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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024371
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】水性クリヤー被覆材
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/02 20060101AFI20230209BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230209BHJP
【FI】
C09D133/02
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124347
(22)【出願日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021129662
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】尾上 誠一
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG032
4J038CG141
4J038GA09
4J038JA17
4J038JB02
4J038JB14
4J038KA03
4J038NA01
4J038PC04
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐白化性等の塗膜物性において優れた被膜を形成することができる被覆材を提供する。
【解決手段】
樹脂成分及び架橋剤を含む水性クリヤー被覆材であって、
前記樹脂成分(A)は、樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が5重量%以下であるアクリル樹脂(A1)、及び樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が前記アクリル樹脂(A1)よりも多いアクリル樹脂(A2)を含み、
前記架橋剤は、カルボジイミド化合物であり、
前記樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、カルボジイミド化合物を固形分換算で0.1~10重量部含むことを特徴とする。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分(A)及び架橋剤(B)を含む水性クリヤー被覆材であって、
前記樹脂成分(A)は、樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が5重量%以下であるアクリル樹脂(A1)、及び樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が前記アクリル樹脂(A1)よりも多いアクリル樹脂(A2)を含み、
前記架橋剤(B)は、カルボジイミド化合物であり、
前記樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、カルボジイミド化合物を固形分換算で0.1~10重量部含むことを特徴とする水性クリヤー被覆材。
【請求項2】
前記樹脂成分(A)の固形分中に、前記アクリル樹脂(A1)を固形分換算で55重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の水性クリヤー被覆材。
【請求項3】
さらに、塩基性有機化合物(C)として有機アミン化合物を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性クリヤー被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性クリヤー被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、揮発性有機化合物(VOC)の低減など、環境に対する関心が高まりつつあるなか、コーティング分野においては、有機溶剤を使用した溶剤系被覆材から水性被覆材への移行が行われている。
【0003】
上述の如き水性被覆材の課題のひとつとして、耐汚染性、耐水性等の塗膜物性向上化が挙げられる。このような課題に対し、架橋剤導入に関する技術が提案されている(例えば特許文献1)。しかしながら、単に架橋剤を導入するのみでは、耐白化性が得られない、あるいは剛直な塗膜となり、下地への追従性に劣る場合があった。特に、クリヤー被覆材(トップコート)において耐白化性や下地追従性が不十分な場合には、下地の意匠性を損なうおそれがあり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2017/006950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたもので、耐白化性等の塗膜物性において優れた性能を発揮することができる水性クリヤー被覆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明者は鋭意検討の結果、樹脂成分として特定のアクリル樹脂を併用して含み、架橋剤としてカルボジイミド化合物を特定重量比率で含む水性クリヤー被覆材に想到し、本発明の完成に到った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1.樹脂成分(A)及び架橋剤(B)を含む水性クリヤー被覆材であって、
