IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサヒビール株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025433
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】ビール様発酵麦芽飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20230215BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C12C5/02
C12C11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130676
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】中山 航
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧弥
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128CP21
4B128CP34
4B128CP38
(57)【要約】
【課題】ビールらしい香味に優れながら、味の厚みが軽減され、飲用時の軽快感が向上したビール様発酵麦芽飲料を提供すること。
【解決手段】麦芽と副原料との混合物の糖化発酵物を含み、6~20mg/100mlの苦味系アミノ酸、及び3.3GV以上の炭酸ガスを含む、ビール様発酵麦芽飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽と副原料との混合物の糖化発酵物を含み、
6~20mg/100mlの苦味系アミノ酸、及び3.3GV以上の炭酸ガスを含む、ビール様発酵麦芽飲料。
【請求項2】
50質量%以上の麦芽使用比率を有する、請求項1に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項3】
前記苦味系アミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、ヒスチジン、リジン及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項4】
前記苦味系アミノ酸は原料のタンパク質に由来する物質である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項5】
苦味系アミノ酸の含有量が6~15mg/100mlである、請求項1~4のいずれか一項に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項6】
炭酸ガスの含有量が3.3~5GVである、請求項1~5のいずれか一項に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項7】
0.5~4%(w/w)の真正エキス濃度を有する請求項1~6のいずれか一項に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項8】
アルコール飲料である、請求項1~7のいずれか一項に記載のビール様発酵麦芽飲料。
【請求項9】
苦味系アミノ酸の含有量を6~20mg/100mlに調節する工程;及び
炭酸ガスの含有量を3.3GV以上に調節する工程;
を包含する、麦芽と副原料との混合物の糖化発酵物を含むビール様発酵麦芽飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビール様発酵麦芽飲料に関し、特に、軽快感が向上したビール様発酵麦芽飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
麦芽飲料は、原料に麦芽を使用して製造される飲料をいう。例えば、麦芽由来の糖液を発酵させて得られる飲料、麦芽由来の糖液を混合して得られる飲料などは麦芽飲料に該当する。麦芽飲料の具体例にはビール様発酵麦芽飲料等が該当する。
【0003】
ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。ビール様発酵麦芽飲料は、味及び香りがビールを想起させる程度に同様になるように設計された麦芽飲料をいう。ビール及び発泡酒はビール様発酵麦芽飲料に含まれる。
【0004】
ビール様発酵麦芽飲料は麦汁の発酵物である。麦汁は、麦芽を含む穀類を粉砕し、副原料及び温水と混合して一定温度に保持したり、一定速度で加熱することにより麦芽中のタンパク質をアミノ酸に分解し、かつデンプンを糖化し、得られる糖液にホップを加えて更に煮沸して製造される溶液である。麦芽等を温水と共に加熱する過程は、一般に、糖化と呼ばれ、糖液を煮沸する過程は麦汁煮沸と呼ばれる。麦汁という文言の意味には、糖化後に得られる糖液も含まれることがある。
【0005】
ビール様発酵麦芽飲料は、飲用時に、ビールらしい香味と味の厚みとを与えることができる。ビールらしい香味とは、麦芽由来香味、醸造由来複雑香及び複雑味が調和した、バランスのよい香味をいう。味の厚みとは、麦芽の成分に由来する味と、その分解物であるアミノ酸又は糖に由来する甘味、酸味、苦味及びうま味が調和した味質をいう。味の厚みはコク味、複雑味と表現される場合がある。しかしながら、近年、ビール様発酵麦芽飲料の飲用感として、軽快感を高める要求が大きくなり、味質の面から、ビールらしい味の厚みを軽減する検討が行われている。
【0006】
特許文献1には、特定量以上の苦味価と、特定量以上の炭酸ガス含有量とを有するビール様発泡性飲料が記載されている。特許文献1では、苦味価が高いビール様発泡性飲料では、苦味の後味が悪く、爽快さが損なわれてドリンカビリティーが低くなりやすいことが解決課題とされている(段落0003)。ここで言う苦味価とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群の含有量を表す特性値である(段落0014)。そして、この課題は、炭酸ガス含有量を、一般的なビールの炭酸ガス含有量よりも高ガス圧にすることで解決され、苦味の後キレが向上され、爽快感とドリンカビリティーが高められている(段落0011)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-122289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビール様発酵麦芽飲料については、炭酸ガス含有量を、一般的なビールの炭酸ガス含有量よりも高ガス圧にした場合、味の厚みは軽減されず、かえって苦味が強調されてしまい、ビールらしい香味が損なわれる問題が明らかになった。
