(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002555
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】改変ヌクレアーゼを用いたジストロフィン遺伝子エクソンの欠失
(51)【国際特許分類】
A61K 38/46 20060101AFI20221227BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221227BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
A61K38/46 ZNA
A61K48/00
A61P21/00
A61P43/00 121
C12N15/09 100
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022154637
(22)【出願日】2022-09-28
(62)【分割の表示】P 2021014851の分割
【原出願日】2015-03-12
(31)【優先権主張番号】61/951,648
(32)【優先日】2014-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508117721
【氏名又は名称】プレシジョン バイオサイエンシズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャンツ,デレック
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ジェームス,ジェファーソン
(72)【発明者】
【氏名】ニコルソン,マイケル,ジー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に用いるための医薬を提供する。
【解決手段】第1認識配列を切断する第1ヌクレアーゼおよび第2認識配列を切断する第2ヌクレアーゼを対象の筋細胞のDNAと接触させることを含み、前記第1認識配列は、ジストロフィン遺伝子の第1エクソンの上流であり、前記第2認識配列は、ジストロフィン遺伝子の前記第1エクソンの下流であり、且つ、少なくとも1つの第2エクソンは、前記細胞のジストロフィン遺伝子から除去される、必要とする対象におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1認識配列を切断する第1ヌクレアーゼおよび第2認識配列を切断する第2ヌクレアーゼを対象の筋細胞のDNAと接触させることを含み、
前記第1認識配列は、ジストロフィン遺伝子の第1エクソンの上流であり、
前記第2認識配列は、ジストロフィン遺伝子の前記第1エクソンの下流であり、且つ、
少なくとも1つの第2エクソンは、前記細胞のジストロフィン遺伝子から除去される、必要とする対象におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療する方法。
【請求項2】
前記第1および第2ヌクレアーゼのそれぞれは、メガヌクレアーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1および第2ヌクレアーゼのそれぞれは、CRISPRである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記第1および第2ヌクレアーゼのそれぞれは、コンパクトTALENである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記第1エクソンは、エクソン44である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記第1エクソンは、エクソン45である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記第1エクソンは、エクソン51である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第1認識配列は、配列番号2~28から選択され、前記第2認識配列は、配列番号29~44から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記第1認識配列は、配列番号45~63から選択され、前記第2認識配列は、配列番号64~74から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記第1認識配列は、配列番号75~105から選択され、前記第2認識配列は、配列番号106~134から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記第1ヌクレアーゼは、配列番号135であり、前記第2ヌクレアーゼは、配列番号136である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記第1ヌクレアーゼは配列番号137であり、前記第2ヌクレアーゼは、配列番号138である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記第1および第2ヌクレアーゼをコードする遺伝子は、組み換えアデノ関連ウイルス(AAV)を用いて前記細胞に搬送される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1および第2認識部位は、前記第1および第2ヌクレアーゼにより切断される場合、同一のオーバーハングを有するように選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
第1認識部位を切断する第1ヌクレアーゼおよび第2認識部位を切断する第2ヌクレアーゼとDNAを接触させることを含み、前記第1および第2認識部位は、前記第1および第2ヌクレアーゼにより切断される場合、同一のオーバーハングを有するように選択され
る、細胞のゲノムからDNA配列を除去する方法。
【請求項16】
前記第1および第2ヌクレアーゼをコードする遺伝子は、組み換えアデノ関連ウイルス(AAV)を用いて前記細胞に搬送される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記第1および第2ヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼである、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
前記第1および第2ヌクレアーゼは、CRISPRである、請求項15または16記載の方法。
【請求項19】
前記第1および第2ヌクレアーゼは、コンパクトTALENである、請求項15または16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2014年3月12日に出願された米国仮出願61/951,648号の優先権の利益を主張し、参照をもってその全体を本願に組み込む。
【0002】
本発明は、分子生物学および組み換え核酸技術の分野に関する。特に、本発明は、改変ヌクレアーゼを用いてジストロフィン遺伝子から少なくとも1つのエクソンを除去することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフィーは稀であり、世界中の3500人の男児に対し約1人に影響を与えるX連鎖筋変性疾患である。この疾患は、最大既知遺伝子であるジストロフィン(DMD)遺伝子における突然変異により引き起こされる。DMDは、X染色体の2.2Mbに及び、また79個のエクソンから誘導された14-kb転写産物を主にコードする。骨格筋、平滑筋および心筋細胞において発現される、完全長のジストロフィンタンパク質は、3685個のアミノ酸であり、かつ427kDの分子量を有する。重度のデュシェンヌ型表現型は概して、骨格筋および心筋から完全長のジストロフィンタンパク質の損失に関連し、これは筋肉の変性を衰退し、最終的には心疾患に至る。多くの異なるDMD突然変異が記載され、重症のデュシェンヌ型筋ジストロフィーまたは穏やかなベッカー型筋ジストロフィーをもたらすその多くが記載されている。ライデン大学医療センターは、DMD遺伝子における変異のデータベースを管理している(http://www.dmd.nl)。
【0004】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療について追求されたいくつかの治療的戦略がある。まず、「遺伝子置換」戦略は、研究の活性領域である(Oshima, et al. (2009) J of the Am.Soc.of Gene Ther.17:73-80;Liu,et al.(2005)Mol.Ther.11 :245-256;Lai,et al.(2006)Hum Gene Ther.17:1036-1042;Odom et al.(2008) Mol.Ther.16:1539-1545)。このアプローチは、ウイルス搬送ベクター、典型的にはアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて患者にDMD遺伝子の機能的コピーを搬送することを含む。しかしながら、DMD遺伝子の大きなサイズは、一般的なウイルスベクターの限定された搬送能力と互換性をなくす。これは、遺伝子の反復中央部分の多くが最小限の機能性タンパク質だけを残すために除去される「マイクロジストロフィン」遺伝子の使用を必要とする。しかしながら、「マイクロジストロフィン」の発現が、臨床的利益に十分であることは明らかでない。加えて、このアプローチは、挿入変異誘発につながり得る、患者のゲノムへのランダム遺伝子の統合の可能性、および搬送ベクターに対する免疫反応への潜在性に悩まされる。
【0005】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーへの第2アプローチは、患者の筋肉繊維に健康な筋肉前駆細胞の移植を含む(Peault et al.(2007)Mol. Ther.15:867-877;Skuk,et al.(2007)Neuromuscul.Disord.17:38-46)。このアプローチは、移植された筋芽細胞の非効率な遊走および患者による免疫拒否の潜在性に悩まされる。
【0006】
第3のアプローチは、PTC124を用いたナンセンス突然変異の抑制を含む(Welch,et al.(2007)Nature 447:87-91)。しかしながら、
これは、薬剤の生涯投与を必要とし、かつ該アプローチは、十分な臨床的優位性が示されていない。
【0007】
第4およびより多くの有望な、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの潜在的な治療は、「エクソンスキッピング」とよばれる(Williams,et al.(2008)BMC Biotechnol.8:35;Jearawiriyapaisarn et al.(2008)Mol Ther.16:1624-1629;Yokota,et
al.(2007)Acta Myol.26:179-184;van Deutekom et al.(2001)Hum.Mol.Gen.10:1547-1554;Benedetti et al.(2013)FEBS J.280:4263-80;Rodino-Klapac(2013)Curr Neurol Neurosci Rep.13:332;Verhaart and Aartsma-Rus(2012)Curr Opin Neurol.25:588-96)。概して、ジストロフィン遺伝子のN-およびC-末端位は、筋肉繊維において膜を完全な状態に維持する「足場」タンパク質としての役割にとって不可欠である一方で、24個のスペクトリン様繰り返しを含む中央「ロッドドメイン」は、少なくとも部分的には必須ではない。確かに、重症なデュシェンヌ表現型は、フレームシフトおよび/または早期の終止コドンを導入し、本質的にC-末端ドメインを欠くジストロフィン、タンパク質の切断型をもたらすジストロフィン遺伝子中の突然変異と典型的に関連する。全エクソンの多くの欠失を含む中央ロッドドメインの突然変異は、タンパク質のC-末端ドメインが完全であるようにリーディングフレームを維持する場合、より穏やかなベッカー表現型を典型的にもたらす。
