(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025880
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】超伝導物理乱数生成装置
(51)【国際特許分類】
G06F 7/58 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
G06F7/58 680
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131307
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山梨 裕希
(57)【要約】
【課題】超伝導物理乱数生成器の動作点を最適な動作点に調整することができる超伝導物理乱数生成装置を提供する。
【解決手段】物理乱数を生成する超伝導物理乱数生成器と、超伝導回路を用いたトグル型フリップフロップと、を備え、共通のクロック信号が分岐されたそれぞれの分岐信号を前記超伝導物理乱数生成器と前記トグル型フリップフロップのそれぞれに入力し、共通の定電流が分岐されたそれぞれの分岐電流を、前記超伝導物理乱数生成器に動作点制御電流として入力するとともに、前記トグル型フリップフロップにバイアス電流として入力する、超伝導物理乱数生成装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理乱数を生成する超伝導物理乱数生成器と、
超伝導回路を用いたトグル型フリップフロップと、
を備え、
共通のクロック信号が分岐されたそれぞれの分岐信号を前記超伝導物理乱数生成器と前記トグル型フリップフロップのそれぞれに入力し、
共通の定電流が分岐されたそれぞれの分岐電流を、前記超伝導物理乱数生成器に動作点制御電流として入力するとともに、前記トグル型フリップフロップにバイアス電流として入力する、
超伝導物理乱数生成装置。
【請求項2】
さらに、ジョセフソン伝送路を備え、
前記バイアス電流を、前記ジョセフソン伝送路を介して、前記トグル型フリップフロップに入力する、
請求項1に記載の超伝導物理乱数生成装置。
【請求項3】
前記超伝導物理乱数生成器を複数備え、
前記共通のクロック信号が分岐されたそれぞれの分岐信号を複数の前記超伝導物理乱数生成器と前記トグル型フリップフロップのそれぞれに入力し、
前記共通の定電流が分岐されたそれぞれの分岐電流を、複数の前記超伝導物理乱数生成器のそれぞれに前記動作点制御電流として入力するとともに、前記トグル型フリップフロップに前記バイアス電流として入力する、
請求項1または請求項2に記載の超伝導物理乱数生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超伝導物理乱数生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信分野などの様々な分野で乱数が用いられている。
乱数には、アルゴリズムに基づいて生成される擬似乱数と、本質的にランダムな物理現象を利用して生成される物理乱数(真性乱数)がある。物理乱数が生成される場合、ランダム性の起源となる予測不可能な物理現象として、例えば、雑音、ジッタ、あるいは、量子測定などが用いられている。
【0003】
擬似乱数は通常の計算機で容易に高速に生成され得るが、生成される疑似乱数列には周期性が必ず存在し、使用されるアルゴリズムが判別されると擬似乱数列が予測される可能性があった。良質な擬似乱数列を高速に生成するためには、多くの計算リソースおよび多くの計算時間が必要であった。
【0004】
これに対して、専用素子によって生成される物理乱数は、周期性あるいはビット間の相関が無く、予測が不可能であるが、微弱な物理現象に基づく生成原理であるため物理乱数を高速に生成することは難しい場合があった。
物理乱数を生成する乱数生成器として、例えば、超伝導回路を用いて超伝導体の特性を利用する超伝導物理乱数生成器が知られている。超伝導物理乱数生成器では、物理乱数を生成するのに要する電力を抑えつつ、速い乱数生成速度を実現することができる。
【0005】
