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特開2023-25376II型未修飾セルロース微細繊維、及びII型未修飾セルロース微細繊維並びにその成形体の製造方法
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  • 特開-II型未修飾セルロース微細繊維、及びII型未修飾セルロース微細繊維並びにその成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025376
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】II型未修飾セルロース微細繊維、及びII型未修飾セルロース微細繊維並びにその成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 1/00 20060101AFI20230215BHJP
   A61K 8/73 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C08B1/00
A61K8/73
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130565
(22)【出願日】2021-08-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】岩田 一平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 明日香
【テーマコード(参考)】
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4C083AD261
4C083AD262
4C083DD01
4C083EE07
4C083FF01
4C090AA05
4C090BA24
4C090BD14
4C090BD24
4C090BD35
4C090CA25
4C090CA31
4C090CA32
4C090CA33
4C090DA11
4C090DA26
(57)【要約】
【課題】セルロースのマーセル化を経てセルロース微細繊維を得る製造方法であって、簡易な工程で効率的に化学修飾されていないセルロース微細繊維を得ることが可能なII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程とを有することを特徴とするII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、
該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、
総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、
該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程とを有する
ことを特徴とするII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法より得たII型未修飾セルロース微細繊維が成形されてII型未修飾セルロース微細繊維成形物を得る成形工程とを有するII型未修飾セルロース微細繊維成形物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により得たII型未修飾セルロース微細繊維の0.1質量%分散液のJIS K 7136(2000)に準拠して測定したヘーズ値が35%以下であるII型未修飾セルロース微細繊維。
【請求項4】
前記II型未修飾セルロース微細繊維の重合度が310以下である請求項3に記載のII型未修飾セルロース微細繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース微細繊維の製造方法等に関し、特に、化学修飾がされていないセルロース微細繊維を得るII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、持続可能な開発目標(SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(SDGs))と呼ばれる持続可能な開発のために国連が定める国際目標が掲げられ、このうちの環境問題としてプラスチック使用量の削減等がある。石油由来のプラスチックの使用量を削減することによって、GHG削減による気候変動の解決を目指す取り組みがなされている。
【0003】
例えば、ファンデーション等の化粧料に、他の成分との混合性、使用時のノビや感触の向上を目的としてマイクロプラスチック(ビーズ)が使用されることがある。しかしながら、マイクロプラスチック(ビーズ)は、特に海洋環境汚染の深刻化の要因の一つとして問題提起されており、発生量の抑制や回収を目指す取り組みがなされている。
【0004】
