(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002444
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法及び応用
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20221227BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20221227BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20221227BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C02F3/12 P
G01N27/62 V ZAB
C02F3/12 V
G01N33/18 B
G01N30/88 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004705
(22)【出願日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】202110691892.4
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】胡海冬
(72)【発明者】
【氏名】廖可薇
(72)【発明者】
【氏名】任洪強
【テーマコード(参考)】
2G041
4D028
【Fターム(参考)】
2G041AA09
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA06
2G041HA01
2G041LA05
2G041LA06
2G041LA08
4D028AB00
4D028CC02
4D028CE01
4D028CE03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】検出スループットが高く、汎用性が強く、操作が簡単、快速であり、下水にある外来と内生溶解性有機窒素の定性及び定量が達成できる、溶解性有機窒素判別方法を提供する。
【解決手段】方法は下記のステップを含む。(1)下水にある溶解性有機窒素を抽出する。(2)溶解性有機窒素抽出液にあるマススペクトルピークを検出する。(3)下水サンプルのスペクトログラムデータに対する前処理を行う。(4)下水における物質反応のネットワーク関係を構築する。(5)溶解性有機窒素の物質反応関係をスクリーニングする。(6)ソースの異なる溶解性有機窒素を確定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析技術とリアクションオミクス分析技術により構築した下水サンプルにおける外来DONと内生DONに関する定性・定量方法であり、具体的な構築ステップが、
(a)下水にあるDONを抽出するステップと、固相抽出コラムで下水サンプルに対する前処理、コラムによる活性化、サンプル入れ、すすぎ及び溶出により下水にあるDONを他の妨害物と分離させ、下水にあるDONを濃縮すてDON抽出液を取得し、
(b)DON抽出液にあるマススペクトルピークを検出するステップと、液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計でDON抽出液に対するフルスキャン分析検出を行って下水にあるDONの検出スペクトログラムを取得し、
(c)下水サンプルのスペクトログラムデータに対する前処理を行うステップと、前記の下水にあるDONの検出スペクトログラムに対して背景信号値の控除、妨害ピークの排除及び騒音信号の除去を行って前処理済下水サンプルのスペクトログラムデータを取得し、
(d)下水における物質反応のネットワーク関係を構築するステップと、リアクションオミクス分析技術で下水サンプルのスペクトログラムデータのピーク抽出を行い、時間の階層的クラスタリングを保留し、ピークに対して冗長性を除去し、下水サンプルのスペクトログラムデータを簡単にし、下水サンプルの全局的反応質量差関係を確立し、その中の独立したマススペクトルピークをスクリーニングし、下水サンプルにおける物質反応の高周波質量差のマトリックスを構築し、高周波質量差のマトリックス及び物質反応データベースと結び合わせて下水における物質反応のネットワーク関係図を生成するようにし、
