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特開2023-24845絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造に用いられるマスキング治具、それを用いた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法、それを備えた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置、及び絶縁膜を備えた自動車用バスバー
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  • 特開-絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造に用いられるマスキング治具、それを用いた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法、それを備えた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置、及び絶縁膜を備えた自動車用バスバー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023024845
(43)【公開日】2023-02-17
(54)【発明の名称】絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造に用いられるマスキング治具、それを用いた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法、それを備えた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置、及び絶縁膜を備えた自動車用バスバー
(51)【国際特許分類】
   B05C 21/00 20060101AFI20230210BHJP
   B05C 3/09 20060101ALI20230210BHJP
   B05C 3/20 20060101ALI20230210BHJP
   B05C 19/02 20060101ALI20230210BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230210BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230210BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20230210BHJP
   B05D 1/32 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
B05C21/00
B05C3/09
B05C3/20
B05C19/02
B05D7/14 L
B05D7/24 301A
B05D7/24 302U
B05D1/18
B05D1/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126429
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021130389
(32)【優先日】2021-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022015555
(32)【優先日】2022-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】511107131
【氏名又は名称】二本木 進
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】二本木 進
【テーマコード(参考)】
4D075
4F040
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AB01
4D075AB07
4D075AD12
4D075BB23X
4D075BB26Z
4D075BB93X
4D075CA23
4D075DA23
4D075DB01
4D075DB06
4D075DC13
4D075EA02
4D075EB33
4F040AA13
4F040AA31
4F040AB15
4F040BA36
4F040BA42
4F040CC02
4F040CC06
4F040CC15
4F040DA16
4F040DB02
4F040DB12
4F040DB30
4F042AA09
4F042AB03
4F042BA08
4F042BA19
4F042CA01
4F042DA09
4F042DB01
4F042DG08
4F042DG09
4F042DG15
4F042DG16
4F042DG18
4F042DG19
4F042EC02
4F042EC07
4F042EC09
(57)【要約】
【課題】安全性が高くコストを低減することが可能なバスバーの粉体塗装技術を提供する。
【解決手段】流動浸漬塗装により自動車用バスバーの本体部の表面に絶縁膜を形成するときに前記バスバーの端子部を保護するために用いられるマスキング治具であって、39600mm以上の体積及び前記端子部を挿入するための挿入部を有し、鋼製であり、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動浸漬塗装により自動車用バスバーの本体部の表面に絶縁膜を形成するときに前記バスバーの端子部を保護するために用いられるマスキング治具であって、
39600mm以上の体積及び前記端子部を挿入するための挿入部を有し、
鋼製であり、
前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成される
マスキング治具。
【請求項2】
前記鋼が、炭素鋼または合金鋼である、請求項1に記載のマスキング治具。
【請求項3】
前記鋼が、中炭素鋼またはステンレス鋼である、請求項1に記載のマスキング治具。
【請求項4】
前記マスキング治具が、分割可能な第1の治具及び第2の治具を含み、
前記第2の治具が前記挿入部を備え、
前記挿入部が、前記端子部を横方向にスライドすることより挿入可能な前記端子部の形状に沿った溝を備え、
前記第1の治具と前記第2の治具とはねじで固定可能に構成される、
請求項1~3のいずれか一項に記載のマスキング治具。
【請求項5】
前記第1の治具と前記第2の治具とは、前記ねじをゆるめたときに前記ねじを軸に互いに回転可能且つ前記第2の治具に対して前記第1の治具を回転させて前記端子部の形状に沿った溝を露出可能に構成される、請求項4に記載のマスキング治具。
【請求項6】
前記第2の治具は、前記端子部を固定するためのねじ穴を備える、請求項4または5に記載のマスキング治具。
【請求項7】
前記第2の治具は、前記端子部の固定位置を調整するためのねじ穴を備える、請求項4~6のいずれか一項に記載のマスキング治具。
【請求項8】
前記ゴム層を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載のマスキング治具。
【請求項9】
絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法であって、
2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を備える導体を用意すること、
39600mm以上の体積を有し前記端子部を挿入するための挿入部を備えた鋼製のマスキング治具であって、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具を用意すること、
前記マスキング治具の前記挿入部に、前記端子部を挿入すること、
前記マスキング治具の挿入部に前記端子部を挿入した前記導体を前記マスキング治具とともに熱処理して、前記本体部の表面を135℃以上の第1の温度に加熱すること、
前記マスキング治具とともに前記本体部の表面を加熱した導体を、エポキシ系樹脂粉体流動層に浸漬して、前記導体の本体部の表面にエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成すること、
前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の前記端子部から、前記マスキング治具を取り外すこと、及び
前記マスキング治具を取り外した導体を熱処理し、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱してエポキシ系樹脂絶縁膜を形成すること、
を含む、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法。
