(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002576
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】レーザを使用した試料、標本、及び試薬のインキュベーションを増進するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
G01N35/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022157926
(22)【出願日】2022-09-30
(62)【分割の表示】P 2019520648の分割
【原出願日】2017-10-11
(31)【優先権主張番号】2016904111
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】519132366
【氏名又は名称】ハエモキネシス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Haemokinesis Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ジム・モノリオス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生物学的検査のために試薬、懸濁液、及び/又は生物学的製剤を所定の温度にインキュベートするための方法。
【解決手段】a)選択された生物学的製剤の自然温熱環境をシミュレーションする温度にインキュベートされることが必要とされる生物学的製剤をレセプタクル内に供給することと、b)生物学的製剤が存在する自然温熱環境のターゲット温度をシミュレーションする、又はターゲット温度に達するのに十分な時間の間、レーザ光源から放出する少なくとも1本のレーザを使用して、生物学的製剤に又はその近くに、制御された加熱を適用することと、を行うステップを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的検査のために試薬、懸濁液、及び/又は生物学的製剤を所定の温度にインキュベートするための方法であって、
a)選択された生物学的製剤の自然温熱環境をシミュレーションする温度にインキュベートされることが必要とされる前記生物学的製剤をレセプタクル内に供給することと、
b)前記生物学的製剤が存在する前記自然温熱環境のターゲット温度をシミュレーションするターゲット温度に達するのに十分な時間の間、レーザ光源から放出される少なくとも1本のレーザを使用して前記生物学的製剤に又はその近くに、制御された加熱を適用することと
を行うステップを備える、方法。
【請求項2】
前記生物学的製剤にレーザ加熱を適用するための持続時間を選択するさらなるステップを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1本のレーザを使用して加熱した後に、遠心分離機で前記生物学的製剤を回転させるさらなるステップを備える、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1本のレーザを懸濁液中の前記生物学的製剤に直接当てるさらなるステップを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1本のレーザは、試験中の生物学的標本に当てられる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
生物学的標本を間接加熱するために、前記少なくとも1本のレーザを前記試薬に当てるさらなるステップを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
1本のレーザ光は、前記生物学的製剤を含有する複数のバイアルの1つごとに供給される、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
各レーザ光は、血漿赤血球を選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記血漿赤血球を優先的に選択し、懸濁液を加熱するのを回避しながら前記懸濁液中の前記血漿赤血球を加熱するために青緑レーザが供給される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザは、標本処理時間を短縮するために生体試料の加熱の加速を誘発するように当てられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