(e)DONの物質反応関係をスクリーニングするステップと、ネットワーク関係図にあるマススペクトルピークをDONデータベースとマッチングしてマススペクトルピークに対応する物質分子式を取得し、ネットワーク関係図でDONと関連する高周波質量差関係をスクリーニングしてDONの物質反応関係を取得し、
(f)ソースの異なるDONを確定するステップとを含み、DONの物質反応関係における各DON分子の反応関係連結度及び反応距離を算出し、反応関係連結度及び反応距離によって外来DONと内生DONを区分する
ことを特徴とする下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項2】
前記の下水サンプルが町部の下水処理場にある単一処理ユニットの下水サンプル、町部の下水処理場にある複数の処理ユニットの下水サンプルの集合、町部の下水処理場のフルプロセスの下水サンプルの集合及び町部の下水処理場の下水サンプルを含み、前記の外来DONが下水処理中に完全に分解していないDON、入水中に分解できないまたは生物分解し難いDONであり、前記の内生DONが微生物系DON、外来DONの微生物転化の産物及び下水処理過程のDON副産物であることを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項3】
ステップ(a)で、前記の固相抽出コラムがスチレン・ジビニルベンゼン共重合体をフィラーにした市販固相抽出コラムであり、前記の下水サンプルに対する前処理が0.45μmのアセテート繊維製ろ過膜でろ過してからACS等級の高純度塩酸でpHが2となるまで酸化することであり、前記のコラムによる活性化が相次ぎにLC-MS等級のメタノールの10~15mL及びpHが2である超純水の20~25mLで固相抽出コラムをろ過すること、前記のすすぎがpHが2である超純水の20~25mLで固相抽出コラムをろ過すること、前記の溶出が窒素ガスで乾燥するまで固相抽出コラムにある液体を除去してからLC-MS等級のメタノールの5~15mLで固相抽出コラムをろ過することであり、固相抽出コラムのろ過流速が0.5~2.0mL/minに制御され、装置で検出されるまでDON抽出液が0.22μmの有機系ろ過膜でろ過され、その中の溶解性有機炭素の濃度が50~100mg/Lにあることを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項4】
ステップ(b)で、液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計の仕様はスキャンモードが陽イオンと陰イオンのイオン化モード、イオン化源がエレクトロスプレーイオン化源、流速が0.2~0.5mL/minであり、スペクトログラムの採集範囲が50~1200Daにあることを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項5】
前記のステップ(c)で、背景信号値の取得方法は超純水を処理されるサンプルにし、ステップ(a)及びステップ(b)と同じ操作により背景信号を取得し、ピーク強度差減算で背景信号を控除し、減算後のピーク強度が少なくとも1000にあるマススペクトルピークを保留し、前記の下水サンプルのスペクトログラムデータがR言語における「XCMS」パッケージで転換された「.mzrt」データであることを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項6】
前記のステップ(d)で、リアクションオミクス分析技術が生物化学反応中にDONが参加する物質反応の全過程にそれと対応する反応物DONと反応産物DON、及び反応物DONと反応産物DONとの間の決まった質量差の関係があり、物質反応の過程が未知である条件で、質量差の関係によりサンプルにある反応物DON、反応産物DON及びDONが参加する物質反応の過程を取得でき、
前記のピークに対して冗長性を除去することは下水サンプルのスペクトログラムデータにある余ったマススペクトルピークを除去することであり、
前記の時間の階層的クラスタリングを保留することはR言語における「getpaired」関数で下水サンプルにおける質量差の関係を算出し、漸化式(1)によって時間クラスタリングを保留し、10以上のD値をカットオフ分布のしきい値にし、
式の中、
RT
m、RT
n::時間データを保留する結合されたクラスター
RT
1:計算される単一保留時間データ
D値:RT
1と時間データを保留する結合されたクラスター(RT
m、RT
n)との距離
