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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024472
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】画像光反射ユニット
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20230209BHJP
   G02B 7/182 20210101ALI20230209BHJP
   G02B 7/00 20210101ALI20230209BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B7/182
G02B7/00 B
B60K35/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187992
(22)【出願日】2022-11-25
(62)【分割の表示】P 2021019963の分割
【原出願日】2013-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221926
【氏名又は名称】東北パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 俊一
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 祥夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸之
(57)【要約】
【課題】外景に重畳される画像の見え方の、コンバイナ(光学素子)の回動の前後での変化が抑制されたコンバイナユニット(画像光反射ユニット)を提供する。
【解決手段】
光源10から出射された画像を構成する光を反射面210aで反射させることで、前記画像を使用者に視認させる光学素子と、その光学素子を回動可能に保持すると共に、光学素子を仮想軸210bを中心として回動させることで前記反射面の使用者に対する傾き角度を調整する角度調整機構220と、を備え、仮想軸210bは、前記反射面210aの略中央において前記反射面210aに接する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射された画像を構成する光を反射面で反射させることで、前記画像を使用者に視認させる光学素子と、
前記光学素子を回動可能に保持すると共に、前記光学素子を仮想軸を中心として回動させることで前記反射面の前記使用者に対する傾き角度を調整する角度調整機構と、
を備え、
前記仮想軸は、前記反射面の略中央において前記反射面に接することを特徴とする画像光反射ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナ(光学素子)を有するコンバイナユニット(画像光反射ユニット)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の乗員に、ナビゲーション情報等の各種の情報を外景に重畳して視認させるヘッドアップディスプレイが多く提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。このヘッドアップディスプレイの中に、例えば特許文献1に記載されているように、コンバイナ、及びコンバイナを保持する機構からなるコンバイナユニットを備えたものがある。コンバイナは、光源から出射される光を乗員側へ反射することで、その光が描く画像を乗員の視界に投影する。
【0003】
コンバイナユニットの多くでは、コンバイナが、水平面に対して立てられた状態で保持される。そして、車両の乗員の目の高さに、このコンバイナからの反射光を合わせるべく、コンバイナは、鉛直面に対する傾き角度(チルト角度)が使用時に調整される。特許文献1のコンバイナユニットでは、コンバイナが、このコンバイナの下縁側に位置する回転軸を中心に回転自在に保持されている。そして、角度調整時には、この回転軸を中心にコンバイナが回動されてチルト角度が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-268227号公報
【特許文献2】特開2012-133244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、下縁側の回転軸を中心にコンバイナを回動させた場合、光源とコンバイナとの光軸距離が回動前と変わってしまう。ここでいう光軸距離とは、コンバイナの反射面中央と光源とを結ぶ光軸の距離である。この光軸距離が変わってしまうと、コンバイナ越しに外景に重畳される画像の見え方が回動前と変わってしまう。コンバイナユニットの中には、コンバイナの回転軸が、コンバイナの上縁側に位置するものもある。この場合にも、コンバイナを回動させると光源とコンバイナとの光軸距離が変わってしまうので、外景に重畳される画像の見え方が回動前とは変ってしまう。このように、コンバイナの下縁側や上縁側の回転軸を中心にコンバイナが回動されるコンバイナユニットでは、外景に重畳される画像の見え方が、コンバイナの回動の前後で変化してしまうという問題が一例として挙げられる。
【0006】
そこで、本発明は、外景に重畳される画像の見え方の、コンバイナ(光学素子)の回動の前後での変化が抑制されたコンバイナユニット(画像光反射ユニット)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、光源から出射された画像を構成する光を反射面で反射させることで、前記画像を使用者に視認させる光学素子と、前記光学素子を回動可能に保持すると共に、前記光学素子を仮想軸を中心として回動させることで前記反射面の前記使用者に対する傾き角度を調整する角度調整機構と、を備え、前記仮想軸は、前記反射面の略中央において前記反射面に接することを特徴とする画像光反射ユニットである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係るコンバイナユニットを搭載したヘッドアップディスプレイを示す模式図である。
図2】ヘッドアップディスプレイのアイボックスを示す模式図である。
図3】コンバイナユニットの外観斜視図である。
図4図3に示されている一対の保持部材を、固定部材を介して保持されるコンバイナと共に示す図である。
図5図4のパート(B)に示されている側面図を単独で拡大して示した図である。
図6】一対の保持部材のうち、コンバイナの凸面側から見て左側の保持部材が2個の回転ローラによって支持されている様子を示す図である。
図7】保持部材を回動させる駆動部の拡大図である。
図8】下端チルト機構及びセンタレスチルト機構それぞれについて、表示器から出射される光とコンバイナとの、コンバイナを側方から見たときの位置関係を示す模式図である。
図9】コンバイナがフロントガラス側に倒されてチルト角度が大きくなって行くときの、虚像の位置の変化を、下端チルト機構とセンタレスチルト機構との双方について示したグラフである。
図10】コンバイナを倒したときの虚像を、下端チルト機構とセンタレスチルト機構とのそれぞれについて模式的に示す図である。
