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特開2023-25354ブレード損傷評価装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025354
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】ブレード損傷評価装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/00 20060101AFI20230215BHJP
   F01D 5/00 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
F01D25/00 V
F01D5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130513
(22)【出願日】2021-08-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度~2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 康貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中島 将太
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰輝
【テーマコード(参考)】
3G202
【Fターム(参考)】
3G202AB07
(57)【要約】
【課題】ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレード損傷を正確に評価する技術を提供する。
【解決手段】評価装置は、タービンの設計情報D及び保守情報Kの登録部20と、センサ17の検出データ16の取得部15と、複数の過去時点tm(m=1~M-1)におけるタービンの第1設備状態Q1の第1識別部21と、複数の第1設備状態Q1のクラスCn(n=1~N)への分類部26と、タービンの第1運転状態値P1の第1特定部31と、過去時点tmにおける第1損傷速度R1の登録部20と、複数のクラスCn(n=1~N)の各々毎に特性関数fn(n=1~N)への設定部25と、タービンの現時点tMの第2設備状態Q2の第2識別部22と、タービンの現時点tMの第2運転状態値P2の第2特定部32と、現時点tMの第2損傷速度R2の解析部27と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気またはガスが噴射されロータを軸回転させる複数のブレードを持つタービン及びその周辺機器に関する設計情報を登録する第1登録部と、
前記蒸気またはガスに混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報を登録する第2登録部と、
前記タービン及び前記周辺機器に設けられたセンサから検出データを取得して保存させる取得部と、
前記設計情報及び前記保守情報に基づき、複数の過去時点における前記タービンの第1設備状態を識別する第1識別部と、
複数の前記第1設備状態の各々をクラスに分類する分類部と、
前記過去時点で取得された前記検出データに基づき、前記タービンの第1運転状態値を特定する第1特定部と、
前記過去時点における前記ブレードの第1損傷速度を登録する第3登録部と、
複数の前記クラスの各々毎に、前記第1運転状態値と前記第1損傷速度との関係を表す特性関数を設定する設定部と、
前記設計情報及び前記保守情報に基づき、前記タービンの現時点の第2設備状態を識別する第2識別部と、
前記現時点で取得された前記検出データに基づいて、前記タービンの第2運転状態値を特定する第2特定部と、
前記第2設備状態に対応する前記クラスに設定された前記特性関数に基づいて、前記第2運転状態値に対応する前記現時点の第2損傷速度を解析する解析部と、を備えるブレード損傷評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレード損傷評価装置において、
前記第2損傷速度に基づいて前記ブレードの損傷量を計算する計算部を備えるブレード損傷評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレード損傷評価装置において、
前記損傷量に基づいて、前記ブレードの交換時期を評価する評価部を備えるブレード損傷評価装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のブレード損傷評価装置において、
将来の運転計画に基づいて、シミュレーションした前記第2運転状態値に基づいて、前記第2損傷速度を解析し予測するブレード損傷評価装置。
【請求項5】