前記の高周波質量差関係はR言語における「getstd」関数で質量差関係にあるアダクトを控除し、中性が紛失し、アイソトープ及び共同断片後の質量差の関係、前記の高周波質量差のマトリックスは式(2)によってマススペクトルピークをマトリックス要素にする物質反応マトリックスであり、
式の中、
:マススペクトルピーク
:マススペクトルピークの潜在的母体反応物
前記の物質反応データベースはKEGGデータベースとHMDBデータベースであり、
前記の物質反応のネットワーク関係図は物質反応の最小質量差を連結、マススペクトルピークをノードにし、関係値が少なくとも0.6にあるトポロジー関係である
ことを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項7】
前記の最小質量差の式は、
式の中、
PMD
BKは物質反応の最小質量差
:マススペクトルピーク
:マススペクトルピークの潜在的母体反応物
であることを特徴とする請求項6に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項8】
ステップ(e)で、前記のマススペクトルピークに対応する物質分子式のマッチングルールはマススペクトルピーク誤差<5ppm、保留時間誤差<2minにあり、窒素原子の偶数個を含むDON分子の相対分子質量が偶数、窒素原子の奇数個を含むDON分子の相対分子質量が奇数であり、分子式のマッチング得点>90にあることを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項9】
ステップ(f)で、前記の連結度が物質反応関係のマトリックスにおける各DON分子が参加する物質反応個数であり、
前記の反応距離は物質反応関係のマトリックスにおけるDON分子の間の連結距離であり、即ち、隣り合うマトリックス
で、分子連結度が
、DON分子の反応距離が
であり、その中、Aは隣り合うマトリックス、
はDON分子iとDON分子jとの関係のディスクリプタ、NはDON分子個数、
はDON分子iの連結度、
はDON分子iとDON分子jとの間の最短連結関係の個数、LはDONの物質反応関係ネットワークの平均連結長さであり、
反応関係連結度と反応距離は下水サンプルにおける連結度の中央値をメインカットオフ値、反応距離中央値を二次カットオフ値、
のDON分子を外来DON分子に区分し、
はDON分子が内生DON分子、その中の
が連結度の中央値、
が反応距離中央値である
ことを特徴とする請求項1に記載の下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法。
【請求項10】
前記方法を下水にある外来と内生DONの定性及び定量に応用することを特徴とする請求項1に記載の方法の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水処理の分野に属し、更に具体的に、下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法及び応用に関わる。
【背景技術】
【0002】
溶解性有機窒素(dissolved organic nitrogen, DON)は町部の下水処理場における溶解性全窒素の重要な部分であり、下水濃度が約0.50~6.46mg/Lにあり、下水の溶解性全窒素の約25~80%を占める。下水にあるDONは消毒副産物の前駆体とすることができ、消毒段階に発がん性消毒副産物が発生すると同時に、下水処理場の下水にあるDONが成長する藻類に刺激を与え、受水による富栄養化につながる。よって、下水にあるDONは下水処理中に無視できない課題である。町部の下水処理場で、下水にあるDONはその源に応じて外来DON及び内生DONに区分できる。外来DONは下水処理場の入水由来のDONであり、下水処理中に完全に分解していないDON、入水中に分解できないまたは生物分解し難いDONを含み、内生DONは下水処理過程由来のDONであり、微生物系DON、外来DONの微生物転化産物及び下水処理過程のDON副産物を含む。既存の研究によると、外来DONと内生DONは主要分子構成、転化行動、環境影響及び管理要素などで顕著に違っている。よって、下水処理場の運営効果を評価し、下水処理場の運営管理策を制定する場合に外来DONと内生DONに対する区分が必要である。
【0003】
