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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025151
(43)【公開日】2023-02-21
(54)【発明の名称】多リガンド-薬物複合体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/54 20170101AFI20230214BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230214BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20230214BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230214BHJP
   C07K 9/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230214BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230214BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K38/12 ZNA
A61K45/00
A61K47/65
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/06
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/06
A61P9/10
A61P17/00
A61P17/02
A61P19/02
A61P19/06
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/06
A61P43/00 121
A61P35/02
C07K9/00
A61P9/12
A61K38/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192575
(22)【出願日】2022-12-01
(62)【分割の表示】P 2020164335の分割
【原出願日】2016-08-11
(31)【優先権主張番号】201510489556.6
(32)【優先日】2015-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201510489560.2
(32)【優先日】2015-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521228363
【氏名又は名称】コヒレント バイオファーマ ワン,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】フアン,バオファ ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ダイ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ツォンボ
(72)【発明者】
【氏名】シェ,シュエユアン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シャオドン
(72)【発明者】
【氏名】フー,シンリー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】病気を治療するための、エンドサイトーシスを誘導することができる多リガンド-薬物複合体を提供する。
【解決手段】小分子化合物、ヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、及びナノ粒子からなる群より選択される、1種のペイロード、及び少なくとも1種がエンドサイトーシスを仲介することができるエンドサイトーシス分子である2種以上の細胞相互作用分子を含み、前記ペイロードは前記細胞相互作用分子の内の少なくとも1種に、特定のアミノ酸配列を有するリンカーを介して結合されている多リガンド-薬物複合体化合物又はその医薬的に許容される塩である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種のペイロード及び2種以上の細胞相互作用分子を含み、前記ペイロードは前記細胞
相互作用分子のうちの少なくとも1種に結合されている複合体化合物またはその医薬的に
許容される塩。
【請求項2】
前記ペイロードは前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種にリンカーを介して結
合されている、請求項1に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項3】
前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種は細胞表面受容体に特異的に結合するこ
とができる、請求項1または2に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項4】
前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも2種は、細胞表面受容体に特異的に結合する
ことができるリガンドである、請求項1~3の何れか一項に記載の複合体化合物またはそ
の医薬的に許容される塩。
【請求項5】
前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種は、エンドサイトーシスを仲介すること
ができるエンドサイトーシス分子である、請求項1~4の何れか一項に記載の複合体化合
物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項6】
第一の細胞表面受容体に特異的に結合することができる第一のリガンド、及び第二の細
胞表面受容体に特異的に結合することができる第二のリガンドを含む、請求項1~5の何
れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項7】
前記ペイロードは前記第一のリガンドに結合され、前記第一のリガンドは前記第二のリ
ガンドに結合されている、請求項6に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される
塩。
【請求項8】
前記第一のリガンドは前記第二のリガンドにスペーサーを介して結合されている、請求
項7に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項9】
前記スペーサーは、配列番号1~14のアミノ酸配列、Arg-Arg、Ala-Se
r-Asn、Ala-Ala-Ala、Ser-Ser-Arg、Pro-Arg、及び
Pro-Leu-Glyからなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載
の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項10】
前記ペイロードは前記第一のリガンド及び前記第二のリガンドのそれぞれと直接結合さ
れている、請求項6に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項11】
前記ペイロードは前記第一のリガンドに第一のリンカーを介して結合され、前記第二の
リガンドに第二のリンカーを介して結合されている、請求項6に記載の複合体化合物また
はその医薬的に許容される塩。
【請求項12】
第三の細胞表面受容体に特異的に結合することができる第三のリガンドをさらに含む、
請求項6~11の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項13】
前記第一の細胞表面受容体、前記第二の細胞表面受容体、及び前記第三の細胞表面受容
体は互いに異なる、請求項12に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項14】
前記第一のリガンド、前記第二のリガンド、及び前記第三のリガンドは同じである、請
求項6~13の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項15】
1種、2種、3種、または4種以上のペイロードを含む、請求項1~14の何れか一項
に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項16】
前記ペイロードは、小分子化合物、ヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、及びナノ粒
子からなる群より選択される、請求項1~15の何れか一項に記載に記載の複合体化合物
またはその医薬的に許容される塩。
【請求項17】
前記ペイロードは小分子化合物である、請求項16に記載の複合体化合物またはその医
薬的に許容される塩。
【請求項18】
前記小分子化合物は、メイタンシン及びその任意の誘導体、タキシノール及びその任意
の誘導体、オーリスタチン及びその任意の誘導体、エポチロン及びその任意の誘導体、ブ
レオマイシン及びその任意の誘導体、ダクチノマイシン及びその任意の誘導体、プリカマ
イシン及びその任意の誘導体、及びマイトマイシンCからなる群より選択される、請求項
17に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項19】
前記小分子化合物はオーリスタチンまたはその任意の誘導体である、請求項18に記載
の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項20】
前記エンドサイトーシス分子は、葉酸塩及びそれらの類縁体、エンドサイトーシスを仲
介することができるペプチド、及び細胞貫通ペプチドからなる群より選択される、請求項
5~19の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項21】
前記エンドサイトーシス分子は、葉酸塩及びそれらの類縁体、及びエンドサイトーシス
を仲介することができるペプチドからなる群より選択される、請求項5~19の何れか一
項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項22】
前記葉酸塩の類縁体は5-メチルテトラヒドロ葉酸塩、5-ホルミルテトラヒドロ葉
酸塩、スルファニルアミド、メトトレキサート、及び5,10-メチレンテトラヒドロ葉
酸塩からなる群より選択される、請求項20または21に記載の複合体化合物またはその
医薬的に許容される塩。
【請求項23】
前記細胞貫通ペプチドは腫瘍吸収性ペプチド、ミトコンドリア貫通ペプチド、活性化可
能な細胞貫通ペプチド、及び抗菌性ペプチドからなる群より選択される、請求項20に記
載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項24】
前記細胞貫通ペプチドは、配列番号19または配列番号20のアミノ酸配列を含む、請
求項20に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項25】
前記エンドサイトーシスを仲介することができるペプチドは、配列番号16、配列番号
17、配列番号18、Arg-Gly-Asp、及び配列番号16~18のアミノ酸配列
の何れかと少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を有する相同体ペプチドから
なる群より選択されるアミノ酸配列を含み、前記相同体ペプチドは配列番号16~18の
何れか1種のペプチドと機能的均等物である、請求項21に記載の複合体化合物またはそ
の医薬的に許容される塩。
【請求項26】
前記第一のリガンド、前記第二のリガンド、及び前記第三のリガンドは独立して、ペプ
チド、葉酸塩及びそれらの類縁体からなる群より選択される、請求項12に記載の複合体
化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項27】
前記ペプチドは、配列番号15、及び配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも70%
の相同性を有するアミノ酸配列を有する相同体ペプチドからなる群より選択されるアミノ
酸配列を含み、前記相同体ペプチドは配列番号15のペプチドの機能的均等物である、請
求項26に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項28】
前記ペプチドは、配列番号16、配列番号17、配列番号18、Arg-Gly-As
p、及び配列番号16~18のアミノ酸配列の何れかと少なくとも70%の相同性を有す
るアミノ酸配列を有する相同体ペプチドからなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、
前記相同体ペプチドは配列番号16~18のペプチドの何れか1種の機能的均等物である
、請求項26に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項29】
前記葉酸塩の類縁体は、5-メチルテトラヒドロ葉酸塩、5-ホルミルテトラヒドロ葉
酸塩、スルファニルアミド、メトトレキサート、及び5,10-メチレンテトラヒドロ葉
酸塩からなる群より選択される、請求項26に記載の複合体化合物またはその医薬的に許
容される塩。
【請求項30】
前記リンカーは、ペプチドリンカー、ジスルフィドリンカー、またはpH依存リンカー
である、請求項2~29の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容され
る塩。
【請求項31】
前記ペプチドリンカーは、プロテアーゼによる切断または還元により特定の生理学的環
境下で切断可能である、請求項30に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される
塩。
【請求項32】
前記ペプチドリンカーは、バリン-シトルリン、フェニルアラニン-リシン、及びバリ
ン-リシンからなる群より選択される、請求項30または31に記載の複合体化合物また
はその医薬的に許容される塩。
【請求項33】
前記ジスルフィドリンカーは、DMDS、MDS、DSDM、及びNDMDSからなる
群より選択される、請求項32に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項34】
前記pH依存リンカーはシス-アコニット酸無水物である、請求項30に記載の複合体
化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項35】
前記第一の細胞表面受容体、前記第二の細胞表面受容体、及び前記第三の細胞表面受容
体は独立して、トランスフェリン受容体(TFR)、低密度リポタンパク質受容体(LD
LR)、葉酸塩受容体(FR)、尿酸キナーゼ受容体、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)
、SST-14受容体、LHRH受容体、TRPV6受容体、及びプロテアーゼ表面抗原
受容体からなる群より選択される、請求項12~34の何れか一項に記載の複合体化合物
またはその医薬的に許容される塩。
【請求項36】
前記複合体化合物は以下の化合物:LDC10B、LDC10BR、LDC10BX、
LDC11B、LDC12B、LDC13B、LDC1013、LDC10H、LDC1
1H、LDC12H、及びLDC13Hからなる群より選択される、請求項1~35の何
れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項37】
ペイロード、第一のエンドサイトーシス分子、及び第二のエンドサイトーシス分子を含
み、前記第一のエンドサイトーシス分子は前記第二のエンドサイトーシス分子と同じであ
る、請求項1に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項38】
ペイロード、第一のエンドサイトーシス分子、及び第二のエンドサイトーシス分子を含
み、前記第一のエンドサイトーシス分子は前記第二のエンドサイトーシス分子と異なる、
請求項1に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項39】
前記第一のエンドサイトーシス分子は細胞貫通分子である、請求項38に記載の複合体
化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項40】
ペイロード、第一の細胞表面受容体に結合することができる第一の細胞相互作用分子、
及び第二の細胞表面受容体に結合することができる第二の細胞相互作用分子を含み、前記
第一の細胞相互作用分子は前記第二の細胞相互作用分子と同じである、請求項1に記載の
複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項41】
ペイロード、細胞表面受容体に特異的に結合するリガンド、及びエンドサイトーシス分
子を含む、請求項1に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。
【請求項42】
第三の細胞相互作用分子をさらに含み、前記第三の細胞相互作用分子はエンドサイトー
シス分子である、請求項37~41の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的
に許容される塩。
【請求項43】
請求項1~42の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩、
及び医薬的に許容される担体を含む医薬品組成物。
【請求項44】
静脈内投与、皮下投与、経口投与、筋肉内投与、または心室内投与される、請求項43
に記載の医薬品組成物。
【請求項45】
請求項1~42の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩、
あるいは請求項43または44に記載の医薬品組成物の治療有効量を必要とする対象に投
与することを含む、対象にペイロードを送達するための方法。
【請求項46】
請求項1~42の何れか一項に記載の複合体化合物またはその医薬的に許容される塩、
あるいは請求項43または44に記載の医薬品組成物の治療有効量を対象に投与すること
を含む、対象の病気を治療するための方法。
【請求項47】
前記病気は、癌、免疫疾患、心臓血管疾患、代謝疾患、及び神経疾患からなる群より選
択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記癌は、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎臓癌、白血病、卵巣癌、胃癌、子宮癌、子宮内膜
上皮性悪性腫瘍、肝臓癌、大腸癌、甲状腺癌、脾臓癌、結腸直腸癌、食道癌、皮膚癌、リ
ンパ腫、多発性骨髄腫からなる群より選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記免疫疾患は自己免疫疾患である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
前記自己免疫疾患は、結合組織疾患、全身性硬化、リウマチ性関節炎、及び全身性紅斑
性狼瘡からなる群より選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記心臓血管疾患は、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、心臓発作、高血圧性心疾患、リウマ
チ性心疾患、心筋症、心臓不整脈、及び先天性心疾患からなる群より選択される、請求項
47に記載の方法。
【請求項52】
前記代謝疾患は、糖尿病、痛風、肥満、低血糖症、高血糖症、及び脂質異常からなる群
より選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項53】
前記神経疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、頭部外傷、多
発性硬化症、めまい、昏睡、及びてんかんからなる群より選択される、請求項47に記載
の方法。
【請求項54】
前記方法は、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩、あるいは前記医薬品
組成物を1種以上の治療薬と組み合わせて投与することをさらに含む、請求項46~53
の何れか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記治療薬は、抗癌治療標的を標的とする、癌に対する免疫応答を誘発または促進する
、あるいは化学療法薬である、請求項54に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の参照
本願は、2015年8月11日に「エンドサイトーシスを誘導することができる「リガ
ンド-薬物複合体」という名称で提出された中国特許出願第201510489556.
6号、及び2015年8月11日に「エンドサイトーシスを誘導することができる多リガ
ンド-薬物複合体」という名称で提出された中国特許出願第201510489560.
