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特開2023-2600生物細胞を研究するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023002600
(43)【公開日】2023-01-10
(54)【発明の名称】生物細胞を研究するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20221227BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221227BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20221227BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/00 A
C12M1/42
G01N33/48 M
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161285
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2019545861の分割
【原出願日】2017-11-02
(31)【優先権主張番号】2017705
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(71)【出願人】
【識別番号】521326119
【氏名又は名称】ルミックス シーエー ホールディング ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア キャンデリ
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス オズワルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘーリト シッテルス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞体を操作及び/又は調査する方法を提供する。
【解決手段】本方法は、流体媒体11を保持するための保持空間を含む試料ホルダーを用意するステップ、保持空間内の流体媒体11中に1以上の細胞体9を含む試料7を用意するステップ、保持空間内で音波を発生させて、保持空間内の試料7の1以上の細胞体9に対して力を加えるステップを含む。本方法は、さらに、保持空間に、試料7と接触させられる官能化された壁面部分17を用意して、音波を加えるステップの少なくとも一部の間に、試料7が官能化された壁面部分17と接触することを含む。システム及び試料ホルダーも提供する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞体を操作及び/又は研究する方法であって、
流体媒体を保持するための保持空間を含む試料ホルダーを用意するステップ、
上記保持空間内の流体媒体中に1以上の細胞体を含む試料を用意するステップ
を含んでおり、
当該方法が、上記保持空間に、上記試料と接触させられる官能化された壁面部分を用意することを含んでおり、
音波を加えるステップの少なくとも一部の間に、上記試料が上記官能化された壁面部分と接触し、
当該方法が、上記保持空間内で音波を発生させて、該保持空間内の上記試料の1以上の細胞体に対して、上記官能化された壁面部分から離れる方向に、力を加えることを含む、上記方法。
【請求項2】
上記保持空間への試料流体の導入及び/又は上記保持空間からの試料流体の除去の少なくとも1つ、例えば音波を加えるステップの少なくとも一部の間に上記保持空間を通して試料流体を流すこと、を含んでおり、特に導入された試料流体が1以上の細胞体を含んでいてもよい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記官能化された壁面部分に1種以上のプライマーが設けられ、該プライマーが1種以上の相互作用部分、特に抗体、ペプチド、生物学的組織因子、生物学的組織部分、細菌、抗原、タンパク質、リガンド、細胞、組織、ウイルス、(合成)薬化合物、脂質(二重)層、フィブロネクチン、セルロース、核酸、RNA、小分子、アロステリックモジュレーター、(細菌)バイオフィルム、生体機能チップ、及び試料の少なくとも一部が他の表面部分よりも優先的に接着する傾向があるところの特異的な原子又は分子表面部分(例えば金表面)の1種以上、が設けられる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記保持空間内の音波の周波数及び振幅の少なくとも一方を、好ましくは時間依存的に、変化させることを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記1以上の細胞体の1以上の特性を検出及び/又はモニタリングするステップをさらに含んでおり、
該1以上の特性が、細胞の完全性、上記官能化された壁面部分の少なくとも一部への細胞体の接着、1以上の細胞体の運動、蛍光発光、1以上の細胞体の生存能の兆候の少なくとも1つであるか或いはそれらを含み、
検出及び/又はモニタリングステップが、
写真撮影、動画撮影、顕微鏡検査の1以上による光学的検出、例えば光強度検出及び/又は光学イメージング、並びに
音響検出、例えば表面音響検出
の少なくとも1つを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
細胞選別;
音響力、試料流体の流れ及び試料流体の組成の1以上の関数として、1以上の細胞体の運動の追跡;
1以上の細胞体の光学活性のモニタリング;
試料ホルダーの温度及び/又は温度プロファイルの変更;
試料ホルダーの照明及び/又は照明プロファイルの変更;
試料流体の組成の変更
の少なくとも1つを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
1以上の細胞体と官能化された表面部分との間の接着強度を定量化するステップを含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
細胞体を研究するための操作システムであって、当該システムが、
流体媒体中に1以上の細胞体を含む試料を保持するための保持空間を含む試料ホルダー、及び
上記保持空間内で音波を発生させて試料に力を加えるために試料ホルダーに接続された又は接続可能な音波発生器
を備えており、
上記試料ホルダーが、使用時に試料の少なくとも一部と接触させられる官能化された壁面部分を保持空間にもたらす壁を備えており、
音波発生器が、上記保持空間内に上記試料が含まれているときに、上記保持空間内の上記試料の1以上の細胞体に対して、上記官能化された壁面部分から離れる方向に、力を加えるように構成されている、操作システム。
【請求項9】
上記官能化された壁面部分に1種以上のプライマーが設けられており、該プライマーが1種以上の相互作用部分、特に抗体、ペプチド、生物学的組織因子、生物学的組織部分、細菌、抗原、タンパク質、リガンド、細胞、組織、ウイルス、(合成)薬化合物、脂質(二重)層、フィブロネクチン、セルロース、核酸、RNA、小分子、アロステリックモジュレーター、(細菌)バイオフィルム、生体機能チップ、及び試料の少なくとも一部が他の表面部分よりも優先的に接着する傾向があるところの特異的な原子又は分子表面部分(例えば金表面)の1種以上、が設けられる、請求項8に記載の操作システム。
【請求項10】
上記官能化された壁面部分が、試料と接触されられる複数の互いに異なって官能化された壁面部分を含む、請求項8又は請求項9に記載の操作システム。
【請求項11】
上記試料ホルダーが、上記保持空間に流体及び/又はガスを導入するため及び/又は上記保持空間から流体及び/又はガスを除去するため、例えば保持空間を通して流体を流すため、フローシステムに接続されているか或いは接続可能であり、特に上記流体及び/又はガスが、試料物質、例えば試料流体及び/又は1以上の細胞体、を含む、請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の操作システム。
【請求項12】
上記音波発生器が、上記保持空間内で調節可能な音波、好ましくは時間依存性のもの、を発生させるために、周波数及び振幅の少なくとも一方を調節するように制御可能なものであり、特に音波が定在波である、請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の操作システム。
【請求項13】
当該システムが、音波に対する1以上の細胞体の応答を検出するための検出器を備えており、該検出器が、音響検出器、例えば圧電素子、及び光学検出器、例えばフォトダイオード、フォトダイオードのアレイ、カメラ及び/又は顕微鏡、の1以上を含むことができる、請求項8乃至請求項12のいずれか1項に記載の操作システム。
【請求項14】
当該システムが、
光源;
システムの操作の指標となるデータ及び/又は検出器からの信号を記憶するためのメモリ;
