(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023025970
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】切開器具
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20230216BHJP
A61B 17/32 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B17/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131454
(22)【出願日】2021-08-11
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺内 幹雄
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK18
4C160NN02
4C160NN03
(57)【要約】
【課題】中空シャフトに対してインナハンドルを所望の角度で確実に固定することにより切断用ワイヤが回転するのを防止することが可能な切開器具の提供を目的とする。
【解決手段】切開器具1は、中空シャフト11と、切断用ワイヤ21と、中空シャフト11に対して回転可能でありかつ中空シャフト11の基端側に向かって延設されたインナハンドル31と、アウタハンドル41とを備え、インナハンドル31は長軸方向に沿ったスリット部31cを有し、インナハンドル31とアウタハンドル41とが中空シャフト11に対して連動して回転かつ長軸方向に摺動できるように、アウタハンドル41の一部がスリット部31cに挿入され、中空シャフト11に配設された第1の磁気要素51と、インナハンドル31に配設された第2の磁気要素61との間に働く磁力により、中空シャフト11に対するインナハンドル31の回転が制限されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内腔を有する中空シャフトと、
前記中空シャフトの内腔に挿通され、先端が前記中空シャフトの先端部に固定されていると共に、一部が前記中空シャフトから露出できるように配置された切断用ワイヤと、
前記中空シャフトの内腔に連通する内腔を有し、前記中空シャフトに対して回転可能でありかつ前記中空シャフトの基端側に向かって延設されたインナハンドルと、
前記インナハンドルの外周を覆うように配置され、前記インナハンドルの内腔を介して前記切断用ワイヤの基端が固定されたアウタハンドルと、を備え、
前記インナハンドルは、前記インナハンドルの内腔と外部とが連通する長軸方向に沿ったスリット部を有し、
前記インナハンドルと前記アウタハンドルとが前記中空シャフトに対して連動して回転しかつ前記アウタハンドルが前記インナハンドルに対して長軸方向に摺動できるように、前記アウタハンドルの一部が前記スリット部に挿入され、
前記中空シャフトに配設された第1の磁気要素と、前記インナハンドルに配設された第2の磁気要素との間に働く磁力により、前記中空シャフトに対する前記インナハンドルの回転が制限される切開器具。
【請求項2】
前記第1の磁気要素と前記第2の磁気要素とは対向するように配置されており、
前記第1の磁気要素および前記第2の磁気要素のうちの少なくとも一方の磁気要素は、前記長軸廻りの全周に亘って形成されている請求項1に記載の切開器具。
【請求項3】
前記中空シャフトと前記インナハンドルとが長軸方向に沿って相対的に移動可能である請求項1または請求項2に記載の切開器具。
【請求項4】
前記中空シャフトと前記インナハンドルとが接触するように配置され、この接触する部位において、前記中空シャフトおよび前記インナハンドルのうちの少なくともいずれか一方の表面に防滑処理が施されている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切開器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切開器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、胆管の十二指腸側に位置する乳頭部周囲の括約筋などを切開する器具として、乳頭部における括約筋の一部を切断用ワイヤを用いて放射方向に切開する切開器具が知られている。