【請求項10】
絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置であって、
2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を有する導体の前記端子部を挿入可能に構成される挿入部を有し且つ39600mm以上の体積を有する鋼製のマスキング治具であって、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具、
前記マスキング治具の挿入部に前記端子部を挿入した前記導体を前記マスキング治具とともに熱処理して、前記本体部の表面を135℃以上の第1の温度に加熱可能に構成される第1の加熱部、
前記第1の加熱部で加熱される前記導体を前記マスキング治具とともに浸漬してエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成するためのエポキシ系樹脂粉体流動層を収容及び流動可能に構成される粉体流動槽、並びに
前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の前記端子部から前記マスキング治具を取り外した導体を熱処理して、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱可能に構成される第2の加熱部、
を備える、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置。
【請求項11】
2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を有する絶縁膜を備えた自動車用バスバーであって、
前記本体部の表面にのみエポキシ系樹脂絶縁膜を備え、
前記エポキシ系樹脂絶縁膜の端部が、前記バスバーの端子部側に向かって単調に傾斜している、
絶縁膜を備えた自動車用バスバー。
【請求項12】
前記傾斜している絶縁膜の端部の表面が曲面である、請求項11に記載の自動車用バスバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造に用いられるマスキング治具、それを用いた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法、それを備えた絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置、及び絶縁膜を備えた自動車用バスバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばインバーターやコンバーター等の電力変換装置内にて電流を伝送するための配線部材としてバスバーが用いられている。バスバーは、板状の導体に絶縁処理を施して絶縁バスバーとすることが多い。この絶縁処理としては、絶縁テープを巻き付ける方法、熱収縮チューブを被せる方法、樹脂モールドする方法、絶縁紙または樹脂フィルムで覆う方法などがあるが、近年、塗装技術を用いて絶縁層を形成する方法が提案されている。
【0003】
従来、絶縁層を形成するための焼付塗装方法として、被加熱材を、電気的加熱手段またはガスバーナ加熱手段を備えた加熱炉内に送入して、それを所定温度まで全体的に加熱し、次いで、粉体塗料を焼付ける焼付塗装方法が幅広く行われていた。しかしながら、加熱炉を用いて被加熱材を加熱する方法では、バスバーを構成する銅材の所定場所のみを選択的に加熱することが難しかった。
【0004】
そこで、特許文献1では、バスバー本体を加圧状態下で通電加熱し、流動浸漬装置を用いて所定表面温度を有するバスバー本体に粉体塗料を塗装する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-172245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等の従来方法では、加圧状態下で通電加熱するための加圧設備及び通電加熱設備が必要であり、さらにはバスバーを通電加熱するための電極接続操作が必要であり、コスト及び安全性の観点で課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、加圧設備及び通電加熱設備が不要であり、安全性が高くコストを低減することが可能なバスバーの粉体塗装技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)流動浸漬塗装により自動車用バスバーの本体部の表面に絶縁膜を形成するときに前記バスバーの端子部を保護するために用いられるマスキング治具であって、
39600mm以上の体積及び前記端子部を挿入するための挿入部を有し、
鋼製であり、
前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成される
マスキング治具。
(2)前記鋼が、炭素鋼または合金鋼である、上記(1)に記載のマスキング治具。
(3)前記鋼が、中炭素鋼またはステンレス鋼である、上記(1)に記載のマスキング治具。
(4)前記マスキング治具が、分割可能な第1の治具及び第2の治具を含み、
前記第2の治具が前記挿入部を備え、
前記挿入部が、前記端子部を横方向にスライドすることより挿入可能な前記端子部の形状に沿った溝を備え、
前記第1の治具と前記第2の治具とはねじで固定可能に構成される、
上記(1)~(3)のいずれかに記載のマスキング治具。
(5)前記第1の治具と前記第2の治具とは、前記ねじをゆるめたときに前記ねじを軸に互いに回転可能且つ前記第2の治具に対して前記第1の治具を回転させて前記端子部の形状に沿った溝を露出可能に構成される、上記(4)に記載のマスキング治具。
(6)前記第2の治具は、前記端子部を固定するためのねじ穴を備える、上記(4)または(5)に記載のマスキング治具。
(7)前記第2の治具は、前記端子部の固定位置を調整するためのねじ穴を備える、上記(4)~(6)のいずれかに記載のマスキング治具。
(8)前記ゴム層を備える、上記(1)~(7)のいずれかに記載のマスキング治具。
(9)絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法であって、
2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を備える導体を用意すること、
39600mm以上の体積を有し前記端子部を挿入するための挿入部を備えた鋼製のマスキング治具であって、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具を用意すること、
前記マスキング治具の前記挿入部に、前記端子部を挿入すること、
前記マスキング治具の挿入部に前記端子部を挿入した前記導体を前記マスキング治具とともに熱処理して、前記本体部の表面を135℃以上の第1の温度に加熱すること、
前記マスキング治具とともに前記本体部の表面を加熱した導体を、エポキシ系樹脂粉体流動層に浸漬して、前記導体の本体部の表面にエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成すること、
前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の前記端子部から、前記マスキング治具を取り外すこと、及び
前記マスキング治具を取り外した導体を熱処理し、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱してエポキシ系樹脂絶縁膜を形成すること、
を含む、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法。
(10)絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置であって、
2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を有する導体の前記端子部を挿入可能に構成される挿入部を有し且つ39600mm以上の体積を有する鋼製のマスキング治具であって、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具、
前記マスキング治具の挿入部に前記端子部を挿入した前記導体を前記マスキング治具とともに熱処理して、前記本体部の表面を135℃以上の第1の温度に加熱可能に構成される第1の加熱部、
前記第1の加熱部で加熱される前記導体を前記マスキング治具とともに浸漬してエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成するためのエポキシ系樹脂粉体流動層を収容及び流動可能に構成される粉体流動槽、並びに
