(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025882
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】プラズマ加工装置用パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230216BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
H02M7/48 S
H02M7/48 F
H02M3/155 P
H02M3/155 U
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131311
(22)【出願日】2021-08-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】小西 庸平
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730BB85
5H730BB88
5H730CC01
5H730DD16
5H730FD01
5H730FD31
5H730FG05
5H730FG10
5H770CA01
5H770CA02
5H770CA08
5H770DA01
5H770DA24
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA07
5H770GA19
5H770HA02W
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA03Y
(57)【要約】 (修正有)
【課題】立上り及び立下りの特性が可変である等、様々な波形形状のパルス電圧を出力するプラズマ加工装置用パルス電源装置を提供する。
【解決手段】プラズマ加工装置用の可変パルス電源装置1は、少なくとも1周期分の出力電圧波形に対応する電圧パターン情報が格納された電圧パターン設定部5と、外部から供給される交流電力に基いて、電圧パターン情報によるピーク電圧値に応じた、正負のいずれか一方又は両方の極性であって、絶対値が該ピーク電圧値以上である高電圧を生成する高電圧生成部2と、電圧パターン情報による時間経過に対応するパターン形状の変化に従って、高電圧生成部2から与えられる高電圧又はそれに由来する電圧をスイッチングする位相シフトPWM方式のマルチレベルコンバータである波形整形部3と、波形整形部3から出力される電圧波形に重畳している不要な信号成分を除去するフィルタ4と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ加工装置において加工のためのプラズマ負荷に正極性若しくは逆極性である単極性、又は両極性のパルス電圧を印加するプラズマ加工装置用パルス電源装置であって、
a)少なくとも1周期分の出力電圧波形に対応する電圧パターン情報が格納されたパターン情報記憶部と、
b)外部から供給される交流電力に基いて、前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報によるピーク電圧値に応じた、正負のいずれか一方又は両方の極性であって、絶対値が該ピーク電圧値以上である高電圧を生成する高電圧生成部と、
c)前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報による時間経過に対応するパターン形状の変化に従って、前記高電圧生成部から与えられる高電圧又はそれに由来する電圧をスイッチングするコンバータである波形整形部と、
d)前記波形整形部から出力される電圧波形に重畳している不要な信号成分を除去するフィルタと、
を備えるプラズマ加工装置用パルス電源装置。
【請求項2】
前記波形整形部は、各々が、少なくとも一組の相補スイッチ、又は該相補スイッチの代わりとなる一個のスイッチと一個のダイオードとの組合せ、を含む波形整形ユニットを複数直列に接続した、位相シフトPWM方式によるマルチレベルカスケードコンバータである、請求項1に記載のプラズマ加工装置用パルス電源装置。
【請求項3】
前記波形整形ユニットは、一組の相補スイッチを含むレッグを複数備え、PWM制御されるレッグを入れ替えることによって前記波形整形部から出力する電圧の極性を切り替える、請求項2に記載のプラズマ加工装置用パルス電源装置。
【請求項4】
前記波形整形部は、ユニポーラ変調により両極性又は単極性のパルス電圧を生成可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置用パルス電源装置。
【請求項5】
前記高電圧生成部は、PAM方式のコンバータとPWMデューティ比が0.5固定である2相インバータとを組み合わせたものである、請求項1~4のいずれか1項に記載のプラズマ加工装置用パルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種のプラズマ加工装置に用いられるパルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体プロセスを始めとする様々な分野において、プラズマを利用して対象物に対しエッチング、スパッタリングなどの加工処理を施すプラズマ加工装置が用いられている。こうしたプラズマ加工装置では、プラズマを生成したり、プラズマに電力を供給したり、或いは、プラズマ中の荷電粒子を加速したりするために、高周波(RF)電圧と直流パルス電圧とを併用するものが従来知られている。
【0003】
こうしたプラズマ加工装置に使用されるパルス電源装置では、数百V~数kV程度の波高値の高電圧パルスを生成する必要があり、例えば特許文献1、2に記載の電源装置が知られている。この電源装置では、リアクトルと容量性負荷回路とを含む共振回路での共振現象を利用して、直流パルス電圧の立上り波形及び立下り波形を形成している。こうした手法によって、直流パルス電圧の損失を抑えながら、高電圧である直流パルス電圧の立上り時間及び立下り時間を短縮することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6810316号公報
【特許文献2】特許第6810317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、プラズマ加工装置のパルス電源装置には、高電圧である直流パルス電圧の立上りや立下りをできるだけ急峻に行いたいという要求のみならず、その逆に立上りや立下りを緩慢に行いたい、或いは、特定の二つの電圧レベルのパルス電圧だけでなく、多段階の電圧レベルのパルス電圧を使用したい、といった様々な要求がある。即ち、従来よりも一層柔軟な波形形状を有するパルス電圧を生成することが求められるようになってきている。しかしながら、従来、そうした要求に応え得るプラズマ加工装置用パルス電源装置は存在しない。
【0006】
例えば、上記特許文献1、2に記載のような電源装置において、直流パルス電圧の立上り及び立下り波形を変化させるには、共振回路に可飽和リアクトルを使用し、そのリアクトルのインダクタンス値を調整することで共振周波数を変化させることが考えられる。しかしながら、そうした場合、緩慢な立上り及び立下りを達成するために低い共振周波数に適応する大きなインダクタンス値の可飽和リアクトルが必要となり、リアクトルの大形化及びコストアップが避けられない。そのほか、従来の回路方式における出力電流制限抵抗を可変抵抗とすることや、半導体シリーズドロッパ方式を用いる等の対応も考えられるものの、いずれも大きな電力損失が生じるために実用性に乏しい。
【0007】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、大きな電力損失を生じることなく、例えば立上り及び立下りの特性が可変である等、様々な波形形状を有する高電圧のパルス電圧を出力することができるプラズマ加工装置用パルス電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置は、プラズマ加工装置において加工のためのプラズマ負荷に正極性若しくは逆極性である単極性、又は両極性のパルス電圧を印加するプラズマ加工装置用パルス電源装置であって、
a)少なくとも1周期分の出力電圧波形に対応する電圧パターン情報が格納されたパターン情報記憶部と、