これらから、市場においてはマイクロプラスチック(ビーズ)の代替が進んでいる。しかしながら、特に粒子径が100μm以下のマイクロプラスチック(ビーズ)のような微細な樹脂原料は代替材料の普及は進んでおらず、需要の高まりに対して供給が少ないことが知られている。
【0005】
また、マイクロプラスチックの代替原料としては、天然素材で生分解性を有するセルロースが注目されている。特に、セルロースナノファイバーやセルロースマイクロファイバー等のセルロース微細繊維は、成形体に加工することが可能で、ビーズやフィルム状に加工することができ、マイクロプラスチックの代替原料として期待されている。
【0006】
セルロース微細繊維の製造方法としては、水中で触媒を用いてセルロースを酸化処理し、得られた酸化セルロースを解繊することによりセルロースナノファイバー分散体を得る方法(特許文献1参照。)や、セルロースのカルボキシメチル化において、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行って、得られたカルボキシメチル化セルロースを解繊することにより透明度の高いカルボキシメチル化セルロースのナノファイバー分散体を得る方法(特許文献2参照。)、アニオン変性セルロースナノファイバー塩に対して、陽イオン交換樹脂を用いた陽イオン交換反応を行うことにより脱塩処理してアニオン変性セルロースナノファイバーを得る製造方法(特許文献3参照。)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-001728号公報
【特許文献2】特開2019-99758号公報
【特許文献3】国際公開第2019/059079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの製造方法で得られるセルロース微細繊維は、I型のセルロース微細繊維であって繊維径の小さいセルロース繊維を得るために、化学的解繊及び機械(物理)的解繊が用いられ、化学修飾されたセルロースとなる。つまり、化学薬品を用いて解繊がなされることから、脱薬品工程を要して工程が複雑化するのみならず、化粧品等には使用することができなかったりする等、用途が限定されたり使用薬品による安全性や環境的負荷が懸念されるといった課題がある。
【0009】
発明者らは、繊維径の小さいセルロース微細繊維を得る製造方法のうち、化学的解繊を用いない製造方法の検討、改良を重ねた。その結果、より簡易かつ効率的に化学修飾されていないセルロース微細繊維を得ることができる製造方法に至った。
【0010】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、セルロースのマーセル化を経て得られるII型の結晶構造を有するセルロース微細繊維及び、該セルロース微細繊維とその成形体の製造方法であって、透明性及び安全性の高い化学修飾されていないセルロース微細繊維を、簡易な工程で効率的に得ることが可能なII型未修飾セルロース微細繊維、及び該II型未修飾セルロース微細繊維並びにその成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1の発明は、セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程とを有することを特徴とするII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法に係る。
【0012】
第2の発明は、第1の発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法より得たII型未修飾セルロース微細繊維が成形されてII型未修飾セルロース微細繊維成形物を得る成形工程とを有するII型未修飾セルロース微細繊維成形物の製造方法に係る。
【0013】
第3の発明は、第1の発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法により得たII型未修飾セルロース微細繊維の0.1質量%分散液のJIS K 7136(2000)に準拠して測定したヘーズ値が35%以下であるII型未修飾セルロース微細繊維に係る。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、前記II型未修飾セルロース微細繊維の重合度が310以下であるII型未修飾セルロース微細繊維に係る。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係るII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法によると、セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得るマーセル化工程と、該マーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる解重合工程とを経た原料セルロースに、総濃度が2.5~17.5%となるようアルカリ金属水酸化物を添加し解繊してセルロース微細繊維を得る解繊工程と、該セルロース微細繊維を酸で中和する中和工程とを有することから、簡易な工程で効率的に化学修飾されていないセルロース微細繊維を得ることができる。