特定の選択されたレーザ波長スペクトルの使用は、赤血球の表面のみのインキュベーションを可能にする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ゲルカードベースの間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする他の試験を実行する際に試料及び試薬赤血球をインキュベートするために、選択された緑、赤、又は赤外線レーザが使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
生物学的検査中の生物学的製剤のインキュベーションのための方法であって、
a)少なくとも1つの生物学的製剤を採ること、及び前記生物学的製剤を試薬バイアルに入れることと、
b)前記生物学的製剤が存続する自然環境温度をシミュレーションするために、所定温度に前記生物学的製剤を加熱するように前記生物学的製剤に又はその近くにレーザ光源から少なくとも1本のレーザを向けることと
を行うステップを備える、方法。
【請求項14】
ターゲット温度への上昇を加速するために前記レーザを使用して生体試料を直接加熱するさらなるステップを備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
赤血球の表面上の結合部位を優先的にスイッチオン又はスイッチオフするために各々前記少なくとも1本のレーザの波長を変調するさらなるステップを備える、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生体試料を直接加熱するための温度を選択するために前記レーザを使用するさらなるステップを備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
赤血球抗原結合部位を調節することが可能なレーザ波長を同定するさらなるステップを備える、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体試料を直接加熱することなく、前記生体試料が存在する環境の温度をシミュレーションするための温度を選択するために前記レーザを使用するさらなるステップを備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
インキュベーションより前に、緑、赤、又は赤外色スペクトルからレーザを選択するさらなるステップを備える、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記生物学的製剤は、血漿/試薬赤血球懸濁液を備える、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法のステップは、間接抗グロブリン試験(IAT)において適用される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記方法のステップは、摂氏37度のインキュベーションを必要とする試料の試験において適用される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記方法のステップは、シミュレーションされる摂氏37度のインキュベーションを必要とする試料の試験において適用される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
血清学的検査の方法であって、
a)ゲルを含みゲル緩衝液中にAHGを有し、間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする試験に好適であるゲルカードを取ることと、
b)前記ゲルカードの加熱が回避されるように前記ゲルカードの上部における開口部を介して血漿/試薬赤血球懸濁液とコンタクトするためにレーザを使用することと、
c)前記レーザが前記懸濁液を37度に昇温させることを可能にすることと、
d)前記懸濁液をインキュベートすることと
を行うステップを備える、方法。
【請求項25】
前記ゲルカードのウェルごとにレーザエミッタから一連の屈折ビームを供給するさらなるステップを備える、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
遠心分離機中又は遠心分離機上にレーザインキュベーション機器を設けるさらなるステップを備える、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
開口部を有するゲルカードを使用した血清学的検査の方法であって、前記方法は、
a)ゲルを含みゲル緩衝液中にAHGを有し、間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする他の試験に好適である前記ゲルカードを取ることと、
b)バイアルの壁を直接通して、又は前記ゲルカードの加熱が回避されるように前記ゲルカードの上部における開口部を介して、血漿/試薬赤血球懸濁液に接触するためにレーザを使用することと、
c)生物学的材料が前記レーザとの接触時にターゲット温度に達するように、前記レーザが前記懸濁液を37度に昇温させることを可能にすることと
を行うステップを備える。
【請求項28】
