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特開2023-253176価クロムフリー水性表面処理液、表面処理金属および表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025317
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】6価クロムフリー水性表面処理液、表面処理金属および表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/30 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
C23C22/30
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130449
(22)【出願日】2021-08-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】島倉 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 基寛
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA12
4K026AA13
4K026AA22
4K026BA06
4K026BB07
4K026CA13
4K026CA19
4K026CA26
4K026CA33
4K026CA37
4K026CA39
4K026CA41
4K026DA02
(57)【要約】
【課題】金属の耐食性および塗装密着性を向上させるとともに、無着色皮膜を形成することが可能な6価クロムフリー水性表面処理液を提供する。
【解決手段】6価クロムフリー水性表面処理液は、金属の表面処理に用いられる。6価クロムフリー水性表面処理液は、3価クロムイオンと、リン酸イオンと、硫酸イオンと、コロイダルシリカと、を含み、3価クロムイオンに対するリン酸イオンのモル比が1.9以上3.2以下であり、3価クロムイオンに対する硫酸イオンのモル比が0.10以上0.30以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面処理に用いられる6価クロムフリー水性表面処理液であって、
3価クロムイオンと、リン酸イオンと、硫酸イオンと、コロイダルシリカと、を含み、
前記3価クロムイオンに対する前記リン酸イオンのモル比が1.9以上3.2以下であり、
前記3価クロムイオンに対する前記硫酸イオンのモル比が0.10以上0.30以下である、6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項2】
前記3価クロムイオンの含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下である、請求項1に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項3】
前記3価クロムイオンに対するSiO換算した前記コロイダルシリカのモル比が0.30以上2.00以下である、請求項1または2に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項4】
ニッケルイオンをさらに含み、
前記ニッケルイオンの含有量が0.04質量%以上4.00質量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項5】
ポリアクリル酸をさらに含み、
前記ポリアクリル酸の含有量が0.5質量%以上30.0質量%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項6】
オキサゾリン基含有ポリマーをさらに含み、
前記オキサゾリン基含有ポリマーの含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、請求項5に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項7】
pHが1.0以上4.0以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する、表面処理金属。
【請求項9】
前記皮膜の上に、塗膜をさらに有する、請求項8に記載の表面処理金属。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより皮膜を形成する皮膜形成工程を含む、表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価クロムフリー水性表面処理液、表面処理金属および表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属の耐食性を向上させるために、6価クロムイオンを含む水性表面処理液で金属を表面処理する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、近年の環境規制の動向からすると、6価クロムイオンを含む水性表面処理液の使用が制限される可能性がある。
【0004】
そこで、6価クロムイオンを含まない6価クロムフリー水性表面処理液が種々開発されている。例えば、亜鉛系めっき鋼材の表面処理に用いられる6価クロムフリー水性表面処理液として、3価クロム化合物と、コバルト化合物と、キレート系性能のある有機酸と、リン酸と、硫酸と、を含む酸性水溶液が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-194553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、6価クロムフリー水性表面処理液中の酸成分の含有量が多いため、亜鉛系めっき鋼材の表面におけるエッチング反応が激しくなり、3価クロムイオンの付着量が多くなるため、無着色皮膜を形成することができない。また、6価クロムフリー水性表面処理液で表面処理することにより形成される皮膜の上に、塗膜を形成した場合の塗装密着性が低い。
【0007】
