(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025157
(43)【公開日】2023-02-21
(54)【発明の名称】トレースジンバルに一体的に形成された疑似構造を有する3段作動式ディスクドライブサスペンション
(51)【国際特許分類】
G11B 21/21 20060101AFI20230214BHJP
G11B 5/60 20060101ALI20230214BHJP
G11B 21/10 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G11B21/21 C
G11B21/21 D
G11B5/60 P
G11B21/10 N
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192665
(22)【出願日】2022-12-01
(62)【分割の表示】P 2017152107の分割
【原出願日】2017-08-07
(31)【優先権主張番号】62/371,690
(32)【優先日】2016-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/668,594
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517151084
【氏名又は名称】マグネコンプ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】MAGNECOMPCORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】クエン チー イー
(72)【発明者】
【氏名】ダビッド グライス
(72)【発明者】
【氏名】ロン ジャン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トレースジンバル上に一体的に設けられた疑似対称の特徴を有する作動式ディスクドライブサスペンションを提供する。
【解決手段】2段作動式サスペンションは、トレースジンバルアッセンブリ(TGA)195上の第1マイクロアクチュエータとして使われるPZTデバイス80と、マイクロアクチュエータの側方に位置する疑似構造70と、を有する。疑似構造は、TGAを構成するベース金属層30、絶縁層50及び銅電気回路トレース62、銅パッド64,66及び銅部68を含む導電層のうちの少なくとも1つからなり、TGAと一体的になっている。疑似構造は、サスペンションの釣り合いを取るのに役立つ。サスペンションは、必要に応じて、第1マイクロアクチュエータの近位の位置に第1マイクロアクチュエータよりも粗い位置決めを行うための第2マイクロアクチュエータを有して3段作動式サスペンションになる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動式ディスクドライブサスペンションであって、
ビームと、
第1側面と、該第1側面の反対側の第2側面とを有し、前記ビームが結合するベースプレートと、
該ベースプレートに取り付けられた第1の圧電デバイスと、
該第1の圧電デバイスの側方に対向配置され、前記第1の圧電デバイスと釣り合いをとる第1の非圧電釣合体と、
前記ビームに取り付けられたトレースジンバルアッセンブリ(TGA)と、
該TGA上に取り付けられ、且つ、当該TGAによってヘッドスライダを移動させるよう構成された第2の圧電デバイスと、
該第2の圧電デバイスの側方に対向配置され、前記TGAと一体的に形成されるとともに前記第2の圧電デバイスと釣り合いをとる第2の非圧電釣合体とを含む、
ことを特徴とするサスペンション。
【請求項2】
前記第2の非圧電釣合体は、少なくとも第1部分と第2部分とを備え、該第2部分は、前記第1部分の少なくとも3倍の幅を有するとともに当該第1部分と同じ材料で構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション。
【請求項3】
前記第2の非圧電釣合体は、前記TGAにおける金属ベース層及び導電層の少なくとも一方に一体的に形成された金属バネを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション。
【請求項4】
作動式ディスクドライブサスペンションであって、
ビームと、
