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特開2023-25811薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025811
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20230216BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C30B29/06 503
C30B15/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】34
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131180
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】595132751
【氏名又は名称】株式会社クリスタルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 勇
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF03
4G077ED01
4G077EG15
4G077EG29
4G077PE02
4G077PK00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】赤外線の大出力化を抑止しながら大型の原料塊を適用可能とし、添加剤濃度が最適組成で均質である薄板状単結晶を、低コストでしかも連続して高精度に製造することのできる薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法を提供する。
【解決手段】原料塊12の上側面14の表面を融解する赤外線照射手段20と、赤外線照射手段にて融解され、原料塊の上側面の表面に得られた融液中に薄板状の種子単結晶32の下側面34を浸すとともに、浸した状態から種子単結晶を上方に引き上げる昇降手段30と、原料塊を水平方向に移動する水平方向移動手段72と、を備え、昇降手段を介して種子単結晶を上方に引き上げると同時に、原料塊を、水平方向移動手段で水平方向に移動させることで、原料塊の上側面の溶融域を、水平方向に移動させながら連続的に薄板状単結晶40を製造する、薄板状単結晶製造装置および製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状単結晶製造用の原料塊の上側面に対して赤外線を照射し、前記原料塊の上側面の表面を融解する赤外線照射手段と、
前記赤外線照射手段にて融解され、前記原料塊の上側面の表面に得られた融液中に薄板状の種子単結晶の下側面を浸すとともに、浸した状態から前記種子単結晶を上方に引き上げる昇降手段と、
前記原料塊を水平方向に移動する水平方向移動手段と、
を備え、
前記赤外線照射手段によって原料塊の上側面の表面に得られた融液中に、前記昇降手段を介して種子単結晶の下側面を浸すことで、浸された前記種子単結晶の下側面から単結晶の育成を開始させ、
さらに前記昇降手段を介して種子単結晶を上方に引き上げると同時に、前記原料塊を、前記水平方向移動手段で水平方向に移動させることで、前記原料塊の上側面の溶融域を、水平方向に移動させながら連続的に薄板状単結晶が製造されるよう構成されていることを特徴とする薄板状単結晶製造装置。
【請求項2】
前記赤外線照射手段から照射される赤外線が、レーザ光であることを特徴とする請求項1に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項3】
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であることを特徴とする請求項2に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項4】
前記原料塊を載置する載置台と、
前記載置台の上下方向の位置を所定位置となるように位置制御する位置制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項3に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項5】
前記水平方向移動手段が、
前記位置制御手段の底部側方に設けられた駆動軸と、
前記駆動軸を駆動させる駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段を介して駆動軸を駆動させることにより、前記載置台および前記位置制御手段を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させるよう構成されていることを特徴とする請求項4に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項6】
前記水平方向移動手段が、
前記載置台および前記位置制御手段を前記原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させるよう構成されている場合において、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする請求項5に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項7】
前記水平方向移動手段が、
前記位置制御手段の底部側方に設けられた駆動軸と、
前記駆動軸を駆動させる駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段を介して駆動軸を駆動させることにより、前記載置台および前記位置制御手段を、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させるよう構成されていることを特徴とする請求項4に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項8】
前記水平方向移動手段が、
前記載置台および前記位置制御手段を前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させるよう構成されている場合において、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする請求項7に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項9】
前記水平方向移動手段が、
前記位置制御手段の底部側方に設けられた駆動軸と、
前記駆動軸を駆動させる駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段を介して駆動軸を駆動させることにより、前記載置台および前記位置制御手段を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向および/または前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させるよう構成されていることを特徴とする請求項4に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項10】
前記載置台および前記位置制御手段の水平方向への移動速度が、
0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする請求項4~9のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項11】
前記水平方向移動手段が、
リニアアクチュエーターであることを特徴とする請求項4~10のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項12】
前記昇降手段が、
製造された前記薄板状単結晶を連続してロール状に巻き取る巻き取り手段であり、
前記巻き取り手段が、
前記薄板状単結晶を連続して巻き取る巻装軸と、
前記巻装軸を回動させる回動手段と、
を備え、
前記巻装軸に、複数の細線を介して前記種子単結晶が吊り下げられるよう構成されていることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項13】
前記巻き取り手段による薄板状単結晶の巻き取り速度が、
0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする請求項12に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項14】
前記種子単結晶において、
前記細線が取り付けられた部分の厚さが、
製造される前記薄板状単結晶の厚さ以下の大きさであることを特徴とする請求項12または13に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項15】
前記原料塊の材料がシリコンである場合、前記薄板状単結晶の厚さが、30μm~500μmの範囲内であることを特徴とする請求項1~14のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項16】
前記原料塊の周囲には、前記原料塊を予め加熱する補助加熱部材が設けられていることを特徴とする請求項1~15のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項17】
前記補助加熱部材の外側には、さらに断熱材が配設されていることを特徴とする請求項16に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項18】
前記原料塊の上側面には、
製造される前記薄板状単結晶の組成と平衡共存する液相の組成物が必要量、最初に配置されていることを特徴とする請求項1~17のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造装置。
【請求項19】
赤外線照射手段を介して、薄板状単結晶製造用の原料塊の上側面に赤外線を照射し、前記原料塊の上側面の表面を融解する融解工程と、
前記融解工程にて、前記原料塊の上側面の表面に得られた融液中に、昇降手段を介して薄板状の種子単結晶の下側面を浸し、前記種子単結晶の下側面から単結晶の育成を開始させる育成工程と、
前記育成工程にて、単結晶の育成が開始された前記種子単結晶を上方に引き上げると同時に、前記原料塊を、水平方向移動手段を介して水平方向に移動させることで、前記原料塊の上側面の溶融域を水平方向に移動させながら、連続的に薄板状単結晶を製造する連続製造工程と、
を少なくとも有することを特徴とする薄板状単結晶製造方法。
【請求項20】
前記融解工程において、
前記赤外線照射手段から照射される赤外線が、レーザ光であることを特徴とする請求項19に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項21】
前記連続製造工程において、
前記水平方向移動手段を介して前記原料塊を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させることを特徴とする請求項20に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項22】
前記連続製造工程において、
前記溶融域が、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向の一方側の端部に達したら、今度は逆側である前記原料塊の厚さ方向の他方側の端部に向かって溶融域を移動させ、これを連続的に繰り返すことを特徴とする請求項21に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項23】
前記融解工程において、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であり、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする請求項21または22に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項24】
前記連続製造工程において、
前記水平方向移動手段を介して前記原料塊を、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させることを特徴とする請求項20に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項25】
前記連続製造工程において、
前記溶融域が、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向の一方側の端部に達したら、今度は逆側である前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向の他方側の端部に向かって溶融域を移動させ、これを連続的に繰り返すことを特徴とする請求項24に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項26】
前記融解工程において、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であり、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする請求項24または25に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項27】
前記連続製造工程において、
前記水平方向移動手段を介して前記原料塊を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向および前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させることを特徴とする請求項20に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項28】
前記連続製造工程において、
前記溶融域が、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の一方側の端部に達したら、所定の長さだけ前記原料塊の厚さ方向に移動させ、今度は逆側である前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の他方側の端部に向かって溶融域を移動させ、
次いで再び前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の一方側の端部に向かって溶融域を移動させ、これを前記原料塊の上側面の全面に対して連続的に行うことを特徴とする請求項27に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項29】
前記融解工程において、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であることを特徴とする請求項27または28に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項30】