【0016】
第2の発明に係るII型未修飾セルロース微細繊維成形物の製造方法によると、第1の発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法より得たII型未修飾セルロース微細繊維が成形されてII型未修飾セルロース微細繊維成形物を得る成形工程とを有するため、プラスチック成形物の代替として有用である。
【0017】
第3の発明に係るII型未修飾セルロース微細繊維によると、第1の発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法により得たII型未修飾セルロース微細繊維の0.1質量%分散液のJIS K 7136(2000)に準拠して測定したヘーズ値が35%以下であることから、透明性が高く外観特性に優れるとともに安全性が高いため、化粧品等の幅広い用途に用いることができる。
【0018】
第4の発明に係るII型未修飾セルロース微細繊維によると、第3の発明において、前記II型未修飾セルロース微細繊維の重合度が310以下であることから、該セルロース微細繊維の分散液の粘度を低くすることができ、脱泡等がしやすくなり成形時の外観が良好となったり、成形装置の圧力上昇を抑えることができ、生産効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法に係る概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法により製造されるセルロース微細繊維は、セルロースをマーセル化するマーセル化工程を経て微細繊維へとされることから、II型の結晶構造を有するII型セルロース微細繊維である。セルロース微細繊維は、一般に樹脂の補強材として使用されることが多く、その際には強度の高いI型の結晶構造を有するI型セルロース微細繊維が好ましく用いられる。セルロース微細繊維のうち、II型セルロース微細繊維は、I型セルロース微細繊維よりも柔らかいため、化粧品等に添加されると質感が良好となり、好適である。
【0021】
本発明の製造方法は、化粧品等の分野における石油由来のプラスチックの代替としてのセルロース微細繊維を目的物としていることから、樹脂に補強材として含有されるような用途で用いられるI型セルロース繊維のような強度特性を要していないということができる。そして、化粧品等の意匠性や良好な外観特性が求められる幅広い用途が想定され、本発明の製造方法により製造されるセルロース微細繊維の分散液は、透明性に優れるとともに、化学修飾されておらず安全性が高い。さらには、取り回しも良好で成形性に優れる。
【0022】
これより、図1の工程図を用い、本発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法について順に説明する。まず、出発原料となるセルロースとしては、パルプが好ましく挙げられる。パルプは、主に木材を粉砕し、リグニン等の不純物を除去してセルロース成分の純度が高められた原料である。また、綿花からも不純物を除去してセルロース成分の純度が高められたコットンリンターパルプが用いられる。加えて、パルプは繊維状であるため薬品との反応性が高く、セルロース原料として好ましい。パルプの他にも微生物が生成するバクテリアセルロース等の動物性のセルロース等も使用することができる。さらに、これら原料を精製して得られる精製セルロースを用いることができる。
【0023】
マーセル化工程(S1)は、セルロースをマーセル化してマーセル化セルロースを得る工程である。マーセル化工程では、苛性ソーダ(NaOH)等のアルカリ金属水酸化物に原料であるセルロースが加えられ、必要に応じて加熱されながら撹拌されて、セルロースの繊維が膨潤化される。セルロース繊維がアルカリ金属水酸化物に浸漬されると、マイナスに帯電してクーロン力が生じ、それぞれの繊維が反発して解繊されやすくなる。マーセル化されたセルロースは、上記の通り解繊されやすくなることから、後の解繊工程におけるエネルギーを削減することができる。
【0024】
マーセル化工程で用いられるアルカリ金属水酸化物は、苛性ソーダ(NaOH)、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられ、コストや安全性、環境負荷の観点から苛性ソーダが好ましく用いられる。
【0025】