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールらしい香味に優れながら、味の厚みが軽減され、飲用時の軽快感が向上したビール様発酵麦芽飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、麦芽と副原料との混合物の糖化発酵物を含み、
6~20mg/100mlの苦味系アミノ酸、及び3.3GV以上の炭酸ガスを含む、ビール様発酵麦芽飲料を提供する。
【0011】
ある一形態においては、前記ビール様発酵麦芽飲料は50質量%以上の麦芽使用比率を有する。
【0012】
ある一形態においては、前記苦味系アミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、ヒスチジン、リジン及びトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0013】
ある一形態においては、前記苦味系アミノ酸は原料のタンパク質に由来する物質である。
【0014】
ある一形態においては、苦味系アミノ酸の含有量が6~15mg/100mlである。
【0015】
ある一形態においては、炭酸ガスの含有量が3.3~5GVである。
【0016】
ある一形態においては、前記ビール様発酵麦芽飲料は0.5~4%(w/w)の真正エキス濃度を有する。
【0017】
ある一形態においては、前記ビール様発酵麦芽飲料はアルコール飲料である。
【0018】
また、本発明は、苦味系アミノ酸の含有量を6~20mg/100mlに調節する工程;及び
炭酸ガスの含有量を3.3GV以上に調節する工程;
を包含する、麦芽と副原料との混合物の糖化発酵物を含むビール様発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ビールらしい香味に優れながら、味の厚みが軽減され、飲用時の軽快感が向上したビール様発酵麦芽飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<ビール様発酵麦芽飲料>
本発明のビール様発酵麦芽飲料は、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる、いわゆるビールを含む飲料である。本発明のビール様発酵麦芽飲料は、樽、缶及びビン等の密閉可能な容器に充填されることで、製品化されることがある。
【0021】
本発明のビール様発酵麦芽飲料は苦味系アミノ酸を含有する。苦味系アミノ酸はビール様発酵麦芽飲料において苦味を呈するアミノ酸である。苦味系アミノ酸は、原料に含まれるタンパク質が酵素によって分解されて生成したものである。タンパク質を含む原料には、具体的には、大麦麦芽、未発芽の大麦、小麦麦芽、大豆加水分解物、酵母エキス等がある。これらの中でも麦芽は使用量が多い。従って、苦味系アミノ酸は主として麦芽に由来する。
【0022】
苦味系アミノ酸の具体例としては、フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、ヒスチジン、リジン及びトリプトファンが挙げられる。ここで苦味系アミノ酸というときは、これらの中で、対象になるビール様発酵麦芽飲料に存在するアミノ酸の全種類の混合物を意味する。
【0023】
苦味系アミノ酸は揮発性が低い。そのため、苦味系アミノ酸が呈する苦味は安定的に持続する傾向がある。苦味系アミノ酸が呈する苦味は、同様に原料分解物に由来する甘味、酸味、及びうま味と調和して、ビール様発酵麦芽飲料の味に厚み、コク感又は複雑感を与える要因である。
【0024】
一方、ビール様発酵麦芽飲料には、イソα酸及びイソフムロン等の主にホップに由来する苦味成分も含まれる。ビール様発酵麦芽飲料の苦味価は、ホップに由来する苦味成分の含有量を表す特性値である。これらのホップに由来する苦味成分は比較的揮発性が高く、戻り香に作用し、持続性が短い傾向がある。戻り香とは、ビール様発酵麦芽飲料を口に含んだ際に、口中から鼻に抜ける香気である。これに対し、鼻から直接入る香気はトップ香と呼ばれる。戻り香とトップ香とは、官能として区別することができる。
【0025】
本発明のビール様発酵麦芽飲料において、苦味系アミノ酸の濃度は6~20mg/100mlである。苦味系アミノ酸の濃度が6mg/100ml未満になると、味の厚みが不十分になり、20mg/100mlを超えると苦味が突出して感じられ、いずれもビールらしい香味が損なわれやすくなる。本発明のビール様発酵麦芽飲料の苦味系アミノ酸の濃度は、好ましくは8~15mg/100mlであり、より好ましくは8~12mg/100mlである。
【0026】
苦味系アミノ酸の濃度は、例えば、(米国)ウォーターズ社製Acquity UPLC分析装置を 用いて、アキュタグウルトラ(AccQ-Tag Ultra)ラベル化法により測定することができる。また、日本電子社製アミノ酸自動分析装置JLC―500/V型などを用いて測定することが可能である。
【0027】
本発明のビール様発酵麦芽飲料は、3.3GV(即ち、ガスボリューム)以上の炭酸ガスを含有する。炭酸ガスの含有量が3.3GV未満であると、飲んだ後に苦味が残り、爽快感やドリンカビリティーが向上し難くなる。本発明のビール様発酵麦芽飲料の炭酸ガスの含有量は、好ましくは3.3~5.0GVであり、より好ましくは3.3~4.5GVである。炭酸ガスの含有量が大きくなると、戻り香が減少する傾向が認められる。炭酸ガスの含有量を高める場合、味質と香気とのバランスが損なわれない程度に留めることに留意する必要がある。
【0028】
本発明のビール様発酵麦芽飲料は、一般に0.5~4%(w/w)の真正エキス濃度を有する。真正エキス濃度が0.5~4%(w/w)未満であると、ビール様発酵麦芽飲料の味の厚みが不足して飲用感が水っぽくなり、4%(w/w)を超えると、甘味が目立つようになり、いずれもビールらしい香味が損なわれやすくなる。本発明のビール様発酵麦芽飲料の真正エキス濃度は、好ましくは1.0~4.0%(w/w)であり、より好ましくは2.0~3.0%(w/w)である。
【0029】
<ビール様発酵麦芽飲料の製造方法>