【0008】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、リーディングフレームシフトをもたらす、1以上の全エクソン(複数可)の欠失により最も頻発に引き起こされる。例えば、エクソン45は、デュシェンヌ患者において頻繁に欠失される。エクソン45は、3つに分割できない176bp長であるので、エクソンを欠失することは、エクソン46-79を間違ったリーディングフレームにシフトさせる。同じことが、148bp長のエクソン44にも言え得る。しかしながら、エクソン44および45が欠失したら、欠失の全サイズは、324bpとなり、3つに分割できる。こうして、両方のエクソンの欠失は、リーディングフレームシフトをもたらさない。これらのエクソンは、ジストロフィンタンパク質の非本質的ロッドドメインの一部をコードするので、タンパク質からそれらを欠失することは、穏やかなベッカー様表現型をもたらすことが期待される。こうして、1以上のエクソン(複数可)の欠失によるデュシェンヌ表現型を伴う患者は、リーディングフレームを回復するために1以上の隣接エクソンを欠失することにより潜在的に治療され得る。これは、改変されたオリゴヌクレオチドが、ジストロフィンプレmRNAにおけるスプライスアクセプター部位をブロックするために用いられる「エクソンスキッピング」に隠れた原理であり、その結果、1以上の特定のエクソンは、処理された転写産物を欠く。該アプローチは、ナンセンス突然変異を誘発する疾患をかくまうスキッピングエクソン23によるmdxマウスモデルにおけるジストロフィン遺伝子発現を回復するために用いられる(Mann, et al.(2001)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 98:42-47)。エクソン51のスキッピングを誘発するオリゴヌクレオチド類似体もまた、早期ヒト臨床試験における有望性が示されている(Benedetti et al.(2013)FEBSJ.280:4263-80)。このアプローチを伴う主な制限は、(1)エクソンスキッピングプロセスが役に立たず、比較的低レベルの機能性ジストロフィン発現をもたらす、および(2)エクソンスキッピングオリゴヌクレオチドは、比較的短い半減期であり、その結果、効果が一過性であり、繰り返しかつ生涯投与を必要とする。こうして、全エクソンスキッピングアプローチは、臨床試験においていくつかの有望性を示したが、疾患進行における改善は最小限かつ可変的である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.of the Am.Soc.of Gene Ther.17:73-80(2009)
【非特許文献2】Mol.Ther.11:245-256(2005)
【非特許文献3】Hum Gene Ther.17:1036-1042(2006)
【非特許文献4】Mol.Ther.16:1539-1545(2008)
【非特許文献5】Mol.Ther.15:867-877(2007)
【非特許文献6】Neuromuscul.Disord.17:38-46(2007)
【非特許文献7】Nature 447:87-91(2007)
【非特許文献8】BMC Biotechnol.8:35(2008)
【非特許文献9】Mol Ther.16:1624-1629(2008)
【非特許文献10】Acta Myol.26:179-184(2007)
【非特許文献11】Hum.Mol.Gen.10:1547-1554(2001)
【非特許文献12】FEBS J.280:4263-80(2013)
【非特許文献13】Curr Neurol Neurosci Rep.13:332(2013)
【非特許文献14】Curr Opin Neurol.25:588-96(2012)
【非特許文献15】Proc.Nat.Acad.Sci.USA 98:42-47(2001)
【非特許文献16】FEBSJ.280:4263-80(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、プレmRNAよりもゲノムDNAのレベルでの遺伝子発現を是正することにより、現在のエクソンスキッピングアプローチに基づき改善する。本発明は、1対の改変部位特定エンドヌクレアーゼを用いた、DMDコーディング配列から特定のエクソンの削除を含むデュシェンヌ型筋ジストロフィーの恒久的な治療である。エクソンと隣接するイントロン領域における部位を、そのような1対のエンドヌクレアーゼの標的とすることにより、ゲノムからエクソンを含む介在性フラグメントを恒久的に除去することを可能とする。得られた細胞、およびその子孫は、非本質的スペクトリン繰り返しドメインの一部が除かれるが、本質的N-およびC-末端ドメインが完全である突然変異ジストロフィンを発現するだろう。
【0011】
改変部位特定エンドヌクレアーゼを製造する方法は、本分野において既知である。例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、ゲノムにおいて決定された部位を認識および切断するように工作され得る。ZFNは、FokI制限酵素のヌクレアーゼドメインと融合するドメインと結合するジンクフィンガーDNAを含むキメラタンパク質である。ジンクフィンガードメインは、予め決められた長さ約18個の塩基対のDNA配列と結合するタンパク質を産生するための合理的または実験的手段を介して再設計され得る。FokIヌクレアーゼとこの改変タンパク質ドメインとの融合により、ゲノムレベルの特異性でDNA破壊を標的とし得る。ZFNは、真核生物の広い範囲における標的遺伝子追加、除去および置換を標的にするために幅広く用いられる(S.Durai et al.,Nucleic Acids Res 33,5978(2005)を参照)。同様に、TAL-エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、ゲノムDNAにおける特定部位を切断するために産生され得る。ZFNと同様に、TALENは、FokIヌクレアーゼドメインと融合する改変部位特定DNA結合ドメインを含む(Mak,et al.(2
013) Curr Opin Struct Biol.23:93-9を参照)。しかしながら、この場合、DNA結合ドメインは、TAL-エフェクタードメインのタンデム配列を含み、そのそれぞれは単一DNA塩基対を特異的に認識する。本発明の実施に対してZFNおよびTALENが有する制限は、それらがヘテロ二量体であるので、細胞における単一機能的ヌクレアーゼの産生が2つのタンパク質モノマーの共発現を必要とするということである。本発明は、2つのヌクレアーゼを必要とし、1つは、関連するエクソンの一方側で切断することであり、これは同じ細胞中に4つのZFNまたはTALENモノマーを共発現することを必要とする。従来の遺伝子搬送ベクターは搬送能力に制限があるので、これは遺伝子搬送における重大な挑戦を提供する。それはまた、モノマーがゲノムにおいて標的位置を認識しかつ切り離し得る意図しない二量体エンドヌクレアーゼ種を不適切に形成する「間違った二量体化」の可能性も導入する。これは、4つのモノマーのFolkヌクレアーゼドメインが意図するパートナーモノマーと優先的に二量化するように差次的に工作される直交的偏性ヘテロ二量体により潜在的に最小化され得る。
【0012】
コンパクトTALENは、二量体化の必要性を避ける代替的エンドヌクレアーゼ構造である(Beurdeley,et al.(2013)Nat Commun.4:1762)。コンパクトTALENは、I-TevIホーミングエンドヌクレアーゼからのヌクレアーゼドメインと融合された改変部位特定TAL-エフェクターDNA結合ドメインを含む。FokIと異なり、I-TevIは、二重鎖DNA破壊を産生するために二量体化を必要としないので、コンパクトTALENは、モノマーとして機能的である。こうして、本発明を実施するために同じ細胞で2つのコンパクトTALENを共発現することが可能である。
【0013】
CRISPR/Cas9系に基づく改変エンドヌクレアーゼは、公知である(Ran,et al.(2013)Nat Protoc.8:2281-2308;Mali et al.(2013)Nat Methods.10:957-63)。CRISPRエンドヌクレアーゼは、2成分(1)カスパーゼエフェクターヌクレアーゼ、典型的にはミクロバイアルCas9、および(2)ヌクレアーゼをゲノムの関連位置に向ける約20個のヌクレオチド標的配列を含む短い「ガイドRNA」を含む。それぞれが異なる標的配列を有し、同じ細胞において複数のガイドRNAを発現することにより、ゲノムにおける複数の部位において同時にDNA破壊を標的とすることが可能である。こうして、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼは、本発明に適切である。CRISPR/Cas9系の主な弱点は、ヒト患者を治療する系の有用性を制限する、その報告されたオフターゲットDNA破壊の高い頻度である(Fu,et al.(2013) Nat Biotechnol.31:822-6)。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、DNA破壊誘発剤は、改変ホーミングエンドヌクレアーゼ(「メガヌクレアーゼ」ともよばれる)である。ホーミングエンドヌクレアーゼは、植物および菌類のゲノムにおいて共通して見いだされる15~40個の塩基対切断部位を認識する一群の自然発生ヌクレアーゼである。それらは、群1セルフスプライシングイントロンおよびインテインのような寄生的DNA要素としばし関連する。それらは、細胞DNA修復機構を募る染色体において、二重鎖破壊を産生することによりホストゲノムにおける特定の位置で相同組み換えまたは遺伝子挿入を自然と促進する(Stoddard(2006), Q.Rev.Biophys.38:49-95)。ホーミングエンドヌクレアーゼは概して、4つのファミリー、LAFLIDADGファミリー、GIY-YIGファミリー、His-Cysボックスファミリー、およびHNHファミリーにグループ分けされる。これらのファミリーは、触媒活動および認識配列に影響する構造的モチーフにより特徴づけられる。例えば、LAGLIDADFファミリーのメンバーは、1または2つの保護されたLAGLIDADGモチーフのいずれかを有することにより特徴づ
けられる(Chevalier et al.(2001),Nucleic Acids Res.29(18):3757-3774を参照)。LAGAIDADGモチーフの単一コピーを備えるLAGLIDADGホーミングエンドヌクレアーゼはホモ二量体を形成し、一方でLAGLIDADGモチーフの2つのコピーを備えるメンバーはモノマーとして見いだされる。
【0015】
I-CreI(配列番号1)は、藻類コナミドリムシの葉緑体染色体における22個の塩基対認識配列を認識しかつ切断するホーミングエンドヌクレアーゼのLAGLIDAGファミリーのメンバーである。遺伝子選別技術は、野生型I-CreI切断部位プリファレンスを修飾するために用いられる(Sussman et al.(2004),J.
