(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025614
(43)【公開日】2023-02-22
(54)【発明の名称】ワイヤレス加振装置および圧電素子の駆動回路
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20230215BHJP
B06B 1/06 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
B06B1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130981
(22)【出願日】2021-08-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】519352115
【氏名又は名称】AI-creatures合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松原 厚
(72)【発明者】
【氏名】石井 眞二
【テーマコード(参考)】
3C029
5D107
【Fターム(参考)】
3C029EE01
5D107AA13
5D107BB01
5D107CC01
5D107CD01
5D107CD03
5D107CD08
5D107DE01
5D107DE02
(57)【要約】
【課題】ワークの動剛性を測定する際に手軽に使用することが可能な加振装置を提供する。
【解決手段】ワイヤレス加振装置10は、電池1に接続され、駆動電圧が印加されると逆圧電効果により被加工物90を加振する圧電素子2と、被加工物90が加振されている間に、被加工物90から受ける力を感知する力感知部3と、感知された力を示す情報を、被加工物90の加工を制御する制御装置29へワイヤレス送信する制御部4と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池に接続され、駆動電圧が印加されると逆圧電効果により被加工物を加振する圧電素子と、
前記被加工物が加振されている間に、前記被加工物から受ける力を感知する力感知部と、
感知された前記力を示す情報を、前記被加工物の加工を制御する制御装置へワイヤレス送信する制御部と、
を備えるワイヤレス加振装置。
【請求項2】
前記圧電素子に接続された容量素子と、
前記容量素子に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を前記圧電素子へ印加するか、前記圧電素子が前記被加工物から前記力を受けることによって発生する電圧を前記容量素子へ印加するか、を切り替える切替部と、
をさらに備える、請求項1に記載のワイヤレス加振装置。
【請求項3】
前記制御部は、駆動周波数を変化させながら前記圧電素子を駆動させる、請求項1または2に記載のワイヤレス加振装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制御装置との間のワイヤレス通信の通信品質に関する情報を、前記制御装置に送信する、請求項1から3のいずれか一項に記載のワイヤレス加振装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記力を示す情報と、前記加振により生じる前記被加工物の変位に関する情報とに基づいて、前記被加工物の動剛性を算出し、
算出した前記動剛性を示す情報を、前記制御装置へワイヤレス送信する、請求項1から4のいずれか一項に記載のワイヤレス加振装置。
【請求項6】
圧電素子に接続された容量素子と、
前記容量素子に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を前記圧電素子へ印加するか、前記圧電素子が被加工物から力を受けることによって発生する電圧を前記容量素子へ印加するか、を切り替える切替部と、
を備える、圧電素子の駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの動剛性を測定する際に工作機械の主軸に取り付けて使用される加振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機等の機械部品は、NCフライス盤やマシニングセンタ等の工作機械を用いて被加工物(以下、ワークと呼ぶ)を加工することにより製造されている。工作機械を用いてワークを加工する際には、工作機械の主軸やワークに振動が発生する。振動が発生すると加工精度が低下し生産性が低下することから、工作機械を用いた製造現場においては、工作機械の主軸やワークの振動特性を測定し評価する様々な取り組みがなされている。例えば下記特許文献1には、回転工具を含む振動系における動特性(dynamic characteristics)を測定する技術が開示されている。
