(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024836
(43)【公開日】2023-02-17
(54)【発明の名称】導電性ベルト、それを有する画像形成装置、及び導電性ベルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29D 29/00 20060101AFI20230210BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20230210BHJP
B65H 5/02 20060101ALI20230210BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20230210BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20230210BHJP
B29C 48/49 20190101ALI20230210BHJP
【FI】
B29D29/00
G03G15/00 552
B65H5/02 C
B29C48/32
B29C48/21
B29C48/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130385
(22)【出願日】2021-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武智 重利
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【テーマコード(参考)】
2H171
3F049
4F207
4F213
【Fターム(参考)】
2H171FA26
2H171PA09
2H171QC05
2H171QC14
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4F213WB02
(57)【要約】
【課題】基材層は中抵抗領域(1×105~1×108Ω/□)の半導電性を示し、表面抵抗率のバラツキが小さく、表面層は絶縁性を示す画像形成装置用ベルトを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む組成物からなる接着層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む組成物からなる表面層とを備えることを特徴とする導電性ベルト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有する組成物からなる基材層と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む組成物からなる接着層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む組成物からなる表面層とを備えることを特徴とする導電性ベルト。
【請求項2】
基材層形成用の前記組成物は、さらに相溶化剤を含有することを特徴とする請求項1記載の導電性ベルト。
【請求項3】
前記エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂がエチレン―グリシジルメタクリレート共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性ベルト。
【請求項4】
前記導電剤が電子伝導性材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性ベルト。
【請求項5】
前記電子伝導性材料がカーボンブラックであることを特徴とする請求項4記載の導電性ベルト。
【請求項6】
温度23℃、相対湿度50%RHにおける前記基材層側の表面抵抗率は、1×105Ω/□以上1×108Ω/□以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の導電性ベルト。
【請求項7】
温度23℃、相対湿度50%RHにおける前記表面層側の表面抵抗率は、1×1013Ω/□以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の導電性ベルト。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の導電性ベルトは、画像形成装置用であることを特徴とする導電性ベルト。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかの導電性ベルトは、インクジェット方式の画像形成装置用であることを特徴とする導電性ベルト。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の導電性ベルトを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の導電性ベルトの製造方法において、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有したする基材層形成用組成物と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む接着層形成用組成物と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む表面層形成用組成物をそれぞれ別々の押出機に供給し、環状ダイスより基材層が内層、接着層が中間層、表面層が外層となるように共押出することを特徴とする導電性ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式や電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる導電性ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式やインクジェット方式のプリンター、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置にはローラで用紙を搬送する方法が採用されてきたが、画像形成が高速化するとローラでは用紙搬送時にトラブルが発生しやすくなるため、ベルトで紙を確実に担持し搬送する方法が採用されている。具体的には、(1)吸引孔を有するベルトを用いて減圧吸引して用紙をベルトに吸引搬送する方式や(2)導電性を有する基材層と絶縁性を有する表面層からなるベルトを用いて、当該ベルトに電圧を印加することにより発生する静電吸着力を利用して用紙をベルトに吸着し搬送させる方式が知られている。
