IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ・ファインケミカル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025324
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】パラジウム触媒の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/44 20060101AFI20230215BHJP
   B01J 23/90 20060101ALI20230215BHJP
   B01J 38/48 20060101ALI20230215BHJP
   B01J 38/56 20060101ALI20230215BHJP
   C07C 201/12 20060101ALN20230215BHJP
   C07C 205/19 20060101ALN20230215BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
B01J23/44 Z
B01J23/90 Z
B01J38/48 A
B01J38/56
C07C201/12
C07C205/19
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130464
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 仁郎
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA09
4G169AA10
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA21C
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB25
4G169CB64
4G169DA05
4G169GA10
4H006AA05
4H006AC24
4H006BA25
4H006BA48
4H006BB20
4H006BB24
4H006BD36
4H006BE61
4H039CA99
4H039CL25
(57)【要約】
【課題】芳香族ハロゲン化合物とエチニル化合物とのカップリング反応において、反応で使用したパラジウム触媒を簡易な方法で、かつ高収量で回収することである。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物と下記一般式(2)で表されるエチニル化合物とのカップリング反応において、窒素含有有機溶媒下、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物を加えてカップリング反応を行い、得られた反応液に非水系有機溶媒と水を添加した後、ろ過によりパラジウム炭素を回収する。
(式中、Rは極性置換基、Xはハロゲン元素、nは1から3の整数を示し、Aは、水酸基を有する炭化水素基または、トリアルキルシリル基を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは極性置換基、Xはハロゲン元素、nは1から3の整数を示す)
で表される芳香族ハロゲン化合物と下記一般式(2)
【化2】
(式中Aは、水酸基を有する炭化水素基または、トリアルキルシリル基を示す)
で表されるエチニル化合物とのカップリング反応において、窒素含有有機溶媒下、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物を加えてカップリング反応を行い、得られた反応液に非水系有機溶媒と水を添加した後、ろ過によりパラジウム炭素を回収するパラジウム触媒の回収方法。
【請求項2】
前記カップリング反応により得られた反応液に、窒素含有有機溶媒を留去した後に非水系有機溶媒と水を添加する請求項1記載のパラジウム触媒の回収方法。
【請求項3】
前記窒素含有有機溶媒がN-メチル-2-ピロリドンまたはN,N-ジメチルアセトアミドである請求項1または2記載のパラジウム触媒の回収方法。
【請求項4】
前記芳香族ハロゲン化合物の極性置換基が、ニトロ基またはアミノ基である請求項1から3のいずれかに記載のパラジウム触媒の回収方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップリング反応で使用したパラジウム触媒を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ハロゲン化合物とパラジウム触媒を用いたカップリング反応は、新規に炭素-炭素結合を形成する上で重要な反応である。例えば、薗頭カップリング反応においては、芳香族ハロゲン化合物とエチニル化合物とをパラジウム触媒を用いてカップリング反応させることで、芳香族環にエチニル化合物が結合したエチニルベンゼン化合物を合成することができる。ここで用いられるパラジウム触媒は、一般的にはジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムやテトラ(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどの有機系パラジウムが用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、パラジウムは貴金属であり、パラジウム触媒は非常に高価であるにもかかわらず、上述したパラジウム触媒は有機溶媒に溶解しており、反応後に有機溶媒の中からパラジウム触媒のみを回収することは非常に困難で、ほとんど回収することが出来ない状況であった。このパラジウム触媒の回収例として、反応後に水素を導入してパラジウムを還元して回収しているが、パラジウムの還元には5から60kg/cmの圧が必要で、さらに水添設備などの製造設備が必要である(特許文献2参照)。