本発明は、金属の耐食性および塗装密着性を向上させるとともに、無着色皮膜を形成することが可能な6価クロムフリー水性表面処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、金属の表面処理に用いられる6価クロムフリー水性表面処理液であって、3価クロムイオンと、リン酸イオンと、硫酸イオンと、コロイダルシリカと、を含み、前記3価クロムイオンに対する前記リン酸イオンのモル比が1.9以上3.2以下であり、前記3価クロムイオンに対する前記硫酸イオンのモル比が0.10以上0.30以下である。
【0009】
上記の6価クロムフリー水性表面処理液は、前記3価クロムイオンの含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下であってもよい。
【0010】
上記の6価クロムフリー水性表面処理液は、前記3価クロムイオンに対するSiO換算した前記コロイダルシリカのモル比が0.30以上2.00以下であってもよい。
【0011】
上記の6価クロムフリー水性表面処理液は、ニッケルイオンをさらに含み、前記ニッケルイオンの含有量が0.04質量%以上4.00質量%以下であってもよい。
【0012】
上記の6価クロムフリー水性表面処理液は、ポリアクリル酸をさらに含み、前記ポリアクリル酸の含有量が0.5質量%以上30.0質量%以下であってもよい。
【0013】
上記の6価クロムフリー水性表面処理液は、オキサゾリン基含有ポリマーをさらに含み、前記オキサゾリン基含有ポリマーの含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下であってもよい。
【0014】
上記の6価クロムフリー水性表面処理液は、pHが1.0以上4.0以下であってもよい。
【0015】
本発明の他の一態様は、表面処理金属において、上記の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する。
【0016】
上記の表面処理金属は、前記皮膜の上に、塗膜をさらに有してもよい。
【0017】
本発明の他の一態様は、表面処理方法において、上記の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより皮膜を形成する皮膜形成工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属の耐食性および塗装密着性を向上させるとともに、無着色皮膜を形成することが可能な6価クロムフリー水性表面処理液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
[6価クロムフリー水性表面処理液]
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液は、金属の表面処理、すなわち、金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する表面処理金属の製造に用いられる。
【0021】
金属としては、特に限定されないが、例えば、鉄、亜鉛、アルミニウム等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。すなわち、金属は、合金であってもよいし、めっき処理されていてもよい。
【0022】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液は、3価クロムイオン(Cr3+)と、リン酸イオン(PO 3-)と、硫酸イオン(SO 2-)と、コロイダルシリカ(SiO)と、を含む。
【0023】
ここで、3価クロムイオンに対するリン酸イオンのモル比(PO 3-/Cr3+)は、1.9以上3.2以下であり、2.2以上3.0以下であることが好ましい。3価クロムイオンに対するリン酸イオンのモル比が1.9未満である場合または3.2を超える場合は、表面処理金属の耐食性および塗装密着性が低下する。
【0024】
また、3価クロムイオンに対する硫酸イオン(SO 2-/Cr3+)のモル比は、0.10以上0.30以下であり、0.15以上0.25以下であることが好ましい。3価クロムイオンに対する硫酸イオンのモル比が0.10未満であると、着色皮膜が形成されるとともに、6価クロムフリー水性表面処理液の貯蔵安定性が低下し、0.30を超えると、表面処理金属の耐食性および塗装密着性が低下する。
【0025】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中の3価クロムイオンの含有量は、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上7.0質量%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中の3価クロムイオンの含有量が0.5質量%以上であると、表面処理金属の耐食性が向上し、10.0質量%以下であると、表面処理金属の塗装密着性が向上する。
【0026】
3価クロムイオンに対するSiO換算したコロイダルシリカのモル比(SiO/Cr3+)は、0.30以上2.00以下であることが好ましく、0.35以上1.50以下であることがさらに好ましい。3価クロムイオンに対するSiO換算したコロイダルシリカのモル比が0.30以上2.00以下であると、表面処理金属の耐食性が向上する。
【0027】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中の水の含有量は、特に限定されないが、例えば、10質量%以上99質量%以下である。
【0028】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液は、ニッケルイオン(Ni2+)をさらに含んでいてもよい。これにより、表面処理金属の耐食性が向上する。
【0029】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中のニッケルイオンの含有量は、0.04質量%以上4.00質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以上3.00質量%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中のニッケルイオンの含有量が0.04質量%以上4.00質量%以下であると、表面処理金属の耐食性が向上する。
