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特開2023-25474旋盤、及び、その突っ切りバイト破損検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025474
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】旋盤、及び、その突っ切りバイト破損検出方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20230215BHJP
   B23B 5/14 20060101ALI20230215BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
B23B5/14
B23B25/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130743
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(74)【代理人】
【識別番号】100126077
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】志鎌 耕一郎
【テーマコード(参考)】
3C029
3C045
【Fターム(参考)】
3C029DD05
3C045BA07
3C045DA02
3C045EA02
3C045HA05
(57)【要約】
【課題】連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させることが可能な旋盤を提供する。
【解決手段】旋盤1は、主軸(11)、対向主軸(16)、刃物台30、制御部(70)、及び、接触型破損検出部40を備える。制御部(70)は、主軸(11)が把持している棒材B1を対向主軸(16)が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(ST3)において、主軸(11)と対向主軸(16)の少なくとも一方を制御するための制御パラメーターに基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。また、制御部(70)は、第一検出タイミング(ST3)とは異なる第二検出タイミング(ST6)において、接触型破損検出部40による検出結果に従って突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒材を解放可能に把持する主軸と、
前記主軸から前方へ出ている前記棒材の先端部を解放可能に把持する対向主軸と、
前記主軸に把持されている前記棒材を突っ切る突っ切りバイトが取り付けられた刃物台と、
前記主軸、前記対向主軸、及び、前記刃物台の動作を制御する制御部と、
前記突っ切りバイトにより前記棒材を突っ切る突っ切り動作の後に前記棒材の先端部が残存していると該先端部に接触する進出位置に進退可能な検出子を有し、前記進出位置に進出した前記検出子が前記棒材の先端部に接触すると前記突っ切りバイトが破損していると検出する接触型破損検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記主軸が把持している前記棒材を前記対向主軸が把持している状態で前記突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミングにおいて、前記主軸と前記対向主軸の少なくとも一方を制御するための制御パラメーターに基づいて前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する処理を行い、
前記第一検出タイミングとは異なる第二検出タイミングにおいて、前記接触型破損検出部による検出結果に従って前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する処理を行う、旋盤。
【請求項2】
前記第二検出タイミングは、前記主軸が把持している前記棒材を前記対向主軸が把持していない状態で前記突っ切り動作が行われた直後のタイミングと、前記棒材の連続加工を開始するタイミングと、の少なくとも一方である、請求項1に記載の旋盤。
【請求項3】
前記主軸と前記対向主軸の内、一方を第一主軸とし、他方を第二主軸としたとき、前記制御パラメーターは、前記第一主軸における位置指令と位置フィードバック信号との差信号である位置偏差であり、
前記制御部は、前記第一検出タイミングにおいて、停止させている前記第一主軸から前記第二主軸を離隔させる制御により前記位置偏差が所定量を超えると前記突っ切りバイトが破損していると判定し、前記位置偏差が前記所定量を超えない場合に前記突っ切りバイトが破損していないと判定する、請求項1又は請求項2に記載の旋盤。
【請求項4】
前記接触型破損検出部は、
前記主軸の中心線と交差する方向へ前記検出子を移動させる検出子駆動部と、
前記中心線に向けて進出させた前記検出子が前記棒材の先端部に接触したか否かを検出する接触検出部と、を備え、
前記中心線に向けて進出させた前記検出子が前記棒材の先端部に接触したことが前記接触検出部により検出されることにより前記突っ切りバイトが破損していると検出する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の旋盤。
【請求項5】
棒材を解放可能に把持する主軸と、
前記主軸から前方へ出ている前記棒材の先端部を解放可能に把持する対向主軸と、
前記主軸に把持されている前記棒材を突っ切る突っ切りバイトが取り付けられた刃物台と、
前記突っ切りバイトにより前記棒材を突っ切る突っ切り動作の後に前記棒材の先端部が残存していると該先端部に接触する進出位置に進退可能な検出子を有し、前記進出位置に進出した前記検出子が前記棒材の先端部に接触すると前記突っ切りバイトが破損していると検出する接触型破損検出部と、を備える旋盤の突っ切りバイト破損検出方法であって、
前記主軸が把持している前記棒材を前記対向主軸が把持している状態で前記突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミングにおいて、前記主軸と前記対向主軸の少なくとも一方を制御するための制御パラメーターに基づいて前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する第一工程と、
前記第一検出タイミングとは異なる第二検出タイミングにおいて、前記接触型破損検出部による検出結果に従って前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する第二工程と、を含む、旋盤の突っ切りバイト破損検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突っ切りバイトの破損を検出する手段を備える旋盤、及び、その突っ切りバイト破損検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤として、給材機により供給された棒材から繰り返しワークを切り離して製品を連続して形成するNC(数値制御)旋盤が知られている。NC旋盤は、正面主軸に把持されている棒材の先端部の正面加工を刃物台に取り付けられている工具で行い、正面加工後の棒材の先端部を背面主軸で把持し、刃物台に取り付けられている突っ切りバイトで棒材を突っ切る。これにより、背面主軸に把持されている正面加工後のワークが棒材から切り離される。さらに、NC旋盤は、ワークの背面加工を刃物台に取り付けられている工具で行い、得られる製品を排出する。
【0003】
突っ切りバイトが破損すると、棒材からワークを切り離すことができなくなる。そこで、NC旋盤は、突っ切りバイトの破損を検出する手段を備えている。
【0004】
特許文献1に開示された2主軸対向旋盤は、NC装置からの位置指令と、移動側主軸台の主軸台送りモーターのパルスエンコーダー等によって検出される位置フィードバック信号と、の差信号である位置偏差を検出する位置偏差検出手段を備えている。当該2主軸対向旋盤は、固定側主軸台と移動側主軸台とを互いに低速離隔させる指令を与え、このとき検出される位置偏差が設定値を超えるとワークが切り離されていないと判断して警報を発して装置を停止させる。突っ切りバイトが破損している場合、位置偏差が大きくなるため、警報が発せられて装置が停止する。
上述した突っ切りバイト破損検出手段は、突っ切り動作後に棒材の先端部が残存していると進出時に該先端部に接触する検出子を使用しないため、非メカ式破損検出手段といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-245740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
給材機から新しい棒材が正面主軸に供給された時や連続加工を再開した時、棒材を位置決めするため、背面主軸が棒材の先端部を把持していない状態で突っ切りバイトにより棒材の先端部を切り落とすトップカット処理を行う場合がある。この場合において、突っ切りバイトが破損していると、棒材において切り落とされるべき先端部が残存し、後の加工動作に影響を与える。しかし、上述した非メカ式破損検出手段は、正面主軸が把持している棒材を背面主軸が把持していない状態で突っ切り動作が行われた場合、突っ切りバイトの破損を検出することができない。
