテナ106をドップラ多重送信に用いても、ドップラ多重信号間の干渉の発生を低減でき、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。したがって、本実施の形態では、実施の形態1と比較して、より多くの送信アンテナ106をドップラ多重送信に使用可能となる。このように、より多くの送信アンテナ106を用いてドップラ多重送信を行う場合、本実施の形態は、実施の形態1と比較して好適となる。
【0386】
[レーダ受信部200aの構成例]
図11において、レーダ受信部200aは、例えば、Na個の受信アンテナ202(例えば、Rx#1~Rx#Na)を備え、アレーアンテナを構成する。また、レーダ受信部200aは、例えば、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR部211と、ドップラ多重分離部212と、ドップラ判定部213と、方向推定部214と、を有する。
【0387】
各受信アンテナ202は、物標(ターゲット)に反射したレーダ送信信号(例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号)である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0388】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0389】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF205と、を有する。受信無線部203において、ミキサ部204は、受信した反射波信号(受信信号)に対して、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。
【0390】
ここで、第1レーダ送信信号生成部101―1(例えば、VCO103)から出力される第1チャープ信号は、Na個のアンテナ系統処理部201のうち、例えば、N3個のアンテナ系統処理部201(例えば、アンテナ系統処理部201-1~201-N3)のミキサ部204にそれぞれ入力される。アンテナ系統処理部201-1~201-N3において、ミキサ部204の出力をLPF205に通過させることにより、第2チャープ信号の反射波に対応するミキサ部204の出力は、LPF205の通過帯域外となる高い周波数となるため、LPF205からは、第1チャープ信号の反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力されやすくなる。
【0391】
同様に、第2レーダ送信信号生成部101―2(例えば、VCO103)から出力される第2チャープ信号は、Na個のアンテナ系統処理部201のうち、例えば、N4個のアンテナ系統処理部201(例えば、アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Na)のミキサ部204にそれぞれ入力される。アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Naにおいて、ミキサ部204の出力をLPF205に通過させることにより、第1チャープ信号の反射波に対応するミキサ部204の出力は、LPFの通過帯域外となる高い周波数となるため、LPF205からは、第2チャープ信号の反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力されやすくなる。
【0392】
したがって、アンテナ系統処理部201―1~201-N3は、受信アンテナ202-1~202-N3において受信した第1チャープ信号の反射波信号を処理する。以降、第1チャープ信号の反射波を処理するアンテナ系統処理部201(例えば、受信無線部203及び信号処理部206)、及び、第1チャープ信号の反射波を処理するアンテナ系統処理部201に接続される受信アンテナ202を「第1受信サブブロック」と呼ぶ。
【0393】
また、アンテナ系統処理部201―N3+1~201-Naは、受信アンテナ202-N3+1~202-Naにおいて受信した第2チャープ信号の反射波信号を処理する。以降、第2チャープ信号の反射波を処理するアンテナ系統処理部201(例えば、受信無線部203及び信号処理部206)、及び、第2チャープ信号の反射波を処理するアンテナ系統処理部201に接続される受信アンテナ202を「第2受信サブブロック」と呼ぶ。
【0394】
ここで、N3+N4=Naである。なお、N3,N4はそれぞれ1以上でよく、Naは2以上でよい。
【0395】
第q受信サブブロックに含まれる各アンテナ系統処理部201-zqの信号処理部206は、A/D変換部207と、ビート周波数解析部208と、ドップラ解析部210と、を有する。ここで、q=1の場合、z1=1~N3の何れかであり、q=2の場合、z2=N3+1~Naの何れかである。
【0396】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、A/D変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0397】
第q受信サブブロックに含まれるビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、所定の時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。ここで、レンジゲートは、周波数掃引時間Tsw(q)を設定する。例えば、q=1,2であり、q=1の場合にはTsw(1)は第1チャープ信号の周波数掃引時間を表し、q=2の場合にはTsw(2)は第2チャープ信号の周波数掃引時間を表す。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。なお、FFT処理の際、ビート周波数解析部208は、例えば、Han窓又はHamming窓等の窓関数係数を乗算してもよい。窓関数係数を用いることにより、ビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0398】
ここで、第qチャープ信号の第m番目のチャープパルス送信によって得られる、第q受信サブブロックの第zq番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答を「RFTzq(fb, m)」で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,~,Ndata/2-1であり、z1=1~N3、z2=N3+1~Na、m=1,~,NCであり、q=1あるいは2である。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(例えば、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0399】
第q受信サブブロックの第zq番目の信号処理部206におけるドップラ解析部210は、第qチャープ信号のNC回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答RFTzq(fb, 1)、RFTzq(fb, 2)、~、RFTzq(fb, NC)を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。例えば、第q受信サブブロックのドップラ解析部210は、第qチャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定してよい。
【0400】
例えば、Ncが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用できる。この場合、FFTサイズはNcであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(2Tr)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Nc×Tr)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs= -Nc/2, ~, 0, ~, Nc/2-1である。
【0401】
以下では、一例として、Ncが2のべき乗値である場合について説明する。なお、Ncが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズとしてFFT処理が可能である。また、ドップラ解析部210は、FFT処理の際に、Han窓又はHamming窓などの窓関数係数を乗算してもよい。窓関数を適用することでビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0402】
例えば、第q受信サブブロックの第z
q番目の信号処理部206におけるドップラ解析部210の出力VFT
zq(f
b, f
s)は、次式(60)に示す。なお、jは虚数単位であり、z
1=1~N3、z
2=N3+1~Naであり、q=1,2である。
【数46】
【0403】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0404】
CFAR部211は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応する第1CFAR部211(又は、CFAR部211-1)及び第2CFAR部211(又は、CFAR部211-2)を備えてよい。同様に、ドップラ多重分離部212は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応する第1ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-1)及び第2ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-2)を備えてよい。
【0405】
なお、
図11は、CFAR部211を並列的に設ける構成(CFAR部211-1及び211-2)を示すが、1つのCFAR部211を設け、その入力を遂次的に切り替えて処理する構成でもよい。また、
図11は、ドップラ多重分離部212を並列的に設ける構成(ドップラ多重分離部212-1及び212-2)を示すが、1つのドップラ多重分離部212を設け、その入力を遂次的に切り替えて処理する構成でもよい。
【0406】
図11において、CFAR部211は、第q受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210からの出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、局所的なピーク信号を与える距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarを抽出する。
【0407】
図11に示すように、CFAR部211は、第1受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210の出力を用いてCFAR処理を行う第1CFAR部211(又は、CFAR部211-1と表す)、及び、第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210の出力を用いてCFAR処理を行う第2CFAR部211(又は、CFAR部211-2と表す)を備えてよい。
【0408】
第qCFAR部211(q=1,2)は、例えば、次式(61)のように、第q受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210の出力を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。2次元のCFAR処理又は1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理については、例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。
ここで、z
1=1~N3、z
2=N3+1~Naである。
【数47】
【0409】
第qCFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q))を第qドップラ多重分離部212に出力する。
【0410】
ドップラ多重分離部212は、第1受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210及び第1CFAR部211の出力を用いて、ドップラ多重分離処理を行う第1ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-1と表す)と、第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210-2及び第2CFAR部211の出力を用いて、ドップラ多重分離処理を行う第2ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-2と表す)を備えてよい。
【0411】
第qドップラ多重分離部212(q=1,2)は、第qCFAR部211から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q)))に基づいて、第q受信サブブロックに含まれるドップラ解析部210からの出力を用いて、ドップラ多重送信された信号(以下、「ドップラ多重信号」と呼ぶ)から、各送信アンテナ106から送信される送信信号(例えば、当該送信信号に対する反射波信号)を分離する。
【0412】
第qドップラ多重分離部212は、例えば、分離した信号に関する情報を、ドップラ判定部213及び方向推定部214に出力する。分離した信号に関する情報には、例えば、分離した信号に対応する距離インデックスfb_cfar(q)、及び、ドップラ周波数インデックス(以下、分離インデックス情報と呼ぶこともある)が含まれてよい。ここで、第1ドップラ多重分離部212の分離インデックス情報は、第1送信サブブロックに含まれる送信アンテナTx#1,Tx#2,~,Tx#N1から送信された信号を分離したドップラ周波数インデックスであり、それぞれに対応して(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~, fdemul_Tx#N1)と表記する。同様に、第2ドップラ多重分離部212の分離インデックス情報は、第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナTx#N1+1,Tx#N1+2,~,Tx#Ntから送信された信号を分離したドップラ周波数インデックスであり、それぞれに対応して(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2, ~, fdemul_Tx#Nt)と表記する。
【0413】
また、第qドップラ多重分離部212は、第qドップラ解析部210からの出力を方向推定部214に出力する。なお、第qドップラ多重分離部212は、第qCFAR部211から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q)))に基づいて、第q受信サブブロックに含まれるドップラ解析部210からの出力を方向推定部214に出力してもよい。
【0414】
以下、第qドップラ多重分離部212の動作について、レーダ送信部100aにおけるドップラシフト部105の動作とともに説明する。
【0415】
[ドップラシフト量の設定方法]
第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1は、第1チャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎にドップラシフト量DOPnsub1を付与するために、位相回転φnsub1を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)に出力する。ここで、nsub1=1~N1である。本実施の形態では、ドップラシフト部105-1~105-N1間(又は、送信アンテナ106-1~106-N1間)において、ドップラシフト量DOPnsub1の間隔(ドップラシフト間隔)は、等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように不等間隔に設定されてよい。
【0416】
例えば、第nsub1番目のドップラシフト部105は、入力される第m番目の第1チャープ信号に対して、互いに異なるドップラシフト量DOPnsub1となる位相回転φnsub1(m)を付与して出力する。これにより、複数の送信アンテナ106から送信される送信信号には、それぞれ異なるドップラシフト量が付与される。例えば、本実施の形態では、ドップラ多重数NDM=N1でよい。ここで、m=1~NCの整数であり、nsub1=1~N1の整数である。
【0417】
同様に、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、第2チャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎にドップラシフト量DOPnsub2を付与するために、位相回転φnsub2を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)に出力する。ここで、nsub2=1~N2である。本実施の形態では、ドップラシフト部105-N1+1~105-Nt間(又は、送信アンテナ106-N1+1~106-Nt間)において、ドップラシフト量DOPnsub2の間隔(ドップラシフト間隔)は、等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように不等間隔に設定されてよい。
【0418】
このように、第1及び第2送信サブブロックのドップラシフト部105におけるドップラシフト量の設定により、後述する第1ドップラ多重分離部212は、実施の形態1におけるドップラ多重分離部212と同様の動作により、Tx#1~Tx#N1のドップラインデックスを分離でき、±1/Trの範囲でドップラ周波数を算出できる。また、後述する第2ドップラ多重分離部212は、実施の形態1におけるドップラ多重分離部212と同様の動作により、Tx#N1+1~Tx#Ntのドップラインデックスを分離し、±1/Trの範囲でドップラ周波数を算出できる。これらのドップラ多重分離部212の出力に基づいて、後述するドップラ判定部213は、実施の形態1におけるドップラ判定部213と同様の動作により、ドップラ周波数の差異に基づいてドップラ周波数の折り返しの有無を判定でき、±1/Trの範囲を超えるドップラ周波数を算出できる。
【0419】
第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1の動作は、実施の形態1のドップラシフト部105-1~105-Nt間(又は、送信アンテナ106-1~106-Nt間)の動作の説明において、「Nt」を「N1」に置き換え、「Trs」を「Tr」に置き換えた動作と同様の動作であるため、その詳細な動作の説明は省略する。
【0420】
また、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Ntの動作は、実施の形態1のドップラシフト部105-N1+1~105-Nt間(又は、送信アンテナ106-N1+1~106-Nt間)の動作の説明において、「Nt」を「N2」に置き換え、「Trs」を「Tr」に置き換えた動作と同様の動作であるため、その詳細な動作の説明は省略する。
【0421】
例えば、実施の形態1にて説明した式(5)に対して、本実施の形態では、第1送信サブブロックのドップラシフト部105-1~105-N1は、入力された第m番目の第1チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub1となる、次式(62)のような位相回転φ
nsub1(m)を付与する。
【数48】
【0422】
同様に、第2送信サブブロックのドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、入力された第m番目の第2チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub2となる、次式(63)のような位相回転φ
nsub2(m)を付与する。
【数49】
【0423】
ここで、Aは1又は‐1の正負の極性を与える係数である。また、δ1、δ2は1以上の整数である。なお、round(NC/(N1+δ1))及びround(NC/(N2+δ2))の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入しているが、これに限定されず、式(62)における(2π/NC)×round(NC/(N1+δ1))の項の代わりに、2π/(N1+δ1)を用いてもよい。同様に、式(63)における(2π/NC)×round(NC/(N2+δ2))の項の代わりに、2π/(N2+δ2)を用いてもよい。
【0424】
また、φ01、φ02はそれぞれ初期位相であり、それぞれが等しくても、異なってもよい。例えば、φ01及びφ02のそれぞれが等しくても、異なっても、ドップラ周波数は一致する。また、Δφ01、Δφ02は基準ドップラシフト位相であり、それぞれが等しくても、異なっていてもよい。例えば、Δφ01及びΔφ02のそれぞれが等しくても、異なっても、ドップラ周波数は一致する。
【0425】
例えば、レーダ装置10aは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対して、それぞれドップラ多重数N1及びN2で不等間隔ドップラ多重を行う。
【0426】