生物学的検査で使用するための、及び開口部を有するゲルカードであって、前記開口部は、前記ゲルカードにおける前記開口部を介して血漿/試薬赤血球懸濁液とコンタクトするために少なくとも1本のレーザビームを使用した生体試料のインキュベーションを可能にするように適応されており、前記ゲルカードにおける前記開口部は、前記少なくとも1本のレーザビームによって前記ゲルカードの内容物を加熱することを優先して前記ゲルカードの加熱が回避されるように配置されている、ゲルカード。
【請求項29】
前記開口部は、前記ゲルカードの上部に位置する、請求項28に記載のゲルカード。
【請求項30】
前記ゲルカードの内容物は、前記ゲルカード内の試験チャンバのプラスチック壁を通して加熱されることができる、請求項29に記載のゲルカード。
【請求項31】
前記ゲルカードが、前記ゲルカードの前記内容物を加熱するためのレーザビーム源を含む遠心分離機に組み込まれる、請求項30に記載のゲルカード。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001] 本発明は、診断方法に関し、より具体的には、インビトロ診断を実行するための、及び特に様々な形態の血液型血清学的検査における、生体試料及び試薬のインキュベーションを増進するためにレーザが使用される診断方法に関する。本発明はまた、インキュベーションの速度を向上させるため、及び生物学的産物が通常見いだされる環境温度のより正確なシミュレーションを可能にするためにレーザを使用し、それにより検査結果の精度を増進、維持、及び増加させる、生物学的産物の血清学的検査の方法にも関する。本発明はさらに、試料が存在するインビボ環境温度条件を作り出す又はシミュレーションするために1本又は複数本のレーザを使用して生体試料及び他の試料を検査する方法に関する。本発明はまた、生物学的産物のモニタリングのためのレーザインキュベーション方法にも関する。さらに本発明は、特に、結合を増進するため、又は結合を防止するような方法で結合部位を変異させ、よって赤血球の抗原特性を変質させるために、特定の抗原/抗体結合部位の増進又は破壊を特にターゲットにするための方法を提供する。
【先行技術】
【0002】
[0002] 特定の細菌又はウイルスへの曝露を受けて抗体のレベルを検出及び測定するために、血清学的血液検査が実行される。人間が細菌又はウイルス(抗原)に曝露されると、身体の免疫系は、有機体に対して特定の抗体を産生する。血清学は、血清及び他の体液の科学研究である。実際上は、当該用語は通常、血清中の抗体の診断的同定を指す。
【0003】
[0003] そのような抗体は典型的には、感染に応答して(例えばミスマッチの輸血に応答して)他の異種蛋白質に対して(所与の微生物に対して)形成、又は(自己免疫疾患の場合には)自己の蛋白質に応答して形成される。血清学的検査は、感染が疑われるとき、リウマチ性疾患において、及び個人の血液型を調べるなどの他の多くの状況においてなど、診断目的で実行され得る。血清学的血液検査は、X染色体性無ガンマグロブリン血症のような抗体の欠如に関連するある特定の免疫不全の患者を診断するのに役立つ。血液は部分的に、蛋白質の懸濁液であり、そのほとんどは、それらが抗原であろうと抗体であろうと抗原特性を有する。これらの蛋白質は、それらの相補的な抗原/抗体と接触すると、体内で抗原反応を作り出す。このプロセスは、身体によって発生される免疫応答を含む。これらの抗原及び抗体を形成する短鎖及び長鎖蛋白質を変異させることによって、抗原/抗体結合を破壊することが可能である。これの一例は、ヒトに注入するためのIVIg製剤を作り出すためにヒト血液を使用するときである。ヒト血液中の無数の蛋白質断片により(特にそれがプールされているとき)、患者は、注入後に得体の知れない免疫反応を受ける。蛋白質断片が選択的に変性されることができる場合、及び又は患者の血液がそれらの反応を防止するように変異されることができる場合、そのような製剤の使用に対する大幅な制限が排除され得る。
【0004】
[0004] 研究されている抗体に依存して使用されることができる血清学的技法がいくつかある。それらは、ELISA、凝集、沈殿、補体結合、及び螢光抗体を含む。血清学的血液検査は、血液中の抗体を探す。それらはいくつかの検査技法を伴う場合がある。異なるタイプの血清学的検査が様々な病状を診断することができる。血清学的検査はすべて、免疫系によってつくられた蛋白質にすべて焦点を合わせるという共通点がある。検査をするためのプロセスは、血清学的検査中に検査室がどの技法を使用するかにかかわらず同じである。
【0005】
[0005] 抗原は、免疫系からの応答を起こさせる物質である。それらはほとんどの場合小さすぎて肉眼では見えない。それらは口、傷ついた皮膚、又は鼻道を通って人体に入ることができる。通例人間に影響を及ぼす抗原は、細菌、真菌、ウイルス、寄生虫を含む。免疫系は抗体を産生することによって抗原から防御する。これらの抗体は、抗原に付着しそれらを不活性化する粒子である。血清抗原血液検査は、血液試料中にある抗体及び抗原のタイプを同定し、その試料において感染のタイプを同定することができる。身体は自分の健常組織を外部からの侵入物と間違え、不要な抗体を産生するときもある。これは、これらの抗体を検出する血清学的検査によって検出され得る自己免疫障害として知られている。
