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特開2023-25493マイクロ流路における混合装置およびマイクロ流路デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025493
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】マイクロ流路における混合装置およびマイクロ流路デバイス
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20230215BHJP
   B01F 23/40 20220101ALI20230215BHJP
   B01F 25/42 20220101ALI20230215BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230215BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B01F3/08 Z
B01F5/00 E
G01N37/00 101
B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130775
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】夏原 大悟
(72)【発明者】
【氏名】岡本 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】永井 萌土
【テーマコード(参考)】
3C081
4G035
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA11
3C081AA18
3C081BA01
3C081BA23
3C081BA24
3C081CA23
3C081CA32
3C081CA38
3C081DA10
3C081EA27
3C081EA37
4G035AB37
4G035AC06
4G035AD01
4G075AA13
4G075AA39
4G075BB06
4G075BB10
4G075BD07
4G075DA02
4G075EB50
4G075EC09
4G075FA01
4G075FA12
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】 比較的簡易な形状により広い流量範囲での混合効率を向上させる混合装置と、それを使用するマイクロ流路デバイスを提供する。
【解決手段】 混合装置は、混合領域8において複数の流体を混合させる。混合領域は、相互に対向する第1および第2の壁面21,22と、第1の壁面から第2の壁面に向かって突出させて流体の流れに対して障害物として機能させる第1の障害構造物6と、第2の壁面から第1の壁面に向かって突出させて流体の流れに対して障害物として機能させる第2の障害構造物7とを備える。第1の障害構造物は、並列に配置された複数の第1の障害構造物構成部61,・・・,64によって構成され、第2の障害構造物は、並列に配置された複数の第2の障害構造物構成部71,・・・,77によって構成される。第1の障害構造物構成部および第2の障害構造物構成部は、単一流路の中央線Xを軸として相互に非対称な状態で配置されている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の供給流路と、これらの供給流路が合流する単一流路と、この単一流路の適宜範囲に形成される混合領域とを備え、該混合領域において複数の流体を混合させるマイクロ流路における混合装置であって、
前記混合領域は、相互に対向する第1および第2の壁面と、第1の壁面から第2の壁面に向かって突出させて流体の流れに対して障害物として機能させる第1の障害構造物と、第2の壁面から第1の壁面に向かって突出させて流体の流れに対して障害物として機能させる第2の障害構造物とを備え、
前記第1の障害構造物は、並列に配置された複数の第1の障害構造物構成部によって構成され、前記第2の障害構造物は、並列に配置された複数の第2の障害構造物構成部によって構成されており、
前記第1の障害構造物構成部および前記第2の障害構造物構成部は、前記単一流路の中央線を軸として相互に非対称な状態で配置されていることを特徴とする混合装置。
【請求項2】
前記第1の障害構造物構成部と前記第2の障害構造物構成部は、突出長、隣接間隔および総数のうち、少なくとも1以上において、相互に異なる状態で設けることにより非対称となっているものである請求項1に記載の混合装置。
【請求項3】
前記第1の障害構造物構成部と前記第2の障害構造物構成部とが非対称な状態で配置されることにより、前記混合領域が形成される範囲において、前記単一流路の中央線を境界に第1の壁面側と第2の壁面側に形成される流路空間が、相互に異なる容量となるように構成されている請求項1または2に記載の混合装置。
【請求項4】
前記第1の障害構造物構成部の一部または全部は、前記単一流路の中央線を越える位置まで突出し、流体が該中央線を越えて流下するように誘導させる越境障壁部によって構成されるものである請求項1~3のいずれかに記載の混合装置。
【請求項5】
前記第2の障害構造物構成部のうち、前記越境障壁部の延長線上に配置される障害構造物構成部は、前記越境障壁部とともに所定幅の流路を形成する越境領域流路構成部によって構成されるものである請求項4に記載の混合装置。
【請求項6】
前記第2の障害構造物構成部のうち、前記越境障壁部および前記越境領域流路構成部によって形成される所定幅の流路の下流側に配置される障害構造物構成部は、前記越境領域流路構成部よりも長い突出長によって突出され、前記中央線を越えて流下する流体の流れを迂回させる越境流迂回部によって構成されるものである請求項5に記載の混合装置。
【請求項7】
前記越境流迂回部は、隣接する前記越境領域流路構成部の間に配置されるものである請求項6に記載の混合装置。
【請求項8】
前記混合領域は、適宜な長さに形成されるものであり、複数の混合領域が前記単一流路に直列に配置されている請求項1~7のいずれかに記載の混合装置。
【請求項9】
マイクロ流路チップ内に、請求項1~8のいずれかに記載した混合装置を備えるマイクロ流路デバイスであって、
前記混合装置を構成する複数の供給流路および単一流路と、該単一流路の適宜範囲に形成される前記混合領域と、前記供給流路に流体を注入する流体注入部と、前記単一流路に連続して設けられる反応領域と、この反応領域を経由した流路の末端において流体を排出する排出部とを備えることを特徴とするマイクロ流路デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路内を流下する複数の流体を混合するための混合装置と、この混合装置を有するマイクロ流路デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路における混合装置は、いわゆるマイクロミキサとして開発されてきたものである。一般的に、マイクロ流路内での流体の流れは低レイノルズ数(通常、Re=0.1~10)となるため層流となり、そのために複数の流体を混合させることが困難となることから、マイクロ化学分析システム(μTAS:micro-total analysis systems)に関する分野では、以前より流体混合のための研究が数多くなされてきた。
【0003】
マイクロミキサは、その原理から「能動ミキサ(Active mixer)」と「受動ミキサ(Passive mixer)とに大別され、能動ミキサは、外部エネルギ(電場や磁場など)を利用して強制対流を誘発させるものであり、受動ミキサは、マイクロ流路の形状を工夫することにより流体の混合界面を増加させるように構成されるものである(非特許文献1および2参照)。
【0004】
ところが、上記能動ミキサは、電場や磁場などの外部エネルギを利用するため、当該外部エネルギを供与するための外部電源などを必要とするものであった(特許文献1参照)。そのため、外部電源等の付属品などによって装置全体が大型化せざるを得ず、また、これらに伴って高コストにならざるを得なかった。特に、マイクロ流路チップとして使用する際には、ディスポーザブル(使い捨て)が前提となるところ、電極等の形成を要する場合には、ディスポーザブル使用に供するには高価なために不向きとされてきた。さらには、大型化した装置は可搬性に問題があり、分析場所での使用(オンサイト分析)やポイント・オブ・ケア検査(POCT:Point Of Care Testing)における使用に不向きなものとなっていた。
【0005】
そこで、装置の小型化、およびディスポーザブル使用を可能とするためには、受動ミキサが好適であることから、この受動ミキサとして使用し得るための流路形状が、多数研究されているところである。そして、その代表的な受動ミキサとしては、流路底面を適宜間隔で隆起させた形状の障害構成部を設けるものがある(非特許文献3および4参照)。この技術は、流体の流下方向に対して横向きとした長尺状に隆起させた障害構成部を流路底面に適宜間隔で配置したものであり、その長手方向を有角状(斜状)に傾斜させて設けることにより、流路内の流体を螺旋状に流下させて混合させるものである。また、流路そのものを螺旋状としたもの(特許文献2参照)や流体貯留部を設けたもの(特許文献3参照)なども開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-062190号公報
