(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025778
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】橋桁支承部の異常監視方法及び橋桁支承部の異常監視システム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20230216BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01M7/02 H
G01H1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131122
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 保行
(72)【発明者】
【氏名】神谷 弘志
(72)【発明者】
【氏名】秋山 啓太
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BB64
2G064CC02
2G064CC29
2G064CC43
2G064DD08
2G064DD12
2G064DD15
(57)【要約】
【課題】水晶振動式加速度センサーによって橋桁支承部の異常を監視する橋桁支承部の異常監視方法及び橋桁支承部の異常監視システムを実現する。
【解決手段】鋼橋3の支承部に設置した水晶振動式加速度センサー13を用いて、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定することで、測定により取得した加速度データに紐づく値(例えば、加速度データの全振幅の値、最大値、最小値、また速度データの全振幅の値、最大値、最小値、また変位データの全振幅の値、最大値、最小値)と、予め定められている相関とに基づいて鋼橋3のアオリ量を推定することができ、その推定したアオリ量が閾値よりも大きな値である場合には鋼橋3に異常があるものと判定するようにして、橋桁支承部の異常の有無を監視することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁の支承部に設置した水晶振動式加速度センサーを用いて、前記支承部の異常を監視する橋桁支承部の異常監視方法であって、
前記水晶振動式加速度センサーによって、列車通過時における前記橋桁の振動の加速度を測定して加速度データを取得する加速度測定工程と、
前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理工程と、
フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部における異常の有無を判定する判定工程と、
を有し、
前記相関は、予め列車通過時に、水晶振動式加速度加速度センサーによって複数回測定した前記橋桁の振動の加速度のデータに紐づく値と、変位センサーによって複数回測定した前記橋桁が上下に動くアオリ量とを対応付けたものであることを特徴とする橋桁支承部の異常監視方法。
【請求項2】
前記判定工程は、
フィルタ処理にて抽出された加速度データの波形を取得する加速度波形取得工程と、
取得した加速度データの波形に関する値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データの波形に関する値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部に異常が生じているか否か判断する判断工程と、
を含み、
前記加速度データの波形に関する値は、加速度データの波形の全振幅の値、加速度データの最大値、加速度データの最小値のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の橋桁支承部の異常監視方法。
【請求項3】
前記判定工程は、
フィルタ処理にて抽出された加速度データを積分して速度データに変換し、その速度データの波形を取得する速度波形取得工程と、
取得した速度データの波形に関する値と、前記支承部におけるアオリ量と速度データの波形に関する値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部に異常が生じているか否か判断する判断工程と、
を含み、
前記速度データの波形に関する値は、速度データの波形の全振幅の値、速度データの最大値、速度データの最小値のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の橋桁支承部の異常監視方法。
【請求項4】
前記判定工程は、
フィルタ処理にて抽出された加速度データを積分して速度データに変換するデータ変換工程と、
得られた速度データを積分して変位データに変換し、その変位データの波形を取得する変位波形取得工程と、
取得した変位データの波形に関する値と、前記支承部におけるアオリ量と変位データの波形に関する値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部に異常が生じているか否か判断する判断工程と、
を含み、
前記変位データの波形に関する値は、変位データの波形の全振幅の値、変位データの最大値、変位データの最小値のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の橋桁支承部の異常監視方法。
【請求項5】
前記水晶振動式加速度センサーは、橋台上に支承を介して前記橋桁が据え付けられている橋桁支承部において、前記橋桁を構成する鋼材の平面状部分の上面に設置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の橋桁支承部の異常監視方法。
【請求項6】
前記アオリ量に関する相関は、前記橋桁の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔未満の場合と、前記橋桁の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔以上の場合とで分類されており、前記水晶振動式加速度センサーを設置した前記橋桁の支間長に応じて前記判定工程が実行されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の橋桁支承部の異常監視方法。
【請求項7】
請求項1に記載の橋桁支承部の異常監視方法を実施する橋桁支承部の異常監視システムであって、
列車通過時における前記橋桁の振動の加速度を測定する前記水晶振動式加速度センサーを備えた加速度計測装置と、
前記加速度計測装置と通信可能な情報管理装置と、を備え、
当該橋桁支承部の異常監視システムは、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データに基づいて、前記支承部における異常に関する報知を実行する制御手段を備えたことを特徴とする橋桁支承部の異常監視システム。
【請求項8】
前記制御手段は、
前記加速度計測装置に含まれ、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データを前記情報管理装置に送信する処理を実行する計測装置側制御部と、
