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特開2023-24382グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク飛び粉の脱臭方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024382
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク飛び粉の脱臭方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20230209BHJP
   A61K 8/42 20060101ALI20230209BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230209BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230209BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20230209BHJP
   A23L 5/20 20160101ALN20230209BHJP
【FI】
A23L19/00 102Z
A61K8/42
A61K8/9789
A61Q19/00
A23L33/105
A23L5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124779
(22)【出願日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110892563.6
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122448
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大江 健一
(72)【発明者】
【氏名】趙 玲華
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B035
4C083
【Fターム(参考)】
4B016LC01
4B016LE02
4B016LG07
4B016LQ10
4B018MD53
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF14
4B035LC02
4B035LE01
4B035LG32
4B035LP01
4B035LP22
4B035LP55
4B035LP59
4B035LT20
4C083AA11
4C083AC64
4C083EE01
4C083EE12
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】本開示の課題は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末の脱臭方法を提供することである。
【解決手段】グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行うことにより、特有の臭いを脱臭できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末の脱臭方法であって、
グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う工程を含む、脱臭方法。
【請求項2】
前記水蒸気処理が、真空度0.01~120kPaの条件下で行われる、請求項1に記載の消臭方法。
【請求項3】
前記水蒸気処理において、コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末1g当たり、水蒸気を1~500g接触させる、請求項1又は2に記載の消臭方法。
【請求項4】
前記コンニャク芋抽出物が、コンニャク芋の飛び粉を有機溶媒で抽出処理することにより得られる抽出物である、請求項1又は2に記載の消臭方法。
【請求項5】
前記コンニャク芋粉末が、コンニャク芋の飛び粉である、請求項1又は2に記載の消臭方法。
【請求項6】
以下の第1工程及び第2工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の製造方法:
コンニャク芋を有機溶媒で抽出処理し、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得る第1工程、及び
前記第1工程で得られたコンニャク芋抽出物に対して100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う第2工程。
【請求項7】
前記第1工程で使用するコンニャク芋が、コンニャク芋の飛び粉である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程における水蒸気処理が、真空度0.01~120kPaの条件下で行われる、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程における水蒸気処理において、コンニャク芋抽出物1g当たり、水蒸気を1~500g接触させる、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項10】
以下の第I工程及び第II工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の製造方法:
コンニャク芋粉末に対して100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う第I工程、及び
前記第I工程で得られたコンニャク芋粉末を有機溶媒で抽出処理し、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得る第II工程。