【特許文献2】特開2014-198324号公報
【特許文献3】特開2014-134476号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chia Yen Lee, Chin-Lung Chang, Yao-Nan Wang and Lung-Ming Fu, “International Journal of Molecular Sciences” 2011,12(5), pp.3263-pp.3287
【非特許文献2】Morteza Bayareh, Mohse Nazami Ashani and Azam Usefian, “Chemical Engineering and Processing - Process Inensification”, 2020, Vol.147, pp.107771
【非特許文献3】Abraham D. Stroock, Stephan K. W. Dertinger, Armand Ajdari, Igor Mezic, Howard A. Stone and George M. Whitesides, “Science”, Vol.295(5555), 2002, pp.647-pp.651
【非特許文献4】Daigo Natsuhara, Keisuke Takishita, Kisuke Tanaka, Azusa Kage, Ryoji Suzuki, Yuko Mizukami, Norikuni Saka, Moeto Nagai and Takayuki Shibata, “Micromachines”, 11(6), 2020, pp.540
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前掲の代表的な構成の受動ミキサは、流路底面の隆起状障害構成部によって螺旋状の流れを誘発させるものであるが、この隆起状障害構成部は、流路の深さを変化させて設けられることから、製造が容易でないという問題点を有していた。すなわち、一般的なマイクロ流路(およびマイクロ流路チップ)は、ソフトリソグラフィ技術が用いられるが、マイクロ流路の深さを変化させるためには、モールド(鋳型)における流路構成部分の高さを変化させなければならい。そのモールド作製には、一般的に半導体製造プロセス(例えば、MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)に基づいて作製され、フォトリソグラフィ技術を用いたパターニングによるフォトレジストを設け、凹凸形状のモールド(鋳型)を形成させるのであるが、流路の深さを部分的に変化させる場合は、流路が深い領域と浅い領域の2種類のためのフォトレジストを設けるために、2回に分けてパターニングされることとなる。ところが、2回のフォトレジストの作製には、作製プロセスに長時間を要するうえ、2回の成膜における膜厚制御(寸法)の再現性が低下し、完成したモールドの精度が低下することとなり得ていた。
【0009】
そのため、1回のパターニングのみでモールドを形成させるためには、流路底面に隆起状の構造物を設けるのではなく、壁面から突出する形状とする障害構成部を設けることが好適となるが、その場合には、壁面から突出させる障害構成部の形状や配置状態などを工夫する必要があった。すなわち、複数の流体が接する界面の表面積を意図的に増加させることで、相互拡散を促し、混合効率を高めることが主たる目的となるため、そのような効果を発揮する形状を設計しなければならなかった。
【0010】
ところが、相互拡散を促進させることを目指すために、流路形状が複雑となり、フォトレジストによるパターニングも複雑なものとなることから、作製コストは増加し、微細形状に応じた寸法の再現性も低下するものとなっていた。また、形状が複雑になることによって、混合効率は流量(レイノルズ数)の影響が大きく作用することとなり、広い流量範囲(導入流量)において高い混合効率を維持し得る混合装置が切望されていた。
【0011】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、比較的簡易な形状により広い流量範囲での混合効率を向上させる混合装置と、それを使用するマイクロ流路デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、混合装置にかかる本発明は、複数の供給流路と、これらの供給流路が合流する単一流路と、この単一流路の適宜範囲に形成される混合領域とを備え、該混合領域において複数の流体を混合させるマイクロ流路における混合装置であって、前記混合領域は、相互に対向する第1および第2の壁面と、第1の壁面から第2の壁面に向かって突出させて流体の流れに対して障害物として機能させる第1の障害構造物と、第2の壁面から第1の壁面に向かって突出させて流体の流れに対して障害物として機能させる第2の障害構造物とを備え、前記第1の障害構造物は、並列に配置された複数の第1の障害構造物構成部によって構成され、前記第2の障害構造物は、並列に配置された複数の第2の障害構造物構成部によって構成されており、前記第1の障害構造物構成部および前記第2の障害構造物構成部は、前記単一流路の中央線を軸として相互に非対称な状態で配置されていることを特徴する。
【0013】
上記構成によれば、単一流路の混合領域を複数の流体が同時に流下する際、第1の壁面に沿って流下する流体の流れ方と、第2の壁面に沿って流下する流体の流れ方は、相互の異なる状態となり、混合領域内において、第1および第2の壁面に沿って流下する双方の流体が相互の流れに影響を与え合うことで、混合すべき流体が接する界面の表面積を増加させることができる。
【0014】
ここで、前記第1および第2の障害構造物構成部が非対称な状態とは、個々の障害構造物構成部の突出長、隣接間隔および総数のうち、少なくとも1以上において、相互に異なる状態で設けられるものとすることができる。
【0015】
すなわち、従来の一般的な混合装置に使用される障害構造物構成部は、例えば千鳥状に突出させる場合のように、厳密な意味においては非対称であるが、対称軸において軸方向に一方を移動すれば対称となる状態(これを「略対称」と称して厳密な対称と区別する場合がある)に構成したものも存在するが、本発明では、このような略対称な場合も対称な状態に含まれるものとして定義し、当該略対称を除いた非対称の状態(完全な非対称)を構築することを意味するものである。そこで、上述のような完全な非対称の状態、すなわち、両者の突出長、隣接間隔および総数の少なくとも1以上を相互に異ならせる場合のように、対称軸となる中央線の軸方向に一方を移動させても対称とはならない状態とすることにより、第1および第2の壁面の近傍を流下する流体は、相互に異なる状態の流れを生じさせることができ、双方の流体が相互の流れに対して影響し合う結果として、両流体が接する界面の表面積を増加させることができるのである。
【0016】
上記構成のように完全な非対称となる状態で第1および第2の障害構造物構成部を設けることにより、前記混合領域が形成される範囲において、前記単一流路の中央線を境界に第1の壁面側と第2の壁面側に形成される流路空間が、相互に異なる容量となるように構成されていることが好ましい。流路空間の形成は、すなわち流体が流下できる空間であることから、当該流路空間が単一流路の中央線を境界とした両側に異なる状態で形成されることにより、両壁面に沿って流下する流体に対し、相互に異なる流れを生じさせることができるものとなる。
【0017】
なお、これまでに開発された混合装置は、障害構造物(障害構造物構成部)が、対称な状態(前記略対称を含む)に構成されていたことから、流路内を流れる流体は、規則的な流れとなりやすく、混合を促進させるためには流路を長く設定しなければならなかった。そのため、十分な混合状態(例えば、80%以上の混合状態)を達成させるためには、非常に長い混合流路(単一流路)を設け、または供給流体の流量(レイノルズ数)を変化させる必要があった。これに対し、上記構成の本発明によれば、第1の壁面の近傍を流れる流体と、第2の壁面の近傍を流れる流体は、混合領域を流下する過程において、規則的な流れとなることを抑制することができるため、継続的または連続的に相互の流れに影響を与え、比較的短い範囲において高い混合効率を達成し得るものとなる。これと同時に、供給流体の流量(レイノルズ数)が混合状態に与える影響を抑制し得ることとなるものである。
【0018】
上記構成の発明おける具体的な非対称の状態を構成するためには、前記第1の障害構造物構成部の一部または全部が、前記単一流路の中央線を越える位置まで突出し、流体が該中央線を越えて流下するように誘導させる越境障壁部によって構成されるものがある。
【0019】
このような構成によれば、第1の障害構造物構成部の一部または全部が、単一流路の中央線を越えて設けられるような状態(越境障壁部)によって構成されることから、第1の壁面に沿って流下する流体は、大きく蛇行することとなり、第2の壁面の近傍に誘導されることとなる。これに対し、第2の障害構造物構成部は、当該越境障壁部とは非対称な状態(例えば短い突出長)で設けることにより第2の壁面の近傍を流下する流体は、第1の壁面の近傍とは異なる状態で誘導されることとなる。さらに中央線を越える第1の障害構造物構成部によって、再び第2の壁面に誘導されるように大きく蛇行することで、不規則な流れが継続されることとなり、混合すべき流体は、界面の表面積を増加させ、その結果として混合状態を促進させることができる。