図11】Distortionの定義式に使われているパラメータを示す図である。
図12】下端チルト機構及びセンタレスチルト機構それぞれについて、表示器から出射される光とコンバイナとの、コンバイナを上方から見たときの位置関係を示す模式図である。
図13】コンバイナのチルト角度を変えてアイボックスの高さを変更したときの、アイボックスのサイズの変化を示すグラフである。
図14】下端チルト機構及びセンタレスチルト機構それぞれについて、表示器から出射される光、コンバイナ、及びアイボックスの、コンバイナを側方から見たときの位置関係を示す図である。
図15】コンバイナのチルト角度を変えたときのアイボックスの高さの変化を示すグラフである。
図16】センタレスチルト機構の方が下縁チルト機構よりも、コンバイナのサイズを大きくできるという利点について説明する模式図である。
図17】保持部材に掛かる力を示す模式図である。
図18】保持部材を回動させる駆動部の、本実施例とは異なる別例の要部を示す模式図である。
図19】保持部材の付勢方法の別例を、本実施例におけるバネによる付勢方法と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例に係る画像光反射ユニットを説明する。本発明の一実施例に係る画像光反射ユニットは、光源から出射された画像を構成する光を反射面で反射させることで、前記画像を使用者に視認させる光学素子と、前記光学素子を回動可能に保持すると共に、前記光学素子を仮想軸を中心として回動させることで前記反射面の前記使用者に対する傾き角度を調整する角度調整機構と、を備え、前記仮想軸は、前記反射面の略中央において前記反射面に接する。
【0010】
ここで、前記仮想軸は、水平面に対して立てられた状態の前記光学素子の上下方向の略中央を左右方向に通ることは好適である。
【0011】
また、前記角度調整機構が、前記光学素子の一端乃至その近傍に設けられ、且つ、前記仮想軸を中心とする円筒における外周面の一部をなす曲面を有する保持部材と、前記保持部材の前記曲面に周面が接する回転ローラを回転することで、前記保持部材を、前記仮想軸を中心に回動させる駆動手段、から構成されることも好適である。
【0012】
また、前記角度調整機構が、前記光学素子の一端乃至その近傍に設けられ、且つ、前記仮想軸を中心とする円筒における外周面の一部をなす曲面を有する保持部材と、前記保持部材の前記曲面に周面が接し、前記保持部材を、前記仮想軸を中心に回動可能に支持する複数の回転ローラと、から構成されることも好適である。
【0013】
また、前記保持部材の前記曲面が形成された面の裏側に、前記仮想軸をピッチ円の中心とする内歯歯車が形成され、前記角度調整機構が、前記内歯歯車と噛み合う円形歯車と、該円形歯車を回転駆動することで、前記保持部材を前記仮想軸を中心に回動させる駆動部と、から構成されるものであることも好適である。
【0014】
また、前記保持部材が、前記光学素子の左右両側それぞれに配され、前記回転ローラが、前記光学素子の左右両側それぞれに位置する前記曲面につき複数ずつ配置されたものであり、前記駆動部が、前記光学素子の左右両端部に位置する前記内歯歯車それぞれに噛み合う2つの円形歯車と、該2つの円形歯車の軸を連結する回転軸と、該回転軸及び前記2つの円形歯車を直接的又は間接的に回転する駆動手段と、から構成されることも好適である。
【0015】
また、前記角度調整機構が、前記保持部材を、前記複数の回転ローラに押し付ける向きに付勢する付勢部材を、更に有するものであることも好適である。
【0016】
また、本発明の他の一実施例に係る画像光反射ユニットは、光源から出射された画像を構成する光を反射面で反射させることで、前記画像を使用者に視認させる光学素子と、前記光学素子を回動可能に保持すると共に、前記光学素子を仮想軸を中心として回動させることで前記反射面の前記使用者に対する傾き角度を調整する角度調整機構と、を備え、前記角度調整機構が、前記光学素子の一端乃至その近傍に設けられ、且つ、前記仮想軸を中心とする円筒における外周面の一部をなす曲面を有する保持部材と、前記保持部材の前記曲面に周面が接する回転ローラを回転することで、前記保持部材を、前記仮想軸を中心に回動させる駆動手段、から構成される。
【0017】
以下、本発明の一実施例に係るコンバイナユニットを説明する。本発明の一実施例に係るコンバイナユニットは、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、光源から出射される光を使用者側へ反射することで、その光が描く画像を、前記使用者の視界に投影するコンバイナと、水平面に対して立てられた状態の前記コンバイナの上下方向の略中央を左右方向に通る仮想軸を中心に前記コンバイナを回動可能に保持すると共に、前記コンバイナを前記仮想軸を中心として回動させることで前記コンバイナの傾き角度を調整する角度調整機構と、を備え、前記仮想軸が、前記コンバイナにおける、前記光源から出射される光を反射する反射面の接線となっている。このコンバイナユニットでは、コンバイナの回動が、コンバイナの上下方向の略中央を左右方向に通る仮想軸を中心に行われる。このため、このコンバイナユニットでは、コンバイナの反射面中央と光源とを結ぶ光軸の距離の、コンバイナの回動の前後での変化が抑えられる。その結果、このコンバイナユニットによれば、外景に重畳される画像の見え方の、コンバイナの回動の前後での変化が抑制される。
【0018】
また、例えば、仮想軸がコンバイナの厚み方向中央を通る軸である場合等と比較して、コンバイナの回動の前後での上記の光軸距離の変化が一層抑制される。
【0019】
前記角度調整機構が、水平面に対して立てられた状態の前記コンバイナの下端乃至その近傍に設けられ、且つ、前記仮想軸を中心とする円筒における外周面の一部をなす曲面を有する保持部材と、前記保持部材の前記曲面に周面が接する回転ローラを回転することで、前記保持部材を、前記仮想軸を中心に回動させる駆動手段、から構成されることは好適である。
【0020】
また、前記角度調整機構が、水平面に対して立てられた状態の前記コンバイナの下端乃至その近傍に設けられ、且つ、前記仮想軸を中心とする円筒における外周面の一部をなす曲面を有する保持部材と、前記保持部材の前記曲面に周面が接し、前記保持部材を、前記仮想軸を中心に回動可能に支持する複数の回転ローラと、から構成されることも好適である。これにより、前記曲面と、それを支持する複数の回転ローラという単純な構成で、コンバイナの位置が、このコンバイナの回動中心が前記仮想軸と一致する位置に位置決めされる。
【0021】
また、前記角度調整機構が前記保持部材と前記複数の回転ローラとから構成されるコンバイナユニットにおいて、前記保持部材の前記曲面が形成された面の裏側に、前記仮想軸をピッチ円の中心とする内歯歯車が形成され、前記角度調整機構が、前記内歯歯車と噛み合う円形歯車と、該円形歯車を回転駆動することで、前記保持部材を前記仮想軸を中心に回動させる駆動部と、から構成されるものであることは更に好適である。これにより、前記保持部材を回動させるための円形歯車が前記裏側に収められるので、前記角度調整機構、延いては、このコンバイナユニットが小型化されることとなる。
【0022】