【0030】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液は、ポリアクリル酸をさらに含んでいてもよい。これにより、表面処理金属の塗装密着性が向上する。
【0031】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中のポリアクリル酸の含有量は、0.5質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中のポリアクリル酸の含有量が0.5質量%以上30.0質量%以下であると、表面処理金属の塗装密着性が向上する。
【0032】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液は、ポリアクリル酸を含む場合に、オキサゾリン基含有ポリマーをさらに含んでいてもよい。これにより、表面処理金属の耐食性が向上する。ここで、オキサゾリン基含有ポリマーは、ポリアクリル酸の架橋剤として機能する。
【0033】
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、例えば、エポクロス(日本触媒製)等が挙げられる。
【0034】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中のオキサゾリン基含有ポリマーの含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液中のオキサゾリン基含有ポリマーの含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下であると、表面処理金属の耐食性が向上する。
【0035】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液のpHは、1.0以上4.0以下であることが好ましく、1.3以上3.0以下であることがさらに好ましい。本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液のpHが1.0以上4.0以下であると、本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液の貯蔵安定性が向上する。
【0036】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液に含まれる3価クロムイオンの供給源としては、特に限定されないが、例えば、リン酸クロム、硝酸クロム、酢酸クロム、塩化クロム等の3価クロム塩が挙げられる。
【0037】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液に含まれる硫酸イオンの供給源としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、硫酸ニッケル等の金属硫酸塩等が挙げられる。
【0038】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液に含まれるリン酸イオンの供給源としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸クロム等の金属リン酸塩等が挙げられる。
【0039】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液に含まれるニッケルイオンの供給源としては、特に限定されないが、例えば、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩が挙げられる。
【0040】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液は、上述した成分以外の成分(他の成分)をさらに含んでいてもよい。
【0041】
他の成分としては、オキサゾリン基含有ポリマー以外のポリアクリル酸の架橋剤、レベリング剤、消泡剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0042】
[表面処理金属]
本実施形態の表面処理金属は、本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する。
【0043】
金属の形状としては、特に限定されないが、例えば、板状等が挙げられる。
【0044】
金属板としては、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板等が挙げられる。
【0045】
亜鉛合金めっき鋼板としては、例えば、亜鉛-ニッケルめっき鋼板、亜鉛-鉄めっき鋼板、亜鉛-クロムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-チタンめっき鋼板、亜鉛-マグネシウムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム鋼板、亜鉛-マンガンめっき鋼板等が挙げられる。
【0046】
めっきとしては、例えば、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等が挙げられる。
【0047】
本実施形態の表面処理金属は、皮膜の上に、塗膜をさらに有していてもよい。
【0048】
塗膜を形成する際に用いることができる塗料としては、特に限定されず、例えば、エポキシ系塗料、アクリル系塗料、ポリエステル系塗料、ウレタン系塗料、フッ素系塗料等が挙げられる。
【0049】
塗膜は、単層膜であってもよいし、積層膜であってもよい。
【0050】
単層膜を形成する際に、1コート用塗料を用いることができる。
【0051】
1コート用塗料としては、例えば、アクリル・メラミン系塗料等が挙げられる。
【0052】
積層膜を形成する際に、プライマーおよびトップコートを用いることができる。
【0053】
プライマーとしては、例えば、エポキシ・ポリエステル系プライマー、フェノール系プライマー等が挙げられる。
【0054】
