(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025854
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】畜産動物用組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 10/16 20160101AFI20230216BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20230216BHJP
【FI】
A23K10/16
A23L13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131255
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 義人
(72)【発明者】
【氏名】平工 明里
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 紀介
【テーマコード(参考)】
2B150
4B042
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AB05
2B150AC06
2B150AD22
2B150BD01
2B150DD12
2B150DD13
4B042AC02
4B042AC03
4B042AC04
4B042AC10
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK16
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】畜産動物の肉の品質を向上させる新たな手段を提供する。
【解決手段】70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を、畜産動物用組成物に含有させる。前記畜産用組成物は、畜産動物に摂取させることにより、その肉の品質を改善させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する、畜産動物用組成物。
【請求項2】
前記乳酸菌が、ラクチカゼイバチルス(Lacticaseibacillus)属細菌、ラクチプランチバチルス(Lactiplantibacillus)属細菌、レヴィラクトバチルス(Levilactobacillus)属細菌、リジラクトバチルス(Ligilactobacillus)属細菌、リモシラクトバチルス(Limosilactobacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌から選択される一種又は二種以上の細菌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ラクチカゼイバチルス属細菌が、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ラクチカゼイバチルス・パラカゼイが、ラクトバチルス・パラカゼイ NITE BP-01633である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
肉の品質改善用である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記畜産動物が家畜である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
飼料である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する組成物を、畜産動物に投与することを含む、飼料効率を増大させる方法。
【請求項9】
70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する組成物を、畜産動物に投与することを含む、畜産動物の肉の品質を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産動物に摂取させるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産動物の飼育においては、枝肉重量や歩留などの生産性を上げるため、肥育を促進させる飼料が古来用いられてきた。それに加えて、近年は肉の柔らかさや脂肪の入り具合などの賞味の観点からも、肉の品質を向上させる需要があり、種々の肉質改善用飼料が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【0003】
近年、一部の乳酸菌は、宿主の細胞性免疫を賦活化させたり、腸管や呼吸器の粘膜からの免疫物質の分泌を亢進させたりすることにより、様々な感染症に対する予防・防御作用を示すことが報告されている(非特許文献1~4)。そのため、乳酸菌は腸内環境改善を通して様々な生理作用を得るべく、プロバイオティクスとして盛んに利用されている。
しかしながら、生菌体ではなく死菌体の適用についてはいまだ十分に研究がなされておらず、その作用については解明途上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-099370号
【特許文献2】特開2013-226073号
【特許文献3】特開2011-120554号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Delcenserie, V. et al., Curr. Issues Mol. Biol. (2008) 10: 37-54.
