(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025319
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】電動弁制御装置および電動弁制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F16K 31/04 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
F16K31/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130452
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 智宏
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 真司
(72)【発明者】
【氏名】金子 靖明
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 亮直
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062AA15
3H062BB04
3H062BB33
3H062CC02
3H062DD01
3H062EE06
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】電力消費を抑制しつつ、より正確な角度で電動弁のロータを停止させる。
【解決手段】電動弁制御装置は、ロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、切り替えられたステップ毎に、励磁パターンに従って各相の駆動電流を特定する回転制御部と、特定された各相の駆動電流を印加する回転指示部と、を備え、回転制御部は、回転中のロータが停止する前に、励磁パターンに従って特定された各相の駆動電流の比率を維持しつつ、各相について回転中よりも高いレベルの駆動電流を特定し、回転指示部は、特定された各相の高いレベルの駆動電流を、ステッピングモータに印加する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップに対応する励磁パターンに基づいて各相に印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、
前記ロータを回転させるときに順次前記ステップを切り替え、切り替えられた前記ステップ毎に、当該ステップに対応付けられている前記励磁パターンに従って前記各相の前記駆動電流を特定する回転制御部と、
前記回転制御部によって特定された前記各相の前記駆動電流を、前記ステッピングモータに印加する回転指示部と、を備え、
前記回転制御部は、回転中の前記ロータが停止する前に、前記励磁パターンに従って特定された前記各相の前記駆動電流の比率を維持しつつ、前記各相について前記回転中よりも高いレベルの駆動電流を特定し、
前記回転指示部は、前記回転制御部によって特定された前記各相の前記高いレベルの駆動電流を、前記ステッピングモータに印加することを特徴とする電動弁制御装置。
【請求項2】
前記回転制御部は、前記回転中に順次切り替わる前記ステップの終了ステップにおいて、前記終了ステップに対応する前記励磁パターンに従って特定された前記各相の前記駆動電流の比率を維持しつつ、前記各相について前記回転中よりも前記高いレベルの駆動電流を特定することを特徴とする請求項1に記載の電動弁制御装置。
【請求項3】
前記回転制御部は、前記回転中に順次切り替わる前記ステップの終了ステップに近い手前ステップにおいて、前記手前ステップに対応する前記励磁パターンに従って特定された前記各相の前記駆動電流の比率を維持しつつ、前記各相について前記回転中よりも前記高いレベルの駆動電流を特定することを特徴とする請求項1または2に記載の電動弁制御装置。
【請求項4】
前記手前ステップと前記終了ステップのステップ差は、前記ステッピングモータが脱調したと判定されるときのステップ差よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の電動弁制御装置。
【請求項5】
前記手前ステップと前記終了ステップのステップ差は、前記回転中におけるステップの遅れ数よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の電動弁制御装置。
【請求項6】
前記回転制御部は、前記終了ステップで前記ステッピングモータを待機状態にする前に、前記各相について前記高いレベルの駆動電流より低いレベルの駆動電流を特定し、
前記回転指示部は、前記終了ステップで前記各相に印加している前記高いレベルの駆動電流を前記低いレベルの駆動電流に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の電動弁制御装置。
【請求項7】
ステップに対応する励磁パターンに基づいて各相に印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、前記ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁を制御するコンピュータに、
前記ロータを回転させるときに順次前記ステップを切り替え、切り替えられた前記ステップ毎に、当該ステップに対応付けられている前記励磁パターンに従って前記各相の前記駆動電流を特定する回転制御機能と、
前記回転制御機能によって特定された前記各相の前記駆動電流を、前記ステッピングモータに印加する回転指示機能と、を発揮させ、
前記回転制御機能において、回転中の前記ロータが停止する前に、前記励磁パターンに従って特定された前記各相の前記駆動電流の比率を維持しつつ、前記各相について前記回転中よりも高いレベルの駆動電流を特定し、
前記回転指示機能において、前記回転制御機能によって特定された前記各相の前記高いレベルの前記駆動電流を、前記ステッピングモータに印加することを特徴とする電動弁制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動弁に関し、特にステッピングモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、圧縮機、凝縮器、膨張装置、蒸発器等を冷凍サイクルに配置して構成される。冷凍サイクルには、膨張装置としての膨張弁など、冷媒の流れを制御するために各種制御弁が設けられている。近年の電気自動車等の普及に伴い、駆動部としてステッピングモータを備える電動弁が広く採用されつつある。
【0003】
このような電動弁として、弁開度を検出するための磁気センサを備えるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。ロータとともに回転する作動ロッドの一端に弁体が設けられ、他端にマグネット(センサマグネット)が設けられる。そのセンサマグネットと軸線方向に対向するように磁気センサが設けられる。ロータの回転運動は、ねじ送り機構により弁体の軸線運動に変換される。ロータの回転に伴う磁束の変化を磁気センサで捉えることによりセンサマグネットの回転角度ひいては弁体の軸線方向位置を検出でき、弁開度を算出できる。