【0003】
また、工作機械における評価パラメータの一つとして動剛性(dynamic stiffness)がある。動剛性のうち、例えば変位および力に基づくものには機械的コンプライアンス(mechanical compliance)がある。例えば下記特許文献2には、工作機械の主軸の動剛性を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-14881号公報
【特許文献2】特開2013-188827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作機械を用いて機械部品を製造する間には、例えば荒加工や仕上げ加工等の複数の加工工程がワークに適用される。加工工程が進むにつれてワークが切除されてワークの厚さが変化すると、加工工程毎にワークの動剛性が変化してしまうという問題がある。ワークの動剛性が変化するとワークの振動特性も変化し、或る加工工程では抑制されていたワークの振動が、その後の別の加工工程では抑制されずワークに振動が発生し、ワークの加工精度が低下する。特に、例えば航空機のエンジン部品等の、薄さおよび軽さが求められる機械部品を製造する場合には、ワークの動剛性の変化は部品の加工精度および生産性に関わる重要な問題である。
【0006】
従来、動剛性を測定するには、インパルスハンマーと加速度計とを使用した衝撃試験を実施している。しかしながら、治具を用いて工作機械に設置されている加工工程を適用中のワークについて、衝撃試験を実施するために加工工程を中断してワーク上のいくつかの測定ポイントに加速度計を設置するには非常に手間がかかる。さらに、剛性が低いワークをインパルスハンマーを用いて手動で加振すると、ダブルハンマリングが発生する可能性があり、動剛性の測定結果の再現性が低下する可能性がある。これらの理由から、工作機械を用いた加工現場において、加工工程毎に衝撃試験を実施してワークの動剛性を測定し評価することは実用的ではない。上記した特許文献1および2のいずれの技術も、ワークの動剛性を測定する技術ではない。
【0007】
工作機械の加工条件には、主軸の回転速度や回転工具による切除の深さ、主軸の送り速度等がある。複数の加工工程のそれぞれにおいて、ワークの振動を抑制することができる適切な加工条件の下で加工工程をワークに適用するために、それぞれの加工工程を開始する前毎にワークの動剛性を手軽に測定することが望まれている。
【0008】
本発明は、ワークの動剛性を測定する際に手軽に使用することが可能な加振装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
電池に接続され、駆動電圧が印加されると逆圧電効果により被加工物を加振する圧電素子と、
前記被加工物が加振されている間に、前記被加工物から受ける力を感知する力感知部と、
感知された前記力を示す情報を、前記被加工物の加工を制御する制御装置へワイヤレス送信する制御部と、
を備えるワイヤレス加振装置。
(項2)
前記圧電素子に接続された容量素子と、
前記容量素子に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を前記圧電素子へ印加するか、前記圧電素子が前記被加工物から前記力を受けることによって発生する電圧を前記容量素子へ印加するか、を切り替える切替部と、
をさらに備える、項1に記載のワイヤレス加振装置。
(項3)
前記制御部は、駆動周波数を変化させながら前記圧電素子を駆動させる、項1または2に記載のワイヤレス加振装置。
(項4)
前記制御部は、前記制御装置との間のワイヤレス通信の通信品質に関する情報を、前記制御装置に送信する、項1から3のいずれか一項に記載のワイヤレス加振装置。
(項5)
前記制御部は、
前記力を示す情報と、前記加振により生じる前記被加工物の変位に関する情報とに基づいて、前記被加工物の動剛性を算出し、
算出した前記動剛性を示す情報を、前記制御装置へワイヤレス送信する、項1から4のいずれか一項に記載のワイヤレス加振装置。
(項6)
圧電素子に接続された容量素子と、
前記容量素子に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を前記圧電素子へ印加するか、前記圧電素子が被加工物から力を受けることによって発生する電圧を前記容量素子へ印加するか、を切り替える切替部と、
を備える、圧電素子の駆動回路。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ワークの動剛性を測定する際に手軽に使用することが可能な加振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤレス加振装置の模式的な構成を示す図である。
