(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024728
(43)【公開日】2023-02-16
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20230209BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230209BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230209BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230209BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230209BHJP
A61K 31/423 20060101ALI20230209BHJP
A61K 31/35 20060101ALI20230209BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P1/16
A61P3/06
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/423
A61K31/35
A61K31/381
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207784
(22)【出願日】2022-12-26
(62)【分割の表示】P 2018561398の分割
【原出願日】2018-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2017002731
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】朝日山 壮登
(72)【発明者】
【氏名】田中 十志也
(57)【要約】
【課題】非アルコール性脂肪性肝疾患や非アルコール性脂肪性肝炎の予防及び/又は治療が可能な医薬組成物や薬剤の組み合わせの提供。
【解決手段】本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患や非アルコール性脂肪性肝炎の予防及び/又は治療のためのペルオキシソーム増殖剤応答性レセプター(PPAR)αアゴニストとナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害剤との組合せを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを組み合わせてなる肝疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、請求項1に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項3】
非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、請求項2に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性に対する抑制作用を有するものである、請求項2に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、請求項1に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項6】
PPARαアゴニストが、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項7】
SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項8】
配合剤である請求項1~7のいずれか1項に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項9】
キットである請求項1~7のいずれか1項に記載の予防及び/又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease、NAFLD)は、アルコール性肝炎やウイルス性肝炎によらない脂肪性肝障害であり、一般人口の約3割に見られると推定されている。NAFLDは、肝細胞の脂肪沈着のみによる比較的予後の良好な単純性脂肪肝(simple steatosis)から、比較的重症の肝組織の線維化、肝硬変、肝細胞癌に至ることがある非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis、NASH)までの症状を含めた総称である。近年ではC型肝炎を代表とするウイルス性肝炎の治療法が急速に進歩しており、将来的にはウイルスによる肝癌患者数の減少が見込まれる一方で、NASHを基盤にした肝癌患者数の増加が懸念されている(非特許文献1、2、3)。
【0003】
NAFLDの発症の機序としては、肝細胞への脂肪の蓄積の段階と炎症・線維化が進展する段階を分けた、「Two hit theory」が広く知られているが(非特許文献4)、近年では、他因子が同時並行で病態進行に関与する「Multiple-parallel hit theory」が提唱されている(非特許文献5)。NASHの診断に際しては、肝細胞の風船様変性(Ballooning)、Mallory-Denk体、及び線維化が重要な因子であり、日本消化器病学会のNAFLD/NASH診療ガイドラインでは、病理学的診断基準として「肝細胞の大滴性脂肪化に加えて、炎症を伴う肝細胞の風船様変性を認めるものをNASHとする」と定義されている。
Matteoniらは予後に重点を置いて病理所見からNAFLDを4段階に分け、Type3と4をNASHと定義している(非特許文献3、6)。肝細胞の肥大化及び風船様変性は肝細胞中の脂肪蓄積に由来する、細胞骨格が変性を来たした所見であり、これらの指標はNASHか否かを鑑別する上で重要な所見である。
【0004】