なお、非特許文献1には、ジョセフソン発振回路の周波数同期化現象について記載されている。具体的には、非特許文献1には、複数の超伝導単一磁束量子クロック発生回路を共通の電流源(定電流)でオンチップ抵抗を介さずにバイアスさせることにより、これら複数の超伝導単一磁束量子クロック発生回路から出力されるクロックの周波数を完全に一致させる技術が記載されている(非特許文献1参照。)。このような周波数同期は、超伝導回路の情報担体である量子化された磁束(磁束量子)の基本性質であるファラデー電磁誘導の法則に基づく。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山梨裕希、木下諒、吉川信行、「ジョセフソン発振回路の周波数同期化現象」、2021年第68回応用物理学会春季学術講演会、2021年3月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般に、超伝導物理乱数生成器が用いられる場合には、超伝導物理乱数生成器の動作点を、“0”および“1”のそれぞれの出力確率が0.5(つまり、50%)となる動作点に、極めて正確に制御する必要があった。しかし、実際には、ノイズあるいは電源揺らぎ(例えば、電圧揺らぎ)などに起因する動作点のずれによって、動作点が時間的に変化し、長時間安定して高速に質の良い物理乱数を生成することが難しい場合があった。このような場合には、超伝導物理乱数生成器により生成される物理乱数の質あるいは生成速度が低下してしまう。
【0008】
本開示は、このような事情を考慮してなされたもので、超伝導物理乱数生成器の動作点を最適な動作点に調整することができる超伝導物理乱数生成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、物理乱数を生成する超伝導物理乱数生成器と、超伝導回路を用いたトグル型フリップフロップと、を備え、共通のクロック信号が分岐されたそれぞれの分岐信号を前記超伝導物理乱数生成器と前記トグル型フリップフロップのそれぞれに入力し、共通の定電流が分岐されたそれぞれの分岐電流を、前記超伝導物理乱数生成器に動作点制御電流として入力するとともに、前記トグル型フリップフロップにバイアス電流として入力する、超伝導物理乱数生成装置である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、超伝導物理乱数生成装置において、超伝導物理乱数生成器の動作点を最適な動作点に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態(第1実施形態)に係る超伝導物理乱数生成装置の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る乱数生成器の構成(等価回路)の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る乱数生成器における動作点制御電流と出力確率との関係を表す特性の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る乱数生成器に入力されるクロック信号の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る乱数生成器から出力される物理乱数信号の一例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る周波数同期の様子(動作開始直後)の一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る周波数同期の様子(定常状態)の一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る乱数生成器からの物理乱数出力のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図9】実施形態(第2実施形態)に係る超伝導物理乱数生成装置の概略的な構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本開示の実施形態について説明する。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。
【0014】
[超伝導物理乱数生成装置]
図1は、実施形態(第1実施形態)に係る超伝導物理乱数生成装置1の概略的な構成の一例を示す図である。
超伝導物理乱数生成装置1は、超伝導特性を用いた物理乱数の生成器(超伝導物理乱数生成器)である乱数生成器11と、超伝導特性を用いたトグル(Toggle)型のフリップフロップ(Flip Flop)であるTFF12と、ジョセフソン伝送路(JTL:Josephson Transmission Line)13と、を備える。
【0015】
超伝導物理乱数生成装置1におけるクロック信号a1の入力端(図示を省略)と、乱数生成器11のクロック入力端およびTFF12のクロック入力端のそれぞれとが接続されている。
TFF12とJTL13とが接続されている。
超伝導物理乱数生成装置1における定電流b1の入力端(図示を省略)と、乱数生成器11の動作点制御電流入力端とが接続されている。また、この定電流b1の入力端(図示を省略)と、TFF12のバイアス電流入力端とが、JTL13を介して接続されている。本実施形態では、JTL13は遅延伝送路として用いられている。なお、定電流b1は、例えば、定電流源(図示を省略)から供給される。