b)外部から供給される交流電力に基いて、前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報によるピーク電圧値に応じた、正負のいずれか一方又は両方の極性であって、絶対値が該ピーク電圧値以上である高電圧を生成する高電圧生成部と、
c)前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報による時間経過に対応するパターン形状の変化に従って、前記高電圧生成部から与えられる高電圧又はそれに由来する電圧をスイッチングするコンバータである波形整形部と、
d)前記波形整形部から出力される電圧波形に重畳している不要な信号成分を除去するフィルタと、
を備える。
【0009】
本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置において、パターン情報記憶部には、例えば1周期分の出力パルス電圧波形に対応する電圧パターン情報が予め格納される。この電圧パターン情報は例えば、1周期内の所定時間間隔を有する各時点における電圧値を示すものである。実際に出力パルス電圧を生成する回路は、前段の高電圧生成部と後段の波形整形部とから成り、高電圧生成部では、出力パルス電圧波形のピーク電圧又はそれ以上の電圧値を持つ高電圧を生成する。波形整形部は例えば位相シフトPWM方式のマルチレベルコンバータであり、電圧パターン情報に基いて、高電圧生成部から与えられた電圧を各段のコンバータでそれぞれPWM制御することでパルス電圧を生成し、その複数のパルス電圧を合成して出力する。フィルタはこの電圧波形に重畳しているキャリア成分を除去し出力する。
【0010】
本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置において、前記波形整形部は、各々が、少なくとも一組の相補スイッチ、又は該相補スイッチの代わりとなる一個のスイッチと一個のダイオードとの組合せ、を含む波形整形ユニットを複数直列に接続した、位相シフトPWM方式によるマルチレベルカスケードコンバータである構成とすることができる。
【0011】
この構成によれば、電圧定格等が比較的低いスイッチング素子等を利用することができるので、スイッチング速度の高速化による損失の低減が可能である。
【0012】
また、本発明に係わるプラズマ加工装置用パルス電源装置において、前記波形整形部は、二組の相補スイッチを用いることによって両極性のパルス電圧を生成可能である構成とすることができる。
その場合、降圧チョッパ動作を基本として、それぞれ一組の相補スイッチを含む複数のレッグをPWM用レッグ、極性切換用レッグという専用のレッグとする方式としてもよいが、正極性時のPWM用レッグと逆極性時のPWM用レッグとを予め定め、ゼロクロスを境としてPWM制御するレッグを入れ替えることによって波形整形部から出力する電圧の極性を切り替える方式とする方が好ましい。これにより、ゼロクロス時の出力ノイズを低減することができる。
【0013】
また、本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置において、前記波形整形部は、ユニポーラPWM方式により両極性又は単極性のパルス電圧を生成可能である構成とすることができる。
前記波形整形部にはHブリッジ動作を基本としたバイポーラPWM方式を用いることもできるが、ユニポーラPWM方式を用いることで、リップルを抑えるとともに効率を改善することができる。
【0014】
なお、上記波形整形ユニットに含まれる相補スイッチは、通常、出力パルス電圧の極性が正極性又は逆極性のいずれか一方のみ(つまり単極性)である場合には1組以上、出力パルス電圧の極性が正極性と逆極性との両方(つまり両極性)である場合には2組以上である。
【0015】
また、本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置において、前記高電圧生成部は、PAM方式のコンバータとPWMデューティ比が0.5固定である2相インバータとを組み合わせた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置によれば、パターン情報記憶部に格納する電圧パターン情報を適宜変更することによって、例えば立上り及び立下りの特性が急峻である又は緩慢である等、様々な波形形状のパルス電圧を出力することができる。そうしたパルス電圧を生成するのに際して、インダクタンス値が可変である可飽和リアクトルや抵抗値が可変である出力電流制限抵抗などを用いる必要がない。そのため、装置の小形化、軽量化、低コスト削減等に有利であるほか、電力損失を抑制して効率的にプラズマ負荷に電力を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態である可変パルス電源装置の概略ブロック構成図。
【
図2】第1実施形態の可変パルス電源装置による電圧出力波形の一例を示す図。
【
図3】第1実施形態の可変パルス電源装置における高電圧生成部の概略回路の一例を示す図。
【
図4】第1実施形態の可変パルス電源装置における波形整形部及びフィルタの概略回路の一例を示す図。
【
図5】波形整形部における相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す図。
【
図6】波形整形部のPWM駆動におけるデューティ比とリップル残存度との関係を示す図。
【
図8】簡略化した波形整形部における電流経路の一例を示す図。
【
図9】簡略化した波形整形部における電流経路の一例を示す図。
【
図10】簡略化した波形整形部における電流経路の一例を示す図。
【
図11】簡略化した波形整形部における電流経路の一例を示す図。
【
図12】各レッグをPWM用及び極性切替用の専用のレッグとする方式における相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【
図13】ユニポーラPWM方式を採用した場合の、波形整形部における正極性出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【
図14】ユニポーラPWM方式を採用した場合の、波形整形部における逆極性出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【
図15】ユニポーラPWM方式を採用した場合の、波形整形部におけるゼロ出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【
図16】ユニポーラPWM方式を採用した場合の、簡略化した波形整形部における正極性出力時の電流経路の一例を示す図。
【
図17】ユニポーラPWM方式を採用した場合の、簡略化した波形整形部における逆極性出力時の電流経路の一例を示す図。
【
図18】ユニポーラPWM方式を採用した場合の、簡略化した波形整形部におけるゼロ出力時の電流経路の一例を示す図。
【
図19】第2実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図。
【
図20】第2実施形態のパルス電源装置における波形整形部の一変形例を示す図。
【
図21】第3実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図。
【
図22】第4実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図。
【
図23】第5実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図。
【
図24】第6実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図。
【
図25】第7実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図。
【
図26】波形整形部をバイポーラ方式でPWM制御する場合の相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す図。
【
図27】ユニポーラPWM方式を採用し他の制御方法を用いた場合の、波形整形部における正極性出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【