1以上の細胞体を追跡するためのトラッキングシステム、及び顕微鏡検査計算及び/又は顕微鏡法に関連する解析を実行するために、検出器に接続された又は接続可能なコントローラー;
センサー、及び該センサーからの信号に応答して音波発生器の動作を制御するために、音波発生器に接続された又は接続可能なコントローラー;
上記試料ホルダーの温度及び/又は温度プロファイルを調節するための熱素子、例えばペルチェ素子
の1以上を備える、請求項8乃至請求項13のいずれか1項に記載の操作システム。
【請求項15】
焦点面のデジタル画像を生成するための検出器をさらに備えており、当該システムが、焦点が合っていない1以上の細胞体による干渉パターンの演算処理によって焦点面に垂直な方向における1以上の細胞体の位置を計算するための計算装置を備える、請求項8乃至請求項14のいずれか1項に記載の操作システム。
【請求項16】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法及び/又は請求項8乃至請求項15のいずれか1項に記載の操作システムで使用するための試料ホルダーであって、
流体媒体中に1以上の細胞体を含む試料を保持するための保持空間、及び
音波を上記保持空間内で生成して試料に力を加えるために当該試料ホルダーに接続された音波発生器を
備えており、当該試料ホルダーが、使用時に試料の少なくとも一部と接触させられる官能化された壁面部分を保持空間にもたらす壁を備えている、試料ホルダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物細胞を研究するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
生物細胞は外膜を有する。この膜は細胞とその環境との間の境界である。膜は、膜に埋め込まれた生体分子が細胞外空間の結合対と物理的に接触する様々なプロセスのためのプラットフォームを構築する。
【0003】
したがって、細胞膜との相互作用による細胞及び細胞内プロセスを研究するための多数の技術が開発されており、特定の細胞型(例えば侵襲性乳癌であるか否か)に関する情報を得るために細胞表面の成分を定量する技術が考案されている。大半の技術は細胞との物理的相互作用を必要とするものであったが、最近、数多くの力場技術(force-field technique)が開発されている。ただし、それらは細胞への異物の接着を必要とする傾向があり及び/又は細胞を損傷する。例えば、A.P. Liuの概説“Biophysical tools for cellular and subcellular actuation of cell signalling”, Biophys. J. 111:1112-1118 (2016)を参照されたい。
【0004】
しかし、より強力なツール、特に強い信号を与えるツールであって、できれば細胞を傷つけにくいツールが探し求められている。この点を考慮して、本願では、音響力に基づいて、細胞体を操作及び/又は調査するための方法及びシステムを提供する。
【0005】
なお、ミクロンサイズの粒子及び細胞を操作するための音響力の使用は公知である。例えば、国際公開第2014/200341号には、マイクロビーズに付着した生体分子の研究に使用するための音波システムの例が記載されており、さらに超音波マイクロビーム又は「音響ピンセット(acoustic tweezers)」による細胞操作については、J. Lee et al. “Targeted cell immobilization by ultrasound microbeam”, Biotechnol. Bioeng. 108:1643 (2011);及びD. Baresch et al. “Observation of a Single-Beam Gradient Force Acoustical Trap for Elastic Particles: Acoustical tweezers”, Phys. Rev. Lett. 116:024301 (2016)で議論されている。さらに、音響流体工学における現在の研究の要約は、V. Marx, “Biophysics: using sound to move cells”, Nature Methods, 12(1):41 (2015)に見出すことができる。総説は、H. Mulvana et al., “Ultrasound assisted particle and cell manipulation on-chip”, Adv. Drug Del. Rev. 65(11-12):1600 (2013); A. Lenshof et al. “Acoustofluidics 5: Building microfluidic acoustic resonators”, Lab on a Chip, 12:684 (2012); M. Evander, J. Nilsson. “Acoustofluidics 20: Applications in acoustic trapping”, Lab on a Chip, 12:4667 (2012)にも掲載されている。
【0006】
しかし、これらの技術はすべて、信号対雑音比が低い、検出が遅い、試料サイズが小さい及び/又はプローブ細胞の細胞膜と局所的及び間接的にしか相互作用しないという問題があった。したがって、生物学的研究のため及び/又は複数の標本の試料の測定のための開発が依然として望まれている。
【発明の概要】
【0007】
上記を考慮して、本願では、細胞体を操作及び/又は調査する方法が提供される。さらに、生物細胞体を調査するための操作システムが提供される。以下、様々な実施形態及び態様について説明する。
【0008】
上記の考察に従って、本願では、細胞体を操作及び/又は調査する方法が提供される。本方法は、流体媒体を保持するための保持空間を含む試料ホルダーを用意するステップ、保持空間内の流体媒体中に1以上の細胞体を含む試料を用意するステップ、保持空間内で音波を発生させて保持空間内の試料に力を加えるステップを含む。本方法はさらに、試料と接触させる官能化された壁面部分を保持空間に用意するステップを含み、音波を加えるステップの少なくとも一部の間に、試料は官能化された壁面部分と接触する。
【0009】
したがって、試料中の1以上の細胞体と官能化された壁面部分との相互作用、例えば官能化された壁面部分への細胞体の接着と音波(の力)との関係を調べることができる。本願で提供する方法は、官能化された壁部分に対する細胞体の結合力を研究することができ、細胞体と壁部分との全接触面を一度に調べることができる。これは、結合の量及び結合当たりの結合力に関係する。さらに、複数の細胞体を同時に研究することができ、1回又は数回の測定で統計分布情報を提供することができる。
【0010】
細胞体は、細胞内小器官、細胞核及び/又はミトコンドリアのような細胞の一部であってもよい。ただし、細胞体は単細胞又は多細胞、例えば小さな凝集細胞集団、植物又は動物生検、分裂細胞、出芽酵母細胞、コロニー原生生物などであってもよい。細胞体は発生初期段階の動物胚(例えば、哺乳動物の桑実胚、場合によってはヒト胚)であってもよい。特定の場合には、異なる種類の細胞体を一緒に研究することができる。例えば、粘膜スワブ、血液試料又は他のプロービング技術で得られた細胞体を使用することができる。
【0011】
試料流体は、音響力研究の時間尺度内で音響力の影響下で細胞体が動くことができる任意の流体物質であり、細胞体は該流体を通って試料ホルダーの壁部分に落下できるべきであり、特に、試料ホルダーの空間的配向及び音響力の方向に応じて官能化された壁部分に向かって又は官能化された壁部分から落下できるべきである。なお、音響力研究は、一般に一秒未満乃至数時間、場合によっては数日間かかることがあるが、一秒未満乃至数秒間の範囲内での細胞体の運動が好ましい。流体は、超音波を長期間伝達及び維持することができるものとすべきである。適切な流体は液体及びゲル、例えば水、水性流体、生体適合性溶媒、油、ゲル、エーロゲル、ヒドロゲル及び体液などである。ただし、光学的研究を用いる実施形態では、イメージングに十分な光学的透明度が望ましいことがある(下記も参照)。
【0012】
音波は好ましくはバルク音波(bulk acoustic wave)であり、これは局在化された力を防ぎ、細胞全体に力を加えることができる。音波は好ましくは定在音波(standing acoustic wave)であり、これは試料ホルダー内で試料の横断方向に明確な力プロファイルを与える。
【0013】
本方法は、1以上の細胞体の様々な特性に関する研究を可能にする。具体例は、細胞体における生体分子の存在の有無及び/又は存在量の定量、官能化された表面部分への細胞体の表面接着力及び/又は接着動態、細胞体内で活性な生物学的プロセスの影響下での上記いずれかにおける差異である。
【0014】