【0003】
このような切開器具においては、切開方向に制約が課された括約筋の部位を正確に切開する必要がある。このため、手技中に切断用ワイヤが回転しないように、切断用ワイヤを操作するハンドルの回転をロックする機構を設けた技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上述の技術によれば、例えば、所定の角度でのみ係合するロック機構を用いてハンドルをロックすることにより切断用ワイヤの回転を防止したり、摩擦力を用いてハンドルをロックすることにより切断用ワイヤの回転を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような所定の角度でのみ係合するロック機構においては、必ずしも所望の角度でハンドルをロックすることができず、切断用ワイヤを的確な方向に調整することが難しい。また、摩擦力によりハンドルをロックする機構においては、ハンドルを回転する際に生じる部材の摩耗によりロック機構が劣化する虞がある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、中空シャフトに対してインナハンドルを所望の角度で確実に固定することにより切断用ワイヤが回転するのを防止することが可能な切開器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のいくつかの態様は、
(1)内腔を有する中空シャフトと、
前記中空シャフトの内腔に挿通され、先端が前記中空シャフトの先端部に固定されていると共に、一部が前記中空シャフトから露出できるように配置された切断用ワイヤと、
前記中空シャフトの内腔に連通する内腔を有し、前記中空シャフトに対して回転可能でありかつ前記中空シャフトの基端側に向かって延設されたインナハンドルと、
前記インナハンドルの外周を覆うように配置され、前記インナハンドルの内腔を介して前記切断用ワイヤの基端が固定されたアウタハンドルと、を備え、
前記インナハンドルは、前記インナハンドルの内腔と外部とが連通する長軸方向に沿ったスリット部を有し、
前記インナハンドルと前記アウタハンドルとが前記中空シャフトに対して連動して回転しかつ前記アウタハンドルが前記インナハンドルに対して長軸方向に摺動できるように、前記アウタハンドルの一部が前記スリット部に挿入され、
前記中空シャフトに配設された第1の磁気要素と、前記インナハンドルに配設された第2の磁気要素との間に働く磁力により、前記中空シャフトに対する前記インナハンドルの回転が制限される切開器具、
(2)前記第1の磁気要素と前記第2の磁気要素とは対向するように配置されており、
前記第1の磁気要素および前記第2の磁気要素のうちの少なくとも一方の磁気要素は、前記長軸廻りの全周に亘って形成されている前記(1)に記載の切開器具、
(3)前記中空シャフトと前記インナハンドルとが長軸方向に沿って相対的に移動可能である前記(1)または(2)に記載の切開器具、並びに
(4)前記中空シャフトと前記インナハンドルとが接触するように配置され、この接触する部位において、前記中空シャフトおよび前記インナハンドルのうちの少なくともいずれか一方の表面に防滑処理が施されている前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の切開器具、である。
【0009】
なお、本明細書において、「先端側」とは、中空シャフトの長軸方向に沿う方向であって、インナハンドルに対して中空シャフトが位置する方向を意味する。また、「基端側」とは、中空シャフトの長軸方向に沿う方向であって、先端側と反対の方向を意味する。また、「先端」とは、任意の部材または部位における先端側の端部、「基端」とは、任意の部材または部位における基端側の端部をそれぞれ示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明は中空シャフトに対してインナハンドルを所望の角度で確実に固定することにより切断用ワイヤが回転するのを防止することが可能な切開器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の全体を示す概略的側面図である。
【
図2】
図1のII-II線で切断した概略的横断面図である。
【
図3】第1の実施形態の一部を拡大して示す概略的縦断面図である。
【
図4】第1の実施形態の一部を拡大して示す概略的縦断面図である。