【請求項11】
前記第I工程で使用するコンニャク芋粉末が、コンニャク芋の飛び粉である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第I工程における水蒸気処理が、真空度0.01~120kPaの条件下で行われる、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第I工程における水蒸気処理において、コンニャク芋粉末1g当たり、水蒸気を1~500g接触させる、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項6又は7に記載の製造方法で得られる、コンニャク芋抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末の脱臭方法に関する。また、本開示は、抽出原料に由来する特有の臭いが低減されている、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンニャク芋に含まれるグルコシルセラミドには、皮膚の保湿、肌荒れの改善、美肌、アトピー性皮膚炎の改善、アレルギー性皮膚炎の改善等の効果が知られており、食品、化粧料、医薬品等の分野で使用されている。コンニャク芋に含まれるグルコシルセラミドは、飛び粉等のコンニャク芋粉末を、エタノール等の有機溶媒で抽出処理することにより得られることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、コンニャク芋粉末を有機溶媒で抽出処理すると、グルコシルセラミドと共に、コンニャク芋に含まれるアルデヒド、カルボン酸、トリメチルアミン等の臭気成分も不可避的に抽出される。また、これらの臭気成分については、溶媒分画等の精製処理でも十分に除去することができない。そのため、従来、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物では、臭気成分も含まれており、当該コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料に由来する特有の臭いを伴うという欠点があり、食品等に配合すると香味に悪影響を及ぼすことがあった。そこで、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の脱臭方法、又は当該コンニャク芋抽出物の抽出原料として使用されるコンニャク芋粉末の脱臭方法の確立が求められている。
【0004】
一方、サラダ油等の食用油の脱臭方法として、水蒸気と接触させる水蒸気処理が知られている(例えば、特許文献2、非特許文献1等)。但し、食用油の脱臭方法として採用されている水蒸気処理では、脱臭のために200℃以上の高温条件下で水蒸気処理を行うことが必須となっている。グルコシルセラミドは、200℃以上の高温条件下では熱分解されため、食用油の脱臭方法として採用されている水蒸気処理は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物やコンニャク芋粉末の脱臭には適用できないと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-281936号公報(JP2002-281936A)
【特許文献2】特開2017-88890号公報(JP2017-88890A)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉野俊一、油脂の脱臭装置、油化学、第16巻第5号、1967年、249~258頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の課題は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末の脱臭方法を提供することである。また、本開示の他の課題は、抽出原料に由来する特有の臭いが低減されている、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行うことにより、当該コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料に由来する特有の臭いを脱臭できることを見出した。また、本発明者は、コンニャク芋粉末に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行うことにより、その特有の臭いを脱臭できることを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
本開示の一実施形態として、下記の脱臭方法が例示される。
項1-1. グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物、又はコンニャク芋粉末の脱臭方法であって、
グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う工程を含む、脱臭方法。
項1-2. 前記水蒸気処理が、真空度0.01~120kPaの条件下で行われる、項1-1に記載の消臭方法。
項1-3. 前記水蒸気処理において、コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末1g当たり、水蒸気を1~500g接触させる、項1-1又は1-2に記載の消臭方法。
項1-4. 前記コンニャク芋抽出物が、コンニャク芋の飛び粉を有機溶媒で抽出処理することにより得られる抽出物である、項1-1~1-3のいずれか1項に記載の消臭方法。
項1-5. 前記コンニャク芋粉末が、コンニャク芋の飛び粉である、項1-1~1-4のいずれか1項に記載の消臭方法。
【0010】