NAFLDの治療の原則は、食事療法、運動療法などの生活習慣の改善により、背景にある肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧を是正することにある。臨床では、生活習慣の改善に加えて、インスリン抵抗性、脂質代謝異常、高血圧、酸化ストレス等を標的とした薬物治療が行われている。インスリン抵抗性に対しては、インスリン感受性の増強作用にかかわる核内受容体PPARγのリガンドであるチアゾリジン系誘導体(ピオグリタゾンやロシグリタゾン等)、あるいは、ビグアナイド系薬物(メトホルミン等)等のインスリン抵抗性改善薬が使用されている。脂質代謝異常に対しては、PPARαアゴニストであるフィブラート系薬物(フェノフィブラートやベザフィブラート等)、スタチン系製剤、小腸コレステロール再吸収阻害薬(エゼチミブ等)等が、高血圧治療剤としては、アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)等が使用されている(非特許文献1、3)。
この他、抗酸化剤として、ビタミンE等が使用されている。
【0005】
これらの薬物治療は、患者の基礎疾患等により適宜選択される。しかし、いずれの薬物治療も更なる検証が必要とされ、NAFLDの薬物療法として評価が定まったものは現在のところない。
【0006】
フィブラート系薬物では、NAFLDに対するフェノフィブラートの効果についての臨床試験が報告されている(非特許文献7)。また、特許文献1に開示された選択的なPPARα活性化作用を有する(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3- (4-メトキシフェノキシ)プ口ピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物が、非アルコール性脂肪性肝疾患の予防及び治療に対して有用であることが示されている(特許文献2)。一方、ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害剤であるレモグリフロジンが臨床で作用検討がなされ、NASHの改善作用が報告されている(非特許文献8)。世界的なメタボリックシンドローム患者の増加に伴い、NASHの患者数の増加も予測されている。NASHは癌関連死の大きな要因を占める非ウイルス性肝細胞癌の原因と考えられる(非特許文献9)ことから、より有効な治療法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2005/023777号
【特許文献2】国際公開2015/005365号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chalasani N. et al. Hepatology, 55, 2005-23 (2012)
【非特許文献2】Musso G. et al. Nat. Rev. Drug Discov. 15(4), 249-74 (2016.1)
【非特許文献3】日本消化器病学会 NAFLD/NASH診療ガイドライン2014
【非特許文献4】Day CP. et al, Gastroenterology, 114(4), 842-5 (1998)
【非特許文献5】Tilg H. et al. Hepatology, 52, 1836-46 (2010)
【非特許文献6】Matteoni CA. et al. Gastroenterology, 116, 1413-9 (1999)
【非特許文献7】Fernandez-Miranda C. et al. Dig. Liver Dis., 40, 200-5 (2008)
【非特許文献8】Wilkison W. et al. Abstract O047. International Liver Congress; April 22-26, 2015
【非特許文献9】Fujii M. et al. Med. Mol. Morphol, 46, 141-52 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、肝細胞の脂肪滴の肥大化及び/又は風船様変性の予防及び/又は改善効果を有し、NAFLDやNASHの予防及び/又は治療が可能な医薬組成物や薬剤の組み合わせを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる現状に鑑み、本発明者らは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、特に症状の重い非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防及び/又は治療に有用な方法を見出すべく、NASHのモデル動物であるNASH-HCCマウスを用いて鋭意検討を行ったところ、PPARαアゴニストである(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3- (4-メトキシフェノキシ)プ口ピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(以下、化合物1と称する場合がある。)とSGLT2阻害剤(Expert Opin. Investig. Drugs (2013) 22(4):463-486等に開示)とを組み合わせて使用することで、強力な肝細胞の脂肪滴サイズの減少作用及び風船様変性の強力な抑制作用、ひいてはNAFLD及びNASHの予防及び/又は治療作用を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤との組み合わせを特徴とする組成物やキット等に関する。より具体的には、次の[1]から[52]に関する。
[1]PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを組み合わせてなる肝疾患の予防及び/又は治療剤。
[2]肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、前記[1]に記載の予防及び/又は治療剤。