前記連続製造工程において、
前記原料塊を、前記水平方向移動手段を介して水平方向に移動させる際の移動速度が、0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする請求項19~29のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項31】
前記連続製造工程の後、
連続的に製造された前記薄板状単結晶を、ロール状に巻き取る巻き取り工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項19~30のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項32】
前記巻き取り工程において、
前記薄板状単結晶の巻き取り速度が、0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする請求項31に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項33】
前記融解工程において、
製造される前記薄板状単結晶が分解融解物質である場合には、その組成と平衡共存する液相の組成物を、最初に必要量、前記原料塊の上側面に配置しておくことを特徴とする請求項19~32のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造方法。
【請求項34】
前記融解工程において、
製造される前記薄板状単結晶が添加剤を含む固溶体物質である場合には、その組成と平衡共存する液相の組成物を、最初に必要量、前記原料塊の上側面に配置しておくことを特徴とする請求項19~32のいずれか一項に記載の薄板状単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状単結晶を連続して製造することのできる薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板状単結晶を連続的に製造することのできる薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法が、既に本発明者によって開発されている。
この本発明者によって開発された薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法は、薄板状単結晶製造用の原料塊の上側面に赤外線(レーザ光)を照射して融解し、得られた融液中に薄板状の種子単結晶を浸して引き上げることにより、薄板状単結晶を連続的に製造するものである(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2021-002285号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法では、原料塊のサイズを大きくして長尺な薄板状単結晶を連続的に製造しようとすると、大型化した原料塊の上側面を融解するのに、赤外線(レーザ光)を大出力化する必要があり、赤外線照射手段の高価格化をもたらし、製造コスト高を招くおそれがあった。
【0005】
そこで本発明は、赤外線の大出力化を抑止しながら大型の原料塊を適用可能とし、添加剤濃度が最適組成で均質であり、薄板状単結晶を、低コストでしかも連続して高精度に製造することのできる薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述した従来技術における課題を解決するために発明されたものであって、
本発明の薄板状単結晶製造装置は、
薄板状単結晶製造用の原料塊の上側面に対して赤外線を照射し、前記原料塊の上側面の表面を融解する赤外線照射手段と、
前記赤外線照射手段にて融解され、前記原料塊の上側面の表面に得られた融液中に薄板状の種子単結晶の下側面を浸すとともに、浸した状態から前記種子単結晶を上方に引き上げる昇降手段と、
前記原料塊を水平方向に移動する水平方向移動手段と、
を備え、
前記赤外線照射手段によって原料塊の上側面の表面に得られた融液中に、前記昇降手段を介して種子単結晶の下側面を浸すことで、浸された前記種子単結晶の下側面から単結晶の育成を開始させ、
さらに前記昇降手段を介して種子単結晶を上方に引き上げると同時に、前記原料塊を、前記水平方向移動手段で水平方向に移動させることで、前記原料塊の上側面の溶融域を、水平方向に移動させながら連続的に薄板状単結晶が製造されるよう構成されていることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
赤外線照射手段を介して、薄板状単結晶製造用の原料塊の上側面に赤外線を照射し、前記原料塊の上側面の表面を融解する融解工程と、
前記融解工程にて、前記原料塊の上側面の表面に得られた融液中に、昇降手段を介して薄板状の種子単結晶の下側面を浸し、前記種子単結晶の下側面から単結晶の育成を開始させる育成工程と、
前記育成工程にて、単結晶の育成が開始された前記種子単結晶を上方に引き上げると同時に、前記原料塊を、水平方向移動手段を介して水平方向に移動させることで、前記原料塊の上側面の溶融域を水平方向に移動させながら、連続的に薄板状単結晶を製造する連続製造工程と、
を少なくとも有することを特徴とする。
【0008】
このようにすれば、原料塊の上側面の融液(溶融域)を水平方向に移動させながら、薄板状単結晶を成長させることになるため、薄板状単結晶の成長を安定して連続的に行うことができる。しかも薄板状単結晶製造装置を構成する部材が少なく、添加剤濃度が最適組成で均質である薄板状単結晶を、低コストでしかも連続して高精度に製造することができる。
【0009】
また、厚さ方向および/または厚さ方向に対して直交する方向に大型の原料塊を使用することができ、長尺な薄板状単結晶を連続して製造可能となるので、製造コストの大幅な削減を達成することができる。
【0010】
さらには分解融解物質や固溶体物質など、いわゆる不一致融解物質の均質組成の薄板状単結晶を高精度に製造することができる。
また、赤外線照射手段を動かさず、原料塊を水平方向に移動させる構造であるため、大型の原料塊を適用しても赤外線照射手段を大出力化させる必要がなく、製造コストを抑制することができる。
【0011】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記赤外線照射手段から照射される赤外線が、レーザ光であることを特徴とする。
さらに、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記融解工程において、
前記赤外線照射手段から照射される赤外線が、レーザ光であることを特徴とする。
【0012】
このようにレーザ光であれば、原料塊の所定の範囲を正確に加熱することができるため、融液が原料塊の上側面からこぼれ落ちてしまうことなく、原料塊の上側面に融液(溶融域)を確実に形成し続けることができる。
【0013】
なお赤外線照射手段は、上面視における原料塊を中心として、上下左右(例えば90度毎)の四方に設置されることが好ましい。しかしながら、一つの赤外線照射手段から照射されるレーザ光を分割して、原料塊に四方からレーザ光を照射するようにしても良いものである。
【0014】
さらには、四方(90度毎)に限らず、例えば二方(180度毎)でも良いなど、赤外線照射手段の数について限定されるものではなく、後述するレーザ光の中空四角形状の照射域の大きさや赤外線照射手段の出力強度などを鑑みて決定すれば良いものである。
【0015】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であることを特徴とする。
このようにレーザ光の照射域の形状が中空四角形状であれば、原料塊の上側面を全面に亘って確実に融解することができる。
【0016】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記原料塊を載置する載置台と、
前記載置台の上下方向の位置を所定位置となるように位置制御する位置制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
このように載置台の上下方向の位置を制御できるようにすれば、水平方向に大型であることに加え、上下方向に大型の原料塊を使用可能となり、さらには薄板状単結晶の引き上げに伴って原料塊の融液の液面位置が下がっても、当初の位置を保つように原料塊の位置を上げることにより、常に融液の液面位置を同じ位置に制御することができる。
【0018】
したがって、常に赤外線の照射位置を同じ位置に固定すれば良くなり、薄板状単結晶を安定的かつ歩留まり良く連続的に製造することができる。
なお、平行に進む赤外線(レーザ光)を、原料塊の上側面に対して垂直方向から照射する場合には、原料塊の融液の液面位置が下がっても赤外線(レーザ光)の照射強度は変わらないので、原料塊の融液の液面位置を一定に維持する位置制御をしなくても良い。
【0019】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記水平方向移動手段が、
前記位置制御手段の底部側方に設けられた駆動軸と、
前記駆動軸を駆動させる駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段を介して駆動軸を駆動させることにより、前記載置台および前記位置制御手段を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させるよう構成されていることを特徴とする。
【0020】
このように構成されていれば、載置台および位置制御手段を水平方向に確実に移動させることができ、赤外線(レーザ光)の照射によって原料塊の上側面に形成される融液(溶融域)を、水平方向に移動させながら薄板状単結晶の成長を安定して連続的に行うことができる。
【0021】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記水平方向移動手段が、
前記載置台および前記位置制御手段を前記原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させるよう構成されている場合において、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記水平方向移動手段を介して前記原料塊を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記溶融域が、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向の一方側の端部に達したら、今度は逆側である前記原料塊の厚さ方向の他方側の端部に向かって溶融域を移動させ、これを連続的に繰り返すことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記融解工程において、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であり、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする。
【0025】
このように原料塊の上側面における原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置と、レーザ光の中空四角形状の照射域における原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の両端部の位置とが、略一致するように、中空四角形状のレーザ光を原料塊の上側面に照射すれば、原料塊の上側面のレーザ光が照射されている中空四角形状の四角帯部分が先に融解され、中空四角形状のレーザ光が照射されていない中心部分は、先に融解された四角帯部分の融液からの熱伝導により融解されることとなる。
【0026】
したがってレーザ光の照射されていない中心部分の温度を、四角帯部分の温度よりも低く制御することができる。なおレーザ光の照射域を、中空四角形状に形成する方法としては、例えば4本の直線状(長方形)のレーザ光を、原料塊の上側面に対して四方から照射することで中空四角形状とすることができる。
【0027】
さらにレーザ光は、原料塊の上側面に対して、斜め上方の方向から照射しても、真上から垂直方向に照射しても良いが、単結晶材料の熱伝導特性、製造する薄板状単結晶の厚さに応じて、最適な照射角度に調整可能であることが好ましい。
【0028】
ところで、原料塊を融解して連続的に薄板状単結晶を製造するには、原料塊の融解と、薄板状単結晶としての固化とを、同時進行で継続させる必要がある。しかしながら原料塊の融解には加熱が必要であり、薄板状単結晶の固化には融液の冷却が必要である。
【0029】
したがって、薄板状単結晶の安定的な製造を可能にするためには、「加熱」と「冷却」の相反する行為を、制御性良く安定的に継続させることが必須である。上記した照射域が中空四角形状のレーザ光を原料塊の上側面に照射することにより、これを実現することができる。
【0030】
すなわち、レーザ光の照射されていない中心部分の温度を、四角帯部分の温度よりも低くするといった温度分布を、原料塊の上側面の融液(溶融域)に持たせることで、この中心部分から薄板状単結晶の成長を安定して連続的に行うことができる。
【0031】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置では、原料塊を水平方向に移動する水平方向移動手段を有しているため、原料塊の上側面の厚さ方向の一方側の端部に、中空四角形状の照射域の一方側の端部を略一致させ、この状態で原料塊を原料塊の厚さ方向である水平方向に移動させることで、この中空四角形状の照射域が原料塊の上側面の厚さ方向の他方側の端部に向かって移動しているような状態とすることができる。
【0032】
これにより、例えば原料塊の厚さ方向に大型の原料塊を使用することができ、長尺な薄板状単結晶を連続的に製造することができる。
原料塊の大きさについて、中空四角形状のレーザ光の照射域の原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さが、原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さに「略一致」している場合には、原料塊の厚さ方向の長さの制限は、原理的に無いものである。
【0033】
ここで「略一致」と表現した理由としては、完全に中空四角形状のレーザ光の照射域の原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さと、原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さとを一致させてしまう、すなわちぎりぎりまで大きさを合わせてしまうと、レーザ光の照射により原料塊の上側面が融解して、融液(溶融域)が形成された際に、融液が原料塊の上側面からこぼれ落ちてしまう恐れがあるためである。
【0034】
このため実際には、原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さに対し、中空四角形状のレーザ光の照射域の原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の長さを「若干小さく」設定することで、融液が原料塊の上側面からこぼれ落ちてしまうことなく、融液を表面張力で原料塊の上側面に保持させたまま、原料塊の上側面の厚さ方向と直交する水平方向の一方側の端部から他方側の端部までを確実に融解させることができる。