また、トップカット処理を行わない場合でも、連続加工を開始する時に正面主軸が把持している棒材を背面主軸が把持していない場合がある。この場合も、上述した非メカ式破損検出手段は、突っ切りバイトの破損を検出することができない。
【0007】
ここで、非メカ式破損検出手段の代わりに、突っ切り動作後に棒材の先端部が残存していると進出時に該先端部に接触する検出子を備えるメカ式破損検出手段を用いることを想定する。メカ式破損検出手段は、トップカット処理の直後等でも突っ切りバイト破損を検出することができる。しかし、メカ式破損検出手段は、検出子を移動させる時間が必要であるため、連続加工時間が長くなってしまう。
【0008】
本発明は、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させることが可能な旋盤、及び、その突っ切りバイト破損検出方法を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の旋盤は、
棒材を解放可能に把持する主軸と、
前記主軸から前方へ出ている前記棒材の先端部を解放可能に把持する対向主軸と、
前記主軸に把持されている前記棒材を突っ切る突っ切りバイトが取り付けられた刃物台と、
前記主軸、前記対向主軸、及び、前記刃物台の動作を制御する制御部と、
前記突っ切りバイトにより前記棒材を突っ切る突っ切り動作の後に前記棒材の先端部が残存していると該先端部に接触する進出位置に進退可能な検出子を有し、前記進出位置に進出した前記検出子が前記棒材の先端部に接触すると前記突っ切りバイトが破損していると検出する接触型破損検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記主軸が把持している前記棒材を前記対向主軸が把持している状態で前記突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミングにおいて、前記主軸と前記対向主軸の少なくとも一方を制御するための制御パラメーターに基づいて前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する処理を行い、
前記第一検出タイミングとは異なる第二検出タイミングにおいて、前記接触型破損検出部による検出結果に従って前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する処理を行う、態様を有する。
【0010】
また、本発明の旋盤の突っ切りバイト破損検出方法は、
棒材を解放可能に把持する主軸と、
前記主軸から前方へ出ている前記棒材の先端部を解放可能に把持する対向主軸と、
前記主軸に把持されている前記棒材を突っ切る突っ切りバイトが取り付けられた刃物台と、
前記突っ切りバイトにより前記棒材を突っ切る突っ切り動作の後に前記棒材の先端部が残存していると該先端部に接触する進出位置に進退可能な検出子を有し、前記進出位置に進出した前記検出子が前記棒材の先端部に接触すると前記突っ切りバイトが破損していると検出する接触型破損検出部と、を備える旋盤の突っ切りバイト破損検出方法であって、
前記主軸が把持している前記棒材を前記対向主軸が把持している状態で前記突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミングにおいて、前記主軸と前記対向主軸の少なくとも一方を制御するための制御パラメーターに基づいて前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する第一工程と、
前記第一検出タイミングとは異なる第二検出タイミングにおいて、前記接触型破損検出部による検出結果に従って前記突っ切りバイトが破損しているか否かを判定する第二工程と、を含む、態様を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させる旋盤、及び、その突っ切りバイト破損検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ガイドブッシュが取り付けられている旋盤の構成例を模式的に示す正面図である。
図2】ガイドブッシュが取り外されている旋盤の構成例を模式的に示す正面図である。
図3】突っ切りバイトの破損を検出する接触型破損検出部が設けられた刃物台の例を模式的に示す図である。
図4】連続加工時に突っ切りバイトが棒材を突っ切る突っ切り動作の例を模式的に示す平面図である。
図5】トップカット処理時に突っ切りバイトが棒材を突っ切る突っ切り動作の例を模式的に示す平面図である。
図6】旋盤の電気回路の構成例を模式的に示すブロック図である。
図7】正面主軸台の制御系の例を模式的に示すブロック図である。
図8】加工処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図9】メカ式破損検出処理の例を模式的に示すフローチャートである。
図10】非メカ式破損検出処理の例を模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0014】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~10に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
【0015】
[態様1]
図1~3等に例示するように、本技術の一態様に係る旋盤1は、主軸(例えば正面主軸11)、対向主軸(例えば背面主軸16)、刃物台30、制御部(例えばNC装置70)、及び、接触型破損検出部40を備える。前記主軸(11)は、棒材B1を解放可能に把持する。前記対向主軸(16)は、前記主軸(11)から前方へ出ている前記棒材B1の先端部B1aを解放可能に把持する。前記刃物台30は、前記主軸(11)に把持されている前記棒材B1を突っ切る突っ切りバイトTO3が取り付けられている。前記制御部(70)は、前記主軸(11)、前記対向主軸(16)、及び、前記刃物台30の動作を制御する。前記接触型破損検出部40は、前記突っ切りバイトTO3により前記棒材B1を突っ切る突っ切り動作の後に前記棒材B1の先端部B1aが残存していると該先端部B1aに接触する進出位置P1に進退可能な検出子41を有し、前記進出位置P1に進出した前記検出子41が前記棒材B1の先端部B1aに接触すると前記突っ切りバイトTO3が破損していると検出する。前記制御部(70)は、前記主軸(11)が把持している前記棒材B1を前記対向主軸(16)が把持している状態で前記突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(例えば図4に示す状態ST3)において、前記主軸(11)と前記対向主軸(16)の少なくとも一方を制御するための制御パラメーター(例えば図7に示す位置偏差SG2)に基づいて前記突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。当該制御部(70)は、前記第一検出タイミング(ST3)とは異なる第二検出タイミング(例えば図5に示す状態ST6)において、前記接触型破損検出部40による検出結果に従って前記突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。
【0016】
主軸(11)が把持している棒材B1を対向主軸(16)が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(ST3)においては、主軸(11)と対向主軸(16)の少なくとも一方を制御するための制御パラメーター(SG2)に基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かが判定される。この場合、進退動作を伴う検出子41が突っ切りバイト破損検出に使用されないので、連続加工中の加工時間が長くならない。第一検出タイミング(ST3)とは異なる第二検出タイミング(ST6)においては、接触型破損検出部40による検出結果に従って突っ切りバイトTO3が破損しているか否かが判定される。これにより、制御パラメーター(SG2)に基づいて突っ切りバイト破損を検出することができない第二検出タイミング(ST6)も、突っ切りバイト破損を検出することができる。
以上より、上記態様1は、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させる旋盤を提供することができる。
【0017】
ここで、主軸が把持している棒材を対向主軸が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後は、突っ切りバイトが正常である場合に棒材を突っ切った時点から主軸と対向主軸の少なくとも一方が主軸中心線に沿って移動を開始する時点までを意味する。
本願における「第一」及び「第二」は、互いに類似点を有する二つの構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0018】
[態様2]