本発明のビール様発酵麦芽飲料は、苦味系アミノ酸の含有量を所定の範囲に調節すること及び炭酸ガス含有量を、一般的なビールの炭酸ガス含有量よりも高い所定の範囲に調節すること以外は、ビール又は発酵麦芽飲料を製造する際に通常行われる方法及び条件に従って製造される。
【0030】
例えば、まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。苦味系アミノ酸は、原料中のタンパク質の分解物である。原料の中でタンパク質を多く含むものは麦芽である。そこで、ビール様発酵麦芽飲料の苦味系アミノ酸の含有量は、麦芽使用比率を調節することで、調節することができる。
【0031】
麦芽使用比率とは、ホップと醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。麦芽使用比率は、麦芽中の苦味系アミノ酸の含有量に応じて変化するが、一般には30~70質量%、好ましくは40~70質量%、より好ましくは50~70質量%である。麦芽使用比率を上記範囲に調節することで、ビール様発酵麦芽飲料にビールらしい香味が付与され易くなる。
【0032】
麦芽使用比率が高いほど、得られる麦汁の麦芽由来の旨味やコク感が強くなる。また、麦芽使用比率が高いほど得られる麦汁中の窒素化合物の含有量が多くなり、麦汁が発酵に供される場合に発酵不順が発生しにくくなり、不快臭が発生し難くなる。
【0033】
上記副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等のデンプン質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、デンプン質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0034】
マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するたんぱく質をアミノ酸などへ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
【0035】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素剤を必要な範囲で適当量添加してもよい。
【0036】
上記糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0037】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調節した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固した蛋白質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。上記麦汁煮沸の操作により、麦汁が得られる。
【0038】
得られた麦汁は、発酵させて、発酵麦芽飲料を製造する原料として使用することができる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁に酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行う。
【0039】
本発明の発酵麦芽飲料の外観最終発酵度は85%以上が好ましい。発酵麦芽飲料の外観最終発酵度が85%未満であると、得られる発酵麦芽飲料のキレ感が低下する。本発明の発酵麦芽飲料の外観最終発酵度は、好ましくは、90~110%、より好ましくは、90%~100%である。
【0040】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に、外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(%(w/w))、を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0041】
尚、「エキス」とは、麦汁の蒸発残留固形分をいう。エキスは、主として糖分からなる。エキスの含有量は、原料である麦芽や各種澱粉、糖類の仕込み量を変えることにより調整することができる。ビール様発酵麦芽飲料の真正エキス濃度は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度(%(w/w))を意味する。
【0042】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
【0043】
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは、外観最終エキスである。]
【0044】
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0045】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。その結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0046】
外観最終発酵度は、例えば、糖化条件、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び、原材料の種類や配合量などを調整することにより、制御することができる。例えば、糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、外観最終発酵度を高めることができる。
【0047】
発酵終了後、さらに、熟成工程として、得られた麦汁発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の麦汁発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去する。
【0048】
酵母及びタンパク質等が除去された麦汁発酵液は、カーボネーション工程を経ることで炭酸ガスが添加される。これにより、本発明のビール様発酵麦芽飲料が得られる。ある一形態において、本発明のビール様発酵麦芽飲料は容器に充填されて、製品として市場に流通する。
【実施例0049】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
<実施例1>
