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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025755
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 255/00 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
C08F255/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131070
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163234
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 順子
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】江口 望
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA13
4J026AC04
4J026AC18
4J026BA10
4J026BB01
4J026DB03
4J026DB08
4J026DB15
4J026DB40
4J026FA03
4J026GA01
4J026GA02
(57)【要約】
【課題】
可塑剤を用いることなく、柔軟性および誘電特性に優れた塩化ビニル系樹脂を提供する。
【解決手段】
エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合してなる塩化ビニル系樹脂であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が20質量%以下であり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%以下である、塩化ビニル系樹脂。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合してなる塩化ビニル系樹脂であって、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が20質量%以下であり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%以下である、塩化ビニル系樹脂。
【請求項2】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が5~20質量%であり、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が5~40質量%であり、および前記塩化ビニル系モノマー由来の単位の含有量が40~90質量%である、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂。
【請求項3】
エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合する重合工程を含み、
前記重合工程において、前記ベースポリマーおよび前記塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対して、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量が20質量%以下であり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の使用量が40質量%以下である、塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程において、前記ベースポリマーおよび前記塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対して、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量が5~20質量%であり、前記ポリプロピレン系樹脂の使用量が5~40質量%であり、および前記塩化ビニル系モノマーの使用量が40~90質量%である、請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記グラフト重合を懸濁重合により行う、請求項3または4に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂に関する。より具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂を含むベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合してなる、三元系共重合体の塩化ビニル系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器の信号帯域、コンピュータのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行しているが、使用される信号の周波数が高いほど誘電損失が大きくなることが知られている。誘電損失は、電気信号を減衰させて信号の信頼性を損なうので、これを抑制するために、絶縁体には誘電特性が優れる材料を選定する必要がある。自動車においても、自動車用電線の被覆材の誘電特性が優れることが同様に求められている。
【0003】
また、車載装置の電子化等に伴い、自動車内における電気、電子配線回路の数が著しく増加している。これに伴い、電線の被覆材として、複雑な配線回路構造にも追従可能な軟質性塩化ビニル樹脂が要求されている。
このような誘電特性に優れる軟質性塩化ビニル樹脂として、特許文献1には、塩化ビニルと、可塑剤と、空孔とを含有する層を備えるケーブルが開示されている。
特許文献2には、ポリオレフィンをベースポリマーとして含む、絶縁層を備える電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-009117号公報
【特許文献2】特開2020-198240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、塩化ビニルを主成分とするシース層を発泡体とすることにより、シース層を低誘電率化させている。しかしながら、塩化ビニル(以下、「塩ビ」と略すことがある)と共に含有される可塑剤が、長期の使用に伴いブリードアウトする傾向にある。このブリードアウトした可塑剤により、層の誘電特性が悪化する傾向にある。
【0006】
そこで、可塑剤を含まずとも柔軟性を有する塩ビ系の素材(以下、「無可塑塩ビ」と略すことがある)を得るために、該無可塑塩ビに、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂などの熱可塑性エラストマーをポリマーブレンドすることで、成形体の柔軟性を高めるとともに、その誘電率を低下させることを試みたところ、誘電率の低下は十分ではなかった。おそらく、塩ビとポリプロピレン系樹脂が相溶しにくいため、成形体における分散性が悪いためと推測される。
【0007】