【0020】
さらに、上記構成の発明において、前記第2の障害構造物構成部のうち、前記越境障壁部の延長線上に配置される障害構造物構成部は、該越境障壁部とともに所定幅の流路を形成する越境領域流路構成部によって構成してもよい。
【0021】
上記構成の場合には、越境障害構成部によって第1の壁面の近傍の流体は蛇行するように流れが誘導され、第2の壁面の近傍の流体とともに越境領域流路構成部に誘導されることとなる。すなわち、混合領域を流下する流体を越境領域流路構成部に集中させることができるものとなるのである。この越境領域流路構成部は、単一流路の中心線から偏った位置に形成されることから、各種の混合すべき流体の全てが、一時的に単一流路の中心線から偏った位置を流下することとなる。そのうえで、下流側の越境流迂回部によって、混合すべき流体を同時に第1の壁面の方向へ誘導させることにより、混合すべき流体の全てを双方の壁面近傍を通過させることとなり、その際に適度な割合で混合させる機会を与えることができるものとなる。
【0022】
このような構成にあっては、前記第2の障害構造物構成部のうち、前記越境障壁部および前記越境領域流路構成部によって形成される所定幅の流路の下流側に配置される障害構造物構成部は、前記越境領域流路構成部よりも長い突出長によって突出され、前記中央線を越えて流下する流体の流れを迂回させる越境流迂回部によって構成されるものとすることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、越境障害構成部と越境領域流路構成部の存在によって、単一流路の中央線から偏った位置に所定幅の流路が形成され、単一流路を流下する流体の全体は、大きく蛇行しつつ当該所定幅の流路を通過することとなるが、越境流迂回部の存在により、所定幅の流路を通過した流体は、逆向きの方向へ迂回するように誘導されることとなる。すなわち、越境流迂回部は、越境領域流路構成部よりも長い突出長によって第2の壁面から突出するものであるから、所定幅の流路によって第2の壁面の近傍に誘導された流体は、越境流迂回部の存在によって迂回させられることとなり、その流れは第1の壁面の方向へ誘導されるのである。この一連の流体の流れにより、所定幅の流路を流下する流体の流れは急峻となる一方、その他の領域では緩慢な状態となる。そして、そのような流れは、単一流路の中央線を境界に両側で異なることとなることから、上記の流れのバランスの不均衡な状態が維持され、かつ均衡な状態に矯正されないものとなる。その結果、混合領域(単一流路内)を流下する流体は、上述の流れのバランスの不均衡に基づき、混合すべき流体における界面の表面積を継続的に増加させることとなり、混合効率を早期に上昇させることが可能となるのである。
【0024】
このとき、前記越境流迂回部は、隣接する前記越境領域流路構成部の間に配置されるようにすることが好ましい。この越境流迂回部は、越境領域流路構成部よりも長い突出長によって第2の壁面から突出されるものであるから、越境障害構成部と越境領域流路構成部とで形成される所定幅の流路を流下する流体に対して障害物となり、流体を当該越境流迂回部の先端へ誘導させることとなる。このとき、越境流迂回部の突出長は、その先端と第1の壁面との間に形成される間隙が、越境障害構成部と越境領域流路構成部とで形成される流路の所定幅よりも広くなるように調整することによって、迂回される領域の流れを緩慢な状態とすることができる。上記のような構成は、すなわち、越境障害構成部と越境領域流路構成部とで形成される所定幅の流路と、越境流迂回部とが、交互に配置される状態に形成するのである。これにより、混合すべき流体の全体的な流れに緩急を生じさせることとなり、流体の混合を促進させるものとなる。
【0025】
なお、前記混合領域は、適宜な長さに形成されたものとし、前記単一流路に複数の混合領域を形成するものであってよく、これらの混合領域が直列に配置される構成としてよい。この場合の複数の混合領域は、全て同じ構成としてもよく、障害構造物の配置状態を変更させたものを配置させる構成としてもよい。
【0026】
このような構成によれば、基本的には、所定長さに形成された混合領域において流体を混合させることができるものであるが、混合すべき流体の種類や供給する流量に応じて、複数の混合領域を形成して流体の混合状態を良好にさせることができる。特に、当初第1の壁面近傍を流下する液体と、第2の壁面近傍を流下する液体とが、混合が進む段階で部分的に逆転する現象を生じさせることもあるが、十分な長さの混合領域を形成することにより、さらに混合状態を進行させることができる。当然のことながら、個々の混合領域は、十分な数の障害構造物構成部が配置されるものであり、そのための単一流路も適当な長さに設けられるものとなる。なお、直列に形成する複数の混合領域は、全てが同じ構成である必要はないが、単純に第1の障害構造物と第2の障害構造物とを入れ替えるような構成とすることは好ましくない。その理由は、単純な障害構造物の入れ替えは、混合領域の全体として対称な状態に近似させることとなるからである。
【0027】
マイクロ流路デバイスに係る本発明は、マイクロ流路チップ内に、前記各構成のいずれかの構成による混合装置を備えるものであって、前記混合装置を構成する複数の供給流路および単一流路と、該単一流路の適宜範囲に形成される前記混合領域と、前記供給流路に流体を注入する流体注入部と、前記単一流路に連続して設けられる反応領域と、この反応領域を経由した流路の末端において流体を排出する排出部とを備えることを特徴とする。
【0028】
上記構成によれば、マイクロ流路チップ内に設けられる反応領域に検体等を固定し、試薬等を混合しつつ供給させることができる。このときの試薬等は、前記のように複数の流体を混合させたものを使用することができることから、当該試薬等を予め混合したものをマイクロ流路チップに供給する必要はなく、混合すべき流体を適宜選択することで必要な試薬等を最小限の量で供給することが可能となる。なお、反応領域において、本願の出願人による特願2020-190959に開示される分注装置を使用すれば、混合された試薬等を複数の反応容器に分注させることも可能となり、また、複数の反応容器ごとに異なる反応を生じさせることも可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、第1および第2の障害構造物を構成する第1および第2の障害構造物構成部は、いずれも第1または第2の壁面から他方の壁面へ向けて突出させる構成であるため、比較的簡易な形状によって構成されるものとなる。その結果として、フォトリソグラフィ技術によるモールド(鋳型)の形成において、流路の深さを部分的に変化させる必要がないことから、1回のパターニングによる容易な製造が可能となる。
【0030】
また、上記のように構成された障害構造物により、複数の流体は流下に伴って適度に混合するものであり、そのときの流体の混合状態は、流体の流量(レイノルズ数)の依存は小さく、よって、広い流量範囲での混合効率を向上させることができる。
【0031】
さらに、上記構成の混合装置は、マイクロ流路チップの製造時に同時に構成させることができることから、マイクロ流路デバイスに組み込むことが容易であり、組み込まれたマイクロ流路デバイスは、反応領域に対する試薬等を供給する際、複数の液体を混合させつつ供給することが可能となる。また、予め複数流体を混合して試薬等を調整しておく必要がないことから、試薬等の保管が不要となる。しかも、反応領域に供給すべき必要最低限度の流体を供給すればよいことから、試薬等(混合流体)を節約しつつ使用できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】マイクロ流路デバイスの実施形態を示す説明図である。
図2】混合装置に係る第1の実施形態を示す説明図である。
図3】混合領域の詳細を示す説明図である。
図4】混合領域内を流下する流体の流れを示す説明図である。
図5】実験例1に使用した混合構造の形状を示す説明図である。
図6】実験例1の結果を示す説明図である。
図7】実験例2に使用する混合領域の形状および寸法を示す説明図である。
図8】実験例2の結果を示すグラフである。
図9】実験例3の結果を示すグラフである。
図10】混合装置の実施形態の変形例を示す説明図である。
図11】混合装置の他の変形例を示す説明図である。
図12】混合装置の他の変形例を示す説明図である。
図13】実験例4の一部の結果を示すグラフである。
図14】実験例4の残りの結果を示すグラフである。
図15】混合装置に係る第2の実施形態を示す説明図である。
図16】実験例5に使用した混合装置を示す説明図である。
図17】実験例5の結果を示す説明図である。
図18】実験例6に使用した混合装置を示す説明図である。
図19】実験例6の結果を示すグラフである。
図20】実験例7の結果を示すグラフである。
図21】実験例8の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。説明の都合上、まずマイクロ流路全般について説明し、その後に本願発明に係る混合装置について説明する。
