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特開2023-25756構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025756
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/16 20060101AFI20230216BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20230216BHJP
   E01D 11/00 20060101ALI20230216BHJP
   E01D 19/08 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
E01D19/16
E04B1/64 Z
E01D11/00
E01D19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131073
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬士
(72)【発明者】
【氏名】田川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
【テーマコード(参考)】
2D059
2E001
【Fターム(参考)】
2D059AA41
2D059BB06
2D059BB08
2D059GG02
2D059GG23
2E001DH25
2E001GA65
2E001HD11
2E001HE07
2E001LA04
(57)【要約】
【課題】構造用ケーブルの防食性を向上する。
【解決手段】構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている構造用ケーブルの防食工法であって、互いに接着可能な二重の樹脂薄膜シート(シートの素材としてはふっ素樹脂が好ましく特にETFEが好ましい)により複数のケーブル素線110から形成される構造用ケーブル100を包み込んで覆い、構造用ケーブル100と第1ラッピング材160Aとの間の第一層120Aよび第1ラッピング材160Aと第2ラッピング材160Bとの間の第二層120Bとを形成して、第二層120Bを流れる外側流通乾燥空気A(B)と、第二層よりも内側を流れる内側流通乾燥空気A(A)とに分けて乾燥空気を流通させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、
互いに接着可能な樹脂薄膜を用いて、前記構造用ケーブル側である内側の樹脂薄膜である第1ラッピング材と外側の樹脂薄膜である第2ラッピング材との二重で前記構造用ケーブルを包み込んで前記樹脂薄膜どうしを互いに接着して前記構造用ケーブルを覆うことにより前記構造用ケーブルと前記第1ラッピング材との間の第一層および前記第1ラッピング材と前記第2ラッピング材との間の第二層とを形成して、
少なくとも前記第一層および前記構造用ケーブルに、前記構造用ケーブルの外部から供給された乾燥空気を流すことを特徴とする、構造用ケーブルの防食工法。
【請求項2】
前記第一層および前記構造用ケーブルに加えて前記第二層にも空気を流す、または、前記第二層に空気を滞留させることを特徴とする、請求項1に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項3】
前記第二層における乾燥空気の物理量を検出することにより、第二層の破損を検知することを特徴とする、請求項2に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項4】
前記第二層に送風量一定で乾燥空気を流して前記物理量として前記乾燥空気の圧力の低下を検出することにより、または、前記第二層に圧力一定で乾燥空気を流して前記物理量として前記乾燥空気の送風量の上昇を検出することにより、前記第二層の破損を検知することを特徴とする、請求項3に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項5】
前記樹脂薄膜はシート状であって、
前記シート状の樹脂薄膜を前記構造用ケーブルに、前記シート状の樹脂薄膜が二層の筒状になるように巻き付けて、前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせて互いに接着することにより、前記構造用ケーブルを前記シート状の二層の樹脂薄膜により包み込んで覆うことを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれかに記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項6】
前記樹脂薄膜はシート状であって、かつ、前記シート状の第1のラッピング材と前記シート状の第2のラッピング材とを重ねて前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向の両端を互いに予め接着した袋体であって、
前記シート状で袋体の樹脂薄膜を前記構造用ケーブルに、前記シート状の樹脂薄膜が二層の筒状になるように巻き付けて、前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせて互いに接着することにより、前記構造用ケーブルを前記シート状の二層の樹脂薄膜により包み込んで覆うことを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれかに記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項7】
前記樹脂はふっ素樹脂であることを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれかに記載に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項8】