図28】ユニポーラPWM方式を採用し他の制御方法を用いた場合の、波形整形部における逆極性出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【
図29】ユニポーラPWM方式を採用し他の制御方法を用いた場合の、波形整形部におけるゼロ出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0019】
[第1実施形態]
<全体構成と概略動作>
図1は、第1実施形態の可変パルス電源装置の概略ブロック構成図である。
図2は本実施形態の可変パルス電源装置による出力電圧波形の一例を示す図である。
図1、
図2により、本実施形態の可変パルス電源装置の概略的な構成及び動作について説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の可変パルス電源装置1は、三相交流電源6から三相交流電力を受け、プラズマ加工装置において生成される容量性であるプラズマ負荷7に、パルス電圧を印加するものである。本実施形態の可変パルス電源装置1は、三相交流電力を受けて正極性側と逆極性側のいずれか一方又は両方の高電圧を生成する高電圧生成部2と、その高電圧を入力とし、スイッチングにより波形整形された電圧を出力する波形整形部3と、波形整形された電圧に重畳しているキャリア信号成分を除去するフィルタ4と、予め設定された電圧波形のパターン情報に応じて高電圧生成部2及び波形整形部3に指示信号を出力する電圧パターン設定部5と、を含む。
【0021】
電圧パターン設定部5は、フラッシュメモリなどの不揮発性の半導体メモリと該メモリへのデータの読み書きを制御するリードライト回路などを中心に構成される。電圧パターン設定部5の不揮発性半導体メモリには、
図2に示したような出力パルス電圧の少なくとも1周期内における、時間経過に対する電圧値データが格納される。この時間経過に対する電圧値データが電圧パターンであり、この電圧パターンを適宜書き換えることで、様々な形状のパルス電圧を出力することができる。パルス電圧のピーク電圧値はもちろんのこと、パルスの立上り及び立下りの特性や、パルスの段数(電圧値のレベル数)など、装置に規定された範囲内でパルス電圧の形状を適宜に設定することができる。
【0022】
ごく簡単に言うと、本実施形態の可変パルス電源装置1は、電圧パターン設定部5に予め設定された電圧パターンに従って、このパターンに倣った形状で電圧値が変化するパルス電圧を生成してプラズマ負荷7に出力する。
【0023】
電圧パターン設定部5は、設定されている電圧パターンにおいて正極側と負極側のピーク電圧の絶対値を比較し、その大きい方の電圧値(
図2の例ではVoa)、又はそれよりもさらに大きな電圧値Vsを目標電圧値として高電圧生成部2に対し指示する。一般的に、この電圧値Vsは1kV以上である。上記指示を受けた高電圧生成部2は、正極側と負極側の両方(又はいずれか一方)においてその絶対値がVsである電圧を生成する。波形整形部3は電圧パターン設定部5から指示された時間経過に伴う電圧パターンに従って、高電圧生成部2から与えられた電圧をスイッチング制御してパルス電圧として出力する。フィルタ4はLCローパスフィルタであり、波形整形部3でのスイッチング制御により発生するキャリア周波数成分等を除去して出力する。
【0024】
出力パルス電圧のピーク電圧値Voa、Vobは、高電圧生成部2で決まるようにしてもよいし、波形整形部3におけるスイッチング制御によって決まるようにしてもいずれでも構わない。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の可変パルス電源装置1から出力されるパルス電圧波形は周期的で且つ連続した波形である。ここでは、説明の都合上、ゼロクロス点である時刻t1から次のゼロクロス点である時刻t4までの期間の負電圧側を正極性電圧、ゼロクロス点である時刻t4から時刻t7までの正電圧側を逆極性電圧と定める。また、時刻t1~t2の期間を正極性出力時の、時刻t4~t5の期間を逆極性出力時のそれぞれ立上り期間、時刻t0~t1の期間を逆極性出力時の、時刻t3~t4の期間を正極性出力時のそれぞれ立下り期間と定める。
【0026】
Voaは正極性電圧、Vobは逆極性電圧におけるそれぞれのピーク電圧値であり、VoaとVobとを比較して絶対値が大きい方のVoaに対応する高電圧生成部2の出力電圧をVsとして、
図2中に一点鎖線で示す。α1、α2は出力パルス電圧波形のエッジ部に相当する変化期間であり、この部分の波形を1/4波長正弦波で近似すれば、エッジ部の周波数は1/(4・α1)又は1/(4・α2)となる。
次に各部の詳細な構成と動作を順に説明する。
【0027】
<高電圧生成部の構成及び動作>
図3は、高電圧生成部2の概略回路の一例を示す図である。
高電圧生成部2は、降圧コンバータ2Aと高周波インバータ2Bを含む。三相交流電源6から供給される三相交流電圧は、ヒューズ回路20を通して、ブリッジダイオード21とコンデンサ22とから成る整流回路に入力される。コンデンサ22の両端間の電圧は、直列接続された二つのスイッチング素子231、232から成る相補スイッチ23、リアクトル24、及びコンデンサ26により構成される降圧コンバータ2Aに入力される。降圧コンバータ2Aにおける相補スイッチ23のオン・オフ動作は第1制御部29により制御され、それによりコンデンサ26の両端に所定の電圧値のP/Nバスライン電圧Vpnが得られる。リアクトル24とコンデンサ26との間には電流トランス25が挿入され、電流トランス25で検出された電流値は第1制御部29にフィードバックされる。
【0028】
P/Nバスラインの両端は、直列に接続されたスイッチング素子271、272を含む第1レッグ27と、同じく直列に接続されたスイッチング素子281、282を含む第2レッグ28とで構成されるブリッジ回路の一端と他端にそれぞれ接続される。このブリッジ回路が高周波インバータ2Bを構成し、P/Nバスライン電圧Vpnの変化により、第1レッグ27の中点eと第2レッグ28の中点fとの間に、振幅が可変である高周波高電圧が出力される。この高周波高電圧が、後述する高周波スイッチングトランスの1次巻線を励磁し、波形整形部3に電力を供給する。
【0029】
上記の回路方式は、PAM(パルス振幅変調)方式として知られている手法である。三相交流電圧に起因する商用リップルの改善は、よく知られているように、上記のPWM制御にピーク電流モード制御を併用することで行うことができる。
【0030】
なお、降圧コンバータ2A及び高周波インバータ2Bに用いられる各スイッチング素子は、例えば100kHz程度以上の高速のスイッチング周波数で動作する必要がある。そのため、スイッチング素子としてはSiC-MOSFETが用いられる。また、アーム短絡を防止するために、スイッチング素子の切替え時にはデッドタイムを設ける必要がある。
【0031】
<波形整形部及びフィルタの構成、並びに動作>
図4は、波形整形部3及びフィルタ4の概略回路の一例を示す図である。
プラズマ加工装置用のパルス電源装置において、
図2に示した出力パルス電圧のピーク電圧は、通常、1kV~10kVと、かなり高い電圧が必要とされる。そのため、一般に流通しているスイッチング素子等の回路部品の電圧定格の制約から、波形整形部3としては、回路を複数に分割し、分割された各回路の出力を直列に接続する、位相シフトPWM方式のマルチレベルカスケードコンバータを採用する。こうした回路を採用することで、回路部品の電圧定格の制約を回避し易くなり、また、流通性の高い回路部品を使用することが可能となるのでコスト的にも有利である。
【0032】
図4に示した例では、パルス電圧のピーク電圧値を2kVと想定し、波形整形部3の回路を符号30A、30B、30C、30Dで示す四つの波形整形ユニットに分割している。なお、
図3中で符号30A、30B、30C、30Dで示した波形整形ユニットに含まれる構成は全く同じであり、符号31、32、33、34、35の構成要素には一部しか符号を明示していないものの、それら構成要素には31A~31D、32A~32D、…の符号が付されているものとみなす。これは、後述する他の実施形態の説明においても同様である。
【0033】
上述したように波形整形部3を四つのユニットに分割したため、前段の高電圧生成部2からの電圧供給も四つの回路に対応して分岐させる必要がある。即ち、