なお、以下では、式(62)における(2π/NC)×round(NC/(N1+δ1))あるいは、2π/(N1+δ1)を、第1チャープ信号に割り当てるドップラ多重信号のドップラ多重間隔「ΔDOPmin1」と呼ぶ。同様に、式(63)における(2π/NC)×round(NC/(N2+δ2))あるいは、2π/(N2+δ2)を第2チャープ信号に割り当てるドップラ多重信号のドップラ多重間隔「ΔDOPmin2」と呼ぶ。
【0427】
送信アンテナ数Nt=4の場合の一例として、式(62)において、N1=2、Δφ
01=0、φ
01=0、A=1、δ1=1、N
Cを3の倍数として、位相回転φ
nsub1(m)=2π(nsub1-1)×(m-1)/3が、送信周期T
r毎に第1チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量はDOP
1=φ
1(m)/{2π(m-1)T
r}=0、DOP
2=φ
2(m)/{2π(m-1)T
r}=1/(3T
r)となる。
図13の(a)~(d)の各上段は、第1チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0428】
また、送信アンテナ数Nt=4の場合の一例として、式(63)において、Nt=4、N2=2、Δφ
02=0、φ
02=0、A=1、δ2=1、N
Cを3の倍数として、位相回転φ
nsub2(m)=2π(nsub2-1)×(m-1)/3が、送信周期T
r毎に第2チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量は、DOP
1=0、DOP
2=1/(3T
r)となる。
図13の(a)~(d)の各下段は、第2チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0429】
図13の(a)に示す第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対するドップラ多重信号の配置は、同じ配置である。このような配置により、後述するドップラ判定部213において、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を受信した際の、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に多重したドップラ多重信号におけるドップラ周波数のずれの算出を容易にできる。
【0430】
なお、ドップラ多重信号の配置は、
図13の(a)の例に限定されず、例えば、
図13の(b)、
図13の(c)及び
図13の(d)に示すように、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対するドップラ多重信号の配置が異なってもよい。
【0431】
例えば、
図13の(b)では、式(63)においてΔφ
02≠0とすることにより、第2チャープ信号に対するドップラ多重信号は、第1チャープ信号に対するドップラ多重信号の配置に所定のドップラ周波数分オフセットして配置されてもよい。
【0432】
また、例えば、
図13の(c)では、第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれについて、±1/T
rのドップラ範囲を3(=(N2+δ2))分割したうちの2つのドップラ多重信号が割り当てられる。
図13の(c)では、第1チャープ信号に対するドップラ多重信号に対して、式(62)においてnsub1=1、2とし、第2チャープ信号に対するドップラ多重信号に対して、式(63)においてnsub2=2, 3として配置されてもよい。例えば、(N1+δ1)(=(N2+δ2))分割した中でのドップラ多重信号の割り当てを、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間のドップラ多重信号で異ならせてもよい。
【0433】
また、例えば、
図13の(d)では、式(63)においてδ2=2とすることにより、第2チャープ信号に対するドップラ多重信号には、第1チャープ信号に対するドップラ多重信号のドップラ多重間隔と異なる割り当て(例えば、ΔDOPmin1≠ΔDOPmin2)を適用してもよい。
【0434】
また、送信アンテナ数Nt=5の場合の一例として、式(62)において、N1=2、Δφ
01=0、φ
01=0、A=1、δ1=2、N
Cを4の倍数として、位相回転φ
nsub1(m)=π(nsub1-1)×(m-1)/2が、送信周期T
r毎に第1チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量はDOP
1=φ
1(m)/{2π(m-1)T
r}=0、DOP
2=φ
2(m)/{2π(m-1)T
r}=1/(4T
r)となる。
図14の(a)~(d)の各上段は、第1チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0435】
また、送信アンテナ数Nt=5の場合の一例として、式(63)において、Nt=5、N2=3、Δφ
02=0、φ
02=0、A=1、δ2=1、N
Cを4の倍数として、位相回転φ
nsub2(m)=π×(m-1)/2が、送信周期T
r毎に第2チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量は、DOP
1=0、DOP
2=1/(4T
r)となる。
図14の(a)~(d)の各下段は、第2チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0436】
図14の(a)に示す第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対するドップラ多重信号の配置は、同じ配置である。このような配置により、後述するドップラ判定部213において、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を受信した際の、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に多重したドップラ多重信号におけるドップラ周波数のずれの算出を容易にできる。
【0437】
なお、ドップラ多重信号の配置は、
図14の(a)の例に限定されず、例えば、
図14の(b)、
図14の(c)及び
図14の(d)に示すように、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対するドップラ多重信号の配置が異なってもよい。
【0438】
例えば、
図14の(b)では、式(63)においてΔφ
02≠0とすることにより、第2チャープ信号に対するドップラ多重信号は、第1チャープ信号に対するドップラ多重信号の配置に所定のドップラ周波数分オフセットして配置されてもよい。
【0439】
また、例えば、
図14の(c)では、第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれについて、±1/T
rのドップラ範囲を4(=(N2+δ2))分割したうちの2つ又は3つのドップラ多重信号が割り当てる。
図14の(c)では、第1チャープ信号に対するドップラ多重信号に対して、式(62)においてnsub1=1,2とし、第2チャープ信号に対するドップラ多重信号に対して、式(63)においてnsub2=3,4,5として配置されてもよい。例えば、(N1+δ1)(=(N2+δ2))分割した中でのドップラ多重信号の割り当てを、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間のドップラ多重信号で異ならせてもよい。
【0440】
また、例えば、
図14の(d)では、式(62)においてδ1=1とすることにより、第2チャープ信号に対するドップラ多重信号には、第1チャープ信号に対するドップラ多重信号のドップラ多重間隔と異なる割り当て(例えば、ΔDOPmin1≠ΔDOPmin2)を適用してもよい。
【0441】
[ドップラ多重分離部212の動作例]
第1ドップラ多重分離部212は、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1間(例えば、送信アンテナ106-1~106-N1間)においてドップラシフト量DOPnsub1の間隔(ドップラシフト間隔)が等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように設定されて送信された信号を、分離して受信する。
【0442】
第1ドップラ多重分離部212は、第1受信サブブロックにおけるドップラ解析部210及びCFAR部211の出力に基づいて、実施の形態1と同様の動作により不等間隔でドップラ多重された信号を分離する。そして、第1ドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(1)、距離インデックスfb_cfar(1)における第1送信サブブロックにおいて多重送信されたN1個のドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~, fdemul_Tx#N1)、及び、ドップラ解析部210の出力をドップラ判定部213に出力する。
【0443】
なお、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1の動作が、実施の形態1のドップラシフト部105-1~105-Nt間(例えば、送信アンテナ106-1~106-Nt間)の動作の説明において、NtをN1に置き換え、TrsをTrに置き換えた動作と同様の動作となることに対応して、第1ドップラ多重分離部212の動作は、実施の形態1のドップラシフト部105の動作の説明において、「Nt」を「N1」に置き換え、「Trs」を「Tr」に置き換えた動作と同様の動作を用いることにより、送信アンテナ106-1~106-N1間でドップラ多重された信号を分離できる。従って、第1ドップラ多重分離部212の動作の詳細な説明は省略する。
【0444】
また、第2ドップラ多重分離部212は、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Nt間(例えば、送信アンテナ106-N1+1~106-Nt間)においてドップラシフト量DOPnsub2の間隔(ドップラシフト間隔)が等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように設定されて送信された信号を、分離して受信する。
【0445】
第2ドップラ多重分離部212は、第2受信サブブロックにおけるドップラ解析部210及びCFAR部211の出力に基づいて、実施の形態1と同様の動作により不等間隔でドップラ多重された信号を分離する。そして、第2ドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(2)、距離インデックスfb_cfar(2)における第2送信サブブロックにおいて多重送信されたN2個のドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2,~, fdemul_Tx#Nt(=N1+N2))、及び、ドップラ解析部210の出力をドップラ判定部213に出力する。
【0446】
なお、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Ntの動作が、実施の形態1のドップラシフト部105-1~105-Nt間(例えば、送信アンテナ106-1~106-Nt間)の動作の説明において、NtをN2に置き換え、TrsをTrに置き換えた動作と同様の動作となることに対応して、第2ドップラ多重分離部212の動作は、実施の形態1のドップラシフト部105の動作の説明において、「Nt」を「N2」に置き換え、「Trs」を「Tr」に置き換えた動作と同様の動作を用いることにより、送信アンテナ106-N1+1~106-Nt間でドップラ多重された信号を分離できる。従って、第2ドップラ多重分離部212の動作の詳細な説明は省略する。
【0447】
[ドップラ判定部213の動作例]
図11において、ドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212及び第2ドップラ多重分離部212それぞれの出力に基づいて、ドップラピークに対応するドップラ周波数を判定する。例えば、ドップラ判定部213は、物標のドップラ周波数f
d_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2T
r) ≦ f
d_TargetDoppler<1/(2T
r)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合でも、物標のドップラ周波数を判定することにより、ドップラ検出範囲を更に拡大できる。
【0448】
例えば、ドップラ判定部213は、距離インデックスfb_cfar(1)とfb_cfar(2)とが共通である、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~,fdemul_Tx#N1)及び第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2,~,fdemul_Tx#Nt)を用いて、ドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定する。
【0449】
ドップラ判定部213におけるドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定する原理は、実施の形態1と同様、信号生成制御部104及びレーダ送信信号生成部101によって生成されるレーダ送信信号である第1チャープ信号と第2チャープ信号との間で中心周波数が互いに異なることを利用する。
【0450】
実施の形態1では、同じ送信アンテナ106に対するドップラ多重信号におけるドップラ周波数の変化に基づいてドップラ周波数の判定が行われる。これに対して、本実施の形態では、ドップラ判定部213は、異なる送信アンテナ106に対するドップラ多重信号でのドップラ周波数の変化に基づいてドップラ周波数の判定が行われる。異なる送信アンテナ106を用いる場合、受信位相は変化するが、受信するドップラ周波数は変化しない。このため、実施の形態1と同様に、ドップラ判定部213は、ドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定できる。
【0451】
ドップラ周波数の判定処理の動作原理、及び、ドップラ判定部213の動作例については、実施の形態1におけるドップラ周波数の判定処理の動作原理、及び、ドップラ判定部213の動作例での説明に対して、以下の(1)、(2)及び(3)の点が異なる。
(1)「Trs」を「Tr」と置き換える点、
(2)実施の形態1におけるドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1), ~,fdemul_Tx#Nt(1))に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出する。これに対して、本実施の形態では、ドップラ判定部213が、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~,fdemul_Tx#N1)に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Tr)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出する点、及び、
(3)実施の形態1におけるドップラ判定部213は、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2), ~,fdemul_Tx#Nt(2))に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(2)を算出する。これに対して、本実施の形態では、ドップラ判定部213が、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx# N1+2, ~,fdemul_Tx#Nt)に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Tr)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(2)を算出する点。
【0452】
本実施の形態では、上記3点と異なるドップラ判定部213の動作については、実施の形態1と同様であるので、その動作の説明を省略する。
【0453】
また、実施の形態1におけるドップラ判定部213と同様に、「Trs」を「Tr」に置き換えた式(10)~式(15)の何れかの判定可能条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)の設定により、ドップラ判定部213は、ドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合(例えば、ドップラ折り返しが発生する場合)でも、物標のドップラ周波数を判定できる。なお、式(10)、式(13)はTrsを含む式であるが、式変形することにより、式(11)、式(12)、式(14)、式(15)のようなTrsを含まない式が得られる。このため、判定可能条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)は、実施の形態1と同様の条件となる。
【0454】
なお、実施の形態1の説明に用いた式(18)は、T
rsをT
rと置き換えることで、次式(64)のように表される。
【数50】
【0455】
式(64)は、ドップラ折り返し回数nalの場合に、中心周波数fc(2)の第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数の折り返し成分nal×{fc(2)/fc(1)}/Trと、第1ドップラ解析部210の折り返し回数nalの周波数間隔であるnal/Trとの差分が±1/(2Tr)を超えない条件を表す。例えば、nalが正の場合、式(19)を満たす最大のnalまでは、Δnalが±1/(2Tr)の範囲となり、ドップラ判定部213は曖昧さなく折り返しを推定できる。なお、式(19)を満たす最大のnalを「nalmax」と表記する。例えば、nalが負の場合、nal=-nalmaxとすると式(19)を同様に満たす。
【0456】
ここで、実施の形態1では、第1チャープ信号あるいは第2チャープ信号がTrs周期で送信され、ドップラ周波数の検出範囲は、例えば、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲に対して、nalmax倍に拡大される。その一方で、本実施の形態では、第1チャープ信号及び第2チャープ信号はTr周期で送信されるため、ドップラ周波数の検出範囲は、例えば、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲に対して、2×nalmax倍に拡大される。従って、本実施の形態では、実施の形態1と比較して、同じチャープ信号の中心周波数fc(1)及びfc(2)の条件に対して、ドップラ周波数の検出範囲をより拡大できる。
【0457】
例えば、fc(1)及びfc(2)がnalmax=1の場合の条件を満たせば、ドップラ周波数fdの検出範囲は、±1/(Tr)となり、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲±1/(2Tr)に対して2倍に拡大される。また、例えば、fc(1)及びfc(2)がnalmax=2の場合の条件を満たせば、ドップラ周波数fdの検出範囲は、±2/(Tr)となり、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲±1/(2Tr)に対して4倍に拡大される。
【0458】
以上、ドップラ判定部213の動作例について説明した。
【0459】
[方向推定部214の動作例]
図11において、方向推定部214は、第1ドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスf
b_cfar(1)、及び、距離インデックスf
b_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~, f
demul_Tx#N1))、及び、第2ドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスf
b_cfar(2)、及び、距離インデックスf
b_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~, f
demul_Tx#Nt))に基づいて、第1ドップラ解析部210の出力及び第2ドップラ解析部210の出力を抽出し、ターゲットの方向推定処理を行う。
【0460】
本実施の形態において、第1送信サブブロックに含まれるN1個の送信アンテナ106と、第1受信サブブロックに含まれるN3個の受信アンテナ202との間で、N1×N3個のMIMO仮想受信アンテナが構成される。同様に、第2送信サブブロックに含まれるN2個の送信アンテナ106と、第2受信サブブロックに含まれるN4個の受信アンテナ202との間で、N2×N4個のMIMO仮想受信アンテナが構成される。方向推定部214は、これらの2組の仮想受信アンテナを用いて方向推定処理を行ってよい。
【0461】
例えば、方向推定部214は、第1ドップラ多重分離部212の出力から、距離インデックスf
b_cfar(1)及びドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~, f