また、前記曲面が形成された面の裏側に前記内歯歯車が形成され、前記角度調整機構が前記駆動部を有しているコンバイナユニットにおいて、前記保持部材が、前記コンバイナの左右両側それぞれに配され、前記回転ローラが、前記コンバイナの左右両側それぞれに位置する前記曲面につき複数ずつ配置されたものであり、前記駆動部が、前記コンバイナの左右両端部に位置する前記内歯歯車それぞれに噛み合う2つの円形歯車と、該2つの円形歯車の軸を連結する回転軸と、該回転軸及び前記2つの円形歯車を直接的又は間接的に回転する駆動手段と、から構成されることは更に好適である。これにより、コンバイナ回動時のコンバイナの左右両端部の移動距離が等しくなるので、このコンバイナの回動が安定する。
【0023】
また、前記角度調整機構が前記保持部材と前記複数の回転ローラとから構成されるコンバイナユニットにおいて、前記角度調整機構が、前記保持部材を、前記複数の回転ローラに押し付ける向きに付勢する付勢部材を、更に有するものであることは好適である。例えばコンバイナユニットが車載のヘッドアップディスプレイに組み込まれる場合、コンバイナに、上下方向の振動が加わる可能性がある。このような振動によりコンバイナが上下動してしまうと、外景に重畳される画像が上下にぶれてしまう。上記の好適な形態によれば、保持部材が複数の回転ローラに押し付けられているので、このような振動が加わった場合でもコンバイナの上下動が抑えられ、延いては画像のぶれが抑えられる。
【0024】
また、本発明の他の一実施例に係るコンバイナユニットは、ヘッドアップディスプレイ用のコンバイナであって、光源から出射される光を使用者側へ反射することで、その光が描く画像を、前記使用者の視界に投影するコンバイナと、水平面に対して立てられた状態の前記コンバイナの上下方向の略中央を左右方向に通る仮想軸を中心に前記コンバイナを回動可能に保持すると共に、前記コンバイナを前記仮想軸を中心として回動させることで前記コンバイナの傾き角度を調整する角度調整機構と、を備え、前記角度調整機構が、水平面に対して立てられた状態の前記コンバイナの下端乃至その近傍に設けられ、且つ、前記仮想軸を中心とする円筒における外周面の一部をなす曲面を有する保持部材と、前記保持部材の前記曲面に周面が接する回転ローラを回転することで、前記保持部材を、前記仮想軸を中心に回動させる駆動手段、から構成される。
【実施例0025】
本発明の実施例に係るコンバイナユニットを図1乃至図19を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施例に係るコンバイナユニットを搭載したヘッドアップディスプレイを示す模式図である。
【0027】
この図1のヘッドアップディスプレイ1は、車両の乗員に、ナビゲーション情報等の各種の情報を、フロントガラスFGの前方の外景に重畳して視認させるものであり、表示器10、コンバイナユニット20、筺体30、及び操作部40を備えている。また、コンバイナユニット20は、コンバイナ210及び角度調整機構220を備えている。
【0028】
表示器10は、ナビゲーション情報等の各種の情報を表す画像を描く光を、コンバイナユニット20のコンバイナ210に向けて出射する。この表示器10が、本発明にいう光源の一例に相当する。
【0029】
コンバイナ210は、湾曲した透明な樹脂板の凹面に、錫や銀などの光半透過膜が蒸着され、この凹面が反射面210aとなった周知のハーフミラーである。角度調整機構220が、このコンバイナ210を、水平面に対して立てて、且つ、凹面が表示器10及び車両の乗員側を向く状態に保持している。さらに、角度調整機構220は、コンバイナ210を、その上下方向の略中央を左右に通る仮想軸210bを中心に回動可能に保持している。また、この仮想軸210bは、上記の反射面210aに接する軸となっている。角度調整機構220が、本発明にいう角度調整機構の一例に相当する。また、反射面210aが、本発明にいう反射面の一例に相当し、仮想軸210bが、本発明にいう仮想軸の一例に相当する。
【0030】
コンバイナ210は、表示器10から出射される光を反射面210aで車両の乗員側へと反射することで、その光が描く、ナビゲーション情報等の各種の情報を表す画像を乗員の視界に投影する。上記のようにコンバイナ210はハーフミラーであるので、乗員には、その投影された画像が、フロントガラスFGの前方の外景に重畳されてコンバイナ210越しに視認される。また、コンバイナ210が湾曲していることから、乗員には、その画像が、凡そ2~3m前方に浮かんで視認されることとなる。この乗員に視認される画像を、以下では、虚像Pと呼ぶ。ここで、乗員は、アイボックスと呼ばれる視認可能領域内に乗員の目が位置しているときに、虚像Pを視認することができる。
【0031】
尚、本実施形態では、ヘッドアップディスプレイ1は、不図示のダッシュボード内に、コンバイナ210が、このダッシュボード外に突出するように搭載されている。ただし、このコンバイナ210については、本実施形態とは異なり、不使用時には、ダッシュボード内に収納され、使用時にダッシュボードからせり出して来るように構成してもよい。
【0032】
図2は、ヘッドアップディスプレイのアイボックスを示す模式図である。
【0033】
この、図2に示されているように、コンバイナ210は、概ね長方形の板が上下方向及び左右方向に湾曲した形状を有している。そして、このコンバイナ210の形状に応じて、アイボックスEbは直方体形状を有している。図2では、このアイボックスEbの、コンバイナ210側の面の垂直寸法が「V」、その面の水平寸法が「H」、所定の基準面からのアイボックスEbの高さが「T」で記載されている。
【0034】
ここで、乗員の目がアイボックスEb外に位置すると、乗員は虚像Pを視認できなくなってしまう。一方で、車内における乗員の目の位置は、特にその高さが、乗員の身長や姿勢によって異なる。このため、図1に示されているヘッドアップディスプレイ1では、このアイボックスEbの高さが、乗員によって所望の高さに調整できるようになっている。
【0035】
ここで、アイボックスEbの高さTは、コンバイナ210が、仰向く方向に回動されると高くなり、逆に、俯く方向に回動されると低くなる。図1に示されている角度調整機構220は、コンバイナ210を上記の仮想軸210bを中心として回動させることで、このコンバイナ210の、鉛直面に対する傾き角度(チルト角度)を調整する役割を担っている。この角度調整により、アイボックスEbの高さが所望の高さに調整される。
【0036】
本実施例のヘッドアップディスプレイ1には、この角度調整機構220を乗員が操作するための操作部40(図1参照)が設けられている。この操作部40は、車両の乗員が、運転中に特に姿勢を変えることなく操作できる位置に配置されている。このような位置としては、例えば、座席の脇、ハンドル上、ダッシュボードの前面パネル等が挙げられる。乗員は、この操作部40を操作して、角度調整機構220にコンバイナ210を回動させてチルト角度を調整し、アイボックスEbの高さを、自分の目の高さに合わせる。
【0037】