前記樹脂薄膜どうしを重ね合わせた後に、重ね合わせた部分を加熱して熱溶着することにより互いに接着することを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれかに記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の防食工法が施された、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食技術に関し、特に、このような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
吊橋や斜張橋に使用される構造用ケーブルは、屋外の厳しい気候条件にさらされるため、錆びなどの劣化を防ぐために塗装などが必要となる。従来、構造用ケーブルは耐候性のある塗料で塗装されていたが、塗装された構造用ケーブルがさらされる厳しい気候条件のために定期的な再塗装が必要な場合があり得た。しかしながら、このような構造用ケーブルは吊橋や斜張橋などの高い位置の主塔に設けられている等に起因する構造用ケーブルへのアクセス性の悪さのために、この再塗装には相当に高額の費用が必要であった。また、適切に再塗装するためには、再塗装前に既存の塗料を除去する必要があり、さらに費用が上昇することになっていた。
【0003】
このような再塗装による補修に対して、最近では、ネオプレンなどのポリクロロプレン製の被覆材(この被覆材の形状としてはたとえば螺旋状に巻き付けやすいテープ状)を、1の吊構造物であっても箇所により長さが異なる構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることで、このような構造用ケーブルをより永続的に屋外露出から守ることができることがわかってきた。しかしながら、この種のネオプレン製の被覆材は、それが使用される吊構造物(吊橋や斜張橋等)における構造用ケーブル以外の他の要素(桁、主塔、ハンガー等)と外観を一致させたり調和させたりする必要があるが、通常は適切に施工前に着色することができない。そのため、橋梁構造用ケーブルをネオプレン製の被覆材で螺旋状に巻いた後、被覆材の外面を塗装することで、構造用ケーブルと他の橋梁要素との間で適切な色合わせを行うことになるが、このような塗装工程は非常に手間がかかるため、非常に高価である。
【0004】
さらに、吊橋の構造用ケーブルをネオプレン製の被覆材(テープ)で螺旋状に巻く際には、被覆材(テープ)の各ターンを先行するターンにしっかりと接着して、その間の継ぎ目を適切にシールし、それによってカバーと構造用ケーブルの間の界面に湿気やほこりが侵入するのを防ぐことが重要である。このタイプのネオプレン製の被覆材を(テープ状の被覆材を構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けて)使用する場合、被覆材(テープ)の連続したターンの間にかなりのオーバーラップを設け、溶剤を使用してオーバーラップした層を互いに接着することで、確実に、かつ、十分にシールできることが知られていた。しかしながら、溶剤の塗布は手間がかかるため高価であり、また、多くの溶剤は環境面、健康面および安全面で問題があるために、その取り扱いや廃棄には細心の注意が必要である。
【0005】
このような種々の問題点に鑑みて、土木学会誌Vol.106 No.7 July 2021(非特許文献1)は、吊橋を構成する部材の中で、最も重要で吊橋の命でもある主ケーブルについての確実な防食を実現する吊橋ケーブル送気乾燥システムを開示する。この送気乾燥システムは、上述した再塗装および被覆材よりも水分の遮断をさらに効果的に実現するシステムであって、たとえば、吊橋における主塔および補剛桁に設置された送気設備で外気から塩分等を除去した乾燥空気を製造し、その乾燥空気を送気管へ通して構造用ケーブル内へ送り込み、構造用ケーブル内の空隙を通過した湿気を帯びた空気を排気バーおよび塔頂・アンカレイジサドル部から排出して、構造用ケーブル内を常に乾燥させる防食工法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】土木学会誌 Vol.106 No.7 July 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示された防食工法における構造用ケーブルは一重のネオプレンシート(ラッピング材)により覆われてそのラッピング材に覆われた構造用ケーブルの内部(複数のケーブル素線から構成される構造用ケーブルにおける各ケーブル素線の間隙という意味での構造用ケーブルの内部)、および、その内部と空気が流通可能に連通している構造用ケーブルとラッピング材との間に乾燥空気を送気しているに過ぎず、外的要因によりラッピング材が損傷すると即座に空気漏れに繋がり、所望量の乾燥空気が構造用ケーブルの内部に流れなくなり、想定していた防食効果を発現できなくなるという問題点がある。
【0008】
また、ラッピング材を螺旋状に巻き付けた施工方法では接続部分が多数になるために空気漏れのリスクが高かったり、そのリスク低減のために多数の接続部分の全てシール処置を施す必要があり施工性が悪かったり、そのように施工しても空気漏れのリスクがあったりするために、空気漏れに繋がり、所望量の乾燥空気が構造用ケーブルの内部に流れなくなり、想定していた防食効果を発現できなくなるという問題点がある。
【0009】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、このような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法を良好な施工性で実行するとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルは、以下の技術的手段を備える。