前記情報管理装置に含まれ、前記加速度計測装置から送信された前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部における異常の有無を判定する処理を実行して、その異常に関する報知を実行する管理装置側制御部と、
を有することを特徴とする請求項7に記載の橋桁支承部の異常監視システム。
【請求項9】
前記制御手段は、
前記加速度計測装置に含まれ、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づく、列車通過時における前記橋桁のアオリ量に関するデータを前記情報管理装置に送信する処理を実行する計測装置側制御部と、
前記情報管理装置に含まれ、前記加速度計測装置から送信された前記アオリ量に関するデータに基づいて前記支承部における異常の有無を判定する処理を実行して、その異常に関する報知を実行する管理装置側制御部と、
を有することを特徴とする請求項7に記載の橋桁支承部の異常監視システム。
【請求項10】
前記制御手段は、
前記加速度計測装置に含まれ、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部における異常の有無を判定する処理を実行し、その判定結果を前記情報管理装置に送信する処理を実行する計測装置側制御部と、
前記情報管理装置に含まれ、前記加速度計測装置から送信された前記判定結果に基づき、前記支承部における異常に関する報知を実行する管理装置側制御部と、
を有することを特徴とする請求項7に記載の橋桁支承部の異常監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁支承部の異常監視方法及び橋桁支承部の異常監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道橋に取り付けた加速度センサーによって、列車通過時における橋桁の振動の加速度の変化を測定して、鉄道橋(例えば鋼橋)の支承部の異常を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術は、加速度センサーによって測定した加速度に基づいて、「アオリ」と称される桁の上下のバタつきを検出するものではなかった。
鉄道橋の支承部に「アオリ」が発生すると、支承部近傍の部材が損傷してしまうことがあるので、損傷など不具合が発生する前に「アオリ」を検出することが望ましい。
そこで、本発明者らが鋭意検討し、橋桁(鋼橋)に取り付けた加速度センサーによって「アオリ」に関する異常を検出する技術を開発するに至った。
【0005】
本発明の目的は、加速度センサーによって橋桁支承部の異常を監視する橋桁支承部の異常監視方法及び橋桁支承部の異常監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本出願に係る一の発明は、
橋桁の支承部に設置した水晶振動式加速度センサーを用いて、前記支承部の異常を監視する橋桁支承部の異常監視方法であって、
前記水晶振動式加速度センサーによって、列車通過時における前記橋桁の振動の加速度を測定して加速度データを取得する加速度測定工程と、
前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理工程と、
フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部における異常の有無を判定する判定工程と、
を有し、
前記相関は、予め列車通過時に、水晶振動式加速度加速度センサーによって複数回測定した前記橋桁の振動の加速度のデータに紐づく値と、変位センサーによって複数回測定した前記橋桁が上下に動くアオリ量とを対応付けたものであるようにした。
【0007】
かかる構成の橋桁支承部の異常監視方法であれば、水晶振動式加速度センサーを用いて、列車通過時における橋桁の振動の加速度を測定することで、測定により取得した加速度データに紐づく値と、予め定められている相関とに基づいて橋桁のアオリ量を推定することができ、その推定したアオリ量が閾値(基準値)よりも大きな値の場合には橋桁に異常があるものと判定するようにして、橋桁支承部の異常の有無を監視することができる。
なお、判定工程では、例えば、推定したアオリ量が所定の閾値を超える場合に、橋桁のバタつきが通常よりも大きくなったとして、支承部に異常が生じたものとの判定を行う。
【0008】
また、望ましくは、
前記判定工程は、
フィルタ処理にて抽出された加速度データの波形を取得する加速度波形取得工程と、
取得した加速度データの波形に関する値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データの波形に関する値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部に異常が生じているか否か判断する判断工程と、
を含み、
前記加速度データの波形に関する値は、加速度データの波形の全振幅の値、加速度データの最大値、加速度データの最小値のいずれかであるようにする。
【0009】
水晶振動式加速度センサーを用いて測定した加速度から加速度データの波形を取得して、加速度データの波形の全振幅の値、加速度データの最大値、加速度データの最小値のいずれかを求めれば、予め定められている相関に基づいて橋桁のアオリ量を的確に推定することが可能になるので、橋桁の異常に関する判定を適正に行うことができる。
【0010】
また、望ましくは、
前記判定工程は、
フィルタ処理にて抽出された加速度データを積分して速度データに変換し、その速度データの波形を取得する速度波形取得工程と、
取得した速度データの波形に関する値と、前記支承部におけるアオリ量と速度データの波形に関する値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部に異常が生じているか否か判断する判断工程と、
を含み、
前記速度データの波形に関する値は、速度データの波形の全振幅の値、速度データの最大値、速度データの最小値のいずれかであるようにする。
【0011】
水晶振動式加速度センサーを用いて測定した加速度のデータから速度データの波形を取得して、速度データの波形の全振幅の値、速度データの最大値、速度データの最小値のいずれかを求めれば、予め定められている相関に基づいて橋桁のアオリ量を的確に推定することが可能になるので、橋桁の異常に関する判定を適正に行うことができる。
【0012】
また、望ましくは、
前記判定工程は、
フィルタ処理にて抽出された加速度データを積分して速度データに変換するデータ変換工程と、
得られた速度データを積分して変位データに変換し、その変位データの波形を取得する変位波形取得工程と、
取得した変位データの波形に関する値と、前記支承部におけるアオリ量と変位データの波形に関する値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部に異常が生じているか否か判断する判断工程と、
を含み、
前記変位データの波形に関する値は、変位データの波形の全振幅の値、変位データの最大値、変位データの最小値のいずれかであるようにする。