乱数生成器11の物理乱数出力端は、超伝導物理乱数生成装置1における物理乱数の出力端(図示を省略)と接続されている。
【0016】
超伝導特性を用いたクロック生成器である超伝導発振回路(図示を省略)から供給されるクロック信号a1が超伝導物理乱数生成装置1に入力された後に2分岐され、一方の分岐のクロック信号(一方の分岐信号)が乱数生成器11に入力され、他方の分岐のクロック信号(他方の分岐信号)がTFF12に入力される。これらのクロック信号は、例えば、“111111・・・”といったパルス列c1から構成される。
ここで、本実施形態では、超伝導発振回路(図示を省略)から供給されるクロック信号a1は、乱数生成器11とTFF12とで共通のクロック信号となっている。本実施形態では、クロック信号a1の周波数をf[Hz]として説明する。fは正の値であり、特に限定はない。
なお、クロック生成器である超伝導発振回路(図示を省略)としては、例えば、超伝導特性を用いたリングオシレータ回路などが用いられてもよい。
【0017】
TFF12は、入力されるクロック信号に基づいて、超伝導単一磁束量子(SFQ:Single Flux Quantum)のパルス列であるSFQパルス列c2を生成する。
図1の例では、SFQパルス列c2がTFF12とJTL13との間を伝送する構成例を示してある。
ここで、TFF12は、1/2分周器の機能を有しており、クロック信号を1/2分周する。SFQパルス列c2は、例えば、“101010・・・”といったパルス列から構成される。SFQパルス列c2の周波数はf/2[Hz]となる。
【0018】
定電流源(図示を省略)から供給される定電流b1が超伝導物理乱数生成装置1に入力された後に2分岐され、一方の分岐の電流(一方の分岐電流)が動作点制御電流b2として乱数生成器11に入力され、他方の分岐の電流(他方の分岐電流)がバイアス電流b3としてJTL13を介してTFF12に入力される。
ここで、本実施形態では、定電流源および定電流b1は、乱数生成器11とTFF12とで共通である。
乱数生成器11では、動作点制御電流b2によって、乱数生成器11の動作点が制御される。
TFF12では、バイアス電流b3によってバイアスが与えられる。
【0019】
乱数生成器11は、クロック信号a1に基づくパルス列c1と動作点制御電流b2に基づいて、物理乱数を生成して出力する。これにより、当該物理乱数の列である物理乱数列c3が超伝導物理乱数生成装置1から出力される。
ここで、本実施形態では、物理乱数列c3は、例えば、“101001・・・”などのようなランダムな物理乱数のパルス列から構成される。本実施形態では、物理乱数列c3の平均周波数はf/2[Hz]となる。
【0020】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、
図1に示される構成部(乱数生成器11、TFF12、および、JTL13)を一体とした装置(超伝導物理乱数生成装置1)を説明するが、超伝導物理乱数生成装置1は、必ずしも
図1に示される構成部を1つの筐体に収めた構成である必要はなく、
図1に示される構成部がそれぞれ配置されて必要な箇所が接続された構成も含む。
【0021】
また、超伝導物理乱数生成装置1は、他の構成要素を含んでもよく、例えば、超伝導特性を用いたクロック生成器である超伝導発振回路(図示を省略)、または、定電流b1を供給する定電流源(図示を省略)のうちの一方または両方を含んでもよい。
【0022】
<乱数生成器>
図2は、実施形態に係る乱数生成器11の構成(等価回路)の一例を示す図である。
乱数生成器11は、SFQ素子による比較器に熱雑音源を直接接続した構成となっている。そして、乱数生成器11は、抵抗(
図2の例では、例えば、抵抗153)の熱雑音電流を利用して、物理乱数を生成する。
本実施形態に係る乱数生成器11は、超伝導リング中の磁束量子の有無を“1”および“0”の表現に用いる超伝導単一磁束量子回路の特徴を利用した回路である。
【0023】
乱数生成器11は、入力端T1と出力端T2との間に、コイル111と、コイル112と、コイル113と、ジョセフソン接合132および抵抗152と、コイル114と、を備える。
また、乱数生成器11は、コイル111とコイル112との間の点と、接地端G1との間に、ジョセフソン接合131および抵抗151を備える。
また、乱数生成器11は、ジョセフソン接合132とコイル114との間の点と、接地端G1との間に、ジョセフソン接合133および抵抗153を備える。
また、乱数生成器11は、コイル112とコイル113との間に接続された定電流源171を備える。本実施形態では、定電流源171は、133[μA]の定電流を、コイル112とコイル113との間の点に、供給する。
【0024】
ここで、コイル111~114は、それぞれ、インダクタと呼ばれてもよい。