すなわち、本発明のある局面に係る構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、互いに接着可能な樹脂薄膜を用いて、前記構造用ケーブル側である内側の樹脂薄膜である第1ラッピング材と外側の樹脂薄膜である第2ラッピング材との二重で前記構造用ケーブルを包み込んで前記樹脂薄膜どうしを互いに接着して前記構造用ケーブルを覆うことにより前記構造用ケーブルと前記第1ラッピング材との間の第一層および前記第1ラッピング材と前記第2ラッピング材との間の第二層とを形成して、少なくとも前記第一層および前記構造用ケーブルに、前記構造用ケーブルの外部から供給された乾燥空気を流すことを特徴とする。ここで、本発明における接着には、樹脂薄膜自体が互いに接合すると一体化する粘着性等を備えたり樹脂薄膜に粘着性等がある接着剤を塗布したりすることにより、樹脂薄膜どうしを接着するものがその一例ではあるが、このような接着に限定されるものではなく、熱により樹脂薄膜の一部を溶かして互いに溶着することにより接着するものを含むものであることを確認的に記載しておく。
【0011】
好ましくは、前記第一層および前記構造用ケーブルに加えて前記第二層にも空気を流す、または、前記第二層に空気を滞留させるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記第二層における乾燥空気の物理量を検出することにより、第二層の破損を検知するように構成することができる。
さらに好ましくは、前記第二層に送風量一定で乾燥空気を流して前記物理量として前記乾燥空気の圧力の低下を検出することにより、または、前記第二層に圧力一定で乾燥空気を流して前記物理量として前記乾燥空気の送風量の上昇を検出することにより、前記第二層の破損を検知するように構成することができる。
【0012】
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜はシート状であって、前記シート状の樹脂薄膜を前記構造用ケーブルに、前記シート状の樹脂薄膜が二層の筒状になるように巻き付けて、前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせて互いに接着することにより、前記構造用ケーブルを前記シート状の二層の樹脂薄膜により包み込んで覆
うように構成することができる。
【0013】
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜はシート状であって、かつ、前記シート状の第1のラッピング材と前記シート状の第2のラッピング材とを重ねて前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向の両端を互いに予め接着した袋体であって、前記シート状で袋体の樹脂薄膜を前記構造用ケーブルに、前記シート状の樹脂薄膜が二層の筒状になるように巻き付けて、前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせて互いに接着することにより、前記構造用ケーブルを前記シート状の二層の樹脂薄膜により包み込んで覆うように構成することができる。
【0014】
さらに好ましくは、前記樹脂はふっ素樹脂であるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜どうしを重ね合わせた後に、重ね合わせた部分を加熱して熱溶着することにより互いに接着するように構成することができる。
また、本発明の別の局面に係る防食工法が施された構造用ケーブルは、上述したいずれかに記載の防食工法が施された、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルによると、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、このような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法を良好な施工性で実行するとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法を説明するための(A)全体斜視図、(B)断面図である。
図2図1(B)における(A)正常な状態における乾燥空気の送気状態を説明するための断面図、(B)第2ラッピング材の破損時における乾燥空気の送気状態を説明するための断面図である。
図3図2(B)に示す第2ラッピング材の破損時における乾燥空気の物理量の変化を示す図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法を説明するための(A)全体斜視図、(B)シートの斜視図である。
図5】本発明の第2の実施の形態の第1の変形例に係る構造用ケーブルの防食工法を説明するための断面図である。
図6】本発明の第2の実施の形態の第2の変形例に係る構造用ケーブルの防食工法において使用されるふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルについて図面を参照して詳しく説明する。なお、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法(防食施工方法)が以下に説明する通りに施工された構造用ケーブルが、本発明の実施の形態に係る(防食工法が施された)構造用ケーブルである。また、以下の説明においては、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルの防食工法であって、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法について説明するが、本発明に係る防食工法が屋外露出された既設の構造用ケーブルに限定して施工されるものではなく、屋外露出される新設の構造用ケーブルの腐食の予防策を図る防食工法として施工されるものであっても構わない。また、防食対象の構造用ケーブルは、ケーブル素線とそのケーブル素線の外周側を覆う外套管(防食目的のためのFRP(強化プラスチック)管やPE(ポリエチレン)管等)を備えるものであっても、このような防食目的のための外套管を備えないでケーブ
ル素線に防食塗料が直接塗布されているものであっても、その他の構造であっても、いずれであっても構わない。