細胞表面の生体分子組成及び存在量の解析を目的とする現行の細胞接着アッセイ及び方法は、大量の細胞を必要とし、非常に面倒で、高価な機器に依存する。例えば研究すべき細胞の標識化及び損傷のおそれを必要とする(例えば、細胞溶解、抗体標識化)。さらに、これらの技術は、典型的には、細胞接着力及び細胞接着動態を特に単一細胞レベルで評価する能力を欠いている。本願で提供する方法は、試料中の複数の細胞体が官能化された壁面部分と接触して相互作用し得るので、複数の個々の細胞体の様々な特性を並行して研究することができる。これによって、研究結果の精度が高まり、偽陽性又は偽陰性を回避し得る。
【0015】
本願で提供する方法は、マイクロビーズ、磁石、発色団、抗体、その他現行の細胞操作及び研究技術で概して必要とされる各種の標識のような異物に細胞体を接着させずに、細胞体自体での研究が可能となる。細胞体は、本方法によって本質的に無傷のまま残すことができ、該方法を実施した後、細胞体を試験対象に投与すること及び/又は研究のために細胞体を提供した対象に戻すことができると考えられる。例えば対象からT細胞、白血球、赤血球及び同様の細胞体の1種以上を採取して、本方法によって研究し、しかる後、様々な別の方法(単一細胞配列決定、蛍光顕微鏡法、低温電子顕微鏡法)でさらに解析することができ及び/又は他の対象に投与(例えば供血)すること或いは元の対象自体に戻すこともできる。さらに小さな細胞体(例えば血漿から採取したもの)も、投与又は返還前に研究することができる。同様に、精子及び/又は卵子も、人工子宮内又は体外受精前に研究することができ、受精卵及び/又は第一段階胚(例えば、桑実胚又は胞胚期)を、妊娠のため女性対象への着床前に、スクリーニングすることができる。
【0016】
適切な相互作用部分は、例えば微生物細胞又は癌細胞のような特定の標的との選択的結合のための抗体を含んでいてもよい。例えば、いくつかの主要な院内感染症に対して特異的抗体が存在する。かかる相互作用部分は、該相互作用部分のコンジュゲートを哺乳動物の所定の病理学的部位に送達するのに通常は有効である。病理学的部位は、相互作用部分と共に特異的結合対を構成する標的部分を含んでいてもよい。本願の場合、相互作用部分は官能化された壁部分の壁に、直接的付着によって或いはプライマーからの又はプライマーとの相互作用部分の形成によって、付着させることができ、結合対は、細胞体を官能化された壁部分に接着させるのに十分な結合力を有し得る。
【0017】
相互作用部分は、抗体、又は細胞表面抗原に結合する抗体フラグメント、又は細胞表面受容体に特異的に結合するリガンドもしくはリガンドフラグメントを含んでいてもよい。この群のうち、細胞表面抗原に結合する抗体又は抗体フラグメントが、それらの結合選択性のゆえに好ましいことがある。例えば、癌細胞は通常それらの表面に腫瘍関連抗原を有する。それらの相補的抗体はこれらの腫瘍関連抗原に極めて選択的に結合する。ただし、リガンド又はリガンドフラグメントも好適である。各種のペプチドがそれらの同族受容体に高い親和性で結合することが知られており、本発明の放射性同位体とのコンジュゲーションに適したリガンドであろう。受容体は、増殖因子、ホルモン及び神経伝達物質のような分子と結合する細胞膜タンパク質である。腫瘍は、このような受容体の特定のサブセットを発現する特定の細胞型から発生する。受容体とリガンドとの間の結合親和性を活用することによって、標的特異的な研究及び/又は細胞体の同定が可能となる。
【0018】
同様に、免疫応答は、免疫細胞とそれらの細胞表面との間の複雑な相互作用カスケードに依拠している。例えば、B細胞活性化は、抗原提示細胞(APC)の表面に露出した抗原との、B細胞表面に発現したB細胞受容体の結合に依拠する。これは次いで細胞内及び細胞間イベントのカスケードを引き起こして、抗体分泌及び補体系による病原体攻撃を導く。同様に、T細胞活性化は、APC表面の抗原とT細胞表面のT細胞受容体との相互作用を介して起こる。さらに、炎症/感染部位へのT細胞動員は、血流から組織へのT細胞の血管外遊走に依拠している。血管外遊走は、血管上皮へのサイトカイン調節多段階接着プロセスによって開始され、その後に血管の細胞壁を通しての血管外移動が続く。免疫不全症及び自己免疫疾患は、免疫反応における不均衡を表す。異常なリンパ球活性化、細胞接着、細胞移動及び病原体攻撃のような、異常な免疫応答を招くおそれのあるすべてのプロセスにおいて、細胞表面の生体分子と細胞外環境の結合相手との相互作用が不可欠である。
【0019】
受容体-リガンド対の代表例を以下に示す。
【表1】
【0020】
この方法は、保持空間への試料流体の導入及び/又は保持空間からの試料流体の除去の少なくとも1つを含んでいてもよく、例えば保持空間を通して試料流体を流すことを含んでいてもよい。これは特に、音波を加えるステップの少なくとも一部の間に実施し得るが、その前後に実施してもよい。導入される試料流体は1以上の細胞体を含んでいてもよい。
【0021】
例えば、音波を加えるステップの少なくとも一部の間に、試料を保持空間に導入しても及び/又は官能化された壁面部分と接触させてもよい。それに加えて又はその代わりに、官能化された壁面部分に接着していない試料部分は、流体の流れによって変位することができ、運動動力学的成分、例えば流れに起因する横方向力成分を研究に含めることもできる。
【0022】
かかる実施形態は、表面プライミング、試料の導入、試料の回収、力の発揮、試料体積内での試料(の一部)の輸送、試料の1種以上のモジュレーターの導入及び/又は官能化された壁面部分用のプライマーの1以上を実施するのにも使用し得る。モジュレーターは、例えば栄養又は有害物質、或いは細胞の性質に対する影響を調べるための生物活性標本を含んでいてもよい。
【0023】
一実施形態では、官能化された壁面部分には1種以上のプライマーが設けられる。プライマーは、1種以上の相互作用部分を含んでいてもよい。特に、官能化された壁面部分には、抗体、ペプチド、生物学的組織因子、生物学的組織部分、細菌、抗原、タンパク質、リガンド、細胞、組織、ウイルス、(合成)薬化合物、脂質(二重)層、フィブロネクチン、セルロース、核酸、RNA、小分子、アロステリックモジュレーター、(細菌)バイオフィルム、「生体機能チップ(organ-on-a-chip)」などの1種以上を含む1種以上の物質、及び/又は本明細書の他の箇所でも示すように試料の少なくとも一部が他の表面部分よりも優先的に接着する傾向がある特異的な原子又は分子表面部分(例えば金表面)が設けられる。
【0024】
本願の方法は、多種多様な研究及び/又は相互作用を提供するが、それらは主に物理的又は化学的又は生物学的性質のものであるが、その他中間的又は混合型な種類は明らかであろう。
【0025】
一実施形態は、保持空間内の音波の周波数及び振幅の少なくとも一方を、好ましくは時間依存的に変化させることを含む。
【0026】
例えば、保持空間内の試料に加わる力を調整し得る。力の時間依存性を変化させることによって、接着強度、接着動力学及び(接着)速度論の1以上を調べることができる。
【0027】
一実施形態は、1以上の細胞体の1以上の特性を検出及び/又はモニタリングするステップをさらに含む。1以上の特性は、細胞の完全性、官能化された壁面部分の少なくとも一部への細胞体の接着、1以上の細胞体の運動、蛍光発光、1以上の細胞体の生存能の兆候、音波との相互作用などの少なくとも1つであるか或いはそれらを含む。検出及び/又はモニタリングステップは、光学的検出、例えば写真撮影、動画撮影、顕微鏡検査の1以上による光強度検出及び/又は光学イメージングを含んでいてもよい。追加的又は代替的に、音響検出、例えば表面音響検出を用いてもよい。
【0028】
光学信号は、官能化された壁面部分に接着した細胞体の量に依存し得る。他の光学信号は、1次元、2次元及び/又は3次元体積内での1以上の細胞体の位置に依存し、場合によっては時間依存性でもあってよい。
【0029】
一実施形態では、干渉トラッキングを用いて1以上の細胞体を研究することができる。例えば、検出器及び/又は光源の焦点面の(できればデジタル)画像を生成するための検出器を備える検出装置が用意される。検出装置はカメラであっても、カメラを含むものでもよい。次に、干渉パターン、特に回折パターンが、焦点が合っていない細胞によって生ずることがある。かかる干渉パターン又は一連のかかる干渉パターンを処理することによって、焦点面に対して垂直方向における1以上の細胞体の位置及び/又は位置変化を計算することができる。かかる計算された一連の位置は、おそらくタイムスタンプと組み合わせて、かかる細胞体の垂直方向の動きを追跡するのに使用し得る。これを細胞体の横方向位置と組合せるとさらに高次元のトラッキングを行うことができる。照明は、好ましくは平面波面照明(plane wave front illumination)を含んでいてもよく、例えば発光ダイオード(LED)によってもたらされる。
【0030】