また、本開示の別の一実施形態として、下記のコンニャク芋抽出物の製造方法、及びコンニャク芋抽出物が例示される。
項2-1. 以下の第1工程及び第2工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の製造方法:
コンニャク芋を有機溶媒で抽出処理し、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得る第1工程、及び
前記第1工程で得られたコンニャク芋抽出物に対して100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う第2工程。
項2-2. 前記第1工程で使用するコンニャク芋が、コンニャク芋の飛び粉である、項2-1に記載の製造方法。
項2-3. 前記第2工程における水蒸気処理が、真空度0.01~120kPaの条件下で行われる、項2-1又は2-2に記載の製造方法。
項2-4. 前記第2工程における水蒸気処理において、コンニャク芋抽出物1g当たり、水蒸気を1~500g接触させる、項2-1~2-3のいずれか1項に記載の製造方法。
項2-5. 項2-1~2-4のいずれか1項に記載の製造方法で得られる、コンニャク芋抽出物。
【0011】
また、本開示の更に別の一実施形態として、下記のコンニャク芋抽出物の製造方法が例示される。
項3-1. 以下の第I工程及び第II工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の製造方法:
コンニャク芋粉末に対して100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う第I工程、及び
前記第I工程で得られたコンニャク芋粉末を有機溶媒で抽出処理し、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得る第II工程。
項3-2. 前記第I工程で使用するコンニャク芋粉末が、コンニャク芋の飛び粉である、項3-1に記載の製造方法。
項3-3. 前記第I工程における水蒸気処理が、真空度0.01~120kPaの条件下で行われる、項3-1又は3-2に記載の製造方法。
項3-4. 前記第I工程における水蒸気処理において、コンニャク芋粉末1g当たり、水蒸気を1~500g接触させる、項3-1~3-3のいずれか1項に記載の製造方法。
項3-5. 項3-1~3-4のいずれか1項に記載の製造方法で得られる、コンニャク芋抽出物。
【発明の効果】
【0012】
本開示の脱臭方法の一実施形態によれば、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物に対して、グルコシルセラミドを安定に保持しつつ、当該コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料に由来する特有の臭いを脱臭することができる。とりわけ、本開示の脱臭方法の好適な一実施形態によれば、コンニャク芋の飛び粉を抽出原料として得られたコンニャク芋抽出物において、グルコシルセラミドを安定に保持しつつ、コンニャク芋の飛び粉に由来する特有の臭いを脱臭することができる。
【0013】
また、本開示の脱臭方法の別の一実施形態によれば、コンニャク芋粉末に対して、グルコシルセラミドを安定に保持しつつ、その特有の臭いを脱臭することができる。とりわけ、本開示の脱臭方法の好適な一実施形態によれば、コンニャク芋の飛び粉に対して、グルコシルセラミドを安定に保持しつつ、その特有の臭いを脱臭することができる。
【0014】
また、本開示の製造方法によれば、コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料(コンニャク芋の飛び粉等)に由来する特有の臭いが低減されている、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.脱臭方法
本開示の一実施形態は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末の脱臭方法である。以下、本開示の一実施形態である脱臭方法について詳述する。
【0016】
・コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末
本開示の脱臭方法において、脱臭対象は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末である。以下、当該コンニャク芋抽出物及びコンニャク芋粉末について説明する。
【0017】
[コンニャク芋抽出物]
グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物は、コンニャク芋を有機溶媒で抽出処理することにより得ることができる。
【0018】
抽出原料として使用されるコンニャク芋は、そのままの生の状態であってもよいが、必要に応じて、粉砕、切断、乾燥等の前処理に供されていてもよい。抽出原料として使用されるコンニャク芋は、荒粉、精粉、飛び粉等の粉末状であることが好ましい。ここで、「荒粉」とは、コンニャク芋を切断、乾燥させた粉末を指す。「精粉」とは、荒粉を搗製、粉砕させて、飛粉を除去した粉末(コンニャク粉)を指す。「飛び粉」とは、精粉の製造時に副産物として生じる粉末を指す。とりわけ、飛び粉は、グルコシルセラミド含量が高く、食品としては利用されていない原料であるので、本開示の脱臭方法の一実施形態では、脱臭対象となるコンニャク芋抽出物の抽出原料としてコンニャク芋が好適である。
【0019】