Mol.Biol.342:31-41;Chames et al.(2005),Nucleic Acids Res.33:el78;Seligman et al.(2002),Nucleic Acids Res.30:3870-9;Arnould et al.(2006),J.Mol.Biol.355:443-58)。より最近では、哺乳類、イースト、植物、バクテリアおよびウイルスゲノムを含む広く分岐するDNA部位を標的とするI-CreIおよび他のホーミングエンドヌクレアーゼを包括的に再設計し得るモノ-LAGLIDADGホーミングエンドヌクレアーゼを合理的に再設計する方法が開示された(国際公開WO2007/047859号公報)。
【0016】
国際公開WO2009/059195号公報に最初に記載されているように、I-CreIおよびその改変誘導体は、通常二量体であるが、第1サブユニットのC-末端と第2サブユニットのN-末端とを結合する短いペプチドリンカーを用いて単一ペプチドに融合され得る(Li,et al.(2009)Nucleic Acids Res.37:1650-62;Grizot,et al.(2009)Nucleic Acids Res.37:5405-19.)。したがって、機能性「単一鎖」メガヌクレアーゼは、単一転写から発現する。2つの異なる単鎖メガヌクレアーゼを同じ細胞にコードする遺伝子を搬送することにより、2つの異なる部位を同時に切断することが可能になる。改変メガヌクレアーゼで観察されたオフターゲット切断の極端に低い頻度と連結して、これはそれらを本発明の好ましいエンドヌクレアーゼにする。
【0017】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療のための改変メガヌクレアーゼの使用は、以前国際公開WO2011/141820号公報(‘820出願)に開示されている。この出願において、著者は、異なる3つの機構を介してDMD遺伝子における欠陥を修正するために改変メガヌクレアーゼを使用することの可能性を議論している(国際公開WO2011/141820号公報の
図1参照)。まず、著者は、AAVS1のような「セーフハーバー」遺伝子座へDMDまたはマイクロ-DMD遺伝子のトランスフェクトの複製を挿入するために、改変メガヌクレアーゼを使用すること意図し、それは内在性遺伝子発現に影響を与えること無く恒常的に発現する。第2に、著者は、メガヌクレアーゼがDMDにおける有毒な突然変異付近の部位でゲノムを切断するようになり得およびこのDNA破壊がゲノムにおける突然変異が修正されるように、ゲノムの突然変異DMDおよびトランスにおいて提供される遺伝子の健康的な複製都の間の均質組み換えを刺激し得ることを提案する。第3に、‘820出願の著者は、改変メガヌクレアーゼがDMD遺伝子にイントロンに外部DNAを挿入するようになり得およびそのようなメガヌクレアーゼが疾患を引き起こす突然変異の早期イントロン上流へジストロフィンの本質的C-末端ドメインを挿入するために用いられ得ることを提案する。重要なのは、DMD遺伝子を操作するためにメガヌクレアーゼの無数の使用を考慮することにおいて、’820出願の著者は、同じ細胞に同時に2つのメガヌクレアーゼの使用を意図しておらず、彼らは本発明においていずれのDNAの除去も提案していない。
【0018】
最後に、Ousterout et al.は、DNA破壊がTALENを用いてDM
Dコード配列に標的とされ得、破壊が変異原性非均質末端結合経路を介して頻繁に修復され、遺伝子のリーディングフレームを変化し得る小さな挿入および/または欠失(「インデル」)の導入をもたらす(Ousterout et al.(2013)Mol Ther.21:1718-26)ことを実証した。彼らは、DNA破壊をエクソンに次に即座に突然変異体に搬送しおよび細胞のいくつかの割合におけるリーディングフレームを回復するために変異原性DNA修復に頼ることにより突然変異細胞の一部においてDMD遺伝子発現を回復することの可能性を実証した。本発明とは異なり、このアプローチは、単一ヌクレアーゼを含みおよび遺伝子のコード配列に標的とされる。
【0019】
本発明は、一対の改変ヌクレアーゼ、または遺伝子エンコード改変ヌクレアーゼを、通常のリーディングフレームを回復するために2つのヌクレアーゼがDMD遺伝子の1以上のエクソンを切断するように患者の筋細胞に搬送することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療する方法である。そのように治療される細胞は、中央スペクトリン繰り返しドメインの一部がN-およびC-末端ドメインが完全であることを除き不在であるジストロフィンタンパク質の縮められた形態を発現するだろう。多くの場合、これは、疾患の重症度を穏やかなベッカー発現型に低減するだろう。
【0020】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、一対のヌクレアーゼを用いてデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療する一般的な方法を提供する。他の実施形態において、本発明は、本方法を実施するのに適した改変メガヌクレアーゼを提供する。第3実施形態において、本発明は、本方法を実施するのに適した改変コンパクトTALENを提供する。第4実施形態において、本発明は、本方法を実施するためのCRISPRを提供する。第5実施形態において、本方法は、患者の細胞に改変ヌクレアーゼを搬送するベクターおよび技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】DMD遺伝子の構造。リーディングフレームを示すために、79エクソンが描かれる。それぞれ約エクソン2-8および62-70スパンの本質的アクチン結合およびジストログリカン結合ドメインが示される。
【
図2】ヌクレアーゼの異なる種類を用いたDMD遺伝子からエクソンを欠失するための戦略。2A)一対のCRISPRを用いたエクソン欠失の戦略。関連するエクソンを並べる一対の認識部位を補足する一対の「ガイドRNA」(「gRNA」)が用いられる。この図に描かれているように、gRNAは、保護された「GG」モチーフおよびCas9DNA開裂の部位に遠位である認識配列を補足し得る。この配向において、CRISPR認識配列は、DNA開裂、ゲノムDNA介入フラグメントの切断、および染色体末端の再結合の後で大半保存される。2B)gRNAがエクソンに近位である認識配列を補填する一対のCRISPRを用いてエクソンを欠失するための代替スキーム。この配向において、CRISPR認識配列は、DNA開裂、ゲノムDNAの介入フラグメントの削除、および染色体末端の再結合の後で大半保存される。本発明はまた2Aおよび2Bに示されるスキームのハイブリッドを含み得ることが考慮される。2C)一対のコンパクトTALEN(cTALEN)を用いたエクソン欠失のための戦略。関連するエクソンを剥離する一対の認識部位と結合する一対のTALエフェクターDNA結合ドメイン(「TALE」)が用いられる。この図に示されているように、TALEは、認識され、かつI-TevI開裂ドメイン(「TevI-CD」)により切断される「CNNNG」モチーフに遠位である認識配列と結合し得る。この配向において、cTALEN認識配列は、DNA開裂、ゲノムDNAの介入フラグメントの削除、および染色体末端の再結合後に大半保存される。さらに、この図におけるcTALENは、N-からC-配向におけるTALEおよびTevI-CDドメインとともに示される。C-からN-配向におけるこれら2つのドメインとともにcTALENを生成することも可能である。2D)TALEドメインがエクソンに近位の認識配列と結合する一対のcTALENを用いてエクソンを欠失する代替スキーム。この配向において、cTALEN認識配列は、DNA開裂、ゲノムDNAの介入フラグメントの削除、および染色体末端の再結合の後で大半保存される。また、この図のcTALENは、C-からN-配向におけるTALEおよびTrevI-CDドメインとともに描かれる。本発明はまた、2Cおよび2Dに示されるスキームのハイブリッドを含み得ることが考慮される。2E)一対の単一鎖メガヌクレアーゼを用いたDMD遺伝子からエクソンを欠失する戦略。リンカーにより結合される2つのドメインタンパク質(MGN-N:N-末端ドメインおよびMGN-C:C-末端ドメイン)としてメガヌクレアーゼが示される。図において、C-末端ドメインは、エクソンに最も近い認識配列の半分との結合として描かれている。しかしながら、いくつかの実施形態において、N-末端ドメインは、認識配列のこの半分と結合し得る。認識配列の中央の4つの塩基対は、「NNNN」として示される。これら4つの塩基対は、メガヌクレアーゼによる開裂後に単一鎖3’「オーバーハング」になる。配列のこの領域を含む好ましい4つの塩基対のサブセットは、WO/2010/009147に確認される。一対のメガヌクレアーゼによるDNA開裂は、染色体末端で一対の4つの塩基対3’オーバーハングを生じる。これらのオーバーハングが相補的ならば、それらは互いにアニールし得および直接再結合され得、エクソン開裂後に染色体に保持されたままの4つの塩基対配列をもたらす。メガヌクレアーゼは、認識配列の中央付近で開裂するので、各認識配列の半分は、エクソンの開裂後に染色体において頻繁に保持され得る。各認識配列の他の半分は、エクソンと共にゲノムから除かれ得る。