2号の優先権を主張するものであり、それぞれ、その全内容を参照により本明細書に組み
込む。
【0002】
本願は、一般に、複合体化合物、医薬品組成物、及びその使用法に関する。より具体的に
は、本願は、多リガンド-薬物複合体(mLDC)、特にエンドサイトーシスを誘導する
ことができるmLDC、その医薬品組成物、ペイロード(payload=低分子薬剤のこと)
を必要とする対象に送達するのにmLDCを用いる方法、及び病気の治療にmLDCを用
いる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
通常、病気の細胞と正常細胞の病理学的及び生理学的特性は大きく異なり、その違いの一
つは、病気の細胞の表面には、特異的すなわち過剰発現した材料(例えば、抗原、化学信
号、受容体など)が存在することである。このような材料は正常細胞には存在しないか発
現していても少ない。この原理に基づき、抗体-薬物複合体(ADC)及びポリペプチド
-薬物複合体(PDC)が病気の治療のために開発された。現在、ADC及びPDC薬物
は市場に出ているものや臨床実験中のものもあるが、これら薬物の設計原理のため、臨床
ではADC及びPDCには多くの限定がある。
【0004】
近年、ADCは、2011年のアドセトリス(Seattle Genetics社)及び2013年のカ
ドサイラ(Genentech社)の認可により大きな足がかりを掴み、臨床試験では30種を超
える薬物について活発に研究開発が行われている分野である。にもかかわらず、ADC開
発は、好適な標的の欠如、製造上の障害、複雑な性質による低い薬物安定性、及びADC
の分子量の大きさに渡る多くの困難に直面している。現在、ADCは主に癌の治療に用い
られている。例えば、癌細胞表面の抗原に対する標的抗体の親和性は、10-9~10-12
(Kd、モル/リットル)である。従って、ADCは標的細胞に高い特異性を有する一方
で、標的細胞と同じ標的受容体を有する正常細胞に対しても高い特異性を有する。また、
生体内でADCが代謝するのに長い時間(1週間から3週間)かかることがある。その間
、ADCは正常細胞を殺し続け、これによりADCの毒性副作用が著しく大きくなる可能
性がある。従って、ADCのより理想的な適応症は腫瘍細胞と正常細胞で細胞表面の抗原
の量が大きく異なる病気である。しかしながら、当該分野で周知の病気でこのような厳密
な要件を満たす物はほとんど存在しない。
【0005】
薬物複合体化合物の別の群はリガンド-薬物複合体(LDC)(ここで、リガンドはペプ
チドまたは小分子の何れかである)である。しかしながら、LDCの応用には、生物学的
利用能、安定性、有効性などに渡る毒性に対する様々な問題がある。例えば、多くのリガ
ンドはその大きな分子量、親油性、あるいは他の属性により細胞内に入ることができず、
その治療用途が限定される。また、その治療効果は、リガンドが従来の化学療法(例えば
、ドキソルビシン、パクリタキセルなど)と組み合わせる場合は一般に低く、有効性の高
い薬物分子(例えば、MMAE、DM1など)と組み合わせる場合はその毒性が高く、腫
瘍治療のための治療有効量に達する前に動物が中毒死してしまう。
【発明の概要】
【0006】
本願は、複合体化合物またはこれらの医薬的に許容される塩、これら複合体化合物の医薬
品組成物、及びこれら複合体化合物を使用する方法に関する。本願は、より具体的には、
多リガンド-薬物複合体(mLDC)、特にエンドサイトーシスを誘導することができる
mLDC、これらの医薬品組成物、必要とする対象にペイロードを送達するのにこれらm
LDCを用いる方法、及び病気の治療にこれらmLDCを用いる方法に関する。上記の病
気は、癌、免疫疾患、心臓血管疾患、代謝疾患、及び神経疾患が挙げられるが、これらに
限定されない。
【0007】
本願の一側面は、1種のペイロード及び2種以上の細胞相互作用分子を含む複合体化合物
またはその医薬的に許容される塩を開示する。上記ペイロードは、前記細胞相互作用分子
のうちの少なくとも1種と結合されている。
【0008】
態様によっては、前記ペイロードは、前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種に直
接結合されている。態様によっては、前記ペイロードは、前記細胞相互作用分子のうちの
少なくとも1種に間接的に結合されている。態様によっては、前記ペイロードは、リンカ
ーを介して前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種に結合されている。態様によっ
ては、前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種は、細胞表面受容体に結合すること
ができるリガンドである。態様によっては、前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも2
種は、細胞表面受容体に結合することができるリガンドである。
【0009】
態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、第一の細胞表面
受容体に特異的に結合することができる第一のリガンド、及び第二の細胞表面受容体に特
異的に結合することができる第二のリガンドを含む。態様によっては、前記複合体化合物
またはその医薬的に許容される塩は、第一の細胞表面受容体に特異的に結合することがで
きる第一のリガンド、及び第二の細胞表面受容体に特異的に結合することができる第二の
リガンドを含み、前記第一の細胞表面受容体及び前記第二の細胞表面受容体は互いに異な
る。
【0010】
態様によっては、前記ペイロードは、第一のリガンドに結合し、前記第一のリガンドは前
記第二のリガンドに結合されている。態様によっては、前記第一のリガンドは、前記第二
のリガンドに直接結合されている。態様によっては、前記第一のリガンドは、前記第二の
リガンドに間接的に結合されている。態様によっては、前記第一のリガンドは、スペーサ
ーを介して前記第二のリガンドに結合されている。
【0011】
態様によっては、前記ペイロードは、リンカーなしで第一のリガンド及び第二のリガンド
のそれぞれと直接結合されている。態様によっては、前記ペイロードは、第一のリンカー
を介して第一のリガンドに結合され、第二のリンカーを介して第二のリガンドに結合され
ている。態様によっては、前記第一のリンカー及び前記第二のリンカーは同じである。他
の態様によっては、前記第一のリンカー及び前記第二のリンカーは異なる。態様によって
は、前記ペイロードは、リンカーなしで第一のリガンドに直接結合され、リンカーを介し
て第二のリガンドに結合されている。
【0012】
態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、第三の細胞表面
受容体に特異的に結合することができる第三のリガンドをさらに含む。態様によっては、
前記第一の細胞表面受容体、前記第二の細胞表面受容体、及び前記第三の細胞表面受容体
は互いに異なる。態様によっては、前記第一の細胞表面受容体、前記第二の細胞表面受容
体、及び前記第三の細胞表面受容体のうち、少なくとも2種は互いに異なる。態様によっ
ては、前記第一のリガンド、前記第二のリガンド、及び前記第三のリガンドは同じである
【0013】
態様によっては、本明細書で提供される第一、第二、及び第三の細胞表面受容体は、独立
して、トランスフェリン受容体(TFR)、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)、
葉酸塩受容体(FR)、尿酸キナーゼ受容体、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、インテ
グリン受容体LFA-1、ソマトスタチンSST-14受容体、黄体形成ホルモン放出ホ
ルモン(LHRH)受容体、TRPV6受容体、及びプロテアーゼ表面抗原受容体からな
る群より選択される。
【0014】
態様によっては、前記第一のリガンド、前記第二のリガンド、及び前記第三のリガンドは
、独立して、ペプチド、葉酸塩、及びこれらの類縁体からなる群より選択される。
【0015】
態様によっては、前記リガンドは、以下のアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ
酸配列を有するペプチドを含む:Cys-Lys-Glu-Phe-Leu-His-Pro-Ser-Lys-Val-Asp-Leu-Pr
o-Arg(配列番号15、名称P10)、Glu-His-Trp-Ser-Tyr-Gly-Leu-Arg-Pro-Gly-Cys(
配列番号16、名称P11)、Ala-Gly-[Cys-Lys-Asn-Phe-Phe-Trp-Lys-Thr-Phe-Thr-Ser
-Cys](配列番号17、名称P12)、Glu-His-Trp-Ser-Tyr-D-Lys-Leu-Arg-Pro-Gly-Cys
(配列番号18、名称P13)、Arg-Gly-Asp(名称RGD)、及び配列番号15~18のア
ミノ酸配列の何れかと少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なく
とも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94
%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少な
くとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する相同体ペプチド。前記相同体ペプチ
ドは、それぞれ、配列番号15~18のペプチドと機能的等価物である。
【0016】
態様によっては、本明細書で記載する細胞相互作用分子の少なくとも1種は、エンドサイ
トーシスを仲介することができるエンドサイトーシス分子である。態様によっては、前記
エンドサイトーシス分子は、また、細胞表面受容体に特異的に結合することもできる。
【0017】
態様によっては、前記エンドサイトーシス分子は、葉酸塩及びそれらの類縁体、エンドサ
イトーシスを仲介することができるペプチド、及び細胞貫通ペプチドからなる群より選択
される。
【0018】
態様によっては、本明細書で提供されるリンカーは、ペプチドリンカー、ジスルフィドリ
ンカー、またはpH依存リンカーである。
【0019】
態様によっては、前記ペプチドリンカーは、プロテアーゼによる切断または還元により特
定の生理学的環境下で切断可能である。態様によっては、前記ペプチドリンカーは、バリ
ン-シトルリン、フェニルアラニン-リシン、及びバリン-リシンからなる群より選択さ
れる。
【0020】
態様によっては、前記ジスルフィドリンカーは、DMDS、MDS、DSDM、及びND
MDSからなる群より選択される。
【0021】
態様によっては、前記pH依存リンカーは、シス-アコニット酸無水物である。
【0022】
態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、少なくとも1種
のペイロードを含む。態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される
塩は、1種、2種、3種、または4種以上のペイロードを含む。
【0023】
態様によっては、前記ペイロードは、小分子化合物、ヌクレオチド、ペプチド、タンパク
質、及びナノ粒子からなる群より選択される。態様によっては、前記ペイロードは、小分
子化合物である。態様によっては、前記ペイロードは、治療薬である。
【0024】
態様によっては、前記複合体化合物は、ペイロード、2種または3種以上のリガンド、及
び任意でリンカーまたはスペーサーを含む、多リガンド複合体化合物である。態様によっ
ては、前記複合体化合物は、ペイロード、2種のリガンド、及び任意でリンカーまたはス
ペーサーを含む、二リガンド複合体化合物である。態様によっては、前記複合体化合物は
、ペイロード、3種のリガンド、及び任意でリンカーまたはスペーサーを含む、三リガン
ド複合体化合物である。態様によっては、前記複合体化合物は、本明細書の図1に示され
る以下の化合物からなる群より選択される:LDC10B、LDC10BR、LDC10
BX、LDC11B、LDC12B、LDC13B、LDC1013、LDC10H、L
DC11H、及びLDC12H。
【0025】
本願の他の側面は、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容される塩
、及び医薬的に許容される担体を含む医薬品組成物を開示する。態様によっては、前記医
薬品組成物は、静脈内投与、皮下投与、経口投与、筋肉内投与、非経口投与、または心室
内投与される。
【0026】
本願の他の側面は、治療有効量の本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に
許容される塩、あるいは本明細書で提供される医薬品組成物対象に投与することを含む、
必要とする対象にペイロードを送達するための方法を開示する。
【0027】
本願の他の側面は、治療有効量の本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に
許容される塩、あるいは本明細書で提供される医薬品組成物を対象に投与することを含む
、対象の病気を治療するための方法を開示する。態様によっては、前記病気は癌、免疫疾
患、心臓血管疾患、代謝疾患、及び神経疾患からなる群より選択される。
【0028】
態様によっては、前記癌は、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、子宮癌、子
宮内膜上皮性悪性腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、大腸癌、結腸直腸癌、食道癌、皮膚
癌、リンパ腫、白血病、及び多発性骨髄腫からなる群より選択される。
【0029】
態様によっては、前記免疫疾患は自己免疫疾患である。態様によっては、前記自己免疫疾
患は、結合組織疾患、全身性硬化、リウマチ性関節炎、及び全身性紅斑性狼瘡からなる群
より選択される。
【0030】
態様によっては、前記心臓血管疾患は、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、心臓発作、高血圧性
心疾患、リウマチ性心疾患、心筋症、心臓不整脈、及び先天性心疾患からなる群より選択
される。
【0031】
態様によっては、前記代謝疾患は、糖尿病、痛風、肥満、低血糖症、高血糖症、及び脂質
異常からなる群より選択される。
【0032】
態様によっては、前記神経疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病
、頭部外傷、多発性硬化症、めまい、昏睡、及びてんかんからなる群より選択される。
【0033】
態様によっては、本明細書で提供される方法は、本明細書で提供される複合体化合物また
はその医薬的に許容される塩、あるいは本明細書で提供される医薬品組成物と組み合わせ
て1種以上の治療薬を投与することをさらに含む。態様によっては、前記治療薬は、抗癌
治療標的を標的する、癌に対する免疫応答を誘導または促進する、あるいは化学療法薬で
ある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、LDC10B、LDC10BR、LDC10BX、LDC11B、LDC12B、LDC13B、LDC1013、LDC10H、LDC11H、及びLDC12Hの構造を示す。
図2図2はLDC10Bのエンドサイトーシス試験の結果を示す。パネルA及びBは、葉酸塩-FITCがKB細胞(葉酸塩受容体陽性細胞)に入るが、A375細胞(葉酸塩受容体陰性細胞)には入らないことを示す。パネルC及びDは、10A-FITCがKB細胞にもA375細胞にも入ることができないことを示す。パネルE及びFは、二リガンド複合体10B-FITCがKB細胞には入るが、A375細胞には入らないことを示す。
図3図3は、葉酸塩-FITC、10A-FITC、及び10B-FITCの構造を示す。
図4図4は、腫瘍部位に集中する蛍光標識LDC10B-Cy5を示す、生きたマウスの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
様々な側面及び態様が本明細書で開示されるが、当業者であれば自明の通り、本願の主題
の精神及び範囲を逸脱することなく、これら側面及び態様に対して様々な等価の変形及び