【
図5】第1の実施形態を示す概略図であって、(a)は中空シャフトの基端側の端面を、(b)はインナハンドルの先端側の端面をそれぞれ示している。
【
図6A】第1の実施形態の使用態様を示す概略的側面図である。
【
図6B】第1の実施形態の使用態様を示す概略的側面図である。
【
図6C】第1の実施形態の使用態様を示す概略的側面図である。
【
図6D】第1の実施形態の使用態様を示す概略的側面図である。
【
図6E】第1の実施形態の使用態様を示す概略的側面図である。
【
図7】第2の実施形態の一部を拡大して示す概略的縦断面図である。
【
図8A】第2の実施形態の使用態様を示す概略図である。
【
図8B】第2の実施形態の使用態様を示す概略図である。
【
図8C】第2の実施形態の使用態様を示す概略図である。
【
図8D】第2の実施形態の使用態様を示す概略図である。
【
図9A】変形例を示す概略図であって、(a)は中空シャフトの基端側の端面を、(b)はインナハンドルの先端側の端面をそれぞれ示している。
【
図9B】変形例を示す概略図であって、(a)は中空シャフトの基端側の端面を、(b)はインナハンドルの先端側の端面をそれぞれ示している。
【
図9C】変形例を示す概略図であって、(a)は中空シャフトの基端側の端面を、(b)はインナハンドルの先端側の端面をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の切開器具は、内腔を有する中空シャフトと、上記中空シャフトの内腔に挿通され、先端が上記中空シャフトの先端部に固定されていると共に、一部が上記中空シャフトから露出できるように配置された切断用ワイヤと、上記中空シャフトの内腔に連通する内腔を有し、上記中空シャフトに対して回転可能でありかつ上記中空シャフトの基端側に向かって延設されたインナハンドルと、上記インナハンドルの外周を覆うように配置され、上記インナハンドルの内腔を介して上記切断用ワイヤの基端が固定されたアウタハンドルと、を備え、上記インナハンドルは、上記インナハンドルの内腔と外部とが連通する長軸方向に沿ったスリット部を有し、上記インナハンドルと上記アウタハンドルとが上記中空シャフトに対して連動して回転しかつ上記アウタハンドルが上記インナハンドルに対して長軸方向に摺動できるように、上記アウタハンドルの一部が上記スリット部に挿入され、上記中空シャフトに配設された第1の磁気要素と、上記インナハンドルに配設された第2の磁気要素との間に働く磁力により、上記中空シャフトに対する上記インナハンドルの回転が制限されるように構成されている。
【0013】
以下、本発明の第1および第2の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明は、当該図面に記載の実施形態にのみ限定されるものではない。また、各図面に示した各部の寸法は、実施内容の理解を容易にするために示した寸法であり、必ずしも実際の寸法に対応するものではない。各図において、図示左側が切開器具の先端側(遠位)、右側が切開器具の基端側(近位、手元側)をそれぞれ示している。
【0014】
なお、本明細書では、「インナハンドル」および「アウタハンドル」を、一体的に「ハンドル」とも称する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1~
図5は、第1の実施形態を示す概略図である。切開器具1は、
図1,
図3,
図4に示すように、概略的に、中空シャフト11と、切断用ワイヤ21と、インナハンドル31と、アウタハンドル41と、第1の磁気要素51と、第2の磁気要素61とにより構成されている。
【0016】
中空シャフト11は、内腔を有する部材である。中空シャフト11は、
図2~
図4に示すように、例えば、第1の内腔11h1と、第2の内腔11h2と、第3の内腔11h3と、先端開口部11aと、当接面11dとを有するように構成することができる。なお、
図2に図示した切開器具1は、紙面奥側がハンドル31,41側(基端側)、紙面手前が先端側に対応している。
【0017】
第1の内腔11h1は、切断用ワイヤ21を挿通する内腔である。第1の内腔11h1は、具体的には、中空シャフト11の先端開口部11aと基端とに開口を有し、先端開口部11aから基端の開口に亘って中空シャフト11を貫通するように形成されている。
【0018】
