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特開2023-25442コンクリート圧縮強度測定方法、コンクリート圧縮強度測定システム、測定装置、解析装置、及びプログラム
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  • 特開-コンクリート圧縮強度測定方法、コンクリート圧縮強度測定システム、測定装置、解析装置、及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025442
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】コンクリート圧縮強度測定方法、コンクリート圧縮強度測定システム、測定装置、解析装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20230215BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20230215BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G01N3/00 M
G01N19/00 G
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130693
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】394026714
【氏名又は名称】株式会社ジャスト
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】夛田 健次
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA20
2G061AB01
2G061AB10
2G061BA01
2G061CA08
2G061DA12
2G061EA04
2G061EB04
(57)【要約】
【課題】 簡易かつ高精度に硬化コンクリートの圧縮強度を測定可能なコンクリート圧縮強度測定方法等を提供する。
【解決手段】 コンクリート圧縮強度測定システム1は電動ドライバー2に取り付けた測定装置3と、測定装置3で測定した測定データを取得し解析する解析装置5とを備える。測定装置3は、電動ドライバー2を用いてコンクリート部材10に雄ねじ4を螺入している際に生じる回転ひずみを測定し、測定データとして解析装置3に出力する。解析装置5は測定データを取得し、オーバートルクが生じている間の測定データに基づいてトルク反力を求め、トルク反力とコンクリートの圧縮強度の関係に基づいてコンクリート部材10の圧縮強度を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入するステップと、
前記雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定装置が測定するステップと、
測定した測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を解析装置が推定する推定ステップと、
を含むコンクリート圧縮強度測定方法。
【請求項2】
前記推定ステップにおいて、前記オーバートルクが生じている間の前記トルク反力の時間積分値を算出し、算出した時間積分値に基づいて前記コンクリート部材の圧縮強度を推定することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート圧縮強度測定方法。
【請求項3】
前記測定データは、前記コンクリート部材から前記電動ドライバーに伝わる回転ひずみ量のデータであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート圧縮強度測定方法。
【請求項4】
前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間を前記解析装置が設定するステップを更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のコンクリート圧縮強度測定方法。
【請求項5】
前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間をオペレータが指定するステップを更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のコンクリート圧縮強度測定方法。
【請求項6】
測定装置と解析装置とを備えたコンクリート圧縮強度測定システムであって、
前記測定装置は、
回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定する測定部と、
前記測定データを前記解析装置に出力するインターフェースと、
前記測定部及び前記インターフェースを前記電動ドライバーのドリルに固定する固定部と、を備え、
前記解析装置は、
前記測定装置が測定した測定データを取得する測定データ取得部と、
前記測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を前記解析装置が推定する推定部と、
