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特開2023-24578食道の炎症を処置するためのECMヒドロゲル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024578
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】食道の炎症を処置するためのECMヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/37 20150101AFI20230209BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230209BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230209BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230209BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
A61K35/37
A61K9/08
A61K9/10
A61P29/00
A61P1/00
A61P1/04
A61P35/00
A61K9/19
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022202955
(22)【出願日】2022-12-20
(62)【分割の表示】P 2019547483の分割
【原出願日】2018-03-02
(31)【優先権主張番号】62/465,985
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン フランシス バディラック
(72)【発明者】
【氏名】フアン ディエゴ ナランホ グティエレス
(72)【発明者】
【氏名】リンジー タミコ サルディン
(57)【要約】
【課題】食道の炎症を処置するためのECMヒドロゲルの提供。
【解決手段】治療有効量の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを、食道の炎症を有する対象の食道に投与することを含む、対象の食道の炎症を阻害するための方法が開示される。食道狭窄症を低減するための方法も開示される。食道の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを含む組成物が開示される。これらの方法は、所定の特徴を有する治療有効量の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを、対象、例えば、食道の炎症もしくは狭窄を有するかまたは狭窄に対するリスクのある対象の食道に投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2017年3月2日に出願された米国仮出願番号第62/465,985号の利益を主張しており、この仮出願は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【0002】
分野
これは、ヒドロゲルの分野、詳細には、バレット食道などの食道の炎症の処置のための細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
食道腺癌(EAC)の発生率は、他のすべてのがんの増加率をしのいで、急速に上昇している。食道腺癌(EAC)は予後不良を伴い、15%未満の5年生存率を有する。罹患した患者数は、1970年代よりも最大600%高い(Dubeczら、JGastrointest Surg.2013年11月15日;Prasadら、Amer. J. Gastroentero.105巻(7号):1490~502頁、2010年)。
【0004】
バレット食道は、食道の下部(末端部)の細胞の化生を伴い、食道の正常な重層扁平上皮内壁の杯細胞を有する単層円柱上皮による置換えによって特徴付けられる。バレット食道は、食道腺癌と密接に関連する。バレット食道の主な原因は、逆流性食道炎による慢性的な酸への曝露に対する適応および応答であると考えられる。バレット食道の細胞は、生検後に、4つの一般的カテゴリーに分類される:形成異常ではない、低悪性度形成異常、高悪性度形成異常、および明白な癌腫。高悪性度形成異常および腺癌の初期ステージは、通常、内視鏡的切除術およびラジオ波焼灼療法などの内視鏡的治療によって処置されるが、一方、形成異常ではない患者および低悪性度形成異常の患者は、一般的に、内視鏡による1年に1回の観察を受けるようアドバイスされる。食道炎およびバレット食道を処置するために使用することができる方法および組成物に対する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dubeczら、J Gastrointest Surg.2013年11月15日
【非特許文献2】Prasadら、Amer. J. Gastroentero.105巻(7号):1490~502頁、2010年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
対象における食道炎の炎症を阻害するおよび/または食道炎の影響を緩和するための方法が開示される。食道の狭窄を低減するための方法も開示される。これらの方法は、治療有効量の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを、対象、例えば、食道の炎症もしくは狭窄を有するかまたは狭窄に対するリスクのある対象の食道に投与することを含み、ECMヒドロゲルが以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)10~600パスカル(Pa)、例えば、これらに限定されないが、10~70Paの剛性を有する。具体的な非限定例では、ヒドロゲルは、食道のECMヒドロゲルであり得る。別の具体的な非限定例では、対象は、バレット食道を有する場合がある。
【0007】
追加の実施形態では、食道の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを含む組成物であって、食道のECMヒドロゲルが以下の特徴:a)約37℃での50%ゲル化までの時間が10分未満;b)食道への注射に十分な流動粘度;およびc)10~70パスカル(Pa)の剛性を有し、組成物が食道への投与のために製剤化される、組成物が開示される。これらの組成物は、本明細書に開示の方法において有用である。
【0008】
本発明の前述および他の目的、特色、および利点は、添付の図面を参照して進める以下の詳細な説明からより明らかとなる。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
対象の食道の炎症を阻害するかまたは食道狭窄症を低減するための方法であって、以下の特徴:
a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;
b)食道への注入に適する流動粘度;および
c)約10から約300パスカル(Pa)の剛性
を有する治療有効量の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを、食道の炎症を有する前記対象の食道に投与し、
それによって、前記対象の食道の炎症を阻害するかまたは食道狭窄症を低減することを含む、方法。
(項目2)
50%ゲル化までの前記時間が、約37℃で、約3から約30分である、項目1に記載の方法。
(項目3)
50%ゲル化までの前記時間が、約37℃で、約3から約10分である、項目1に記載の方法。
(項目4)
50%ゲル化までの前記時間が、約4から約10分である、項目2に記載の方法。
(項目5)
前記流動粘度が、約0.1/sのせん断速度で、約1から約40Pasであり、1000/sのせん断速度で、約0.01から約0.2Pasである、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記流動粘度が、1/sのせん断速度で、約0.1から約25Pasであり、約100/sのせん断速度で、約0.02から約0.8Pasである、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記ECMヒドロゲルが、10~70Paの剛性を有する、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記ECMヒドロゲルが、食道のECMヒドロゲルである、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記ヒドロゲルのECM濃度が、2mg/mlから約16mg/mlである、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記ECMヒドロゲルが、経口的に、内視鏡によりまたはカテーテルを介して投与される、項目1から9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記ECMヒドロゲルが、
(a)消化された食道のECMを生成するために、酸性溶液中での酸性プロテアーゼによる組織の消化によって脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)を可溶化すること;および(b)中和消化溶液を生成するために、前記消化された食道のECMのpHを7.2から7.8の間のpHに上昇させること
によって生成される、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記消化されたECMのpHを上昇させること(b)が、前記消化されたECMのpHを上昇させるために、塩基または等張緩衝液を添加することを含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記酸性プロテアーゼが、ペプシン、トリプシンまたはこれらの組合せである、項目10または項目11に記載の方法。
(項目14)
前記ECMヒドロゲルが、前記対象への投与の前に、25℃でまたは25℃未満で維持される、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記対象が、バレット食道を有するかまたはバレット食道のリスクがある、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記対象の食道新生物の発生を阻害する、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記ECMヒドロゲルが、前記対象の食道における上皮バリアを復元する、項目1から16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記ECMヒドロゲルが、前記対象の食道における傷の部位への上皮細胞および/または幹細胞の両方の走化性を増加させる、項目1から17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記ECMヒドロゲルが、前記対象の食道狭窄症を低減する、項目1から18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを含む組成物であって、前記ECMヒドロゲルが、以下の特徴:
a)約37℃での50%ゲル化までの時間が10分未満;
b)食道への注入に十分な流動粘度;
c)約10から約300パスカル(Pa)の剛性;および
