IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

特開2023-25873共重合体及びその製造方法、並びに、成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025873
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】共重合体及びその製造方法、並びに、成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/688 20060101AFI20230216BHJP
   C08G 75/26 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C08G63/688
C08G75/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131293
(22)【出願日】2021-08-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「ムーンショット型研究研究開発事業/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」、委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 智弘
(72)【発明者】
【氏名】神木 遼也
【テーマコード(参考)】
4J029
4J030
【Fターム(参考)】
4J029AC02
4J029AC04
4J029AD01
4J029EG03
4J029EG07
4J029EG09
4J029EG11
4J029EH01
4J029EH02
4J029HE01
4J029HE06
4J029JB232
4J029KD02
4J029KE06
4J030BA19
4J030BA43
4J030BB62
4J030BB65
4J030BC02
4J030BF01
(57)【要約】
【課題】分解性を有し、より汎用性の高い共重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)~(4)で表される構造単位のいずれかを含む共重合体である。
式(1)~(4)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)~(4)で表される構造単位のいずれかを含む共重合体。
【化1】
式(1)~(4)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【請求項2】
前記式(1)~(4)で表される構造単位が、下記式(5)で表される化合物由来である、請求項1に記載の共重合体。
【化2】
式(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【請求項3】
更に、下記式(6)~(7)で表される構造単位のいずれかを含む、請求項1又は2に記載の共重合体。
【化3】
式(6)中、R11は、H又はアルキル基であり、R12は、H、ハロゲン原子又は有機基であり、
式(7)中、R13は、置換基を有してもよいアルキレン基である。
【請求項4】
下記式(8)で表される構造を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体。
【化4】
式(8)中、
、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基であり、
11は、H又はアルキル基であり、
12は、H、ハロゲン原子又は有機基であり、
m1及びn1は各々独立に1以上の整数である。
【請求項5】
下記式(9)で表される構造を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体。
【化5】
式(9)中、
、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基であり、
13は、置換基を有してもよいアルキレン基であり、
m2及びn2は各々独立に1以上の整数である。
【請求項6】
分解性を有し、分解物の数平均分子量が100~3,000である、請求項1~5のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項7】
下記式(5)で表される化合物の開環を伴う付加-開裂反応を含む、共重合体の製造方法。
【化6】
式(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の共重合体を含有する、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及びその製造方法、並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミによる海洋汚染などが顕在化し、新しい分解性ポリマーの開発が望まれてきている。一般に広く利用されている汎用の高分子として、例えば、ビニル化合物単量体を重合して得られるビニルポリマーが知られている。ビニルポリマーは、主鎖が炭素-炭素結合のみからなり、分解性を有する例はほとんどない。主鎖が分解性の低い炭素-炭素結合からなるビニルポリマーへの分解性セグメントの導入は喫緊の課題となっている。
【0003】
環状ケテンアセタールは開環ラジカル重合し、エステル結合を主鎖にもつ高分子を生じる。環状ケテンアセタールをビニル化合物と共重合することで、分解性共重合体が得られることが報告されている。(非特許文献1、特許文献1など)。
【0004】
最近、7員環構造をもつ環状チオエステルの開環を伴う付加-開裂反応によるチオエステル結合の主鎖への導入が報告されている。しかし、7員環環状チオエステルは出発物質が高価で特殊なもの(非特許文献2、3)や汎用のε-カプロラクトンの硫化物を用いる場合は、共重合が酢酸ビニルに限定される(非特許文献4)。
【0005】
環状のL-ラクチドは代表的なバイオベースポリマーのポリ乳酸の原料である。L-ラクチドを硫化した硫化ラクチドは、例えば、特許文献2、3等で検討されているが、Diels-Alder前駆体として使用されているだけで、直接反応を検討された例はない。
【0006】
環状チオエステルの開環重合は、非特許文献4,5で報告されており、共重合も、非特許文献6などで報告されているが、硫化ラクチドで検討された例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-075707号公報
【特許文献2】国際公開第2019/060433号
【特許文献3】国際公開第2017/185092号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chemical Reviews 2017, 117, 1319-1406.
【非特許文献2】Chemical Communications, 2019, 55,55-58.
【非特許文献3】Journal of the American Chemical Society, 2019, 141, 1446-1451.