【
図3】DYS-1/2およびDYS-3/4メガヌクレアーゼを用いたDMDエクソン44の削除。3A)DMDエクソン44および配列領域の配列。エクソン配列には、下線が引かれている。DYS-1/2およびDYS-3/4メガヌクレアーゼの認識部位は、太字の中央4つの塩基対(メガヌクレアーゼによる開裂後の3’オーバーハングとなる)とともにグレイで陰影されている。分析に用いるための一対のPCRプライマーのアニール部位は、イタリック体である。3B)DYS-1/2およびDYS-3/4を共発現するHEK-293細胞のアガロースゲル電気泳動分析。ゲノムDNAは、細胞から単離され、(3A)に示されるプライマーを用いてPCRにより評価される。PCR生成物は、アガロースゲルで溶解され、2つのメガヌクレアーゼを共発現するHEK-293細胞が一対のPCRバンドを生じるのに対し、野生型HEK-293細胞はより大きなバンドのみを生じるということがわかった。3C)(3B)からより小さいPCR生成物をかくまう3つのプラスミドからの配列。3つの配列は、野生型ヒト配列に配向して示される。DYS-1/2およびDYS-3/4認識配列の位置は、太字の中央4つの塩基対とともにグレイに陰影されている。
【
図4】DYS-5/6およびDYS-7/8メガヌクレアーゼを用いたDMDエクソン45の削除。4A)DMDエクソン45および配列領域の配列。エクソン配列には、下線が引かれている。DYS-5/6およびDYS-7/8メガヌクレアーゼについての認識部位は、太字の中央4つの塩基対(メガヌクレアーゼによる開裂後の3’オーバーハングとなる)とともにグレイで陰影されている。分析に用いるための一対のPCRプライマーのアニール部位は、イタリック体である。4B)DYS-5/6およびDYS-7/8を共発現するHEK-293細胞のアガロースゲル電気泳動分析。ゲノムDNAは、細胞から単離され、(4A)に示されるプライマーを用いてPCRにより評価される。PCR生成物は、アガロースゲルで溶解され、2つのメガヌクレアーゼを共発現するHEK-293細胞が一対のPCRバンドを生じるのに対し、野生型HEK-293細胞はより大きなバンドのみを生じるということがわかった。4C)(4B)からより小さいPCR生成物をかくまう16個のプラスミドからの配列。配列は、野生型ヒト配列に配向して示される。DYS-5/6およびDYS-7/8認識配列の位置は、太字の中央4つの塩基対とともにグレイに陰影されている。
【
図5】CHO細胞の受容体アッセイにおけるMDX-1/2およびMDX-13/14メガヌクレアーゼの評価。A)アッセイの図。2つのメガヌクレアーゼのそれぞれに対し、我々は、受容体カセットが細胞のゲノムに安定して統合されるCHO細胞株を生成した。受容体カセットは、5’から3’の順で、SV40早期プロモーター、GFP遺伝子の5’2/3、MDX-1/2(配列番号149)の認識部位またはMDX-13/14(配列番号150)の認識部位の一方、CHO-23/24メガヌクレアーゼ(WO/2012/167192)の認識部位、およびGFP遺伝子の3’2/3を含んだ。このカセットでトランスフェクトされる細胞は、DNA破壊誘発剤の不存在下でGFPを発現しなかった。しかしながら、DNA破壊が、メガヌクレアーゼ認識部位のいずれかで誘発される場合、GFP遺伝子の複製領域は、互いに組み替えられて機能的GFP遺伝子を産生する。次いで、GFP発現遺伝子細胞の割合は、メガヌクレアーゼによるゲノム開裂の頻度の間接的測定としてフローサイトメトリにより決定され得る。B、C)2つのCHO受容体株は、MDX-1/2(A)、MDX-13/14(B)、またはCHO-23/34(AおよびB)メガヌクレアーゼをコードするmRNAでトランスフェクトされた。1.5e6CHO細胞は、製造者の指示によるロンザヌクレオフェクター2およびプログラムU-024を用いて細胞当たり1e6のmRNAの複製でトランスフェクトされた。48時間のトランスフェクト後、細胞は、トランスフェクトされなかった(空)負対照と比較してGFP-陽性細胞の割合を決定するためにフローサイトメトリにより評価された。アッセイは、3回行われおよび標準偏差が示される。MDX-1/2およびMDX-13/14メガヌクレアーゼは、ヌクレアーゼが細胞の意図する標的配列を効率的に認識および切断できることを示しながら、負(空)対照およびCHO-23/24正対照の両方を非常に超える頻度でそれらの各細胞株においてGFP+細胞を産生することが見出された。
【
図6】DMD遺伝子の一部が、MDX-1/2およびMDX-13/14メガヌクレアーゼでの同時トランスフェクトにより欠失される20C2C12マウス筋芽細胞クローンからの配列の配置。MDX-1/2およびMDX-13/14標的部位の位置および配列として、DMDエクソン23の位置が示される。20個の配列(配列番号153-172)のそれぞれは、参照野生型DMD配列に対して配列し、参照に対する削除は中空バーとして示される。
【
図7】pAAV-MDXプラスミドのベクターマップ。この「パッケージング」プラスミドは、Adヘルパープラスミドと共に用いられて、MDX-1/2およびMDX-13/14メガヌクレアーゼをコードする遺伝子を同時に搬送し得るAAVウイルスを産生する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.1 参照および定義
本明細書で参照される特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を構築する。本明細書で引用される、GenBankデータベース配列を含む、発行された米国特許、許可された出願、公開された外国出願、および参照文献は、それぞれが明示的かつ個別に参照をもって引用されることを示された場合、同範囲まで参照を持って本明細書に引用される。
【0023】
本明細書で使用されているように、用語「メガヌクレアーゼ」は、I-CreIから誘導されたエンドヌクレアーゼを指す。用語メガヌクレアーゼは、本明細書で使用されているように、例えば、DNA結合特異性、DNA開裂活性、DNA結合親和性、または二量体化特性に関して天然I-CreIに対して修飾されたI-CreIの改変バリアントを指す。そのようなI-CreIの修飾されたバリアントを産生する方法は本分野で知られている(例えば、国際公開WO2007/047859号公報)。メガヌクレアーゼは、野生型I-CreIの場合のように、ホモ二量体として二重鎖DNAと結合し得、またはヘテロ二量体としてDNAに結合し得る。メガヌクレアーゼは、一対のI-CreIから誘導されたDNA結合ドメインが、ペプチドリンカーを用いて単一ポリペプチドに結合される「単鎖メガヌクレアーゼ」となり得る。
【0024】
本明細書で使用されているように、用語「単鎖メガヌクレアーゼ」は、リンカーにより結合した一対のメガヌクレアーゼサブユニットを含むポリペプチドである。単鎖メガヌクレアーゼは、構成:N-末端サブユニット-リンカー-C-末端サブユニットを有する。2つのメガヌクレアーゼサブユニットは、それぞれI-CreIから誘導され、アミノ酸配列において概して非同一性であり得、非同一性DNA配列を認識し得る。こうして、単鎖メガヌクレアーゼは典型的に、擬似回帰性または非回帰性認識配列を開裂する。単鎖メガヌクレアーゼは、「単鎖ヘテロ二量体」または「単鎖ヘテロ二量体メガヌクレアーゼ」として示され得るが、実際は二量体ではない。明確さのために、明示されてなければ、用語「メガヌクレアーゼ」は、二量体または単鎖メガヌクレアーゼを指し得る。
【0025】
本明細書で使用されているように、用語「コンパクトTALEN」は、任意の配向においてI-TevIホーミングエンドヌクレアーゼのいずれの部分と融合された16-22TALドメイン繰り返しを備えるDNA-結合ドメインを含むエンドヌクレアーゼを指す。
【0026】
本明細書で使用されているように、用語「CRISPR」は、Cas9のようなカスパーゼ、およびハイブタライズによりカスパーゼのDNA開裂をゲノムDNAにおける認識部位に向けるガイドRNAを含むカスパーゼ系エンドヌクレアーゼを指す。