【0006】
[0006] 血液型血清学的検査は、一般に、室温摂氏37度又はその他の変形形態でのインキュベーション段階を必要とするいくつかの試験を含む。37度のインキュベーションは、血液型関連抗体及び「寒冷凝集素」の正しい同定において極めて重要である試料条件をインビボで模倣するために使用される。従来の37度のインキュベーションは、水槽、温風インキュベータ、又は何らかの形態の金属製伝熱装置を使用して達成されている。上述のインキュベーション方法の各々は、欠点を伴う。
【0007】
[0007] 水槽は汚れており、試験装置(通常ガラス又はプラスチック管)を汚染する場合もあり、同様に被検体や使用者に影響を及ぼす場合もある重大な細菌汚染源となる場合もある。温風インキュベータは、被検体/試料を乾燥させる場合もあり、試料を昇温させるのに長時間かかり、感染の可能性がある材料の所望でないエアロゾルを引き起こす場合もある。これらの欠点に対して、業界ではアルミニウムブロックが採用されたが、それらは、インキュベーション中の試料を、ターゲット温度(通常37℃)を超えることなく正しい温度に昇温させるのに大幅な時間がかかる場合もあるという欠点を有し、これはインキュベーションの利益を損なう又は無効にさえする場合もある。
【0008】
[0008] ゲル試験は、免疫グロブリンクラス及びサブクラス、並びにRBCをコーティングする補体分画の判定で知られている。これらの試験は、様々な自己免疫疾患における自己抗体の血清学的な特徴付けを簡略化した。予後及び疾患結果を効果的に予測するために、自己免疫障害における自己抗体を血清学的に特徴付けることは重要である。この特徴付けは、従来の管技法に代わるものとして血液センタで導入されることができる、ゲル試験で効果的に実行されることができる。
【0009】
[0009] ゲルカードにおける血液型血清学的検査は特に、典型的には40-75マイクロリットルの生体試料及び試薬赤血球に対して大量のプラスチックカード及びゲル材料により、既知の方法の上述の欠点を悪化させる場合もある。さらに抗体試料が除去されたインビボ条件を最良に模倣するために、抗体及び抗原は、抗体上の結合部位が「アンフォールド」し、それらが体内で生じるのと同じ形状になるように十分長く温度で保たれる又はインキュベートされなければならない。歴史的に血液型血清学はずっと(今もなお)経験科学である。試験は有効であると知られているが、どの部位が活性化されているのか、インキュベーション中に交差結合があるのか、又はある特定の結合部位の存在が他のより弱い部位をマスクすることができるのかは知られていない。
【0010】
[0010] すべてのインキュベーションは、以下の3つの別個の熱区分を有する。
a)ターゲット温度の大幅なオーバーシュートなく生物学的材料が正しい温度に達するランプアップ時間、
b)蛋白質がアンフォールドし結合のために利用可能になる温度の時間、
c)抗体結合部位がアンフォールドしており、それらが体内にあるかのように抗原と結合するために利用可能になる結合段階。
【0011】
[0011] ゲル試験において、検査室は、ゲルカード(予めロードされたゲル、緩衝液、及び抗ヒトグロブリン(AHG)試薬を有する)、試薬赤血球(この試験システムで使用されるように製造された既知の抗原プロファイルのヒト赤血球)、試薬赤血球及び試料(患者の血漿)をロードするための何らかの形態のピペット、ゲルカードを最大15分間摂氏37度でインキュベートすることが可能である上述のような何らかの形態のインキュベータ、及びそれらがインキュベートされたらゲルカードを回転させるための遠心分離機を必要とする。
【0012】
[0012] 遠心分離工程は、結合および未結合材料タンパク質を抗ヒトグロブリンと接触させ、不要な結合を除去し、生じた真の血液型特異的結合をゲルマトリックスに通過させて捕捉させるように設計されている。この試験体制はまた、特定用途の分析器を使用して自動的に実行されることもできる。しかしながら、プロトコルは同じであり、ロード、インキュベート、回転、読取りである。
【0013】
[0013] レーザは、産業界では多様な用途を有する。レーザは流体を加熱するために採用されることができ、レーザの使用の多くが、産業界において特定の結果を達成するように特別に適合されているが、血清学的検査のために試料が採られたインビボ環境をより正確にシミュレーションするためにレーザを採用することは、以前は知られていなかった。
【0014】