本方法は、細胞選別;音響力、試料流体の流れ及び試料流体の組成の1以上の関数として、1以上の細胞体の運動の追跡;細胞体の1以上の光学活性、例えば発光(燐光、蛍光、生物発光、光合成、吸光度差など)のモニタリング;試料ホルダーの温度及び/又は温度プロファイルの変更;試料ホルダーの照明及び/又は照明プロファイルの変更;試料流体の組成の変更の少なくとも1つを含んでいてもよい。かかる技術によって、膜及び/又は結合プロセス自体に影響を及ぼす細胞(細胞内)プロセスの様々な研究が可能となる。例えば、細胞選別は、試料の少なくとも一部を官能化された壁面部分と接触させ、保持空間内で第1の音波を発生させて保持空間内の試料に第1の力を加え、それによって試料の細胞体の第1の量を官能化された表面部分から脱着せしめて、細胞体の第1の量を変位させ、保持空間内で第1の音波とは異なる第2の音波を発生させて保持空間内の試料に第1の力とは異なる第2の力を加え、それによって試料の細胞体の第2の量を官能化された表面部分から脱着せしめて、細胞体の第2の量を変位させることによって実施し得る。異なる音波及び力のため、異なる種類の細胞体が選択的に変位して、異なる種類の細胞体の同定及び/又は分離が可能となる。変位は、保持空間からの除去及び試料ホルダーからの除去を含んでいてもよい。光学効果は、表面の相互作用部分との細胞相互作用によって影響されることもある。一実施形態では、本方法は、1以上の細胞体と官能化された表面部分との間の接着強度を定量化するステップを含む。
【0031】
細胞体が官能化された表面から除去される力(破断力)は、細胞体が表面部分から離れる速度を測定することによって求めることができる。この速度は細胞体を経時的に追跡することによって測定することができる。細胞体が球形であると仮定すると、細胞体に加わる力はストークスの法則F_acoustic=F_drag=6πηRvによって推定することができる。ただし、ηは媒体(ここでは細胞体の位置での試料流体)の動粘度であり、Rは細胞体の半径であり、vは力の方向における試料流体に対する細胞体の相対速度である。これは、有効音響力を印加音響信号に対して較正するのにも使用し得る。1種以上のマイクロビーズその他の公知の粒子が、較正用の対照として試料中に含まれていてもよい。
【0032】
本方法の実施形態では、システムの実施形態は、流体媒体中に1以上の生物細胞体を含む試料を保持するための保持空間を含む試料ホルダーと、保持空間内で音波を発生させて試料に力を加えるために試料ホルダーに接続された又は接続可能な音波発生器とを備える。典型的には、流体としては、水又は水性緩衝剤が用いられる。ただし、油及び(ヒドロ)ゲルも使用できる。患者物質を含む試料の場合、流体は体液であってもよい。試料ホルダーは、使用時に試料の少なくとも一部と接触する官能化された壁面部分を保持空間にもたらす壁を備える。
【0033】
システム、特に試料ホルダーは、音響振幅最大が官能化された壁面又はその近傍に位置するように、或いは細胞体が特に影響されやすい(と予想される)(高い)力が官能化された壁面又はその近傍で主に検知できるように設計し得る。
【0034】
試料ホルダーは、保持空間を形成する凹部を備えていてもよい。試料ホルダーは、単一構造のものであっても、複数の物体から構成されるものであってもよく、例えば少なくとも局所的にU字形断面を有する部材と、U字形部材を覆って閉鎖して、断面が閉じた保持空間を与えるカバー部材とを備えるものであってもよい。閉じた保持空間はあらゆる方向に閉じていてもよいし、或いは1以上の入口及び/又は出口ポートを有していて、連続流路を形成するものであってもよい。
【0035】
音波発生器は、試料ホルダーに恒久的に取り付けられてもよく、場合によっては試料ホルダーの一部に一体化されていてもよい。別の実施形態では、音波発生器は、試料ホルダーに繰り返し取り付けできるものであってもよいし、或いは音響伝達媒体を介して試料ホルダーと共に音響キャビティを形成するように接続してもよい。例として、超音波は、圧電式発生器、電気機械式発生器、光学式発生器(例えば、一部を一連のレーザパルスに付すもの)及び他の技術、場合によってはそれらの組合せによって発生させることができる。定在波の発生のため、試料流体を含む試料ホルダー及び場合によっては試料ホルダーに取り付けられた構造体は、1以上の方向に特定の周波数のための超音波キャビティを形成し得る。この試料ホルダーは、次いで異なる及び/又は別の方向の音響モードのモード混合を防止又は促進するように設計できる。
【0036】
音波発生器は、保持空間内及び/又はその内部に収容された試料中にバルク音波を発生させるためのバルク音波発生器であってもよいし或いはバルク音波発生器を含んでいてもよい。
【0037】
一実施形態では、官能化された壁面部分には1種以上のプライマーが施される。プライマーは、1種以上の相互作用部分及び/又はその前駆体を含んでいてもよい。特に、抗体、ペプチド、生物学的組織因子、生物学的組織部分、細菌、抗原、タンパク質、リガンド、細胞、組織、ウイルス、(合成)薬化合物、脂質(二重)層、フィブロネクチン、セルロース、核酸、RNA、小分子、アロステリックモジュレーター、(細菌)バイオフィルム、「生体機能チップ」の1種以上を含む1種以上の物質、及び/又は試料の少なくとも一部が他の表面部分よりも優先的に接着する傾向がある特異的な原子又は分子表面部分(例えば金表面)、ナノ組織化又はマイクロ組織化表面部分(例えばマイクロピラー、マイクロリッジなど)を含む官能化された壁面部分が用意される。
【0038】
官能化された表面部分に1種以上のプライマーを設けることによって、細胞体の細胞と官能化された表面部分との間の所定の相互作用が、細胞体と該部分との接触によって影響されること或いは細胞体と該部分との接触によって引き起こされることがある。例えば、細胞体が壁に接着することがある。また、細胞体の細胞内又は細胞上での1以上の他の生物学的プロセスが影響されること又は引き起こされることがあり、これは本システムにおいて調べることができる。
【0039】
一実施形態では、官能化された壁面部分は、試料と接触する複数の互いに異なって官能化された壁面部分を含む。
【0040】
これは、細胞体と官能化された表面部分との間の様々な所定の相互作用の研究に資する。
【0041】
異なる部分は、例えば印刷などの様々な技術を用いて形成することができ、様々なパターンで、場合によっては反復部分を有するパターンで配置し得る。
【0042】
一実施形態では、保持空間に流体を導入するため及び/又は保持空間から流体を除去するため、例えば保持空間を通して流体を流すため、試料ホルダーは、フローシステムに接続されているか或いは接続可能である。流体フローシステムは操作システムに内蔵されていてもよい。流体フローシステムは、1種以上の流体を順次及び/又は同時に導入及び/又は除去するために、リザーバー、ポンプ、バルブ及び導管の1以上を備えていてもよい。
【0043】
こうして保持空間に導入、保持空間から除去又は保持空間を通って流れる流体は、試料物質、例えば1種以上の試料流体、細胞体、細胞体に対する作用物質などを含み得る。例えば、試料の1以上の部分を実験後に回収してもよいし、及び/又は異なる試料条件を設けてもよく、例えば1以上の異なるpH値、塩濃度のような異なる希釈率、異なる流体組成及び異なる細胞体を順次又は並行して用いてもよい。また、細胞体に対する作用物質、例えば栄養、化学物質、ウイルスなどを導入してもよい。流体は、N、CO、Oのような1種以上の溶解ガス又は特にヒドロゲル及び/又はエアロゲル系流体中では同伴ガス、Ne、Arのような希ガス、CO、O、NOxのような有害ガス、その他シアン化物含有ガス、エチレンのような生物学的影響を有することのあるガスを含んでいてもよい。ガスは様々な成分のガス混合物であってもよく、制御された組成のものであっても、周囲空気のように制御されていない組成のものであってもよい。流体の密度変化、特に保持空間の幅及び/又は高さのかなりの部分に広がるような保持空間の内部寸法のオーダーの大きさの気泡のような、保持空間内での所望の音響力プロファイルを乱す可能性のある音響屈折率の変化は、少なくとも試料の研究中は防止すべきであると考えられる。ただし、保持空間の内部寸法の約10分の1以下のオーダーの大きさのマイクロバブル、例えば約50μmの高さ及び/又は幅の保持空間に対して5μm未満のマイクロバブルは、画像対照、力集中剤、造影剤、力プローブなどの1以上として使用できる。なお、試料ホルダーを通して試料流体を推進するために大きな気泡を使用してもよく、そのような場合には有益な効果を得るために使用してもよい。
【0044】
試料ホルダー内の流体の量及び/又は組成の制御も、試料体積を制御するために使用し得る。
【0045】
本システムは、保持空間内で音波を発生させて試料に力を加えるための音波発生器の作動と同時に、保持空間に流体を導入するように及び/又は保持空間から流体を除去するように、例えば保持空間を通して流体を流すように構成し得る。例えば、運動動力学的成分、例えば流れに起因する横方向力成分を研究に含めることができる。したがって、本システムは、フローサイトメトリーシステムその他のフローシステムに含めてもよく、例えばオンラインフラッシュシステムと統合し得る。
【0046】
流れの方向は、音響力の方向に対して、或いは音響力の少なくとも主要力方向成分に対して垂直にすることができる。
【0047】
一実施形態では、音波発生器は、調節可能な音波(好ましくは時間依存性のもの)を発生させるため、周波数及び振幅の少なくとも一方を調節するように制御可能なものであり、特に音波は定在波とし得る。