蒸気またはガスが噴射されロータを軸回転させる複数のブレードを持つタービン及びその周辺機器に関する設計情報を登録するステップと、
前記蒸気またはガスに混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報を登録するステップと、
前記タービン及び前記周辺機器に設けられたセンサから検出データを取得して保存させるステップと、
前記設計情報及び前記保守情報に基づき、複数の過去時点における前記タービンの第1設備状態を識別するステップと、
複数の前記第1設備状態の各々をクラスに分類するステップと、
前記過去時点で取得された前記検出データに基づき、前記タービンの第1運転状態値を特定するステップと、
前記過去時点における前記ブレードの第1損傷速度を獲得するステップと、
複数の前記クラスの各々毎に、前記第1運転状態値と前記第1損傷速度との関係を表す特性関数を設定するステップと、
前記設計情報及び前記保守情報に基づき、前記タービンの現時点の第2設備状態を識別するステップと、
前記現時点で取得された前記検出データに基づいて、前記タービンの第2運転状態値を特定するステップと、
前記第2設備状態に対応する前記クラスに設定された前記特性関数に基づいて、前記第2運転状態値に対応する前記現時点の第2損傷速度を解析するステップと、を含むブレード損傷評価方法。
【請求項6】
コンピュータに、
蒸気またはガスが噴射されロータを軸回転させる複数のブレードを持つタービン及びその周辺機器に関する設計情報を登録するステップ、
前記蒸気またはガスに混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報を登録するステップ、
前記タービン及び前記周辺機器に設けられたセンサから検出データを取得して保存させるステップ、
前記設計情報及び前記保守情報に基づき、複数の過去時点における前記タービンの第1設備状態を識別するステップ、
複数の前記第1設備状態の各々をクラスに分類するステップ、
前記過去時点で取得された前記検出データに基づき、前記タービンの第1運転状態値を特定するステップ、
前記過去時点における前記ブレードの第1損傷速度を獲得するステップ、
複数の前記クラスの各々毎に、前記第1運転状態値と前記第1損傷速度との関係を表す特性関数を設定するステップ、
前記設計情報及び前記保守情報に基づき、前記タービンの現時点の第2設備状態を識別するステップ、
前記現時点で取得された前記検出データに基づいて、前記タービンの第2運転状態値を特定するステップ、
前記第2設備状態に対応する前記クラスに設定された前記特性関数に基づいて、前記第2運転状態値に対応する前記現時点の第2損傷速度を解析するステップ、を実行するブレード損傷評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タービンの運転に伴ってブレードの損傷を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タービンは、ボイラまたは燃焼器等で加熱発生した高温・高圧の蒸気またはガスが噴射されたブレードが、駆動力を得て回転している。ところで、この蒸気またはガスには固体粒子が混在し、蒸気弁等に設けられたストレーナ等ですべては補足できず、タービンの内部に流入することが避けられない。この蒸気またはガスに混在する固体粒子がブレードの表面に衝突すると、ブレードが表面から減肉していく。これは、固体粒子の衝突により表面が摩耗する現象であるSPE(Solid Particle Erosion)が発生するためである。
【0003】
特に、タービン回転軸に多段に渡り設けられたブレードのうち、初段の動翼においては、SPEによる減肉が顕著に確認される。この初段の動翼の減肉量は、ブレードの強度評価に基づき設定される閾値を、超過しないように管理されている。従来における一般的な管理方法は、タービンの開放点検時に動翼の減肉量を計測し、前回点検時に計測した減肉量から減肉速度等を計算する。そして、この減肉速度と閾値との関係性から、次回の開放点検の時期もしくは動翼の交換推奨時期が見積られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56-12682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の管理方法では、定期的にタービンのケーシングを開放し動翼の減肉量を計測する必要があり、相当な工数や工期を要してしまう課題がある。また、近年火力発電は、これまでのベースロード運転とは相違して、低負荷運転や負荷変動運転といった調整火力として運用されることが想定される。したがって、従来のSPE減肉量の予測は、ベースロード運転を前提条件としているため、調整火力として運転条件をダイナミックに変化して運用する場合のSPE減肉量の予測に適用することが困難である。