【0004】
また、パラジウム触媒を用いた類似のSuzukiカップリング反応では、パラジウム触媒を回収している例は報告されているが、化合物が特殊な場合に限定されており、また回収するために水層のpHを調整しなければならず、操作が煩雑で工業的な適応は難しい状況である(特許文献3)。
【0005】
よって、カップリング反応で使用したパラジウム触媒を工業的に簡易な操作で回収することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許第103183722号明細書
【特許文献2】特開昭63-319054号公報
【特許文献3】特表2018-516843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、芳香族ハロゲン化合物とエチニル化合物とのカップリング反応において、反応で使用したパラジウム触媒を簡易な方法で、かつ高収量で回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパラジウム触媒の回収方法は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、Rは極性置換基、Xはハロゲン元素、nは1から3の整数を示す)
で表される芳香族ハロゲン化合物と下記一般式(2)
【化2】
(式中Aは、水酸基を有する炭化水素基または、トリアルキルシリル基を示す)
で表されるエチニル化合物とのカップリング反応において、窒素含有有機溶媒下、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物を加えてカップリング反応を行い、得られた反応液に非水系有機溶媒と水を添加した後、ろ過によりパラジウム炭素を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカップリング反応で使用したパラジウム触媒を回収する方法は、薗頭カップリング反応でパラジウム炭素を使用して実施しており、反応後非水系有機溶媒と水を添加することで析出したパラジウム炭素をろ過により回収することができる。操作は非常に簡易な方法でありパラジウム炭素を回収することで、工業的にも触媒回収が可能となる。
【0010】
また、カップリング反応で得られたエチニル基を有する芳香族化合物は、反応性のエチニル基を有していることから、ファインケミカル、医農薬原料、樹脂・プラスチック原料、電子材料・光学材料の原料として用いることが可能である。さらに、パラジウム炭素を高収量で回収することにより、エチニル基を有する芳香族化合物の製造コストをより安価にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の製造方法の詳細を記載する。
本発明で使用する原料は、下記一般式(1)
【化3】
(式中、Rは極性置換基、Xはハロゲン元素、nは1から3の整数を示す)
で表される芳香族ハロゲン化合物である。ここで、Rは極性置換基を示し、一般的には、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基などを示し、アミノ基、ヒドロキシ基は保護基を導入した形でも良い。好ましい極性置換基として、反応性が低いニトロ基を有する化合物、アルカリ性を示すアミノ基が好ましい。特にニトロ基がベンゼン環に一つ結合したニトロベンゼン化合物や、アミノ基がベンゼン環に一つ結合したアニリン類は、工業的に入手が容易であり、特に好ましい。
【0012】
nは1から3の整数を示す。通常3つベンゼン環に結合した化合物は入手が困難であり、nは1または2が好ましい。
【0013】
Xはハロゲン元素を示し、塩素、臭素、ヨウ素を示す。カップリング反応の反応性は、通常ヨウ素が一番高く、塩素が一番低いが、ヨウ素化合物は高価であり、塩素、臭素を用いることが特に好ましい。
【0014】
特に好ましい芳香族ニトロハロゲン化合物は、4-クロロニトロベンゼン、3-クロロニトロベンゼン、2-クロロニトロベンゼン、4-ブロモニトロベンゼン、3-ブロモニトロベンゼン、2-ブロモニトロベンゼン、1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼン、3,4-ジニトロクロロベンゼン、1-ブロモ-2,4-ジニトロベンゼン、3,4-ジニトロブロモベンゼンなどが挙げられる。
【0015】
また、好ましい芳香族アニリン化合物は、4-クロロアニリン、3-クロロアニリン、2-クロロアニリン、4-ブロモアニリン、3-ブロモアニリン、2-ブロモアニリン、1-クロロ-2,4-ジアミノベンゼン、3,4-ジアミノクロロベンゼン、1-ブロモ-2,4-ジアミノベンゼン、3,4-ジアミノブロモベンゼンなどが挙げられる。
【0016】
本発明において、カップリング反応は、反応溶媒である窒素含有有機溶媒に、原料である極性置換基を有する芳香族化合物、パラジウム炭素、リン化合物、銅化合物、アミンを加えた後、撹拌しながら下記一般式(2)
【化4】
(式中Aは、水酸基を有する炭化水素基または、トリアルキルシリル基を示す)
で表されるエチニル化合物を滴下または投入し、加熱させることで反応が進行する。
【0017】