近年以来、研究者はますますソースの異なるDONの差異性及び下水にあるソースの異なるDONに対する判別の必要性を認識してきたが、現在、下水にあるソースの異なるDONの区分及びそれに関する定性・定量研究に対する妨害が相変わらず多い。町部での下水処理中に、外来DONと内生DONが同時に下水に存在できるので、大多数の分析技術手段により外来DONと内生DONとの分離を達成し難い。ソースの異なるDONの判別は主にマクロ濃度及び分子構成に関わる。マクロ濃度では、従来の方法は数学モデルによる予測または模擬下水実験による下水にある内生DONの濃度測定により混合システムにおける内生DONの定量に関する課題を解決し、更に差減算で外来DONの定量に達成することである。分子構成では、従来の方法によると、ソースの異なるDONの代表的な特徴成分に対する解析により外来DONと内生DONの定性に関する課題を解決する。ソースの異なるDONの判別で打ち破りを取得したが、同時にマクロ濃度と分子構成でソースの異なるDONの区分を行うことは相変わらず巨大な挑戦である。中国特許出願番号CN201910861998.7は下水にある微生物系溶解性有機窒素の予測モデル及びその応用を開示し、活性汚泥システムにおける微生物系DONの発生及び消耗に関する動力学原理に基づいて微生物系DONを対象にする予測モデルを構築し、モデル感度分析及びパラメータ見積もり成績と結び合わせて予測モデルの正確度校正を行い、校正された予測モデルを実際に下水処理場の下水における微生物系DONの予測に応用する。この方法は混合システムにおける微生物系DONの定量に達成できるが、内生DONの一部(微生物系DON)に対する定量に留まり、ソースの異なるDONの判別方法について改善できる課題が多い。下水にあるDONは構成が複雑であり、分子構成が様々であり、分子構成から下水にあるソースの異なるDONに対する判別を行い、マクロ濃度の変化と結び合わせて分析を行うことが更に必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の下水にあるソースの異なるDON判別方法にある同時にマクロ濃度及び分子構成で外来DONと内生DONを区分できないという課題を解決し、機器及びパラメータ条件に対する従来の方法の依存性を改善し、下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法及び応用を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法は液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析技術及びリアクションオミクス分析技術により構築した下水サンプルにおける外来DONと内生DONを同期に定性及び定量を行う方法であり、具体的な構築ステップが次のとおりである。
【0006】
(a)下水にあるDONを抽出する。固相抽出コラムで下水サンプルに対する前処理、コラムによる活性化、サンプル入れ、すすぎ及び溶出により下水にあるDONを他の妨害物と分離させ、下水にあるDONを濃縮して検出されるDON抽出液を取得する。
【0007】
(b)DON抽出液にあるマススペクトルピークを検出する。液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計でDON抽出液に対するフルスキャン分析検出を行って下水にあるDONの検出スペクトログラムを取得する。
【0008】
(c)下水サンプルのスペクトログラムデータに対する前処理を行う。前記の下水にあるDONの検出スペクトログラムに対して背景信号値の控除、妨害ピークの排除及び騒音信号の除去を行って前処理済下水サンプルのスペクトログラムデータを取得する。
【0009】
(d)下水における物質反応のネットワーク関係を構築する。リアクションオミクス分析技術で下水サンプルのスペクトログラムデータのピーク抽出を行い、時間の階層的クラスタリングを保留し、ピークに対して冗長性を除去し、下水サンプルのスペクトログラムデータを簡単にし、下水サンプルの全局的反応質量差関係を確立し、その中の独立したマススペクトルピークをスクリーニングし、下水サンプルにおける物質反応の高周波質量差のマトリックスを構築し、高周波質量差のマトリックス及び物質反応データベースと結び合わせて下水における物質反応のネットワーク関係図を生成するようにする。
【0010】
(e)DONの物質反応関係をスクリーニングする。ネットワーク関係図にあるマススペクトルピークを質量分析のデータベースとマッチングしてマススペクトルピークに対応する物質分子式を取得し、ネットワーク関係図でDONと関連する高周波質量差関係をスクリーニングしてDONの物質反応関係を取得する。