【0034】
<マイクロ流路デバイス>
図1は、マイクロ流路デバイスの概略を示すものである。なお、図1(a)は全体の概要を示す斜視図であり、図1(b)は、B-B線による断面図である。これらの図に示されるように、マイクロ流路デバイス1は、マイクロ流路チップ内に複数のマイクロ流路が設けられた構成である。マイクロ流路は、一般に0.005~2.0mm程度の流路断面積を有する流路であり、マイクロ流体(1~500マイクロリットル程度の微小な液状流体)を送液するためのものを示す。
【0035】
本実施形態のマイクロ流路デバイス1は、概ね2層を貼り合わせによって積層された構成であり、底板(基部)11に流路構成基板12が積層されている。具体的には、図1(b)において詳細に示されるように、平滑平面を有する底板11の上面に、予めソフトリソグラフィによって流路構成領域が形成された流路構成基板12を、接着用部材10によって貼り合わせたものである。なお、前記貼り合わせは、接着用部材10による場合に限らず、プラズマ接合などにより直接貼り合わせるものであってもよく、各種の方法により底板(基部)11と流路構成基板12とが積層された状態で構成されればよい。
【0036】
本実施形態においては、底板11をガラス基板で構成し、流路構成基板12は、シリコーン樹脂(PDMS:ポリジメチルシロキサン)で構成し、接着用部材10には、両面テープを使用している。ソフトリソグラフィによる流路構成基板12の作製は、シリコン基板上に流路部分となるべき形状をパターニングし、これをモールド(鋳型)として用いることにより、流路等の所定形状のキャビティを有するシリコーン樹脂を設けるものである。
【0037】
図1(a)および(b)に示されるように、流路構成基板12に形成される複数のマイクロ流路は、送液部2と、これに連続する主流路3が形成されている。送液部2は、流路構成基板12の表面に到達し開口している注入部13,14に連続し、注入部13,14から注入される流体を送液するものである。また、主流路3は、反応領域100の一部を構成し、末端において余剰の流体を排出する。本実施形態のマイクロ流路デバイス1に例示する反応領域100は、主流路3から分岐させる分岐装置を備える構成としており、そのため、流路の末端は、主流路3の末端と、分岐装置を経由した後の排出路4の末端であり、それぞれに排出部15,16に連続させている。この排出部15,16は、流路構成基板12の表面において開口するように構成され、開口部から流体を排出させることができるほか、各流路内における内部空気の排気用として機能するものである。なお、流路に供給される流体は、液体のほかに微粒子等を含むサスペンジョンなどがあり得る。
【0038】
ところで、送液部2は、注入部13,14から供給される流体を反応領域100まで送液するものであるが、図のように、複数の異なる種類(図は2種類)の流体を同時に供給する場合、送液部2の上流部分における単一流路を使用して、複数の流体を混合するための混合装置が設けられるのである。
【0039】
マイクロ流路デバイス1の実施形態は、上記のような構成とするものであるから、流体を反応領域100まで送液する過程において送液部2の一部において複数種類の流体を混合させたうえで、混合流体を反応領域100に供給することができるものである。なお、この実施形態では、反応領域100において、分注装置が用いられており、主流部3から分岐する分岐流路31と、分岐した流路にはチャンバ領域部32が設けられ、このチャンバ領域部32に反応容器33を設けることにより、反応容器33での対象物の反応状態を確認するものとしている。また、複数に分岐させることにより、複数の反応を同時に処理することができるものを例示している。
【0040】
<混合装置に係る第1の実施形態>
次に、混合装置に係る第1の実施形態について詳細を説明する。図2は、本実施形態の混合装置5を構成する流路構造を示す平面図である。この図に示されるように、混合装置5は、複数(図は2つ)の供給流路51,52と、これらの供給流路51,52が合流する単一流路53とを備えた構成であり、この単一流路53は、送液部2の一部に形成されるものである。また、供給流路51,52の基端側は、前記マイクロ流路デバイス1(図1)を構成したときの注入部13,14に連続する注入流路54,55が設けられ、当該注入部13,14から所定の流量(注入圧)により所望の液体を供給流路51,52に供給することができるものである。
【0041】
単一流路53は、基本的には矩形断面とする送液部2と同じ流路形状であり、底面部20の両側に第1の壁面21と第2の壁面22とが設けられた構造となっている。このような矩形流路の壁面21,22から、他方へ向けて突出させる障害構造物6,7を適宜範囲に設けることにより、混合領域8が形成されている。図2に示す混合領域8は、送液部2の一部において、一箇所にまとめて設けているが、送液部2の複数箇所において、複数の混合領域8を設ける構成とすることもできる。
【0042】
次に、障害構造物6,7について説明する。図3は障害構造物6,7の構造を中心に示した混合領域8の部位分的な拡大図である。図3(a)は流路構造として流路を溝状に示した図であり、図3(b)は流路部分のみを示した図であり、どちらも同じ状態を示すものである。なお、図は、説明の都合上、障害構造物6,7を少ない数で示し、混合領域8を短くしているが、実際には多くの数の障害構造物6,7により長尺な混合領域8が形成されるものである。また、図3(a)に示す流路は、底面部20を壁面21,22と一体に示しているが、マイクロ流路デバイス1(図1)を形成する際の底面部20は、底板(基部)11によって構成されることがある。さらに、図3(a)は、流路を溝状として示したことから、上部を開口した状態で示しているが、マイクロ流路は図3(b)に示すように当該上部も閉塞された構造である。
【0043】
ところで、混合領域8において設けられている障害構造物6,7は、図3に示しているように、相互に非対称としている。すなわち、単一流路53(送液部2)の中央線Xを対称軸とするときに、線対称となる状態に設けられていないのである。この対称とならない状態とは、対称軸(中央線)Xの軸方向に一方を移動させるときに対称となる状態(略対称)とならないものである(このことを完全な非対称という場合がある)。
【0044】
さらに詳述すると、双方の障害構造物6,7が対称(略対称を含む)とならない構成とするために、本実施形態では、一方の障害構造物(第1の障害構造物)6は、単一流路53(送液部2)の一方の壁面(第1の壁面)21から他方の壁面(第2の壁面)22に向かって突出させて設けられるものとし、他方の障害構造物(第2の障害構造物)7は、第1の障害構造物6とは逆向きに、第2の壁面22から第1の壁面21に向かって突出させて設けられるものとして構成している。そのうえで、第1の障害構造物6は、複数の第1の障害構造物構成部61,・・・,64で構成され、また、第2の障害構造物7も複数の第2の障害構造物構成部71,・・・,77で構成されるものであるが、これらの数、長さ、隣接間隔をいずれも相互に異ならせた状態で設けられているのである。
【0045】
このように、双方の障害構造物構成部61,・・・,64、71,・・・,77について、その数、長さ、隣接間隔の全てを相互に異ならせる場合のほか、いずれか一つを異ならせても対称(略対称を含む)とならない状態とすることが可能である。所定長さの混合領域8において、数のみが異なる場合または隣接間隔のみが異なる場合は、少ない数または狭い間隔とした側の障害構造物構成部を複数のグループに分割配置すればよく、この場合、複数グループの間には障害構造物構成部を非設置とする領域が形成されることとなるから、流体の流れに変化を与えることができる。また、長さのみを異ならせる場合には、両壁面21,22の近傍を流下する流体は、相互に非対称な流れとなる。各種の変形例については後述するが、ここでは、障害構造物構成部の数、長さ、隣接間隔をいずれも相互に異なる状態を実施形態として例示している。
【0046】
<障害構造物構成部>
そこで、障害構造物構成部の詳細を説明する。図3に示す実施形態においては、第1の障害構造物構成部61,・・・,64は、単一流路53(送液部2)の中央線Xを超える位置まで突出させたものとしている。これらの障害構造物構成部61,・・・,64が中央線Xを超えて突出することは、単一流路53を流れる流体が、第1の壁面21から大きく迂回し、当該中央線(両壁面21,22の近傍空間の境界線)Xを越えたところを流下するように誘導されるものとなり、その意味において、これらの障害構造物構成部61,・・・,64は、中央の境界を越える越境障壁部となり得るものである。
【0047】
他方、第2の障害構造物構成部71,・・・,77は、第1の障害構造物構成部61,・・・,64よりも短い突出長で設けられている。また、この第2の障害構造物構成部71,・・・,77は、第1の障害構造物構成部61,・・・,64の半分の隣接間隔として、長さの異なる状態で交互に配置されている。短い障害構造物構成部71,73,75,77は、第1の障害構造物構成部61,・・・,64に対向する位置に設けられるとともに、長い障害構造物構成部72,74,76は、その中間に配置されている。
【0048】