第1側面と、前記ベースプレートの前記第1側面の反対側の第2側面とを有し、前記ビームが結合するベースプレートと、
前記ベースプレートの第1側面に取り付けられた質量を有する第1の圧電デバイスと、
該第1の圧電デバイスの横方向において対向配置され、且つ、前記ベースプレ―トの前記第1側面に取り付けられた前記第1の圧電デバイスの質量と釣り合いをとる前記ベースプレートの前記第2側面に配置された第1の非圧電釣合質量体と、
前記ビームに取り付けられ、且つ、金属ベース層、該金属ベース層上の絶縁層及び該絶縁層上の導電層からなり、第1の側面と該第1の側面の反対側の第2の側面とを有するTGAと、
該TGAに取り付けられたヘッドスライダと、
前記TGAの前記第1側面に取り付けられ、且つ、前記ヘッドスライダを移動させるよう構成された質量を有する第2の圧電デバイスと、
該第2の圧電デバイスの横方向において対向配置され、且つ、前記TGAの第2側面に取り付けられ、前記TGAの第1側面に取り付けられた前記第2の圧電デバイスの質量と釣り合いをとる前記第2の非圧電釣合質量体とを含む、
ことを特徴とするサスペンション。
【請求項5】
前記第2の非圧電釣合質量体は、前記金属ベース層及び前記導電層の少なくとも1つに一体的に形成された金属バネを含む、
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション。
【請求項6】
前記第1の非圧電釣合質量体は、前記ベースプレートと別体に形成され、当該ベースプレートの上にレーザ溶接又は接着剤によって固定されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション。
【請求項7】
前記第1の非圧電釣合質量体は、その一部又は全部が前記ベースプレートと一体に形成されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション。
【請求項8】
前記第2の非圧電釣合体の質量は、前記金属ベース層、前記絶縁層及び前記導電層のうちの少なくとも1つで構成されるとともに前記TGAに一体的になっている、
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション。
【請求項9】
前記第2の非圧電釣合質量体は、前記第2の圧電デバイスの質量の50%以内の質量と、前記第2の圧電デバイスの剛性の50%以内の剛性とを有する、
ことを特徴とする請求項8に記載のサスペンション。
【請求項10】
前記第2の非圧電釣合質量体は、前記TGAの第2の側面に配置され、且つ、前記第2の圧電デバイスの正反対に位置する銅部は、前記第2の圧電デバイスの質量の少なくとも10%の質量を有する、
ことを特徴とする請求項8に記載のサスペンション。
【請求項11】
前記導電層は、前記ヘッドスライダに信号を出力する電気回路トレースを含み、
前記TAGの第2の側面に配置された銅部は、前記電気回路トレースの平均化された幅の少なくとも3倍の幅を有する、
ことを特徴とする請求項10に記載のサスペンション。
【請求項12】
作動式ディスクドライブサスペンションであって、
ビームと、
第1側面と、前記ベースプレートの前記第1側面の反対側の第2側面とを有し、前記ビームが結合するベースプレートと、
前記サスペンションの中央長手方向軸線の第1側面に取り付けられ、前記ビームを移動させるように構成された第1の圧電デバイスと、
前記サスペンションの中央長手方向軸線の前記第1側面に取り付けられた第1の圧電デバイスを部分的に釣り合わせるために、前記第1の圧電デバイスに対して前記サスペンションの中央長手方向軸線の第2の反対側の側面に配置された第1の非圧電疑似構造と、
前記ビームに取り付けられ、且つ、金属ベース層、該金属ベース層上の絶縁層及び該絶縁層上の導電層で構成され、ヘッドスライダを移動させる撓みジンバルと、前記ヘッドスライダとの間で電気信号を送受信するために前記絶縁層の上において前記導電層の形をなしている電気トレースを有する電気回路とを含むトレースジンバルアッセンブリ(TGA)と、
前記サスペンションにおける中央長手方向軸線の第1側面において前記撓みジンバル上に配置された第2の圧電デバイスと、
前記中央長手方向軸線の第2の反対側の側面で、且つ、前記第2の圧電デバイスと対称の位置関係となるように配置され、前記第2の圧電デバイスと当該第2の圧電デバイスに付着する接着剤との合計質量の30%以内の質量を有し、金属ベース層、絶縁層及び導電層のうちの少なくとも1つからなるとともに前記トレースジンバルアッセンブリと一体的に形成される第2の非圧電疑似構造とを含む、