d)前記ヒドロゲルが、食道のヒドロゲルである
を有し、前記組成物が食道への投与のために製剤化される、組成物。
(項目21)
50%ゲル化までの前記時間が、約37℃で、a)約3から約30分;b)約4から約10分;またはc)約3から約10分である、項目20に記載の組成物。
(項目22)
前記ヒドロゲルが、約10から約70Paの剛性を有する、項目20または項目21に記載の組成物。
(項目23)
約2mg/mlから約16mg/mlの前記ECMヒドロゲルを含む、項目20から22のいずれか一項に記載の組成物。
(項目24)
前記ECMヒドロゲルが、
(a)消化された食道のECMを生成するために、酸性溶液中での酸性プロテアーゼによる食道組織の消化によって、脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)を可溶化すること;
(b)中和消化溶液を生成するために、前記消化された食道のECMのpHを7.2から7.8の間のpHに上昇させること;および
(c)約8mg/mlから約12mg/mlの濃度の前記ECMヒドロゲルにするために、前記消化された食道のECMを希釈すること
によって生成される、項目21から23のいずれか一項に記載の組成物。
(項目25)
前記消化されたECMのpHを上昇させること(b)が、前記消化された食道のECMのpHを上昇させるために、塩基または等張緩衝液を添加することを含む、項目24に記載の組成物。
(項目26)
前記酸性プロテアーゼが、ペプシン、トリプシンまたはこれらの組合せである、項目24または項目25に記載の組成物。
(項目27)
前記ECMヒドロゲルが、25℃でまたは25℃未満で維持される、項目20から26のいずれか一項に記載の組成物。
(項目28)
対象の食道の炎症を阻害することに使用するための、項目20から27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目29)
対象の食道における上皮バリアを復元することに使用するための、項目20から27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目30)
前記対象が、バレット食道を有する、項目28または項目29に記載の組成物。
(項目31)
対象の食道狭窄症を低減するための、項目20から27のいずれか一項に記載の組成物。
(項目32)
a)項目20から31のいずれか一項に記載の組成物、またはその凍結乾燥形態を含む容器、およびb)前記組成物を使用するための説明書を含むキット。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】食道のECMヒドロゲルの粘度プロファイル。
【0010】
図2】食道のECMヒドロゲルの剛性。
【0011】
図3】食道のECMゲル化時間。
【0012】
図4A】粘度プロファイルは組織特異的である。
図4B】粘度プロファイルは組織特異的である。
図4C】粘度プロファイルは組織特異的である。
【0013】
図5A】ゲルの剛性は組織特異的である。
図5B】ゲルの剛性は組織特異的である。
図5C】ゲルの剛性は組織特異的である。
【0014】
図6A】ECMゲル化時間は組織特異的である。
図6B】ECMゲル化時間は組織特異的である。
図6C】ECMゲル化時間は組織特異的である。
【0015】
図7】ECMヒドロゲルは、抗炎症性サイトカインの分泌を促進する。
【0016】
図8A-8B】ECMは、上皮細胞および幹細胞の走化性を促進する。
【0017】
図9】EACの臨床処置における動的相互作用(dynamic reciprocity)。
【0018】
図10A-10B】ヒドロゲル投与の効果。
【0019】
図11】30日後のヒドロゲル投与の効果。
【0020】
図12A】eECMヒドロゲルの安全性の評価。
図12B】eECMヒドロゲルの安全性の評価。
【0021】
図13A-13D】組織学的検査。
【0022】
図14】狭窄を処置するための使用。
【0023】
図15】組織学的分析、対照のイヌ。
【0024】
図16】組織学的分析、ECMヒドロゲルで処置したイヌ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
ヒドロゲルとして製造される場合、細胞外マトリックス(ECM)の生体足場(bioscaffold)は生体活性である(Freytesら、Biomaterials 29巻:1630~
7頁、2008年)。しかし、ECMヒドロゲルは、独特の物理的および機械的特性を有する。これらの特有の特性によって、ECMの適用は、シート形状として可能なものを超えて拡大される。ECMヒドロゲルは、シート形状と比較して、不規則な形状かつ不規則なサイズの表面積となり、ECMの不規則な形態を有する組織との接触を確保し、固定デバイス(例えば、縫合糸、ステント)を必要とせず、移植されるエリアに不利な硬性を与えない。ヒドロゲルは、室温で液体である(プレゲル)という特徴を有するが、体温(37℃)に曝されるとゲルとなり、とりわけ、シリンジ、カテーテル、イルリガートル、およびプローブのようなデバイスを介して容易に送達可能となる。
【0026】
シート形状のECMは、後期ステージの食道形成異常および新生物疾患を処置するために使用されてきたが、固定デバイス(すなわち、ステント)の必要性、シート形状の硬性および移植の相対的侵襲性によって、その使用を拡大することができなかった。ECMヒドロゲルの特有の特性は、食道の表面への適用、および/またはシート形状では処置不能である食道疾患の処置にとって理想的となる。ECMヒドロゲルの粘弾特性および粘膜付着特性によって、食道疾患の処置に向けたECMヒドロゲルの可能性が支持される。さらに、ヒドロゲルは、食道のがん病変および前がん病変を回復させるために使用することができる。
【0027】
最近では、食道の後期ステージのがんおよび前がん疾患の処置にシート形状を使用することに成功している。食道に使用するために、シートは、周方向に配置され、ステントによってその位置で保持される。固定デバイス(すなわち、縫合糸またはステント)の必要性、不規則な大きさの欠損を充たすことができないことおよび被覆エリアの限定(シートのサイズに対して)など、シート形状の使用には限界が存在する。食道では、これらの限界によって、一時的なステントの使用および高度な手順が正当化される数少ない状況のうちの1つである後期ステージの食道疾患の処置に、ECMシートの使用は制限されている。
【0028】
本開示のヒドロゲルは、食道に局所的に投与することができる。ヒドロゲルは、表面を被覆するために、食道の腔に投与することができる。これは、非侵襲的適用である。一部の実施形態では、適用は、経口、例えば、嚥下による。他の実施形態では、適用は、経管栄養であり得る。ヒドロゲルは、食道組織の表面に形成される。一部の実施形態では、ヒドロゲルは、粘膜を被覆し、その下にある粘膜下層や筋肉組織に侵襲しない。
【0029】
ヒドロゲル、例えば、食道のECMから生じるヒドロゲルは、バレット食道を処置するために使用され、腺癌の発症を阻害することができることが本明細書に開示される。ECMヒドロゲルは、炎症を阻害し、炎症の影響を緩和することができる。ECMヒドロゲルは、狭窄を低減することができる。一部の実施形態では、ECMヒドロゲルは、約2mg/mlから約20mg/ml、例えば、約8mg/mlから約12mg/mlの濃度で利用される場合に有効である。
【0030】
用語
特段留意されていなければ、技術用語は、従来の使用法に従って使用される。分子生物学の一般用語の定義は、Benjamin Lewin、Genes V、OxfordUniversity Pressにより出版、1994年(ISBN0-19-854287-9);Kendrewら(編)、TheEncyclopedia ofMolecular
Biology、Blackwell ScienceLtd.により出版、1994年(ISBN 0-632-02182-9);お
よびRobert A. Meyers(編)、Molecular Biology andBiotechnology:a Comprehensive DeskReference、VCH Publishers, Inc.により出版、1995年(ISBN1-56081-569-8)
に見い出すことができる。
【0031】
この開示の種々の実施形態の再調査を容易にするために、具体的な用語についての以下の説明が与えられる:
【0032】
酸性プロテアーゼ:ペプチド結合を切断する酵素であって、酸性pHでペプチド結合を切断する活性が増加される酵素。例えば、限定されないが、酸性プロテアーゼは、ペプシンおよびトリプシンを含むことができる。
【0033】
バレット食道:食道の下部(末端)の細胞における異常な変化(化生または異常形成)。バレット食道は、食道の正常な重層扁平上皮内壁が杯細胞を有する単層円柱上皮によって置き換えられる場合の診断である。バレット食道は、胃食道逆流性疾患(GERD)に関する医療を求める患者の5~15%に見られるが、バレット食道を有する患者の大きいサブグループは症状を有さない。バレット食道は、食道腺癌と密接に関連し、前悪性状態であると考えられる。バレット食道の主な原因は、逆流性食道炎による慢性的な酸への曝露に対する適応であると考えられる。バレット食道の細胞は、生検後に、4つの一般的カテゴリーに分類される:形成異常ではない、低悪性度形成異常、高悪性度形成異常、および明白な癌腫。
【0034】
塩基:7より大きいpHを有する化合物または化合物の溶液。例えば、限定されないが、塩基は、アルカリ性水酸化物またはアルカリ性水酸化物の水溶液である。ある特定の実施形態では、塩基は、NaOHまたはPBS中のNaOHである。
【0035】
粉砕する(粉砕および粉砕すること):限定されないが、摩砕すること、ブレンドすること、破砕すること、スライスすること、製粉すること、切断すること、破砕することを含む、大きな粒子を小さな粒子へと低減するプロセス。ECMは、これらに限定されないが、水和形態、凍結され、風乾され、凍結乾燥され、粉末化されたシート形状を含む任意の形態において粉砕され得る。
【0036】
診断:その徴候、症状および種々の検査結果によって、疾患を特定するプロセス。そのプロセスを通して到達した結論も「診断」と称される。通常実施される検査形態として、血液検査、医用画像、および生検が挙げられる。
【0037】
細胞外マトリックス(ECM):組織および器官の非細胞構成成分。天然のECM(多細胞生物、例えば、哺乳動物およびヒトに見られるECM)は、これらに限定されないが、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、抗菌剤、化学誘引物質、サイトカイン、および増殖因子を含む構造的および非構造的な生体分子の複合混合物である。哺乳動物では、ECMは、種々の形態で、乾燥重量質量で約90%のコラーゲンを含む場合が多い。生物学的足場は、所与の組織または器官から細胞を除去することによって作出することができる。ECMの組成および構造は、組織の供給源に応じて変化する。例えば、小腸粘膜下層(SIS)、膀胱マトリックス(UBM)、食道(E)および肝臓間質のECMは、各組織に必要とされる独特の細胞のニッチにより、それらの全体的構造および組成がそれぞれ異なる。インタクトな「細胞外マトリックス」および「インタクトECM」の生体足場は、その構造的および非構造的な生体分子の活性を保持するのが理想的である細胞外マトリックスであって、これらに限定されないが、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、抗菌剤、化学誘引物質、サイトカイン、および増殖因子を含む細胞外マトリックス、例えば、限定されないが、本明細書に記載の粉砕ECMからなる。