【0006】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレード損傷を正確に評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るブレード損傷評価装置において、蒸気またはガスが噴射されロータを軸回転させる複数のブレードを持つタービン及びその周辺機器に関する設計情報を登録する第1登録部と、前記蒸気に混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報を登録する第2登録部と、前記タービン及び前記周辺機器に設けられたセンサから検出データを取得して保存させる取得部と、前記設計情報及び前記保守情報に基づき複数の過去時点における前記タービンの第1設備状態を識別する第1識別部と、複数の前記第1設備状態の各々をクラスに分類する分類部と、前記過去時点で取得された前記検出データに基づき前記タービンの第1運転状態値を特定する第1特定部と、前記過去時点における前記ブレードの第1損傷速度を登録する第3登録部と、複数の前記クラスの各々毎に前記第1運転状態値と前記第1損傷速度との関係を表す特性関数を設定する設定部と、前記設計情報及び前記保守情報に基づき前記タービンの現時点の第2設備状態を識別する第2識別部と、前記現時点で取得された前記検出データに基づいて前記タービンの第2運転状態値を特定する第2特定部と、前記第2設備状態に対応する前記クラスに設定された前記特性関数に基づいて前記第2運転状態値に対応する前記現時点の第2損傷速度を解析する解析部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレード損傷を正確に評価する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るブレード損傷評価装置のブロック図。
図2】実施形態に係るブレード損傷評価装置が適用される火力発電プラントの概略図。
図3】蒸気タービンの運転状態値とブレードの損傷速度との対応関係を表した特性関数のグラフ。
図4】ブレードの運転に伴う損傷量の経時変化を示すグラフ。
図5】実施形態に係るブレード損傷評価方法の工程及びブレード損傷評価プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係るブレード損傷評価装置10のブロック図である。図2は実施形態に係るブレード損傷評価装置10(以下、単に「評価装置10」という)が適用される火力発電プラント30の概略図である。
【0011】
このように評価装置10は、蒸気48(図2)が噴射されロータ33を軸回転させる複数のブレード34を持つ蒸気タービン40及びその周辺機器に関する設計情報Dを登録する第1登録部201と、蒸気48に混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報Kを登録する第2登録部202と、蒸気タービン40及びその周辺機器に設けられたセンサ17から検出データ16を取得して保存させる取得部15と、を備えている。
【0012】
さらに評価装置10は、設計情報D及び保守情報Kに基づき複数の過去時点tm(m=1~M-1)における蒸気タービン40の第1設備状態Q1を識別する第1識別部21と、複数の第1設備状態Q1の各々をクラスCn(n=1~N)に分類する分類部26と、を備えている。
【0013】
さらに評価装置10は、過去時点tm(m=1~M-1)で取得された検出データ16aに基づき蒸気タービン40の第1運転状態値P1を特定する第1特定部31と、過去時点tmにおけるブレード34の第1損傷速度R1を登録する第3登録部203と、複数のクラスCn(n=1~N)の各々毎に第1運転状態値P1と第1損傷速度R1との関係を表す特性関数fn(n=1~N)を設定する設定部25と、を備えている。
【0014】
さらに評価装置10は、設計情報D及び保守情報Kに基づき蒸気タービン40の現時点tMの第2設備状態Q2を識別する第2識別部22と、現時点tMで取得された検出データ16bに基づいて蒸気タービン40の第2運転状態値P2を特定する第2特定部32と、第2設備状態Q2に対応するクラスCnに設定された特性関数fnに基づいて第2運転状態値P2に対応する現時点tMの第2損傷速度R2を解析する解析部27と、を備えている。
【0015】
図2に示すように火力発電プラント30は、ボイラ35の内部に燃料43を供給して燃焼させ、熱交換器55で熱交換することで、液媒47を蒸気48にする。このボイラ35で発生させた蒸気48は、主蒸気配管44に導かれて蒸気タービン40の内部に導入される。そして蒸気48は、ブレード34に噴射され、ケーシング36に支持されているロータ33を軸回転させる。このロータ33は、同軸接続された発電機37を回転駆動させて、回転運動エネルギーを電気エネルギーに変換させる。
【0016】