ことを特徴とするサスペンション。
【請求項13】
前記第2の非圧電疑似構造は、前記TGAとは別個に形成されるとともにその後に前記TGAに固定される重量を含まない、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項14】
前記第2の非圧電疑似構造は、前記TGAとは別個に形成されるとともにその後に前記TGAに固定される重量を含まず、且つ、前記第2の圧電デバイスの質量の50%より大きい質量を有する、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項15】
前記第2の非圧電疑似構造は、銅部及びポリイミド部を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項16】
前記第2の非圧電疑似構造は、ステンレス鋼部及び銅部を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項17】
前記第2の非圧電疑似構造は、前記サスペンション上において前記ヘッドスライダに電気的に接続された電気トレースにおける平均幅の少なくとも3倍の幅を有する銅部を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項18】
前記第2の非圧電疑似構造は、前記第2の圧電デバイスと前記第2の圧電デバイスを前記撓みジンバルに固定する接着剤との合計質量の30%以内の質量を有する、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項19】
前記第1の非圧電疑似構造は、前記ベースプレートと別体に形成され、当該ベースプレートの上にレーザ溶接又は接着剤によって固定されている、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【請求項20】
前記第1の非圧電疑似構造は、その一部又は全部が前記ベースプレートと一体に形成されている、
ことを特徴とする請求項12に記載のサスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本出願は、2016年8月5日に出願された米国仮出願第62/371,690号の優先権利益を主張し、その全ての内容が本明細書に参考として援用される。
【0002】
本発明は、ディスクドライブのためのサスペンションの分野に関する。より詳細には、本発明は、3段作動式であるとともに、トレースジンバル上に一体的に設けられた疑似対称の特徴を有するディスクドライブサスペンションの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
磁気ハードディスクドライブや、光ディスクドライブの如き他の型式のスピニングメディアドライブは、周知のものである。一般的なハードディスクドライブは、ディスクドライブ上に記憶されたデータを構成する1と0の磁化パターンを含んだ回転磁気ディスクを有している。磁気ディスクは、駆動モータによって駆動される。ディスクドライブは、磁気ヘッドスライダがロードビームの先端に接近して取り付けられたディスクドライブサスペンションをさらに有している。ヘッドスライダは、磁気読取りトランスデューサ及び磁気書込みトランスデューサを有し、磁気読取りトランスデューサ及び磁気書込みトランスデューサはそれぞれ磁気ディスクからデータを読み取ったり、磁気ディスクにデータを書き込んだりするようになっている。サスペンション又はロードビームにおける「近位」端部は、支持された端部であり、すなわち、サスペンションが取り付けられたアクチュエータアームに最も近い端部である。サスペンション又はロードビームにおける「遠位」端部は、近位端部の反対側の端部であり、すなわち「遠位」端部は、片持ち端部である。
【0004】
サスペンションは、一般的に、アクチュエータアームに連結され、そして次に、ヘッドスライダを回転磁気ディスク上の正しいデータトラックの上方の位置に配置するためにサスペンションを円弧状に動かすボイスコイルモータに連結されている。ヘッドスライダは、そのスライダを前後左右に揺らすジンバルに搭載され、それにより、ヘッドスライダは、ディスクの振動、バンピング等の慣性事象、及び、ディスク表面の不規則性など、様々な変動を許容してディスクの適切なデータトラックに追従するようになっている。