前記樹脂成分(A)は、樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が5重量%以下であるアクリル樹脂(A1)、及び樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が前記アクリル樹脂(A1)よりも多いアクリル樹脂(A2)を含み、
前記架橋剤(B)は、カルボジイミド化合物であり、
前記樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、カルボジイミド化合物を固形分換算で0.1~10重量部含むことを特徴とする水性クリヤー被覆材。
2.前記樹脂成分(A)の固形分中に、前記アクリル樹脂(A1)を固形分換算で55重量%以上含むことを特徴とする1.に記載の水性クリヤー被覆材。
3.さらに、塩基性有機化合物(C)として有機アミン化合物を含むことを特徴とする1.または2.に記載の水性クリヤー被覆材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆材によれば、耐白化性や下地追従性等の塗膜物性において優れた被膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
本発明は、水性クリヤー被覆材(以下、単に「被覆材」ともいう)に関するものであり、樹脂成分(A)及び架橋剤(B)を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の樹脂成分(A)(以下、「(A)成分」ともいう)は、樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が5重量%以下であるアクリル樹脂(A1)(以下、「(A1)成分」ともいう)、及び樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が前記アクリル樹脂(A1)よりも多いアクリル樹脂(A2)(以下、「(A2)成分」ともいう)を含むことを特徴とする。このような(A1)成分及び(A2)成分を併用して含むことにより、耐白化性等において優れた効果を発揮することができる。
【0012】
本発明の(A1)成分は、樹脂構成成分の主成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含み、その他のモノマー成分として、カルボキシ基含有モノマーの含有量が5重量%以下(より好ましくは0~4.8重量%、さらに好ましくは0.05~4.5重量%、特に好ましくは0.1~3重量%)であるアクリル樹脂であることを特徴とする。このような範囲の場合、良好な被膜物性を得ることができる。(A1)成分がカルボキシ基含有モノマーを有する場合は、後述の(B)成分の架橋により耐白化性をよりいっそう高めることができる。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。また、本発明において「α~β」は「α以上β以下」と同義である。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
【0014】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、イソクロトン酸、サリチル酸等のカルボキシ基含有モノマー等が挙げられ、これらの1種または2種以上が使用できる。
【0015】
その他のモノマーの具体例としては、例えば、
スチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族モノマー;
(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α-シアノエチル(メタ)アクリレート等のニトリル基含有モノマー;
マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等のアミド基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
【0016】
アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ-n-ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p-アミノスチレン、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;
グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε-カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;
ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;
フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー;
エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルエーテル、ビニルケトン、;等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上で使用することができる。
【0017】
本発明では、その他のモノマー成分として、アルコキシシリル基含有モノマーを含むアクリルシリコン樹脂であることが好ましい。このような場合、耐候性、耐汚染性、耐水性等の被膜物性を高めることができる。
【0018】
上記(A1)成分の形態としては、例えば、水溶性樹脂、水分散性樹脂等、あるいはこれらを複合したもの等が挙げられる。本発明では、水分散性樹脂(樹脂エマルション)が好ましい。
【0019】
(A1)成分は、上記モノマーを適宜混合したモノマー群を、1段ないし多段(2段、または3段以上)の乳化重合法等によって製造することができる。重合方法としては公知の方法を採用すればよく、通常の乳化重合の他、ソープフリー乳化重合、フィード乳化重合、シード乳化重合等を採用することもできる。重合時には、乳化剤、開始剤、分散剤、重合禁止剤、重合抑制剤、緩衝剤、連鎖移動剤等を使用することができる。
【0020】
乳化剤としては、乳化重合に使用可能な各種界面活性剤が使用でき、これらは重合性不飽和二重結合を有する反応性タイプ(反応性界面活性剤)であってもよい。乳化剤としては、好ましくはアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いればよい。
【0021】
上記(A1)成分のガラス転移温度(以下、単に「Tg」という。)は、好ましくは-5℃~80℃(より好ましくは0~60℃)に設定する。Tgがこのような範囲内であれば、本発明の効果を安定して得ることができる。なお、本発明におけるTgは、Foxの計算式により求められる値である。
【0022】
また、上記(A1)成分のアクリル樹脂の平均粒子径は、好ましくは300nm以下(より好ましくは20~200nm)である。平均粒子径がこのような範囲内であれば、被膜の耐水性、耐候性、耐薬品性等を向上させることができる。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0023】
さらに、上記(A1)成分のエマルション溶液のpHは、好ましくは7.0以上(より好ましくは7.5~12、さらに好ましくは8.0~11)である。このような範囲の場合、被覆材の安定性を確保することができる。
【0024】
上記(A1)成分の含有量は、(A)成分の固形分中に、(A1)成分を固形分換算で好ましくは55重量%以上(より好ましくは60~99.99重量%、さらに好ましくは80~99.98重量%、特に好ましくは90~99.95重量%)である。上記(A1)成分は、(A)成分中の主となるバインダー成分であり、(A1)成分が上記範囲を満たす場合、耐白化性に有利である。また、下地追従性、耐候性、耐汚染性、耐水性等の被膜物性も十分に確保することができる。
【0025】
本発明の(A2)成分は、樹脂構成成分の主成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含み、かつ、前記(A1)成分よりも樹脂構成成分中のカルボキシ基含有モノマーの含有量が多い(好ましくは3~80重量%、より好ましくは6~70重量%、さらに好ましくは10~60重量%)ことを特徴とする。このような範囲の場合、後述の架橋剤(B)との架橋反応により、耐白化性を向上させることができる。
【0026】
上記(A2)成分の形態としては、例えば、水溶性樹脂、水分散性樹脂等、あるいはこれらを複合したもの等が挙げられる。本発明では、水分散性樹脂(樹脂エマルション)が好ましい。また、(A2)成分は、上記(A1)成分と同様の方法により製造することができる。また、上記(A2)成分のアクリル樹脂の平均粒子径は、好ましくは300nm以下(より好ましくは20~200nm)である。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0027】
さらに、上記(A2)成分は、アルカリ(中和)により溶解または膨潤する(アルカリ可溶性またはアルカリ膨潤性樹脂)樹脂であることが好ましい。これにより、耐白化性をいっそう向上させることができる。この作用機構は、以下に限定されるものではないが、カルボキシ基含有モノマーの含有量が異なる(A1)成分と(A2)成分を含む態様において、溶解または膨潤した(A2)成分は上記(A1)成分の間隙に存在した状態となるため、後述の架橋剤(B)と架橋反応した場合には、部分的に被膜の架橋構造が緻密になると考えられる。これにより、上記(A1)成分等により付与される下地追従性等の被膜物性を害することなく、耐白化性を高めることができる。
【0028】
上記(A2)成分の中和前のエマルション溶液のpHは、好ましくは7未満(より好ましくは6以下、さらに好ましくは1~4)であり、上記(A1)成分と混合することにより、溶解または膨潤し、上記効果を得ることができる。なお、上記(A2)成分のアクリル樹脂の平均粒子径は、アルカリ(中和)により溶解または膨潤する前の測定値である。
【0029】
上記(A2)成分の含有量は、(A)成分の固形分中に、(A2)成分を固形分換算で45重量%以下(より好ましくは0.01~40重量%、好ましくは0.02~20重量%、さらには0.05~10重量%)であることが好ましい。上記(A2)成分は、上記(A1)成分の補助的に作用するバインダー成分であり、上記範囲を満たす場合、耐白化性に有利であるとともに、後述の(B)成分の架橋により耐白化性をよりいっそう高めることができる。