【非特許文献4】Macromolecules 1999, 32, 8010-8014
【非特許文献5】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 38, 4057-4061 (2000)
【非特許文献6】Macromolecules 2016, 49, 774-780
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、分解性を有し、より汎用性の高い共重合体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る共重合体は、下記式(1)~(4)で表される構造単位のいずれかを含む。
【化1】
式(1)~(4)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【0011】
上記共重合体の一実施形態は、前記式(1)~(4)で表される構造単位が、下記式(5)で表される化合物由来である。
【化2】
式(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【0012】
上記共重合体の一実施形態は、更に、下記式(6)~(7)で表される構造単位のいずれかを含む。
【化3】
式(6)中、R11は、H又はアルキル基であり、R12は、H、ハロゲン原子又は有機基であり、
式(7)中、R13は、置換基を有してもよいアルキレン基である。
【0013】
上記共重合体の一実施形態は、下記式(8)で表される構造を含む。
【化4】
式(8)中、
、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基であり、
11は、H又はアルキル基であり、
12は、H、ハロゲン原子又は有機基であり、
m1及びn1は各々独立に1以上の整数である。
【0014】
上記共重合体の一実施形態は、下記式(9)で表される構造を含む。
【化5】
式(9)中、
、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基であり、
13は、置換基を有してもよいアルキレン基であり、
m2及びn2は各々独立に1以上の整数である。
【0015】
上記共重合体の一実施形態は、分解性を有し、分解物の数平均分子量が100~3,000である。
【0016】
本発明に係る共重合体の製造方法は、下記式(5)で表される化合物の開環を伴う付加-開裂反応を含む。
【化6】
式(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【0017】
更に本発明は、上記共重合体を含有する成形体を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、分解性を有し、種々の用途に適用可能な汎用性の高い共重合体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る共重合体、共重合体の製造方法、及び成形体について順に詳細に説明する。
なお、本発明において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
本発明において「(メタ)アクリレート」とはアクリレートとメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイル基などもこれに準ずる。
本明細書において「式(1)で表され構造単位」を「構造単位(1)」と記すことがある。他の式で表される構造単位もこれに準ずる。
本明細書において「式(5)で表される化合物」を「化合物(5)」と記すことがある。他の式で表される化合物、置換基等もこれに準ずる。
本明細書において、「R~R」は、「R、R、R及びR」を表す。他の符号等もこれに準ずる。
本明細書において、「式(1)~(4)で表される構造単位のいずれか」は、「構造単位(1)、構造単位(2)、構造単位(3)及び構造単位(4)のうちの少なくとも一つ」を表す。他の式番号等もこれに準ずる。
【0020】
1.共重合体
本発明に係る共重合体(以下、本共重合体ともいう)は、下記式(1)~(4)で表される構造単位のいずれかを含む。
【化7】
式(1)~(4)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【0021】
本共重合体は、上記構造単位(1)~(4)のいずれかを有し主鎖骨格にチオエステル(-C(=O)-S-)、又はチオノエステル(-C(=S)-O-)を有する。当該チオエステル及びチオノエステルは、エステル結合(-C(=O)-O-)と比較して、例えば求核試薬などに対して開裂しやすい。そのため本共重合体は、例えばアミン等の弱塩基により分解させることができ、また水による加水分解反応による分解も可能である。
また、本共重合体は、例えば、後述する化合物(5)を単量体として製造することができる。当該化合物(5)は、従来公知のビニル系単量体や、ラクトンなどの環状エステル系単量体と共重合することができるため、公知の共重合体の主鎖骨格内に構造単位(1)~(4)のいずれかを任意の割合で導入した共重合体が得られる。そのため本共重合体によれば、公知の共重合体の性能を大きく変化させることなく分解性を付与することができる。このように本共重合体は、分解性を有し、種々の用途に適用可能な汎用性の高い共重合体となる。
【0022】
本共重合体は、少なくとも式(1)~(4)で表される構造単位のいずれかを有していればよく、本共重合体の用途等に応じて、更に他の構造単位を有していてもよいものである。以下、本共重合体の各構成について説明する。
【0023】
[構造単位(1)~(4)]
上記式(1)~(4)におけるR~Rは各々独立にH(水素原子)、又は有機基である。本発明において有機基は炭素原子を1個以上有する基である。
~Rにおける有機基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