【非特許文献2】Hori, T. et al., Clin. Diagn. Lab. Immunol. (2002) 9: 105-108.
【非特許文献3】Takeda, K. et al., Clin. Exp. Immunol. (2006) 146: 109-115.
【非特許文献4】Ogawa, T., Clin. Exp. Immunol. (2006) 143: 103-109.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従前の肉質改善用飼料では、肉質改善効果が十分でなかったり、肉質が改善されても畜産動物の肥育が低下したりして、必ずしも肉の総合的な品質を向上させるものではなかった。また、原材料が入手しにくかったり、製造コストがかかったりするという問題もあった。
かかる状況において、本発明は、畜産動物の肉の品質を向上させる新たな手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、乳酸菌の加熱殺菌体を摂取させた畜産動物においてその肉の品質が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する、畜産動物用組成物である(以降、「本発明の組成物」とも記す)。
本発明において、乳酸菌としては、ラクチカゼイバチルス(Lacticaseibacillus)属細
菌、ラクチプランチバチルス(Lactiplantibacillus)属細菌、レヴィラクトバチルス(Levilactobacillus)属細菌、リジラクトバチルス(Ligilactobacillus)属細菌、リモシラクトバチルス(Limosilactobacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌から選択される一種又は二種以上の細菌が好ましい。前記ラクチカゼイバチルス属細菌としては、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)がより好ましく、ラクトバチルス・パラカゼイ NITE BP-01633がさらに好ましい。
本発明の組成物は、肉の品質改善用途に好ましく適用できる。
本発明において、前記畜産動物は好ましくは家畜である。
本発明の組成物は、好ましくは飼料である。
また、本発明の別の態様は、70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する組成物を、畜産動物に投与することを含む、飼料効率を増大させる方法である。
また、本発明の別の態様は、70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する組成物を、畜産動物に投与することを含む、畜産動物の肉の品質を改善する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物を畜産動物に摂取させることにより、その肉の品質を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】乳酸菌投与群と対照群の等級別の個体数を表すグラフ(各群n=5)。
【
図2】乳酸菌投与群と対照群の体重の各平均値の推移を表すグラフ(各群n=5、*:p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0012】
本発明の組成物は、70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体を含有する。
【0013】
本発明において、乳酸菌としては、ラクチカゼイバチルス(Lacticaseibacillus)属細菌、ラクチプランチバチルス(Lactiplantibacillus)属細菌、レヴィラクトバチルス(Levilactobacillus)属細菌、リジラクトバチルス(Ligilactobacillus)属細菌、リモシラクトバチルス(Limosilactobacillus)属細菌、ラチラクトバチルス(Latilactobacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌から選択される一種又は二種以上の細菌が好ましい。
なお、これらの属は、いずれも従来ラクトバチルス(Lactobacillus)属に分類されていたが、2020年に国際原核生物命名委員会(ICSP)による規則(ICNP)に則りInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)誌においてに再分類されたものである。
【0014】
新たな分類であるラクチカゼイバチルス属に含まれるものとしては、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)、ラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)が挙げられる。
【0015】
ラクチカゼイバチルス・カゼイとしてより具体的には、ラクトバチルス・カゼイ YI
T9029(FERM BP-1366)、ラクトバチルス・カゼイ ATCC393、ラクトバチルス・カゼイ 431、ラクトバチルス・カゼイ327、ラクトバチルス・カゼイYIT 9029、ラクトバチルス・カゼイ Lc-11、ラクトバチルス・カゼイ NY1301等が挙げられる。