【
図2】圧電素子の電圧と容量素子の電圧との関係を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るワイヤレス加振装置が取り付けられた工作機械の構成を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るワイヤレス加振装置の外観を示す斜視図である。
【
図5】実施例1に係る圧電アクチュエータの先端変位の測定結果である。
【
図6】実施例2に係るコンプライアンスの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0013】
[装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤレス加振装置の模式的な構成を示す図である。
【0014】
一実施形態に係るワイヤレス加振装置10(以下、単に加振装置10とも呼ぶ)は、被加工物90(以下、ワーク90と呼ぶ)の動剛性を測定する際に、後述する
図3に示すNCフライス盤やマシニングセンタ等の工作機械20に取り付けて使用される。加振装置10は、電池1に接続され、駆動電圧が印加されると逆圧電効果によりワーク90を加振する圧電素子2と、ワーク90が加振されている間に、ワーク90から受ける力を感知する力感知部3と、感知された力を示す情報を、ワーク90の加工を制御する制御装置29へワイヤレス送信する制御部4と、を備える。
【0015】
電池1は加振装置10に備えられ、加振装置10が備える圧電素子2、力感知部3、および制御部4等の電気的または電子的な構成に電源電圧を供給する。好ましくは電池1は二次電池であり、加振装置10の筐体に設けられた充電コネクタ11を介して外部の充電装置28と接続して充電可能となっている。電池1には、例えば市販のリチウムイオンバッテリーを用いることができる。充電コネクタ11および充電装置28には、例えばUSB Power Delivery規格に対応した、市販のUSB-typeCコネクタおよび充電器を用いることができる。
【0016】
圧電素子2は、駆動電圧が印加されると逆圧電効果によりワーク90を加振する。圧電素子2がワーク90を加振する際の変位出力は、圧電素子2に印加される駆動電圧の波形に応じて変化する。圧電素子2は、制御部4からの駆動信号に基づいてワーク90を加振する。駆動信号は、圧電素子2の駆動電圧に関する情報を含んでいる。駆動電圧に関する情報は、駆動電圧の大きさに関する情報と、駆動電圧の波形に関する情報とを少なくとも含んでいる。例示的には、圧電素子2に印加される駆動電圧の波形は、インパルス波形、正弦波、三角波、矩形波、掃引正弦波、掃引三角波および掃引矩形波とすることができる。圧電素子2には、例えば市販の積層型の圧電アクチュエータを用いることができる。
【0017】
力感知部3は、ワーク90から受ける力(force)を感知する。力感知部3は、圧電素子2の変位軸に沿った力を感知するように配置される。本実施形態では、力感知部3において感知されたアナログ形式の力信号は、増幅器12において増幅され、図示しないアナログ-デジタル変換回路を通じてデジタル形式に変換された力を示す情報が、制御部4に入力される。力感知部3には、市販の力センサやロードセルを用いることができる。
【0018】
制御部4は、圧電素子2の駆動電圧に関する情報を含む圧電素子2の駆動信号を工作機械20の制御装置29からワイヤレス受信し、受信した駆動信号に基づいて圧電素子2を駆動させる。制御部4からの駆動信号に基づいて圧電素子2がワーク90を加振している間に、ワーク90から受ける力を力感知部3が感知する。制御部4は、力感知部3により感知された力を示す情報を、ワーク90の加工を制御する、工作機械20の制御装置29へワイヤレス送信する。
【0019】
制御部4は、圧電素子2に印加する駆動電圧の波形を制御する。例示的には、圧電素子2に印加する駆動電圧の波形は、インパルス波形、正弦波、三角波、矩形波、掃引正弦波、掃引三角波および掃引矩形波とすることができる。制御部4は、圧電素子2の駆動周波数を変化させながら圧電素子2を駆動させることができる。これにより、圧電素子2に印加する駆動電圧の波形を、例えば掃引正弦波、掃引三角波および掃引矩形波とすることができる。
【0020】
制御部4と制御装置29との間のワイヤレス通信には、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の種々の無線方式を用いることができる。制御部4は、制御装置29との間のワイヤレス通信の通信品質に関する情報を、制御装置29に送信することができる。通信品質に関する情報には、例えば、ワイヤレス通信の信号強度を表現する、RSSI (Received Signal Strength Indicator)値や、dBm(decibels relative to a milliwatt)値を用いることができる。これにより、制御装置29は、加振装置10と制御装置29との間で通信エラーが生じる可能性を事前に把握することが可能となり、制御装置29は、例えば工作機械20のオペレータに警告またはエラーを発することができる。