【0027】
本明細書で使用されているように、タンパク質に関して、用語「組み換え」は、ゲノム改変技術をタンパク質をコードする核酸、およびタンパク質を発現する細胞または器官に適用した結果としての改変アミノ酸配列を有することを意味する。核酸に関して、用語「組み換え」は、ゲノム改変技術の適用の結果としての改変核酸配列を有することを意味する。遺伝子上の改変技術は、限定されないが、PCRおよびDNAクローン技術、トランスフェクション、トランスフォーメーション、および他のトランスファー技術、同相組み換え、部位特異的突然変異誘発、ならびに遺伝子融合を含む。この定義によると、自然発生タンパク質と同一であるが、異種宿主におけるクローニングおよび発現により産生されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、考慮された組み換えではない。
【0028】
本明細書で使用されているように、用語「野生型」は、メガヌクレアーゼのいずれかの自然発生形態を指す。用語「野生型」は、自然における酵素の最も一般的な対立遺伝子バリアントを意味することを意図しておらず、むしろ自然で見出されるいずれの対立遺伝子バリアントを意味する。天然型ホーミングエンドヌクレアーゼは、組み換えまたは非自然発生メガヌクレアーゼと区別される。
【0029】
本明細書で使用されているように、用語「認識配列」は、エンドヌクレアーゼにより結合および開裂されたDNA配列を指す。メガヌクレアーゼの場合、認識配列は、4つの塩基対により分離される一対の転化された9個の塩基対「半分部位」を含む。単鎖メガヌクレアーゼの場合、タンパク質のN-末端ドメインは、第1半分部位と接触し、タンパク質のC-末端ドメインは第2半分部位と接触する。メガヌクレアーゼによる開裂は、塩基対3’「オーバーハング」を産生する。「オーバーハング」または「スティッキィエンド」は、二重鎖DNA配列のエンドヌクレアーゼ開裂により産生され得る短い単鎖DNAセグメントである。I-CreIから誘導されるメガヌクレアーゼおよび単鎖メガヌクレアーゼの場合、オーバーハングは、22個の塩基対認識配列の塩基10-13を含む。コンパクトTALENの場合、認識配列は、I-TevIドメイン、次いで非特異的スペーサー長さ4-16塩基対、次いでTAL-エフェクタードメイン(この配列は5’T塩基を典型的に含む)により認識される第2配列長さ16-22bpにより認識される第1CNNNGN配列を含む。コンパクトTALENによる開裂は、2つの3’オーバーハングを産生する。CRISPRの場合、認識配列は、ガイドRNAがCas9開裂を配列に向けさせるために結合する配列であり、典型的には16-24個の塩基対である。CRISPR
による開裂は、ブラントエンドを産生する。
【0030】
本明細書に記載されているように、用語「標的部位」または「標的配列」は、メガヌクレアーゼのための認識配列を含む細胞の染色体DNAの領域を指す。
【0031】
本明細書に記載されているように、用語「相同組み換え」または「HR」は、二重鎖DNA破壊が修復鋳型として相同DNA配列を用いて修復される自然細胞プロセスを指す(Cahill et al.(2006),Front.Biosci.11:1958-1976を参照)。相同DNA配列は、細胞へ搬送される内因性染色体配列または外因性核酸であり得る。
【0032】
本明細書に記載されているように、用語「非相同末端結合」または「NHEJ」は、二重鎖DNA破壊が2つの非相同DNAセグメントの直接結合により修復される自然細胞プロセスを指す(Cahill et al.(2006),Front.Biosci.11:1958-1976)。非相同末端結合によるDNA修復は、誤りがちでしばしば修復部位でDNA配列の意図しない転化または欠失をもたらす。
【0033】
本明細書に記載されているように、用語「再連結」は、一対の二重鎖DNA破壊により産生した2つのDNA末端が、介在DNA配列の損失を伴い互いに共有結合しているが、いずれの更なるDNA配列を得ても失ってもいないプロセスを指す。単鎖オーバーハングで産生される一対のDNA破壊の場合、再連結は、相補的オーバーハングのアニーリングを介し、次いでDNAリガーゼによる5’および3’末端共有結合により促進され得る。再連結は、修復の部位からDNAの意図しない添加または削除をもたらさないNHEJとは異なる。
【0034】
本明細書に記載されているように、特に明示していない限り、単語「または」は、「および/または」の包括的意味として試用され、「一方/または」の排他的意味ではない。
【0035】
2.1 エクソン欠失の原理
本発明は、部分的に、デュシェンヌ表現型を引き起こすDMD遺伝子における特定の欠失が、更なるエクソン(単複可)を突然変異の上流または下流で即座に欠失することにより補足され得るという仮説に基づく。DMD-ライデンデータベースは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを引き起こす突然変異のほとんどが、リーディングフレームにおけるシフトを引き起こす1以上の全エクソンの欠失であることを示す。多くの場合、リーディングフレームは、突然変異前後に即座にエクソンを排除することにより回復され得る。表1に示すように、約65%の患者を表す、29個の異なるデュシェンヌ誘導突然変異体は、突然変異体に隣接する単一エクソンを欠失することにより補足され得る。例えば、患者の約7%に生じるDMDエクソン45の欠失による疾患を伴う患者は、エクソン46を欠失する治療法で治療され得る。注目すべきことに、エクソン51またはエクソン45を欠失し得る治療法は、15%および13%の患者をそれぞれ治療するために使用され得る。
【0036】
【0037】
2.2 エクソン欠失のためのヌクレアーゼ
生きている細胞のゲノムにおけるDNA破壊をするために部位特異性ヌクレアーゼを使用することが可能なことおよびそのようなDNA破壊が、突然変異誘発性NHEJ修復またはトランスフェクトDNA配列でHRを介したゲノムの恒久的改変をもたらし得ることは本分野で知られている。しかしながら、本発明は、同細胞内における一対のヌクレアーゼの共発現を含む。驚くべきことに、我々は、互いに近位のDNA部位(10,000塩基対未満離れている)を標的とされた一対のヌクレアーゼが、ゲノムからの介在DNAフラグメントを切除し得ることを発見した。また驚くべきことに、我々は、一対のヌクレアーゼを用いたDNA削除が、ヌクレアーゼにより生じた単鎖DNAオーバーハングを含む機構を介して頻繁に進行することを発見した。相補的(つまり、同一的)DNAオーバーハングを生じる一対のメガヌクレアーゼを含む実験において、オーバーハング配列が、フラグメント切除および得られた染色体末端の後に頻繁に保存されることが発見された(実施例1および2を参照)。この場合において、DNA修復の機構は、哺乳類の細胞では観察されない破壊末端の再連結を指示するように思われる。そのような正確な欠失および再連結は、非同一的オーバーハングを生じる一対のメガヌクレアーゼを用いた場合では観察されなかった(実施例3を参照)。したがって、好ましい実施形態において、DMDエクソン切除のために使用される一対のヌクレアーゼは、補足的オーバーハングを生じるために選択される。
【0038】
エクソンを効率的に切除するために、一対のヌクレアーゼ切除部位は、比較的互いに近いことが必要とされる。概して、2つの部位が互いにより近いほど、プロセスがより効率的になろう。したがって、本発明の好ましい実施形態は、10,000、より好ましくは5,000、さらに好ましくは2,500、最も好ましくは1,500未満の塩基対離れた配列を切除する一対のヌクレアーゼを使用する。
【0039】
図2に示すように、異なる種類の多様なヌクレアーゼは、本発明の実施に有用である。
図2Aおよび2Bは、どのようにして本発明が一対のCRISPRヌクレアーゼを用いて実施され得るかの実施例を示す。この場合、本発明は、3つの遺伝子を細胞に搬送するこ