【0005】
1段作動式ディスクドライブサスペンションと2段作動式(DSA)サスペンションとが知られている。1段作動式サスペンションでは、ボイスコイルモータのみがサスペンションを動かすようになっている。
【0006】
DSAサスペンションでは、例えばMaiらによって発行された米国特許第7,459,835号に記載されているように、他の多くのものと同様に、サスペンション全体を動かすボイスコイルモータに加えて、磁気ヘッドスライダを微動させて回転ディスクのデータトラックの上方に適切に整列させるために少なくとも1つのマイクロアクチュエータがサスペンション上に配置されている。マイクロアクチュエータは、サスペンション、つまり磁気ヘッドスライダを比較的大きく動作させるのみであるボイスコイルモータ単独よりも、サーボ制御ループの微細な制御やさらに高い帯域幅を提供する。他のタイプのマイクロアクチュエータモータでも可能ではあるが、時に単にPZTと呼ばれる圧電素子がしばしばマイクロアクチュエータモータとして使用される。以下の説明では、簡略化のためにマイクロアクチュエータを単に「PZT」と呼ぶが、マイクロアクチュエータがPZTタイプである必要がないことは理解されるであろう。
【0007】
PZTマイクロアクチュエータがジンバル上か、或いは、ジンバルに配置されたDSA設計も提案されている。そのような設計は、一般的に、「GDA」設計と呼ばれている。Hahnらにより発行され、本出願の譲受人によって所有されている米国特許第8,879,210号は、このようなGDAサスペンションを開示している。Hahnらにより発行され、本出願の譲受人によって所有されている米国特許第8,559,138号に記載されているように、サスペンションの一方の側方側に単一のマイクロアクチュエータを有するとともに、単一のマイクロアクチュエータと釣り合わせるための疑似的な構造を他方の側方側に有するDSAサスペンションもまた提案されている。
【0008】
3段作動式のサスペンションも提案されている。Vitikkateらによる米国特許第8,810,971号は、ハードディスクドライブにおける3段式アクチュエータの開示を目的としており、その第3の作動手段は、同一位置に配置され、且つ、異なる極性を有し、印加される作動電圧に呼応して回転するように曲がるPZTデバイスとなっている。
【0009】
米国特許第8,879,210号に示されているようなGDA設計は、約4~5kHzのサーボ帯域幅を示すことが知られている。領域データ密度及びトラック/インチ(TPI)の増加の傾向は、引き続きより高いサーボ帯域幅を必要とする。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、2段か、或いは、3段作動式であるとともに、TGAの中心から外れた位置に取り付けられた単一のマイクロアクチュエータとのバランスをとるための質量又は慣性バランスを供給するためにトレースジンバルアッセンブリ(TGA)に一体的に形成された疑似構造を有するディスクドライブサスペンションに関するものである。
【0011】
一態様では、本発明は、TGAの第1の側方側にマイクロアクチュエータとして使われる単一のPZTデバイス又は省略された「PZT」を有するとともに、TGAの一部としてTGAに一体的に形成され、質量及び剛性においてPZTとのバランスをとるためにPZTの反対側で、且つ、さらには一般的に対称関係にある疑似構造を有するGDAサスペンションに関するものである。したがって、疑似構造は、一般的にステンレス鋼等からなる金属ベース層、ポリイミド等からなる絶縁層及び銅や銅合金等からなる導電性トレース層を有するとともに、任意的にカバー層を上部に有するTGAと同じ層及び金属で形成される。疑似構造は、ここでは時に釣合体と呼ぶことがあるが、この釣合体は、好ましくは質量や質量分布だけでなくPZTの剛性をも釣り合いをとることに留意されたい。それ故に、その釣合体は、好ましくはPZTの静的及び動的の両方の特性における釣り合いをとる。本発明の釣合体は、TGAと一体的に形成されているので、そのような釣合体を別途製造するとともにTGAに組み付ける必要が無い。これは、製造工程を単純化する。