demul_Tx#N1)に基づいて、第1ドップラ解析部210の出力を抽出し、次式(65)に示すようなN1×N3個の要素からなる第1仮想受信アレー相関ベクトルh
1(f
b_cfar(1), f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~, f
demul_Tx#N1)を生成する。
【数51】
【0462】
また、方向推定部214は、例えば、第2ドップラ多重分離部212の出力から、距離インデックスf
b_cfar(2)及びドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~, f
demul_Tx#Nt)に基づいて、第2ドップラ解析部210の出力を抽出し、次式(66)に示すようなN2×N4個の要素からなる第2仮想受信アレー相関ベクトルh
2(f
b_cfar(2), f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~, f
demul_Tx#Nt)を生成する。
【数52】
【0463】
なお、方向推定部214は、同じ距離インデックスの第1及び第2ドップラ多重分離部212の出力を用いて方向推定処理を行うため、式(65)及び式(66)において、fb_cfar(1)=fb_cfar(2)=fb_cfarとする。
【0464】
式(65)において、h1cal[b]は、送信アンテナTx#1~Tx#N1間及び受信アンテナRx#1~#N3間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。整数b=1~(N3×N1)である。
【0465】
また、式(66)において、h2cal[b]は、送信アンテナTx#N1+1~Tx#Nt間及び受信アンテナRx#N3+1~#Na間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。整数b=1~(N4×N2)である。
【0466】
方向推定部214は、例えば、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar , fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~, fdemul_Tx#Nt)における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変として空間プロファイルを算出する。方向推定部214は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力する。ここで、fb_cfarは、fb_cfar(1)=fb_cfar(2)となる距離インデックスを表す。
【0467】
なお、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar, fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~, fdemul_Tx#Nt)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0468】
例えば、ビームフォーマ法は次式(67)のように表すことができる。ビームフォーマ法の他にも、Capon, MUSICといった手法も同様に適用可能である。なお、式(67)において、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。
【数53】
【0469】
式(67)においてa1(θu)は、第1送信サブブロックに含まれるN1個の送信アンテナ106と、第1受信サブブロックに含まれるN3個の受信アンテナ202との間で構成される、N1×N3個のMIMO仮想受信アンテナの方向ベクトル(要素数N1×N3個の列ベクトル)を表し、θu方向から反射波が到来した場合のN1×N3個のMIMO仮想受信アンテナを構成する各仮想受信アンテナでの位相応答または複素振幅応答を表す。
【0470】
同様に、式(67)においてa2(θu)は、第2送信サブブロックに含まれるN2個の送信アンテナ106と、第2受信サブブロックに含まれるN4個の受信アンテナ202との間で構成される、N2×N4個のMIMO仮想受信アンテナの方向ベクトル(要素数N2×N4個の列ベクトル)を表し、θu方向から反射波が到来した場合のN2×N4個のMIMO仮想受信アンテナを構成する各仮想受信アンテナでの位相応答または複素振幅応答を表す。
【0471】
なお、方向ベクトルaq(θu)は、中心周波数fc(q)の場合のレーダ送信信号(例えば、第qチャープ信号)の波長を用いた場合の各仮想受信アンテナでの位相応答または複素振幅応答を用いてよい。あるいは、中心周波数fc(1)とfc(2)との平均中心周波数における方位方向θの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルa(θu)を共通に用いてもよい。
【0472】
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内を所定の方位間隔β1で変化させたベクトルである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uβ1、整数u=0~ NU
NU=floor[(θmax-θmin)/β1]+1
ここでfloor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0473】
また、上述した例では、方向推定部214が到来方向推定値として方位方向を算出する例について説明したが、これに限定されず、仰角方向の到来方向推定、又は、矩形の格子状に配置されたMIMOアンテナを用いることにより、方位方向及び仰角方向の到来方向推定も可能である。例えば、方向推定部214は、到来方向推定値として方位方向及び仰角方向を算出して、測位出力としてもよい。
【0474】
以上の動作により、方向推定部214は、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~,fdemul_Tx#Nt)における到来方向推定値を出力してよい。また、方向推定部214は、更に、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~,fdemul_Tx#Nt)を出力してよい。方向推定部214は、測位出力(又は、測位結果)を、例えば、図示しない、車載レーダでは車両の制御装置、インフラレーダではインフラ制御装置に、出力してもよい。
【0475】
また、方向推定部214は、例えば、ドップラ判定部213において判定したドップラ周波数情報fd_VFT(1)+nalest/Ts、及び、fc(2)/fc(1)(fd_VFT(1)+nalest/Ts)の何れか一方、又は、両方を出力してもよい。
【0476】
また、距離インデックスfb_cfarは、例えば、式(1)を用いて距離情報に変換して出力されてもよい。
【0477】
また、ドップラ判定部213において判定されたドップラ周波数情報は、相対速度情報に変換して出力されてもよい。ドップラ判定部213において判定された、中心周波数f
c(1)によるドップラ周波数情報f
d_VFT(1)+n
alest/T
sを相対速度v
dに変換するには、次式(68)を用いて変換することができる。
【数54】
【0478】
同様に、ドップラ判定部213において判定された、中心周波数f
c(2)によるドップラ周波数情報f
c(2)/f
c(1)(f
d_VFT(1)+n
alest/T
r)を相対速度v
dに変換すると、次式(69)のように、式(68)と同じ値となるので、相対速度成情報は、異なる中心周波数に対して共通の値(又は、統一した値)として出力されてもよい。
【数55】
【0479】
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置10aは、複数個のレーダ送信信号生成部101を含み、例えば、式(10)~式(15)の何れかを満たす第1中心周波数と第2中心周波数とを用いて、所定の送信周期毎に送信アンテナ106から送信信号を送信する。これにより、レーダ装置10aは、中心周波数の違いに応じたドップラ解析部210及びドップラ多重分離部212において検出されるドップラ周波数のずれに基づいて、ドップラ判定部213において折り返し回数を判定できる。よって、レーダ装置10aは、例えば、判定可能な折り返し回数に応じて、ドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大できる。
【0480】
また、本実施の形態では、第1チャープ信号及び第2チャープ信号は、送信周期Tr毎に同時に送信されるため、ドップラ周波数範囲±1/2Trの範囲で、ドップラ多重信号の多重が可能となる。例えば、実施の形態1のようにTrs=2Trでドップラ多重送信される場合と比較して、本実施の形態では、2倍のドップラ周波数範囲(又は、相対速度の最大値)でドップラ多重信号を多重送信できる。
【0481】
また、例えば、第1及び第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106の数を同数あるいはほぼ同数とすることにより、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いてドップラ多重する際のドップラ多重間隔は、実施の形態1と比較して、約4倍程度に拡大する効果が得られる。
【0482】
なお、ドップラ多重送信する際のドップラ多重間隔が近接すると、ドップラ成分が拡がりを持つような物標の場合に、ドップラ多重信号間の干渉が発生しやすくなり、方向推定精度が劣化し、物標の検出精度が劣化しやすい。本実施の形態では、実施の形態1と比較して、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、このようなドップラ多重信号間の干渉の発生を低減し、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。また、本実施の形態では、実施の形態1と比較して、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、より多くの送信アンテナをドップラ多重送信に用いる場合でも、ドップラ多重信号間の干渉の発生を低減し、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。よって、本実施の形態では、実施の形態1と比較して、より多くの送信アンテナ106を用いたドップラ多重送信が可能となる。
【0483】
以上のように、本実施の形態によれば、曖昧性が生じないドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大させることができる。これにより、レーダ装置10aは、より広いドップラ周波数範囲において、物標(例えば、到来方向)を精度良く検知することができる。
【0484】
また、本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数の設定によりドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲を拡大するので、例えば、A/D変換器のサンプリングレートの高速化といった方法を適用することを省略してもよい。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10aにおけるハードウェア構成の複雑化を抑制し、また、レーダ装置10aにおける消費電力又は発熱量の増加を抑制できる。また、本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数の設定によりドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲を拡大するので、送信周期Trの短縮といった方法を適用することを省略してもよい。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10aにおける検出可能な距離範囲の縮小、又は、距離分解能の劣化を抑制できる。
【0485】
なお、本実施の形態では、レーダ装置10aは2個のレーダ送信信号生成部101を含み、例えば、式(10)~式(15)の何れかを満たす第1中心周波数と第2中心周波数とを用いて、所定の送信周期毎に送信アンテナ106から送信信号を送信する場合について説明したが、これに限定されない。レーダ装置10aは、例えば、より多く(3個以上)のレーダ送信信号生成部101を含む構成でもよい。
【0486】
例えば、レーダ装置10aが3個のレーダ送信信号生成部101を含み、式(10)~式(15)の何れかを満たす第1中心周波数fc(1)と第2中心周波数fc(2)とを用い、更に、式(10)~式(15)の何れかを満たす第2中心周波数fc(2)と第3中心周波数fc(3)とを用いて、所定の送信周期毎に送信アンテナ106から送信信号を送信してもよい。なお、fc(1)>fc(2)>fc(3)、あるいは、fc(1)<fc(2)<fc(3)としてよい。この場合、レーダ受信部200aにおいて、3つの受信サブブロックを設け、それぞれの受信サブブロックのミキサ部204に対して、3個のレーダ送信信号生成部101からの出力が各々入力されてよい。また、レーダ受信部200aにおいて、受信サブブロック毎に、CFAR部211、ドップラ多重分離部212が設けられ、それぞれ、本実施の形態と同様の動作を行ってよい。これにより、3つのチャープ信号に対する多重分離受信信号が得られ、ドップラ判定部213は、それらの出力信号に基づいてドップラ判定を行うことで、ドップラ周波数の検出範囲を拡大できる。
【0487】
また、例えば、レーダ装置10aは、3個以上のレーダ送信信号生成部101を含む構成とし、それぞれの送信サブブロックに含まれる送信アンテナ数を同数あるいはほぼ同数としてよい。これにより、複数のチャープ信号を用いてドップラ多重する際のドップラ多重間隔を更に拡大する効果が得られる。従って、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔が拡大できるので、ドップラ多重信号間の干渉の発生を低減し、干渉による方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。また、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、実施の形態1と比較して、より多くの送信アンテナ106をドップラ多重送信に用いても、ドップラ多重信号間の干渉の発生を低減し、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。
【0488】
また、本実施の形態では、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に関する変調パラメータにおいて、中心周波数と異なる他のパラメータが共通である場合について説明したが、これに限定されない。本開示の一実施例の適用には、例えば、距離分解能が一致すればよく、周波数掃引帯域幅Bw(q)が同一の関係となるチャープ信号であればよい。
【0489】
例えば、
図15に示すように、B
w(1)=B
w(2)、T
sw(1)≠T
sw(2)、D
m(1)≠D
m(2)となる変調パラメータによって設定される第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いてもよい。この場合、第1チャープ信号及び第2チャープ信号の周波数掃引時間T
SWが異なるが、周波数掃引帯域幅B
wが同一であり、距離分解能ΔR(=C
0/2B
w)は一致するので、レーダ装置10aは、上述した本開示の一実施例に係る動作を行うことで同様な効果が得られる。
【0490】
また、例えば、
図15に示すように、T
sw(1)≠T
sw(2)の設定により、各受信無線部203から出力されるビート信号をそれぞれの信号処理部206のA/D変換部207において離散的にサンプルリングする際に、所定時間範囲(レンジゲート)T
sw(1)≠T
sw(2)で得られる離散サンプリングデータ数は異なる。よって、ビート周波数解析部208は、例えば、送信周期T
r毎に所定時間範囲(レンジゲート)T
swで得られるN
data個の離散サンプリングデータを、FFT処理する代わりに、以下の動作を行ってもよい。
【0491】
例えば、第1受信サブブロックにおけるビート周波数解析部208は、第1チャープ信号が送信される周期において、所定時間範囲(レンジゲート)Tsw(1)で得られるNdata(1)個の離散サンプリングデータをFFT処理してもよい。また、第2受信サブブロックにおけるビート周波数解析部208は、第2チャープ信号が送信される周期において、所定時間範囲(レンジゲート)Tsw(2)で得られるNdata(2)個の離散サンプリングデータをFFT処理してもよい。そして、ビート周波数解析部208は、例えば、Ndata(1)個とNdata(2)個のうち、小さい方をNdata個として、後続の処理(CFAR部211、ドップラ多重分離部212、ドップラ判定部213、及び方向推定部214の処理)を行ってよい。
【0492】
また、本実施の形態のレーダ装置10aは、複数個のレーダ送信信号生成部101を含み、例えば、式(10)~式(15)の何れかを満たす第1中心周波数と第2中心周波数とを用いて、所定の送信周期毎に送信アンテナ106から送信信号を送信する。これにより、レーダ装置10aは、中心周波数の違いに応じたドップラ解析におけるドップラ周波数のずれに基づいて、折り返し回数を判定できる。よって、レーダ装置10aは、例えば、判定可能な折り返し回数に応じて、ドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大できる。また、実施の形態1と比較して、ドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を2倍に拡大できる。
【0493】
また、本実施の形態では、ドップラ解析部210におけるドップラ検出範囲は、実施の形態1と比較して、2倍の範囲となる。また、本実施の形態では、ドップラ多重に用いる送信アンテナ数N1あるいはN2は、実施の形態1においてドップラ多重に用いる送信アンテナ数Ntと比較して少ない。このことから、本実施の形態では、ドップラ多重間隔を、少なくとも、実施の形態1と比較して2倍に拡大できる。例えば、ドップラ多重間隔が近接すると、ドップラ成分が拡がりを持つような物標の場合に、ドップラ多重信号間の干渉が発生しやすくなる。これに対して、本実施の形態では、より多くの送信アンテナ106を用いて多重送信することが可能となる。
【0494】
(実施の形態3の変形例1)
なお、本実施の形態において、第1及び第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1、及び、ドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、第1及び第2チャープ信号に対するそれぞれのドップラシフト量DOPnsub1、DOPnsub2間の間隔(ドップラシフト間隔)を、等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なる不等間隔に設定される場合の動作について説明した。
【0495】
しかし、これに限定されず、第1あるいは第2送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が設定するドップラ間隔の少なくとも一方が等間隔ではなく、異なる不等間隔に設定され、他方が等間隔に設定されてもよい。
【0496】
一例として、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1は、入力された第m番目の第1チャープ信号に対して、各ドップラシフト部間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub1となる、式(62)のような位相回転φ
nsub1(m)を付与し、ドップラ多重数N1で不等間隔ドップラ多重する場合について説明する。この場合、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、入力された第m番目の第2チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub2となる、次式(70)のような位相回転φ
nsub2(m)を付与し、ドップラ多重数N2で等間隔ドップラ多重してもよい。
【数56】
【0497】
または、他の例として、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1は、入力された第m番目の第1チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub1となる、次式(71)のような位相回転φ
nsub1(m)を付与し、ドップラ多重数N1で等間隔ドップラ多重する場合について説明する。この場合、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、入力された第m番目の第2チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub2となる、式(63)のような位相回転φ
nsub2(m)を付与し、ドップラ多重数N2で不等間隔ドップラ多重してもよい。
【数57】
【0498】