【0035】
もちろん、水平方向移動手段によって、原料塊を原料塊の厚さ方向に移動させた際には、原料塊の上側面における原料塊の厚さ方向である水平方向の一端部の位置と、レーザ光の中空四角形状の照射域における原料塊の厚さ方向である水平方向の一端部の位置とを「略一致」させる、すなわち上記したのと同様、両方の一端部を完全に一致させてしまうと、レーザ光の照射によって得られた融液が、原料塊の上側面からこぼれ落ちてしまうおそれがある。このため、中空四角形状のレーザ光の照射域の原料塊の厚さ方向である水平方向の一端部が、原料塊の厚さ方向である水平方向の一端部の若干手前の位置に到達したら、それ以上のぎりぎりの位置までは、原料塊を移動させないようにすることが好ましい。これは一端部の反対側の他端部についても同様である。
【0036】
なお、中空四角形状のレーザ光の照射域と、レーザ光の照射によって形成される融液(溶融域)の大きさは、相互に関連しているため、同じ照射域の大きさであってもレーザ光の出力を上げれば、融液(溶融域)の大きさは大きくなる。したがって、予めレーザ光の照射域の大きさを最適に決めることは困難であるため、まずは実際にレーザ光を原料塊の上側面に照射して融液(溶融域)を形成させ、その形状が溶け残りを出さず、かつ融液(溶融域)が原料塊の上側面からこぼれ落ちない中空四角形状の照射域の大きさと、レーザ光の出力の両方を観察しながら決定することが重要である。
このように溶融域の水平方向への移動を繰り返せば、水平方向に大きな原料塊を用いて、長尺な薄板状単結晶を連続的に製造することができる。
【0037】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記水平方向移動手段が、
前記位置制御手段の底部側方に設けられた駆動軸と、
前記駆動軸を駆動させる駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段を介して駆動軸を駆動させることにより、前記載置台および前記位置制御手段を、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させるよう構成されていることを特徴とする。
【0038】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記水平方向移動手段が、
前記載置台および前記位置制御手段を前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させるよう構成されている場合において、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記水平方向移動手段を介して前記原料塊を、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させることを特徴とする。
【0040】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記溶融域が、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向の一方側の端部に達したら、今度は逆側である前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向の他方側の端部に向かって溶融域を移動させ、これを連続的に繰り返すことを特徴とする。
【0041】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記融解工程において、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であり、
前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向の両端部の位置と、前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向の両端部の位置とが、略一致するとともに、
前記中空四角形状における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さが、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向である水平方向の長さよりも若干小さくなるように、前記レーザ光の照射域の大きさが設定されていることを特徴とする。
【0042】
このようにすれば、原料塊の厚さ方向に対して直交する方向に原料塊を移動させても、上記したのと同様、長尺な薄板状単結晶を連続的に製造することができる。ここでは、原料塊の厚さ方向に対して直交する方向に大きな原料塊を用いることが好ましい。
【0043】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記水平方向移動手段が、
前記位置制御手段の底部側方に設けられた駆動軸と、
前記駆動軸を駆動させる駆動手段と、
を備え、
前記駆動手段を介して駆動軸を駆動させることにより、前記載置台および前記位置制御手段を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向および/または前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させるよう構成されていることを特徴とする。
【0044】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記水平方向移動手段を介して前記原料塊を、前記原料塊の厚さ方向である水平方向および前記原料塊の厚さ方向に対して直交する方向である水平方向に移動させることを特徴とする。
【0045】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記溶融域が、前記原料塊の上側面における前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の一方側の端部に達したら、所定の長さだけ前記原料塊の厚さ方向に移動させ、今度は逆側である前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の他方側の端部に向かって溶融域を移動させ、
次いで再び前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向の一方側の端部に向かって溶融域を移動させ、これを前記原料塊の上側面の全面に対して連続的に行うことを特徴とする。
【0046】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記融解工程において、
前記レーザ光の照射域の形状が、前記原料塊の厚さ方向に対して直交する水平方向に細長い中空四角形状であることを特徴とする。
【0047】
このようにすれば、原料塊の厚さ方向に原料塊を移動させるとともに、原料塊の厚さ方向に対して直交する方向に原料塊を移動させることで、長尺な薄板状単結晶を連続的に製造することができる。
また厚さ方向および厚さ方向に対して直交する方向の両方向に大きな原料塊を用いることができるので、長尺な薄板状単結晶を連続的に製造することができる。
【0048】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記載置台および前記位置制御手段の水平方向への移動速度が、
0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする。
【0049】
さらに、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程において、
前記原料塊を、前記水平方向移動手段を介して水平方向に移動させる際の移動速度が、0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする。
【0050】
特に水平方向への移動速度がこのような範囲内であれば、原料塊の上側面に形成される溶融域から薄板状単結晶を製造することにより、消費される原料を、常に水平方向から供給することができ、溶融域のサイズと組成を均一に保持することができる。
【0051】
したがって、「溶媒移動法」のスキームを維持することができ、製造される薄板状単結晶の組成を均一に保持しながら、薄板状単結晶の成長を安定して連続的に行うことができる。
【0052】
なお原料塊の移動に伴って、原料塊の上側面では原料の融解と固化が継続される。固化は、薄板状単結晶の製造に伴って固化する部分と、残りは原料塊の移動に伴って溶融域が移動することに伴って固化する部分である。原料塊の上側面で固化した部分では、原料塊の移動速度、すなわち溶融域の移動速度が速すぎると、セル成長が発生する場合がある。
【0053】
セル成長が発生すると、固化した部分にラメラ組織が形成され、次に融解される際に均質な融解が困難となり、製品中の組成変動をもたらす場合がある。したがって、移動速度はセル成長が発生しない範囲内であることが好ましい。
【0054】
なお、原料塊としてシリコンを用いる場合には、移動速度を0.5mm/分~50mm/分の範囲内とすることが好ましい。一方、原料塊としてシリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料を用いる場合には、薄板状単結晶の引き上げ(巻き取り)速度がシリコンの場合よりも遅くなるため、原料塊の移動速度を0.05mm/分~0.5mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0055】
さらに原料塊として多成分系の酸化物材料を用いる場合には、薄板状単結晶の引き上げ(巻き取り)速度が、シリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料を用いる場合よりもさらに遅くなるため、原料塊の移動速度を0.005mm/分~0.05mm/分の範囲内とすることが好ましい。他方、金属材料などのように熱伝導率が高い材料の場合には、原料塊の移動速度を1mm/分~100mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0056】
すなわち、原料塊の材料によって、薄板状単結晶の最適な引き上げ(巻き取り)速度が変わるので、用いる原料塊の材料に合わせて、原料塊の移動速度を設定すれば良いものである。
【0057】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記水平方向移動手段が、
リニアアクチュエーターであることを特徴とする。
【0058】
このように水平方向移動手段が、電動モーターの回転運動を線形運動に変換するリニアアクチュエーターであれば、位置制御手段を水平方向に移動させる際の移動速度の調整が容易であるとともに、振動が生じ難いため、原料塊の上側面の融液が上側面からこぼれ落ちてしまうことなく、薄板状単結晶の成長を安定して連続的に行うことができる。
【0059】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記昇降手段が、
製造された前記薄板状単結晶を連続してロール状に巻き取る巻き取り手段であり、
前記巻き取り手段が、
前記薄板状単結晶を連続して巻き取る巻装軸と、
前記巻装軸を回動させる回動手段と、
を備え、
前記巻装軸に、複数の細線を介して前記種子単結晶が吊り下げられるよう構成されていることを特徴とする。
【0060】
このように巻き取り手段が構成されていれば、連続的に製造された薄板状単結晶を確実に巻装軸に巻き取ることができ、薄板状単結晶製造装置を必要以上に大型化させることがない。
【0061】
また製造された薄板状単結晶はロール状であるため出荷の際に容易に搬送することができ、取扱い性を高めることができる。
さらに種子単結晶の吊り下げを、熱に強く高強度な細線で行えば、連続的に製造された薄板状単結晶を確実に巻装軸に巻き取ることができる。
【0062】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記巻き取り手段による薄板状単結晶の巻き取り速度が、
0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする。
【0063】
このような巻き取り速度で薄板状単結晶を巻き取れば、薄板状単結晶を破損させることなく、確実に巻き取ることができる。したがって、歩留まり良く薄板状単結晶を製造することができる。
【0064】
なお、原料塊としてシリコンを用いる場合には、薄板状単結晶の巻き取り速度を0.5mm/分~50mm/分の範囲内とすることが好ましい。一方、原料塊としてシリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料を用いる場合には、薄板状単結晶の引き上げ(巻き取り)速度がシリコンの場合よりも遅くなるため、巻き取り速度を0.05mm/分~0.5mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0065】
さらに原料塊として多成分系の酸化物材料を用いる場合には、薄板状単結晶の引き上げ(巻き取り)速度が、シリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料の場合よりもさらに遅くなるため、巻き取り速度を0.005mm/分~0.05mm/分の範囲内とすることが好ましい。他方、金属材料などのように熱伝導率が高い材料の場合には、巻き取り速度を1mm/分~100mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0066】
すなわち、原料塊の材料によって、薄板状単結晶の最適な引き上げ(巻き取り)速度が変わるので、用いる原料塊の材料に合わせて、巻き取り速度を設定すれば良いものである。
【0067】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記連続製造工程の後、
連続的に製造された前記薄板状単結晶を、ロール状に巻き取る巻き取り工程と、
をさらに有することを特徴とする。
このように巻き取り工程を有していれば、連続的に製造された薄板状単結晶を確実にロール状に巻き取ることができ、効率的に薄板状単結晶を製造することができる。
【0068】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記巻き取り工程において、
前記薄板状単結晶の巻き取り速度が、0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることを特徴とする。
【0069】
このような巻き取り速度で薄板状単結晶を巻き取れば、薄板状単結晶を破損させることなく、確実に巻き取ることができる。したがって、歩留まり良く薄板状単結晶を製造することができる。
【0070】