【0004】
電動弁内において上下動する弁体には、制御の基準となる基準位置が設定される。ロータが弁閉方向への回転を続けて「原点」ともよばれる基準位置に至ったとき、ロータはストッパにより回転を規制される(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-135908号公報
【特許文献2】特開2020-204344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機構内部の摺動などによってステッピングモータに負荷がかかると、ロータの回転に遅れが生じる。この遅れは回転角の誤差を生み、ロータが停止した状態での弁開度の精度を低下させる。
【0007】
ロータの回転の遅れを生じさせない方法として、ステッピングモータに印加する駆動電流のレベルを高めることが考えられる。しかし、大きい駆動電流を印加し続けると、電力消費が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明の主たる目的は、電力消費を抑制しつつ、より正確な角度で電動弁のロータを停止させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様における電動弁制御装置は、ステップに対応する励磁パターンに基づいて各相に印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁を制御する電動弁制御装置であって、ロータを回転させるときに順次ステップを切り替え、切り替えられたステップ毎に、当該ステップに対応付けられている励磁パターンに従って各相の駆動電流を特定する回転制御部と、回転制御部によって特定された各相の駆動電流を、ステッピングモータに印加する回転指示部と、を備え、回転制御部は、回転中のロータが停止する前に、励磁パターンに従って特定された各相の駆動電流の比率を維持しつつ、各相について回転中よりも高いレベルの駆動電流を特定し、回転指示部は、回転制御部によって特定された各相の高いレベルの駆動電流を、ステッピングモータに印加する。
【0010】
本発明のある態様における電動弁制御プログラムは、ステップに対応する励磁パターンに基づいて各相に印加される駆動電流によってロータを回転させるステッピングモータと、ロータの回転運動を弁体の軸線運動に変化させる機構とを有する電動弁を制御するコンピュータに、ロータを回転させるときに順次ステップを切り替え、切り替えられたステップ毎に、当該ステップに対応付けられている励磁パターンに従って各相の駆動電流を特定する回転制御機能と、回転制御機能によって特定された各相の駆動電流を、ステッピングモータに印加する回転指示機能と、を発揮させ、回転制御機能において、回転中のロータが停止する前に、励磁パターンに従って特定された各相の駆動電流の比率を維持しつつ、各相について回転中よりも高いレベルの駆動電流を特定し、回転指示機能において、回転制御機能によって特定された各相の高いレベルの駆動電流を、ステッピングモータに印加する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電力消費を抑制しつつ、より正確な角度で電動弁のロータを停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】ステータおよびその周辺の構成を表す図である。
【
図4】磁気センサとセンサマグネットおよびセンサマグネットから発生する磁力線の関係を示す模式図である。
【
図6】センサマグネットのセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
【
図7】角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
【
図10】
図10(A)は、ステップと理想のロータ角度の関係を示す図である。
図10(B)は、従来技術によるステップと実際のロータ角度の関係を示す図である。
図10(C)は、実施形態によるステップと実際のロータ角度の関係を示す図である。
【
図11】駆動電流値とロータ角度の変化を示す図である。
【
図13】電動弁制御装置の処理過程を示すフローチャートである。
【
図14】
図14(A)は、変形例におけるステップとロータ角度の関係を示す図である。
図14(B)は、変形例におけるステップとロータ角度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る電動弁を表す断面図である。
電動弁1は、図示しない自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を絞り膨張させて霧状に送出する膨張弁、霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器等が設けられている。電動弁1は、その冷凍サイクルの膨張弁として機能する。
【0015】
電動弁1は、弁本体2とモータユニット3とを組み付けて構成される。弁本体2は、弁部を収容したボディ5を有する。ボディ5は、「バルブボディ」として機能する。ボディ5は、第1ボディ6と第2ボディ8とを同軸状に組み付けて構成される。第1ボディ6および第2ボディ8は、ともにステンレス鋼(以下「SUS」と表記する)からなる。第2ボディ8には弁座24が設けられるため、耐摩耗性に優れた材質が選定されている。第1ボディ6は第2ボディ8よりも溶接性に優れ、第2ボディ8は第1ボディ6よりも加工性に優れている。
【0016】
第1ボディ6は、外径が下方に向けて段階的に縮径する段付円筒状をなす。第1ボディ6の上端部の外径がやや縮径され、段差による係止部52が構成されている。第1ボディ6の下部外周面には、電動弁1を図示しない配管ボディに組み付けるための雄ねじ10が形成されている。なお、配管ボディには、凝縮器側から延びる配管や、蒸発器につながる配管などが接続されるが、その詳細については説明を省略する。第1ボディ6における雄ねじ10のやや上方の外周面には、環状溝からなるシール収容部12が形成され、シールリング14(Oリング)が嵌着されている。
【0017】
第1ボディ6の下部には、円穴状の凹状嵌合部16が設けられている。第2ボディ8は有底円筒状をなし、その上部が凹状嵌合部16に圧入されている。第2ボディ8の下部外周面には環状溝からなるシール収容部18が形成され、シールリング20が嵌着されている。第2ボディ8の底部を軸線方向に貫通するように弁孔22が設けられ、その弁孔22の上端開口部に弁座24が形成されている。第2ボディ8の側部に入口ポート26が設けられ、下部に出口ポート28が設けられている。第1ボディ6および第2ボディ8の内方に弁室30が形成されている。入口ポート26と出口ポート28とは、弁室30を介して連通している。
【0018】
ボディ5の内方には、モータユニット3のロータ60から延びる作動ロッド32が挿通されている。作動ロッド32は、弁室30を貫通する。作動ロッド32は、非磁性金属からなる棒材を切削加工して得られ、その下部にニードル状の弁体34が一体に設けられている。弁体34が弁室30側から弁座24に着脱することにより弁部を開閉する。