一方で、無可塑塩ビ中における上記熱可塑性エラストマーの分散性を改善するために、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂に塩化ビニル系モノマーを重合させたところ、前記3成分での共重合においては以下の問題が生じることが分かった。すなわち、重合に際して、塩化ビニル系モノマーの水懸濁液にエチレン-酢酸ビニル共重合体を溶解させ、さらにポリプロピレン系樹脂を加えると、水懸濁系の分散状態が著しく悪くなり、モチ状の塊が発生し、重合を行えないことが判明した。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、可塑剤を用いることなく、柔軟性および誘電特性に優れた塩化ビニル系樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を改善すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに塩化ビニル系モノマーを重合させる際に、ベースポリマーおよび塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対する上記エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂を特定の割合とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1]エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合してなる塩化ビニル系樹脂であって、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が20質量%以下であり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%以下である、塩化ビニル系樹脂。
[2]前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が5~20質量%であり、前記ポリプロピレン系樹脂の含有量が5~40質量%であり、および前記塩化ビニル系モノマー由来の単位の含有量が40~90質量%である、上記[1]に記載の塩化ビニル系樹脂。
[3]エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合する重合工程を含み、前記重合工程において、前記ベースポリマーおよび前記塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対して、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量が20質量%以下であり、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂の使用量が40質量%以下である、塩化ビニル系樹脂の製造方法。
[4]前記重合工程において、前記ベースポリマーおよび前記塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対して、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量が5~20質量%であり、前記ポリプロピレン系樹脂の使用量が5~40質量%であり、および前記塩化ビニル系モノマーの使用量が40~90質量%である、上記[3]に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
[5]前記グラフト重合を懸濁重合により行う、上記[3]または[4]に記載の塩化ビニル系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可塑剤を用いることなく、柔軟性および誘電特性に優れた塩化ビニル系樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の塩化ビニル系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合してなる。
【0014】
<塩化ビニル系モノマー>
塩化ビニル系モノマーとしては、塩化ビニルを主成分とするモノマーであればよく、塩化ビニル単独であってもよいし、塩化ビニルと、塩化ビニルと共重合可能であるその他成分とを含む混合物であってもよい。本明細書において、塩化ビニルを「主成分」とするとは、塩化ビニル系モノマーに占める塩化ビニル量が70質量%以上であることを意味する。
塩化ビニル系モノマー中の塩化ビニル量は、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。塩化ビニル系モノマーが塩化ビニルのみからなる(100質量%)ことが誘電特性の面から好ましい。
【0015】
塩化ビニル系モノマーに含まれ得る、上記その他成分は、塩化ビニルと重合できるものであれば、特に限定されない。例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのアルキルビニルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;エチレン、プロピレンなどのα-モノオレフィン類;無水マレイン酸、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、スチレン、およびマレイミド類などを挙げることができる。上記その他成分は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
<エチレン-酢酸ビニル共重合体>
エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル含量が好ましくは3~40質量%、より好ましくは10~35質量%、さらに好ましくは20~30質量%である共重合体を用いることができる。酢酸ビニル含量が上記範囲にあると、共重合して得られる塩化ビニル系樹脂の柔軟性を向上することができる。エチレン-酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル含量は、JIS K 6924-1:1997に準拠した方法により測定することができる。
【0017】
上記エチレン-酢酸ビニル共重合体として、そのメルトマスフローレートが、好ましくは0.3~80g/10分、より好ましくは1.5~30g/10分、さらに好ましくは2~25g/10分、特に好ましくは2.5~15g/10分である共重合体を用いることができる。エチレン-酢酸ビニル共重合体のメルトマスフローレートは、JIS K 6924-1:1997に準拠した方法により測定することができる。
【0018】
<ポリプロピレン系樹脂>
ポリプロピレン系樹脂は特に限定されず、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、ここで「主成分とする」とは、ポリプロピレン系樹脂中のプロピレン含有量が50質量%以上であることを意味する。ポリプロピレン系樹脂中のプロピレン含有量は50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
なかでも、誘電率低下の観点から、プロピレンを主成分とするエチレン-プロピレンブロック共重合体を含有することが好ましい。
【0019】
<塩化ビニル系樹脂の製造方法>
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法は、上記したエチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合する重合工程を含む。上記グラフト重合は、分散剤および重合開始剤から選択される少なくとも1種の存在下、懸濁重合法によって行うことが好ましい。
【0020】
ベースポリマー中のエチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂としては、上述したものを用いることができる。