【0018】
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、基本的には詳細な構造を省略した模式図であって、内部ではなく外形で表現すべき部分であっても内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったりする。
【0019】
本発明の第1の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法について、図1図3を参照して、本発明の第2の実施の形態(第1の変形例および第2の変形例を含む)に係る構造用ケーブルの防食工法について、図4図6を参照して、それぞれ詳しく説明する。なお、いずれの実施の形態においても、構造用ケーブルの防食工法において互いに接着可能(この接着には溶着を含む)な樹脂薄膜としてふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートを採用したものであるが、樹脂薄膜の形状はテープ状であっても良くこの場合には、テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の半分以下(半分の場合にはハーフラップとなる)を重ね合わせて構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けてラッピングすることにより構造用ケーブルを包み込んで覆って、構造用ケーブルの外部から供給された乾燥空気を構造用ケーブルに流すことになる。
【0020】
ここで、本発明におけるラッピング材として好ましく用いられるふっ素樹脂(好ましくはETFE)について、先に詳しく説明する。なお、このふっ素樹脂(好ましくはETFE)を説明する場合に使用する「溶着」は「接着」に含まれる概念であることを確認的に記載しておく。
本発明における被覆材(ラッピング材)として好ましく用いられる樹脂薄膜の素材としては、ふっ素樹脂が好ましくETFE(Ethylene tetrafluoroethylene、エチレン・四ふっ化エチレン共重合体)が特に好ましい。また、この溶着可能な樹脂薄膜の形状としては、上述したようにシート状であったりテープ状であることが好ましい。
【0021】
ふっ素樹脂(fluorocarbon polymers)とは、ふっ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称である。耐熱性耐薬品性の高さや摩擦係数の小さいことが特徴である。中でも最も大量に生産されているふっ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン〈四ふっ化樹脂〉である。化学薬品に対する耐久力や電気絶縁性が高く、表面の摩擦係数は既知物質では最も低く、高温にも安定で不燃性のため、エンジニアリングプラスチックとして利用されている。最初に開発されたこのポリテトラフルオロエチレンは、260℃の耐熱性を持つが熱可塑性を示さず加工性が好ましくなかったために成形性を高めるために、完全にふっ素化されているポリテトラフルオロエチレンの、ふっ素基の一部を水素または塩素で置換したり、オレフィンとした様々なクロロトリフルオロエチレン樹脂やポリふっ化ビニリデン樹脂が開発された。これらの樹脂は耐熱性でポリテトラフルオロエチレンに劣るものの加工性は高く、圧縮、押出し、射出成形が可能な素材である。
【0022】
(1)完全ふっ素化樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(四ふっ素化樹脂、略号:PTFE)があり、(2)部分ふっ素化樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン(三ふっ素化樹脂、略号:PCTFE、CTFE)、ポリふっ化ビニリデン(略号:PVDF)、ポリふっ化ビニル(略号:PVF)があり、(3)ふっ素化樹脂共重合体としては、ペルフルオロアルコキシふっ素樹脂(略号:PFA)、四ふっ化エチレン・六ふっ化プロピレン共重合体(略号:FEP)、エチレン・四ふっ化エチレン共重合体(略号:ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略号:ECTFE)がある。
【0023】
一方で、一般的な合成樹脂の代表であるポリエチレン(PE:poly ethene)は、最も単純な分子構造の樹脂で安価で大量生産されているものの、その強度や耐熱性は極めて弱い。この特性は、熱応答性が良好な樹脂とも言え、比較的低い温度でも容易に成形できるため、極めて使い勝手の良い樹脂とも言える。このため、PEとPTFEの双方の性能を持つ樹脂として開発されたのがPVDFおよびETFEであって、いずれもPE部(C2H4)とPTFE部(C2F4)を組み合わせた(共重合)したものであるが、雑に共重合したPVDFと違い、ETFEは丁寧に交互重合している。PE連鎖が劣化の要因であるが、反応条件などを工夫して丁寧に交互重合することでPE連鎖部をETFEにおいては減らしている。ETFEはPE部の可動性によって溶融粘度が下がり、180℃弱で軟化するため、フィルム成形などの押出成形を可能とするとともに、その一方で、ラジカルによるPE部間の分解はFによってブロックされるため、紫外線等の分解に極めて強い性質を併せ持つ。そのため、高温環境下では使用しないが耐候性が欲しいような用途に好ましく使用される。このように、ETFEはPTFEとPEの性質を併せ持ちPTFEに比べて良好な成形性を持ち、射出やフィルム成形等も可能であって、テープ状にもシート状にも容易に加工することができる。また、無色透明であっても有色透明であっても、不透明であっても良く、様々な色合い(透明を含む)の樹脂薄膜を実現できる。
【0024】