【0019】
第1ボディ6の上部中央には、ガイド部材36が立設されている。ガイド部材36は、非磁性金属からなる管材を段付円筒状に切削加工して得られ、その軸線方向中央部の外周面に雄ねじ38が形成されている。ガイド部材36の下端部が大径となっており、その大径部40が第1ボディ6の上部中央に圧入され、同軸状に固定されている。ガイド部材36は、その内周面により作動ロッド32を軸線方向に摺動可能に支持する一方、その外周面によりロータ60の回転軸62を回転摺動可能に支持する。
【0020】
作動ロッド32における弁体34のやや上方にばね受け42が設けられ、ガイド部材36の底部にもばね受け44が設けられている。ばね受け42,44間に、弁体34を閉弁方向に付勢するスプリング46(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0021】
一方、モータユニット3は、ロータ60とステータ64とを含む三相ステッピングモータとして構成されている。モータユニット3は、有底円筒状のキャン66を有し、そのキャン66の内方にロータ60を配置し、外方にステータ64を配置して構成されている。キャン66は、弁体34およびその駆動機構が配置される空間を覆うとともにロータ60を内包する有底円筒状の部材であり、冷媒の圧力が作用する内方の圧力空間(内部空間)と作用しない外方の非圧力空間(外部空間)とを画定する。
【0022】
キャン66は、非磁性金属(本実施形態ではSUS)からなり、その下部が第1ボディ6の上端部に外挿されるようにして同軸状に組み付けられている。キャン66は、その下端が係止部52に係止されることによりその挿入量が規制される。キャン66の下端と第1ボディ6との境界に沿って全周溶接が施されることにより(図示略)、ボディ5とキャン66との固定およびシールが実現されている。ボディ5とキャン66とに囲まれた空間が、上記圧力空間を形成している。
【0023】
ステータ64は、積層コア70の内周部に複数の突極を等間隔に配置して構成される。積層コア70は、環状のコアが軸線方向に積層されて構成される。各突極には、コイル73(電磁コイル)が装着されたボビン74が組み付けられている。これらコイル73およびボビン74により「コイルユニット75」が構成される。本実施形態では、三相電流を供給するためのモータユニット3つのコイルユニット75が、積層コア70の中心軸に対して120度ごとに設けられている(詳細後述)。
【0024】
ステータ64は、モータユニット3のケース76と一体に設けられている。すなわち、ケース76は、耐食性を有する樹脂材の射出成形(「インサート成形」または「モールド成形」ともいう)により得られる。ステータ64は、その射出成形によるモールド樹脂によって被覆されている。ケース76は、そのモールド樹脂からなる。以下、ステータ64とケース76とのモールド成形品を「ステータユニット78」とも称する。
【0025】
ステータユニット78は、中空構造を有し、キャン66を同軸状に挿通しつつボディ5に組み付けられている。第1ボディ6における係止部52のやや下方の外周面には、環状溝からなるシール収容部80が形成され、シールリング82(Oリング)が嵌着されている。第1ボディ6の上部外周面とケース76の下部内周面とに間にシールリング82が介装されることにより、キャン66とステータ64との間隙への外部雰囲気(水など)の侵入が防止されている。
【0026】
ロータ60は、回転軸62に組み付けられた円筒状のロータコア102と、ロータコア102の外周面に設けられたロータマグネット104と、ロータコア102の上端面に設けられたセンサマグネット106を備える。ロータコア102は、回転軸62に組み付けられている。ロータマグネット104は、その周方向に複数極に磁化(着磁)されている。センサマグネット106も複数極に磁化(着磁)されている。ロータマグネット104およびセンサマグネット106は、ロータコア102に一体成型されたマグネット部に後工程で着磁して得られたものであるが、その詳細については後述する。
【0027】
回転軸62は、有底円筒状の円筒軸であり、その開口端を下にしてガイド部材36に外挿されている。回転軸62の下部内周面に雌ねじ108が形成され、ガイド部材36の雄ねじ38と噛合している。これらのねじ部によるねじ送り機構109によって、ロータ60の回転運動が作動ロッド32の軸線運動に変換される。それにより弁体34が軸線方向、つまり弁部の開閉方向に移動(昇降)する。
【0028】
作動ロッド32の上部が縮径され、その縮径部110が回転軸62の底部112を貫通している。縮径部110の先端部には環状のストッパ114が固定されている。一方、縮径部110の基端と底部112との間には、作動ロッド32を下方(つまり閉弁方向)に付勢するスプリング116が介装されている。このような構成により、開弁時には、ストッパ114が底部112に係止される態様で作動ロッド32がロータ60と一体変位する。一方、閉弁時には、弁体34が弁座24から受ける反力によりスプリング116が押し縮められる。このときのスプリング116の弾性反力により弁体34を弁座24に押し付けることができ、弁体34の着座性能(弁閉性能)を高められる。
【0029】
モータユニット3は、キャン66の外側に回路基板118を有する。回路基板118は、ケース76の内方に固定されている。本実施形態では、回路基板118の下面に制御部や通信部として機能する各種回路が実装されている。具体的には、モータを駆動するための駆動回路、駆動回路に制御信号を出力する制御回路(マイクロコンピュータ)、制御回路が外部装置又は調整装置と通信するための通信回路、各回路およびモータ(コイル)に電力を供給するための電源回路等が実装されている。ケース76の上端は、蓋体77により閉止されている。ケース76における蓋体77の下方の空間に回路基板118が配設されている。
【0030】
回路基板118におけるセンサマグネット106との対向面には、磁気センサ119が設けられている。磁気センサ119は、キャン66の底部端壁を介してセンサマグネット106と軸線方向に対向する。ロータ60の回転に伴ってセンサマグネット106による磁束が変化する。磁気センサ119は、この磁束の変化を捉えることでロータ60の変位量(本実施形態ではロータ60の回転角度)を検出する。制御部は、そのロータ60の変位量に基づいて弁体34の軸線方向位置ひいては弁開度を算出する。
【0031】
それぞれのボビン74からはコイル73につながる一対の端子117が延出し、回路基板118に接続されている。回路基板118からは電源端子、グランド端子および通信端子(これらを総称して「接続端子81」ともいう)が延出し、それぞれケース76の側壁を貫通して外部に引き出されている。ケース76の側部にコネクタ部79が一体に設けられ、そのコネクタ部79の内方に接続端子81が配置されている。
【0032】