【0030】
本発明では、架橋剤(B)としてカルボジイミド化合物を含み、上記樹脂成分(A)の固形分100重量部に対して、カルボジイミド化合物を固形分換算で0.1~10重量部(好ましくは0.2~5重量部)含むことを特徴とする。このような場合、上記樹脂成分(A)(上記(A1)成分及び上記(A2)成分)との架橋反応により、耐白化性等に優れた被膜を形成することができる。
【0031】
このようなカルボジイミド化合物としては、例えば、カルボジイミド基含有樹脂、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド等が挙げられる。カルボジイミド基含有樹脂としては、例えば、特開平10-60272号公報、特開平10-316930号公報、特開平11-60667号公報、WO2017/006950公報等に記載のもの等が挙げられる。カルボジイミド化合物の形態としては、水溶性または水分散性であることが好ましく、特に、水分散性の場合は貯蔵安定性において有利である。
【0032】
カルボジイミド化合物のカルボジイミド当量は、好ましくは100~500(より好ましくは150~400)である。このような範囲の場合、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0033】
本発明では、上記成分に加えて、塩基性有機化合物(C)(以下「(C)成分」ともいう)を含むことが好ましい。(C)成分としては、例えば、アルキルアミン類[例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等]、アルコールアミン(アミノアルコール)類[例えば、モノエタノールアミン、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、モノnブチルエタノールアミン、アミノエチルプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-アミノメチルプロパノール等]、複素環含有アミン[例えば、モルホリン、メチルモルホリン、ピペラジン、ヒドロキシエチルピペラジン等]から選ばれる有機アミン化合物が挙げられる。これらは、1種又は2種以上で使用することができる。なお、上記(C)成分は、上記(A)成分の製造時における中和剤として添加されるものであってもよい。本発明では、アルコールアミン(アミノアルコール)類が好ましく、特に2-アミノメチルプロパノール、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等が好適である。
【0034】
また、上記有機アミン化合物の沸点は、好ましくは80℃以上(より好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上)であるものが好適である。上記範囲を満たす場合、被膜形成時における揮発速度が適度となるため、耐白化性に優れた被膜を形成することができる。
【0035】
上記(C)成分を含むことにより、緻密な被膜を形成することができる。この作用機構は、以下に限定されるものではないが、上記カルボジイミド化合物(B)の架橋反応はpHが低くなると速くなる傾向にある。これに対して、塩基性有機化合物を添加した場合、その揮発速度は適度であるため、急激なpH低下による架橋反応(硬化速度)が抑制され、その結果として被膜中の水分が揮発した後に、架橋反応が起こる。その結果、緻密な被膜を形成することができ、耐白化性をよりいっそう向上させることができる。
【0036】
上記(C)成分の含有量は、上記(A)成分の固形分100重量部に対して、0.01~5重量部(0.02~3重量部)である。このような範囲の場合、上記効果を十分に発揮することができる。
【0037】
本発明の被覆材は、上記成分を公知の方法によって均一に混合することで製造することができるが、必要に応じて、通常被覆材に使用可能なその他の成分を混合することもできる。このような成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料、繊維、造膜助剤、増粘剤、レベリング剤、カップリング剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、水等が挙げられる。
【0038】
本発明の被覆材は、水性クリヤー被覆材であり、透明性を有する被膜を形成するもの、すなわち、可視光透過性を有する被膜を形成するものである。これにより、透明性を有する積層被膜を形成することができ、下地の意匠性を活かした仕上りを得ることが可能となる。この透明性は、下地の色や模様が視認できる程度であればよく、被膜は無色透明、着色透明のいずれであってもよく、また艶有り、艶消し(7分艶、5分艶、3分艶等を含む)のいずれであってもよい。着色透明の被膜は、例えば、着色顔料、染料等を含む被覆材によって形成できる。艶消しの被膜は、例えば、体質顔料、艶消し剤等を含む被覆材によって形成できる。
【0039】
可視光透過性の程度は、可視光透過率で示すことができる。可視光透過率は、好ましくは30%以上、より好ましくは35~100%、さらに好ましくは40~95%である。なお、可視光透過率は、膜厚30μmの被膜について、波長580nmの光の透過率を、分光光度計を用いて測定した値(被膜なし(空気)の場合を透過率100%とする)である。