ここで、反応溶媒として使用される窒素含有有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンが好ましく、特に反応性の高いN,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0018】
この窒素含有有機溶媒は、カップリング反応で生成するクロロアミン塩をスラリー状で撹拌させる必要があるため、原料である極性置換基を有する芳香族ハロゲン化合物に対して3から10質量倍使用することが好ましく、特に3から7質量倍使用することが特に好ましい。窒素含有有機溶媒使用量が3質量倍より少ないと、反応で使用するエチニル化合物同士がカップリングした二量体等の化合物が副成するため、好ましくない。
【0019】
カップリング反応で用いるパラジウム炭素は、活性炭を担体として、その上にパラジウム(0価)を分散、担持させたものであり、パラジウムカーボンとも呼ばれる。パラジウム炭素は、含水していないドライ品、含水しているウェット品のどちらも使用することができる。パラジウム炭素は空気中で容易に発火するため、工業的には含水しているウェット品を使用するのが好ましい。このパラジウム炭素の種類はカップリング反応の反応性に影響を与え、特に市販で販売されているエヌ・イーケムキャット社製のパラジウムカーボンが、反応性が高く好ましい。さらにエヌ・イーケムキャット社製のパラジウムカーボンの中でも、特に反応収率が高いTypeNE、TypeK、TypeEがより好ましい。特にパラジウムカーボンの使用量が少ないできるTypeK、TypeEがさらに好ましい。
【0020】
パラジウム炭素は、高価な触媒であるため、芳香族ハロゲン化合物のモル数に対して1.0モル%以下が好ましく、より使用量が少なく、安価に製造できる0.5モル%以下がさらに好ましい。
【0021】
カップリング反応で使用するリン化合物は、有機リン化合物が好ましく、汎用で入手できるトリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリn-プロピルホスフィンなどの炭化水素系ホスフィン化合物が好ましく、一般的に安価で入手可能であり、粒状粉体として取り扱いやすいトリフェニルホスフィンが特に好ましい。リン化合物の使用量は、パラジウム炭素に対して4.0当量以上が好ましく、パラジウム錯体を形成可能な4.0から8.0当量がより好ましい。
【0022】
銅化合物は反応開始剤として使用され、汎用で入手可能なヨウ化銅が好ましい。銅化合物の使用量はパラジウム炭素に対して0.1から1.0当量が好ましく、0.1から0.5当量がより好ましい。
【0023】
薗頭カップリング反応では、反応で副生するハロゲンをトラップするため、アミン類を添加して反応を行うが、アミンとしては、アルキルアミンが好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミン、トリn-ブチルアミンなどの第3級アミンや、ジイソブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミンなどの第2級アミンが好ましく、安価で入手が容易であり、沸点が低く濃縮での除去が可能なトリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミンがより好ましい。
アミンの投入量は、原料である芳香族ハロゲン化合物に対して1.0から3.0当量が好ましく、1.0から2.0当量がより好ましい。
【0024】
また、添加剤としてアルカリ金属塩を添加して反応させると反応収率が向上する場合があり好ましい。添加するアルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、臭化カリウム、臭化ナトリウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられるが、反応がより進行する臭化リチウム、ヨウ化リチウムがより好ましい。このアルカリ金属塩の添加量は、原料である芳香族ハロゲン化合物に対して0.1から2.0当量が好ましく、薗頭カップリング反応をより進行させることができる0.5から1.0当量がより好ましい。
【0025】
エチニル化合物としては、前記一般式(2)で表される化合物を使用する。前記一般式(2)中のAが水酸基を有する炭化水素基であるとき、エチニル化合物としては、好ましくは下記一般式(3)
【化5】
(式中、B、Bは水素原子、または炭化水素基を示す)
で表される。B、Bは、互いに同じでも異なっていてもよい。B、Bは、好ましくは水素原子または炭素数1から5のアルキル基であり、例えば、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基などが挙げられる。一般式(3)で表されるエチニル化合物として、例えば2-プロペン-1-オール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3-ブチン-2-オール、3-メチル-4-ペンチン-3-オール、4-ペンチン-3-オール、4-メチル-5-ヘキシン-4-オール、5-ヘキシン-4-オール、等が挙げられる。
【0026】
また、前記一般式(2)中のAがトリアルキルシリル基であるとき、エチニル化合物としては、好ましくは下記一般式(4)
【化6】
(式中、D,D,Dは炭化水素基を示す)
で表される。D,D,Dは互いに同じでも異なっていてもよい。R,R,Rは、好ましくは炭素数1から5のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基などが挙げられる。一般式(4)で表されるエチニル化合物として、例えばトリメチルシリルアセチレン、トリエチルシリルアセチレン、トリイソプロピルシリルアセチレン、等が挙げられる。
