(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025415
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】プログラム、記憶媒体、システム、学習済モデルおよび判定方法
(51)【国際特許分類】
G16H 50/50 20180101AFI20230215BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20230215BHJP
A61B 1/24 20060101ALI20230215BHJP
A61B 1/045 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G16H50/50
A61B10/00 M
A61B1/24
A61B1/045 614
A61B1/045 618
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130640
(22)【出願日】2021-08-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月31日に一般財団法人キヤノン財団が自社のウェブサイトにて公開
(71)【出願人】
【識別番号】503168256
【氏名又は名称】株式会社スタージェン
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】森 英毅
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 一美
【テーマコード(参考)】
4C161
5L099
【Fターム(参考)】
4C161AA08
4C161CC06
4C161HH51
5L099AA04
5L099AA26
(57)【要約】
【課題】対象者の急性虫垂炎の発症の有無を判断することができるプログラム、記憶媒体、システム、学習済モデルおよび判定方法を提供する。
【解決手段】コンピュータを、モデル生成手段22と、受付手段24と、演算手段26として機能させるプログラムにおいて、モデル生成手段22は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データ32を用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデル34を深層学習により生成し、受付手段24は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付け、演算手段26は、モデル生成手段22により生成された学習済モデル34に基づいて、受付手段24により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、モデル生成手段と、受付手段と、演算手段として機能させるプログラムであって、
前記モデル生成手段は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成し、
前記受付手段は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付け、
前記演算手段は、前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う、プログラム。
【請求項2】
前記演算手段は、急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う際に、急性虫垂炎の発症有の確率および急性虫垂炎の発症無の確率のうち少なくとも何れか一方を算出する、請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
前記演算手段は、前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像に対するヒートマップを生成し、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像に前記ヒートマップを重ね合わせることにより生成される重合せ画像に基づいて急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う、請求項1または2記載のプログラム。
【請求項4】
前記モデル生成手段は、既存のモデルに前記教師データを加えることによって前記学習済モデルを深層学習により生成する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
前記教師データはトレーニングセットと、バリデーションセットおよびテストセットのうち少なくとも何れかとを含み、
前記モデル生成手段において、前記トレーニングセットを用いて生成された前記学習済モデルに対して、前記バリデーションセットおよび前記テストセットのうち少なくとも何れかを用いて検証を行う、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項6】
前記教師データは、前記受付手段により受け付けた舌表面画像および前記演算手段による演算結果を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項7】
コンピュータを、モデル生成手段と、受付手段と、演算手段として機能させるプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記モデル生成手段は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成し、
前記受付手段は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付け、
前記演算手段は、前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う、記憶媒体。
【請求項8】
舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成するモデル生成手段と、