ここに開示されているジンバルか、或いは、ジンバルの近くに取り付けられた第1のPZT及びこれに対応する疑似構造は、ベースプレート等において第1のPZTの近位に配置された第2のPZTと組み合わせてもよく、第2のPZTはボイスコイルモータで行うよりもより細かな動作を提供し、そしてさらに第1のPZTが細かな動作を提供する3段作動(TSA)設計を促進させる。ベースプレートの第2のPZTは、第2のPZTの反対側における位置で当該第2のPZTとともにロードビームをプッシュプル形式で移動させる第3のPZTか、或いは、ベースプレートに提供され、第2のPZTと釣り合いを取るために第2のPZTの反対側に提供される第2疑似構造と組み合わせても良い。したがって、サスペンションは、ロードビームの長手方向における異なる位置に配置され、ベースプレートのPZT及びTGAのPZTのようにその関連するPZTに対して横方向の反対側に位置する各疑似構造によって釣り合いが取られた2つのPZTを有するTSAサスペンションであってもよい。
【0012】
本発明の例示的な実施形態は、図面を参照にして以下においてさらに説明され、同じ符号は同じ部分を示している。図形は、一定の縮尺ではない場合があり、特定の要素は、明瞭化と簡潔化のために商業的に指定される一般化された形態か、或いは、概略的な形態で表示される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の例示的な実施形態に係るものであり、ベースプレートに単一のPZTを有するとともにそれに関係する疑似構造を有する3段作動式サスペンションの上方斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の例示的な実施形態に係るものであり、TGA上における単一のPZTとそれに関する疑似構造とを有するGDAサスペンションの底面斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5のサスペンションにおけるTGAの拡大図である。
【
図9】
図9は、構成要素及び各層の明瞭化のために色で示した
図5のサスペンションの拡大図である。
【
図10】
図10は、バネが一体的に形成された金属ベース層の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の第1の例示的な実施形態に係るものであり、ベースプレート12に設けられた単一のPZT14とそれに関連する疑似構造16とを有する3段作動式サスペンション10の上方斜視図である。PZT14の膨張及び収縮は、ロードビーム又はビーム20を移動させるようになっていて、より詳細には、ロードビーム20全体を回転させるようになっている。理想的には、疑似構造16は、PZT14における質量、質量分布及び剛性とバランスをとっている。疑似構造16は、別個に製造され、レーザ溶接や接着剤によってベースプレート12に取り付けられている。疑似構造16は、一部又は全部をベースプレート12と一体的に製造することもできる。ベースプレート12は、一般的にはステンレス鋼(SST)で形成されているので、疑似構造16を単一のステンレス鋼からベースプレート12と一体的に形成することができる。エッチングか又はレーザアブレーションは、疑似構造16の構造においてより大きくて、且つ、より薄い厚み及び幅の領域を作り出すことができる。さらに、レーザ処理は、局所的に柔らかい領域を作成するなど、疑似構造16におけるステンレス鋼の機械的特性を局所的に変更することができ、疑似構造16の特性を微調整するのに役立つ。
【0015】
図2は、
図1のサスペンション10の底面斜視図である。サスペンションの両側に位置する2つのPZT80及びPZT82は、ヘッドスライダ90を回転させるためにプッシュプル方式でジンバルに作用する。ヘッドスライダ90は、ディスクドライブプラッタ(図示せず)からデータを読み取り、又はデータを書き込むために、磁気読取りトランスデューサ及び磁気書込みトランスデューサを備えている。電気回路トレースの一部のみが示されている。実際には、電気回路トレースは、通常は、ヘッドスライダ90からベースプレート12を超えるように、つまり、図のベースプレート12における左上に延びていて、回路のテール領域を画定している。
【0016】
【0017】
【0018】
図5は、本発明の第2の例示的な実施形態に係るものであり、TGA195上における単一のPZT80とPZT80に関する疑似構造70とを有するGDAサスペンション110の底面斜視図である。