を備えることを特徴とするコンクリート圧縮強度測定システム。
【請求項7】
前記推定部は、前記オーバートルクが生じている間の前記トルク反力の時間積分値を算出し、算出した時間積分値に基づいて前記コンクリート部材の圧縮強度を推定することを特徴とする請求項6に記載のコンクリート圧縮強度測定システム。
【請求項8】
前記測定データは、前記コンクリート部材から前記電動ドライバーに伝わる回転ひずみ量のデータであることを特徴とする請求項6または請求項7に記載のコンクリート圧縮強度測定方法。
【請求項9】
前記解析装置は、
前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間を設定する設定部を更に備えることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載のコンクリート圧縮強度測定システム。
【請求項10】
前記解析装置は、
前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間をオペレータが指定するためのユーザインターフェースを更に備えることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれかに記載のコンクリート圧縮強度測定システム。
【請求項11】
前記インターフェースは、前記測定データを無線で前記解析装置に送信する送信器であることを特徴とする請求項6から請求項10のいずれかに記載のコンクリート圧縮強度測定システム。
【請求項12】
前記インターフェースは、前記測定データを前記解析装置に送信する有線インターフェースであることを特徴とする請求項6から請求項10のいずれかに記載のコンクリート圧縮強度測定システム。
【請求項13】
回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定する測定部と、
前記測定データを解析装置に出力するインターフェースと、
前記測定部及び前記インターフェースを前記電動ドライバーのドリルに固定する固定部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項14】
回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを取得する測定データ取得部と、
前記測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を推定する推定部と、
を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項15】
コンピュータを、
回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを取得する測定データ取得手段、
前記測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を推定する推定手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート圧縮強度測定方法、コンクリート圧縮強度測定システム、測定装置、解析装置、及びプログラムに関し、詳細には、コンクリートの圧縮強度を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの圧縮強度を知る手法としては、コンクリート構造物からコア供試体を採取して実際に圧縮して強度を計測する破壊法や、超音波や衝撃弾性波により構造物内部の強度を推定する非破壊強度推定法等がある。しかし、破壊法では躯体を損ねてしまい、一つの構造物から多くのコアを採取するには適さないという問題や、小径コアの場合は、実際の強度と大きく異なる結果となるという問題があり、また、労力、時間、費用が多くかかるという問題があった。超音波法及び衝撃弾性波法等は、事前に同配合のコンクリート試験体を用いたキャリブレーションを行って強度と推定指標の定量的な関係を求めておく必要があり煩雑であるという問題や、表面と内部の品質差や材齢が精度に大きく影響し、全体的に精度が良くないという問題があった。
【0003】
また微破壊試験方法として、貫入試験法、ピン引抜き試験法、コア引張破壊試験法、引っかき傷幅試験法、削孔抵抗法等が提案されている。これらの試験方法は、事前に同配合のコンクリート試験体で貫入抵抗と圧縮強度の関係式を求めておく必要があったり、表面がモルタル仕上げのものしか適用できなかったり、骨材によって測定精度が影響を受けたり、表面劣化状態に影響を受けたりするなどの問題や、総じて測定精度が悪いという問題があった。
【0004】