また、ジョセフソン接合131および抵抗151は一体の回路部であってもよい。同様に、ジョセフソン接合132および抵抗152は一体の回路部であってもよく、ジョセフソン接合133および抵抗153は一体の回路部であってもよい。
【0025】
図2の例では、
図1に示されるクロック信号a1に基づくパルス列c1が乱数生成器11の入力端T1(クロック入力端)に入力され、
図1に示される物理乱数列c3が乱数生成器11の出力端T2(物理乱数出力端)から出力され、
図1に示される動作点制御電流b2(
図2に示されるIctl)が乱数生成器11のジョセフソン接合133の接続点に入力される。
【0026】
なお、
図2に示される乱数生成器11の構成は、公知のものであり、本実施形態では、詳しい説明を省略する。
また、乱数生成器11としては、必ずしも
図2の例に限定されず、他の構成が用いられてもよい。
【0027】
[乱数生成器の動作点]
図3は、実施形態に係る乱数生成器11における動作点制御電流と出力確率との関係を表す特性1011の一例を示す図である。
図3に示されるグラフにおいて、横軸は動作点制御電流[μA]を表しており、縦軸は出力確率を表している。
そして、当該グラフに、動作点制御電流と出力確率との関係を表す特性1011が示されている。
本実施形態では、超伝導物理乱数生成装置1において、自動的に、乱数生成器11の動作点を、“0”および“1”のうちの“1”の出力確率が0.5(つまり、50%)となる点に、制御することが行われる。これにより、本実施形態では、超伝導物理乱数生成装置1において、自動的に、乱数生成器11は質の良い物理乱数を発生する。
【0028】
[乱数生成器のクロック入力および物理乱数出力の例]
図4は、実施形態に係る乱数生成器11に入力されるクロック信号1021の一例を示す図である。
図4に示されるグラフにおいて、横軸は時間[ps]を表しており、縦軸は電圧[μV]を表している。
そして、当該グラフに、クロック信号1021が示されている。
図4の例では、クロック信号1021は、デジタル値とされたときに“1111111111・・・”といったパルス列(
図1に示されるパルス列c1に相当するパルス列)から構成される。
【0029】
図5は、実施形態に係る乱数生成器11から出力される物理乱数信号1031の一例を示す図である。
図5に示されるグラフにおいて、横軸は時間[ps]を表しており、縦軸は電圧[μV]を表している。
そして、当該グラフに、物理乱数信号1031が示されている。
図5の例では、物理乱数信号1031は、デジタル値とされたときに“1010011001・・・”といったパルス列(
図1に示される物理乱数列c3に相当するパルス列)から構成される。なお、本実施形態では、物理乱数信号1031において“1”および“0”はそれぞれ50%の確率で出力され、
図1および
図5に示される“1”および“0”の並びは説明のための一例である。
【0030】
[周波数同期の様子]
図6および
図7を参照して、周波数同期の様子の一例を示す。
周波数同期の原理については、非特許文献1に記載されている技術と同様であり、本実施形態では詳しい説明を省略する。
【0031】
図6は、実施形態に係る周波数同期の様子(動作開始直後)の一例を示す図である。
図6には、乱数生成器11と、TFF12と、が示されている。
超伝導物理乱数生成装置1の動作開始直後では、例えば、(2×Ib)の大きさの定電流(
図1に示される定電流b1に相当する電流)がほぼ2等分されて、約Ibの大きさの分岐電流が動作点制御電流(
図1に示される動作点制御電流b2)として乱数生成器11に入力され、約Ibの大きさの分岐電流がバイアス電流(
図1に示されるバイアス電流b3)としてTFF12に入力される。ここで、Ibは、所定の電流量(電流の大きさ)を表しており、正の値である。
なお、
図6の例では、遅延伝送路であるJTL13については図示を省略している。
【0032】
図6の例では、動作開始直後において、乱数生成器11から平均周波数f1のパルス列2011が出力され、TFF12から周波数f2のパルス列2012が出力される。
ここで、本例では、動作開始直後において、平均周波数f1と周波数f2とは異なる周波数である場合を示す。
また、本実施形態では、TFF12の周波数f2は、f/2に制御されている。
【0033】
図6に示されるように、動作開始直後では、乱数生成器11の出力平均電圧(f1・Φ
0)と、TFF12の出力平均電圧(f2・Φ
0)とが異なる。
ここで、Φ
0は、磁束量子(2.068×10
-15[Wb])を表しており、超伝導回路における情報担体となる。
また、出力平均電圧は、電磁誘導の法則に基づいている。
【0034】
図7は、実施形態に係る周波数同期の様子(定常状態)の一例を示す図である。
図7には、
図6の状態(動作開始直後の状態)から時間が経過して定常状態になったときについて示されている。
【0035】