なお、原料塊としてシリコンを用いる場合には、薄板状単結晶の巻き取り速度を0.5mm/分~50mm/分の範囲内とすることが好ましい。一方、原料塊としてシリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料を用いる場合には、薄板状単結晶の引き上げ(巻き取り)速度がシリコンの場合よりも遅くなるため、巻き取り速度を0.05mm/分~0.5mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0071】
さらに原料塊として多成分系の酸化物材料を用いる場合には、薄板状単結晶の引き上げ(巻き取り)速度が、シリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料の場合よりもさらに遅くなるため、巻き取り速度を0.005mm/分~0.05mm/分の範囲内とすることが好ましい。他方、金属材料などのように熱伝導率が高い材料の場合には、巻き取り速度を1mm/分~100mm/分の範囲内とすることが好ましい。すなわち、原料塊の材料によって、薄板状単結晶の最適な引き上げ(巻き取り)速度が変わるので、用いる原料塊の材料に合わせて、巻き取り速度を設定すれば良いものである。
【0072】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記種子単結晶において、
前記細線が取り付けられた部分の厚さが、
製造される前記薄板状単結晶の厚さ以下の大きさであることを特徴とする。
【0073】
このように、種子単結晶において、細線を取り付けた部分の厚さが、製造される薄板状単結晶の厚さ以下の大きさに設定されていれば、巻装軸に薄板状単結晶を巻き取る際に、薄板状単結晶の表面が細線に接触して破損が生ずることを確実に防止することができる。
【0074】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記原料塊の材料がシリコンである場合、前記薄板状単結晶の厚さが、30μm~500μmの範囲内であることを特徴とする。
【0075】
このように原料塊の材料がシリコンである場合には、このような厚さであれば、高純度な薄板状単結晶を連続的に製造し、巻き取ることにより長尺化を達成することができる。
なお、原料塊の上側面に照射するレーザ光の水平方向に対する傾斜角度や照射するレーザ光の間隔を最適に調整すれば、これよりもさらに薄い薄板状単結晶やさらに厚い薄板状単結晶を製造することも可能である。
【0076】
また原料塊の材料として、シリコン以外の酸化物材料や金属材料を用いた場合においても、原料塊の上側面に照射するレーザ光の水平方向に対する傾斜角度や照射するレーザ光の間隔を最適に調整することにより、所望の厚さを有する薄板状単結晶を製造することができる。
【0077】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記原料塊の周囲には、前記原料塊を予め加熱する補助加熱部材が設けられていることを特徴とする。
【0078】
このように補助加熱部材が設けられていれば、原料塊の温度を予め融点よりも低い温度まで加熱しておくことにより、赤外線(レーザ光)の照射量を減らすことができる。したがって、原料塊の大きさを大きくしても、赤外線照射手段を必要以上に大出力化する必要がなく、製造コストを抑制することができる。
【0079】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記補助加熱部材の外側には、さらに断熱材が配設されていることを特徴とする。
このように補助加熱部材の外側に断熱材が配設されていれば、補助加熱部材によって融点よりも低い温度まで加熱するのに必要なエネルギーを大幅に削減することができる。
【0080】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置は、
前記原料塊の上側面には、
製造される前記薄板状単結晶の組成と平衡共存する液相(これを溶媒相と呼ぶ)の組成物が必要量、最初に配置されていることを特徴とする。
【0081】
なおこの場合の「必要量」とは、レーザ光の照射によって原料塊の上側面に形成される溶融域の容量と同量である。
このように、製造される薄板状単結晶の組成と平衡共存する液相の組成物を、最初に必要量、原料塊の上側面に配置しておくことにより、いわゆる溶媒移動法のスキームを維持することができる。したがって、均質で最適組成の薄板状単結晶を連続的に製造することができる。
【0082】
ただし形成される溶融域からの蒸発によって成分が変動してしまう場合には、予めその蒸発量と同量の成分を原料塊に添加しておき、常に組成と量が変動しないようにしながら薄板状単結晶を製造することにより、均質組成で高品質な薄板状単結晶を製造することができる。
【0083】
さらに蒸発によって所定の成分組成が変動してしまう場合には、雰囲気中に、当該成分を反応によって補填可能なガスを供給することで、所定の組成の薄板状単結晶を製造することもできる。例えばリンを添加したN型シリコン単結晶を製造する場合、ホスフィン(PH3)ガスを利用することが良く知られている。
【0084】
また、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記融解工程において、
製造される前記薄板状単結晶が分解融解物質である場合には、その組成と平衡共存する液相(これを溶媒相と呼ぶ)の組成物を、最初に必要量、前記原料塊の上側面に配置しておくことを特徴とする。
【0085】
さらに、本発明の薄板状単結晶製造方法は、
前記融解工程において、
製造される前記薄板状単結晶が添加剤を含む固溶体物質である場合には、その組成と平衡共存する液相(これを溶媒相と呼ぶ)の組成物を、最初に必要量、前記原料塊の上側面に配置しておくことを特徴とする。
【0086】
なお、この場合の「必要量」とは、レーザ光の照射によって原料塊の上側面に形成される溶融域の容量と同量である。
最初に原料塊の上側面に形成される溶融域では、原料塊の移動に伴って新たな原料の供給と、溶融域からの固化が同時進行で継続される。溶融域からの固化とは、薄板状単結晶の製造に伴って固化する部分と、残りは溶融域の移動に伴って固化する部分である。
【0087】
これにより原料塊の融解と固化が同時に進むので、得られた製品(薄板状単結晶)中の添加剤濃度は、原料塊中の添加剤濃度と同一となり均質となる。このスキームは「溶媒移動法」と呼ばれ、「融液法」で均質組成の単結晶の製品(薄板状単結晶)を製造可能とする唯一の手段である。
【0088】
このように、製造される薄板状単結晶の組成と平衡共存する液相の組成物を、最初に必要量、原料塊の上側面に配置しておくことにより、均質で最適組成の薄板状単結晶を連続的に製造することができる。
【0089】
ただし形成される溶融域からの蒸発によって成分が変動してしまう場合には、予めその蒸発量と同量の成分を原料塊に添加しておき、常に組成と量が変動しないようにしながら薄板状単結晶を製造することにより、均質組成で高品質な薄板状単結晶を製造することができる。
【発明の効果】
【0090】
本発明の薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法によれば、水平方向移動手段で原料塊を水平方向に移動することで、原料塊の上側面の融液(溶融域)を水平方向に移動させながら、薄板状単結晶を成長させるため、赤外線の大出力化をすることなく大型の原料塊を適用することができ、添加剤濃度が最適組成で均質である薄板状単結晶を、低コストでしかも連続して高精度に製造することができる。
【0091】
そして原料塊の上側面に形成される溶融域の位置を常に同じ位置に制御することにより高さ方向においても大きな原料塊の使用が可能となり、製造コストの大幅な低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
図1図1は、本発明の第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図2図2は、4つの赤外線照射手段から照射された4本のレーザ光で形成された中空四角形状の照射域を示した図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、原料塊を上面側から見た状態の概念図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置の他の概略図である。
図5図5は、図1に示した薄板状単結晶製造装置において、原料塊の上側面に形成された融液(溶融域)の状態を説明するための図である。
図6図6は、図4に示した薄板状単結晶製造装置において、原料塊の上側面に形成された融液(溶融域)の状態を説明するための図である。
図7図7は、本発明の第1の実施形態において、原料塊と種子単結晶と薄板状単結晶の状態を説明するための概略斜視図である。
図8図8は、図1に示した薄板状単結晶製造装置において、水平方向移動手段による原料塊の動きを説明するための図である。
図9図9は、図1に示した薄板状単結晶製造装置において、原料塊を水平方向移動手段によって原料塊の厚さ方向における一方側へ移動した状態を示した概略図である。
図10図10は、図1に示した薄板状単結晶製造装置において、水平方向移動手段による原料塊の動きを説明するための図である。
図11図11は、図1に示した薄板状単結晶製造装置において、原料塊を水平方向移動手段によって原料塊の厚さ方向における他方側へ移動した状態を示した概略図である。
図12図12は、本発明の第2の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図13図13は、図12に示した薄板状単結晶製造装置の要部断面図である。
図14図14は、本発明の第2の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、原料塊を位置制御手段で上方に移動させた状態の概略図である。
図15図15は、本発明の第3の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図16図16は、本発明の第3の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、原料塊を上面側から見た状態の概念図である。
図17図17は、本発明の第4の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図18図18は、本発明の第4の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、原料塊を上面側から見た状態の概念図である。
図19図19は、図17に示した本発明の第4の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、水平方向移動手段による原料塊の動きを説明するための図である。
図20図20は、図17に示した本発明の第4の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、水平方向移動手段による原料塊の動きを説明するための図である。
図21図21は、本発明の第5の実施形態における薄板状単結晶製造装置において、原料塊を上面側から見た状態の概念図である。
図22図22は、本発明の第5の実施形態において、原料塊と種子単結晶と薄板状単結晶の状態を説明するための概略斜視図である。
図23図23は、本発明の第6の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図24図24は、本発明の第6の実施形態における別の薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図25図25は、本発明の第7の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
図26図26は、図25に示した本発明の第7の実施形態における薄板状単結晶製造装置の要部拡大図である。
図27図27は、本発明の薄板状単結晶製造方法の各工程を示す概略図である。
図28図28は、本発明の薄板状単結晶製造方法の各工程を示す概略図である。
図29図29は、本発明の薄板状単結晶製造方法の各工程を示す概略図である。
図30図30は、本発明の他の実施形態における薄板状単結晶製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0093】
以下、本発明の薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法について、図面に基づきより詳細に説明する。
本発明の薄板状単結晶製造装置および薄板状単結晶製造方法は、赤外線の大出力化を抑止しながら大型の原料塊を適用可能とし、添加剤などを含む固溶体の組成が最適組成で均質である薄板状単結晶を、低コストでしかも連続して高精度に製造するためのものである。
【0094】
<薄板状単結晶製造装置10>
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図1に示したように、まずチャンバー80内に配設された載置台82上に薄板状単結晶製造用の原料塊12が設けられている。この原料塊12は、直方体をしている。
【0095】
また、チャンバー80の上部には、この直方体の原料塊12の上側面14に対して赤外線16を照射し、上側面14の表面を融解して融液18(溶融域)を得るための赤外線照射手段20を備えている。なお図中では、赤外線照射手段20が、原料塊12の左右に設けられているが、実際には原料塊12の上側面14に対して四方から赤外線16が照射されるよう四つの赤外線照射手段20が、原料塊12の上面視において上下左右である周囲四方に配設されている(図1において作図の便宜上、原料塊12の前後方向に配設された赤外線照射手段20、後述する反射鏡24、赤外線16は、不図示である)。
【0096】
これら4つの赤外線照射手段20からそれぞれ照射される赤外線16は、レーザ光16aであることが好ましい。
ここでレーザ光16aの照射域Aは、図2に示したように、水平方向(図2では上下方向)に細長い中空四角形状とし、四角形を構成する四辺、すなわち長辺2本と短辺2本を、四つの赤外線照射手段20からそれぞれ照射される断面が長方形の4本のレーザ光16aで形成している。なおレーザ光16aの幅Eは、厚さが数百μm程度の薄板状単結晶40を製造する場合には3mm~6mmの範囲内とすることが好ましい。
【0097】
レーザ光16aの幅Eは、大きくし過ぎるとレーザ光16aの出力を大きくすることになり、コストアップに繋がることとなる。逆にレーザ光16aの幅Eを細くし過ぎると、所定の溶融域18を形成させるのに、レーザ光16aの出力を高める必要がある。レーザ光16aの出力を高めると、レーザ光16aの照射を受けている原料塊12の上側面14の融液18の温度が上がり過ぎて蒸発などが激しくなる傾向となり、安定して薄板状単結晶40を製造することが困難となる。
【0098】
さらに原料塊12の厚さ方向Wにおける隣合うレーザ光16aとレーザ光16aの間の距離Fは、2mm~10mmの範囲内とすることが好ましい。
照射域Aの原料塊12の厚さ方向Wの隣合うレーザ光16aとレーザ光16aの間の距離Fは、狭すぎると薄板状単結晶40を引き上げる(巻き取る)際の、融液18の温度制御が困難となる。逆に隣合うレーザ光16aとレーザ光16aの間の距離Fを大きくし過ぎると、レーザ光16aの出力を大きくする必要が生じる。
【0099】
