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特開2023-25595内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025595
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6883 20180101AFI20230215BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230215BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130935
(22)【出願日】2021-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】若井 俊文
(72)【発明者】
【氏名】棗田 学
(72)【発明者】
【氏名】島田 能史
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祥二
(72)【発明者】
【氏名】井筒 浩
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 啓輔
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子を検出する方法等の提供。
【解決手段】本発明は、試料における内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子を検出する方法であって、
被検者由来の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する工程を含む、方法、を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料における内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子を検出する方法であって、
被検者由来の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する工程を含む、方法。
【請求項2】
内胚葉嚢胞が神経腸嚢胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が嚢胞由来である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
内胚葉嚢胞を有することが疑われる被検者由来の試料を検査する方法であって、
被検者由来の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する第一の工程を含み、
1)KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の存在とが、試料における悪性化した内胚葉嚢胞の存在、あるいは内胚葉嚢胞が悪性化する可能性を示し、あるいは
2)KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の不在とが、試料における良性の内胚葉嚢胞の存在を示す、
方法。
【請求項5】
第一の検出工程において、KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異が検出されたが、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異が検出されなかった試料を提供した被検者由来の別の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する第二の検出工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第三又はそれ以降の検出工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
KRASタンパク質における変異が12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換であり、
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの遺伝子の変異が以下の変異:
ARID1Aの欠失;
CDKN2Aの欠失;
CDKN2Bの欠失;
PTCH1の欠失;
TSC1の欠失;
PTENの欠失;
TP53の欠失;
FLCNの欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失;
SUFUの欠失;及び
CDKN1Bの欠失、
である、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を検出するための1又は複数のプライマーと、
以下の変異:
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を検出するための1又は複数のプライマーとを含む、プライマーセット。
【請求項9】
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を検出するための1又は複数のプローブと
以下の変異:
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を検出するための1又は複数のプローブとを含む、プローブセット。
【請求項10】
請求項8に記載のプライマーセットと、請求項9に記載のプローブセットとを含む、キット。
【請求項11】
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を含む領域のアミノ酸配列又はそれがコードする塩基配列と
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を含む領域のアミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列とから成る、内胚葉嚢胞の診断マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く、内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子の検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管嚢胞、内胚葉嚢胞、腸嚢胞、呼吸器嚢胞又は気管支原性嚢胞としても知られる神経腸嚢胞(Neurenteric cyst)は、高分化単層円柱線毛上皮又は粘液産生上皮からなる良性組織病理学を呈する。神経腸嚢胞は通常良性の組織病理学的所見を呈し、稀に悪性転化を示す。神経腸嚢胞のような内胚葉嚢胞の二次悪性形質転換は極めて稀であり、その機序は未だ解明されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rim et al., "Mucinous adenocarcinoma arising from a residual supratentorial neurenteric cyst and expressing mutated KRAS: a case report", Human Pathology (2016) 58, 146-151
【発明の概要】
【発明の効果】
【0004】