【0011】
(f)ソースの異なるDONを確定する。DONの物質反応関係における各DON分子の反応関係連結度及び反応距離を算出し、反応関係連結度及び反応距離によって外来DONと内生DONを区分する。
【0012】
更に、下水サンプルが町部の下水処理場にある単一処理ユニットの下水サンプル、町部の下水処理場にある複数の処理ユニットの下水サンプルの集合、町部の下水処理場のフルプロセスの下水サンプルの集合及び町部の下水処理場の下水サンプルを含み、外来DONが下水処理中に完全に分解していないDON、入水中に分解できないまたは生物分解し難いDONであり、内生DONが微生物系DON、外来DONの微生物転化産物及び下水処理過程のDON副産物である。
【0013】
更に、ステップ(a)で、固相抽出コラムがスチレン・ジビニルベンゼン共重合体をフィラーにした市販固相抽出コラムであり、下水サンプルに対する前処理が0.45μmのアセテート繊維製ろ過膜でろ過してからACS等級の高純度塩酸でpHが2となるまで酸化することであり、コラムによる活性化が相次ぎにLC-MS等級のメタノールの10~15mL及びpHが2である超純水の20~25mLで固相抽出コラムをろ過することであり、すすぎがpHが2である超純水の20~25mLで固相抽出コラムをろ過することであり、溶出が窒素ガスで乾燥するまで固相抽出コラムにある液体を除去してからLC-MS等級のメタノールの5~15mLで固相抽出コラムをろ過することであり、固相抽出コラムのろ過流速が0.5~2.0mL/minに制御され、装置で検出されるまでDON抽出液が0.22μmの有機系ろ過膜でろ過され、その中の溶解性有機炭素の濃度が50~100mg/Lにある。
【0014】
更に、ステップ(b)で、液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計の仕様はスキャンモードが陽イオンと陰イオンのイオン化モード、イオン化源がエレクトロスプレーイオン化源、流速が0.2~0.5mL/minであり、スペクトログラムの採集範囲が50~1200Daにある。
【0015】
更に、ステップ(c)で、背景信号値の取得方法は超純水を処理されるサンプルにし、ステップ(a)及びステップ(b)と同じ操作により背景信号を取得し、ピーク強度差減算で背景信号を控除し、減算後のピーク強度が少なくとも1000にあるマススペクトルピークを保留し、下水サンプルのスペクトログラムデータがR言語における「XCMS」パッケージで転換された「.mzrt」データである。
【0016】
更に、ステップ(d)で、リアクションオミクス分析技術が生物化学反応中にDONが参加する物質反応の全過程にそれと対応する反応物DONと反応産物DON、及び反応物DONと反応産物DONとの間の決まった質量差の関係があり、物質反応の過程が未知である条件で、質量差の関係によりサンプルにある反応物DON、反応産物DON及びDONが参加する物質反応の過程を取得できる。
【0017】
ピークに対して冗長性を除去することは下水サンプルのスペクトログラムデータにある余ったマススペクトルピークを除去することである。
【0018】
時間の階層的クラスタリングを保留することはR言語における「getpaired」関数で下水サンプルにおける質量差の関係を算出し、漸化式(1)によって時間クラスタリングを保留し、10以上のD値をカットオフ分布のしきい値にする。
【0019】
【0020】
式の中、
RTm、RTn:時間データを保留する結合されたクラスター
【0021】
RT1:計算される単一保留時間データ
【0022】
D値:RT1と時間データを保留する結合されたクラスター(RTm、RTn)との距離
【0023】
高周波質量差関係はR言語における「getstd」関数で質量差関係にあるアダクトを控除し、中性が紛失し、アイソトープ及び共同断片後の質量差の関係である。高周波質量差のマトリックスは式(2)によってマススペクトルピークをマトリックス要素にする物質反応マトリックスである。
【0024】
式の中、
:マススペクトルピーク
:マススペクトルピークの潜在的母体反応物
【0025】
物質反応データベースはKEGGデータベースとHMDBデータベース、物質反応のネットワーク関係図は物質反応の最小質量差を連結、マススペクトルピークをノードにし、関係値が少なくとも0.6にあるトポロジー関係である。
【0026】