とにより実施され得る:Cas9タンパク質をコードする1つの遺伝子および2つのガイドRNAのそれぞれをコードする1つの遺伝子。最終生成物が概して配列においてさらなる挿入および/または欠失(「インデル」)突然変異体を有するように、CRISPRは、正確に概して再連結しないブラントエンドを残すためにDNAを切除する。代替的実施形態において、Ran,et al.(2013)Cell.154:1380-9に報告されるように「CRISPRニッカーゼ」が用いられ得る。この実施形態を実施するために、細胞における4つのガイドRNAを発現することが必要であり、その2つはエクソンの配列上流に対して補足的であり、その2つはエクソンの配列下流に補足的である。この実施形態において、2対のガイドRNAは、標的領域における補足的鎖とハイブタライズし、一対の各メンバーは、鎖の1つで単鎖DNA刻み目を生じる。結果は、本発明を実施するために有利な単鎖オーバーハングを生じるために互いからオフセットされ得る一対の刻み目(二重鎖破壊と等しい)である。予め決められたDNA部位を認識するCRISPRおよびCRISPRニッカーゼを産生する方法は、例えば、Ran,et al.(2013)Nat Protoc.8:2281-308のように本分野で知られている。
【0040】
代替的実施形態において、
図2Cおよび
図2Dに図示するように、ヌクレアーゼ対は、コンパクトTALENであり得る。コンパクトTALENは、N-またはC-末端で、少なくとも1-96残基を含む、好ましくはI-TevIの1-182残基を含む、I-TevIからの開裂ドメインと融合するTAL-エフェクターDNA結合ドメイン(TALE)を有する。I-TevI開裂ドメインは、5’-CNbNNtG-3’形態のDNA配列を認識し切除し、ここで、「b」は、下鎖の開裂部位を表し、「t」は、上鎖の開裂部位を表し、「N」は、4つの塩基のいずれかである。したがって、コンパクトTALENは、2つの塩基対3’オーバーハングを産生するために開裂する。好ましい実施形態において、エクソン切除のために使用されるコンパクトTALEN対は、直接再連結し得る補足的オーバーハングを有するように選択される。予め決められたDNA部位に結合するTALEドメインを産生する方法は、例えば、Reyon et al.(2012)Nat Biotechnol.30:460-5のように本分野で知られている。
【0041】
好ましい実施形態において、
図2Eに示すように、本発明を実施するために使用されるヌクレアーゼは、一対の単鎖メガヌクレアーゼである。単鎖メガヌクレアーゼは、リンカーペプチドにより結合されたN-末端およびC-末端を有する。2つのドメインのそれぞれは、認識配列の半分を認識しおよびDNA開裂の部位は2つのサブユニットの界面付近の認識配列の中央である。DNA鎖破壊は、メガヌクレアーゼによるDNA開裂が一対の4つの塩基対、3’単鎖オーバーハングを産生するように一対の4つの塩基対によりオフセットされる。好ましい実施形態において、実施例1および2のように、補足的オーバーハングで認識配列をカットする単鎖メガヌクレアーゼが選択される。DMDエクソン44、45および51個の典型的認識配列が表2~7に挙げられる。例えばエクソン44を削除するために、認識配列をカットする第1メガヌクレアーゼは、エクソン44の認識配列上流を挙げている表2から選択され得る。認識配列をカットする第2メガヌクレアーゼは、エクソン44の認識配列下流を挙げている表3から選択され得る。したがって、小さい細胞の2つのメガヌクレアーゼの共発現は、エクソン44を削除する。好ましくは、補足的単鎖オーバーハングを残すためにDNAをカットするメガヌクレアーゼが選択される。例えば、配列番号19がメガヌクレアーゼによりカットされる場合、オーバーハング配列5’-GTAC-3’を残す。同様に、配列番号42がメガヌクレアーゼによりカットされる場合、オーバーハング配列5’-GTAC-3’を残す。こうして、配列番号42を開裂する第2メガヌクレアーゼと配列番号19を開裂する第1メガヌクレアーゼを共発現することは、ヒト細胞のゲノムからDMDエクソン44を削除し得、その結果、直接的な再連結を介して修復され得る補足的オーバーハングが産生される。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
2.3 ヌクレアーゼの搬送および発現方法
本発明を用いたデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療は、一対のヌクレアーゼが筋細胞で発現されることを必要とする。ヌクレアーゼは、精製されたタンパク質またはヌクレアーゼをコードするRNAもしくはDNAとして搬送され得る。1つの実施形態において、ヌクレアーゼタンパク質またはmRNAまたはヌクレアーゼをコードするベクターは、筋肉内注射(Maltzahn,et al.(2012)Proc Natl Acad Sci USA.109:20614-9)またはハイドロダイナミック注射(Taniyama et al.(2012)Curr Top Med Chem.12:1630-7;Hegge,et al.(2010)Hum Gene Ther.21 :829-42)を介して筋細胞に供給される。細胞内への取り込みを容易にするために、タンパク質または核酸(複数可)は、筋細胞による取り込みを容易にするために、細胞貫通ペプチドと連結し得る。本分野で知られている細胞貫通ペプチドの例は、ポリアルギニン(Jearawiriyapaisarn,et al.(2008)Mol
Ther.16:1624-9)、HIVウイルスからのTATペプチド(Hudecz
et al.(2005),Med.Res.Rev.25:679-736)、MPG((Simeoni,et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:2717-2724)、Pep-1(Deshayes et al.(2004)Biochemistry 43:7698-7706)およびHSV-1 VP-22(Deshayes et al.(2005)Cell Mol Life Sci.62:1839-49)を含む。代わりに、細胞貫通は、リポソームカプセル化により容易になし得る(例えば、Lipofectamine(商標),Life Technologies Corp.,Carlsbad,CAを参照)。リポソーム製剤は、標的細胞との脂質二層融合を容易にするために用いられ得、それによりその表面に関連するリポソームまたはタンパク質の内容物を細胞に運ぶことを可能にする。
【0049】
いくつかの実施形態において、一対のヌクレアーゼをコードする遺伝子は、ウイルスベクターを用いて搬送される。このようなベクターは、本分野で知られ、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターおよびアデノ関連ウイルス(AAV)を含む(Vannucci,et al.(2013 New Microbiol.36:1-22)にレビューされている)。いくつかの実施形態において、ウイルスは直接筋組織に注入される。代わりの実施形態において、ウイルスベクターは、全身に搬送される。実施例3は、筋肉に一対の単鎖メガヌクレアーゼをコードする組み換えAAVウイルスが注射される好ましい実施形態を示す。異なるAAVベクターが異なる組織に局所的に制限する傾向があることは本分野で知られている。筋肉向性AAVセロタイプは、AAV1、AAV9およびAAV2.5(Bowles,et al.(2012)Mol Ther.20:443-55)を含む。したがって、これらのセロタイプは、筋組織へのヌクレアーゼの搬送にとって好ましい。
【0050】
DNA形態(例えば、プラスミド)および/またはウイルスベクター(例えば、AAV)を介してヌクレアーゼ遺伝子を搬送するる場合、それらはプロモーターと操作可能に結合されなければならない。いくつかの実施形態において、これは、ウイルスベクターからの内因性プロモーター(例えば、レンチウイルスベクター)またはよく知られたサイトメガロウイルス若しくはSV40ウイルス早期プロモーター等のウイルスプロモーターであり得る。好ましい実施形態において、ヌクレアーゼ遺伝子は、筋細胞の遺伝子発現を優先的に誘導するプロモーターと操作可能に連結される。筋特定プロモーターの例は、C5-12(Liu,et al.(2004)Hum Gene Ther.15:783-92)、筋特定クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター(Yuasa,et al.(2002)Gene Ther.9:1576-88)、または潤滑筋肉22(SM22)プロモーター(Haase,et al.(2013)BMC Biotechnol.13:49-54)を含む。いくつかの実施形態において、ヌクレアーゼ遺伝子は、2つの分離したプロモーターの制御下にある。代わりの実施形態において、遺伝子は、単鎖プロモーターの制御下にあり、内部リポソームエントリー部位(IRES)または2Aペプチド配列(Szymczak and Vignali(2005)Expert Opin Biol Ther.5:627-38)により分離される。
【0051】