特許文献1には、トルク値と圧縮強度の関係に基づいてコンクリートの強度を求める方法が提案されている。この方法は、先端にコンクリートドリルを溶接したテストボルトを進退可能に螺合したボルトと、該ボルトを固定用鉄筋に指示された固定ナットに螺合させてコンクリートに埋設し、コンクリートドリル先端部を打設コンクリートに接触させるとともに任意の硬化時間経過ごとにテストボルトをトルクレンチにて回転させ、該ボルトを螺進させて、トルク値を実測し、予め用意してあるトルク値と圧縮強度の関係に基づいてコンクリートの強度を求めるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】昭56-160636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す方法は、コンクリート型枠の脱型時期を決定することを目的としており、コンクリートを打設する前に予めボルトの先端にコンクリートドリルを溶接したものをナットとともにセットしておく必要がある。よって硬化したコンクリートには適用することができないものであった。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、簡易かつ高精度に硬化コンクリートの圧縮強度を測定可能なコンクリート圧縮強度測定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入するステップと、前記雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定装置が測定するステップと、測定した測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を解析装置が推定する推定ステップと、を含むコンクリート圧縮強度測定方法である。
【0009】
第1の発明のコンクリート圧縮強度測定方法によれば、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定装置を用いて測定し、解析装置は、測定データのうち、雄ねじのねじ頭部がコンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいてトルク反力を求め、コンクリート部材の圧縮強度を推定する。このため、電動ドライバーで雄ねじをコンクリート部材にねじ込むという簡単な作業で、コンクリートの圧縮強度を推定することが可能となる。従来のようにコアを採取したり、同配合の試験体を用いた事前測定が必要なく、対象とするコンクリート構造物で直接測定を行うことができる。また測定箇所の損傷はねじの穿孔孔程度で済むため、補修も容易である。
【0010】
第1の発明の前記推定ステップにおいて、前記オーバートルクが生じている間の前記トルク反力の時間積分値を算出し、算出した時間積分値に基づいて前記コンクリート部材の圧縮強度を推定する。これにより、オーバートルク区間におけるコンクリート部材に生じるトルク反力の時間積分値と圧縮強度との関係に基づいてコンクリートの圧縮強度を推定するため、多くのパラメータを必要とせずに精度よく推定結果を得ることができる。
【0011】
また、前記測定データは、前記コンクリート部材から前記電動ドライバーに伝わる回転ひずみ量のデータであることが望ましい。電動ドライバーに伝わる回転ひずみ量を測定装置で測定すれば、評価対象とするコンクリートの圧縮強度を求めることができるため、簡単に測定でき、労力、時間、費用を抑えることが可能となる。
【0012】
また、前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間を前記解析装置が設定するステップを更に含むことが望ましい。また、前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間をオペレータが指定するステップを更に含むようにしてもよい。これにより、オーバートルク区間を適切に設定することが可能となる。
【0013】
第2の発明は、測定装置と解析装置とを備えたコンクリート圧縮強度測定システムであって、前記測定装置は、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定する測定部と、前記測定データを前記解析装置に出力するインターフェースと、前記測定部及び前記インターフェースを前記電動ドライバーのドリルに固定する固定部と、を備え、前記解析装置は、前記測定装置が測定した測定データを取得する測定データ取得部と、前記測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を前記解析装置が推定する推定部と、を備えることを特徴とするコンクリート圧縮強度測定システムである。
【0014】
第2の発明のコンクリート圧縮強度測定システムによれば、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定装置を用いて測定し、解析装置は、測定データのうち、雄ねじのねじ頭部がコンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいてトルク反力を求め、コンクリート部材の圧縮強度を推定する。このため、電動ドライバーで雄ねじをコンクリート部材にねじ込むという簡単な作業で、コンクリートの圧縮強度を推定することが可能となる。従来のようにコアを採取したり、同配合の試験体を用いた事前測定が必要なく、対象とするコンクリート構造物で直接測定を行うことができる。また測定箇所の損傷はねじの穿孔孔程度で済むため、補修も容易である。
【0015】