【0038】
ECM内の生体分子の活性は、例えば、化学的もしくは酵素的架橋によっておよび/またはECMを透析することによって、化学的または機械的に除去することができる。インタクトECMは、本質的に、酵素によって消化されず、架橋および/または透析されず、すなわち、このECMは、消化、透析および/もしくは架橋プロセス、または可溶化前のECMの貯蔵および取り扱い中に天然に存在するプロセス以外の条件に曝されないことを意味する。したがって、実質的に架橋されるおよび/または透析される(本明細書に記載のその使用において、ECMのゲル化および機能的特徴に実質的に影響を及ぼさない、普通の手法以外のいずれかの手法で)ECMは、「インタクト」とはみなされない。
【0039】
食道胃十二指腸内視鏡検査(EGD)または上部消化管内視鏡検査:十二指腸までの消化管のいずれかの上部を可視化する診断用内視鏡の手順。「食道内視鏡検査」は、食道を可視化する任意の内視鏡の手順である。食道内視鏡検査は、EGDや上部消化管内視鏡検査の一部として実施されることもある。この用語は、そうであると明確に述べられていなければ、相互排他的ではない。
【0040】
ゲル化:ゾルからのゲルの形成。
【0041】
胃食道逆流性疾患(GERD):胃から食道へと逆流する胃酸によって引き起こされる粘膜損傷の慢性症状。GERDは、通常、胃の上部(近位部)を閉じた状態に保つ下部食道括約筋の異常な弛緩、食道からの胃逆流の排除障害、または裂孔ヘルニアを含む、胃と食道との間のバリアの変化により、通常引き起こされる。これらの変化は永久的であることも、または一時的であることもある。
【0042】
流動粘度:せん断応力または引っ張り応力による段階的な変形に対する流体の抵抗性の尺度。粘度は、異なる速さで移動する、流体中の流体の2つの表面間の相対運動に対抗する流体の特性である。流体が管を通過させられるとき、流体を構成する粒子は、一般的に、管の軸付近でより早く、その壁付近でより遅く移動する。粒子層間の摩擦を克服して流体移動を保つために、応力(管の2つの端部の間の圧力差など)が必要とされる。所与の速度パターンとして、必要とされる応力は、流体の粘度に比例する。粘度は、粘度計およびレオメーターで測定される。粘度は、パスカル秒(Pas)として測定することができる。20℃の水は、1.002mPasの粘度を有する。
【0043】
ヒドロゲル:水が分散媒体であるコロイド状ゲルとして見られることがある、親水性のポリマー鎖のネットワーク。ヒドロゲルは、非常に吸収性の高い、天然または合成のポリマーネットワークである。ヒドロゲルは、天然の組織と同様の柔軟性も有する。
【0044】
炎症:組織への傷害により誘発される局所化された応答。炎症は、任意のクラスの白血球が、任意の組織空間、単位もしくは領域に、通常の(健常な)状況下のこのような組織の領域内に見られるこのような細胞の数を超える数、出現または移動することによって特徴付けられる。炎症は、病原体、損傷細胞、または刺激物などの有害な刺激に対する血管組織の複雑な生体反応によって統合されている。
【0045】
等張緩衝溶液:7.2から7.8の間のpHに緩衝され、均衡のとれた塩濃度を有して等張環境を促進する溶液である。
【0046】
(食道の)低悪性度形成異常および高悪性度形成異常:食道の病態。一般的に、食道形成異常では、食道の内壁に頂端ムチン(apical mucin)が存在しない。杯細胞の非存在と非杯円柱細胞におけるムチン枯渇の両方が、形成異常上皮において見られる頻度が高い。低出力で、これらのエリアは、未関連エリアと比較して、より高色素性であるようである。
【0047】
高悪性度形成異常では、食道の腺の構造の歪みが通常存在し、注目される場合がある;これは、陰窩の枝分かれおよび側面の芽出、粘膜表面の絨毛様構造、または「背中合わせの(back-to-back)」腺の篩状パターンを形成する上皮の腺内ブリッジング(intraglandular bridging)から構成される。核の極性を失った粘膜表面に形成異常の上皮が存在し、これは、核の「丸まり」、および核の互いに対する一貫した関係の非存在によって特徴付けられる。
【0048】
予防することまたは処置すること:疾患を阻害することは、例えば、炎症によって引き起こされるものなどの疾患に対するリスクがあるヒトにおける、疾患の発症を部分的または完全に阻害することを指す。食道腺癌に対するリスクがあるヒトの例は、バレット食道またはGERDを有する者である。疾患プロセスを阻害することは、疾患の発症を予防することを含む。「処置」は、例えば、疾患が発症し始めた後に、疾患の徴候もしくは症状または病態を軽快する治療介入を指す。
【0049】
せん断応力:材料横断面と同一平面上の応力の構成成分。せん断応力は、横断面と平行な力ベクトル構成成分から生じる。平均せん断応力を計算するための式は、単位面積当たりの力であり、
【数1】
ここで、τ=せん断応力、F=加えられた力、A=加えられた力ベクトルと平行な面積を有する材料の横断面の面積。
【0050】
狭窄:嚥下を困難にする食道の狭小化または締め付け。食道狭窄症の症状として、胸やけ、口内の苦味または酸味、息詰まり、咳、息切れ、頻繁なげっぷまたはしゃっくり、嚥下の際の痛みまたは困難、吐血および/または体重減少が挙げられる。食道の狭窄は、胃食道逆流性疾患、食道炎、下部食道括約筋の機能不全、運動障害、アルカリ液消化、または裂孔ヘルニアによって引き起こされ得る。狭窄は、食道手術およびレーザー療法または光線力学療法などの他の処置後に形成し得る。そのエリアが治る一方で、傷が形成され、組織が引っ張られて締め付けられる原因となり、嚥下を困難にする。狭窄は、炎症の結果であり得る。バリウム嚥下検査または上部消化管内視鏡検査を使用して、食道狭窄症を診断することができる。
【0051】
剛性:物体または流体の硬性。細胞外マトリックスの剛性は、デュロタクシス(durotaxis)における細胞の移動を導くために重要である。剛性は、平方メートル当たり1ニュートンである、パスカル(Pa)での尺度であり得る。
【0052】
治療剤:一般的意味で使用される場合、これは、治療する薬剤、予防薬、および交換剤(replacement agent)を含む。「処置」または「処置すること」は、いずれかの疾患症状を測定可能に低減する、阻害する、または緩和する、疾患の進行を遅延させる、または疾患を退行させるのに十分な量で、ECMヒドロゲルなどの物質を、患者に提供することを意味する。ある特定の実施形態では、疾患の処置は、患者が疾患の症状を呈する前に、疾患の処置を開始してもよい。本開示の方法は、食道の炎症を阻害しおよび/または食道の炎症の影響を緩和させる。
【0053】
治療有効量:ECMヒドロゲルなどの組成物の「治療有効量」は、患者に投与した場合に、症状の軽快、進行を遅らせることの低減、または疾患を退行させることなどの治療利益を提供するのに有効な量を意味する。特定したECMヒドロゲルの量は、炎症を阻害するおよび/またはこのような炎症の影響、例えば、狭窄を緩和するなど、処置される対象において所望の効果を達成するのに十分である。治療有効量は、全身的にまたは局所的に、例えば、食道に、投与することができる。さらに、ECMヒドロゲルの有効量は、単回用量で、または複数用量を経時的に、投与することができる。しかし、有効量は、適用される調製物、処置される対象、苦痛の重症度およびタイプ、ならびに化合物の投与手法に応じて変わることになる。本明細書に開示の方法におけるECMヒドロゲルの使用は、医学的設定と獣医学的設定の両方で適用を有する。したがって、一般用語「対象」または「患者」は、これらに限定されないが、ヒトまたは獣医学的対象、例えば、他の霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含むすべての動物を含むことが理解される。
【0054】
別段説明されていなければ、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、この開示が属する技術分野の当業者によって通常理解されているのと同じ意味を有する。「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単数の用語は、別段明示されていなければ、複数の指示対象を含む。同様に、「または(or)」という語は、別段明示されていなければ、「および(and)」を含むことを意図する。核酸またはポリペプチドに関して与えられるすべての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、およびすべての分子重量または分子質量はおよその値であり、説明のために提供されるものであることをさらに理解すべきである。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料をこの開示の実践または検査において使用することができるが、適切な方法および材料が以下に記載される。「含む(comprises)」という用語は、「含む(includes)」を意味する。「約(about)」は、5パーセント以内を示す。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、参照によりその全体として本明細書に組み込まれる。矛盾する場合には、用語の説明を含む本明細書が支配することになる。さらに、材料、方法、および実施例は例証に過ぎず、限定であることを意味するものではない。
【0055】
細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲル
ECMヒドロゲルを調製する方法は、例えば、米国特許第8,361,503号に開示されている。任意のタイプの細胞外マトリックス組織を使用して、本明細書に開示の方法で使用することができるヒドロゲルを生成することができる(ECMに関連する米国特許第4,902,508号;同第4,956,178号;同第5,281,422号;同第5,352,463号;同第5,372,821号;同第5,554,389号;同第5,573,784号;同第5,645,860号;同第5,771,969号;同第5,753,267号;同第5,762,966号;同第5,866,414号;同第6,099,567号;同第6,485,723号;同第6,576,265号;同第6,579,538号;同第6,696,270号;同第6,783,776号;同第6,793,939号;同第6,849,273号;同第6,852,339号;同第6,861,074号;同第6,887,495号;同第6,890,562号;同第6,890,563号;同第6,890,564号;および同第6,893,666号を参照のこと)。ある特定の実施形態では、ECMは、脊椎動物から、例えば、限定されないが、温血哺乳類の脊椎動物(これらに限定されないが、ヒト、サル、ウマ、ブタ(pig)、ウシおよびヒツジを含む)から単離される。具体的な非限定例では、ECMは、ブタ(porcine)またはヒトである。
【0056】
ECMは、限定されないが、膀胱、腸、肝臓、食道および真皮を含む任意の器官または組織に由来し得る。一実施形態では、ECMは、膀胱から単離される。別の実施形態では、ECMは、食道に由来する。ECMは、ECMの基底膜部分を含んでもよくまたは含まなくてもよい。ある特定の実施形態では、ECMは、基底膜の少なくとも1部分を含む。他の実施形態では、ECMは、細胞培養物から回収される。ECMヒドロゲルは、2つまたはそれより多い組織供給源の組合せによって生成され得る。
【0057】