急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付ける受付手段と、
前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う演算手段と、
を備えた、システム。
【請求項9】
舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用いて深層学習により生成された、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする、学習済モデル。
【請求項10】
コンピュータにより行われる判定方法であって、
舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成する工程と、
急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付ける工程と、
生成された前記学習済モデルに基づいて、受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う工程と、
を備えた、判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、記憶媒体、システム、学習済モデルおよび判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、漢方医学では舌の状態を身体の状態を現す指標の一つとする舌診が知られている。このような舌診の理論を用いた舌診装置として例えば特許文献1等に開示されるものが知られている。特許文献1等に開示される舌診装置では、漢方医学による舌診の技能がない医師、あるいは遠隔地にいるために患者の舌を直接舌診できない医師、さらには医師でない薬剤師等であっても漢方医学に基づく舌診の診断結果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、対象者の急性虫垂炎の発症の有無を判断する舌診装置は従来より存在しなかった。
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、対象者の急性虫垂炎の発症の有無を判断することができるプログラム、記憶媒体、システム、学習済モデルおよび判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コンピュータを、モデル生成手段と、受付手段と、演算手段として機能させるプログラムであって、
前記モデル生成手段は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成し、
前記受付手段は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付け、
前記演算手段は、前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う、プログラムである。
【0007】
本発明は、コンピュータを、モデル生成手段と、受付手段と、演算手段として機能させるプログラムが記憶された記憶媒体であって、
前記モデル生成手段は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成し、
前記受付手段は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付け、
前記演算手段は、前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う、記憶媒体である。
【0008】
本発明は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成するモデル生成手段と、
急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付ける受付手段と、
前記モデル生成手段により生成された前記学習済モデルに基づいて、前記受付手段により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う演算手段と、
を備えた、システムである。
【0009】
本発明は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用いて深層学習により生成された、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする、学習済モデルである。
【0010】
本発明は、コンピュータにより行われる判定方法であって、
舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データを用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデルを深層学習により生成する工程と、
急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付ける工程と、
生成された前記学習済モデルに基づいて、受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う工程と、
を備えた、判定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプログラム、記憶媒体、システム、学習済モデルおよび判定方法によれば、対象者の急性虫垂炎の発症の有無を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態による診断システムの構成を概略的に示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示す診断システムにおける学習済モデルの生成および舌表面画像を入力したときの演算等を示す説明図である。
【
図3】
図1に示す診断システムによる学習済モデルの生成方法および急性虫垂炎の発症の有無の判定方法を示すフローチャートである。
【
図4】急性虫垂炎の発症有の確率が高いと演算された舌表面画像である。