ここで、式(70)及び式(71)において、Aは1又は-1の正負の極性を与える係数である。なお、round(NC/N1)及びround(NC/N2)の項は、位相回転量を、ドップラ解析部210におけるドップラ周波数間隔の整数倍とする目的で導入しているが、これに限定されず、式(71)における(2π/NC)×round(NC/N1)の項の代わりに、2π/N1を用いてもよい。同様に、式(70)における(2π/NC)×round(NC/N2)の項の代わりに、2π/N2を用いてもよい。また、φ01、φ02はそれぞれ初期位相であり、それぞれが等しくてもよく、異なってもよい。φ01、φ02それぞれが等しくても、異なっても、ドップラ周波数は一致する。また、Δφ01、Δφ02は基準ドップラシフト位相であり、それぞれが等しくても、異なっていてもよい。Δφ01、Δφ02それぞれが等しくても、異なっても、ドップラ周波数は一致する。
【0499】
送信アンテナ数Nt=4の場合の一例として、式(62)において、N1=2、Δφ
01=0、φ
01=0、A=1、δ1=1、N
Cを6の倍数として、位相回転φ
nsub1(m)=2π(nsub1-1)×(m-1)/3が、送信周期T
r毎に第1チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量はDOP
1=φ
1(m)/{2π(m-1)T
r}=0、DOP
2=φ
2(m)/{2π(m-1)T
r}=1/(3T
r)となる。
図16の(a)の上段は、第1チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0500】
また、送信アンテナ数Nt=4の場合の一例として、式(70)において、Nt=4、N2=2、Δφ
02=0、φ
02=0、A=1、N
Cを6の倍数として、位相回転φ
nsub2(m)=2π(nsub2-1)×(m-1)/2が、送信周期T
r毎に第2チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量は、DOP
1=0、DOP
2=1/T
rとなる。
図16の(a)の下段は、第2チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0501】
また、送信アンテナ数Nt=5の場合の一例として、式(71)において、N1=3、Δφ
01=0、φ
01=0、A=1、N
Cを3の倍数とすると、位相回転φ
nsub1(m)=2π(nsub1-1)×(m-1)/3が送信周期T
r毎に第1チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量はDOP
1=φ
1(m)/{2π(m-1)T
r}=0、DOP
2=φ
2(m)/{2π(m-1)T
r}=1/(3T
r)、DOP
3=φ
3(m)/{2π(m-1)T
r}=2/(3T
r) =-1/(3T
r)となる。
図16の(b)の上段は、第1チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0502】
また、送信アンテナ数Nt=5の場合の一例として、式(63)において、Nt=5、N2=2、Δφ
02=0、φ
02=0、A=1、δ2=1、N
Cを3の倍数とすると、位相回転φ
nsub2(m)=π×(m-1)/2が、送信周期T
r毎に第2チャープ信号に付与されるため、ドップラシフト量は、DOP
1=0、DOP
2=1/(3T
r)となる。
図16の(b)の下段は、第2チャープ信号を送信する際のドップラ多重信号の配置例を示す。
【0503】
このように、第1あるいは第2送信サブブロックにおけるドップラシフト部105において設定されるドップラ多重信号間のドップラ間隔を等間隔とする場合、レーダ受信部200aにおけるドップラ多重分離部212において、±1/Trのドップラ周波数範囲では、ドップラ周波数の推定が困難になるため、ドップラ多重信号の分離インデックス情報の出力が困難になる。レーダ受信部200aは、例えば、第1あるいは第2送信サブブロックにおけるドップラシフト部105において設定されるドップラ多重信号間のドップラ間隔が不等間隔となる送信サブブロックの信号に対応する受信信号に対するドップラ多重分離部212の出力を用いて、分離処理を行う。
【0504】
図17は、レーダ装置10aにおいて、第1送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が不等間ドップラ多重を行い、第2送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が等間隔ドップラ多重を行う場合のレーダ受信部200aの構成例を示す。
【0505】
第1受信サブブロックは、第1送信サブブロックの反射波の受信処理を行う。
図17に示すレーダ受信部200aでは、例えば、第1ドップラ多重分離部212からの出力が第2ドップラ多重分離部212に入力される点が、
図11に示すレーダ受信部200aの構成と異なる。以下、
図17に示すレーダ受信部200aおいて、
図11に示すレーダ受信部200aと異なる、ドップラ多重分離部212の動作例について説明する。
【0506】
第1ドップラ多重分離部212におけるドップラ多重信号の分離動作は、上述した動作(
図11における動作)と同様であるが、第1ドップラ多重分離部212は、距離インデックスf
b_cfar(1)情報、及び、距離インデックスf
b_cfar(1)における第1送信サブブロックにおいて多重送信されたN1個のドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~, f
demul_Tx#N1)を、第2ドップラ多重分離部212に出力する。
【0507】
第2ドップラ多重分離部212は、例えば、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2 ,~,fdemul_Tx#Nt)に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Tr)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出する。例えば、第2ドップラ多重分離部212は、レーダ送信部100aにおいて送信アンテナ106毎に付与される既知の所定のドップラシフト量の成分を取り除いたドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出してよい。
【0508】
そして、第2ドップラ多重分離部212は、算出したドップラ周波数推定値fd_VFT(1)に基づいて、第2CFAR部211から入力される閾値よりも大きい受信電力となるピーク(距離インデックスfb_cfar(2)及びドップラ周波数インデックスfs_cfar(2))を用いて、ドップラ多重信号の分離を行う。例えば、第2ドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(1)=fb_cfar(2)となる複数のドップラ周波数インデックスfs_cfar(2) ∈{fd#N1+1,fd#N1+2…,fd#Nt}に対して、ドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を用いて、送信アンテナTx#N1+1~Tx#Ntから送信される送信信号の何れに対応する反射波信号であるかを判定する。
【0509】
例えば、第2送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が送信アンテナTx#N1+1~Tx#Ntから出力される第2チャープ信号にそれぞれ付与するドップラシフト量は既知である。このため、第2ドップラ多重分離部212は、物標のドップラ周波数がドップラ周波数推定値fd_VFT(1)である場合を仮定した送信アンテナTx#N1+1~Tx#Ntに対する受信ドップラ周波数を算出可能である。
【0510】
この場合の送信アンテナTx#N1+1~Tx#Ntに対する受信ドップラ周波数のそれぞれを{fdRef#N1+1,fdRef#N1+2,~,fdRef#Nt}と表す。
【0511】
第2ドップラ多重分離部212は、このような各送信アンテナ106に対する信号を生成できる。第2ドップラ多重分離部212は、例えば、これらのドップラ周波数に対して、第2CFAR部211からの各ドップラ周波数インデックスfs_cfar(2)の差分が最も少なく、かつ、±ΔDOPmin2/2より小さいドップラ周波数を、送信アンテナTx#N1+1~Tx#Ntに対する受信ドップラ周波数であると判定する。
【0512】
そして、第2ドップラ多重分離部212は、判定した送信アンテナTx#N+1~Tx#Nt毎の反射波信号を分離して出力する。例えば、第2ドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(2)情報、距離インデックスfb_cfar(2)における第1送信サブブロックにおいて多重送信されたN2個のドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2,~, fdemul_Tx#Nt)、及び、ドップラ解析部210の出力をドップラ判定部213に出力する。
【0513】
なお、このような第2ドップラ多重分離部212の動作が可能となる前提として、第1チャープ信号の中心周波数と第2チャープ信号の中心周波数との差分に起因する物標のドップラ周波数の差分が±ΔDOPmin2/2内である条件において、物標の相対速度はこの範囲内であることを想定する。
【0514】
また、レーダ装置10aにおいて、第2送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が不等間隔ドップラ多重を行い、第1送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が等間隔ドップラ多重を行う場合でもよい。この場合、
図17の例と同様に、レーダ受信部200aにおいて、第2ドップラ多重分離部212からの出力が第1ドップラ多重分離部212に入力されることにより、第1ドップラ多重分離部212におけるドップラ多重分離が可能である。
【0515】
このように、第1あるいは第2送信サブブロックの少なくとも一つにおけるドップラシフト部105が不等間ドップラ多重を行う設定とし、残りの送信サブブロックにおけるドップラシフト部105が等間隔ドップラ多重を行う設定としてもよい。これにより、レーダ装置10aは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いてドップラ多重する際のドップラ多重間隔をより拡大する効果が得られる。ドップラ多重する際のドップラ多重間隔の拡大により、ドップラ多重信号間の干渉の発生を低減し、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。なお、以降の実施の形態におけるドップラシフト部105においても、不等間隔ドップラ多重及び等間隔ドップラ多重の設定を同様に適用可能であり、同様の効果が得られる。
【0516】
(実施の形態3の変形例2)
また、
図11に示すレーダ装置10aの構成は、例えば、
図18に示すように、複数の送受信チップを組み合わせて実現されてもよい。
図18の例では、レーダ装置10aは、送受信チップ#1及び送受信チップ#2から構成される。
【0517】
送受信チップ#qは、レーダ送信信号生成部101-q、第q送信サブブロック、第q受信サブブロック、第qCFAR部211(又は、CFAR部211-q)、及び、第qドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-q)を含む。ここで、q=1あるいは2である。
【0518】
なお、ドップラ判定部213及び方向推定部214の少なくとも一つは、別の信号処理チップ又はECUなどに実装されてもよく、送受信チップの何れかに組み込まれた構成でもよい。
【0519】
図18において、
図11と異なる点は、同期信号生成部215を備え、同期信号生成部215から出力される同期信号(例えば、基準となる信号)が、各送受信チップのレーダ送信部100aのレーダ送信信号生成部101に出力される点である。これにより、送受信チップ#1の送信サブブロックから出力される第1チャープ信号と、送受信チップ#2の送信サブブロックから出力される第2チャープ信号との間の周波数差が許容され得る所定の誤差内となるように、チャープ信号の出力が可能となる。
図18のような構成でも、実施の形態3と同様の効果が得られ、また、汎用的な送受信チップを組み合わせることで、低コスト化が可能となる。
【0520】
(実施の形態4)
本実施の形態3では、送信アンテナ数Nt及び受信アンテナ数NaのMIMOアンテナ構成とし、方向推定部214において、N1×N3個のMIMO仮想受信アンテナ、及び、N2×N4個のMIMO仮想受信アンテナを用いて方向推定処理を行う動作について説明した。ここで、N1+N2=Ntであり、N3+N4=Naである。この場合、方向推定部214において使用可能なアンテナ数は、Nt×Naよりも少なくなる。
【0521】
本実施の形態では、実施の形態3と同様に異なる周波数のレーダ送信信号を送信周期毎に同時に送信する場合に、実施の形態1と同様に方向推定部214において使用可能なMIMO仮想受信アンテナ数を、Nt×Na個とする方法について説明する。
【0522】
例えば、
図19は、レーダ装置10bのレーダ送信部100bに、2個のレーダ送信信号生成部101を含む構成例を示す。
図19に示すように、レーダ装置10bは、実施の形態3における
図11に示すレーダ装置10aの構成と同様に、複数個のレーダ送信信号生成部101において生成される異なる中心周波数のレーダ送信信号(例えば、チャープ信号)を、送信周期T
r毎に複数の送信アンテナ106から同時に送信する。
【0523】
その一方で、
図19に示すレーダ受信部200bにおいて、複数個のレーダ送信信号生成部101の出力先を、2つの受信サブブロックの何れかのミキサ部204に切り替える切替部216を設ける点が
図11と異なる。また、
図19に示すレーダ受信部200bは、切替部216の切り替え動作に連動して、ビート周波数解析部208の出力先を、2つのドップラ解析部210の何れかに切り替えて出力する出力切替部217を有する。
【0524】
以下、本実施の形態における動作について、主に、実施の形態3と異なる動作例について説明する。
【0525】
図19は、一例として、レーダ装置10bのレーダ送信部100bに、2個のレーダ送信信号生成部101を含む構成を示す。以下では、2個のレーダ送信信号生成部101のそれぞれを「第1レーダ送信信号生成部101(又は、レーダ送信信号生成部101-1)」、及び、「第2レーダ送信信号生成部101(又は、レーダ送信信号生成部101-2)」と呼ぶ。
【0526】
図19において、各々のレーダ送信信号生成部101の構成は、実施の形態1と同様でよい。各レーダ送信信号生成部101のそれぞれは、例えば、信号生成制御部104からの制御に基づいてレーダ送信信号を生成する。
【0527】
信号生成制御部104は、第1及び第2レーダ送信信号生成部101(例えば、変調信号発生部102及びVCO103)に対して、レーダ送信信号の生成を制御する。例えば、信号生成制御部104は、第1及び第2レーダ送信信号生成部101のそれぞれから、中心周波数の異なるチャープ信号を送信するように、チャープ信号に関するパラメータ(例えば、変調パラメータ)を設定してよい。以下、第1レーダ送信信号生成部101において生成されるチャープ信号を「第1チャープ信号」と呼び、第2レーダ送信信号生成部101において生成されるチャープ信号を「第2チャープ信号」と呼ぶ。
【0528】
信号生成制御部104は、実施の形態1と同様に、例えば、所定の条件を満たす中心周波数fc(q)を設定(又は、選定)してよい。また、以下では、一例として、第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに設定される変調パラメータのうち、中心周波数fc(q)が互いに異なり、中心周波数以外の他の変調パラメータは同じ(又は、共通)である場合について説明する。しかし、これに限定されず、本開示の一実施例の適用には、例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号において距離軸の分解能が一致すればよいので、周波数掃引帯域幅Bw(q)が同一の関係となるチャープ信号が設定されればよい。ここで、q=1,2である。
【0529】
また、信号生成制御部104は、例えば、実施の形態3と同様に、例えば、
図12に示すように、中心周波数f
c(q)の異なる2つのチャープ信号のそれぞれを2Nc回ずつ、同時に送信(又は、出力)するように、変調信号発生部102及びVCO103を制御してよい。
【0530】
なお、本開示の一実施例において、送信周期Trは、例えば、数百μs程度以下に設定されてよく、レーダ送信信号の送信時間間隔は比較的短く設定されてよい。これにより、例えば、第1チャープ信号と第2チャープ信号との間で中心周波数が異なる場合でも、受信反射波のビート信号の周波数(例えば、ビート周波数インデックス)は変化しないので、レーダ装置10bは、ドップラ周波数の変化として検出可能である。
【0531】
第1レーダ送信信号生成部101(例えば、VCO103)から出力される第1チャープ信号は、Nt個のドップラシフト部105のうち、例えば、N1個のドップラシフト部105(例えば、ドップラシフト部105-1~105-N1と表す)にそれぞれ入力される。また、第1レーダ送信信号生成部101から出力される第1チャープ信号は、第1切替部216(又は、切替部216-1と呼ぶ)、及び、第2切替部216(又は、切替部216-2と呼ぶ)にそれぞれ入力される。
【0532】
一方、第2レーダ送信信号生成部101(例えば、VCO103)から出力される第2チャープ信号は、Nt個のドップラシフト部105のうち、例えば、N2個のドップラシフト部105(例えば、ドップラシフト部105-N1+1~105-Nt)にそれぞれ入力される。また、第2レーダ送信信号生成部101から出力される第2チャープ信号は、第1及び第2切替部216にそれぞれ入力される。
【0533】
ここで、N1+N2=Ntとする。
【0534】
そして、第1チャープ信号が入力されるN1個のドップラシフト部105の出力信号は、所定の送信電力に増幅され各送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)から空間に放射される。また、第2チャープ信号が入力されるN2個のドップラシフト部105の出力信号は、所定の送信電力に増幅され各送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)から空間に放射される。これにより、第1チャープ信号及び第2チャープ信号は、送信周期Tr毎に同時に送信される。
【0535】
第1及び第2切替部216は、例えば、第1レーダ送信信号生成部101から入力される第1チャープ信号及び第2レーダ送信信号生成部101から入力される第2チャープ信号を、レーダ送信信号の送信周期毎に切り替えて、レーダ受信部200bのNa個のアンテナ系統処理部201のミキサ部204の何れかに出力する。
【0536】
例えば、奇数番目の送信周期において、第1及び第2切替部216により、第1チャープ信号は、レーダ受信部200bのNa個のアンテナ系統処理部201のうち、N3個のアンテナ系統処理部201(例えば、アンテナ系統処理部201-1~201-N3)のミキサ部204にそれぞれ入力されてよい。また、例えば、奇数番目の送信周期において、第1及び第2切替部216により、第2チャープ信号は、レーダ受信部200bのNa個のアンテナ系統処理部201のうち、N4個のアンテナ系統処理部201(例えば、アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Na)のミキサ部204にそれぞれ入力されてよい。
【0537】
ここで、N3+N4=Naとする。
【0538】
また、例えば、偶数番目の送信周期において、第1及び第2切替部216により、第1チャープ信号は、レーダ受信部200bのNa個のアンテナ系統処理部201のうち、N4個のアンテナ系統処理部201(例えば、アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Na)のミキサ部204にそれぞれ入力されてよい。また、例えば、偶数番目の送信周期において、第2チャープ信号は、レーダ受信部200bのNa個のアンテナ系統処理部201のうち、N3個のアンテナ系統処理部201(例えば、アンテナ系統処理部201-1~201-N3)のミキサ部204にそれぞれ入力されてよい。
【0539】
なお、奇数番目及び偶数番目の送信周期における第1及び第2チャープ信号の出力先(第1及び第2切替部216の切替先)は逆でもよい。このように、送信周期毎に、第1チャープ信号及び第2チャープ信号の出力先(後述する受信サブブロック)が交互に切り替わってよい。
【0540】
以下では、第1チャープ信号が入力されるN1個のドップラシフト部105と、これらN1個のドップラシフト部105の出力信号を送信する各送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)を、「第1送信サブブロック」と呼ぶ。また、第2チャープ信号が入力されるN2個のドップラシフト部105と、これらN2個のドップラシフト部105の出力信号を送信する各送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)を、「第2送信サブブロック」と呼ぶ。ここで、N1+N2=Ntである。なお、N1,N2はそれぞれ2以上であり、Ntは4以上とする。
【0541】