【0021】
制御部4には、CPUおよびメモリを備えワイヤレスのデータ通信機能を有する、例えばarduino(登録商標)シリーズ等の市販のシングルボード・コンピュータを用いることができる。
【0022】
加振装置10には、圧電素子2を駆動する駆動回路5が備えられている。駆動回路5は、圧電素子2に接続された容量素子6と、容量素子6に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を圧電素子2へ印加するか、圧電素子がワーク90から力を受けることによって発生する電圧を容量素子6へ印加するか、を切り替える切替部7と、を備える。駆動回路5は、制御部4から送信される圧電素子2の駆動信号に基づいて動作し、駆動電圧を圧電素子2に印加する。本実施形態では、駆動回路5は、切替部7に印加する電圧を制御する電圧制御部8をさらに備えている。
【0023】
容量素子6は圧電素子2の駆動電圧を供給する。容量素子6は電池1に並列に接続されており、切替部7の切り替え動作(プッシュプル動作)に応じて放電または充電される。容量素子6が放電されると、容量素子6に蓄積されている電気エネルギーによる電圧が圧電素子2へ印加され、圧電素子2が逆圧電効果によりワーク90を加振する。圧電素子2がワーク90から力を受けると、圧電効果により圧電素子2において発生する電圧が容量素子6へ印加され、容量素子6が回生的に充電される。容量素子6は、複数の容量素子が並列または直列に接続されて構成されていてもよい。容量素子6には市販の電界コンデンサを用いることができる。
【0024】
容量素子6の内部抵抗は電池1の内部抵抗よりも低いことが好ましい。容量素子6の内部抵抗は交流インピーダンスを意味する。これにより、容量素子6は、電池1が蓄える電気エネルギーよりも高い周波数の電気エネルギーを回生的に蓄積することができる。加振装置10が容量素子6を備えることにより、加振装置10はより高い周波数の電気エネルギーを回生的に蓄積することが可能となり、より高い駆動周波数(例えば約50Hz以上)で圧電素子2を駆動することが可能となる。これにより、より高い周波数での動剛性の測定に、加振装置10を用いることが可能となる。
【0025】
切替部7は、容量素子6に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を圧電素子2へ印加する動作と、圧電素子がワーク90から力を受けることによって発生する電圧を容量素子6へ印加する動作とを交互に切り替える。切替部7による切り替え動作(プッシュプル動作)の詳細については後述する。本実施形態では、切替部7は、NPNトランジスタ71とPNPトランジスタ72とを2段に接続したプッシュプル回路により構成されている。NPNトランジスタ71のエミッタおよびコレクタ間には、エミッタからコレクタに沿って順方向に整流素子73が接続されており、PNPトランジスタ72のエミッタおよびコレクタ間には、エミッタからコレクタに沿って逆方向に整流素子74が接続されている。
【0026】
電圧制御部8は、制御部4から送信される圧電素子2の駆動信号に基づいて、切替部7に印加する電圧を制御する。本実施形態では、制御部4から電圧制御部8へ送信される圧電素子2の駆動信号は、図示しないデジタル-アナログ変換回路を通じてアナログ形式に変換されて、電圧制御部8に入力される。電圧制御部8には、例えばオペアンプを用いることができる。圧電素子2の駆動電圧を制御するために、電圧制御部8(オペアンプ)には切替部7の出力ノードN1の出力がフィードバック入力されている。
【0027】
なお本実施形態では、電池1からの電源電圧は、昇圧回路13において昇圧されて駆動回路5へ供給される。例示的には、電池1の出力電圧は約5V(DC)であり、昇圧回路13の出力電圧は約100V(DC)である。電池1の出力電圧は、例えば電池1の内部において複数の内部セルを直列に接続することにより高めることができることから、昇圧回路13は任意の構成とすることができる。
【0028】
図2は、圧電素子の電圧と容量素子の電圧との関係を示す図である。図中、圧電素子2の駆動電圧(ピエゾ電圧)には符号31を付して実線で示し、容量素子6の電圧(コンデンサ電圧)には符号32を付して破線で示す。
【0029】
図1および
図2を参照して、切替部7による切り替え動作(プッシュプル動作)について説明する。
図2に示すように、圧電素子2の駆動電圧31と容量素子6の電圧32とは、切替部7の切り替え動作(プッシュプル動作)により逆位相で変化する。