【0003】
これらのうち、(1)減圧で用紙をベルトに吸引する方式は、特許文献1や特許文献2に記載されているような減圧室と当該減圧室を減圧にする減圧装置が必要であり、さらに駆動するベルトと減圧室との間を常に密閉状態に保持しなければならないため画像形成装置の構造が複雑になる。一方、(2)静電吸引力を利用する方法は当該ベルトに電圧を印加する部材と電源があれば印加する電圧を調整するだけで吸引力を制御でき簡便である。
【0004】
静電吸着力を利用して紙などの記録媒体を吸引・搬送するベルト(紙搬送ベルト)としては、特許文献3には、内層と外層がともにポリイミド樹脂からなり、内層の体積抵抗率が1×108~1×1014Ω・cm、外層の体積抵抗率が1×1014~1×1016Ω・cmである紙搬送ベルトが記載されている。しかしながら、特許文献3記載の紙搬送ベルトは遠心成形(金型表面または裏面に内層用または外層用のポリアミック酸の溶液を吹付け、高温で溶剤を揮散させた後、高温・無酸素下でイミド化する工程が必要である。二層の場合はこれを2回繰り返す)しなければならず、製造工程が非常に煩雑になる。
【0005】
また、特許文献4には、内層が導電性ポリイミド樹脂からなりその表面抵抗率が1×104~1×109Ω/□、外層がエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)からなるインクジェット用紙搬送ベルトが記載されている。この紙搬送ベルトも遠心成形で内層を形成し、その上に予め成形したチューブ状のETFEを被せ溶融接着する工程が必要であるため、製造工程が非常に煩雑である。
【0006】
一方、高速度で印刷が可能なインクジェット方式のプリンターなどに用いられているインクは有機溶剤が用いられているものがあり、インクがベルトに付着すると、ベルトに使用されている樹脂の種類によってはその部分が膨潤しベルト表面に凹凸が発生するという問題があった。このような耐溶剤性に鑑み、表層にフッ素系樹脂を用いることが望まれているが、フッ素系樹脂は接着性が悪い。また、中には表面抵抗率が1×1014Ω/□未満のものもあり、吸引力が弱くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-131389号公報
【特許文献2】特開2019-127364号公報
【特許文献3】特開2008-94605号公報
【特許文献4】特開2011-73804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況に鑑み、共押出法で多層構成の導電ベルトを製造するために、ポリアミド系樹脂と導電剤とを含有し、表面抵抗率が1×105~1×108Ω/□である基材層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む表面層とを備えた導電ベルトを試作したが、吸湿時に導電性ベルトの端部が反るという問題が発生した。
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであり、基材層は中抵抗領域(1×105~1×108Ω/□)の半導電性を示しつつ、表面抵抗率のバラツキが小さく、表面層は絶縁性を示し、吸湿時の反りがない導電性ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
(1)ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有する組成物からなる基材層と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む組成物からなる接着層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む組成物からなる表面層とを備えることを特徴とする導電性ベルト;
(2)基材層形成用の前記組成物は、さらに相溶化剤を含有することを特徴とする(1)記載の導電性ベルト;
(3)前記エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂がエチレン―グリシジルメタクリレート共重合体であることを特徴とする(1)または(2)記載の導電性ベルト;
(4)前記導電剤が電子伝導性材料であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の導電性ベルト;
(5)前記電子伝導性材料がカーボンブラックであることを特徴とする(4)記載の導電性ベルト;
(6)温度23℃、相対湿度50%RHにおける前記基材層側の表面抵抗率は、1×105Ω/□以上1×108Ω/□以下であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の導電性ベルト;
(7)温度23℃、相対湿度50%RHにおける前記表面層側の表面抵抗率は、1×1013Ω/□以上であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の導電性ベルト;
(8)(1)乃至(7)のいずれかに記載の導電性ベルトは、画像形成装置用であることを特徴とする導電性ベルト;