前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の前記端子部から前記マスキング治具を取り外した導体を熱処理して、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱可能に構成される第2の加熱部、
を備える、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置。
(11)2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を有する絶縁膜を備えた自動車用バスバーであって、
前記本体部の表面にのみエポキシ系樹脂絶縁膜を備え、
前記エポキシ系樹脂絶縁膜の端部が、前記バスバーの端子部側に向かって単調に傾斜している、
絶縁膜を備えた自動車用バスバー。
(12)前記傾斜している絶縁膜の端部の表面が曲面である、上記(11)に記載の自動車用バスバー。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安全性が高くコストを低減することが可能なバスバーの粉体塗装技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、マスキング治具の外観模式図である。
図2図2は、マスキング治具を用いて絶縁膜を形成する自動車用バスバーの断面模式図である。
図3図3は、マスキング治具の挿入部に端子部を挿入した自動車用バスバーの断面模式図である。
図4図4は、第1の温度で熱処理したバスバーとマスキング治具を粉体流動層に浸漬し、取り出す態様を表した断面模式図である。
図5図5は、粉体流動層から取り出したバスバー20及びマスキング治具10の断面模式図である。
図6図6は、エポキシ系樹脂絶縁膜を形成した導体の端子部からマスキング治具を取り外した絶縁膜を備えるバスバーの断面模式図である。
図7図7は、端子部と本体部の一部とを拡大した断面模式図である。
図8図8は、第2の温度での熱処理後の端子部と本体部の一部とを拡大した断面模式図である。
図9図9は、従来の流動浸漬塗装でバスバーの表面に絶縁膜を形成した後の端子部と本体部の一部とを拡大した断面模式図である。
図10図10は、63000mmの体積を有し、中炭素鋼であるS45C、ステンレス鋼であるSUS304、及びテフロン(登録商標)のブロックを350℃の加熱炉内で90秒間熱処理して、17℃の空気雰囲気で冷却したときのブロックの表面温度特性である。
図11図11は、本マスキング治具の好ましい形状の断面模式図である。
図12図12は、第1の治具及び第2の治具を含み、第2の治具が挿入部を備え、挿入部が、端子部を横方向にスライドすることより挿入可能な端子部の形状に沿った溝を備え、第1の治具と第2の治具とがねじで固定可能に構成されたマスキング治具の外観模式図(斜視図)である。
図13図13は、本体部に絶縁膜を形成した曲がり部を有する端子部を備えるバスバーの外観模式図(斜視図)である。
図14図14は、第1の治具と第2の治具とを有するマスキング治具の正面模式図である。
図15図15は第2の治具の側面模式図である。
図16図16は、第2の治具を図15とは反対側からみたときの側面模式図である。
図17図17は第1の治具の側面模式図である。
図18図18は、バスバー20の端子部22が挿入部に挿入されてマスキング治具60に保持された状態の外観模式図(斜視図)である。
図19図19は、第2の治具に対して第1の治具をねじを軸に回転させて端子部の形状に沿った溝を露出させ、挿入部に端子部が挿入された状態の外観模式図(斜視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、流動浸漬塗装により自動車用バスバーの本体部の表面に絶縁膜を形成するときに前記バスバーの端子部を保護するために用いられるマスキング治具であって、39600mm以上の体積及び前記端子部を挿入するための挿入部を有し、鋼製であり、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具を対象とする。
【0012】
本マスキング治具によれば、自動車用バスバー(以下、バスバーともいう)の流動浸漬塗装において、加圧設備及び通電加熱設備が不要であり、バスバーを通電加熱するための電極接続操作も不要であり、コスト及び安全性に優れ、さらには従来のマスキング材料のコストも低減することが可能となる。
【0013】
流動浸漬塗装は、流動浸漬粉体塗装ともいい、粉体塗料を入れた槽の下部の多孔質隔壁から空気や不活性ガスなどを圧入することで粉体塗料を浮かせた流動層を設け、この流動層に被処理体を浸漬して被処理体の表面に塗装を行う方法である。本開示のマスキング治具を用いてバスバーに絶縁膜を形成する際、被処理体は導体であり、粉体塗料はエポキシ系樹脂粉体であり、導体表面にエポキシ系樹脂絶縁膜を形成することができる。
【0014】
流動浸漬塗装でバスバーの本体部の表面に絶縁膜を形成する際、絶縁膜の材料である粉体塗料が溶融する温度以上にバスバーの本体部の表面を加熱する必要がある。バスバーの本体部の表面を加熱する際、バスバーの端子部も同時に加熱されると、端子部にも絶縁膜が形成されてしまう。しかしながら、端子部は導通を保つ必要があるため、端子部に粉体が固着することを防止する必要がある。すなわち、流動浸漬塗装で粉体塗料をバスバーの表面に塗装する際、バスバーの本体部のみが塗装され、端子部は塗装されないようにする必要がある。
【0015】
本マスキング治具によれば、バスバーの本体部のみが塗装され、端子部は塗装されないようにすることができ、使用したマスキング治具を繰り返し使用することができる。従来、流動層に被処理体を浸漬するとき、塗装しない部分にマスキング材料が用いられるが、マスキング材料としては、シリコーン、ポリイミド、綿布、ポリエステル等の使い捨てのテープ材等が用いられる。これらのマスキング材料は、流動層に浸漬されると、マスキング材料が劣化するため、一度使用したマスキング材料は廃棄され、新しいマスキング材料を用意する必要があった。そのため、多数のバスバーの粉体塗装を行う場合、多数のマスキング材料が必要となり、その分材料コストがかかり、さらに端子部からマスキング材料を剥がすプレロセス、端子部にマスキング材料を巻くプロセスのコストもかかっていた。
【0016】
本マスキング治具の挿入部に端子部を挿入して、本マスキング治具ごとバスバーを加熱することにより、バスバーの本体部の表面をエポキシ系樹脂粉体が溶融する温度範囲に加熱し、一方で、本マスキング治具の表面温度をエポキシ系樹脂粉体が固着しにくい温度以下、好ましくは70℃以下に保つことができる。この状態でエポキシ系樹脂粉体流動層中にマスキング治具ごとバスバーを浸漬し、所定時間経過後に取り出すことにより、バスバーの端子部にエポキシ系樹脂粉体が固着することを防止しながら本体部の表面に粉体塗膜を形成することができ、さらにはマスキング治具の表面へのエポキシ系樹脂粉体の固着を抑制することができる。粉体塗装が終わると本マスキング治具を端子部から取り外し、次の粉体塗装を行うバスバーの端子部に本マスキング治具を装着することができるため、本マスキング治具の取り外し及び装着プロセスは短時間で簡便に行うことができる。本マスキング治具は、粉体塗装中にエポキシ系樹脂粉体がマスキング治具の表面に付着することを防止するための特別な冷却、例えばマスキング治具内部に冷却水を流す等の特別な冷却も必要ないため、その点においてもバスバーへの絶縁膜の形成を低コストで実施することがきる。
【0017】
本マスキング治具の表面には、エポキシ系樹脂粉体が固着しなければよく、付着してもよい。本願において固着とは、本マスキング治具の表面からエポキシ系樹脂粉体を容易に除去できない状態をいい、例えば、圧縮空気の吹き付けやブラシによる清掃等で、マスキング治具の表面からエポキシ系樹脂粉体を容易に除去できない状態をいう。マスキング治具の表面にエポキシ系樹脂粉体が付着していても、圧縮空気を吹き付けやブラシによる清掃等で、エポキシ系樹脂粉体を実質的に除去できる場合は問題なく、本願では、固着ではなく付着という。
【0018】
本マスキング治具を使用することにより、従来、一度使用したら廃棄されていたポリイミド、シリコーン、綿布、ポリエステル等の使い捨てのマスキング材料が不要になる。そして、本マスキング治具へのエポキシ系樹脂粉体の固着を抑制することができるので、本マスキング治具を、バスバーへの絶縁膜の形成に繰り返し使用することができる。本マスキング治具の挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能に装着されるゴム層は、マスキング治具の内部に配置されて用いられるため繰り返し用いても劣化が少なく、好ましくは50回以上、より好ましくは100回以上、さらに好ましくは150回以上の絶縁膜の形成に連続して使用することができる。上記好ましい回数を繰り返し使用することにより、交換頻度が少ないことによる材料費低減及び交換作業の低減による人件費低減が可能となり、大幅なコスト低減を図ることができる。このように、本マスキング治具を用いることで、従来用いられていた使い捨てのマスキング材料は不要になり、本マスキング治具はバスバーの粉体塗装に繰り返し使用可能であるため、バスバーの粉体塗装のコストを大幅に低減することができる。