図2中、符号33で示す区間は、容量素子6が放電されて、圧電素子2が逆圧電効果によりワーク90を加振している区間である。符号34で示す区間は、圧電素子2がワーク90から力を受けて、圧電効果により発生する電圧により容量素子6が回生的に充電されている区間である。
【0030】
区間33では、切替部7においてNPNトランジスタ71がオン、PNPトランジスタ72がオフとなり、切替部7のプッシュプル回路はプッシュ動作を行う。容量素子6に蓄積されている電気エネルギーによる電圧は、
図1に示すノードN2,N3、NPNトランジスタ71、ノードN4を通じて、圧電素子2へ印加される。
【0031】
区間34では、切替部7においてNPNトランジスタ71がオフ、PNPトランジスタ72がオンとなり、切替部7のプッシュプル回路はプル動作を行う。圧電素子2がワーク90から力を受けることによって発生する電圧は、
図1に示すノードN4、整流素子73、ノードN3,N2を通じて、容量素子6へ印加される。
【0032】
このように、一実施形態に係る加振装置10では、圧電素子2の逆圧電効果による動作および圧電効果による動作と、容量素子6の電気エネルギーの充放電と、切替部7のプッシュプル動作とが互いに調和して動作する。これにより、加振装置10を動作する際の電池1の電源電圧の負担は低下し、電池1の定格容量および寸法の小型化が促進される。電池1が小型化されると加振装置10の小型化および軽量化も促進される。
【0033】
なお、二次電池に関する技術の進歩により電池1の小型化および大容量化が促進されると、加振装置10はその寸法が小型化されたまま、容量素子6および切替部7を用いることなく、電池1から供給される電源電圧のみを用いて、圧電素子2を短期間で連続的に駆動することが可能となる。容量素子6および切替部7を備える駆動回路5は任意の構成である。
【0034】
[装置の使用態様]
図3は、本発明の一実施形態に係るワイヤレス加振装置が取り付けられた工作機械の構成を模式的に示す図である。
図4は、本発明の一実施形態に係るワイヤレス加振装置の外観を示す斜視図である。
図3に示すように、一実施形態に係るワイヤレス加振装置10は、被加工物90(ワーク90)の動剛性を測定する際に、NCフライス盤やマシニングセンタ等の工作機械20に取り付けて使用される。
【0035】
例示する態様の工作機械20は、互いに直交する3つの駆動軸(X軸、Y軸およびZ軸)を有する工作機械である。工作機械20は、ベッド21と、ベッド21上においてY軸方向に移動可能なコラム22と、コラム22に沿ってZ軸方向に移動可能なサドル23と、回転可能な主軸241を有してサドル23に取り付けられる主軸装置24と、主軸241の先端側に取り付けられるツールホルダ25と、ベッド21上においてX軸方向に移動可能でありワーク90を載置するテーブル26と、制御装置29とを備える。各駆動軸の制御および主軸241の制御を含む工作機械20の動作は、制御装置29により制御されている。例示する態様では、制御装置29は例えばパーソナルコンピュータであり、工作機械20と通信可能に接続されている。工作機械20がワーク90を加工する間、テーブル26上におけるワーク90の位置は治具27により固定されている。
【0036】
工作機械20がワーク90に対して加工工程を施す間、ツールホルダ25の先端には、それぞれの加工工程に応じた、例えばエンドミルやフライス等の回転工具が取り付けられている。加振装置10は、工作機械20を用いたワーク90の加工工程における一工程として、それぞれの加工工程を開始する前毎に、回転工具に替えて取り付けて使用される。例えば工作機械20がマシニングセンタである場合、加振装置10は、普段は工作機械20の図示しないツールマガジンに収納または装着されており、それぞれの加工工程を開始する前毎に、マシニングセンタの自動工具交換(Automatic Tool Changer, ATC)機能により回転工具に替えて取り付けられる。例示する態様では、加振装置10はツールホルダ25に取り付けられており、加振装置10はツールホルダ25とセットで回転工具と取り替えられる。
【0037】
制御装置29は、圧電素子2の駆動電圧に関する情報を加振装置10の制御部4へワイヤレス送信する。制御装置29は、工作機械20の各部を動作させて、加振装置10の圧電素子2をワーク90の測定ポイント91に当接させる。例示する態様では、ワーク90は円筒状の中空な部品であり、測定ポイント91はワーク90の薄い側壁である。加振装置10の制御部4は、制御装置29から送信される、圧電素子2の駆動電圧に関する情報に基づいて圧電素子2を駆動させ、ワーク90の測定ポイント91を加振する。加振装置10は、測定ポイント91を加振している間に測定ポイント91から受ける力の測定を行う。測定ポイント91の加振は、加振装置10の圧電素子2により行われ、力の測定は、加振装置10の力感知部3により行われる。