米国特許第8,361,503号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように、膀胱のECM、例えば、ブタ(porcine)の膀胱のECMは、外科用メスハンドルと湿らせたガーゼを用いた長手方向の拭き取り動作を使用して、膀胱組織を擦り剥し、漿膜と筋層の両方を含む外側の(反管腔側の)層を除去することによって調製される。組織断片を裏返した後、同じ拭き取り動作を使用して、下にある組織から粘膜の内腔部分が離層される。一部の実施形態では、粘膜下層の穿孔は妨げられる。これらの組織が除去された後、得られるECMは、主に粘膜下層からなる。脱細胞化された真皮のECMからのヒドロゲルの生成について、参照により本明細書に組み込まれるWolfら、Biomaterials 33巻:7028~7038頁、2012年に開示されている。食道組織からのECMの生成について、いずれも参照により本明細書に組み込まれるBadylakら、JPediatr Surg. 35巻(7号):1097~103頁、2000年およびBadylakら、J Surg Res. 2005年9月;128巻(1号):87~97頁、2005年に開示されている。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,893,666号は、膀胱、皮膚、食道および小腸からのECMの生成について開示している。
【0058】
市販のECM調製物も、本明細書に記載の方法、デバイスおよび組成物において使用することができる。一実施形態では、ECMは、小腸粘膜下層またはSISに由来する。市販の調製物として、これらに限定されないが、SURGISIS(商標)、SURGISIS-ES(商標)、STRATASIS(商標)、およびSTRATASIS-ES(商標)(Cook Urological Inc.;Indianapolis、Ind.)ならびにGRAFTPATCH(商標)(Organogenesis Inc.;Canton Mass.)が挙げられる。別の実施形態では、ECMは、真皮に由来する。市販の調製物として、これらに限定されないが、PELVICOL(商標)(欧州ではPERMACOL(商標)として販売される;Bard、Covington、Ga.)、REPLIFORM(商標)(Microvasive;Boston、Mass.)およびALLODERM(商標)(LifeCell;Branchburg、N.J.)が挙げられる。別の実施形態では、ECMは、膀胱に由来する。市販の調製物として、これらに限定されないが、UBM(Acell Corporation;Jessup、Md.)が挙げられる。
【0059】
ECMの調製のために使用される供給源となる組織は、多種多様な方法で回収することができ、一旦回収されると、回収された組織の様々な部分を使用してもよい。ECMは、食道および小腸からも調製されており、ヒドロゲルは、このECMから調製されている。例えば、参照により本明細書に組み込まれるKeaneら、TissueEng. Part A、21巻(1
7~18号):2293~2300頁、2015年を参照のこと。食道のECMは、外筋層から粘膜および粘膜下層を機械的に分離し、トリプシンを含む緩衝液中で粘膜層を消化し、その後、ショ糖、TRITON-X100(登録商標)、デオキシコール酸、過酢酸およびDNAseに曝すことによって調製することができる。小腸粘膜下層(SIS)は、インタクトな小腸から粘膜、漿液膜、および外筋層の表層を機械的に除去し、粘膜下層、粘膜筋板、および基底細胞層(basilar stratum compactum)をインタクトなままにすることによって調製することができる。次いで、SISは、過酢酸で処理される。例示的プロトコールが、Keaneらに提供されている。
【0060】
一実施形態では、ECMは、回収されたブタ(porcine)の膀胱から単離され、膀胱マトリックス(UBM)を調製する。過剰な結合組織と残留する尿が膀胱から除去される。漿液膜、外筋層、粘膜下層および粘膜筋板のほとんどを、機械的擦り剥しによってまたは酵素処理、水和、および擦り剥しの組合せによって除去することができる。これらの組織の機械的除去は、外層(特に、反管腔側の平滑筋層)、さらに粘膜の内腔部分(上皮層)を除去する長手方向の拭き取り動作を使用する擦り剥しによって達成することができる。これらの組織の機械的除去は、例えば、Adson-Brown鉗子とMetzenbaumはさみを用いる腸間膜組織の除去および湿らせたガーゼで包まれた外科用メスハンドルまたは他の硬い物体による長手方向の拭き取り動作を使用して筋層および粘膜下層を拭き取ることによって達成される。粘膜の上皮細胞は、組織を脱上皮化溶液(de-epithelializing solution)、例えば、限定されないが、高張食塩水に浸すことによっても分離され得る。得られるUBMは、粘膜と隣接する固有層の基底膜を含み、これは、過酢酸でさらに処理され、凍結乾燥および粉末化される。米国特許第8,361,503号を参照のこと。
【0061】
一部の実施形態では、上皮細胞は、最初に、組織を、高張食塩水などの脱上皮化溶液、例えば、限定されないが、1.0Nの食塩水に、10分から4時間の範囲の時間浸すことによって、最初に離層され得る。高張食塩水溶液への曝露によって、上皮細胞は、下にある基底膜から効果的に除去される。最初の離層の手順後に残っている組織には、上皮基底膜および上皮基底膜の反管腔側の組織層が含まれる。次に、この組織は、さらなる処理に供され、上皮基底膜ではなく、反管腔側の組織の大部分を除去する。外側の漿膜の、外膜の平滑筋組織、粘膜下層および粘膜筋板のほとんどは、機械的擦り剥しによってまたは酵素処理、水和、および擦り剥しの組合せによって、残っている脱上皮化組織から除去される。
【0062】
ECMは、これらに限定されないが、過酢酸への曝露、低線量のガンマ線照射、ガスプラズマ滅菌、エチレンオキシド処理、超臨界CO、または電子線処理を含むいくつもの標準技法によって滅菌することができる。より典型的には、ECMの滅菌は、0.1%(v/v)の過酢酸、4%(v/v)のエタノール、および95.9%(v/v)の滅菌水に、2時間浸すことによって得られる。過酢酸の残渣は、PBS(pH=7.4)で15分間、2回、および滅菌水で15分間、2回洗浄することによって除去される。ECM材料は、プロピレンオキシドまたはエチレンオキシド処理、ガンマ線照射処理(0.05から4 mRad)、ガスプラズマ滅菌、過酢酸滅菌、超臨界CO、または電子線処理によって滅菌され得る。ECMは、タンパク質材料の架橋を引き起こすグルタルアルデヒドによる処理によっても滅菌され得るが、この処理は、材料を実質的に変化させ、その結果、ECMは、ゆっくりと再吸収されるかまたは全く再吸収されず、構築的リモデリングよりも傷組織の形成または被包形成により酷似する様々なタイプの宿主リモデリングを誘発する。タンパク質材料の架橋はまた、カルボジイミドまたは脱水熱または光酸化による方法により誘導され得る。米国特許第8,361,503号に開示されているように、ECMは、0.1%(v/v)の過酢酸(a)、4%(v/v)のエタノール、および96%(v/v)の滅菌水に2時間の浸漬によって殺菌される。次いで、ECM材料は、PBS(pH=7.4)で15分間、2回、および脱イオン水で15分間、2回洗浄される。
【0063】
目的の組織の単離の後、種々の方法、例えば、限定されないが、高張食塩水、過酢酸、TRITON-X(登録商標)または他の洗剤への曝露によって、脱細胞化が実施される。滅菌および脱細胞化は、同時であってもよい。例えば、限定されないが、上述の過酢酸による滅菌は、ECMを脱細胞化する役割を果たすこともできる。次いで、脱細胞化ECMは乾燥され、凍結乾燥(フリーズドライ)されるかまたは風乾される。乾燥ECMは、これらに限定されないが、破断すること、製粉すること、切断すること、摩砕すること、およびせん断することを含む方法によって粉砕され得る。粉砕ECMは、例えば、限定されないが、凍結またはフリーズドライ状態で摩砕することまたは製粉することなどの方法によって、粉末化形態へとさらに加工され得る。可溶化ECM組織を調製するために、粉砕ECMは、酸性溶液中で酸性プロテアーゼにより消化され、消化溶液を形成する。
【0064】
ECMの消化溶液は、典型的には、室温にて、ある特定量の時間、一定の撹拌状態に保たれる。ECM消化物は、すぐに使用されるかまたは-20℃で保存されるかまたは、例えば、限定されないが、-20℃または-80℃で凍結されてもよい。
【0065】
ECMが可溶化されると(典型的には、実質的に完全に)、溶液のpHは、7.2から7.8の間、一実施形態によれば、pH7.4に上昇する。NaOHを含む水酸化イオンを含有する塩基などの塩基を使用して、溶液のpHを上げることができる。同様に、限定されないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む等張緩衝液などの緩衝液を使用して、溶液を標的pHとするか、またはゲルのpHおよびイオン強度を標的レベル、例えば、生理学的pHおよびイオン状態に維持するのを補助することができる。これにより、「プレゲル」溶液が形成される。中和消化溶液(プレゲル)は、生理学的温度に近づく、37℃に近い温度でゲル化され得る。この方法は、典型的には、ゲル化の前に透析ステップを含まず、典型的には、37℃で、特定の速度でゲル化する、より完全なECM様マトリックスをもたらす(以下を参照のこと)。
【0066】
したがって、ECMは、典型的には、哺乳動物の組織、例えば、限定されないが、膀胱、食道、または小腸のうちの1つに由来し得る。ECMヒドロゲルは、2つまたはそれより多い組織供給源、例えば、2、3、または4つの組織供給源から生成され得る。非限定的な一実施形態では、ECMは、凍結乾燥および粉砕される。次いで、ECMは、酸性溶液中で、酸性プロテアーゼにより可溶化され、消化されたECM、例えば、食道のECMを生じる。酸性プロテアーゼは、限定されないが、ペプシンもしくはトリプシン、またはこれらの組合せであってもよい。次いで、ECMは、プロテアーゼにとって適切または最適な酸性pH、例えば、約pH2より大きいか、またはpHと4の間、例えば、0.01MのHCl溶液中で、可溶化され得る。溶液は、典型的には、混合する(撹拌する、かき混ぜ、混和する、ブレンドする、回転させる、傾けるなど)ことにより、組織のタイプに応じて(例えば、以下の実施例を参照のこと)、約12から約48時間で可溶化される。ECMヒドロゲルは、(i)細胞外マトリックスを粉砕する、(ii)酸性溶液中で、酸性プロテアーゼによる消化によって、インタクトな、透析されていないかまたは架橋されていない細胞外マトリックスを可溶化して、消化溶液を生成する、(iii)消化溶液のpHを7.2から7.8の間のpHに上昇させて、中和消化溶液(プレゲル溶液)を生成する、および(iv)目的の対象の食道内で、およそ37℃の温度で、溶液をゲル化することによって調製される。
【0067】
ECMヒドロゲルは、約37℃の温度に曝される場合に、ゲルを形成する。「プレゲル」形態のECMヒドロゲルは、凍結され、例えば、限定されないが、-20℃または-80℃で保存することができる。「プレゲル」形態のECMヒドロゲルは、室温、例えば、約25℃で保存することができる。したがって、ECMヒドロゲルは、37℃未満、例えば、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4℃で、プレゲル形態にある。ECMヒドロゲルを貯蔵のために凍結することができ、したがって、0℃未満で保存することができる。本発明において使用されるように、「プレゲル形態」または「プレゲル」という用語は、pHが上昇するが、ゲル化していないECMヒドロゲルを指す。例えば、限定されないが、プレゲル形態のECMヒドロゲルは、7.2から7.8の間のpHを有する。ECMヒドロゲルは、プレゲル形態で、経口的に、カテーテルを介して、または内視鏡により、食道の炎症を有する対象に送達することができる。