修正を行うことができる。本明細書で開示される様々な側面及び態様は、例示目的のみで
あり、添付の請求項に示される真の範囲を限定すると解釈されるべきではない。本明細書
で引用したすべての文献、特許、または特許出願は、その全内容を参照により組み込む。
特に定義しなければ、本明細書で用いられる技術用語及び科学用語は、本願が属する分野
の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を持つ。
【0036】
本明細書及び添付の請求項で用いられる単数形「a」、「an」、及び「the」は、文
脈が明らかにそうでないことを示していなければ、複数形を含む。本明細書では、用語「
a」(または「an」)、「1つ以上」、及び「少なくとも1つ」は互いに言い換え可能
である。また、用語「含む」、「備える」、及び「有する」も互いに言い換え可能である
【0037】
本願の一側面は、1種のペイロード及び2種以上の細胞相互作用分子を含み、前記ペイロ
ードは前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種に結合されている、複合体化合物ま
たはその医薬的に許容される塩を開示する。
【0038】
本明細書で用いられる用語「ペイロード」は標的細胞または組織に送達される分子または
材料を指す。ペイロードは特に限定されず、対象の病気の診断、治療、または予防に用い
ることを意図される任意の医薬品化合物であってもよい。
【0039】
態様によっては、前記ペイロードは、小分子化合物、ヌクレオチド(例えば、DNA、プ
ラスミドDNA、RNA、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマーな
ど)、ペプチド、タンパク質(例えば、酵素)、またはナノ粒子である。態様によっては
、前記ペイロードは、小分子化合物である。態様によっては、前記小分子化合物は、メイ
タンシン及びその任意の誘導体、タキシノール及びその任意の誘導体、オーリスタチン及
びその任意の誘導体、エポチロン及びその任意の誘導体、ブレオマイシン及びその任意の
誘導体、ダクチノマイシン及びその任意の誘導体、プリカマイシン及びその任意の誘導体
、及びマイトマイシンCからなる群より選択される。態様によっては、前記ペイロードは
、オーリスタチンまたはその任意の誘導体である。態様によっては、前記医薬品化合物は
、癌を緩和または治療するのに用いられる化学療法薬である。
【0040】
態様によっては、本明細書で開示される前記複合体化合物またはその医薬的に許容される
塩は、1種のペイロードを含む。態様によっては、本明細書で開示される前記複合体化合
物またはその医薬的に許容される塩は、少なくとも1種のペイロードを含む。例えば、前
記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、1種、2種、3種、4種、5種、6
種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、14種、15種、16種、1
7種、18種、19種、または20種以上のペイロードを含む。複数のペイロードを含む
複合体分子では、これらペイロードはそれぞれ、同じであってもよく、互いに異なってい
てもよい。態様によっては、前記ペイロードのうちの少なくとも2種は互いに異なる。
【0041】
本明細書で用いられる用語「細胞相互作用分子」は、標的細胞またはその標的細胞の細胞
表面受容体と相互作用して、細胞相互作用分子を含む複合体分子の標的細胞への特異的結
合、標的細胞による複合体分子のエンドサイトーシス、及び/またはそうでなければ複合
体分子の標的細胞による特異的な会合及び保持を生じさせることを誘導するあるいは容易
にすることができる任意の分子または部位を指す。
【0042】
細胞相互作用分子は小さな化学分子あるいは大きな生体分子であってもよい。態様によっ
ては、細胞相互作用分子は、抗体、リガンド、またはエンドサイトーシス分子である。態
様によっては、前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種は、細胞表面受容体に結合
することができるリガンドである。態様によっては、前記細胞相互作用分子のうちの少な
くとも1種はエンドサイトーシスを仲介することができるエンドサイトーシス分子である
【0043】
本明細書で開示されるリガンドは、選択された標的(例えば、細胞表面受容体、細胞、組
織、器官など)に対する特異的結合親和性を有する可能性がある様々な化学的あるいは生
物学的実体を含む。態様によっては、リガンドは標的細胞の表面に発現したタンパク質す
なわちマーカーに特異的に結合してもよい。態様によっては、本願のリガンドは10-6
10-9(Kd値)の親和性を有する細胞表面受容体に結合する。態様によっては、リガン
ドは少なくとも10-7、少なくとも10-8、少なくとも10-9M(Kd値)の親和性を有
する細胞表面受容体に結合する。態様によっては、本願のリガンドは標的細胞表面受容体
に対する親和性が他の標的でない細胞表面タンパク質すなわちマーカーに対する親和性の
少なくとも2倍、3倍、4倍以上である細胞表面受容体に結合する。
【0044】
態様によっては、本願の2種以上の細胞相互作用分子は、異なる細胞表面受容体に特異的
に結合することができる2種以上のリガンドである。態様によっては、本願の複合体化合
物またはその医薬的に許容される塩は2種のリガンドを含み、第一のリガンドは第一の細
胞表面受容体に特異的に結合することができ、第二のリガンドは第二の細胞表面受容体に
特異的に結合することができる。態様によっては、前記複合体分子は2種のリガンドを含
み、第一のリガンドは葉酸塩受容体に特異的に結合することができ、第二のリガンドは黄
体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)受容体に特異的に結合することができる。態様
によっては、前記複合体分子は3種のリガンドを含み、第一のリガンドは葉酸塩受容体に
特異的に結合することができ、第二のリガンドはLHRH受容体に特異的に結合すること
ができ、第三のリガンドはSST-14受容体に特異的に結合することができる。
【0045】
態様によっては、本明細書で開示される複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は
、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種
、14種、15種、16種、17種、18種、19種、または20種以上の細胞相互作用
分子を含む。一複合体分子では、各細胞相互作用分子は同じであってもよく、あるいは互
いに異なっていてもよい。態様によっては、前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも2
種は互いに異なる。態様によっては、前記細胞相互作用分子のそれぞれが互いに異なる。
【0046】
態様によっては、本明細書で提供される複合体分子は、複数の細胞相互作用分子に結合し
た単一のペイロードのみを含む。態様によっては、本明細書で提供される一複合体分子は
、複数の細胞相互作用分子に結合した複数のペイロードを含む。
【0047】
本明細書で用いられる用語「結合する(conjugated)」は、2つの化学基の共有結合によ
る結合を指し、それら2つの化学基は直接、共有結合しているか、あるいはリンカーを介
して間接的に結合しているかの何れかである。
【0048】
態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、1種のペイロー
ド及び2種以上の細胞相互作用分子を含み、前記ペイロードは、前記細胞相互作用分子の
うちの少なくとも1種と直接、共有結合する。態様によっては、前記ペイロードは、前記
細胞相互作用分子のそれぞれと直接、共有結合している。
【0049】
態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、1種のペイロー
ド及び2種以上の細胞相互作用分子を含み、前記ペイロードは、リンカーを介して前記細
胞相互作用分子のうちの少なくとも1種と共有結合している。態様によっては、前記ペイ
ロードは、前記細胞相互作用分子のそれぞれとリンカーを介して共有結合している。
【0050】
本明細書で用いられる用語「リンカー」は、ペイロードを細胞相互作用分子に共有結合さ
せる分子または部位を指す。リンカーは、ペイロードと細胞相互作用分子のうちの少なく
とも1種と結合する官能基を含む。態様によっては、官能基は、2つの反応性部位、すな
わち、ペイロードに結合する部位と細胞相互作用分子に結合する部位を含んでいてもよい
。態様によっては、これら官能基は互いに異なっている。態様によっては、官能基は、チ
オール反応部位及びアミン反応部位を含む基を含む。態様によっては、これらの官能基は
互いに同じである。態様によっては、これら官能基はマレイミド基である。
【0051】
態様によっては、本願のリンカーは、少なくとも1種(例えば、1種、2種、3種、4種
、5種、6種、7種、8種、9種、または10種以上)のペイロードと少なくとも2種(
例えば、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、または10種以上)の細胞
相互作用分子に結合することができる多価リンカーである。多価リンカーに結合するペイ
ロードは、同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。多価リンカーに結合する
細胞相互作用分子は同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0052】
一側面では、リンカーは、標的細胞または組織へのペイロードの有効量を高め、毒性を回
避するため、血液循環時のペイロードの意図しない放出を回避するのに十分な程度安定で
なければならない。他の側面では、リンカーは、効率的に標的細胞を殺す、あるいは標的
細胞の機能を阻止するため、標的細胞付近あるいは標的細胞内でペイロードを放出するこ
とができなければならない。態様によっては、リンカーは少なくとも1種の切断可能な官
能基を含む。好ましいのは、切断可能な官能基は、標的細胞外では十分に安定であるが、
標的細胞内に入ると切断されてペイロードを放出する。態様によっては、この切断可能な
官能基は、対象の血液または血清中に比べて標的細胞内で少なくとも10倍、20倍、3
0倍、50倍、または100倍以上効率的に切断される。
【0053】
切断可能なリンカーは、加水分解、酵素反応、または還元反応、あるいはpHの変化によ
り切断されてもよい。態様によっては、リンカーは、特定の生理学的環境下、例えば、適
切なpH環境下で切断可能である。態様によっては、リンカーは、pHが約6.5以下の
酸性環境で、あるいは一般酸として作用することができる酵素などの薬剤により切断可能
である。態様によっては、リンカーは、切断剤、例えば、pH、酸化還元電位、または分
解性分子の存在の影響を受けやすい。
【0054】
態様によっては、リンカーは切断不能である。本明細書で用いられる切断不能リンカーは
、細胞内代謝時にそのまま残っているリンカーを言う。
【0055】
態様によっては、リンカーは、ペプチド結合で結合したアミノ酸の線状または分岐状の分
子鎖からなるペプチドリンカーである。態様によっては、ペプチドリンカーは、標的細胞
の周囲あるいは標的細胞中に多く、すなわち特異的に発現しているプロテアーゼ(例えば
、リソソームまたはエンドソーム中のカテプシンB)により切断可能である。本明細書で
用いられるペプチドリンカーは、様々な長さを有していてもよい。典型的には、本願のペ
プチドリンカーの長さは1~50アミノ酸である。態様によっては、ペプチドリンカーの
長さは、アミノ酸が2~45個、2~40個、2~35個、2~30個、2~25個、2
~20個、2~15個、2~10個、2~9個、2~8個、2~7個、2~6個、2~5
個、2~4個、または2~3個である。本明細書で記載するペプチドリンカーのアミノ酸
の数は、範囲の両端を含む上記数値範囲内の任意の整数値と同じであってもよい。態様に
よっては、ペプチドリンカーの長さは、アミノ酸2個、3個、4個、または5個であるこ
とが好ましい。態様によっては、ペプチドリンカーは、バリン-シトルリン(Val-C
it)、フェニルアラニン-リシン、またはバリン-リシンである。
【0056】
態様によっては、リンカーは、ジスルフィド結合を含むジスルフィドリンカーである。ジ
スルフィド結合は細胞内還元環境下で切断されてもよく、循環系では安定したままである
。本願のジスルフィドリンカーは、DSDM、DMDS、MDS、またはNDMDSであ
ってもよい。これらジスルフィドリンカーの構造を以下の表1に示す。
【表1】
【0057】
態様によっては、リンカーはpH依存リンカーである。本明細書で記載するpH依存リン
カーは、特定のpH環境で切断可能であってもよい。態様によっては、pH依存リンカー
は、アルカリ性条件で安定であってもよく、酸性条件、例えば、pH値が6.5以下では
切断可能である。態様によっては、pH依存リンカーはシス-アコニット酸無水物である
【0058】
態様によっては、本願のリンカーは、上記のリンカーの何れか1種またはそれらの任意の
組み合わせを含む。態様によっては、本願のリンカーは、リンカーの部分としてスペーサ
ーを含んでいてもよい。
【0059】
態様によっては、前記ペイロードは、第一の細胞相互作用分子に直接または間接的に結合
され、第一の細胞相互作用分子は、第二の細胞相互作用分子に直接または間接的に結合さ
れている。態様によっては、前記ペイロードは、第一の細胞相互作用分子及び第二の細胞
相互作用分子のそれぞれに直接、結合されている。態様によっては、前記ペイロードは、
第一の細胞相互作用分子及び第二の細胞相互作用分子のそれぞれに間接的に結合されてい
る。態様によっては、前記ペイロードは、第一の細胞相互作用分子に間接的に(例えばリ
ンカーを介して)結合され、第一の細胞相互作用分子は第二の細胞相互作用分子に直接ま
たは間接的に結合されている。態様によっては、前記ペイロードは、第一の細胞相互作用
分子に第一のリンカーを介して結合され、第二の細胞相互作用分子に第二のリンカーを介
して結合されている。態様によっては、前記リンカーは、少なくとも1種(例えば、1種
、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、または10種以上)のペイロード
、及び少なくとも2種(例えば、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、ま
たは10種以上)のリガンドと結合する多価リンカーである。多価リンカーを、複数のペ
イロード及び複数の細胞相互作用分子を含む複合体分子を調製するのに用いてもよい。
【0060】
態様によっては、2種の細胞相互作用分子は、スペーサーを介して互いに結合してもよい
。態様によっては、1種以上のスペーサーを用いて2種、3種、4種、5種、6種、7種
、8種、9種、または10種以上の細胞相互作用分子を結合させる。態様によっては、ス
ペーサーは、標的細胞によって特異的に発現されている、あるいは標的細胞によって発現
されるように誘導されるプロテアーゼにより切断可能である。このようなプロテアーゼと
しては、例えば、以下の表2に示すプロテアーゼが挙げられる。態様によっては、スペー
サーは、以下の表2に示すアミノ酸配列から選択される何れか1種のアミノ酸配列を含む

【表2】
【0061】
本明細書で用いられる用語「切断可能」または「切断する」は、本明細書で提供される複
合体化合物に対する代謝性過程または反応過程を指し、ペイロードと細胞相互作用分子の
リンカー、または細胞相互作用分子間のスペーサーが分解されて、遊離ペイロードまたは
細胞相互作用分子を放出する。リンカー及びスペーサーは、プロテアーゼにより切断され
る、あるいは特定の生理学的環境(例えば、pH環境)下で切断されるかの何れかである
【0062】
態様によっては、本明細書で記載する複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、
3種のリガンドと結合されているペイロードを含み、第一のリガンドは、第一の細胞受容
体に特異的に結合することができ、第二のリガンドは第二の細胞受容体に特異的に結合す
ることができ、第三のリガンドは第三の細胞表面受容体に特異的に結合することができる