(9)(1)乃至(8)のいずれかの導電性ベルトは、インクジェット方式の画像形成装置用であることを特徴とする導電性ベルト;
(10)(1)乃至(9)のいずれかに記載の導電性ベルトを有することを特徴とする画像形成装置;
(11)(1)乃至(9)のいずれかに記載の導電性ベルトの製造方法において、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有したする基材層形成用組成物と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む接着層形成用組成物と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む表面層形成用組成物をそれぞれ別々の押出機に供給し、環状ダイスより基材層が内層、接着層が中間層、表面層が外層となるように共押出することを特徴とする導電性ベルトの製造方法;
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性ベルトは、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む組成物からなる接着層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む組成物からなる表面層とを積層したものであり、層間の剥離強度が強く、表面層側の表面抵抗率が1×1013Ω/□以上(絶縁領域)であり、基材層側(表面層が形成されていない側)の表面抵抗率が1×105~1×108Ω/□の範囲(中抵抗領域)である導電性ベルトが得られる。このようなベルトを紙搬送ベルトとして使用すると、表面層が絶縁性に優れているため、記録媒体(紙)の吸着力が強く、記録媒体を確実に搬送することができる。
また、高湿度下でも本発明の導電性ベルトは反りが生じにくく、紙搬送ベルトとして好適に使用することができる。本発明の導電性ベルトは、従来品のポリイミド樹脂を使用した多層構成のベルトより安価に製造することができる。本発明の導電性ベルトは、溶剤タイプのインクが付着したとしてもベルト表面が膨潤しないため、特にインクジェット方式の紙搬送ベルトに好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[基材層]
本発明の基材層は、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した組成物からなることが必須である。必要に応じてその特性を損なわない範囲でその他の樹脂やを配合してもよい。
【0012】
本発明に用いられるポリエチレン系樹脂は、エチレンからなる重合体のことであり、ポリエチレンを部分構造として持つ共重合体も含む。ポリエチレン系樹脂は、例えば、高密度ポリエチレン(密度:0.942~0.96)、中密度ポリエチレン(密度:0.93~0.942)、低密度ポリエチレン(密度:0.91~0.93)、超低密度ポリエチレン(密度:0.91未満)、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられ、ポリエチレンを部分構造として持つ共重合体の例としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であるエチレン―酢酸ビニル共重合体(EVAと呼ばれる)等が挙げられる。
【0013】
また、本発明の導電性ベルトの用途の一つである画像形成装置用導電性ベルトは、一定の張力をかけてロール間に張架されて用いられるが、プリンター等の停止時に導電性ベルトはロール間に張架された状態で放置されるため、曲げ癖が付く。そうすると、プリンター等を起動すると曲げ癖が付いた部分が凸状になるという問題がある。熱可塑性樹脂よりなるフィルムは、長時間同じ形状のまま放置されると、曲げ癖が付く事は避けられないが、引張弾性率が低い導電性ベルトはプリンター等の起動時にロール間に張架され張力がかかっており、曲げ癖部分の凸状が緩和される。このことより、ポリエチレン系樹脂の引張弾性率は1100MPa以下であることが好ましい。
また、近年、プリンター等の高速化に伴い画像形成装置用導電ベルトの引張弾性率が400MPaを下回ると、駆動時にベルトが伸びるので好ましくない。上記のように、ポリエチレン系樹脂には様々な種類があり、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンは引張弾性率が200~300MPa程度であるため、用途に応じて高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン等とを併用し、引張弾性率を調整することができる。
【0014】
ポリアミド系樹脂は、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、α,ω-アミノカルボン酸の重縮合、ラクタム類の開環重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm-キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を表す)などが挙げられる。これらの中でも、吸水率が低いポリアミド樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド樹脂は、カーボンブラックの分散性に優れるとともに、高湿度環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミドは、単独或は2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