このようなレーザ光16aによる中空四角形状の照射域Aは、図3に示したように、原料塊12の上側面14に、この水平方向に細長い中空四角形状の照射域Aが形成されるよう、レーザ光16aを合致させることが好ましい。
【0100】
このとき、中空四角形状の照射域Aは、原料塊12の厚さ方向を「W」、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)を「D」とした場合、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの両端部の位置と、中空四角形状における原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの両端部の位置とを、「略一致」させることが好ましい。
【0101】
そして中空四角形状における原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの長さが、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの長さよりも若干小さくなるように、レーザ光16aの照射域Aの大きさを設定することが好ましい。
【0102】
ここで「略一致」と表現した理由としては、完全に中空四角形状のレーザ光16aの照射域Aの原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの長さと、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの長さとを一致させてしまう、すなわちぎりぎりまで大きさを合わせてしまうと、レーザ光16aの照射により原料塊12の上側面14が融解して、融液18(溶融域)が形成された際に、融液18が原料塊12の上側面14からこぼれ落ちてしまう恐れがあるためである。
【0103】
このため実際には、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの長さに対し、中空四角形状のレーザ光16aの照射域Aの原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dの長さを「若干小さく」設定することで、融液18が原料塊12の上側面14からこぼれ落ちてしまうことなく、融液18を表面張力で原料塊12の上側面14に保持させたまま、原料塊12の上側面14の厚さ方向と直交する方向(水平方向)Dの一方側の端部から他方側の端部までを確実に融解させることができる。
【0104】
なお、中空四角形状のレーザ光16aの照射域Aと、レーザ光16aの照射によって形成される融液18(溶融域)の大きさは、相互に関連しているため、同じ照射域Aの大きさであってもレーザ光16aの出力を上げれば、融液18(溶融域)の大きさは、大きくなる。
【0105】
したがって、予めレーザ光16aの照射域Aの大きさを最適に決めることは困難である。このため、まずは実際にレーザ光16aを原料塊12の上側面14に照射して融液18(溶融域)を形成させ、そのレーザ光16aで作った中空四角形状が溶け残りを出さず、かつ融液18(溶融域)が原料塊12の上側面14からこぼれ落ちない大きさと、レーザ光16aの出力の両方を観察しながら、レーザ光16aの照射域Aの大きさを決定することが重要である。
【0106】
ここで、赤外線照射手段20から照射されるレーザ光16aは、どのようにしてチャンバー80内に入射しても構わないものであるが、反射鏡24を介してチャンバー80の上部に設けられた窓22からチャンバー80内に入射され、チャンバー80内の原料塊12の上側面14に照射されるようにすることが好ましい。
【0107】
この時、レーザ光16aは、図1に示したように原料塊12の上側面14に対して、斜め上方の方向から照射されるが、図4に示したように原料塊12の上側面14に対して、真上から垂直方向に照射されるようにしても良い。原料塊12の上側面14に照射されるレーザ光16aは、原料塊12の材料の熱伝導率および製造する薄板状単結晶40の厚さなどに合わせて、最適な照射角度に制御すれば良いものである。
【0108】
これにより、原料塊12の上側面14に、図2に示したような中空四角形状のレーザ光16aを照射すると、図3に示したようにレーザ光16aが照射された部位(照射域Aの四角帯部分B)は先に融解され、レーザ光16aの当たっていない中空四角形状の中心部分Cは、先に融解された四角帯部分Bおよびその周囲近傍に形成された融液18からの熱伝導により融解されることになる。
【0109】
したがってレーザ光16aの当たっていない中心部分Cの温度を、レーザ光16aが照射された部位(四角帯部分B)の温度よりも低く制御することができ、このような温度分布を原料塊12の上側面14の融液18(溶融域)に持たせることで、この融液18(溶融域)の中心部から薄板状単結晶40の成長を安定して連続的に行うことができる。
【0110】
すなわち、図5および図6に示したように、原料塊12の上側面14に中空四角形状のレーザ光16aを照射することで、中空四角形状の照射域Aのうち、四角帯部分Bおよび四角帯部分Bの近傍の方が、中心部分Cよりも深くまで融液18が形成され、中心部分Cは、中心部分Cの周囲よりも浅く低い温度の融液18が形成されることとなる。
【0111】
一方、チャンバー80の上方には、赤外線照射手段20にて融解され、原料塊12の上側面14の表面に得られた融液18(溶融域)中に、薄板状の種子単結晶32の下側面34を浸すとともに、浸した状態から種子単結晶32を上方に引き上げ、さらに種子単結晶32とともに製造された薄板状単結晶40を上方に引き上げる昇降手段30が設けられている。
【0112】
昇降手段30としては特に構造が限定されるものではないが、例えば製造された薄板状単結晶40を連続してロール状に巻き取る巻き取り手段50であることが好ましい。具体的な構成としては、製造された薄板状単結晶40を連続して巻き取る巻装軸36と、巻装軸36を回動させる回動手段38とを有するものである。なお、図中において符号44は、薄板状単結晶40を連続して巻装軸36に巻き取る際にガイドとなる回転ローラーである。
【0113】
ここで図7に示したように、種子単結晶32の下側面34の長尺方向(原料塊12の厚さ方向と直交する方向D)の大きさT1は、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向と直交する方向Dの大きさT2よりも一回り小さく設定されている。例えば具体的な両者の大きさの関係として、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向と直交する方向Dの大きさT2は、種子単結晶32の下側面34の長尺方向(種子単結晶32の厚さ方向と直交する方向)の大きさT1よりも数mm以上、大きく設定されている。すなわち、融液18中に種子単結晶32の下側面34を全て浸すことができる大きさに設定されている。
【0114】
種子単結晶32を浸す、原料塊12の上側面14に赤外線照射手段20を介して形成される融液18(溶融域)は、図8(a)の状態から水平方向移動手段72を介して原料塊12を原料塊12の厚さ方向W(図8(a)では右方向)に移動させると、図8(b)に示したように、融液18(溶融域)は、それに伴って左方向(原料塊12の移動方向とは逆方向)に移動する。すなわち原料塊12の表面では、融液18(溶融域)の移動方向で融解が進み、同時に融液18(溶融域)の移動方向と逆方向で融液18の凝固が進むことになる。
【0115】
水平方向移動手段72は、図1に示したように位置制御手段84の底部側方に設けられた駆動軸74と、この駆動軸74を駆動させる例えばモーターなどの駆動手段76とを備えてなるものであり、この駆動手段76を介して駆動軸74を駆動させることにより、原料塊12が載置された載置台82および載置台82の上下方向の位置を所定位置となるように位置制御する位置制御手段84を、原料塊12の厚さ方向Wに移動させることができる。
【0116】
なお、位置制御手段84は、載置台82の下方に設置された駆動軸86を、例えばモーターなどの駆動手段88を介して駆動させることで、載置台82の上下方向の位置を変動させることができるようになっている。しかしながらこの構造に限定されるものではなく、エアシリンダーなどの公知の手段を用いても良いものである。
【0117】
水平方向移動手段72による載置台82および位置制御手段84の水平方向への移動速度は、0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることが好ましい。
ここで原料塊12としてシリコンを用いる場合には、移動速度を0.5mm/分~50mm/分の範囲内とすることが好ましい。一方、原料塊12としてシリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料を用いる場合には、薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度がシリコンの場合よりも遅くなるため、原料塊12の移動速度を0.05mm/分~0.5mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0118】
さらに原料塊12として多成分系の酸化物材料を用いる場合には、薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度が、シリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料の場合よりもさらに遅くなるため、原料塊12の移動速度を0.005mm/分~0.05mm/分の範囲内とすることが好ましい。他方、金属材料などのように熱伝導率が高い材料の場合には、原料塊12の移動速度を1mm/分~100mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0119】
ただし原料塊12の移動速度が上記の範囲内であっても、原料塊12の移動に伴って固化した部位にセル成長の発生に伴うラメラ構造の形成が観察されたら移動速度を下げ、原料の安定した融解、固化が可能となる移動速度とすることが望ましい。
【0120】
なお水平方向移動手段72は、電動モーターの回転運動を線形運動変換するリニアアクチュエーターであることが好ましい。このようにリニアアクチュエーターであれば、位置制御手段84を水平方向に移動させる際の移動速度の調整が容易であるとともに、振動が生じ難いため、原料塊12の上側面14の融液18(溶融域)が上側面14からこぼれ落ちてしまうことなく、表面張力で保持されたまま、薄板状単結晶40の成長を安定して連続的に行うことができる。
【0121】
またリニアアクチュエーターの他にも、例えばローラーコンベア(図示せず)上を位置制御手段84が水平方向に移動する構造など、リニアアクチュエーターと同様に、原料塊12の上側面14の融液18(溶融域)が上側面14からこぼれ落ちてしまうことなく原料塊12を水平方向に移動することのできる構造であれば、特に限定されるものではないものである。
【0122】
そして中空四角形状のレーザ光16aの照射によって形成される融液18(溶融域)が、図8(c)および図9に示したように、原料塊12の一方側の端部まで到達したら、今度は原料塊12の移動方向を反転させ、図10(a)に示したように、左方向(原料塊12の他方側の端部の方向)に移動させる。
【0123】
さらに図10(b)に示したように、左方向(原料塊12の他方側の端部の方向)に原料塊12を移動させ、再び融液18(溶融域)が、図10(c)および図11に示したように原料塊12の他方側の端部に到達したら、再び反転して右方向(原料塊12の一方側の端部の方向)に原料塊12を移動させ、この左右への反転を連続的に継続させる。
【0124】
このように原料塊12の位置を、水平方向移動手段72を介して左右の水平方向(原料塊12の厚さ方向W)に移動させることにより、原料塊12の大きさを、原料塊12の厚さ方向Wに大きくしても、順次、融解、凝固させることができる。したがって、原理的には原料塊12の厚さ方向Wに大きさの制限のない、厚さ方向に大きな原料塊12を用いることができる。
【0125】
もちろん、水平方向移動手段72によって、原料塊12を原料塊12の厚さ方向Wに移動させた際には、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向Wである水平方向の一端部の位置と、レーザ光16aの中空四角形状の照射域Aにおける原料塊12の厚さ方向Wである水平方向の一端部の位置とを「略一致」させてしまう、すなわち上記したのと同様、両方の一端部を完全に一致させてしまうと、レーザ光16aの照射によって得られた融液18が、原料塊12の上側面14からこぼれ落ちてしまうおそれがある。
【0126】
このため、中空四角形状のレーザ光16aの照射域Aの原料塊12の厚さ方向Wである水平方向の一端部が、原料塊12の厚さ方向Wである水平方向の一端部の若干手前の位置に到達したら、それ以上のぎりぎりの位置までは、原料塊12を移動させないようにすることが好ましい。これは一端部の反対側の他端部についても同様である。
【0127】
このようにして原料塊12の上側面14に、移動しながら連続的に得られる融液18(溶融域)の中心部に、昇降手段30(巻き取り手段50)を介して種子単結晶32の下側面34を浸すことで、浸された種子単結晶32の下側面34における融液18との界面では、種子単結晶32を介して熱伝導で熱が種子単結晶32の上方に移動することにより界面温度が下がり、単結晶の成長が開始される。
【0128】
その単結晶の成長速度に合わせて、昇降手段30を介して種子単結晶32を上方に引き上げ、単結晶と融液18との固液界面位置を一定に保つことにより、安定的かつ連続的に薄板状単結晶40を製造することができる。ここで巻き取り手段50による薄板状単結晶40の巻き取り速度は、0.005mm/分~100mm/分の範囲内であることが好ましい。
【0129】
なお原料塊12としてシリコンを用いる場合には、薄板状単結晶40の巻き取り速度を0.5mm/分~50mm/分の範囲内とすることが好ましい。一方、原料塊12としてシリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料を用いる場合には、薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度がシリコンの場合よりも遅くなるため、巻き取り速度を0.05mm/分~0.5mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0130】
さらに原料塊12として多成分系の酸化物材料を用いる場合には、薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度が、シリコン以外の酸化物などの熱伝導率の低い材料の場合よりもさらに遅くなるため、巻き取り速度を0.005mm/分~0.05mm/分の範囲内とすることが好ましい。他方、金属材料などのように熱伝導率が高い材料の場合には、巻き取り速度を1mm/分~100mm/分の範囲内とすることが好ましい。
【0131】
すなわち、原料塊12の材料によって、薄板状単結晶40の最適な引き上げ(巻き取り)速度が変わるので、用いる原料塊12の材料に合わせて、巻き取り速度を設定すれば良いものである。
【0132】