【0027】
式の中、
PMD
BK:物質反応の最小質量差
:マススペクトルピーク
:マススペクトルピークの潜在的母体反応物
【0028】
更に、ステップ(e)で、マススペクトルピークに対応する物質分子式のマッチングルールはマススペクトルピーク誤差<5ppm、保留時間誤差<2min、窒素原子の偶数個を含むDON分子の相対分子質量が偶数、窒素原子の奇数個を含むDON分子の相対分子質量が奇数であり、分子式のマッチング得点>90にある。
【0029】
更に、ステップ(f)で、連結度は物質反応関係のマトリックスにおける各DON分子が参加する物質反応個数、反応距離は物質反応関係のマトリックスにおけるDON分子の間の連結距離である。即ち、隣り合うマトリックス
で、DON分子連結度が
、DON分子の反応距離が
である。その中、Aは隣り合うマトリックス、
はDON分子iとDON分子jとの関係のディスクリプタ、NはDON分子個数、
はDON分子iの連結度、
はDON分子iとDON分子jとの間の最短連結関係の個数、LはDONの物質反応関係ネットワークの平均連結長さである。
【0030】
反応関係連結度と反応距離は下水サンプルにおける連結度の中央値をメインカットオフ値、反応距離中央値を二次カットオフ値、
のDON分子を外来DON分子に区分し、
はDON分子が内生DON分子、その中の
が連結度の中央値、
が反応距離中央値である。
【0031】
本発明は前記の方法の応用も提供する。この方法を下水にある外来と内生溶解性有機窒素の定性及び定量に応用すると、外来DONと内生DONとの割合を定量できる。
【発明の効果】
【0032】
(1)本発明は操作が簡単であり、同期に定性及び定量を行い、マクロ濃度及び分子構成でソースの異なるDONを判別する方法を提供し、従来の分析方法で実際に下水にある外来DONと内生DONを区分し難い課題を解決した。
【0033】
(2)本発明は下水システムにおけるDONの反応原理と規律に基づき、液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析による快速検出、高効率分離の特性と結び合わせ、事前に有効な高周波数による物質反応関係をスクリーニングし、計算のステップを大いに簡単にし、偽陽性の検出率を低くし、同時に検出の高スループットと正確度を確保できる。
【0034】
(3)本発明はリアクションオミクス分析技術で下水にあるDON分子の固有反応関係を研究し、DONの物質反応関係におけるトポロジー構成の差異によってソースの異なるDONの区分を行い、機器条件に対する従来の方法の依存性を降下させ、ソースの異なるDON判別方法の汎用性を強化し、方法の応用性の向上につながる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の下水にあるソースの異なるDON判別のフローチャート。
【
図2】本発明の実施例1のソースの異なるDONの物質反応トポロジー構造図。
【
図3】本発明の実施例2のソースの異なるDONの物質反応トポロジー構造図。
【
図4】本発明の実施例3のソースの異なるDONの物質反応トポロジー構造図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に具体的な実施例と結び合わせて本発明について更に詳細に説明するが、本発明はそれに限るものではない。
【実施例0037】
本実施例の応用対象はある下水処理場Aの生物段の下水である。下水処理場Aは日間処理量が4.5万m
3、主要プロセスが酸化溝プロセスであり、生物段の下水がCODの25.59mg/L、全窒素の7.31mg/L、全リンの0.40mg/L、アンモニア態窒素の0.06mg/L、硝酸態窒素の2.31mg/L、亜硝酸態窒素の0.09mg/L及びDONの4.85mg/Lを含み、生物段の下水DONにおける外来DONと内生DONの判別ステップが
図1のとおりである。下水にあるソースの異なる溶解性有機窒素の判別方法は液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析技術及びリアクションオミクス分析技術により構築した下水サンプルにおける外来DONと内生DON同期に定性及び定量を行う方法であり、具体的な構築ステップが次のとおりである。
【0038】