[3]非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、前記[2]に記載の予防及び/又は治療剤。
[4]非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性に対する抑制作用を有するものである、前記[2]に記載の予防及び/又は治療剤。
[5]肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、前記[1]に記載の予防及び/又は治療剤。
[6]PPARαアゴニストが、
(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸、若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
[7]SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである、前記[1]~[6]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
[8]配合剤である前記[1]~[7]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
[9]キットである前記[1]~[7]のいずれかに記載の予防及び/又は治療剤。
【0012】
[10]PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを組み合わせてなる肝疾患の予防及び/又は治療における使用のための医薬。
[11]肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、前記[10]に記載の医薬。
[12]非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、前記[11]に記載の医薬。
[13]非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性に対する抑制作用を有するものである、前記[11]に記載の医薬。
[14]肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、前記[10]に記載の医薬。
[15]PPARαアゴニストが、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、前記[10]~[14]のいずれかに記載の医薬。
[16]SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである前記[10]~[15]のいずれかに記載の医薬。
[17]配合剤である前記[10]~[16]のいずれかに記載の医薬。
[18]キットである前記[10]~[16]のいずれかに記載の医薬。
【0013】
[19]PPARαアゴニスト、SGLT2阻害剤及び薬学的に許容される担体を含有する肝疾患の予防及び/又は治療のための医薬組成物。
[20]肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、前記[19]に記載の医薬組成物。
[21]非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、前記[20]に記載の医薬組成物。
[22]非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性に対する抑制作用を有するものである、前記[20]に記載の医薬組成物。
[23]肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、前記[19]に記載の医薬組成物。
[24]PPARαアゴニストが、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、前記[19]~[23]のいずれかに記載の医薬組成物。
[25]SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである前記[19]~[24]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0014】
[26]治療を必要とする対象に有効量のPPARαアゴニストと有効量のSGLT2阻害剤とを投与する工程を含む、肝疾患の予防及び/又は治療方法。
[27]肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、前記[26]に記載の予防及び/又は治療方法。
[28]非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、前記[27]に記載の予防及び/又は治療方法。
[29]非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性を抑制するものである、前記[27]に記載の予防及び/又は治療方法。
[30]肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、前記[26]に記載の予防及び/又は治療方法。
[31]PPARαアゴニストが、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、前記[26]~[30]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
[32]SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである前記[26]~[31]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
[33]PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを同時に投与する前記[26]~[32]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