上記重合工程において、ベースポリマーおよび塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対する、エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量は、20質量%以下であり、かつ、ポリプロピレン系樹脂の使用量が40質量%以下であることを要する。重合工程における、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量が20質量%を超える、及び/又はポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%を超えると、グラフト重合時の分散性に劣り、重合不能となる。
【0021】
上記重合工程における、エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量は、ベースポリマーおよび塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対して、好ましくは5~20質量%、より好ましくは6質量%以上20質量%未満、さらに好ましくは6~19質量%である。エチレン-酢酸ビニル共重合体の使用量が上記範囲内であれば、重合時の分散性に優れ、かつ、柔軟性に優れる、塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0022】
上記重合工程における、ポリプロピレン系樹脂の使用量は、ベースポリマーおよび塩化ビニル系モノマーの合計100質量%に対して、好ましくは5~40質量%、より好ましくは6質量%以上40質量%未満、さらに好ましくは7~39質量%である。ポリプロピレン系樹脂の使用量が上記範囲内であれば、重合時の分散性に優れるとともに、柔軟性に優れる、塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0023】
上記重合工程において、塩化ビニル系モノマーとしては、上記したものを用いることができる。
塩化ビニル系モノマーの使用量は、ベースポリマーおよび塩化ビニル系モノマーの合計100質量%から、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体及びポリプロピレン系樹脂の使用量を除いた量であり、好ましくは40~90質量%、より好ましくは40質量%超88質量%以下、さらに好ましくは42~87質量%である。
塩化ビニル系モノマーの使用量が上記範囲内であれば、重合時の分散性に優れるとともに、誘電特性に優れる塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0024】
<分散剤>
分散剤としては、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合するに当たり、これを媒体、好ましくは水系媒体に均一に安定して分散させる機能を持つものを用いることができる。分散剤として、上記分散機能のほかに、乳化機能、増粘機能などその他の機能を同時に保有している場合もある。
分散剤として、例えば、部分鹸化ポリ酢酸ビニル;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、ゼラチン、デンプンなどを挙げることができる。上記分散剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法において、上記分散剤の添加量は、塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、好ましくは500~10,000質量ppm、より好ましくは1,000~8,000質量ppm、さらに好ましくは2,000~5,000質量ppmである。
分散剤の添加量が上記範囲にあると、懸濁重合時の原料成分を十分に分散させることができる。
【0026】
<重合開始剤>
重合開始剤としては、一般に塩化ビニル系樹脂の重合に用いる公知の油溶性重合開始剤を用いることができる。例えば、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルネオヘキサノエート、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシ-2-ネオデカノエートなどのパーエステル化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、イソブチルパーオキシドなどのパーオキシド化合物;α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、α,α’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、α,α’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合開始剤は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造方法において、上記重合開始剤の添加量は、塩化ビニル系モノマー100質量部に対し、好ましくは10~20,000質量ppm、より好ましくは100~10,000質量ppm、さらに好ましくは300~5,000質量ppmである。
重合開始剤の量が上記範囲にあると、十分に重合反応を行うことができる。
【0028】
本発明の塩化ビニル系樹脂の製造は、具体的には懸濁重合法を用いて以下の通り行うことができる。例えば、温度調整機及び攪拌機を備えた重合器内に、純水、分散剤、エチレン-酢酸ビニル共重合体を投入した後、真空ポンプにより重合器内を脱気する。次に、攪拌条件下で、塩化ビニル系モノマーを投入し、反応容器内を好ましくは50~100℃、より好ましくは55~90℃、さらに好ましくは60~80℃まで昇温する。
重合器内を昇温後の上記温度に、例えば2~6時間、好ましくは3~5時間保持した後、所望の重合温度にて、別途添加タンクにて調製した、ポリプロピレン系樹脂、純水、および分散剤の混合物を投入し、攪拌条件下で、重合反応を進行させる。これにより、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂に塩化ビニル系モノマーがグラフト重合した、塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0029】
上記重合温度は特に限定されないが、工業的な製造に際し、その温度制御が容易な40~90℃が好ましく、より好ましくは40℃~80℃である。重合時間は、原料によって異なるが、重合転化率が95%に達する時間を重合時間とし、たとえば、2~20時間であることが好ましい。
【0030】
重合終了後には、例えば、未反応の塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーを除去してスラリー状にし、さらに、脱水及び乾燥を行うことにより、目的とする塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0031】
<塩化ビニル系樹脂>
本発明の塩化ビニル系樹脂(以下、「本塩化ビニル系樹脂」ともいう。)は、上述したとおり、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーに、塩化ビニル系モノマーをグラフト重合してなる。本塩化ビニル系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が20質量%以下であり、かつ、ポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%以下であることを要する。
塩化ビニル系樹脂において、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が20質量%を超える、および/またはポリプロピレン系樹脂の含有量が40質量%を超える組成に設計した場合には、目的とする塩化ビニル系樹脂がそもそも得られない。