【0048】
こうすることによって、パラメーター研究が可能となる。特定の場合には、振幅は2桁以上にわたって調整し得る。音響周波数は試料ホルダーの幾何形状に依存するが、概して1~100MHzの範囲内にある。直交三方向のいずれかにおける試料保持空間の開放サイズ、例えば保持空間の高さ、幅、長さは、1~1000μmとすることができ、その結果、保持空間は典型的には0.1μL~100μLの範囲、さらには最大1mLの容積とすることができ、「ラボオンチップ(lab on a chip)」試料ホルダーのように多種多様な幾何形状とし得る。重要なことは、試料ホルダーが試料中に効果的に音波を供給して持続させることができることである。
【0049】
単一の細胞体又は複数の細胞体を同時に操作及び/又は測定することができる。たくさんの細胞体が表面バルク、例えば細菌コロニーを形成していてもよい。一実施形態では、表面バルク研究とは逆に、複数の個々の細胞体を別個に、ただし並行して操作及び/又は測定することができる。
【0050】
音波信号は、数桁にわたって変化することがあり、例えば、試料の性質及びロバストネス並びに試料中でのプロセスに応じて、1秒未満乃至数十分さらにはそれ以上持続することがある。
【0051】
音波の適切な周波数は、試料ホルダー(音響発生器と組合せても組合せなくてもよい)の少なくとも一部(例えば音響キャビティ)の寸法によって決定され、周波数は、その部分の音波の共振周波数とすることができ、おそらくその部分の定在波と関連する。最適周波数は予め及び/又は動作中に決定し得る。共振周波数は、非共振音波よりも数桁高い音響力を発揮し得ると考えられる。
【0052】
時間依存的調整によって、パルス、ランプ、反復変調及び/又は周波数チャープのようなスイープなどの、所定の周波数及び/又は振幅パターンに基づく研究が可能となる。異なる周波数スペクトルも適用することができる。かかる技術を用いて、例えば押したり引いたりすることによって、粒子を選択的又は集合的に操作し得る。
【0053】
本システムは複数の音波発生器を備えていてもよく、それらは、周波数、振幅、並びに各々の周波数及び/又は振幅の時間依存性の少なくとも1つに関して互いに異なる音波を生成するように、及び/又は各々の音波の周波数及び/又は振幅を調節して(好ましくは時間依存的に)調節可能な音波を生成するためそれらの少なくとも1つが制御可能であるように構成し得る。したがって、複雑な力場を発生させるために1以上の追加の音波発生器を設けることができ、特定の実施形態では、複数の垂直方向から保持空間に音波を発生させるため複数の音波発生器をサンプルホルダと接続し、それらは別個に制御可能である。
【0054】
一実施形態では、操作システムは、音波(又は音波によって加わる力)に対する1以上の細胞体の応答を検出するための検出器を備える。そうすることによりに、1以上の細胞体の操作の影響を調べることができる。
【0055】
検出器は光学検出器を備えていてもよい。光学検出器は、フォトダイオード、フォトダイオードのアレイ、カメラ及び/又は顕微鏡を含んでいてもよいが、例えばバルク測定のように、実験によっては、画像解像度のないフォトセルで十分であることもある。デジタル写真及び/又はフィルムカメラが適切であると考えられ、好ましくは調節可能な画像フレームレートを有する。検出器は波長選択性であってもよく、1以上のカラーフィルタを備える。場合によっては、異なる波長に波長選択性をもつ複数の検出器が設けられる。
【0056】
特定の実施形態では、検出器は、共焦点顕微鏡及び/又は超解像顕微鏡、(近視野)走査型光学顕微鏡(「SOM」/「NSOM」)、構造化照明顕微鏡(「SIM」)、多色励起光源を備える。
【0057】
典型的には、明視野照明(例えばLED照明)を使用することができる。ただし、暗視野イメージングも使用し得る。顕微鏡自体が超解像顕微鏡でなかったとしても、ソフトウェアを用いて試料(の一部)を回折限界以下の精度で調べることができる。ただし、検出器は顕微鏡である必要はない。表面の細胞の存在を測定するだけの場合、単純な検出器、例えば全反射照明蛍光顕微鏡法(「TIRF顕微鏡法」)で十分であろう。他の選択肢としては、表面プラズモン共鳴検出及び/又はレンズレスイメージング(例えば、試料の真下にカメラチップを配置するレンズなしでのイメージング)が挙げられる。
【0058】
さらに、音響検出を使用することができる。表面音波によって、例えば振幅の差、位相の差及び/又は音響エネルギーの吸収及び/又は反射による伝播方向の差など、音波に対する影響に基づいて、表面の物体の検出が可能となる。例えば、バルク音波で細胞体を音響的に操作し、各々の表面に沿った表面音波で、特に表面に結合した細胞体の量を検出することができる。適切な音響検出器は、センサー素子として機能する圧電アクチュエーターを備える。
【0059】
音響力研究と組合せて接触検出及び/又は他の形態の検出を使用することができるが、光学的検出は生物細胞体にほとんど又は全く影響又は相互作用なしに行うことができるので光学的検出が好ましい。さらに、数多くの様々な確立した光学技術及びシステムを利用し得る。光学的検出のために、本システムは光源を備えていてもよい。光源は多色又は単色であり、試料(の一部)との光学的相互作用を惹起してもよいし排除してもよく、光学検出のための光学(色)収差を低減又は防止してもよい。光学的干渉、屈折、回折のいずれかに依拠する光学的検出は、試料の位置で平面波面その他の制御された波面で照明を与える光源から有益な効果を得ることができる。
【0060】
実施形態では、本システムは、光源、メモリ、1以上の細胞体を追跡するためのトラッキングシステム並びに顕微鏡検査技術に関連する顕微鏡検査計算及び/又は解析を実行するためのコントローラーの1以上を備える。トラッキングシステムは、二次元(「2D」)及び/又は三次元(「3D」)トラッキングを実行するように構成し得る。一実施形態では、3Dトラッキングを用いて、周囲の媒体を通過する細胞体の速度を求めることができ、細胞体に対するシステムの音響力及び/又は細胞体とシステムの音響力との相互作用を求めるのに使用することもできる。トラッキングシステム及び/又はコントローラーを音波発生器と接続してシステムの動作を制御してもよい。
【0061】
本システムは、センサーと、センサーからの信号に応答して音波発生器の動作を制御するための音波発生器に接続された又は接続可能なコントローラーとを備えていてもよい。したがって、フィードバックシステムを設けてもよい。
【0062】
ただし、本システム及び方法は、相互作用又は単体の挙動について詳細に調べることなく、官能化された表面に接着した細胞体の量を絶対数及び/又は相対分率として単に定量することにおいて既に極めて有効であり、有益であるといえる。
【0063】
一実施形態では、本システムは、1以上の細胞体を操作するために、1以上の光ピンセットシステム、磁気ピンセットシステム、静電ピンセットシステム及び接触プローブの1以上を含み、1以上の細胞体を適宜調製してもよく、そのための調製システムを備えていてもよい。
【0064】
一実施形態では、本システムは、蛍光検出を利用するため、試料中の1以上の光学活性部分(例えば発色団)の励起及び/又は検査のための光源を含む。光源はレーザーを含んでもよく、光源は好ましくは波長可変(wavelength tuneable)である。
【0065】
本システムは、スタンドアローン型システムとして、ワークトップ機器として、さらにはハンドヘルド機器としても提供し得る。
【0066】
一実施形態では、焦点面のデジタル画像を生成するための検出器をさらに備えており、システムは、焦点が合っていない1以上の細胞体による干渉パターンの演算処理によって焦点面に垂直な方向における1以上の細胞体の位置を計算するための計算装置を備える。これによって、音波の方向及び/又は官能化された表面に対して垂直な、撮像方向に沿った方向における細胞体の干渉検出及び決定及びトラッキングが可能になる。一実施形態では、試料ホルダーの温度及び/又は温度プロファイルを調節するための熱素子を含んでいてもよい。熱素子は、単純な電気ヒータ線を含むものであってもよいし、或いは精密な熱制御ができて加熱と冷却の両方が可能な1以上のペルチェ素子のような複雑な素子を含んでいてもよい。
【0067】
別の態様では、本明細書に記載のシステム及び/又は方法のための試料ホルダーが提供される。試料ホルダーは、流体媒体中に1以上の細胞体を含む試料を保持するための保持空間と、試料に力を加える音波を生成するために試料ホルダーに接続された音波発生器とを備えており、試料ホルダーは、使用時に試料の少なくとも一部と接触させる官能化された壁面部分を保持空間にもたらす壁を備える。
【0068】
試料ホルダーは、上述のシステムの提供及び/又は上述の方法の実施のため、付属する超音波発生機及び検出システム(例えば1以上の光源及び光学検出器)を含む装置の対応する対向コネクタと接続するための接続部と共に形成していてもよい。
【0069】