本発明によれば、従来良性の内胚葉嚢胞と病理学的に鑑別することが困難であった、悪性化した内胚葉嚢胞を同定することが可能になる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑みて、本発明は、内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子の検出方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子として、癌遺伝子として知られるKRAS遺伝子がある(Rim et al., " Mucinous adenocarcinoma arising from a residual supratentorial neurenteric cyst and expressing mutated KRAS: a case report", Human Pathology (2016) 58, 146-151)。
【0007】
被検者由来の試料において、KRASと、1つ以上の特定のタンパク質を検出することが、悪性化した内胚葉嚢胞に関連することを見出した。
【0008】
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]
試料における内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子を検出する方法であって、
被検者由来の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する工程を含む、方法。
[2]
内胚葉嚢胞が神経腸嚢胞である、[1]に記載の方法。
[3]
試料が嚢胞由来である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
内胚葉嚢胞を有することが疑われる被検者由来の試料を検査する方法であって、
被検者由来の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する第一の工程を含み、
1)KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の存在とが、試料における悪性化した内胚葉嚢胞の存在、あるいは内胚葉嚢胞が悪性化する可能性を示し、あるいは
2)KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の不在とが、試料における良性の内胚葉嚢胞の存在を示す、
方法。
[5]
第一の検出工程において、KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異が検出されたが、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異が検出されなかった試料を提供した被検者由来の別の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを検出する第二の検出工程を更に含む、[4]に記載の方法。
[6]
第三又はそれ以降の検出工程を更に含む、[5]に記載の方法。
[7]
KRASタンパク質における変異が12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換であり、
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの遺伝子の変異が以下の変異:
ARID1Aの欠失;
CDKN2Aの欠失;
CDKN2Bの欠失;
PTCH1の欠失;
TSC1の欠失;
PTENの欠失;
TP53の欠失;
FLCNの欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失;
SUFUの欠失;及び
CDKN1Bの欠失、
である、[4]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を検出するための1又は複数のプライマーと、
以下の変異:
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を検出するための1又は複数のプライマーとを含む、プライマーセット。
[9]
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を検出するための1又は複数のプローブと
以下の変異:
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を検出するための1又は複数のプローブとを含む、プローブセット。
[10]
[8]に記載のプライマーセットと、[9]に記載のプローブセットとを含む、キット。
[11]
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を含む領域のアミノ酸配列又はそれがコードする塩基配列と
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を含む領域のアミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列とから成る、内胚葉嚢胞の診断マーカー。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は発症時(A)、最初の再発時(B)、および2回目の再発時(C、D)の磁気共鳴画像:(A)背側から延髄を圧迫する嚢胞性病変を示すT2強調画像(黒矢印)。(B)延髄背面(白矢印)に嚢胞再増殖を示すT2強調画像。(C)のT2強調画像は、左側脳室の三角に嚢胞性成分を伴うde novo腫瘤を示す(黒い矢印)。造影後T1強調画像(白矢印)でガドリニウムにより信号強度が増強された(D)。
図2図2は1回目(A、B)及び3回目の(C-F)手術時の標本の組織病理学的特徴を示す。(A)単層又は複数層の立方上皮細胞の偽乳頭パターンを示す低倍率図。(B)悪性所見のない細胞の高倍率像。(C)細胞のパターンのない増殖。(D)緻密に配列した高色素性の非定型核をもつ領域。(E)上皮細胞膜抗原を標識した細胞。(F)細胞は通常Ki-67で標識される。(A-D)ヘマトキシリンおよびエオシン染色。(E、F)免疫学的検査。図中のバー:50μm(A、C)、17μm(B、D)、100μm(E、F)
図3図3は1回目の標本を配列決定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明の範囲は以下の実施形態に限定して解釈されない。
【0011】
(検出方法)
第一の態様において、試料における内胚葉嚢胞の悪性化に関連する遺伝子を検出する方法であって、被検者由来の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とを1又は複数回検出する工程を含む、方法が提供される。
【0012】
本明細書で使用する場合、「遺伝子」とは、所定のタンパク質、又は、リーダー配列や分泌配列を含む、そのプロタンパク質、プレプロタンパク質等のアミノ酸配列をコードするDNA領域、それらのコード領域の前後にある5’非コード配列又は3’非コード配列を含む非コードDNA領域、あるいは、それらの一部を包含する。つまり、遺伝子はエクソンに限定されず、イントロンを意味する場合もある。また、遺伝子はこれら具体的に言及したものに限定されず、転写生成物(例えばmRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA等)も遺伝子の範囲に含まれる。DNAはセルフリーDNA(cfDNA)又は血中循環腫瘍DNA(ctDNA)であってもよい。
【0013】