ラクチカゼイバチルス・パラカゼイとしてより具体的には、ラクトバチルス・パラカゼイ MCC1849、ラクトバチルス・パラカゼイ MCC1375、ラクトバチルス・パラカゼイ KW3110、ラクトバチルス・パラカゼイ WON0604、ラクトバチルス・パラカゼイ Lpc-37、ラクトバチルス・パラカゼイ KW3110等が挙げられる。
ラクチカゼイバチルス・ラムノーサスとしてより具体的には、ラクトバチルス・ラムノーサス MCC1855(LCS742)、ラクトバチルス・ラムノーサス ATCC53103、ラクトバチルス・ラムノーサス GG、ラクトバチルス・ラムノーサス GR-1、ラクトバチルス・ラムノーサス ATCC53103、ラクトバチルス・ラムノーサス Lr-32、ラクトバチルス・ラムノーサス R0011、ラクトバチルス・ラムノーサス MCC-01855、ラクトバチルス・ラムノーサス HN001等が挙げられる。
【0016】
これらのラクチカゼイバチルス属細菌のうち、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイがより好ましく、そのうちラクトバチルス・パラカゼイ MCC1849(受託番号:NITE BP-01633)が特に好ましい。ラクトバチルス・パラカゼイ MCC1849は、旧分類であるラクトバチルス属細菌として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD;〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2013年6月6日にNITE P-01633の受託番号で寄託がなされ、2013年12月19日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、NITE BP-01633の受託番号が付与されている。
【0017】
新たな分類であるラクチプランチバチルス属に含まれるものとしては、ラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)、ラクチプランチバチルス・ペントーサス(Lactiplantibacillus pentosus)が挙げられる。
ラクチプランチバチルス・プランタラムとしてより具体的には、ラクチプランチバチルス・プランタラム Lp-115、ラクチプランチバチルス・プランタラム TK61406、ラクチプランチバチルス・プランタラム CECT7315、ラクチプランチバチルス・プランタラム CECT7316、ラクチプランチバチルス・プランタラム CECT7527、ラクチプランチバチルス・プランタラム CECT7528、ラクチプランチバチルス・プランタラム CECT7529、ラクチプランチバチルス・プランタラム LP299V等が挙げられる。
ラクチプランチバチルス・ペントーサスとしてより具体的には、ラクチプランチバチルス・ペントーサス SAM2336等が挙げられる。
【0018】
新たな分類であるレヴィラクトバチルス属に含まれるものとしては、レヴィラクトバチルス・ブレヴィス(Levilactobacillus brevis)が挙げられる。
レヴィラクトバチルス・ブレヴィスとしてより具体的には、レヴィラクトバチルス・ブレヴィス Lbr-35、レヴィラクトバチルス・ブレヴィス NTT001、レヴィラクトバチルス・ブレヴィス SBC8803等が挙げられる。
【0019】
新たな分類であるリジラクトバチルス属に含まれるものとしては、リジラクトバチルス・サリヴァリウス(Ligilactobacillus salivarius)が挙げられる。
リジラクトバチルス・サリヴァリウスとしてより具体的には、リジラクトバチルス・サリヴァリウス Ls―33、リジラクトバチルス・サリヴァリウス TI2711等が挙げられる。
【0020】
新たな分類であるリモシラクトバチルス属に含まれるものとしては、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)、リモシラクトバチルス・ロイテリ(Limosilactobacillus reuteri)が挙げられる。
リモシラクトバチルス・ファーメンタムとしてより具体的には、リモシラクトバチルス・ファーメンタム SBS―1等が挙げられる。
リモシラクトバチルス・ロイテリとしてより具体的には、リモシラクトバチルス・ロイテリ RC14、リモシラクトバチルス・ロイテリ 1E1、リモシラクトバチルス・ロイテリ DSM17938、リモシラクトバチルス・ロイテリ ATCC PTA 6475、リモシラクトバチルス・ロイテリ ATCC PTA 5289等が挙げられる。
【0021】
新たな分類であるラチラクトバチルス属細菌に含まれるものとしては、ラチラクトバチルス・クルヴァトゥス(Latilactobacillus curvatus)が挙げられる。
ラチラクトバチルス・クルヴァトゥスとしてより具体的には、ラチラクトバチルス・クルヴァトゥス CP2998等が挙げられる。
【0022】
新たな分類であるラクトバチルス属(旧分類においてもラクトバチルス属に分類されていた)に含まれるものとしては、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・デルブリッキイ・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アミロヴォラス(Lactobacillus amylovorus)が挙げられる。
ラクトバチルス・アシドフィラスとしてより具体的には、ラクトバチルス・アシドフィラス MCC1847(NITE BP-01695)等が挙げられる。