図4に示すように、高電圧生成部2の高周波インバータ2Bにおける各レッグ27、28の中点e、fは 四つの高周波スイッチングトランス31A~31Dの1次側巻線にそれぞれ接続され、その四つの2次側巻線において分離され、且つ互いに電気的に絶縁されている。四つの高周波スイッチングトランス31A~31Dの2次側巻線はそれぞれ、ブリッジダイオード32A~32Dのそれぞれ交流入力端に接続され、その直流出力端にはコンデンサ33A~33Dがそれぞれ接続されている。ブリッジダイオード32A~32D及びコンデンサ33A~33Dは高周波整流回路を形成する。
【0034】
波形整形ユニット30A~30Dにおけるコンデンサ33A~33Dの両端はそれぞれ、四つに分岐された独立した高電圧生成部2の出力端であるとみることもできる。即ち、
図4において波形整形ユニット30A~30Dに含まれる符号3Aで示した範囲(高周波スイッチングトランス31A~31D、ブリッジダイオード32A~32D、コンデンサ33A~33D)は実質的には高電圧生成部2に含まれるとみなすことができ、その場合には、高電圧生成部2から各波形整形ユニット30A~30Dの符号3A以降の回路に、それぞれ独立に直流電圧が印加されることになる。こうした回路構成を採ることによって、高電圧生成部2から波形整形部3に対して十分に高い直流電圧を印加する一方、波形整形部3では適切に出力電圧を設定するとともにその波形形状を制御することができる。
【0035】
上記高電圧生成部2における高周波インバータ2B、高周波スイッチングトランス31A~31D、及び高周波整流回路を含むDC-DCコンバータは、PWMデューティ比D=0.5で動作する2相コンバータである。これは、後述する
図6における2チャンネルのコンバータに該当し、デューティ比D=0.5にてリップルが打ち消されてゼロになる。そのため、高周波整流回路中にリップルの平滑化を目的とするリアクトルを設ける必要がない。従って、高周波整流回路中のブリッジダイオード32A~32Dの電流は2相の半波次サイクルまで継続せず、ダイオードのリカバリ時間による短絡が生じないため、その開放時のサージ電圧がその素子自体に印加されることを避けることができる。
【0036】
四つの波形整形ユニット30A~30Dは、4組の直列接続されたスイッチング素子Sa1、Sb1~Sa4、Sb4を含む第1の相補スイッチ34A~34Dと、同じく4組の直列接続されたスイッチング素子Sa5、Sb5~Sa8、Sb8を含む第2の相補スイッチ35A~35Dと、を備える。各波形整形ユニット30A~30Dにおいて、第1の相補スイッチ34A~34Dと第2の相補スイッチ35A~35Dとはそれぞれ降圧チョッパ回路を構成するレッグである。
【0037】
波形整形ユニット30A~30Dはそれぞれ、上述したように四つに分岐独立した高電圧生成部2の出力の一端とみなせるコンデンサ33A~33Dの正極側の端部と、第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dの一端であるスイッチング素子Sb1~Sb4、Sb5~Sb8の一端(ドレイン)をそれぞれ共通に接続した第1の接続端aと、コンデンサ33A~33Dの負極側の端部と第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dの他端であるスイッチング素子Sa1~Sa4、Sa5~Sa8の他端(ソース)をそれぞれ共通接続した第2の接続端bと、第1の相補スイッチ34A~34D同士を接続するスイッチング素子Sa1~Sa4の一端(ドレイン)とスイッチング素子Sb1~Sb4の他端(ソース)のそれぞれの接続点である第1の出力端cと、第2の相補スイッチ35A~35D同士を接続するスイッチング素子Sa5~Sa8の一端(ドレイン)とスイッチング素子Sb5~Sb8の他端(ソース)のそれぞれの接続点である第2の出力端dと、を含む。第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dに含まれるスイッチング素子のオン・オフ動作は、第2制御部36により制御される。
【0038】
この波形整形部3は、4段目の波形整形ユニット30Dの第1の出力端cが3段目の波形整形ユニット30Cの第2の出力端dに接続され、同様に3段目の波形整形ユニット30Cの出力端cが2段目の波形整形ユニット30Bの出力端dに接続され、これが順次繰り返されることによって、4段目の波形整形ユニット30Dの出力端dと1段目の波形整形ユニット30Aの出力端cとの間に、波形整形ユニット30A~30D毎に1/4に分割された出力電圧Voが直列に合成されて出力される構成である。
なお、上記構成に代えて、4段目の波形整形ユニット30Dの出力端dを3段目の波形整形ユニット30Cの出力端cに接続し、同様に3段目の波形整形ユニット30Cの出力端dを2段目の波形整形ユニット30Bの出力端cに接続し、これを順次繰り返すことによって、4段目の波形整形ユニット30Dの出力端cと1段目の波形整形ユニット30Aの出力端dとの間に、上記出力電圧Voとはその方向が逆である電圧を出力する構成とすることもできる。
【0039】
フィルタ4は、リアクトル40とコンデンサ41とを含むLCローパスフィルタである。リアクトル40の一端と出力端との間には、電流トランス42とダンピング抵抗43が設けられる。また、両出力端の間には、電圧検出用のモニタ抵抗44、45が設けられており、電流トランス42により検出されるモニタ電流とモニタ抵抗44により検出されるモニタ電圧とが電圧パターン設定部5にフィードバックされる。
【0040】
図5(A)、(B)は、正極性出力時及び逆極性出力時における第1、第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dのオン/オフ状態の一例を示す概略図である。
図5は、相補スイッチに含まれる各スイッチング素子のゲートに印加される駆動信号であるとみることもできる。
【0041】
四つの波形整形ユニット30A~30Dにおける出力電圧の調整は、第2制御部36によるPWM制御によって実施される。第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dの動作は、例えば第1の相補スイッチ34A~34DがPWM制御によるパルス幅で相補動作するとき、第2の相補スイッチ34A~34Dのスイッチング素子Sb5~Sb8は常時オン、他のスイッチング素子Sa5~Sa8は常時オフの状態となる。一方、第2の相補スイッチ35A~35DがPWM制御によるパルス幅で相補動作するときには、第1の相補スイッチ34A~34Dのスイッチング素子Sb1~Sb4は常時オン、他のスイッチング素子Sa1~Sa4は常時オフの状態となる。即ち、出力電圧が正極から逆極に又は逆極から正極に切り替わる度に、第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dの状態、つまりは二つのレッグの状態が入れ替わる、いわゆる、降圧チョッパ動作を基本とするPWM用レッグの入替えによる極性切替え方式に従った動作を行う。
【0042】
ここで、4段の波形整形ユニット30A~30Dにおいて、PWM制御のための波形整形部3のキャリア周波数の位相は、それぞれ360°/4=90°ずつずれた位相シフト動作がなされている。それ故に、この制御方式は位相シフトPWM方式である。この場合、リップル周波数frは4×キャリア周波数fである。例えばf=400kHzである場合、リップル周波数frは1.6MHzである。また、
図6に示すように、1/4=0.25のPWMデューティの倍数毎にリップルは打ち消される。
図6は、チャンネル数(ここでいうユニット数)とリップル残存度との関係を示す曲線であり、リップル残存度=0は完全にリップルがキャンセルされた状態である。
【0043】
図7は、各波形整形ユニット30A~30Dの出力端c、d間の出力電圧をVo1~Vo4とし、4段目の波形整形ユニット30Dの出力端dと1段目の波形整形ユニット30Aの出力端cとの間の直列に合成された出力電圧をVo5として、
図2に示した波形図におけるt1~t2期間における第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dの動作状態が、
図5(A)に示した正極性出力である場合のPWM動作例を示す概略波形図である。