【0027】
また、工業的な入手の容易さから、前記一般式(2)で表されるエチニル化合物は、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3-ブチン-2-オール、2-プロペン-1-オールがより好ましい。
【0028】
エチニル化合物の使用量は、原料である芳香族ハロゲン化合物に対して1.0当量から3.0当量が好ましく、過剰になるとエチニル化合物同士がカップリングした二量体が副生するため、1.0から2.0当量がより好ましい。
【0029】
薗頭カップリング反応では、反応装置に溶媒である窒素含有有機溶媒、原料である極性置換基を有する芳香族ハロゲン化合物、触媒であるパラジウム炭素、添加剤であるリン化合物、反応開始剤である銅化合物、ハロゲンのトラップとしてアミン、必要であればアルカリ金属塩を投入後、エチニル化合物を滴下、投入して加熱することで反応が進行する。反応温度は反応が容易に進行する80℃以上が好ましく、より反応が進行する100℃以上がより好ましい。
【0030】
反応はガスクロマトグラフや高速液体クロマトグラフィーで分析しながらカップリング反応を追跡することが可能である。カップリング反応を行う反応時間は、反応時間1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。
【0031】
カップリング反応の終了後は冷却し、反応液に非水系有機溶媒と水を添加ししてパラジウム炭素を析出させる。ここで使用する非水系有機溶媒は無極性溶媒が好ましく、水に混じらない溶媒が好ましい。例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチルなどの溶媒が挙げられる。特に様々な化合物に対して溶解性が高いトルエン、酢酸エチルを用いることが特に好ましい。
【0032】
非水系有機溶剤の使用量は、反応で使用した窒素含有有機溶媒の使用量以上用いることが好ましく、窒素含有有機溶媒の2質量倍以上使用することが特に好ましい。使用量が少ないとパラジウム炭素の析出が少なく、パラジウム炭素の回収量が少なくなり、目的物にパラジウム炭素が取り込まれパラジウムの含有率が高くなる。
【0033】
反応で使用した窒素含有有機溶媒の使用量が多い場合は、パラジウム炭素が溶解または分散しているため非水系有機溶媒を投入しても析出しにくい。この場合は、窒素含有有機溶媒を留去し、反応液を濃縮してから非水系有機溶媒を投入することで、パラジウム炭素の析出量を多くすることができ有用である。具体的にはカップリング反応後に反応液を濃縮するために、窒素含有有機溶媒を留去させる。留去は常圧でも構わないが、沸点が高い,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの場合は減圧しながら留去することが好ましい。留去する温度が高いと製品の分解など生じる恐れがあり、留去温度は150℃以下が好ましく、100℃以下がさらに好ましい。またその時の減圧度は26kPa以下が好ましく、13kPa以下がさらに好ましい。留去する量は使用した窒素含有有機溶媒の1/3以上が好ましく、1/2以上がさらに好ましい。濃縮し過ぎると反応で生成したアミンのハロゲン塩のスラリー濃度が濃くなり撹拌が出来なくなるので、反応液には窒素含有有機溶媒を、原料の芳香族ハロゲン化合物の質量に対して1質量倍以上残すことが好ましく、1.5質量倍以上残すことがさらに好ましい。
【0034】
非水系有機溶剤の投入後、または窒素含有有機溶媒を留去し非水系有機溶剤を投入した後、続けて水を投入して液液分離を行う。水は反応で析出したアミンのハロゲン塩を溶解させるために必要であり、使用量は反応で使用した窒素含有有機溶媒の使用量以上用いることが好ましく、窒素含有有機溶媒の2質量倍以上使用することが特に好ましい。
【0035】
水を投入後は反応で生成したアミンのハロゲン塩が溶解しパラジウム炭素が析出してくる。このパラジウム炭素をろ過により回収する。一般的にパラジウム炭素の形状は非常に細かい形状なので、ろ過するフィルターのサイズは、1マイクロメートル以下のフィルターを使用することが好ましく、0.5マイクロメートル以下のフィルターを使用することが特に好ましい。またろ過するパラジウム炭素が多い場合は、例えば3マイクロメーターのフィルターと0.5マイクロメーターのフィルターを直列に接続してろ過することは非常に有用である。フィルターの材質は特に指定は無いが、有機溶媒や水に不要なフィルターが必要であり、コットンフィルターやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターなどがより好ましい。
【0036】
水を投入後、10分以上撹拌してパラジウム炭素をろ過した後、10分以上静置し、油層と水層がきちんと分離させる。その後、有機層を回収し、水で洗浄した後、有機層を濃縮した後、再結晶などを行うことで目的の下記一般式(5)
【化7】
(式中、Rは極性置換基、Aは水酸基を有する炭化水素基または、トリアルキルシリル基、nは1から3の整数を示す)
で表されるエチニル基を有する芳香族化合物を取得することができる。
【0037】