トップコートとしては、例えば、ポリエステル系トップコート等が挙げられる。
【0055】
[表面処理方法]
本実施形態の表面処理方法は、本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより皮膜を形成する皮膜形成工程を含む。
【0056】
皮膜形成工程は、例えば、本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液を金属の表面に塗布した後、乾燥させる。
【0057】
本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液を塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、ロールコーター塗装、刷毛塗り塗装、ローラー塗装、バーコーター塗装、流し塗り塗装等が挙げられる。
【0058】
乾燥方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0059】
乾燥させる際に、例えば、金属の表面の到達温度(ピークメタル温度)が60℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0060】
皮膜形成工程は、本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液を金属の表面に塗布しながら、乾燥させてもよい。例えば、本実施形態の6価クロムフリー水性表面処理液を、予熱しておいた金属の表面に塗布し、乾燥させてもよい。
【0061】
皮膜形成工程における乾燥後の皮膜の形成量は、0.1mg/m以上500mg/m以下であることが好ましく、1mg/m以上250mg/m以下であることがさらに好ましい。
【0062】
本実施形態の表面処理方法は、皮膜の上に、塗膜を形成する塗膜形成工程をさらに含んでいてもよい。
【0063】
塗膜形成工程は、例えば、塗料を塗布した後、焼き付け乾燥させる。
【0064】
塗料としては、1コート用塗料を用いてもよいし、プライマーおよびトップコートを用いてもよい。
【0065】
なお、プライマーおよびトップコートを用いる場合は、プライマーおよびトップコートを塗布する毎に、焼き付け乾燥させてもよいし、プライマーおよびトップコートを塗布した後に、焼き付け乾燥させてもよい。
【実施例0066】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1~3、5~7、9、11~18、比較例1、4~6]
表1に記載されている特性となるように、リン酸クロム(Cr(H1.5PO)、リン酸(HPO)、硫酸(HSO)、コロイダルシリカ(SiO)、炭酸ニッケル(NiCO)、ポリアクリル酸(PA)、オキサゾリン基含有ポリマー(OX)、pH調整剤およびイオン交換水を混合撹拌し、6価クロムフリー水性表面処理液を得た。
【0068】
ここで、使用した原料の詳細を以下に示す。
リン酸クロム:2M(日本化学工業製)
リン酸:85質量%リン酸水溶液(日本化学工業製)
硫酸:75質量%希硫酸水溶液(昭和電工製)
コロイダルシリカ:スノーテックス-O(日産化学製)
炭酸ニッケル:xNiCO/yNi(OH)・zHO(日本化学産業製)
ポリアクリル酸:ジュリマーAC-10L(東亜合成製)
オキサゾリン基含有ポリマー:エポクロスWA-500(日本触媒製)
pH調整剤:アンモニア水(三井化学ファイン製)
【0069】
[実施例4、8、10、比較例2、3]
リン酸クロムの代わりに、硝酸クロム(Cr(NO)を用いた以外は、上記と同様にして、6価クロムフリー水性表面処理液を得た。
【0070】
ここで、使用した原料の詳細を以下に示す。
硝酸クロム:液体硝酸クロム(日本化学工業製)
【0071】
【表1】
[貯蔵安定性]
40℃のインキュベータで3か月間、6価クロムフリー水性表面処理液を静置した後、以下の判定基準で、貯蔵安定性を目視評価した。
3(合格):6価クロムフリー水性表面処理液が白濁していない場合
2(不合格):6価クロムフリー水性表面処理液がやや白濁している場合
1(不合格):6価クロムフリー水性表面処理液が白濁している場合
[一次防錆処理(皮膜の形成)]
6価クロムフリー水性表面処理液で、板厚0.35mmの鋼板(表2参照)を表面処理することにより皮膜を形成した。具体的には、アルカリ脱脂剤であるサーフクリーナー155(日本ペイント・サーフケミカルズ製)を用いて、60℃で10秒間鋼板をスプレー脱脂した後、スプレー水洗し、乾燥させた。次に、バーコーター#3を用いて、6価クロムフリー水性表面処理液を鋼板に塗布した後、ピークメタル温度80℃で乾燥させた。
【0072】
ここで、使用した鋼板の詳細を以下に示す。
EG:電気亜鉛めっき鋼板
GI:溶融亜鉛めっき鋼板
GL:55%アルミ亜鉛合金めっき鋼板
GA:鉄亜鉛合金めっき鋼板
【0073】
[皮膜の着色]
鋼板に形成された皮膜の着色を目視評価した。
【0074】
[耐食性(SST)]
JIS Z2371に準拠して、皮膜が形成された鋼板の塩水噴霧試験(SST)を240時間実施し、表面の白錆が発生した面積の割合(白錆率)を目視評価し、以下の判定基準で、耐食性(SST)を評価した。
【0075】
合格:白錆率が30%以下である場合
不合格:白錆率が30%を超える場合
【0076】
[二次防錆処理1(塗膜1の形成)]
皮膜が形成された鋼板に、エポキシ・ポリエステル系プライマーNSC5610NC PRIMER(日本ペイント・インダストリアルコーティングス製)を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗装した後、ピークメタル温度215℃で焼き付け乾燥させた。次に、ポリエステル系トップコートS/C 490HQ 1C4661(日本ペイント・インダストリアルコーティングス製)を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターで塗装した後、ピークメタル温度230℃で焼き付け乾燥させ、塗膜1を形成した。
【0077】
[二次防錆処理2(塗膜2の形成)]