図9は、構成要素及び各層の明瞭化のために色で示した
図5のサスペンションの拡大図である。
【0019】
図6は、
図5のサスペンション110におけるTGA195の拡大図である。TGA195は、ステンレス鋼(SST)層30、ポリイミド層50、及びデータを含む情報をヘッドスライダ90との間で伝達する電気回路トレース62からなる撓みジンバルを備えている。銅接触パッド64は、PZT80を長手方向に伸縮させるためにPZT80に駆動電圧又は起動電圧を掛け、それによりヘッドスライダ90を細かく位置決めする。一般的に導電性エポキシからなる導電性ブリッジ86は、銅パッド64とPZT80の上部電極との間に電圧を掛ける。銅パッド64の側方において対向する未使用銅パッド66は、銅パッド64と対称に配置されている。疑似構造70は、理想的には、PZT80の質量、質量分布、及び、剛性についてバランスをとる。疑似構造70は、導電層から作られた銅部68と、絶縁層50から作られたポリイミド部58とを含むことができる。疑似構造70は、
図10に示すようなステンレス鋼ベース層30から作られた部分を含むこともできる。疑似構造70は、断熱のために通常使用される型のカバー層コーティング(図示せず)や、その他にはサスペンションにおける露出した銅層の腐食保護をも含むこともできる。したがって、疑似構造70は、一般的に、トレースジンバルアセンブリ195と一体的に形成されるとともに、ベース金属層30、絶縁層50、導電層60及びカバー層の1つ又は複数の部分で構成されている。
【0020】
図7は、
図6のTGA195の底面図であり、TGA195つまりサスペンション110の第1の側方側111におけるPZT80と、TGA195つまりサスペンション110の対向する第2の側方側113における疑似構造70とを明確に示す。中央に延びる軸L-Lは、TGA195を第1の側方側111と第2の側方側とに分割する。疑似構造70は、ステンレス鋼層か、或いは、銅層60のいずれかで作られ、正確な質量、質量分布及び剛性を「調整」するために必要に応じて選択的に幅の広い部分と狭い部分とを有する金属部を含むことができる。図示されている実施形態では、銅部68は、PZT80の正反対に位置するとともに、幅がW
2である広い部分の両側に幅がW
1である2つの狭い部分を有している。より広い区間は質量を提供し、より狭い区間はその構造の全体的な剛性を減らしている。例えば、最も広い部分は、狭い部分の幅W
1の少なくとも3倍の幅W
2を有することができる。銅層が疑似構造70の質量に対する重要な部分を占めるために使用される場合、一般的に銅部68の最も広い部分は、データをヘッドスライダ90との間で送受信する銅信号トレース62の3倍の平均幅で、且つ、PZT80の質量の少なくとも10%の質量を有している。銅部68は、好ましくは、これらの回路トレースにおける動的性能の低下を避けるために電気信号を送信する任意の回路トレースから電気的に絶縁されている。
【0021】
図8は、TGA195を含む
図5のサスペンションの分解底面図である。TGA195は、一般的にはステンレス鋼からなり、撓みジンバルと定義されるベース金属層30を含んでいる。ステンレス鋼層30は、PZT80が固定され、且つ、PZT80を介してヘッドスライダ90を移動させる第1パッド34と、対称性を提供するのを目的として第1パッド34を全体的にミラーリングし、且つ、PZTが直接的に取り付けられていない第2パッド36とを含んでいる。
【0022】
絶縁層50は、一般的なポリイミドである。ポリイミド層50は、疑似構造70の一部と定義される部分58を含んでいる。ポリイミド部58は、銅部68を支持している。図示された実施形態では、疑似構造70は、絶縁層部58と導電層部68とで大部分が定義
される。TGA195を製造するためにアディティブ製造工程が使用される場合、ポリイミド部58は、ポリイミド層50の残りの部分と同時に作られる。サブトラクティブ製造工程が使われる場合、ポリイミド部58は、残りのポリイミド層50と一体となって始まり、その層における不必要な部分がエッチングの如き除去工程によって除去されることで得られる。
【0023】