マーセル化工程(S1)の後、必要に応じて余剰のアルカリ金属水酸化物は除去される。固形分濃度を適宜調整して、解重合工程(S2)が行われる。解重合工程(S2)は、マーセル化工程(S1)より得たマーセル化セルロースの重合度を760以下に低下させる工程である。固形分が調整されたマーセル化セルロースは、適宜粉砕され、空気中の酸素により酸化分解されて老成され、重合度の低下が図られる。この際、重合度は760以下とされる。マーセル化セルロースの重合度を760以下とすると、得られるセルロース微細繊維の分散液の透明性が確保される。また、マーセル化セルロースの重合度が低いほど、後の解繊工程におけるセルロース繊維の解繊が容易となる。
【0026】
解重合工程(S2)におけるマーセル化セルロースの老成は、室温又は加熱条件で行われる。解重合速度を速めるため、原料が乾燥しない程度の加熱条件が好ましく用いられる。また、老成反応を促進する硫酸マンガン(II)のような老成促進剤を添加することもできる。
【0027】
マーセル化工程(S1)及び解重合工程(S2)を経ることにより、微細繊維への解繊が可能な原料セルロースが得られる。セルロースがマーセル化されることによって、原料セルロースはII型の結晶構造を有するII型セルロースとなる。II型セルロースはI型セルロースよりも強度等に劣ると言われているが、本発明により得られるセルロース微細繊維は、化粧品等の分野におけるプラスチックの代替利用を目的とすることから、I型セルロースほどの強度は要求されないため、強度の低下は問題とはならない。
【0028】
そして、解繊工程(S3)では、該原料セルロースにアルカリ金属水酸化物や溶媒(イオン交換水)を添加して、総濃度が2.5~17.5%に調整され、解繊が行われる。ここで用いられるアルカリ金属水酸化物は、上記したように、苛性ソーダ、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられ、コストや安全性の観点から苛性ソーダが好ましく用いられる。原料セルロースの解繊は、機械(物理)的解繊によりなされる。機械(物理)的解繊は、ホモジナイザーやウォータージェット等が用いられ公知の方法により行われる。ここで、原料セルロースはマーセル化により繊維が膨潤して解繊されやすい状態とされていること、解重合工程により重合度が低下されていることから、高い圧力がかけられなくとも容易に解繊が可能であり、設備の面でも有意である。
【0029】
アルカリ金属水酸化物の濃度は、2.5%よりも低いとセルロースの膨潤が不十分となり、解繊がされにくくなるおそれがある。また、アルカリ金属水酸化物の濃度が17.5%よりも高くなると、塩濃度が高くなり、セルロースの繊維が凝集しやすくなるため、かえって解繊がされにくくなるおそれがある。アルカリ金属水酸化物が該範囲を外れて解繊が不十分となった場合には、得られるセルロース微細繊維の分散液の透明性が低くなり、意匠性に劣るきらいがある。
【0030】
解繊は、複数回に分けて行われても良い。例えば、ミキサによる予備解繊の後に、ホモジナイザーを用いて本解繊を行うことによって、均一で繊維径の小さいセルロース微細繊維とすることができる。また、予備解繊によれば、原料セルロースが解繊装置に詰まる等の不具合を回避することができる。予備解繊は、ミキサやリファイナー等が用いられ、公知の方法により行われる。セルロース微細繊維の解繊は、平均繊維径がナノサイズから数百ナノサイズに解繊されればよく、2~800nm程度、より好ましくは100nm以下とされるとセルロース微細繊維の分散液の透明性がより良好となる。
【0031】
解繊工程を経て得られたセルロース微細繊維は、中和工程(S4)において、酸で中和される。解繊工程を経て得られたセルロース微細繊維は、強アルカリ性であるため、中和を要する。用いられる酸は、例えば、硫酸や塩酸、乳酸等が挙げられる。中和されたセルロース微細繊維は、適宜洗浄されて再解繊されてII型未修飾セルロース微細繊維が得られる。
【0032】
これら工程を経て得られたII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を用いることにより、成形体を作製することができる。例えば、塗膜形成することでフィルム化したり、ビーズ状とすることにより化粧品等に用いることができる。いずれも乾燥による成形工程により作成可能であり、従来のセルロースフィルムやセルロースビーズと比較して環境負荷の高い薬品の使用量を削減することができる。
【0033】
本発明の製造方法により得たII型未修飾セルロース微細繊維の0.1質量%分散液は、良好な透明性を有する。具体的には、JIS K 7136(2000)に準拠して測定したヘーズ値が35%以下とすると、フィルムとした際の外観が良好であったり、化粧品に用いたりすることができ、幅広い用途に用いることができる。
【0034】
また、本発明の製造方法により得たII型未修飾セルロース微細繊維の重合度を310以下とすることにより、分散液としたときの粘度を低くすることができ、脱泡が容易となって成形性が向上するとともに、成形物の外観が良好となる。また、分散液の粘度が低くなると、成形装置の圧力上昇を抑制することができ、生産効率の向上を図ることも可能となる。
【実施例0035】