従って、短い障害構造物構成部71,73,75,77は、第1の障害構造物構成部61,・・・,64とともに流路の幅を所定幅(狭幅)に絞るために設けられ、越境障壁部61,・・・,64の先端における流路を構成するものであり、その意味において、越境領域流路構成部として機能するものである。また、長い障害構造物構成部72,74,76は、第1の障害構造物構成部(越境障壁部)61,・・・,64の下流側に配置されることにより、第1の壁面21から離れ、中央線Xを越えて流下する流体の流れを、第1の壁面21へ戻しつつ迂回させるように誘導するものとなり、その意味において越境流迂回部として機能し得るものとなる。
【0049】
また、長く設けられる第2の障害構造物構成部(越境流迂回部)72,74,76の突出長は、第1の障害構造物構成部(越境障壁部)61,・・・,64の突出長と同程度か、または短く設定することにより、例えば、越境障壁部61,・・・,64の先端から第2の壁面22までの距離と同程度とすることにより、この越境流迂回部72,74,76の先端と第1の壁面21との間には、適度な流路空間Aが形成されることとなる。この流路空間Aが形成されることにより、越境障壁部61,・・・,64によって高速に流下した液体の速度が緩慢となり、高速に流下するときの僅かな流速の変化による対流を促すことができるものとなる。
【0050】
<流体の流れ>
上記の状態を図4に基づいて説明する。図4(a)は、上記混合領域8の状態を中心として示している。なお、単一流路53(送液部2)の流路幅(第1の壁面21と第2の壁面22との間隔)Hに対し、第1の障害構造物構成部(以下、越境障壁部と称する場合がある)61,・・・,64の突出長H1は、その流路幅Hの1/2を超える長さを備え、長い第2の障害構造物構成部(以下、越境流迂回部と称する場合がある)72,74,76の突出長H2は、H2=H-H1の長さとしている。なお、短い第2の障害構造物構成部(以下、越境領域流路構成部と称する場合がある)71,73,75,77の突出長H3は、長いものの突出長H2の約1/2程度としている。この越境領域流路構成部71,・・・が越境障壁部61,・・・との間で形成される流路Bの所定幅H4は、H4=H-H1-H3となり、十分に絞られた状態の狭幅となっている。また、流路空間Aを形成する越境流迂回部72,・・・の先端から第1の壁面21までの間隙H5は、H5=H-H2であり、これは越境障壁部61,・・・の突出長H1に等しい状態となっている。
【0051】
このような構成において、図4(a)に示すように、例えば、二種類の液体L1,L2を第1の壁面21と第2の壁面22の両側に分かれた状態で単一流路53に供給される場合、合流した直後は越境障壁部61と越境領域流路構成部71とで形成される絞られた狭幅の流路(以下、狭幅流路と称する場合がある)Bを通過し、その後適度な流路空間Aに流入することとなる。このとき、狭幅流路Bを通過する液体は、第1の壁面21の側から供給された液体(第1の液体)L1は、大きく迂回させられながら、第2の壁面22の側から供給された液体(第2の液体)L2とともに狭幅流路Bに集中し、速度を高めつつ通過することとなる。
【0052】
狭幅流路Bを通過した流体は、下流側に設けられている越境流迂回部72によって円滑な流下が阻害され、第1の壁面21との間で形成される流路空間Aへ誘導されることとなる。このとき、越境流迂回部72の先端近傍は、前記狭幅流路Bの近い位置にあることから、この先端近傍を通過する流体は、比較的早期に次順位の狭幅流路Bを通過することができるが、第1の壁面21の近傍に移動した流体は、比較的緩慢な流れとなるため、上記に遅れて次順位の狭幅流路Bへ移動することとなる。
【0053】
また、第2の壁面22の近傍(第2の障害構造物構成部71,72・・・の近傍)を通過する流体は、異なる突出長による二種類の障害構造物構成部71,72・・・により蛇行しつつ移動するため、流下方向が少なからず変化することとなる。これらの二種類の障害構造物構成部71,72・・・の間には狭い流路空間Cが形成されるが、狭幅流路Bに接近して形成されていることから、この狭い流路空間Cに流体が留まることは期待できないものとなる。その結果として、第1の壁面21との流路空間Aを通過する流体との間で不規則な流れを生じさせることとなる。
【0054】
このように、第1の壁面21の近傍を通過する流体(上記例では第1の液体L1を中心とするもの)と、第2の壁面22の近傍を通過する流体(上記例では第2の液体L2を中心とするもの)との間において、両者が接する界面の表面積を増加させることができることとなり、混合効率を向上させ得ることとなる。
【0055】
上記のような実施形態の構成による流体の流れを考慮する場合、図4(b)に示すように、第1の障害構造物構成部61,・・・と、第2の障害構造物構成部71,・・・とを略対称な状態で設ける場合には、第1の壁面21の近傍を流れる流体と、第2の壁面22の近傍を流れる流体は、それぞれ敏捷と緩慢な状態が単純に繰り返されるものとなる。そのため、双方の障害構造物構成部61,71,・・・によって迂回流路が形成されて流下方向は変化するものの、両流体が接する界面の表面積が緩やかに増加する程度となり得る。
【0056】
図4(b)に示す障害構造物構成部61,71,・・・は、単一流路53の中央線Xを超える長さまで突出させたものであるが、図4(c)に示すように、障害構造物構成部61,71,・・・を単一流路53の中央線Xに到達させない場合には、単一流路53の中央線Xの近傍に流れを阻害するものが存在しないため、さらに規則的に流下するうえ、両壁面21,22の近傍を流下する流体は、中央線Xを超えて他方側へ流入するような流れを生じさせ難くなることから、混合状態を促進させることには不向きなものとなり得る。
【0057】
<実験例1>
上記の点を確認するため、流線を解析する実験を行った。数値流体解析には市販の有限要素解析ソフトウェアを使用することとし、具体的には、COMSOL AB社製のCOMSOL(登録商標) Multiphysics(version5.4)を使用した。解析実験は、図5に示すように、障害構造物を対称とする単純周期構造(図5(a)参照)および交互配置対称構造(図5(b)参照)と、非対称とする交互配置非対称構造(図5(c)参照)との三種類について、それぞれ行った。その結果を図6に示す。
【0058】
この図6に示す結果から明らかなとおり、障害構造物を対称に設けた流路の場合(図6(a)および(b)参照)には、流体の流れは、中央線に集中する状態となり、規則的な状態となっているが、非対称とする場合(図6(c)参照)には、流れが大きく蛇行し、全体として不規則になっていることが理解できる。
【0059】
<実験例2>
上記の結果から、図5(c)に示す形状(交互配置非対称構造)による混合領域8におおける不規則な流れによって、混合効率も向上することが予想されるところ、同形状による混合効率の変化の状態を確認するための実験を行った。
実験用の混合領域8は、図7に示すように、第1の障害構造物6と第2の障害構造物7を非対称とする交互配置非対称構造とし、単一流路53(送液部2)の流路幅を200μmとした。第1の障害構造物6を構成する越境障壁部61,・・・は、幅寸法50μmで突出長120μmとした。また、第2の障害構造物7を構成する越境領域流路構成部71,・・・は、幅寸法50μmで突出長40μmとし、越境流迂回部72,・・・は、幅寸法50μmで突出長80μmとした。なお、混合領域8の全体は、越境流迂回部72,・・・を中心として両側に位置する二つの越境障壁部61,・・・の中央位置間の範囲を1組の障壁群としてカウントし、100組の障壁群を設置し、基端と終端には、それぞれ越境障壁部61,・・・を配置するものとした。その結果、混合領域8の全体の長さは20.05mmとなっている。
【0060】
実験において、混合状態を確認するため、蛍光試薬(フルオレセイン溶液)と純水とを混合させて観察するものとし、流路上流の二つの供給流路51,52から、それぞれ流量5μL/minにより供給し、合計流量を10μL/min(レイノルズ数(Re)=1.3)として単一流路53で混合させた。
【0061】
混合効率の観察は、単一流路53における最初の混合領域8に流入する位置から手前270μmの地点を起点(0mm地点)とし、数mmごとの間隔で混合効率を評価した。具体的には、前記組数の障壁群で5組分ごと(1.0mmごと)について評価した。混合効率の評価は、観察地点における蛍光強度プロファイルの標準偏差として算出した。なお、混合効率の算出法は非特許文献4に記載されたものと同じである。
【0062】
上記の結果を図8に示す。この結果より、起点から約4mm(20組相当)の範囲を通過した時点で、混合効率は80%を超える状態となることを確認した。ここで、その後の混合効率が一時的に減少しているのは、被混合流体の逆転現象と思われるが、これについては後述する。なお、その後の混合効率の状況を見る限り、少なくとも起点から8mm(40組相当)の範囲を通過した後は、混合効率は80%以上を示しており、13mm(65組相当)の範囲を流下した流体は、90%の混合効率で安定していることが判明した。
【0063】
<実験例3>
上記実験例2に示すように、流量10μL/min(レイノルズ数(Re)=1.3)の流体における混合効率が好適であった。そこで、他の流量についても実験を行った。実験に使用した混合領域8は、実験例2と同様に図7に示す構成としたものである。供給した流体の流量は、実験例2の流量よりも大きく少量とする合計流量1μL/min(レイノルズ数(Re)=0.13)と、逆に大きく多量とする合計流量100μL/min(レイノルズ数(Re)=13)との二種類とした。その結果を図9に示す。