前記一般式(5)中のRは前記一般式(1)中のRと同じ、Aは前記一般式(2)中のAと同じであり、それぞれ説明を省略する。また、一般式(5)で表されるエチニル基を有する芳香族化合物として、例えば2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(3-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(2-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(2,4-ジニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(3,4-ジニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(2,4,6-トリニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、4-(3-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、4-(2-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール、3-(4-ニトロフェニル)-2-プロペン-1-オール、3-(3-ニトロフェニル)-2-プロペン-1-オール、3-(2-ニトロフェニル)-2-プロペン-1-オール、1-ニトロ-4-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、1-ニトロ-3-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、1,3-ジニトロ-4-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、1,3-ジニトロ-5-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、2-メチル-4-(4-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(3-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(2-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(2,4-ジアミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(3,4-ジアミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、2-メチル-4-(2,4,6-トリアミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、4-(4-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、4-(3-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、4-(2-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール、3-(4-アミノフェニル)-2-プロペン-1-オール、3-(3-アミノフェニル)-2-プロペン-1-オール、3-(2-アミノフェニル)-2-プロペン-1-オール、1-アミノ-4-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、1-アミノ-3-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、1,3-ジアミノ-4-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、1,3-ジアミノ-5-[2-(トリメチルシリル)エチニル]ベンゼン、等が挙げられる。
【実施例0038】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
実施例において、一般式(5)で表されるエチニル基を有する芳香族化合物の反応収率(%)は、GC(ガスクロマトグラフィー)を使用して下記の条件で分析を行い、全体のピーク面積から、窒素含有有機溶媒のピーク面積を除いた面積に対する、それぞれの化合物のピーク面積の分率を測定した。
【0039】
ここで、一般式(5)で表されるエチニル基を有する芳香族化合物(以下の計算式において、「カップリング体」と記す。)の反応収率は、原料である極性置換基を有する芳香族ハロゲン化合物(以下の計算式において、「原料」と記す。)から目的のカップリング体がどれだけ進行したかを示したかを示した数値であり、次のように計算した。
カップリング体の面積%/(カップリング体の面積%+原料の面積%)×100(%)
【0040】
<純度分析>
カラム:DB-5(0.25mm×30m×0.25μm)(Agilent J&W社)
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:300℃
検出器温度:300℃
カラム温度:50℃(2分Hold)→10℃/分→300℃(3分Hold)
カラム流量:3.65mL/分
パージ流量:5.0分/分
スプリット比:20
サンプル量:1μL
サンプル調整:サンプル0.5gを10mLのメスフラスコに秤量し、アセトニトリルでメスアップする。
【0041】
上記条件での化合物のリテンションタイムは次のとおり。
4-クロロニトロベンゼン(4-CNB):12.6分
3-クロロニトロベンゼン(3-CNB):12,9分
3-ブロモアニリン(3-BAN):14.1分