抽出溶媒として使用される有機溶媒については、コンニャク芋に含まれるグルコシルセラミドを抽出可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール類、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル等が挙げられる。本開示の脱臭方法の一実施形態において、脱臭対象となるコンニャク芋抽出物の抽出溶媒として、グルコシルセラミドの抽出効率、安全性等の観点から、好ましくはエタノール、アセトン、ヘキサン、より好ましくはエタノールが挙げられる。また、抽出溶媒として使用される有機溶媒には、必要に応じて、水、界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0020】
抽出処理で使用する有機溶媒の量は、コンニャク芋に含まれるグルコシルセラミドを抽出可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、抽出原料となるコンニャク芋に対して、重量比で1~30倍量程度、好ましくは1~10倍量程度が挙げられる。
【0021】
抽出処理時の温度については、使用する有機溶媒の沸点等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、20~70℃程度、好ましくは20~60℃程度、より好ましくは20~50℃程度が挙げられる。
【0022】
抽出処理の処理時間については、コンニャク芋に含まれるグルコシルセラミドを抽出可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、1~24時間、好ましくは2~10時間が挙げられる。
【0023】
溶媒抽出処理は、抽出溶媒中に抽出原料を浸漬又は還流させて行えばよい。また、抽出処理を行った後に残渣を回収し、当該残渣に対して再度新鮮な有機溶媒を使用して抽出処理を行ってもよい。
【0024】
抽出処理後に固液分離により固形物を除去することにより、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物が得られる。固液分離は、例えば、吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機等を使用した公知の方法で行うことができる。
【0025】
抽出処理後の固液分離により得られたコンニャク芋抽出物は、そのまま本開示の脱臭方法に供してもよいが、必要に応じて、一部又は全ての溶媒を除去した後に本開示の脱臭方法に供してもよい。更に、得られたコンニャク芋抽出物は、溶媒分画等の精製処理に供し、グルコシルセラミド以外の不純物を除去した後に、本開示の脱臭方法に供してもよい。溶媒分画による精製処理は、コンニャク芋抽出物に対して、容量比で1~500倍量の水を混合し、不溶物(グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物)を回収することにより行うことができる。
【0026】
[コンニャク芋粉末]
コンニャク芋粉末は、コンニャク芋の荒粉、精粉、飛び粉等のいずれであってもよいが、好ましくは飛び粉である。
【0027】
・水蒸気処理
本開示の脱臭方法では、前記コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して、100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行うことにより、当該コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末を脱臭する。
【0028】
コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して水蒸気を接触させる水蒸気処理は、具体的には、水蒸気蒸留法によって行うことができる。水蒸気処理は、バッチ式、半連続式、連続式等のいずれの方式で行ってもよい。
【0029】
コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して水蒸気を接触させる際の温度条件は、100℃以下である。従来、脱臭目的で水蒸気処理を行う場合には、200℃以上の温度条件が採用されており、100℃以下という低温条件では所望の脱臭効果が得られないと考えられている。これに対して、本開示の脱臭方法では、敢えて100℃以下という低温条件で水蒸気処理を行うことにより、グルコシルセラミドを安定に維持しつつ、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末を効果的に脱臭することができる。コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に対して100℃超の温度条件で水蒸気処理を行うと、グルコシルセラミドの分解や、熱化学反応による異臭の発生が認められ、グルコシルセラミドを安定に保持させつつ、臭いを低減することができなくなる。本開示の脱臭方法の一実施形態として、グルコシルセラミドを安定に保持させつつ臭いをより一層効率的に低減するという観点から、水蒸気処理の温度条件として、好ましくは20~100℃、より好ましくは40~100℃、より好ましくは60~100℃が挙げられる。特に、コンニャク芋抽出物の脱臭を行う場合には、水蒸気処理の温度条件が40℃以上、とりわけ60℃以上である場合には、コンニャク芋抽出物が固化するのを防いで水蒸気処理に適した流動性を呈することができ、効率的に水蒸気処理を行うことが可能になる。
【0030】
水蒸気処理時の真空度として、特に制限されないが、例えば、0.01~120kPa、好ましくは0.4~101.33kPaが挙げられる。ここで、水蒸気処理時の真空度とは、水蒸気処理を行う装置内の気体の圧力を指す。
【0031】
水蒸気処理時によって接触させる水蒸気の量としては、例えば、コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末1g当たり、1~500g、好ましくは5~100g、より好ましくは5~50gが挙げられる。ここで、水蒸気処理時によって接触させる水蒸気の量とは、水蒸気処理の開始から終了時までの間に、コンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末に接触させる水蒸気の合計量を指し、後述する実施例における「水蒸気の吹き込み量」に該当する。