ポリエチレン系樹脂中にポリアミド系樹脂を均一に分散させるために、本発明の基材層を形成する組成物に相溶化剤を含有させてもよい。相溶化剤は、エポキシ基、カルボキシル基又は無水酸基を含有する変性ポリエチレン樹脂であることが好ましい。ポリアミド系樹脂の末端基であるアミノ基と反応性があるエポキシ基、カルボキシル基又は無水酸基を有する変性ポリエチレンを相溶化剤に用いることにより、ポリエチレン系樹脂マトリクス中にポリアミド系樹脂が微分散した海島構造を形成する。導電剤であるカーボンブラックやイオン伝導性材料はより親和性の高いポリアミド系樹脂中に偏在するため、結果としてポリエチレン樹脂マトリクス中に導電剤を均一に分散させることができる。
【0016】
相溶化剤は、例えばエチレン―メチルアクリレート―無水マレイン酸の三元共重合体、エチレン―エチルアクリレート―無水マレイン酸の三元共重合体、エチレン―ブチルアクリレート―無水マレイン酸の三元共重合体、エチレン―グリシジルメタクリレートの共重合体、エチレンーメチルアクリレート―グリシジルメタクリレートの三元共重合体などが例示され、その他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。その他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブテン等のα―オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。その他の単量体は単独或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。その他の単量体の含有量は、0~15モル%、好ましくは0~10モル%、さらに好ましくは0~5モル%である。相溶化剤の数平均分子量は、3000以上であることが好ましい。相溶化剤の数平均分子量が3000未満であると、未反応の相溶化剤が基材層表面へブリードアウトすること(ブリード現象)がある。このブリード現象は、画像形成装置用導電性ベルト等において用紙や他の部品を汚染する要因となる。
【0017】
また、基材層の引張弾性率は500MPa以上であることが好ましく、更には700MPa以上が好ましい。ベルトの引張弾性率を上げるためには、上述したポリエチレン系樹脂中の高密度ポリエチレン含有量を増やしたり、平板状フィラー、ウィスカー等の補強材を添加したりすることもできる。また、基材層の厚みは、上記性能を満たすように30~300μmが好ましく、40~200μmがより好ましい。厚さが30μm未満では安定したベルトの静電吸着力を得ることが難しく、厚さが300μmを超えると屈曲性が悪化する。
【0018】
本発明の導電性ベルトは、基材層に導電剤を配合することにより、基材層の表面抵抗率を調整することができる。基材層の表面抵抗率は、1×105~1×1012Ω/□であることが好ましく、特には中抵抗領域である1×105~1×108Ω/□であることが好ましい。導電剤には電子伝導性材料とイオン伝導性材料がある。また、基材層が中抵抗領域のなかでもより低い抵抗領域(例えば1×105~1×106Ω/□)が必要な場合には、少ない添加量で電気抵抗を下げることが可能な電子伝導性材料を使用することが好ましい。
【0019】
電子伝導性材料としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子、アルミニウム・亜鉛酸化物、アンチモン・スズ酸化物、インジウム・スズ酸化物、カーボンブラック等で表面処理を行った無機粒子等の導電性無機粒子を挙げることができる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等の導電性カーボンブラックを挙げることができ、特に、平均粒子径50nm以下のカーボンブラックが少量の配合で電気抵抗を下げることができるので好ましい。また、カーボンブラックのストラクチャー構造が発達し、導電パスを形成する観点からDBP(Dibutyl phthalate)吸油量が100~500ml/100gが好ましく、100~300ml/100gであることが好ましく、150~250ml/100gであることがより好ましい。また導電性の観点から30~1500m2/gの範囲のBET表面積であるカーボンブラックが好ましい。また、本発明においては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の官能基を有するポリマーがグラフト付加されたグラフト化カーボンブラック、或いは低分子量化合物で表面処理したカーボンブラックも用いることができる。
【0020】
電子伝導性材料の配合量は、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂との合計量100重量部に対して、5重量部~25重量部であることが好ましく、8重量部~20重量部であることがより好ましい。導電剤の配合量が5重量部未満であると、所定の半導電性を示す組成物を得られない可能性があり、25重量部を超えると、溶融粘度が高くなり、溶融押出が難しくなる傾向にある。
【0021】
イオン伝導性材料としては、例えば、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド共重合体、部分架橋ポリエチレンオキサイド共重合体、イオン電解質等があげられ、これらを単独で、あるいは二種類以上併用することができる。尚、イオン電解質としては、アルカリ金属のチオシアン酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ハロゲン含有酸素酸塩、テトラアルキルアンモニウム塩を単独、あるいは、複数種組合せて用いることができる。これらの中でも、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウムが好ましい。
【0022】