[34]PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを間隔を置いて別々に投与する前記[26]~[32]のいずれかに記載の予防及び/又は治療方法。
【0015】
[35]肝疾患の予防及び/又は治療剤の製造のための、PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤との使用。
[36]肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、前記[35]に記載の使用。
[37]非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、前記[36]に記載の使用。
[38]非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性に対する抑制作用を有するものである、前記[36]に記載の使用。
[39]肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、前記[35]に記載の使用。
[40]PPARαアゴニストが、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、前記[35]~[39]のいずれかに記載の使用。
[41]SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである前記[35]~[40]のいずれかに記載の使用。
[42]予防及び/又は治療剤が配合剤である、前記[35]~[41]のいずれかに記載の使用。
[43]予防及び/又は治療剤がキットである、前記[35]~[41]のいずれかに記載の使用。
【0016】
[44]肝疾患を予防及び/又は治療するための、PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤との組合せ。
[45]肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患である、前記[44]に記載の組合せ。
[46]非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、前記[45]に記載の組合せ。
[47]非アルコール性脂肪性肝疾患における肝細胞の風船様変性に対する抑制作用を有するものである、前記[45]に記載の組合せ。
[48]肝疾患が肝硬変又は肝細胞癌である、前記[44]に記載の組合せ。
[49]PPARαアゴニストが、(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸若しくはその塩又はこれらの溶媒和物である、前記[44]~[48]のいずれかに記載の組合せ。
[50]SGLT2阻害剤が、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、エルツグリフロジン、ソタグリフロジン、ベキサグリフロジン又はレモグリフロジンである前記[44]~[49]のいずれかに記載の組合せ。
[51]配合剤である、前記[44]~[50]のいずれかに記載の組合せ。
[52]キットである、前記[44]~[50]のいずれかに記載の組合せ。
【発明の効果】
【0017】
本発明の治療剤、医薬、医薬組成物、治療方法、使用又は組合せにより、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に由来する肝細胞中の脂肪滴の肥大や肝細胞の風船様変性を抑制することが可能であり、NAFLDやNASHに対する新たな予防及び/又は治療を提供することができる。特に、重症度の高いNASHについて予防及び/又は治療を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の化合物1(0.1mg/kg)、トホグリフロジン(10mg/kg)又は化合物1(0.1mg/kg)及びトホグリフロジン(10mg/kg)を投与した時の肝細胞中の脂肪滴サイズ(μm
2)を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の化合物1(0.1mg/kg)、トホグリフロジン(10mg/kg)又は化合物1(0.1mg/kg)及びトホグリフロジン(10mg/kg)を投与した時の肝細胞の風船様腫大(Ballooning of hepatocytes)を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の化合物1(0.1mg/kg)、イプラグリフロジン(3mg/kg)又は化合物1(0.1mg/kg)及びイプラグリフロジン(3mg/kg)を投与した時の肝細胞の風船様腫大(Ballooning of hepatocytes)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、PPARαアゴニストとは、核内受容体の1つであるペルオキシソーム増殖剤応答性レセプター(PPAR)の中の脂肪の酸化などに関与するPPARα型受容体を活性化する化合物の総称を意味する。具体的には、フェノフィブラート、クロフィブラート、ベザフィブラート、クリノフィブラート、シプロフィブラート、エトフィブラート、ゲムフィブロジル等のフィブラート類、WY-14643(ピリニクス酸)、GW-7647(2-(4-(2-(1-1-シクロヘキサンブチル)-3-シクロヘキシルウレイド)エチル)フェニルチオ)-2-メチルプロピオン酸)、ペマフィブラート等が挙げられる。本発明に用いる(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(化合物1)は、一般名ペマフィブラートとしても知られているが、例えば、WO2005/023777号等に記載の方法に従って製造することができる。また、文献に記載の公知の方法に準じて製造することもできる。
【0020】