図7には、乱数生成器11と、TFF12と、が示されている。
超伝導物理乱数生成装置1の定常状態では、例えば、(2×Ib)の大きさの定電流(
図1に示される定電流b1に相当する電流)が非等分な所定の割合で2つに分岐されて、一方の分岐におけるIbよりも大きい分岐電流(または、Ibよりも小さい分岐電流)が動作点制御電流(
図1に示される動作点制御電流b2)として乱数生成器11に入力され、他方の分岐におけるIbよりも小さい分岐電流(または、Ibよりも大きい分岐電流)がバイアス電流(
図1に示されるバイアス電流b3)としてTFF12に入力される。
なお、
図7の例では、遅延伝送路であるJTL13については図示を省略している。
【0036】
図7の例では、定常状態において、乱数生成器11から平均周波数fsyncのパルス列2111が出力され、TFF12から周波数fsyncのパルス列2112が出力されている。
ここで、本例では、定常状態において、乱数生成器11から出力される物理乱数列の平均周波数fsyncと、TFF12から出力されるパルス列の周波数fsyncとが、周波数同期によって、同じ周波数に揃えられている。
また、本実施形態では、TFF12の周波数fsyncは、f/2に制御されており、つまり、
図6に示される周波数f2と同じである。これにより、定常状態において、乱数生成器11から出力される物理乱数列の平均周波数fsyncはf/2となる。
【0037】
図7に示されるように、定常状態では、乱数生成器11の出力平均電圧(fsync・Φ
0)と、TFF12の出力平均電圧(fsync・Φ
0)とが一致する。このように、定常状態では、乱数生成器11の出力の平均周波数fsyncと、TFF12の出力の周波数fsyncとが一致する。
すなわち、本実施形態では、TFF12の出力の周波数fsyncはf/2であるため、乱数生成器11の出力の平均周波数fsyncもf/2となる。
【0038】
このように、定電流b1が供給されて乱数生成器11への動作点制御電流b2とTFF12へのバイアス電流b3に分岐される状況において、乱数生成器11の出力平均電圧とTFF12の出力平均電圧とが等しくなるように、乱数生成器11への動作点制御電流b2とTFF12へのバイアス電流b3とが自己調整され、これにより、乱数生成器11の動作点が最適な動作点に自己調整される。ここで、出力平均電圧は、動作周波数に比例する。
【0039】
この場合、乱数生成器11では、物理乱数の出力における“1”の個数は1秒当たり平均f/2[回]となる。このとき、乱数生成器11では、磁束出力は1秒当たり(f/2)・Φ0[Wb]となり、平均出力電圧は(f/2)・Φ0[V]となる。
なお、この場合、TFF12では、“1”の出力の周波数はf/2[Hz]である。
そして、乱数生成器11とTFF12とが周波数同期している。
【0040】
[周波数同期のシミュレーション結果の例]
図8は、実施形態に係る乱数生成器11からの物理乱数出力のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図8に示されるグラフにおいて、横軸は時間を表しており、縦軸は電圧を表している。
そして、当該グラフに、乱数生成器11からの物理乱数出力のシミュレーション結果の特性1111を示してある。
【0041】
図8に示されるように、初期の動作点調整中の期間P1では、乱数生成器11からの物理乱数出力はランダム(質の良い物理乱数)になっていないが、周波数同期により動作点自己調整が完了した後における定常状態の期間P2では、乱数生成器11からの物理乱数出力はランダム(質の良い物理乱数)になっている。
【0042】
[第1実施形態について]
以上のように、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置1では、超伝導物理乱数生成器(乱数生成器11)の動作点を最適な動作点に調整することができる。
また、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置1では、超伝導物理乱数生成器(乱数生成器11)を用いることで、回路面積を小さくすることができる。
【0043】
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置1では、超伝導回路の周波数同期を利用して、乱数生成器11の動作点を最適な出力確率(0.5)の動作点に自己調整する機能を有しており、例えば、安定して、高速に、質の良い物理乱数を生成することができる。
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置1では、例えば、クロック信号a1および定電流b1の入力を除いて、外部からの制御なく、乱数生成器11の動作点を最適な動作点に自己調整することができる。
【0044】
ここで、