図5に例示するように、前記第二検出タイミングは、前記主軸(11)が把持している前記棒材B1を前記対向主軸(16)が把持していない状態で前記突っ切り動作が行われた直後のタイミング(ST6)でもよい。主軸(11)が把持している棒材B1を対向主軸(16)が把持していない状態で突っ切り動作を行うトップカット処理の直後において、突っ切りバイトTO3が破損していると、棒材B1において切り落とされるべき先端部B1aが残存し、後の加工動作に影響を与える。本態様は、トップカット処理の直後においても、突っ切りバイト破損を検出することができる。
また、前記第二検出タイミングは、前記棒材B1の連続加工を開始するタイミングでもよい。連続加工開始時にトップカット処理が行われない場合でも、突っ切りバイトTO3が破損していることにより棒材B1において切り落とされるべき先端部B1aが残存することがある。本態様は、連続加工開始時においても、突っ切りバイト破損を検出することができる。
【0019】
第二検出タイミングがトップカット処理直後と連続加工開始時の少なくとも一方である態様は、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させる好適な例を提供することができる。
ここで、主軸が把持している棒材を対向主軸が把持していない状態で突っ切り動作が行われた直後は、突っ切りバイトが正常である場合に棒材を突っ切った時点から主軸が主軸中心線に沿って移動を開始する時点までを意味する。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0020】
[態様3]
ここで、前記主軸(11)と前記対向主軸(16)の内、一方を第一主軸(例えば正面主軸11)とし、他方を第二主軸(例えば背面主軸16)とする。図7,10に例示するように、前記制御パラメーターは、前記第一主軸(11)における位置指令CM1と位置フィードバック信号SG1との差信号である位置偏差SG2でもよい。前記制御部(70)は、前記第一検出タイミング(ST3)において、停止させている前記第一主軸(11)から前記第二主軸(16)を離隔させる制御により前記位置偏差SG2が所定量(例えば閾値Td1)を超えると前記突っ切りバイトTO3が破損していると判定してもよい。当該制御部(70)は、前記位置偏差SG2が前記所定量(Td1)を超えない場合に前記突っ切りバイトTO3が破損していないと判定してもよい。
【0021】
突っ切りバイトTO3が破損している場合、第一主軸(11)から離隔する第二主軸(16)が棒材B1を介して第一主軸(11)を引っ張る力を第一主軸(11)に加えるので、第一主軸(11)を制御するための位置偏差SG2が大きくなる。突っ切りバイトTO3が破損していない場合、棒材B1が分断されているので、第二主軸(16)は第一主軸(11)に力を加えず、第一主軸(11)を制御するための位置偏差SG2は大きくならない。従って、停止させている第一主軸(11)から第二主軸(16)を離隔させる制御により位置偏差SG2が所定量(Td1)を超えると突っ切りバイトTO3が破損していると判定することができ、位置偏差SG2が所定量(Td1)を超えない場合に突っ切りバイトTO3が破損していないと判定することができる。
また、突っ切りバイト破損判定のための位置偏差SG2は、停止している第一主軸(11)を制御するための制御パラメーターであるので、第一主軸(11)の移動に伴う位置偏差SG2の変動が生じない。
以上より、上記態様3は、連続加工中の突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させることができる。
【0022】
尚、上記態様3には含まれないが、第一検出タイミングにおける突っ切りバイト破損検出は、以下の手段a1~a7等により行われてもよい。ここで、第一主軸が第一主軸台に設けられ、第一主軸台送りモーターが第一主軸台を移動させ、第一主軸回転モーターが第一主軸を回転させ、第二主軸が第二主軸台に設けられ、第二主軸台送りモーターが第二主軸台を移動させ、第二主軸回転モーターが第二主軸を回転させるものとする。
(a1)停止させている第一主軸から第二主軸を離隔させる制御により主軸中心線方向における第一主軸の実際の位置が指令されている位置から所定量を超えてずれるか否かを判定する手段。
(a2)停止させている第一主軸から第二主軸を離隔させる制御により第一主軸台送りモーターに発生させるトルクが所定量を超えるか否かを判定する手段。
(a3)停止させている第二主軸から第一主軸を離隔させる制御により上記位置偏差が所定量を超えるか否かを判定する手段。
(a4)停止させている第二主軸から第一主軸を離隔させる制御により主軸中心線方向における第一主軸の実際の位置が指令位置から所定量を超えてずれるか否かを判定する手段。
(a5)停止させている第二主軸から第一主軸を離隔させる制御により第一主軸台送りモーターに発生させるトルクが所定量を超えるか否かを判定する手段。
(a6)第一主軸に対して第二主軸を相対的に回転させる制御により第一主軸の実際の回転位置が指令されている回転位置から所定量を超えてずれるか否かを判定する手段。
(a7)第一主軸に対して第二主軸を相対的に回転させる制御により第一主軸回転モーターに発生させるトルクが所定量を超えるか否かを判定する手段。
【0023】
[態様4]
図3に例示するように、前記接触型破損検出部40は、前記主軸(11)の中心線(例えば主軸中心線AX1)と交差する方向(例えばX軸方向)へ前記検出子41を移動させる検出子駆動部(例えばシリンダー42)備えていてもよい。当該接触型破損検出部40は、前記中心線(AX1)に向けて進出させた前記検出子41が前記棒材B1の先端部B1aに接触したか否かを検出する接触検出部(例えば位置センサー43)を備えていてもよい。当該接触型破損検出部40は、前記中心線(AX1)に向けて進出させた前記検出子41が前記棒材B1の先端部B1aに接触したことが前記接触検出部(43)により検出されることにより前記突っ切りバイトTO3が破損していると検出してもよい。本態様は、トップカット処理直後や連続加工開始時に突っ切りバイト破損を検出する好適な例を提供することができる。
【0024】
[態様4’]
上記態様4の一例として、前記接触型破損検出部40は、前記主軸(11)の中心線(例えば主軸中心線AX1)と直交する方向(例えばX軸方向)へ前記検出子41を退避可能に保持するシリンダー42を備えていてもよい。当該接触型破損検出部40は、前記シリンダー42に対する前記検出子41の位置を検出する位置センサー43を備えていてもよい。当該接触型破損検出部40は、前記中心線(AX1)に向けて進出させた前記検出子41の位置が前記中心線(AX1)に到達しない位置であることが前記位置センサー43により検出されることにより前記突っ切りバイトTO3が破損していると検出してもよい。本態様は、トップカット処理直後や連続加工開始時に突っ切りバイト破損を検出するさらに好適な例を提供することができる。
【0025】
尚、上記態様4’には含まれないが、接触型破損検出部は、以下の手段b1~b3等でもよい。ここで、刃物台送りモーターが刃物台を移動させ、刃物台用サーボアンプが刃物台送りモーターにトルク指令を出すものとする。
(b1)回転駆動部(検出子駆動部の例)により主軸中心線に向けて揺動させた検出子の停止位置を検出するセンサー(接触検出部の例)により主軸中心線に到達した位置であるか否かを検出する手段。
(b2)刃物台に設けられた検出子を主軸中心線に向けて進出させる制御により刃物台用サーボアンプ(接触検出部の例)が刃物台送りモーター(検出子駆動部の例)に発生させるトルクが所定量を超えるか否かを判定する手段。
上記手段b2において、トルクが所定量を超えると、検出子が棒材の先端部に接触したことになり、突っ切りバイトが破損していると検出される。
(b3)揺動可能な検出子、及び、該検出子の揺動を検出するセンサー(接触検出部の例)が設けられた刃物台を刃物台送りモーター(検出子駆動部の例)によって、検出子が主軸中心線に向けて進出するように移動させた時にセンサーにより検出子が揺動したか否かを検出する手段。
上記手段b3において、検出子が揺動すると棒材の先端部に接触したことになるので、センサーが検出子の揺動を検出することにより突っ切りバイトが破損していると検出される。
【0026】
[態様5]
また、本技術の一態様に係る旋盤1の突っ切りバイト破損検出方法は、主軸(11)、対向主軸(16)、刃物台30、及び、接触型破損検出部40を備える旋盤1の突っ切りバイト破損検出方法であって、以下の工程(A1),(A2)を含む。
(A1)前記主軸(11)が把持している前記棒材B1を前記対向主軸(16)が把持している状態で前記突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(ST3)において、前記主軸(11)と前記対向主軸(16)の少なくとも一方を制御するための制御パラメーター(SG2)に基づいて前記突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する第一工程(例えば図8に示すステップS120と図10)。
(A2)前記第一検出タイミング(ST3)とは異なる第二検出タイミング(ST6)において、前記接触型破損検出部40による検出結果に従って前記突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する第二工程(例えば図8に示すステップS112と図9)。