単一治療により、患者細胞の割合からエクソンを恒久的に欠失することが想像される。好ましい実施形態において、これらの細胞は、機能的(または半機能的)ジストロフィンを発現する全筋線維を複製しおよび全筋線維の元となり得る筋芽細胞または他の筋前駆細胞であり得る。しかしながら、エクソン欠失の頻度が低い場合、各患者で複数回の筋肉内注射のような複数の治療を行うことが必要であり得る。
【実施例0052】
本発明は、以下の実施例によりさらに説明されるが、限定として解釈するべきではない
。当業者は、わずかな定例の実験を用いて、本明細書に記載の特定物質および手順との多くの同等物を認識しまたは確認することができよう。このような同等物は、以下の実施例を支持する請求項の範囲に包含されることを意図する。
【0053】
実施例1;一対の改変単鎖メガヌクレアーゼを用いたDMDエクソン44の欠失
1.配列番号19および配列番号42を認識するメガヌクレアーゼ
配列番号19を認識し開裂する改変メガヌクレアーゼ(配列番号135)を調製した。このメガヌクレアーゼは、「DYS-1/2」とよばれる。配列番号42を認識し開裂する第2改変メガヌクレアーゼ(配列番号136)を調製した。このメガヌクレアーゼは、「DYS-3/4」(
図3A)とよばれる。各メガヌクレアーゼは、SV40から誘導されるN-末端ヌクレアーゼ局所化シグナル、第1メガヌクレアーゼサブユニット、リンカー配列、および第2メガヌクレアーゼサブユニットを含む。
【0054】
2.HEK-293細胞のDMDエクソン44の欠失
ヒト胎児由来腎臓(HEK-293)細胞は、DYS-1/2およびDYS-3/4をコードするmRNAで共トランスフェクトされた。mRNAは、インビトロ転写反応(配列番号139および配列番号140)用のPCR鋳型を最初に産生することにより調製した。各PCR産物は、T7プロモーターおよびメガヌクレアーゼ遺伝子のベクター配列下流の609bpを含んだ。単一鋳型を確保するために、PCR産物をゲル精製した。キャップ(m7G)RNAは、製造者の指示によりRiboMAXT7キット(Promega)を用いて調製した。Ribom7Gキャップ類似体(prmega)が反応中に含まれ、0.5μgの精製されたメガヌクレアーゼPCR産物がDNA鋳型として働いた。キャップRNAは、製造者の指示によりSV Total RNA Isolation System(Promega)を用いて精製された。
【0055】
1.5×10
6HEK-293細胞が、製造者の指示によりAmaxa Nucleofector II装置(Lonza)を用いて、DYS-1/2mRNAの1.5×10
12コピーおよびDYS-3/4mRNAの1.5×10
12コピー(2×10
6コピー/細胞)でヌクレオフェクトされた。48時間後のトランスフェクションで、製造者の指示によりFlexiGeneキット(Qiagen)を用いて、ゲノムDNAが細胞から単離された。次いで、ゲノムDNAは、DYS-1/2およびDYS-3/4切断部位(配列番号141および配列番号142)を並べるプライマーを用いてPCRを受けさせた。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分離したところ、DYS-1/2およびDYS-3/4を共発現する細胞が1079塩基対および233塩基対の明白な長さを備える2つのPCR産物を産出したのに対し、トランスフェクトされていないHEK-293細胞からのゲノムDNAは、より大きな生成物だけ産出したことは明らかである(
図3B)。より大きな生成物は、完全なDMDエクソン44を備える細胞からのPCRフラグメントの予測された大きさと一致する。より小さな生成物は、エクソン44がDMD遺伝子から削除された細胞からのPCRフラグメントの予測された大きさと一致する。
【0056】
より小さなPCR産物をゲルから単離し、配列分析用のバクテリアプラスミド(pUC-19)にクローンした。3つのプラスミドクローンがシーケンスされ、その全てがエクソン44を欠失していることが見出された(
図3C)。驚くべきことに、3つのプラスミドのうちの2つは、欠失が正確に、予期されたDYS-1/2およびDYS-3/4誘発DNA破壊を介入する領域からなる細胞からPCR産物を運んだ。2つのメガヌクレアーゼが、それらの意図する認識部位を開裂し、互換性ある5’-GTAC-3’オーバーハングを残し、エクソン44を含む介在フラグメントが失われ、次いで2つの染色体末端が再連結されたようである。第3のプラスミドクローンは、2つの開裂部位に介在する領域が10つの更なる塩基に沿って削除される細胞からPCR産物を運んだ。
【0057】
3.結論
我々は、培養した細胞株のヒトゲノムからフラグメントを削除するために一対の改変単鎖メガヌクレアーゼを用いることが可能であることを実証した。DNA除去および修復プロセスは、オーバーハングが互いに補足的かつアニール可能である場合、ヌクレアーゼにより形成される3’オーバーハングを含む機構を介して促進されるようであり、プロセスがより効果的であることを示唆する。
【0058】
実施例2;一対の改変単鎖メガヌクレアーゼを用いたDMDエクソン45の欠失
1.配列番号62および配列番号74を認識するメガヌクレアーゼ
配列番号62を認識し開裂する改変メガヌクレアーゼ(配列番号137)を調製した。このメガヌクレアーゼは、「DYS-5/6」と呼ばれる。配列番号74を認識し開裂する第2改変メガヌクレアーゼ(配列番号138)を調製した。このメガヌクレアーゼは、「DYS-7/8」と呼ばれる(
図4A)。各メガヌクレアーゼは、SV40由来のN-末端ヌクレアーゼ局所化シグナル、第1メガヌクレアーゼサブユニット、リンカー配列および第2メガヌクレアーゼサブユニットを含む。
【0059】
2.HEK-293細胞におけるDMDエクソン45の欠失
ヒト胎児由来腎臓(HEK-293)細胞を、DYS-5/6およびDYS-7/8をコードするmRNAで同時トランスフェクトした。mRNAは、インビトロ転写反応(配列番号143(20)および配列番号144(21))のためのPCR鋳型を最初に産生することにより調製した。各PCR産物は、メガヌクレアーゼ遺伝子のベクター配列下流の609bpおよびT7プロモーターを含有した。単一鋳型を保証するために、PCR産物をゲル精製した。キャップ(m7G)RNAは、製造者の指示によりRiboMAXT7キット(Promega)を用いて産生された。Ribom7Gキャップ類似体(prmega)が反応中に含まれ、0.5μgの精製されたメガヌクレアーゼPCR産物がDNA鋳型として働いた。キャップRNAは、製造者の指示によりSVトータルRNAアイソレーションシステム(Promega)を用いて精製された。
【0060】
製造者の指示によりAmexa Nucleofector II装置(Lonza)を用いて、1.5×10
6HEK-293細胞をDYS-5/6mRNAの1.5×10
12コピーおよびDYS-7/8mRNAの1.5×10
12コピー(2×10
6コピー/細胞)でヌクレオフェクトした。48時間後のトランスフェクションで、製造者の指示によりFlexiGeneキット(Qiagen)を用いて、ゲノムDNAを細胞から単離した。次いでゲノムDNAは、DYS-5/6およびDYS-7/8切断部位(配列番号145および配列番号146)を並べるプライマーを用いてPCRを受けさせた。PCR産物をアガロースゲル電気泳動により分離したところ、DYS-5/6およびDYS-7/8を共発現する細胞は、1384塩基対および161塩基対の明白な長さを備える2つのPCR産物を産出したのに対し、トラスフェクトされていないHEK-293細胞からのゲノムDNAは、より大きな生成物だけ産出したことは明らかであった(
図4B)。より大きな生成物は、完全なDMDエクソン45を備える細胞からのPCRフラグメントの予期されたサイズと一致する。より小さな生成物は、エクソン45がDMD遺伝子から削除された細胞からのPCRフラグメントの予期された大きさと一致する。
【0061】
より小さなPCR産物をゲルから単離し、配列分析用のバクテリアプラスミド(pUC-19)にクローンした。16個のプラスミドクローンがシークエンスされ、その全てが、エクソン45を欠失していることがわかった(
図4C)。驚くべきことに、16個のプラスミドのうち14個が、欠失が正確に、予期されたDYS-5/6およびDYS-7/8誘発DNA破壊を介入する領域からなる細胞からPCR産物を運んだ。2つのメガヌクレアーゼが、それらの意図する認識部位を開裂し、互換性ある5’-GTAC-3’オーバーハングを残し、エクソン45を含む介在フラグメントが失われ、次いで2つの染色体