テープ状のETFEをラッピング材に採用する場合には、ETFEの溶着は、接着幅(重なり幅)が狭くとも強度が得られるために、ハーフラップする必要はない点を書き加えておく。このため、合成ゴムテープに替えてふっ素樹脂テープ(特にETFEテープ)を採用する場合には、そもそも単位長さあたりの重量がふっ素樹脂テープ自体の方が合成ゴムテープよりも軽いために被覆材(ラッピング材)の重量を軽減できる(単位長さあたりの重量がふっ素樹脂テープ自体の方が合成ゴムテープよりも軽いことに起因しておりテープ状ではないふっ素樹脂シートでも同じ)点、さらに、ETFEテープ幅の約1/2ずつ重ねて完全二重構造にするハーフラップするのではなくETFEテープ幅のたとえば約1/4ずつ重ねて不完全二重構造にすることができるために被覆材(ラッピング材)の重量を大幅に軽減できる(単位長さあたりの重量がふっ素樹脂テープ自体の方が合成ゴムテープよりも軽い+不完全二重構造で十分に溶着できることに起因)点、で従来技術(非特許文献1に開示の技術とは別の一般的な公知技術として)の防食工法(合成ゴムでハーフラップ)に対して施工性が大幅に改善される。
【0025】
なお、このようなETFEを含むふっ素樹脂を素材とする樹脂薄膜が本発明に係る防食工法における被覆材(ラッピング材)として採用される場合、樹脂薄膜どうしを重ねて合わせて加熱して熱溶着することにより互いに接着することになる。この熱溶着により樹脂薄膜(ETFEシート、ETFEテープ等)どうしが溶着して重なり部分から空気および水分の浸入を抑制して腐食の進行を遅らせることができることに加えて、乾燥空気がラッピング材の外部へ漏れることを防止することができる。ただし、本発明における樹脂薄膜どうしの接着には、このような熱により樹脂の一部を溶かして互いに接着する溶着に限定されるものではなく、樹脂薄膜自体が互いに接合すると一体化する粘着性等を備えたり樹脂薄膜に粘着性等がある接着剤を塗布したりすることにより、樹脂薄膜どうしを接着するものであっても構わない。
【0026】
<第1の実施の形態>
図1図3に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、以下の特徴を備える。
本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された(複数のケーブル素線110から構成される)構造用ケーブル100の防食工法であって、互いに接着可能(より具体的には溶着可能)な樹脂薄膜(形状はシート状、テープ状等で限定されない)により構造用ケーブル100を包み込んで覆うことを前提としている。このような樹脂薄膜(ここでは二重の樹脂薄膜シートであるラッピング材160)を用いて、構造用ケーブル100側である内側の樹脂薄膜である第1ラッピング材160Aと外側の樹脂薄膜である第2ラッピング材160Bとの二重で構造用ケーブル100を包み込んで樹脂薄膜どうしを溶着部162(より詳しくは内側溶着部162Aおよび外側溶着部162B)で互いに接着して構造用ケーブル100を(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160Bにより)二重に覆うことにより構造用ケーブル100と第1ラッピング材160Aとの間の第一層120Aよび第1ラッピング材160Aと第2ラッピング材160Bとの間の第二層120Bとを形成する。そして、少なくとも第一層120Aおよび構造用ケーブル100(より詳細には複数のケー
ブル素線110から構成される構造用ケーブル100における各ケーブル素線110の間隙という意味での構造用ケーブル100の内部)に、構造用ケーブル100の外部から供給された乾燥空気を流す。
【0027】
ここで、第一層120Aおよび構造用ケーブル100に加えて、第二層120Bにも乾燥空気を流すことも好ましい。この場合、図1(A)および図2(A)に示すように、乾燥空気Aは、第二層120Bを流れる外側流通乾燥空気A(B)と、第二層よりも内側を流れる内側流通乾燥空気A(A)とに分かれて流れ、さらに内側流通乾燥空気A(A)は、第一層120Aを流れる流通乾燥空気A(A1)と構造用ケーブル100を流れるケーブル流通乾燥空気A(A2)とに分かれて流れることになる。
【0028】
さらに、詳しく説明すると、これらの図に示すように、本実施の形態に係る防食工法においては、シート状の樹脂薄膜(ETFEシート)を構造用ケーブル100に、そのシート状の樹脂薄膜(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)が二層の筒状になるように巻き付けて、構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部の溶着部162(内側溶着部162Aおよび外側溶着部162B)どうしを重ね合わせて、構造用ケーブル100を二重のシート状の樹脂薄膜により包み込んで覆うものである。
【0029】
図1および図2に示す状態は、防食工法の施工後において乾燥空気を送気している構造用ケーブル100を示しており、構造用ケーブル100を構成するケーブル素線110とが2枚のETFEシート(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)により二層の筒状になるように巻き付けて、構造用ケーブル100の長手方向と垂直な方向のシート端部の溶着部162(内側溶着部162Aおよび外側溶着部162B)どうしを重ね合わせて互いに接着(ここでは溶着)して、構造用ケーブル100がシート状の樹脂薄膜により二重に包み込まれている状態である。
【0030】
このように図1および図2に示す状態は、ケーブル素線110に2枚のETFEシート(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)が二層の筒状になるように巻き付けられて、これら2枚のETFEシートのシート端部どうしの重なり部分を(ここでは内側溶着部162Aおよび外側溶着部162Bにおいてそれぞれ)加熱して熱溶着する。この熱溶着によりETFEシート(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)の端部どうしが溶着して重なり部分から空気および水分の浸入を抑制して腐食の進行を遅らせることができるとともに、乾燥空気が二重のラッピング材(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)の外部へ漏れることを防止することができる。