ロータ60の下方にはストッパ90が形成される。特許文献2に示すようにストッパ90の構成は既知である。作動ロッド32が弁閉位置に至ると、ロータ60にはスプリング116による弾性反力がかかり、弁閉が安定維持される。最終的には、ストッパ90がガイド部材36の一部として形成される図示しない突部(係止部)に当接することにより、ロータ60の弁閉方向への回転が完全に規制される。以下、ストッパ90が突部と当接したときのステップをステップの「原点」とする。また、本実施形態においてはステップの原点において弁体34が「基準位置」にあるものとする。
【0033】
図2は、ステータ64およびその周辺の構成を表す図である。
図2(A)は
図1のA-A矢視断面に対応し、ステータユニット78の断面図である。
図2(B)はステータ64のみ(樹脂モールド前の状態)を表す図である。なお、
図2(A)には参考のため、キャン66およびロータ60を示している(二点鎖線参照)。
【0034】
モータユニット3が三相のモータであるため、
図2(A)に示すように、ロータ60の軸線Lの周りに等間隔でコイルユニット75が設けられている。
図2(B)にも示すように、積層コア70の内周部に軸線Lに対して120度の間隔でスロット120a~120c(これらを特に区別しないときは「スロット120」と総称する)が設けられている。各スロット120には、その中央から半径方向内向きに突出する突極122a~122c(「突極122」と総称する)が形成され、それぞれU相コイル73a、V相コイル73b、W相コイル73c(「コイル73」と総称する)が組み付けられている。互いに隣接するスロット120の間にも、横断面U字状のスリット124が形成され、磁路の最適化が図られている。
【0035】
ロータマグネット104は、キャン66を介して突極122a~122cと対向する。本実施形態では
図2(A)に示すように、ロータマグネット104が雄ねじ10極に磁化されているが、その極数については適宜設定できる。
【0036】
次に、ロータ60におけるマグネットの構成について詳細に説明する。
図3は、ロータ60の構成を表す図である。
図3(A)は斜視図、
図3(B)は正面図、
図3(C)は平面図、
図3(D)は
図3(C)のB-B矢視断面図である。図中の「N」はN極、「S」はS極を示す。なお、同図においては、説明の便宜上、回転軸62(
図1参照)の表記を省略している。
【0037】
ロータ60は、ロータコア102の外周面に沿ってロータマグネット104を有し、ロータコア102の軸端部にセンサマグネット106を有する(
図3(A),
図3(D))。ロータマグネット104は円筒状をなし、外周面10極着磁とされている(
図3(B),
図3(C))。一方、センサマグネット106は環状をなし、平面2極着磁とされている。
【0038】
図3(D)に示したように、ロータマグネット104の内周面が環状溝140に嵌合し、センサマグネット106の下面が環状溝144に嵌合している。すなわち、環状溝140は、ロータコア102からのロータマグネット104の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。同様に、環状溝144は、ロータコア102からのセンサマグネット106の脱落を防止する脱落防止構造として機能する。
【0039】
以上の構成を前提として、次に、磁気センサ119がロータ60の回転角度を検出する方法について説明する。なお、以下においては、
図1の上下方向を「開閉方向」または「上下方向」とよぶ。
【0040】
図4は、磁気センサ119とセンサマグネット106およびセンサマグネット106から発生する磁力線の関係を示す模式図である。
図4は、磁気センサ119およびセンサマグネット106を側面から見たときの模式図である。
図4に示すようにセンサマグネット106(永久磁石)のNからSに磁力線が発生する。センサマグネット106の直上に位置する磁気センサ119は、センサマグネット106から発生する磁力線を検出する既知構成のロータリーセンサである。磁気センサ119は、磁力線の方向に基づいて、センサマグネット106(ロータ60)の回転角を検出する(詳細後述)。なお、本実施形態において、磁気センサ119はセンサマグネット106の回転角を検出可能であるが、磁気センサ119により、センサマグネット106までの距離、いいかえれば、作動ロッド32の開閉方向における移動量を直接検出することはできないものとして説明する。
【0041】
図5は、センサマグネット106の平面図である。
ステータ64のコイル73に後述の方法にて駆動電流を流すことにより、ロータ60に回転駆動力が与えられる。ロータ60を閉弁方向(下方向)に回転させると(以下、「下降回転」とよぶ)、ロータ60に連動して作動ロッド32(弁体34)は閉弁方向、すなわち、
図1の図面下方向に移動する。ロータ60を開弁方向に回転させると(以下、「上昇回転」とよぶ)、ロータ60と連動して作動ロッド32(弁体34)は開弁方向、すなわち、
図1の図面上方に移動する。
【0042】
ロータ60の回転に連動して、センサマグネット106も回転する。センサマグネット106の回転にともなって、センサマグネット106の磁界方向MAも変化する。
図5に示すようにXY座標系(
図1における水平面に対応)を設定したとき、磁界方向MAがX軸となす角度をθとする。磁気センサ119は、特許文献1の角度センサに示す既知の方法にて、センサマグネット106の回転角度θを検出する。
【0043】
図6は、センサマグネット106のセンサ値と感知角との関係を示すグラフである。
横軸は、磁気センサ119の計測対象であるセンサマグネット106の回転角度θを示す(以下、「感知角」とよぶことがある)。縦軸は、磁気センサ119のセンサ値である。この例におけるセンサ値は、アークタンジェント値である。
図6に示すように、磁気センサ119は感知角に対応してノコギリ型の波形を示すセンサ値を検出する。磁気センサ119は、アナログ信号であるセンサ値を、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)によってパルスのデューティー比に置き換えて、変調されたデジタル信号を示す電流を出力する。このとき、センサ値を「下限値DA~上限値TA」に正規化して、パルスにおけるデューティー比が定められる。下限値DA、上限値TAは任意に設定可能である。下限値DAは、0であってもよい。以下、パルスのデューティー比を「角度値」とよぶことがある。制御回路は、磁気センサ119の仕様に則って、デジタル信号のパルスから読み取られるデューティー比(角度値)に基づき、実際のロータ角度(感知角)を特定できる。
【0044】
図7は、角度値(デューティー比)とステップの関係を示すグラフである。
本実施形態において、弁体34を最上位点から最下位点まで移動させるとき、ロータ60は合計4回転する。詳細は後述するが、制御回路は3相のコイル73に供給する駆動電流を変化させることにより、各コイル73の磁界方向を変化させることでロータ60を回転させる。本実施形態においては、制御回路はロータ60をu1度単位で回転させる(詳細後述)。以下、この単位回転量のことを「ステップ」とよぶ。360度×4回転÷u1度=1440/u1=SM4より、制御回路は作動ロッド32の動作範囲においてロータ60に合計SM4ステップ分の回転を指示することになる。ロータ60の4回転に対応して、角度値はDA~TAの間で4回変化する。
【0045】