【0019】
図1に、本マスキング治具10の外観模式図を示す。マスキング治具10は鋼製である。バスバーの本体部及び端子部を構成し得る銅に対して、鋼は比熱が大きいため、熱処理時に、銅よりも比較的温度が上がりにくい。そのため、マスキング治具10が鋼製で且つ39600mm以上の体積を備えることにより、従来用いられる自動車用バスバーの本体部の表面を所定温度範囲に加熱して粉体塗膜を形成しつつ、マスキング治具10の表面温度を抑えてマスキング治具の表面へのエポキシ系樹脂粉体の固着を抑制することができる。従来用いられる自動車用バスバーは、図2に例示するL長が120mm以上、W長が50mm以上、幅が15mm以上、高さ(紙面に垂直方向の寸法)が0mm以上、及び厚みが2mm以上の導体であることができるが、この形状に限定されず、前記導体に相当する体積を有する導体でもよく、または前記導体に相当する体積未満の導体でもよい。バスバーの寸法が大きい場合は形成する絶縁膜のより大きな厚みを求められることがあり、そのような場合等でバスバーの加熱温度を高くする必要があるときは、マスキング治具10の表面温度を抑えるように、より大きな体積のマスキング治具10を用いればよい。
【0020】
マスキング治具10は、バスバーの端子部を挿入するための挿入部12を備える。挿入部12は、樹脂が挿入部内に入らないように封止するため及び端子部の保持性を高めるために、挿入部12の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層14が装着され得る。ゴム層14は、天然ゴムまたは合成ゴムであることができ、好ましくは合成ゴムである。合成ゴムとしては、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム等が挙げられ、シリコーンゴムが耐熱性に優れるので好ましい。
【0021】
ゴム層14の厚みは、好ましくは1~7mm、より好ましくは2~6mm、さらに好ましくは3~5mmである。ゴム層14の形状は挿入部12の内壁の少なくとも一部に配置されて樹脂の封止性及び端子部の保持性を得ることが可能であれば特に限定されず一体のゴムで構成されてもよく複数のゴムで構成されてもよい。端子部が直線形状を有する場合、端子部は挿入部12に正面から挿入されるため、ゴム層14は、好ましくは挿入部12の内壁の全面に沿って配置可能なキャップ形状を有する。端子部が曲がり部を有する場合、端子部は挿入部12に横方向からスライドして挿入されるため、ゴム層14は、好ましくは端子部の内壁のうち挿入部の入口に配置可能な形状を有する。図19に、挿入部の入口に配置されるゴム層14の一例を示す。
【0022】
端子部が直線形状を有する場合、ゴム層14は挿入部12に装着された状態で、ゴム層を備える挿入部12に端子部を挿入してもよく、または端子部22にゴム層14を装着し、次いで、端子部22及びゴム層14を挿入部に挿入してもよい。端子部が曲がり部を有する場合、ゴム層14を端子部22に装着し、次いでゴム層14及び端子部22を挿入部12にスライドして挿入することができる。
【0023】
図2に、マスキング治具10を用いて絶縁膜を形成する自動車用バスバー20の一例の断面模式図を示す。バスバー20は、2つ以上の端子部22と端子部間の本体部21とを有する。端子部22には、バスバー20を自動車に設置するためのボルト止め、ねじ止め等を行うための穴部23があってもよい。本体部21と端子部22との境界は、バスバーの使用形態に応じて適宜定めることができ、バスバーを自動車に実装する際の端子として機能する部分が端子部であり、それ以外の部分が本体部であることができる。
【0024】
図3に、マスキング治具10の挿入部に端子部を挿入したバスバー20の断面模式図を示す。
【0025】
マスキング治具を構成する鋼は、鉄と炭素の合金である。鋼は、好ましくは炭素鋼または合金鋼であり、より好ましくは、中炭素鋼またはステンレス鋼である。
【0026】
炭素鋼とは、炭素量が0.02~2.14%である鉄と炭素の合金である鋼であり、炭素以外の含有元素の量が合金鋼に分類されない量以下である鋼である。炭素鋼は、好ましくは、炭素含有量が0.25~0.60質量%の中炭素鋼である。
【0027】
合金鋼とは、炭素量が0.02~2.14%である炭素鋼に炭素以外の合金元素が一定量以上加えられた鋼である。合金鋼は、好ましくは、10.5質量%以上のクロムを含有するステンレス鋼である。
【0028】
表1に、中炭素鋼、ステンレス鋼、銅、テフロン(登録商標)、及びアルミナの比熱、熱伝導率、及び密度を示す。バスバーの本体部及び端子部を構成し得る銅に対して、鋼の一種である中炭素鋼及びステンレス鋼は、比熱が大きいため、熱処理時に、銅よりも比較的温度が上がりにくい。中炭素鋼は、熱伝導率がステンレス鋼より高いために、バスバー本体やマスキング治具の保持部や係合部に熱を伝えやすいので熱処理後に冷めやすく、より好ましい。テフロン(登録商標)やアルミナ等のセラミックスも比熱は大きいが、密度が低いため、体積が小さいと加熱されやすく、マスキング治具として使用するにはバスバーに対して寸法が大きくなりすぎて作業性が低下する。
【0029】
【表1】
【0030】
図10に、幅35mm、高さ24mm、及び長さ75mmで、63000mmの体積を有し、中炭素鋼であるS45C、ステンレス鋼であるSUS304、及びテフロン(登録商標)のブロックを350℃の加熱炉内で90秒間熱処理して、17℃の空気雰囲気で冷却したときのブロックの表面温度特性を示す。テフロン(登録商標)のブロック表面はすぐに高温に加熱され200℃まで上昇するが、S45Cとステンレス鋼のブロック表面の温度上昇は抑制される。
【0031】
本願におけるマスキング治具の体積は、マスキング治具の外観寸法に基づく体積であり、端子部を挿入するための挿入部の空間も含む。挿入部の空間は比較的小さいので実質的な影響はない。マスキング治具の体積は、好ましくは42000mm以上、より好ましくは46200mm以上、さらに好ましくは50400mm以上、さらにより好ましくは54600mm以上、さらにより好ましくは58800mm以上、さらにより好ましくは63000mm以上、さらにより好ましくは70000mm以上である。バスバーの寸法に合わせてバスバーの加熱温度を高くしても、マスキング治具10の表面温度を抑えるように、上記好ましい体積のマスキング治具10を用いることができる。また、マスキング治具の体積が、上記好ましい範囲であることにより、マスキング治具10の表面温度を抑えることができ、マスキング治具10の表面温度を、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下にすることができる。マスキング治具10は繰り返して使用されるため、マスキング治具10の表面温度をエポキシ系樹脂粉体が固着しにくい温度以下、好ましくは70℃以下に制御するには、マスキング治具10の表面の初期温度は低い方がよい。マスキング治具10の表面温度をできるだけ低く保つことで、次に絶縁膜を処理するバスバーにマスキング治具10を装着して熱処理するまでの時間を短く、好ましくは180秒以内、より好ましくは120秒以内、さらに好ましくは60秒以内、さらにより好ましくは30秒以内、さらにより好ましくは時間をあけないようにすることができ、生産性を向上することができる。
【0032】
マスキング治具10の体積は、絶縁膜を形成するバスバーの寸法等に基づくバスバーの加熱温度に合わせればよいが、体積上限は例えば117600mm以下、109200mm以下、100800mm以下、92400mm以下、または84000mm以下でもよい。マスキング治具10の体積の上限を上記範囲にすることにより、作業性を確保しながら、より寸法が大きいバスバーへの絶縁膜の形成を行うことができる。また、バスバーへの粉体塗膜の形成は、加熱した複数のバスバーを同時に粉体流動層に浸漬することにより行うことが好ましいが、マスキング治具の体積が、上記好ましい範囲であることにより、粉体流動層への複数のバスバーを同時浸漬時のバスバー間の距離(間隔)を小さくすることことができ、粉体塗膜形成の単位時間あたりの処理数を向上することができる。
【0033】