ラクトバチルス・デルブリッキイ・サブスピーシーズ・ブルガリクスとしてより具体的には、ラクトバチルス・デルブリッキイ・サブスピーシーズ・ブルガリクス Lb―87、ラクトバチルス・デルブリッキイ・サブスピーシーズ・ブルガリクス OLL1247等が挙げられる。
ラクトバチルス・ガセリとしてより具体的には、ラクトバチルス・ガセリ MCC1846(NITE BP-01669)、ラクトバチルス・ガセリ Lg-36、ラクトバチルス・ガセリ CP2305、ラクトバチルス・ガセリ PA-3等が挙げられる。
ラクトバチルス・ヘルベティカスとしてより具体的には、ラクトバチルス・ヘルベティカス MCC1848(NITE BP-01671)、ラクトバチルス・ヘルベティカス
MCC1844(NITE BP-02185)、ラクトバチルス・ヘルベティカス R0052、ラクトバチルス・ヘルベティカス SBT2171等が挙げられる。
ラクトバチルス・アミロヴォラスとしてより具体的には、ラクトバチルス・アミロヴォラス CP1563等が挙げられる。
【0023】
なお、前述した乳酸菌の各菌株には、当該細菌名で所定の機関に寄託や登録がなされている株そのもの(以下、説明の便宜上、「寄託株」ともいう)に限られず、それと実質的に同等な株(「派生株」又は「誘導株」ともいう)も包含される。すなわち、上記受託番号で上記寄託機関に寄託されている株そのものに限られず、それと実質的に同等な株も包含される。細菌について、「上記寄託株と実質的に同等の株」とは、上記寄託株と同一の種に属し、さらに上記寄託株とのゲノム配列の類似度(Average Nucleotide Identity値)が、好ましくは99.0%以上、より好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは100%の同一性を有し、かつ、好ましくは上記寄託株と同一の菌学的性質を有する株をいう。細菌について、上記寄託株と実質的に同等の株は、例えば、当該寄託株を親株とする派生株であってよい。派生株としては、寄託株から育種された株や寄託株から自然に生じた株が挙げられる。育種方法としては、遺伝子工学的手法による改変や、突然変異処理による改変が挙げられる。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、エチルメタンスルフォネート、及びメチルメタンスルフォネート等の変異剤による処理が挙げられる。寄託株から自然に生じた株としては、寄託株の使用の際に自然に生じた株が挙げられる。そのような株としては、寄託株の培養(例えば継代培養)により自然に生じた変異株が挙げられる。派生株は、一種の改変により構築されてもよく、二種又はそれ以上の改変により構築されてもよい。
【0024】
本発明の組成物に含有させる乳酸菌は、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよいし、前述の細菌を培養することにより取得したものを用いてもよい。
培養方法は、乳酸菌が増殖できる限り、特に制限されない。培養方法としては、例えば、乳酸菌の培養に通常用いられる方法を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。培養温度は、例えば、25~50℃であってよく、35~42℃であることが好ましい。培養は、好ましくは嫌気条件下で実施することができ、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら実施することができる。また、培養は、液体静置培養等の微好気条件下で実施することもできる。培養は、例えば、乳酸菌が所望の程度に増殖するまで実施することができる。
【0025】
培養に用いる培地は、乳酸菌が増殖できる限り、特に制限されない。培地としては、例えば、乳酸菌の培養に通常用いられる培地を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩類や硝酸塩類を用いることができる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、乳酸菌の培養に通常用いられる培地として、具体的には、強化クロストリジア培地(Reinforced Clostridial medium)、MRS培地(de Man, Rogosa, and Sharpe medium)、mMRS培地(modified MRS medium)、TOSP培地(TOS propionate medium)、TOSP Mup培地(TOS propionate mupirocin medium)、GAM(Gifu Anaerobic Medium)培地、YCFA(Yeast Extract-casein Hydrolysate Acid)培地等が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物に含有させる乳酸菌は、加熱殺菌体である。該加熱殺菌体は、乳酸菌を70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理することにより得られるものである。なお、加熱処理の際に、圧力を加えてもよい。なお、加熱処理の間、温度は必ずしも一定である必要はなく、所定の時間前記温度の範囲にあればよい。
乳酸菌の加熱殺菌体は、前記加熱処理の後そのまま用いてもよいし、破砕、加熱乾燥、凍結乾燥、又は噴霧乾燥などの処理を施したものを用いてもよい。
【0027】