ステップ0が原点に相当し、ステップnは、原点から数えてn番目のステップを表す。図示したSM1は、機械角が1周したときのステップの順番を表し、SM2は、機械角が2周したときのステップの順番を表し、SM3は、機械角が3周したときのステップの順番を表し、SM4は、機械角が4周したときのステップの順番を表す。機械角は、ロータ60などの回転体の実空間における角度を指す。
【0046】
制御回路はU相コイル73aに所定レベルの駆動電流を流す。このとき、V相コイル73bおよびW相コイル73cについても同様に所定レベルの駆動電流が流される。各コイル73に駆動電流を流すことによりコイル73における磁界を変化させ、ロータ60を回転させる。U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに与える駆動電流の電流値の組み合わせを「励磁パターン」とよぶ。本実施形態における励磁パターンはN種類である。ある励磁パターンP1を1つ隣りの励磁パターンP2に変化させることが「1ステップ」の回転、いいかえれば、単位回転量分の回転指示に対応する。
【0047】
励磁パターンの変化により、いいかえれば、1ステップずつ励磁パターンを変更することにより、指示角α(理想的なロータ角度)が制御される。指示角αの変化に同期して、ロータ60が回転し、感知角θも変化する。励磁パターンを変化させたあと、磁気センサ119により検出される角度値から感知角θを算出することで、制御回路は、感知角θ(実際のロータ角度)が指示角αに追従している状態であるか否かを判定する。感知角θが指示角αに追従している状態を「同調」といい、感知角θが指示角αに追従できていない状態を「脱調」という。
【0048】
N種類の励磁パターンにはそれぞれパターンIDが付与される。パターンID=N1の励磁パターン(以下、「励磁パターン(N1)」のように表記する)におけるU相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれの駆動電流値をIU(N1)、IV(N1)、IW(N1)とする。すなわち、励磁パターン(N1)とは[IU(N1)、IV(N1)、IW(N1)]の組み合わせを意味する。駆動電流IU(N1)、IV(N1)およびIW(N1)により各コイル73に磁界を生じさせて、ロータ60を励磁パターン(N1)に応じた指示角αへ誘導する。
【0049】
N種類のパターンIDは、電気角の1周分のN個のステップに対応している。電気角は、N個のパターンIDを0~360度の範囲に均等に割り当てた理論値である。原点から最上位までの各ステップnは、循環して順次パターンIDに対応付けられる。また、連続するパターンIDは、連続的に変化する励磁パターンに対応する。
【0050】
制御回路が、ステップnからステップn+1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1+1)へ切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1+1)、IV(N1+1)、IW(N1+1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ上昇回転させる。反対に、制御回路が、ステップnからステップn-1に移すとき、励磁パターン(N1)から励磁パターン(N1-1)に切り替える。これにより、駆動電流値[IU(N1-1)、IV(N1-1)、IW(N1-1)]で、各コイル73による磁界を変化させ、ロータ60を単位回転量だけ下降回転させる。
【0051】
図3に示した構造のロータ60の場合、ロータマグネット104がN極とS極の対を5個有するので、ロータ60の1周(機械角の360度)において電気角は5周する。つまり、電気角の1周は、機械角の72度に相当する。また、電気角の1周にはN個のステップが含まれるので、1ステップの変化で回転する機械角は、u1=72/N度となる。また、
図7に関連して説明したように、弁体34を最上位点から原点まで移動させる間にロータ60を4周させる場合、全域にわたる移動で4×5×N個だけステップを進めることになる。つまり、
図7に示したSM4は、4×5×Nである。同様にSM1は、5×Nであり、SM2は、2×5×Nであり、SM3は、3×5×Nである。
【0052】
本実施形態においては、ストッパ90がガイド部材36(より厳密にはガイド部材36の突部)と当接するときのロータ60の位置を原点(基準位置)とし、制御回路はこのときの角度値および励磁パターンを「原点情報(基準情報)」として記録する。電動弁1の製造時において、電動弁1に固有の原点情報(基準情報)が回路基板118の不揮発性メモリに記録される。そして、制御回路は、原点(弁閉位置)を基準するステップnにより、作動ロッド32の移動量、すなわち、電動弁1の弁開度を調整する。
【0053】
図8は、ロータ60の移動範囲の模式図である。
図8の右方向はロータ60の開方向(上昇方向)、左方向は閉方向(下降方向)を示す。ステップ0の原点は、ストッパ90が回転規制を受け、ロータ60がそれ以上の下降回転をできなくなる限界位置である。ステップMは、弁体34が上昇を開始する弁開点である。Mの値は、所定の共通値でもよいし、電動弁1毎に異なる固有値でもよい。固有値を用いる場合には、弁開点のステップを示すMの値を回路基板118の不揮発性メモリに記憶しておく。原点から弁開点までの範囲では、スプリング116の弾性反力により弁体34が弁座24に押し付けられるため、弁閉状態は維持される。ロータ60が原点0から上昇回転を続け、弁開点Mを超えたとき弁体34は弁座24から離脱し、開弁状態となる。弁開点を超えたあともロータ60の上昇回転が続くと弁開度は徐々に拡大し、入口ポート26から出口ポート28への流量が増加する。
【0054】
図9は、励磁パターンの遷移図である。
各ステップには、励磁パターンが対応付けられている。励磁パターンは、U相の駆動電流、V相の駆動電流およびW相の駆動電流を定める。励磁パターンによって、各相に印加される駆動電流の比率は異なる。電動弁制御装置は、ステップ毎に励磁パターンを替えながら各相の駆動電流を印加する。本実施形態では、励磁パターンに従って特定された各相の駆動電流の比率を維持しつつ、各相について回転中よりも高いレベルの駆動電流を用いることがある。
【0055】
図10(A)は、ステップと理想のロータ角度の関係を示す図である。
開始ステップn(S)から終了ステップn(E)まで遷移する間の理想のロータ角度を示している。理想のロータ角度は、ステップに対応する励磁パターンで生じる力が釣り合って安定するロータ60の角度を意味する。つまり、理想のロータ角度は、機構内部の摺動などによる負荷が無いと想定して計算される理論値である。ステップが1つ進むごとに理想のロータ角度は一定間隔で変化する。
【0056】
図10(B)は、従来技術によるステップと実際のロータ角度の関係を示す図である。