マスキング治具の形状は、直方体、立方体、球体、またはそれらの組み合わせ等であることができる。マスキング治具の保管等の取扱い及び保管の観点では、マスキング治具の外形のうち少なくとも一部が平坦面を有する直方体または立方体であることが好ましい。図11に、本マスキング治具の好ましい形状の断面模式図を示す。マスキング治具の形状が図11に示すような底面が平坦で上面が平坦面、曲面、またはそれらの組み合わせからなる凸形状、好ましくは略曲面のかまぼこ形状であることにより、バスバー及びマスキング治具を粉体流動層から取り出した後にマスキング治具の曲面上に付着したエポキシ系樹脂粉体をより除去しやすくなり、且つ平坦面を備えた直方体部分を有するので取扱い及び保管にも優れる。
【0034】
好ましくは、本マスキング治具は、分割可能な第1の治具及び第2の治具を含み、前記第2の治具が前記挿入部を備え、前記挿入部が、前記端子部を横方向にスライドすることより挿入可能な前記端子部の形状に沿った溝を備え、前記第1の治具と前記第2の治具とはねじで固定可能に構成される。
【0035】
図12に、第1の治具601及び第2の治具602を含み、第2の治具が挿入部12を備え、挿入部12が、端子部12を横方向にスライドすることより挿入可能な端子部の形状に沿った溝を備え、第1の治具601と第2の治具602とがねじ701で固定可能に構成されたマスキング治具60の外観模式図(斜視図)を示す。図12に例示するマスキング治具60は、直線形状を有する端子部を備えるバスバー20の絶縁膜の形成に用いてもよいが、図13に例示される曲がり部を有する端子部22を備えるバスバーの絶縁膜の形成に好ましく用いられる。図13は、本体部に絶縁膜40を形成した曲がり部を有する端子部22を備えるバスバー20の外観模式図(斜視図)である。
【0036】
図14に、第1の治具601と第2の治具602とを有するマスキング治具60の正面模式図を示す。図15に、マスキング治具60を第1の治具601と第2の治具602に分割したときの第2の治具602の側面模式図を示す。図15に例示する第2の治具602の挿入部12は、図13に例示する曲がり部を有する端子部22を横方向にスライドすることより挿入可能な端子部22の形状に沿った溝121を備える。マスキング治具60が第1の治具601と第2の治具602に分割可能であり、治具602の挿入部12が、端子部を横方向にスライドすることより挿入可能な端子部の形状に沿った溝121を有することにより、図13に例示するような曲がり部を有する端子部を備えたバスバーにも絶縁膜を形成することができる。端子部の横方向とは、端子部の長さ方向及び厚み方向に垂直の方向である。
【0037】
好ましくは、第1の治具601と第2の治具602とは、ねじ701をゆるめたときにねじ701を軸に互いに回転可能且つ第2の治具602に対して第1の治具601を回転させて端子部の形状に沿った溝121を露出可能に構成される。図19に例示するように、第2の治具602に対して第1の治具601をねじ701を軸に回転させて端子部の形状に沿った溝を露出させることで、挿入部12への端子部22の挿入及び取り外しを容易に行うことができる。端子部を横方向にスライドして挿入部に挿入する場合は、ゴム層14を端子部22に装着し、次いでゴム層14及び端子部22を挿入部12にスライドして挿入することができる。図19は、第2の治具602に対して第1の治具601をねじ701を軸に回転させて端子部の形状に沿った溝を露出させ、挿入部12に端子部22が挿入された状態の外観模式図(斜視図)である。
【0038】
端子部を挿入部にスライドさせて挿入した状態で、第1の治具601を回転させて第2の治具602に合わせる位置に戻すことにより、図18に示す状態、すなわち、バスバー20の端子部22が挿入部に挿入されてマスキング治具60に保持された状態にすることができる。図15及び図17に示すように、第1の治具601及び第2の治具602は、ねじ701を挿入するためのねじ穴70a、70bを備えることができる。図17は、第1の治具の側面模式図である。ねじ701は、任意の種類のねじであることができるが、好ましくは蝶ねじが作業性の観点で好ましい。
【0039】
第2の治具602は、好ましくは、端子部を固定するためのねじ穴を備える。端子部を固定するためのねじ穴は1つまたは2つ以上であることができる。図14及び15に例示する第2の治具602は、端子部を固定するためのねじ穴71、72を有する。溝121が、端子部の形状に沿った形状を有するが、溝121の寸法は、端子部の寸法と同じまたは若干大きい寸法であることができるが、溝121の寸法が端子部の寸法とほぼ同じであると溝121に端子部をスライドして入れにくくなるので、溝121の寸法は端子部の寸法より若干大きい寸法であることが好ましい。溝121の寸法が端子部の寸法に比べて大きいほどマスキング治具内で端子部がぐらつきやすくなるが、図12に例示するように、ねじ穴71、72にねじ711、721を挿入して、挿入される端子部の主面を固定して、マスキング治具内の端子部のぐらつきを抑制することができる。
【0040】
第2の治具602は、好ましくは、端子部の固定位置を調整するためのねじ穴を備える。図14~16に例示する第2の治具602は、端子部の固定位置を調整するためのねじ穴73、74を有する。ねじ穴73、74は、図14にするようにねじ731、741を挿入して、挿入される端子部の横方向の固定位置を調整し、また、マスキング治具内の端子部のぐらつきを抑制することができる。図16は、第2の治具を図15とは反対側からみたときの側面模式図である。
【0041】
マスキング治具10、60は、好ましくは、係合フック、係合穴等の被係合部を備える。図15及び図16に例示する第2の治具602は、フック取付ねじを挿入するためのねじ穴81を備えることができる。ねじ穴81にフック取付ねじを挿入することで被係合部とすることができる。マスキング治具10、60は、所望の位置に被係合部を備えることができる。
【0042】
バスバーの絶縁膜形成への本マスキング治具の連続使用回数は、好ましくは50回以上、より好ましくは100回以上、さらに好ましくは150回以上、さらにより好ましくは200回以上、さらにより好ましくは250回以上、さらにより好ましくは300回以上である。本マスキング治具の使用回数の上限は、特に限定されないが、例えば1000回以下または500回以下程度にすることができる。挿入部の内壁の少なくとも一部に配置されるゴム層が劣化してくるとバスバーの端子部の担持(保持力)及び/または封止性が不安定になってくるため、新しいゴム層に交換することができる。直線形状を有する端子部に用いるゴム層は、挿入部12に正面から挿入されるため端子部を保持する保持力が重視されるため、直線形状を有する端子部に用いるゴム層の新しいゴム層への交換は、本マスキング治具によるバスバーの端子部を保持する保持力が、好ましくは1.96N(200gf)未満となったとき、より好ましくは2.94N(300gf)未満となったときに行う。ゴム層が新しいとき(交換初期)における保持力は、保持力が十分であり且つ端子部を挿入部に挿入しやすいように、好ましくは9.8~11.8N(1000~1200gf)である。保持力は、バスバーの端子部を本マスキング治具の挿入部に正面から挿入して、挿入方向に平行方向に引張荷重を加えることにより測定することができる。マスキング治具の鋼製部分は、樹脂固着を抑制する限り、半永久的に使用可能である。
【0043】
本マスキング治具を用いて絶縁膜を形成する自動車用バスバーは、自動車用バスバーとして従来用いられている形状、寸法及び導体で構成され得る。導体は、好ましくは、銅、銅を主成分とする合金、または銅とアルミニウムとのクラッド材である。銅とは、純銅及び従来の銅で構成されるバスバーに含まれるものと同様の不純物を含む銅である。銅は、例えば、タフピッチ銅または無酸素銅である。自動車用バスバーは、2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を備えることができる。自動車用バスバーの形状は任意の形状であることができるが、例えば、図2に例示するL長が120~1000mm、W長が50~400mm、高さHが0~30mm、及び厚みが2~4mmの導体である。
【0044】
本マスキング治具は、好ましくは、挿入部の内壁の少なくとも一部に、マイカ等の断熱材を備える。断熱材は厚みが例えば0.5~5mm程度のシート形状であることができる。断熱材は、ゴム層と本マスキング治具の内壁との間にも配置され得る。内壁の少なくとも一部に断熱材を有することにより、挿入部に挿入される端子部近傍のバスバーの本体部の温度が低下することを抑制することができる。
【0045】
本マスキング治具を用いて後述する方法で絶縁膜を備えたバスバーを製造することにより、絶縁膜の端部のカット工程が不要になり、且つ絶縁膜の端部にバリが発生しにくいバスバーを得ることもできる。
【0046】