本発明の組成物における乳酸菌の加熱殺菌体の含有量としては特に限定されないが、例えば乳酸菌の菌体量として、組成物1g当たり1×104cells(個)以上とすることが好ましく、より好ましくは1×107cells以上の菌体を含有するとしてよい。
これらは、通常、畜産動物用組成物として流通するときの含有量の範囲であってよい。
【0028】
本発明の組成物は、これを摂取した畜産動物の肉の品質を改善させることができる。
ここで、肉の品質は、「肉質」を含むものであってよく、肉質は通常、「肉の締まり」、「肉のきめ」、「肉の色沢」、「脂肪の色沢」、「脂肪の質」、「脂肪の沈着」、「脂肪の交雑」等から選択される一種又は二種以上の項目で評価される。
また、肉の品質は、「外観」を含むものであってもよく、外観は通常、「均称」、「肉づき」、「脂肪付着」、「仕上げ」等から選択される一種又は二種以上の項目で評価される。なお、肉が豚肉の場合は、肉の品質は外観を含めて評価されることが好ましい。
また、肉の品質は、「枝肉重量と背脂肪厚さのバランス」を含むものであってよく、肉が豚肉の場合は通常はこれを含めて評価される。
また、肉の品質は、賞味した時の官能特性を含んでもよく、例えば、「旨味」、「脂肪の甘さ」、「柔らかさ」、「香り」等から選択される一種又は二種以上の項目で評価される。
ここで肉の品質の「改善」とは、本発明の組成物を摂取しない場合に比べて、摂取した場合に肉の品質が向上することをいう。前述した観点・項目の少なくとも一種以上が向上していれば肉の品質が向上したといってよい。
【0029】
また、日本においては、公益社団法人 日本食品格付協会が定める全国統一の枝肉の取引規格(http://www.jmga.or.jp/standard/)に基づいて評価される格付を、本発明における肉の品質の指標としてもよい。
前述した「肉質」、「外観」、「枝肉重量と背脂肪厚さのバランス」の観点の評価においても、前記協会による取引規格に準じて評価されるものであってよい。
【0030】
また、本発明の組成物は、これを摂取した畜産動物における飼料効率を増大させることもできる。
飼料効率は、通常、給餌した飼料に対する畜産動物の体重の増加量で評価される。飼料効率の「増大」とは、本発明の組成物を摂取しない場合に比べて、摂取した場合に飼料効率が上昇すること、すなわち畜産動物の体重増加の程度及び/又は速度が増加することをいう。
【0031】
本発明の別の側面は、畜産動物用組成物の製造における、乳酸菌の加熱殺菌体の使用である。
本発明の別の側面は、肉の品質改善用組成物の製造における、乳酸菌の加熱殺菌体の使用である。
本発明の別の側面は、乳酸菌を70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理して加熱殺菌体を取得することを含む、畜産動物用組成物の製造方法である。
本発明の別の側面は、乳酸菌を70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理して加熱殺菌体を取得することを含む、肉の品質改善用組成物の製造方法である。
本発明の別の側面は、肉の品質改善における、乳酸菌の加熱殺菌体の使用である。
本発明の別の側面は、肉の品質改善のために用いられる、乳酸菌の加熱殺菌体である。
【0032】
本発明の別の側面は、70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体又はそれを含有する組成物を、畜産動物に投与することを含む、肉の品質を改善する方法である。
本発明の別の側面は、70~100℃で10~40分間、又は90~150℃で5~30秒間処理された乳酸菌の加熱殺菌体又はそれを含有する組成物を、畜産動物に投与することを含む、飼料効率を増大させる方法である。
【0033】
本発明の組成物を投与する対象は、畜産動物であり、通常は家畜及び家禽が含まれ、好ましくは家畜である。家畜としては、牛、豚、羊等が挙げられ、家禽としては、鶏、アヒル等が挙げられるが、特に限定されない。また、これら家畜・家禽の品種についても特に限定されない。
【0034】
なお、本明細書において「組成物又は乳酸菌の加熱殺菌体を動物に投与すること」は、「組成物又は乳酸菌の加熱殺菌体を動物に摂取させること」と同義であってよい。摂取は、通常は自発的なもの(自由摂取)であるが、強制的なもの(強制摂取)であってもよい。すなわち、投与工程は、具体的には、例えば、乳酸菌の加熱殺菌体を飼料や給水に配合して対象に供給し、以て対象にそれを自由摂取させる工程であってもよい。
【0035】
本発明の組成物の投与時期は、特に限定されず、投与対象動物の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0036】
本発明の組成物の投与量は、投与対象動物の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。
本発明の組成物の投与量は、乳酸菌の加熱殺菌体の投与量として、例えば、1×106~1×1011cells/日・kgの範囲が好ましく、1×107~1×1011cells/日・kgの範囲がより好ましく、1×107~1×1010cells/日・kgがさらに好ましい。
なお、投与の量や期間にかかわらず、本発明の組成物は1日1回若しくは複数回に分けて投与することができる。また、1週間に1回、2週間に1回というように間隔をあけて投与することもできる。
【0037】
本発明の組成物の投与期間は、特に限定されない。また、投与期間の上限は特に設けられず、継続的な、長期の投与が可能である。例えば、畜産動物の幼齢期から投与することができ、肥育期間を通して投与してもよい。