2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール(4-CNBのカップリング体):19.8分(GC-MS分析からm/z=205、シミラリティ検索からカップリング体と同定した)
2-メチル-4-(3-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール(3-CNBのカップリング体):19.5分(GC-MS分析からm/z=205、シミラリティ検索からカップリング体と同定した)
2-メチル-4-(3-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オール(3-BANのカップリング体):18.8分(GC-MS分析からm/z=175、シミラリティ検索からカップリング体と同定した)
また、実験に使用した試薬類は市販の試薬を用いた。また、エヌ・イーケムキャット社製パラジウム炭素は市販の富士フイルム和光純薬の試薬から購入した。
【0042】
また、パラジウム触媒回収率は次のように計算した。なお、パラジウム炭素の回収量は、ろ過により得られたケークを真空乾燥機に入れ、0.13kPa以下の減圧、40℃から45℃の缶内温で2時間減圧乾燥を行い、乾燥した固形物の質量(g)とし、使用したパラジウム炭素の量は、添加したパラジウムカーボンから水成分を除外したパラジウム炭素の正味量(g)とした。
(回収したパラジウム炭素量)/(使用したパラジウム炭素の量(ドライ換算))×100(%)。
【0043】
[実施例1]
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)25g、4-クロロニトロベンゼン(4-CNB)5.0g(31.7mmol)、5%パラジウムカーボン(Pd/c;TypeK、Pd含有率4.7%、55質量%含水品)0.639g(0.127mmol、0.4mol%/4-CNB)、トリフェニルホスフィン0.166g(0.634mmol)、ヨウ化銅(I)0.0484g(0.254mmol)、ジイソプロピルアミン4.82g(47.6mmol、1.5当量/4-CNB)、臭化リチウム1.65g(19.0mmol)加え、2-メチル-3-ブチン-2-オール5.34g(63.5mmol、2.0当量/4-CNB)を20~30℃で滴下した。滴下終了後、オイルバスに入れ反応温度110~115℃で6時間反応させた。6時間後の反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、目的の2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オールの反応収率は95.9%であった。その後冷却し、20~30℃の範囲で酢酸エチル50g、次いで水50gを加え30分以上撹拌した。その後、0.5μmフィルター(PTFE製)のろ過器でろ過を行い、黒色のパラジウム炭素を含むケークを0.201g回収した。このケーク中のパラジウム炭素の含有率は89%で回収量は0.179g、回収率は62%であった。その後、有機層と水層を分離し、水で2回洗浄後、溶媒を濃縮し、トルエンを用いて再結晶行い、2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オールを取得した。
【0044】
[実施例2]
実施例1記載の条件で原料を仕込み、カップリング反応を実施して目的の2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オール(反応収率;95.9%)を得た。その後、減圧で窒素含有有機溶媒を留去し、最終的に減圧度2.67kPaまで減圧、反応缶の温度は85℃まで上げて窒素含有有機溶媒を原料に対して3質量倍(15g)留出させた。その後冷却し、酢酸エチルを25g次いで水25gを加え30分以上撹拌した。その後実施例1の操作を行い、黒色のパラジウム炭素を含むケークを0.294g回収した。このケーク中のパラジウム炭素の含有率は90%で回収量は0.265g、回収率は92%であった。
【0045】
[実施例3]
実施例1で使用した4-クロロニトロベンゼン(4-CNB)5.0g(31.7mmol)を3-クロロニトロベンゼン(3-CNB)5.0g(31.7mmmol)に変更して実施例1記載の原料を使用して反応を行った。6時間後の反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、目的の2-メチル-4-(3-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オールの反応収率は85.1%であった。その後、実施例2記載の条件で窒素含有有機溶媒を留去、その後、酢酸エチルと水を用いた固液分離を行い、実施例1記載の操作で黒色のパラジウム炭素を含むケークを0.291g回収した。このケーク中のパラジウム炭素の含有率は90%で回収量は0.259g、回収率は90%であった。
【0046】
[実施例4]
実施例1で使用した4-クロロニトロベンゼン(4-CNB)5.0g(31.7mmol)を3-ブロモアニリン(3-BAN)5.0g(24.8mmmol)に変更し、N,N-ジメチルアセトアミド 25g、5%パラジウムカーボン(Pd/c;TypeK、Pd含有率4.7%、55質量%含水品)0.498g(0.0990mmol、0.4mol%/3-BAN)、トリフェニルホスフィン0.130g(0.495mmol)、ヨウ化銅(I)0.0377g(0.198mmol)、ジイソプロピルアミン3,76g(37.1mmol、1.5当量/3-BAN)加え、2-メチル-3-ブチン-2-オール3.12g(37.1mmol、2.0当量/3-BAN)を20~30℃で滴下し実施例1記載の操作で反応を行った。6時間後の反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、目的の2-メチル-4-(3-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オールの反応収率は96.7%であった。その後実施例1記載の条件で酢酸エチルと水を加え、黒色のパラジウム炭素を含むケークを0.155g回収した。このケーク中、パラジウム炭素の含有率は88%で回収量は0.137g、回収率は61%であった。