製造される薄板状単結晶40の厚さは、定常状態では融液18の温度および種子単結晶32の引き上げ(巻き取り)速度などによって調整することができ、例えば原料塊12の材料がシリコンである場合には、30μm~500μm程度の厚さとすることができる。ただし、薄板状単結晶40の厚さが500μmを超えると、巻き取り手段50が大型化してしまうので、500μmを超える場合には巻き取らずに上方に引き上げて製品とすることもできる。
【0133】
なお、原料塊12の上側面14に照射するレーザ光16aの水平方向に対する傾斜角度や照射するレーザ光16aの間隔を最適に調整すれば、これよりもさらに薄い薄板状単結晶40やさらに厚い薄板状単結晶40を製造することもできる。
【0134】
また原料塊12の材料として、シリコン以外の酸化物材料や金属材料を用いた場合においても、原料塊12の上側面14に照射するレーザ光16aの水平方向に対する傾斜角度や照射するレーザ光16aの間隔を最適に調整することにより、所望の厚さを有する薄板状単結晶40を製造することができる。
【0135】
なお、融液18の温度と薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度との間には相関関係がある。すなわち、融液18の温度が高い場合には薄板状単結晶40の成長に必要な冷却量が増えるので、薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度を遅くし、融液18の温度が低い場合には薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度を速めることで、薄板状単結晶40の生産性を高めることができる。ただし、引き上げ(巻き取り)速度が速すぎるといわゆる「セル成長」が発生し易くなり、薄板状単結晶40の結晶特性が劣化するので、適宜薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度を調整することが好ましい。
【0136】
なお、融液18に浸される種子単結晶32の厚さV2や、厚さV2に対して直交する方向の幅(大きさ)としては、特に限定されるものではなく、薄板状単結晶製造装置10の大きさに合わせて適宜設定すれば良いものである。
【0137】
例えば種子単結晶32の厚さを300μm~500μm程度の厚さとした場合には、融液18の温度および薄板状単結晶40の引き上げ(巻き取り)速度を調節することにより、所望の厚さの薄板状単結晶40を連続的に製造することができる。
【0138】
また本明細書中では、薄板状単結晶40の厚さと種子単結晶32の厚さを異ならせて図示しているが、これは図中で薄板状単結晶40と種子単結晶32の区別がつくように敢えてしたものであって、特に両者の厚さの関係を限定するものではないものである。
【0139】
薄板状単結晶40を巻き取る際には、巻き取り手段50の巻装軸36に、種子単結晶32を複数(図7では3本)の、熱に強く高強度な細線52を介して吊り下げておくことが好ましい。特に種子単結晶32において、細線52が取り付けられた部位の厚さV1を、種子単結晶32の厚さV2以下とすれば、巻装軸36に薄板状単結晶40を巻き取る際に、薄板状単結晶40の表面が細線52に接触して破損が生ずることを確実に防止することができる。
【0140】
種子単結晶32に細線52を取り付ける方法としては特に限定されるものではないが、例えば種子単結晶32の端部に細線52を結びつけるための貫通穴(図示せず)を数カ所設けるとともに、この貫通穴とつながるように凹溝(図示せず)を種子単結晶32の両面に設け、種子単結晶32に細線52を結び付けた際に、この凹溝内に細線52が嵌り、種子単結晶32よりも外方に細線52が出っ張らないようにすると良い。このようにすることにより、薄板状単結晶40を巻き取る際に、薄板状単結晶40の表面が細線52に接触して破損が生ずることを確実に防止することができる。
【0141】
また、本発明の薄板状単結晶製造装置10においては、昇降手段30と原料塊12の間に、連続的に製造される薄板状単結晶40の揺れを防止し、成長位置がズレを生じないように所定の範囲内に留める揺れ止め部材60と、融液18から発せられる輻射熱を、連続的に製造される薄板状単結晶40に届き難いように遮蔽する遮蔽部材62と、を設けておくことが好ましい。
【0142】
揺れ止め部材60を設けることで、製造された薄板状単結晶40が、左右に振れ過ぎて成長位置がズレを生ずることを抑制でき、高品質な薄板状単結晶40を安定的かつ連続的に製造することができる。
【0143】
また遮蔽部材62を設けることで、薄板状単結晶40の製造速度を速めることができる。すなわち、原料塊12を融解し、単結晶として固化させる方法は「融液法」と呼ばれるが、この融液法における単結晶の成長速度は、結晶が固化する際に放出される結晶化潜熱を、融液18に接触している単結晶中の熱伝導によって効率良く排熱することで速められる。
【0144】
したがって、例えば赤外線16(レーザ光16a)の光路を遮らないように遮蔽部材62を設ければ、薄板状単結晶40への輻射熱の到達量を減らし、薄板状単結晶40の温度を上げないことにより結晶化潜熱を効率良く排熱でき、薄板状単結晶40の製造効率を高めることができる。
【0145】
このように、本発明の薄板状単結晶製造装置10を用いることで、連続的に薄板状単結晶40を製造することができるが、薄板状単結晶40を連続して製造していくと、原料塊12の上側面14の位置が下がってしまうこととなる。このようになってしまうと赤外線照射手段20による赤外線16(レーザ光16a)の照射位置を、所望の位置となるように制御する必要がある。
【0146】
本実施形態においては、赤外線16の照射位置を制御する代わりに、原料塊12を載置する載置台82に、載置台82の上下方向の位置を制御する位置制御手段84を備えている。
【0147】
このよう位置制御手段84を備えることで、連続的に製造された薄板状単結晶40の引き上げに伴って、原料塊12の上側面14の位置が下がっても、載置台82を上げて原料塊12の上側面14の位置を当初の位置と同位置に保つことができ、常に融液18の液面位置を同じ位置にすることができる。
【0148】
したがって、常に同じ位置に赤外線16が照射されるようにすれば良く、薄板状単結晶40を安定的に歩留まり良く連続的に製造することができる。ここで図4および図6に示した薄板状単結晶製造装置10のように、原料塊12の上側面14に対し、レーザ光16aを原料塊12の真上から垂直に照射する場合には、原料塊12の上側面14の位置が上下方向に変動しても融液18の温度は変わらないので、原料塊12の上側面14の上下方向の位置制御をしなくても良い。
【0149】
なお、上述した薄板状単結晶製造装置10に用いられる原料塊12は、製造される薄板状単結晶40の材料の組成の原料塊12である。ただし、薄板状単結晶40の材料が分解融解物質である場合には、この原料塊12を、本発明の薄板状単結晶製造装置10でそのまま融解して固化させても、目的とする薄板状単結晶40を得ることはできない。
【0150】
製造される薄板状単結晶40の材料の組成と平衡共存する液相(これを溶媒相という)の組成物を必要量、最初に原料塊12の上側面14に載せておき、最初にこれを融解する。この場合の「必要量」とは、赤外線16(レーザ光16a)の照射によって、原料塊12の上側面14に形成される融液(溶融域)18の容量と同量である。このようにすると原料塊12の上側面14上に、レーザ光16aの照射によって形成される融液相の量に相当する溶媒が載っている状態となる。
【0151】
このようにしてから薄板状単結晶40を製造すると、原料塊12の移動に伴って新たに溶融域18に供給される原料分と薄板状単結晶40として固化した分、および原料塊12の移動に伴って溶融域18が固化した分とが同量となるため、溶媒の量と組成は最初から最後まで変わらず、見かけ上、溶媒相が原料塊12を溶かしつつ、単結晶を析出しながら固化して移動している様子に見える。
【0152】
このスキームを「溶媒移動法」と呼ぶ。本発明の薄板状単結晶製造装置10によって得られる薄板状単結晶40が分解融解物質である場合や添加剤を含む固溶体物質である場合、得られる薄板状単結晶40中の添加剤濃度を均質にするには、この「溶媒移動法」を用いることが重要である。
【0153】
このように、本発明によれば、水平方向移動手段72で原料塊12を水平方向に移動することで、原料塊12の上側面14の融液(溶融域)18を水平方向に移動させながら、薄板状単結晶40を成長させるため、赤外線16の大出力化をすることなく大型の原料塊12を適用することができ、添加剤濃度が最適組成で均質である薄板状単結晶40を、低コストでしかも連続して高精度に製造することができる。
【0154】
[第2の実施形態]
次に本発明の薄板状単結晶製造装置10の第2の実施形態について説明する。
図12図14は、本発明の第2の実施形態における薄板状単結晶製造装置10である。
【0155】
図12図14に示した薄板状単結晶製造装置10は、基本的には図1図11に示した第1の実施形態の薄板状単結晶製造装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略し、相違点について説明する。
【0156】
本発明の第2の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図12図14に示したように、原料塊12の周囲に、原料塊12を予め加熱する補助加熱部材64が設けられており、さらに補助加熱部材64の外側に、断熱材66が配設されている点で、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10と異なっている。
【0157】
補助加熱部材64および断熱材66は、図13に示したように、載置台82に原料塊12を載置した際に、原料塊12の周囲をすっぽりと覆うように、位置制御手段84の側方に配設されることが好ましい。
【0158】
このように、位置制御手段84の側方に補助加熱部材64および断熱材66を設ければ、図14に示したように、原料塊12の上側面14の溶融に伴って、位置制御手段84にて原料塊12を上方に移動させた際に、補助加熱部材64および断熱材66の高さ位置を同位置に維持したままとすることができる。
【0159】
また、当然ながら位置制御手段84と水平方向移動手段72は接続されているため、水平方向移動手段72による原料塊12の水平方向への移動に追随して、補助加熱部材64および断熱材66も移動させることができ、常に原料塊12を加熱状態とすることができる。
【0160】
なお、補助加熱部材64による原料塊12の加熱は、原料塊12の融点よりも低い温度までとすることが好ましい。
赤外線照射手段20から照射された赤外線16(レーザ光16a)を、原料塊12の上側面14に照射する前に、補助加熱部材64を介して予め原料塊12の温度を融点よりも低い温度まで加熱しておくことにより、赤外線16(レーザ光16a)の照射量を減らすことができる。したがって、原料塊12の大きさを大きくしても、赤外線照射手段20を必要以上に大出力化する必要がなく、製造コストを抑制することができる。
また、補助加熱部材64の外側に断熱材66が配設されていれば、補助加熱部材64によって融点よりも低い温度まで加熱するのに必要なエネルギーを節約することができる。
【0161】
[第3の実施形態]
次に本発明の薄板状単結晶製造装置10の第3の実施形態について説明する。
図15および図16は、本発明の第3の実施形態における薄板状単結晶製造装置10である。
【0162】
図15および図16に示した薄板状単結晶製造装置10は、基本的には図1図11に示した第1の実施形態の薄板状単結晶製造装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略し、相違点について説明する。
【0163】
本発明の第3の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図15および図16に示したように、水平方向移動手段72が位置制御手段84の底部側方の正面側に設けられており、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dに大きな原料塊12が用いられている点で、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10と異なっている。
【0164】
すなわち、第3の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、水平方向移動手段72を介して、原料塊12を、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向(水平方向)Dに移動させることで、原料塊12の上側面14に設けられた融液(溶融域)18を原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向D(図16では矢印の上下方向)に移動させながら、連続的に薄板状単結晶40を製造するよう構成している。
【0165】
ここで原料塊12の上側面14に照射されるレーザ光16aによる中空四角形状の照射域Aは、図16に示したように、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dに大きな原料塊12の上側面14に、この水平方向(図16では上下方向)に細長い中空四角形状の照射域Aが形成されるよう、レーザ光16aを合致させることが好ましい。
【0166】
このとき、中空四角形状の照射域Aは、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向Wの両端部の位置と、中空四角形状における原料塊12の厚さ方向Wの両端部の位置とを、「略一致」させることが好ましい。
【0167】
そして中空四角形状における原料塊12の厚さ方向Wの長さが、原料塊12の上側面14における原料塊12の厚さ方向Wの長さよりも若干小さくなるように、レーザ光16aの照射域の大きさを設定することが好ましい。
【0168】
ここで「略一致」と表現した理由としては、第1の実施形態で説明したのと同様、完全に中空四角形状のレーザ光16aの照射域Aの原料塊12の厚さ方向Wの長さと、原料塊12の厚さ方向Wの長さとを一致させてしまう、すなわちぎりぎりまで大きさを合わせてしまうと、レーザ光16aの照射により原料塊12の上側面14が融解して、融液18(溶融域)が形成された際に、融液18が原料塊12の上側面14からこぼれ落ちてしまう恐れがあるためである。
【0169】
このため実際には、原料塊12の厚さ方向Wの長さに対し、中空四角形状のレーザ光16aの照射域Aの原料塊12の厚さ方向Wの長さを「若干小さく」設定することで、融液18が原料塊12の上側面14からこぼれ落ちてしまうことなく、融液18を表面張力で原料塊12の上側面14に保持させたまま、原料塊12の上側面14の厚さ方向と直交する方向Dの一方側の端部から他方側の端部までを確実に融解させることができる。
【0170】
原料塊12の上側面14をレーザ光16aで照射し融液(溶融域)18を形成したら、水平方向移動手段72を介して、原料塊12を原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向D(図16では下方向)に原料塊12を移動させ、原料塊12の、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dの一端部に到達するところまで融液(溶融域)18を形成し、これを繰り返せば良い。