ここでは、励磁パターンで定められている低いレベルの駆動電流が用いられているものとする。開始ステップn(S)から3つ目のステップが進むまでは、ロータ60は回転しない。4つ目のステップで、ロータ60が回転し始める。つまり、ステップの遅れ数が3となる。このように、機構内部の摺動の負荷などの影響で、電気信号に対してロータ60は遅れて動く。ロータ60の回転中、実際のロータ角度は理想のロータ角度に追いついていない。回転中のステップの遅れ数も3である。終了ステップn(E)に至った時点でも、実際のロータ角度は理想のロータ角度と差がある。停止時のステップの遅れ数も3である。つまり、ロータ60の停止姿勢が狙い通りにならない。その結果、弁体と弁座の間の隙間が想定と異なることになり、想定している流量特性が得られないことになる。実際のロータ角度の遅れがさらに大きくなれば、ステッピングモータが脱調する恐れもある。
【0057】
駆動電流を大きくすれば理想のロータ角度に近づけることも可能であるが、消費電力に制限があるシステム(たとえば、電気自動車の冷房システム)の場合、駆動電流が小さく抑えられる必要があるため、このような問題が生じる。本実施形態では、電力消費をセーブしながら、正確な姿勢でロータ60を停止させられるように制御する技術を提案する。
【0058】
図10(C)は、実施形態によるステップと実際のロータ角度の関係を示す図である。
ステッピングモータの動き出しでは、励磁パターンで定められている低いレベルの駆動電流を用いる。従って、
図10(B)と同様に、実際のロータ角度が理想のロータ角度よりも遅れる。ロータ60を停止させる終了ステップn(E)で、高いレベルの駆動電流を用いる。3つ相に高い電流を流せば、ステッピングモータ内に大きな磁力が生じて、ロータ60を理想の姿勢に引き寄せる力が大きくなる。その結果、理想の角度でロータ60を停止させることが可能となる。
【0059】
実施形態の制御方法によれば、ロータ60を停止させる直前の短い時間だけ、使用電力が増える。したがって、常時大きい駆動電流を用いる制御方法に比べて全体としての電力消費が大幅に抑制される。このように、短時間だけ駆動電流のレベルを高めてステッピングモータのトルクを大きくすることを「マイクロトルクアップ」という。
【0060】
駆動電流には上限を設けることとする。コイルの周囲にあるステータに流れる磁力が飽和する「磁気飽和」となる電流値よりも小さい値で、マイクロトルクアップを行う。磁気飽和の状態では、電流を高めても磁力がそれ以上大きくならないので、電力の無駄遣いになるからである。駆動電流を磁気飽和が生じない範囲内に収めることによって、電力消費の抑制に寄与できる。
【0061】
図11は、駆動電流値とロータ角度の変化を示す図である。
待機中処理は、ロータ60が停止しているときの処理である。待機中処理は、ステッピングモータに印加する駆動電流(「待機電流」という。)を極めて小さくしている。図中、待機電流のレベルをC(W)で示す。ステッピングモータ内に極めて小さな磁力しか生じていないため、ロータ60に加わる力はわずかである。
【0062】
外部装置から移動コマンドを受けてロータ60を回転させようとする段階で、電動弁制御装置は、始動時処理を行う。始動時処理では、電動弁制御装置が、ステータによってロータ60を磁気的にグリップさせ、電気的に制御可能な姿勢にロータ60を落ち着かせる。そのために、電動弁制御装置は、開始ステップn(S)に対応する励磁パターンの駆動電流による印加を所定の第1時間だけ維持する。所定の第1時間は、たとえば10~30msecの範囲内である。これにより、開始ステップn(S)の理想のロータ角度と一致するように、ロータ60の向きが合わせられる。この図では、励磁パターンの駆動電流のレベル(低いレベル)をC(L)と表し、開始時の実際のロータ角度をA(S)と表す。駆動電流のレベルは、駆動電流の大きさを示している。駆動電流のレベルが高ければ、励磁パターンに比例して駆動電流が倍増し、駆動電流のレベルが低ければ、励磁パターンに比例して駆動電流が縮減することを意味する。駆動電流のレベルの具体的な指標として、励磁パターンに乗じられる所定倍率が、駆動電流のレベルに相当すると捉えてもよい。
【0063】
始動時処理が終わると、回転中処理に移る。回転中処理では、ロータ60の回転速度に応じて一定間隔でステップが切り替えられる。そして、各ステップに対応する励磁パターンの駆動電流(低いレベルC(L)の駆動電流)でステッピングモータが駆動する。順次励磁パターンが変化するのでロータ60は回転する。回転中処理のステップをn(i)で示す。iは、連続する自然数である。
【0064】
回転中処理で順次ステップn(i)が切り替わり、終了ステップn(E)に切り替わる段階で停止時処理に移る。停止時処理では、終了ステップn(E)でマイクロトルクアップが行われる。終了ステップn(E)に対応する励磁パターンにおけるU相、V相およびW相の駆動電流の大きさの比率を保ちながら、各相の駆動電流の値を倍増させる。励磁パターンで定められているU相の駆動電流の値に所定倍率(1より大きい)を乗じて、高いレベルC(H)のU相の駆動電流値を求める。同様に、V相の駆動電流の値に同じ所定倍率を乗じて、高いレベルC(H)のV相の駆動電流値を求め、W相の駆動電流の値にも同じ所定倍率を乗じて、高いレベルC(H)のW相の駆動電流値を求める。そして、倍増させた各相の高いレベルC(H)の駆動電流が各相のコイルに印加される。これによりロータ60が理想の姿勢に強く引き寄せられる。理想のロータ角度は、レベルの高低によって変わらない。低いレベルC(L)の駆動電流に対する高いレベルC(H)の駆動電流の比である所定倍率は、例えば1.5~4.0の範囲内である。ただし上述のとおり、高いレベルC(H)の駆動電流が磁気飽和を生じさせないことが望ましい。マイクロトルクアップは、所定の第2時間だけ継続される。所定の第2時間は、たとえば5~15msecの範囲内である。
【0065】
マイクロトルクアップの開始から所定の第2時間経過すると、ロータ60はある程度動きが落ち着く。その後、終了ステップn(E)に対応する励磁パターンによる低いレベルの駆動電流の印加に切り替わる。低いレベルの駆動電流が印加されている間にロータ60は完全に停止する。この間のロータ60の回転はわずかであって、ロータ60はほぼ理想の角度で停止する。低いレベルの駆動電流の印加は、所定の第3時間だけ継続される。所定の第3時間は、たとえば5~15msecの範囲内である。ロータ60の完全な停止を待つ間は、大きな力は必要がないので、低レベルの駆動電流で足りる。低レベルに切り替えることによって電力消費の抑制に役立つ。
【0066】
停止時処理の最後に脱調検出の処理も行われる。磁気センサ119を用いて計測された実際のロータ角度が、終了ステップn(E)に対応する励磁パターンR(E)で狙った理想のロータ角度と大きくずれている場合には、脱調したと判定される。ロータ角度のずれが小さければ、正常に同調しているのでそのまま動作が継続される。
【0067】
なお、ここでは、マイクロトルクアップの後に印加される駆動電流のレベルが回転中と同じである例を示したが、回転中よりも高くてもよいし、低くてもよい。少なくとも、マイクロトルクアップの後に印加される駆動電流のレベルは、マイクロトルクアップにおけるレベルよりも低く、待機電流のレベルよりも高い。
【0068】
所定の第3時間だけ低いレベルによる駆動電流の印加を継続して、さらに脱調検出も終えると、待機中処理に移る。待機中処理では、上述したように極小さな待機電流がステッピングモータに印加される。つまり、ロータ60が停止している間は、ほとんど電力を消費しない。