【0047】
[実施例5]
実施例1の溶媒N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に変えて、実施例1の操作を同様に行った。6時間後の反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、目的の2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オールの反応収率は35.0%であった。その後実施例1の操作で酢酸エチルと水を加え、黒色のパラジウム炭素を含むケークを0.171g回収した。このケーク中のパラジウム炭素の含有率は89%で回収量は0.152g、回収率は53%であった。
【0048】
[比較例1]
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、テトラヒドロフラン(THF)25g、4-クロロニトロベンゼン(4-CNB)5.0g(31.7mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc))0.285g(0.127mmol)を仕込み、その後実施例1と同様の原料を投入し、2-メチル-3-ブチン-2-オール5.34g(63.5mmol、2.0当量/4-CNB)を20~30℃で滴下した。滴下終了後、オイルバスに入れ反応温度80~85℃で18時間反応させた。反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オールの生成はGCで確認することが出来なかった。その後、実施例1記載どおり酢酸エチルと水を加えてパラジウム触媒の回収を試みたが全く回収できなかった。
【0049】
[比較例2]
撹拌、冷却器を備えた200mLフラスコに、テトラヒドロフラン(THF)25g、3-ブロモアニリン(3-BAN)5.0g(24.8mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OAc))0.222g(0.0994mmol)を仕込み、その後実施例1と同様の原料を投入し、2-メチル-3-ブチン-2-オール5.34g(63.5mmol、2.0当量/3-BAN)を20~30℃で滴下した。滴下終了後、オイルバスに入れ反応温度80~85℃で18時間反応させた。反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、2-メチル-4-(3-アミノフェニル)-3-ブチン-2-オールの生成は100%ですべて反応は進行した。その後の後、実施例1記載どおり酢酸エチルと水を加えてパラジウム触媒の回収を試みたが全く回収できなかった。
【0050】
[比較例3]
実施例1で使用した溶媒N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を2-プロパノール(IPF)に変えて実施例1記載通り反応を行った。滴下終了後、オイルバスに入れ反応温度80~85℃で18時間反応させた。反応液をガスクロマトグラフィで分析した結果、2-メチル-4-(4-ニトロフェニル)-3-ブチン-2-オールの反応収率は5.2%でほとんど反応は進行しなかった。その後、実施例1の操作で酢酸エチルと水を加え、黒色のパラジウム炭素を含むケークを0.186g回収した。このケーク中、パラジウム炭素の含有率は88%で回収量は0.164g、回収率は57%であった。
【0051】
実施例と比較例の結果を下記表にまとめた。また、工業的に実施する場合に判定するため、×~◎で区別した。パラジウム炭素を用いる反応では、反応溶媒に窒素含有有機溶媒を使用する必要があり、パラジウム炭素を回収率50から60%で回収でした。また、反応後の濃縮を行い、窒素含有有機溶媒を留去することでパラジウム炭素の回収率を向上することができた。一方、汎用の酢酸パラジウムを用いた場合は反応で使用した酢酸パラジウムを全く回収することが出来なかった。
【0052】
目的物の収率が高く、パラジウム炭素の回収が多いものを◎、次に収率が高く、パラジウム炭素が回収できているものを〇、収率は低いがパラジウム炭素をできているもの△、収率が低いもの、またパラジウム触媒の回収ができていないものを×として判定を行った。
【表1】
【0053】
表1に示すとおり、実施例2の条件が、反応収率も高く、パラジウム炭素の回収率も高いため、工業的に好ましい条件である。
この回収したパラジウム炭素はパラジウムメーカー等で、適切な処理をすることで新規なパラジウム炭素に置き換わることができ、希少なパラジウムを有効活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のパラジウム炭素を回収する方法は、非常に簡便でろ過のみの操作でパラジウム炭素を回収することができるので工業生産でも非常に有用である。また希少なパラジウム炭素を回収さらには再利用、再反応などの可能性もあり希少なパラジウムの使用量を削減できる。