[0014] 既知の技術の前述の欠点を考慮して、インビトロ診断を実行するための、及び特に(これに限定されないが)様々な形態の血液型血清学的検査における、生体試料及び試薬のインキュベーションに関連する方法を向上させる必要がある。1.試験結果及び使用者にさえも影響を及ぼす試料の汚染を引き起こす場合もある汚れた水槽の使用、2.試験試料を乾燥させ、試料を昇温させるのに長時間かかる方法、を含む既知の方法の欠点の代替物を提供し、欠点を克服する必要がある。また、先行技術の方法の短所を克服又は少なくとも改善するために、血清学的試験の効率及び精度、並びに特に様々な形態の血液型血清学的検査の精度を増加させる必要もある。
【発明の概要】
【0015】
[0015] 本発明は、生体試料のインキュベーションの方法を提供し、より具体的には、インビトロ診断を実行するための、及び特に、これに限定されないが様々な形態の血液型血清学的検査における、生物学的製剤及び試薬をインキュベートするためにレーザが使用されるインキュベーションの方法を提供する。本発明はさらに、インキュベーションの速度を向上させるため、及び、検査結果の高精度につながる、生物学的製剤が自然に見いだされる環境温度のより正確なシミュレーションを可能にするためにレーザの使用を組み込む生物学的産物の血清学的検査の方法を提供する。本発明はさらに、インビトロ診断、特にこれに限定されないが様々な形態の血液型血清学的検査を実行するための試料及び試薬のインキュベーションを増進するためにレーザ/赤外線技術を使用するための方法を提供する。
【0016】
[0016] 本発明は、特に(これに限定されないが)ゲル試験を参照して説明される。その試験において、検査室は、以下を必要とする。
1.ゲルカード(予めロードされたゲル、緩衝液、及び抗ヒトグロブリン(AHG)試薬を有する)、
2.試薬赤血球(この試験システムで使用されるように製造された既知の抗原プロファイルのヒト赤血球)、
3.試薬赤血球及び試料(患者の血漿)をロードするためのある形態のピペット、
4.ゲルカードを最大15分間摂氏37度でインキュベートすることが可能である上述のような何らかの形態のインキュベータ、及び
5.ゲルカードがインキュベートされたらそれらを回転させるための遠心分離機。
【0017】
[0017] 遠心分離ステップは、任意の所望でない結合を除去し、生じた任意の真の血液型特異的結合がゲルマトリックスに移って捕捉されることを可能にして、結合及び非結合材料蛋白質が抗ヒトグロブリンと接触することを可能にするように設計される。この試験体制はまた、特定用途の分析器を使用して自動的に実行されることもできる。しかしながら、プロトコルは同じであり、ロード、インキュベート、回転、及び読取りである。
【0018】
[0018] 1つの広い形態では、本発明は、生物学的検査中に生物学的製剤をインキュベートするための方法を備え、本方法は、
インキュベートされることが必要とされる選択された生物学的製剤を採ることと、
生物学的製剤が存在する通常環境のターゲット温度をシミュレーションするターゲット温度までレーザを使用して生物学的製剤の制御された加熱を適用することと
を行うステップを備える。
【0019】
[0019] 望ましい実施形態によれば、本方法は、レーザを直接生物学的製剤に当てるさらなるステップを含む。
【0020】
[0020] 別の広い形態では、本発明は、
生物学的検査中に生物学的製剤のインキュベーションをシミュレーションするための方法を備え、本方法は、
a)選択された生物学的製剤を採ることと、
b)少なくとも1本のレーザを生物学的製剤に向けること、及び生物学的製剤において誘発される所定のターゲット温度に達する効果をシミュレーションするように生物学的製剤に作用することと
を行うステップを備える。
【0021】
[0021] 1つの実施形態によれば、レーザは、生体試料をターゲット温度に直接加熱する目的で使用され、その結果、従来のインキュベーションと比較して加速された時間でターゲット温度に達する。代替的な実施形態では、ターゲット温度はシミュレーションされ、レーザ波長を変調することによって、赤血球表面上の結合部位は優先的にスイッチオン及びオフされることができる。レーザ/IR技術は、加熱を加速することが可能であるが、赤血球表面上の結合部位を優先的にスイッチオン及びオフのためにレーザ波長を調節することも可能である。
【0022】
[0022] 本発明の1つの態様によれば、レーザの使用は、操作者が選択的に生体試料を加熱すること、又は赤血球抗原結合部位を調節することが可能なレーザ波長を同定することを可能にする。よって、加速されたインキュベーションは、レーザ加熱によって直接的に、又は被試験生物学的製剤が存在する通常環境のターゲット温度をシミュレーションするためにレーザを使用することによる加熱の効果を達成することによって、達成される。それゆえ、生体試料を実際に加熱することなく、必要とされるインキュベーション温度をシミュレーションすることが可能である。
【0023】
[0023] 好ましくは、使用されるレーザは、緑色、赤色、又は赤外色のスペクトルである。好ましい実施形態によれば、生物学的製剤は、血漿/試薬赤血球懸濁液血漿を含む試料及び試薬である。