【0024】
前記アルキル基としては、直鎖アルキル基、分岐を有するアルキル基、環状アルキル基が挙げられ、当該アルキル基は置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基などの直鎖アルキル基; イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基などの分岐を有するアルキル基; シクロペンチル基、シクロヘキシル基、イソボルニル基、アダマンチル基などの環状アルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は1~18が好ましく、1~12がより好ましい。
アルキル基が有していてもよい置換基は、水酸基(-OH)、オキソ基(=O)などが挙げられる。
アルキル基の炭素鎖中にはヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子としてはO(酸素原子)、N(窒素原子)、S(硫黄原子)などが挙げられ、ヘテロ原子単独で又は他の置換基との組み合わせで炭素鎖間を連結する連結基を構成してもよい。当該連結基としては例えば、-O-、-NH-、-NR-、-C(=O)-O-、-NH-C(=O)-などが挙げられる(Rはアルキル基)。
【0025】
前記アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基などが挙げられる。アリール基の炭素数は6~24が好ましく、6~12がより好ましい。アリール基は更に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、水酸基などが挙げられる。
【0026】
前記アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ビフェニルメチル基などが挙げられる。アラルキル基の炭素数は7~20が好ましく、7~14がより好ましい。アルケニル基は更に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、水酸基などが挙げられる。
【0027】
本共重合体において、R~Rは、化合物(5)の合成の容易性、重合時の反応性、共重合体の物性などの点から、H又はアルキル基が好ましく、H又は直鎖アルキル基がより好ましく、H又は炭素数1~12の直鎖アルキル基が更に好ましい。
更に、RとRのうち一方(例えばR)が水素原子で、他方(例えばR)が有機基であることが好ましい。また、RとRのうち一方(例えばR)が水素原子で、他方(例えばR)が有機基であることが好ましい。
【0028】
本共重合体中の構造単位(1)~(4)の割合は、用途に応じて適宜調整すればよい。例えば共重合体全量100質量%に対して構造単位(1)~(4)の割合を1~99質量%の範囲で適宜調整することができ、他の構造単位の特徴を活かしながら分解性を付与する観点から、中でも1~30質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましい。
【0029】
[他の構造単位]
本共重合体は、用途等に応じて任意の他の構造単位を有していてもよい。他の構造単位としては、合成の容易性などの点から、後述する化合物(5)と共重合が可能な単量体由来の構造単位が好ましい。
このような構造単位として、例えば、下記式(6)~(7)で表される構造単位等が挙げられる。
【化8】
式(6)中、R11は、H又はアルキル基であり、R12は、H、ハロゲン原子、又は有機基であり、
式(7)中、R13は、置換基を有してもよいアルキレン基である。
【0030】
11におけるアルキル基は、前記R~Rにおけるアルキル基と同様のものが挙げられ、合成の容易性や重合反応性などの点から、直鎖アルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。R11としては、H又はメチル基が特に好ましい。
【0031】
12は本共重合体の用途等に応じて適宜選択すればよい。R12におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。R12における有機基としては、例えば、アルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R21)-CH(R22)-O]-R23、-[(CH-O]-R23、-[CO-(CH-O]-R23、-CO-O-R24又は-O-CO-R25で表される基等が挙げられる。ここで、R21、R22は各々独立にH又はメチル基を示す。R23は、H、アルキル基、アラルキル基、アリール基、-CHO、-CHCHO又は-CHCOOR26を示す。R24は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、シアノ基、-[CH(R21)-CH(R22)-O]-R23、-[(CH-O]-R23、又は-[CO-(CH-O]-R23を示す。R25はアルキル基を示す。R26はH又は炭素数1~5のアルキル基を示す。xは1~18の整数、yは1~5の整数、zは1~18の整数を示す。
12におけるアルキル基、アラルキル基、アリール基は、前記R~Rと同様のものが挙げられる。
【0032】
13におけるアルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられ、炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましい。アルキレン基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。
【0033】
本共重合体中の構造単位(6)~(7)の割合は、用途に応じて適宜調整すればよい。例えば共重合体全量100質量%に対して構造単位(6)~(7)の割合を1~99質量%の範囲で適宜調整することができ、構造単位(6)~(7)の特徴を活かしながら分解性を付与する観点から、中でも70~99質量%が好ましく、90~98質量%がより好ましい。