第2の発明において、前記推定部は、前記オーバートルクが生じている間の前記トルク反力の時間積分値を算出し、算出した時間積分値に基づいて前記コンクリート部材の圧縮強度を推定する。これにより、オーバートルク区間におけるコンクリート部材に生じるトルク反力の時間積分値と圧縮強度との関係に基づいてコンクリートの圧縮強度を推定するため、多くのパラメータを必要とせずに精度よく推定結果を得ることができる。
【0016】
また、前記測定データは、前記コンクリート部材から前記電動ドライバーに伝わる回転ひずみ量のデータであることが望ましい。電動ドライバーに伝わる回転ひずみ量を測定装置で測定すれば、評価対象とするコンクリートの圧縮強度を求めることができるため、簡単に測定でき、労力、時間、費用を抑えることが可能となる。
【0017】
前記解析装置は、前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間を設定する設定部を更に備えることが望ましい。また、前記解析装置は、前記測定データにおける前記オーバートルクが生じている区間をオペレータが指定するためのユーザインターフェースを更に備えるようにしてもよい。これにより、オーバートルク区間を適切に設定することが可能となる。
【0018】
また、前記インターフェースは、前記測定データを無線で前記解析装置に送信する送信器であることが望ましい。無線送信器を用いることにより、測定装置と解析装置間の配線が不要となり、どのような測定箇所でも手軽に測定可能となる。また、前記インターフェースは、前記測定データを前記解析装置に送信する有線インターフェースとしてもよい。
【0019】
第3の発明は、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを測定する測定部と、前記測定データを解析装置に出力するインターフェースと、前記測定部及び前記インターフェースを前記電動ドライバーのドリルに固定する固定部と、を備えることを特徴とする測定装置である。
【0020】
第3の発明により、第1または第2の発明における測定装置を提供できる。
【0021】
第4の発明は、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを取得する測定データ取得部と、前記測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を推定する推定部と、を備えることを特徴とする解析装置である。
【0022】
第4の発明により、第1または第2の発明における解析装置を提供できる。
【0023】
第5の発明は、コンピュータを、回転速度を一定に保持する機能を有する電動ドライバーを用いてコンクリート部材に雄ねじを螺入している際に生じるトルク反力を求めるための測定データを取得する測定データ取得手段、前記測定データのうち、前記雄ねじのねじ頭部が前記コンクリート部材に接してオーバートルクが生じている間の測定データに基づいて前記トルク反力を求め、前記コンクリート部材の圧縮強度を推定する推定手段、として機能させるためのプログラムである。
【0024】
第4の発明により、コンピュータを第1から第3の発明における解析装置として機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、簡易かつ高精度に硬化コンクリートの圧縮強度を測定可能なコンクリート圧縮強度測定方法等を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】コンクリート圧縮強度測定システム1の全体構成を示す図
図2】(a)測定装置3の側面図、(b)正面図、(c)A-A′断面図
図3】測定装置3及びコンピュータ(解析装置5)の機能構成を示すブロック図
図4】測定データに基づいて得られるトルク反力の時間変化を示すグラフ
図5】コンクリート圧縮強度測定方法の全体の流れを示すフローチャート
図6図5のステップS104の推定処理の手順を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明に係るコンクリート圧縮強度測定システム1の全体構成を示す図である。図1に示すように、コンクリート圧縮強度測定システム1は、電動ドライバー2のドリル21に取り付けられた測定装置3と、測定装置3によって測定したデータに基づいて硬化コンクリート部材10(以下、コンクリート部材10)の圧縮強度を解析する解析装置5(コンピュータ)とを備えて構成される。
【0029】
電動ドライバー2は、雄ねじ4(ビス、ボルト)をコンクリート部材10に螺入するためのドライバーであり、ドライバビット22、ドリル21、ドリル21を回転駆動するモータ、モータに電源を供給する電源供給部、電源ON/OFFスイッチ等を備えた一般的な電動ドライバーである。なお、本発明の測定方法では、電動ドライバー2の回転速度を一定に保持する回転速度調整機能を有する。
【0030】
電動ドライバー2のドリル21には測定装置3が取り付けられる。
図2は、測定装置3の構成を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は図2(a)のA-A′断面図である。図2に示すように、測定装置3は、電動ドライバー2のドリル21に固定的に取り付けられた測定部31と、インターフェース32及び電源部34等を含む本体部30と、測定部31と本体部30とを固定する固定部33とを備える。測定部31は、図2に示すように、ドリル21に篏合されたエクステンションバー35の表面に貼り付けられたひずみゲージである。エクステンションバー35は剛性の部材で構成され、一端にドリル21、他端にドライバビット22を嵌め入れるための篏合部を有する。エクステンションバー35は本体部30の中央に設けられた孔を貫通してドリル21に取り付けられる。なお、各部の取り付け方や形状、サイズ、寸法等は一例であり、図の例に限定されない。