発明者らは、II型未修飾セルロース微細繊維の製造に際し、以下の原料等を用い、図1の工程図に従って、解重合工程における重合度、解繊工程におけるアルカリ金属水酸化物濃度をそれぞれ変更してII型未修飾セルロース微細繊維の製造実験を行った。
【0036】
〔原料〕
出発原料となるセルロース原料は、溶解パルプ(日本製紙株式会社製「LNDP」)を使用した。
【0037】
〔アルカリ金属水酸化物〕
マーセル化工程におけるマーセル化に用いたアルカリ金属水酸化物は、苛性ソーダ(キシダ化学株式会社製)を使用した。なお、解繊工程は同苛性ソーダを用いた。
【0038】
〔酸〕
中和工程における酸は、硫酸(キシダ化学株式会社製)を使用した。
【0039】
[II型未修飾セルロース微細繊維の分散液の調製]
上記の原料等を用いて、下記の配合によりII型未修飾セルロース微細繊維の分散液の調製を行った。
【0040】
<試作例1>
18重量%苛性ソーダを50℃まで加温し、パルプを2重量%となるよう投入してスラリー状になるまで撹拌し、マーセル化を行った(マーセル化工程)。その後、余剰の苛性ソーダを除去して固形分を33重量%に調整した。50℃で老成処理を行ってマーセル化セルロースの重合度を752として原料セルロース1を得た(解重合工程)。そして、原料セルロース1を10.6g、イオン交換水330.65g、苛性ソーダ8.75g(苛性ソーダ総濃度2.5%)として500mL容器に投入し、ミキサ(プライミクス株式会社製、「ラボ・リューション」)にて予備解繊を行った。その後、ホモジナイザー(株式会社SMT製、「LAB1000」)にて本解繊を行った(解繊工程)。調製したスラリーを125g採取し、撹拌しながら20重量%の硫酸を投入して中和した(中和工程)。中和後のサンプルを吸引ろ過し、イオン交換水300mLで置換洗浄を行った。洗浄後のサンプルを総重量250gになるようにイオン交換水を加え、ミキサ(プライミクス株式会社製、「ラボ・リューション」)にて予備解繊を行った。その後、ホモジナイザー(株式会社SMT製、「LAB1000」)にて本解繊し、試作例1のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0041】
<試作例2>
解繊工程における苛性ソーダの総濃度を9.5%とした以外は試作例1と同様とし、試作例2のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0042】
<試作例3>
解繊工程における苛性ソーダの総濃度を17.5%とした以外は試作例1と同様とし、試作例3のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0043】
<試作例4>
解繊工程における苛性ソーダの総濃度を1.5%とした以外は試作例1と同様としたところ、セルロースが解繊されず、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液は得られなかった。
【0044】
<試作例5>
解繊工程における苛性ソーダの総濃度を18.5%とした以外は試作例1と同様とし、試作例5のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0045】
<試作例6>
解重合工程におけるマーセル化セルロースの重合度を299となるまで老成処理を行って原料セルロースを得た以外は試作例1と同様とし、試作例6のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0046】
<試作例7>
解重合工程におけるマーセル化セルロースの重合度を299となるまで老成処理を行って原料セルロースを得た以外は試作例2と同様とし、試作例7のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0047】
<試作例8>
解重合工程におけるマーセル化セルロースの重合度を299となるまで老成処理を行って原料セルロースを得た以外は試作例3と同様とし、試作例8のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0048】
<比較例1>
解重合工程を行わなかった(省略した)以外は試作例1と同様としたところ、セルロースが解繊されず、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液は得られなかった。
【0049】
<比較例2>
解重合工程を行わなかった(省略した)以外は試作例3と同様とし、比較例2のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液を得た。
【0050】
<比較例3>
マーセル化工程及び解重合工程を行わなかった(省略した)以外は試作例1と同様としたところ、セルロースが解繊されず、II型未修飾セルロース微細繊維の分散液は得られなかった。
【0051】