【0064】
図9には、比較のため、実験例2における混合効率の変化も併せて記載している。この結果から明らかなとおり、流量が少ない場合にあっては流路長約10mmの地点において混合効率が80%を超える状態となっており、混合効率の変化も円滑に上昇するものとなった。他方、流量が多い場合でも約15mmの地点において混合効率80%を超えるものとなっている。なお、流量は10μL/minを中心に大きく異なる流量において実験したが、これらの間の流量の場合には、結果のグラフにおいて、それぞれの変化が中間的な状態なることが想定され得る。
【0065】
以上の実験結果から、図7に示すような障害構造物6,7を非対称とする形状(交互配置非対称構造)によって混合領域8を形成する場合には、広範な流量の流体供給においても好適な混合効率となることが判明した。
【0066】
<変形例>
上記のような各実験の結果より、本実施形態の変形例として想定されるものを例示する。まず、図10(a)に示すように、第1の壁面21から突出する越境障壁部61,・・・の先端を第2の壁面22の近傍に到達するまで突出させ、当該壁面22との間に狭幅流路Bを形成させるのである。このような構成において、越境流迂回部72,・・・の突出長H2は、H2=H-H1となるように、越境障壁部61,・・・の突出長H1よりも短くすることにより、越境流迂回部72,・・・の先端と第1の壁面21との間隙H5は狭幅流路Bの流路幅よりも大きくなるため、両者の先端側に形成される流路空間A,Cは、相互に広狭異なる状態となり、前述のような不規則な変化を生じさせることができるものとなる。
【0067】
上記の構成を総括的に説明すれば、第1の壁面21から突出させる越境障壁部61,・・・の先端と第2の壁面22とで形成される間隙(および隣接する障害構造物構成部との間に形成される流路空間C)と、第2の壁面22から突出させる越境流迂回部72,・・・の先端と第1の壁面21とで形成される間隙(および隣接する障害構造物構成部との間に形成される流路空間A)とが、相互に非対称となるように設けられている状態ということができる。
【0068】
また、他の変形例としては、図10(b)に示すように、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を流路幅Hの1/2程度とするものである。当然のことながら、越境障壁部61,・・・は中央線Xを超える突出長としており、また、その先端に対向する位置には越境領域流路構成部71,・・・を設けていることから、第1の壁面21に形成される流路空間Aと、第2の壁面22に形成される流路空間Cとは大きく異なる状態となっている。
【0069】
このように、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を長く設けることにより、狭幅流路Bを通過した流体の流速を緩和させることができ、また多くの流体を流路空間Aへ誘導することができることとなり、流路空間Aにおける対流の発生を期待することができる。なお、流路空間Aにおいて明らかな対流が生じないとしても、両壁面21,22の近傍に形成される流路空間A,Cが広狭異なるため、不規則な流れを生じさせ得ることは可能である。
【0070】
また、図11に示すように、越境流迂回部72,・・・突出長H2をさらに長いものとすることができる。例えば、図11(a)に示すように、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を流路幅Hの1/2を超え、越境障壁部61,・・・の突出長H1と同程度(H2=H1)に構成してもよい。この場合においても、越境流迂回部72,・・・の先端から第1の壁面21までの間隙H5は、狭幅流路Bの流路幅H4よりも大きい状態であることから、第1の壁面21の側に形成される流路空間Aは、第2の壁面22の側に形成される流路空間Cよりも大きい状態に構成し得る。
【0071】
同様に、図11(b)に示すように、越境流迂回部72,・・・の突出長H2をさらに長く構成した場合においても、越境流迂回部72,・・・の先端から第1の壁面21までの間隙H5が、狭幅流路Bの流路幅H4よりも大きくなる範囲内(H5>H4)であれば、当該突出長を変更してもよい。これは、第1の壁面21の側に形成される流路空間Aは、第2の壁面22の側に形成される流路空間Cよりも大きい状態となることから、両側の流れに少なからず緩急の差異を設けることができるからである。
【0072】
さらに、上記とは逆に、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を短く構成することもできる。例えば、図12(a)に示すように、越境流迂回部72,・・・先端が狭幅流路Bの中間に位置する程度まで突出させた状態とするものである。すなわち、越境流迂回部72,・・・の突出長H2は、H2=H3+0.5H4とするのである。このような状態においても、越境流迂回部72,・・・は、狭幅流路Bを流下する流体に対して障害物として機能させることができるため、流体に対する迂回を誘導させることができる。なお、この変形例においては、越境流迂回部72,・・・の先端と第1の壁面21との間隙H5が、極端に大きくならないように、調整突起65,66,67を設けている。この調整突起65,・・・の突出長H6は、越境流迂回部72,・・・の先端と第1の壁面21との間隙H5が、越境障壁部61,・・・の突出長H1と同程度(H4=H1)となるように調整されたものとしている。
【0073】
なお、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を極端に短く構成する場合には、例えば、図12(b)に示すように、越境領域流路構成部71,・・・の突出長H3と同程度(H2=H3)とすることもあり得る。この場合においても、越境流迂回部72,・・・の先端と第1の壁面21との間隙H5が、越境障壁部61,・・・の突出長H1と同程度(H4=H1)となるように、調整突起65,・・・を設けるものとしている。この場合、第2の壁面22から突出させる第2の障害構造物構成部(越境流迂回部および越境領域流路構成部の双方)71,・・・の突出長H2,H3は、同じ長さとなり、越境流迂回部72,・・・は、狭幅流路Bを流下する流体に対して障害物となり得ない状態となっているが、第1の壁面21の側に形成される流路空間Aが形成されていることから、混合効果が期待できるものとなる。特に、狭幅流路Bが連続した状態であるため、流体の流れが狭幅流路Bにおいて規則的になりそうであるが、この流路は単一流路53の中央線Xから偏った位置に設けられているため、流体は全体として中央線Xに沿って流れようと迂回することが期待されるものである。
【0074】
<実験例4>
次に、混合領域8の基本的な構成を交互配置非対称構造としつつ、越境流迂回部72,・・・の突出長を変化させた場合における混合効率の状態を確認するための実験を行った。実験は、前記実験例2に使用した混合装置(図7参照)を基本構成とし、各構成の寸法は、越境流迂回部72,・・・の突出長を変化させることとした。その突出長の変化の状態は、後記の各実験装置のとおりである。なお、蛍光試薬と純水を二箇所の供給流路51,52から供給することは実験例2と同様であり、流量を変更するため、混合する両液を毎分同量とし、単一流路における流量は、1μL/min(レイノルズ数(Re)=0.13)、10μL/min(レイノルズ数(Re)=1.3)および100μL/min(レイノルズ数(Re)=13)の3種類とした。混合効率の観察についても実験例2と同様であり、単一流路における最初の混合領域8に流入する位置から手前270μmの地点を0mm(起点)とし、数mmごとの間隔で混合効率を測定した。具体的には、前記組数の障壁群で5組分ごと(1.0mmごと)について評価した。また、混合効率の測定方法についても、実験例2と同様とした。
【0075】
実験装置は、装置5-1から装置5-5まで越境流迂回部72,・・・の突出長を数種類に変化させたものとした。装置5-1は、図10(b)に示した変形例であり、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を単一流路の中央までとしてH2=0.5H(=100μm)とする。装置5-2は、図11(a)に示した変形例であり、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を越境障壁部61,・・・と同じ長さとしてH2=H1(=120μm)とする。装置5-3は、図11(b)に示した変形例であり、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を越境障壁部61,・・・よりも長くしてH2=H1+0.5H4(=140μm)とする。装置5-4は、図12(a)に示した変形例であり、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を味覚してH2=H3+0.5H4(=60μm)とし、調整突起65,・・・の突出長H6をH6=0.5H4(=20μm)とする。装置5-5は、図12(b)に示した変形例であり、越境流迂回部72,・・・の突出長H2をさらに短くしてH2=H3(=40μm)とし、調整突起65,・・・の突出長H6をH6=H4(=40μm)とする。