【0034】
本共重合体は、中でも、下記式(8)又は下記式(9)で表される構造を含む共重合体が好ましい。
【化9】
式(8)中、
、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基であり、
11は、H又はアルキル基であり、
12は、H、ハロゲン原子又は有機基であり、
m1及びn1は各々独立に1以上の整数である。
【0035】
【化10】
式(9)中、
、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基であり、
13は、置換基を有してもよいアルキレン基であり、
m2及びn2は各々独立に1以上の整数である。
【0036】
式(8)及び式(9)におけるR~R及びR11~R13は前述のとおりであり好ましい態様も前述のとおりである。なお、R~R又はR11~R13が式中に複数ある場合、当該複数あるR~R及びR11~R13は各々独立に同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
m1、n1、m2及びn2は各々構造単位数を表し、1以上の整数である。
なお、式(8)及び式(9)中の各構成単位は位置を示すものではない。即ち、共重合体(8)及び共重合体(9)はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。また、更に、式(8)及び式(9)には含まれない他の構成単位を有していてもよい。例えば、式(8)の構造を含む共重合体は構成単位(1)及び構成単位(6)の他、構成単位(2)~(4)を有していてもよく、更に他の構成単位を有していてもよい。また式(9)の構造を含む共重合体は、構成単位(2)及び構成単位(7)の他、構成単位(1)及び(3)~(4)を有していてもよく、更に他の構成単位を有していてもよい。構造単位(6)~(7)由来の物性を活かし、分解性に優れる点からはランダム共重合体が好ましい。
【0038】
本共重合体の分子量は特に限定されず、共重合体の用途等に応じて適宜調整すればよい。本共重合体の分子量は、数平均分子量で例えば、1,000~1,000,000とすることができ、1,500~500,000が好ましく、2,000~100,000がより好ましい。
なお、数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレン換算値として求めたものである。
【0039】
本共重合体は、特定環境下で分解性を有することが好ましく、中でも、アミン等の弱塩基や水により分解することが好ましい。本共重合体の分解物の分子量は特に限定されないが、環境負荷を低減する観点から、分解物の数平均分子量が100~3,000であることが好ましい。
【0040】
2.共重合体の製造方法
上記本共重合体は、構造単位(1)~(4)を有するものであり、その製造方法は特に限定されるものではない。一方、下記の製造方法によれば、公知の各種モノマーと容易に共重合が可能であり、公知の共重合体の性能を大きく変化させることなく分解性を付与することができる。
即ち本発明に係る共重合体の製造方法(以下、本製造方法ともいう)は、下記式(5)で表される化合物の開環を伴う付加-開裂反応を含む。
【化11】
式(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、H又は有機基である。
【0041】
ここで式(5)におけるR~Rは、前記式(1)~(4)におけるものと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0042】
化合物(5)の開環を伴う付加-開裂反応は、例えば下記スキーム1のように進行する。
【化12】
【0043】
スキーム1の例では、化合物(5)のS原子に、別のモノマー由来の炭素ラジカルが付加して開裂し構造単位(1)が形成されている。同様にO原子側にラジカルが付加して開裂した場合には構造単位(3)が形成される。またチオエステル基とチオノエステル基の共鳴により構造単位(2)や構造単位(4)が形成される。
【0044】
本製造方法において重合は、溶媒中に、前記化合物(5)と必要に応じて用いられる他のモノマーと、開始剤を添加し、加熱することにより実施できる。
【0045】
構造単位(6)を形成するモノマーとしては、ビニル系単量体などが挙げられる。ビニル系単量体としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基を有する単量体などが挙げられ、具体的には、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;スチレン、ビニルピリジン等の芳香族ビニル;酢酸ビニル等のビニルエステル;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;無水マレイン酸などの酸無水物;マレイン酸ジエ等のジアルキルマレエート;フマル酸ジエチル等のジアルキルフマレート;マレイミド;N-メチルマレイミド等のN-アルキルマレイミド、等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0046】
また、構造単位(7)を形成するモノマーとしては、環状エステル系単量体等が挙げられる。環状エステル系単量体の具体例としては、L-ラクチド、D-ラクチド、D,L-ラクチド、グリコリド、カプロラクトン、バレロラクトンなどが挙げられ、1種単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0047】
開始剤は公知のラジカル開始剤の中から、単量体等に応じて適宜選択すればよい。例えば、ビニル系単量体を用いる場合、開始剤として、アルキル過酸化物、アシル過酸化物、ケトン過酸化物、アルキルヒドロ過酸化物、ペルオキシ2炭酸塩、スルホニル過酸化物などの有機過酸化物類、無機過酸化物類、アゾニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物類、スルフィン酸類、ビスアジド類、ジアゾ化合物等を用いることが好ましい。