図7は、それぞれ位相が90°異なるキャリア周波数fの三角波形Tri1~Tri4とVo設定電圧とをコンパレータComp1~4で比較することでPWM出力電圧Vo1~Vo4が得られ、そのPWM出力電圧Vo1~Vo4の合算がVo5となることを示している。なお、ここでは、三角波形Tri1~Tri4とVo設定電圧とを比較するフィードフォワード制御を用いているが、Vo設定電圧とVo検出電圧との誤差電圧を増幅してそれをゼロにするようなフィードバック制御を用いてもよい。
【0044】
図8~
図11は、
図5(A)に示した正極性出力である場合において、
図7に示した出力電圧Vo5でパルス電圧Va~Vdが出力されるときの、波形整形部3における電流経路を示す概略図である。なお、
図8~
図11に示す回路では、
図4中に示した高周波スイッチングトランス等を含む高周波整流回路を、電源Vs1~Vs4、単一ダイオードD1~D4、及びコンデンサC1~C4を用いて簡易的に示している。
【0045】
図8は、Vo5=Vaの場合である。この場合、スイッチング素子Sa3、Sb1、Sb2、Sb4がPWM制御により一時的にオンし、スイッチング素子Sb5~Sb8は常時オンである。そのため、図中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sb1→Sb5→Sb2→Sb6→Sa3→C3→Sb7→Sb4→Sb8の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo5には、Vo3=(C3)v=Vs3、が出力される。
【0046】
図9は、Vo5=Vbの場合である。この場合、スイッチング素子Sa1、Sa4、Sb2、Sb3がPWM制御により一時的にオンし、スイッチング素子Sb5~Sb8は常時オンである。そのため、図中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sa1→C1→Sb5→Sb2→Sb6→Sb3→Sb7→Sb4→C4→Sb8の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo5には、Vo1+Vo4=(C1)v+(C4)v=Vs1+Vs4、が出力される。
【0047】
図10は、Vo5=Vcの場合である。この場合、スイッチング素子Sa2、Sa3、Sa4、Sb1がPWM制御により一時的にオンし、スイッチング素子Sb5~Sb8は常時オンである。そのため、図中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sb1→Sb5→Sa2→C2→Sb6→Sa3→C3→Sb7→Sa4→C4→Sb8の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo5にはVo2+Vo3+Vo4=(C2)v+(C3)v+(C4)v=Vs2+Vs3+Vs4、が出力される。
【0048】
図11は、Vo5=Vdの場合である。この場合、スイッチング素子Sa1、Sa2、Sa3、Sa4がPWM制御により一時的にオンし、スイッチング素子Sb5~Sb8は常時オンである。そのため、スイッチング素子Sa1→C1→Sb5→Sa2→C2→Sb6→Sa3→C3→Sb7→Sa4→C4→Sb8の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo5には、Vo1+Vo2+Vo3+Vo4=(C1)v+(C2)v+(C3)v+(C4)v=Vs1+Vs2+Vs3+Vs4、が出力される。
【0049】
なお、動作状態が
図5(B)に示した逆極性出力である場合における、
図7中のVd5=Va~Vdに該当する電流経路も同様に考えることができ、ここでは説明を省略する。
【0050】
図2に示した出力パルス電圧波形のエッジ部(立上りエッジ部及び立下りエッジ部)を例えばα1、α2=2~50μsの範囲で可変させるのであれば、そのエッジ部の周波数は、1/4αより5kHz~125kHzの範囲で変化し得る。従って、この周波数範囲の信号を通過させ、且つリップル周波数fr=n×キャリア周波数、例えばfr=4×400kHz=1.6MHzを持つ信号成分を阻止する遮断周波数fcのLCローパスフィルタを、4段の波形整形ユニット30A~30Dを直列に接続した出力端と本可変パルス電源装置1の出力端との間に、リアクトル40は直列、コンデンサ41は並列と見なせるように挿入する。PWM制御周波数であるリップル周波数frは、一般に、パルス波形のエッジ部における最大変化周波数の10~20倍程度に選ばれる。
【0051】
出力のローパスフィルタは例えば、リアクトル40及びコンデンサ41から成るフィルタ4と、プラズマ負荷7の負荷抵抗とにより構成される2次バターワースローパスフィルタである。リアクトル40のインダクタンス値をLo、コンデンサ41のキャパシタンス値をCo、負荷抵抗の抵抗値をRpとすると、よく知られているように、
Lo=Rp/(√2・π・fc)
Co=1/(2・√2・π・fc・Rp)
の式が成り立つ。遮断周波数fc及び抵抗値Rpが決まれば上記式より、インダクタンス値Lo及びキャパシタンス値Coを求めることができる。
【0052】
厳密に言えば、
図8~
図11にも示したように、この可変パルス電源装置1の出力端とプラズマ負荷7との間には、浮遊インダクタンスLnや浮遊容量を含む容量負荷Cpが存在する。そこで、これらの要因による不要な電圧振動と負荷短絡時に生じる短絡電流の抑制のために、
図4にも示したように、数Ω~数十Ω程度の抵抗値Rdを有するダンピング抵抗43が本可変パルス電源装置1の出力端に挿入される。
【0053】
特に、波形整形部3における第1及び第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dに使用されるスイッチング素子は、例えば400kHz程度又はそれ以上のかなり高速なスイッチングに対応する必要がある。そのため、スイッチング素子としてSiC-MOSFETが用いられる。また、アーム短絡を防止するために、スイッチング素子の切替え時には必ずデッドタイムが設けられる。また、正極性パルス電圧又は逆極性パルス電圧のいずれか一方のみが必要である場合には、第1、第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dのどちらか一方のみでよく、この場合にはその相補スイッチの片方をダイオードとすることもできる。これについては、追って他の実施形態として示す。
【0054】
[各レッグをPWM用及び極性切換用の専用のレッグとする方式を用いた場合]
上述したように、上記例では波形整形部3においてPWM用レッグの入替えによる極性切替え方式に基く制御を実施していたが、これとは異なり、降圧チョッパ回路を構成する一方のレッグをPWM用レッグ、他方のレッグを極性切替用レッグに固定して出力電圧の極性を切り替える方式に基く制御を実施することも可能である。
図12(A)、(B)は、各レッグをPWM用及び極性切替用の専用のレッグとする方式における正極性出力時及び逆極性出力時の第1、第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dのオン/オフ状態の一例を示す概略図である。この図は、
図5に示したPWM用レッグの入替えによる極性切換方式における各相補スイッチのオン/オフ状態に対応する定常状態を示すものである。
【0055】
いま、第1の相補スイッチ34A~34DをPWM用レッグ、第2の相補スイッチ35A~35Dを極性切換用レッグに固定し、
図12(A)に示す正極性出力時の定常状態から電圧波形がゼロクロスして極性切換用レッグにより極性を切り替えて、
図12(B)に示す逆極性出力時の定常状態に移行する場合を考える。
スイッチング素子Sa1~Sa4のオン/オフ駆動パルスは、出力電圧がゼロに向かうに伴ってオン幅が減少し、出力電圧がゼロになるオフ状態となる。他方、スイッチング素子Sb1~Sb4は相補的に動作するので出力電圧がゼロに向かうに伴ってオン幅は増加しゼロになるとオン状態となる。このとき、スイッチング素子Sa5~Sa8は常時オフ状態、スイッチング素子Sb5~Sb8は常時オン状態である。
【0056】
出力電圧の極性が切り替わり