【0069】
図12は、電動弁制御装置200の機能ブロック図である。
電動弁制御装置200の各構成要素は、回路基板118上における制御回路(マイクロコンピュータ)、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェア(制御回路)と、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバおよびアプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0070】
電動弁制御装置200は、データ処理部202、通信部204、基準情報記憶部206およびロータインタフェース部208を含む。
通信部204は、接続端子81を介して外部装置に対するインタフェースとして機能する。ロータインタフェース部208は、磁気センサ119およびコイルユニット75に対するインタフェースとして機能する。基準情報記憶部206は、原点情報(基準情報)を記憶する。基準情報記憶部206は不揮発性メモリに構成される記憶領域である。データ処理部202は、基準情報および通信部204、ロータインタフェース部208から取得された各種データに基づいて各種処理を実行する。データ処理部202は、通信部204、ロータインタフェース部208および基準情報記憶部206のインタフェースとしても機能する。
【0071】
通信部204は、外部装置からデータおよびコマンドを受信する受信部210と、外部装置にデータを送信する送信部212を含む。
【0072】
ロータインタフェース部208は、回転指示部214および回転検出部216を含む。回転指示部214は、U相コイル73a、V相コイル73bおよびW相コイル73cそれぞれに駆動電流を出力する。回転検出部216は、磁気センサ119から受けた電流のパルスからデューティー比(角度値)を読み取る。
【0073】
データ処理部202は、回転制御部218と脱調検出部220を含む。回転制御部218は、原点情報及び外部装置から受信したコマンドに基づいて回転指示部214を制御する。脱調検出部220は、脱調検出の処理を行う。
【0074】
図13は、電動弁制御装置200の処理過程を示すフローチャートである。
受信部210が、外部装置から移動コマンド(最終ステップn(E)を含む。)を受信すると(S10)、回転制御部218は、移動コマンドに従って回転方向と回転速度を決める。最終ステップn(E)は、ロータを停止させるときのステップであるので、停止ステップ、目標ステップあるいは移動先ステップと捉えてもよい。
【0075】
回転制御部218は、開始ステップn(S)を特定する(S12)。開始ステップn(S)は、たとえば前回の移動コマンドにおける最終ステップn(E)である。回転制御部218は、ステップnと励磁パターンの対応関係に従って、開始ステップn(S)に対応する励磁パターンR(S)を特定する(S14)。回転制御部218は、励磁パターンR(S)で定まる各相の駆動電流の値を回転指示部214に伝え、回転指示部214は、各相のコイルにそれらの駆動電流を印加する。このときの駆動電流は、回転中に印加される駆動電流と同じく低いレベルC(L)である(S16)。所定の第1時間が経過するまでこの状態を維持する。ここで示したS10~S16の処理が、始動時処理(
図11参照)に相当する。
【0076】
所定の第1時間が経過すると、回転制御部218は、所定の回転速度に従って、次のステップn(i)に進めるタイミングを待つ(S18)。次のステップn(i)に進めるタイミングに至ると、回転制御部218は、終了ステップn(E)へ向かう次のステップn(i)を特定する(S20)。回転制御部218は、ステップnと励磁パターンの対応関係に従って、次のステップn(i)に対応する励磁パターンR(i)を特定する(S22)。回転制御部218は、次のステップn(i)が終了ステップn(E)であるか否かを判定する(S24)。次のステップn(i)が終了ステップn(E)ではないと判定した場合には、回転制御部218は、励磁パターンR(i)で定まる各相の駆動電流の値を回転指示部214に伝え、回転指示部214は、各相のコイルにそれらの駆動電流を印加する。このときの駆動電流は、低いレベルC(L)である。そして、S18に戻って上述した処理を繰り返す。
【0077】
一方、次のステップn(i)が終了ステップn(E)であると判定した場合には、回転制御部218は、終了ステップn(E)に対応する励磁パターンR(E)で定められている各相の駆動電流の値に、所定倍率(1より大きい)を乗じて、停止前に印加される高いレベルC(H)の駆動電流値を求める。そして、回転制御部218は、回転指示部214に、各相について高いレベルC(H)の駆動電流値を伝え、回転指示部214は、これに応じて各相のコイルに高いレベルC(H)の駆動電流を印加する。つまり、各相の駆動電流が低いレベルC(L)から高いレベルC(H)に切り替わる(S26)。低いレベルの駆動電流値に共通の所定倍率が乗じられるので、高いレベルC(H)では低レベルの各相の駆動電流の比率と同じ比率を保つ。
【0078】
高いレベルC(H)の印加状態が、所定の第2時間だけ維持される。高いレベルC(H)に切り替わってから所定の第2時間が経過すると、回転制御部218は、終了ステップn(E)に対応する励磁パターンR(E)で定まる各相の駆動電流の値を回転指示部214に伝え、回転指示部214は、各相のコイルにこれらの駆動電流を印加する。これにより、各相における駆動電流の比率を保ったまま、各相とも高いレベルC(H)の駆動電流から低いレベルC(L)の駆動電流に切り替わる(S28)。低いレベルC(L)の印加状態が、所定の第3時間だけ維持される。
【0079】
低いレベルC(L)に切り替わってから所定の第3時間が経過すると、脱調検出部220は、脱調検出の処理を行う(S30)。脱調検出の処理では、磁気センサ119を用いて計測された実際のロータ角度が、終了ステップn(E)の励磁パターンR(E)で狙った理想のロータ角度と大きくずれている場合に、脱調したと判定される。脱調判定の基準は、ロータ角度のずれで定義してもよいし、ステップ数の差分で定義してもよい。ステップ数の差分は、ロータ角度のずれに基づいて一意に定まる。脱調した場合には、外部装置へ脱調エラーが通知される。脱調していなければ、回転制御部218は、回転指示部214に、各相について待機電流値を伝え、回転指示部214は、各相のコイルに待機電流を印加する(S32)。これにより、待機中処理(
図11参照)に移行する。なお、上述したS26~S32の処理が、停止時処理(
図11参照)に相当する。
【0080】
[変形例]
図14(A)と
図14(B)は、変形例におけるステップとロータ角度の関係を示す図である。
図14(A)に示すように、終了ステップn(E)の1回前のステップn(E-1)からマイクロトルクアップを開始してもよい。あるいは、終了ステップn(E)の複数回前のステップn(i)からマイクロトルクアップを開始してもよい。このように、終了ステップの手前からマイクロトルクアップを開始して終了ステップn(E)までマイクロトルクアップを行えば、ロータ60を理想の姿勢に強く引き寄せる期間が長くなるので、より確実に実際のロータ角度を理想のロータ角度に近づけることができる。