【0038】
本発明の組成物の投与経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口投与としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物を経口投与される組成物とする場合は、飼料の態様とすることが好ましい。
飼料としては、本発明の効果を損なわず、経口投与できるものであれば形態や性状は特に制限されず、乳酸菌の加熱殺菌体を含有させること以外は、通常飼料に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
【0040】
飼料の形態としては特に制限されず、乳酸菌の加熱殺菌体の他に例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、カゼイン、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
また、基礎飼料や水に添加して用いる形態の飼料であってもよい。
なお、本明細書において飼料は、畜産動物が摂取する飲食用組成物一般を指し、特に限定されない。
【0041】
本発明の組成物が飼料の態様である場合、肉の品質改善に関する用途が表示された飼料として提供・販売されることが可能である。
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が前記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飼料に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関す
る広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0042】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【実施例0043】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
<製造例1>乳酸菌の加熱殺菌体の調製
ラクトバチルス・パラカゼイ MCC1849(NITE BP-01633)を、オートクレーブを用いて100℃で30分間処理して、加熱殺菌体を取得した。前記加熱殺菌体は、凍結乾燥により粉末化して、後述の試験例に供した。
【0045】
<試験例1>豚肉の品質への影響の検討
LWD系統の去勢雄または雌のブタを供試し、宮城大学食産業学群附属牧場で飼養した。4週齢時に導入し、1週間馴化させたのち、5週齢時から、乳酸菌投与群及び対照群の2群に分けて(各群5頭、計10頭)、24週齢時まで投与試験を行った。被験試料として、豆乳5mL/kgBWに、水60mL当たり投与資材1gを懸濁した懸濁液1mLを添加したものを用い、1週間間隔のステップワイズで経口投与した。前記投与資材として、乳酸菌投与群には製造例1で調製したラクトバチルス・パラカゼイ MCC1849の加熱殺菌体(100億個/日)を、対照群にはマルツデキストリンを用いた。試験期間中は、基礎飼料として抗菌剤無添加飼料を飽食量給餌し、抗菌剤無添加飼料には、週齢の経過に応じて、JA全農北日本くみあい飼料株式会社の「HPチャレンジハイミルクワンR」、「八幡平Aマッシュ」、「産直豚肥育B」、及び「産直豚肥育C」をそれぞれ用いた。生後24週にて出荷し、公益社団法人 日本食品枝付協会にて枝肉評価を行った
【0046】
枝肉評価は、公益社団法人 日本食品格付協会が定めた全国統一の枝肉の取引規格(http://www.jmga.or.jp/assets/commons/doc/pamphlet_pork.pdf)に基づき、中立の立場で1頭毎に品質評価された。なお、該規格は、全国の食肉卸売市場・食肉センター等において、取引される食肉について中立の立場での格付評価に用いられているものであり、全国共通の食肉の品質指標となっている。
具体的には、「枝重量と背脂肪の厚さ」、「外観」、及び「肉質」の3つの観点について、その等級の条件を同時に具備しているものを当該等級に格付けした。まず、「枝重量と背脂肪の厚さ」による等級の判定表(表1)によって該当する等級を判定し、次いで「外観」と「肉質」の各項目の条件によって等級を決定した。「外観」は、均称、肉づき、脂肪付着、及び仕上げの項目を、「肉質」は肉の締まり及びきめ、肉の色沢、脂肪の色沢と質、並びに脂肪の沈着又は交雑の項目をそれぞれ5段階で評価した。評価値は、5:「極上」、1:「上」、2:「中」、3:「並」、4:「等外」を示す。
【0047】
【0048】
枝肉評価の結果を表2に示す。外観欄、及び肉質欄の空白は、当該等級より上位等級で「極上」、「上」以外を示す。また、脂肪の沈着又は交雑の項目については、評価対象外だった。乳酸菌投与群の肉の外観及び肉質の各項目において、対照群に比較して優れた評価が付けられた。表2における等級は、枝重量及び背脂肪の厚さ、外観、並びに肉質のすべての評価を総合して格付けたものである。
また、総合評価である等級で表した乳酸菌投与群の枝肉成績は、その対照群に比較して、上物率が高いことが認められた(
図1)。
【0049】
【0050】
<試験例2>豚の飼料効率への影響の検討
試験例1と同様の方法で、5週齢時から24週齢時まで投与試験を行い、体重を測定した。
各群の体重の平均値の推移を
図2に示す。乳酸菌投与群の体重の平均値は、対照群に比較して21及び24週齢時において有意に高かった。