本開示はまた、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法であって、2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を備える導体を用意すること、39600mm以上の体積を有し前記端子部を挿入するための挿入部を備えた鋼製のマスキング治具であって、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具を用意すること、前記マスキング治具の前記挿入部に、前記端子部を挿入すること、前記マスキング治具の挿入部に前記端子部を挿入した前記導体を前記マスキング治具とともに熱処理して、前記本体部の表面を135℃以上の第1の温度に加熱すること、前記マスキング治具とともに前記本体部の表面を加熱した導体を、エポキシ系樹脂粉体流動層に浸漬して、前記導体の本体部の表面にエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成すること、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の前記端子部から、前記マスキング治具を取り外すこと、及び前記マスキング治具を取り外した導体を熱処理し、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱してエポキシ系樹脂絶縁膜を形成すること、を含む、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造方法を対象とする。
【0047】
本方法によれば、本体部の表面温度にエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成しつつ、マスキング治具の表面温度をエポキシ系樹脂粉体が固着しにくい温度以下、好ましくは70℃以下に抑制することができる。
【0048】
マスキング治具の表面温度が、粉体塗料が固着しにくい温度以下、好ましくは70℃以下に保持されることにより、マスキング治具とともにバスバーをエポキシ系樹脂粉体流動層に浸漬しても、バスバーの本体部の表面にエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成しつつ、マスキング治具の表面にエポキシ系樹脂粉体が固着することを抑制することができる。
【0049】
このように、本方法によれば、マスキング治具へのエポキシ系樹脂粉体の固着を抑制することができるので、バスバーに粉体塗膜を形成した後に、マスキング治具をバスバーの端子部から取り外して別のバスバーの粉体塗膜形成に再利用することができ、バスバーの粉体塗装のコストを低減することができる。
【0050】
本方法で用いられるマスキング治具の体積は、好ましくは42000mm以上、より好ましくは46200mm以上、さらに好ましくは50400mm以上、さらにより好ましくは54600mm以上、さらにより好ましくは58800mm以上、さらにより好ましくは63000mm以上、さらにより好ましくは70000mm以上である。マスキング治具の体積が大きいほど、熱処理時のマスキング治具10の表面温度の上昇を抑制することができるので、上記好ましい体積のマスキング治具10を用いる場合は、第1の温度を135℃以上の範囲で高くしてもマスキング治具の表面への粉体塗料の固着を抑制することができる。バスバーの寸法が大きくなるにつれて、本体部の表面にエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成するための好適な第1の温度は高くなる傾向があり、第1の温度に合わせて、マスキング治具10の表面温度を抑えるように、上記好ましい体積のマスキング治具10を用いることができる。下記式を満たすように、第1の温度x(℃)に応じて、体積y(mm)を有するマスキング治具を用いてもよい。
y>140x+16800 (1)
あるいは、下記式(2)を満たすように、第1の温度x(℃)に応じて、体積y(mm)を有するマスキング治具を用いてもよい。
y≧140x+18200 (2)
【0051】
また、マスキング治具の体積が、上記好ましい範囲であることにより、マスキング治具10の表面温度を抑えることができ、マスキング治具の表面温度を、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下にすることができる。マスキング治具10は繰り返して使用されるため、次のバスバー装着時のマスキング治具の表面温度が低いほど、装着後すぐに本体部表面を第1の温度に加熱しても、マスキング治具の表面温度を粉体塗料が固着しにくい温度以下、好ましくは70℃以下に制御しやすくなるため、生産性が向上する。
【0052】
第1の温度は、好ましくは145℃以上、より好ましくは150℃以上である。第1の温度が上記好ましい温度であることにより、より安定して粉体塗膜を形成することができる。第1の温度の上限は、絶縁膜を被覆するバスバーの寸法に応じて、エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成しつつ、マスキング治具の表面温度がエポキシ系樹脂粉体が固着しにくい温度以下、好ましくは70℃以下になる範囲で設定すればよく、例えば、215℃以下、205℃以下、195℃以下、185℃以下、または175℃以下にしてもよい。
【0053】
第1の温度に加熱するための加熱炉内の温度は、熱処理時間に応じて調整すればよいが、例えば270~400℃、290~380℃、または310~360℃である。第1の温度に加熱するための熱処理炉内での熱処理時間は、加熱炉内の温度に応じて調整すればよいが、長すぎるとバスバー本体表面だけでなく、マスキング治具の表面温度も高くなりやすいので、好ましくは30~180秒間、より好ましくは60~120秒間である。
【0054】
図4に、熱処理したバスバーとマスキング治具を粉体流動層に浸漬し、取り出す態様を表した断面模式図を示す。図4に例示する粉体流動槽50は、下部に多孔材52で仕切られた空気や不活性ガスを圧入する流路53を備え、エポキシ系樹脂粉体流動層51を収容することができる。多孔材52は、多孔質板または布である。粉体流動槽50内においては、下部の流路53から多孔材52を介して圧力をかけた空気または不活性ガスが注入され、その圧力で粉体流動槽50内のエポキシ系樹脂粉体が流動してエポキシ系樹脂粉体流動51を形成する。本方法においては、粉体流動層51中に、バスバー20とマスキング治具10とを一緒に浸漬することができる。粉体流動層へのバスバーの浸漬時間は、好ましくは3~30秒間、より好ましくは5~15秒間である。
【0055】
粉体流動層への浸漬前にバスバー本体部の表面を第1の温度に加熱する際に、バスバーとともにマスキング治具を熱処理することによって、第1の温度への加熱と、エポキシ系樹脂粉体流動層への浸漬とを連続して行うことができる。バスバーを熱処理した後にマスキング治具を端子部に挿入しようとすると、高温のバスバーを取り扱う必要があり、作業性の低下やそのための設備が必要になり、また、エポキシ系樹脂粉体流動層への浸漬時のバスバーの温度管理が難しくなる。そのため、粉体流動層への浸漬前に、バスバーとともにマスキング治具を熱処理することには大きな利点がある。また、導体を加圧下で通電加熱する方法に対して、熱処理で加熱する方法は、加圧設備及び通電設備が不要になり、端子部への電極取付け作業も不要になり、コスト及び安全性の観点で有利である。
【0056】
エポキシ系樹脂粉体の平均粒径は、好ましくは1~500μm、より好ましくは10~100μmである。エポキシ系樹脂粉体が上記好ましい粒径を有することにより、流動層中のエポキシ系樹脂粉体の流動性及び形成する絶縁膜の平滑性をより向上することができる。
【0057】
バスバー及びマスキング治具は、粉体流動層から取り出した後、冷却する。冷却中または冷却後に、マスキング治具の表面に、空気を吹き付けて、またはブラシや刷毛等の治具を用いて、マスキング治具の表面に付着したエポキシ系樹脂粉体を除去してもよい。本方法によれば、マスキング治具の表面温度は粉体塗料が固着しにくい温度以下に抑制されるため、マスキング治具の表面にエポキシ系樹脂粉体が付着したとしても固着しにくく、上記方法で容易に除去することができる。
【0058】
図5に、粉体流動層から取り出して冷却したバスバー20及びマスキング治具10の断面模式図を示す。バスバー20の本体部の表面に粉体塗膜30が形成される。粉体塗膜の厚みは、好ましくは300~800μm、より好ましくは400~500μmである。上記好ましい厚みを有することにより、粉体塗膜を硬化後の絶縁膜が3000Vの耐電圧を安定して有することができる。
【0059】
バスバー及びマスキング治具の冷却中または冷却後に、エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の端子部からマスキング治具を取り外す。図6に、エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の端子部からマスキング治具を取り外した粉体塗膜を備えるバスバーの断面模式図を示す。図7に、端子部と本体部の一部とを拡大した断面模式図を示す。図7に示すように、バスバーの本体部21の表面に形成された粉体塗膜30の端部32は、マスキング治具を取り外した時点では、ほぼ直角の端部(見切り)及びバリを有し得る。