【0068】
プレゲル形態のECMヒドロゲルは、患者の食道への導入に適している。およそ37℃である食道へと導入されると、ECMヒドロゲルは、ゲル化して食道を被覆する。理論に拘泥されることなく、ECMヒドロゲルは、多くのネイティブな可溶性因子、例えば、これらに限定されないが、サイトカインを含む。様々な組織、例えば、食道から調製された非透析(全ECM)調製物の具体的な特徴が本明細書に開示されている。ヒドロゲルは、ECMヒドロゲルが、経口投与、内視鏡投与により、またはカテーテルを介して食道に投与され得るような動力学でゲル化し、次に、ヒドロゲルは、食道内でゲル化し、食道を被覆する。
【0069】
一部の実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)i)約10から約300パスカル(Pa)、ii)約10から約450Pa、iii)約10から約600Pa、iv)約5から約1,000Pa、v)約10から1,000Pa、またはvi)約10から約70Paの剛性を有する。
【0070】
実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)約10から約300パスカル(Pa)の剛性を有する。他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)約10から約450パスカル(Pa)の剛性を有する。他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)約10から約600パスカル(Pa)の剛性を有する。
【0071】
他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)約5から約1,000パスカル(Pa)の剛性を有する。他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)約10から約1,000パスカル(Pa)の剛性を有する。より多くの実施形態では、ECMヒドロゲルは、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)10~70パスカル(Pa)の剛性を有する。
【0072】
具体的な非限定例では、ECMヒドロゲルは、食道のヒドロゲルである。他の具体的な非限定例では、ECMヒドロゲルは、2つまたはそれより多い組織供給源から生成することができる。さらなる非限定例では、ECMヒドロゲルは、膀胱または小腸から生成することができる。
【0073】
追加の具体的な非限定例では、ECMヒドロゲルは、(a)酸性溶液中での酸性プロテアーゼによる組織の消化によって、無細胞細胞外マトリックス(ECM)を可溶化して、消化された食道のECMを生成すること;(b)消化されたECMのpHを7.2から7.8の間のpHに上昇させて、中和消化溶液を生成すること;(c)消化されたECMを希釈して、約2mg/mlから約16mg/ml、例えば、約8mg/mlから約12mg/mlの濃度のECMヒドロゲルにすること、によって生成される。次いで、このヒドロゲルは、対象の食道へと導入され、ゲル化する。ECMは、食道のECMであってもよい。
【0074】
本明細書に開示の方法で使用するECMヒドロゲルは、約37℃の温度で、30分未満、例えば、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、1、10、9、8、7、6、5、4、3分未満の50%ゲル化までの時間を有する。一部の実施形態では、ECMヒドロゲルは、約37℃の温度で、10分未満のゲル化までの時間を有する。他の実施形態では、50%ゲル化までの時間は、約37℃の温度で、約3から約30分である。さらなる実施形態では、50%ゲル化までの時間は、約37℃の温度で、約4から約10分である。さらに他の実施形態では、50%ゲル化までの時間は、約37℃の温度で、約5から約10分または約10から約20分である。
【0075】
本開示のECMヒドロゲルは、食道への注入に適する流動粘度を有することができる。一部の実施形態では、ECMヒドロゲルは、0.2/sのせん断速度で、約10から約100Pas、例えば、0.2/sのせん断速度で、約10、20、30、40、50、60、70、80、または90Pasの流動粘度を有する。さらなる実施形態では、ECMヒドロゲルは、0.1/sのせん断速度で、約1から約40Pas、例えば、0.1/sのせん断速度で、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、または40Pasの流動粘度を有する。
【0076】
他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、1000/sのせん断速度で、約0.01から約0.20Pas、または、1000/sのせん断速度で、約0.01から約0.10Pas、例えば、1000/sのせん断速度で、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.19または0.2の流動粘度を有する。
【0077】
より多くの実施形態では、ECMヒドロゲルは、100/sのせん断速度で、約0.02から約0.8Pas、または100/sのせん断速度で、約0.1から約0.8Pas、例えば、約0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、または0.08Pasを有する。
【0078】
さらなる実施形態では、ECMヒドロゲルは、0.2/sのせん断速度で、約10から約100Pasの流動粘度および1000/sのせん断速度で、約0.01から約0.10Pasの流動粘度を有する。より多くの実施形態では、ECMヒドロゲルは、0.1/sのせん断速度で、1から40Pasおよび1000/sのせん断速度で、0.01から0.2Pasの流動粘度を有する。
【0079】
他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、1/sのせん断速度で、約1から約40Pas、例えば、1から約30Pas、または1から約20Pas、または1から約10Pas、例えば、1/sのせん断速度で、約1、2、3、4、5、6、7、8、または9Pasの流動粘度を有する。せん断速度は、例えば、1/sのせん断速度で、10、20、30または40Pasであり得る。他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、100/sのせん断速度で、約0.05から約0.20、例えば、100/sのせん断速度で、約0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.15または0.2の流動粘度を有する。流動粘度は、1/sのせん断速度で、約0.1から約25Pasであり、100/sのせん断速度で、約0.02から約0.8Pasである。追加の実施形態では、流動粘度は、1/sのせん断速度で、約1から約10Pas、100/sのせん断速度で、約0.05から約0.20である。
【0080】
さらなる実施形態では、ECMヒドロゲルは、0.2/sのせん断速度で、約10から約100Pasの流動粘度を有する。他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、1000/sのせん断速度で、約0.01から約0.10Pasの流動粘度を有する。他の実施形態では、ECMヒドロゲルは、0.1/sのせん断速度で、約1から約40Pasの流動粘度を有し、1000/sのせん断速度で、0.01から0.2Pasである。
【0081】
本開示のECMヒドロゲルは、i)約10から約300パスカル(Pa)、ii)約10から約600Pa、iii)約5から約1,000Pa、iv)約10から1,000Pa、またはv)約10から約70Paの剛性を有する。ECMヒドロゲルは、約10から約300パスカル(Pa)、例えば、約10から約70Pa、約10から約100パスカル(Pa)、または約10から約150Pa、約10から約200Pa、または約10から約250Paの剛性を有し得る。一部の実施形態では、本開示のECMヒドロゲルは、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、または70Paの剛性を有する。他の実施形態では、本開示のECMヒドロゲルは、約10から約80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または300Paの剛性を有する。さらなる実施形態では、本開示のECMヒドロゲルは、約70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、または300Paの剛性を有し得る。
【0082】
一部の実施形態では、ヒドロゲルにおけるECM濃度は、約2mg/mlから約20mg/ml、例えば、約8mg/mlから約12mg/mlまたは約2mg/mlから約16mg/mlである。他の実施形態では、ヒドロゲルにおけるECM濃度は、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16mg/mlである。使用の例示的濃度として、これらに限定されないが、約9mg/mlから約11mg/ml、および約10/mgから約12mg/mlが挙げられる。追加の例示的濃度として、約8mg/mlから約10mg/ml、約8mg/mlから約11mg/ml、約8mg/mlから約13mg/ml、約8mg/mlから約14mg/ml、約8mg/mlから約15mg/ml、および約8mg/mlから約16mg/mlが挙げられる。使用のさらなる例示的濃度として、約6mg/mlから約12mg/ml、約13mg/ml、約14mg/ml、約15mg/mlまたは約16mg/mlも挙げられる。
【0083】
本開示のECMヒドロゲルは、キットの構成成分として提供され得る。ECMヒドロゲルは、凍結または凍結乾燥形態で提供され得る。一部の実施形態では、キットは、ヒドロゲルを形成するために必要とされる構成成分、例えば、凍結乾燥形態のヒドロゲルを含む1つの容器、凍結乾燥されたヒドロゲルを可溶化するために溶液を含む1つの容器、必要に応じて、可溶化形態を中和するための中和溶液を含む容器などを含むことができる。他の実施形態では、キットは、可溶化ヒドロゲルを含む容器、中和剤を含む第2の容器を含むことができる。
【0084】
必要に応じて、このようなキットは、パッケージ、説明書および種々の他の試薬、例えば、緩衝液、基質、または他の治療成分を含む追加の構成成分を含む。キットは、容器と容器にまたは容器に付随したラベルまたは添付文書とを含むことができる。適切な容器として、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成されてもよい。容器は、典型的には、対象の食道の炎症を阻害しおよび/または食道の炎症の影響を緩和するために有効な、凍結または凍結乾燥形態などの、ECMヒドロゲルを含む組成物を保持する。いくつかの実施形態では、容器は、滅菌アクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き刺すことが可能な、ストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであってもよい)。ラベルまたは添付文書は、組成物が、特定の状態、例えば、バレット食道を処置するために使用されることを示す。