導電層60は、一般的な銅又は銅合金(以下、略して「銅」とする)である。導電層60は、銅電気回路トレース62、銅パッド64,66及び疑似構造68を含んでいる。TGA195を製造するためにアディティブ製造工程が使用される場合、銅部68は、銅層60の残りの部分と同時に作られる。サブトラクティブ製造工程が使われる場合、銅部68は、残りの銅層60と一体となって始まり、その層の不必要な部分がエッチングの如き除去工程によって除去されることで得られる。理論的には、銅部68は、回路トレース62等の銅層60における他の部分よりも厚くしたり、或いは、薄くしたりすることができる。しかし、実際には製造上のことを考慮すると、銅部68は、名目の上では回路トレース62を含む残りの銅層60と同じ厚さであることが望まれる。
【0024】
一般的に、カバー層やカバーレイ(図示せず)は、電気回路トレース及びパッドを電気的に絶縁するために、且つ、銅の腐食を防止するためにTGA195における少なくとも露出した銅部に堆積されている。カバー層の一部が疑似構造の一部を構成する場合がある。それ故、釣合体70は、概して、ステンレス鋼層30、ポリイミド層50、銅層60及びカバー層のうちの1つ以上を含んでいる。本明細書及び添付の特許請求の範囲では、疑似構造70の一部であり、電気トレース62上に標準のカバー層として同時に敷設されるカバー層は、TGAと一体的に形成されると考えられる。
【0025】
サスペンションにPZT80を接着するエポキシのような接着剤の領域88,89や導電性接着剤86は、銅パッド64からそのPZTの駆動電圧電極として定義されるPZT80の上部まで電気的な橋渡しをする。
【0026】
したがって、サスペンション110は、サスペンションの第1の側方側に、より具体的にはTGA195の第1の側方側に圧電デバイス80を有し、且つ、圧電デバイスの反対側に位置するTGAの反対側の第2の側方側に疑似構造又は釣合体70を有し、釣合体70は、圧電デバイス80の質量及び剛性と実用範囲において釣り合っている。釣合体70は、TGA195と一体的に形成されている。つまり、釣合体は別々に形成された後、接着剤を使用するなどしてサスペンションに固定されていない。接着剤は、ディスクドライブサスペンションにおける清潔な組立環境内において潜在的な汚染問題を引き起こすので、接着剤の使用を最小限にすることは、製造の複雑さやコストの低減ができるとともに、ディスクドライブアセンブリの信頼性を高めるのに役に立つ。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のために、文脈上別段に明らかでない限り、釣合体70が、PZT80の質量、質量分布、及び/又は剛性と部分的にか、或いは、完全に釣り合うと述べられる際、接着剤86,88及び89の重量及び特性は、PZT80の一部であると見なされ、そのため、PZT80はそれ自体だけではなく、接着剤及びPZT80に関連する他の任意の構成要素も考慮される。
【0028】
好ましい実施形態では、PZT80は、別個に形成された釣合体を全く有しておらず、PZT80に対する全ての釣合体は、一体的に形成された疑似対称性の構造70によって提供される。言うまでもなく、完全且つ全ての精度でPZT80と釣り合うのは、実用的ではないし不可能である。したがって、一体的に形成された疑似構造又は釣合体70は、PZT80の質量の少なくとも50%の質量を有するのが好ましい。さらに、釣合体70は、PZT80の剛性の少なくとも50%以内の剛性を有するのが好ましい。さらに、釣
合体70は、PZT80とほぼ対称関係に配置され、PZT80の30%以内、より好ましくはPZT80の10%以内の質量を有するのが好ましい。
【0029】
PZT80及びそれに関する接着剤の質量やその位置において、あるサスペンションから次のサスペンションに係る変動は多少なりともあるであろう。したがって、疑似構造70の質量及び質量分布を細かく制御できることが望ましい。疑似構造70の質量及び質量分布は、フェムト秒レーザを用いたマイクロマシニングなどによるユーザーレーザアブレーションによって正確にトリミングされることができる。フェムト秒レーザをマイクロマシニングに使用するのは、例えば、LiqiuMenらによる"Trimmed Fiber Taper for
Simultaneous Measurement of AxialStrain and Temperature,"IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 23, No. 5(March 1, 2011)に記載されており、これは、レーザを使用したマイクロマシニングの教示として本明細書に組み込まれる。さらに、フェムト秒レーザの如きレーザは、材料を柔らかく且つ低い剛性にする等、材料の特性を局所的に変更するのに用いることができる。