【
図5】
図4に示す舌表面画像に対して生成されたヒートマップである。
【
図6】
図4に示す舌表面画像および
図5に示すヒートマップを重ね合わせることにより生成される重合せ画像である。
【
図7】急性虫垂炎の発症有の確率が極めて低いと演算された舌表面画像である。
【
図8】
図7に示す舌表面画像に対して生成されたヒートマップである。
【
図9】
図7に示す舌表面画像および
図5に示すヒートマップを重ね合わせることにより生成される重合せ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図9は、本実施の形態に係る診断システムおよび診断対象となる舌表面画像等を示す図である。
【0014】
まず、本実施の形態に係る診断システムの構成について
図1および
図2を用いて説明する。
図1等に示すように、診断システム10はコンピュータ等から構成されており、制御部20と、記憶部30と、表示部50と、操作部52と、通信部54とを備えている。
【0015】
制御部20は、CPU(中央演算処理装置)等で構成され、診断システム10の動作を制御する。具体的には、制御部20は、後述する記憶部30に記憶されているプログラム36を実行することにより、モデル生成手段22、受付手段24、演算手段26および出力手段28として機能する。
【0016】
モデル生成手段22は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データ32を用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を出力とする学習済モデル34を深層学習により生成する。モデル生成手段22による学習済モデル34の生成方法の詳細については後述する。
【0017】
受付手段24は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者(すなわち、急性虫垂炎の発症が疑われる対象者)の舌表面画像を受け付ける。具体的には、例えば後述する通信部54を介して外部装置(例えば、デジタルカメラ等の撮像装置やスマートフォン等の携帯通信端末)から舌表面画像が診断システム10に送信されると、受付手段24はこの舌表面画像を受け付ける。
【0018】
演算手段26は、モデル生成手段22により生成された学習済モデル34に基づいて、受付手段24により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う。
【0019】
出力手段28は、演算手段26による演算結果を出力する。出力手段28により出力された情報は表示部50に表示されたり通信部54により診断システム10とは別の装置に送信されたりする。
【0020】
記憶部30は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)およびSSD(Solid State Drive)などで構成されている。また、記憶部30は診断システム10に内蔵されるものに限定されることはなく、診断システム10に着脱自在に装着可能な記憶媒体(例えば、USBメモリ)等であってもよい。本実施の形態では、記憶部30は、学習済モデル34およびプログラム36等を記憶するようになっている。
【0021】
表示部50は例えばモニタ等であり、制御部20から表示指令信号を受け取ることにより様々な画面を表示するようになっている。操作部52は例えばキーボード等であり、制御部20に対して様々な指令を与えることができるようになっている。本実施の形態では、これらの表示部50および操作部52が一体化したタッチパネル等の表示操作部が用いられてもよい。通信部54は、無線または有線により外部装置との信号の送受信を行うための通信インターフェースを含む。
【0022】
次に、このような診断システム10による診断方法(具体的には、急性虫垂炎の発症の有無についての判定方法)について
図2および
図3を用いて説明する。
図2は、
図1に示す診断システム10における学習済モデルの生成および舌表面画像を入力したときの演算等を示す説明図であり、
図3は、
図1に示す診断システム10による判定方法を示すフローチャートである。以下に示す動作は、記憶部30に記憶されているプログラム36を制御部20が実行することにより、各手段22、24、26、28によって行われるものである。
【0023】
まず、診断システム10において、モデル生成手段22により学習済モデル34を予め生成しておく(STEP1、2)。このようなモデル生成手段22による学習済モデル34の生成方法の詳細について以下に説明する。モデル生成手段22は、ニューラルネットワーク(NN)、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、Vision Transformer(ViT)等、およびそれらの組み合わせ等から構成されている。このようなニューラルネットワークは、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データ32が入力される入力層と、教師データ32を用いてパラメータが学習される中間層と、急性虫垂炎の発症の有無予測を出力する出力層と、学習済パラメータを含むよう構成された学習済モデル34を出力する機能とを有している。そして、このようなニューラルネットワークでは、教師データ32が入力されると、中間層にて演算し、出力層により急性虫垂炎の発症の有無予測を出力するようになる。このようなニューラルネットワークとして新たに構成することも、既知のものを用いることもできる。
【0024】
ここで、モデル生成手段22は、既存のモデルに教師データ32を加えることによって学習済モデル34を深層学習により生成してもよい。既存のモデルは、舌表面画像または、舌表面画像以外の多数の画像を用いて深層学習が既に行われたモデルと学習済パラメータであり、このような既存のモデルを転移学習させることにより学習済モデル34を効率的に作成することができる。すなわち、教師データ32の数が少なくても、精度の高い学習済モデル34を生成することができる。既存のモデルとしては、例えばCNNの一形態であるMobileNetや、ViT等を用いることができる。なお、本実施の形態はこのような態様に限定されることはない。他の態様として、モデル生成手段22は、既存のモデルを用いずに新たにモデルを構築し、教師データ32のみを用いてパラメータを学習し、学習済パラメータを含んだ学習済モデル34を深層学習により生成してもよい。