【0076】
上記の実験装置のうち越境流迂回部72,・・・の突出長H2を基準(図7参照)よりも長くした装置5-1から装置5-3による混合効率の状態を図13に示し、短くした装置5-4および装置5-5を図14に示す。これらの図から明らかなとおり、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を長短変化させた場合においても効果的に混合させることができる。特に、越境障壁部61,・・・と同程度まで突出させる場合(図13(b)参照)には、流量が異なる広い範囲(1μL/min~100μL/min)において好適に混合しており、概ね10mmの地点で80%を超え約90%の混合効率に達するものとなった。また、越境流迂回部72,・・・の突出長H2を短くする場合(図14)であっても、速い流量(100μL/min)を除けば、中速(10μL/min)以下の流量の範囲において好適な混合効率となるものである。
【0077】
<混合装置に係る第2の実施形態>
次に、混合装置に係る本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態の概要を図15に示す。本実施形態は、図15に示すように、上述のように障害構造物6,7を非対称とする複数の混合領域8a,8b,8c・・・を備えた構成であり、具体的には、適宜な流路長さにおいて、当該流路長さに応じた複数の第1の障害構造物構成部61,・・・を有する障害構造物6と、同様に複数の第2の障害構造物構成部71,72・・・を有する障害構造物7をもって一区画の混合領域8(8a,8b,8c・・・)とし、これらの複数区画)の混合領域8a,8b,8c・・・を直列に連続させたものである。
【0078】
さらに、複数区画の混合領域8a,8b,8c・・・は、隣接する関係となっている相互間において、それぞれの第1の障害構造物6と第2の障害構造物7とが、相互に反転させた構造(反転構造)としている。反転構造とは、単一流路53の中央線Xを境界として、第1壁面21からの突出状態(第1の障害構造物6の構成)と第2壁面からの突出状態(第2の障害構造物7の構成)とを相互に入れ替えた状態である。
【0079】
詳述すれば、最上流側の区画(第1区画)の混合領域8aでは、第1の障害構造物構成部61,・・・を第1の壁面21から突出させ、第2の障害構造物構成部71,・・・を第2の壁面22から突出させた状態(第1の実施形態と同じ)であるが、次順位の区画(第2区画)の混合流路8bは、第1の障害構造物構成部61,・・・を第2の壁面22から突出させ、第2の障害構造物構成部72,・・・を第1の壁面21から突出させた状態とするのである。さらに、次に直列される区画(第3区画)の混合領域8cでは、再度反転させた第1区画の混合領域8aと同様の状態とするものである。なお、個々の混合流路8a,8b,8c・・・は、独立した混合領域という認識から、各混合領域8a,8b,8c・・・の中間には、障害構造物6,7を設けない平坦流路Sを設け、各混合領域8a,8b,8c・・・の流入直前および流出直後においては、送液部2(単一流路53)を流下する状態に戻すこととしている。
【0080】
ところで、上述の実験例2における結果によれば、混合領域に流入した流体は、初期の流路長において約4mm(障壁群20組相当)の地点でピークとなった後、混合効率が減少していることを確認した。この原因として、種々検討したところ、前述のように、越境障壁部61,・・・によって狭幅流路Bを通過した流体は、下流側に設けられている越境流迂回部72によって流れが乱され、第1の壁面21の近傍を流下する流体は、比較的緩慢な流れとなる一方、第2の壁面22の近傍を流下する流体は、比較的急峻な流れとなる(図4(a)参照)。これにより、急峻な流れの液体が第1の壁面21の側に形成される流路空間Aに流れやすく、緩慢な流れは遅れて流下して第2の壁面22に接近しやすくなることから、上記の流れを繰り返すことで、供給された当初において第1の壁面21の近傍を流下していた流体は第2の壁面22の近傍に、第2の壁面22の近傍を流下していた流体は第1の壁面21の近傍に移動するように、逆転現象を生じさせることがあることを発明者らが実験によって確認した。
【0081】
そこで、上記のように相互に反転させた複数の混合領域8a,8b,8c・・・を直列に設けることにより、逆転現象を早期に再逆転させることが期待できる。特に、混合領域8に供給された直後における混合効率の変化が著しく向上する結果から、平坦流路Sを経由して次順位の混合流路8に流入させることで、混合状態を促進させるものとするである。流体の逆転現象が発生する状態とは、少なくとも液体の混合が進んだ状態であることから、完全な逆転状態ではなく、逆転傾向というべきものであって、当該逆転傾向が出現する状態においては、既に適度に混合が進行しているものである。
【0082】
このように、逆転現象を戻すように複数区画の混合領域8a,8b,8c・・・を設けることにより、流体の逆転現象が生じた場合であっても、最終的には複数の流体は第1および第2の壁面のいずれか一方に偏ることなく、全体として混合した状態となるものである。
【0083】
なお、複数の混合領域81,・・・を設ける場合には、個々の混合領域81,・・・を全て同一の構成としてもよい。前述のような流体の逆転現象は、混合領域8を適宜長さ(適宜な組数の障壁群)を経由した地点で生じることから、混合領域8に流入した直後から混合効率は上昇するため、複数の独立状態で形成される混合領域8a,8b,8c・・・を順次流下させることにより、逆転現象を適度に戻しつつ混合効率を向上させることができるものとなる。
【0084】
<実験例5>
上記のような状態を確認するため、蛍光試薬(フルオレセイン溶液)と純水とを混合させた状態を観察した。実験には、図16に示すように、複数の混合領域8a,8b,8cを直列に連続させた状態とし、第2番目(第2区画)の混合領域8bは、単純に第1の障害構造物6と第2の障害構造物7とを入れ替えた反転構造とした。また、流路上流の二つの供給流路51,52から、それぞれ5μL/minを供給し、合計10μL/min(レイノルズ数(Re)=1.3)を単一流路53で混合させたときの混合状態を観察した。
【0085】
混合装置の各部の寸法は、図示のとおりとしており、個々の混合領域8a,8b,8cは、それぞれ25組の障壁群とし、各流路長は5.05mmの長さとした。なお、個々の混合流路8a,8b,8cの間には平坦流路Sを0.5mmの長さだけ形成したものとした。
【0086】
図16中に矩形で囲んだ7箇所P0,P1a,P1b,P1c,P1d,P2a,P2bの混合状態を図17に示す。なお、各部の混合状態は、蛍光試薬の蛍光状態を画像で取得したが、当該画像を二値化すると蛍光色が判別し難いことから、図17は画像をモデル図に変換したものを示している。なお、蛍光試薬を網掛けで示し、網掛けの密度を変化させることにより蛍光試薬の濃度を表すようにしている。
【0087】
この図17に示されるように、一方の供給流路51から蛍光試薬を供給し、他方の供給流路52から純水を供給した直後は、単一流路53の内部で混合しておらず、両者が明確に二層に分離している(P0)。ここから第1区画の混合領域8aを流下することにより、蛍光試薬と純水は徐々に混合し、蛍光試薬の濃度が全体的に低下する(P1a~P1d)。ここで、蛍光試薬は、当初、第1の壁面21の近傍を流下しているが(P1a)、徐々に純水が第1の壁面21の近傍へ流入して流路空間Aの濃度を低下させ、同時に蛍光試薬が第2の壁面22の近傍へ流入し、混合が進行している(P1b,P1c)。さらに、第1区画の混合領域8aの末端付近では、蛍光試薬の濃度は、第2の壁面22の近傍において上昇する現象が生じている(P1d)。これが流体の逆転現象である。なお、この逆転現象が生じる状態においても濃度分布は、当初(P1a)と比較すれば、適度な程度に混合が進行している状態となっている。
【0088】
この実験では、第2区画の混合領域8bとして、第1の障害構造物6と第2の障害構造物7の配置を入れ替えたものとしている。そこで、上述の逆転現象が生じた流体が、この第2区画の混合領域8bを通過することにより、単一流路全体(複数の混合領域8a~8c)の流れ方が変化するため、再度の逆転現象が出現する(P2a)こととなる。連続する100組の障壁群によって形成する場合(図7)によって、順次逆転現象および再逆転現象を繰り返して最終的には好適な混合効率を得ることも可能であるが、上記結果から、適度な組数(25組)の障壁群を単位として反転構造を形成することによっても十分な混合を可能とすることが判明した。
【0089】
<実験例6>
上記の結果から、反転構造の適性を判断するため、実験例6として、複数の流路領域8a,8b,8c・・・を構成する障壁群の組数(流路長)を変化させた場合の混合効率を観察することとした。この実験装置は、図18に示すように、二種類の混合装置によって行った。その一つは、実験例5で使用したものと同じ構成(各種の寸法も同様)であり、1区画の混合領域を25組の障壁群で構成し(流路長を5.05mmとし)、合計4区画を直列に連結したもの(合計流路長22.5mm)としつつ、奇数番目に配置される区画と偶数番目の区画における第1および第2の障害構造物6,7を相互に反転させたものとしたものである(図18(a)参照)。もう一つは、1区画の混合領域を5組の障壁群で構成し(流路長を1.05mmとし)、合計16区画を直列に連結したもの(合計流路長24.82mm)であり、同様に奇数番目と偶数番目の区画の構成を反転させたもの(図18(b)参照)を使用した。なお、いずれの実験装置も各区画の繋ぎ目には、流路長0.5mmの平坦流路S(障害構造物を有しないストレートな構造の流路)を設けるものとし、基本的な流路寸法については実験例5のおけるものと同じとしている。