【0013】
水晶振動式加速度センサーを用いて測定した加速度のデータから変位データの波形を取得して、変位データの波形の全振幅の値、変位データの最大値、変位データの最小値のいずれかを求めれば、予め定められている相関に基づいて橋桁のアオリ量を的確に推定することが可能になるので、橋桁の異常に関する判定を適正に行うことができる。
【0014】
また、望ましくは、
前記水晶振動式加速度センサーは、橋台上に支承を介して前記橋桁が据え付けられている橋桁支承部において、前記橋桁を構成する鋼材の平面状部分の上面に設置されているようにする。
【0015】
こうすることで、列車通過時における橋桁の振動の加速度を好適に測定することができる。
【0016】
また、望ましくは、
前記アオリ量に関する相関は、前記橋桁の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔未満の場合と、前記橋桁の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔以上の場合とで分類されており、前記水晶振動式加速度センサーを設置した前記橋桁の支間長に応じて前記判定工程が実行されるようにする。
【0017】
橋桁(鋼橋)の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔未満の場合、その橋桁を列車が通過する際、車両の前後両側の車輪が橋桁上に載らない状態が生じる。
一方、橋桁(鋼橋)の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔以上の場合、その橋桁を列車が通過する際、車両の前後両側の車輪の少なくとも一方が必ず橋桁上に載ることになる。
つまり、橋桁の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔未満である場合、列車が橋桁を通過する際に橋桁に車輪加振が作用しないタイミングがあり、橋桁の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔以上である場合、列車が橋桁を通過する際には橋桁に車輪加振が常に作用することになる。
このように橋桁の支間長に応じて、橋桁に作用する車輪加振に違いがあることから、アオリ量の相関に関し、橋桁の支間長に応じて分類するようにすれば、より強い相関が得られるようになるので、橋桁の異常に関する判定をより適正に行うことができる。
【0018】
また、本出願に係る他の発明は、上記した橋桁支承部の異常監視方法を実施するための橋桁支承部の異常監視システムであって
列車通過時における前記橋桁の振動の加速度を測定する前記水晶振動式加速度センサーを備えた加速度計測装置と、
前記加速度計測装置と通信可能な情報管理装置と、を備え、
当該橋桁支承部の異常監視システムは、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データに基づいて、前記支承部における異常に関する報知を実行する制御手段を備えるようにした。
【0019】
かかる構成の橋桁支承部の異常監視システムであれば、加速度計測装置が備えている水晶振動式加速度センサーによって、列車通過時における橋桁の振動の加速度を測定することで、測定により取得した加速度データに紐づく値と、予め定められている相関とに基づいて橋桁のアオリ量を推定することができ、その推定したアオリ量が基準値より大きな場合には橋桁に異常があるものと判定するようにして、橋桁支承部の異常の有無を監視することができる。
特に、この異常監視システムであれば、橋桁の管理者などに向けて橋桁支承部における異常の有無を報知することができる。
【0020】
また、望ましくは、
前記制御手段は、
前記加速度計測装置に含まれ、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データを前記情報管理装置に送信する処理を実行する計測装置側制御部と、
前記情報管理装置に含まれ、前記加速度計測装置から送信された前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部における異常の有無を判定する処理を実行して、その異常に関する報知を実行する管理装置側制御部と、
を有するようにする。
【0021】
この橋桁支承部の異常監視システムであれば、加速度計測装置が備えている水晶振動式加速度センサーによって測定した加速度のデータが情報管理装置に送信され、情報管理装置において、加速度データから列車通過時における橋桁のアオリ量を求め、その求めたアオリ量に基づいて支承部における異常の有無を判定する処理を実行して、その異常に関する報知を行うことができる。
【0022】
また、望ましくは、
前記制御手段は、
前記加速度計測装置に含まれ、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づく、列車通過時における前記橋桁のアオリ量に関するデータを前記情報管理装置に送信する処理を実行する計測装置側制御部と、
前記情報管理装置に含まれ、前記加速度計測装置から送信された前記アオリ量に関するデータに基づいて前記支承部における異常の有無を判定する処理を実行して、その異常に関する報知を実行する管理装置側制御部と、
を有するようにする。
【0023】
この橋桁支承部の異常監視システムであれば、加速度計測装置の水晶振動式加速度センサーによって測定した加速度データから、列車通過時における橋桁のアオリ量を加速度計測装置において求め、その求めたアオリ量に関するデータが情報管理装置に送信され、情報管理装置においてアオリ量に関するデータに基づいて支承部における異常の有無を判定する処理を実行して、その異常に関する報知を行うことができる。
【0024】
また、望ましくは、
前記制御手段は、
前記加速度計測装置に含まれ、前記水晶振動式加速度センサーが測定して取得した前記加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、前記支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、前記支承部における異常の有無を判定する処理を実行し、その判定結果を前記情報管理装置に送信する処理を実行する計測装置側制御部と、
前記情報管理装置に含まれ、前記加速度計測装置から送信された前記判定結果に基づき、前記支承部における異常に関する報知を実行する管理装置側制御部と、
を有するようにする。
【0025】
この橋桁支承部の異常監視システムであれば、加速度計測装置の水晶振動式加速度センサーによって測定した加速度データから、列車通過時における橋桁のアオリ量を加速度計測装置において推定するとともに、その推定したアオリ量に基づいて支承部における異常の有無を判定する処理を実行し、その判定結果が情報管理装置に送信される。