末端が再連結されたようである。2つの残ったプラスミドクローンは、2つの開裂部位に介在する領域が36個の更なる塩基に沿って削除される細胞からのPCR産物を運んだ。
【0062】
3.結論
我々は、培養した細胞株のヒトゲノムからのフラグメントを削除するために、一対の改変単鎖メガヌクレアーゼを使用することができることを実証した。DNA削除および修復プロセスは、ヌクレアーゼにより産生された3’オーバーハングを含む機構を介して促進されるようであり、オーバーハングが互いに相補的かつアニールできる場合、プロセスがより効率的になることを示唆する。
【0063】
実施例3;AAV搬送メガヌクレアーゼを用いたマウスにおけるDMDエクソン23の欠失
1.マウスDMDエクソン23を欠失するヌクレアーゼの開発
DMDの標準マウスモデルはmdxマウスであり、該マウスは、未成熟終止コドンを導入するエクソン23におけるポイント突然変異を有する(Sicinski et al.(1989)Science.244:1578-80)。マウスにおいて、DMDエクソン23は、213個の塩基対であり、71個のアミノ酸と等価である。こうして、我々は、エクソン23全体を欠失し、それによりDMD遺伝子のリーディングフレームを維持しつつ停止コドンを削除することは可能であると推論した。最後に、我々は、「MDX-1/2」(配列番号147)および「MDX-13/14」(配列番号148)とよばれる一対の単鎖メガヌクレアーゼを開発した。前者は、マウスDMDエクソン23(配列番号149)のDNA配列上流を認識するが、後者はマウスDMDエクソン23(配列番号150)のDNA配列下流を認識する。まず、
図5に示すように、CHO細胞において「iGFFP」と呼ばれる受容体アッセイを用いてヌクレアーゼを試験した。このアッセイを用いて、両方のヌクレアーゼは、それらの意図するDNA部位を効率的にカットすることが見出された。
【0064】
2.マウス筋芽細胞におけるマウスDMDエクソン23の欠失
マウス発芽細胞株(C2C12)を、MDX-1/2およびMDX-13/14ヌクレアーゼをコードするインビトロ転写mRNAで同時トランスフェクトした。mRNAは、PromegaからのRiboMAXT7キットを用いて調製した。1e6C2C12細胞を、Amaxa2b装置およびB-032プログラムを用いて各MDX酵素対(各mRNAの1e6コピー)をコードするmRNAの全2e6コピー/細胞でヌクレオフェクトした。96時間後、細胞は96個のウェルプレートにおいて希釈を制限してクローンされた。およそ2週間の成長後、細胞を回収し、QiagenからのFlexiGeneキットを用いてゲノムDNAを単離した。次いで、PCR産物は、DMDイントロン22(配列番号151)における前プライマーおよびイントロン23(配列番号152)における逆プライマーを用いて各クローンについて産生された。次いで、60個のPCR産物をクローンして配列決定した。20個の配列は、DMD遺伝子のメガヌクレアーゼ開裂その後の突然変異DNA修復と一致する欠失である(
図6、配列番号153-172)。11個の配列は、エクソン23(配列番号153-163)と同様にMDX-1/2およびMDX-13/14認識部位の少なくとも一部を失っていた。これらの配列は、両方のヌクレアーゼがそれらの意図する部位をカットしかつ介入配列が欠失される細胞から誘導されそうであった。4個の配列は、エクソン23を失っていたが、完全なMDX-1/2認識配列(配列番号164-167)を有した。これらは、MDX-13/14単独によるDNA開裂その後の多くの配列の欠失に起因するようである。5個の配列は、完全なMDX-1/2認識部位およびエクソン23の全てまたは一部を有するが、MDX-13/14認識部位(配列番号168-172)の全てまたは一部を失っていた。これらの配列は、MDX-13/14単独によるDNA開裂その後のエクソン23のすべてを除去するのに不十分なより小さな量の配列の欠失によるようである。実施例1および2における実験とは
全く対照的に、我々は、マウス細胞におけるDMDエクソン23の欠失後の一貫したDNA配列を得られなかった。これは、2つのMDXメガヌクレアーゼが、互換性ある3’オーバーハングでのDNA破壊を生じないからのようである。MDX-1/2は、配列5’-GTGA-3’を備えるオーバーハングを産生し、MDX-13/14は、配列5’-ACAC-3’を備えるオーバーハングを産生する。こうして、我々は、実施例1および2において得られた一貫した配列結果が、一対のメガヌクレアーゼにより産生された3’オーバーハングの互換性によると結論を下す。
【0065】
3.一対の改変ヌクレアーゼの搬送のための組み換えAAVベクターの産生
MDX-1/2およびMDX-13/14遺伝子を同時搬送するためのAAVベクターを調製するために、我々は最初に、それぞれCMV早期プロモーターの制御下にある、MDX-1/2およびMDX13/14メガヌクレアーゼのための配列をコードする遺伝子と同様に、AAV2からの一対の末端逆位配列(ITR)を含む「pAAV-MDX」(
図7、配列番号173)とよばれる「パッケージング」プラスミドを調製した。このベクターは、Xiaoらの方法によるAdヘルパープラスミドでのHEK-293細胞の同時トランスフェクションにより組み換えAAV2ウイルスを産生するために用いられた(Xiao,et al.(1998)J.Virology 72:2224-2232)。次いで、ウイルスは、GriegerおよびSamulski(Grieger and Samulski(2012)Methods Enzymol 507:229-254)によって説明されたように、塩化セシウム勾配遠心によって単離された。得られたウイルス粒子が伝染性でかつ両方の改変メガヌクレアーゼを発現し得ることを確認するために、それらをMDX-1/2またはMDX-13/14の一方のための受容体カセットを運ぶ培養されたiGFFP CHOに加えた(
図5A参照)。MDX-1/2のための受容体を運ぶCHO株へのウイルスへの添加は、10.2%の細胞においてGFP遺伝子発現をもたらした。こうして、我々は、ウイルスがCHO細胞を変換し得、変換された細胞が両方のヌクレアーゼを発現したという結論を下す。
【0066】
4.一対のメガヌクレアーゼ遺伝子のAAV搬送後のマウス筋肉におけるDMDエクソン23の欠失
MDX-1/2およびMDX-13/14遺伝子を運ぶ組み換えAAV1ウイルス粒子を、上記のように調製した。Xiaoらに記載されているように、一対のmdxマウスの3つの後脚TA筋肉にウイルスを注入した(Xiao,et al.(1998)J.Virology 72:2224-2232)。1つのマウスからの1つの筋肉は、陰性対照として注入しなかった。2つのマウスからの筋肉が、注入後4日または7日目で回収され、ゲノムDNAを筋組織から単離した。DMDエクソン23を囲むゲノム領域は、第1プライマー対(配列番号151および配列番号152)を用いて、PCRにより増幅された。次いで、この反応は、非特定PCR産物を除去するために、「入れ子状態の」(nested)プライマー対(配列番号174および配列番号175)を用いて第2PCR反応を鋳型にするために用いられた。次いで、PCR産物は、アガロースゲルで視覚化され、未注入対照筋肉ではない3つのAAV1注入された筋肉からのゲノムDNAが、MDX-12およびMDX-13/14メガヌクレアーゼによるDMDエクソン23の欠失後の予測された生成物の大きさと一致するより小さなPCR生成物を産出した。次いで、より小さなPCR生成物をクローンし、配列決定した。3つの特異な配列が得られ、それぞれがイントロン22およびイントロン23の一部を含むがエクソン23を欠くマウスDMD遺伝子の一部およびMDX-1/2およびMDX-13/14メガヌクレアーゼ(配列番号176-178)のためのカット部位に介在配列すべてから構成される。こうして、我々は、AAVにより搬送された一対のメガヌクレアーゼが、マウス筋肉からのインビボDMD遺伝子の一部を欠失するために使用され得るという結論を下した。
【0067】
5.結論
我々は、組み換えAAVベクターを用いて、一対の改変単鎖メガヌクレアーゼをコードする遺伝子を細胞および器官に搬送することができ、そのように搬送されたメガヌクレアーゼは、細胞におけるゲノムDNAを開裂し、且つゲノムからDNAのフラグメントを欠失させることができるという結論を下した。我々は更に、互換性を有するオーバーハングを産生しない一対のメガヌクレアーゼ誘発性DNA破壊が、介入する配列の除去後に規定された配列成果を生じるために再連結しないであろうという結論を下した。したがって、規定された配列成果の望ましい治療的適用のために、同一のオーバーハングを形成する一対のヌクレアーゼを用いることが好ましい。