【0031】
なお、ケーブル素線110の外周側を覆う外套管が設けられる場合には、その外套管とETFEシート(ここでは内側の第1ラッピング材160A)との間は、ラッピング材(被覆材)の外部から内部への空気の侵入および水分の浸入の抑制ならびにラッピング材(被覆材)の内部から外部への空気への漏洩の抑制が可能であれば、空隙が開いていても構わない。また、図1および図2に示す構成においては、第1ラッピング材160Aは、ケーブル素線110に接触していないが(空隙が開いているが)、ケーブル素線110に(全部または一部が)接触していても((全部または一部において)空隙が開いていなくても)構わない。
そして、本実施の形態に係る構造用ケーブルは、上述したように二層の樹脂薄膜シート(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)により防食工法が施工された構造用ケーブル100は、送気乾燥機能をさらに備える。
【0032】
この送気乾燥システムは、水分の遮断をさらに効果的に実現するシステムであって、たとえば、吊橋における主塔および補剛桁に設置された送気設備で外気から塩分等を除去した乾燥空気を製造し、その乾燥空気を送気管へ通して構造用ケーブル100内へ送り込み、構造用ケーブル100内の空隙を通過した湿気を帯びた空気を排気バーおよび塔頂・アンカレイジサドル部から排出して、構造用ケーブル100内を常に乾燥させている。送気設備では、フィルターユニットを設置して外気を除塵、除塩しており、その外気を除湿機により乾燥させて送気ブロワーで加圧しケーブルに送気している。ここで、鋼線(鋼材)であるケーブル素線110は、相対湿度60%以下ではほとんど腐食が進行しないことを文献や試験で確認しているために、相対湿度60%以下を確実に保つために、ケーブル内の乾燥空気の管理目標値は、相対湿度40%とすることが好ましい。
【0033】
図1および図2に示す場合には、二層の樹脂薄膜シートによる施工が完了した構造用ケーブル100において、構造用ケーブル100の外部から供給された乾燥空気Aは、第二層120Bを流れる外側流通乾燥空気A(B)と、第二層よりも内側を流れる内側流通乾燥空気A(A)(より詳しくはこの内側流通乾燥空気A(A)は、第一層120Aを流れる流通乾燥空気A(A1)および構造用ケーブル100を流れるケーブル流通乾燥空気A(A2))とに分かれて流れる。
【0034】
このように、構造用ケーブル100の外部から供給された乾燥空気Aは、第二層120Bを流れる外側流通乾燥空気A(B)と第二層よりも内側を流れる内側流通乾燥空気A(A)とに分かれて流れて、かつ、この内側流通乾燥空気A(A)が第一層120Aを流れる流通乾燥空気A(A1)および構造用ケーブル100を流れるケーブル流通乾燥空気A(A2))とに分かれて流れるために、外側流通乾燥空気A(B)と内側流通乾燥空気A(A)とにより空気流通の抵抗が少なく、かつ、構造用ケーブル100内における極端な流通量の差を発現させることなく、流通乾燥空気A(A1)およびケーブル流通乾燥空気A(A2)により構造用ケーブル100内のケーブル素線110の全体を常に部分的な偏りなく効果的に乾燥させることができる。
【0035】
特に、被覆材(ラッピング材)である第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160Bとして、上述したETFEのような軽量な樹脂薄膜を採用することにより、送気乾燥空気の圧力を小さくすることができるとともに、さらに透明色にするとケーブル素線110の表面の防食状況、および、第一層120Aが内側流通乾燥空気A(A)(ここで特に第一層120Aを流れる流通乾燥空気A(A1)により膨らんでいる状況、を確認することができるために、送気乾燥システムの効果を視認することができる点で好ましい。
【0036】
このように、構造用ケーブル100を二重のシート状の樹脂薄膜(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160B)により包み込んで、第二層120Bにも乾燥空気を流通させることにより、以下のようにして、第二層120B(より具体的には第2ラッピング材160B)の破損を検知することができることが可能になる。
概略的には、第二層120Bに流れる外側流通乾燥空気A(B)の物理量を検出することにより、第二層120B(より具体的には第2ラッピング材160B)の破損を検知する。より具体的には、第二層120Bに送風量一定で外側流通乾燥空気A(B)を含む乾燥空気Aを流して物理量として乾燥空気Aの圧力の低下を検出したり、または、第二層120Bに圧力一定で外側流通乾燥空気A(B)を含む乾燥空気Aを流して物理量として乾燥空気の送風量の上昇を検出したりすることにより、第二層120B(第2ラッピング材160B)の破損を検知する。
【0037】
図2(B)に示すように、第二層120B(第2ラッピング材160B)が飛来物等により破損すると、外側流通乾燥空気A(B)が第2ラッピング材160Bから構造用ケーブル100の外部へ漏れ出す。なお、飛来物が第二層120Bを形成する第2ラッピング材160Bを破損したときに外側流通空気A(B)が存在(残存)しており、第一層120A(第1ラッピング材160A)は、その存在(残存)している外側流通空気A(B)により、飛来物等により破損しない可能性が高い。
【0038】
このように第一層120A(第1ラッピング材160A)が破損せず、かつ、第二層120B(第2ラッピング材160B)が破損した場合には、送風量を一定に設定している場合には図3(A)に示すように第二層120Bを流れる外側流通乾燥空気A(B)の圧力(第2空気層の圧力)が急に低下することを検出することにより、圧力を一定に設定している場合には図3(B)に示すように第二層120Bを流れる外側流通乾燥空気A(B)の送風量(第2空気層の送風量)が急に上昇することを検出することにより、第二層120B(第2ラッピング材160B)が破損したことを検出することができる。