例えば、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105は、第1チャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎にドップラシフト量DOPnsub1を付与するために、位相回転φnsub1を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)に出力する。ここで、nsub1=1~N1の整数である。また、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105は、第2チャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎にドップラシフト量DOPnsub2を付与するために、位相回転φnsub2を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)に出力する。ここで、nsub2=1~N2の整数である。
【0542】
なお、第1及び第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105におけるドップラシフト量DOPnsub1(又は、位相回転φnsub1)、及び、ドップラシフト量DOPnsub2(又は、位相回転φnsub2)を付与する方法の一例については、実施の形態3と異なる点があり、一例については後述する。
【0543】
また、Ntが偶数の場合、例えば、N1=N2に設定することで、第1及び第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106の数を同数としてもよい。また、Ntが奇数の場合、例えば、N1=(Nt+1)/2、あるいはN1=(Nt-1)/2に設定することで、第1及び第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106の数を、1送信アンテナ差とし、ほぼ同数としてもよい。このように、第1サブブロックに含まれる送信アンテナ106(例えば、第1チャープ信号を送信する送信アンテナ106)の数と、第2送信サブブロックそれぞれに含まれる送信アンテナ106(例えば、第2チャープ信号を送信する送信アンテナ106)の数とは、同数または1つ異なるように設定されてよい。第1及び第2サブブロックにそれぞれ含まれる送信アンテナ106を同数あるいはほぼ同数に設定することで、レーダ装置10bは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号を用いて、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を、実施の形態1と比較して、より拡大する効果(例えば、2倍程度に拡大する効果)が得られる。
【0544】
例えば、ドップラ多重送信する際のドップラ多重間隔が近接すると、ドップラ成分が拡がりを持つような物標の場合に、ドップラ多重信号間の干渉が発生しやすくなり、方向推定精度が劣化し、物標の検出精度が劣化しやすくなる。本実施の形態では、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、このようなドップラ多重信号間の干渉の発生を低減でき、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。
【0545】
また、本実施の形態では、ドップラ多重する際のドップラ多重間隔を拡大できるので、より多くの送信アンテナ106をドップラ多重送信に用いても、ドップラ多重信号間の干渉の発生を低減でき、方向推定精度の劣化及び物標の検出精度の劣化を抑制できる。したがって、本実施の形態では、実施の形態1と比較して、より多くの送信アンテナ106をドップラ多重送信に使用可能となる。このように、より多くの送信アンテナ106を用いてドップラ多重送信を行う場合、本実施の形態は、実施の形態1と比較して好適となる。
【0546】
[レーダ受信部200bの構成例]
図19において、レーダ受信部200bは、例えば、Na個の受信アンテナ202(例えば、Rx#1~Rx#Na)を備え、アレーアンテナを構成する。また、レーダ受信部200bは、例えば、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR部211と、ドップラ多重分離部212と、ドップラ判定部213と、方向推定部214と、を有する。
【0547】
各受信アンテナ202は、物標(ターゲット)に反射したレーダ送信信号(例えば、第1チャープ信号及び第2チャープ信号)である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0548】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0549】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF205と、を有する。受信無線部203において、ミキサ部204は、受信した反射波信号(受信信号)に対して、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。
【0550】
ここで、例えば、奇数番目の送信周期において、第1又は第2切替部216から出力される第1チャープ信号は、Na個のアンテナ系統処理部201のうち、N3個のアンテナ系統処理部201の受信無線部203内のミキサ部204にそれぞれ入力される。アンテナ系統処理部201-1~201-N3において、ミキサ部204の出力をLPF205に通過させることにより、第2チャープ信号の反射波に対応するミキサ部204の出力は、LPF205の通過帯域外となる高い周波数となるため、LPF205からは、第1チャープ信号の反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力されやすくなる。
【0551】
また、例えば、奇数番目の送信周期において、第1又は第2切替部216から出力される第2チャープ信号は、Na個のアンテナ系統処理部201のうち、N4個のアンテナ系統処理部201の受信無線部203内のミキサ部204にそれぞれ入力される。アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Naにおいて、ミキサ部204の出力をLPF205に通過させることにより、第1チャープ信号の反射波に対応するミキサ部204の出力は、LPF205の通過帯域外となる高い周波数となるため、LPF205からは、第2チャープ信号の反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力されやすくなる。
【0552】
その一方で、例えば、偶数番目の送信周期において、第1又は第2切替部216から出力される第2チャープ信号は、Na個のアンテナ系統処理部201のうち、N3個のアンテナ系統処理部201の受信無線部203内のミキサ部204にそれぞれ入力される。アンテナ系統処理部201-1~201-N3において、ミキサ部204の出力をLPF205に通過させることにより、第1チャープ信号の反射波に対応するミキサ部204の出力はLPF205の通過帯域外となる高い周波数となるため、LPF205からは、第2チャープ信号の反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力されやすくなる。
【0553】
また、例えば、偶数番目の送信周期において、第1又は第2切替部216から出力される第1チャープ信号は、Na個のアンテナ系統処理部201のうち、N4個のアンテナ系統処理部201の受信無線部203内のミキサ部204にそれぞれ入力される。アンテナ系統処理部201-N3+1~201-Naにおいて、ミキサ部204の出力をLPF205に通過させることにより、第2チャープ信号の反射波に対応するミキサ部204の出力はLPF205の通過帯域外となる高い周波数となるため、LPF205からは、第1チャープ信号の反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力されやすくなる。
【0554】
したがって、アンテナ系統処理部201―1~201-N3は、例えば、奇数番目の送信周期において受信アンテナ202-1~202-N3で受信された第1チャープ信号の反射波信号を処理し、偶数番目の送信周期において受信アンテナ202-1~202-N3で受信された第2チャープ信号の反射波信号を処理する。以降、奇数番目の送信周期において第1チャープ信号の反射波を処理し、偶数番目の送信周期において第2チャープ信号の反射波を処理するアンテナ系統処理部201(例えば、受信無線部203及び信号処理部206)、及び、これらのアンテナ系統処理部201に接続される受信アンテナ202を「第1受信サブブロック」と呼ぶ。
【0555】
また、アンテナ系統処理部201―N3+1~201-Naは、例えば、奇数番目の送信周期において受信アンテナ202-N3+1~202-Naで受信されたでは第2チャープ信号の反射波信号を処理し、偶数番目の送信周期において受信アンテナ202-N3+1~202-Naで受信された第1チャープ信号の反射波信号を処理する。以降、奇数番目の送信周期において第2チャープ信号の反射波を処理し、偶数番目の送信周期において第1チャープ信号の反射波を処理するアンテナ系統処理部201(例えば、受信無線部203及び信号処理部206)、及び、これらのアンテナ系統処理部201に接続される受信アンテナ202を、「第2受信サブブロック」と呼ぶ。
【0556】
ここで、N3+N4=Naである。なお、N3,N4はそれぞれ1以上でよく、Naは2以上でよい。
【0557】
例えば、第1受信サブブロック(例えば、第1受信回路に対応)は、奇数番目の送信周期において、受信アンテナ202で受信した信号に対して第1チャープ信号を用いてミキシングすることにより、第1チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号を出力し、偶数番目の送信周期において、受信アンテナ202で受信した信号に対して第2チャープ信号を用いてミキシングすることにより、第2チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号を出力する。また、第2受信サブブロック(例えば、第2受信回路に対応)は、奇数番目の送信周期において、受信アンテナ202で受信した信号に対して第2チャープ信号を用いてミキシングすることにより、第2チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号を出力し、偶数番目の送信周期において、受信アンテナ202で受信した信号に対して第1チャープ信号を用いてミキシングすることにより、第1チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号を出力する。
【0558】
なお、奇数番目及び偶数番目の送信周期における各受信サブブロックでの処理対象のチャープ信号(例えば、第1及び第2切替部216の切替先)は逆でもよい。このように、各受信サブブロックにおける処理対象のチャープ信号は、送信周期毎に交互に切り替わってよい。
【0559】
第q受信サブブロックに含まれる各アンテナ系統処理部201-zqの信号処理部206は、A/D変換部207と、ビート周波数解析部208と、出力切替部217と、ドップラ解析部210と、を有する。ここで、q=1の場合、z1=1~N3の何れかであり、q=2の場合、z2=N3+1~Naの何れかである。
【0560】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、A/D変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0561】
第1受信サブブロックに含まれるビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、所定の時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。ここで、レンジゲートは、周波数掃引時間Tsw(q)を設定する。例えば、q=1,2であり、q=1の場合にはTsw(1)は第1チャープ信号の周波数掃引時間を表し、q=2の場合にはTsw(2)は第2チャープ信号の周波数掃引時間を表す。第1受信サブブロックに含まれるビート周波数解析部208では、例えば、奇数番目の送信周期においてq=1に設定され、偶数番目の送信周期においてq=2に設定されてよい。これにより、第1受信サブブロックの信号処理部206では、例えば、奇数番目の送信周期では第1チャープ信号、偶数番目の送信周期では第2チャープ信号に対する、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。
【0562】
また、第2受信サブブロックに含まれるビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、所定の時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。ここで、レンジゲートは、周波数掃引時間Tsw(q)を設定する。例えば、q=1,2であり、q=1の場合にはTsw(1)は第1チャープ信号の周波数掃引時間を表し、q=2の場合にはTsw(2)は第2チャープ信号の周波数掃引時間を表す。第2受信サブブロックに含まれるビート周波数解析部208では、例えば、奇数番目の送信周期においてq=2に設定され、偶数番目の送信周期においてq=1に設定されてよい。これにより、第2受信サブブロックの信号処理部206では、例えば、奇数番目の送信周期では第2チャープ信号、偶数番目の送信周期では第1チャープ信号に対する、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。
【0563】
ここで、第m番目のチャープパルス送信によって得られる、第q受信サブブロックの第zq番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答を「RFTzq(fb, m)」で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,~,Ndata/2-1であり、z1=1~N3、z2=N3+1~Na、m=1~2NCであり、q=1あるいは2である。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(例えば、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0564】
例えば、mが奇数の場合、RFTz1(fb, m)は、第1チャープ信号に対する反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムを表し、RFTz2(fb, m)は、第2チャープ信号に対する反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムを表わす。その一方で、例えば、mが偶数の場合、RFTz1(fb, m)は、第2チャープ信号に対する反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムを表し、RFTz2(fb, m)は、第1チャープ信号に対する反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムを表わす。
【0565】
第1受信サブブロックの第z1番目の信号処理部206における出力切替部217は、ビート周波数解析部208から入力されるビート周波数応答RFTz1(fb, m)を、mが奇数の場合には第1ドップラ解析部210(又は、ドップラ解析部210-1)に出力し、mが偶数の場合には第2ドップラ解析部210(又は、ドップラ解析部210-2)に出力するように切り替え動作を行う。
【0566】
また、第2受信サブブロックの第z2番目の信号処理部206における出力切替部217は、ビート周波数解析部208から入力されるビート周波数応答RFTz2(fb, m)を、mが奇数の場合には第2ドップラ解析部210に出力し、mが偶数の場合には第1ドップラ解析部210に出力するように切り替え動作を行う。
【0567】
これにより、各受信サブブロックの第1ドップラ解析部210の何れかによって、奇数番目の送信周期において受信アンテナ202-1~202-N3で受信された、第1チャープ信号に対する反射波信号が処理され、偶数番目の送信周期において受信アンテナ202-N3+1~202-Naで受信された、第1チャープ信号に対する反射波信号が処理される。また、各受信サブブロックの第2ドップラ解析部210の何れかによって、奇数番目の送信周期において受信アンテナ202-N3+1~202-Naで受信された、第2チャープ信号に対する反射波信号が処理され、偶数番目の送信周期において受信アンテナ202-1~202-N3で受信された、第2チャープ信号に対する反射波信号が処理される。
【0568】
また、例えば、第1受信サブブロックは、例えば、奇数番目の送信周期において、受信アンテナ202-1~202-N3で受信した、第1チャープ信号に対する反射波信号を処理し、偶数番目の送信周期において、受信アンテナ202-1~202-N3で受信した、第2チャープ信号に対する反射波信号を処理する。また、例えば、第2受信サブブロックは、例えば、奇数番目の送信周期において、受信アンテナ202-N3+1~202-Naで受信した、第2チャープ信号に対する反射波信号を処理し、偶数番目の送信周期において、受信アンテナ202-N3+1~202-Naで受信した、第1チャープ信号に対する反射波信号を処理する。
【0569】
第1受信サブブロックの第z1番目の信号処理部206における第1ドップラ解析部210は、第1チャープ信号のNC回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答RFTz1(fb, 1)、RFTz1(fb, 3)、…を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。例えば、第1ドップラ解析部210は、第1チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定してよい。
【0570】
また、第1受信サブブロックの第z1番目の信号処理部206における第2ドップラ解析部210は、第2チャープ信号のNC回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答RFTz1(fb, 2)、RFTz1(fb, 4)、…を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。例えば、第2ドップラ解析部210は、第2チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定してよい。
【0571】
また、第2受信サブブロックの第z2番目の信号処理部206における第1ドップラ解析部210は、第1チャープ信号のNC回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答RFTz2(fb, 2)、RFTz2(fb, 4)、…を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。例えば、第1ドップラ解析部210は、第1チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定してよい。
【0572】
また、第2受信サブブロックの第z2番目の信号処理部206における第2ドップラ解析部210は、第2チャープ信号のNC回のチャープパルス送信によって得られるビート周波数応答RFTz2(fb, 1)、RFTz2(fb, 3)、…を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。例えば、第2ドップラ解析部210は、第2チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定してよい。
【0573】
例えば、Ncが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用できる。この場合、FFTサイズはNcであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(4Tr)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Nc×2Tr)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs= -Nc/2, ~, 0, ~, Nc/2-1である。
【0574】
以下では、一例として、Ncが2のべき乗値である場合について説明する。なお、Ncが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズとしてFFT処理が可能である。また、ドップラ解析部210は、FFT処理の際に、Han窓又はHamming窓などの窓関数係数を乗算してもよい。窓関数を適用することでビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0575】
例えば、第1受信サブブロックの第z
1番目の信号処理部206における、第1ドップラ解析部210の出力VFT
z1,1(f
b, f
s)、及び、第2ドップラ解析部210の出力VFT
z1,2(f
b, f
s)は、次式(72)及び式(73)に示す。なお、jは虚数単位であり、z
1=1~N3である。
【数58】
【数59】
【0576】
また、例えば、第2受信サブブロックの第z
2番目の信号処理部206における、第1ドップラ解析部210の出力VFT
z2,1(f
b, f
s)、及び、第2ドップラ解析部210の出力VFT
z2,2(f
b, f