ステップ1:下水にあるDONを抽出する。スチレン・ジビニルベンゼン共重合体をフィラーにした市販固相抽出コラムで下水にあるDONを濃縮する。0.45μmのアセテート繊維製ろ過膜でろ過を行い、ACS等級の高純度塩酸で濾過された下水サンプルをpHが2となるまで酸化し、相次ぎにLC-MS等級のメタノールの10mL及びpHが2である超純水の20mLで活性化し、固相でコラムを抽出し、0.5mL/minの流速でサンプルを入れ、pHが2である超純水の20mL ですすぎ、固相でコラムを抽出し、最後に窒素ガスで乾燥するまで吹き、固相でコラムを抽出し、LC-MS等級のメタノールの10mLで溶出し、検出されるDON抽出液を取得し、装置で検出されるまでDON抽出液が0.22μmの有機系ろ過膜でろ過され、その中の溶解性有機炭素の濃度が100mg/Lである。
【0039】
ステップ2: DON抽出液のマススペクトルピークを検出する。液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計でDON抽出液に対するフルスキャン分析検出を行って液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計のスキャンモードを陽イオンと陰イオンのイオン化モードに設定し、イオン化源がエレクトロスプレーイオン化源、流速が0.2mL/minであり、スペクトログラムの採集範囲が50~1200Daにあり、機器に設置して検出を行い、下水にあるDONの検出スペクトログラムを取得する。
【0040】
ステップ3:下水サンプルのスペクトログラムデータに対する前処理を行う。超純水を処理されるサンプルにし、下水サンプルと同じ操作で背景信号を取得し、ピーク強度差減算で背景信号を控除し、減算後のピーク強度が少なくとも1000にあるマススペクトルピークを保留し、下水サンプルの検出スペクトログラムに対して背景信号値の控除、妨害ピークの排除及び騒音信号の除去を行ってR言語における「XCMS」パッケージで下水サンプルのスペクトログラムデータを「.mzrt」フォーマットのデータに転換する。
【0041】
ステップ4:下水における物質反応のネットワーク関係を構築する。リアクションオミクス分析技術で下水サンプルのスペクトログラムデータのピーク抽出を行い、時間の階層的クラスタリングを保留し、ピークに対して冗長性を除去し、下水サンプルのスペクトログラムデータを簡単にし、下水サンプルの全局的反応質量差関係を確立し、その中の独立したマススペクトルピークをスクリーニングし、下水サンプルにおける物質反応の高周波質量差のマトリックスを構築し、高周波質量差のマトリックス及び物質反応データベースと結び合わせて下水における物質反応のネットワーク関係図を生成するようにする。その中、リアクションオミクス分析技術が生物化学反応中にDONが参加する物質反応の全過程にそれと対応する反応物DONと反応産物DON、及び反応物DONと反応産物DONとの間の決まった質量差の関係があり、物質反応の過程が未知である条件で、質量差の関係によりサンプルにある反応物DON、反応産物DON及びDONが参加する物質反応の過程を取得できる。ピークに対して冗長性を除去することは下水サンプルのスペクトログラムデータにある余ったマススペクトルピークを除去することである。時間の階層的クラスタリングを保留することはR言語における「getpaired」関数で下水サンプルにおける質量差の関係を算出し、漸化式
による10以上のD値をカットオフ分布のしきい値にし、時間クラスタリングを保留する。その中、RT
m及びRT
nは時間データを保留する結合されたクラスター、RT
1は計算される単一保留時間データ、D値はRT
1と時間データを保留する結合されたクラスター(RT
m、RT
n)との距離、高周波質量差関係はR言語における「getstd」関数で質量差関係にあるアダクトを控除し、中性が紛失し、アイソトープ及び共同断片後の質量差の関係、高周波質量差のマトリックスはマススペクトルピークをマトリックス要素にする物質反応マトリックスである。即ち、
【0042】
その中、
はマススペクトルピーク、
はマススペクトルピークの潜在的母体反応物、物質反応データベースはKEGGデータベースとHMDBデータベースであり、物質反応のネットワーク関係図は物質反応の最小質量差を連結、マススペクトルピークをノードにし、関係値が少なくとも0.6にあるトポロジー関係である。その中、最小質量差の式は下記である。
【0043】
【0044】