図1の例では、超伝導物理乱数生成装置1において、バイアス電流b3がJTL13を介してTFF12に入力される構成例を示したが、他の構成例として、JTL13は備えられなくてもよく、バイアス電流b3がTFF12に直接入力されてもよい。ただし、実際の回路では、実用上の観点から、JTL13が備えられる場合が多い。
通常、JTL13の伝送路が長い方が、バイアス電流b3の量を大きくすることができる。このため、JTL13の長さを調整することで、バイアス電流b3の量を調整することが可能である。これにより、例えば、バイアス電流b3の大きさを動作点制御電流b2の大きさと同程度に設定することも可能である。
【0045】
なお、非特許文献1の技術では、超伝導物理乱数生成器(乱数生成器11)の動作点を調整すること、1/2分周器に相当するTFF12を用いること、などについては開示されてなく、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置1の技術とは相違している。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置の構成および動作は、概略的には、第1実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置の構成および動作と比べて、複数の超伝導物理乱数生成器(乱数生成器)が並列に備えられている点で相違している。
【0047】
[超伝導物理乱数生成装置]
図9は、実施形態(第2実施形態)に係る超伝導物理乱数生成装置301の概略的な構成の一例を示す図である。
超伝導物理乱数生成装置301は、それぞれ超伝導物理乱数生成器である複数(
図9の例ではN個:Nは2以上の整数)の乱数生成器311-1~311-Nと、超伝導特性を用いたトグル型のフリップフロップであるTFF312と、ジョセフソン伝送路(JTL)313と、を備える。
【0048】
超伝導物理乱数生成装置301におけるクロック信号a11の入力端(図示を省略)と、複数の乱数生成器311-1~311-Nのクロック入力端およびTFF12のクロック入力端のそれぞれとが接続されている。
TFF312とJTL313とが接続されている。
超伝導物理乱数生成装置301における定電流b11の入力端(図示を省略)と、複数の乱数生成器311-1~311-Nの動作点制御電流入力端のそれぞれとが接続されている。また、この定電流b11の入力端(図示を省略)と、TFF312のバイアス電流入力端とが、JTL313を介して接続されている。
本実施形態では、JTL313は遅延伝送路として用いられている。なお、定電流b11は、例えば、定電流源(図示を省略)から供給される。
複数の乱数生成器311-1~311-Nの物理乱数出力端のそれぞれは、超伝導物理乱数生成装置1における複数の物理乱数の出力端(図示を省略)のそれぞれと接続されている。
【0049】
超伝導特性を用いたクロック生成器である超伝導発振回路(図示を省略)から供給されるクロック信号a11が超伝導物理乱数生成装置301に入力された後に(N+1)分岐され、N個の分岐のクロック信号(N個の分岐信号)のそれぞれが複数の乱数生成器311-1~311-Nのそれぞれに入力され、1個の分岐のクロック信号(1個の分岐信号)がTFF312に入力される。
ここで、本実施形態では、超伝導発振回路(図示を省略)から供給されるクロック信号a11は、複数の乱数生成器311-1~311-NとTFF312とで共通のクロック信号となっている。本実施形態では、第1実施形態と同様に、クロック信号a11の周波数をf[Hz]として説明する。
なお、クロック生成器である超伝導発振回路(図示を省略)としては、例えば、超伝導特性を用いたリングオシレータ回路などが用いられてもよい。
【0050】
TFF312は、入力されるクロック信号に基づいて、超伝導単一磁束量子(SFQ)のパルス列であるSFQパルス列を生成する。
図9の例では、SFQパルス列がTFF312とJTL313との間を伝送する構成例を示してある。
ここで、TFF312は、1/2分周器の機能を有しており、クロック信号を1/2分周する。SFQパルス列の周波数はf/2[Hz]となる。
【0051】
定電流源(図示を省略)から供給される定電流b11が超伝導物理乱数生成装置301に入力された後に(N+1)分岐され、N個の分岐の電流(N個の分岐電流)のそれぞれが動作点制御電流b12として複数の乱数生成器311-1~311-Nのそれぞれに入力され、1個の分岐の電流(1個の分岐電流)がバイアス電流b13としてJTL313を介してTFF312に入力される。
ここで、本実施形態では、定電流源および定電流b11は、複数の乱数生成器311-1~311-NとTFF312とで共通である。
それぞれの乱数生成器311-1~311-Nでは、動作点制御電流b12によって、それぞれの乱数生成器311-1~311-Nの動作点が制御される。