【0060】
導体の端子部からマスキング治具を取り外した後、導体(バスバー)の本体部に形成した粉体塗膜を第1の温度よりも高い第2の温度に加熱し、硬化して絶縁膜を得る。第2の温度への加熱において、粉体塗膜が再度溶融して、図8に示すように、端子部22側に向かって単調に傾斜した形状を有する端部(見切り)42を有する絶縁膜40が得られる。図8は、第2の温度への加熱後の端子部22と本体部21の一部とを拡大した断面模式図である。絶縁膜40が、端子部22側に向かって単調に傾斜した形状を有する端部42を有することにより、絶縁膜の端部における割れを防止し、バリの発生及びバリの脱落を防止し得る。
【0061】
第2の温度は、第1の温度よりも、好ましくは5℃、より好ましくは15℃、さらに好ましくは25℃高い。第2の温度は、例えば、180℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上、220℃以上、または230℃以上である。第2の温度の下限が上記好ましい温度であることにより、粉体塗膜の硬化をより促進し、且つ粉体塗膜を流動させて上記傾斜する端部の有する絶縁膜の形成をより安定して行うことができる。第2の温度は、好ましくは280℃以下、より好ましくは270℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。第2の温度の上限が上記好ましい温度であることにより、粉体塗膜の炭化を防止することができる。
【0062】
また、従来の粉体絶縁塗装では、バスバーの表面に絶縁膜を作製する際、図9に示すように、形成した絶縁膜のマスキング材料との境目となる端部(見切り)に凸部が形成される。そのため、その凸部をプレスでカットするプレスカット工程が必要であった。図9は、従来の粉体絶縁塗装でバスバーの表面に絶縁膜を形成した後の端子部と本体部の一部とを拡大した断面模式図である。
【0063】
これに対して、本開示の方法では、第1の温度で粉体塗膜を形成し、次いで、第2の温度で粉体塗膜を硬化させて絶縁膜を得るために粉体塗膜を加熱して再度溶融する際に、上述のように粉体塗膜の端部(見切り)が端子部側に向かって単調に傾斜した形状に変化し、バリがでにくい。そのため、本方法においては、従来方法で発生していた凸部やバリは形成されず、凸部やバリを除去するために必要であったプレスカット工程が不要となり、その分、バスバーの粉体塗装のコストをさらに低減することができる。
【0064】
好ましくは、傾斜している絶縁膜の端部表面は図8に示すように曲面を有する。絶縁膜の端部の表面が曲面であることにより、端部にバリがより発生しにくくなり、絶縁膜の割れ及びバリの脱落を防止することができ、バリの除去工程が不要となる。
【0065】
本開示はまた、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置であって、
2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を有する導体の前記端子部を挿入可能に構成される挿入部を有し且つ39600mm以上の体積を有する鋼製のマスキング治具であって、前記挿入部が、前記挿入部の内壁の少なくとも一部に交換可能なゴム層を装着可能に構成されるマスキング治具、
前記マスキング治具の挿入部に前記端子部を挿入した前記導体を前記マスキング治具とともに熱処理して、前記本体部の表面を135℃以上の第1の温度に加熱可能に構成される第1の加熱部、
前記第1の加熱部で加熱される前記導体を前記マスキング治具とともに浸漬してエポキシ系樹脂粉体塗膜を形成するためのエポキシ系樹脂粉体流動層を収容及び流動可能に構成される粉体流動槽、並びに
前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を形成した導体の前記端子部から前記マスキング治具を取り外した導体を熱処理して、前記エポキシ系樹脂粉体塗膜を前記第1の温度よりも高い第2の温度に加熱可能に構成される第2の加熱部、
を備える、絶縁膜を備えた自動車用バスバーの製造装置を対象とする。
【0066】
第1の加熱部及び第2の加熱部は、バッチ炉または連続炉であることができ、好ましくは連続炉である。
【0067】
本製造装置は、好ましくは、導体の端子部が挿入部に挿入されるマスキング治具を保持して導体をエポキシ系樹脂粉体流動層に浸漬するように構成される保持部を備える。保持部によるマスキング治具の保持は、任意の方法で行うことができ、例えば、保持部の固定治具でマスキング治具を掴んで保持、マスキング治具の表面に備えられた係合フック、係合穴等の被係合部に保持部の係合部を係合して保持等の方法が挙げられる。
【0068】
本製造装置は複数の保持部を有してもよい。複数の保持部はそれぞれ、導体の端子部が挿入部に挿入されたマスキング治具を保持することができる。複数の保持部は、コンベア方式で移動して、導体の端子部が挿入部に挿入されたマスキング治具を、連続炉である第1の加熱部に搬送することができる。
【0069】
粉体流動槽は、図4に示すように、導体の端子部が挿入部に挿入されたマスキング治具を下方に移動させ、粉体流動層に浸漬中は移動させずに保持し、所定時間後に上方に移動させて取り出し可能な構造、すなわち上方からみて略正方形の構造を有してもよく、または、コンベア方式で移動する複数の保持部に保持された導体の端子部が挿入部に挿入されたマスキング治具を粉体流動層に浸漬させながら水平方向に移動させることができるように、水平方向に長い構造、すなわち上方からみて略直方体の構造を有してもよい。
【0070】
本製造装置は、粉体流動層から取り出した導体の端子部が挿入部に挿入されたマスキング治具を冷却するための冷却部を有してもよい。冷却部は、マスキング治具に風または冷風をあてることができる。冷却部の温度は、室温でもよく、室温よりも低い温度、例えば5~20℃または10~15℃でもよい。冷却部の温度が室温である場合、冷却部は、囲いのない開放系(室温冷却)、または囲いのあるバッチ式若しくは連続式の閉鎖系でもよい。冷却部の温度が、室温よりも低い温度である場合、冷却部は、囲いのあるバッチ式または連続式であることができる。複数の保持部がコンベア方式で、導体の端子部が挿入部に挿入されたマスキング治具を移動する場合、冷却部は、開放系または囲いのある連続式が好ましい。
【0071】
複数の保持部がコンベア方式で移動する場合、第1の加熱部、粉体流動槽、及び第2の加熱部では、連続移動または間欠移動することができ、好ましくは間欠移動する。
【0072】
本開示はまた、2つ以上の端子部及び前記端子部間の本体部を有する絶縁膜を備えた自動車用バスバーであって、
前記本体部の表面にのみエポキシ系樹脂絶縁膜を備え、
前記エポキシ系樹脂絶縁膜の端部が、前記バスバーの端子部側に向かって単調に傾斜している、
絶縁膜を備えた自動車用バスバーを対象とする。
【0073】
エポキシ系樹脂絶縁膜(絶縁膜ともいう)の端部が、バスバーの端子部側に向かって単調に傾斜した形状を有することにより、絶縁膜の端部における割れを防止し、バリの発生及びバリの脱落を防止し得る。
【0074】
絶縁膜の厚みは、好ましくは300~800μm、より好ましくは400~500μmである。上記好ましい厚みを有することにより、3000Vの耐電圧を安定して有することができる。
【0075】
絶縁膜の端部の単調に傾斜した形状は、図8に示す絶縁膜の厚みBに対する傾斜部Aの寸法の比率A/Bが、好ましくは0.25~3.80、より好ましくは0.50~1.80、さらに好ましくは0.75~1.50である。傾斜部Aの寸法は、絶縁膜の厚みに対する垂直方向の傾斜部の長さである。
【0076】
好ましくは、傾斜している絶縁膜の端部の表面が曲面である。絶縁膜の端部の表面が曲面であることにより、端部にバリがよりでにくくなり、絶縁膜の割れ及びバリの脱落をより防止することができ、バリの除去工程が不要となる。
【0077】
バスバーを構成する導体、バスバーの本体部及び端子部、並びに絶縁膜の構成については、上述の説明が適用される。
【実施例0078】
(実施例1)
バスバーとして、図2に模式的に示す長辺(L長)が300mm、短辺(W長)が100mm、幅20mm、及び厚さ3mmのコの字状の銅(タフピッチ銅)製で直線形状の端子部を有する導体を準備した。
【0079】
中炭素鋼であるS45Cで構成され、幅35mm、高さ24mm、及び長さ50mmで、42000mmの体積を有し、厚さ2mmのキャップ形状のシリコーンゴム層が内壁の全面に配置され且つバスバーの幅20mm及び厚さ3mmの直線形状の端子部を長さ方向に20mm挿入可能に構成される挿入部を有する、図1に模式的に示すマスキング治具を2つ準備した。マスキング治具の幅、高さ、及び長さは、バスバーの幅方向、厚み方向、及び端子部の延材方向(挿入方向)に平行方向の寸法である。