図12(B)に示す逆極性出力時に移行するとき、スイッチング素子Sa5~Sa8が常時オフ状態から常時オン状態に、スイッチング素子Sb5~SB8が常時オン状態から常時オフ状態になると同時に、スイッチング素子Sa1~Sa4をオフからオンに、スイッチング素子Sb1~Sb4をオンからオフにするようにPWM制御信号を切り替える。なお、このPWM制御信号の切り替えに遅れが生じた場合、ゼロクロス時に大きな出力ノイズが発生する可能性がある。
【0057】
[ユニポーラPWM方式を採用した場合]
上記実施形態の可変パルス電源装置の波形整形部3では、ユニポーラPWM方式による制御を行うことも可能である。
ユニポーラPWMでは一般的に、Hブリッジ動作を基本として、例えばゼロを基準とした対称三角波キャリア信号と、同じくゼロを基準としたVo設定信号とを比較することで第1のPWM制御パターンのパルス信号を生成して、これにより第1のレッグを駆動する。一方、対称三角波キャリア信号と上記Vo設定信号の反転信号とを比較することで第2のPWM制御パターンのパルス信号を生成して、これにより第2のレッグを駆動する。このような駆動によって、出力には第1のPWM制御パターンと第2のPWM制御パターンとを合成した電圧波形が得られる。この場合の出力電圧波形はキャリア周波数の2倍の周波数になる。また、フィルタ4を構成するリアクトル40に印加される電圧は、後述するバイポーラPWM方式の1/2で済み、そのためフィルタ2の小形化を図ることができる。
【0058】
また、本例のように、位相シフトPWM方式のマルチレベルカスケードコンバータにユニポーラPWM方式を適用した場合、1段のコンバータで2相の出力が得られるので、リップル周波数(PWM制御周波数)=2n×キャリア周波数、とすることができる。即ち、リップル周波数が同一ならばマルチレベルカスケードコンバータの段数は1/2で済み、それが同一の段数であるならばリップル周波数を2倍にすることができる。
【0059】
図13及び
図14は、ユニポーラPWM方式を採用した場合における、正極性出力時及び逆極性出力時の波形整形部3における要部の波形、並びに、第1、第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dのオン/オフ状態の一例を示す概略図である。
図16は、
図13に示した正極性出力である場合において、波形整形部3の1段の波形整形ユニットにおける電流経路を示す概略図である。
図17は、
図14に示した逆極性出力である場合において、波形整形部3の1段の波形整形ユニットにおける電流経路を示す概略図である。なお、説明を簡単にするために、
図16~
図18では1段の波形整形ユニットのみを示しているが、実際には、
図8~
図11と同様にマルチレベルカスケードコンバータの構成とすることができる。
【0060】
正極性出力時において、
図13に示す時刻t0~t1の期間には、スイッチング素子Sa1、Sb5がPWM制御により一時的にオンする。これにより、
図16(A)中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sa1→C1→Sb5の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo1には、Vo1=(C1)V=Vs1が正極性方向に出力される。
【0061】
次の時刻t1~t2の期間には、スイッチング素子Sb1、Sb5がPWM制御により一時的にオンする。これにより、
図16(B)中に太線矢印で示すように、リアクトルLoをエネルギ源としてスイッチング素子Sb1→Sb5の経路で循環的に電流が流れる。出力端Vo1はスイッチング素子Sb1、Sb5により短絡されるのでVo1=0となる。
【0062】
図16(C)中に太線矢印で示すように、時刻t2~t3の期間における電流経路は時刻t0~t1の期間と同一であり、出力端Vo1にはVo1=(C1)V=Vs1が正極性方向に出力される。
時刻t3~t4の期間には、スイッチング素子Sa1、Sa5がPWM制御により一時的にオンする。これにより、
図16(D)中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sa1→Sa5の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo1はスイッチング素子Sa1、Sa5により短絡されるのでVo1=0となる。
【0063】
逆極性出力時において、
図14に示す時刻t0~t1の期間には、スイッチング素子Sa5、Sb1がPWM制御により一時的にオンする。これにより、
図17(A)中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sa5→C1→Sb1の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo1には、Vo1=(C1)V=Vs1が逆極性方向に出力される。
【0064】
次の時刻t1~t2の期間には、スイッチング素子Sb5、Sb1がPWM制御により一時的にオンする。これにより、
図17(B)中に太線矢印で示すように、リアクトルLoをエネルギ源としてスイッチング素子Sb5→Sb1の経路で循環的に電流が流れる。出力端Vo1はスイッチング素子Sb5、Sb1により短絡されるので、Vo1=0となる。
【0065】
図17(C)中に太線矢印で示すように、時刻t2~t3の期間における電流経路は時刻t0~t1の期間と同一であり、出力端Vo1にはVo1=(C1)V=Vs1が逆極性方向に出力される。
時刻t3~t4の期間には、スイッチング素子Sa5、Sa1がPWM制御により一時的にオンする。これにより、
図17(D)中に太線矢印で示すように、スイッチング素子Sa5→Sa1の経路で循環的に電流が流れ、出力端Vo1はスイッチング素子Sa5、Sa1により短絡されるのでVo1=0となる。
【0066】
図15は、ユニポーラPWM方式を採用した場合におけるゼロ出力時の波形整形部3における要部の波形、並びに、第1、第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dのオン/オフ状態の一例を示す概略図である。
図18は、このときの波形整形部3の1段の波形整形ユニットにおける電流経路を示す概略図である。
【0067】
図15に示す時刻t0~t1の期間には、スイッチング素子Sa1、Sb5がPWM制御により一時的にオンする。出力端Vo1はスイッチング素子Sb1、Sb5により短絡されるので、Vo1=0となる。ここでは、リアクトルLoのエネルギがないので循環経路に電流は流れない。
時刻t1~t0の期間には、スイッチング素子Sa1、Sa5がPWM制御により一時的にオンする。出力端Vo1はスイッチング素子Sa1、Sa5により短絡されるので、Vo1=0となる。
【0068】
図13~
図15に示されているように、上記動作において、スイッチング素子Sb5のPWM制御パターンは、スイッチング素子Sa1のPWM制御パターンを三角波キャリア信号に対して180°だけ位相シフトさせたものである。また同様に、スイッチング素子Sa5のPWM制御パターンは、スイッチング素子Sb1のPWM制御パターンを三角波キャリア信号に対して180°だけ位相シフトさせたものである。即ち、この1段の波形整形ユニットは2相で動作しており、正極性出力時又は逆極性出力時の出力端Voの出力波形に示すように、三角波キャリア信号の1サイクル中にパルスが2回出力される。このことから、リップル周波数(PWM制御周波数)は、上述したPWM用レッグの入替えによる極性切替方式や後述するバイポーラPWM方式の2倍になることが分かる。
【0069】
上記説明では、ゼロを基準とした一つの対称三角波キャリア信号と、同じくゼロを基準としたVo設定信号及びその反転信号をそれぞれを比較することで、第1及び第2のPWM制御パターンのパルス信号を生成して、これにより第1及び第2のレッグを駆動していた。これを、ゼロを基準とした一つのVo設定信号(
図27~
図29中のVo(ref))と、ゼロを基準とした第1の対称三角波キャリア信号(
図27~
図29中のキャリア1)、及びその第1の対称三角波キャリア信号を180°位相シフトさせた第2の対称三角波キャリア信号(
図27~
図29中のキャリア2)をそれぞれ比較することで、第1及び第2のPWM制御パターンのパルス信号を生成し、これにより第1及び第2のレッグを駆動するように変形可能であることは当業者には明らかである。
【0070】
その場合の、波形整形部における正極性出力時の要部の波形と相補スイッチのオン/オフ状態の一例を、