【0024】
[0024] 1つの実施形態によれば、本方法のステップは、間接抗グロブリン試験(IAT)、及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする、又は37度のインキュベーションのシミュレーションされた効果を必要とする他の試験において適用される。
【0025】
[0025] 別の広い形態では、本発明は、
a)ゲルを含みゲル緩衝液中にAHGを有し、そして間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする他の試験に好適であるゲルカードを取ることと、
b)ゲルカードの加熱が回避されるように、ゲルカードの上部における開口部を介して血漿/試薬赤血球懸濁液に接触するためにレーザを使用することと、
c)レーザが懸濁液を37度に昇温させることを可能にすることと、
d)懸濁液をインキュベートすることと
を行うステップを備える血清学的検査の方法を備える。
【0026】
[0026] 別の広い形態では、本発明は、
生物学的検査で使用するための、及び開口部を有するゲルカードを備え、当該開口部は、ゲルカードにおける開口部を介して血漿/試薬赤血球懸濁液に接触するためにレーザビームを使用した生体試料のインキュベーションを可能にするように適応されており、カードにおける開口部は、レーザビームを介してゲルカードの内容物を加熱することを優先してゲルカードの加熱が回避されるように配置される。試料はまた、試験チャンバのプラスチック壁を通るレーザを使用しても加熱され得る。
【0027】
[0027] 好ましくは、開口部はゲルカードの上部に位置する。1つの実施形態によれば、レーザはインキュベーションを加速し、これによりインキュベーションの第1段階を効果的に排除し、迅速な生理学的条件及びさらにより速いインキュベーションにつながる第2段階を大いに増進し加速する。
【0028】
[0028] 好ましい実施形態によれば、ゲルカードのウェルごとにレーザエミッタから一連の屈折ビームが供給される。さらなる実施形態では、インキュベーション機器は、遠心分離機の中に組み込まれることができる。これは大幅な時間を削減し、生産力を向上させ、自動システムを、機能するのがより速く、かつより容易にする。レーザインキュベーションは、先行技術に対して利点を提供し、現在の利用可能なシステムのすべての制限を除去する。これは、血液型血清学における、実行するのがより容易で、より感受性があり、より速い試験システムを開発することを可能にする。
【0029】
[0029] 本方法の態様の別の広い形態では、本発明は、
開口部を有するゲルカードを使用した血清学的検査の方法を備え、
本方法は、
a)ゲルを含みゲル緩衝液中にAHGを有し、間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする他の試験に好適であるゲルカードを取ることと、
b)容器の壁を直接通して、又はゲルカードの加熱が回避されるようにゲルカードの上部における開口部を介して、血漿/試薬赤血球懸濁液に接触するためにレーザを使用することと、
c)生物学的材料がレーザとの接触時にターゲット温度に達するように、レーザが懸濁液を37度に昇温させることを可能にすることと
を行うステップを備える。
【0030】
[0030] これらは、本発明の他の目的と共に、本発明を特徴付ける新規性の様々な特徴と併せて、本開示に付属し本開示の一部を形成する特許請求の範囲における特徴とともに示される。本発明をよりよく理解するために、その動作上の利点及びその使用によって達成される特定の目的は、本発明の好ましい実施形態を含む様々なものが例示されている説明事項及び添付の例示を参照するべきである。
【0031】
[0031] 本発明は、既知の先行技術及び特定された短所の代替物を提供する。上述の目的及び他の目的並びに利点が下記の説明から明らかになる。説明では、その一部を形成し、本発明が実施され得る特定の実施形態が例示により示される、添付の図が参照される。これらの実施形態は当業者が本発明を実施することを可能にするために十分詳細に説明され、他の実施形態が利用され得ること、及び本発明の範囲から逸脱することなく構造的変更が行われ得ることが理解されるべきである。添付の例示において、同様の参照記号は、いくつかの図を通して同じ又は同様の部分を指定する。それゆえ以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって最良に規定される。
【0032】
[0032] 下記の詳細な説明を考慮すると、本発明はよりよく理解され、上記以外の目的が明らかになる。そのような説明が、ここで、好ましいが非限定的な実施形態にしたがって、及び以下の添付の例示を参照して、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】1つの実施形態によるレーザインキュベーションシステムの概略的な配置を示す図。