【0031】
測定部31(ひずみゲージ)は、雄ねじ4をコンクリート部材10に螺入している際にコンクリート部材10に生じるトルク反力を求めるためのデータを測定する部材である。電動ドライバー2を用いてコンクリート部材10に雄ねじ4を螺入すると、コンクリート部材10にトルク反力が生じ、その力が雄ねじ4及びドライバビット22を通じてエクステンションバー35に伝わり回転ひずみが生じる。測定部31は、エクステンションバー35に伝わった回転ひずみの量を測定データとして測定する。測定部31はひずみゲージにより測定した測定データ(ひずみ量データ)をインターフェース32から解析装置5へ出力する。
【0032】
例えば、図2に示すようにドリル21に取り付けたエクステンションバー35の表面に、ドリル回転軸に対して45度の角度でひずみゲージ(測定部31)を接着した場合、軸表面のひずみは軸に加えられたトルクに比例する。よって、表面のひずみ量を測定することで、コンクリート部材10のトルク反力を知ることができる。以下に、回転ひずみとトルク反力との関係をあらわす式の一例を示す。
【0033】
T=k・δ
δ=ε・L
ここで、
T:トルク[N/mm]
k:装置定数(測定装置固有の定数)[N]
δ:ねじり変位[mm]
ε:ねじり歪み度[無次元](ひずみゲージで測定される数値)
L:計測点の長さ(ひずみゲージの長さ)[mm]
【0034】
なお、エクステンションバー35に接着するひずみゲージの配置位置配置数は任意である。また、ひずみゲージの配線はインターフェース32に接続されて、測定データが順次インターフェース32に出力される。
【0035】
インターフェース32は、測定部31が測定した測定データを解析装置5へ出力する通信インターフェースであり、例えば、Bluetooth(登録商標)等の無線送信器を用いることができる。無線送信器を用いることにより、電動ドライバー2に測定装置3を取り付けても取り回しが煩雑にならず、多様な場所での測定に好適である。インターフェース32は、本体部30の内部(例えば、上部ケース30a)に収納され、測定部31及び電源部34に電気的に接続される。上部ケース30aの内部空間には、例えばGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastic:ガラス繊維強化プラスチック)等の樹脂製の充填剤36が充填される。インターフェース32には、電源部34から電力が供給される。なお、インターフェース32は、測定データを有線でケーブルを介して解析装置5へ出力する有線インターフェースとしてもよい。
【0036】
電源部34は、インターフェース32に電力を供給する電池(リチウムイオン電池)及び配線を含み、例えば、本体部30の下部ケース30b内に収納される。下部ケース30bの電源部34以外の空間は樹脂材等が充填されてもよいし、中空としてもよい。また下部ケース30bには、電池の出し入れを行うための開口部及び蓋が設けられることが望ましい。
【0037】
固定部33は、測定装置3の本体部30と電動ドライバー2のドリル21に取り付けた測定部31(エクステンションバー35)とを固定するための部材である。
【0038】
次に、解析装置5について説明する。解析装置5は、図3に示すように、制御部51、記憶部52、通信部53、入力部54、表示部55、及び周辺機器I/F(インターフェース)部56等をバスを介して接続したコンピュータにより構成され、PC、タブレット、スマートフォン等を用いることができる。なお、解析装置5の構成は適宜変更可能である。解析装置5は、電動ドライバー2に取り付けられた測定装置3が測定した測定データを、解析装置5の通信部53または周辺機器I/F部56を介して取得する。解析装置5は、取得した測定データに基づいてコンクリート部材10の圧縮強度を推定する。圧縮強度の推定方法については後述する。
【0039】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成され、CPUは、記憶部52、ROM等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バスを介して接続された各部(記憶部52、通信部53、入力部54、表示部55、周辺機器I/F部56)を駆動制御する。ROMは、ブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部51が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0040】
記憶部52は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の記憶装置であり、取得した測定データや圧縮強度の推定結果等を記憶する。また、記憶部52は、圧縮強度推定処理に係るプログラムを記憶する。