被検者はヒト又はその他の非ヒト哺乳類、特に非ヒト霊長類等であってもよい。試料は、健常者、あるいは悪性化した内胚葉嚢胞の悪性化を有することが疑われる被検者、例えば内胚葉嚢胞に特有の病理学的所見が認められる生体試料、例えば嚢胞性腫瘤を有する被検者に由来するもののいずれでもよい。限定することを意図するものではないが、そのような試料として、例えば生検検体等の組織検体、血液循環細胞、血清、血漿、血液、糞便、尿、痰、髄液、胸腔内液、リンパ液、細胞培養液、並びに、患者から採取されたその他の組織及び液体が挙げられる。試料は嚢胞由来であることが好ましい。試料は細胞診(穿刺吸引細胞診)や組織診、例えば針生検等の手段により採取され得る。
【0014】
内胚葉嚢胞は神経腸嚢胞であることが好ましい。
【0015】
KRASはEGFR等の受容体チロシンキナーゼの下流因子であり、その遺伝子の変異はしばしば発癌に寄与するドライバー遺伝子となりうる。
【0016】
遺伝子の検出は当業者に公知の手法により行うことができる。例えば、次世代シーケンサーなどで試料における遺伝子の有無を直接確認してもよいし、遺伝子に特異的なフォワードプライマー及びリバースプライマーを調製してPCR等の遺伝子増幅法を用い、その増幅産物の配列決定や制限酵素断片パターンの解析により遺伝子の有無を確認することもできる。これらの技術は、単独で使用してもよく、複数の技術を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
遺伝子の検出後、内胚葉嚢胞の悪性化に関連する変異が各遺伝子に存在するか否かを確認してもよい。上記遺伝子は経時的に変化することがあり、一回の検出で内胚葉嚢胞の悪性化に関連する変異が見つからなかった場合でも、定期的に上記遺伝子又はその変異の検出を行うことが好ましい。
【0018】
上記遺伝子が検出された試料において、内胚葉嚢胞の悪性化との関連が既に知られている遺伝子を更に検出することができる。また、内胚葉嚢胞の悪性化に関連している遺伝子が検出された試料は、試料における悪性化した内胚葉嚢胞の検出、被検者における内胚葉嚢胞の悪性化の診断等に使用することができる。これらの用途のために上記遺伝子が検出された試料を更に解析してもよい。
【0019】
(検査方法)
第二の態様において、内胚葉嚢胞、例えば神経腸嚢胞を有することが疑われる被検者由来の試料を検査する方法、が提供される。
【0020】
被検者の定義は上述したとおりであるが、内胚葉嚢胞を有することが疑われる被検者、例えば内胚葉嚢胞に特有の病理学的所見が認められる生体試料、例えば嚢胞性腫瘤を有する被検者であることが好ましい。試料の定義は上述したとおりである。
【0021】
検査方法では、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上が1回又は複数回検出される。
【0022】
被検者由来の試料におけるこれらの遺伝子の変異の有無により、悪性化した内胚葉嚢胞の存在、内胚葉嚢胞が悪性化する可能性、良性の内胚葉嚢胞の存在を決定することができる。一回の検出で内胚葉嚢胞の悪性化に関連する変異が見つからなかった場合でも、悪性化した内胚葉嚢胞の早期発見の観点からは定期的に上記遺伝子の検出を行うことが好ましい。
【0023】
KRASタンパク質は、変異を受けて恒常的に下流のシグナル伝達経路を活性化するようになると細胞増殖を亢進し、癌細胞の発生等をもたらす。そのような細胞増殖のシグナル伝達活性を亢進させる変異は公知であり、例えばKRASタンパク質のN末端から12番目のグリシンやN末端から13番目のグリシンの変異等、KRASタンパク質をコードする遺伝子の34番目の、35番目、37番目、38番目のグアニンの変異等が挙げられる。より具体的には、例えばG12D(g35a)、G12S(g34a)、G12C(g34t)、G12R(g34c)、G12V(g35t)、G12A(g35c)、G13D(g38a)、G13S(g37a)、G13C(g37t)、G13R(g37c)、G13V(g38t)、G13A(g38c)等が挙げられる。グリシンからアスパラギン酸への置換、G12D又はG13Dが好ましい。
【0024】
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の存在は、悪性化した内胚葉嚢胞の存在、内胚葉嚢胞が悪性化する可能性、良性の内胚葉嚢胞の存在の指標となる。
【0025】
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの遺伝子の変異であって、当該遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の例として、以下に示す塩基の欠損が挙げられる。
ARID1A Chr 1 ln.26718016_28043054del
CDKN2A Chr 9 ln.133756118_13500615del
CDKN2B Chr 9 ln.133756118_13500615del
PTCH1 Chr 9 ln.133756118_13500615del
TSC1 Chr 9 ln.138129095_133759286del
PTEN Chr 10 ln.57148002_135524247del
TP53 Chr 17 ln.21437953_501del
FLCN Chr 17 ln.21437953_501del
PTPRD Chr 9 ln.13500114_438569del
SUFU Chr 10 ln. 57148002_135524247del
CDKN1B Chr 12 ln.12028193_12871912del
【0026】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、ARID1A遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0027】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、CDKN2B遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0028】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、CDKN2B遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0029】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、PTCH1遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0030】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、TSC1遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0031】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、PTEN遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0032】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、TP53遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0033】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、FLCN遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0034】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、BAP1遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。そのような変異として、BAP1遺伝子の170位にあるフェニルアラニンの他の塩基、例えばロイシンへの置換(F170L)が知られている。