【0085】
ラベルまたは添付文書は、典型的には、使用説明書をさらに含むことになる。添付文書は、典型的には、指示、使用法、投薬量、投与、禁忌についての情報および/または治療製品の使用に関する警告を含有するこのような治療製品のコマーシャルパッケージに習慣的に含まれる説明書を含む。指示材料は、電子形態(コンピューターディスケットまたはコンパクトディスクなど)で書き込まれていてもよく、または映像(ビデオファイルなど)であってもよい。キットは、キットが設計される特定の適用を容易にする追加の構成成分、例えば、針またはカテーテルも含んでよい。キットは、さらに、特定の方法の実践に日常的に使用される緩衝液および他の試薬を含んでもよい。キットおよび適当な内容物は、当業者に周知である。
【0086】
処置方法
食道の炎症を処置するための方法が本明細書に開示されている。食道の狭窄を低減するための方法も開示されている。理論に拘泥されることなく、ECMヒドロゲルは、初期ステージの新生物食道疾患および形成異常食道疾患の処置を可能とする。本開示のヒドロゲルは、前新生物および新生物食道疾患の両方を処置するために使用することができる。本開示のヒドロゲルの多用途性により、食道熱傷、潰瘍形成および食道の複数の非結合エリア全体に拡大し得る他の病理を処置するために使用することが可能となる。本開示のヒドロゲルはまた、ステントまたは侵襲性の技法の使用を必要としない、長い断片または分散した食道の傷の処置にも有用である。これらの状態では、シート形状のECMの使用は実行不能であり、これは、食道表面にわたって、複数のステントおよびECMシートが必要とされることになるためである。さらに、ECMのシート形態およびヒドロゲル形態は、活性構成成分に関してもより重要な差を有する。本開示のヒドロゲルのいずれかは、これらの処置方法において有用である。当業者、例えば、熟練した医師は、治療有効性を容易に特定することができる。
【0087】
ゆえに、食道の炎症を有する対象を選択することができる。食道の狭窄を有するか、または有するリスクのある対象を選択することもできる。
【0088】
一部の実施形態では、対象は、食道腺癌(EAC)の症状を呈さないが(例えば、EACを有さない、および/または胃食道逆流性疾患(GERD)もしくはバレット食道を以前に有していない)、食道の炎症を有する対象など、見かけ上健康である。一部の例では、健康な対象は、医療専門家によって調査された場合に、健康およびGERDなどの症状を有さないと特徴付けられることによる対象である。しかし、対象は、例えば、内視鏡投与によって決定されるように、食道の炎症を有する。一部の実施形態では、本開示の方法はこの炎症を阻害する。
【0089】
他の実施形態では、対象は、GERDおよび/またはバレット食道を有する。具体的な非限定例では、対象は、胃食道の不快感を抑制するために、プロトンポンプ阻害薬またはヒスタミン拮抗物質などの酸還元薬を使用することができる。対象は、喫煙および/またはアルコール使用によって、リスクを増加させる場合がある。対象は、食道の低悪性度形成異常または高悪性度形成異常を有する可能性がある。一部の実施形態では、対象は、食道腺癌を有さない。しかし、対象は、食道腺癌に対するリスクがある可能性がある。
【0090】
一部の実施形態では、本方法は、対象の食道新生物の発生を阻害しまたは回復させる。他の実施形態では、本方法は、対象の食道の上皮バリアを復元する。さらなる実施形態では、本方法は、対象の食道における傷の部位への上皮細胞および/または幹細胞の両方の走化性を増加させる。さらなる実施形態では、本方法は、食道腺癌の発症を阻害する。他の実施形態では、処置によって、対象が、プロトンポンプ阻害薬および/またはヒスタミン拮抗薬の使用を低減するかまたは回避することが可能となる。しかし、本開示の方法は、プロトンポンプ阻害薬および/またはヒスタミン拮抗薬と併せて使用することができる。
【0091】
さらなる実施形態では、処置によって、ECMヒドロゲルにより処置されない対象などの対照と比較して、狭窄が低減される。処置によって、ECMヒドロゲルにより処置されない対象などの対照と比較して、食道の周径を増加させることができる。
【0092】
本明細書に開示されているECMヒドロゲルは、ゲル化されるかまたはそれ未満の、例えば、室温(例えば、約25℃)または室温未満の温度で維持される。ECMヒドロゲルは、投与の前に、例えば、25℃または4℃で維持することができる。次いで、有効量の、プレゲル形態のECMヒドロゲルが、対象の食道に投与される。ECMヒドロゲルは経口的に投与することができ、その結果、ヒドロゲルは対象に嚥下され、食道に送達された際にゲル化する。ECMヒドロゲルは、カテーテルまたは内視鏡投与によってのいずれかを使用して、食道に直接投与することができる。ECMヒドロゲルは、およそ37℃の温度である、対象の食道内でゲル化する。一部の実施形態では、約5から約60mlのECMヒドロゲル、例えば、約10mlから約30mlのECMヒドロゲル、例えば、約10、15、20、25または20mlのECMヒドロゲルが対象に投与される。ECMヒドロゲルは、凍結乾燥または凍結形態で提供され、対象への投与直前に再構築することができる。
【0093】
本開示の方法は、治療有効量の、本明細書に開示されている、プレゲル形態のECMヒドロゲルを、対象、例えば、これらに限定されないが、食道の炎症を有する対象、または狭窄を有するかもしくは狭窄に対するリスクがある対象の食道に投与することと、ヒドロゲルを対象の食道内でゲル化させることとを含む。一部の実施形態では、ECMヒドロゲルは、a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)10~70パスカル(Pa)の剛性を有する。しかし、上記開示のヒドロゲルのいずれかも利用することができる。ECMヒドロゲルは、一部の実施形態では、任意の哺乳動物の組織、例えば、これらに限定されないが、ブタ(porcine)またはヒトの組織に由来し、一部の非限定例では、膀胱、小腸、または食道に由来してもよい。上記開示のヒドロゲルはいずれも、対象の食道の炎症の処置のためおよび/または食道内の上皮バリアを復元するために使用することができる。上記開示のヒドロゲルはいずれも、狭窄を処置するためにも使用することができる。一部の実施形態では、表面への局所送達により、任意の望ましくない副作用が回避される。具体的な非限定例では、対象は、バレット食道を有するかまたはバレット食道を有するリスクがある。
【0094】
本開示のヒドロゲルは、プレゲル形態で、食道粘膜に局所的に投与することができる。ヒドロゲルは、非侵襲的適用方法を使用して、食道の内腔に投与され、表面を被覆することができる。一部の実施形態では、適用は、プレゲル形態のヒドロゲルを嚥下することによるなど、経口的である。他の実施形態では、適用は経管栄養であってもよく、プレゲル形態のヒドロゲルは、所望の位置に配置される。一部の実施形態では、ヒドロゲルは粘膜を被覆し、下にある粘膜下層または筋肉組織に侵襲しない。
【0095】
当業者は、ヒドロゲルを容易に製剤化することができ、その結果、プレゲル形態は、処置される対象によって嚥下される。さらに別の実施形態では、ヒドロゲルは、内視鏡によってプレゲル形態で提供され、医薬が、局所的に、例えば、処置を必要とする食道の領域に特異的に、送達されることを確実にする。例えば、ヒドロゲルの局所送達は、内視鏡/胃内視鏡を介するものであってもよい。一般的に、送達は、ヒドロゲルのプレゲル形態を非侵襲的に送達するために、食道粘膜に対して局所的である。ヒドロゲルは、表面でゲル化し、粘膜の所望のエリアを被覆する。一部の実施形態では、ECMヒドロゲルはゲル化し、粘膜を保護する保護バリアを提供する。
【0096】
一部の実施形態では、食道胃十二指腸内視鏡検査(EGD)または上部消化管内視鏡検査を目的の対象に対して実施することができる。これらの手順は、ヒドロゲル適用前に実施され、目的の対象を選択することができる。これらの手順は、対象への影響を評価するため、および追加の適用が必要かどうかを決定するために、本開示の方法の使用に従って実施することもできる。
【0097】
例示的実施形態
項1。 対象の食道の炎症を阻害するかまたは食道狭窄症を低減するための方法であって、以下の特徴:a)約37℃の温度での50%ゲル化までの時間が30分未満;b)食道への注入に適する流動粘度;およびc)i)約10から約300パスカル(Pa)、ii)約10から約450Pa、iii)約10から約600Pa、iv)約5から約1,000Pa、v)約10から1,000Pa、またはvi)約10から約70Paの剛性を有する治療有効量の細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを、食道の炎症を有する対象の食道に投与し、それによって、対象の食道の炎症を阻害するかまたは食道狭窄症を低減することを含む、方法。
【0098】
項2。 50%ゲル化までの前記時間が、約37℃で、約3から約30分である、項1に記載の方法。
【0099】
項3。 50%ゲル化までの前記時間が、約37℃で、約3から約10分である、項1に記載の方法。
【0100】
項4。 50%ゲル化までの前記時間が、約4から約10分である、項2に記載の方法。
【0101】
項5。 前記流動粘度が、約0.1/sのせん断速度で、約1から約40Pasであり、1000/sのせん断速度で、約0.01から約0.2Pasである、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0102】
項6。 前記流動粘度が、1/sのせん断速度で、約0.1から約25Pasであり、約100/sのせん断速度で、約0.02から約0.8Pasである、項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0103】
項7。 前記ECMヒドロゲルが、10~70Paの剛性を有する、項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【0104】
項8。 前記ECMヒドロゲルが、食道のECMヒドロゲルである、項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0105】
項9。 前記ヒドロゲルのECM濃度が、2mg/mlから約16mg/mlである、項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【0106】
項10。 前記ECMヒドロゲルが、経口的に、内視鏡によりまたはカテーテルを介して投与される、項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【0107】
項11。 前記ECMヒドロゲルが、
(a)消化された食道のECMを生成するために、酸性溶液中での酸性プロテアーゼによる組織の消化によって脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)を可溶化すること;および(b)中和消化溶液を生成するために、前記消化された食道のECMのpHを7.2から7.8の間のpHに上昇させること
によって生成される、項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【0108】
項12。 前記消化されたECMのpHを上昇させること(b)が、前記消化されたECMのpHを上昇させるために、塩基または等張緩衝液を添加することを含む、項11に記載の方法。
【0109】