第2の内腔11h2は、例えば、ガイドワイヤ(不図示)等を挿通する内腔である。第2の内腔11h2は、具体的には、中空シャフト11の先端と中空シャフト11の長軸方向の中途に位置する分岐部11bとに開口を有し、先端の開口から分岐部11bの開口に亘って中空シャフト11を貫通するように形成されている。
【0019】
第3の内腔11h3は、例えば、生理食塩水などの流体を流通させる内腔である。第3の内腔11h3は、具体的には、中空シャフト11の先端と中空シャフト11の長軸方向の中途に位置する分岐部11cとに開口を有し、先端の開口から分岐部11cの開口に亘って中空シャフト11を貫通するように形成されている。
【0020】
先端開口部11aは、中空シャフト11の先端部に設けられた長軸方向に沿う長手形状の開口である。先端開口部11aは、
図3に示すように、第1の内腔11h1と外部とを連通し、切断用ワイヤ21の一部が先端開口部11aを介して外部に露出できるように形成されている。
【0021】
当接面11dは、後述するインナハンドル31の当接面31dに当接する部位である。当接面11dは、
図4に示すように、例えば、中空シャフト11の基端側に面するように配置することができる。
【0022】
中空シャフト11は、体腔内に挿通され、組織を切開する際に先端部が弓状に変形することができるように、生体適合性および柔軟性を有していることが好ましい。中空シャフト11を構成する材料としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの樹脂材料等が挙げられる。
【0023】
切断用ワイヤ21は、括約筋などの組織を切開するワイヤである。切断用ワイヤ21は、中空シャフト11の内腔に挿通され、先端が中空シャフトの先端部に固定されていると共に、一部が中空シャフト11から露出できるように配置されている。切断用ワイヤ21には、例えば、図示せぬ高周波電源から高周波電流が印加され、加熱することで組織を焼き切ることができる。
【0024】
切断用ワイヤ21は、具体的には、例えば、接着剤を用い、先端を第1の内腔11h1の先端部にて中空シャフト11に接着することで固定することができる。切断用ワイヤ21は、第1の内腔11h1および後述するインナハンドル31の内腔31hを介し、その基端がアウタハンドル41に固定されている。このため、アウタハンドル41を中空シャフト11に対して基端側に引っ張ることで切断用ワイヤ21が緊張し、切断用ワイヤ21の一部を先端開口部11aから露出しながら、中空シャフト11の先端部を弓状に変形させることができる。
【0025】
切断用ワイヤ21は、通電により組織を加熱することで切断できるように、所定の抵抗を有する材料で形成されていることが好ましい。切断用ワイヤ21を形成する材料としては、例えば、SUS302、SUS304、SUS316等のステンレス合金、Ni-Ti合金等の超弾性合金、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金などの金属材料等が挙げられる。また、切断用ワイヤ21の基端側の部位にはリード線211の一端が接合されており、リード線211を介して外部の高周波電源から切断用ワイヤ21に高周波電流が印加される。
【0026】
インナハンドル31は、中空シャフト11の内腔に連通する内腔を有し、中空シャフト11に対して回転可能でありかつ中空シャフト11の基端側に向かって延設された部材である。インナハンドル31は、具体的には、
図4に示すように、例えば、中空シャフト11の第1の内腔11h1に連通し長軸方向に延設された有底形状の内腔31hを有する本体部31aと、本体部31aの基端に接続され、術者の指を挿入して切開器具1を操作するための指受部31bと、中空シャフト11の当接面11dに当接する当接面31dとを備えている。当接面31dは、例えば、インナハンドル31の先端側に面するように配置することができる。
【0027】
インナハンドル31は、内腔31hと外部とが連通する長軸方向に沿ったスリット部31cを有している。スリット部31cは、例えば、インナハンドル31の長軸方向の中途における長軸を挟んで対向する部位に、一対のスリット(長軸方向に沿ったスロット)を有するように形成することができる。
【0028】
アウタハンドル41は、インナハンドル31の外周を覆うように配置され、インナハンドル31の内腔31hを介して切断用ワイヤ21の基端が固定された部材である(