尚、アイボックスEbの高さTの調整方法は、本実施例のように乗員が操作部40を操作して調整する方法に限るものではない。アイボックスEbの高さTの調整方法は、例えば、乗員の目の高さを検知するセンサを設け、その検知結果に応じてコンバイナ210を回動させる方法等であってもよい。この方法では、アイボックスEbの高さは、乗員の目の高さに自動的に合わされることとなる。
【0038】
次に、図1に模式的に示されているコンバイナユニット20について詳細に説明する。
【0039】
図3は、コンバイナユニットの外観斜視図である。
【0040】
コンバイナユニット20では、コンバイナ210の下縁が、固定部材211に嵌め込まれて、この固定部材211に固定されている。角度調整機構220は、この固定部材211の左右両側に固定された一対の保持部材221を有している。そして、角度調整機構220は、これら一対の保持部材221を支持する4個の回転ローラ222、及び、回転ローラ222に押し付ける向きに各保持部材221を付勢する一対のバネ223を有している。そして、角度調整機構220は、コンバイナ210の上下方向の略中央を左右に通り反射面210aに接する、図1にも示されている仮想軸210bを中心として、矢印A方向に一対の保持部材221を後述するように一緒に回動する駆動部224を備えている。保持部材221が、本発明にいう保持部材の一例に相当し、回転ローラ222が、本発明にいう回転ローラの一例に相当する。
【0041】
図4は、図3に示されている一対の保持部材を、固定部材を介して保持されるコンバイナと共に示す図である。図4のパート(A)には、コンバイナ210を固定部材211を介して保持した保持部材221を、コンバイナ210の凹面側から見た斜視図が示されている。図4のパート(B)には、コンバイナ210を保持した保持部材221の側面図が示されており、図4のパート(C)には、コンバイナ210の凸面側から見た斜視図が示されている。また、図5は、図4のパート(B)に示されている側面図を単独で拡大して示した図である。
【0042】
各保持部材221は、立壁部221aと曲壁部221bとを有している。立壁部221aは、固定部材211に直交する壁であり、固定部材211の左右いずれかの端部に固定されている。曲壁部221bは、固定部材211から離れる方向に立壁部221aから張り出した壁であり、さらに、次のように曲がっている。
【0043】
図5に示されているように、曲壁部221bは、コンバイナ210の仮想軸210bを中心とした円筒の周壁の一部をなすように曲がった壁である。この曲壁部221bの、凸面は、このような円筒の外周面の一部をなす曲面221b_1となっている。一方、この曲面221b_1の裏側となる凹面には、仮想軸210bをピッチ円の中心とする内歯歯車221b_2が形成されている。また、立壁部221aには、内歯歯車221b_2が形成されている範囲に亘って長円形の穴221a_1が開けられている。曲面221b_1が、本発明にいう曲面の一例に相当し、内歯歯車221b_2が、本発明にいう内歯歯車の一例に相当する。
【0044】
以上に説明した一対の保持部材221が、図3に示されているように合計で4個の回転ローラ222によって支持されている。回転ローラ222は、一対の保持部材221それぞれについて2個ずつ設けられている。
【0045】
図6は、一対の保持部材のうち、コンバイナの凸面側から見て左側の保持部材が2個の回転ローラによって支持されている様子を示す図である。
【0046】
この図6に示されているように、2個の回転ローラ222は、各々、その周面が、保持部材221における上記の曲面221b_1に接している。ここで、回転ローラ222は、図1に示されているヘッドアップディスプレイ1の筺体30に、回転可能に支持されている。上記の曲面221b_1は、上述したように、コンバイナ210の仮想軸210bを中心とした円筒の周面の一部をなす曲面である。つまり、回転ローラ222による回動可能な支持におけるその回動方向とは、図6中の矢印Bが示す、コンバイナ210の仮想軸210bを中心とした回動方向となる。これにより、一対の保持部材221それぞれ、延いては、コンバイナ210の下縁を保持している固定部材211が、コンバイナ210の仮想軸210bを中心として回動可能に支持されることとなる。
【0047】
また、図3にも示されていたように、一対の保持部材221それぞれが、各保持部材221を矢印C方向に付勢するバネ223によって2個の回転ローラ222に押し付けられている。このバネ223は、一端が保持部材221に固定され、図1示されているヘッドアップディスプレイ1の筺体30に固定された引っ張りコイルバネとなっている。
【0048】
そして、このように回動可能に支持された保持部材221が、図3に示されている駆動部224によって、コンバイナ210の仮想軸210bを中心として回動される。この駆動部224が、本発明にいう駆動部の一例に相当する。
【0049】
図7は、保持部材を回動させる駆動部の拡大図である。
【0050】
駆動部224は、各々が、各保持部材221の内歯歯車221b_2と噛み合う一対の円形歯車224aを備えている。尚、図7では、後述のモータ224c等を拡大して示したために、一対の円形歯車224aのうち、コンバイナ210の凸面側から見て左側の円形歯車224aのみが示されている。一対の円形歯車224aの軸は、1本の歯車回転軸224bで連結されている。この歯車回転軸224bは、各保持部材221の立壁部221aに開けられている長円形の穴221a_1を通って、一対の円形歯車224aを連結している。そして、この歯車回転軸224bは、2つの回転ローラ222が支持され、バネ223の一端が固定されている、ヘッドアップディスプレイ1の筺体30に、回転可能に支持されている。これにより、一対の円形歯車224aは、後述のモータ224cからの回転駆動力を受けて、この歯車回転軸224bを中心に一緒に回転するようになっている。円形歯車224aが、本発明にいう円形歯車の一例に相当し、歯車回転軸224bが、本発明にいう回転軸の一例に相当する。
【0051】
また、駆動部224は、モータ224cと、ウォームギア224dと、2個の伝達歯車224eとを有している。モータ224cは、円形歯車224aを回転させる回転駆動力を発する。2個の伝達歯車224eは、このモータ224cからウォームギア224dを介して伝えられた回転駆動力を、一対の円形歯車224aのうち、コンバイナ210の凸面側から見て左側の円形歯車224aへと伝達する。モータ224cとウォームギア224dと2個の伝達歯車224eとを合わせたものが、本発明にいう駆動手段の一例に相当する。
【0052】
尚、本実施例では、本発明にいう駆動手段の一例として、歯車回転軸224b及び2つの円形歯車224aを、モータ224c、ウォームギア224d、及び2個の伝達歯車224eにより直接的に回転する形態が例示されている。しかしながら、本発明にいう駆動手段は、これに限るものではない。本発明にいう駆動手段は、例えば保持部材221を支持している回転ローラ222を回転すること等により保持部材221を回動する手段であってもよい。この場合、歯車回転軸224b及び2つの円形歯車224aは駆動手段によって間接的に回転されることとなる。そして、これらの歯車回転軸224b及び2つの円形歯車224aは、保持部材221の回動には寄与しないが、保持部材221を上方から抑える役割を果たすこととなる。
【0053】