s)は、次式(74)及び式(75)に示す。なお、jは虚数単位であり、z
2=N3+1~Naである。
【数60】
【数61】
【0577】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0578】
CFAR部211は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応する第1CFAR部211(又は、CFAR部211-1)及び第2CFAR部211(又は、CFAR部211-2)を備えてよい。同様に、ドップラ多重分離部212は、例えば、中心周波数の異なる第1チャープ信号及び第2チャープ信号のそれぞれに対応する第1ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-1)及び第2ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-2)を備えてよい。
【0579】
なお、
図19は、CFAR部211を並列的に設ける構成(CFAR部211-1及び211-2)を示すが、1つのCFAR部211を設け、その入力を遂次的に切り替えて処理する構成でもよい。また、
図19は、ドップラ多重分離部212を並列的に設ける構成(ドップラ多重分離部212-1及び212-2)を示すが、1つのドップラ多重分離部212を設け、その入力を遂次的に切り替えて処理する構成でもよい。
【0580】
図19において、CFAR部211は、第1及び第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206のドップラ解析部210からの出力を用いてCFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、局所的なピーク信号を与える距離インデックスf
b_cfar及びドップラ周波数インデックスf
s_cfarを抽出する。
【0581】
図19において、CFAR部211は、第1及び第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第1ドップラ解析部210の出力を用いてCFAR処理を行う第1CFAR部211(又は、CFAR部211-1と表す)、及び、第1及び第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第2ドップラ解析部210の出力を用いてCFAR処理を行う第2CFAR部211(又は、CFAR部211-2と表す)を備えてよい。
【0582】
第1CFAR部211は、例えば、第1チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定した結果である、第1及び第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第1ドップラ解析部210からの出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、局所的なピーク信号を与える距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarを抽出する。
【0583】
また、第2CFAR部211は、例えば、第2チャープ信号がターゲットに反射した反射波信号からドップラ周波数を推定した結果である、第1及び第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第2ドップラ解析部210からの出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、局所的なピーク信号を与える距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarを抽出する。
【0584】
第qCFAR部211(q=1,2)は、例えば、次式(76)のように、第1及び第2受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第qドップラ解析部210の出力を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う。2次元のCFAR処理又は1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理については、例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。ここで、z
1=1~N3、z
2=N3+1~Naである。
【数62】
【0585】
第qCFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q))を第qドップラ多重分離部212に出力する。
【0586】
ドップラ多重分離部212は、第1CFAR部211の出力、及び、各受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第1ドップラ解析部210の出力を用いて、ドップラ多重分離処理を行う第1ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-1と表す)と、第2CFAR部211の出力、及び、各受信サブブロックに含まれる信号処理部206の第2ドップラ解析部210-2の出力を用いて、ドップラ多重分離処理を行う第2ドップラ多重分離部212(又は、ドップラ多重分離部212-2と表す)を備えてよい。
【0587】
第qドップラ多重分離部212(q=1,2)は、第qCFAR部211から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q)))に基づいて、各受信サブブロックに含まれる第qドップラ解析部210からの出力を用いて、ドップラ多重送信された信号(以下、「ドップラ多重信号」と呼ぶ)から、各送信アンテナ106から送信される送信信号(例えば、当該送信信号に対する反射波信号)を分離する。
【0588】
第qドップラ多重分離部212は、例えば、分離した信号に関する情報を、ドップラ判定部213及び方向推定部214に出力する。分離した信号に関する情報には、例えば、分離した信号に対応する距離インデックスfb_cfar(q)、及び、ドップラ周波数インデックス(以下、分離インデックス情報と呼ぶこともある)が含まれてよい。ここで、第1ドップラ多重分離部212の分離インデックス情報は、第1送信サブブロックに含まれる送信アンテナTx#1,Tx#2,~,Tx#N1から送信された信号を分離したドップラ周波数インデックスであり、それぞれに対応して(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~, fdemul_Tx#N1)と表記する。同様に、第2ドップラ多重分離部212の分離インデックス情報は、第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナTx#N1+1,Tx#N1+2,~,Tx#Ntから送信された信号を分離したドップラ周波数インデックスであり、それぞれに対応して(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2, ~, fdemul_Tx#Nt)と表記する。
【0589】
また、第qドップラ多重分離部212は、第qドップラ解析部210からの出力を方向推定部214に出力する。なお、第qドップラ多重分離部212は、第qCFAR部211から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar(q), fs_cfar(q)))に基づいて、第q受信サブブロックに含まれるドップラ解析部210からの出力を方向推定部214に出力してもよい。
【0590】
以下、第qドップラ多重分離部212の動作例について、レーダ送信部100bにおけるドップラシフト部105の動作とともに説明する。
【0591】
[ドップラシフト量の設定方法]
ドップラシフト部105において付与されるドップラシフト量の設定方法の一例について説明する。
【0592】
本実施の形態では、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで、ミキサ部204に対する第1チャープ信号及び第2チャープ信号の入力切替が行われ、これらの受信信号に同じ送信位相変化が付与される。このため、ドップラシフト部105が奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで、同じ位相回転を付与する点が実施の形態3と異なる。例えば、ドップラシフト部105は、奇数番目の送信周期において、実施の形態3と同様のドップラシフト量に設定する位相回転をチャープ信号に付与し、偶数番目の送信周期において、直前の奇数番目の送信周期に付与した位相回転と同じ位相回転をチャープ信号に付与する。
【0593】
例えば、実施の形態3にて説明した式(62)及び式(63)に対して、本実施の形態では、以下の点が異なる。
【0594】
第1送信サブブロックのドップラシフト部105-1~105-N1は、入力された奇数番目の第m=2u-1番目の第1チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub1となる、次式(77)のような位相回転φ
nsub1(2u-1)を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)に出力する。ここで、nsub1=1~N1であり、u=1~Ncである。
【数63】
【0595】
また、第1送信サブブロックのドップラシフト部105-1~105-N1は、続いて入力された偶数番目の第m=2u番目の第1チャープ信号に対して、奇数番目と同様に、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub1となる、次式(78)のような位相回転φ
nsub1(2u)を付与する。
【数64】
【0596】
これにより、第1送信サブブロックに含まれる複数の送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)から送信される送信信号には、各送信周期において、それぞれ異なるドップラシフト量が付与される。また、第1送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106(例えば、Tx#1~Tx#N1)から送信される送信信号は、例えば、ドップラ多重数NDM=N1でドップラ多重送信されてよい。
【0597】
同様に、第2送信サブブロックのドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、入力された奇数番目の第m=2u-1番目の第2チャープ信号に対して、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub2となる、次式(79)のような位相回転φ
nsub2(m)を付与し、ドップラシフト後の信号を送信アンテナ106(例えば、Tx# N1+1~Tx#Nt)に出力する。ここで、nsub2=1~N2であり、u=1~Ncである。
【数65】
【0598】
また、第2送信サブブロックのドップラシフト部105-N1+1~105-Ntは、続いて入力された偶数番目の第m=2u番目の第2チャープ信号に対して、奇数番目と同様に、各ドップラシフト部105間で互いに異なるドップラシフト量DOP
nsub2となる、次式(80)のような位相回転φ
nsub2(2u)を付与する。
【数66】
【0599】
これにより、第2送信サブブロックに含まれる複数の送信アンテナ106(例えば、Tx#N1+1~Tx#Nt)から送信される送信信号には、各送信周期において、それぞれ異なるドップラシフト量が付与される。また、第2送信サブブロックに含まれる送信アンテナ106(例えば、Tx# N1+1~Tx#Nt)から送信される送信信号は、例えば、ドップラ多重数NDM=N2でドップラ多重送信されてよい。
【0600】
なお、式(62)及び式(63)に限定されず、実施の形態3にて説明したドップラシフト部105におけるドップラシフト量の設定を、本実施の形態において適用してもよい。
【0601】
例えば、レーダ装置10bは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対して、それぞれドップラ多重数N1及びN2で不等間隔ドップラ多重を行ってもよい。あるいは、レーダ装置10bは、第1チャープ信号及び第2チャープ信号に対して、それぞれドップラ多重数N1及びN2で、少なくとも一方において不等間隔ドップラ多重を行ってもよい。
【0602】
[ドップラ多重分離部212の動作例]
第1ドップラ多重分離部212は、第1送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-1~105-N1間(例えば、送信アンテナ106-1~106-N1間)においてドップラシフト量DOPnsub1の間隔(ドップラシフト間隔)が等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように設定されて送信された信号を、分離して受信する。
【0603】
第1ドップラ多重分離部212は、第1及び第2受信サブブロックにおける第1ドップラ解析部210及び第1CFAR部211の出力に基づいて、不等間隔でドップラ多重された信号を分離する。そして、第1ドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(1)、距離インデックスfb_cfar(1)における第1送信サブブロックにおいて多重送信されたN1個のドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~ , fdemul_Tx#N1)及び、ドップラ解析部210の出力をドップラ判定部213に出力する。
【0604】
なお、本実施の形態では、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで、ミキサ部204に対する第1チャープ信号及び第2チャープ信号の入力切替が行われ、これらの受信信号に同じ送信位相変化が付与される。このため、ドップラシフト部105は、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで同じ位相回転を付与する。これに対応して、第1ドップラ多重分離部212の動作は、実施の形態1のドップラシフト部105の動作の説明において、「Nt」を「N1」に置き換え、「Trs」を「2Tr」に置き換えた動作と同様の動作を用いることにより、送信アンテナ106-1~106-N1間でドップラ多重された信号を分離できる。従って、第1ドップラ多重分離部212の動作の詳細な説明は省略する。
【0605】
同様に、第2ドップラ多重分離部212は、第2送信サブブロックに含まれるドップラシフト部105-N1+1~105-Nt間(例えば、送信アンテナ106-N1+1~106-Nt間)においてドップラシフト量DOPnsub2の間隔(ドップラシフト間隔)が等間隔ではなく、少なくとも一つのドップラ間隔が異なるように設定されて送信された信号を、分離して受信する。
【0606】
第2ドップラ多重分離部212は、第1及び第2受信サブブロックにおける第2ドップラ解析部210及び第2CFAR部211の出力に基づいて、不等間隔でドップラ多重された信号を分離する。そして、第2ドップラ多重分離部212は、距離インデックスfb_cfar(2)、距離インデックスfb_cfar(2)における第2送信サブブロックにおいて多重送信されたN2個のドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2,~ , fdemul_Tx#Nt)、及び、ドップラ解析部210の出力をドップラ判定部213に出力する。
【0607】
なお、本実施の形態では、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期とで、ミキサ部204に対する第1チャープ信号及び第2チャープ信号の何れかの入力切替が行われ、これらの受信信号に同じ送信位相変化が付与される。このため、ドップラシフト部105は、奇数番目の送信周期と偶数番目の送信周期で同じ位相回転を付与する。これに対応して、第2ドップラ多重分離部212の動作は、実施の形態1のドップラシフト部105の動作の説明において、「Nt」を「N2」に置き換え、「Trs」を「2Tr」に置き換えた動作と同様の動作を用いることにより、送信アンテナ106-N1+1~106-Nt間でドップラ多重された信号を分離できる。従って、第2ドップラ多重分離部212の動作の詳細な説明は省略する。
【0608】
[ドップラ判定部213の動作例]
図19において、ドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212及び第2ドップラ多重分離部212それぞれの出力に基づいて、ドップラピークに対応するドップラ周波数を判定する。例えば、ドップラ判定部213は、物標のドップラ周波数f
d_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2T
r) ≦ f
d_TargetDoppler<1/(2T
r)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合でも、物標のドップラ周波数を判定することにより、ドップラ検出範囲を更に拡大できる。
【0609】
例えば、ドップラ判定部213は、距離インデックスfb_cfar(1)とfb_cfar(2)とが共通である、第1ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~,fdemul_Tx#N1)及び第2ドップラ多重分離部212から出力されるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx#N1+2,~,fdemul_Tx#Nt)を用いて、ドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定する。
【0610】
ドップラ判定部213におけるドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定する原理は、実施の形態1と同様、信号生成制御部104及びレーダ送信信号生成部101によって生成されるレーダ送信信号である第1チャープ信号と第2チャープ信号との間で中心周波数が互いに異なることを利用する。
【0611】
実施の形態1では、同じ送信アンテナ106に対するドップラ多重信号におけるドップラ周波数の変化に基づいてドップラ周波数の判定が行われる。これに対して、本実施の形態では、ドップラ判定部213は、異なる送信アンテナ106に対するドップラ多重信号でのドップラ周波数の変化に基づいてドップラ周波数の判定が行われる。異なる送信アンテナ106を用いる場合、受信位相は変化するが、受信するドップラ周波数は変化しない。このため、実施の形態1と同様に、ドップラ判定部213は、ドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数を含む物標のドップラ周波数を判定できる。
【0612】
ドップラ周波数の判定処理の動作原理、及び、ドップラ判定部213の動作例については、実施の形態1におけるドップラ周波数の判定処理の動作原理、及び、ドップラ判定部213の動作例での説明に対して、以下の(1)、(2)及び(3)の点が異なる。
(1)「Trs」を「2Tr」と置き換える点、
(2)実施の形態1におけるドップラ判定部213は、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(1), fdemul_Tx#2(1),~,fdemul_Tx#Nt(1))に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出する。これに対して、本実施の形態では、ドップラ判定部213が、第1ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~,fdemul_Tx#N1)に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(4Tr) ≦fd_TargetDoppler<1/(4Tr)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(1)を算出する点、及び、
(3)実施の形態1におけるドップラ判定部213は、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1(2), fdemul_Tx#2(2),~,fdemul_Tx#Nt(2))に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(2)を算出する。これに対して、本実施の形態では、ドップラ判定部213が、第2ドップラ多重分離部212から出力される距離インデックスfb_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#N1+1, fdemul_Tx# N1+2,~,fdemul_Tx#Nt)に基づいて、物標のドップラ周波数がドップラ周波数範囲-1/(4Tr) ≦fd_TargetDoppler<1/(4Tr)内にあると仮定した場合のドップラ周波数推定値fd_VFT(2)を算出する点。
【0613】
本実施の形態では、上記3点と異なるドップラ判定部213の動作については、実施の形態1と同様であるので、その動作の説明を省略する。
【0614】