こうして、細胞体の表面の生体分子の存在の検出及び/又は存在量の定量化が可能となる方法及びシステムが提供される。本方法及びシステムは、接着速度及び接着強度を、単体レベルから、個々の細胞体が異なり、官能化された表面と別様に相互作用することがあるので、数百乃至数千もの細胞体を並行して、定量化することができる。本方法及びシステムは、各々、細胞体での力分光法を高度に並列化された方式で単体レベルで実施するため、音響力分光法、マイクロ流体力学、表面官能化及び複数の細胞体のライブ(超解像)ビデオトラッキング、場合によっては単一細胞ライブ超解像ビデオトラッキングの諸態様を組合せる。マイクロ流体キャビティ内で共鳴バルク音波を発生させると、細胞体に直接的かつ瞬時に力を加えることができる。
【0070】
なお、典型的な設計では、保持空間自体を形成するマイクロ流体チャンバは音響キャビティを形成せず、むしろ試料ホルダー全体(例えば、ピエゾ素子を含むチップ、上面ガラス、流体層、底面ガラス層)に定在波が形成される。定在波がマイクロ流体層上にしか生成されないる場合、境界での力は非常に小さくなり、表面から細胞体を引き離すには不十分となって、検出性を損なってしまうおそれがある。ライブ(単一細胞)ビデオトラッキングと組合せると、本技術は、細胞体の接着事象を正確に検出し、細胞体の表面の(生体)分子とマイクロ流体試料体積の官能化された壁面部分との相互作用によって伝わる接着力を定量化することができる。なお、運動検出は所与の時点での正確な位置検出を必要としないことがあり、特定の時点での試料部分の位置決定にはその時点での試料部分の運動の検出及び/又はトラッキングを必要としない。
【0071】
上述の態様について、数多くの実施形態を例として示す図面を参照して、追加の詳細及び利点と併せて、以下でさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1図1は、操作システムの一実施形態の概略図である。
図2図2は、図1のシステムのための試料ホルダーの概略図である。
図2A図2Aは、図2の詳細を示す概略図である。
図3図3A図3Dは、試料中の細胞体と試料ホルダーの官能化された壁面部分との相互作用を示し、試料ホルダー及びその内部の細胞体を、試料に力を加える試料ホルダー上の音波に付した状態(図3C図3D)、付していない状態(図3A図3B)を示す。
図4図4は、保持空間内の音波によって細胞体に加わる力を変化させたときの影響を示す。
図5図5は、保持空間内の音波による細胞体での相互作用動力学を調べる方法を示す。
図6図6は、実験結果を示す図である。
図7図7A図9Cは、追加の実験結果を示す図である。
図8図7A図9Cは、追加の実験結果を示す図である。
図9図7A図9Cは、追加の実験結果を示す図である。
図10図10は、実験結果をまとめて示す図である。
図11図11は、保持空間内の音波による細胞体での相互作用速度論を調べる別の方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図面は概略図であり、必ずしも一定の縮尺ではなく、本発明を理解する上で必要でない詳細は省略されていることもある。「上方」、「下方」、「下」、「上」などの用語は、別途明示しない限り、図面に示す配向の実施形態に関する。さらに、少なくとも実質的に同一である構成要素又は少なくとも実質的に同一の機能を実行する構成要素は同じ符号を付し、個々に区別した方が役立つ場合にはアルファベットの接尾辞を付した。
【0074】
図1は本発明に係る操作システム1の一実施形態の概略図であり、図2は試料ホルダーの断面図であり、図2Aは、図2の試料ホルダーの「IIA」で示す部分の詳細図である。
【0075】
システム1は、流体媒体11中に1以上の生物細胞体9を含む試料7を保持するための保持空間5を含む試料ホルダー3を備える。流体は好ましくは液体又はゲルである。システム1はさらに、試料7及び試料7中の細胞体9に力を加える音波を保持空間5内に発生させるため試料ホルダー3に接続された音波発生器13(例えば圧電素子)を備える。音波発生器13は、任意構成要素としてのコントローラー14及び電源(本図ではこれらは統合されている。)に接続されている。
【0076】
試料ホルダー3は、使用時に試料7の一部と接触する官能化された壁面部分17を保持空間5にもたらす壁15を備える。
【0077】
図に示す操作システム1は、調節可能な対物レンズ21を有する顕微鏡19と、コントローラー及びメモリを有するコンピュータ25に接続されたカメラ23とを備える。コンピュータ25は、カメラ23からの信号に基づいて1以上の細胞体をトラッキングするために及び/又は顕微鏡検査計算を行うために及び/又は超解像顕微鏡検査及び/又はビデオトラッキング(サブピクセルビデオトラッキングであってもよい)に関連する解析を行うためにプログラミングされていてもよい。コンピュータ19又は他のコントローラー(図示せず)は、顕微鏡19の少なくとも一部及び/又は他の検出器(図示せず)を制御するためにシステム1の他の部分(図示せず)と接続することができる。特に、コンピュータ25は、図1に示す音波発生器13、その電源及びそのコントローラー14の1以上と接続し得る。
【0078】
本システムはさらに光源27を備える。光源27は、所望の照明強度及び強度パターン(例えばそれ自体は公知の平面波照明、ケーラー照明など)をもたらすための適切な光学系(図示せず)を用いて試料7を照明する。図に示すシステムでは、光源27から放射された光31は、音波発生器13を通して試料ホルダー3(の試料7)に向けられ、試料7からの試料光33は対物レンズ21を通過し、任意構成要素の接眼レンズ22及び/又は追加の光学系を通過してカメラ23に至る。対物レンズ21とカメラ23は一体化されていてもよい。一実施形態では、2以上の光学検出ツール(例えば倍率の異なるもの)を、例えばビームスプリッタを用いた試料光33の検出のために同時に使用してもよい。
【0079】
図示していないが国際公開第2014/200341号で詳述されている別の実施形態では、システムは部分反射リフレクターを備えており、光源から放射された光はリフレクターを通して対物レンズから試料へと導かれ、試料からの光は反射されて対物レンズに戻り、部分反射リフレクターを通過して、任意構成要素の介在光学系を通してカメラに向かう。その他の実施形態は読者には明らかであろう。
【0080】
試料光33は、試料によって影響された(例えば散乱及び/又は吸収)光31及び/又は試料7自体の1以上の部分(例えば細胞体9に接着した発色団)によって放射された光光を含むことがある。
【0081】
システム1におけるいくつかの光学素子は、部分反射性、二色性(波長特異的な反射率を有する、例えばある波長に対して高い反射率を有し他の波長に対して高い透過率を有する)、偏光選択性及びその他の図示した構成に適したものの1以上とし得る。システム1を特定の種類の顕微鏡検査用に構成するため、追加の光学素子、例えばレンズ、プリズム、偏光子、ダイアフラム、リフレクターなどを設けてもよい。
【0082】
試料ホルダー3は、内部に流路を有する単一の材料片(例えばガラス、射出成形ポリマーなど(図示せず))で形成することもできるし、適切な材料からなる別々の層を、例えば溶接、ガラス接合、接着剤接合、テーピング、クランピングなどによって、少なくとも実験期間中は流体試料7が収容される保持空間5が形成されるように、幾分なりとも永続的に固定することによって形成することもできる。図1及び図2に示すように、試料ホルダー3は、少なくとも局所的に断面がU字形をした凹部を有する部材3Aと、U字形部材(の凹部)を覆って閉鎖して、断面が閉じた保持空間5を与えるカバー部材3Bとを備えるものであってもよい。
【0083】
図2に示すように、試料ホルダー3は、試料ホルダー3の保持空間5に流体を導入するため及び/又は保持空間5から流体を除去するため、例えば保持空間を通して流体を流すため(図2の矢印参照)、任意構成要素の流体フローシステム35に接続されている。流体フローシステム35は、操作及び/又は制御システムに含まれてもよい。流体フローシステム35は、1種以上の流体を順次及び/又は同時に導入及び/又は除去するために、リザーバー37、ポンプ、バルブ及び導管39の1以上を含んでいてもよい。試料ホルダー3及び流体フローシステム35は、部材3、35の少なくとも一方を損傷せずに結合/分離するために、好ましくは部材3、35の一方又は両方がその後も再使用できるように繰り返し結合/分離するために、試料ホルダー3の適切な位置に配置し得るコネクタを含んでいてもよい。
【0084】
図2Aは、図2の試料ホルダー3内の2つの細胞体9の概略図である。試料ホルダー3の壁15には、官能化された壁部17が設けられた部分(図2Aの左側)と、設けられていない部分(図2Aの右側)とがある。
【0085】
図3A及び図3Cは、試料ホルダー(図3A図3Cでは認識できない)の官能化された壁部分に垂直な視線方向における実験状況の顕微鏡画像である。試料ホルダー内の試料流体7中の5つの細胞体9A,9Bが視認できる。
【0086】
図3B及び図3Dは、試料ホルダーの官能化された壁部分17に沿った視線方向(すなわち、図3A図3Cに垂直、図2Aと同様)における図3A及び図3Bのそれぞれの状況の概略図である。
【0087】