【0171】
このように原料塊12が、原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dに大きな原料塊12であっても、水平方向移動手段72を位置制御手段84の底部側方の正面側に設けることにより、添加剤濃度が最適組成で均質である薄板状単結晶40を、低コストでしかも連続して高精度に製造することができる。
【0172】
[第4の実施形態]
次に本発明の薄板状単結晶製造装置10の第4の実施形態について説明する。
図17図20は、本発明の第4の実施形態における薄板状単結晶製造装置10である。
【0173】
図17図20に示した薄板状単結晶製造装置10は、基本的には図1図11に示した第1の実施形態の薄板状単結晶製造装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略し、相違点について説明する。
【0174】
本発明の第4の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図17および図18に示したように、水平方向移動手段72が、位置制御手段84の底部側方の左右側(図17では右側)に設けられているとともに、位置制御手段84の底部側方の正面側にも設けられており、原料塊12の厚さ方向Wと厚さ方向に対して直交する方向Dの両方向に大きな原料塊12が用いられている点で、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10と異なっている。
【0175】
このように水平方向移動手段72が2つ設けられていれば、原料塊12を水平方向の所望の方向へ自由に移動させることができるため、大きな原料塊12を用いることができる。
【0176】
なおこのように水平方向移動手段72が2つ設けられている場合には、図18に示したように、原料塊12の厚さ方向Wと厚さ方向に対して直交する方向Dの両方向に大きな原料塊12を用いることができ、例えばまずは図19(a)に示したように、原料塊12の左下隅近傍にレーザ光16aの照射域Aを合わせて、原料塊12の上側面14に融液(溶融域)18を形成し、この位置から位置制御手段84の底部側方の正面側に設けられた水平方向移動手段72bで、原料塊12を原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dの一端部から他端部に向かって移動させることで図19(b)に示した状態とする。
【0177】
次に位置制御手段84の底部側方の左右側(図17では右側)に設けられた水平方向移動手段72aで、原料塊12を原料塊12の厚さ方向Wに向かって移動させ19(c)に示した状態とする。この時の原料塊12の移動距離は、レーザ光16aによる照射域Aによって形成される溶融域18の厚さ方向の大きさよりも小さい値とし、移動速度は、移動に伴って溶融域18が固化する際にセル成長が発生しない範囲の速度とする。その具体的な移動量および移動速度は、薄板状単結晶40の製造条件に合致させて決定する。
【0178】
次いで図20(a)に示したように、再び位置制御手段84の底部側方の正面側に設けられた水平方向移動手段72bで、原料塊12を原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dの他端部に向かって移動させる。溶融域18が他端部に達したら、さらに図20(b)に示したように、位置制御手段84の底部側方の左右側(図17では右側)に設けられた水平方向移動手段72aで、原料塊12を原料塊12の厚さ方向Wに向かって所定の長さだけ移動させる。
【0179】
次いで、図20(c)に示したように、位置制御手段84の底部側方の正面側に設けられた水平方向移動手段72bで、原料塊12を原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dの他端部から一端部に向かって移動させることで、原料塊12の上側面14の全ての領域を融解することができる。
【0180】
このような動きを原料塊12の上側面14の大きさに応じて繰り返し行うことで、原料塊12の厚さ方向Wと、厚さ方向に対して直交する方向Dの両方向に大きな原料塊12に対して、原料塊12の上側面14に形成された溶融域18を水平方向に移動させながら、連続的に薄板状単結晶40を製造することができる。したがって、薄板状単結晶40を連続して製造することができる。
【0181】
なお、第4の実施形態では、水平方向移動手段72aと水平方向移動手段72bの2つを備えることで、原料塊12を水平方向のいずれの方向にも移動できるようにしているが、この構成に限定されるものではなく、公知の水平移動テーブルなどを用いても良いものである。
【0182】
[第5の実施形態]
次に本発明の薄板状単結晶製造装置10の第5の実施形態について説明する。
図21および図22は、本発明の第5の実施形態における薄板状単結晶製造装置10である。
【0183】
図21および図22に示した薄板状単結晶製造装置10は、基本的には図1図11に示した第1の実施形態の薄板状単結晶製造装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略し、相違点について説明する。
【0184】
本発明の第5の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図21および図22に示したように、原料塊12の形状が、横倒しした円柱状である点で、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10と異なっている。
【0185】
すなわち、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10では、直方体状の原料塊12を用いているが、このように横倒しした円柱状の原料塊12であっても、薄板状単結晶40を連続して製造することができる。
【0186】
なおこの場合には、横倒しした円柱状の原料塊12を載置台82に載せ、原料塊12の長尺方向(原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向D)と種子単結晶32の厚さ方向に対して直交する方向Dを合わせ、この状態で、原料塊12の上側面14にレーザ光16aの照射を開始し、原料塊12の上側面14の一番突出された箇所(円の頂部)に形成された融液(溶融域)18に種子単結晶32を浸し上方に引き上げることで、薄板状単結晶40の育成を開始することができる。
【0187】
原料塊12の断面は円形であるため、原料塊12の溶融域18の範囲は、薄板状単結晶40の育成とともに次第に大きくなり、円柱状の原料塊12の横半分(断面では上半分)まで溶融された時点で最大になった後、次第に小さくなる。殆どの原料塊12を融解、固化させた段階で、薄板状単結晶40の製造は終了となる。
【0188】
なお、原料塊12の上側面14におけるレーザ光16aの照射域Aによって形成される溶融域18の厚さ方向Wの端部位置は、原料塊12の上側面14の厚さ方向Wの端部位置に合致させる必要がある。この場合には、第4の実施形態で説明した厚さ方向Wおよび厚さ方向に対して直交する方向Dの両方向に大きな原料塊12を用いた場合と同じように、レーザ光16aの照射域Aの位置を設定すれば良い。
【0189】
横倒しした円柱状の原料塊12は、シーメンス法で製造されたU字状の単結晶の曲がった部分を切断することで、2本の円柱状の原料塊12とすることができる。
円柱状の原料塊12は、上側面14のサイズが刻々と変化するので、予めレーザ光16aの照射プログラムを組んでおき、水平方向移動手段72と連動して、融液(溶融域)18を形成するようにすることが好ましい。
【0190】
[第6の実施形態]
次に本発明の薄板状単結晶製造装置10の第6の実施形態について説明する。
図23および図24は、本発明の第6の実施形態における薄板状単結晶製造装置10である。
【0191】
図23および図24に示した薄板状単結晶製造装置10は、基本的には図1図11に示した第1の実施形態の薄板状単結晶製造装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略し、相違点について説明する。
【0192】
本発明の第6の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図23および図24に示したように、チャンバー80において、チャンバー80内を、添加剤を含んだ雰囲気ガスで満たすガス導入装置90が備えられている点で、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10と異なっている。
【0193】
ガス導入装置90は、チャンバー80の上部側方に設けられ、ガス導入装置90から導入管92を介してチャンバー80内に、雰囲気ガスが導入されるようになっている。またチャンバー80の下方側方には、排出管94が設けられ、この排出管94からチャンバー80外に雰囲気ガスを排出できるようになっている。
【0194】
これにより、チャンバー80内は、薄板状単結晶40の製造に適した雰囲気ガスで満たされた状態を維持することができ、添加剤濃度が均質で高品質な薄板状単結晶40を連続的に製造することができる。
【0195】
なお雰囲気ガスは、製造される薄板状単結晶40の材料の特性に合わせて用意すれば良く、例えばN型シリコンの薄板状単結晶40を製造する場合には、雰囲気ガスとしてホスフィン(PH3)を最適濃度に含有する高純度アルゴンガスをチャンバー80内に導入することが好ましい。
【0196】
また、図24に示したように、例えば赤外線照射手段20から照射された赤外線16(レーザ光16a)をチャンバー80内に導光するための窓22の下方にカバー部材42を設け、積極的にチャンバー80とカバー部材42とで区切られた空間内に、ガス導入装置90から雰囲気ガスが導入されるようにしても良いものである。
【0197】
このようにチャンバー80とカバー部材42とで区切られた空間内に雰囲気ガスが導入されれば、窓22に融液18から生ずる蒸発物が付着してしまうことを防止することができ、添加剤濃度が均質で高品質な薄板状単結晶40を安定的に歩留まり良く連続的に製造することができる。
【0198】
[第7の実施形態]
次に本発明の薄板状単結晶製造装置10の第7の実施形態について説明する。
図25および図26は、本発明の第7の実施形態における薄板状単結晶製造装置10である。
【0199】
図25および図26に示した薄板状単結晶製造装置10は、基本的には図1図11に示した第1の実施形態の薄板状単結晶製造装置10と同じ構成であるので、同じ構成部材には、同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略し、相違点について説明する。
【0200】
本発明の第7の実施形態における薄板状単結晶製造装置10は、図25および図26に示したように、チャンバー80において、チャンバー80内を、添加剤を含んだ雰囲気ガスで満たすガス導入装置90が備えられているとともに、昇降手段30が、原料塊12の上部に複数(図25では2つ)設けられている点で、第1の実施形態における薄板状単結晶製造装置10と異なっている。ガス導入装置90が備えられた点に関する説明は、第6の実施形態で説明したのと同様である。
【0201】
具体的には、昇降手段30(巻き取り手段50)がチャンバー80の上部に左右に2つ並べて設けられており、原料塊12の上側面14の融液18に種子単結晶32,32を浸し、これをそれぞれに昇降手段30,30(巻き取り手段50,50)で上方に引き上げることで、薄板状単結晶40,40をそれぞれ製造することができるようになっている。
このように昇降手段30が原料塊12の上部に複数設けられていれば、昇降手段30が一つの場合と比べ、薄板状単結晶40の製造効率を格段に向上させることができる。
【0202】
<薄板状単結晶製造方法>
次に、本発明の薄板状単結晶製造装置10を用いた薄板状単結晶製造方法について説明する。
【0203】
まず図27(a)に示したように、チャンバー80内の載置台82に原料塊12を載せてチャンバー80内を密閉し、原料塊12の上側面14の上部に、原料塊12の長尺方向(厚さ方向に対して直交する方向D)と薄板状の種子単結晶32の長尺方向(厚さ方向に対して直交する方向D)とが一致するように、種子単結晶32を配設する。種子単結晶32は、細線52を介して巻き取り手段50の巻装軸36から吊り下げられている。
【0204】
なお、チャンバー80内は、排出管94を介して雰囲気が真空排気され、製造される薄板状単結晶40の材料の特性に合わせた雰囲気ガスが、ガス導入装置90の導入管92を介してチャンバー80内に導入される。
【0205】
次いで図27(b)に示したように、赤外線照射手段20を介して原料塊12の上側面14の角部近傍に対して赤外線16(レーザ光16a)を照射し、上側面14を部分的に融解する。
【0206】
赤外線16(レーザ光16a)の照射域Aの形状は、水平方向に細長い中空四角形状であり、原料塊12の上側面14に、この水平方向に細長い中空四角形状の照射域Aを形成するようにレーザ光16aを合致させて照射する。
【0207】
これにより、原料塊12の上側面14にレーザ光16aの照射により融液18(溶融域)が形成され、レーザ光16aの当たっていない融液18(溶融域)の中心部は、先に融解された照射域Aの四角帯部分Bの近傍の融液18からの熱伝導により融解される。同時に原料塊12は、水平方向移動手段72aと水平方向移動手段72bを介して原料塊12の厚さ方向Wおよび厚さ方向に対して直交する方向Dに所定の速度で移動させ、原料塊12の上側面14の角部が完全に溶融域18で覆われる状態にする。
【0208】
次いで図27(c)および図19(a)に示したように、原料塊12の上側面14に得られた融液18(溶融域)の中心部に、昇降手段30(巻き取り手段50)を介して、薄板状の種子単結晶32の下側面34を浸し、種子単結晶32の下側面34から単結晶の成長を開始させる。
【0209】
さらに図28(a)に示したように、昇降手段30(巻き取り手段50)を介して種子単結晶32を上方に引き上げ、薄板状単結晶40を連続的に製造する。
次いで原料塊12を、水平方向移動手段72bにより厚さ方向に対して直交する方向Dに所定の速度で移動させる。溶融域18が原料塊12の厚さ方向に対して直交する方向Dの端部に達したら、今度は水平方向移動手段72aにより所定の長さだけ所定の移動速度で移動させ、再び水平方向移動手段72bで厚さ方向に対して直交する方向Dの反対側の端部に向かって移動を開始し、これを原料塊12の上側面14の全面に亘って繰り返す(図28(b)および図19(b)~図20(c))。
【0210】
次いで図28(c)に示したように、薄板状単結晶40の連続的な製造に伴って、載置台82の位置を、位置制御手段84を介して上方に移動させる。これにより、引き上げに伴って原料塊12の融液18の位置が下がっても、当初の位置を保つように原料塊12の位置を位置制御し、常に融液18の液面位置を同じ位置とする。
【0211】