そして、情報管理装置においてその判定結果に基づく支承部の異常に関する報知を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、加速度センサーとして水晶振動式加速度センサーを用い、その水晶振動式加速度センサーによって列車通過時における橋桁の振動の加速度を測定して得た加速度データに基づいて、橋桁のアオリ量を適正に推定することが可能になり、好適に橋桁支承部の異常を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】鋼橋支承部の異常監視システムに関する説明図である。
【
図2】鋼橋支承部における加速度計測装置(水晶振動式加速度センサー)の設置箇所の説明図であり、側面図(a)と、
図2(a)のb-b線における断面図(b)である。
【
図3】鋼橋支承部の異常監視システムに関する概略ブロック図である。
【
図4】各種加速度センサーが測定した鋼橋の振動の加速度に関する指標と、その鋼橋でのアオリ量との相関について決定係数に基づき検証した結果を示す表であり、サーボ式加速度センサーの結果(a)、圧電式加速度センサーの結果(b)、水晶振動式加速度センサーの結果(c)、静電容量式加速度センサーの結果(d)である。加速度に関する指標と
【
図5】鋼橋支承部でのアオリに起因する変位波形の卓越周波数に関する説明図である。
【
図6】鋼橋における列車の車両・車輪間隔による加振に起因する卓越周波数に関する説明図であり、列車の概略図(a)と、算出された卓越周波数(b)である。
【
図7】加速度データの低周波数帯の波形に関する説明図であり、「アオリ」が無い場合(a)と、「アオリ」がある場合(b)を示している。
【
図9】加速度データ・速度データ・変位データの波形から読み取る、最大値、最小値、全振幅の値に関する説明図である。
【
図10】アオリ量と加速度データ相関についての説明図であり、加速度全振幅に関する相関(a)と、加速度の最大値に関する相関(b)と、加速度の最小値に関する相関(c)である。
【
図11】アオリ量と速度データ相関についての説明図であり、速度全振幅に関する相関(a)と、速度の最大値に関する相関(b)と、速度の最小値に関する相関(c)である。
【
図12】アオリ量と変位データ相関についての説明図であり、変位全振幅に関する相関(a)と、変位の最大値に関する相関(b)と、変位の最小値に関する相関(c)である。
【
図13】アオリ量の相関に関し、鋼橋の支間長11.7mで分類した場合の決定係数に関する説明図であり、表(a)とグラフ(b)である。
【
図14】本実施形態の鋼橋支承部の異常監視方法に関するフローチャートである。
【
図15】鋼橋支承部の異常監視システムの変形例に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明に係る橋桁支承部の異常監視方法、橋桁支承部の異常監視システムの実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
本実施形態では、鉄道橋(鋼橋)の支承部であって、鋼橋の橋桁支承部に相当する鋼橋支承部を監視するものとし、鋼橋支承部の異常監視方法と鋼橋支承部の異常監視システムについて説明する。
本実施形態の鋼橋支承部の異常監視方法は、例えば、鋼橋支承部の異常監視システムによって鋼橋支承部(橋桁支承部)の異常を監視する技術であって、特に、鋼橋の橋桁の支承部に設置した水晶振動式加速度センサーを用いて、支承部の異常を監視するものである。
本実施形態では、支承部の異常として、「アオリ」と称される鋼橋支承部の上下のバタつきに関し、そのバタつきの変位量(アオリ量)について監視するものとする。
【0029】
[鋼橋支承部の異常監視システム]
本実施形態の鋼橋支承部の異常監視システム100は、例えば、
図1に示すように、橋台1上に支承2を介して鋼橋3が据え付けられている鋼橋支承部に設置されている加速度計測装置10と、加速度計測装置10と通信可能な情報管理装置20を備えている。
【0030】
加速度計測装置10は、後述する水晶振動式加速度センサー13を備えており、
図2(a)(b)に示すように、鋼橋支承部において鋼橋3の橋桁を構成する鋼材3aの平面状部分の上面に設置されている。
ここでは、橋台1上に支承2とソールプレート4を介して鋼橋3(橋桁)の鋼材3aが据え付けられており、鋼材3aの下フランジの上面に加速度計測装置10(水晶振動式加速度センサー13)が設置されている。
この加速度計測装置10(水晶振動式加速度センサー13)は、列車Tが鋼橋3を通過する際の振動の加速度を計測する。
なお、水晶振動式加速度センサー13は、各種ある加速度センサーのうち周波数変化式加速度センサーに分類されるものであり、周波数変化式加速度センサーの中でも、低ノイズ・高安定性を持つことが知られている。
各種ある加速度センサーから水晶振動式の加速度センサーを選択した理由は後述する。
【0031】
加速度計測装置10は、例えば、
図3に示すように、制御部(CPU;制御手段)11、通信部12、水晶振動式加速度センサー13、記憶部14等を備えている。
【0032】
計測装置側制御部である制御部11は、例えばCPUであり、記憶部14に格納されている制御プログラムに従って各種の処理を実行する。
通信部12は、例えばアンテナや通信回路を有しており、制御部11による制御の下で情報管理装置20と通信を行い、情報管理装置20へ水晶振動式加速度センサー13が測定した鋼橋支承部における加速度に関するデータを送信する。
水晶振動式加速度センサー13は、加速度計測装置10の一部として、鋼橋支承部において鋼橋3を構成する鋼材3aの平面状部分の上面に設置されている。
この水晶振動式加速度センサー13によって、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する。
記憶部14は、例えばRAM、ROM、不揮発性メモリ、ハードディスクドライブにより構成され、CPUにより実行される各種制御プログラムや、各種固定データ等を記憶している。
【0033】
情報管理装置20は、例えば、
図3に示すように、制御部(CPU;制御手段)21、通信部22、記憶部23、表示部24、操作部25等を有するコンピューターにより構成されている。
【0034】
通信部22は、例えばアンテナや通信回路を有しており、制御部21による制御の下で加速度計測装置10と通信を行い、加速度計測装置10から鋼橋支承部における加速度に関するデータを受信する。
記憶部23は、例えばRAM、ROM、不揮発性メモリ、ハードディスクドライブにより構成され、CPUにより実行される各種制御プログラムや、各種固定データ等を記憶している。また、記憶部23には、加速度計測装置10(水晶振動式加速度センサー13)によって計測された、鋼橋支承部における加速度に関するデータや、その加速度データを解析処理したデータ等が記憶されている。
表示部24は、例えば液晶ディスプレイ又はELディスプレイであり、鋼橋支承部において計測された加速度に関するデータや、その加速度データを解析処理したデータや、各種の処理結果などを表示する。
操作部25は、例えばキーボード、マウス、タッチパネルであり、この操作部25によって各種解析処理を実行するための操作入力を行うことができる。
【0035】
管理装置側制御部である制御部21は、例えばCPUであり、記憶部23に格納されている制御プログラムに従って各種の処理を実行する。