項13。 前記酸性プロテアーゼが、ペプシン、トリプシンまたはこれらの組合せである、項10または項11に記載の方法。
【0110】
項14。 前記ECMヒドロゲルが、前記対象への投与の前に、25℃でまたは25℃未満で維持される、項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【0111】
項15。 前記対象が、バレット食道を有するかまたはバレット食道のリスクがある、項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【0112】
項16。 前記対象の食道新生物の発生を阻害する、項15に記載の方法。
【0113】
項17。 前記ECMヒドロゲルが、前記対象の食道における上皮バリアを復元する、項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【0114】
項18。 前記ECMヒドロゲルが、前記対象の食道における傷の部位への上皮細胞および/または幹細胞の両方の走化性を増加させる、項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【0115】
項19。 前記ECMヒドロゲルが、前記対象の食道狭窄症を低減する、項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【0116】
項20。 細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルを含む組成物であって、ECMヒドロゲルが、以下の特徴:a)約37℃での50%ゲル化までの時間が10分未満;b)食道への注入に十分な流動粘度;およびc)i)約10から約300パスカル(Pa)、ii)約10から約450Pa、iii)約10から約600Pa、iv)約5から約1,000Pa、v)約10から1,000Pa、またはvi)約10から約70Paの剛性を有し、組成物が食道への投与のために製剤化される、組成物。
【0117】
項21。 50%ゲル化までの前記時間が、約37℃で、a)約3から約30分;b)約4から約10分;またはc)約3から約10分である、項20に記載の組成物。
【0118】
項22。 前記ヒドロゲルが、約10から約70Paの剛性を有する、項20または項21に記載の組成物。
【0119】
項23。 約2mg/mlから約16mg/mlの前記ECMヒドロゲルを含む、項20から22のいずれか一項に記載の組成物。
【0120】
項24。 前記ECMヒドロゲルが、
(a)消化された食道のECMを生成するために、酸性溶液中での酸性プロテアーゼによる食道組織の消化によって、脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)を可溶化すること;
(b)中和消化溶液を生成するために、前記消化された食道のECMのpHを7.2から7.8の間のpHに上昇させること;および
(c)約8mg/mlから約12mg/mlの濃度の前記ECMヒドロゲルにするために、前記消化された食道のECMを希釈すること
によって生成される、項21から23のいずれか一項に記載の組成物。
【0121】
項25。 前記消化されたECMのpHを上昇させること(b)が、前記消化された食道のECMのpHを上昇させるために、塩基または等張緩衝液を添加することを含む、項24に記載の組成物。
【0122】
項26。 前記酸性プロテアーゼが、ペプシン、トリプシンまたはこれらの組合せである、項24または項25に記載の組成物。
【0123】
項27。 前記ECMヒドロゲルが、25℃でまたは25℃未満で維持される、項20から26のいずれか一項に記載の組成物。
【0124】
項28。 対象の食道の炎症を阻害することに使用するための、項20から27のいずれか一項に記載の組成物。
【0125】
項29。 対象の食道における上皮バリアを復元することに使用するための、項20から27のいずれか一項に記載の組成物。
【0126】
項30。 前記対象が、バレット食道を有する、項28または項29に記載の組成物。
【0127】
項31。 対象の食道狭窄症を低減するための、項20から27のいずれか一項に記載の組成物。
【0128】
項32。 a)項20から31のいずれか一項に記載の組成物、またはその凍結乾燥形態を含む容器、およびb)前記組成物を使用するための説明書を含むキット。
【0129】
項33。 項1~19の方法のいずれか1つにおいて使用するための組成物。
【0130】
本開示は、以下の非限定的実施例によって例証される。
【実施例0131】
粘膜炎症、または粘膜炎は、消化管の粘膜内壁の膨潤、刺激状態、および不快感によって特徴付けられる炎症状態である。粘膜炎は、消化管全体にわたって存在し得るびらんまたは潰瘍を生じる可能性がある。感染症および/または潰瘍形成を伴うことが多い、粘膜内壁の炎症として、粘膜炎は重篤であり、疼痛状態であることが多い。細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルが、粘膜炎症、例えば、食道の炎症を処置するための有効な治療薬であることが本明細書に開示されている。ECMヒドロゲルは、粘膜への継続的外傷からの保護バリアを提供し、抗炎症性である環境を促進し、ならびに/または損傷を受けたおよび炎症を起こした粘膜の修復を容易にすることができる。
【0132】
(実施例1)
ヒドロゲルの粘弾特性
様々なECM濃度(4~16mg/mL)の均質な食道のECM(eECM)ヒドロゲルに関してレオロジーを実施した。試料を、ゲル化温度よりずっと低い10℃のレオメーターに置き、定常状態の流動試験(せん断速度が0.1~1000 1/s)を実施して、ECMプレゲルの粘度プロファイルを決定した(図1)。
【0133】
各せん断速度で、ECM濃度が増加するに従って粘度が増加し、ECMプレゲルは、せん断減粘性である(せん断速度が増加するに従って粘度が低下する)。せん断減粘性は、10~1000 1/sのせん断速度の範囲を経験し得る、カテーテルを介して注入され得るECMプレゲルに対する良好な特性である。注入性のさらなる証拠は、映像で得られ、ECMプレゲル(食道のECMおよびUBM、青色で染色して試験した8~12mg/mL)が、すべて、経口経管栄養により注入可能(5frサイズ、約15.9G)であることを示した。次いで、温度を37℃まで急速に上昇させ、ゲル化を誘導し、タイムスイープ(0.5%の振動歪み)を37℃で実施し、ゲルの剛性(図2)およびゲル化時間(図3)を測定した。図2は、ECM濃度が増加するに従って、形成されたECMヒドロゲルの貯蔵弾性率(G’)または「剛性」が増加することを示す。同様の傾向が、形成されたECMヒドロゲルの損失弾性率(G’’)、または粘性構成成分について観察された。50%ゲル化までの時間を、タイムスイープ試験の間測定した(図3)。eECMは、濃度依存的ゲル化時間、すなわち、ECM濃度の増加に従って減少するゲル化時間を示す。
【0134】
2つの均質なECMヒドロゲル:膀胱マトリックスのECM(UBM)および皮膚のECM(MIRM5)に関してレオロジーを実施した。図4~6に、粘弾特性を、均質な食道のECMヒドロゲル(eECM)と比較して示す。
【表1】
【0135】
定常せん断試験を、図1について記載したのと同様に実施した。皮膚のECM(図4B)とUBM(図4C)は、ECM濃度が増加するのに従った粘度の濃度依存的増加およびECMヒドロゲルのせん断減粘プロファイル、すなわち、各ECM濃度に対するせん断速度が増加するのに従って粘度が低下することを示す。粘度範囲は、各組織タイプについて特有であった。
【0136】
UBMのECM(図5C)は、食道のECM(図5A)と同様に、ECM濃度が増加するのに従った貯蔵弾性率(剛性)の増加を示した。皮膚のECM(図5B)は、4mg/mLの低濃度ではヒドロゲルを形成せず、異なる組織供給源に由来するECMヒドロゲルのすべてが同様に挙動する訳ではないことを実証した。3つのECMヒドロゲルの剛性の範囲は、特有であった。
【0137】
皮膚のECM(図6B)は、濃度依存的ゲル化時間、すなわち、食道のECM(図6A)と同様に、ECM濃度が増加するのに従って、ゲル化時間が減少することを示したが、一方、UBMは、濃度非依存的ゲル化時間、すなわち、ゲル化時間が、すべてのECM濃度に対して一定のままであったことを示した(図6C)。特有のゲル化プロファイルは、異なる組織供給源に由来するECMヒドロゲルの可変性についてさらに実証する。ゆえに、食道のヒドロゲルは、独特の特性をもたらし、これらに限定されないが、8mg/mlから約12mg/mlなどの様々な濃度で有用である。
【0138】
(実施例2)
ECMヒドロゲルを用いて粘膜炎症を処置する
粘膜炎症、または粘膜炎は、消化管の粘膜内壁の膨潤、刺激状態、および不快感によって特徴付けられる炎症状態である。粘膜炎は、消化管全体にわたって存在し得る潰瘍を生じる可能性がある。感染症および/または潰瘍形成を伴うことが多い、粘膜内壁の炎症として、粘膜炎は重篤であり、疼痛状態であることが多い。
【0139】
粘膜炎は、例えば、がんに対する化学療法または放射線療法の併発症として発症することが多い。がん処置における放射線照射および化学療法の目的、すなわち、急速に分裂するがん細胞を殺傷することは、消化管などの粘膜内壁領域の上皮細胞にも影響を及ぼし、粘膜炎を引き起こす。放射線照射および/または化学療法への曝露によって、粘膜上皮およびその下にある結合組織の細胞の完全性が著しく破壊され、例えば、食道およびGl管の他の部分におけるように、粘膜部位で、炎症、感染症および/または潰瘍形成を引き起こすことが多い。
【0140】
細胞外マトリックス(ECM)ヒドロゲルは、粘膜炎症を処置するための治療薬である。理論に拘泥されることなく、ECMが粘膜の治癒を支持する機序は、(1)粘膜への継続的外傷からの保護バリアを提供するヒドロゲルの形成による、(2)抗炎症性である環境を促進することによる、ならびに/または(3)損傷を受けたおよび炎症を起こした粘膜の修復を容易にすることによる。食道のヒドロゲルの特性は、実施例1に開示されているように調査した。
【0141】
マクロファージは、ECMヒドロゲルに曝された場合に、PGE2レベルの上昇を含む、主として抗炎症性である分泌サイトカインプロファイルを誘発する(図7)。抗炎症性サイトカインのレベルは、ECMが由来する組織に応じて変化する。食道のヒドロゲルは、強力な抗炎症性作用をもたらす。
【0142】
粘膜修復には、炎症の低減だけでなく、上皮バリアおよび/または物理的バリアの再確立も必要とされる。ECMヒドロゲルは、上皮細胞と幹細胞の両方の走化性を増加させることによって、上皮バリアの復元を促進することができる。ECMに曝露されたマクロファージの分泌産物は、上皮細胞の移動を容易にする(図8A)。さらに、ECMヒドロゲルは、食道幹細胞の走化性を直接促進し、これらの効果は、ECMが由来する供給源組織に応じて変わる(図8B)。食道幹細胞は、食道のECMおよび小腸のECMへ優先的に移動した。図9は、バレット食道の例示的処置を示す。
【0143】
図10Aは、経口投与の40分後の効果を示し、ヒドロゲルは、通常の嚥下にもかかわらず、粘膜を被覆したままであり、特定され得る。これは、in vivoでのゲルの粘膜付着性を試験して、経口嚥下が有効であったことを確認するために実施された。図10Bに示されるように、カテーテルおよび内視鏡を使用して、ヒドロゲルを食道内の特定の位置(この場合、環の形状の)に送達した。ゆえに、ヒドロゲルは、食道内の特定の局所的位置に送達された。
【0144】