麦芽を粉砕し、コーンスターチ及び湯と混合して、液化させ、煮沸して、麦芽使用比率50質量%の原料液を調製した。原料液を62℃で30分糖化させ、ろ過し、ホップを投入して100℃、30分煮沸して麦汁を調製した。麦汁から沈殿物を取り除き、エキス12%に調整し、冷却した。冷却した麦汁に酵母を適量添加した。主発酵は10℃、7日、熟成は10℃10日実施し、冷却しろ過後、所定量の炭酸ガスを溶解させて、約5.0v/v%のエタノールを含有する麦汁発酵液を得た。麦汁発酵液の苦味価は20BUに調整した。
【0051】
<真正エキスの測定>
真正エキスの濃度(%(w/w))は、EBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」7 .2 1990年)に従って測定した。
【0052】
<苦味系アミノ酸の定量>
ビール様発泡性飲料中の苦味系アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、ヒスチジン、リジン、トリプトファン)の濃度は、日本電子社製アミノ酸自動分析装置JLC―500/V型を用いて定量し、それらの合計濃度を求めた。
【0053】
<プロリンの定量>
ビール様発泡性飲料中のプロリンの濃度は、日本電子社製アミノ酸自動分析装置JLC―500/V型を用いて定量し、決定した。
【0054】
<官能評価>
作製した試料について、官能評価を行った。評価項目として、「苦味の残り」、「戻り香の強さ」、「苦味の強さ」、「ビールらしい香味」及び「味の厚み」の5項目を設定し、訓練されたビール専門のパネリスト6名が、後述の基準に従って採点した。パネリスト全員の採点の平均値を各評価項目の評点とした。なお、評価に供された試料の液温は約4℃であった。
【0055】
[評価項目及び評価基準]
苦味の残り:
飲用後に苦味が残らないかどうか。ビールを飲み込んで数秒後に残って感じられる苦味の強さ。アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を3点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以下の場合に良いと判断される。
【0056】
戻り香の強さ:
口中から鼻に抜けるビール香気が感じられるかどうか。アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を3点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以下の場合に良いと判断される。
【0057】
苦味の強さ:
ビールの味質としての苦味が突出して感じられるかどうか。ビールを口に含んだ際に苦味を感じる最高点での強さ。アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を3点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以下の場合に良いと判断される。
【0058】
味の厚み:
コク味が感じられるかどうか。アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を3点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以下の場合に良いと判断される。
【0059】
ビールらしい香味:
麦芽由来香味、醸造由来複雑香及び複雑味が調和した、バランスのよい香味が感じられるかどうか。アサヒビール株式会社製「アサヒスーパードライ」(商品名)を3点、炭酸水を1点とし、5段階で採点した。評価点が3点以上の場合に良いと判断される。
【0060】
結果を表1に記載する。なお、表1の官能検査の点数は、6名のパネリストの評点の平均値である。
【0061】
【表1】
【0062】
<実施例2>
麦芽使用比率を60%とすること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、分析し、官能評価した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
<実施例3>
麦芽使用比率を70%とすること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、分析し、官能評価した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
実施例1~3のビールでは、炭酸ガス圧を高めることで苦味の残りが低減してキレが向上し、戻り香は弱くなるが、苦味も弱くなるので、ビールらしい香味のバランスは良好に維持され、味の厚みが軽減した。その結果、飲用時の軽快感が向上した、ビールらしい香味に優れたビールが提供された。
【0067】
<比較例1>
麦芽使用比率を30%とすること以外は実施例1と同様にして発泡酒を製造し、分析し、官能評価した。結果を表2に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
比較例1の発泡酒では、炭酸ガス圧を高めることで苦味の残りが低減してキレが向上し、戻り香及び苦味が弱くなるが、味の厚みが不足して、ビールらしいバランスの良い香味が劣っていた。
【0070】
<比較例2>
麦芽使用比率を75%とすること以外は実施例1と同様にしてビールを製造し、分析し、官能評価した。結果を表3に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
比較例2のビールでは、炭酸ガス圧を高めることで苦味の残りが低減してキレが向上し、戻り香も弱くなるが、苦味の強さが突出して、ビールらしいバランスの良い香味が劣り、味の厚みも軽減されなかった。
【0073】
<比較例3>
麦芽を粉砕し、湯と混合して、液化させ、煮沸して、麦芽使用比率100%の原料液を調製した。原料液を62℃で30分糖化させ、ろ過し、ホップを投入して100℃、30分煮沸して麦汁を調製した。麦汁から沈殿物を取り除き、エキス12%に調整し、冷却した。冷却した麦汁に酵母を適量添加した。主発酵は10℃、7日、熟成は10℃10日実施し、冷却しろ過後、所定量の炭酸ガスを溶解させて、約5.0v/v%のエタノールを含有する麦汁発酵液を得た。麦汁発酵液の苦味価は20BUに調整した。これを官能検査に供した。
【0074】
【表6】
【0075】
比較例3の試料では、炭酸ガス圧を高めることで苦味の残りがやや低減し、戻り香もやや弱くなるが、苦味の強さが突出して、ビールらしいバランスの良い香味が劣り、味の厚みも軽減されなかった。