【0090】
供給する流体は、実験例2と同様に、混合状態を確認するため、蛍光試薬(フルオレセイン溶液)と純水とを混合させて観察するものとし、流路上流の二つの供給流路51,52から、それぞれ流量5μL/minにより供給し、合計流量を10μL/min(レイノルズ数(Re)=1.3)として単一流路53で混合させた。混合効率の評価についても、実験例2と同様に、観察地点における蛍光強度プロファイルの標準偏差として算出した。
【0091】
この実験の結果を図19に示す。なお、実験結果を示すグラフには、実験例2との比較のため、100組を連続した際の実験例2の結果を「1区画」の表示とともに併せて表示している。また、「4区画」とは、図18(a)に示す25組の障壁群を1区画として4区画を連結させたもの、「16区画」とは、図18(b)に示す5組の障壁群を1区画として16区画を連結させたものを、それぞれ表示するものである。
【0092】
この実験結果から明らかなとおり、25組の障壁群を1区画として4区画を連結させた混合装置の場合には、100組の障壁群を1区画とした混合装置とほぼ同様の結果を得ることができた一方、5組の障壁群を1区画として16区画を連結させた場合には、混合効率は大きく劣る結果となった。特に、25組の障壁群を4区画とする場合には、100組の障壁群を1区画とする場合よりも混合効率が80%以上となった後の変動が少ない結果となった。
【0093】
このような結果より、1区画を構成する障壁群が25組よりも少数になればなるほど、反転のタイミングが早すぎることとなるため、対称な状態に近似することとなるものと推定される。そのため、反転構造とする場合には、全体として対称に近似しない程度、概ね10組以上の障壁群、できれば初期に逆転現象を生ずる25組を境にそれ以上の障壁群を有する構成とすることが好ましい。ただし、このような障壁群の組数は、図18に例示するような形状および寸法とした場合におけるものであって、各区画を構成する障壁群の形状や寸法を個別に変化させ、または供給する流量を変化させる場合には、好適な組数は異なるものとなり得る。
【0094】
<実験例7>
次に、反転構造とする場合における好適な状態と思われる混合装置(実験例6に使用したもののうち、25組の障壁群を4区画設置した構造と同じもの)と、従来の対称構造との比較実験を行った。実験は、従来の対称構造とする混合装置として、単純周期構造(図5(a)参照および交互配置対称構造(図5(b)参照)とし、いずれも合計流路長を22.5mmとする混合領域を形成したものを使用した。比較実験であるため、他の条件は実験6と同様とした。
【0095】
上記の結果を図20に示す。この実験結果から明らかなとおり、比較のための単純周期構造および交互配置対称構造により混合領域を形成した場合には、各混合領域を通過するごとに多少の混合効率の上昇傾向がみられたものの、20mm付近に達する時点においても50%に満たない混合効率となった。なお、障害構造物6,7を設けない単なる矩形流路における混合効率についても図20中に示しているが、この場合は、最大でも10%程度の混合効率であった。
【0096】
<実験例8>
さらに、反転構造とする場合における好適な状態と思われる混合装置(実験例7と同様)について、供給される流体の流量(レイノルズ数(Re))と混合効率の関係を確認するための実験を行った。実験は、前記実験例7に使用した混合装置(25組の障壁群を4区画としたもの)とし、各種の寸法および形状も同様とした。流量を変更するため、混合する両液を毎分同量とし、合計の流量を変化させた。なお、単一流路における流量は、1μL/min(レイノルズ数(Re)=0.13)、10μL/min(レイノルズ数(Re)=1.3)および100μL/min(レイノルズ数(Re)=13)の3種類とした。その他の条件は、これまでの混合効率の測定方法と同様とした。その結果を図21に示す。なお、図21に記載の流量10μL/min(Re=1.3)のグラフは図20と少し差異を有するが、これは実験日が異なるためであり、全体としての傾向に大きく異なるものではない。
【0097】
この図21に示されるように、実験結果は、広範な流量(レイノルズ数)において、15mm付近を越える位置では、いずれも80%以上の混合効率を得ることができることを示している。また、第1区画の混合領域8a(5.05mm)の終了時点のみに着目すれば、その混合効率の上昇は流量(レイノルズ数)に関係なく好適に上昇する結果を得ることができた。さらに、高速(100μL/min(Re=13))では混合効率は低いものの中速(10μL/min(Re=1.3))以下の流量においては早期に好適な混合効率を得ることができることが判明した。なお、混合効率が90%に達するまでには、22.5mm程度(第4区画通過時点)が必要なものとなっているが、言い換えれば、22.5mm程度の流路長を確保すれば十分に効果的な混合を実現させることができることを意味する結果であるといえる。
【0098】
<小括>
以上の各実験例から次のような結論を得ることができる。混合装置を構成するための混合領域は、第1の障害構造物と第2の障害構造物とが、非対称な構成により混合効率は向上する。また、非対称の混合流路は複数を直列に設ける構成でもよいが、単純に障害構造物の設置状態を反転させる場合は、1区画を構成する障壁群の組数を適度な数以上とすることが要求される。このような各種の構成により、流量(レイノルズ数)に関係なく好適な混合効率による流体混合が可能になる。
【0099】
<その他の変形例>
本発明の実施形態および実験例は上記のとおりであるが、本発明が上記の実施形態等において説明した構成に限定されるものではない。従って、上述の実施形態等の構成について、その一部を変更し、また他の要素を追加するものであってもよい。
【0100】
例えば、前述の混合装置に係る実施形態等は、いずれも二つの供給流路51,52を有する構成としているが、これは最小数の混合を例示したものであり、三種またはそれ以上の流体を混合させる場合には、三つまたはそれ以上の供給流路を備える構成とすることができる。このような形態であっても、同様の混合領域8を構成することにより、単一流路53の両側(第1および第2の壁面21,22の近傍)を流下する流体は、相互に逆転する現象が発生する程に相互が入れ替わるのであるから、三種以上の流体であっても同様に混合させることが可能である。
【0101】
また、三種以上の流体を混合させようとする場合には、前記実施形態の単一流路53が、供給流路51,52の状態で分岐しつつ、その分岐したそれぞれの上流側において、例えば二種類の流体を混合させれば、合計四種類の流体を混合させることも可能となる。
【0102】
さらに、専ら実験例として示した障害構造物6を構成する障害構造物構成部61,・・・の間隔は150μmであり、他方の障害構造物7を構成する障害構造物構成部71,72,・・・の間隔については50μmとしたが、これは、それぞれの構成部61,71,・・・の幅寸法を50μmとしたこととのバランスによって決定したものであり、間隔と幅寸法とを不均衡な状態としてもよく、また、その他の構成部を含めて、各寸法は適宜変更することができる。
【0103】
なお、障害構造物構成部61,・・・,71,・・・の構成については、矩形に突出する構成のみを例示しているが、この形状は矩形に限定されるものではなく、適宜形状を変化させてもよい。この場合、単一流路53の中央線Xを軸に非対称とする場合の概念としては、当該障害構造物構成部の形状のみによる非対称は含まないが、流路空間A,Cの形状を適宜変更し、空間の広狭を変化させることによって非対称とするものは含まれるものである。このような流路空間A,Cの形状変更により、例えば、適宜な形状の第1の障害構造物構成部61,・・・によって、中央線Xまでの突出長により越境障壁部が形成される場合には、当該形状の障害構造物構成部によって越境障壁部として機能させてもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 マイクロ流路デバイス
2 送液部
3 主流部
4 排出路
5 混合装置
6 第1の障害構造物
7 第2の障害構造物
8,8a,8b,8c 混合領域
11 底板(基板)
12 流路構成基板
13,14 注入部
15,16 排出部
20 送液部(単一流路)の底面部
21 送液部(単一流路)の第1の壁面
22 送液部(単一流路)の第2の壁面
31 分岐流路
32 チャンバ領域部
33 反応容器
51,52 供給流路
53 単一流路
61,62,63,64 第1の障害構造物構成部(越境障壁部)
71,73,75,77 第2の障害構造物構成部(越境領域流路構成部)
72,74,76 第2の障害構造物構成部(越境流迂回部)
A,C 流路空間
B 狭幅流路
L1 第1の液体
L2 第2の液体
S 平坦流路
X 単一流路の中央線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21