また、実施の形態1におけるドップラ判定部213と同様に、「Trs」を「2Tr」に置き換えた式(10)~式(15)の何れかの判定可能条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)の設定により、ドップラ判定部213は、ドップラ周波数範囲-1/(2Tr) ≦ fd_TargetDoppler<1/(2Tr)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合(例えば、ドップラ折り返しが発生する場合)でも、物標のドップラ周波数を判定できる。なお、式(10)、式(13)はTrsを含む式であるが、式変形することにより、式(11)、式(12)、式(14)、式(15)のようなTrsを含まない式が得られる。このため、判定可能条件を満たす中心周波数fc(1)及びfc(2)は、実施の形態1と同様の条件となる。
【0615】
なお、実施の形態1の説明に用いた式(18)は、T
rsを2T
rと置き換えることで、次式(81)のように表される。
【数67】
【0616】
式(81)は、ドップラ折り返し回数nalの場合に、中心周波数fc(2)の第2チャープ信号を用いて観測されるドップラ周波数の折り返し成分nal×{fc(2)/fc(1)}/2Trと、第1ドップラ解析部210の折り返し回数nalの周波数間隔である2nal/Trとの差分が±1/(4Tr)を超えない条件を表す。例えば、nalが正の場合、式(19)を満たす最大のnalまでは、Δnalが±1/(4Tr)の範囲となり、ドップラ判定部213は曖昧さなく折り返しを推定できる。なお、式(19)を満たす最大のnalを「nalmax」と表記する。例えば、nalが負の場合、nal=-nalmaxとすると式(19)を同様に満たす。
【0617】
ここで、実施の形態1では、第1チャープ信号あるいは第2チャープ信号がTrs周期で送信され、ドップラ周波数の検出範囲は、例えば、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲に対して、nalmax倍に拡大される。その一方で、本実施の形態では、第1あるいは第2ドップラ解析部210には、出力切替部217を介して、第1チャープ信号あるいは第2チャープ信号に対応する信号が2Tr周期で入力され、周波数解析処理が行われる。このため、本実施の形態では、ドップラ周波数の検出範囲は、実施の形態1の場合と同様となり、例えば、1送信アンテナ時のドップラ周波数範囲に対して、nalmax倍に拡大される。
【0618】
以上、ドップラ判定部213の動作例について説明した。
【0619】
[方向推定部214の動作例]
図19において、方向推定部214は、第1ドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスf
b_cfar(1)、及び、距離インデックスf
b_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~,f
demul_Tx#N1))、第2ドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスf
b_cfar(2)、及び、距離インデックスf
b_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~,f
demul_Tx#Nt))、及び、ドップラ判定部213において判定したドップラ周波数情報f
dest=f
d_VFT(1)+n
alest/(2T
r)、あるいは、f
c(2)/f
c(1)(f
d_VFT(1)+n
alest/(2T
r))に基づいて、第1ドップラ解析部210の出力及び第2ドップラ解析部210の出力を抽出し、ターゲットの方向推定処理を行う。
【0620】
本実施の形態において、第1送信サブブロックに含まれるN1個の送信アンテナ106と、第1受信サブブロックに含まれるN3個の受信アンテナ202及び第2受信サブブロックに含まれるN4個の受信アンテナ202との間で、N1×(N3+N4)=N1×Na個のMIMO仮想受信アンテナが構成される。同様に、第2送信サブブロックに含まれるN2個の送信アンテナ106と、第1受信サブブロックに含まれるN3個の受信アンテナ202及び第2受信サブブロックに含まれるN4個の受信アンテナ202との間で、N2×(N3+N4)=N2×Na個のMIMO仮想受信アンテナが構成される。方向推定部214は、これらの2組の仮想受信アンテナ、例えば、Nt×Na個のMIMO仮想受信アンテナを用いて方向推定処理を行ってよい。
【0621】
例えば、方向推定部214は、第1ドップラ多重分離部212の出力から、距離インデックスf
b_cfar(1)及び、距離インデックスf
b_cfar(1)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~,f
demul_Tx#N1)に基づいて、第1ドップラ解析部210の出力を抽出し、次式(82)に示すようなN1×(N3+N4)個の要素からなる第1仮想受信アレー相関ベクトルh
1(f
b_cfar(1), f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~,f
demul_Tx#N1)を生成する。
【数68】
【0622】
また、方向推定部214は、例えば、第2ドップラ多重分離部212の出力から、距離インデックスf
b_cfar(2)、及び、距離インデックスf
b_cfar(2)におけるドップラ多重信号の分離インデックス情報(f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~,f
demul_Tx#Nt)に基づいて、第2ドップラ解析部210の出力を抽出し、次式(83)に示すようなN2×(N3+N4)個の要素からなる第2仮想受信アレー相関ベクトルh
2(f
b_cfar(2), f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~,f
demul_Tx#N1)を生成する。
【数69】
【0623】
なお、方向推定部214は、同じ距離インデックスの第1及び第2ドップラ多重分離部212の出力を用いて方向推定処理を行うため、式(82)及び式(83)において、fb_cfar(1)=fb_cfar(2)=fb_cfarとする。
【0624】
式(82)において、h
11(f
b_cfar, f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~,f
demul_Tx#N1)は、次式(84)のように、N1×N3個の要素からなる列ベクトルを表し、第1送信サブブロックに含まれるN1個の送信アンテナ106から送信された信号を第1受信サブブロックに含まれるN3個の受信アンテナ202で受信して得られる第1ドップラ解析部210の出力を要素として含むベクトルである。
【数70】
【0625】
また、式(82)において、h
21(f
b_cfar, f
demul_Tx#1, f
demul_Tx#2,~,f
demul_Tx#N1)は、次式(85)のように、N1×N4個の要素からなる列ベクトルを表し、第1送信サブブロックに含まれるN1個の送信アンテナ106から送信された信号を第2受信サブブロックに含まれるN4(=Na-N3)個の受信アンテナ202で受信して得られる第2ドップラ解析部210の出力を要素として含むベクトルである。
【数71】
【0626】
また、式(83)において、h
12(f
b_cfar, f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~,f
demul_Tx#Nt)は、次式(86)のように、N2×N3個の要素からなる列ベクトルを表し、第2送信サブブロックに含まれるN2(=Nt-N1)個の送信アンテナ106から送信された信号を第1受信サブブロックに含まれるN3個の受信アンテナ202で受信して得られる第2ドップラ解析部210の出力を要素として含むベクトルである。
【数72】
【0627】
また、式(83)において、h
22(f
b_cfar, f
demul_Tx#N1+1, f
demul_Tx#N1+2,~,f
demul_Tx#Nt)は、次式(87)のように、N2×N4個の要素からなる列ベクトルを表し、第1送信サブブロックに含まれるN2(=Nt-N1)個の送信アンテナ106から送信された信号を第2受信サブブロックに含まれるN4(=Na-N3)個の受信アンテナ202で受信して得られる第2ドップラ解析部210の出力を要素として含むベクトルである。
【数73】
【0628】
また、h11(fb_cfar, fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~,fdemul_Tx#N1)の受信タイミングに対し、h21(fb_cfar, fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~,fdemul_Tx#N1)の受信タイミングはTr遅れている。式(82)に含まれるexp[-j2πfdestTr]の項は、ドップラ判定部213において推定した物標のドップラ周波数fdestに基づいて、その遅れによる位相変動を補正する補正項である。
【0629】
また、h22(fb_cfar, fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~,fdemul_Tx#N1)の受信タイミングに対し、h12(fb_cfar, fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~ fdemul_Tx#N1)の受信タイミングはTr遅れている。式(83)に含まれるexp[-j2πfdestTr]の項は、ドップラ判定部213において推定した物標のドップラ周波数fdestに基づいて、その遅れによる位相変動を補正する補正項である。
【0630】
また、式(84)及び式(85)において、h1cal[b]は、送信アンテナTx#1~Tx#N1間及び受信アンテナRx#1~#Na間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。整数b=1~(Na×N1)である。
【0631】
また、式(86)及び式(87)において、h2cal[bb]は、送信アンテナTx#N1+1~Tx#Nt間及び受信アンテナRx#1~#Na間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。整数bb=1~(Na×N2)である。
【0632】
方向推定部214は、例えば、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar , fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~, fdemul_Tx#Nt)における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変として空間プロファイルを算出する。方向推定部214は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力する。ここで、fb_cfarは、fb_cfar(1)=fb_cfar(2)となる距離インデックスを表す。
【0633】
なお、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar, fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2,~, fdemul_Tx#Nt)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0634】
例えば、ビームフォーマ法は次式(88)のように表すことができる。ビームフォーマ法の他にも、Capon, MUSICといった手法も同様に適用可能である。なお、式(88)において、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。
【数74】
【0635】
式(88)において、a1(θu)は、第1送信サブブロックに含まれるN1個の送信アンテナ106と、第1及び第2受信サブブロックに含まれるNa個の受信アンテナ202との間で構成される、N1×Na個のMIMO仮想受信アンテナの方向ベクトル(要素数N1×Na個の列ベクトル)を表し、θu方向から反射波が到来した場合のN1×Na個のMIMO仮想受信アンテナを構成する各仮想受信アンテナでの位相応答または複素振幅応答を表す。
【0636】
また、式(88)において、a2(θu)は、第2送信サブブロックに含まれるN2個の送信アンテナ106と、第1及び第2受信サブブロックに含まれるNa個の受信アンテナ202との間で構成される、N2×Na個のMIMO仮想受信アンテナの方向ベクトル(要素数N2×Na個の列ベクトル)を表し、θu方向から反射波が到来した場合のN2×Na個のMIMO仮想受信アンテナを構成する各仮想受信アンテナでの位相応答または複素振幅応答を表す。
【0637】
なお、方向ベクトルaq(θu)は、中心周波数fc(q)の場合のレーダ送信信号(例えば、第qチャープ信号)の波長を用いた場合の各仮想受信アンテナでの位相応答または複素振幅応答を用いてよい。あるいは、中心周波数fc(1)とfc(2)との平均中心周波数における方位方向θの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルa(θu)を共通に用いてもよい。
【0638】
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内を所定の方位間隔β1で変化させたベクトルである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uβ1、整数u=0~ NU
NU=floor[(θmax-θmin)/β1]+1
ここでfloor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0639】
また、上述した例では、方向推定部214が到来方向推定値として方位方向を算出する例について説明したが、これに限定されず、仰角方向の到来方向推定、又は、矩形の格子状に配置されたMIMOアンテナを用いることにより、方位方向及び仰角方向の到来方向推定も可能である。例えば、方向推定部214は、到来方向推定値として方位方向及び仰角方向を算出して、測位出力としてもよい。
【0640】
以上の動作により、方向推定部214は、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~,fdemul_Tx#Nt)における到来方向推定値を出力してよい。また、方向推定部214は、更に、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、ドップラ多重信号の分離インデックス情報(fdemul_Tx#1, fdemul_Tx#2, ~,fdemul_Tx#Nt)を出力してよい。方向推定部214は、測位出力(又は、測位結果)を、例えば、図示しない、車載レーダでは車両の制御装置、インフラレーダではインフラ制御装置に、出力してもよい。
【0641】
また、方向推定部214は、例えば、ドップラ判定部213において判定したドップラ周波数情報fd_VFT(1)+nalest/Trs、及び、fc(2)/fc(1)(fd_VFT(1)+nalest/Trs)の何れか一方、又は、両方を出力してもよい。
【0642】
また、距離インデックスfb_cfarは、例えば、式(1)を用いて距離情報に変換して出力されてもよい。
【0643】
また、ドップラ判定部213において判定されたドップラ周波数情報は、相対速度情報に変換して出力されてもよい。ドップラ判定部213において判定された、中心周波数f
c(1)によるドップラ周波数情報f
d_VFT(1)+n
alest/2T
rを相対速度v
dに変換するには、次式(89)を用いて変換することができる。
【数75】
【0644】
同様に、ドップラ判定部213において判定された、中心周波数f
c(2)によるドップラ周波数情報f
c(2)/f
c(1)(f
d_VFT(1)+n
alest/T
r)を相対速度v
dに変換すると、次式(90)のように、式(89)と同じ値となるので、相対速度成情報は、異なる中心周波数に対して共通の値(又は、統一した値)として出力されてもよい。
【数76】
【0645】
以上のように、本実施の形態では、レーダ装置10bは、複数個のレーダ送信信号生成部101を含み、例えば、式(10)~式(15)の何れかを満たす第1中心周波数と第2中心周波数とを用いて、所定の送信周期毎に送信アンテナ106から送信信号を送信する。これにより、レーダ装置10bは、中心周波数の違いに応じたドップラ解析部210及びドップラ多重分離部212において検出されるドップラ周波数のずれに基づいて、ドップラ判定部213において折り返し回数を判定できる。よって、レーダ装置10bは、例えば、判定可能な折り返し回数に応じて、ドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大できる。
【0646】
以上より、本実施の形態によれば、曖昧性が生じないドップラ周波数範囲(又は相対速度の最大値)を拡大させることができる。これにより、レーダ装置10bは、より広いドップラ周波数範囲において、物標(例えば、到来方向)を精度良く検知することができる。
【0647】
また、本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数の設定によりドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲を拡大するので、例えば、A/D変換器のサンプリングレートの高速化といった方法を適用することを省略してもよい。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10bにおけるハードウェア構成の複雑化を抑制し、また、レーダ装置10bにおける消費電力又は発熱量の増加を抑制できる。また、本実施の形態では、チャープ信号の中心周波数の設定によりドップラ多重信号を分離可能なドップラ周波数範囲を拡大するので、送信周期Trの短縮といった方法を適用することを省略してもよい。よって、本実施の形態によれば、レーダ装置10bにおける検出可能な距離範囲の縮小、又は、距離分解能の劣化を抑制できる。
【0648】
また、本実施の形態では、実施の形態3と比較して、方向推定部214においてMIMO仮想受信アンテナ数をより多く使用可能となる。これにより、レーダ装置10bでは、SNRを向上でき、方向推定精度を向上できる。また、本実施の形態では、実施の形態3と比較して、MIMO仮想受信アンテナ数をより多く使用可能であるから、MIMO仮想受信アンテナの開口長を拡大でき、角度分解能の向上も可能となる。
【0649】
(実施の形態4の変形例1)
図19に示すレーダ装置10bの構成は、例えば、
図20に示すように、複数の送受信チップを組み合わせて実現されてもよい。
図20の例では、レーダ装置10bは、送受信チップ#1及び送受信チップ#2から構成される。
【0650】
送受信チップ#qは、レーダ送信信号生成部101-q、第q送信サブブロック、第q受信サブブロック、第qCFAR部211、第qドップラ多重分離部212、及び、第q切替部216を含む。ここで、q=1あるいは2である。
【0651】
なお、ドップラ判定部213及び方向推定部214の少なくとも一つは、別の信号処理チップ又はECUなどに実装されてもよく、送受信チップの何れかに組み込まれた構成でもよい。
【0652】
図20において、
図19と異なる点は、同期信号生成bう215を備え、同期信号生成部215から出力される同期信号(例えば、基準となる信号)が、各送受信チップのレーダ送信部100bのレーダ送信信号生成部101に出力される点である。これにより、送受信チップ#1の第1送信サブブロックから出力される第1チャープ信号と、送受信チップ#2の第2送信サブブロックから出力される第2チャープ信号との間の周波数差が許容され得る所定の誤差内となるように、チャープ信号の出力が可能となる。
図20のような構成でも、実施の形態4と同様の効果が得られ、また、汎用的な送受信チップを組み合わせることで、低コスト化が可能となる。
【0653】
以上、本開示に係る一実施例について説明した。
【0654】
[他の実施の形態]
(バリエーション1)
例えば、実施の形態1では、ドップラ多重間隔を不等間隔としたドップラ多重送信MIMOレーダに適用する例を示したが、これに限定されず、送信アンテナが1個である場合(Nt=1)であるレーダ(例えば、SIMO(Single Input Multiple Output)レーダ)にも適用が可能である。
【0655】
また、実施の形態1に係る動作は、例えば、受信アンテナが1個である場合(Na=1)であるレーダ(例えば、MISO(Multiple Input Single Output)レーダ)にも適用が可能である。
【0656】
また、実施の形態1に係る動作は、例えば、送信アンテナが1個であり(Nt-1)、受信アンテナが1個である場合(Na-1)のレーダ(例えば、SISO(Single Input Single Output)レーダ)にも適用が可能である。
【0657】
なお、受信アンテナが1個である場合(Na=1)は、例えば、実施の形態1においてNa=1に設定することに対応し、実施の形態1において説明した効果が同様に得られる。
【0658】
また、送信アンテナが1個である場合(Nt=1)は、例えば、実施の形態1においてNt=1に設定することに対応し、実施の形態1において説明した効果が同様に得られる。
【0659】