モータ224cは、ヘッドアップディスプレイ1の筺体30に固定されており、2個の伝達歯車224eは、この筺体30に回転可能に支持されている。モータ224cからの回転駆動力が、左側の円形歯車224aへと伝達されると、この回転駆動力は、歯車回転軸224bを介して右側の円形歯車224aにも伝わり、これら一対の円形歯車224aが一緒に回転する。そして、円形歯車224aの回転により、保持部材221それぞれ、延いては、コンバイナ210の下縁を保持している固定部材211が回動される。この保持部材221の回動方向は、モータ224cの回転方向に応じて、矢印D1方向、又は逆向きの矢印D2方向となる。そして、モータ224cの回転方向は、図1に示されている操作部40への乗員の操作に応じた方向となる。その結果、コンバイナ210のチルト角度が調整されて、図2に示されているアイボックスEbの高さTが乗員の目に合った高さに調整されることとなる。
【0054】
また、本実施形態では、コンバイナ210の回動の中心が、仮想軸210bとなっている。コンバイナの回動の中心をこのような仮想軸ではなく、例えばコンバイナの両側縁の上下方向中央から突出させた回転軸を中心に回動させる機構が考えられる。しかしながら、このような機構では、コンバイナの両側縁の回転軸及びその周辺構造に乗員の目が行きがちとなる。その結果、コンバイナ越しの虚像に乗員の目の焦点が合いにくく、虚像が見えにくくなる恐れがある。本実施形態では、コンバイナ210の回動の中心はあくまでも仮想軸210bであり、コンバイナ210の周囲にこのような虚像の視認を妨げる構造物が無い。このため、本実施形態によれば、上記のようにコンバイナの両側縁に回転軸及びその周辺構造が設けられる機構に比べて虚像が見え易い。
【0055】
尚、本実施形態では、各保持部材221の内歯歯車221b_2は、乗員の目の高さとして想定される範囲に亘ってアイボックスの高さを調整できる必要最小限の歯数で設けられている。これにより、保持部材221の小型軽量化、延いてはコンバイナユニット20の小型軽量化が図られている。
【0056】
ここで、アイボックスの高さ調整のために、コンバイナ210のチルト角度を調整する機構としては、本実施例とは異なり、コンバイナ210の上縁側又は下縁側に設けた回転軸を中心にコンバイナ210を回動する機構が考えられる。このような機構に対し、図3に示されている本実施例のコンバイナユニット20は、以下のような利点を有している。ここで、本実施例のように、コンバイナの回転軸が上下方向の中央の仮想軸であって下縁を動かして回動させる機構をセンタレスチルト機構と呼ぶ。また、本実施例とは異なり、回転軸がコンバイナの下縁側にあり、この回転軸を中心にコンバイナを回動させる機構を下端チルト機構と呼ぶ。以下、下端チルト機構に対するセンタレスチルト機構の利点について、両者を比較しながら説明する。
【0057】
図8は、下端チルト機構及びセンタレスチルト機構それぞれについて、表示器から出射される光とコンバイナとの、コンバイナを側方から見たときの位置関係を示す模式図である。この図8のパート(A)には、下端チルト機構についての模式図が示され、パート(B)にはセンタレスチルト機構についての模式図が示されている。尚、この図8では、説明を簡単なものとするために、図1とは異なり、表示器10の位置が、コンバイナの正面となっている。また、この図8では、図1とは逆に、表示器10が図中の右側、コンバイナが図中の左側に示されている。
【0058】
図8のパート(A)に示されている下端チルト機構では、コンバイナ510が回動されると、コンバイナ510と表示器10との間の光軸距離が変わってしまう。ここで、光軸距離とは、表示器10の中央と、コンバイナ510の反射面510aの中央との距離のことである。例えば、このパート(A)に示されているように、コンバイナ510が下端側の回転軸510bを中心に矢印E方向に回動される、即ちフロントガラス側に倒されたとする。この場合、下端チルト機構では、回動前の光軸距離L1が、回動後の光軸距離L2へと延びてしまう。
【0059】
一方、図8のパート(B)に示されているセンタレスチルト機構では、コンバイナ210が反射面210aの中央を通る仮想軸210bを中心に回動されるので、このパート(B)に示されているように、光軸距離L3は、回動の前後で略維持される。
【0060】
下端チルト機構とセンタレスチルト機構との、このような光軸距離の変化についての相違は、図1図2に示されている虚像の見え方についての次のような相違となって現れる。まず、乗員の目から虚像までの距離、つまり虚像Pが見える位置が、下端チルト機構とセンタレスチルト機構とでは次のように相違する。
【0061】
図9は、コンバイナがフロントガラス側に倒されてチルト角度が大きくなって行くときの、虚像の位置の変化を、下端チルト機構とセンタレスチルト機構との双方について示したグラフである。
【0062】
この図9のグラフG1では、横軸に、アイボックスの高さがとられている。コンバイナがフロントガラス側に倒されてチルト角度が大きくなって行くとアイボックスの高さは高くなる。このグラフG1では、コンバイナがどの程度倒されたかを示す指標としてアイボックスの高さが使われている。そして、このグラフG1では、アイボックス中の中央に乗員の目があると仮定したときのこの目から虚像までの距離が、縦軸にとられている。このグラフG1では、下端チルト機構についての虚像の位置の変化が破線S1で示され、センタレスチルト機構についての虚像の位置の変化が実線S2で示されている。
【0063】
この図9のグラフG1から分かるように、コンバイナがフロントガラス側に倒されて行くと、下端チルト機構では、光軸距離が延びることから虚像の位置が遠ざかってしまう。一方、センタレスチルト機構では、虚像の位置は、ほとんど変化せず、略一定の位置に保たれる。
【0064】
さらに、下端チルト機構とセンタレスチルト機構との、光軸距離の変化についての相違は、虚像の形状及び大きさに、次のような影響を及ぼす。
【0065】
図10は、コンバイナを倒したときの虚像を、下端チルト機構とセンタレスチルト機構とのそれぞれについて模式的に示す図である。この図10のパート(A)には、下端チルト機構での虚像P1が示され、パート(B)にはセンタレスチルト機構での虚像P2が示されている。
【0066】
コンバイナは、表示器10からの光を凹面で反射する一種の凹面鏡であるので、その反射光が描く虚像は、表示器10の出力画像に対して、拡大されると共に湾曲して歪んだ形状となる。そして、この拡大及び歪みの程度は、光軸距離が長いほど大きい。上述したように、センタレスチルト機構ではコンバイナ210が倒されても光軸距離が略維持されるのに対し、下端チルト機構では光軸距離が延びてしまう。このため、図10に示されているように、センタレスチルト機構ではコンバイナ210が倒されても虚像P2の大きさや形の変化が抑制されるのに対し、下端チルト機構での虚像P1はコンバイナ510が倒されて行くと拡大され歪んでいってしまう。
【0067】
ここで、上記のような画像の歪みの程度の評価の一例として、次式で表されるDistortionという指標を用いた評価が挙げられる。
【0068】
【数1】
【0069】
図11は、Distortionの定義式に使われているパラメータを示す図である。
【0070】