この蒸気タービン40で仕事をして排出された蒸気は、冷却水39が循環する復水器38で冷却され凝縮して復水(液媒)47となる。この復水47は、給水配管56を経てボイラ35の熱交換器55に再供給される。なお実施形態においてブレード34は、ロータ33の半径方向に沿って放射状に設けられこのロータ33とともに回転する動翼と、動翼の配列の隙間に配置されケーシング36に固定される静翼と、の両方を含む。なお、蒸気タービン40の周辺機器といった場合、蒸気タービン40と機械的もしくは蒸気48を介した接続関係にある任意の機器を指す。
【0017】
ボイラ35から蒸気タービン40に送られる蒸気48には、主に熱交換器55の内表面で生成した酸化被膜(スケール)が遊離した固体粒子を多く混入している。ブレード34は、このような固体粒子が衝突することによって、固体粒子エロージョン(SPE;So1id Partic1e Erosion)と呼ばれる侵食を受ける。
【0018】
蒸気48に含まれる固体粒子との衝突によりブレード34が摩耗して損傷を受けると、静翼から動翼に噴射される蒸気48の噴射条件(角度、速度等)が変化して蒸気タービン40の内部効率(性能)が低下してしまう。さらに摩耗が進行すると、ブレード34の欠損、折れ曲がりなどといった損傷が進展していく。さらにクラックが発生し成長し、ブレード34が吹き飛ばされ、他の健全なブレード34に衝突して損傷させてしまうことも考えられる。
【0019】
このため火力発電プラント30では、運転中のボイラ35から蒸気タービン40にスケールの固体粒子が持ち込まれないよう設計・保守・運転において配慮がなされている。しかし、そのような固体粒子の蒸気48への混入を完全に防止することはできない。このため、固体粒子エロージョン(SPE)によるブレード34の損傷の進展を、正確に監視・予測していく必要がある。
【0020】
図1に戻って説明を続ける。第1登録部201,第2登録部202,第3登録部203及び検出データ16(16a,16b)の保持部は、共通のDBサーバ20で構成されたり、別々のDBサーバで構成されたりする。
【0021】
第1登録部201に登録される設計情報Dは、主に発電プラント30の設計条件、ボイラ35(熱交換器55)の設計条件、主蒸気配管44や給水配管56等の配管設計条件、蒸気弁(図示略)の設計条件、タービン40の設計条件のうち、単数又は複数で構成される。
【0022】
発電プラント30の設計条件としては、例えば、発電容量、コンバインドサイクル/コンベンショナルなどである。ボイラ35の設計条件としては、例えば、定格運転条件(例えば温度、圧力等)、燃料、型式・容量、チューブ材質等である。主蒸気配管44や給水配管56等の配管設計条件としては、材質、長さ、曝露温度、タービンバイパス流路有無等である。蒸気弁設計条件としては、ファインメッシュの有無、副弁の有無等である。タービン40の設計条件としては、蒸気条件(温度、流量、圧力、等)、動翼構造(枚数、PCD、翼長、羽根-ノズル間距離、回転周速等)、静翼構造(枚数、流出角度等)、羽根強度特性等である。
【0023】
第2登録部202に登録される保守情報Kとしては、主にボイラ35(熱交換器55)の保守データ、主蒸気配管44や給水配管56等の配管保守データ、タービン40の保守データのうち、単数又は複数で構成される。
【0024】
ボイラ35の保守データとしては、例えば、チューブの交換、脱スケール方法・頻度・時期、フラッシング方法などである。主蒸気配管44や給水配管56等の配管保守データとしては、例えば、脱スケール方法・頻度・時期、フラッシング方法などである。タービン40の保守データとしては、初段動静翼の交換履歴または手入れ履歴などである。これらは、全て、蒸気48に混入する固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報Kとして第2登録部202に登録されている。
【0025】
蒸気タービン40及びその周辺機器には、多数のセンサ17が設けられ、取得した検出データ16に基づいて、発電プラント30の状態監視が行われている。これら多数の検出データ16は、固体粒子の流入条件や衝突条件を反映したものが含まれており、取得部15により時系列に取得され保存されている。具体的に蒸気タービン40からの検出データ16として、初段動静翼前後の蒸気条件や蒸気弁開度やバイパス弁開度等が挙げられる。また蒸気タービン40の上流側で、ブレード34の損傷に異常を与える周辺機器からの検出データ16も有用である。
【0026】
第1識別部21及び第2識別部22は、共に設計情報D及び保守情報Kに基づいて、蒸気タービン40の設備状態Q(Q1,Q2)を識別する点において共通する機能を持つ。相違点は、第1識別部21は、複数の過去時点tm(m=1~M-1)における蒸気タービン40の設備状態(第1設備状態Q1)を識別するのに対し、第2識別部22は、現時点tMにおける蒸気タービン40の設備状態(第2設備状態Q2)を識別する点にある。