皮膜が形成された鋼板に、フェノール系プライマーNキノコート38(日本ペイント・インダストリアルコーティングス製)を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗装した後、ピークメタル温度220℃で焼き付け乾燥させた以外は、塗膜1と同様にして、塗膜2を形成した。
【0078】
[二次防錆処理3(塗膜3の形成)]
皮膜が形成された鋼板に、1コート用アクリル・メラミン系塗料スーパーラック100(日本ペイント・インダストリアルコーティングス製)を乾燥膜厚が20μmとなるようにバーコーターで塗装した後、150℃で20分間焼き付け乾燥させ、塗膜3を形成した。
【0079】
[塗装密着性(2TT)]
20℃の環境下で、塗膜が形成された鋼板を、スペーサとしての、板厚0.35mmのアルミニウム板2枚を間に挟んだ状態で180°折り曲げ加工した後、折り曲げ加工部を3回テープ剥離した。このとき、JIS Z0237:2009に準拠して、テープ剥離試験を実施した。塗膜の剥離度合いを20倍ルーペで観察し、以下の判定基準で、塗装密着性(2TT)を評価した。
5(合格):塗膜の剥離度合いが0%である場合
4.5(合格):塗膜の剥離度合いが1~10%である場合
4(合格):塗膜の剥離度合いが11~20%である場合
3.5(不合格):塗膜の剥離度合いが21~30%である場合
3(不合格):塗膜の剥離度合いが31~40%である場合
2.5(不合格):塗膜の剥離度合いが41~50%である場合
2(不合格):塗膜の剥離度合いが51~60%である場合
1.5(不合格):塗膜の剥離度合いが61~70%である場合
1(不合格):塗膜の剥離度合いが71~80%である場合
0.5(不合格):塗膜の剥離度合いが81~90%である場合
0(不合格):塗膜の剥離度合いが91~100%である場合
【0080】
[塗装密着性(0TT)]
スペーサを間に挟まない状態で180°折り曲げ加工した以外は、塗装密着性(2TT)と同様にして、塗装密着性(0TT)を評価した。
【0081】
[耐食性(SST)]
JIS Z2371に準拠して、塗膜が形成された鋼板にクロスカットを入れた後、塩水噴霧試験(SST)を1000時間実施し、カット傷からの片側の平均フクレ幅を測定し、以下の判定基準で、耐食性(SST)を評価した。
合格:平均フクレ幅が0.45mm以下である場合
不合格:平均フクレ幅が0.45mmを超える場合
【0082】
[耐食性(CCT)]
JIS K5621に準拠して、塗膜が形成された鋼板にクロスカットを入れた後、複合サイクル腐食試験(CCT)を2000時間実施し、カット傷からの片側の平均フクレ幅を測定し、以下の判定基準で、耐食性(CCT)を評価した。
合格:平均フクレ幅が0.3mm以下である場合
不合格:平均フクレ幅が0.3mmを超える場合
【0083】
表2に、6価クロムフリー水性表面処理液の特性および表面処理(一次防錆処理、二次防錆処理)後の鋼板の特性の評価結果を示す。なお、比較例2、5の6価クロムフリー水性表面処理液は、貯蔵安定性が不合格であったため、耐食性の評価を省略した。
【0084】
【表2】
表2から、実施例1~16の6価クロムフリー水性表面処理液は、無着色皮膜を形成することができ、表面処理鋼板の耐食性および塗装密着性が高いことがわかる。
【0085】
これに対して、比較例1の6価クロムフリー水性表面処理液は、PO 3-/Cr3+が4であるため、表面処理鋼板の耐食性および塗装密着性が低い。比較例3の6価クロムフリー水性表面処理液は、PO 3-を含まないため、表面処理鋼板の耐食性および塗装密着性が低い。比較例4の6価クロムフリー水性表面処理液は、SO 2-/Cr3+が0.4であるため、表面処理鋼板の耐食性および塗装密着性が低い。比較例5の6価クロムフリー水性表面処理液は、SO 2-/Cr3+が0.06であるため、着色皮膜が形成される。比較例6の6価クロムフリー水性表面処理液は、SiOを含まないため、表面処理鋼板の耐食性および塗装密着性が低い。
【手続補正書】
【提出日】2022-09-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の表面処理に用いられる6価クロムフリー水性表面処理液であって、
3価クロムイオンと、リン酸イオンと、硫酸イオンと、コロイダルシリカと、を含み、
前記3価クロムイオンに対する前記リン酸イオンのモル比が1.9以上3.2以下であり、
前記3価クロムイオンに対する前記硫酸イオンのモル比が0.10以上0.30以下であり、
pHが1.0以上4.0以下である、6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項2】
前記3価クロムイオンの含有量が0.5質量%以上10.0質量%以下である、請求項1に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項3】
前記3価クロムイオンに対するSiO換算した前記コロイダルシリカのモル比が0.30以上2.00以下である、請求項1または2に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項4】
ニッケルイオンをさらに含み、
前記ニッケルイオンの含有量が0.04質量%以上4.00質量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項5】
ポリアクリル酸をさらに含み、
前記ポリアクリル酸の含有量が0.5質量%以上30.0質量%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項6】
オキサゾリン基含有ポリマーをさらに含み、
前記オキサゾリン基含有ポリマーの含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下である、請求項5に記載の6価クロムフリー水性表面処理液。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより形成される皮膜を有する、表面処理金属。
【請求項8】
前記皮膜の上に、塗膜をさらに有する、請求項に記載の表面処理金属。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の6価クロムフリー水性表面処理液で金属を表面処理することにより皮膜を形成する皮膜形成工程を含む、表面処理方法。