例えば、制御部21は、通信部22が受信した鋼橋支承部における加速度に関するデータを取得して、その加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、列車通過時における鋼橋のアオリ量を求め、その求めたアオリ量に基づいて、支承部における異常の有無を判定する処理を実行する。
この判定処理については後述する。
【0036】
[水晶振動式加速度センサーの採用について]
次に、鋼橋支承部の異常の有無を監視するにあたり、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する加速度センサーとして水晶振動式加速度センサー13を選択した理由について説明する。
【0037】
本発明者らは、どのようなタイプの加速度センサーが鋼橋支承部の異常を監視するのに適しているか検証するため、鋼橋支承部において鋼橋3を構成する鋼材3aの下フランジの上面に、各種加速度センサーと変位センサーを設置し、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を加速度センサーによって複数回測定するとともに、列車通過時に鋼橋3が上下に動くアオリ量を変位センサーによって複数回測定した。
各種加速度センサーとしては、
・サーボ式加速度センサー(形式;リオンLS-10C)
・圧電式加速度センサー(形式;リオンPV-87)
・水晶振動式加速度センサー(形式;エプソンM-A352AD10)
・静電容量式加速度センサー(形式;アナログデバイスADXL355)
を用いた。
そして、各加速度センサーが測定した鋼橋の振動の加速度に紐づく値と、その鋼橋でのアオリ量との相関の程度について検証した。
ここでは、鋼橋の振動の加速度に紐づく値として、最大加速度、最小加速度、加速度全振幅、最大速度、最小速度、速度全振幅、最大変位、最小変位、変位全振幅、RMS、等価ピーク、FFT面積の12種の指標の値を求め、それら値とアオリ量との相関について相関式の決定係数(R
2)に基づいて比較検証した。その比較検証結果を
図4に示す。
【0038】
図4に示すように、決定係数(R
2)が0.6以上である指標について相関が強いとすると、水晶振動式加速度センサーでは12種の指標すべてについて相関が強いという結果がでた。
また、サーボ式加速度センサーと圧電式加速度センサーでは、最小加速度、加速度全振幅、RMS、等価ピーク、FFT面積の5種の指標について相関が強いという結果がでた。
一方、静電容量式加速度センサーでは12種の指標すべてについて相関が弱いという結果がでた。
特に、水晶振動式加速度センサーでは12種の指標すべてにおいて決定係数(R
2)が0.8以上であった。
このような結果から、水晶振動式加速度センサーを用いて鋼橋の振動の加速度を測定することで、その加速度に紐づく値と鋼橋のアオリ量との相関に基づいて、鋼橋のアオリ量を推察できると本発明者らは考察し、水晶振動式加速度センサーを採用することとした。
【0039】
[フィルタ処理の必要性について]
次に、鋼橋支承部の異常の有無を監視するにあたり、加速度センサー(水晶振動式加速度センサー13)が測定した加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を行う理由について説明する。
【0040】
(鋼橋支承部でのアオリに起因する変位波形の卓越周波数)
鋼橋支承部において鋼橋3を構成する鋼材3aの下フランジの上面に設置した変位センサーによって、鋼橋支承部でのアオリに関する変位を測定し、得られた変位波形をフーリエ変換すると、例えば、
図5に示すように、変位パワースペクトルとして1.3Hz、2.5Hz、3.8Hzといった卓越周波数を確認することができる。
様々な鋼橋3で同様にアオリに関する変位を測定して得られた変位波形をフーリエ変換すると、類似した変位パワースペクトルが得られ、近似した値の卓越周波数を確認することができた。
このような検証から、列車通過周波数を含む0.01Hz~4.0Hzの低周波数帯に卓越周波数があるものと、本発明者らは考察した。これが卓越周波数に関する第1の考察である。
【0041】
(鋼橋における列車の車両・車輪間隔による加振に起因する卓越周波数)
図6(a)に示すように、車両長が20m、その車両における車輪間隔が13.8m、連結された車両間における車輪間隔が6.2mである場合であって、この列車が80[km/h]で走行する際の加振に起因する卓越周波数を算出すると、
図6(b)に示すように、1.1Hz~3.6Hzであることが確認できた。
また、列車の最高速度を130[km/h]と想定し、この列車が130[km/h]で走行する際の加振に起因する卓越周波数を算出すると、1.8Hz~5.8Hzであることが確認できた。
このような検証から、列車通過周波数を含む0.01Hz~6.0Hzの低周波数帯に卓越周波数があるものと、本発明者らは考察した。これが卓越周波数に関する第2の考察である。
【0042】
このように、鋼橋3の変位や振動には低周波数帯に卓越周波数があるとした考察(第1の考察、第2の考察)に基づき、測定した加速度データから列車通過周波数を含む6.0Hz以下の低周波数帯の加速度データをフィルタ処理によって抽出することで、鋼橋支承部における「アオリ」に関するデータを好適に取得することが可能になると、本発明者らは見出した。
なお、ここでのフィルタ処理は、ローパスフィルターやバンドパスフィルターによるものである。
【0043】
(加速度データの低周波数帯の波形にみる「アオリ」の有無)
上述したように、水晶振動式加速度センサー13による測定によって取得した鋼橋3の振動の加速度データから、列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データをフィルタ処理によって抽出することが有効であることを、本発明者らは見出した。
このフィルタ処理が有効であることの裏付けについて説明する。
図7(a)に示すように、「アオリ」が生じていない鋼橋3において、水晶振動式加速度センサー13が測定した鋼橋3の振動の加速度データから、列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データをフィルタ処理によって抽出した場合、その抽出した加速度データの波形の振幅が小さいことがわかる。
これに対し、
図7(b)に示すように、「アオリ」が生じている鋼橋3において、水晶振動式加速度センサー13が測定した鋼橋3の振動の加速度データから、列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データをフィルタ処理によって抽出した場合、その抽出した加速度データの波形の振幅が大きいことがわかる。
このように、鋼橋3の振動の加速度データから「アオリ」に関する情報が得られることがわかり、水晶振動式加速度センサー13が測定した鋼橋3の振動の加速度データをフィルタ処理して抽出した列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データから、「アオリ」に関する情報が好適に得られることがわかる。
【0044】
[加速度データの変換]