【0063】
態様によっては、第三のリガンドは、第一のリガンドに直接または間接的に(例えば、ス
ペーサーを介して)結合されている。態様によっては、第三のリガンドは、ペイロードに
直接または間接的に(例えば、リンカーを介して)結合されている。態様によっては、第
一のリガンドは、第二のリガンドに直接または間接的に(例えば、スペーサーを介して)
結合され、第二のリガンドは第三のリガンドに直接または間接的に(例えば、スペーサー
を介して)結合されている。
【0064】
態様によっては、第一の細胞表面受容体、第二の細胞表面受容体、及び第三の細胞表面受
容体は、構造または機能が互いに異なる。態様によっては、前記第一の細胞表面受容体、
前記第二の細胞表面受容体、及び前記第三の細胞表面受容体のうち、少なくとも2種は構
造または機能が互いに異なる。態様によっては、前記第一のリガンド、前記第二のリガン
ド、及び前記第三のリガンドは同じである。
【0065】
態様によっては、複合体分子は、以下に示される式I、II、III、IV、V、VI、
VII、VIII、IX、またはXの構造を有する(ここで、n、m、p、q、r、及び
sは独立して0または1であり、リンカー及びスペーサーが独立して存在するか否かを表
す)。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0066】
好ましい態様では、細胞表面受容体の発現は、正常細胞よりも標的細胞(例えば、癌細胞
)で有意に多い。本明細書で用いられる用語「有意に」は、統計的に有意な差、当業者が
認識することができる有意な差を指す。
【0067】
態様によっては、細胞表面受容体の発現量は、正常細胞に比べて標的細胞(例えば、癌細
胞)で2~1,000,000倍多く、例えば、正常細胞に比べて標的細胞(例えば、癌
細胞)では2~10倍、2~100倍、2~1,000倍、2~10,000倍、2~1
00,000倍、2~1,000,000倍多い(範囲の両端を含む上記の数値範囲内の
任意の値と同じであってもよい)。態様によっては、細胞表面受容体の発現量は、正常細
胞に比べて標的細胞(例えば、癌細胞)では少なくとも10倍、100倍、1,000倍
、10,000倍、または100,000倍多い。態様によっては、正常細胞上の細胞表
面受容体の量は、標的細胞(例えば、癌細胞)上の細胞表面受容体の量に比べて少なくと
も50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%少ない。態様によっ
ては、本明細書で記載する細胞表面受容体は、正常細胞では検出されない。
【0068】
態様によっては、第一、第二、及び第三の細胞表面受容体は、独立して、トランスフェリ
ン受容体(TFR)、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)、葉酸塩受容体(FR)
、尿酸キナーゼ受容体、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、インテグリン受容体LFA-
1、SST-14受容体、LHRH受容体、TRPV6受容体、及びプロテアーゼ表面抗
原受容体からなる群より選択される。
【0069】
態様によっては、第一のリガンド、第二のリガンド、及び第三のリガンドは同じである。
態様によっては、第一のリガンド、第二のリガンド、及び第三のリガンドのうち、少なく
とも2種は互いに異なる。態様によっては、第一のリガンド、第二のリガンド、及び第三
のリガンドは、同じ細胞表面受容体に特異的に結合することができる。態様によっては、
第一のリガンド、第二のリガンド、及び第三のリガンドは、異なる細胞表面受容体に特異
的に結合することができる。態様によっては、第一のリガンド、第二のリガンド、及び第
三のリガンドのそれぞれは、2種以上の異なる細胞表面受容体に結合することができる。
【0070】
態様によっては、第一のリガンド、第二のリガンド、及び第三のリガンドは独立して、葉
酸塩及びそれらの類縁体、及びペプチドからなる群より選択される。態様によっては、第
一のリガンド、第二のリガンド、及び第三のリガンドは独立して、葉酸塩及びそれらの類
縁体であり、前記リガンドの少なくとも2種は互いに異なる。態様によっては、葉酸塩の
類縁体は、5-メチルテトラヒドロ葉酸塩、5-ホルミルテトラヒドロ葉酸塩、スルファ
ニルアミド、メトトレキサート、及び5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸塩からなる群
より選択される。
【0071】
態様によっては、第一のリガンド、第二のリガンド、及び第三のリガンドは独立してペプ
チドである。態様によっては、前記ペプチドは、配列番号15、配列番号16、配列番号
17、配列番号18、RGD、及び配列番号15~18のアミノ酸配列の何れかと少なく
とも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91
%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少な
くとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の相同性を有す
るアミノ酸配列を有する相同体ペプチドからなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、
前記相同体ペプチドは、配列番号15~18のペプチドと機能的均等物である。
【0072】
本明細書で用いられる用語「~とのパーセント(%)相同性」は、アミノ酸配列の場合は
最大数の同一アミノ酸を達成するために候補と基準配列を並べ、任意でギャップを導入し
た後の2つのアミノ酸配列の同一性の百分率を指し、ヌクレオチド配列の場合は最大数の
同一ヌクレオチドを達成するために候補と基準配列を並べ、任意でギャップを導入した後
の2つのヌクレオチド配列間の同一性の百分率を指す。
【0073】
相同性の百分率は、当該分野でよく知られた様々な方法で決定してもよい。例えば、配列
は、以下の公開ツールで比較してもよい:BLASTpソフトウェア(National Center f
or Biotechnology Information (NCBI)のウエブサイトhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/B
last.cgiから入手可能。また、次を参照のこと。Altschul S.F.et al., J. Mol. Biol.,
215:403-410 (1990); Stephen F. et al, Nucleic Acids Res., 25:3389-3402 (1997)),
ClustalW2 (available from the website of European Bioinformatics Institute: http
://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/, また次を参照のこと:Higgins D.G. et al.,
Methods in Enzymology, 266:383-402 (1996); Larkin M.A. et al., Bioinformatics (O
xford, England), 23(21): 2947-8 (2007))、及びTcoffee (Sweden Bioinformatics Inst
ituteのウエブサイトから入手可能。また、次を参照のこと:Poirot O.et al., Nucleic
Acids Res., 31(13): 3503-6 (2003); Notredame C. et al., J. Mol. Boil., 302(1): 2
05-17 (2000))。ソフトウェアを用いてこれらの配列のアライメントを行う場合、そのソ
フトウェアで利用可能な設定値のパラメータを用いてもよく、あるいはそれらパラメータ
をアライメントの目的に合うように変更してもよい。これらのすべては、当業者の知識の
範囲内である。
【0074】
本明細書に用いられる用語「機能的均等物」は、誘導体ペプチドが由来する元のペプチド
配列の生物学的活性と実質的に同じである生物学的活性を保持する誘導体ペプチドを指す
。機能的均等物は天然の誘導体であってもよく、あるいは合成で調製される。機能的均等
物としては、例えば、ペプチドの生物学的活性が保存されているという条件で1種以上の
アミノ酸の置換、欠失、または付加を有するアミノ酸配列が挙げられる。置換するアミノ
酸は、置換されたアミノ酸の物理化学特性に類似した物理化学特性を有することが望まし
い。望ましい類似した物理化学特性としては、電荷、嵩高さ、疎水性、親水性などの類似
性が挙げられる。
【0075】
態様によっては、前記機能的均等物は、アミノ酸残基の保存的置換を含む。アミノ酸残基
の保存的置換は、類似特性を有するアミノ酸同士の置換を指し、例えば、極性アミノ酸同
士の置換(例えば、グルタミンとアスパラギンの置換)、疎水性アミノ酸同士の置換(例
えば、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、及びバリン間の置換)、同じ電荷を有する
アミノ酸同士の置換(例えば、アルギニン、リシン、及びヒスチジン間の置換あるいはグ
ルタミン酸とアスパラギン酸の置換)が挙げられる。
【0076】
態様によっては、前記複合体化合物またはその医薬的に許容される塩の細胞相互作用分子
のうちの少なくとも1種は、エンドサイトーシスを仲介することができるエンドサイトー
シス分子である。
【0077】
本明細書で用いられる用語「エンドサイトーシス分子」は、標的細胞と相互作用した後に
、本明細書で開示される複合体化合物またはその医薬的に許容される塩の標的細胞へのエ
ンドサイトーシス、内部移行、すなわち取り込みを仲介することができる分子を指す。
【0078】
態様によっては、エンドサイトーシス分子は、葉酸塩及びそれらの類縁体、エンドサイト
ーシスを仲介することができるペプチド、及び細胞貫通ペプチドからなる群より選択され
る。
【0079】
態様によっては、エンドサイトーシス分子は、細胞表面受容体にも特異的に結合すること
ができる。態様によっては、本明細書で提供されるエンドサイトーシス分子は、葉酸塩及
びそれらの類縁体である。態様によっては、葉酸塩の類縁体は、5-メチルテトラヒドロ
葉酸塩、5-ホルミルテトラヒドロ葉酸塩、スルファニルアミド、メトトレキサート、及
び5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸塩からなる群より選択される。
【0080】
葉酸塩は、その小分子重量、免疫原性がないこと、及び高い安定性から、他の基と化学結
合を形成するのに有用である。細胞の葉酸塩取り込みを仲介するために、葉酸塩は高い親
和性を有する細胞表面で発現している葉酸塩受容体と会合してもよい。葉酸塩受容体は、
大部分の正常細胞では非常に少ない量で発現するが、低葉酸塩条件で急速に細胞を分裂さ
せるという葉酸塩の高い要求を満たすために多数の癌細胞では大量に発現している(Kele
men LE, Int J Cancer, 2006; 119: 243-50; Kane MA, et al., J Clin Invest. 1988; 8
1: 1398-406; Matsue H, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1992; 89: 6006-9; Zhao R,
et al., Annu Rev Nutr. 2011; 31: 177-201を参照のこと)。葉酸塩は、細胞表面上の
葉酸塩受容体に特異的に結合することができ、また、前記複合体化合物またはその医薬的
に許容される塩の標的細胞へのエンドサイトーシスを仲介することができるエンドサイト
ーシス分子でもある。
【0081】
態様によっては、エンドサイトーシス分子は、エンドサイトーシスを仲介することができ
るペプチドである。態様によっては、エンドサイトーシス分子は、さらに、細胞表面受容
体に特異的に結合することができる。態様によっては、エンドサイトーシスを仲介するこ
とができるペプチドは、配列番号16、配列番号17、配列番号18、RGD、及び配列
番号16~18の何れかのアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93
%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少な
くとも98%、少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有する相同体ペプチド
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、前記相同体ペプチドはそれぞれ、配列番
号16~18のペプチドの機能的均等物である。
【0082】
態様によっては、エンドサイトーシス分子は細胞貫通ペプチドである。細胞貫通ペプチド
(CPP)は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)としても知られている、受容体か
ら独立したやり方で細胞内部に入ることができる短いペプチド(一般に、40個未満のア
ミノ酸)である。細胞貫通ペプチドがペイロードに結合されていると、ペイロードが膜を
通る輸送を仲介することができ、タンパク質形質導入の活性を有する。態様によっては、
本明細書で記載する細胞貫通ペプチドは、腫瘍吸収性ペプチド、ミトコンドリア貫通ペプ
チド、活性化可能な細胞貫通ペプチド、及び抗菌性ペプチドからなる群より選択される。
態様によっては、細胞貫通ペプチドは、配列番号19(RRRRRRRRR、名称R9)及び配列
番号20(GRKKRRQRRRPPQ、Tatペプチド、すなわち転写タンパク質のHIV転写活性
化因子の細胞貫通ペプチドである)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0083】
態様によっては、本明細書で記載するエンドサイトーシスを仲介することができるペプチ
ドは、配列番号16~20の配列及びRGDに比べて1つのアミノ酸部位にのみアミノ酸
の保存的置換を有する。態様によっては、本明細書で記載するエンドサイトーシスを仲介
することができるペプチドは、配列番号16~20の配列と比べて、2個、3個、4個、
5個、6個、7個、8個、9個、または10個のアミノ酸部位にアミノ酸の保存的置換を
有する。
【0084】
本明細書で記載するエンドサイトーシスを仲介することができるペプチドは、その生物学
的活性に影響を及ぼさないという前提条件で、人工のアミノ酸を含んでいてもよく、それ
らの例としては、β-フルオロ-アラニン、1-メチル-ヒスチジン、γ-メチレン-グ
ルタミン酸、α-メチル-ロイシン、4,5-デヒドロ-リシン、ヒドロキシプロリン、
3-フルオロ-フェニルアラニン、3-アミノ-チロシン、4-メチル-トリプトファン
などが挙げられる。
【0085】
態様によっては、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は
、本明細書で提供されるペイロードを少なくとも1種(例えば、1種、2種、3種、4種
、5種、6種、7種、8種、9種、または10種以上)、本明細書で提供されるリガンド
を少なくとも1種(例えば、1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、
または10種以上)、本明細書で提供されるエンドサイトーシス分子を少なくとも1種(
例えば、1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、または10種以上)
及び任意で本明細書で提供される1種のリンカーまたはスペーサーを含む。態様によって
は、複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は、本明細書で提供される1種のペイ
ロード、本明細書で提供される1種のリガンド、本明細書で提供される1種のエンドサイ
トーシス分子、及び任意で本明細書で提供される1種のリンカーまたはスペーサーを含む
【0086】
態様によっては、前記複合体化合物は、以下で示す式XI、XII、XIII、XIII
I、またはXVの構造を有し、ここで、n、m、p、q、及びsは独立して0または1で