【0030】
温度センサ、歪みゲージ、抵抗ヒータ、その他のセンサやデバイスの如き他の装置は、別個に形成され、且つ、サスペンションに接着することができ、そうすると、これら他の装置は、PZT80に対する釣り合いの少なくともいくらかを提供する。それ故に、他の実施形態では、サスペンションは別個に形成されず、その後、PZT80における質量の4分の1以上の質量を有するPZT80に釣合体を固定する。
【0031】
図10は、疑似構造70がステンレス鋼層と一体的に形成されたバネ138を有する変形例によるステンレス鋼層又は撓みジンバル30の斜視図である。図示する実施形態では、バネ138は、ステンレス鋼における蛇行部分の形状をとっている。より一般的には、疑似構造は、示されたバネ138のような撓む部分であるステンレス鋼層と一体的に形成されたバネ、及び/又は金属導電層と一体的に形成されたバネを含むことができる。そのようなバネは、広い剛性範囲を提供することができ、その結果、疑似構造の剛性は、PZT80の剛性と密接に一致するように調整することができる。そのようなバネ138は、
図8に示すステンレス鋼層30に組み込むことができる。
【0032】
別の実施形態(図示せず)では、サスペンションは、
図5~
図8に示すように、第1圧電デバイス、例えばPZT80に関連する疑似構造、及び、TGA上に配置された関連する疑似構造70と、
図1~
図4に示すように、第2圧電デバイス、例えばPZT14に関連する疑似対称、及び、ベースプレート12のような第1のPZT80の近位に取り付けられた関連する疑似構造16との両方を備えている。このようなサスペンションは、3段作動サスペンションと定義され、標準的なボイスコイルモータが粗い位置調整を提供し、ベースプレート上に取り付けられた第2のPZT14が中間の位置調整を提供し、ジンバル上かジンバルに取り付けられた第1のPZT80が微細な位置調整を提供する。あるいは、サスペンションは、ベースプレートに取り付けられた2つのPZTと、ベースプレートに取り付けられていない疑似構造と、ジンバルに設けられた1つのPZT80と、任意的に一体的に形成されたバネ138を含む対応する疑似構造70とを含む。
【0033】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される「概して」、「およそ」、「約」及び「実質的に」という用語は、ここでは、任意の正確な寸法、測定値及びアレンジメントからある程度の変動を可能にし、これらの用語は、本明細書に開示される本発明の説明及び動作の文脈上において解釈されるべきであることを理解されたい。
【0034】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される「上」、「下」、「上側」、「下側」などの用語は、特定の空間的又は重力的方向ではなく、互いに対する相対的な部分の空間的関係を示す便宜上の用語であることが理解される。したがって、アセンブリが、図面に
示され、且つ明細書に記載される特定の向きに向けられるか、その方向又は任意の他の回転変動から上下反転されるかどうかに関わらず、用語は、構成部品のアセンブリを包含することが意図される。
【0035】
本明細書の用語「本発明」は、単一の必須要素又は要素群を有する単一の発明のみが提示されることを意味すると解釈されるべきではないことが理解される。同様に、「本発明」という用語は、多数の別個の技術革新を包含し、該別個の技術革新のそれぞれが、別個の発明とみなされ得ることも理解できる。本明細書で開示されているようなトレースジンバルに一体的に形成された疑似構造は、サスペンションが2段作動式であるか3段作動式であるかにかかわらず、サスペンションに使用することができる。同様に、本明細書で開示されているような3段作動は、1以上の疑似構造の使用を必須としない。
【0036】
好ましい実施形態及び図面に関して本発明を詳細に説明したが、本発明の本質や範囲から逸脱することなく本発明の様々な適応や変更をし得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、上述の詳細な説明及び添付の図面は、本発明の範囲を限定するものではなく、添付の特許請求の範囲及びそれらの適切に解釈される法的同等物からのみ推測されるべきであることを理解されたい。