図4参照)。アウタハンドル41の一部である本体部41bは、インナハンドル31とアウタハンドル41とが中空シャフト11に対して連動して回転しかつアウタハンドル41がインナハンドル31に対して長軸方向に摺動できるように、スリット部31cに挿入されている。
【0029】
本実施形態では、アウタハンドル41は、インナハンドル31の外周を覆う円筒状の筒状部41aと、スリット部31cを介して内腔31hを横断する本体部41bと、筒状部41aを挟むように本体部41bの両端部に設けられ、術者の指を挿入して切開器具1を操作するための指受部41cとを有している。内腔31h内の本体部41bには切断用ワイヤ21の基端部が固定され、通孔を介してリード線211が外部に引き出されている。
【0030】
インナハンドル31およびアウタハンドル41を構成する材料としては、例えば、ABS樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂などの樹脂材料等が挙げられる。インナハンドル31とアウタハンドル41とは同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0031】
第1の磁気要素51は、後述する第2の磁気要素61との間に働く磁力により互いに引き合う要素である。第1の磁気要素51は、中空シャフト11に配設されている。第1の磁気要素51は、第2の磁気要素61との間で磁力をより効果的に発揮できるように、中空シャフト11の基端部に配設されていてもよい。かかる場合、第1の磁気要素51は、例えば、中空シャフト11の基端表面に露出していてもよく、中空シャフト11の基端部に埋設されていてもよい。
【0032】
第2の磁気要素61は、第1の磁気要素51との間に働く磁力により互いに引き合う要素でる。第2の磁気要素61は、インナハンドル31に配設されている。第2の磁気要素61は、第1の磁気要素51との間で磁力をより効果的に発揮できるように、インナハンドル31の先端部に配設されていてもよい。かかる場合、第2の磁気要素61は、例えば、インナハンドル31先端表面に露出していてもよく、インナハンドル31の先端部に埋設されていてもよい。
【0033】
ここで、第1の磁気要素51および第2の磁気要素61は、磁石または磁性体で構成することができる。第1の磁気要素51および第2の磁気要素61は、磁石と磁石との組み合わせであってもよく、磁石と磁性体との組み合わせであってもよい。上記磁石および磁性体それぞれは、一体物であってもよく、多数の微粒子が分散された粉体であってもよい。上記磁石は、永久磁石であってもよく、電磁石であってもよい。
【0034】
上記永久磁石としては、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石などの希土類磁石;フェライト磁石;アルニコ磁石等が挙げられる。
【0035】
上記磁性体としては、例えば、鉄,ニッケル,コバルトなどの強磁性を示す金属;これらの金属を含む合金若しくは化合物;これらの粉末を含む樹脂等が挙げられる。
【0036】
このように、中空シャフト11およびインナハンドル31にそれぞれ第1の磁気要素51および第2の磁気要素61が配設されていることで、中空シャフト11とインナハンドル31とを互いに引き合わせる(吸引する)ことができる。そのため、中空シャフト11の当接面11dとインナハンドル31の当接面31dとが当接しながら吸着(磁着)し、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61との間の摩擦力により中空シャフト11に対するインナハンドル31の回転(中空シャフト11の長軸周りにおける回転)が制限される。
【0037】
なお、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61とは対向するように配置されており、第1の磁気要素51および第2の磁気要素61のうちの少なくとも一方の磁気要素は、長軸廻りの全周に亘って形成されていてもよい。本実施形態では、第1の磁気要素51が長軸廻りの全周に亘って円環状に形成され(
図5(a)の第1の磁気要素511参照)、第2の磁気要素61が長軸廻りの円周における一部(一箇所)に形成されている(
図5(b)の第2の磁気要素611参照)。これにより、中空シャフト11に対してインナハンドル31を長軸廻りの360度のいずれの角度であっても固定することができる。
【0038】