【詳細な説明】
【0034】
[0033] 本発明はここで、好ましい実施形態だが非限定的な実施形態にしたがって、及び
図1を参照して、より詳細に説明される。本明細書で参照される例は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。本発明の様々な実施形態が本明細書で説明されているが、これらは修正可能であると理解され、それゆえ本明細書における開示は、記載された正確な詳細を限定するものと解釈されるべきではなく、本明細書の範囲内に入るものとしてそのような変更及び改変を利用するためのものである。
【0035】
[0034] 歴史的に血液型血清学は、試験中どの部位が活性化されているのか、インキュベーション中に交差結合があるのか、又はある特定の結合部位の存在が他のより弱い部位をマスクすることができるのかが知られていないので、経験科学である。
【0036】
[0035] 本発明は、例示の目的のためにゲルカードを参照して本明細書で説明されるが、本発明があらゆる形態及び検査プロトコルの血液型血清学的検査から離れた用途を有することが当業者によって理解され、本方法が、ゲルカードにだけでなく、インビボ温度で生体試料をインキュベートするためにインキュベーションが使用されるか、又はインキュベーションの効果がシミュレーションされる他の検査方法にも適用可能であることが企図される。血清学的検査以外の領域における用途の一例は、インビボで使用されるように設計された新薬又は他の材料を試験することである。
【0037】
[0036]
図1を参照すると、本発明の1つの実施形態によるレーザインキュベーションシステム1の概略的なレイアウトが示されている。システム1は、複数のゲルカード3、4、5、6、7、及び8を受けて保つゲルカード保持プレート2を示す。各ゲルカードは、複数のバイアル9、10、11、12、13、及び14を含み、それらは使用中、試薬、生物学的標本、血液産物、又は同様のもので各々満たされている。保持プレート2は、遠心分離機15に搭載され、遠心分離機15に組み込まれたモータの作用下で自由に回転する。これは次に、必要に応じて標本の分離のためにゲルカードが回転することを可能にする。1つの実施形態によるゲルカードは、試薬赤血球及び血漿溶液を含む。蓋16に組み込まれて遠心分離機15は、少なくとも1本のレーザ光を発出するレーザ光源17である。示されている実施形態では、6本のレーザ光線21、22、23、24、25、26が、LED30、31、32、33、34、及び35を介して伝導している。
【0038】
[0037] 6本が示されているが、LEDレーザ光の数は、必要に応じて6本より少なく、又は6本より多くに変更できることが理解されよう。レーザ光は、LEDを介して試薬/生物学的標本バイアルの各々に伝導される。各バイアルに含まれるものは、試薬赤血球及び血漿懸濁液20である。この例では、各レーザ光は血漿と赤血球を選択し、青緑レーザが優先的に赤血球を選択し、懸濁液を加熱するのを回避しながら懸濁液中の赤血球を加熱する。青/緑レーザは、血漿又は他の構成要素/成分ではなくむしろ赤血球によって吸収される。これは、生体試料の加熱の加速を誘発し、処理時間を短縮する。
【0039】
[0038] 特定のスペクトルレーザの使用は、赤血球の表面のみのインキュベーションを可能にする。また、懸濁液全体をインキュベートすることになる不活性色素の使用も企図される。よってレーザ加熱を使用して、操作者は、生体試料の直接加熱、懸濁液の加熱又は赤血球の表面の加熱による試料の間接加熱のような加熱のオプションを選択し得る。広いレンジのレーザ波長の使用が企図されているが、980nmのレーザレンジが1つの実行可能な選択である。また時間(加熱の持続時間)及び波長の変形形態が、レーザ加熱方法の用途にしたがって選択され得る。バイアル内容物の加速された直接又は間接加熱に各々代表されるレーザ波長と時間の関係がある。
図1の実施形態では、ゲルカードバイアルごとに1本のレーザ光が供給されている。よって、複数のゲルカード及び複数のバイアルのインキュベーションが1つの遠心分離機で同時に実行できることが理解されよう。
【0040】
[0039] 好ましい実施形態によれば、ゲルカードベースの間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする他の試験を実行する際に試料及び試薬赤血球をインキュベートするために、緑、赤、又は赤外線レーザが使用される。緑色スペクトルのレーザは、溶液中の蛋白質を損なうことなく、流体を摂氏約37度に加熱できることが知られている。
【0041】
[0040] 本発明は、レーザが、容器のプラスチック壁を直接通して、又はゲルカードの上部における開口部を介して、血漿/試薬赤血球懸濁液に接触することを可能にする。レーザは、特に生物学的材料に接触し、それにより、プラスチックカード(正しいレーザ波長は、通過するプラスチックを加熱しない)、ゲル、又はゲル緩衝液中のAHGの加熱を回避する。レーザの作用は、材料を37度に素早く昇温させ、非常に速いインキュベーション段階を効率的に可能にする。