次に、鋼橋支承部における「アオリ」に関するデータであって、鋼橋3の振動の加速度に紐づく値を取得するために行う加速度データの変換について説明する。
図8に示すように、水晶振動式加速度センサー13が測定した鋼橋3の振動の加速度データ(原型)に対し上述したフィルタ処理を施して、列車通過周波数を含む6.0Hz以下の低周波数帯の加速度データを抽出する(フィルタ処理工程)。このフィルタ処理による変換によって抽出された加速度データの波形(図中、右上の波形)を取得する(加速度波形取得工程)。
また、
図8に示すように、取得した加速度データを積分して速度データに変換し(データ変換工程)、その速度データの波形(図中、左下の波形)を取得する(速度波形取得工程)。
また、
図8に示すように、取得した速度データを積分して変位データに変換し、その変位データの波形(図中、右下の波形)を取得する(変位波形取得工程)。
このように取得した波形から、
図9に示すように、最大値、最小値、全振幅の値を求めることができる。
例えば、加速度データの波形から、加速度データの全振幅の値、加速度データの最大値、加速度データの最小値を求めることができる。
また、速度データの波形から、速度データの全振幅の値、速度データの最大値、速度データの最小値を求めることができる。
また、変位データの波形から、変位データの全振幅の値、変位データの最大値、変位データの最小値を求めることができる。
【0045】
[アオリ量と加速度データに紐づく値との相関]
次に、鋼橋支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との相関について説明する。
上記した「水晶振動式加速度センサーの採用について」でも説明したように、鋼橋支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との相関を求める。
具体的には、鋼橋支承部において鋼橋3を構成する鋼材3aの下フランジの上面に、水晶振動式加速度センサー13と変位センサーを設置し、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を水晶振動式加速度センサー13によって複数回測定するとともに、列車通過時に鋼橋3が上下に動くアオリ量を変位センサーによって複数回測定する。
そして、上記した「加速度データの変換」にて説明したように、水晶振動式加速度センサー13が測定して得た加速度データを変換して、
「加速度データの全振幅の値」「加速度データの最大値」「加速度データの最小値」、
「速度データの全振幅の値」「速度データの最大値」「速度データの最小値」、
「変位データの全振幅の値」「変位データの最大値」「変位データの最小値」の9つの値を求め、9つの値ごとに変位センサーによって測定された「アオリ量」を対応付けて、各値と「アオリ量」の相関をとった。ここでは、相関式の決定係数(R
2)で評価するように、上記値とアオリ量との相関をとった。
なお、相関をとるために、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度の測定と、鋼橋3のアオリ量の測定は、その測定数が多い方が好ましいのは勿論である。
こうして数多くの測定を行ってとったアオリ量と加速度データの相関を
図10に示し、アオリ量と速度データの相関を
図11に示し、アオリ量と変位データの相関を
図12に示す。
このような相関(例えば、
図10、
図11、
図12参照)を予め定めておくことで、列車通過時に水晶振動式加速度センサー13が測定した鋼橋3の振動の加速度に基づき、鋼橋3のアオリ量を推定することが可能になる。
本実施形態では、このように予め定めた相関(アオリ量と加速度データの相関、アオリ量と速度データの相関、アオリ量と変位データの相関)を、例えば、情報管理装置20の記憶部23に格納している。
【0046】
[鋼橋の支間長]
次に、アオリ量と加速度データに紐づく値との相関に関し、鋼橋3の支間長11.7mで分類することについて説明する。
本実施形態では、
図6(a)に示した列車のように、車両の前後の台車における内側の車輪同士の間隔が11.7mである列車の走行を想定している。
そのため、鋼橋3の支間長が11.7m未満であると、その鋼橋3を列車が通過する際、車両の前後両側の車輪が鋼橋3上に載らない状態が生じる。
一方、鋼橋3の支間長が11.7m以上であると、その鋼橋3を列車が通過する際、車両の前後両側の車輪の少なくとも一方が必ず鋼橋3上に載ることになる。
つまり、鋼橋3の支間長が11.7m未満である場合、列車が鋼橋3を通過する際に鋼橋3に車輪加振が作用しないタイミングがあり、鋼橋3の支間長が11.7m以上である場合、列車が鋼橋3を通過する際には鋼橋3に車輪加振が常に作用することになる。
このように鋼橋3の支間長に応じて、鋼橋3に作用する車輪加振に違いがあることから、本発明者らはアオリ量の相関に関し、鋼橋3の支間長に応じて分類することによって、より強い相関が得られることを見出した。
具体的には、
図13(a)(b)に示すように、鋼橋の支間長11.7mで分類した場合の方が、分類しない場合(全橋りょう)よりも概ね決定係数が高く、相関が強いことがわかる。
このように、アオリ量に関する相関は、鋼橋3の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔未満の場合と、鋼橋3の支間長が列車の車両における前後の車輪間隔以上の場合とで分類して定めておき、水晶振動式加速度センサー13(加速度計測装置10)を設置した鋼橋3の支間長に応じて、いずれかの相関に基づいて鋼橋支承部における異常の有無を判定することが好ましい。
【0047】
[鋼橋支承部の異常監視方法]
次に、本実施形態の異常監視システム100による鋼橋支承部の異常監視方法について説明する。
前述したように、鋼橋支承部の異常監視システム100は、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する水晶振動式加速度センサー13を備えた加速度計測装置10と、加速度計測装置10と通信可能な情報管理装置20と、を備えている。
そして、この異常監視システム100は、水晶振動式加速度センサー13が測定して取得した加速度データに基づいて、鋼橋支承部における異常に関する報知を実行する制御手段(測定装置側制御部11、管理装置側制御部21)を備えている。
【0048】
ここで、前述した情報管理装置20における管理装置側制御部としての制御部21による判定処理について説明する。
管理装置側制御部21は、水晶振動式加速度センサー13が測定して取得した加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行する(フィルタ処理工程)。
更に、管理装置側制御部21は、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、列車通過時における鋼橋3のアオリ量を推定して求める。
【0049】