また、中空シャフト11とインナハンドル31が接触するように配置され、この接触する部位において、中空シャフト11およびインナハンドル31のうちの少なくともいずれか一方の表面に防滑処理(接触する部材どうしを互いに滑り難くする処理)が施されていてもよい。防滑処理としては、例えば、当接面11dおよび/または当接面31dを、ヤスリ等で凹凸形状を形成したり、薬品による化学エッチングで凹凸形状を形成する粗面化処理;当接面11dおよび/または当接面31dを、摩擦係数(動摩擦係および/または静摩擦係数)が大きい材料で形成する処理(中空シャフト11およびインナハンドル31の少なくともいずれかを、表面の摩擦係数が大きな材料で形成したり、当接面11d,31dの少なくともいずれかに、摩擦係数が大きなパッド(不図示)などを設ける構成)等が挙げられる。これにより、当接面11dと当接面31dとの摩擦力を高めることができ、中空シャフト11とインナハンドル31とをより確実に固定することができる。
【0039】
次に、切開器具1の使用態様の一例について、
図6A~
図6Eを参照しながら、切開器具の挿入、切開器具の位置合せ、切断用ワイヤによる切開、および切開器具の抜去の順で説明する。ここでは、切開器具1を上部消化管を通して十二指腸近傍まで挿入し、乳頭部Cにおける括約筋C2の一部を切断する手技について説明する。なお、以下に示す手技は、図示していない内視鏡を用い、術野を観察しながら行ってもよい。
【0040】
[切開器具の挿入]
まず、ガイドワイヤ(不図示)を介して切開器具1の先端部を切開する乳頭部に挿入する。具体的には、あらかじめ乳頭部Cに挿入されたガイドワイヤの基端を切開器具1の第2の内腔11h2の先端開口に入れ、ガイドワイヤに沿って切開器具1を案内しながら中空シャフト11の先端部を乳頭部開口C1に差し入れる(矢示S1)。この際、中空シャフト11の先端部が乳頭部Cや総胆管に引っ掛からないように、切断用ワイヤ21を緊張せずに中空シャフト11を直線状に延ばした状態(切断用ワイヤ21が第1の内腔11h1から露出していない状態)で乳頭部開口C1に挿入する(
図6A参照)。
【0041】
[切開器具の位置合せ]
次に、切断用ワイヤ21を、切開する括約筋C2の部位に位置合せする。具体的には、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61との磁力により中空シャフト11とインナハンドル31とが固定された状態でインナハンドル31を回転させ(矢示S2)、中空シャフト11の先端開口部11aが切開する括約筋C2の方向に概ね向くように粗調する(
図6B参照)。次いで、磁力に対抗しながらインナハンドル31を中空シャフト11に対して回転させ(矢示S3)、これに伴う切断用ワイヤ21の回転により中空シャフト11の先端開口部11aが切開する方向に正確に向くように微調する(
図6C参照)。この際、中空シャフト11の外周面を、乳頭部開口C1の内壁(括約筋C2の内周)に当接させながら回転させるようにしてもよい。インナハンドル31の回転を適所で止めることにより微調が完了した後は、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61との磁力により中空シャフト11とインナハンドル31とが固定された状態となる。なお、インナハンドル31とアウタハンドル41とは連動するように回転する。そのため、各操作でのインナハンドル31の回転により、インナハンドル31の回転角度と同じ回転角度でアウタハンドル41が同時に回転する。
【0042】
[切断用ワイヤによる切開]
次に、中空シャフト11の先端開口部11aから切断用ワイヤ21の一部21aを露出させ、括約筋C2を切開する。具体的には、インナハンドル31に対してアウタハンドル41を基端側に引くように移動させ(矢示S4)、アウタハンドル41の移動により緊張した切断用ワイヤ21が中空シャフト11の先端部を弓状に湾曲させることで切断用ワイヤ21の一部21aが先端開口部11aから露出する(
図6D参照)。この際、切断用ワイヤ21の露出した一部21aは中空シャフト11の湾曲により乳頭部Cの内壁(括約筋C2)に押し当てられる。次いで、高周波電源(不図示)を用い、切断用ワイヤ21を介して組織に連続的な高周波電流と放電圧とを加えることで、括約筋C2の一部組織中の水分を爆発させ、これにより括約筋C2を放射状に切開する。
【0043】
[切開器具の抜去]