【0041】
通信部53は、WiFiアンテナ、Bluetooth等の無線通信部、またはLAN等の有線通信部の通信ポート、及び通信制御装置を有し、外部機器との通信を媒介するインターフェースである。なお、通信部53は、測定装置3のインターフェース32に対応し、測定装置3が測定した測定データを受信可能な通信インターフェースを備える必要がある。
【0042】
入力部54は、例えば、タッチパネル、キーボード、マウス等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置等を含み、入力されたデータを制御部51へ入力する。
【0043】
表示部55は、例えば液晶パネル等のディスプレイと、ディスプレイと連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部51の制御により入力された表示データをディスプレイに表示させる。なお、表示部55は、表示画面にタッチパネル等の入力装置(入力部54)を一体的に設けたタッチパネルディスプレイとしてもよい。
【0044】
周辺機器I/F部56は、周辺機器を接続させるためのポートであり、制御部51は周辺機器I/F部56を介して周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部56は、USB(Universal Serial Bus)等によって構成されている。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0045】
次に、解析装置5の機能構成について説明する。
解析装置5は、測定データ取得部511、圧縮強度推定部513、結果出力部515等を有する。これらの機能部は、制御部51のCPUが、記憶部52に記憶された圧縮強度推定処理に係るプログラムを読み込み、RAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行することにより実現される。
【0046】
測定データ取得部511は、測定装置3から出力された測定データを通信部53または周辺機器I/F部56を介して取得する。或いは、記憶部52に記憶されている測定データや、別のコンピュータに保存されている測定データやクラウド上に保存された測定データを通信部53がLANやインターネット等のネットワークを介して取得し、制御部51に取り込むものとしてもよい。測定データは、電動ドライバー2がコンクリート部材10に雄ねじ4を螺入している際に電動ドライバー2のドリル21に生じる回転ひずみ量のデータである。
【0047】
圧縮強度推定部513は、測定データ取得部511が取得した測定データに基づいてコンクリート部材10の圧縮強度を推定する。具体的には、圧縮強度推定部513は、取得した測定データ(ひずみ量データ)のうち、雄ねじ4のねじ頭部がコンクリート部材10に接した後、更にねじ込まれてオーバートルクが生じている間(オーバートルク区間)の測定データに基づいてコンクリート部材10の圧縮強度を推定する。圧縮強度推定部513は、測定データ(ひずみ量データ)からコンクリート部材10に生じているトルク反力を求め、オーバートルク区間におけるトルク反力の時間積分値を算出し、算出した時間積分値に基づいてコンクリート部材10の圧縮強度を推定する。
【0048】
図4は、電動ドライバー2を用いて雄ねじ4をコンクリート部材10に螺入する際のトルク反力の時間変化を示すグラフである。測定時、電動ドライバー2の回転速度は一定を保たれている。グラフの横軸は時間tであり、縦軸はトルク反力の大きさ[N・m]を示している。図4のグラフにおいて、時刻t0<t≦taの区間は、雄ねじ4の先端部がコンクリート部材10に入り込み始めた状態である。時刻ta<t≦tbの区間は、雄ねじ4が略一定のトルクでコンクリート部材10を螺進している状態である。時刻tb<t≦tcの区間は、雄ねじ4のねじ頭部がコンクリート部材10の表面に接して更にねじ込まれている状態である。すなわち、オーバートルクが生じた状態である。時刻tc<t≦tdの区間は、オーバートルクによりねじ山が壊れ、空回りした状態である。
【0049】
圧縮強度推定部513は、時刻tb<t≦tcのオーバートルク区間におけるコンクリート部材10のトルク反力をドリル21(エクステンションバー35)に伝わったひずみ量データから算出し、オーバートルク区間のトルク反力の時間積分値を算出する。オーバートルク区間のトルク反力の時間積分値とコンクリート圧縮強度には、正の相関がある。圧縮強度推定部513は、オーバートルク区間におけるトルク反力の時間積分値を算出し、トルク反力の時間積分値とコンクリート圧縮強度との相関関係に基づいて、コンクリート部材10の圧縮強度を推定する。
【0050】
なお、オーバートルク区間は、制御部51が測定データを解析して設定するようにしてもよいし、オペレータが指定してもよい。制御部51がオーバートルク区間を設定する場合、制御部51は、例えば、グラフの時刻ta<t≦tbの区間(雄ねじ4が略一定のトルクで螺進している区間)からトルク反力の基準値(例えば、平均値)を求め、グラフの値が基準値を所定値以上、上回り始めた時から基準値の所定値以下まで下回る時までの区間をオーバートルク区間として設定する。