【0038】
加振装置10による力の測定が行われた後、制御装置29は、測定により得られた力を示す情報を、加振装置10の制御部4からワイヤレス受信する。一般に、圧電素子における駆動電圧と変位量との対応関係は、いわゆる圧電素子の性能特性として予め把握されている。すなわち、圧電素子2による加振により生じるワーク90の変位に関する情報は、制御装置29が加振装置10へ送信した圧電素子2の駆動電圧に関する情報に対応しており、制御装置29は、受信した力を示す情報と、加振装置10へ送信した圧電素子2の駆動電圧に関する情報とに基づいて、ワーク90の動剛性に関するデータ291を算出する。本実施形態では、ワーク90の動剛性の評価に用いる値として、変位および力から機械的コンプライアンスを算出する。
【0039】
制御装置29は、算出した動剛性に関するデータ291に基づいてワーク90の振動特性を評価する。これにより、制御装置29は、直後に適用しようとする次の加工工程に適切な、主軸241の回転速度や回転工具による切除の深さ、主軸241の送り速度等の加工条件を改めて吟味し、それぞれの加工工程を開始する直前に吟味された適切なその加工条件の下で、加工工程をワーク90に適用することができる。例えば制御装置29は、ワーク90の変位が大きくなる加振周波数を避けることが可能な工作機械20の加工条件の下で、加工工程をワーク90に適用する。これにより、加工工程が進むにつれてワーク90が切除されて、加工工程毎にワーク90の厚さが変化しても、ワーク90の加工精度の低下を抑制することができる。
【0040】
以上、本発明によると、ワークの動剛性を測定する際に手軽に使用することが可能な加振装置を提供することができる。
【0041】
一実施形態に係る加振装置10によると、加振装置10は、回転工具に替えて工作機械20の主軸241に取り付けて使用され、ワーク90の動剛性の測定は、工作機械20を用いたワーク90の加工工程における一工程として行われる。測定されたワーク90の力を示す情報は、加振装置10から制御装置29へワイヤレスで送信される。これにより、加振装置10は、それぞれの加工工程を開始する前毎に、ワーク90の動剛性を手軽に測定することが可能となる。加振装置10と制御装置29との間の通信はワイヤレス化されているから、マシニングセンタの自動工具交換機能により回転工具に替えて加振装置10を自動で取り付ける際にも、通信用のケーブルの取り回しを考慮する必要が無く、交換作業をスムーズに行うことができる。
【0042】
また、加振装置10が駆動回路5を備え、駆動回路5が容量素子6と切替部7とを備えることにより、圧電素子2の逆圧電効果による動作または圧電効果による動作に応じて、容量素子6に電気エネルギーが充放電される。これにより、圧電素子2は、電池1から供給される電源電圧に加えて、容量素子6に蓄積されている電気エネルギーによる電圧を、駆動電圧として用いることが可能となる。これにより、電池1を小型化することが可能となり加振装置10の小型化および軽量化が促進される。加振装置10の寸法が小型化されると、例えばマシニングセンタ等の工作機械20において、他の回転工具と同様にツールマガジンに加振装置10を容易に収納または装着することが可能となり、工作機械20を用いたワーク90の加工工程における一工程として、それぞれの加工工程を開始する前毎に、ワーク90の振動特性をより手軽に評価することが可能となる。
【0043】
[その他の形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0044】
上記した実施形態では、力を示す情報を加振装置10から受信した制御装置29が、ワーク90の動剛性に関するデータ291を算出しているが、動剛性に関するデータ291の算出は、制御装置29に代えて加振装置10の制御部4が行ってもよい。すなわち、制御部4が、力を示す情報と、加振により生じるワーク90の変位に関する情報とに基づいて、ワーク90の動剛性を算出し、算出した動剛性を示す情報を、制御装置29へワイヤレス送信してもよい。前述したように、圧電素子における駆動電圧と変位量との対応関係は、圧電素子の性能特性として予め把握されており、加振により生じるワーク90の変位に関する情報は、制御装置29が加振装置10へ送信した圧電素子2の駆動電圧に関する情報に対応している。
【0045】