【0080】
導体の本体部の両端に位置する2つの端子部を、準備した2つマスキング治具のそれぞれの挿入部に正面からまっすぐ挿入した。マスキング治具によるバスバーの端子部を保持する保持力は9.8N(1000g)であった。
【0081】
挿入部にバスバーの端子部が挿入されたマスキング治具を保持部で掴んで、300℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理し、本体部の表面を第1の温度である150℃に加熱した。熱処理後、すぐに、マスキング治具とともに加熱されたバスバーを、図4に模式的に示す下部が多孔板で仕切られた空気を圧入する流路を備えた粉体流動槽のエポキシ樹脂粉体流動層の中に15秒間浸漬させた。次いで、粉体流動層からマスキング治具とともにバスバーを取り出して、17℃の空気雰囲気で同じ温度の風を吹き付けて冷却し、図5に模式的に示すような、粉体塗膜が本体部の表面に形成されたバスバーを得た。
【0082】
マスキング治具をバスバーから取り外し、図6に模式的に示すような、本体部の表面に厚みが400μmの粉体塗膜が形成されたバスバーを得た。取り外したマスキング治具の表面に圧縮空気の吹き付けを行い、表面に付着したエポキシ樹脂粉体を除去した。圧縮空気吹付け後のマスキング治具の表面にはエポキシ樹脂粉体は実質的にみられなかった。このマスキング治具を、すぐに次のバスバーに装着しマスキング治具の温度を測定したところ、マスキング治具の表面温度は25℃であった。このマスキング治具を用いて、上記同様の工程を150回繰り返したところ、マスキング治具の表面にはエポキシ樹脂粉体の固着はみられなかった。
【0083】
マスキング治具を取り外した後、本体部の表面に粉体塗膜が形成されたバスバーを210℃に加熱した熱処理炉内で300秒間熱処理して粉体塗膜を第2の温度である200℃に加熱後、室温に冷却して、粉体塗膜を硬化させた厚みが400μmの絶縁膜を備えたバスバーを得た。絶縁膜の端部は、図8に示すように、バスバーの端子部側に向かって単調に傾斜し、絶縁膜の厚みBに対する傾斜部Aの寸法の比率A/Bは0.8であり、傾斜している絶縁膜の端部の表面が曲面を有していた。
【0084】
(実施例2)
幅35mm、高さ24mm、及び長さ75mmで、63000mmの体積を有するマスキング治具を用いたこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0085】
(実施例3)
SUS304製のマスキング治具を用いたこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0086】
(実施例4)
SUS304製のマスキング治具を用いたこと以外は、実施例2と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0087】
(実施例5)
330℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である170℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0088】
(実施例6)
285℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である140℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0089】
(実施例7)
280℃に加熱した熱処理炉内で300秒間熱処理して粉体塗膜を第2の温度である270℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0090】
(実施例8)
幅35mm、高さ40mm、及び長さ50mmで、70000mmの体積を有するマスキング治具を用い、375℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である200℃に加熱したこと以外は、実施例7と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0091】
(比較例1)
幅35mm、高さ24mm、及び長さ45mmで、37800mmの体積を有するマスキング治具を用いたこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否及びマスキング治具表面の樹脂固着有無を評価した。
【0092】
(比較例2)
270℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である130℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否及びマスキング治具表面の樹脂固着有無を評価した。
【0093】
(比較例3)
テフロン(登録商標)製のマスキング治具を用いたこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否及びマスキング治具表面の樹脂固着有無を評価した。
【0094】
(比較例4)
アルミナ製のマスキング治具を用いたこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否及びマスキング治具表面の樹脂固着有無を評価した。
【0095】
(参考例1)
345℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である180℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0096】
(参考例2)
幅35mm、高さ24mm、及び長さ55mmで、46200mmの体積を有するマスキング治具を用い、390℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である210℃に加熱したこと以外は、実施例7と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0097】
(実施例9)
345℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である180℃に加熱したこと以外は、実施例2と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0098】
(実施例10)
幅35mm、高さ24mm、及び長さ60mmで、50400mmの体積を有するマスキング治具を用い、405℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である220℃に加熱したこと以外は、実施例7と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0099】
(実施例11)
幅40mm、高さ24mm、及び長さ50mmで、48000mmの体積を有するマスキング治具を用い、390℃に加熱した熱処理炉内で180秒間熱処理して本体部の表面を第1の温度である210℃に加熱したこと以外は、実施例7と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0100】
(実施例12)
幅33mm、高さ24mm、及び長さ50mmで、39600mmの体積を有するマスキング治具を用いたこと以外は、実施例1と同様に絶縁膜を備えたバスバーを作製し、樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具表面の樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状を評価した。
【0101】
表2に、各例における樹脂塗膜の形成可否、マスキング治具への樹脂固着有無、及び絶縁膜の端部の形状の評価結果を示す。
【表2】
【符号の説明】
【0102】
10 マスキング治具
12 挿入部
121 端子部の形状に沿った溝
14 ゴム層
20 バスバー
21 本体部
22 端子部
23 穴部
30 粉体塗膜
32 粉体塗膜の端部
40 絶縁膜
42 絶縁膜の端部
50 粉体流動槽
51 エポキシ系樹脂粉体流動層
52 多孔材
53 流路
60 マスキング治具
601 第1の治具
602 第2の治具
70a ねじ穴
70b ねじ穴
701 ねじ
71 ねじ穴
711 ねじ
72 ねじ穴
721 ねじ
73 ねじ穴
731 ねじ
74 ねじ穴
741 ねじ
81 ねじ穴

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19