【0039】
なお、第二層120B(第2ラッピング材160B)に加えて第一層120A(第1ラッピング材160A)が破損した場合には、さらに乾燥空気Aの物理量(送風量、圧力)の変化量が大きくなるのでその差を予め設定しておくことにより、・正常:第一層120A(第1ラッピング材160A)も第二層120B(第2ラッピング材160B)も正常(破損なし)、・第1異常:第一層120A(第1ラッピング材160A)は正常(破損なし)、第二層120B(第2ラッピング材160B)は異常(破損あり)・第2異常:第一層120A(第1ラッピング材160A)も第二層120B(第2ラッピング材160B)も異常(破損あり)を、切り分けて検出することができる。
【0040】
以上のようにして、本実施の形態に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルによると、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食工法であって、このような構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特に)その構造用ケーブルを取り替えるのではなく構造用ケーブルの延命策を図る防食工法を良好な施工性で実行するとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することができる。
【0041】
なお、上述した実施の形態においては、第1ラッピング材160Aであっても第2ラッピング材160Bであっても、互いに接着(溶着)する溶着部を、構造用ケーブル100の長手方向と垂直な面において1箇所としているが、ラッピング材である樹脂薄膜シートの大きさに応じて2箇所以上設けても構わない。さらに、上述した実施の形態においては、第二層120Bと第二層120B以外に流通させる空気はともに乾燥空気であるとして説明したが、第二層120Bに流す空気は送気乾燥の目的はないために(乾燥していない)空気を流通させるようにしたり空気を(流通させるのではなく単に)封入したりするだけであっても構わない。このように第二層120Bに空気を封入して流通させない場合における第二層120Bの破損の検知は、第二層120Bの空気の(送風量の急激な上昇ではなく)圧力の低下を検出することにより実現できる。なお、この段落に記載した事項は、以下において説明する第2の実施の形態においても同じである。
【0042】
<第2の実施の形態>
以下において、本発明の第2の実施の形態(後述するように2つの変形例を含む)に係る構造用ケーブルの防食工法について詳しく説明する。この第2の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、構造用ケーブル側である内側の樹脂薄膜である第1ラッピング材160Aと外側の樹脂薄膜である第2ラッピング材160Bとの二重で構造用ケーブルを包み込む点は上述した第1の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法と同じであるが、第1ラッピング材160Aと外側の樹脂薄膜である第2ラッピング材160Bとが予め(施工前という意味)接着された袋体の袋状ラッピング材260で形成されている点が異なる。第2の実施の形態において、それ以外の構造であって第1の実施の形態と同じ構造については第1の実施の形態と同じ符号を付している。それらについての説明は、上述した説明と重複するために、ここでは繰り返して説明しない。
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、以下の特徴を備える。なお、本実施の形態に係る構造用ケーブル200は、構造用ケーブル100と同じように、複数のケーブル素線110で構成されており外套管は任意的な構成である。
【0043】
本実施の形態においては、樹脂薄膜はシート状であって、かつ、シート状の第1のラッピング材260Aとシート状の第2のラッピング材260Bとを重ねて構造用ケーブル200の長手方向と垂直な方向の両端を互いに予め(構造用ケーブルへの施工前に)接着した袋状ラッピング材260である。より詳しくは、この袋状ラッピング材260は、施工後において第1ラッピング材260Aを形成することになる内側(図4(B)の紙面下側)の薄膜と、同じく施工後において第2ラッピング材260Bを形成することになる外側(図4(B)の紙面上側)の薄膜とが、構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向の両端において互いに予め接着されている。ここでは、第1の実施の形態と同じく樹脂薄膜の素材としてETFEを採用して、構造用ケーブル200の長手方向と垂直な方向の両端の袋体溶着部264において互いに予め溶着(第1の実施の形態と同じく溶着は接着に含まれる概念)されている。そして、この袋状ラッピング材260における、施工後において第1ラッピング材260Aを形成することになる内側(図4(B)の紙面下側)の薄膜と、同じく施工後において第2ラッピング材260Bを形成することになる外側(図4(B)の紙面上側)の薄膜との間が、施工後において第二層120Bを形成して、この第二層120Bを外側流通乾燥空気A(B)が流れることになる。
【0044】
このようなシート状で袋体の樹脂薄膜である袋状ラッピング材260を用いて、構造用ケーブル200側である内側の樹脂薄膜である第1ラッピング材160Aと外側の樹脂薄膜である第2ラッピング材160Bとの二重で構造用ケーブル200を包み込んで樹脂薄膜どうしを溶着部262(より詳しくは袋体溶着部264を含むことになる)で互いに接着して構造用ケーブル200を(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160Bにより)二重に覆うことにより構造用ケーブル200と第1ラッピング材160Aとの間の第一層120Aよび第1ラッピング材160Aと第2ラッピング材160Bとの間の第二層120Bとを形成する。そして、少なくとも第一層120Aおよび構造用ケーブル200(より詳細には複数のケーブル素線110から構成される構造用ケーブル200における各ケーブル素線110の間隙という意味での構造用ケーブル200の内部)に、構造用ケーブル200の外部から供給された乾燥空気を流したり、さらに第二層120Bに、構造用ケーブル200の外部から供給された乾燥空気を流したりする。