導電剤にイオン電導性材料を使用する場合、導電剤の配合量は、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂との合計量100重量部に対して、1~50重量部であることが好ましい。その配合量は1~30重量部が好ましく、2~25重量部が好ましく、15~25重量部がより好ましい。イオン導電性材料の配合量が1重量部未満であると所定の導電性を示す組成物が得られないので好ましくなく、50重量部を超えると吸湿性が高くなり、引張弾性率が低くなるので好ましくない。
【0023】
本発明の基材層に使用する樹脂組成物には、必要に応じてその特性を損なわない範囲で添加剤を配合しても良い。添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、有機フィラーや無機フィラー、アンチブロッキング剤、可塑剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。これらの樹脂や添加剤は、目的に応じて適量を使用することができる。
【0024】
本発明の基材層を形成する組成物の各成分の組成比については特に制限はないが、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂とを、ポリエチレン系樹脂:ポリアミド系樹脂=70重量%~92重量%:30重量%~8重量%の割合で含有することが好ましい。ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂の合計量100重量%におけるポリアミド系樹脂の割合は、10重量%~25重量%がより好ましく、12重量%~20重量%がさらに好ましい。ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂の配合割合を上記範囲とすることにより、ポリエチレン系樹脂マトリクス中にポリアミド系樹脂が微分散した海島構造を有し、これにより導電剤が均一に分散し、優れた電気抵抗の均一性を示す。ポリアミド系樹脂が8重量%未満であると、海島構造中の島の間隔が大きくなるため、電気抵抗の均一性が悪くなる恐れがある。
【0025】
相溶化剤の配合量は、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂との合計量100重量部に対して、0.3重量部~5.0重量部であることが好ましく、0.5重量部~2.0重量部であることがより好ましい。相溶化剤の配合量を上記範囲にすることにより、ポリエチレン系樹脂マトリクス中にポリアミド系樹脂が微分散した海島構造を有し、これにより導電剤が組成物中に均一に分散し、優れた電気抵抗の均一性を示す。相溶化剤の配合量が0.3重量部未満の場合は海島構造における島のサイズが大きくなり、中抵抗領域における安定的な電気抵抗が得られ難く、またフィルムの破断伸びが低下する可能性がある。一方、相溶化剤の配合量が5重量部を超える場合は、海島構造における島のサイズが小さくなり過ぎる可能性があり、中抵抗領域の電気抵抗を得るのに必要な導電剤の配合量が多くなり、ひいてはベルト状に成形するとTD方向の電気抵抗のバラつきが大きくなるので好ましくない。これらのことから、基材層を形成する組成物中の海島構造における島のサイズは0.5~5.0μmが好ましく、さらに0.8~3.0μmがより好ましい。
【0026】
[接着層]
本発明の接着層は、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む組成物からなることが必須である。前記組成物は、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂のみからなる、もしくは必要に応じてその特性を損なわない範囲でその他の樹脂や添加剤を配合してもよい。ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電材とを含有した基材層と酸変性したエチレン-テトラフルオロエチレン系樹脂を含有した表面層からなる導電性ベルトを共押出し法で作製すると、層間接着強度が弱く容易に剥離する。本発明の接着層は基材層と表面層とを接着するために必要な層であり、接着層が存在することで、表面層の官能基、例えばカルボキシル基と接着層のエポキシ基とが反応することにより、表面層と接着層とを強固に接着させることができる。エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂は、例えば、エチレン―グリシジルメタクリレートの共重合体、エチレン―グリシジルメタクリレート―アクリル酸エチルの三元共重合体、エチレン―グリシジルメタクリレート―酢酸ビニルの三元共重合体などが挙げられる。
【0027】
また、接着層の厚みは、上記性能を満たすように2~80μmが好ましく、5~50μmがより好ましい。共押出し法では特定の層(接着層)の厚さを2μm未満にすると特定の層が存在しない部分が生じる恐れがあり、接着層の厚さが80μmを超えると絶縁層の厚さ(接着層と表面層との合計の厚さ)が厚くなって静電吸着力が低下する。
【0028】
[表面層]
本発明の表面層は、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体を含む組成物からなることが必須である。前記組成物は、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体のみからなる、もしくは必要に応じてその特性を損なわない範囲でその他の樹脂や添加剤を配合してもよい。酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体は、エチレンに基づく重合単位とテトラフルオロエチレンに基づく重合単位と酸構造を有する重合単位とを少なくとも含有する共重合体である。