ここで図4および図6に示した薄板状単結晶製造装置10のように、原料塊12の上側面14に対し、レーザ光16aを原料塊12の真上から垂直に照射する場合には、原料塊12の上側面14の位置が変動しても融液18の温度は変わらないので、原料塊12の上側面14の位置を一定の位置に制御しなくても良い。
【0212】
次いで図29(a)に示したように、赤外線照射手段20による赤外線16(レーザ光16a)の照射量を増やして融液18の温度を上げ、最後に図29(b)に示したように、薄板状単結晶40を融液18から切り離し、昇降手段30(巻き取り手段50)により連続的に製造された薄板状単結晶40の巻き取りを終え、赤外線照射手段20による赤外線16(レーザ光16a)の照射を終えれば、薄板状単結晶40の製造が完了となる。
【実施例0213】
[実施例1]
本発明の薄板状単結晶製造装置10を用いて、リンを添加したN型シリコンの薄板状単結晶40を製造した。
【0214】
なお原料塊12として、幅400mm、厚さ500mm、高さ500mmの直方体状の原料塊12を用いた。
一方、薄板状の種子単結晶32として、(111)面を有する幅350mm、厚さ0.3mm、高さ100mmのシリコンの種子単結晶32を用いた。シリコンは(111)面方向にファセットと呼ばれる平坦状の面が現れやすい性質があり、この平坦状の面を、種子単結晶32の板面とした。種子単結晶32は、予め3本の細線52を介して巻き取り手段50の巻装軸36に取り付けた。
【0215】
まず、チャンバー80内の載置台82上にこの原料塊12を載せ、チャンバー80を閉じて内部の雰囲気を真空状態とした。
次いでチャンバー80内に、雰囲気ガスを導入した。雰囲気ガスとしては、高純度アルゴンガスを使用し、リンを添加するためにホスフィン(PH3)ガスを必要量添加したものを用いた。
【0216】
この原料塊12の上側面14に、幅6mm、長さ382mmの断面が長方形であるレーザ光16aを左右からそれぞれ水平方向からの傾斜角度80度で、原料塊12の厚さ方向Wの一方側の端部から3mm離して一方側のレーザ光16aを照射し、この一方側のレーザ光16aから6mm離した位置に他方側のレーザ光16aを照射した。
【0217】
さらにこれと同時に、原料塊12の厚さ方向と直交する方向Dの両端部には、レーザ光16aの照射域Aの四角帯部分Bの短辺部分として、両端部からそれぞれ3mm離して幅6mm、長さ18mmの断面が長方形であるレーザ光16aを、水平方向から傾斜角度80度でそれぞれ照射した。
【0218】
レーザ光16aの照射域Aの形状は、4つの赤外線照射手段20から照射された4つのレーザ光16aにより、全体で水平方向に細長い中空四角形状となっている。これにより原料塊12の上側面14に、四角形状の融液18(溶融域)を形成させた。
【0219】
同時に原料塊12は、原料塊12の厚さ方向Wの一方側の端部に向かって移動速度1mm/分で水平移動を開始させ、溶融域18が一方側の端部に達したら反転させ、同様に1mm/分の速度で逆方向の他方側の端部に向かって移動させ、これを繰り返した。
【0220】
巻き取り手段50の巻装軸36を回転させ、レーザ光16aによって融解して得られた融液18の中心部に、上記した種子単結晶32の下側面34を浸し、種子単結晶32の下側面34から薄板状単結晶40を成長させながら、今度は巻装軸36を逆方向に回転させ、種子単結晶32を上方に5mm/分の速度で引き上げ、上部で巻装軸36に薄板状単結晶40を連続的にロール状に巻き取り、長さ10mを超える長尺の薄板状単結晶40を製造した。
【0221】
なお、種子単結晶32は、直径0.05mm程度のカーボンファイバー製の細線52で巻き取り手段50の巻装軸36にセットされ、回動手段38で巻装軸36の回転方向や回転速度を制御することで、種子単結晶32を上下方向に移動させた。
【0222】
原料塊12の上側面14の融液18(溶融域)の中心部に種子単結晶32が浸されると、直ぐに結晶化が始まり、種子単結晶32の浸された部分は厚くなるものの、このまま放置すると厚くなった部分が融解して薄くなることを確認した。
【0223】
この状態で、種子単結晶32を上方に引き上げ、製造された薄板状単結晶40の厚さをカメラで確認し、引き上げ(巻き取り)速度とレーザ光16aの照射強度を調整しながら厚さを0.3mmに制御して巻装軸36を回転させ、連続的に薄板状単結晶40を巻装軸36に巻き取った。なお、この間、原料塊12は1mm/分の速度で連続的に移動させ、融液18(溶融域)が原料塊12の厚さ方向Wの一方側の端部に達したら反転させて他方側の端部に向かって移動させる作業を連続させた。
【0224】
なお、種子単結晶32の引き上げ(巻き取り)速度を遅くすると、薄板状単結晶40の厚さが厚くなり、引き上げ(巻き取り)速度を速めると薄板状単結晶40の厚さが薄くなることを確認した。毎分30mmの速度で厚さ0.3mmの薄板状単結晶40が連続して引き上がるように融液18の温度を調節した。
【0225】
ここで薄板状単結晶40の引き上げに伴い、原料塊12の融液18の液面位置が下がるので、当初の位置を保つように原料塊12を載せている載置台82の位置を、位置制御手段84を介して所定の位置に制御し、常に原料塊12の融液18の液面位置を当初の位置と同じ位置となるようにしている。
【0226】
このようにして製造された10mを超える長尺で、厚さが0.3mm、幅が374~378mmの薄板状単結晶40を、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)法を用いて確認した。
【0227】
その結果、添加剤であるリンの濃度が最適組成で均質であり、高品質であることが確認され、本発明の薄板状単結晶製造装置10および薄板状単結晶製造方法の優位性が確認できた。
【0228】
次に上述した本発明の薄板状単結晶製造装置10およびこの薄板状単結晶製造装置10を用いた薄板状単結晶製造方法のまとめについて説明する。
本発明の薄板状単結晶製造装置10および薄板状単結晶製造方法によって、薄板状単結晶40を連続して安定的に製造できるようにした最も大きな要因は、原料塊12の融解と、得られた融液18からの単結晶化とを、それぞれ独立して概ね制御できるようにした点である。
【0229】
そして原料塊12を連続的に水平方向へ反転移動させる水平方向移動手段72(72a、72b)を用いて、大型の原料塊12が適用可能となる構成としたことである。
すなわち、原料塊12を融解して融液18を得るには加熱が必要であるが、融液18を固化させて結晶化させるには冷却が必要であり、両者は相反している。
【0230】
そこで本発明では、結晶化が行われる部分(融液18の中心部)には直接、レーザ光16aを照射せず、結晶化が行われる部分以外の部分(融液18の中心部を除いた周縁領域)にレーザ光16aを照射して、原料塊12の上側面14を部分的に融解し、融液18の熱を、結晶化が行われる部分(中心部)に伝導させて、原料塊12の上側面14上に融液18(溶融域)を形成させる構成とした。
【0231】
これにより、結晶化が行われる部分(中心部)の温度は、レーザ光16aの照射を受けて融解している部分の温度よりも低くなり、結晶化を容易にしている。
融液18の中心部に、種子単結晶32を浸すと、融液18の熱が、浸された種子単結晶32の下側面34に伝わるので、下側面34に接する融液18の温度は低くなり、結晶化が急激に進む。しばらく放置しておくと、種子単結晶32を伝わって逃げる熱量は定常状態になり、それまでに急激に固化した部位は周囲の融液18からの熱により次第に融解し、定常状態になる。
【0232】
この状態で種子単結晶32を上方に引上げる(巻き取る)と、種子単結晶32は低温部に移動することになるので、融液18と接している下側面34では、結晶化が進む。
種子単結晶32の引上速度(巻き取り速度)を速め、結晶化が追い付かなくなると、製造された薄板状単結晶40の厚みは薄くなり、引上速度(巻き取り速度)を遅くすると結晶化が進むので薄板状単結晶40の厚みが増す。
【0233】
そこで融液18の温度を低めに制御すれば結晶化が容易となり、薄板状単結晶40の厚みが厚くなるので、引上速度(巻き取り速度)を速めても所定の厚みの薄板状単結晶40を連続的に製造することができる。
【0234】
なお、種子単結晶32の引上速度(巻き取り速度)を速めれば、薄板状単結晶40の製造効率を高めることができるが、あまり早くし過ぎるとセル成長が発生する可能性が高まる。セル成長が発生すると、局部的に添加剤であるリンの濃度が大きく変動し、単結晶としての特性が劣化する。したがって、セル成長の発生を抑止しながら、できるだけ引上速度(巻き取り速度)を速めて薄板状単結晶40を連続的に製造することが重要である。
【0235】
さらには本発明によって、分解融解物質や固溶体単結晶など、いわゆる不一致融解物質についても、均質組成で高品質な薄板状単結晶40の製造が始めて可能になった。このような不一致融解物質の均質組成の薄板状単結晶40は、従来の製造方法では製造が不可能とされてきたものである。
【0236】
すなわち、原料を融解して融液を形成させ、これを固化して単結晶を製造するいわゆる「融液法」で、これらの不一致融解物質の均質組成単結晶を製造するためには、目的組成の原料塊を製造しておき、目的組成物質と平衡共存する溶媒組成の溶媒を用いて原料塊の溶解と、溶媒からの単結晶の析出を同時進行で進める、いわゆる「溶媒移動法」を適用する以外に原理的に方法が無い。
【0237】
本発明においては、原料塊12の上側面14に溶媒相成分を必要量配置してから赤外線16を照射して融解し、溶媒部を形成させる。そして溶媒部を水平方向に移動させて、溶媒部への新たな原料の供給と溶媒部からの薄板状単結晶40の製造および溶媒部の固化とを同時進行させることにより、「溶媒移動法」を適用し、均質組成の薄板状単結晶40を製造可能とした。
【0238】
なお、N型シリコンの場合には添加剤としてリンを所定用、添加するが、リンは融液18からの蒸発があり、融液18中の濃度が時間の経過とともに薄くなってしまうことになる。そこで雰囲気中にホスフィン(PH3)を添加して薄板状単結晶40の製造(育成)を行った。
【0239】
この場合、ホスフィン(PH3)とシリコン融液が反応してリンが融液中に溶け込む。融液中のリンの濃度と、固化した薄板状単結晶40中のリンの濃度には、分配係数で規定された濃度比に従った濃度差があり、融液中のリンの濃度を所定の濃度にして一定に保持しておくと、薄板状単結晶40中のリンの濃度も一定に保持される。
【0240】
この薄板状単結晶40中のリンの濃度が最適濃度になるよう、融液中のリンの濃度を設定し、そのリンの濃度が維持されるようにホスフィン(PH3)の雰囲気中の濃度を設定した。
【0241】
以上、本発明の薄板状単結晶製造装置10およびこの薄板状単結晶製造装置10を使用した薄板状単結晶製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないものである。
【0242】
例えば、上記した薄板状単結晶製造装置10では、第1の実施形態から第7の実施形態までを別々に記載したが、これらを適宜組み合わせて本発明の薄板状単結晶製造装置10としても良いものである。
【0243】
さらに上記した薄板状単結晶製造装置10では、赤外線照射手段20から照射されたレーザ光16aで、中空四角形状の照射域Aを形成できるように、赤外線照射手段20を、上面視における原料塊12を中心として、上下左右(例えば90度毎)の四方に設けた場合を例にしているが、これに限定されるものではなく、一つの赤外線照射手段20から照射されるレーザ光16aを分割して、原料塊12に四方からレーザ光16aを照射するようにしても良いものである。
【0244】
さらには、四方(90度毎)に限らず、例えば二方(180度毎)でも良いなど、赤外線照射手段20の数について限定されるものではなく、レーザ光16aの中空四角形状の照射域Aの大きさや赤外線照射手段20の出力強度などを鑑みて決定すれば良いものである。
【0245】
また、原料塊12の上側面14の中心部を除く周縁領域に合致する、水平方向に細長い中空四角形状の照射域Aを形成できるようにレーザ光16aを照射することができれば、一つの赤外線照射手段20から照射されるレーザ光16aの断面形状を長方形に限定するものではないものである。
【0246】
すなわち、断面コ字状のレーザ光16aを左右それぞれから原料塊12の上側面14に照射し、2つの断面コ字状のレーザ光16a,16aで、水平方向に細長い中空四角形状の断面形状の照射域Aを形成しても良いものである。
【0247】
また、上記した薄板状単結晶製造装置10では、赤外線照射手段20から照射される赤外線16(レーザ光16a)は、反射鏡24を介してチャンバー80内に導入されるよう構成されているが、図30に示したように、反射鏡24を介することなく直接チャンバー80内に導入されるよう構成しても良いものである。反射鏡24を介する必要が有るか否かは、薄板状単結晶製造装置10の構成やサイズ等を鑑みて適宜決定すれば良いものである。
【0248】
さらに、製造される薄板状単結晶40の厚さとしては、30μm~500μm程度の厚さとして記載したが、これ以上の例えば5000μm以上の厚さであっても原理的に製造可能であって、厚さが上記の範囲に限定されるものではないものである。
【0249】
また、融液18に浸される種子単結晶32の厚さについても、例えば300μm~500μm程度の厚さとして記載したが、こちらもこの範囲外の厚さであっても原理的に薄板状単結晶40を製造可能であって、厚さが上記の範囲に限定されるものではないものである。
【0250】
さらに、リンを添加したN型シリコンの薄板状単結晶40を製造する場合には、上記したように雰囲気中にホスフィン(PH3)を添加しておき、ホスフィン(PH3)とシリコン融液が反応してリンが融液中に溶け込むことで、リンが添加されたN型シリコンの薄板状単結晶40を製造するようにしているが、これに限定されるものではなく、元々の必要な添加剤(リン)の量に、蒸発によって失われる添加剤(リン)の量を最初から加えた原料塊12を製造するようにしても良いものである。
【0251】
このように本発明の薄板状単結晶製造装置10および薄板状単結晶製造方法は、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0252】
10 薄板状単結晶製造装置
12 原料塊
14 上側面
16 赤外線
16a レーザ光
18 融液(溶融域)
20 赤外線照射手段
22 窓
24 反射鏡
30 昇降手段
32 種子単結晶
34 下側面
36 巻装軸
38 回動手段
40 薄板状単結晶
42 カバー部材
44 回転ローラー
50 巻き取り手段
52 細線
60 揺れ止め部材
62 遮蔽部材
64 補助加熱部材
66 断熱材
72 水平方向移動手段
72a 水平方向移動手段
72b 水平方向移動手段
74 駆動軸
76 駆動手段
80 チャンバー
82 載置台
84 位置制御手段
86 駆動軸
88 駆動手段
90 ガス導入装置
92 導入管
94 排出管
A 照射域
B 四角帯部分
C 中心部分
D 原料塊の厚さ方向に対して直交する方向
E レーザ光の幅
F レーザ光とレーザ光の間の距離
T1 種子単結晶の下側面の長尺方向(厚さ方向と直交する方向)の大きさ
T2 原料塊の上側面における厚さ方向と直交する方向の大きさ
V1 種子単結晶の細線が取り付けられた部位の厚さ
V2 種子単結晶の厚さ
W 原料塊の厚さ方向
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