本発明において、SGLT2阻害剤とは、腎臓におけるグルコース再吸収に関わるナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)に対して阻害活性を有する化合物の総称を意味する。具体的には、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン(ASP1941)、エンパグリフロジン(BI 10773)、ルセオグリフロジン(TS-071)、トホグリフロジン(CSG452)、エルツグリフロジン(PF-04971729)、ソタグリフロジン(LX-4211)、ベキサグリフロジン(EGT-1442)、レモグリフロジン(KGT-1681)等が挙げられる。なお、これらの化合物はそれぞれ、適宜薬学的に許容される塩及び/又は溶媒和物として用いられることがあるが、本発明はそれらも全て包含する。
【0021】
イプラグリフロジンは、化合物(1S)-1,5-アンヒドロ-1-C-{3-[(1-ベンゾチオフェン-2-イル)メチル]-4-フルオロフェニル}-D-グルシトールの一般名である。イプラグリフロジンは、例えば、イプラグリフロジン L-プロリン(1:1)として使用することができる。
【0022】
トホグリフロジンは、化合物(1S,3’R,4’S,5’S,6’R)-6-[(4-エチルフェニル)メチル]-6’-(ヒドロキシメチル)-3’,4’,5’,6’-テトラヒドロ-3H-スピロ[2-ベンゾフラン-1,2’-ピラン]-3’,4’,5’-トリオールの一般名である。トホグリフロジンは、例えばトホグリフロジン一水和物として使用することができる。
【0023】
イプラグリフロジンは、例えばWO2004/080990号等に記載の方法に従って製造することができる。また、文献に記載の公知の方法に準じて製造することもできる。
【0024】
トホグリフロジンは、例えばWO2006/080421号等に記載の方法に従って製造することができる。また、文献に記載の公知の方法に準じて製造することもできる。
【0025】
本発明において、肝疾患とは、脂肪肝、肝炎、NAFLD、NASH、肝硬変及び肝細胞癌等の肝臓がん等が挙げられる。
【0026】
本発明の「塩」としては、薬学的に許容できるものであれば特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩;塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。
【0027】
本発明の「溶媒和物」としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。
【0028】
配合剤とは、1つの製剤に複数の有効成分を含有する医薬品のことである。本発明においては、PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤のそれぞれの有効量を含有する1の錠剤が、例として挙げられる。
【0029】
キットとは、複数の薬剤を同時に又は間隔を置いて別々に服用又は投与されるための、医薬品の組み合わせのことである。本発明においては、PPARαアゴニストの有効量を含有する医薬品とSGLT2阻害剤の有効量を含有する医薬品を組み合わせたものが、例として挙げられる。
【0030】
NASHにおいては、肝細胞中の脂肪滴が大型化すると共に、風船様変性を特徴的に有する(非特許文献3、6参照)。後記実施例に示すとおり、化合物1とイプラグリフロジンとの併用は、NASHのモデル動物であるNASH-HCCマウスにおいて、肝細胞の風船様変性を有意に抑制した。また、化合物1とトホグリフロジンとの併用は、NASH-HCCマウスにおいて、肝細胞の風船様変性を有意に抑制し、且つ肝細胞中の脂肪滴の肥大化を抑制した。従って、本発明のPPARαアゴニストとSGLT2阻害剤との併用は、ヒトを含む哺乳類のNASHの予防及び/又は治療剤として有用である。
【0031】
本発明のPPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを組み合わせてなる治療剤、医薬等は、単独又は他の薬学的に許容される担体を用いて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、ローション剤、軟膏剤、注射剤、座剤等の剤型とすることができ、これらの製剤は、公知の方法で製造することができる。
【0032】
本発明のPPARαアゴニストとSGLT2阻害剤とを組み合わせてなる治療剤、医薬等は、経口投与又は非経口投与により投与される。投与量は、当業者であれば、患者の体重、年齢、性別、症状等によって適宜設定することができるが、PPARαアゴニストとして化合物1を成人に投与する場合、一日0.01~1000mg、好ましくは0.01~10mg、より好ましくは0.05~5mgを1~3回に分けて投与するのが好ましい。また、SGLT2阻害剤としてイプラグリフロジンを用いる場合、一日0.1~1000mg、好ましくは1~200mgを、トホグリフロジンを用いる場合は一日0.1~500mg、好ましくは1~100mgを、それぞれ1~3回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1 NASHマウスモデルに対する化合物1及びトホグリフロジンの効果
高脂肪食を摂取すると、脂肪肝からNASHを経て肝硬変を発症した後に肝細胞癌を合併するモデルマウスである、NASH-HCCマウス(非特許文献9)における化合物1及びトホグリフロジンの作用を検討した。
なお、本試験において、化合物1は前記特許文献1に記載の方法に従って調製し、使用した。また、トホグリフロジン一水和物(中外製薬株式会社)をトホグリフロジンとして使用した。
【0035】
1)使用動物:
非特許文献9を参考に、NASH-HCCマウスを作成し実験に供した。即ち、生後2日目の雄性C57BL/6Jマウスに200μgのストレプトゾトシンを皮下投与し、さらに4週齢より2週間高脂肪食(HFD-32、日本クレア)を自由摂取させた後、投与期間の6週から9週の間は毎日摂餌量を測定し、すべての群においてコントロール群と同じ量の餌を給餌した。