酸構造を有する重合単位としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物、ウンデシレン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸等が挙げられる。酸構造を有する重合単位の含有量は、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体中の全重合単位に対して0.01~10モル%が好ましく、0.1~5モル%がより好ましい。
【0029】
酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体を含む組成物からなる表面層とポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した組成物からなる基材層は、共押出し法にて二層で押出しても接着性が悪いが、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂を含む組成物からなる接着層に配することにより、表面層と基材層との層間接着強度が高まる。
また、本発明の導電性ベルトの表面層側の表面抵抗率は1×1013Ω/□以上が好ましく、1×1014Ω/□以上がより好ましく、フッ素系樹脂の中でも特にエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体や酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体は、表面抵抗率が1×1014Ω/□以上であり絶縁性に優れているので好ましい。さらに、本発明で使用する表面層は、フッ素系樹脂を使用しているため溶剤インクが導電性ベルトの表面に付着したとしてもその表面が膨潤しないことが分かった。
【0030】
[画像形成装置用ベルトの製造方法]
本発明の基材層を形成するための組成物の製造方法は特に制限はないが、例えばポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、導電剤、必要に応じて用いられる添加剤を配合してドライブレンドした後、溶融混練する方法、予めポリエチレン系樹脂と導電剤とを溶融混練してマスターバッチを作製し、これにポリアミド系樹脂や必要に応じて用いられる添加剤を溶融混練する方法等が挙げられる。
【0031】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸もしくは二軸押出機等、公知の種々の混練機が挙げられる。これらの中でも、混練能力や生産性に優れる点から単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0032】
溶融混練時の温度は、使用するポリエチレン系樹脂やポリアミド系樹脂の種類や溶融粘度等により適宜選択できるが、通常、150~300℃の範囲であり、樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは170~280℃である。
【0033】
本発明の導電性ベルトは、押出成形法、遠心成形法、ディッピング法などで製造することができる。押出成形法、特に環状ダイスを用いた押出成形法は、継ぎ目のないベルトが得られるので好ましい。環状ダイスを用いた押出成形法としては、例えば押出機を3台と、該押出機の下方に該押出機に連通した環状ダイスが配置され、該環状ダイスの下方には、該環状ダイスから下向きに押出される溶融樹脂をその外周に担持させて冷却固化するマンドレルが配設された押出成形装置を用いることができる。基材層を形成する組成物と接着層を形成する樹脂と表面層を形成する樹脂とをそれぞれの押出機に供給して、一つの環状ダイスからチューブ状に共押出しし、マンドレルの外周に沿わせて冷却固化することによりチューブ状の成形体を得ることができる。そして、得られたチューブ状の該成形体を所望の幅に切断することでベルトとすることができる。なお、これらの説明は3層の場合であったが、4層以上の時は、層数に応じた押出機及びダイスを準備すればよい。
【0034】
本発明の導電性ベルトは、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト等の画像形成装置用部品として好適に用いることができる。特に本発明の導電性ベルトは、ベルト表面に溶剤インクが付着してもベルト表面が膨潤しないため、特に溶剤インクを使用するインクジェット方式の紙搬送ベルトとして好適に使用できる。
【実施例0035】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における物性の測定方法は次の通りである。
(1)溶融粘度
溶融粘度は、長さ10mm×直径1mmの穴を有するダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用いて測定した。
(2)表面抵抗率
表面抵抗率は、URSプローブ(荷重2kg)を取り付けたハイレスタUX(MCP-HT800、ダイヤインスツルメンツ社製)を用いて測定(基材層は印加電圧10V、表面層は印加電圧1000V)した。
また、表面抵抗率の均一性(バラつき)は以下の式で求めた。
表面抵抗率の均一性[桁]=log10(表面抵抗率の最大値/表面抵抗率の最小値)
(3)基材層と表面層との層間密着性
各実施例・比較例により得られたベルトにおいて、基材層と表面層とが接着しているかどうかを確認し、以下の評価基準に基づき評価した。
○:基材層と表面層とが(接着層を介して)強固に接着している。
×:基材層と表面層とは接着しているが手で剥がすことができるもしくは層間にて容易に剥離する。
(4)耐溶剤インク性
各実施例・比較例により得られたベルトの表面層に、溶剤インク(沸点が100℃以上の高沸点石油系溶剤)を滴下して60℃中に24時間放置後溶剤インクを拭取り、その表面を観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
〇:フィルム表面は膨潤せず、変形しなかった。