この図11では、歪み前の画像Im1が破線で示され、歪み後の画像Im2が実線で示されている。Distortionの算出に当たっては、まず、歪み前の画像Im1に、この画像Im1を複数に分割する格子La1が引かれる。そして、歪み後の画像Im2について、上記の歪み前の格子La1が、この画像Im2と同様に歪んだときの歪み後の格子La2が求められる。
【0071】
Distortionの定義式におけるパラメータ「h1」は、歪み前の格子La1における任意の交点と、歪み前の画像Im1における、その交点から最も遠い角までの距離である。そして、この定義式におけるパラメータ「h2」は、歪み後の格子La2における対応する交点から、対応する角までの距離である。図11では、歪み前の格子La1における任意の交点として、中央の交点が選ばれている。この図11には、歪み前の画像Im1と歪み後の画像Im2とが、歪み前の格子La1の中央の交点と、歪み後の格子La2の中央の交点とが一致するように重ねられて示されている。
【0072】
上記の定義式で表されるDistortionは、画像に引かれた格子における任意の交点から、画像におけるその交点から最も遠い角までの距離が、その画像が歪んだことでどの程度変化したかを表す比率となっている。
【0073】
画像全体の歪みを評価するに当たっては、図11に示されているような格子の全ての交点についてDistortionが算出される。そして、それら求められたDistortionの最大値が、歪みの評価値として採用される。実際に使用が想定されるコンバイナについて、アイボックスの高さが所定の高さとなるまで回動させたときの虚像の歪みについて算出したところ、次のような結果が得られている。即ち、下端チルト機構では評価値が13.6%であったのに対し、センタレスチルト機構では評価値が12.1%となっている。つまり、センタレスチルト機構によれば、下端チルト機構と比較して、コンバイナを回動させたときの虚像の歪みが約10%程度抑制されることとなる。
【0074】
また、センタレスチルト機構ではコンバイナ210のチルト角度が増えても光軸距離が略一定に維持されるのに対し、下端チルト機構では、この光軸距離が変化してしまう。つまり、センタレスチルト機構ではチルト角度が増えても虚像の歪みの程度があまり変化しないのに対し、下端チルト機構ではチルト角度が増えるにつれて歪みの程度が変化する。一般的に、ヘッドアップディスプレイでは、虚像の歪みが、表示器10側の画像に対する補正によって修正される。下端チルト機構ではチルト角度が増えるにつれて歪みの程度が変化するので、表示器10側の画像に対する補正内容もチルト角度に応じて変更しなければならず補正処理が複雑になる。一方、センタレスチルト機構ではチルト角度に係わらず虚像の歪みの程度が略一定となるので、表示器10側の画像に対する補正内容もチルト角度に応じて変更しなくても済む。つまり、センタレスチルト機構によれば、下端チルト機構に比べて、表示器10側の画像に対する補正処理が簡単なものとなる。
【0075】
以上に説明したように、本実施形態のコンバイナユニット20で採用されているセンタレスチルト機構によれば、アイボックスの高さを変えたときの虚像の位置の変化や、虚像の形状及び大きさが、下端チルト機構に比べて抑制されることとなる。また、センタレスチルト機構によれば、虚像の歪みを修正するための処理が、下端チルト機構に比べて簡単なものとなる。
【0076】
さらに、下端チルト機構では、コンバイナを回動させてアイボックスの高さを変えたとき、以下に説明するように、アイボックスのサイズが縮小しまう。センタレスチルト機構によれば、このアイボックスのサイズの縮小が抑制される。このアイボックスのサイズの縮小について、上記の図8、下記の図13及び図14を参照して説明する。
【0077】
まず、図8から分かるように、コンバイナのチルト角度θが同角度となるようにコンバイナを回動させた場合、コンバイナの上縁は、センタレスチルト機構よりも下端チルト機構の方が、表示器10から離れることとなる。このため、下端チルト機構では、図8のパート(A)で点線の楕円Gで囲われた領域に示されているように、表示器10からの光の一部がコンバイナ510の外側に出てしまうことがある。このようにコンバイナ510から出てしまった光は、乗員が視認することができない。そして、このようにコンバイナ510の外側に出てしまう光は、コンバイナ510のチルト角度が大きいほど増加する。つまり、下端チルト機構では、コンバイナ510のチルト角度が大きくなるほど、アイボックスの垂直寸法(図2のアイボックスEbの垂直寸法V参照)が小さくなる。
【0078】
一方、センタレスチルト機構では、チルト角度が同じであれば、下端チルト機構に比べて、コンバイナ210の上縁の移動距離が短い。このため、図8パート(B)に示されているように、コンバイナ210を回動させても、表示器10からの光はコンバイナ210の内側にほぼ収まる。その結果、下端チルト機構で見られるような、アイボックスの垂直寸法の縮小が抑えられる。
【0079】
図12は、下端チルト機構及びセンタレスチルト機構それぞれについて、表示器から出射される光とコンバイナとの、コンバイナを上方から見たときの位置関係を示す模式図である。この図12では、下端チルト機構でコンバイナ510を回動させたときの、そのコンバイナ510の上縁の位置が破線で示されている。そして、センタレスチルト機構でコンバイナ210を回動させたときの、そのコンバイナ210の上縁の位置が実線で示されている。上記のように、上縁の移動距離が大きい下端チルト機構では、図12で点線の楕円H,Iで囲われた領域に示されているように、上縁近傍では、左右両端部についても、表示器10からの光の一部が外側に出てしまうことがある。そして、このように左右両端部から出てしまう光も、コンバイナ510のチルト角度が大きいほど増加する。つまり、下端チルト機構では、コンバイナ510のチルト角度が大きくなるほど、アイボックスの水平寸法(図2のアイボックスEbの水平寸法H参照)についても小さくなる。
【0080】
一方、センタレスチルト機構では、上述したようにコンバイナ210の上縁の移動距離が短い。このため、図12に示されているように、コンバイナ210を回動させても、表示器10からの光はコンバイナ210の内側にほぼ収まる。その結果、下端チルト機構で見られるような、アイボックスの水平寸法の縮小も抑えられる。
【0081】
図13は、コンバイナのチルト角度を変えてアイボックスの高さを変更したときの、アイボックスのサイズの変化を示すグラフである。
【0082】
この図13のグラフG2では、横軸にアイボックスの高さがとられ、縦軸にアイボックスのサイズとして、垂直寸法及び水平寸法がとられている。そして、このグラフG2では、下端チルト機構についてのアイボックスのサイズのうち、水平寸法の変化が破線S1_1で示され、垂直寸法の変化が破線S1_2で示されている。また、このグラフG2では、センタレスチルト機構についてのアイボックスのサイズのうち、水平寸法の変化が実線S2_1で示され、垂直寸法の変化が実線S2_2で示されている。これらの破線及び実線の比較から、センタレスチルト機構によれば、水平寸法及び垂直寸法の両方とも、アイボックスの高さを変更したときのアイボックスのサイズの縮小が、下縁チルト機構に比べて抑制されることが分かる。