また、環状エステル系単量体を用いる場合、開始剤として、エチルヘキサン酸スズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、テトラ-i-プロポキシチタン及びテトラ-n-ブトキシチタン等の金属触媒を用いることが好ましい。
【0048】
ラジカル開始剤の配合量は、例えば、単量体の合計量に対し0.005~0.5モル%とすることができる。
【0049】
上記溶媒は、ラジカル重合に使用される公知の溶媒の中から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤;N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系溶剤;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルモノアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0050】
ラジカル重合の反応条件は、単量体及び開始剤の種類、量、求める共重合体の分子量などに応じて適宜調整すればよい。具体的には反応温度は0~100℃で適宜調整すればよく、40~80℃が好ましい。また反応時間は、一般的に1~100時間である。
【0051】
3.成形体
本発明に係る成形体は、前記共重合体を含有するものである。成形体は本共重合体のみからなるものであってもよく、更に他の成分を含有するものであってもよい。他の成分としては、例えば、可塑剤、充填剤、安定剤、着色剤等が挙げられる。
成形体の形状は特に限定されず、用途等に応じて、フィルム状、板状、その他あらゆる形状とすることができる。
また、成形体の用途としては、構造単位(6)~(7)を有する公知の共重合体と同様の用途のものが挙げられる。
【実施例0052】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0053】
[実施例1:硫化ラクチドとアクリル酸メチルのラジカル共重合]
三方コックを装着した25mLシュレンク管に、硫化ラクチド(式(5)で表され、R及びRがH、R及びRがメチル基,418mg,2.61mmol)、トルエン(3.2mL)、テトラリン(0.23mL)、アクリル酸メチル(0.67mL,7.4mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(0.10mmol,200mMトルエン溶液,0.50mL)を加え、60℃で72時間反応させ、式(8)で表される構造を含む共重合体を得た。得られた共重合体の数平均分子量は3,800、分子量分布は1.99であった。H NMRから求めた共重合体中の硫化ラクチドの導入率は8mol%であった。
【0054】
[実施例2:上記実施例1で得られた共重合体の分解]
実施例1で得られた硫化ラクチドとアクリル酸メチルの共重合体(55mg,数平均分子量:3,800,分子量分布:1.99)をジクロロメタン(1.0mL)に溶解した。この溶液にn-ブチルアミン(0.56mL,5.7mmol)を加え、室温で10分間反応させた。得られた分解物の数平均分子量は1,100、分子量分布は5.36であった。
【0055】
[実施例3:硫化ラクチドとL-ラクチドの開環共重合]
三方コックを装着した15mLシュレンク管に、L-ラクチド(950mg,6.59mmol)、硫化ラクチド(55.6mg,0.346mmol)、ベンジルアルコール(0.07mmol,1.4Mトルエン溶液,0.05mL)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(0.07mmol,1.4Mトルエン溶液,0.05mL)を加え、120℃で72時間反応させた。クロロホルム(5mL)に溶解し、メタノール(100mL)で2回再沈殿精製を行った。沈殿物は濾過で回収し、真空乾燥を行うことで、式(9)で表される構造を含む硫化ラクチドとラクチドの開環共重合体(259mg)を得た。得られた共重合体の数平均分子量は6,400、分子量分布は1.53であった。仕込み比から計算される共重合体中の硫化ラクチドの導入率は5mol%であった。
【0056】
[実施例4:上記実施例3で得られた共重合体の分解]
実施例3で得られた硫化ラクチドとラクチドの開環共重合体(20mg,数平均分子量:6,400,分子量分布:1.53)をジクロロメタン(0.80mL)に溶解した。この溶液に、n-ブチルアミン(0.14mmol,700mMジクロロメタン溶液,0.20mL)を加え、室温で15分反応させた。得られた分解物の数平均分子量は2,600、分子量分布は1.77であった。
【0057】
[比較例1:アクリル酸メチル単独重合体の分解]
アクリル酸メチルの単独重合体(237mg,数平均分子量:18,000,分子量分布:1.87)をジクロロメタン(1.5mL)に溶解した。この溶液にn-ブチルアミン(0.50mL,5.1mmol)を加え、室温で22時間反応させた。得られた重合体の数平均分子量は18,000、分子量分布は1.87であった。
【0058】
[比較例2:ポリ乳酸の分解]
ポリ乳酸(20mg,数平均分子量:10,600、分子量分布:1.80)をジクロロメタン(0.80mL)に溶解した。この溶液に、n-ブチルアミン(0.14mmol,700mMジクロロメタン溶液,0.20mL)を加え、室温で15分間反応させた。得られた重合体の数平均分子量は10,400、分子量分布は1.80であった。
実施例および比較例の結果を下表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1のとおり、硫化ラクチド由来の構造単位を含む実施例1及び実施例3の共重合体は、分解性を有することが示された。