図27~
図29に示す。
図27~
図29は
図13~
図15にそれぞれ対応する図であり、詳しい動作説明は省略するが、この場合にも上記説明と同様の出力電圧が得られ、同じ利点を享受し得ることは当然である。
【0071】
[バイポーラPWM方式を採用した場合]
上記実施形態の可変パルス電源装置の波形整形部3では、バイポーラPWM方式による制御を行うことも可能である。
この場合、
図4に示した構成において、第1の接続端aに接続された第1の相補スイッチ34A~34Dの一方及び第2の接続端bに接続された第2の相補スイッチ35A~35Dの他方と、第1の接続端aに接続された第2の相補スイッチ35A~35Dの一方及び第2の接続端bに接続された第1の相補スイッチ34A~34Dの他方が、それぞれ同一のパルス幅の駆動信号で駆動され、PWM制御によるパルス幅で以て相補動作する。
【0072】
図26(A)、(B)は、バイポーラPWM方式における正極性出力及び逆極性出力時の、第1、第2の相補スイッチ34A~34D、35A~35Dのオン/オフ状態の一例を示す概略図である。これは、
図13及び
図14に示したユニポーラPWM方式におけるオン/オフ状態に対応するものである。
【0073】
図4に示した構成における1段目の波形整形ユニット30Aでは、例えば
図26(A)に示すように、第1の相補スイッチ34Aにおける一方のスイッチング素子Sa1と第2の相補スイッチ35Aにおける他方のスイッチング素子Sb5、第2の相補スイッチ34Aにおける一方のスイッチング素子Sa5と第1の相補スイッチ34Aにおける他方のスイッチング素子Sb1が、さらに同様に、2段目の波形整形ユニット30Bではスイッチング素子Sa2とSb6、スイッチング素子Sa6とSb2、3段目の波形整形ユニット30Cではスイッチング素子Sa3とSb7、スイッチング素子Sa7とSb3、4段目の波形整形ユニット30Dではスイッチング素子Sa4とSb8、スイッチング素子Sa8とSb4がそれぞれ、同一のパルス幅の駆動信号により駆動され、PWM制御されたパルス幅で以て相補動作する。
【0074】
ここで、駆動信号のデューティ比D=0.5、つまり全てのスイッチング素子のパルス幅が等しいときに出力電圧は0となり、そのデューティ比が変化するに伴って、正極性側から逆極性側までの範囲に亘って変化する電圧の出力が可能である。
【0075】
<本実施形態の装置の特徴と利点のまとめ>
上述した第1実施形態の可変パルス電源装置1の特徴と利点をまとめると次の通りである。
(1)第1実施形態の可変パルス電源装置1では、従来の直流パルス電源装置に用いている大きなインダクタンス値を持つ大形の過飽和リアクトルに代えて、スイッチング制御を行うことでパルス電圧の立上げ、立下げ特性を急峻な状態や緩慢な状態に容易に変化させることができ、小形化、軽量化、さらにはコスト低減を図ることができる。
【0076】
(2)第1実施形態の可変パルス電源装置1において、高電圧生成部2は、電圧パターン設定部5に設定されている電圧パターンのピーク電圧値に対応して必要とされる最大振幅電圧に応じて出力を制御する。そして、波形整形部3は、主として電圧パターンの時間変化に応じて出力を制御する。この独立した2系統の出力制御によって、特に低電圧出力時における波形の分解能や応答速度の向上による出力電圧パターンの再現性が良好となる。また、波形整形部3に含まれる各スイッチング素子に印加される電圧値を低く抑えることができるので、該スイッチング素子におけるスイッチング損失を低減させ、効率を向上させることができる。
【0077】
(3)波形整形部3には、位相シフトPWM方式のマルチレベルカスケードコンバータを採用しているので、リップル周波数が高く、PWM制御精度や制御応答速度が向上すると共に、リップル打ち消し効果と相まって出力段のフィルタ4を小形化することができる。
(4)波形整形部3に、PWMレッグの入替えによる極性切換方式を用いた構成では、ゼロクロス時に正極性から逆極性にスムーズに移行することができ、出力ノイズを低減することができる。さらにまた、後述するように正極性及び逆極性それぞれの最大振幅電圧に応じた専用の高電圧生成部2を設け、正極性レッグと逆極性レッグとに独立に電力を供給し、予めその出力を制御することによって、正極性出力時、逆極性出力時のいずれにおいても、動作の最適化をより一層図ることができる。
【0078】
(5)波形整形部3にユニポーラPWM方式を用いた構成では、出力電圧波形はキャリア周波数の2倍の周波数になると共に、フィルタ4を構成するリアクトル40に印加される電圧はバイポーラPWM方式の1/2で済む。このため、フィルタ4の小形化を図ることができる。上記の例のように、位相シフトPWM方式のマルチレベルカスケードコンバータにユニポーラPWM方式を適用した場合、1段で2相の出力が得られるのでリップル周波数(PWM制御周波数)=2n×キャリア周波数、とすることができる。即ち、リップル周波数が同じであるならば段数は1/2で済み、同一段数ならリップル周波数を2倍にすることができる。
【0079】
(6)高周波スイッチングトランス、高周波整流回路、相補スイッチ回路等の回路を、出力パルス電圧のピーク電圧値と素子の定格等に応じた適宜の数に分割し、分割した回路をまとめて標準化したユニットを必要数だけ用意して装置を構成することができる。このような回路ユニットの標準化によって、生産性を向上させるとともにコストの低減を図ることができる。
【0080】
(7)高電圧生成部2にPAM方式とPWMデューティ比D=0.5固定の2相コンバータを用いたため、大形部品である高周波整流回路の高電圧リアクトルが不要となり、接地電位に対する安全性が向上する。また、各波形整形ユニット30A~30Dの高周波整流回路に含まれるダイオードにリカバリーショートがなく、そのためスナバ回路が不要である。それにより、波形整形部3を省スペース化し、小形化、軽量化、及び高効率化を図ることができる。
【0081】
[第2実施形態]
図19は、第2実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図である。この図は、第1実施形態の可変パルス電源装置における
図4中の波形整形ユニット30Dに相当する波形整形ユニット30D1のみを示す図である。
図4中の波形整形ユニット30A~30Cも波形整形ユニット30D1と同様の構成の回路に置き換えるものとする。なお、これは、以下の第3実施形態以降も同様である。
【0082】
第1実施形態の可変パルス電源装置では、高電圧生成部2において正極性側の直流高電圧と逆極性側の直流高電圧とを
図3に示した1系統の回路で生成していたが、これを正極性側の直流高電圧を生成する回路と逆極性側の直流高電圧を生成する回路との2系統に分け、一方の出力端対e1、f1と他の出力端対e2、f2からそれぞれ出力する。波形整形ユニット30D1では、高周波スイッチングトランス31Da、31Db、高周波整流回路32Da、32Db、33Da、33Dbを正極性側と逆極性側とに分離して設け、出力端対e1、f1と他の出力端対e2、f2からそれぞれ供給された電力を整流して第1、第2の相補スイッチ34D、35Dに供給する。
【0083】
第2実施形態の可変パルス電源装置では、正極性、逆極性に対応してそれぞれ、降圧コンバータ2A、高周波インバータ2B、及び第1制御部29を含む2系統の直流高電圧生成部を設けているので、正極性のピーク電圧Voaと逆極性のピーク電圧Vob(
図2参照)に対し各々最適な直流電圧Vsa及びVsbを波形整形部3に供給することができる。
【0084】
図20は、
図19に示した波形整形部の変形例である。
図20では、四つの波形整形ユニット30A1~30D1を全て記載してある。一つの波形整形ユニットにおける回路構成は
図19に示した例と同じであり、ユニット間の接続が異なるが、この構成においても
図19の例と同様に、両極性のパルス電圧を出力可能であることは容易に理解できる。
【0085】
[第3実施形態]
図21は、第3実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図である。
第1、2実施形態の可変パルス電源装置では、正逆の両極性の出力パルス電圧を得ることを前提としていたが、出力パルス電圧が正極性又は逆極性の一方のみでよい場合、第1、第2の相補スイッチ34D、35Dのいずれか一方を省くことができる。