図11は、ヒドロゲル処置の効果も示す。上の行は、食道の炎症を有する動物における、少なくとも3カ月間の一定の逆流の結果である。左側に3頭のイヌをオメプラゾール(プロトンポンプ阻害剤)および食道のECMヒドロゲルで処置した。最後の動物(右のパネル)は、オメプラゾールのみで処置した。処置の30日後、ECMヒドロゲルを受けた3頭の動物で食道の炎症の改善を見ることができる。オメプラゾールのみを受けた動物は、改善を示さなかった(グレーのボックス、右のパネル)。
【0145】
図12A~12Bは、ECMヒドロゲルの安全性の評価を示す。動物は、酸の逆流を増加させる手順を受けて食道炎を引き起こし、次に、バレット食道を引き起こす。8頭の動物はいずれも、手術後に体重を損失せず、ヒドロゲルによる処置の間、BEを誘導しなかった(図12A)。生理学的パラメーターを分析した。30日のヒドロゲル毎日2回投与後に、動物の生理学的パラメーターは安定であり、標準範囲を超えなかった(図12B)。
【0146】
ECMによる処置前の動物モデルでは、ECMヒドロゲルで処置することになるイヌとECMヒドロゲルで処置しないイヌの両方が円柱状の化生を発現した(図13Aおよび13B)。ECM+オメプラゾールによる処置後、処置されたイヌは改善し、円柱状の化生は見られなかった(図13C)。ECMヒドロゲルで処置されていない対照の動物では、同じ面積に小区画の扁平上皮を有する円柱状の化生が存在した(図13D)。
【0147】
(実施例3)
ECMヒドロゲルで狭窄を処置する
材料および方法
長手方向の幅が5cmの十分な周辺粘膜の切除を、2頭の雑種イヌで、EMRとESD技法の組合せを使用して実施した(Nieponice、2009年、18657808頁)。評
価された処置は、1日に2回のUBMヒドロゲルの投与と未処置対照であった。動物が、狭窄の何らかの臨床徴候を表すか、手順後1カ月に達した場合に、内視鏡検査を実施した。動物に関する内視鏡検査の知見に従って、可能かつ必要であれば、拡張を実施した。動物が重度の狭窄を表すか、またはバルーン拡張の2カ月後の時点に達した場合に、動物を安楽死させた。剖検において、動物組織を測定し、狭窄を決定し、組織学的分析のために試料を回収した。この動物モデルによって、以下のエンドポイントの測定が可能となった:
1.切断エリアの内視鏡的外観
2.食道の測定値
3.最終時点での組織学的アセスメント
【0148】
外科手技および術後ケア
各イヌを、アセプロマジン(0.01mg/kg、SC)およびケタミン(5~11mg/kg)で誘導し、外科水準の麻酔を気管内チューブを介して、1~5%のイソフルランで維持した。誘導後、動物を手術台に移動させ、滅菌手術室内に配置した。手順と観察を通して、動物に、2ml/kg/時の乳酸リンゲル液を注入した。温度は、動物の下に配置した温水循環温熱パッドにより制御した。心拍数、呼吸数、体温、および応答性などの生理学的パラメーターを、手順の間モニタリングした。25mg/kgのセファゾリンを用いる抗生物質予防投与は、手順の開始前に投与した。
【0149】
仰臥位の褥瘡を有する動物を配置し、Pentax EG3430K内視鏡を使用して、食道を評価した。口からGE接合部までの距離を測定した。食道の基準点を特定した後、Olympus Injectorforce 4mmの23G針を使用して、生理食塩水を注射することによって、粘膜と粘膜下層を分離した。5cmの長さの粘膜の全周(100%)を、ESDおよびLoop EMR技法を使用して除去した。流体またはECMを粘膜/粘膜下層に注入することによって、ESD技法を行い、粘膜下層から粘膜を分離し、次いで、内視鏡のTTナイフを使用して、そのエリアを切り出した。EMRを実施するために、ライゲーションバンドを有するCook Duetteキットを使用した。次いで、スネアを使用して、粘膜を切除した。Spot内視鏡マーカーを使用して、切断エリアの境界を画定した。
【0150】
粘膜を除去した後、手順の間に、MILA EDC190内視鏡送達カテーテルを使用して、12mg/mLのUBMヒドロゲルを50mL、切除エリアに送達し適用した。動物を麻酔下に5分間維持し、ヒドロゲルのゲル化を可能とした。この手順の後、動物を回復させ、観察下においた。
【0151】
外科手技と吸入麻酔の中断後、24時間、動物を、断続的にモニタリングした。体温を決定し、12時間毎に記録した。動物を暖かく乾燥した状態に保って低体温症を予防し、動物が胸骨の位置を保つまで、30分に一度回転させた。
【0152】
イヌを、室内で、他の動物と一緒に、動物が安定するまで、単一のケースで保持し、次いで、通常の居住施設に入れた。ブプレノルフィン(0.005~0.01mg/kgをIMまたはIVで、q12h)を、各外科手技の後、痛みに対して5日間投与し、痛みの徴候が存在する場合には継続し、セファレキシン(35mg/kgをq12)は5日間投与した。
【0153】
この手順の後、研究の終わりまで、食餌消費の減少、体重の損失、ならびに呼吸パターンの増加、声の発現、催吐エピソードまたは食餌の嚥下困難および/または活動低下によって決定される苦痛の徴候のような食道狭窄の徴候について、動物をモニタリングした。これらの徴候が存在する場合、コントラスト食道造影図および/または内視鏡検査により、動物を評価した。
【0154】
内視鏡によるモニタリングおよびバルーン拡張
最初の外科手技の1カ月後に、狭窄の任意の臨床徴候が存在する場合、動物は内視鏡検査の手順を受けた。さらに、すべての動物は、安楽死の前に、内視鏡検査の手順を受けた。麻酔は、アセプロマジン(0.1~0.5mg/kg)で誘導し、イソフルラン(1~5%)で維持し、内視鏡検査を実施した。
【0155】
内視鏡検査の間に、動物が、軽度または中程度の狭窄を有すると診断された場合、バルーン拡張を実施した。拡張の手順を実施するために、Olympusの20mmバルーンダイアレーターを使用した。内視鏡のガイダンスの下、滅菌した0.9%のNaClをおよそ10mL用いて、中程度またはかなりの量の抵抗力を特定することができるまで、バルーンを膨らませ、30~60秒間膨らませた状態を保った。拡張後、MILA EDC
190カテーテルを使用して、ECMを50mL、傷ついたエリアに即時に適用し、5分間ゲル化させた。この手順の後、少なくとも1時間、動物を食餌または水に近づけなかった。
【0156】
ECMの送達
15℃で、60mlのカテーテルチップシリンジを使用して、ECMを、経口的に動物に送達した。0日目から研究の完了まで、50mLを1日に2回送達した。ヒドロゲルの各送達後1時間は、動物に飲食をさせなかった。
【0157】
剖検
剖検のその時に、以前に記載したように、内視鏡検査を実施した。麻酔下で、ペントバルビタールナトリウムIV(390mg/kg BW)を投与することによって安楽死を実施した。死亡が確認された後、食道を、体内で有したのと同じ寸法を維持して回収した。食道の測定値を0.5cm間隔で得て、記録した。
【0158】
ECMヒドロゲルによって狭窄を処置した。図14に示されるように、粘膜の全周切除モデルでは(バレット食道モデルと異なる)、ECMヒドロゲルで、動物を最大81日間処置した。対照動物は、重篤な処置不能な狭窄を有しており、14日後に安楽死させた。ECM処置した動物は、21日目で食道狭窄を有し、拡張された。拡張の2カ月後、動物を屠殺し、食道の測定値を得た。ECM処置した動物は、より広い内周を有し、対照と比較した場合、周径の減少は少なかった。
【0159】
図15に示されるように、14日目の対照動物は、粘膜切除が作出された中心に、高い細胞浸潤とびらんと共に、脱組織化したコラーゲン沈着物を示した。図16に示されるように、処置した動物は、欠損の中心に、より低い細胞の浸潤およびより組織化され濃度の高いコラーゲンの沈着物と共に、再上皮化を示した。
【0160】
本開示の発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態の点から、例証された実施形態は、本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲の限定と捉えるべきではないことが認識されるべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって、本発明者らは、本発明者らの発明として、これらの請求項の範囲および精神に合致するすべてを請求する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8A-8B】
図9
図10A-10B】
図11
図12A
図12B
図13A-13D】
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2023-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の食道において食道の炎症を阻害しまたは食道狭窄症を処置する方法のために使用される、脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)消化溶液であって、
水和の、脱細胞化し、酵素により消化された、インタクトな細胞外マトリックスを含み、前記消化溶液は、pH7.2~7.8であり、25℃より高い温度に加熱される場合にゲルを形成し、前記方法は、前記消化溶液を、前記対象の前記食道に投与することを含み、
それによって、前記対象において食道の炎症を阻害しまたは食道狭窄症を処置する、消化溶液。
【請求項2】
前記消化溶液が最終的に殺菌されている、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項3】
前記消化溶液が37℃に加熱される場合にゲルを形成する、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項4】
前記インタクトな細胞外マトリックスが、膀胱、腸、肝臓、食道または真皮から由来する、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項5】
前記インタクトな細胞外マトリックスが、サル、ウマ、ブタ、ウシまたはヒツジから由来する、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項6】
前記消化溶液が、嚥下または経管栄養により前記対象に経口的に投与される、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項7】
前記消化溶液が、内視鏡またはカテーテルにより前記食道に投与される、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項8】
37℃で前記対象への投与に際して、前記消化溶液が、前記食道の粘膜を被覆するゲルを形成する、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項9】
前記対象が、バレット食道を有する、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項10】
前記酵素により消化されたECMが、2mg/mLから16mg/mLである濃度の前記消化溶液に存在する、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項11】
前記消化溶液が37℃で投与される、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項12】
前記対象へ投与される前に、前記消化溶液が25℃より低くまたは25℃に維持されている、請求項1に記載の消化溶液。
【請求項13】
前記対象へ投与される前に、前記消化溶液が37℃より低く維持されている、請求項1に記載の消化溶液。