【0027】
このことは、同じ蒸気タービン40であっても、定期検査を挟んだ運転サイクルにおいて、各種の改良や保守の導入に伴って設備状態が変化していくということを意味している。また、異なる蒸気タービン40の相互間でも、互いに識別させて第1設備状態Q1の情報として採用することが可能である。
【0028】
第3登録部203には、過去時点tm(m=1~M-1)におけるブレード34の第1損傷速度R1が登録されている。これら、第1損傷速度R1は、これまでの蒸気タービン40で実施された定期検査の開放点検等において実測されたブレード34の損傷量や、その他種々の情報を組み合わせたシミュレーション結果等により得られる。
【0029】
そして、第1特定部31では、過去時点tm(m=1~M-1)において取得された検出データ16aに基づき、蒸気タービン40の各々の第1運転状態値P1が特定される。その結果、過去時点tm(m=1~M)を共通項として、第1設備状態Q1、第1運転状態値P1及び第1損傷速度R1の組み合わせが成立する。
【0030】
分類部26では、複数の過去時点tm(m=1~M-1)における第1設備状態Q1の各々を、ブレード34の損傷特性の共通性に基づいて、いくつかのクラスCn(n=1~N)を分類する。これにより、共通のクラスCnに分類された第1設備状態Q1では、同一の運転状態値51に対し、ブレード34は、同一の損傷速度で伸展していくこととなる。
【0031】
設定部25は、第1運転状態値P1に関連する第1損傷速度R1を第3登録部203から獲得する。そして設定部25は、共通のクラスCnに分類された第1設備状態Q1の集合体において、第1運転状態値P1及び第1損傷速度R1の組み合わせの関係を表す特性関数fnを設定する。これにより、複数のクラスCn(n=1~N)の各々毎に、特性関数fn(n=1~N)が設定されることになる。
【0032】
ここで、ブレード34の損傷速度Rは、運転状態値PとクラスCnとをそれぞれ独立変数として、次の特性関数fnの一般式で表される(数(1)式)。なおここで、クラスCn(数(2)式)は、設計情報Dと保守情報Kを独立変数として関数gで連続的に表した設備状態Q(数(3)式)を、区分毎に定数で階段状に表す階段関数で変換したものとして表される。
R=fn(P,Cn) (1)
n=[Q]n (2)
Q=g(D,K) (3)
【0033】
図3は、蒸気タービン40の運転状態値Pとブレード34の損傷速度Rとの対応関係を表した特性関数fnのグラフである。ここで、横軸の運転状態値Pは、感覚的に理解し易いように、ブレード34に噴射される「蒸気流量」と表している。また、特性関数fn(n=1~N)の各々も、感覚的に理解し易いように、固体粒子が多量・中量・少量に分類したクラスCn(n=1~N)の各々に対応させている。
【0034】
第2特定部32は、現時点tMで取得された検出データ16bに基づいて、蒸気タービン40の第2運転状態値P2を特定する。つまり、第2特定部32は、運転中の蒸気タービン40の第2運転状態値P2をリアルタイムで特定する。これにより、ベースロード運転を前提条件とせずに、調整火力としてダイナミックに変化する第2運転状態値P2を正確に追従させることができる。さらにクラスCn毎に、特性関数fnが準備されているので、ダイナミックに変化する第2運転状態値P2に応じて、ブレード34の第2損傷速度R2を正確に追従させることができる。
【0035】
解析部27は、第2設備状態Q2に対応するクラスCnに設定された特性関数fnに基づいて第2運転状態値P2に対応する第2損傷速度R2を解析する。火力発電プラント30の連続する運転期間においては、第2設備状態Q2の分類されるクラスCnが、不変であるとみなすこともできるし、変化するとみなすこともでる。また、運転期間を挟む保守期間に実施された内容(実施されない場合も含む)に従って、第2設備状態Q2の分類されるクラスCn(特性関数fn)を維持・変更させることができる。
【0036】
計算部45は、第2損傷速度R2に基づいてブレード34の損傷量Uを計算するものである。損傷量Uの計算は、具体的には、解析部27で得られた第2損傷速度R2を時間積分することにより得られる。
【0037】
図4はブレード34の運転に伴う損傷量Uの経時変化を示すグラフである。評価部46は、損傷量Uに基づいて、ブレード34の交換時期tcを評価する。具体的には、ブレード34の機械強度の安全性が確保される損傷量Uの限界値を閾値Eとして、この閾値Eに対応するグラフ上の時間をブレード34の交換時期tcと評価する。
【0038】
さらに評価装置10は、将来の運転計画に基づいて、第2運転状態値P2をシミュレーションし、第2損傷速度R2を解析し予測することができる。さらに予測した第2損傷速度R2に基づいて、さらに、損傷量Uや交換時期tcを推測することができる。
【0039】