いずれの場合も、官能化された壁面部分17には1種以上のプライマーが設けられている。プライマーは、1種以上の相互作用部分を含んでいてもよい。
【0088】
図3B図3Dは各々、システム1の一実施形態に係る試料ホルダー3の保持空間5の壁15の官能化された壁面部分17を横方向断面図として示す。壁面部分17は相互作用部分41(例えば抗体)で官能化されており、この例では1種類の抗体である。試料の異なる標的部分43A,43B(抗原43A,43B)を含む細胞体9A,9Bを官能化された壁面部分17と接触させ、細胞体9A,9Bを相互作用部分41と係合させる(せしめる)。
【0089】
図3A図3Bは保持空間に音波が印加されていない静止状態を示す図である。図3C図3Dは、音波が保持空間に印加され、試料中の細胞体9A,9Bに力Fが加わる状況(図2A及び図3Dの矢印を参照)を示す。音波は、壁15に垂直な伝播方向を有するバルク音波である。音波は進行波でもよいし、或いは好ましくは定在波でもよい。例えば、力Fは壁5に垂直な伝搬方向(矢印参照)であり、図2Aの破線Nで示す音場のノードに向かう。なお、試料ホルダー内のノード(ノード線又はノード面であってもよい)の位置及び/又は音響力の強度は、音響周波数、音響パワー、試料ホルダーの幾何形状及び液体媒体の組成(粘度など)の1以上を適切に選択することによって調節し得る。
【0090】
図2Aの試料では、官能化された壁面部分17に接着した細胞体9は接着したままであり(左側)、官能化された壁面部分17の脇に位置する細胞体9は壁15から持ち上げられている(右側)。
【0091】
図3A図3Bの試料では、ある相互作用と標的部分41及び43Aとが一致して強く結合した結合対を形成し、各々の細胞体9Aは壁15(の官能化された壁部分17)に強く結合する。他の相互作用と標的部分41及び43Aとは一致せずに、緩く結合した結合対を形成するか或いは全く結合せず、力Fの影響下で各々の細胞体9Bは壁15(の官能化された壁部分17)から解放される。図3A図3Cの顕微鏡画像では、これは、顕微鏡の焦点位置にある細胞体9A,9B又は顕微鏡の焦点から離れて移動する細胞体9A,9Bによって視認できる。
【0092】
このように、音波によって試料に力を加えたときの細胞体の応答を観察することによって、結合相互作用を検出することができる。例えば、これによって、異なる細胞体9A,9B(の特性)を区別することができる。流体の流れが壁15と平行に試料に適用される実施形態では、脱着した細胞体9Bが移動する(洗い流される)ことがあり、壁15に接着したままの細胞体9Aは所定の位置に留まることができる。こうして、細胞体9A,9Bを分離することができる。
【0093】
なお、図2(A)のようになんらの皮膜も処理もしない代わりに、非官能化された壁面部に隣接する壁面部に、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE、「Teflon」(登録商標))のような非粘着性コーティングを設けてもよいし、或いは異なって官能化された壁面部分を設けてもよく、例えば上流の官能化された壁面部分から脱着した細胞体の抗原に適合する抗体を含む部分を設けて、その隣接官能化された壁面部分に上記細胞体が結合するようにしてもよい。
【0094】
図4A図4Cは、試料5の、同じ標的部分43を有するが量が異なる2つの細胞体9C,9Dを示す。細胞体9C,9Dは官能化された壁面部分17(上の相互作用部分41)と相互作用し、音波の振幅の変化によって試料(中の細胞体)に対する音波の力Fに付される。図4Aでは、力Fは0であり(図3Bと対比)、どちらの細胞体9C,9Dも壁面部分17に接着している。図4Bでは、力Fは1単位であり、一方の細胞体9Dの相互作用部分41,43の結合を破壊して細胞体9Dを脱着させるするのに十分である。図4Cでは、力は3単位に増加し、もう一方の細胞体9Cの相互作用部分41,43と壁面部分17との結合も破壊して細胞体9Cも脱着させるのに十分である。単一細胞と表面との適切な結合力はピコニュートン(pN)のオーダーであり、音波、特に定在バルク音波で適用可能な力は、マイクロビーズで約0.1pN乃至数千pNの範囲で達成されている。
【0095】
その結果、試料に対する音波の力の変化に対する細胞体9C,9Dの応答を観察することによって、結合相互作用の強度を検出することができ、細胞体表面の標的部分の定量化が可能となる。
【0096】
図4Dは、相互作用部分として抗体で官能化した壁面部分に対する複数の正常な健康な細胞の測定された結合力、すなわち結合を破壊するのに必要な力F_ruptの統計解析を示す(ヒストグラム)。場合によっては、疾患に罹患した細胞はそれらの膜上に健康な細胞よりも多くの抗原(標的部分)を形成し、官能化された壁表面部分(の抗体)に対してより強い結合力を生じる。図4A図4Cを対比されたい。これは、接着力統計(シミュレーションに基づく曲線)で検出可能である。同様に、標的部分の減少(例えば遺伝子の過発現によるもの)は、健康な細胞に比べて罹患細胞の結合強度の低下によって検出し得る。
【0097】
また、音波の振幅の変化に加えて、相互作用部分-標的部分結合パラメーターに影響を与えかつ該パラメーターを調べるため、音波の周波数を変化させてもよい。結果は、図4A図4Dに示すものと同様の方法で得ることができる。
【0098】
図5は、図3A図4Dと同様の概略図及び時間tに対するグラフを示し、一連のオフ-オンパルス(矢印で示すように概略図の異なるパネル)で試料5に加わる力Fを変化させて、検討すべき細胞体9の1以上の特性(例えば可視性、運動性など)の変化を示す信号Sを測定することによって、どのように接着動力学を調べることができるかを示す。これは、研究する細胞体についての追加の情報を提供することがある。例えば、細胞が特定の抗体に接着する(「v」と示す)又は接着しない(「x」と示す)確率を示し得る。音響力は別様に(例えば漸進的に)変化させることもできる。例えば、実験では、音響力を急止して細胞体を表面に落下させたときと音響力を漸減させて細胞体を官能化された表面にゆっくり接近させたときの差を調べることができる。
【0099】
図6A図6Cは、共焦点蛍光法でイメージングした生物細胞での実験結果を示す。図6A及び図6Bは、異なる時間での試料の一部分の画像であり、図6Cは、後述するように、異なる時間の図6A及び図6Bに示す詳細からの一連の画像を示す。この例では、顕微鏡の焦点面は、音響ノードつまり細胞が追いやられる位置と一致するように位置決めした。実験開始時、すなわちt=0秒(図6A図6Cではt=0s)では、音響信号は印加されておらず、試料中のすべての細胞は保持空間の底に沈降し、細胞は視認できない。しかる後、音響力がスイッチオンされ、細胞が表面から音響ノード点に追いやられ、多数の(ひと塊の)細胞がt=1秒で視認できるようになる。図6B及び図6Cのt=1s参照。音響力の印加中、細胞は音響ノードに捕捉されたままであり、視認できる状態のままである(図6C、t=2秒)。音響力を印加して2秒後に、音響力を止めると、細胞は再びゆっくり沈降し、数秒以内に視野から落ちる(図6C、t=3秒~7秒)。図6B及び図6Cにおける異なる細胞の輝度が異なること(及び原画像では色も異なる)は、この試料中に異なる種類の細胞が存在していたが、この実験ではその点について検討しなかったことを示唆する。
【0100】
細胞体の音響操作と同時に他のイメージング方法を使用できることは読者には明らかであろう。
【0101】
図7A図9Cは、アビディティー(結合パートナーに結合する強さ)に基づくT細胞の選別における本願で提供する技術の使用を示す。実験は以下の通り実施した。培養物が壁部分に接着して官能化された壁表面部分を形成するように、試料ホルダーの内部で黒色腫患者由来の腫瘍細胞株を培養した。次いで、腫瘍細胞株に存在する抗原に対するT細胞受容体を発現するように遺伝子操作されたT細胞(赤色に蛍光染色)又は腫瘍細胞株に特異性をもたない非遺伝子操作T細胞(緑色に蛍光染色)を注入し、チップを37℃で30分間インキュベートしてT細胞-腫瘍細胞の結合を起こさせた。図7Aは、試料ホルダー内のT細胞の画像を示す。この図では、特異的(赤色染色)細胞は薄い灰色に見え、非特異的細胞(緑色染色)は濃い灰色に見える。対比及び明瞭さのために、それぞれの細胞の信号を図7B(赤色染色/特異的)及び図7C(緑色染色/非特異的)に別々に示す。次いで特異的に結合したT細胞を選択及び単離するために、試料ホルダー内で音波を発生させ、音響力を与えた。腫瘍細胞に結合していないか又は弱くしか結合していないT細胞は、音響力によって音響ノード(腫瘍細胞の上方約20μmに位置する)に向かって浮揚した(図3A図3Dを対比)。音響キャビティの軸方向及び横方向法線モードの間のモード混合のために、試料ホルダー内では、音響ノードは軸方向だけでなく横方向にも形成される。その結果、未結合の浮揚T細胞は、軸方向ノードと横方向ノードの組合せによって形成される線に凝集する傾向があった。図8Aにおいて、これらは複数の分離した水平方向バンドとして現れるが、図8A図8B及び図8Cとを対比すると最もよく分かるように、結合細胞は実質的に所定の位置に留まる。なお、図8A図8B及び図8Cは、それぞれ、すべての細胞、対比及び明瞭さのために、異なる特異的細胞及び非特異的細胞を示す(図7A図7C参照)。非結合細胞の複数の線への凝集を引き起こす横方向音響ノード構造は、非結合細胞の検出を容易にし、かつ細胞(特に結合細胞に関する)視認性を高めることができる。ただし、かかる構造化が非結合状態自体の検出又はアビディティーに基づく細胞選別の能力に必須ではないことは明らかである。例えば、結合状態と非結合状態の区別は、横方向ノード構造なしで、細胞の軸方向運動及び/又は横方向運動をトラッキングすることに基づいて行うこともできる。