【0027】
上記態様5は、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させる旋盤の突っ切りバイト破損検出方法を提供することができる。
【0028】
(2)旋盤の構成の具体例:
図1は、ガイドブッシュ14が取り付けられている旋盤1の構成を模式的に例示する正面図である。図2は、ガイドブッシュ14が取り外されている旋盤1の構成を模式的に例示する正面図である。図3は、突っ切りバイトTO3の破損を検出する接触型破損検出部40が設けられた刃物台30をガイドブッシュ14及び棒材B1とともに模式的に例示している。図3において、分かり易く示すため、棒材B1に網掛けが施されている。図4は、連続加工時に突っ切りバイトTO3が棒材B1を突っ切る様子を模式的に例示する平面図である。図5は、トップカット処理時に突っ切りバイトTO3が棒材B1を突っ切る様子を模式的に例示する平面図である。
【0029】
図1~5等において、符号D81は上方向を示し、符号D82は下方向を示し、符号D83は左方向を示し、符号D84は右方向を示し、符号D85は手前方向を示し、符号D86は奥方向を示している。尚、これらの方向は、図1に示す旋盤1を見る方向を基準としている。旋盤1の制御軸は、「X」で示されるX軸、「Y」で示されるY軸、及び、「Z」で示されるZ軸を含んでいる。Z軸方向は、棒材B1の回転中心となる主軸中心線AX1に沿った水平方向である。X軸方向は、Z軸と直交する水平方向である。Y軸方向は、Z軸と直交する鉛直方向である。尚、Z軸とX軸とは交差していれば直交していなくてもよく、Z軸とY軸とは交差していれば直交していなくてもよく、X軸とY軸とは交差していれば直交していなくてもよい。また、本明細書において参照される図面は、本技術を説明するための例を示しているに過ぎず、本技術を限定するものではない。各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、左右を逆にしたり、回転方向を逆にしたり等することも、本技術に含まれる。方向や位置等の同一は、厳密な一致に限定されず、誤差により厳密な一致からずれることを含む。
【0030】
旋盤1は、正面主軸台10、正面主軸台駆動部13、背面主軸台15、背面主軸台駆動部18、支持台25、刃物台30、刃物台駆動部31、接触型破損検出部40、NC(数値制御)装置70、等を備えるNC旋盤である。ここで、NC装置70は制御部の例である。正面主軸台10には、給材機20により後方から挿入された棒材B1を解放可能に把持する主軸の例である正面主軸11が組み込まれている。正面主軸11の前端11aは背面主軸16に対向し、正面主軸11の後端11bは給材機20に対向している。正面主軸11は、主軸中心線AX1に沿って貫通した貫通穴11hを有している。貫通穴11hには、後方から棒材B1が挿入される。背面主軸台15には、正面主軸11の前端11aから前方へ出ている棒材B1の先端部B1aを解放可能に把持する対向主軸の例である背面主軸16が組み込まれている。背面主軸16の前端16aは、正面主軸11の前端11aと対向している。すなわち、正面主軸11と背面主軸16とは、互いに対向している。尚、正面主軸11についての前方は、棒材B1が正面主軸11から押し出される方向を意味し、図1に示す例では右方向D84である。正面主軸11についての後方は、正面主軸11から給材機20に向かう方向を意味し、図1に示す例では左方向D83である。背面主軸16についての前方は、背面主軸16が正面主軸11の方へ向かう方向を意味し、図1に示す例では左方向D83である。支持台25の取付穴26には、図1に示すようにガイドブッシュ14を取り付けることが可能であり、また、図2に示すように正面主軸11の前部を挿入することが可能である。従って、旋盤1は、ガイドブッシュ14の有無を切り替え可能な主軸移動型旋盤である。
【0031】
正面主軸11は、前端11aを含む部分において棒材B1を解放可能に把持する把持部12を備え、該把持部12により棒材B1を解放可能に把持し、棒材B1とともに主軸中心線AX1を中心として回転可能である。NC装置70は、図6に例示する把持用アクチュエーター12aを駆動させることにより把持部12の把持状態を制御する。把持部12は、例えば、コレット等により構成することができる。NC装置70は、不図示のサーボモーター(例えばビルトインモーター)に正面主軸11を回転させる制御を行う。正面主軸台駆動部13は、正面主軸11が組み込まれた正面主軸台10をNC装置70からの指令に従ってZ軸方向へ移動させる。
【0032】
背面主軸16は、前端16aを含む部分において正面加工後の棒材B1の先端部B1aを解放可能に把持する把持部17を備え、該把持部17により棒材B1の先端部B1aを解放可能に把持し、棒材B1とともに主軸中心線AX1を中心として回転可能である。製品となるワークW1は、棒材B1のうち先端部B1aを含む部分であり、突っ切りバイトTO3により棒材B1から切り離される部分である。NC装置70は、図6に例示する把持用アクチュエーター17aを駆動させることにより把持部17の把持状態を制御する。把持部17は、例えば、コレット等により構成することができる。NC装置70は、不図示のサーボモーター(例えばビルトインモーター)に背面主軸16を回転させる制御を行う。背面主軸台駆動部18は、背面主軸16が組み込まれた背面主軸台15をNC装置70からの指令に従ってZ軸方向へ移動させる。背面主軸台駆動部18は、背面主軸16が組み込まれた背面主軸台15をX軸方向とY軸方向の少なくとも一方へ移動させてもよい。棒材B1から切り離されたワークW1は、背面加工により製品となる。
【0033】
正面主軸11に棒材B1を供給する給材機20は、例えば、主軸中心線AX1に沿った不図示のレール、該レール上の棒材B1を正面主軸11の方(右方向D84)へ移動させる不図示の駆動部、等を備え、正面主軸11の貫通穴11hに後方から棒材B1を挿入する。給材機20は、正面主軸11に供給する棒材B1が無くなったか否かを検出し、棒材B1が無くなったことを示す材欠信号をNC装置70に送信する。給材機20には、棒材を把持して正面主軸に送り込むフィンガータイプの棒材供給装置、棒材を後方から押すだけで正面主軸に送り込むプッシュプルタイプの棒材供給装置、等を用いることができる。棒材B1は、長尺な円柱状材料といった中実の材料に限定されず、長尺な円筒状材料といった中空の材料でもよい。
【0034】
支持台25は、Z軸方向において正面主軸台10と背面主軸台15との間にあり、Z軸方向へ貫通した取付穴26を有している。図1に示すようなガイドブッシュ使用時、ガイドブッシュ14が取付穴26に挿入されて支持台25に取り外し可能に取り付けられる。ガイドブッシュ14は、正面主軸11の貫通穴11hから前方へ突出した棒材B1をZ軸方向へ摺動可能に支持する。棒材B1のうちガイドブッシュ14から背面主軸16の方(右方向D84)へ突出した部分が工具TO1により加工される。図2に示すようなガイドブッシュ不使用時、正面主軸11の前部が取付穴26に挿入される。棒材B1のうち正面主軸11から前方(右方向D84)へ突出した部分が工具TO1により加工される。
【0035】
刃物台30は、棒材B1を加工するための複数の工具TO1が取り付けられ、X軸方向及びY軸方向へ移動可能である。刃物台駆動部31は、NC装置70からの指令に従って刃物台30をX軸方向及びY軸方向へ移動させる。刃物台駆動部31は、刃物台30をZ軸方向へ移動させてもよい。刃物台30は、図3に示すようにくし形刃物台でもよいし、タレット刃物台等でもよい。旋盤1は、背面主軸16に把持されているワークW1の背面加工を行う背面加工用刃物台を備えていてもよい。複数の工具TO1には、突っ切りバイトTO3を含むバイトTO2、回転ドリルやエンドミルといった回転工具、等が含まれる。図3に示す刃物台30は、突っ切りバイトTO3が取り付けられた刃物台30A、及び、接触型破損検出部40が設けられた刃物台30Bを含んでいる。刃物台30Aには、最下部に配置されている突っ切りバイトTO3を含めて複数のバイトTO2が主軸中心線AX1側(奥方向D86)へ突出した状態で取り付けられている。図4に示すように、突っ切りバイトTO3は、棒材B1を正面主軸11と背面主軸16との間で突っ切ることにより、背面主軸16に把持されている棒材B1の先端部B1aを含むワークW1を棒材B1から切り離す。図3に示す刃物台30Bには、検出子41が主軸中心線AX1側(手前方向D85)へ突出した状態で接触型破損検出部40が設けられている。
【0036】
尚、刃物台30A,30Bは、一体化されて単一の刃物台駆動部31によりX軸方向及びY軸方向へ移動可能とされてもよいし、別々の刃物台駆動部により少なくともX軸方向において互いに独立して移動可能とされてもよい。また、突っ切りバイトTO3は刃物台30Aの代わりに刃物台30Bに取り付けられてもよく、接触型破損検出部40は刃物台30Bの代わりに刃物台30Aに取り付けられてもよい。
【0037】
図4は、連続加工時に突っ切りバイトTO3がワークW1を棒材B1から切り離す突っ切り動作を示している。図4において、把持部12,17の「閉」は、図6に示す把持用アクチュエーター12a,17aにより把持部12,17が締め付けられて棒材B1を把持していることを示している。図4はガイドブッシュ不使用時の突っ切り動作を示しているが、ガイドブッシュ使用時にはガイドブッシュ14が棒材B1を保持している状態で突っ切り動作が行われる。