【0081】
図14(B)に示すように、終了ステップn(E)の1回前のステップn(E-1)でマイクロトルクアップを行い、終了ステップn(E)でマイクロトルクアップを行わないようにしてもよい。あるいは、終了ステップn(E)の複数回前のステップn(i)でマイクロトルクアップを開始し、終了ステップn(E)の手前でマイクロトルクアップを終えるようにしてもよい。終了ステップn(E)の手前で実際のロータ角度を理想のロータ角度に近づけておけば、終了ステップn(E)でマイクロトルクアップを行わなくても、理想のロータ角度に近い姿勢でロータ60を停止させることが可能である。
【0082】
このように、終了ステップn(E)に近い範囲内でマイクロトルクアップを行うことによっても、理想のロータ角度に近い姿勢でロータ60を停止させることができる。
図10(B)で説明した回転中のステップの遅れ数(
図10(B)の例では、3)よりも小さいステップ数だけ終了ステップn(E)の手前でマイクロトルクアップを行えば、停止時の実際のロータ角度を理想のロータ角度にある程度近づけることができる。たとえば、終了ステップn(E)の2つ手前のステップn(E-2)でマイクロトルクアップを行えば、ステップn(E-2)における理想のロータ角度に合わせられるので、
図10(B)に示したようにマイクロトルクアップを行わない場合の終了ステップn(E)の実際のロータ角度よりも理想のロータ角度に近づく。
【0083】
また、脱調と判定されない程度にステップのずれを抑えられればよいとすれば、脱調と判定されるときのステップ数の差分より小さい回数だけ終了ステップn(E)より手前でマイクロトルクアップを行えば足りる。たとえば、終了ステップn(E)の3つ前のステップn(E-3)でマイクロトルクアップを行えば、ステップn(E-3)における理想のロータ角度に合わせられるので、ロータ停止時におけるステップ遅れ数は3以下となる。脱調判定の仕様が、ロータ60が停止したときの実際のロータ角度と、終了ステップn(E)の理想のロータ角度とのずれに相当するステップ数の差分が4以上のときに脱調と判定するようになっているとすれば、脱調と判定されずに済むことになる。
【0084】
このように、終了ステップn(E)の手前のステップから終了ステップn(E)までの所定範囲内のいずれかのステップで、少なくとも1回マイクロトルクアップを行うことで、電力消費を抑えてロータ停止の精度を高めるという効果が奏される。
【0085】
上記実施形態では、磁気センサ119をセンサマグネット106と軸線方向に対向させる構成を例示した(
図1参照)。変形例においては、センサマグネットの側方(径方向外側)に磁気センサを配置してもよい。すなわち、両者を径方向に対向させてもよい。センサマグネットの外周面に着磁してもよい。その極数については、例えば弁本体2極とするなど適宜設定できる。
【0086】
上記実施形態では、ロータマグネット104とセンサマグネット106とが軸線方向に離隔する構成を例示した。変形例においては、ロータマグネットとセンサマグネットとを一体に構成してもよい。マグネット部成形工程において、ロータマグネット部とセンサマグネット部とを一体成形してもよい。その場合、磁気センサが磁束を確実に検出できるよう、センサマグネットの面積(外径)を大きくしてもよい。センサマグネットがロータコアの外周にはみ出すことになるため、センサマグネットとロータマグネットを射出成形しやすくなる。
【0087】
各実施形態では、ステータのコアとして積層コア(積層磁心)を例示した。変形例においては、圧粉コアその他のコアを採用してもよい。圧粉コアは、「圧粉磁心」とも呼ばれ、軟磁性材料を粉末にし、非導電性の樹脂等でコーティングした紛体と、樹脂バインダとを混練し、圧縮成型・加熱することで得られる。
【0088】
各実施形態では、回路基板の下面に駆動回路、制御回路、通信回路および電源回路が実装される構成を例示したが、実装される回路については適宜変更できる。例えば、駆動回路および電源回路を実装する一方、制御回路を電動弁の外部に設置してもよい。また、各回路を回路基板の上面に実装してもよい。
【0089】
各実施形態では、モータユニットとして、PM型ステッピングモータを採用したが、ハイブリッド型ステッピングモータを採用してもよい。また、上記実施形態では、モータユニットを三相モータとしたが、二相,四相、五相などその他のモータとしてもよい。ステータにおける電磁コイルの数も3つや6つに限らず、モータの相数に合わせて適宜設定してよい。
【0090】
各実施形態の電動弁は、冷媒として代替フロン(HFC-134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0091】
各実施形態では、上記電動弁を膨張弁として構成したが、膨張機能を有しない開閉弁や流量制御弁として構成してもよい。
【0092】
各実施形態では、上記電動弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用する例を示したが、車両用に限らず電動膨張弁を搭載する空調装置に適用可能である。また、冷媒以外の流体の流れを制御する電動弁として構成することもできる。
【0093】
本実施形態における1は電気自動車に限らず、各種の自動車に応用可能である。
【0094】
センサマグネット106を両面4極着磁(片面弁本体2極の両面着磁)としてもよい。上面と下面で磁極の極性を反転させることで磁束を強化できる。この場合、ロータ60が閉弁方向に変位してセンサマグネット106と磁気センサ119との距離が大きくなっても、磁気センサ119の感度を良好に維持できる。
【符号の説明】
【0095】
1 電動弁、2 弁本体、3 モータユニット、5 ボディ、6 第1ボディ、8 第2ボディ、10 雄ねじ、12 シール収容部、14 シールリング、16 凹状嵌合部、18 シール収容部、20 シールリング、22 弁孔、24 弁座、26 入口ポート、28 出口ポート、30 弁室、32 作動ロッド、34 弁体、36 ガイド部材、38 雄ねじ、40 大径部、42 ばね受け、44 ばね受け、46 スプリング、52 係止部、60 ロータ、62 回転軸、64 ステータ、66 キャン、70 積層コア、73 コイル、73a U相コイル、73b V相コイル、73c W相コイル、74 ボビン、75 コイルユニット、76 ケース、77 蓋体、78 ステータユニット、79 コネクタ部、80 シール収容部、81 接続端子、82 シールリング、90 ストッパ、102 ロータコア、104 ロータマグネット、106 センサマグネット、108 雌ねじ、109 ねじ送り機構、110 縮径部、112 底部、114 ストッパ、116 スプリング、117 端子、118 回路基板、119 磁気センサ、120 スロット、122 突極、124 スリット、140 環状溝、144 環状溝、200 電動弁制御装置、202 データ処理部、204 通信部、206 基準情報記憶部、208 ロータインタフェース部、210 受信部、212 送信部、214 回転指示部、216 回転検出部、218 回転制御部、220 脱調検出部