ここでの加速度データに紐づく値は、加速度データの波形に関する値であって、加速度データの波形の全振幅の値、加速度データの最大値、加速度データの最小値のいずれか、または、速度データの波形に関する値であって、速度データの波形の全振幅の値、速度データの最大値、速度データの最小値のいずれか、または、変位データの波形に関する値であって、変位データの波形の全振幅の値、変位データの最大値、変位データの最小値のいずれかであればよい。これら9つの加速度データに紐づく値は、上記した「加速度データの変換」で説明したように求めることができる。(例えば、加速度データに紐づく値は、加速度波形取得工程、速度波形取得工程、データ変換工程、変位波形取得工程などの処理により求めることができる。
図8、
図9参照。)
また、予め定められている相関(アオリ量と加速度データの相関(
図10)、アオリ量と速度データの相関(
図11)、アオリ量と変位データの相関(
図12))は、情報管理装置20の記憶部23に格納されている。
【0050】
そして、9つの加速度データに紐づく値のいずれかと、予め定められている相関とに基づいて、列車通過時における鋼橋3のアオリ量を推定する。
加速度データの波形の全振幅の値に関しては、
図10(a)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができ、加速度データの最大値に関しては、
図10(b)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができ、加速度データの最小値に関しては、
図10(c)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができる。
また、速度データの波形の全振幅の値に関しては、
図11(a)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができ、速度データの最大値に関しては、
図11(b)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができ、速度データの最小値に関しては、
図11(c)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができる。
また、変位データの波形の全振幅の値に関しては、
図12(a)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができ、変位データの最大値に関しては、
図12(b)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができ、変位データの最小値に関しては、
図12(c)に示す相関に基づいてアオリ量を推定することができる。
なお、上記した「鋼橋の支間長」で説明したように、支間長に応じた相関に基づいてアオリ量を推定するようにすれば、より適正にアオリ量を推定することが可能になる。
【0051】
そして、管理装置側制御部21は、予め定められている相関に基づいて推定したアオリ量に基づいて、支承部における異常の有無を判定する処理を実行する(判定工程(判断工程))。
例えば、管理装置側制御部21は、推定したアオリ量が所定の閾値を超える値である場合(アオリ量が基準値より大きな場合)に支承部に異常があると判定し、推定したアオリ量が所定の閾値以下である場合(アオリ量が僅かである場合)に支承部には異常がないと判定する。
この判定結果は、情報管理装置20の表示部24に表示するなどして鋼橋3の管理者などに報知する。
【0052】
[第1の異常監視方法]
次に、鋼橋支承部の異常監視システム100による異常監視方法について、
図14に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0053】
まず、鋼橋3に設置されている加速度計測装置10の水晶振動式加速度センサー13が、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する(ステップS1;加速度測定工程)。
水晶振動式加速度センサー13が測定して取得した加速度データは、計測装置側制御部11による送信処理によって情報管理装置20に送信される。
【0054】
次いで、情報管理装置20の管理装置側制御部21が、加速度計測装置10から送信された加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに(フィルタ処理工程)、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、列車通過時における鋼橋3のアオリ量を求める(ステップS2)。
本実施形態では、加速度データに紐づく値として、速度データの波形の全振幅の値を求め、
図11(a)に示す相関に基づいてアオリ量を推定して求めた。なお、このステップS2の処理に用いる加速度データに紐づく値を得るために、加速度波形取得工程、速度波形取得工程、データ変換工程、変位波形取得工程の処理を適宜実行するようになっている。
【0055】
次いで、管理装置側制御部21は、求めたアオリ量が所定の閾値以下か否か判断する(ステップS3;判定工程(判断工程))。
管理装置側制御部21が、アオリ量が所定の閾値以下であると判断した場合(ステップS3;Yes)、鋼橋支承部には異常がないと判定し、ステップS1に戻る。
一方、アオリ量が所定の閾値以下でない(閾値を越えた値である)と判断した場合(ステップS3;No)、鋼橋支承部に異常が生じていると判定し、情報管理装置20の表示部24に異常発生の旨を表示するなどして鋼橋3の管理者などに報知し(ステップS4)、ステップS1に戻る。
【0056】
このように、本実施形態の鋼橋支承部の異常監視システム100(鋼橋支承部の異常監視方法)であれば、水晶振動式加速度センサー13を用いて鋼橋3の振動の加速度を測定することによって、その鋼橋3におけるアオリ量を推定することができ、推定したアオリ量に基づいて鋼橋支承部における異常の有無を判断してそれを報知することができる。
つまり、本実施形態の鋼橋支承部の異常監視システム100(鋼橋支承部の異常監視方法)は、水晶振動式加速度センサー13によって鋼橋3の振動の加速度を測定して、その鋼橋3の支承部の異常の有無を監視することができる。
【0057】
[第2の異常監視方法]
なお、本発明の異常監視システム100による異常監視方法は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上述した管理装置側制御部21による処理の一部を計測装置側制御部11が行うようにした、鋼橋支承部の異常監視方法であってもよい。
具体的には、まず、鋼橋3に設置されている加速度計測装置10の水晶振動式加速度センサー13が、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する(ステップS1;加速度測定工程)。
【0058】
次いで、加速度計測装置10の計測装置側制御部11が、水晶振動式加速度センサー13が測定して取得した加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに(フィルタ処理工程)、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、列車通過時における鋼橋3のアオリ量を求める(ステップS2)。