あり、リンカー、多価リンカー、及びスペーサーが独立して存在するか否かを示す。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0087】
態様によっては、本願の複合体化合物は、化合物LDC10B、LDC10BR、LDC
10BX、LDC11B、LDC12B、LDC13B、LDC1013、LDC10H
、LDC11H、LDC12H、及びLDC13Hからなる群より選択される。LDC1
0B、LDC10BR、LDC10BX、LDC11B、LDC12B、LDC13B、
LDC1013、LDC10H、LDC11H、及びLDC12Hの成分を以下の表3に
示す。
【表3】
【0088】
MC-Val-Cit-PABの構造は以下の通りである。
【化16】
【0089】
LDC10B、LDC10BR、LDC10BX、LDC11B、LDC12B、LDC
13B、LDC1013、LDC10H、LDC11H、及びLDC12Hの特定の構造
図1に示す。
【0090】
態様によっては、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容される塩は
、1種のペイロード及び2種の細胞相互作用分子を含み、前記2種の細胞相互作用分子の
うちの1つは細胞表面受容体に特異的に結合することができるリガンドであり、もう一方
はエンドサイトーシス分子(例えば、LDC10H、LDC10B、LDC1013)で
ある。態様によっては、エンドサイトーシス分子は、細胞表面受容体にも結合することが
でき、例えば、LDC10BまたはLDC1013である。態様によっては、エンドサイ
トーシス分子は、細胞貫通分子であり、例えば、LDC10Hなどである。
【0091】
態様によっては、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容可能塩は、
1種のペイロード、及びいずれもエンドサイトーシス分子(例えば、LDC11B、LD
C12B、LDC13B)である2種の細胞相互作用分子を含む。態様によっては、本明
細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容可能塩は、第一のエンドサイトー
シス分子及び第二のエンドサイトーシス分子を含み、第一のエンドサイトーシス分子は第
二のエンドサイトーシス分子と同じである。態様によっては、本明細書で提供される複合
体化合物またはその医薬的に許容可能塩は、第一のエンドサイトーシス分子及び第二のエ
ンドサイトーシス分子を含み、第一のエンドサイトーシス分子は第二のエンドサイトーシ
ス分子(例えば、LDC11B、LDC12B、LDC13B)と異なる。態様によって
は、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容可能塩は、1種のペイロ
ード、及びいずれも細胞表面受容体に特異的に結合することができるエンドサイトーシス
分子(例えば、LDC11B、LDC12B、LDC13B)である2種の細胞相互作用
分子を含む。態様によっては、第一のエンドサイトーシス分子は細胞表面受容体にも特異
的に結合することができ、第二のエンドサイトーシス分子は細胞貫通分子(例えば、LD
C11H、LDC12H、LDC13H)である。
【0092】
態様によっては、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容可能塩は、
1種のペイロード、及びいずれも細胞表面受容体に特異的に結合することができるリガン
ドである2種の細胞相互作用分子を含む。態様によっては、本明細書で提供される複合体
化合物またはその医薬的に許容可能塩は、第一の細胞表面受容体に結合することができる
第一の細胞相互作用分子、及び第二の細胞表面受容体に結合することができる第二の細胞
相互作用分子を含み、第一の細胞相互作用分子は第二の細胞相互作用分子と同じである。
態様によっては、本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容可能塩は、
第一の細胞表面受容体に結合することができる第一の細胞相互作用分子と第二の細胞表面
受容体に結合することができる第二の細胞相互作用分子を含み、第一の細胞相互作用分子
は、第二の細胞相互作用分子(例えば、LDC10B、LDC11B、LDC12B、L
DC13B、LDC1013)と異なる。
【0093】
本願のmLDCを、標的組織環境の標的細胞に任意のペイロードを特異的に送達するのに
用いてもよい。一般に、mLDC中に複数のリガンドがあることの利点は以下の3つであ
る。まず、複数のリガンドは複数のモードでしばしば相乗的に作用して、その結果、副作
用を低減しつつ治療効果を向上させることができる。次に、複数のリガンドの結合は、標
的受容体または標的細胞に対するmLDCの親和性及び結合活性(avidity)を高めて、
結合の特異性を高め、標的毒性を回避する。最後に、適切に設計されると、複数のリガン
ドの組み合わせは、しばしば薬物複合体に求められる多機能要件を満たすことができる。
【0094】
本願のmLDCは、以下に挙げる予期しなかった技術的効果を達成するが、これらに限定
されない。(1)細胞表面受容体に結合することができるリガンドとエンドサイトーシス
分子の組み合わせにより、複合体化合物は標的細胞内に特異的に侵入することができる。
(2)mLDCは、非常に有効な化学療法薬(例えば、MMAE)を患者に送達するよう
に薬物化合物の親和性及び標的特異性を高めて、そのような薬剤の治療可能域を広げ、副
作用を回避する。(3)リンカーは、標的細胞の外(例えば、血液循環システム、細胞間
物質など)へのペイロードの放出を防止することができ、これにより血液循環時の複合体
化合物の安定性を確実にして薬物の毒性を低減する。標的細胞へ入った後、リンカーは切
断されてペイロードを放出し、薬物の効果を発揮する。それと同時に、多剤耐性(MDR
)を回避することが可能である。(4)様々な薬物を本願の複合体化合物の形態で送達す
ることができるので、関連する薬物の用途範囲を広げることができる。従って、本願のm
LDCは、目的の範囲及びLDC薬物の治療可能範囲を広げるだけでなく、薬物によって
はその毒性及び副作用を低減する。
【0095】
例えば、複合体に2つのリガンドを用いてもよく、一方のリガンドは癌細胞表面受容体に
特異的に結合し、もう一方のリガンドは癌に特異的なプロテアーゼにより充実性腫瘍内で
のみ脱マスキングされ、エンドサイトーシスを誘導して複合体が薬物ペイロードを癌細胞
のみに特異的に送達することを可能にし、受容体の何れかまたは両方を発現する正常細胞
に対する毒性を回避する。
【0096】
例えば、2つのリガンド、すなわち、P10ペプチド及び葉酸塩を含むLDC10Bは、
2つまたは3つのモードで機能することができる。P10ペプチドそのものは、相I臨床
試験で有効な癌薬物であり、おそらくTRPV6拮抗薬として作用していることが示され
た。葉酸塩は、癌細胞を殺すためにエンドサイトーシスにより効率的に細胞毒素ペイロー
ドを送達するのを助けることが示された。二リガンド-薬物複合体として、LDC10B
は、TRPV6受容体及び葉酸塩受容体の両方を発現している癌細胞を殺すため、次の3
つの方法で相乗的に機能することができる。まず、P10ペプチド部位は、それ自体がT
RPV6拮抗薬として機能する。次に、P10ペプチドは、あまり効率的ではないが、内
部移行により結合した細胞毒素を送達することができる。また、葉酸塩は、葉酸塩受容体
に結合してエンドサイトーシスにより効率的に細胞毒素を送達することができる。最後に
、2つのリガンド、P10ペプチド及び葉酸塩は、それぞれの受容体に相乗的に結合して
、両方の受容体を発現している標的細胞の内部に細胞毒素ペイロードを送達することがで
きる。
【0097】
本明細書で用いられる「ポリペプチド」、「タンパク質」、及び「ペプチド」は互いに言
い換え可能であり、アミノ酸の重合体を指す。本明細書で記載するポリペプチド、タンパ
ク質、またはペプチドは、天然に発生するアミノ酸、人工のアミノ酸、またはアミノ酸の
類縁体及び模倣物を含んでいてもよい。ポリペプチド、タンパク質、またはペプチドは、
当該分野でよく知られた任意の方法により得ることができる。例えば、天然の材料からの
単離及び精製、組み換え発現、化学合成などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0098】
本願の他の側面は、本明細書で提供される複合体化合物またはそれらの医薬的に許容され
る塩、及び医薬的に許容される担体を含む医薬品組成物を開示する。
【0099】
本明細書で用いられる用語「医薬的に許容される」は、妥当な医学的判断の範囲内で過度
の毒性、刺激、アレルギー反応などがなく、ヒト及び他の動物の細胞と接触させて用いる
のに好適であり、合理的な便益危険比と釣り合いが取れていることを意味する。
【0100】
本明細書で用いられる用語「医薬的に許容される塩」は、本願の複合体化合物の比較的非
毒性である無機酸及び有機酸付加塩及び塩基付加塩を指す。代表的な酸付加塩としては、
臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉
草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安
息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コ
ハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクチオビオン
酸塩(lactiobionate)、スルファミン酸塩、マロン酸塩、サリチル酸塩、プロピオン酸
塩、メチレン-ビス-b-ヒドロキシナフトエ酸塩、ゲンチシン酸塩、イセチオン酸塩、
ジ-p-トルオイル酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスル
ホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩、及びキナテス
ラウリルスルホン酸塩などが挙げられる。塩基付加塩としては、医薬的に許容される金属
及びアミン塩が挙げられる。好適な金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシ
ウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩などが挙げられる。
態様によっては、ナトリウム塩及びカリウム塩が好ましい。好適な無機塩基付加塩は、金
属塩基から調製され、例えば、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、
水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、及び水
酸化亜鉛などが挙げられる。好適なアミン塩基付加塩は、安定した塩を形成するのに十分
な塩基性を有するアミンから調製され、好ましくは、その低い毒性と医学的な使用での許
容性から医薬化学で頻繁に用いられる以下のアミンが挙げられる:アンモニア、エチレン
ジアミン、N-メチル-グルカミン、リシン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N
’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン
、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメ
チル)-アミノメタン、水酸化四メチルアンモニウム、三エチルアミン、二ベンジルアミ
ン、エフェナミン、デヒドロアビエチルアミン、N-エチルピペリジン、ベンジルアミン
、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミ
ン、トリメチルアミン、エチルアミン、塩基性アミノ酸(例えば、リシン及びアルギニン
)、及び二シクロヘキシルアミンなど。
【0101】
本明細書に用いられる用語「医薬的に許容される担体」は、本明細書で提供される複合体
化合物の構造及び特性と干渉しない、本明細書で提供される複合体化合物を対象に送達す
るための医薬的に許容される溶媒、懸濁剤、または任意の他の薬理的に不活性な媒体を指
す。このような担体の特定のものにより、複合体化合物を例えば、対象が経口摂取するた
めの錠剤、丸薬、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、及びトローチと
して処方することが可能になる。このような担体の特定のものにより、複合体化合物を注
射、点滴、または局所投与として処方することが可能になる。
【0102】
本明細書で提供される医薬品組成物で用いられる医薬的に許容される担体は、これらに限
定されないが、例えば、医薬的に許容される液体、ゲル、固体担体、水性媒体(例えば、
塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張ブドウ糖注射液、殺菌水注射液、またはブ
ドウ糖及び乳酸化リンゲル注射液)、非水性媒体(例えば、野菜由来の固定油、綿実油、
トウモロコシ油、ごま油、またはピーナッツ油)、抗菌剤、等張剤(例えば、塩化ナトリ
ウムまたはブドウ糖)、緩衝剤(例えば、リン酸塩またはクエン酸塩緩衝剤)、酸化防止
剤(例えば、重硫酸ナトリウム)、麻酔薬(例えば、塩酸プロカイン)、懸濁/分散剤(
例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロオキシプロピルメチルセルロー
ス、またはポリビニルピロリドン)、キレート剤(例えば、EDTA(エチレンジアミン
四酢酸)またはEGTA(エチレングリコール四酢酸))、乳化剤(例えば、ポリソルバ
ート80(TWEEN-80))、希釈剤、アジュバント、賦形剤、非毒性補助物質、当
該分野で周知の他の成分、またはこれらの様々な組み合わせが挙げられる。好適な成分と
しては、例えば、賦形剤、結着剤、緩衝剤、保存料、潤滑剤、風味剤、増粘剤、着色剤、
または乳化剤を含んでいてもよい。
【0103】
態様によっては、前記医薬品組成物は注射液製剤である。注射液製剤としては、例えば、
水溶液または分散液、懸濁液、あるいは乳化液が挙げられる。すべての場合で、これら注
射液製剤は殺菌されていなければならず、容易に注射することができるように当然、流体
である。製造及び保存条件で安定でなければならず、また微生物(例えば、バクテリア及
び真菌類)の汚染作用から保護されなければならない。これら担体は、例えば、水、エタ
ノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレ
ングリコールなど)、これら及び/または植物油の好適な混合物を含む溶媒または分散媒
であってもよい。これらの注射液製剤は適切な流動性を維持していなければならない。例
えば、塗膜(例えば、レシチンなど)、界面活性剤などを用いて適切な流動性を維持して
もよい。微生物の作用は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノ
ール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど)により防止してもよい。
【0104】
態様によっては、前記医薬品組成物は経口投与製剤である。経口投与製剤は、例えば、カ
プセル、カシェー剤、丸薬、錠剤、トローチ剤(風味付けした基材、通常、スクロース及
びアラビアゴムまたはトラガカントを用いる)、粉末、顆粒、水性または非水性液体の溶
液または懸濁液、水中油型または油中水型液体乳化液、エリキシル剤、シロップ、トロー
チ(挿入基材、例えば、ゼラチン及びグリセリン、またはスクロース及びアラビアゴムを
用いる)及び/または口内洗浄液などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
経口投与用の固体の投与形態(例えば、カプセル、錠剤、丸薬、糖衣錠、粉末、顆粒など
)では、複合体化合物は1種以上の医薬的に許容される担体と混合される(例えば、クエ
ン酸ナトリウムまたはリン酸水素カルシウム、及び/または以下の何れか:(1)賦形剤
または増量剤(例えば、澱粉、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及
び/またはケイ酸);(2)結着剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸
塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/またはアラビアゴム);(3)
保湿剤(例えば、グリセリン);(4)崩壊剤(例えば、寒天-寒天、炭酸カルシウム、
じゃがいも澱粉またはタピオカ澱粉、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム
);(5)溶解遅延剤(例えば、パラフィン);(6)吸収促進剤(例えば、四級アンモ
ニウム化合物);(7)湿潤剤(例えば、アセチルアルコール及びモノステアリン酸グリ
セリン);(8)吸収剤(例えば、カオリン及びベントナイト粘土);(9)潤滑剤(例
えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレン
グリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物);及び(10)着色剤。
【0106】
経口投与用の液体の投与形態では、複合体化合物は医薬的に許容される乳化液、マイクロ
乳化液、溶液、懸濁液、シロップ、及びエリキシル剤の何れかと混合される。この液体の
投与形態は、複合体化合物に加えて、当該分野で一般に用いられる不活性希釈剤(例えば
、水または他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルア
ルコール、カルボン酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プ
ロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿種油、アメリカホドイ
モ油(groundnut)、トウモロコシ油、オリーブ油、ヒマシ油、及びごま油)、グリセリ
ン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタンの脂肪酸
エステル、及びこれらの混合物)を含んでいてもよい。不活性希釈剤の他に、経口投与組
成物は、アジュバント(例えば、湿潤剤)、乳化剤、懸濁剤、甘味料、風味料、着色剤、
香料、及び防腐剤をも含んでいてもよい。
【0107】
態様によっては、上記医薬品組成物は、経口スプレー製剤または経鼻スプレー製剤である
。スプレー製剤としては、水性エアロゾル、非水性懸濁液、リピドソーム製剤、または固
体顆粒製剤などが挙げられるが、これらに限定されない。水性エアロゾルは、薬剤、従来
の医薬的に許容される担体、及び安定化剤の混合水溶液または懸濁液により調製される。
担体及び安定化剤は、特定の化合物の要件により変化するが、一般に、非イオン性界面活
性剤(Tweens、すなわちポリエチレングリコール)、オレイン酸、レシチン、アミノ酸(
例えば、グリシン)、緩衝溶液、塩、糖または糖アルコールが挙げられる。エアロゾルは
、一般に、等張溶液により調製され、スプレーにより送達してもよい。
【0108】
態様によっては、前記医薬品組成物を、1種以上の他の薬物と混合して用いてもよい。態
様によっては、前記医薬品組成物は、少なくとも1種の他の薬物を含む。態様によっては
、これらの他の薬物は抗腫瘍薬物、心臓血管薬物、抗炎症性薬物、抗ウイルス薬物、消化
器系薬物、神経系薬物、呼吸器系薬物、免疫系薬物、皮膚薬物、代謝性薬物などである。
【0109】
態様によっては、前記医薬品組成物は、適切な経路で必要とする対象に投与されてもよい
。適切な経路としては、これらに限定されないが、経口投与,注射(例えば、静脈内注射
、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、心臓内注射、髄腔内注射、胸膜内注射、腹腔内注射
など)、粘膜投与(例えば、経鼻投与、口内投与など)、舌下投与、直腸投与、経皮吸収
投与、眼球内投与、及び肺投与が挙げられる。態様によっては、薬物組成物は静脈内投与
、皮下投与、経口投与、筋肉内投与、または心室内投与してもよい。
【0110】
ペイロードのあるものの特性(例えば、高い毒性、高い親水性など)により、ペイロード
を必要とする対象により特異的かつより効率的に送達することが望ましい。例えば、癌治
療では、正常細胞に対しては毒性がなく、癌細胞に特異的に化学療法薬を送達することが
望ましい。従って、本願の他の側面は、ペイロードを必要とする対象に送達する方法を開
示する。この方法は、前記対象に本明細書で提供される複合体化合物またはそれらの医薬
的に許容される塩、あるいは本明細書で提供される医薬品組成物の治療有効量を投与する
ことを含む。本明細書で記載するペイロードは、病気の防止、阻害、改善、または治療に
おいて研究者、獣医、医者、またはその他の臨床医によって調べられている組織、系、動
物、個体、またはヒトで生物学的または薬物反応を引き出す任意の医薬品であってもよい
【0111】
本明細書で用いられる用語「対象」は、ヒト及び非ヒト動物を指す。非ヒト動物は、すべ
ての脊椎動物、例えば、哺乳類及び非哺乳類を含む。対象はまた、ウシ、ブタ、ヒツジ、
家禽、及びウマなどの家畜動物、あるいはイヌ及びネコなどのペット動物であってもよい
。対象は、オスまたはメスであってもよく、高齢であってもよく、成人、青年、子供、あ
るいは幼児であってもよい。ヒトの対象は、白色人種、アフリカ系人種、アジア系人種、
セム語系人種、その他の人種、あるいはこれら人種の混血であってもよい。
【0112】
本明細書で用いられる用語「治療有効量」は、対象の病気または障害の1つ以上の症状を
ある程度まで緩和する、病気または障害と関連づけられた、あるいは原因となる1つ以上
の生理学的または生化学的パラメータを部分的あるいは完全に正常に戻す、及び/または
病気または障害の発症の尤度を低下させるような上記複合体化合物またはそれらの医薬的
に許容される塩、あるいは医薬品組成物の量を指す。そのような量は、本明細書で提供さ
れる決定及び説明のための記載を前提として、一般に、当業者の権限内で多数の因子によ
って変動する。これらの因子としては、特定の対象、対象の年齢、重量、身長、一般的な
体調、病歴、使用される特定の化合物、その化合物が処方される担体及びその化合物に選
択された投与経路、及び治療される状態の性質及び重症度などが挙げられるが、これらに
限定されない。
【0113】
態様によっては、複合体化合物またはそれらの医薬的に許容される塩、あるいは医薬品組
成物の量は、対象の病気または障害を阻害する、あるいは病気または障害の発症を予防的
に阻害または防止するのに十分である。治療有効量は対象毎に異なってもよいが、一般に
0.01~100mg/kg、例えば、0.01~90mg/kg、0.01~80mg
/kg、0.01~70mg/kg、0.01~60mg/kg、0.01~50mg/
kg、0.01~40mg/kg、0.01~30mg/kg、0.01~20mg/k
g、0.01~10mg/kg、0.01~5mg/kg、0.01~4mg/kg、0
.01~3mg/kg、0.01~2mg/kg、0.01~1mg/kg、0.01~
0.1mg/kgの範囲である。本明細書で記載する治療有効量は、(上記範囲の両端を
含む)上記の数値範囲内の任意の値と同じであってもよい。
【0114】
本願の他の側面は、ペイロードを必要とする対象に送達するための方法を開示する。この
方法は、前記対象に本明細書で提供される複合体化合物またはその医薬的に許容される塩
、あるいは本明細書で提供される医薬品組成物の治療有効量を投与することを含む。
【0115】
本願の他の側面は、対象の病気を治療するための方法を開示する。この方法は、前記対象
に本明細書で提供される複合体化合物またらこれらの医薬的に許容される塩、あるいは本
明細書で提供される医薬品組成物の治療有効量を投与することを含む。
【0116】
態様によっては、前記病気は癌であり、乳癌、肺癌、前立腺癌、腎臓癌、卵巣癌、胃癌、
子宮癌、子宮内膜上皮性悪性腫瘍、肝臓癌、甲状腺癌、脾臓癌、大腸癌、結腸直腸癌、食
道癌、皮膚癌、リンパ腫、白血病、及び多発性骨髄腫が挙げられるが、これらに限定され
ない。
【0117】
態様によっては、前記病気は免疫疾患、例えば、自己免疫疾患であり、結合組織疾患、全
身性硬化、リウマチ性関節炎、及び全身性紅斑性狼瘡が挙げられるが、これらに限定され
ない。
【0118】
態様によっては、前記病気は心臓血管疾患であり、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、高血圧性
心疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、心臓発作、高血圧性心疾患、リウマチ性心疾患、心
筋症、心臓不整脈、及び先天性心疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
態様によっては、前記病気は代謝疾患であり、糖尿病、痛風、肥満、低血糖症、高血糖症
、及び脂質異常が挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
態様によっては、前記病気は神経疾患であり、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハン
チントン病、頭部外傷、多発性硬化症、めまい、昏睡、及びてんかんが挙げられるが、こ
れらに限定されない。
【0121】
態様によっては、本明細書で提供される方法は、複合体化合物またはその医薬的に許容さ
れる塩、あるいは医薬品組成物と1種以上の治療薬を組み合わせて投与することをさらに
含む。態様によっては、前記治療薬は、抗癌治療標的を標的とする、癌に対する免疫応答
を誘発または促進する、あるいは化学療法薬である。
【0122】
具体例により本願をさらに詳細に記載する。以下の例は、例示目的でのみ提供されており
、いかなる方法でも本発明を限定することを意図しない。当業者には自明であるが、各種
の重要ではないパラメータは変化または修正しても本質的に同じ結果が得られる。
【実施例0123】
以下の実施例は本願をさらに例示することを意図している。本願の利点及び特徴は、以下
の記載で明らかになる。しかしながら、これらの記載は単なる例示であって、本願の範囲
の限定と解釈されるべきではない。
【0124】
実施例I:複合体分子の調製
【0125】
ステップI:葉酸塩-NHSの合成
【0126】
葉酸塩(44.1g、100mmol)をDMSO(2L)に溶解して、N,N’-ジシ
クロヘキシルカルボジイミド(DCC)(24.8g、120mmol)及びN-ヒドロ
キシコハク酸イミド(NHS)(23g、200mmol)と混合した。この混合物を暗
所で18時間、常温で撹拌した。溶解しなかった物質を濾別して、真空乾燥し、コロイド
状の固体を得た。コロイド状の固体を氷冷エーテルで3回洗浄し、乾燥して黄色の粉末(
53.8g)を得た。この粉末は、さらに精製せずに次の反応に用いることができる。
【0127】
ステップII:P10保護ペプチド樹脂の合成
【0128】
Wang Resin(Sigma-Aldrich社から購入、100g、置換度:1.1mmol/g)を秤
取り、固相反応塔に加えた。次いで、DMFを加えて、30分間、窒素ガスでバブリング
しながら湿潤した。別の三角フラスコにFmoc-Arg(pbf)-OH(142.7g、220mmo
l)、HOBt(35.6g、264mmol)及びDMAP(2.7g、22mmol)を
秤取り、DMFに溶解して、氷水槽で0℃まで冷却した。次いで、DIC(40.8ml
、264mmol)を加えて、5分間反応させた。この溶液を反応塔に加えて3時間反応
させ、真空で乾燥させ、DMFで3回洗浄した。
【0129】
無水酢酸(104ml)及びピリジン(88.5ml)をDMF(500ml)に溶解し
て、この混合物を上記の洗浄した樹脂に加えた。これら材料を密封して、室温で5時間静
置した。DMFで3回洗浄し、メタノールで収縮した。樹脂を乾燥してFmoc-Arg(pbf)-W
ang Resinを得た。置換度を求めたところ、0.53mmol/gであった。
【0130】
37.7g(20mmol)のFmoc-Arg(pbf)-Wang Resin(置換度:0.53mmol/
g)を秤取り、反応塔に加えた。DMFで3回洗浄して、DMFで30分間湿潤した。F
moc保護基をDBLKで外して、DMFで6回洗浄した。Fmoc-Pro-OH(20.2g、
60mmol)及び HOBt(9.7g、72mmol)を秤取り、DMFに溶解して、氷
水槽で0℃まで冷却した。次いで、DIC(11.1ml、72mmol)を加えて、5
分間反応させた。この溶液を反応塔に加えて、2時間反応させ、DBLKを加えてFmo
c保護基を外した。
【0131】
ペプチド配列のC-末端からN-末端まで各アミノ酸を付加するために上記の手順を繰り
返した。Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Ser(
tBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Glu(OtBu)
-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、及びFmoc-Cys(Trt)-OHをペプチド配列に従って1つずつ結合さ
せ、DBLKを加えてFmoc保護基を外した。この溶液をDMFで6回洗浄して、メタ
ノールで2回収縮し、乾燥してP10保護ペプチド樹脂(85.8g)を得た。
【0132】
ステップIII:中間体である葉酸塩-P10(葉酸塩-Cys-Lys-Glu-Phe-Leu-His-Pro-S
er-Lys-Val-Asp-Leu-Pro-Arg-OH)の合成
【0133】
葉酸塩-NHS(32.3g、60mmol)を秤取り、DMSOに溶解させた。ステッ
プIIで得られたP10保護ペプチド樹脂(85.8g)を加えて、5分間反応させた。
DIEA(21ml、120mmol)を滴下して、反応を室温で4時間継続した。反応
生成物をDMFで3回洗浄して、メタノールで収縮し、真空乾燥して完全に保護されたペ
プチド樹脂(320.3g)を得た。
【0134】
上で得られた保護ペプチド樹脂(80g)を1000mlの一口フラスコに入れた。切断
溶液(640ml、TFA:チオアニソール:EDT:アニソール=90:5:3:2(
体積比))を調製して、フラスコに加え、室温で2.5時間反応させた。樹脂を濾過して
、TFA(100ml)で洗浄した。濾液を合わせて無水エーテル(4500ml)に加
えて黄色の固体を分離した。これらの固体を遠心分離して、無水エーテルで洗浄し、真空
乾燥して黄色の固体(40.6g)を得た。粗ペプチドの収率は97.1%、HPLC純
度は76.3%であった。得られた黄色の固体をHPLCで精製して、冷凍乾燥して葉酸
塩-P10(28.25g、純度:98.6%)を得た。
【0135】
ステップIV:中間体R9-P10(Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Arg-Cys-Lys-Gl
u-Phe-Leu-His-Pro-Ser-Lys-Val-Asp-Leu-Pro-Arg-OH)の合成
【0136】
ステップIIで得られたP10保護ペプチド樹脂の一部を秤取り、R9のペプチド配列に
従って結合させ、中間体R9-P10を得た。
【0137】
ステップV:中間体Mc-Val-Cit-PAB-MMAEの合成
【0138】
MMAE(7.18g、10mmol)を秤取り、250mlの3つ口フラスコに入れ、無水
DMFに溶解させた。N2保護下、室温で透明になるまで撹拌した。Mc-Val-Cit-PAB-PNP
(7.37g)及びHOAt(72mg、2mmol)を溶液に加えて、5分間反応させた。
次いで、DIEA(3.5ml、20mmol)を滴下して、反応を室温で30分間継続
した。温度を40~50℃まで上げて、20時間反応させた。その間、HPLCを用いて
反応を監視した。真空乾燥してDMFを除去し、さらにHPLC精製を行って生成物Mc-V
al-Cit-PAB-MMAE(10.7g、純度:99.3%)を得た。
【0139】
ステップVI:複合体LDC10B及びLDC10Hの合成
【0140】
ステップVで得られたMc-Val-Cit-PAB-MMAE(6.59g、5mmol)を秤取り、50
00mlの一口フラスコに入れた。3300mlのリン酸緩衝液を加えて、PH=7.2
下で透明になるまで撹拌した。中間体である葉酸塩-P10またはR9-P10(10.