【0083】
また、コンバイナのチルト角度が同角度の場合、以下に説明するように、下端チルト機構でのアイボックスの高さは、センタレスチルト機構でのアイボックスの高さよりも低くなってしまう。
【0084】
図14は、下端チルト機構及びセンタレスチルト機構それぞれについて、表示器から出射される光、コンバイナ、及びアイボックスの、コンバイナを側方から見たときの位置関係を示す図である。
【0085】
この図14では、下端チルト機構のコンバイナ510が破線で示され、この下端チルト機構のコンバイナ510とチルト角度が同角度となったセンタレスチルト機構のコンバイナ210が実線で示されている。また、この図14では、下端チルト機構とセンタレスチルト機構とで初期位置におけるコンバイナのチルト角度も同角度となっている。図14では、下端チルト機構とセンタレスチルト機構とが、コンバイナの初期位置が一致するように重ねて示されている。図14では、下端チルト機構とセンタレスチルト機構とで共通のコンバイナの初期位置Hpが一点鎖線で示されている。
【0086】
センタレスチルト機構では、表示器10の中央を出てコンバイナ210の反射面210aの中央へと向かう光は、図14に示されているように、この中央における法線210cに対して対称に反射され、その反射された先にアイボックスEb1が形成される。尚、図14では、図を見易くするために、アイボックスEb1におけるコンバイナ210側の面の中央が□印で示されている。コンバイナ210が初期位置Hpから矢印E方向に回動されると、中央の法線210cが上向いて行き、これにつれてアイボックスEb1の高さは高くなる。センタレスチルト機構では、コンバイナ210が上下方向中央の仮想軸210bを中心に回動されるので、表示器10の中央を出た光は、チルト角度がどのように変わってもこの中央の法線210cに対称に反射される。
【0087】
一方、下端チルト機構では、コンバイナ510が下縁側の回転軸510bを中心に矢印F方向に回動されると、反射面510aが表示器10から遠ざかりながら上向いていく。その結果、初期位置Hpでは中央で反射される光は、この中央よりも上方にズレた位置の法線510cに対称に反射されて、アイボックスEb2が形成される。このとき、この上方にズレた位置の法線510cは、図14に示されているように、チルト角度が同角度のセンタレスチルト機構のコンバイナ210における上記の法線210cよりも下向きとなる。その結果、この下向きの法線510cに対称に反射される光の光路が、図14中で点線で示されているように、センタレスチルト機構のコンバイナ210で反射された、実線で示されている光の光路よりも下方を通過する。このため、下端チルト機構では、チルト角度が同角度であっても、そのアイボックスEb2の高さが、センタレスチルト機構でのアイボックスEb1の高さよりも低くなる。そして、このような高さのズレは、チルト角度が大きくなってコンバイナ510の反射面510aが表示器10から遠ざかるほど大きくなる。
【0088】
図15は、コンバイナのチルト角度を変えたときのアイボックスの高さの変化を示すグラフである。
【0089】
この図15のグラフG3では、横軸にチルト角度がとられ、縦軸にアイボックスの高さがとられている。そして、このグラフG3では、下端チルト機構でのアイボックスの高さの変化が破線S1で示され、センタレスチルト機構でのアイボックスの高さの変化が実線S2で示されている。これらの破線及び実線の比較から、チルト角度が同角度の場合、センタレスチルト機構よりも下縁チルト機構の方が、アイボックスの高さが低くなることが分かる。また、センタレスチルト機構と下縁チルト機構との間での、このアイボックスの高さのズレは、チルト角度が大きくなるにつれて広がってゆくことも、この図15のグラフG3から分かる。
【0090】
下縁チルト機構ではアイボックスの高さについてのこのようなズレを見込んで、センタレスチルト機構よりも大きなチルト角度までコンバイナが回動でき、十分な高さまでアイボックスを移動できるように、その回動機構を設計する必要がある。
【0091】
一方、センタレスチルト機構では、上記のようにアイボックスの高さが下縁チルト機構よりも高めとなるので、チルト角度の上限を、下縁チルト機構よりも小さくできる。このため、例えば図7に示されている内歯歯車221b_2の歯数を少なめとするといったことが可能となっている。そして、本実施形態では、このような歯数の抑制等により、保持部材221の小型化、延いては、コンバイナユニット20の小型化が図られている。
【0092】
また、上述したように、チルト角度が同角度の場合、センタレスチルト機構の方が下縁チルト機構よりも、コンバイナの上縁の移動距離が小さくなる。その結果、センタレスチルト機構の方が下縁チルト機構よりも、コンバイナ210のサイズを大きくできるという利点が生じる。
【0093】
図16は、センタレスチルト機構の方が下縁チルト機構よりも、コンバイナ210のサイズを大きくできるという利点について説明する模式図である。図16のパート(A)には、下縁チルト機構の模式図が示され、図16のパート(B)には、センタレスチルト機構の模式図が示されている。
【0094】
図16のパート(A)に示されているように、ヘッドアップディスプレイがダッシュボードDBに搭載されている場合、下縁チルト機構では、回転軸510bからの距離が長いためにコンバイナ510の上縁の移動距離が相対的に大きい。そして、この下縁チルト機構では、次のような事態が生じる可能性がある。即ち、下縁チルト機構では、チルト角度がセンタレスチルト機構と同程度であっても、コンバイナ510の上縁がフロントガラスFGに接触する可能性がある。一方で、仮想軸210bから上縁までの距離が短いためにこの上縁の移動距離が相対的に小さいセンタレスチルト機構では、フロントガラスFGに対して余裕をもってコンバイナ210を回動させることができる。このため、本実施形態で採用されているセンタレスチルト機構は、下縁チルト機構と比較して、チルト角度の範囲が同程度であっても、フロントガラスFGに対する余裕を見込んでコンバイナ210のサイズを大きくできるという利点を有している。
【0095】
以上で、本実施形態で採用されているセンタレスチルト機構の、下端チルト機構に対する利点についての説明を終了し、図7に示されている、コンバイナユニット210の構成についての説明を補足する。
【0096】
上述したように、本実施形態では、一対の保持部材221それぞれが、バネ223によって2個の回転ローラ222に押し付けられている。そして、保持部材221に設けられた内歯歯車221b_2に、この保持部材221を回動させるための円形歯車224aが噛み合っている。このような構成の結果、各保持部材221には次のような力が掛かることとなる。
【0097】
図17は、保持部材に掛かる力を示す模式図である。
【0098】
この図17に示されているように、保持部材221には、コンバイナ210の重量による荷重Fg1と、バネ223による引っ張り荷重Fg2と、円形歯車224aによる回転反力Fg3との3つの力が掛かる。図1に示されている車載のヘッドアップディスプレイに組み込まれたコンバイナユニット20には、車両の走行中、矢印G方向の振動が加わる。このような振動によってコンバイナ210がガタつくと、虚像がブレてしまう可能性が生じる。本実施形態では、上記の3つの力が保持部材221に掛かっているので、コンバイナ210のガタつきが抑えられ、延いては、虚像のブレが抑えられる。