本実施形態では、加速度データに紐づく値として、速度データの波形の全振幅の値を求め、
図11(a)に示す相関に基づいてアオリ量を推定して求めた。なお、このステップS2の処理に用いる加速度データに紐づく値を得るために、加速度波形取得工程、速度波形取得工程、データ変換工程、変位波形取得工程の処理を適宜実行するようになっている。
ここで求めたアオリ量に関するデータは、計測装置側制御部11による送信処理によって情報管理装置20に送信される。
【0059】
次いで、情報管理装置20の管理装置側制御部21が、加速度計測装置10から送信されたアオリ量に関するデータに基づいて、そのアオリ量が所定の閾値以下か否か判断する(ステップS3;判定工程(判断工程))。
管理装置側制御部21が、アオリ量が所定の閾値以下であると判断した場合(ステップS3;Yes)、鋼橋支承部には異常がないと判定し、ステップS1に戻る。
一方、アオリ量が所定の閾値以下でない(閾値を越えた値である)と判断した場合(ステップS3;No)、鋼橋支承部に異常が生じていると判定し、情報管理装置20の表示部24に異常発生の旨を表示するなどして鋼橋3の管理者などに報知し(ステップS4)、ステップS1に戻る。
【0060】
このような鋼橋支承部の異常監視システム100(鋼橋支承部の異常監視方法)であっても、水晶振動式加速度センサー13によって鋼橋3の振動の加速度を測定して、その鋼橋3の支承部の異常の有無を監視することができる。
【0061】
[第3の異常監視方法]
また、本発明の異常監視システム100による異常監視方法は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、上述した管理装置側制御部21による処理の一部を計測装置側制御部11が行うようにした、鋼橋支承部の異常監視方法であってもよい。
具体的には、まず、鋼橋3に設置されている加速度計測装置10の水晶振動式加速度センサー13が、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する(ステップS1;加速度測定工程)。
【0062】
次いで、加速度計測装置10の計測装置側制御部11が、水晶振動式加速度センサー13が測定して取得した加速度データから列車通過周波数を含む低周波数帯の加速度データを抽出するフィルタ処理を実行するとともに(フィルタ処理工程)、フィルタ処理にて抽出された加速度データに紐づく値と、支承部におけるアオリ量と加速度データに紐づく値との対応関係について予め定められている相関とに基づき、列車通過時における鋼橋3のアオリ量を求める(ステップS2)。
本実施形態では、加速度データに紐づく値として、速度データの波形の全振幅の値を求め、
図11(a)に示す相関に基づいてアオリ量を推定して求めた。なお、このステップS2の処理に用いる加速度データに紐づく値を得るために、加速度波形取得工程、速度波形取得工程、データ変換工程、変位波形取得工程の処理を適宜実行するようになっている。
更に、計測装置側制御部11が、求めたアオリ量が所定の閾値以下か否か判断する(ステップS3;判定工程(判断工程))。
計測装置側制御部11が、アオリ量が所定の閾値以下であると判断した場合(ステップS3;Yes)、鋼橋支承部には異常がないと判定し、ステップS1に戻る。
一方、計測装置側制御部11が、アオリ量が所定の閾値以下でない(閾値を越えた値である)と判断した場合(ステップS3;No)、鋼橋支承部に異常が生じていると判定し、その判定結果が計測装置側制御部11による送信処理によって情報管理装置20に送信される。
【0063】
次いで、情報管理装置20の管理装置側制御部21が、加速度計測装置10から送信された判定結果に基づいて、情報管理装置20の表示部24に異常発生の旨を表示するなどして鋼橋3の管理者などに報知し(ステップS4)、ステップS1に戻る。
【0064】
このような鋼橋支承部の異常監視システム100(鋼橋支承部の異常監視方法)であっても、水晶振動式加速度センサー13によって鋼橋3の振動の加速度を測定して、その鋼橋3の支承部の異常の有無を監視することができる。
【0065】
以上のように、本実施形態の鋼橋支承部の異常監視システム100(鋼橋支承部の異常監視方法)であれば、水晶振動式加速度センサー13を用いて鋼橋3の振動の加速度を測定することによって、鋼橋3のアオリ量を推定することができ、その推定したアオリ量に基づいて鋼橋支承部の異常の有無を監視することができる。
【0066】
なお、以上の実施の形態においては、鋼橋支承部の異常監視システム100は、加速度計測装置10と、加速度計測装置10と通信可能な情報管理装置20とを備えているとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、情報管理装置20における処理をサーバーやクラウドにおいて行うようにしてもよい。
具体的には、
図15に示すように、鋼橋支承部の異常監視システム100は、橋台1上に支承2を介して鋼橋3が据え付けられている鋼橋支承部に設置されている加速度計測装置10と、加速度計測装置10と通信可能なクラウドサーバー20aと、クラウドサーバー20aと通信可能な端末装置20bを備えていてもよい。勿論、加速度計測装置10は、列車通過時における鋼橋3の振動の加速度を測定する水晶振動式加速度センサー13を備えている。
そして、前述した「第1の異常監視方法」において説明した、情報管理装置20の管理装置側制御部21による処理(ステップS2,ステップS3)をクラウドサーバー20aにて行い、鋼橋支承部に異常が生じているという判定結果の報知処理(ステップS4)はタブレットなどの端末装置20bにて行うようにすればよい。
つまり、ここではクラウドサーバー20aと端末装置20bが情報管理装置20として機能している。
このような構成の鋼橋支承部の異常監視システム100によっても、鋼橋支承部の異常の有無を監視することができる。
【0067】
また、上述した鋼橋支承部の異常監視方法の説明においては、加速度データに紐づく値として、速度データの全振幅の値を求め、速度全振幅の相関に基づいてアオリ量を推定して求める場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、加速度データに紐づく値としては、加速度データの全振幅の値、加速度データの最大値、加速度データの最小値、速度データの全振幅の値、速度データの最大値、速度データの最小値、変位データの全振幅の値、変位データの最大値、変位データの最小値のいずれかであればよく、各値に対応する相関に基づいてアオリ量を推定して求めればよい。
【0068】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0069】
1 橋台
2 支承
3 鋼橋(橋桁)
3a 鋼材
4 ソールプレート
10 加速度計測装置
11 制御部(計測装置側制御部、制御手段)
12 通信部
13 水晶振動式加速度センサー
14 記憶部
20 情報管理装置
21 制御部(管理装置側制御部、制御手段)
22 通信部
23 記憶部
24 表示部
25 操作部
20a クラウドサーバー
20b 端末装置
100 橋桁支承部の異常監視システム
T 列車