【0038】
図4に示す状態ST1は、正面主軸11の把持部12が棒材B1を把持している状態で背面主軸16の把持部17が棒材B1の先端部B1aを含むワークW1を把持した状態である。NC装置70は、棒材B1を把持している正面主軸11及び背面主軸16を回転させている状態で突っ切りバイトTO3の先端TO3aを刃物台30とともに正面主軸11と背面主軸16との間で主軸中心線AX1を超えるまでX軸方向(奥方向D86)へ移動させる制御を行う。これにより、棒材B1が正面主軸11と背面主軸16との間で突っ切られた状態ST2、すなわち、背面主軸16に把持されているワークW1が棒材B1から切り離された状態ST2となる。次に、NC装置70は、突っ切りバイトTO3を刃物台30とともにワークW1と棒材B1との間から退避させる制御を行う。図4に示す状態ST3は、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミングの例である。
【0039】
突っ切りバイトTO3が破損すると、棒材B1からワークW1を切り離すことができなくなる。そこで、突っ切りバイトTO3の破損を検出することが望まれる。本具体例の旋盤1は、連続加工時において正面主軸11を制御するための制御パラメーターに基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する非メカ式破損検出手段を備えている。突っ切りバイト破損検出に制御パラメーターを使用することにより、連続加工時において迅速に突っ切りバイト破損検出を行うことができる。非メカ式破損検出手段による突っ切りバイト破損検出は、正面主軸11が把持している棒材B1を対向主軸16が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後に限定される。
【0040】
突っ切り動作は、図5に示すように、背面主軸16が棒材B1の先端部B1aを把持していない状態で突っ切りバイトTO3により棒材B1の先端部B1aを切り落とすトップカット処理の直後にも行われる。給材機20から供給される新しい棒材B1の先端面は、正面主軸11やガイドブッシュ14に通し易くするための面取りが施されている。また、棒材B1の途中まで使用した状態から連続加工を再開する時には、棒材B1の先端面の経時変化が想定される。トップカット処理を行うのは、給材機20から新しい棒材B1が正面主軸11に供給された時や連続加工を再開した時に棒材B1の先端面を切削して精度ある寸法を出したり、棒材B1を位置決めしたりするためである。図5に示す状態ST4は、正面主軸11の把持部12が棒材B1を把持している状態で背面主軸16の把持部17が棒材B1を把持していない状態である。NC装置70は、棒材B1を把持している正面主軸11を回転させている状態で突っ切りバイトTO3の先端TO3aを刃物台30とともに正面主軸11の前方の主軸中心線AX1を超えるまでX軸方向(奥方向D86)へ移動させる制御を行う。これにより、棒材B1が正面主軸11の前方で突っ切られた状態ST5、すなわち、棒材B1から先端部B1aが切り離された状態ST5となる。次に、NC装置70は、突っ切りバイトTO3を刃物台30とともに正面主軸11の前方の主軸中心線AX1から退避させる制御を行う。図5に示す状態ST6は、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持していない状態で突っ切り動作が行われた直後の第二検出タイミングの例である。
【0041】
トップカット処理の直後においても、突っ切りバイトTO3が破損していると、棒材B1において切り落とされるべき先端部B1aが残存し、後の加工動作に影響を与える。また、トップカット処理を行わない場合でも、連続加工を開始する時に正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持していない場合がある。この場合も、非メカ式破損検出手段は、突っ切りバイト破損を検出することができない。
本具体例の旋盤1は、非メカ式破損検出手段に加えて、図3に示すように、突っ切りバイト破損を検出するための接触型破損検出部40を備えている。
【0042】
図3に示す接触型破損検出部40は、刃物台30Bから主軸中心線AX1側(手前方向D85)へ突出した検出子41、刃物台30Bに組み込まれたシリンダー42、及び、刃物台30Bに組み込まれた位置センサー43を備えている。ここで、シリンダー42は検出子駆動部の例であり、位置センサー43は接触検出部の例である。検出子41は、シリンダー42に対して主軸中心線AX1と直交するX軸方向へ進退可能に保持されている。シリンダー42は、検出子41をX軸方向へ退避可能に保持し、検出子41に手前方向D85へ力を加えている。位置センサー43は、シリンダー42に対する検出子41の位置を検出する。突っ切りバイト破損検出が行われる時、検出子41の突出方向に主軸中心線AX1が存在する状態において、棒材B1の先端部B1aが残存していなければ検出子41の先端41aが主軸中心線AX1を超える位置まで刃物台30Bが手前方向D85へ移動する。従って、検出子41は、突っ切りバイトTO3により棒材B1を突っ切る突っ切り動作の後に棒材B1の先端部B1aが残存していると該先端部B1aに接触する進出位置P1に進退可能である。接触型破損検出部40は、進出位置P1に進出した検出子41が棒材B1の先端部B1aに接触すると突っ切りバイトTO3が破損していると検出する。
以上より、移動直後に検出子41が主軸中心線AX1に到達した位置であることが位置センサー43により検出されると、突っ切りバイトTO3は破損していないと判定される。検出子41が棒材B1の先端部B1aに突き当たって移動直後に検出子41が主軸中心線AX1に到達しない位置であることが位置センサー43により検出されると、突っ切りバイトTO3が破損していると判定される。接触型破損検出部40は、検出子41を移動させるため、メカ式破損検出手段といえる。
【0043】
接触型破損検出部40は、刃物台30とともに検出子41を移動させる必要があるため、非メカ式破損検出手段よりも突っ切りバイト破損検出に時間がかかる。このため、連続加工時の突っ切りバイト破損検出に接触型破損検出部40を使用すると、連続加工時間が長くなってしまう。
そこで、本具体例の旋盤1は、非メカ式破損検出手段で突っ切りバイト破損を検出することができない第二検出タイミングに限定して接触型破損検出部40で突っ切りバイト破損検出を行うことにしている。これにより、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度が向上する。
【0044】
図6は、NC装置70を備える旋盤1の電気回路の構成を模式的に例示している。NC装置70には、操作部80、給材機20、正面主軸台駆動部13、正面主軸11の回転駆動部(不図示)、把持用アクチュエーター12a、背面主軸台駆動部18、背面主軸16の回転駆動部(不図示)、把持用アクチュエーター17a、刃物台駆動部31、接触型破損検出部40の位置センサー43、等が接続されている。把持用アクチュエーター12aは、図1,2に示す正面主軸11の把持部12を駆動する。把持用アクチュエーター17aは、図1,2に示す背面主軸16の把持部17を駆動する。NC装置70は、プロセッサーであるCPU71、半導体メモリーであるROM72、半導体メモリーであるRAM73、時計回路74、I/F(インターフェイス)75、等を備えている。図6では、操作部80、給材機20、正面主軸台駆動部13、把持用アクチュエーター12a、背面主軸台駆動部18、把持用アクチュエーター17a、刃物台駆動部31、位置センサー43、等のI/FをまとめてI/F75と示している。ROM72には、加工プログラムPR2を解釈して実行するための制御プログラムPR1が書き込まれている。ROM72は、データを書き換え可能な半導体メモリーでもよい。RAM73には、オペレーターにより作成された加工プログラムPR2が書き換え可能に記憶される。加工プログラムは、NCプログラムとも呼ばれる。CPU71は、RAM73をワークエリアとして使用し、ROM72に記録されている制御プログラムPR1を実行することにより、NC装置70の機能を実現させる。
【0045】
操作部80は、入力部81及び表示部82を備え、NC装置70のユーザーインターフェイスとして機能する。入力部81は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けるためのボタンやタッチパネルから構成される。表示部82は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けた各種設定の内容や旋盤1に関する各種情報を表示するディスプレイで構成される。オペレーターは、操作部80や外部のコンピューター(不図示)を用いて加工プログラムPR2をRAM73に記憶させることが可能である。
【0046】