【0025】
また、本実施の形態では、教師データ32はトレーニングセット、バリデーションセット、テストセット(バリデーションセット、テストセットは、どちらかが存在しない場合もあり得る)を含み、モデル生成手段22において、まずはトレーニングセットを用いて学習済モデル34を生成し(STEP1)、生成された学習済モデル34に対して、バリデーションセット、テストセットを用いて検証を行う(STEP2)ようになっている。モデル生成手段22が教師データ32としてトレーニングセットを用いて学習済モデル34を作成した場合には、教師データ32自身のみによっては、過適合、過学習や未知のデータに対する汎化性能を評価することはできない。このため、バリデーションセット、テストセットを用いて汎化性能の検証を行う。バリデーションセット、テストセットを用いた検証方法として既知の方法または、新たな方法を用いることができる。
【0026】
次に、演算手段26による演算方法の詳細について説明する。急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像が受付手段24により受け付けられると(STEP3)、演算手段26は、モデル生成手段22により生成された学習済モデル34に基づいて、受付手段24により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う(STEP4)。具体的には、演算手段26は、急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う際に、急性虫垂炎の発症有の確率および急性虫垂炎の発症無の確率のうち少なくとも何れか一方を算出する。
【0027】
より詳細には、演算手段26は、まず、モデル生成手段22により生成された学習済モデル34に基づいて、受付手段24により受け付けられた舌表面画像(
図4、
図7参照)に対する画像処理を実行する。これは、学習済パラメータと舌表面画像の演算であり、一例がヒートマップ(
図5、
図8参照)に示されているような画像の特徴量抽出である。抽出された特徴量がヒートマップである場合には、それを舌表面画像に重ね合わせることにより重合せ画像(
図6、
図9参照)が演算結果として生成され、この生成された重合せ画像に基づいて急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う。抽出される特徴量は、ヒートマップ(
図5、
図8参照)に限るわけではなく、他の特徴量がモデル生成手段22で抽出されることもある。他の態様として、例えば演算手段26は、受付手段24により受け付けられた舌表面画像に学習済パラメータを演算して、受付手段24により受け付けられた舌表面画像と虫垂炎の発症の有無予測の広範囲な依存関係等の特徴量を抽出する。他の特徴量が抽出された場合には、重合せ画像(
図6、
図9参照)とは違った演算結果となるが、いずれにしても舌表面画像と抽出された特徴量との急性虫垂炎の発症の有無の予測に必要な適切な演算を行う。なお、
図4乃至
図6は、急性虫垂炎の発症有の確率が高いと演算された舌表面画像、ヒートマップおよび重合せ画像であり、
図7乃至
図9は、急性虫垂炎の発症有の確率が極めて低いと演算された舌表面画像、ヒートマップおよび重合せ画像である。
【0028】
その後、演算手段26による演算結果が出力手段28により出力される(STEP5)。具体的には、急性虫垂炎の発症有の確率および急性虫垂炎の発症無の確率のうち少なくとも何れか一方または両方が表示部50に表示されたり通信部54により外部装置に送信されたりする。このことにより、診断システム10の使用者は、舌表面画像を撮影した対象者に急性虫垂炎が発症しているか否かを診断する際に、演算手段26による演算結果(すなわち、急性虫垂炎の発症の有無の確率)を参照することができる。
【0029】
また、演算手段26により演算された急性虫垂炎の発症の有無の確率が、実際の対象者の急性虫垂炎の発症の有無に基づいて妥当である旨の入力が操作部52等によりなされた場合は、受付手段24により受け付けた舌表面画像および演算手段26により演算された急性虫垂炎の発症の有無の確率を教師データ32としてモデル生成手段22に入力することによって、モデル生成手段22により生成される学習済モデル34を都度更新してもよい。このことにより、診断システム10により舌表面画像の診断を行う度にモデル生成手段22に入力される教師データ32が増えるので、学習済モデル34をより精度の高いものとすることができる。
【0030】
以上のような構成からなる本実施の形態の診断システム10、プログラム36、記憶媒体(具体的には、記憶部30)および判定方法によれば、モデル生成手段22は、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データ32を用い、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報(発症の有無予測)を出力とする学習済モデル34を深層学習により生成する。また、受付手段24は、急性虫垂炎の発症の有無を診断すべき対象者の舌表面画像を受け付ける。そして、演算手段26は、モデル生成手段22により生成された学習済モデル34に基づいて、受付手段24により受け付けられた舌表面画像を入力したときの急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行う。このように、舌表面画像が入力されたときに、深層学習によって生成された学習済モデル34を用いて、急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行うため、急性虫垂炎の発症の有無を判断する精度を良好なものとすることができる。
【0031】