【0035】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、PTPRD遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0036】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、SUFU遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0037】
被検者由来の試料において、KRAS遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を有し、且つ、CDKN1B遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、それらの機能を低下、好ましくは喪失するような変異を有する場合、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基を欠失している場合、その試料は悪性化した内胚葉嚢胞を含む、と決定することができる。
【0038】
一態様において、内胚葉嚢胞を有することが疑われる被検者由来の試料を検査する方法は少なくとも一回、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子が検出される。
【0039】
第一の検出工程において、
1)KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子、好ましくは2以上の遺伝子、より好ましくは全ての遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下、好ましくは喪失させる変異の存在は、試料における悪性化した内胚葉嚢胞の存在、あるいは内胚葉嚢胞が悪性化する可能性を示す場合があり、あるいは
2)KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下、好ましくは喪失させる変異の不在は、試料における良性の内胚葉嚢胞の存在を示す場合がある。
【0040】
悪性化した内胚葉嚢胞の存在、内胚葉嚢胞が悪性化する可能性、良性の内胚葉嚢胞の存在を判断するためには、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの全ての遺伝子又はそれらがコードするタンパク質における上記変異を検出することが好ましい。
【0041】
好ましい態様において、KRASタンパク質における変異は12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換であり、
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの遺伝子の変異は以下の変異:
ARID1Aの欠失、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基の欠失;
CDKN2Aの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
CDKN2Bの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
PTCH1の欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TSC1の欠失、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基の欠失;
PTENの欠失、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TP53の欠失、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;
FLCNの欠失、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基の欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基の欠失;
SUFUの欠失、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;及び
CDKN1Bの欠失、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基の欠失、
である。
【0042】
第一の検出工程において、KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異が検出されたが、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異が検出されなかった場合、一定期間経過後に第二、第三又はそれ以降の検出工程を実施してもよい。
【0043】
第二の検出工程では、第一の検出工程に試料を提供した被検者由来の別の試料において、KRASと、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上とが検出される。それ以降の検出工程も同様である。
【0044】
好ましい態様において、KRASタンパク質における変異は12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換であり、
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの遺伝子の変異は以下の変異:
ARID1Aの欠失、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基の欠失;
CDKN2Aの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
CDKN2Bの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
PTCH1の欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TSC1の欠失、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基の欠失;
PTENの欠失、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TP53の欠失、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;
FLCNの欠失、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基の欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基の欠失;
SUFUの欠失、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;及び
CDKN1Bの欠失、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基の欠失、
である。
【0045】