【0032】
本塩化ビニル系樹脂における、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、好ましくは5~20質量%、より好ましくは6質量%以上20質量%未満、さらに好ましくは6.5~19.5質量%である。塩化ビニル系樹脂中のエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量が上記範囲内であれば、塩化ビニル系樹脂の柔軟性に優れるため、好ましい。
【0033】
本塩化ビニル系樹脂における、ポリプロピレン系樹脂の含有量は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは6質量%以上40質量%未満、さらに好ましくは7~39質量%である。塩化ビニル系樹脂中のポリプロピレン系樹脂の含有量が上記範囲内であれば、塩化ビニル系樹脂の柔軟性に優れるため、好ましい。
【0034】
本塩化ビニル系樹脂における、塩化ビニル系モノマー由来の単位の含有量は、塩化ビニル系樹脂から、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量と、ポリプロピレン系樹脂の含有量とを除いた残部であり、好ましくは40~90質量%、より好ましくは40質量%超88質量%以下、さらに好ましくは41.5~86.5質量%である。塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニル系モノマー由来の単位の含有量が上記範囲内であれば、塩化ビニル系樹脂の誘電特性に優れるため、好ましい。
【0035】
本発明の塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されないが、400~1,600が好ましく、600~1,400がより好ましい。平均重合度が400以上であると、成形体の物性低下を抑制することができる。平均重合度が1,600以下であれば、溶融粘度を適切に保つことができるため、成形性に優れる。
なお、上記平均重合度とは、得られた塩化ビニル系樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、濾過により不溶成分を除去した後、濾液中のTHFを乾燥除去して得た樹脂を試料とし、JIS K 6720-2:1999「塩化ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0036】
本発明の塩化ビニル系樹脂は、エチレン-酢酸ビニル共重合体およびポリプロピレン系樹脂からなるベースポリマーを原料として用いるため、柔軟性に優れる。また、上記ベースポリマーに塩化ビニル系モノマーをグラフト重合するため、誘電特性に優れる。
【0037】
本発明の塩化ビニル系樹脂は、実質的に可塑剤を含まない。そのため、可塑剤のブリードアウトによる誘導特性の悪化を防止することができる。
なお、ここでいう「実質的に含まない」とは、完全に排除されること、すなわち含量が0質量%であることが好ましい。しかしながら、上述の本発明の塩化ビニル系樹脂の誘電特性を損なわない程度の極微量(たとえば、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量%中、好ましくは0質量%超4質量%以下、より好ましくは3質量%以下)が混入している態様も許容する。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
<評価方法>
(1)重合状態の評価
各実施例および比較例において、脱水乾燥後の塩化ビニル系樹脂粉体を篩にかけて重合状態を評価した。篩には目開き800μmのものを用いた。
篩にかけた塩化ビニル樹脂粉体のうち、90質量%以上篩をパスしたもののみを〇(合格)、それ以外を×(不合格)とした。
【0040】
(2)誘電率評価
各実施例および各比較例にて得られた塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、スズ系安定剤(日東化成社製、品番ONZ-7F)2質量部、ワックス系滑剤(クラリアントジャパン社製、品番Wax OP)0.5質量部の割合で配合した後、内容積200リットルのヘンシェルミキサー(株式会社カワタ製)で攪拌混合して得た。得られた樹脂を100℃に加熱したロールで混錬し、100℃に加熱したプレス機で成形し、プラスチック成形体を得た。
得られた成形体を用いて、自動平衡ブリッジ法(IEC62631-2-1:2018に従う)を実施した。測定機器には、プレシジョンLCRメーター E4980A(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて、導電性銀ペイントの平行になった直径36mmの電極の間にセットし、23℃および50%RH、および周波数1MHzの条件下で測定し、誘電率を得た。
同含有量のポリマーブレンド品の誘電率を100%としたとき、本成形体の誘電率が100%未満のものを〇(合格)、100%以上のものを×(不合格)として誘電率を評価した。ここで言う、同含有量のポリマーブレンド品とは、得られた塩化ビニル系樹脂と同じ比率で、塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、および、ポリプロピレン系樹脂をブレンドしたもののことを指す。
【0041】
実施例1
塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、ヒドロキシプロピルメチルセルロース3000質量ppmと脱イオン水を混ぜた混合溶液(以下、分散剤溶液と略すことがある)を40kg作成した。次に以下の投入手順に従い、内容積100リットルの重合器(耐圧オートクレープ)に表1に示した分量投入した。
(投入1)分散剤溶液、エチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製、ウルトラセン640、ペレット状)(表中、「EVA共重合体」と示す)を投入した。
(投入2)重合器内を45mmHgまで脱気した後、塩化ビニル系モノマーを20kg仕込み、70℃まで昇温、攪拌を開始した。
(投入3)4時間後、添加タンクより分散剤溶液、ポリプロピレン系樹脂(セイシン企業社製、PPW-5J、平均粒径5μm)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート500質量ppmを投入し、攪拌をした。
重合温度は70℃とし、重合終了までこの温度を保持した。重合転化率が95%に達した時に反応を終了し、重合器内の未反応モノマーを回収した後、重合体をスラリー状で系外に取り出し、脱水乾燥した。得られた塩化ビニル系樹脂について、後述の試験方法により重合状態の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2~4、比較例1、2
表1に示される条件で、実施例1と同様の方法で、懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0043】
比較例3
上記分散剤溶液を20kg用いたこと以外は、表1に示される条件で、実施例1と同様の方法で、懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1から、実施例の塩化ビニル系樹脂は、柔軟性および誘電特性に優れることがわかる。
表2から、エチレン-酢酸ビニル共重合体量が20質量%を超える(比較例1)、ポリプロピレン系樹脂量が40質量%を超える(比較例2)、またはエチレン-酢酸ビニル共重合体量が20質量%を超え、かつポリプロピレン系樹脂量が40質量%を超える(比較例3)を場合には、重合そのものが進行しなかった。