図21の例では、出力パルス電圧が正極性のみである例であって第1の相補スイッチ34Dのみを残しているが、出力パルス電圧が逆極性のみである場合には第2の相補スイッチ35Dのみを残せばよい。
これにより、回路構成は簡単になり、小形化、軽量化、コスト低減などを図ることができる。
【0086】
[第4実施形態]
図22は、第4実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図である。
これは、第3実施形態の装置の回路をさらに簡単にしたものであり、
図21における第1の相補スイッチ34Dに含まれるスイッチング素子の一方を単純なダイオードに置き換えている。逆極性のみの出力パルス電圧を得る場合にも、同様の簡易化した構成が可能である。
これにより、回路構成は一層簡単になり、小形化、軽量化、コスト低減などを図ることができる。
【0087】
[第5実施形態]
図23は、第5実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図である。
この第5実施形態の装置では、第4実施形態の装置の回路において、ダイオードブリッジ32Dを含む高周波整流回路の出力と第1の相補スイッチ34Dとの間の電源P/Nラインに、コモンモードリアクトル37D及びコンデンサ38Dから成るコモンモードノイズフィルタを挿入している。
【0088】
この構成は、波形整形部3で発生したノイズが電源ラインを通して高電圧生成部2に伝搬するのを防止するのに有効である。なお、このようなコモンモードリアクトル又はコモンモードノイズフィルタを設ける変形は、既述の第1~第4実施形態及び後述の第6~第7実施形態の装置を含めて全ての装置に適用可能である。また、コモンモードリアクトルは、高電圧生成部2の高周波インバータ2Bと高周波スイッチングトランス31A~31Dとの間に一括して又は分割して設けてもよい。
【0089】
[第6実施形態の説明]
図24は、第6実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の一部の回路図である。
この第6実施形態の装置では、各波形整形ユニットにおいて高周波スイッチングトランス301Dとして、1次側巻線、2次側巻線に加え、それら巻線とコアを共有する3次側巻線を設けたスイッチングトランスを用いる。そして、各波形整形ユニットの3次側巻線を直列に接続することで得られる高周波電圧を高周波整流回路39で直流化し、得られた直流電圧をモニタ電圧Vs1としてフィードバックする。
これにより、波形整形部3に実際に印加される電圧を電気的に絶縁した状態でモニタすることができ、これを用いて高電圧生成部2で生成される電圧Vsを制御することができる。なお、この構成も、第1~第5、及び第7実施形態を含めて全ての装置に適用可能である。
【0090】
[第7実施形態の説明]
図25は、第7実施形態である可変パルス電源装置における波形整形部の概略回路図である。
上記各実施形態において波形整形部3は、同じ回路構成の波形整形ユニットを複数段カスケードに接続した構成であるが、その複数の波形整形ユニットの回路構成は同一でなくてもよい。例えば、正極側又は逆極側の最大ピーク電圧によっては、第1の相補スイッチ34A~34Dと、第2の相補スイッチ35A~35Dの段数を異なるものとしてもよい。
図25に示した例では、例えば正極側の最大ピーク電圧が逆極側の最大ピーク電圧に比べて2倍程度以上大きい場合における回路であって、1段目及び2段目の波形整形ユニット30A2、30B2では、第2の相補スイッチが省かれている。
【0091】
[そのほかの変形例]
上記各実施形態において高電圧生成部2に含まれる降圧コンバータ2Aは、昇降圧反転コンバータやセピックコンバータなどの適宜の構成のコンバータに置き換え可能である。即ち、目的とする所定の電圧値から0までの範囲で連続に出力電圧が可変できるものであればその方式は問わない。
【0092】
また、高電圧生成部2に含まれる高周波インバータ2BはPWMデューティ比D=0.5固定で動作する2相コンバータに限るものではなく、電流共振コンバータやLLCコンバータなどに置き換え可能である。即ち、高周波スイッチングトランスの2次側に設けられた高周波整流回路に平滑リアクトルが不要である回路方式であればよく、その整流回路の構成をフルブリッジ整流ではなく両波倍電圧整流などに変更しても構わない。
【0093】
また、波形整形部3におけるスイッチング制御の方式はPWM制御に限らない。例えば、パルス波形をn段毎にスライスし、これを階段状に積み上げるパルスステップ変調(PSM)制御を用いたり、PSM制御とPWM制御とを組み合わせる制御を行ったりしてもよい。さらに、パルスの間引きによるパルス密度変調(PDM)制御を用いたり、それを他の変調方式と組み合わせたりしてもよい。
【0094】
また、上記実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0095】
1…可変パルス電源装置
2…高電圧生成部
2A…降圧コンバータ
2B…高周波インバータ
20…ヒューズ回路
21…ブリッジダイオード
22、26…コンデンサ
23…相補スイッチ
231、232…スイッチング素子
24…リアクトル
27…第1レッグ
271、272…スイッチング素子
28…第2レッグ
281、282…スイッチング素子
29…第1制御部
3…波形整形部
30A~30D、30D1、30D2、30D3、30D4、30D5、30A2、30B2…波形整形ユニット
31A~31D…高周波スイッチングトランス
32A~32D…ブリッジダイオード
33A~33D…コンデンサ
34A~34D、35A~35D…相補スイッチ
36…第2制御部
4…フィルタ
40…リアクトル
41…コンデンサ
42…電流トランス
43…ダンピング抵抗
44…モニタ抵抗
5…電圧パターン設定部
6…三相交流電源
7…プラズマ負荷
【手続補正書】
【提出日】2021-11-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
プラズマ加工装置において加工のためのプラズマ負荷に正極性若しくは逆極性である単極性、又は両極性のパルス電圧を印加するプラズマ加工装置用パルス電源装置であって、
a)少なくとも1周期分の当該プラズマ加工装置用パルス電源装置からの出力電圧波形に対応する電圧パターン情報が格納されたパターン情報記憶部と、
b)外部から供給される交流電力に基いて、前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報によるピーク電圧値に応じた、正負のいずれか一方又は両方の極性であって、絶対値が該ピーク電圧値以上である高電圧を生成する高電圧生成部と、
c)前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報による時間経過に対応するパターン形状の変化に従って、前記高電圧生成部から与えられる高電圧又はそれに由来する電圧をスイッチングするコンバータである波形整形部と、
d)前記波形整形部から出力される電圧波形に重畳している不要な信号成分を除去するフィルタと、
を備えるプラズマ加工装置用パルス電源装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るプラズマ加工装置用パルス電源装置は、プラズマ加工装置において加工のためのプラズマ負荷に正極性若しくは逆極性である単極性、又は両極性のパルス電圧を印加するプラズマ加工装置用パルス電源装置であって、
a)少なくとも1周期分の当該プラズマ加工装置用パルス電源装置からの出力電圧波形に対応する電圧パターン情報が格納されたパターン情報記憶部と、
b)外部から供給される交流電力に基いて、前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報によるピーク電圧値に応じた、正負のいずれか一方又は両方の極性であって、絶対値が該ピーク電圧値以上である高電圧を生成する高電圧生成部と、
c)前記パターン情報記憶部に格納されている電圧パターン情報による時間経過に対応するパターン形状の変化に従って、前記高電圧生成部から与えられる高電圧又はそれに由来する電圧をスイッチングするコンバータである波形整形部と、
d)前記波形整形部から出力される電圧波形に重畳している不要な信号成分を除去するフィルタと、
を備える。