【0051】
オペレータがオーバートルク区間を設定する場合、制御部51は、オーバートルク区間を指定するためのユーザインターフェース(オーバートルク区間設定画面)を提供する。制御部51は、測定データまたは測定データから算出したトルク反力のグラフ(図4)を表示部55に表示させ、グラフ上で雄ねじ4のねじ頭部がコンクリート部材10の表面に接してオーバートルクが生じ始めた時点tbと、ねじ山が壊れ、空回りした時点tcの設定操作を受け付ける。
【0052】
結果出力部515は、圧縮強度推定部513により推定された圧縮強度の推定結果を出力する。出力方法は、表示部55への表示、記憶部52への記憶、通信部53を介した外部機器への送信、または周辺機器I/F部56を介した外部への出力(例えば、プリンタによる印刷出力)等を含む。
【0053】
次に、コンクリート圧縮強度測定システム1を用いたコンクリート圧縮強度測定方法について説明する。
まず、図5のフローチャートを参照して、測定の全体の流れを説明する。
【0054】
作業者は、測定装置3を取り付けた電動ドライバー2を用いて測定対象とするコンクリート部材10に雄ねじ4を螺入する(ステップS101)。電動ドライバー2のドリル回転速度は一定を保持するように調整されている。
【0055】
測定装置3の測定部31は、電動ドライバー2が雄ねじ4を螺入している際のドリル21に生じる回転ひずみの測定を行う(ステップS102)。回転ひずみは測定データとしてインターフェース32を介して解析装置5に順次出力される(ステップS103)。回転ひずみの測定は、雄ねじ4の先端部がコンクリート部材10に入り始め、コンクリート部材10に螺入され、更に、ねじ頭部がコンクリート部材10の表面に接し、その後もねじ込まれてオーバートルクが生じ、ねじ山が壊れ、空回りするまで継続される。
【0056】
解析装置5(コンピュータ)は、測定装置3から出力された測定データを順次取得して、RAMまたは記憶部52に記憶する。解析装置5は、一連の測定データに基づいてコンクリート部材10の圧縮強度を推定する(ステップS104)。
【0057】
図6は、図5のステップS104の圧縮強度推定処理における解析装置5(コンピュータ)の処理手順を説明するフローチャートである。
【0058】
解析装置5の制御部51(測定データ取得部511)は、測定装置3から測定データを取得する(ステップS201)。制御部51は、測定データにおけるオーバートルク区間を設定する(ステップS202)。或いは、制御部51は、ユーザインターフェース(オーバートルク区間設定画面)を表示して、オペレータによるオーバートルク区間の設定を受け付ける。
【0059】
制御部51(圧縮強度推定部513)は、測定データ(ひずみ量データ)から所定の関係式に基づいてトルク反力を求め、設定されたオーバートルク区間のトルク反力の時間積分値を算出する(ステップS203)。そして、算出した時間積分値に基づいて、コンクリート部材10の圧縮強度を推定する(ステップS204)。
【0060】
制御部51(結果出力部515)は、圧縮強度推定部513により推定されたコンクリート部材10の圧縮強度の推定結果を出力(表示、記憶、データ送信、印刷出力等)する(ステップS205)。
【0061】
以上のように、本発明に係るコンクリート圧縮強度測定システム1を用いることにより、電動ドライバー2で雄ねじ4をコンクリート部材10にねじ込むという簡単な作業で、コンクリートの圧縮強度を推定することが可能となる。従来のようにコアを採取したり、試験体を用いた事前測定が必要なく、対象とするコンクリート構造物で直接測定を行うことができる。また測定箇所の損傷はねじの穿孔孔程度で済むため、補修も容易である。更に、圧縮強度の推定のために多くのパラメータを必要とせず、ドリル21に生じる回転ひずみ量を測定すれば足り、オーバートルク区間(ねじ頭が接してから更にねじ込もうとする状態)におけるコンクリート部材10に生じるトルク反力とコンクリートの圧縮強度との関係に基づいてコンクリートの圧縮強度を推定するため、精度のよい推定結果を得ることができる。
【0062】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。例えば、測定装置3の形状、サイズ、取付方法等は一例であり、その他の形状、サイズ、取付方法を採用してもよい。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0063】
1・・・・・コンクリート圧縮強度測定システム
2・・・・・電動ドライバー
3・・・・・測定装置
4・・・・・雄ねじ
5・・・・・解析装置(コンピュータ)
10・・・・コンクリート部材
21・・・・ドリル
22・・・・ドライバビット
30・・・・本体部
31・・・・測定部
32・・・・インターフェース
33・・・・固定部
34・・・・電源部
35・・・・エクステンションバー
36・・・・充填剤
51・・・・制御部
52・・・・記憶部
53・・・・通信部
54・・・・入力部
55・・・・表示部
56・・・・周辺機器I/F部
511・・・測定データ取得部
513・・・圧縮強度推定部
515・・・結果出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6