なお、本発明によるシステムやプログラム、記憶媒体、判定方法は、上述したような態様に限定されることはなく、様々な変更を加えることができる。
【0032】
例えば、コンピュータ(具体的には、診断システム10)を、モデル生成手段22と、受付手段24と、演算手段26として機能させるプログラムは、記憶部30に記憶されているものに限定されることはない。このようなプログラムとして、コンピュータに取り付けられたUSBメモリ等の記録媒体に記憶されているものや、外部装置から通信部54を介してコンピュータに送信されたものが用いられてもよい。
【0033】
また、モデル生成手段22は、ニューラルネットワークにより教師データ32から学習済モデル34を生成するものに限定されることはない。本発明による診断システムの他の例として、モデル生成手段22は、XGBoost、LightGB、M決定木(Decision trees)学習、相関ルール学習、クラスタリング等の他の種類の機械学習により学習済モデル34を生成するようになっていてもよい。
【0034】
また、本発明による診断システムは、演算手段が学習済モデルを用いて舌表面画像に基づいて急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行うものに限定されることはない。他の態様の診断システムとして、舌表面画像および急性虫垂炎以外の病気(例えば、胃や肝臓に代表される消化器系疾患や腎臓に代表される腎・尿路系疾患)の発症の有無に関する情報を含む教師データを用いて深層学習により生成された、舌表面画像を入力、急性虫垂炎の発症の有無に関する情報(発症の有無予測)を出力とする学習済パラメータを含むよう構成された学習済モデルを用いることより、演算手段が、対象者の舌表面画像に基づいて急性虫垂炎以外の病気(例えば、胃や肝臓に代表される消化器系疾患や腎臓に代表される腎・尿路系疾患)の発症の有無に関する演算を行うものが用いられてもよい。
【0035】
また、上記の説明では、学習済モデル34およびプログラム36が記憶部30に記憶されるような態様について説明したが、本実施の形態はこのような態様に限定されることはない。学習済モデル34やプログラム36が、診断システム10とは別の装置(例えば、サーバ)の記憶部に記憶されてもよい。また、スマートフォン等で撮影した画像を、ウエブサーバ等にアップロードして、サーバ上にある、プログラムや学習済モデルを使用して、結果のみをサーバ上に表示させたり、または、スマートフォン等に結果のみをダウンロードさせて表示させてもよい。
【実施例0036】
〔実施例〕
次に、
図1乃至
図3に示す構成の診断システム10により学習済モデル34の生成および演算手段26による演算を行ったときの実施例について説明する。
【0037】
まず、複数の教師データ32を用いてモデル生成手段22により学習済モデル34を生成した。具体的には、層化抽出に基づく複数回のランダムクロスバリデーションで、90個の教師データ32として20歳以上の男女の66個のトレーニングセット、12個のバリデーションセットおよび12個のテストセットを準備した。各教師データ32として、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含むものを用いた。そして、モデル生成手段22は、既存のモデルに66個のトレーニングセット(急性虫垂炎の発症有:41セット、発症無:25セット)を加えることによって学習済モデル34を深層学習により生成した。具体的には、深層学習方法として他の画像データにて学習済みのMobileNet(http://www.image-net.org/)モデルとその学習済パラメータを初期値として与え、モデル前部層では、そのパラメータを固定、後部層は66個のトレーニングデータで再学習する、いわゆる転移学習を行った。そして、再学習されたパラメータを学習済パラメータとする新たに生成された学習済モデル34に対して、12個のバリデーションセット(急性虫垂炎の発症有:7セット、発症無:5セット)および12個のテストセット(急性虫垂炎の発症有:7セット、発症無:5セット)を用いて検証を行った。具体的には、バリデーションセット、テストセットを用いた検証方法としてランダムなトレーニングセット、バリデーションセット、テストセット分割法を複数回実施した。そして、最終学習後のパラメータを学習済パラメータとした。
【0038】
このようにして生成された学習済モデル34を用いて、診断システム10に入力された舌表面画像に基づいて演算手段26により急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行い、演算結果(具体的には、急性虫垂炎の発症有の割合)を表示部50に表示させた。急性虫垂炎の発症有が7枚、発症無が5枚である計12枚の20歳以上の男女の舌表面画像に対して演算を行ったところ、11枚の舌表面画像について急性虫垂炎の発症の有無を正しく診断することができた。すなわち、正診率は約92%であった。
【0039】
〔比較例〕
対象者の舌表面画像を目視にて専門家が視ることにより急性虫垂炎の発症の有無を診断した。具体的には、対象者の舌表面画像を縦3面および横3面で9分割し、各領域について舌苔が認められない場合を0点、舌乳頭が認識可能な薄い舌苔がある場合を1点、舌乳頭が認識不可能な厚い舌苔がある場合を2点としてスコアリングを2名の看者が行い、平均点を算出した。そして、10点以上である場合は急性虫垂炎の発症有の可能性が高く、4点より小さい場合は急性虫垂炎の発症有の可能性が低いことが明らかとなった。この結果を元にトレーニングされた専門家の目視による診断を20歳以上の男女の計12枚の舌表面画像に対して行ったところ、正診率は約58%であった。
【0040】
このように、舌表面画像および急性虫垂炎の発症の有無に関する情報を含む教師データ32を用いて学習済モデル34を深層学習により生成し、この学習済モデル34を用いて舌表面画像に基づいて急性虫垂炎の発症の有無に関する演算を行った場合は、対象者の舌表面画像を目視にて専門家が視ることにより急性虫垂炎の発症の有無を診断した場合よりも高い正診率が得られることが分かった。