各試作例及び比較例のII型未修飾セルロース微細繊維の分散液に関し、ヘーズ(%)及び重合度を測定した。各試作例及び比較例の各原料セルロースの重合度と解繊工程におけるアルカリ金属水酸化物の種類と濃度(%)とともに表1に示した。
【0052】
〔ヘーズ〕
ヘーズ(%)は、透明性の指標であって、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH-4000)を使用して各試作例の0.1質量%分散液の測定を行った。なお、各試作例の分散液の濃度の調整にはイオン交換水を用いた。分散液は、光路1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MG-40)に入れて測定した。ゼロ点測定は、同ガラスセルにイオン交換水を入れて行った。なお、セルロースの解繊ができずにセルロース微細繊維の得られなかった試作例及び比較例については測定ができなかったため、「-」とした。
【0053】
〔重合度〕
重合度は、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法により、以下の方法で測定した。乾燥したセルロース微細繊維を0.5M銅エチレンジアミン溶液1に溶解して溶液2を形成する。毛細管粘度計を用いて溶液1と溶液2の粘度を測定する。溶液2の粘度をη、溶液1の粘度をη0とし、次の計算式によりセルロース微細繊維の極限粘度[η]を求め、重合度DPを求めた。cは、セルロース微細繊維の濃度(g/L)である。
極限粘度[η]={(η/η0)-1}/c
重合度DP=極限粘度[η]/(8.8×10-4
【0054】
なお、セルロースの解繊ができずにセルロース微細繊維の得られなかった試作例及び比較例については、セルロース微細繊維の分散液の重合度の測定ができなかったため、「-」とした。
【0055】
〔平均繊維径〕
平均繊維径は、走査型プローブ顕微鏡(株式会社島津製作所製、SPM-9700HT)を用い、走査範囲10μm角の領域にて50本以上の繊維径を測定して平均値を算出した。走査型プローブ顕微鏡観察用サンプルは、セルロース微細繊維の分散液を水で任意の濃度に希釈し、マイカ基板上にキャストし、風乾して作成した。なお、平均繊維径の測定は試作例7のみ行った。
【0056】
【表1】
【0057】
[結果と考察]
アルカリ金属水酸化物濃度を同一とする試作例1,6,比較例1と、試作例3,8,比較例2をそれぞれ比較すると、原料セルロースの重合度を低くした試作例ほど、セルロース微細繊維の分散液のヘーズが低くなることが示された。このことから、解重合工程において、マーセル化セルロースの重合度をより低下させた原料セルロースを得ることにより、同じ解繊エネルギーでより細かく均一にセルロース微細繊維を分散可能であることが示された。比較例1のように、解重合工程を経ずに、重合度が760以上の原料セルロースとした場合には、解繊工程におけるアルカリ金属水酸化物濃度が低いとセルロースの解繊ができなかったり、比較例2のように、アルカリ金属水酸化物の濃度を高くして解繊ができた場合であってもヘーズの大きい分散液となった。
【0058】
原料セルロースの重合度を同一とする試作例1~5を比較すると、アルカリ金属水酸化物濃度が低すぎたり高すぎるとセルロース微細繊維の分散液のヘーズが高くなることが示された。特に、試作例4のように、アルカリ金属水酸化物濃度が2.5%未満とするとセルロース繊維の膨潤が不十分となり解繊ができずに、セルロース微細繊維が得られなかった。また、試作例5のように、アルカリ金属水酸化物濃度が17.5%よりも高くなると、塩濃度が高くなってセルロース繊維が凝集し、セルロースの解繊が不足となって分散液のヘーズが高くなったと考えられる。つまり、解繊工程におけるアルカリ金属水酸化物の総濃度を2.5~17.5%とすることによりヘーズの低い分散液を得ることができることが示され、特には総濃度を10%程度とするとさらに透明性の高い分散液が得られることが分かった。
【0059】
また、マーセル化工程を経ない比較例3にあっては、I型結晶構造を有すること及び解重合工程も省略して原料セルロースの重合度が高いことから、解繊ができずにセルロース微細繊維を得ることができなかった。
【0060】
以上のとおり、本発明の製造方法によれば、小さい解繊エネルギーによってもヘーズが低く、透明性の高いセルロース微細繊維の分散液を得ることができることから、簡易な工程で効率的に化学修飾されていないII型のセルロース微細繊維を製造することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のII型未修飾セルロース微細繊維の製造方法によれば、化学修飾されていないセルロース微細繊維を簡易な工程で効率的に得ることが可能である。また、得られたII型未修飾セルロース微細繊維は、透明性が高く、粘度が低いため、取り扱いが容易かつ外観特性に優れるため、化粧品等の幅広い用途に用いることができてプラスチックの代替として有用である。
【符号の説明】
【0062】
S1 マーセル化工程
S2 解重合工程
S3 解繊工程
S4 中和工程
図1