5g、5.02mmol)を加えて、室温で2時間反応させた。この間、HPLCを用い
て反応を監視した。反応が終了した後、溶液を濾過して、HPLC及び冷凍乾燥を行って
LDC10B(14.53g、純度:99.2%、収率:85.02%)及びLDC10
H(12.37g、純度:98.7%、収率:81.34%)を得た。
【0141】
同様の手順で複合体LDC10BR、LDC10BX、LDC11B、LDC12B、L
DC13B、LDC1013、LDC11H、及びLDC12Hを得ることができる。
【0142】
ステップVII:葉酸塩-FITC(FITC-ACP-Lys(葉酸塩)-OH)の合
【0143】
Wang Resin(1g、置換度:1.1mmol/g)を秤取り、固相反応塔に加えた。次い
で、DMFを加えて、30分間窒素ガスでバブリングしながら湿潤した。別の三角フラス
コに2モル当量のFmoc-Lys(Dde)-OH、2.4モル当量のHOBt、及び
0.2モル当量のDMAPをDMFに溶解させ、氷水槽で0℃まで冷却した。次いで、2
.4モル当量のDICを加えて、5分間反応させた。溶液を反応塔に加えて、3時間反応
させた。真空乾燥して、DMFで3回洗浄した。
【0144】
それぞれ10モル当量の無水酢酸及びピリジンをDMF(10ml)に溶解して、上記の
洗浄した樹脂に加えた。これらの材料を密封して、室温で5時間静置した。樹脂をDMF
で3回洗浄して、メタノールで収縮し、乾燥してFmoc-LYS(Dde)-Wang Resinを得た。置換
度を求めたところ、0.51mmol/gであった。
【0145】
1.3gのFmoc-LYS(Dde)-Wang Resin(置換度:0.51mmol/g)を秤取り、反応
塔に加えた。DMFで3回洗浄して、DMFで30分間湿潤した。DBLKでFmoc保
護基を外して、DMFで6回洗浄した。2モル当量のFmoc-6-ACP-OH及び2.4モル当量
のHOBtを秤取り、DMFに溶解して、氷水槽で0℃まで冷却した。次いで、2.4モル当
量のDICを加えて、5分間反応させた。この溶液を反応塔に加えて、2時間反応させ、
DBLKを加えてFmoc保護基を外した。
【0146】
FITCのDMF溶液(1.5モル当量)をこの樹脂に加えて、3モル当量のDIEAを
滴下した。反応を2時間継続して、樹脂をDMFで3回洗浄した。
【0147】
2%のヒドラジン水和物のDMF溶液を上記樹脂に加えて、15分間反応させた。これを
二回繰り返して、DMFで6回洗浄した。
【0148】
葉酸塩-NHS(2モル当量)を秤取り、DMSOに溶解して、樹脂に加えた。5分間反
応させて、DIEA(21ml、120mmol)を滴下し、反応を室温で4時間継続し
た。反応生成物をDMSO及びDMFでそれぞれ3回洗浄して、メタノールで収縮し、真
空乾燥して完全に保護されたペプチド樹脂を得た。
【0149】
樹脂から脱保護及び切断した後、HPLCで粗葉酸塩-FITCを精製して、純度が95
%の黄色の固体の形態の生成物を得た。図3に葉酸塩-FITCの構造を示す。
【0150】
ステップVIII:10A-FITCの合成
【0151】
ステップIIで得られたP10保護ペプチド樹脂0.1mmol(0.43g)を秤取り
、固相反応塔に加えた。次いで、DMFを加えて、30分間窒素ガスでバブリングしなが
ら湿潤した。2モル当量のFmoc-e-ACP-OH、次いで2モル当量のDBLKを加えてFmo
c保護基を外した。この溶液をDMFで6回洗浄した。
【0152】
FITCのDMF溶液(1.5モル当量)を樹脂に加えて、3モル当量のDIEAを滴下
した。反応を2時間継続して、樹脂をDMFで3回洗浄した。
【0153】
樹脂から脱保護及び切断した後、HPLCで粗10A-FITCを精製して、黄色の固体
の形態の生成物(純度:95%)を得た。図3に10A-FITCの構造を示す。
【0154】
ステップIX:10B-FITCの合成
【0155】
ステップIIで得られたP10保護ペプチド樹脂0.1mmol(0.43g)を秤取り
、固相反応塔に加えた。次いで、DMFを加えて、30分間窒素ガスでバブリングしなが
ら湿潤した。2モル当量のFmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-e-ACP-OH、次いで2モル当量のDB
LKを加えてFmoc保護基を外した。溶液をDMF6回洗浄した。
【0156】
FITCのDMF溶液1.5モル当量を樹脂に加えて、3モル当量のDIEAを滴下した
。反応を2時間継続して、樹脂をDMFで3回洗浄した。
【0157】
2%ヒドラジン水和物のDMF溶液を上記の樹脂に加えて、15分間反応させた。これを
2回繰り返して、DMFで6回洗浄した。
【0158】
葉酸塩-NHS(2モル当量)を秤取り、DMSOに溶解させ、樹脂に加えて5分間反応
させた。DIEA(21ml、120mmol)を滴下して、反応を室温で4時間継続し
た。反応生成物をDMSO及びDMFでそれぞれ3回洗浄して、メタノールで収縮させ、
真空乾燥して、完全に保護されたペプチド樹脂を得た。
【0159】
樹脂から脱保護及び切断した後、HPLCで粗10B-FITCを精製して黄色の固体の
形態の生成物(純度:95%)を得た。図3に10B-FITCの構造を示す。
【0160】
ステップX:LDC10B-CY5の合成
【0161】
ステップIIで得られたP10保護ペプチド樹脂0.1mmol(0.43g)を秤取り
、固相反応塔に加えた。次いで、DMFを加えて、30分間窒素ガスでバブリングしなが
ら湿潤した。2モル当量のFmoc-Lys(Dde)-OH、次いで2モル当量のDBLKを加えてFm
oc保護基を外した。溶液をDMFで6回洗浄した。
【0162】
100mgの蛍光色素Cy5、1.5モル当量のHATU、及びHOBTのDMF溶液(
1.5モル当量)を樹脂に加えて、3モル当量のDIEAを滴下した。反応を2時間継続
して、樹脂をDMFで3回洗浄した。
【0163】
2%ヒドラジン水和物のDMF溶液を上記の樹脂に加えて、15分間反応させた。これを
2回繰り返して、DMFで6回洗浄した。
【0164】
葉酸塩-NHS(2モル当量)を秤取り、DMSOに溶解して、樹脂に加えた。5分間反
応させて、DIEA(21ml、120mmol)を滴下し、反応を室温で4時間継続し
た。反応生成物をDMSO及びDMFでそれぞれ3回洗浄して、メタノールで収縮し、真
空乾燥して完全に保護されたペプチド樹脂を得た。
【0165】
樹脂から脱保護及び切断した後、HPLCで粗LDC10B-CY5を精製して、黄色の
固体の形態の生成物(純度:95%)を得た。LDC10B-CY5は、蛍光プローブC
Y5標識したLDC10Bであり、二つのリガンド部位がリシンスペーサーを介してCY
5色素と結合している。
【0166】
実施例II:複合体の有効性アッセイ
【0167】
以下の複合体が含まれる:LDC10B、LDC10BX、LDC10BR、LDC11
B、LDC12B、LDC13B、LDC1013、LDC10H、LDC11H、LD
C13H、LDC1、LDC10A、LDC11A、及びLDC13A。実験によっては
LDC1、LDC10A、LDC11A、及びLDC13Aを対照として用いた。これら
の構造は以下の通りである。
【0168】
LDC1:葉酸塩-(PEG)3-MC-Val-Cit-PAB-MMAE
【0169】
LDC10A:P10-MC-Val-Cit-PAB-MMAE
【0170】
LDC11A:P11-MC-Val-Cit-PAB-MMAE
【0171】
LDC13A:P13-MC-Val-Cit-PAB-MMAE
【0172】
1.複合体LDC10Bのエンドサイトーシス試験
【0173】
以下の複合体が含まれる:葉酸塩-FITC(FITC-ACP-Lys(葉酸塩)-O
H)、10B-FITC、及び10A-FITC。
【0174】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0175】
実験方法:
【0176】
1)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、ヒト肺癌細胞H460、卵巣
癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1
640培地で37℃、5%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養し
た。
【0177】
2)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、ヒト肺癌細胞H460、卵巣
癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954を1ウェルにつき1×103細胞(96ウ
ェルプレート)で蒔いて、37℃、5%CO2で8~12時間インキュベートした。
【0178】
3)1μMのFITC複合体または対照をプレートの細胞に加えて、37℃で10~15
分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、細胞をPBSで3
回洗浄した。
【0179】
4)次いで、細胞を共焦点顕微鏡(ブランド)で撮像して、エンドサイトーシスを視覚化
した。
【0180】
結果及び分析:
【0181】
葉酸塩リガンドを付加すると、二リガンドLDC10Bに葉酸塩受容体仲介エンドサイト
ーシスをもたらす可能性があることを示すため、KB(葉酸塩受容体陽性細胞)及びA3
75(葉酸塩受容体陰性細胞)を10A-FITC、葉酸塩-FITC、及び10B-F
ITCで調べた。図2に示すように、葉酸塩受容体仲介エンドサイトーシスにより葉酸塩
-FITCはKB(葉酸塩受容体陽性細胞)に入るが、A375(葉酸塩受容体陰性細胞
)には入らない(パネルA及びB)。一方、10A-FITCは、エンドサイトーシスが
ないために、いずれの細胞にも入ることができない(パネルC及びD)。しかしながら、
葉酸塩リガンドを付加して10A-FITCを二リガンド複合体、すなわち10B-FI
TCに転化すると、この複合体は葉酸塩受容体仲介エンドサイトーシスによりKB(パネ
ルE)に入る能力が与えられるが、A375(パネルF)には入れない。さらに、50m
M(複合体の50倍過剰)の遊離葉酸塩を含むインキュベート前のKB細胞は、葉酸塩-
FITC及び10B-FITCの両方のエンドサイトーシスを完全に阻止して(データは
不図示)、実際にエンドサイトーシスが葉酸塩受容体によって仲介されたことを確認した
【0182】
2.複合体LDC10Bの細胞毒性試験
【0183】
検査試料:LDC10B
【0184】
対照試料:MMAE、LDC1、LDC10A
【0185】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0186】
実験方法:
【0187】
1)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、ヒト肺癌細胞H1299、慢
性骨髄白血病細胞株K562、ヒト肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞
株HCC1954、ヒト胃癌細胞N87、及びヒト乳癌細胞SK-BR-3を、10%ウ
シ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO2でインキュベートし、細胞
を2~3日ごとに継代培養した。
【0188】
2)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、ヒト肺癌細胞H1299、慢
性骨髄白血病細胞株K562、ヒト肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞
株HCC1954、ヒト胃癌細胞N87、及びヒト乳癌細胞SK-BR-3を1ウェルあ
たり1×103細胞(96ウェルプレート)で蒔いて、37℃、5%CO2で8~12時間
インキュベートした。
【0189】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の試験細胞に加えて、37℃、5%C
2で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、
試験細胞を、複合体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で37℃、5%CO2
で2~3日間インキュベートした。
【0190】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、各プレートをインキュベーター内
で37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0191】
5)各プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で
処理した試験細胞と処理しなかった試験細胞の細胞生存数を比較した。50%細胞死(I
50値)に必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0192】
結果及び分析:
【0193】
LDC10Bは、以下の癌細胞を非常に効率的に殺すことができる:ヒト鼻咽頭癌細胞株
KB、ヒト肺癌細胞H460、ヒト肺癌細胞H1299、慢性骨髄白血病細胞株K562
、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954、ヒト胃癌細胞N87、ヒト乳癌細
胞SK-BR-3。また、LDC10BのIC50値はLDC1及びLDC10A対照より
も低かった(強かった)(表4を参照のこと)。これらの細胞株は、葉酸塩受容体及び/
またはTRPV6受容体の発現があることが知られている。しかしながら、LDC10B
の細胞毒性は、葉酸塩受容体の発現がないメラノーマ細胞株A375に対して有意に低い
(IC50の読み取りが高い)。
【0194】
LDC10Bは、葉酸塩受容体とTRPV6受容体の両方に結合することができる二リガ
ンド-薬物複合体である。受容体陽性細胞株の場合、表5から分かるように、LDC10
Bの細胞毒性は、単一リガンド-薬物複合体LDC1またはLDC10Aに比べて2~1
5倍強かった(IC50値は2~15倍低かった)。葉酸塩受容体がないメラノーマ細胞株
A375では、LDC10Bは、LDC1及びLDC10Aと同様に、毒性が約15倍少
なく、優れた特異性を示す。従って、二リガンド-薬物複合体LDC10Bは、相乗効果
を示し、薬物の有効性に寄与している。
【表4】
【0195】
3.複合体LDC11Bの細胞毒性試験
【0196】
検査試料:LDC11B
【0197】
対照試料:MMAE、LDC1、LDC11A
【0198】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0199】
実験方法:
【0200】
1)ヒト肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、ヒト腎臓胚細胞293Aを、10%
ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO2でインキュベートし、細
胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0201】
2)ヒト肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、ヒト腎臓胚細胞293Aを1ウェル
あたり1×103細胞(96ウェルプレート)で蒔いて、37℃、5%CO2で8~12時
間インキュベートした。
【0202】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の細胞に加えて、37℃、5%CO2
で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、複合
体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で細胞を37℃、5%CO2で2~3日
間インキュベートした。
【0203】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、プレートをインキュベーター内で
37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0204】
5)プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で処
理した細胞および処理しなかった細胞の生存数を比較した。50%細胞死(IC50値)に
必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0205】
結果及び分析:
【0206】
LDC11Bは以下の癌細胞を殺す、あるいはそれらの成長を阻害することができる:ヒ
ト肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、ヒト腎臓胚細胞293A。これらの細胞株
は、葉酸塩受容体及び/またはLHRH受容体の発現量が多いことが知られている。LD
C11BのIC50値は、LDC1及びLDC11A対照よりも低かった(表5を参照のこ
と)。
【0207】
LDC11Bは、葉酸塩受容体とLHRH受容体の両方に結合することができる二リガン
ド-薬物複合体である。表5から分かるように、LDC11Bの細胞毒性は、単一リガン
ド複合体LDC1またはLDC11Aよりもほぼ10倍強かった(IC50値がほぼ10倍
低かった)。従って、二リガンド-薬物複合体LDC11Bは、相乗効果を示し、薬物の
有効性に寄与している。
【表5】
【0208】
4.複合体LDC12Bの細胞毒性試験
【0209】
検査試料:LDC12B
【0210】
対照試料:MMAE
【0211】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0212】
実験方法:
【0213】
1)ヒト子宮内膜癌細胞HEC-1A、ヒト胃癌細胞株GTL-16、ヒト大腸上皮性悪
性腫瘍HCT-116、ヒト神経芽細胞腫細胞株SH-SY5Yを、10%ウシ胎児血清
を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日
ごとに継代培養した。
【0214】
2)ヒト子宮内膜癌細胞HEC-1A、ヒト胃癌細胞株GTL-16、ヒト大腸上皮性悪
性腫瘍HCT-116、ヒト神経芽細胞腫細胞株SH-SY5Yを1ウェルあたり1×1
3細胞(96ウェルプレート)で蒔いて、37℃、5%CO2で8~12時間インキュベ
ートした。
【0215】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の細胞に加えて、37℃、5%CO2
で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、複合
体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で細胞を37℃、5%CO2で2~3日
間インキュベートした。
【0216】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、プレートをインキュベーター内で
37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0217】
5)プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で処
理した細胞および処理しなかった細胞の生存数を比較した。50%細胞死(IC50値)に
必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0218】
結果及び分析:
【0219】
LDC12Bは以下の癌細胞を殺す、あるいはそれらの成長を阻害することができる:ヒ
ト子宮内膜癌細胞HEC-1A、ヒト胃癌細胞株GTL-16、ヒト大腸上皮性悪性腫瘍
HCT-116、ヒト神経芽細胞腫細胞株SH-SY5Y。表6にIC50値を示す。
【表6】
【0220】
5.複合体LDC13Bの細胞毒性試験
【0221】
検査試料:LDC13B
【0222】
対照試料:MMAE、LDC1、LDC13A
【0223】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0224】
実験方法:
【0225】
1)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、ヒト大腸上皮性悪性腫瘍HCT-116、ヒト前立腺癌細
胞PC-3、ヒト胃癌細胞株GTL-16、ヒト子宮内膜癌細胞HEC-1A、及びヒト
胃癌細胞N87を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO
2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0226】
2)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、ヒト大腸上皮性悪性腫瘍HCT-116、ヒト前立腺癌細
胞PC-3、ヒト胃癌細胞株GTL-16、ヒト子宮内膜癌細胞HEC-1A、及びヒト
胃癌細胞N87を1ウェルあたり1×103細胞(96ウェルプレート)で蒔いて、37