【0040】
このような可視光透過性を得るには、例えば、被覆材中の着色顔料比率を低く設定すればよい。被覆材中の着色顔料比率は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは0~3重量%である。被覆材が着色顔料を含まない態様も好適である。
【0041】
本発明では、下地面に対し、水性クリヤー被覆材を塗付して、透明性を有する被膜を形成することができる。本発明の水性クリヤー被覆材は、上塗材として好適に使用することができる。下地面としては、特に限定されないが、基材上に設けられた模様被膜面(例えば、有色模様を有する模様被膜面)が好適である。このような下地面に対して、本発明の水性クリヤー被覆材を塗付することにより耐白化性が高まり、下地面の意匠性(有色模様)を長期にわたり保持することができる。
【0042】
上記基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、板状基材等が挙げられる。このうち、板状基材としては、例えば、セメントボード、押出成形板、スレート板、PC板、ALC板、繊維強化セメント板、金属系サイディングボード、窯業系サイディングボード、セラミック板、珪酸カルシウム板、プラスチックボード、硬質木片セメント板、塩ビ押出サイディングボード、合板等が挙げられる。これら基材の表面は、何らかの表面処理(例えば、シーラー、サーフェーサー、フィラー等)が施されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたものであってもよい。
【0043】
有色模様は、少なくとも2色以上の色彩が視認可能な状態で混在する模様であり、例えば、2色以上の斑点が混在する模様、背景色上に斑点(1色または2色以上)が散在する模様、2色以上に塗り分けられた模様(例えば、島状模様、線状模様、タイル調模様、レンガ調模様、石目調模様、岩石調模様、木目調模様、幾何学的模様、縞模様、格子模様、ランダム模様等)等が挙げられる。このような多色模様は、例えば、各種印刷手法(インクジェット印刷等)で形成されたものであってもよいし、石材調仕上塗材、多彩模様塗料等の装飾性コーティング剤によって形成されたものであってもよい。
【0044】
本発明水性クリヤー被覆材の塗付においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。水性クリヤー被覆材の塗付け量は、好ましくは0.05~0.8kg/m(より好ましくは0.08~0.5kg/m)である。また塗装回数は、好ましくは1~3回である。塗装時には、水性クリヤー被覆材を必要に応じ適宜希釈することもできる。水性クリヤー被覆材塗付後の乾燥は、常温(好ましくは0~50℃、より好ましくは5~45℃)で行えばよく、必要に応じ加熱することもできる。
【実施例0045】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0046】
・水性クリヤー被覆材の製造
表1に示す配合に基づき、各原料を定法により混合して水性クリヤー被覆材を製造した。
なお、各成分は以下のものを使用した。
【0047】
(A)樹脂成分
・樹脂1:アクリル樹脂エマルション(シクロヘキシルメタクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・メチルメタクリレート・アクリル酸の乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:0.5重量%、平均粒子径:120nm、固形分:50重量%、媒体:水、pH=8.5)
・樹脂2:アクリル樹脂エマルション(シクロヘキシルメタクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・メチルメタクリレート・アクリル酸・γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:0.5重量%、平均粒子径:120nm、固形分:50重量%、媒体:水、pH=8.5)
・樹脂3:アクリル樹脂エマルション(シクロヘキシルメタクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・メチルメタクリレート・アクリル酸・γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:0.1重量%、平均粒子径:120nm、固形分:50重量%、媒体:水、pH=8.5)
・樹脂4:アクリル樹脂エマルション(シクロヘキシルメタクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・メチルメタクリレート・アクリル酸・γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:1.5重量%、平均粒子径:120nm、固形分:50重量%、媒体:水、pH=8.5)
・樹脂5:アクリル樹脂エマルション(シクロヘキシルメタクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・メチルメタクリレートの乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:0重量%、平均粒子径:120nm、固形分:50重量%、媒体:水、pH=8.5)