【0099】
ここで、保持部材221を回動させる駆動部の別例として、次のようなものが挙げられる。
【0100】
図18は、保持部材を回動させる駆動部の、本実施例とは異なる別例の要部を示す模式図である。尚、この図18では、図17に示されている本実施例の構成要素と同等な構成要素については図17と同じ符号が付されている。以下では、この同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0101】
この別例では、保持部材601に、本実施例とは異なり、曲壁部602の凸面に外歯歯車602aが形成されている。また、この外歯歯車602aの両側に、上下方向から曲壁部602を挟む回転ローラ対603が2組設けられている。そして、この保持部材601の下方に、外歯歯車602aに噛み合う円形歯車604が配置されている。この別例では、曲壁部602が、回転ローラ対603で挟まれることで、ヘッドアップディスプレイの筺体に対して位置決めされるので、図17に示されているバネ223が不用となる。このため、筺体側に、このようなバネ223の一端を固定する構造が不用となるので、本実施例に比べてこの分だけ構造が簡単化される。
【0102】
ここで、保持部材601には、外歯歯車602aと噛み合う円形歯車604の回転反力Fg4が、図18に示されているように、コンバイナ210からの荷重Fg1とは逆向きに掛かる。コンバイナ210からの荷重Fg1は、上述したガタつきを抑える役割を果たすが、この別例では、円形歯車604の回転反力Fg4が荷重Fg1と打ち消す向きに働く。このため、コンバイナ210のガタつき抑制という観点では、図1図17を参照して説明した本実施例の方が有利である。また、本実施例では、図7に示されている内歯歯車221b_2に噛み合う円形歯車224aが、曲壁部221bの内側に収められるので、装置全体の小型化の点でも有利である。図18に示されている別例では、円形歯車604が曲壁部602の外側に配置されるため、本実施例に比べると大型となる。一方で、この図18に示されている別例でも、本実施例と同様、外景に重畳される画像の見え方の、コンバイナの回動の前後での変化が抑制されることは言うまでもない。
【0103】
また、本実施例では、図17に示されているように保持部材221がバネ223によって付勢されているが、この付勢方法としては次のような別例が挙げられる。
【0104】
図19は、保持部材の付勢方法の別例を、本実施例におけるバネによる付勢方法と比較して示す図である。この図19のパート(A)には、本実施例におけるバネ223による付勢方法が示され、図19のパート(B)には、別例の付勢方法が示されている。尚、このパート(B)では、パート(A)に示されている本実施例の構成要素と同等な構成要素についてはパート(A)と同じ符号が付されている。以下では、この同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0105】
図19のパート(B)に示されている別例の付勢方法では、付勢アーム701が設けられ、保持部材221の下方に、この付勢アーム701によって下方に付勢される付勢受部702が取り付けられている。付勢アーム701は、ヘッドアップディスプレイの筺体に、一端を中心として回動自在に支持されている。そして、付勢アーム701は、その他端に、付勢受部702を押すローラ701aと、この他端を矢印H方向に付勢するバネ701bとが設けられている。
【0106】
ここで、図19のパート(A)及びパート(B)には、各々、コンバイナ210のチルト角度が最小のとき、チルト角度が中間値のとき、チルト角度が最大のときの3つの状態が示されている。パート(A)に示されている本実施例では、チルト角度を変えるために保持部材221が回動されると、一端がヘッドアップディスプレイ1の筺体30に固定され他端が保持部材221に固定されているバネ223の向きが変わる。一方、パート(B)に示されている本実施例では、ローラ701aで付勢受部702を押す構造となっているので、保持部材221が回動されても付勢アーム701の位置は略維持される。このため、この付勢アーム701に固定されているバネ701bの向きも、保持部材221が回動されても略維持される。
【0107】
図19のパート(B)に示されている別例の付勢方法では、保持部材221を付勢するバネ701bの向きがこのように略維持されるので、パート(A)に示されている本実施例の付勢方法に比べて、バネ701bの固定箇所に掛かる負荷が軽減される。このため、この別例の付勢方法は、ヘッドアップディスプレイのコンバイナユニットについて、例えば身長が異なる複数の乗員に使用され、アイボックスの高さの高頻度での調整が想定されるといった場合に適している。
【0108】
一方で、パート(A)に示されている本実施例の付勢方法は、パート(B)に示されている別例の付勢方法に比べて保持部材221の付勢に係る構造が簡単で部品点数も少なくて済む。このため、本実施例の付勢方法は、コンバイナユニットについて、アイボックスの高さ調整の頻度を抑える代わりにコストを抑えたいといった要望に応える場合に適している。
【0109】
尚、以上に説明した実施例では、コンバイナユニットの一例として、車両のダッシュボードに搭載される、図1に示されているヘッドアップディスプレイ1のコンバイナユニット20が例示されている。このコンバイナユニット20では、虚像は、乗員の視界の下方に位置するコンバイナ210越しに視認される。しかしながら、コンバイナユニットはこれに限るものではない。コンバイナユニットは、例えば、車両の天井に取り付けられ、虚像が、乗員の視界の上方に位置するコンバイナ越しに視認されるものであってもよい。この場合、コンバイナは、その上縁が、角度調整機構によって保持されることとなる。
【0110】
尚、前述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施例に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の画像光反射ユニットの構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0111】
1 ヘッドアップディスプレイ
10 表示器
20 コンバイナユニット
30 筺体
40 操作部
210、510 コンバイナ
210a、510a 反射面
210b 仮想軸
210c、510c 法線
211 固定部材
220 角度調整機構
221、601 保持部材
221a 立壁部
221a_1 長円形の穴
221b 曲壁部
221b_1 曲面
221b_2 内歯歯車
222 回転ローラ
223、701b バネ
224 駆動部
224a、604 円形歯車
224b 歯車回転軸
224c モータ
224d ウォームギア
224e 伝達歯車
510b 回転軸
602a 外歯歯車
603 回転ローラ対
604 外歯歯車
701 付勢アーム
701a ローラ
702 付勢受部
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