TFF312では、バイアス電流b13によってバイアスが与えられる。
なお、本実施形態では、説明の便宜上、複数の乱数生成器311-1~311-Nのそれぞれに入力される動作点制御電流を、まとめて動作点制御電流b12として、説明している。
【0052】
それぞれの乱数生成器311-1~311-Nは、クロック信号a11に基づくパルス列と動作点制御電流b12に基づいて、物理乱数を生成して出力する。これにより、当該物理乱数の列である物理乱数列が超伝導物理乱数生成装置301から出力される。
ここで、本実施形態では、物理乱数列の平均周波数はf/2[Hz]となる。
【0053】
なお、本実施形態では、説明の便宜上、
図9に示される構成部(乱数生成器311-1~311-N、TFF312、および、JTL313)を一体とした装置(超伝導物理乱数生成装置301)を説明するが、超伝導物理乱数生成装置301は、必ずしも
図9に示される構成部を1つの筐体に収めた構成である必要はなく、
図9に示される構成部がそれぞれ配置されて必要な箇所が接続された構成も含む。
【0054】
また、超伝導物理乱数生成装置301は、他の構成要素を含んでもよく、例えば、超伝導特性を用いたクロック生成器である超伝導発振回路(図示を省略)、または、定電流b11を供給する定電流源(図示を省略)のうちの一方または両方を含んでもよい。
【0055】
[第2実施形態について]
以上のように、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、複数の超伝導物理乱数生成器(乱数生成器311-1~311-N)の動作点を最適な動作点に調整することができる。
また、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、超伝導物理乱数生成器(乱数生成器311-1~311-N)を用いることで、回路面積を小さくすることができる。
【0056】
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、複数の乱数生成器311-1~311-Nが並列化される場合においても、超伝導回路の周波数同期を利用して、乱数生成器311-1~311-Nの動作点を最適な出力確率(0.5)の動作点に自己調整する機能を有しており、例えば、安定して、高速に、質の良い物理乱数を生成することができる。
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、例えば、クロック信号a11および定電流b11の入力を除いて、個々の乱数生成器311-1~311-Nに対する外部からの制御なく、乱数生成器311-1~311-Nの動作点を最適な動作点に自己調整することができる。
【0057】
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、複数の乱数生成器311-1~311-Nが並列化されることで、第1実施形態の場合と比べて、さらに高速に物理乱数を生成することができる。
また、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、1つの定電流b11から分岐された動作点制御電流b12の供給によって、複数の乱数生成器311-1~311-Nの動作点を最適な動作点に保持することが可能である。
【0058】
本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、個々の乱数生成器311-1~311-Nの特性にバラツキがある場合においても、複数の乱数生成器311-1~311-Nの並列化を容易に実現することができる。
例えば、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301では、並列接続される乱数生成器311-1~311-Nの数を増やすと、個々の乱数生成器311-1~311-Nの動作点のずれが他の乱数生成器に及ぼす影響が小さくなり、物理乱数の生成が安定化される。
【0059】
ここで、
図9の例では、超伝導物理乱数生成装置301において、バイアス電流b13がJTL313を介してTFF312に入力される構成例を示したが、他の構成例として、JTL313は備えられなくてもよく、バイアス電流b13がTFF312に直接入力されてもよい。ただし、実際の回路では、実用上の観点から、JTL313が備えられる場合が多い。
通常、JTL313の伝送路が長い方が、バイアス電流b13の量を大きくすることができる。このため、JTL313の長さを調整することで、バイアス電流b13の量を調整することが可能である。これにより、複数の乱数生成器311-1~311-Nが用いられる場合においても、例えば、バイアス電流b13の大きさを動作点制御電流b12の大きさと同程度に設定することも可能である。
【0060】