△:フィルム表面がわずかに膨潤し、若干変形した。
×:フィルム表面が膨潤し明らかに変形した。
(5)ベルト端部の反り
各実施例・比較例により得られたベルトを高温高湿度下(30℃×70%RH)で1日間放置した後、ベルト端部の反りを観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
○:ベルト端部に反りが発生していない。
×:ベルト端部が表面層側に反っている。
【0036】
原料としては、下記のものを用いた。
<熱可塑性樹脂(A)>
・高密度ポリエチレン系樹脂(A-1)[融点:132℃、溶融粘度:9240poise(測定温度200℃、荷重100kg]
・低密度ポリエチレン系樹脂(A-2)[融点:111℃、溶融粘度:2300poise(測定温度200℃、荷重100kg]
・ポリアミド系樹脂(A-3)[融点:178℃、溶融粘度:5000poise(測定温度200℃、荷重100kg]
・相溶化剤(A-4)[エチレン―エチルアクリレート-無水マレイン酸の3元共重合体(配合割合;エチレン:エチルアクリレート:無水マレイン酸=92:5:3、融点:107℃、溶融粘度:830poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・酸変性したエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体(A-5)[融点:190℃、溶融粘度:6750poise(測定温度220℃、荷重100kg)]
・ポリフッ化ビニリデン(A-6)[融点:168℃、溶融粘度:4500poise(測定温度200℃、荷重100kg)]
・エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体(A-7)(配合割合:エチレン:グリシジルメタクリレート=88:12)
・エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体(A-8)(配合割合:エチレン:グリシジルメタクリレート=92:8)
<導電剤(B)>
・カーボンブラック(B-1)[DBP吸油量:190ml/100g、BET表面積:70m2/g]
【0037】
[基材層]
表1に示した配合比となるように、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、導電剤、相溶化剤をスクリュー径38Φmmの二軸混練押出機を用いて溶融混練し、実施例1、2および比較例1乃至6の基材層用樹脂組成物を得た。
【0038】
[実施例・比較例]
シリンダー径50mmの押出機3台の先端に3層の環状ダイを装着した装置を用い、内層用押出機に表1に示す基材層を形成する樹脂組成物を、中間層用押出機に接着層を構成する樹脂を、表面層用押出し機に表面層を形成する樹脂をそれぞれ供給し、共押出法でチューブ状に成形後、長さ350mmにカットし、基材層を内層とし、表面層を外層とする周長800mm、幅350mmのシームレスベルトを得た。
実施例、及び比較例で作製した導電性ベルトの評価結果を表1に併せて示す。
【0039】
【0040】
表1に示すように、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した樹脂組成物からなる基材層と、エポキシ基含有ポリエチレン系樹脂からなる接着層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体からなる表面層とを備えた導電性ベルトである実施例1乃至2は、基材層側の表面抵抗率が1×106~1×107Ω/□の値を示し、基材層側の表面抵抗率の均一性(1ケタ未満)も優れていた。表面層側の表面抵抗率も1×1014Ω/□以上の値を示し、絶縁性に優れていた。また、層間接着性が良好で、表面層の耐溶剤インク性が良好であり、高温高湿下に放置してもベルト端部の反りは発生しなかった。
それに対し、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した樹脂組成物からなる基材層と表面層が酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体からなる二層の導電性ベルトである比較例1は、基材層と表面層の接着性が悪く層間で容易に剥離した。ポリアミド系樹脂と導電剤とからなる基材層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体からなる表面層とで構成された二層の導電性ベルトである比較例2は、基材層がポリアミド系樹脂であるため、ベルト端部の反りが発生し、ベルトとしては不適であった。
【0041】
ポリアミド系樹脂またはポリエチレン系樹脂を表面層とした比較例3及び比較例4は基材層の表面抵抗率の均一性に優れているものの、表面層に溶剤インクを滴下し60℃中に24時間放置すると膨潤が見られ、特に溶剤インクを使用したインクジェット方式の紙搬送ベルトとして不適であった。一方、ポリフッ化ビニリデンを表面層とした比較例5は表面層の耐溶剤インク性は良好なものの、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した樹脂組成物からなる基材層との接着性が悪く層間で容易に剥離し、表面層側の表面抵抗率も1×1013~1×1014Ω/□の範囲を示し絶縁性に劣った。また、ポリエチレン系樹脂とポリアミド系樹脂と導電剤とを含有した樹脂組成物からなる基材層と、ポリアミド系樹脂からなる接着層と、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体からなる表面層とを備えた導電性ベルトである比較例6は、酸変性したエチレン―テトラフルオロエチレン共重合体との接着性を示し、かつ基材層に含まれているポリアミド樹脂A-3を接着層としたにも拘わらず、層間密着性が悪かった。