【0032】
水蒸気処理における処理時間としては、処理対象となるコンニャク芋抽出物又はコンニャク芋粉末の量、接触させる水蒸気の量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~240分、好ましくは10~180分、より好ましくは30~120分が挙げられる。
【0033】
斯くして水蒸気処理を行うことにより、コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料に由来する特有の臭いが脱臭されたコンニャク芋抽出物、又は特有の臭いが脱臭されたコンニャク芋粉末が得られる。
【0034】
本開示の脱臭方法に供されたコンニャク芋抽出物は、グルコシルセラミドの供給源として、食品、化粧料、医薬品等に配合して使用することができる。
【0035】
また、本開示の脱臭方法に供されたコンニャク芋粉末は、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得るために抽出原料として使用することができる。本開示の脱臭方法に供されたコンニャク芋粉末を抽出原料として抽出処理することにより、コンニャク芋粉末に由来する特有の臭いが脱臭されたコンニャク芋抽出物を得ることが可能になる。
【0036】
2.コンニャク芋抽出物及びその製造方法(1)
本開示の別の一実施形態は、以下の第1工程及び第2工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の製造方法である。
第1工程:コンニャク芋を有機溶媒で抽出処理し、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得る
第2工程:前記第1工程で得られたコンニャク芋抽出物に対して100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う。
【0037】
前記第1工程において、抽出原料として使用されるコンニャク芋、抽出溶媒として使用される有機溶媒、抽出処理の条件等については、前記「1.脱臭方法」の「コンニャク芋抽出物」の欄に記載の通りである。
【0038】
また、前記第1工程において、抽出処理により得られたコンニャク芋抽出物は、そのまま第2工程に供してもよいが、必要に応じて、一部又は全ての溶媒を除去した後に第2工程に供してもよい。更に、抽出処理により得られたコンニャク芋抽出物は、溶媒分画等の精製処理に供し、グルコシルセラミド以外の不純物を除去した後に、本開示の脱臭方法に供してもよい。溶媒分画による精製処理の条件については、前記「1.脱臭方法」の「・水蒸気処理」の欄に記載の通りである。
【0039】
前記第2工程における水蒸気処理の条件については、前記「1.脱臭方法」の「・水蒸気処理」の欄に記載の通りである。
【0040】
本開示の製造方法で得られたコンニャク芋抽出物は、当該コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料に由来する特有の臭いが脱臭されているので、例えば、食品、化粧料、医薬品等にグルコシルセラミドの供給源として配合して使用することができる。
【0041】
3.コンニャク芋抽出物及びその製造方法(2)
本開示の更に他の一実施形態は、以下の第I工程及び第II工程を含む、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物の製造方法である。
第I工程:コンニャク芋粉末に対して100℃以下の温度条件で水蒸気を接触させる水蒸気処理を行う。
第II工程:前記第I工程で得られたコンニャク芋粉末を有機溶媒で抽出処理し、グルコシルセラミドを含むコンニャク芋抽出物を得る。
【0042】
前記第I工程において、使用するコンニャク芋粉末の種類及び水蒸気処理の条件については、前記「1.脱臭方法」の「コンニャク芋粉末」及び「・水蒸気処理」の欄に記載の通りである。
【0043】
前記第II工程において、抽出溶媒として使用される有機溶媒、抽出処理の条件等については、前記「1.脱臭方法」の「・コンニャク芋抽出物」の欄に記載の通りである。
【0044】
また、前記第II工程の抽出処理により得られたコンニャク芋抽出物は、そのまま、グルコシルセラミドの供給源として使用してもよいが、必要に応じて、一部又は全ての溶媒を除去した後にグルコシルセラミドの供給源として使用してもよい。更に、前記第II工程の抽出処理により得られたコンニャク芋抽出物は、溶媒分画等の精製処理に供し、グルコシルセラミド以外の不純物を除去した後に、本開示の脱臭方法に供してもよい。溶媒分画による精製処理の条件については、前記「1.脱臭方法」の「・水蒸気処理」の欄に記載の通りである。
【0045】
本開示の製造方法で得られたコンニャク芋抽出物は、当該コンニャク芋抽出物の製造に使用した抽出原料に由来する特有の臭いが脱臭されているので、例えば、食品、化粧料、医薬品等にグルコシルセラミドの供給源として配合して使用することができる。
【実施例0046】
本開示は、前記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で示した文献等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【0047】
製造例:コンニャク芋抽出物(脱臭対象物)の調製