・樹脂6:アクリル樹脂エマルション(シクロヘキシルメタクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート・メチルメタクリレート・アクリル酸の乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:6重量%、平均粒子径:120nm、固形分:50重量%、媒体:水、pH=8.5)
・樹脂7:アルカリ膨潤性アクリル樹脂エマルション(エチルアクリレート・エチルメタクリレート・メタクリル酸の乳化重合体、カルボキシ基含有モノマーの含有量:30重量%、平均粒子径:80nm、固形分:30重量%、媒体:水、pH=3.0)
【0048】
(B)架橋剤
・架橋剤1:カルボジイミド樹脂水分散体(固形分:40重量%、カルボジイミド当量:310)
・架橋剤2:カルボジイミド樹脂水分散体(固形分:40重量%、カルボジイミド当量:230)
・架橋剤3:カルボジイミド樹脂水溶液(固形分:40重量%、カルボジイミド当量:335)
・架橋剤4:カルボジイミド樹脂水分散体(固形分:40重量%、カルボジイミド当量:450)
(C)塩基性有機化合物
・塩基性有機化合物1:2-アミノメチルプロパノール(沸点:165℃)
・塩基性有機化合物2:25%アンモニア水(沸点:100℃)
(その他)
・艶消し剤:アクリルビーズ粉末(平均粒子径:10μm)
・添加剤(ウレタン会合性増粘剤、消泡剤、紫外線吸収剤等)
・媒体:水、親水性溶剤
【0049】
・石材調仕上塗材の製造
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部に対し、炭酸カルシウム210重量部、骨材(黄色骨材、黒色骨材、褐色骨材、寒水石の混合物)550重量部、造膜助剤10重量部、粘性調整剤4重量部、消泡剤2重量部、水110重量部を常法により均一に混合したものを石材調仕上塗材とした。
【0050】
(実施例1~16、比較例1~3)
基材(スレート板:45×30cm)上に、石材調仕上塗材を塗り付け量5.0kg/mで吹付け塗装し、23℃で24時間乾燥させた。次いで、水性クリヤー被覆材をスプレーガンで、塗付け量0.3kg/mで吹付け塗装し、23℃で24時間乾燥、硬化させ、試験体[I]を形成した。作製した試験体[I]について、下記の耐白化性評価を実施した。結果は表1に示す。
【0051】
<耐白化性評価1>
試験体[I]を水(23℃)に、7日間浸漬し、引き上げ直後の白化の有無を確認した。評価基準としては、白化が認められないものを「A」、全体が白化したものを「D」とする4段階評価(優:A>B>C>D:劣)とした。
【0052】
<耐白化性評価2>
試験体[I]を水(23℃)に7日間浸漬し、引き上げ、24時間(23℃)乾燥後の白化の有無を確認した。評価基準は、耐白化性評価1と同様である。
【0053】
実施例1~16において、十分な耐白化性を得ることができた。特に、実施例7~13においては、耐白化性評価1、2のいずれも「A」評価であった。
【0054】
次いで、実施例1~16について、被膜物性評価(耐汚染性評価、追従性評価)を実施した。結果は表1に示す。
<耐汚染性評価1>
試験体[I]の被膜表面に汚染物質(15重量%のカーボン水溶液)をスポットし、24時間(23℃)乾燥後、その表面に水を10分間流して洗浄後、6時間(23℃)乾燥後、汚染状態について、評価した。評価基準としては、表面の汚染がなく、優れた美観性を維持していたものを「AA」、表面の汚染がほとんどなく、優れた美観性を維持していたものを「A」、表面の汚染が見られたものを「D」とする5段階評価(優:AA>A>B>C>D:劣)とした。
【0055】
<耐汚染性評価2>
上記耐白化性評価2の実施後の試験体を試験体[II]とし、耐汚染性評価を実施した。評価方法、評価基準は、耐汚染性評価1と同様である。
【0056】
<耐汚染性評価3>
50℃で30日間貯蔵した水性クリヤー被覆材を使用した以外は、試験体[I]と同様の方法で試験体[III]を形成し、耐汚染性評価を実施した。評価方法、評価基準は、耐汚染性評価1と同様である。
【0057】
<追従性評価>
<試験体[IV]の作製>
スレート板(45×30cm)上に、石材調仕上塗材を塗り付け量5.0kg/mで吹付け塗装し、23℃で24時間乾燥させた。この石材調塗膜を有するスレート板を2枚併設し、板材間の連結部(幅20mm)に変性シリコーン系シーリング材(樹脂成分:アルコキシシリル基含有ポリエーテル重合体)を充填したものを塗装対象の基材とした。
上記基材の全面に対し、水性クリヤー被覆材をスプレーガンで、塗付け量0.1kg/mで吹付け塗装し、3日間(5℃、湿度30%)乾燥したものを試験体[IV]とした。作製した試験体[IV]について、被膜外観を確認し、不具合(膨れ、剥れ、割れ等)の発生の状態を評価した。評価は、不具合発生が認められなかったものを「A」、明らかに不具合発生が認められたものを「D」とする4段階評価(優:A>B>C>D:劣)とした。
【0058】
実施例1~15において、十分な耐汚染性、追従性を得ることができた。また、水浸漬後の塗膜であっても耐汚染性を維持できるものであった。また、実施例1~12、14において、水性被覆材の貯蔵後も耐汚染性を十分に維持できるものであった。
【0059】
【表1】