正面主軸台駆動部13は、正面主軸11を含む正面主軸台10をZ軸に沿って移動させるために、NC装置70に接続されたサーボアンプ51、及び、該サーボアンプ51に接続されたサーボモーター52を備えている。サーボモーター52は、第一主軸台送りモーターの例である。サーボアンプ51は、NC装置70からの指令に従って、Z軸方向において正面主軸台10の位置及び移動速度を制御する。サーボモーター52は、エンコーダー53を備え、サーボアンプ51からの指令に従って回転し、Z軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して正面主軸台10を移動させる。送り機構にはボールねじによる機構等を用いることができ、ガイドにはリニアガイド等を用いることができる。
【0047】
背面主軸台駆動部18は、背面主軸16を含む背面主軸台15をZ軸に沿って移動させるために、NC装置70に接続されたサーボアンプ61、及び、該サーボアンプ61に接続されたサーボモーター62を備えている。サーボモーター62は、第二主軸台送りモーターの例である。サーボアンプ61は、NC装置70からの指令に従って、Z軸方向において背面主軸台15の位置及び移動速度を制御する。サーボモーター62は、エンコーダー63を備え、サーボアンプ61からの指令に従って回転し、Z軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して背面主軸台15を移動させる。送り機構にはボールねじによる機構等を用いることができ、ガイドにはリニアガイド等を用いることができる。
また、背面主軸台駆動部18は、X軸とY軸の少なくとも一方に沿って背面主軸台15を移動させるために、NC装置70に接続された不図示のサーボアンプ、及び、該サーボアンプに接続された不図示のサーボモーターを備えていてもよい。
【0048】
刃物台駆動部31は、X軸とY軸に沿って刃物台30を移動させるために、NC装置70に接続された不図示のサーボアンプ、及び、該サーボアンプに接続された不図示のサーボモーター(刃物台送りモーターの例)を備えている。該サーボモーターは、サーボアンプからの指令に従って回転し、X軸方向とY軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して刃物台30を移動させる。
【0049】
図7は、正面主軸台10の制御系を模式的に例示している。
NC装置70は、正面主軸11の位置指令CM1をサーボアンプ51に出力することができる。サーボアンプ51の減算部54は、NC装置70から位置指令CM1を入力し、サーボモーター52のエンコーダー53からの出力に基づいて位置フィードバック信号SG1を入力し、位置偏差SG2をポジションゲインに出力する。位置偏差SG2は、正面主軸11における位置指令CM1と位置フィードバック信号SG1との差信号である。サーボアンプ51は、NC装置70に位置偏差SG2を出力することができる。ポジションゲインは、減算部54から位置偏差SG2を入力し、位置偏差SG2に基づいて速度指令を減算部55に出力する。減算部55は、ポジションゲインから速度指令を入力し、エンコーダー53からの出力に基づいて速度フィードバック信号を入力し、速度指令を速度フィードバック信号に基づいて補正して速度ゲインに入力する。速度ゲインは、減算部55から補正された速度指令を入力し、該補正された速度指令に基づいてサーボモーター52にトルク指令を出力する。サーボモーター52のトルクはサーボモーター52に流れる電流に比例するので、トルク指令はサーボモーター52に流れる電流値に対応する。
【0050】
本具体例のNC装置70は、サーボアンプ51から位置偏差SG2を取得し、連続加工時に位置偏差SG2に基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。位置偏差SG2は、正面主軸11を制御するための制御パラメーターの例である。
尚、背面主軸台15の制御系も、正面主軸台10の制御系と同様である。刃物台30の制御系も、正面主軸台10の制御系と同様である。
【0051】
(3)加工処理の具体例:
図8は、図6に示す加工プログラムPR2の実行時に行われる加工処理を模式的に例示している。加工処理は、制御プログラムPR1を実行するNC装置70により行われる。加工処理が行われる前提として、NC装置70は、接触型破損検出部40を使用するか否かを示すメカ式実行フラグをRAM73に用意し、このメカ式実行フラグをオン(例えば1)にしている。
【0052】
加工処理が開始すると、NC装置70は、連続加工の1回目の加工を行うか否かを判断する(ステップS102)。以下、「ステップ」の記載を省略する。連続加工の1回目の加工となるのは、旋盤1の電源をオンにした直後や、電源オンのまま連続加工を停止した後に連続加工を再開する場合である。これらの場合、正面主軸11側は図4に示す状態ST2のように突っ切りバイトTO3の先端TO3aが主軸中心線AX1を超えた位置で停止し、背面主軸16側は図5に示す状態ST5のように背面主軸16が後方の原点位置(不図示)に退避している。原点位置に退避している背面主軸16の把持部17は、ワークW1を把持しているか、開いてワークW1を把持していない。正面主軸11に把持されている棒材B1が突っ切りバイトTO3に突き当たっている場合、棒材B1が位置決めされているので、トップカット処理を行う必要は無い。
NC装置70は、連続加工の1回目の加工を行う場合にメカ式実行フラグをオンにしてから(S104)処理をS106に進め、連続加工の2回目以降の加工を行う場合にそのまま処理をS106に進める。
【0053】
S106において、NC装置70は、トップカット処理(図5参照)を行ったか否かを判断する。上述したように、給材機20から新しい棒材B1が正面主軸11に供給された時や連続加工を再開した時に棒材B1の位置の基準を作るためトップカット処理が行われる。トップカット処理は、加工プログラムPR2において連続加工前となる箇所に記述されたトップカット指令が実行された時に行われてもよい。連続加工中は、突っ切り動作により棒材B1の位置が決まるので、トップカット処理を行う必要が無い。加工プログラムPR2において連続加工中となる箇所にはトップカット指令が記述されない。
NC装置70は、トップカット処理が行われた場合にメカ式実行フラグをオンにしてから(S108)処理をS110に進め、トップカット処理が行われなかった場合にそのまま処理をS110に進める。
【0054】
S110において、NC装置70は、メカ式実行フラグがオンである場合にS112~S114の処理を行ってから処理をS116に進め、メカ式実行フラグがオフである場合にそのまま処理をS116に進める。S112において、NC装置70は、接触型破損検出部40を使用して突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定するメカ式破損検出処理を行う。メカ式破損検出処理が行われるのは、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(図4に示す状態ST3)とは異なる第二検出タイミングである。この第二検出タイミングは、図5に示す状態ST6のように、背面主軸16が後方に退避している。メカ式破損検出処理の後、NC装置70は、メカ式実行フラグをオフ(例えば0)にし(S114)、処理をS116に進める。
【0055】
図9は、図8のS112において行われるメカ式破損検出処理を模式的に例示している。
メカ式破損検出処理が開始すると、NC装置70は、図3に示すように検出子41の突出方向に主軸中心線AX1が存在する状態において、棒材B1の先端部B1aが残存していなければ検出子41の先端41aが主軸中心線AX1を超える位置まで刃物台30Bを手前方向D85へ移動させる処理を行う(S202)。この時、NC装置70は、刃物台駆動部31を駆動させることにより刃物台30Bを移動させる。S202において、検出子41は、主軸中心線AX1に向かって進出する。
【0056】
次に、NC装置70は、位置センサー43による検出子41の検出位置を取得し、この検出位置に基づいて検出子41が主軸中心線AX1に到達したか否かを判断する(S204)。
【0057】
突っ切りバイトTO3が正常である場合、すなわち、突っ切りバイトTO3が破損していない場合、棒材B1の先端部B1aが残存していないため、検出子41は、先端部B1aに接触せず、主軸中心線AX1に到達する。検出子41の位置が主軸中心線AX1に到達した位置であることが位置センサー43により検出されると、NC装置70は、突っ切りバイトTO3が正常であると判定し、処理をS206に進める。S206において、NC装置70は、検出子41を棒材B1の移動経路から退避させる向きに刃物台30Bを移動させる処理を行い、メカ式破損検出処理を終了させる。その後、図8に示すS114においてメカ式実行フラグがオフとなり、図8に示すS116以降の処理が行われる。
【0058】
突っ切りバイトTO3が破損している場合、棒材B1の先端部B1aが残存しているため、検出子41は、先端部B1aに接触し、主軸中心線AX1に到達しない。検出子41の位置が主軸中心線AX1に到達しない位置であることが位置センサー43により検出されると、NC装置70は、突っ切りバイトTO3が破損していると判定し、処理をS208に進める。S208において、NC装置70は、突っ切りバイトTO3の破損を示すアラームを出力し、加工処理を停止させる。アラームを出力する処理は、アラームを表示部82に表示させる処理、アラーム音を不図示のスピーカーから出力させる処理、NC装置70に接続されている不図示のコンピューターにアラームを出力する処理、等とすることができる。この場合、オペレーターは、破損した突っ切りバイトを破損していない突っ切りバイトに交換することにより、図8に示すS102から加工処理を再開させることができる。