コンニャク芋の飛び粉1kgをエタノール2Lに添加して、室温で2時間撹拌することにより抽出処理を行った。抽出処理後に固液分離により、抽出液を回収した。得られた抽出液に2倍量の精製水を添加して撹拌した後に、不溶物を回収することにより、コンニャク芋抽出物を得た。得られたコンニャク芋抽出物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、グルコシルセラミド含量は8.2重量%であった。斯くして得られたコンニャク芋抽出物を後述する試験例1~3で使用した。
【0048】
試験例1:コンニャク芋抽出物の脱臭試験(水蒸気処理時の温度の検討)
コンニャク芋抽出物2gをフラスコに入れて、フラスコ内の真空度を0.4kPaに維持しながら、フラスコをオイルバスに浸けて表1に示す各温度に加熱した状態で、フラスコ内のコンニャク芋抽出物中に水蒸気を90分間吹き込むことにより、水蒸気処理を行った。各温度条件での水蒸気の吹き込み量(90分間で吹き込んだ水蒸気の合計量)は表1に示す通りである。
【0049】
水蒸気処理後のコンニャク芋抽出物に含まれるグルコシルセラミド含量をHPLCで分析し、水蒸気処理前のグルコシルセラミド含量に対する水蒸気処理後のグルコシルセラミド含量の割合をグルコシルセラミド残存率(%)として算出した。更に、香りの評価に関して訓練されている試験者によって、下記判定基準に従って水蒸気処理後のコンニャク芋抽出物の臭気を評価した。また、比較のために、水蒸気処理に供していないコンニャク芋抽出物についても、同様に評価を行った。
<臭気の判定基準>
A :ほぼ無臭である。
B :コンニャク芋の飛び粉に由来する特有の臭いがやや感じられるものの、水蒸気処理前に比べて臭いが低減しており、他の臭いは発生していない。
C1:水蒸気処理前に比べて臭いが低減しておらず、コンニャク芋特有の臭いがある。
C2:コンニャク芋の飛び粉に由来する特有の臭いは低減しているが、他の臭いが発生している。
【0050】
結果を表1に示す。150℃又は130℃の温度条件で水蒸気処理を行ったコンニャク芋抽出物では、コンニャク芋の飛び粉に由来する特有の臭い自体は低減できていたが、グルコシルセラミド含量の低下と共に、他の臭いが発生していた(比較例2及び3)。これに対して、60~150℃の温度条件で水蒸気処理を行ったコンニャク芋抽出物では、コンニャク芋の飛び粉に由来する特有の臭いを十分に脱臭できており、しかもグルコシルセラミド含量も安定に維持されていた(実施例1~4)。とりわけ、80~100℃の温度条件で水蒸気処理を行ったコンニャク芋抽出物では、ほぼ無臭になっており、格段に優れた脱臭効果が認められた。
【0051】
なお、80℃以上の温度条件で水蒸気処理を行った場合には、コンニャク芋抽出物は固化することなく十分な流動性が認められ、水蒸気処理が不十分になったり、水蒸気処理の操作が困難になったりすることはなかった。
【0052】
【表1】
【0053】
試験例2:コンニャク芋抽出物の脱臭試験(水蒸気処理時の圧力の検討)
コンニャク芋抽出物2gをフラスコに入れて、フラスコ内を表2に示す各真空度に維持しながら、フラスコをオイルバスに浸けて80℃に加熱した状態で、フラスコ内のコンニャク芋抽出物中に水蒸気を60分間吹き込むことにより、水蒸気処理を行った。各真空度での水蒸気の吹き込み量(60分間で吹き込んだ水蒸気の合計量)は表2に示す通りである。
【0054】
水蒸気処理後のコンニャク芋抽出物について、前記試験例1と同様の方法で臭気の評価を行った。また、比較のために、水蒸気処理に供していないコンニャク芋抽出物についても、同様に評価を行った。
【0055】
結果を表2に示す。この結果、コンニャク芋抽出物に対する水蒸気処理時の真空度は、0.4~101.33kPaのいずれの場合でも、優れた脱臭効果が認められた(実施例5~9)。
【0056】
【表2】
【0057】
試験例3:コンニャク芋抽出物の脱臭試験(水蒸気処理時の蒸気の吹き込み量の検討)
コンニャク芋抽出物2gをフラスコに入れて、フラスコ内の真空度を0.4kPaに維持しながら、フラスコをオイルバスに浸けて60℃に加熱した状態で、フラスコ内のコンニャク芋抽出物中に、表3に示す水蒸気を吹き込み量(込んだ水蒸気の合計量)となるように60分間吹き込むことにより、水蒸気処理を行った。
【0058】
水蒸気処理後のコンニャク芋抽出物について、前記試験例1と同様の方法で臭気の評価を行った。また、比較のために、水蒸気処理に供していないコンニャク芋抽出物についても、同様に評価を行った。
【0059】
結果を表3に示す。この結果、コンニャク芋抽出物1g当たりの水蒸気の吹き込み量が2~41gのいずれの場合でも、優れた脱臭効果が認められた(実施例10~14)。とりわけ、コンニャク芋抽出物1g当たりの水蒸気の吹き込み量が5~41gの場合には、格段に優れた脱臭効果が認められた(実施例10~13)。
【0060】
【表3】
【0061】
試験例4:コンニャク芋の飛び粉の脱臭試験
コンニャク芋の飛び粉2gをフラスコに入れて、フラスコ内の真空度を5kPaに維持しながら、フラスコをオイルバスに浸けて60℃に加熱した状態で、表3に示す温度、処理時間、及び水蒸気の吹き込み量(込んだ水蒸気の合計量)となるようにフラスコ内のコンニャク芋の飛び粉中に水蒸気を吹き込むことにより、水蒸気処理を行った。
【0062】
水蒸気処理後のコンニャクの飛び粉を用いて、前記製造例と同条件で抽出処理を行い、コンニャク芋抽出物を得た。コンニャク芋抽出物について、前記試験例1と同様の方法で臭気の評価を行った。また、比較のために、水蒸気処理に供していないコンニャク芋の飛び粉を使用して同条件でコンニャク芋抽出物を得て、同様の方法で臭気の評価を行った。
【0063】
結果を表4に示す。この結果、コンニャク芋の飛び粉に対して、100℃以下で水蒸気処理を行うことにより、コンニャク芋の飛び粉に由来する特有の臭いを十分に脱臭できることが確認された(実施例15~18)。とりわけ、60~100℃の温度条件で水蒸気処理を行ったコンニャク芋の飛び粉では、ほぼ無臭の抽出物が得られ、格段に優れた脱臭効果が認められた。
【0064】
【表4】