2)群構成:
群間で体重に差がない様に、コントロール群、化合物1 0.1mg/kg投与群、トホグリフロジン 10mg/kg投与群及び併用群(化合物1 0.1mg/kg及びトホグリフロジン 10mg/kg)に、投与期間開始直前(6週齢)のNASH-HCCマウスを群分けした(n=5~7)。
3)薬物投与:
投与用量は5mL/kg体重とし、コントロール群には薬物の溶媒である3%アラビアゴム水溶液を、化合物1投与群、トホグリフロジン投与群、及び化合物1とトホグリフロジンの併用投与群にはそれぞれの薬液を、1日1回経口投与した。投与期間は上述のように、6週齢から3週間実施した。
【0036】
4)観察及び検査方法:
投与終了後、麻酔下にて肝臓を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定後、ヘマトキシリン-エオジン染色標本を作製した。ヘマトキシリン-エオジン染色標本を用いて、肝細胞中の脂肪滴サイズを画像解析ソフトImage Jを用いて解析した。それぞれの標本から6000から10000個の脂肪滴について面積を算出した。そして、各個体の脂肪滴面積について中央値を算出した後、群内の各個体の中央値に基づいて各群の中央値や四分位点を算出し、箱ひげ図にてデータを表記した(
図1)。
肝細胞の風船様腫大はブラインド条件下に、以下の基準(Kleiner et al. Hepatology 41, 1313-21, 2005)でスコア化し、各群におけるスコアの平均値(Ballooning Score)を算出してデータを表記した(
図2)。
風船様腫大細胞なし :0
風船様腫大細胞が僅か(Few balloon cells) :1
風船様腫大細胞が多い又は顕著(Ballooning) :2
統計処理はEZRを使用して行った。EZRはRおよびRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアであり、自治医科大学付属さいたま医療センターのホームページにて無償配布されている(Bone Marrow Transplantation (2013) 48, 452-458)。Steel test(N=5-7)により、コントロール群に対して、p<0.05で有意差があった場合に図中で*印を付した。また、コントロール群に対して、p<0.01で有意差があった場合に図中で**印を付した。
【0037】
5)結果
図1に示すように、コントロール群の脂肪滴サイズの中央値は1.17(μm
2)であったのに対し、化合物1の0.1mg/kg投与群では1.00(μm
2)、トホグリフロジンの10mg/kg投与群では1.00(μm
2)であり、肝細胞の脂肪滴のサイズを減少する傾向は認められたものの、統計学的に有意な差異は認められなかった。しかしながら、両薬剤の併用群での脂肪滴サイズの中央値は0.89(μm
2)であり、コントロール群と比較して、有意(p=0.037)な減少が認められた。
また、
図2に示すように、コントロール群のBallooning Scoreは1.33であったのに対し、化合物1の0.1mg/kg投与群では0.60、トホグリフロジンの10mg/kg投与群では0.71であり、肝細胞の風船様変性を抑制する傾向は認められたものの、統計学的に有意な差異は認められなかった。しかしながら、両薬剤の併用群では、Ballooning Scoreは0.14であり、コントロール群と比較して、肝細胞の風船様変性の著明な抑制(p=0.0089)が認められた。
【0038】
実施例2 NASHマウスモデルに対する化合物1及びイプラグリフロジンの効果
NASH-HCCマウス(非特許文献9)における化合物1及びイプラグリフロジンの作用を検討した。
なお、本試験において、化合物1は前記特許文献1に記載の方法に従って調製し、使用した。また、イプラグリフロジン(Shanghai Haoyuan Chamexpress社、Shanghai,China)をイプラグリフロジンとして使用した。
【0039】
1)使用動物: 実施例1の1)と同様にNASH-HCCマウスを作成し実験に供した。
2)群構成:
群間で体重に差がない様に、コントロール群、化合物1 0.1mg/kg投与群、イプラグリフロジン 3mg/kg投与群及び併用群(化合物1 0.1mg/kg及びイプラグリフロジン 3mg/kg)に投与期間開始直前(6週齢)のNASH-HCCマウスを群分けした(n=8)。
3)薬物投与:
投与用量は5mL/kg体重とし、コントロール群には薬物の溶媒である3%アラビアゴム水溶液を、化合物1投与群、イプラグリフロジン投与群、及び化合物1とイプラグリフロジンの併用投与群にはそれぞれの薬液を、1日1回経口投与した。投与期間は6週齢から3週間実施した。
【0040】
4)観察及び検査方法:
実施例1の4)と同様に評価した。
【0041】
5)結果
図3に示すように、コントロール群のBallooning Scoreは1.50であったのに対し、化合物1の0.1mg/kg投与群では1.35、イプラグリフロジンの3mg/kg投与群においては0.88であり、肝細胞の風船様変性を抑制する傾向は認められたものの、統計学的に有意な差異は認められなかった。しかしながら、両薬剤の併用群でのBallooning Scoreは0.38であり、コントロール群と比較して、肝細胞の風船様変性の著明な抑制(p=0.009)が認められた。
【0042】
以上の結果から、本発明の化合物1とトホグリフロジンやイプラグリフロジン等のSGLT2阻害剤を併用することにより、NASHマウスモデルにおいて肝細胞の脂肪滴サイズの減少効果や肝細胞の風船様変性の抑制効果が著明に認められた。肝細胞の脂肪滴サイズの減少及び風船様変性の抑制は、NAFLDやNASHの病態を改善することであり、ひいてはそれら疾患の終末病態である肝硬変、肝細胞癌の予防にもつながる。
PPARαアゴニストとSGLT2阻害剤を併用することにより、NAFLDやNASHに対し予防及び/又は治療効果を示したことから、本発明は産業上の利用可能性を有している。