【0059】
以上より、接触型破損検出部40は、進出位置P1に進出した検出子41が棒材B1の先端部B1aに接触しなければ突っ切りバイト正常と検出し、進出位置P1に進出した検出子41が棒材B1の先端部B1aに接触すると突っ切りバイト破損と検出する。NC装置70は、接触型破損検出部40による検出結果に従って突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。
【0060】
図8に示す加工処理が継続する場合、S116において、NC装置70は、正面主軸11に把持されている棒材B1の先端部B1aの正面加工を行う処理を行う。既に正面加工が行われたワークW1を背面主軸16が把持している場合、NC装置70は、背面主軸16に把持されているワークW1の背面加工を行って製品を排出する処理を行う。S116において、NC装置70は、正面主軸台駆動部13を駆動させることにより正面主軸台10を移動させ、不図示の回転駆動部を駆動させることにより正面主軸11を回転させ、背面主軸台駆動部18を駆動させることにより背面主軸台15を移動させ、不図示の回転駆動部を駆動させることにより背面主軸16を回転させ、刃物台駆動部31を駆動させることにより刃物台30を移動させる。
【0061】
棒材B1の正面加工後、NC装置70は、正面主軸11に把持されている棒材B1の先端部B1aを背面主軸16に把持させて棒材B1を突っ切る棒材突っ切り処理を行う(S118)。まず、NC装置70は、背面主軸台駆動部18に背面主軸台15を移動させ、正面主軸台10から前方へ出ている棒材B1の先端部B1aを背面主軸16の把持部17に把持させる。この状態が図4に示される状態ST1である。次に、NC装置70は、正面主軸11と背面主軸16を同じ回転速度で回転させ、棒材B1の先端部B1aを含むワークW1が突っ切りバイトTO3で棒材B1から切り離されるように、刃物台駆動部31に刃物台30を移動させる。突っ切りバイトTO3は、棒材B1を突っ切るように、すなわち、ワークW1を棒材B1から切り離すように、動作する。突っ切りバイトTO3によりワークW1を切り離す動作が完了した状態が図4に示される状態ST2である。
【0062】
棒材突っ切り処理の後、NC装置70は、X軸方向において刃物台駆動部31に刃物台30を移動させることにより突っ切りバイトTO3を棒材B1から遠ざけ(図4に示す状態ST3)、非メカ式破損検出処理を行う(S120)。非メカ式破損検出処理が行われるのは、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(図4に示す状態ST3)である。非メカ式破損検出処理は、加工プログラムPR2において連続加工中となる箇所に記述された非メカ式破損検出指令が実行された時に行われてもよい。連続加工前は正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持している状態における突っ切り動作が行われないので、加工プログラムPR2において連続加工前となる箇所には非メカ式破損検出指令が記述されない。
【0063】
図10は、図8のS120において行われる非メカ式破損検出処理を模式的に例示している。
非メカ式破損検出処理が開始すると、NC装置70は、Z軸方向において、停止状態の正面主軸11(正面主軸台10)から背面主軸16(背面主軸台15)を離隔させる制御を開始する(S302)。この時、NC装置70は、背面主軸台駆動部18のサーボアンプ61に正面主軸11から背面主軸16を離隔させるように位置指令を出す。NC装置70は、図7に示す正面主軸台駆動部13のサーボアンプ51には現在の正面主軸11の位置を維持するように位置指令CM1を出している。突っ切りバイトTO3が正常であればワークW1が棒材B1から切り離されているので、背面主軸16は正面主軸11から離隔する向きに移動する。突っ切りバイトTO3が破損していれば背面主軸16が棒材B1を介して正面主軸11に繋がっているので、背面主軸16の移動が阻害される。この場合、正面主軸11が設けられた正面主軸台10には、背面主軸台15に向かう引っ張り力が棒材B1から加えられる。サーボアンプ51は、前述の引っ張り力に抗して正面主軸11を位置指令CM1で示される位置に維持するように、サーボモーター52のエンコーダー53からの出力に基づいて位置フィードバック信号SG1を減算部54に供給する。生成される位置フィードバック信号SG1は、位置指令CM1で示される位置よりも後方(左方向D83)となる位置を示す。これにより、Z軸方向において、正面主軸11が位置指令CM1で示される位置にほぼ保たれる。
【0064】
S302の処理後、NC装置70は、正面主軸台駆動部13のサーボアンプ51から位置偏差SG2を取得する(S304)。位置偏差SG2は、位置指令CM1と位置フィードバック信号SG1との差信号である。NC装置70は、位置偏差SG2の絶対値である位置偏差値d1を取得し、S306以降において位置偏差値d1に基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行う。
【0065】
突っ切りバイトTO3が正常である場合、すなわち、突っ切りバイトTO3が破損していない場合、背面主軸台15に向かう引っ張り力が正面主軸台10に加えられないので、背面主軸16の離隔制御の制御量が大きくなっても位置偏差値d1は大きくならない。突っ切りバイトTO3が破損している場合、背面主軸台15に向かう引っ張り力が正面主軸台10に加えられるので、背面主軸16の離隔制御の制御量が大きくなると位置偏差値d1が大きくなる。そこで、NC装置70は、位置偏差値d1の取得後、位置偏差値d1が所定量としての閾値Td1を超えたか否かを判断する(S306)。尚、Z軸方向において現在の正面主軸11の位置を維持させる位置指令CM1がNC装置70からサーボアンプ51に出されているので、位置偏差値d1が大きくなっても、正面主軸11が位置指令CM1で示される位置からほぼ動かない。
【0066】
位置偏差値d1が閾値Td1を超えていない場合、NC装置70は、背面主軸16の離隔制御の制御量が所定の制御量に到達したか否かを判断する(S308)。離隔制御の制御量が所定の制御量に到達していない場合、NC装置70は、処理をS306に戻す。離隔制御の制御量が所定の制御量に到達した場合、NC装置70は、突っ切りバイトTO3が正常であると判定し、非メカ式破損検出処理を終了させる。その後、図8に示すS122以降の処理が行われる。
【0067】
位置偏差値d1が閾値Td1を超えた場合、NC装置70は、突っ切りバイトTO3が破損していると判定し、処理をS310に進める。S310において、NC装置70は、突っ切りバイトTO3の破損を示すアラームを出力し、加工処理を停止させる。アラームを出力する処理は、アラームを表示部82に表示させる処理、アラーム音を不図示のスピーカーから出力させる処理、NC装置70に接続されている不図示のコンピューターにアラームを出力する処理、等とすることができる。この場合、オペレーターは、破損した突っ切りバイトを破損していない突っ切りバイトに交換することにより、図8に示すS102から加工処理を再開させることができる。
【0068】
以上より、NC装置70は、図4に示す状態ST3において、停止させている正面主軸11から背面主軸16を離隔させる制御により位置偏差SG2が所定量を超えると突っ切りバイト破損と判定し、位置偏差SG2が所定量を超えない場合に突っ切りバイト正常と判定する。
【0069】
図8に示す加工処理が継続する場合、S122において、NC装置70は、給材機20から棒材B1が無くなったことを示す材欠信号を受信したか否かを判断する。
NC装置70は、材欠信号を受信していない場合、処理をS102に戻す。これにより、加工処理が繰り返され、連続加工時に非メカ式破損検出処理が行われる。
【0070】
NC装置70は、材欠信号を受信した場合、メカ式実行フラグをオンにし(S124)、残材を排出して新しい棒材B1を給材機20から正面主軸11に供給する棒材交換処理を行い(S126)、トップカット処理(図5参照)を行って(S128)、処理をS102に戻す。この場合、S112においてメカ式破損検出処理が行われる。従って、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持していない状態で突っ切り動作が行われた直後のタイミングにおいて、接触型破損検出部40による検出結果に従って突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理が行われる。
尚、加工プログラムPR2において連続加工前となる箇所にトップカット指令が記述される場合、S124,S128の処理を省略してもよい。
【0071】