次に、切開器具1を体外に抜去する。具体的には、アウタハンドル41をインナハンドル31に対して押し戻すことにより(矢示S5)、切断用ワイヤ21の緊張を解きながら中空シャフト11を直線状に延ばし、先端開口部11aを介して切断用ワイヤ21の一部21aを第1の内腔11h1に収納する(
図6E参照)。次いで、ガイドワイヤに沿って中空シャフト11を体外に引く抜くことで切開器具1を抜去する。これにより、切開器具1を用いた手技が完了する。
【0044】
以上のように、切開器具1は、上記構成であるので、中空シャフト11に対してインナハンドル31を所望の角度で確実に固定することにより切断用ワイヤ21が回転するのを防止することができ、中空シャフト11から露出させる切断用ワイヤ21の一部21aを的確な方向に正確に配向させることができる。したがって、切断用ワイヤ21の方向を個々の患者に合うように正確に調整しながら括約筋C2の切開を確実に行うことができる。
【0045】
[第2の実施形態]
図7は、第2の実施形態を示す概略図である。切開器具2は、
図7に示すように、概略的に、中空シャフト12と、切断用ワイヤ21と、インナハンドル32と、アウタハンドル41と、第1の磁気要素51と、第2の磁気要素61とにより構成されている。切開器具2は、中空シャフト12およびインナハンドル32を備えている点で第1の実施形態と異なっている。なお、切断用ワイヤ21、アウタハンドル41、第1の磁気要素51、および第2の磁気要素61は、第1の実施形態と同様であるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明は省略する。また、以下に示す中空シャフト12およびインナハンドル32の構成以外の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0046】
中空シャフト12は、内腔を有する部材である。本実施形態の中空シャフト12は、
図7に示すように、第1の内腔12h1と、図示せぬ第2の内腔12h2、第3の内腔12h3および先端開口部12aと、被係合部12eと、当接面12dとを有している。なお、中空シャフト12の第2の内腔12h2、第3の内腔12h3、先端開口部12a、および当接面12dは、第1の実施形態と同様の構成である。
【0047】
被係合部12eは、後述するインナハンドル32の係合部32eに係合する部位である。被係合部12eは、例えば、中空シャフト12の基端部の内周面(内腔12h1の壁面)に設けられ、当接面12dから先端側に向かって延びるように形成されている。被係合部12eは、例えば、長軸方向に沿って段状に形成されていてもよい。
【0048】
インナハンドル32は、中空シャフト12の内腔に連通する内腔32hを有し、中空シャフト12に対して回転可能でありかつ中空シャフト12の基端側に向かって延設された部材である。インナハンドル32は、内腔32hと外部とが連通する長軸方向に沿ったスリット部32cを有している。本実施形態のインナハンドル32は、本体部32aと、指受部32bと、スリット部32c(一対のスリット)と、係合部32eと、当接面32dとを有している。なお、インナハンドル32の本体部32a、指受部32b、スリット部32c、および当接面32dは、第1の実施形態と同様の構成である。
【0049】
係合部32eは、中空シャフト12の被係合部12eに係合する部位である。係合部32eは、例えば、中空シャフト12の基端部の内周面に摺動可能に係合するように、当接面32dから先端側に向かって延設されていてもよい。
【0050】
ここで、本実施形態では、中空シャフト12とインナハンドル32とは、長軸方向に沿って相対的に移動できるように形成されている。すなわち、係合部32eが被係合部12eに対して摺動することで、中空シャフト12とインナハンドル32が相対的に移動できるように構成されている。
【0051】
次に、切開器具2の使用態様の一例について、
図8A~
図8Dを参照しながら説明する。ここでの説明は、[切開器具の位置合せ]のみ第1の実施形態の説明と異なっている。そのため、第2の実施形態においては、[切開器具の位置合せ]についてのみ説明する。
【0052】
[切開器具の位置合せ]