【0042】
[0041] この結果として、レーザインキュベーションの使用は、インキュベーションの第1段階を事実上排除し、迅速な生理学的条件及びさらにより速いインキュベーションにつながる第2段階を大いに増進し加速する。さらにウェルごとに1つのレーザ光源を用いると、1つの実施形態によるインキュベーション機器は、遠心分離機の中に組み込まれることができ、大幅な時間を削減し、生産力を向上させ、自動システムを、機能するのがより速く、かつより容易にする。レーザインキュベーションは、可能性として、現在の利用可能なシステムの制限のすべてを克服し、血液型血清学における、実行するのがより容易で、より感受性があり、より速い試験システムを開発することを可能にする。
【0043】
[0042] レーザインキュベーションシステムは、他の形態の生物学的検査に適応されることができるが、ゲルカード試験を含むがこれに限定されない、あらゆる形態及び検査プロトコルの血液型血清学的検査に特に適している。インビボ温度で生体試料をインキュベートする必要があるときはいつでもレーザインキュベーションが使用できることが企図される。これは、新薬又はインビボで使用されるように設計された他の材料を試験する際に使用されることができる。
【0044】
[0043] レーザ/IR技術が加熱を加速できることが企図されるだけでなく、レーザ波長を変調することによって赤血球表面上の結合部位が優先的にスイッチオン及びオフできることも期待される。さらに、加熱するためにレーザが使用されることができること、又は代替的に、レーザは血清及び試薬赤血球を37度に加熱するために必要でなくてもよくむしろ、赤血球抗原結合部位を調節する音が可能なレーザ波長を同定するために必要であることが企図される。
【0045】
[0044] 本発明は、ゲルカードベースの間接抗グロブリン試験(IAT)及び摂氏37度のインキュベーションを必要とする他の試験を実行する際に試料及び試薬赤血球をインキュベートするためのレーザ/IRに適用可能である。例えば緑色スペクトルのレーザは、血液中のヘモグロビンを刺激し、よって溶液中の蛋白質を損なうことなく血液を摂氏約37度に加熱する。さらに本発明は、赤血球表面上の特定の結合部位を増進するために使用でき、よって抗原結合を優先的に増進又は防止する。このプロセスはまた、赤血球の抗原特性を変質させるためにも使用でき、よって血液型O+の血液をO-の血液に「変換」する。さらに本技法は、再循環ポンプ機構を介してインビボでヒト血液の抗原状態を変質させるために使用され得る。
【0046】
[0045] 本発明は、レーザが血漿/試薬赤血球懸濁液に接触することを可能にする。これは、1つの実施形態によれば、ゲルカードにおける開口部を介したものであり得る。これは、特に生物学的材料と接触することを可能にし、よってプラスチックカード、ゲル、又はゲル緩衝液中のAHGを加熱しない。レーザは、非常に速いインキュベーション段階を可能にする。レーザインキュベーションの使用は、インキュベーションのためのランプアップ時間を排除し、迅速な生理学的条件及びさらにより速いインキュベーションにつながる、蛋白質アンフォールドの第2段階を大いに増進し加速する。
【0047】
[0046] 波長と抗原結合部位活性化との間に確立されたリンクにより、レーザインキュベーションは、37度のインキュベーションを必要としなくてもよくむしろ、結合部位を選択的に活性化し、試料/試薬赤血球の組合せにおいて結合を開始するためにレーザ波長の連続的な変形を必要とし得る。これは、現在の場合のようなマッチした試薬赤血球セットの必要性を排除することができ、代わりに、すべての既知の抗原結合部位を含有する細胞の混合物と置き換えられる。レーザインキュベーションは、可能性として、現在の利用可能なシステムの制限のすべてに対処し、血液型血清学における、実行するのがより容易で、より感受性があり、より速い試験システムを開発することを可能にする。
【0048】
[0047] あらゆる形態及び検査プロトコル、すなわちゲルカードだけでなくすべての方法の血液型血清学的検査から離れて、レーザインキュベーションは、インビボ温度で抗原・抗体反応を活性化するために生体試料をインキュベートする必要があるときはいつでも使用され得る。これは、サンドイッチElisa法又は複数ステップのインキュベーション段階を必要とする他の試験方法で使用され得る。他の用途は、新薬又はインビボで使用されるように設計された他の材料を試験することを含む。
【0049】
[0048] 本発明の全体的な趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書で広く説明された本発明に対して多くの変形及び修正を行えることが、当業者によって認識されよう。
【外国語明細書】