以上説明したように、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持している状態で突っ切り動作が行われた直後の第一検出タイミング(図4に示す状態ST3)においては、正面主軸11を制御するための制御パラメーターである位置偏差SG2に基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かが判定される。この場合、進退動作を伴う検出子41が突っ切りバイト破損検出に使用されないので、連続加工中の加工時間が長くならない。一方、棒材B1の連続加工を開始するタイミングや、正面主軸11が把持している棒材B1を背面主軸16が把持していない状態で突っ切り動作が行われた直後のタイミング(図5に示す状態ST6)においては、接触型破損検出部40による検出結果に従って突っ切りバイトTO3が破損しているか否かが判定される。これにより、制御パラメーターに基づいて突っ切りバイト破損を検出することができない第二検出タイミングも、突っ切りバイト破損を検出することができる。
以上より、本具体例は、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させることができる。
【0072】
(4)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、図9に示すメカ式破損検出処理を行う第二検出タイミングは、トップカット処理が行われた直後のタイミングのみでもよいし、棒材B1の連続加工を開始するタイミングのみでもよい。
【0073】
図8に示すS120の非メカ式破損検出処理において、NC装置70は、正面主軸11における位置偏差SG2に加えて、背面主軸16における位置指令と位置フィードバック信号との差信号である位置偏差に基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行ってもよい。例えば、NC装置70は、第一検出タイミングにおいて、正面主軸11における位置偏差SG2が第一の所定量を超えるか、背面主軸16における位置偏差が第二の所定量を超えると、突っ切りバイト破損と判定してもよい。
また、NC装置70は、正面主軸11における位置偏差SG2を使用せず、背面主軸16における位置偏差に基づいて突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定する処理を行ってもよい。この場合において、NC装置70は、図4に示す状態ST3において、Z軸方向において停止させている背面主軸16から正面主軸11を離隔させる制御により位置偏差が所定量を超えると突っ切りバイト破損と判定し、位置偏差が前記所定量を超えない場合に突っ切りバイト正常と判定してもよい。
【0074】
むろん、非メカ式破損検出処理は、上述した手段a1~a7等により行われてもよい。例えば、正面主軸11と背面主軸16の少なくとも一方を制御するための制御パラメーターは、手段a2,a5のトルクのように、速度ゲインがサーボモーターに出力させるトルク(例えば図7に示すトルク指令)でもよい。NC装置70は、トルクが所定量を超えると突っ切りバイト破損と判定し、トルクが前記所定量を超えない場合に突っ切りバイト正常と判定してもよい。
また、制御パラメーターは、Z軸方向における位置偏差やトルクに限定されず、Z軸方向における速度を制御するためのパラメーター、手段a6,a7のように正面主軸11と背面主軸16の少なくとも一方の回転を制御するためのパラメーター等でもよい。
【0075】
図8に示すS112のメカ式破損検出処理は、上述した手段b1~b3等により行われてもよい。例えば、図3に示す検出子41が刃物台30Bに対して進退しないように固定されている場合、手段b2によりメカ式破損検出処理が行われてもよい。この場合、NC装置70は、検出子41の突出方向に主軸中心線AX1が存在する状態において、主軸中心線AX1に向けて棒材B1の先端部B1aが残存していれば該先端部B1aに検出子41の先端41aが接触する進出位置P1に検出子41を進出させる制御を刃物台30Bに行ってもよい。この時、NC装置70に接続された刃物台用サーボアンプ(接触検出部の例)は、刃物台送りモーター(検出子駆動部の例)にトルク指令を出し、このトルク指令に対応するトルク値をNC装置70に出力する。棒材B1の先端部B1aが残存している場合、該先端部B1aに検出子41の先端41aが接触し、トルク値が所定値を超える。棒材B1の先端部B1aが残存していない場合、該先端部B1aに検出子41は接触しないので、トルク値は所定値を超えない。従って、トルク値を出力する刃物台用サーボアンプは、主軸中心線AX1に向けて進出させた検出子41が棒材B1の先端部B1aに接触したか否かを検出することになる。NC装置70は、刃物台駆動部31のサーボアンプからトルク値を取得し、トルク値が所定値を超えた場合に突っ切りバイト破損と判定し、トルク値が所定値を超えない場合に突っ切りバイト正常と判定してもよい。
【0076】
また、刃物台30の移動にトルクリミットをかけることができる場合、主軸中心線AX1に向けて進出させた検出子41が設けられた刃物台30の位置を検出することにより突っ切りバイトTO3が破損しているか否かを判定することが可能である。この場合、NC装置70に接続された刃物台用サーボアンプ(接触検出部の例)は、刃物台30の位置をNC装置70に出力すればよい。棒材B1の先端部B1aが残存している場合、主軸中心線AX1に向けて進出させた検出子41は主軸中心線AX1に到達しない位置となり、この位置が刃物台用サーボアンプにより検出される。棒材B1の先端部B1aが残存していない場合、検出子41は主軸中心線AX1に到達した位置となり、この位置が刃物台用サーボアンプにより検出される。従って、刃物台30の検出位置を出力する刃物台用サーボアンプは、主軸中心線AX1に向けて進出させた検出子41が棒材B1の先端部B1aに接触したか否かを検出することになる。NC装置70は、刃物台駆動部31のサーボアンプから刃物台30の検出位置を取得し、この検出位置が主軸中心線AX1に到達しない位置である場合に突っ切りバイト破損と判定し、検出位置が主軸中心線AX1に到達した位置である場合に突っ切りバイト正常と判定してもよい。
【0077】
さらに、刃物台30に揺動可能な検出子、及び、該検出子の揺動を検出する近接センサー(接触検出部の例)が設けられている場合、手段b3によりメカ式破損検出処理が行われてもよい。近接センサーは、検出子が刃物台30に対して相対的に動くと反応し、検出子が刃物台30に対して相対的に動かない時に反応しないものとする。刃物台送りモーターは、主軸中心線AX1と交差する方向へ検出子を移動させる検出子駆動部の例である。NC装置70は、主軸中心線AX1に向けて棒材B1の先端部B1aが残存していれば該先端部B1aに検出子が接触する進出位置に検出子を進出させる制御を刃物台30に行ってもよい。棒材B1の先端部B1aが残存している場合、該先端部B1aに検出子が接触するので、検出子が動き、近接センサーが反応する。棒材B1の先端部B1aが残存していない場合、該先端部B1aに検出子は接触しないので、検出子は動かず、近接センサーは反応しない。NC装置70は、近接センサーが反応した場合、すなわち、近接センサーが検出子の揺動を検出した場合に突っ切りバイト破損と判定し、近接センサーが反応しない場合、すなわち、近接センサーが検出子の揺動を検出しない場合に突っ切りバイト正常と判定してもよい。
【0078】
刃物台30ではなく主軸中心線AX1の近傍において、検出子を揺動させる回転駆動部(検出子駆動部の例)、及び、主軸中心線に向けて揺動させた検出子の停止位置を検出するセンサー(接触検出部の例)が設けられている場合、手段b1によりメカ式破損検出処理が行われてもよい。棒材B1の先端部B1aが残存している場合、該先端部B1aに検出子が接触するので、NC装置70は、センサーの検出位置が主軸中心線AX1に到達しない位置である場合に突っ切りバイト破損と判定することができる。棒材B1の先端部B1aが残存していない場合、該先端部B1aに検出子は接触しないので、NC装置70は、センサーの検出位置が主軸中心線AX1に到達した位置である場合に突っ切りバイト正常と判定することができる。
【0079】
さらに、検出子41の移動は、電動の単軸直動ロボット等により行われてもよい。
【0080】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、連続加工中の加工時間を長くする必要が無く、突っ切りバイト破損を検出する精度を向上させる旋盤等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1…旋盤、
10…正面主軸台、11…正面主軸(主軸の例)、12…把持部、
13…正面主軸台駆動部、
15…背面主軸台、16…背面主軸(対向主軸の例)、17…把持部、
18…背面主軸台駆動部、
20…給材機、
30,30A,30B…刃物台、31…刃物台駆動部、
40…接触型破損検出部、41…検出子、
42…シリンダー(検出子駆動部の例)、43…位置センサー(接触検出部の例)、
51…サーボアンプ、52…サーボモーター、53…エンコーダー、
61…サーボアンプ、62…サーボモーター、63…エンコーダー、
70…NC装置(制御部の例)、
AX1…主軸中心線、
B1…棒材、B1a…先端部、
CM1…位置指令、
P1…進出位置、
SG1…位置フィードバック信号、SG2…位置偏差、
TO1…工具、TO2…バイト、TO3…突っ切りバイト、TO3a…先端、
W1…ワーク。
図1
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図10