切断用ワイヤ21は、例えば、以下のように、切開する括約筋C2の部位に位置合せされる。すなわち、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61との磁力により当接面12dと当接面32dとが当接(中空シャフト12とインナハンドル32とが固定)した状態で、ハンドル32,41を回転させ(矢示T1)、中空シャフト12の先端開口部12aが切開する括約筋C2の方向に概ね向くように粗調する(
図8A参照)。次いで、インナハンドル32を中空シャフト12に対して基端側に向かって引っ張ることで(矢示T2)、当接面12dと当接面32dとを離間(中空シャフト12とインナハンドル32とが長軸方向に沿って互いに離れる方向に移動)させる(
図8B参照)。次いで、当接面12dと当接面32dとが離間した状態で、ハンドル32,41を回転させ(矢示T3)、ハンドル32,41の回転を適所で止めることにより中空シャフト12の先端開口部12aが切開する括約筋C2の方向に正確に向くように微調する(
図8C参照)。次いで、中空シャフト12とハンドル32,41との角度を保持した状態でインナハンドル32を中空シャフト12に向かって先端側に移動し(矢示T4)、当接面12dと当接面32dとを再び当接させる(
図8D参照)。この当接が完了した後は、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61との磁力により中空シャフト12とインナハンドル32とが固定された状態となる。
【0053】
以上のように、切開器具2は、上記構成であるので、中空シャフト12に対してインナハンドル32を所望の角度で確実に固定することにより切断用ワイヤ21が回転するのを防止することができ、中空シャフト12から露出させる切断用ワイヤ21の一部21aを的確な方向に正確に配向させることができる。
【0054】
また、切開器具2は、中空シャフト12とインナハンドル32とが長軸方向に沿って相対的に移動できるので、中空シャフト12とインナハンドル32とが離れたときの磁力が弱い状態で、インナハンドル32を中空シャフト12に対して容易に回転させることができる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。上述した実施形態の構成のうちの一部を削除したり、他の構成に置換してもよく、上述した実施形態の構成に他の構成を追加等してもよい。
【0056】
例えば、上述した実施形態では、中空シャフト11,12の当接面11d,12dとインナハンドル31,32の当接面31d,32dとが当接(接触)する切開器具1,2について説明した。しかしながら、第1の磁気要素51と第2の磁気要素61との間に働く磁力により中空シャフトに対するインナハンドルの回転を制限することができる限り、中空シャフトとインナハンドルとは必ずしも接触していなくてもよい。
【0057】
また、上述した実施形態は、磁気要素が永久磁石を含む切開器具1,2について説明した。しかしながら、第1の磁気要素51および/または第2の磁気要素61は、電磁石のような他の磁気要素であってもよい。磁気要素が電磁石である場合、電磁石に流れる電流をオンオフすることで、オフ中は容易に容易にハンドルを回転することができると共に、オン中はインナハンドルを中空シャフトに確実に固定することができる。
【0058】
また、上述した実施形態では、第1の磁気要素51が長軸廻りの全周に亘って円環状に形成され、第2の磁気要素61が長軸廻りの円周方向における一部(一箇所)に形成されている切開器具1,2について説明した。しかしながら、切開器具は、第1の磁気要素51および第2の磁気要素61のいずれもが長軸廻りの全周に亘って配置されていてもよい(例えば、
図9Aの第1の磁気要素511および第2の磁気要素612参照)。また、切開器具は、第1の磁気要素51および第2の磁気要素61のいずれもが長軸廻りの円周方向における一部に配置されていてもよい(例えば、
図9Bの第1の磁気要素512および第2の磁気要素611参照)。磁気要素が一部に配置される場合、この磁気要素は、長軸廻りの円周方向において、互いに独立した二以上の箇所に設けられていてもよい(例えば、
図9Cの第1の磁気要素513および第2の磁気要素613参照)。
【符号の説明】
【0059】
1,2 切開器具
11,12 中空シャフト
11h1,12h1 第1の内腔
11h2,12h2 第2の内腔
11h3,12h3 第3の内腔
21 切断用ワイヤ
31,32 インナハンドル
31c,32c スリット部
31h,32h 内腔
41 アウタハンドル
51 第1の磁気要素
61 第2の磁気要素