ステップ5:DONの物質反応関係をスクリーニングする。マッチングルールによると、マススペクトルピーク誤差<5ppm、保留時間誤差<2minにあり、窒素原子の偶数個を含むDON分子の相対分子質量が偶数、窒素原子の奇数個を含むDON分子の相対分子質量が奇数であり、分子式のマッチング得点>90にあり、ネットワーク関係図にあるマススペクトルピークを質量分析のデータベースとマッチングしてマススペクトルピークに対応する物質分子式を取得し、ネットワーク関係図でDONと関連する高周波質量差関係をスクリーニングしてDONの物質反応関係を取得する。
【0045】
ステップ6:ソースの異なるDONを確定する。DONの物質反応関係における各DON分子の反応関係連結度及び反応距離を算出し、反応関係連結度及び反応距離によって外来DONと内生DONを区分する。連結度は物質反応関係のマトリックスにおける各DON分子が参加する物質反応個数であり、反応距離は物質反応関係のマトリックスにおけるDON分子の間の連結距離である。即ち、隣り合うマトリックス
で、DON分子連結度が
、DON分子の反応距離が
である。その中、Aは隣り合うマトリックス、
はDON分子iとDON分子jとの関係のディスクリプタ、NはDON分子個数、
はDON分子iの連結度、
はDON分子iとDON分子jとの間の最短連結関係の個数、LはDONの物質反応関係ネットワークの平均連結長さである。反応関係連結度と反応距離は下水サンプルにおける連結度の中央値をメインカットオフ値、反応距離中央値を二次カットオフ値、
のDON分子を外来DON分子に区分し、
はDON分子が内生DON分子、その中の
が連結度の中央値、
が反応距離中央値である。
【0046】
図2に示すとおりに、この方法で下水処理場A生物段の下水のDON分子を外来DON分子及び内生DON分子に区分し、各々外来DON分子と内生DON分子のマススペクトルピーク強度値を計算し、DON濃度が4.85mg/Lである下水処理場A生物段の下水における外来DONの割合の58.3%、内生DONの割合の41.7%を確認できる。
ステップ1:下水にあるDONを抽出する。スチレン・ジビニルベンゼン共重合体をフィラーにした市販固相抽出コラムで下水にあるDONを濃縮する。0.45μmのアセテート繊維製ろ過膜でろ過を行い、ACS等級の高純度塩酸で濾過された下水サンプルをpHが2となるまで酸化し、相次ぎにLC-MS等級のメタノールの15mL、pHが2である超純水の25mで活性化し、固相でコラムを抽出し、2.0mL/minの流速でサンプルを入れ、pHが2である超純水の25mですすぎ、固相でコラムを抽出し、最後に窒素ガスで乾燥するまで吹き、固相でコラムを抽出し、LC-MS等級のメタノールの15mLで溶出し、検出されるDON抽出液を取得し、装置で検出されるまでDON抽出液が0.22μmの有機系ろ過膜でろ過され、その中の溶解性有機炭素の濃度が70mg/Lである。
ステップ2:DON抽出液にあるマススペクトルピークを検出する。液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計でDON抽出液に対するフルスキャン分析検出を行って液体クロマトグラフィー・高分解能質量分析計のスキャンモードを陽イオンと陰イオンのイオン化モードに設定し、イオン化源がエレクトロスプレーイオン化源、流速が0.5mL/minであり、スペクトログラムの採集範囲が100~1000 Daにあり、機器に設置して検出を行い、下水にあるDONの検出スペクトログラムを取得する。
ステップ3:下水サンプルのスペクトログラムデータに対する前処理を行う。超純水を処理されるサンプルにし、下水サンプルと同じ操作で背景信号を取得し、ピーク強度差減算で背景信号を控除し、保留減算後のピーク強度が少なくとも3000にあるマススペクトルピーク、下水サンプルの検出スペクトログラムに対して背景信号値の控除、妨害ピークの排除及び騒音信号の除去を行ってR言語における「XCMS」パッケージで下水サンプルのスペクトログラムデータを「.mzrt」フォーマットのデータに転換する。
ステップ5:DONの物質反応関係をスクリーニングする。マッチングルールによると、マススペクトルピーク誤差<3ppm、保留時間誤差<1minにあり、窒素原子の偶数個を含むDON分子の相対分子質量が偶数、窒素原子の奇数個を含むDON分子の相対分子質量が奇数であり、分子式のマッチング得点>90にあり、ネットワーク関係図にあるマススペクトルピークを質量分析のデータベースとマッチングしてマススペクトルピークに対応する物質分子式を取得し、ネットワーク関係図でDONと関連する高周波質量差関係をスクリーニングしてDONの物質反応関係を取得する。