【0102】
なお、複数のノードを有する複雑な音響力場を、保持空間内に複数の垂直方向から音波を発生させるために試料ホルダーに接続された複数の音波発生器によっても発生させることもでき、これらの音波発生器は別々に制御可能としてもよいし、また非定常力場としてもよく、例えば移動する音響ノードにおける細胞(の集団)の移動を誘発する。
【0103】
次の工程では、試料空間を穏やかに洗い流す。例えば、資料空間に試料流体を流すことによって、非結合細胞を除去し、試料空間内の特異的T細胞集団の相対的濃縮を引き起こす。図7A図7C及び8A~8Cと同様に、図9A図9Cは、残存細胞を示す(図9Aはすべての細胞、図9B図9Cはそれぞれ異なる特異的細胞及び非特異的細胞を示す)。図10は、図7A図8A図9Aに示す3つのステップについての視野内の特異的細胞及び非特異的細胞の分率発生率(総細胞数の相対的割合)を示す。
【0104】
印加される音響力のレベルを増加させて、上記のプロトコルを繰り返すと(インキュベーション、音波適用、洗い流し、任意には追加のインキュベーション、音波の適用、洗い流し、必要に応じて繰り返す)、腫瘍細胞アビディティーに基づいてT細胞をスクリーニングし、回収することができる。この選別プロセスを、図11に漫画形式で示す(図4A図4C(及びその説明)参照)。図11は、左から右に、標的部分(細胞の「脚」として示す)を有するT細胞(半球として示す)の導入及びインキュベーション;弱い音波の適用(細い記号「∧」で示す)及び未結合細胞の浮揚(連結破壊);バイアル内の未結合細胞の洗い流し及び回収;適度な強さ音波の適用(中太の記号「∧」で示す)及び弱く結合した細胞の浮揚(連結破壊);バイアル内の脱着した弱い結合の細胞の洗い流し及び回収;強い音波の適用(大太の記号「∧」で示す)及び強く結合した細胞の浮揚(連結破壊);バイアル内の脱着した強く結合した細胞の洗い流し及び回収を示す。
【0105】
治療の場面では、このようにして単離されたT細胞画分の1以上を、上記のように研究された標的腫瘍細胞が採取された患者の治療のために選択し得る。このアビディティーに基づく細胞スクリーニング及び/又は治療及び/又は研究の選択と同じ原理は、免疫学及び/又は細胞生物学における基礎研究、他の形態のアビディティーに基づく細胞応用の研究、並びにそれらの免疫治療等(例えばドナー臓器が移植された患者に対する免疫抑制療法を含む)における使用の研究にも応用できる。
【0106】
本開示は、上記の実施形態に限定されるものではなく、上述のように特許請求の範囲内で数々の変更を加えることができる。
【0107】
本方法又はシステムの特定の実施形態に関して又はそれらに関連して記載した構成要素及び態様は、別途明示しない限り、本システム又は方法の他の実施形態の構成要素及び態様と適宜組合せることができる。
図1
図2
図2A
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-11-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞体を操作及び/又は研究する方法であって、
流体媒体を保持するための保持空間を含む試料ホルダーを用意するステップ、
上記保持空間内の流体媒体中に1以上の細胞体を含む試料を用意するステップ
を含んでおり、
当該方法が、上記保持空間に、上記試料と接触させられる官能化された壁面部分を用意することを含んでおり、
上記官能化された壁面部分は試料の少なくとも一部が接着する傾向があるところの細胞体を含み、
を加えるステップの少なくとも一部の間に、上記試料が上記官能化された壁面部分と接触し、
当該方法が、保持空間内の上記試料の1以上の細胞体に対して、上記官能化された壁面部分から離れる方向に、力を加
及び、前記力によって官能化された壁面部分から離れる方向に保持空間内の上記試料の1以上の細胞体を促し、および
ここで、該方法は、官能化された壁面部分に対する1以上の細胞体の、上記力と接着強度との間の関係を決定することをさらに含む、上記方法。
【請求項2】
上記保持空間への試料流体の導入及び/又は上記保持空間からの試料流体の除去の少なくとも1つ、例えば音波を加えるステップの少なくとも一部の間に上記保持空間を通して試料流体を流すこと、を含んでおり、特に導入された試料流体が1以上の細胞体を含んでいてもよい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
官能化された壁面部分に対する1以上の細胞体の前記力と接着強度との間、及び/又は接着力との間の関係に基づき、細胞体の少なくとも一部を追跡及び又は回収することを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記官能化された壁面部分にさらに1種以上のプライマーが設けられ、該プライマーが抗体、ペプチド、生物学的組織因子、細菌、抗原、タンパク質、リガンド、組織、ウイルス、薬化合物、脂質(二重)層、フィブロネクチン、セルロース、核酸、RNA、小分子、アロステリックモジュレーター、バイオフィルム、生体機能チップ、及び試料の少なくとも一部が上記保持空間の他の表面部分よりも優先的に接着する傾向があるところの原子又は分子表面部分の少なくとも1つから選ばれる1種以上の相互作用部分を含んでよい、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記1以上の細胞体の1以上の特性を検出及び/又はモニタリングするステップをさらに含んでおり、
該1以上の特性が、細胞の完全性、上記官能化された壁面部分の少なくとも一部への細胞体の接着、1以上の細胞体の運動、蛍光発光、1以上の細胞体の生存能の兆候の少なくとも1つであるか或いはそれらを含み、
検出及び/又はモニタリングステップが、
写真撮影、動画撮影、顕微鏡検査の1以上による光学的検出、例えば光強度検出及び/又は光学イメージング、並びに
音響検出、例えば表面音響検出
の少なくとも1つを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
細胞選別;
音響力、試料流体の流れ及び試料流体の組成の1以上の関数として、1以上の細胞体の運動の追跡;
1以上の細胞体の光学活性のモニタリング;
試料ホルダーの温度及び/又は温度プロファイルの変更;
試料ホルダーの照明及び/又は照明プロファイルの変更;
試料流体の組成の変更
の少なくとも1つを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
1以上の細胞体と官能化された表面部分との間の接着強度を定量化するステップを含む、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
試料流体の流れ及び試料流体の組成の1以上の関数として、1以上の細胞体の運動の追跡;及び
試料流体の組成の変更
の少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞体が、マイクロビーズ及び/又は磁石を欠いている、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞体の少なくとも一部が発色団及び/又は蛍光染色を備えている、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記官能化された層及び/又は細胞体は、腫瘍細胞、免疫細胞、T細胞、およびB細胞の少なくとも1つを含む、請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料が官能化された壁面部分に接触した後、前記保持空間から細胞体の少なくとも一部を除去すること、及び、前記保持空間から除去された細胞体の少なくとも一部を、単一細胞配列決定、蛍光顕微鏡法、及び低温電子顕微鏡法から選択される 1 つまたは複数の他の方法により、さらに分析することを含む、請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
対象から少なくとも細胞体及び/又は官能化された壁面部分の細胞を得ることを含む、請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞体を含む前記試料が官能化された壁面部分に接触した後、前記保持空間から該細胞体の少なくとも一部を除去すること、及び、該細胞体の少なくとも一部を別の対象及び/又は元の対象に投与することを含む、請求項13に記載の方法。