なお、非特許文献1の技術では、複数の超伝導物理乱数生成器(乱数生成器311-1~311-N)の動作点を調整すること、1/2分周器に相当するTFF312を用いること、などについては開示されてなく、本実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置301の技術とは相違している。
【0061】
[以上の実施形態の適用例]
以上の実施形態に係る超伝導物理乱数生成装置1、301は、乱数が使用される様々な分野(超伝導回路を用いる様々な分野)に適用されてもよく、例えば、古典的な暗号通信におけるワンタイムパッドの鍵生成、量子的な暗号通信における暗号鍵生成または基底選択、モンテカルロ計算による最適化、各種の物理シミュレーション、フィッティング、フーリエ変換、機械学習、あるいは、確率的演算ハードウェア(例えば、ストカスティック演算回路)などに適用されてもよく、具体例として、多チャネルの乱数生成器を用いたストカスティックコンピューティングに適用されてもよい。
【0062】
[以上の実施形態の変形例]
以上の実施形態では、乱数生成器(第1実施形態では乱数生成器11、第2実施形態では乱数生成器311-1~311-N)と周波数同期させる回路として、1/2分周器に相当するTFF(第1実施形態ではTFF12、第2実施形態ではTFF312)が用いられたが、他の構成例として、半分の周波数(実施形態では、f/2)以外の周波数の出力を行う回路が用いられてもよい。例えば、実用上で、半分の周波数(実施形態では、f/2)からずれた周波数に周波数同期させる構成が用いられてもよい。
【0063】
[以上の実施形態に係る構成例]
一構成例として、超伝導物理乱数生成装置(
図1の例では超伝導物理乱数生成装置1、
図9の例では超伝導物理乱数生成装置301)は、物理乱数を生成する超伝導物理乱数生成器(
図1の例では乱数生成器11、
図9の例では乱数生成器311-1~311-N)と、超伝導回路を用いたトグル型フリップフロップ(
図1の例ではTFF12、
図9の例ではTFF312)と、を備える。
超伝導物理乱数生成装置は、共通のクロック信号(
図1の例ではクロック信号a1、
図9の例ではクロック信号a11)が分岐されたそれぞれの分岐信号を超伝導物理乱数生成器とトグル型フリップフロップのそれぞれに入力する。
超伝導物理乱数生成装置は、共通の定電流(
図1の例では定電流b1、
図9の例では定電流b11)が分岐されたそれぞれの分岐電流を、超伝導物理乱数生成器に動作点制御電流(
図1の例では動作点制御電流b2、
図9の例では動作点制御電流b12)として入力するとともに、トグル型フリップフロップにバイアス電流(
図1の例ではバイアス電流b3、
図9の例ではバイアス電流b13)として入力する。
【0064】
一構成例として、超伝導物理乱数生成装置は、さらに、ジョセフソン伝送路(
図1の例ではJTL13、
図9の例ではJTL313)を備える。
超伝導物理乱数生成装置は、バイアス電流を、ジョセフソン伝送路を介して、トグル型フリップフロップに入力する。
【0065】
一構成例として、超伝導物理乱数生成装置(
図9の例では超伝導物理乱数生成装置301)は、超伝導物理乱数生成器(
図9の例では乱数生成器311-1~311-N)を複数備える。
超伝導物理乱数生成装置は、共通のクロック信号(
図9の例ではクロック信号a11)が分岐されたそれぞれの分岐信号を複数の超伝導物理乱数生成器とトグル型フリップフロップ(
図9の例ではTFF312)のそれぞれに入力する。
超伝導物理乱数生成装置は、共通の定電流(
図9の例では定電流b11)が分岐されたそれぞれの分岐電流を、複数の超伝導物理乱数生成器のそれぞれに動作点制御電流(
図9の例では動作点制御電流b12)として入力するとともに、トグル型フリップフロップにバイアス電流(
図9の例ではバイアス電流b13)として入力する。
【0066】
以上、この開示の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この開示の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1、301…超伝導物理乱数生成装置、11、311-1~311-N…超伝導物理乱数生成器(乱数生成器)、12、312…トグル型フリップフロップ(TFF)、13、313…ジョセフソン伝送路(JTL)、111~114…コイル、131~133…ジョセフソン接合、151~153…抵抗、171…定電流源、1011、1111…特性、1021、a1、a11…クロック信号、1031…物理乱数信号、2011、2012、2111、2112、c1…パルス列、G1…接地端、P1、P2…期間、T1…入力端、T2…出力端、b1、b11…定電流、b2、b12…動作点制御電流、b3、b13…バイアス電流、c2…SFQパルス列、c3…物理乱数列