なお、送信アンテナが1個(Nt=1)の場合、ドップラ多重送信することを省略してもよい。そのため、ドップラシフト部105におけるドップラシフトすることを省略してもよい。また、ドップラ多重分離部212は、ドップラ多重分離を行わなくてよく、CFAR部211からの出力によって指示されるインデックスのドップラ解析部210から抽出されるピーク抽出の処理を行えばよい。したがって、送信アンテナが1個である場合(Nt=1)、例えば、
図21に示すレーダ装置の構成でもよい。
【0660】
図21は、レーダ装置10cの構成例を示すブロック図である。なお、
図21において、実施の形態1(例えば、
図2)と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。例えば、
図21に示すレーダ装置10cは、1つの送信アンテナ106c(例えば,Tx#1)を備えてよい。また、レーダ装置10cは、例えば、
図1に示すレーダ装置10におけるドップラシフト部105を備えることを省略してもよい。また、レーダ装置10cは、例えば、第qドップラ多重分離部212の代わりに、第qピーク抽出部218を備えてよい。
【0661】
以下、レーダ装置10cにおけるレーダ装置10と異なる動作について説明する。
【0662】
図21において、レーダ送信信号生成部101から出力されるレーダ送信信号は、ドップラシフト部105を経由せずに、送信アンテナTx#1から出力(放射)される。
【0663】
図21において、第qCFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスf
b_cfar(q)、ドップラ周波数インデックスf
s_cfar(q)情報及び受信電力情報PowerFT
q(f
b_cfar(q)、f
s_cfar(q))を、第qピーク抽出部218に出力する。ここで、q=1,2である。
【0664】
第qピーク抽出部218は、例えば、ドップラ周波数インデックスfs_cfar(q)に関する情報をドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(q))に設定する。また、第qピーク抽出部218は、例えば、距離インデックスfb_cfar(q)、及び、ドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(q))を、ドップラ判定部213cに出力する。また、第qピーク抽出部218は、例えば、距離インデックスfb_cfar(q)に加え、ドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(q))、及び、ドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(q))に対応する第qドップラ解析部210の出力を、方向推定部214cに出力する。ここで、q=1,2である。
【0665】
ドップラ判定部213cは、距離インデックスfb_cfar(1)とfb_cfar(2)とが共通である、第1ピーク抽出部218から出力されるドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(1))及び第2ピーク抽出部218から出力されるドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(2))を用いて、物標のドップラ周波数fd_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2Trs) ≦fd_TargetDoppler<1/(2Trs)を超えるドップラ周波数の物標が含まれる場合を想定したドップラ周波数を判定する。なお、ドップラ判定部213cの動作は、実施の形態1のドップラ判定部213の動作と同様であるため説明を省略する。
【0666】
方向推定部214cは、第qピーク抽出部218からの距離インデックスfb_cfar(q)、ドップラインデックス情報(fdemul_Tx#1(q))に基づいて、第qドップラ解析部210の出力を抽出し、第q仮想受信アレー相関ベクトルhq(fb_cfar(q), fdemul_Tx#1(q), fdemul_Tx#2(q), ...,fdemul_Tx#Nt(q))を生成し、方向推定処理を行う。ここで、q=1,2である。
【0667】
以上の動作により、送信アンテナが1個の場合(Nt-1)であるレーダ装置10(例えば、SIMOレーダ)でも、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0668】
(バリエーション2)
上記各実施の形態では、レーダ装置10において、複数の送信アンテナ106からレーダ送信信号を同時に送信(ドップラ多重送信)する場合について説明したが、これに限定されず、例えば、複数の送信アンテナ106を切り替えてレーダ送信信号を送信してもよい。
【0669】
例えば、
図22に示すように、レーダ装置10は、2個の送信アンテナ106を切り替えてレーダ送信信号(例えば、チャープ信号)を送信する場合、1番目の送信アンテナ106(第1送信アンテナ)から、中心周波数f
c(1)の第1チャープ信号を周期T
rs1で送信し、中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号を周期T
rs1で送信し、それらの送信信号の反射波から得られる受信信号に対して、実施の形態1と同様な処理を行ってよい。これにより、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数f
d_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2T
rs1) ≦f
d_TargetDoppler<1/(2T
rs)を超える場合でも、ドップラ周波数の判定を可能とする。ここで、T
rs1は、1番目の送信アンテナ106から、第1チャープ信号を送信する周期(あるいは第2チャープ信号を送信する周期)である。
【0670】
また、
図22に示すように、レーダ装置10は、2番目の送信アンテナ106(第2送信アンテナ)から、中心周波数f
c(1)の第1チャープ信号を周期T
rs2で送信し、中心周波数f
c(2)の第2チャープ信号を周期T
rs2で送信し、それらの送信信号の反射波から得られる受信信号に対して、実施の形態1と同様な処理を行ってよい。これにより、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数f
d_TargetDopplerがドップラ周波数範囲-1/(2T
rs2) ≦f
d_TargetDoppler<1/(2T
rs2)を超える場合でも、そのドップラ周波数の判定を可能とする。ここで、T
rs2は2番目の送信アンテナ106から、第1チャープ信号を送信する周期(あるいは第2チャープ信号を送信する周期)である。
【0671】
なお、レーダ送信信号の送信を切り替える送信アンテナ106の数は2個に限定されず、3個以上でもよい。
【0672】
以上、バリエーション2について説明した。
【0673】
本開示の一実施例に係るレーダ装置において、レーダ送信部及びレーダ受信部は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、本開示の一実施例に係るレーダ受信部において、方向推定部と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
【0674】
また、本開示の一実施例において、例えば、中心周波数fc(q)、送信アンテナ数Nt、受信アンテナ数Na、ドップラ多重数NDM、判定可能条件に関する値(α、Nc等)、位相回転に関する値(δ、φ0、δ、Δφ0、dpn等)、周波数に用いた数値は一例であり、それらの値に限定されない。
【0675】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置の各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0676】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0677】
また、上述した実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0678】
上記各実施形態では、本開示はハードウェアを用いて構成する例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0679】
また、上記各実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。集積回路は、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックを制御し、入力端子と出力端子を備えてもよい。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0680】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサおよびメモリを用いて実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続又は設定を再構成可能なリコンフィギュラブル プロセッサ(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0681】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックを集積化してもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0682】
<本開示のまとめ>
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、送信周期毎に、第1中心周波数の第1送信信号、及び、前記第1中心周波数よりも高い中心周波数である第2中心周波数の第2送信信号を出力する送信回路と、前記第1送信信号と前記第2送信信号とを送信する送信アンテナと、を具備し、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(1+1/Nc)倍よりも高い周波数である(Ncは、所定期間内で前記第1送信信号及び前記第2送信信号のそれぞれが前記送信周期毎に送信される回数を示す整数)。
【0683】
本開示の一実施例において、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の1.25倍よりも低い周波数である。
【0684】
本開示の一実施例において、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(7/6)倍よりも低い周波数である。
【0685】
本開示の一実施例において、前記送信アンテナは、前記送信周期毎に、前記第1送信信号と前記第2送信信号とを交互に送信する。
【0686】
本開示の一実施例において、前記送信アンテナは、前記送信周期毎に、前記第1送信信号と前記第2送信信号とを同時に送信する。
【0687】
本開示の一実施例において、前記送信アンテナは、複数の送信アンテナであり、前記複数の送信アンテナのうち、前記第1送信信号を送信する送信アンテナの数と、前記第2送信信号を送信する送信アンテナの数とは、同数または1つ異なる。
【0688】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する受信アンテナと、前記第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、前記判定回路は、前記第1反射波信号により観測される前記第1ドップラ周波数の第1ピーク位置を推定し、前記第1ピーク位置と、前記第1中心周波数と前記第2中心周波数との比率とに基づいて、前記第2ドップラ周波数の第2ピーク位置を推定し、前記第2ピーク位置と、前記第2反射波信号により観測される第3ピーク位置との一致度に基づいて、前記ターゲットのドップラ周波数の折り返し回数を判定する。
【0689】
本開示の一実施例において、前記送信アンテナは、複数の送信アンテナであり、前記送信回路は、前記複数の送信アンテナから送信される前記第1送信信号及び前記第2送信信号の少なくとも一つに、ドップラ周波数の折り返し回数の判定の対象となるドップラ周波数範囲を不等間隔に分割した間隔のドップラシフト量を付与する。
【0690】
本開示の一実施例において、前記不等間隔に分割したドップラシフト量の間隔をΔfDDM=1/(Trs(Nt+δ))とした場合に(Ntは、前記複数の送信アンテナの数を示す整数、δは1以上の整数であり、Trsは前記第1送信信号及び前記第2送信信号のセットが送信される送信周期)、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数のNc/(Nc-(Nt+δ))倍よりも高い周波数である。
【0691】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号が複数のターゲットに反射した複数の第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記複数のターゲットに反射した複数の第2反射波信号を受信する受信アンテナと、前記複数の第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記複数の第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、前記判定回路は、前記第1ドップラ解析回路及び前記第2ドップラ解析回路のうち、前記第1反射波信号及び前記第2反射波信号が分離されるドップラ解析回路の推定したドップラ周波数に基づいて、前記複数のターゲット間のピーク位置の間隔と、前記ドップラシフト量の間隔とに基づいて、前記複数のターゲットそれぞれのドップラ周波数の折り返し回数を判定する。
【0692】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号が複数のターゲットに反射した複数の第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記複数のターゲットに反射した複数の第2反射波信号を受信する受信アンテナと、前記複数の第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記複数の第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、前記受信回路は、前記第1ドップラ解析回路及び前記第2ドップラ解析回路のうち、前記第1反射波信号及び前記第2反射波信号が分離されるドップラ解析回路の推定したドップラ周波数に基づいて、方向推定を行う方向推定回路を、更に具備する。
【0693】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する受信アンテナと、前記第1反射波信号から第1ドップラ周波数を推定する第1ドップラ解析回路と、前記第2反射波信号から第2ドップラ周波数を推定する第2ドップラ解析回路と、前記第1ドップラ周波数及び前記第2ドップラ周波数の折り返し回数を判定する判定回路と、を含む受信回路と、をさらに具備し、前記受信アンテナは、第1受信アンテナと、第2受信アンテナとを含み、前記第1ドップラ解析回路は、偶数番目及び奇数番目の何れか一方の送信周期において前記第1受信アンテナで受信された前記第1反射波信号を処理し、偶数番目及び奇数番目の何れか他方の送信周期において前記第2受信アンテナで受信された前記第1反射波信号を処理し、前記第2ドップラ解析回路は、前記一方の送信周期において前記第2受信アンテナで受信された前記第2反射波信号を処理し、前記他方の送信周期において前記第1受信アンテナで受信された前記第2反射波信号を処理する。
【0694】
本開示の一実施例において、受信アンテナと、偶数番目及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、前記受信アンテナで受信した信号に対して前記第1送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号を出力し、偶数番目及び奇数番目の何れか他方の送信周期において、前記受信アンテナで受信した信号に対して前記第2送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第2送信信号がターゲットに反射した第2反射波信号を出力する第1受信回路と、前記一方の送信周期において、前記受信アンテナで受信した信号に対して前記第2送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第2反射波信号を出力し、前記他方の送信周期において、前記受信アンテナで受信した信号に対して前記第1送信信号を用いてミキシングすることにより、前記第1反射波信号を出力する第2受信回路と、を更に具備する。
【0695】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号及び前記第2送信信号はチャープ信号であり、前記第1中心周波数のチャープ信号と、前記第2中心周波数のチャープ信号とで、周波数掃引帯域幅が同一である。
【0696】
本開示の一実施例において、前記第1中心周波数のチャープ信号と、前記第2中心周波数のチャープ信号とで、周波数掃引時間が異なる。
【0697】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号を受信する第1受信アンテナと、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する第2受信アンテナと、前記第1反射波信号を処理する第1受信回路と、前記第2反射波信号を処理する第2受信回路と、を更に具備し、前記送信回路は、前記第1送信信号を出力する第1送信回路と、前記第2送信信号を出力する第2送信回路と、を含み、前記送信アンテナは、前記第1送信信号を送信する第1送信アンテナと、前記第2送信信号を送信する第2送信アンテナと、を含み、前記第1送信アンテナと、前記第1送信回路と、前記第1受信アンテナと、前記第1受信回路とは、第1チップに含まれ、前記第2送信アンテナと、前記第2送信回路と、前記第2受信アンテナと、前記第2受信回路とは、第2チップに含まれる。
【0698】
本開示の一実施例において、前記第1送信信号がターゲットに反射した第1反射波信号、及び、前記第2送信信号が前記ターゲットに反射した第2反射波信号を受信する第1受信アンテナと、前記第1反射波信号、及び、前記第2反射波信号を受信する第2受信アンテナと、偶数番目及び奇数番目の何れか一方の送信周期において、前記第1受信アンテナで受信した前記第1反射波信号を処理し、偶数番目及び奇数番目の何れか他方の送信周期において、前記第1受信アンテナで受信した前記第2反射波信号を処理する第1受信回路と、前記一方の送信周期において、前記第2受信アンテナで受信した前記第2反射波信号を処理し、前記他方の送信周期において、前記第2受信アンテナで受信した前記第1反射波信号を処理する第2受信回路と、を更に具備し、前記送信回路は、前記第1送信信号を出力する第1送信回路と、前記第2送信信号を出力する第2送信回路と、を含み、前記送信アンテナは、前記第1送信信号を送信する第1送信アンテナと、前記第2送信信号を送信する第2送信アンテナと、を含み、前記第1送信アンテナと、前記第1送信回路と、前記第1受信アンテナと、前記第1受信回路とは、第1チップに含まれ、前記第2送信アンテナと、前記第2送信回路と、前記第2受信アンテナと、前記第2受信回路とは、第2チップに含まれる。
【0699】
本開示の一実施例において、第1中心周波数の第1送信信号、及び、前記第1中心周波数よりも高い中心周波数である第2中心周波数の第2送信信号に、ドップラ周波数の折り返し回数の判定の対象となるドップラ周波数範囲を不等間隔に分割した間隔のドップラシフト量を付与する送信回路と、前記ドップラシフト量が付与された前記第1送信信号と前記第2送信信号とを送信する複数の送信アンテナと、を具備し、前記送信回路は、送信周期毎に、前記第1送信信号及び前記第2送信信号を出力し、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数の(1+1/Nc)倍よりも高い周波数であり(Ncは、所定期間内で前記第1送信信号及び前記第2送信信号のそれぞれが前記送信周期毎に送信される回数を示す整数)、前記不等間隔に分割したドップラシフト量の間隔をΔfDDM=1/(Trs(Nt+δ))とした場合に(Ntは、前記複数の送信アンテナの数を示す整数、δは1以上の整数であり、Trsは前記第1送信信号及び前記第2送信信号のセットが送信される送信周期)、前記第2中心周波数は、前記第1中心周波数のNc/(Nc-(Nt+δ))倍よりも高い周波数である。
【産業上の利用可能性】
【0700】
本開示は、広角範囲を検知するレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0701】
10,10a,10b,10c レーダ装置
100,100a,100b,100c レーダ送信部
101 レーダ送信信号生成部
102 変調信号発生部
103 VCO
104 信号生成制御部
105 ドップラシフト部
106,106c 送信アンテナ
200,200a,200b,200c レーダ受信部
201 アンテナ系統処理部
202 受信アンテナ
203 受信無線部
204 ミキサ部
205 LPF
206 信号処理部
207 A/D変換部
208 ビート周波数解析部
209,217 出力切替部
210 ドップラ解析部
211 CFAR部
212 ドップラ多重分離部
213,213c ドップラ判定部
214,214c 方向推定部
215 同期信号生成部
216 切替部
218 ピーク抽出部