以上のようにして、本実施の形態に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルによると、上述した第1の実施の形態における作用効果に加えて、施工前に樹脂薄膜(ラッピング材)袋状に加工しておくために、施工性を向上させる点でさらに好ましい。
【0045】
<第2の実施の形態:第1の変形例>
以下に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態における第1の変形例について説明する。本変形例は、溶着部(本変形例においてはこの溶着部に袋体溶着部264を含むが溶着部262を含まない場合がある)に、その補強のためにフレームを取り付けるものである。
図5(A)に示す補強は、溶着部262(より詳しくは袋体溶着部264を含む)で袋状ラッピング材260における構造用ケーブル200の長手方向と垂直な方向の両端を互いに接着して構造用ケーブル200を(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160Bにより)二重に覆った後に(袋状ラッピング材260の溶着後に)、補強用フレーム270を取り付ける。この場合、この補強用フレーム270には、溶着部262および袋体溶着部264が内包されて、これらの溶着部が補強されることになる。
【0046】
図5(B)に示す補強は、図4(B)に示す施工前の状態で、袋状ラッピング材260における構造用ケーブル200の長手方向と垂直な方向の両端のそれぞれに補強用フレーム280を取り付けておいて、施工時にこの補強用フレーム280を(シール処理とともに)互いに接合して構造用ケーブル200を(第1ラッピング材160Aおよび第2ラッピング材160Bにより)二重に覆って補強用フレーム接続体282により溶着部(ここでは袋体溶着部264)が補強される。この場合、この補強用フレーム280には、溶着部262は内包されず袋体溶着部264が内包されて、この袋体溶着部264が(溶着部262を含まないで)補強されることになる。なお、このような補強用フレーム280どうしを互いに接合する場合であっても、樹脂薄膜どうし(ここでは袋体溶着部264の両端どうし)を互いに接着するものであることに違いない。
【0047】
なお、第1の実施の形態と同じように、第2の実施の形態においても樹脂薄膜(特に好ましくはETFEシート)を互いに接着(溶着)する溶着部は、構造用ケーブル100の長手方向と垂直な面において1箇所としているが、樹脂薄膜シートの大きさに応じて2箇所以上設けても構わないために、補強用フレームも2箇所以上設けても構わない。
【0048】
<第2の実施の形態:第2の変形例>
以下に、図6を参照して、本発明の第2の実施の形態における第2の変形例について説明する。本変形例は、袋状ラッピング材の変形を抑制するために、たとえばキルティング状に形成されるものである。なお、本変形例に係る図6に示す補強袋状ラッピング材360も、樹脂薄膜はシート状であって、かつ、シート状の第1のラッピング材260Aとシート状の第2のラッピング材260Bとを重ねて構造用ケーブル200の長手方向と垂直な方向の両端を互いに予め(構造用ケーブルへの施工前に)接着した点については、図4(B)に示した袋状ラッピング材260と同じである。
袋状ラッピング材においては、空気層の範囲が大きくなると風などの外乱に対して大きく変形するために、場合によっては使用上の問題が生じる可能性がある。本変形例においては、この変形を抑制するために、図6に示すように大きな空気層でなく、小さい空気層に分割してこの変形を抑制する。
【0049】
ここで、空気層の分割方法については、シート状の第1のラッピング材260Aとシート状の第2のラッピング材260Bとを部分的に溶着する方法、または、第2ラッピング材260Bの網目のネットで覆う方法等が挙げられる。部分的に溶着する方法を採用すると、長手方向溶着ライン370と短手方向溶着ライン372とにより小さな空気層に分割された補強袋状ラッピング材360を実現することができる。ただし、短手方向の溶着ラインについては、第二層120Bに外側流通乾燥空気A(B)が流れるように補強袋状ラッピング材360を実現される。この場合、外側流通乾燥空気A(B)は直線状に流通するのではなくジグザク状に流通するものであっても構わない。また、そもそも外側流通乾燥空気A(B)を流通させるのではなく、単に空気を滞留させる場合にはこのように外側流通乾燥空気A(B)の長手方向の流通経路を考慮する必要はなく、内部に空気が封入されたキルティング状の補強袋状ラッピング材360となる。
【0050】
以上のようにして、これら2つの変形例に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルによっても、上述した第2の実施の形態における作用効果を実現させることができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食技術に関し、このような構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特に)その構造用ケーブルを取り替えるのではなく構造用ケーブルの延命策を図る防食工法に特に好ましい。
【符号の説明】
【0052】
100、200 構造用ケーブル
110 ケーブル素線
120A 第一層
120B 第二層
160 ラッピング材(ETFEシート)
160A 第1ラッピング材
160B 第2ラッピング材
162 溶着部
260 袋状ラッピング材
270、280 補強用フレーム
360 補強袋状ラッピング材
図1
図2
図3
図4
図5
図6