また評価装置10は、運転期間を挟む保守期間が到来する度に、設計情報D及び保守情報Kを更新させる更新部(図示略)を備えている。さらに、運転期間が終了し保守期間を挟んで次の運転期間が到来した時は、現時点tMの検出データ16bは、過去時点tm(m=1~M)の検出データ16aとして第2特定部32で特定することができる。このとき、第2特定部32は、現時点tM+1の検出データ16bを特定することになる。
【0040】
図5のフローチャートに基づいて、実施形態に係るブレード損傷評価方法の工程及びブレード損傷評価プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、図1及び図2参照)。まず、蒸気タービン40及びその周辺機器に関する設計情報D、固体粒子の削減に寄与する作業履歴に関する保守情報Kを登録する(S11)。
【0041】
そして、センサ17の検出データ16を取得して保存する(S12)。設計情報D及び保守情報Kに基づき、複数の過去時点tm(m=1~M-1)における蒸気タービン40の第1設備状態Q1を識別し(S13)、クラスCn(n=1~N)に分類する(S14)。
【0042】
次に、過去時点tmで取得された検出データ16aに基づき、蒸気タービン40の第1運転状態値P1を特定する(S15)。そして、過去時点tmにおけるブレード34の第1損傷速度R1を獲得し(S16)、複数のクラスCnの各々毎に、第1運転状態値P1と第1損傷速度R1との関係を表す特性関数fn(n=1~N)を設定する(S17)。
【0043】
次に、設計情報D及び保守情報Kに基づき、蒸気タービン40の現時点tMの第2設備状態Q2を識別する(S18)。そして、現時点tmで取得された検出データ16bに基づいて、蒸気タービン40の第2運転状態値P2を特定する(S19)。さらに、第2設備状態Q2に対応するクラスCnに設定された特性関数fnに基づいて(図3参照)、第2運転状態値P2に対応する現時点tMの第2損傷速度R2を解析する(S20)。さらに、この第2損傷速度R2に基づいて、ブレード34の現時点tMの損傷量U及びブレード34の交換時期tcの評価が行なわれる(S21)。
【0044】
そして、現時点tmの運転期間が終了するまで(S18)から(S21)までのフローが繰り返される(S22 No Yes)。そして、保守期間を挟み次の運転期間で現時点tmが再開したところで(S11)から(S22)までのフローが繰り返され(S23 Yes)、運転期間が再開されない場合は終了する(S23 No,END)。
【0045】
以上述べた少なくともひとつの実施形態のブレード損傷評価装置によれば、過去時点のセンサ検出データ、設計情報、保守情報、損傷速度の相互関係を明らかにし、現時点のセンサ検出データ、設計情報、保守情報に基づいてブレードの損傷速度を解析することで、ダイナミックに変化する運転条件で運用されるタービンのブレード損傷を正確に評価する技術を提供することが可能となる。なお本実施形態では蒸気タービンで説明したがガスタービン等でも同様に本発明に適用することが可能である。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0047】
以上説明したブレード損傷評価装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このためブレード損傷評価装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、ブレード損傷評価プログラムにより動作させることが可能である。
【0048】
またブレード損傷評価プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態に係るブレード損傷評価プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、ブレード損傷評価装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0050】
10…ブレード損傷評価装置、15…取得部、16(16a,16b)…検出データ、17…センサ、20…登録部、21…第1識別部、22…第2識別部、25…設定部、26…分類部、27…解析部、30…発電プラント、31…第1特定部、32…第2特定部、33…ロータ、34…ブレード、35…ボイラ、36…ケーシング、37…発電機、38…復水器、39…冷却水、40…蒸気タービン、43…燃料、44…主蒸気配管、45…計算部、46…評価部、47…液媒(復水)、48…蒸気、51…運転状態値、55…熱交換器、56…給水配管、D…設計情報、K…保守情報、U…損傷量、Q1…第1設備状態、Q2…第2設備状態、P1…第1運転状態値、P2…第2運転状態値、R1…第1損傷速度、R2…第2損傷速度、tm…過去時点、tM…現時点、Cn…クラス、fn…特性関数。
図1
図2
図3
図4
図5