変異の検出は当業者に公知の手法により行うことができる。例えば、次世代シーケンサーなどで直接変異を確認してもよいし、変異に特異的なフォワードプライマー及びリバースプライマーを調製してPCR等の遺伝子増幅法を用い、その増幅産物の配列決定や制限酵素断片パターンの解析により変異を検出することもできる。これらの技術は、単独で使用してもよく、複数の技術を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
より高精度の鑑別を行う観点から、良性又は悪性の内胚葉嚢胞について既に知られている他の遺伝子変異を更に検出することもできる。
【0047】
鑑別方法は、1回の検査で1種類の遺伝子変異を調べるコンパニオン検査や、多数の遺伝子変異を包括的に一括で調べる遺伝子パネル検査等のプロファイリング検査で使用することが想定される。そのため、鑑別方法はこれらの検査に必要な工程や、検査結果に基づき決定された治療薬を被検者に適用するための治療工程を含んでもよい。例えば、悪性化した内胚葉嚢胞を有すると判断された患者には、公知の治療法を採用することができる。公知の治療方法としては、特に限定されないが、例えば、患部の切除が挙げられる。
【0048】
(悪性化した内胚葉嚢胞の存在又はそのリスクの検出方法)
第三の態様において、被検者由来の試料における悪性化した内胚葉嚢胞、例えば神経腸嚢胞の存在又はそのリスクを検出する方法が提供される。
【0049】
被検者由来の試料において、KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異の存在と、ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異の存在とが、試料における悪性化した内胚葉嚢胞の存在、あるいは内胚葉嚢胞が悪性化する可能性を示す。
【0050】
好ましい態様において、KRASタンパク質における変異は12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換であり、
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bの遺伝子の変異は以下の変異:
ARID1Aの欠失、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基の欠失;
CDKN2Aの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
CDKN2Bの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
PTCH1の欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TSC1の欠失、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基の欠失;
PTENの欠失、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TP53の欠失、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;
FLCNの欠失、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基の欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基の欠失;
SUFUの欠失、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;及び
CDKN1Bの欠失、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基の欠失、
である。
【0051】
判断の精度を高める観点から、上記の変異の検出とともに、悪性化した内胚葉嚢胞に特異的な他の変異を検出してもよい。検出工程以外にも悪性化した内胚葉嚢胞の存在又はそのリスクを検出するために必要な工程を含めることができる。
【0052】
(プライマーセット)
第四の態様において、上記方法等で使用可能なプライマーセットが提供される。
【0053】
一実施形態において、プライマーセットは、
KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を検出するための1又は複数のプライマーと、
以下の変異:
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を検出するための1又は複数のプライマーとを含んでもよい。
【0054】
好ましい態様において、プライマーセットは、
KRASタンパク質の12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換と、
ARID1Aの欠失、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基の欠失;
CDKN2Aの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
CDKN2Bの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
PTCH1の欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TSC1の欠失、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基の欠失;
PTENの欠失、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TP53の欠失、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;
FLCNの欠失、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基の欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基の欠失;
SUFUの欠失、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;及び
CDKN1Bの欠失、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基の欠失、
とを検出するための1又は複数のプライマーとを含んでもよい。
【0055】
(プローブセット)
第六の態様において、上記方法等で使用可能なプローブが提供される。
【0056】
一実施形態において、プローブセットは、KRASタンパク質の増殖シグナル伝達活性を亢進させる変異を検出するための1又は複数のプローブと
以下の変異:
ARID1A、CDKN2A、CDKN2B、PTCH1、TSC1、PTEN、TP53、FLCN、BAP1、PTPRD、SUFU及びCDKN1Bから成る群から選択される少なくとも1つ以上の遺伝子の変異であって、各遺伝子又はそれがコードするタンパク質の機能を低下させる変異を検出するための1又は複数のプローブを含んでもよい。
【0057】
好ましい態様において、プローブセットは、KRASタンパク質の12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換と、
ARID1Aの欠失、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基の欠失;
CDKN2Aの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