上記した実施形態では、ワーク90の動剛性の評価に用いる値として、変位および力から機械的コンプライアンスを算出しているが、動剛性の評価に用いる値としてアパレントスティフネス(apparent stiffness)を算出し、算出したアパレントスティフネスをワーク90の動剛性の評価に用いてもよい。また、ワーク90の動剛性の評価に用いる値として、モビリティ(mobility)やイナータンス(inertance)を算出してもよい。モビリティは、変位の微分値から速度を導出し、速度および力から算出することができる。イナータンスは、速度の微分値から加速度を導出し、加速度および力から算出することができる。
【0046】
上記した実施形態では、制御部4により制御される、圧電素子2に印加する駆動電圧の波形は、インパルス波形、正弦波、三角波、矩形波、掃引正弦波、掃引三角波および掃引矩形波が例示されているが、圧電素子2に印加する駆動電圧の波形は、これら例示するものに制限されない。制御部4は、圧電素子2の駆動電圧を、任意の波形で圧電素子2に印加することができる。
【0047】
上記した実施形態では、制御装置29はパーソナルコンピュータであり、工作機械20と通信可能に接続されているが、制御装置29の態様はこれに限定されない。制御装置29は、工作機械20と別に設けられていてもよいし、工作機械20と一体化されて構成されていてもよい。例えば一般的な工作機械に設けられているコンピュータ化された数値制御装置(Numerical Control, NC)を、制御装置29として用いることができる。制御装置29は、工作機械20の動作を直接的または間接的に制御することができて、加振装置10の制御部4とワイヤレスで通信することができればよい。
【0048】
上記した実施形態では、制御装置29は、ワーク90の動剛性に関するデータ291を算出する際に、加振装置10へ送信した圧電素子2の駆動電圧に関する情報を用いているが、制御装置29は、加振装置10へ送信した駆動電圧に関する情報に代えて、圧電素子2に実際に印加されている印加電圧の実測値を用いて、データ291を算出してもよい。この場合、例えば圧電素子2に電圧検出器を設けて、圧電素子2に実際に印加されている印加電圧を実測し、圧電素子2への印加電圧の実測値を、制御部4から制御装置29へワイヤレス送信するとよい。制御部4では、印加電圧の実測値をメモリに記憶しておくとよい。
【0049】
[実施例]
以下の実施例では、本発明による加振装置の試作機を作製して性能評価を行った。作製した試作機の概要を表1に示す。
【表1】
【0050】
電池には、薄型で大容量(定格容量1.5AH)であり、内部抵抗が低い積層シート型のリチウムイオンバッテリーを使用した。使用した電池の内部抵抗は、1kHzの高周波印加時に6.5mΩであった。圧電素子には、株式会社トーキン製の積層圧電アクチュエータ「TOKIN ASL170C801」シリーズを使用した。力感知部には、スイス国キスラー(KISTLER)グループ社製の水晶圧電式力センサ「9134B」を使用した。制御部には、英国ラズベリーパイ財団による「Raspberry Pi 3 Model B+」を使用した。容量素子には、静電容量が1000μFの市販の電界コンデンサを8つ並列に接続して使用した。合成静電容量は約8000μFであった。切替部には、米国ビシェイ・シリコニクス(Vishay Siliconix)社製のN-Channel MOSFETおよびP-Channel MOSFETである、「Si7172ADP」および「Si7431DP」を使用した。
【実施例0051】
実施例1では、圧電アクチュエータが対象物に押し当てられていない状態である、無負荷時の加振における圧電アクチュエータの先端変位を測定することにより、加振変位の測定を行った。圧電アクチュエータの先端変位の測定は、三角測量型のレーザ変位計を用いて行った。測定条件として、印加電圧を50V、加振周波数を1Hz~2000Hz、加振時間を10秒、サンプリング周波数を100kHzとした。測定結果を
図5に示す。
【0052】
図5の(A)は圧電アクチュエータの先端変位の時間波形を示すグラフであり、(B)は圧電アクチュエータの先端変位のスペクトログラムである。(B)に示すスペクトログラムにおいて、パワー/周波数(dB/Hz)の比率が高く、図中に白く表示されている周波数のデータが、加振中に多く含まれている周波数成分のデータである。
【0053】
(A)に示すように、約10秒間の加振時間の間に、圧電アクチュエータの先端が約8μm変位していることが確認された。(B)において図中に白く表示されているように、約10秒間の加振の間に、周波数が約0Hz~約2000Hzまでリニアに変化して掃引されていることが確認された。
(A)~(E)のそれぞれのグラフにおいて、上段に示されている振幅と周波数との関係を表すデータについて着目する。符号61で示す濃い線のデータと、符号62で示す薄い線のデータとで、振幅がピークを示す周波数の値は概ね一致していた。このことから、本発明の加振装置の試作機による測定データは、従来の衝撃試験(ハンマリング試験)と良好な対応関係を示していることが確認された。