℃、5%CO2で8~12時間インキュベートした。
【0227】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の細胞に加えて、37℃、5%CO2
で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、複合
体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で細胞を37℃、5%CO2で2~3日
間インキュベートした。
【0228】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、プレートをインキュベーター内で
37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0229】
5)プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で処
理した細胞および処理しなかった細胞の生存数を比較した。50%細胞死(IC50値)に
必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0230】
結果及び分析:
【0231】
LDC13Bは、以下の癌細胞を殺す、あるいはそれらの成長を阻害することができる:
ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、ヒト大腸癌細胞HCT-116、ヒト胃癌細胞株GTL-16
、ヒト子宮内膜癌細胞HEC-1A、ヒト前立腺癌細胞PC-3、ヒト胃癌N87。特に
、LDC13Bは、葉酸塩受容体及びLHRH受容体の両方を有する細胞株であるKBに
対して非常に効き目がある。さらに、二リガンドLDC13Bは、単一リガンド-薬物複
合体、すなわちLDC1及びLDC13Aの何れかよりも2~10倍効き目があり、二リ
ガンド-薬物複合体の有効性についての利点が確認された。表7にIC50値を示す。
【表7】
【0232】
6.複合体LDC10Hの細胞毒性試験
【0233】
検査試料:LDC10H
【0234】
対照試料:MMAE、LDC1、LDC10A
【0235】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0236】
実験方法:
【0237】
1)ヒト肺癌細胞H1299、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954、及び
ヒト肺癌細胞H460を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、5
%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0238】
2)ヒト肺癌細胞H1299、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954、及び
ヒト肺癌細胞H460を1ウェルあたり1×103細胞(96ウェルプレート)で蒔いて
、37℃、5%CO2で8~12時間インキュベートした。
【0239】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の細胞に加えて、37℃、5%CO2
で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、複合
体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で細胞を37℃、5%CO2で2~3日
間インキュベートした。
【0240】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、プレートをインキュベーター内で
37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0241】
5)プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で処
理した細胞および処理しなかった細胞の生存数を比較した。50%細胞死(IC50値)に
必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0242】
結果及び分析:
【0243】
LDC10Hは、以下の癌細胞を殺す、あるいはそれらの成長を阻害することができる:
ヒト肺癌細胞H1299、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954、及びヒト
肺癌細胞H460。この二リガンドLDC10Hは、一リガンド-薬物複合体LDC10
Aよりも10倍以上効き目がある。この結果は、膜貫通ペプチド配列(H)がエンドサイ
トーシスによる薬物の細胞内への送達に役立つことができることを示している。さらに、
LDC10Hはまた、単一リガンド複合体LDC1よりも効き目があり、有効性について
二リガンド-薬物複合体の利点が確認された。LDC10HのIC50値は、LDC1及び
LDC10A対照よりも低かった(表8を参照のこと)。
【表8】
【0244】
7.複合体LDC1013の細胞毒性試験
【0245】
対照試料:MMAE、LDC1、LDC10A
【0246】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0247】
実験方法:
【0248】
1)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、及びヒト肺癌細胞H460を
、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO2でインキュベー
トし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0249】
2)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、及びヒト肺癌細胞H460を
1ウェルあたり1×103細胞(96ウェルプレート)で蒔いて、37℃、5%CO2で8
~12時間インキュベートした。
【0250】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の細胞に加えて、37℃、5%CO2
で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、複合
体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で細胞を37℃、5%CO2で2~3日
間インキュベートした。
【0251】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、プレートをインキュベーター内で
37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0252】
5)プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で処
理した細胞および処理しなかった細胞の生存数を比較した。50%細胞死(IC50値)に
必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0253】
結果及び分析:
【0254】
LDC1013は、ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、ヒト肺癌細胞H460の細胞株を殺すのに
有効であり、またメラノーマ細胞株A375の成長を阻害するのに有効である。LDC1
013のIC50値は、LDC1及びLDC10A対照よりも低かった(強かった)(表9
を参照のこと)。しかしながら、LDC1013の細胞毒性は、対照細胞株メラノーマ細
胞株A375に対しては有意に低い(IC50の読み取りが高い)。
【0255】
LDC1013は、LHRH受容体及びTRPV6受容体の両方に結合することができる
二リガンド-薬物複合体である。受容体陽性細胞株の場合、表9から分かるように、LD
C1013の細胞毒性は、単一リガンド-薬物複合体LDC1またはLDC10Aに比べ
て2~15倍強かった(IC50値は2~15倍低かった)A375の場合、LDC101
3はH460及びKBのそれぞれと比べて毒性が約10~100倍低く、優れた特異性を
示した。従って、二リガンド-薬物複合体LDC1013は相乗効果を示し、薬物の有効
性に寄与している。
【表9】
【0256】
8.複合体LDC10BRの細胞毒性試験
【0257】
対照試料:MMAE及びLDC10B
【0258】
培地:RPMI1640培地、葉酸を含まない
【0259】
実験方法:
【0260】
1)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、及びヒト肺癌細胞H460を
、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、5%CO2でインキュベー
トし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0261】
2)ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、メラノーマ細胞株A375、及びヒト肺癌細胞H460を
1ウェルあたり1×103細胞(96ウェルプレート)で蒔いて、37℃、5%CO2で8
~12時間インキュベートした。
【0262】
3)LDC複合体または対照の貯蔵溶液をPBS溶液で調製した。100μL/ウェルの
LDC複合体または対照の連続希釈液をプレート内の細胞に加えて、37℃、5%CO2
で15~30分間インキュベートした。次いで、ウェルの培地を吸引して取り除き、複合
体を含まない新しい培地(150μL/ウェル)で細胞を37℃、5%CO2で2~3日
間インキュベートした。
【0263】
4)CellTiter 96(登録商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Prome
ga社)を各ウェルに加えて、死んだ細胞の量を測定し、プレートをインキュベーター内で
37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。
【0264】
5)プレートをマイクロプレートリーダーにて490nmで読み取り、LDC複合体で処
理した細胞および処理しなかった細胞の生存数を比較した。50%細胞死(IC50値)に
必要なLDC薬物濃度を決定した。
【0265】
結果及び分析:
【0266】
LDC10BRは、ヒト鼻咽頭癌細胞株KB、ヒト肺癌細胞H460の細胞株を殺すのに
有効であり、メラノーマ細胞株A375の成長を阻害するのに有効である。LDC10B
RのIC50値は、二リガンド複合体LDC10Bと同等であった(表10を参照のこと)
【0267】
LDC10BRは、RGD(インテグリンα)受容体、葉酸塩受容体、及びTRPV6受
容体に結合することができる三リガンド-薬物複合体である。受容体陽性細胞株の場合、
表10から分かるように、LDC10BRの細胞毒性は二リガンド複合体LDC10Bと
同等であった。従って、三リガンド-薬物複合体LDC10BRは、少なくとも二リガン
ドLDC10Bと同じくらい有効である。さらに、三リガンドLDCは、上記の3種の受
容体すべてを発現させている癌細胞に対して優れた細胞毒性及び選択性を有する可能性が
あり、3種のリガンドが相乗効果を示し、薬物の有効性に寄与している。
【表10】
【0268】
実施例III:動物モデルでの複合体の有効性研究
【0269】
目的:癌治療のためのマウスモデルにおける複合体の抗腫瘍有効性を調べること
【0270】
1.複合体LDC10B及びLDC10Hの異種移植腫瘍に対する阻害アッセイ
【0271】
治療に用いられた複合体:LDC10B、LDC10H
【0272】
動物:6~8週齢のメスのヌードマウス
【0273】
実験方法:
【0274】
1)ヒト大細胞肺癌細胞H460、ヒト肺癌細胞A549、卵巣癌細胞SKOV3、及び
乳癌細胞株HCC1954を、10%ウシ胎児血清を含むIMDM培地で37℃、5%C
2でインキュベートして、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0275】
2)腫瘍の発生:7×106個の腫瘍細胞をヌードマウスの背中に皮下注射した。腫瘍寸
法が100~200mm3程度になった後、マウスを治療のためにグループ分けした。
【0276】
3)治療:3マウス/群をLDC10B、LDC10H、対照のMMAE及びPBSで治
療した。5mg/kg及び10mg/kgの投与量で、5日ごとに3回注射した。
【0277】
4)動物の物理的性能、体重、及び腫瘍寸法を監視した。実験中に動物の死亡数を記録し
た。
【0278】
結果及び分析:
【0279】
LDC10B及びLDC10Hは、ヒト大細胞肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3
、及び乳癌細胞株HCC1954の腫瘍の成長を阻害することができ、大部分の腫瘍は、
5mg/kg及び10mg/kgの投与量で3回の注射を行った後に消失した。表11及
び表12に詳細な結果を示す。
【表11】
【表12】
【0280】
2.複合体LDC11A、LDC11Bの異種移植腫瘍に対する阻害アッセイ
【0281】
治療に用いられた複合体:LDC11A及びLDC11B
【0282】
動物:6~8週齢のメスのヌードマウス
【0283】
実験方法:
【0284】
1)ヒト大細胞肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、乳癌細胞株HCC1954、
及びヒト乳癌細胞SK-BR-3を、10%ウシ胎児血清を含むIMDM培地で37℃、
5%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0285】
2)腫瘍の発生:7×106個の腫瘍細胞をヌードマウスの背中に皮下注射した。腫瘍寸
法が100~200mm3程度になった後、マウスを治療のためにグループ分けした。
【0286】
3)治療:3マウス/群をLDC11A、LDC11B、対照のMMAE及びPBSで治
療した。5mg/kg及び10mg/kgの投与量で、5日ごとに3回注射した。
【0287】
4)動物の物理的性能、体重、及び腫瘍寸法を監視した。実験中に動物の死亡数を記録し
た。
【0288】
結果及び分析:
【0289】
LDC11Bは、ヒト大細胞肺癌細胞H460、卵巣癌細胞SKOV3、及び乳癌細胞株
HCC1954の腫瘍の成長を阻害することができ、10mg/kgの投与量で続けて3
回注射した後にほとんどの腫瘍は消失した。LDC11Aに関しては、その強い毒性のた
めに1回目の注射の後で動物は死亡した。表13及び表14に詳細な結果を示す。
【表13】
【表14】
【0290】
3.複合体LDC13Bの異種移植腫瘍に対する阻害アッセイ
【0291】
治療に用いられた複合体:LDC13B
【0292】
動物:6~8週齢のメスのヌードマウス
【0293】
実験方法:
【0294】
1)ヒト大細胞肺癌細胞H460を、10%ウシ胎児血清を含むIMDM培地で37℃、
5%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0295】
2)腫瘍の発生:7×106個の腫瘍細胞をヌードマウスの背中に皮下注射した。腫瘍寸
法が200mm3程度になった後、マウスを治療のためにグループ分けした。
【0296】
3)治療:3マウス/群をLDC13B、対照のMMAE及びPBSで治療した。2.5
mg/kg及び5mg/kgの投与量で3日ごとに4回注射した。
【0297】
4)動物の物理的性能、体重、及び腫瘍寸法を監視した。実験中に動物の死亡数を記録し
た。
【0298】
結果及び分析:
【0299】
LDC13Bは、ヒト大細胞肺癌細胞H460の腫瘍の成長を阻害することができる。ほ
どんどの腫瘍は2.5mg/kgで急速に縮小し、5mg/kgの投与量で4回の注射を
行った後では完全に消滅した。表15に詳細な結果を示す。
【表15】
【0300】
4.複合体LDC1013の異種移植腫瘍に対する阻害アッセイ
【0301】
治療に用いられた複合体:LDC1013
【0302】
動物:6~8週齢のメスのヌードマウス
【0303】
実験方法:
【0304】
1)ヒト乳癌細胞HCC1954を、10%ウシ胎児血清を含むIMDM培地で37℃、
5%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0305】
2)腫瘍の発生:7×106個の腫瘍細胞をヌードマウスの背中に皮下注射した。腫瘍寸
法が180~320mm3程度になった後、マウスを治療のためにグループ分けした。
【0306】
3)治療:3マウス/群をLDC1013、対照のMMAE及びPBSで治療した。2.
5mg/kg及び5mg/kgの投与量で3日ごとに4回注射した。
【0307】
4)動物の物理的性能、体重、及び腫瘍寸法を監視した。実験中に動物の死亡数を記録し
た。
【0308】
結果及び分析:
【0309】
LDC1013は、2.5mg/kgの投与量を7回、5mg/kgの投与量を7回、そ
れぞれ3日ごとに注射した後、HCC1954異種移植腫瘍を完全に取り除くことができ
る。表16に詳細な結果を示す。
【表16】
【0310】
5.複合体LDC10BXの異種移植腫瘍に対する阻害アッセイ
【0311】
治療に用いられた複合体:LDC10BX
【0312】
動物:6~8週齢のメスのヌードマウス
【0313】
実験方法:
【0314】
1)ヒト肺癌細胞H460を、10%ウシ胎児血清を含むIMDM培地で37℃、5%C
2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代培養した。
【0315】
2)腫瘍の発生:7×106個の腫瘍細胞をヌードマウスの背中に皮下注射した。腫瘍寸
法が180~320mm3程度になったら、マウスを治療のためにグループ分けした。
【0316】
3)治療:3マウス/群をLDC10BXと対照LDC13Aで治療した。10mg/k
gの投与量を3日ごとに3回注射した。
【0317】
4)動物の物理的性能、体重、及び腫瘍寸法を監視した。実験中に動物の死亡数を記録し
た。
【0318】
結果及び分析:
【0319】
LDC10BXは、10mg/kgの投与量を3回、3日ごとに注射した後でH460異
種移植腫瘍を取り除いた。
【0320】
6.異種移植腫瘍モデルでの複合体濃度の検出
【0321】
試料:LDC10B、LDC10H
【0322】
動物:6~8週齢のメスのヌードマウス
【0323】
実験方法:
【0324】
1)ヒト卵巣癌細胞SKOV3及び乳癌細胞株HCC1954を、10%ウシ胎児血清を
含むIMDM培地で37℃、5%CO2でインキュベートし、細胞を2~3日ごとに継代
培養した。
【0325】
2)腫瘍の発生:7×106個の腫瘍細胞をヌードマウスの背中に皮下注射した。腫瘍寸
法が100~200mm3程度になった後、マウスを治療のためにグループ分けした。
【0326】
3)治療:3マウス/群、10mg/kg、腹膜注射
【0327】
4)血液採取:治療前に血液を採取した時間を0とし、血液を治療の20分後、2時間後
、4時間後、及び24時間後に採取した。血液を遠心分離して、血清を採取し、冷凍保存
した。
【0328】
5)検出:血清中のMMAE、LDC10B、LDC10Hと、LDC10B及びLDC
10HのMMAE代謝物質の合計量をマウス抗MMAE ELISAキットにより検出した。
【0329】
結果及び分析:
【0330】
治療の24時間後の血清中で微量のLDC10Bが検出されたが、LDC10H及びその
MMAE代謝物質は検出されなかった。このことは、遊離薬物は生体内で速く排泄/代謝
されたことを示す。表17に詳細な結果を示す。
【表17】
【0331】
上記を考慮し、生体外及び生体内での研究から以下のことが判明した。
【0332】
(a)多リガンド-薬物複合体(mLDC)は、標的細胞に結合する、かつ/またはエン
ドサイトーシスにより標的細胞内に入って、細胞毒性ペイロードの効果により細胞を殺す
。20種を超える異なる癌細胞株を試験して、その結果、この結論が確認された。
【0333】
(b)生きている動物の生体内撮像から、蛍光標識LDC10B-Cy5は、その場の腫
瘤に集中し、24時間以上継続することが示された(図4を参照のこと)。
【0334】
(c)mLDCは、マウスモデルの異種移植腫瘍を完全に取り除くことができる。大部分
のリード化合物は、体重の低下や他の明らかな毒性を引き起こさず、投与量及び受容体発
現に依存した形で異種移植腫瘍を制御または除去する優れた有効性を示した。腫瘍が完全
に除去されると、マウスはその後の生涯に渡って(6ヶ月超)腫瘍が見られなかった。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
【配列表】
2023025151000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2022-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種のペイロード及び2種以上の細胞相互作用分子を含み、前記ペイロードは前記細胞相互作用分子のうちの少なくとも1種に結合されている複合体化合物またはその医薬的に許容される塩。