CDKN2Bの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
PTCH1の欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TSC1の欠失、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基の欠失;
PTENの欠失、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TP53の欠失、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;
FLCNの欠失、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基の欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基の欠失;
SUFUの欠失、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;及び
CDKN1Bの欠失、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基の欠失、
とを検出するための1又は複数のプローブとを含んでもよい。
【0058】
(線維腺腫の診断マーカー)
第七の態様において、内胚葉嚢胞、例えば神経腸嚢胞の診断マーカーが提供される。
【0059】
内胚葉嚢胞の診断マーカーは、
KRASタンパク質の12位又は13位のグリシンからアスパラギン酸への置換と、
ARID1Aの欠失、例えば、1番染色体における26718016番目から28043054番目の塩基の欠失;
CDKN2Aの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
CDKN2Bの欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
PTCH1の欠失、例えば、9番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TSC1の欠失、例えば、9番染色体における138129095番目から133759286番目の塩基の欠失;
PTENの欠失、例えば、10番染色体における133756118番目から13500615番目の塩基の欠失;
TP53の欠失、例えば、17番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;
FLCNの欠失、例えば、17番染色体における21437953番目から501番目の塩基の欠失;
BAP1タンパク質の170位のフェニルアラニンからロイシンへの置換;
PTPRDの欠失、例えば、9番染色体における13500114番目から438569番目の塩基の欠失;
SUFUの欠失、例えば、10番染色体における57148002番目から135524247番目の塩基の欠失;及び
CDKN1Bの欠失、例えば、12番染色体における12028193番目から12871912番目の塩基の欠失、
を検出するものに関する。
【0060】
診断マーカーの検出は、対応する変異が反映されているDNA、cDNA、RNA、mRNA、DNA類似体、RNA類似体、アミノ酸、及び、タンパク質のいずれで行ってもよい。DNAはセルフリーDNA(cfDNA)又は血中循環腫瘍DNA(ctDNA)であってもよい。診断マーカーは、上記変異のいずれか1つ以上を含む領域のアミノ酸配列又はそれをコードする塩基配列を含んでいてもよい。
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0062】
65歳の被検者(女性)において、磁気共鳴画像法(MRI)により延髄背面に嚢胞性腫瘤が確認された(図1A)。その3ヶ月後、被検者は嚢胞性腫瘤の成長に起因する歩行障害を示した。そのため、嚢胞の部分切除及び生検を行った。初回手術後、歩行困難は回復した。しかし、初回手術から15ヶ月後に嚢胞性腫瘤の再増殖が認められた(図1B)。
【0063】
再度嚢胞の部分切除を行い、造影MRIでは2回目の手術の2年後に左側脳室三角に嚢胞成分を伴う腫瘤が認められたが(図1C、D)、延髄背面の嚢胞性腫瘤は再発していなかった。
【0064】
その後、患者は同定された腫瘤の部分切除を受けた。残存腫瘤及び組織病理学的悪性腫瘍について、全脳照射(36Gy/18Fr)に続いて強度変調放射線療法(24Gy/12Fr)を行った。
【0065】
しかし、4ヶ月後、腫瘤は再燃し、パフォーマンスステータスは次第に悪化した。3回目の手術から11ヶ月後、嚢胞性腫瘤の発症からほぼ5年後、被検者は自らの病気により死亡した。
【0066】
各手術で得られた外科的標本を10%緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。組織病理学的検査は、ヘマトキシリン及びエオシンで染色した厚さ4μmの切片により実施した。免疫組織化学染色は、上皮膜抗原(EMA)(クローンE29;Dako;1:100)、サイトケラチン(クローンCAM5.2;Becton Dickinson)、及びKi-67(クローンMIB-1;Dako;1:100)に対するモノクローナル抗体を用いて行った。結合抗体は、ペルオキシダーゼとポリマーをベースとするヒストファインシンプルステインMAX-POキット(ニチレイ)を用いて可視化した。
【0067】
初回及び2回目の外科的標本の組織病理学的分析では、胃腸粘膜に類似した、核又は細胞異型を伴わない偽重層立方上皮からなる壁が認められ(図2A、B)、標本が神経腸嚢胞を有すると判断された。3回目の外科的標本においては、細長く高色素性の核、数個の有糸分裂像、小さな壊死、およびパターンレス又はシート状の増殖パターンを有する上皮細胞の明らかな悪性初見が認められた(図2C、D)。この標本は上皮膜抗原(EMA)(図2E)及びサイトケラチンに対して免疫陽性であり、Ki-67標識率は約20%であった(図2F)。そのため、神経腸嚢胞が悪性転化したと判断した。
【0068】
3つの外科的標本を次世代シーケンサーで解析した。KRAS遺伝子(コドン12および13)のサンガー配列決定は標本全てについて行った。使用したプライマーは以下のとおりである。
5'-TGT GTG ACA TGT TCT AAT ATA GTC ACA T-3'(フ
ォワード:配列番号1)及び
5'-GGT CCT GCA CCA GTA ATA TGC-3'(リバース:配列番号2)
であった。
【0069】
全ての標本においてKRAS p.G12D変異が明らかになった(図3)。さらに、遺伝的プロファイルを、435の活性癌関連遺伝子のNGSパネルであるCANCERPLEX(登録商標)(Kew Inc.)を用いて分析した。KRAS p.G12D変異は、サンガー配列決定の結果に類似した全ての標本で検出された。3番目の標本には、ARID1A欠損、BAP1 p.F170L、CDKN1B欠損、CDKN2A欠損、CDKN2B欠損、FLCN欠損、PTCH1欠損、PTEN欠損、PTPRD欠損、SUFU欠損、TP53欠損、およびTSC1欠損の12のde novo突然変異が認められた。結果を以下の表に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
上記の結果は、KRAS突然変異が神経腸嚢胞の発生と関連し、追加の遺伝子変化が悪性形質転換に寄与することを示唆した。
図1
図2
図3
【配列表】
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