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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026008
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ビーライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/345 20060101AFI20230216BHJP
   C01B 33/24 20060101ALI20230216BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20230216BHJP
   C04B 7/42 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C04B7/345
C01B33/24 101
C04B7/38
C04B7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131561
(22)【出願日】2021-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 芳行
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA11
4G073BA62
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD01
4G073BD12
4G073BD21
4G073CC11
4G073FA30
4G073FB11
4G073FB37
4G073FC09
4G073FD01
4G073FD23
4G073FD25
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA34
4G073UA20
4G073UB07
(57)【要約】
【課題】極めて高温での原料の焼成を必要とせず、工程が単純なビーライトの製造方法の提供。
【解決手段】ビーライトの製造方法であって、前記製造方法は、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムのいずれか一方又は両方と、二酸化ケイ素と、添加剤と、の混合物を焼成する工程を有し、前記添加剤が、塩化リチウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び硝酸リチウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、ビーライトの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーライトの製造方法であって、
前記製造方法は、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムのいずれか一方又は両方と、二酸化ケイ素と、添加剤と、の混合物を焼成する工程を有し、
前記添加剤が、塩化リチウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び硝酸リチウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、ビーライトの製造方法。
【請求項2】
前記混合物を810℃以下の温度で焼成する、請求項1に記載のビーライトの製造方法。
【請求項3】
前記混合物が、10MPa以上の圧力で加圧された加圧混合物である、請求項1又は2に記載のビーライトの製造方法。
【請求項4】
前記混合物が、加圧されていない非加圧混合物である、請求項1又は2に記載のビーライトの製造方法。
【請求項5】
表色系におけるbが5以下である、ビーライト。
【請求項6】
表色系におけるLが90以上である、ビーライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビーライトはセメントの製造原料の1種であり、その主成分はケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO)であり、「CS」とも称される。ビーライトの結晶構造としては、α型、β型及びγ型が知られており、セメントの製造に使用されるのは主にβ型のものであって、これは「β-CS」、「β-2CaO・SiO」等と称される。
【0003】
ビーライトの従来の製造方法としては、例えば、炭酸カルシウム(CaCO)及び二酸化ケイ素(SiO)を含有する混合物を1500℃程度の温度で焼成する製造方法が知られている。このような製造方法では、これら原料以外に、酸化アルミニウム(Al)、ホウ酸(B(OH))等が併用される(特許文献1~2参照)。
【0004】
ビーライトの従来の製造方法としては、他にも、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム及び酸化鉄(III)(Fe)を含有する混合物を1000℃程度で加熱処理し、その生成物を水と混合した後、得られた混合物を造粒後に、1450℃で焼成することでビーライトを製造する方法(特許文献3参照)が開示されている。
【0005】
ビーライトの従来の製造方法としては、さらに、酸化カルシウムと二酸化ケイ素を含有する混合物に、ケイ酸カルシウム水和物の種結晶を加えた後、これを水熱処理することによって、中間生成物としてケイ酸カルシウム水和物を調製した後、この中間生成物を500~1000℃程度の温度で加熱することにより、ビーライトを製造する方法(特許文献4参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/016234号
【特許文献2】特開2007-119258号公報
【特許文献3】国際公開第2012/105102号
【特許文献4】特表2009-504549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~2で開示されている製造方法では、1500℃程度という極めて高温での原料の焼成が必要であった。
特許文献3で開示されている製造方法では、2段階の加熱を伴う処理が必要であり、工程が煩雑であり、2段階目での焼成では、1450℃という極めて高温での原料の焼成が必要であった。
特許文献4で開示されている製造方法では、多段階の製造工程を必要とし、水熱処理に数十時間という長時間を要していた。
【0008】
このように、従来のビーライトの製造方法では、極めて高温での焼成を必要とするか、工程が煩雑であるという問題点があった。このように高温での焼成処理によって、得られたビーライトは、不純物の含有量が多くなってしまい、さらに高温での焼成処理では膨大な量のエネルギーを消費してしまい、二酸化炭素の排出量も増大してしまう。一方、工程が煩雑であると、ビーライトを安価に製造できず、また、製造に長時間を要することによって、エネルギーの消費量と二酸化炭素の排出量もが増大してしまうこともある。
【0009】
本発明は、極めて高温での原料の焼成を必要とせず、工程が単純なビーライトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成を採用する。
[1].ビーライトの製造方法であって、前記製造方法は、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムのいずれか一方又は両方と、二酸化ケイ素と、添加剤と、の混合物を焼成する工程を有し、前記添加剤が、塩化リチウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び硝酸リチウムからなる群より選択される1種又は2種以上である、ビーライトの製造方法。
[2].前記混合物を810℃以下の温度で焼成する、[1]に記載のビーライトの製造方法。
【0011】
[3].前記混合物が、10MPa以上の圧力で加圧された加圧混合物である、[1]又は[2]に記載のビーライトの製造方法。
[4].前記混合物が、加圧されていない非加圧混合物である、[1]又は[2]に記載のビーライトの製造方法。
[5].L表色系におけるbが5以下である、ビーライト。
[6].L表色系におけるLが90以上である、ビーライト。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極めて高温での原料の焼成を必要とせず、工程が単純なビーライトの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図2】実施例2において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図3】実施例3において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図4】実施例4において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図5】実施例5において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図6】実施例6において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図7】実施例7において、原料焼成時に採取した試料のXRD法でのスペクトルデータである。
図8】実施例4における、原料の焼成開始から1時間の段階で採取した試料の、走査型電子顕微鏡による撮像データである。
図9】試験例1における実施例1のビーライトの水和実験の結果を示すグラフである。
図10】試験例1における比較例3のビーライトの水和実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<<ビーライトの製造方法>>
本発明の一実施形態に係るビーライトの製造方法は、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムのいずれか一方又は両方と、二酸化ケイ素と、添加剤と、の混合物を焼成する工程(本明細書においては、「焼成工程」と称することがある)を有し、前記添加剤が、塩化リチウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び硝酸リチウムからなる群より選択される1種又は2種以上である。
本実施形態の製造方法によれば、上述の特定範囲の添加剤を用いることによって、極めて高温での原料の焼成を必要とせず、さらに、単純な工程でビーライトを製造できる。
【0015】
前記製造方法で得られるビーライトは、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO、CS)である。ビーライトの結晶構造としては、α型、β型及びγ型が知られているが、前記製造方法で得られるのは、主にβ型ビーライト(β-CS、β-2CaO・SiO)であり、これはセメントの製造原料として使用できる。
【0016】
前記焼成工程においては、炭酸カルシウム(CaCO)及び水酸化カルシウム(CaOH)のいずれか一方又は両方と、二酸化ケイ素(SiO)と、添加剤と、の混合物を焼成する。本実施形態において、前記混合物は焼成工程で用いる原料(焼成原料)である。
【0017】
前記焼成工程においては、水酸化カルシウムを用いずに炭酸カルシウムを用いてもよいしい、炭酸カルシウムを用いずに水酸化カルシウムを用いてもよいしい、炭酸カルシウムと水酸化カルシウムをともに用いてもよい。
【0018】
前記焼成工程で用いる炭酸カルシウムは、高純度なものほど好ましく、例えば、炭酸カルシウムの純度は、97質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
前記焼成工程で用いる水酸化カルシウムは、高純度なものほど好ましく、例えば、水酸化カルシウムの純度は、96質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
前記焼成工程においては、二酸化ケイ素として、シリカフューム中のものを用いてもよい。すなわち、前記混合物の調製時には、シリカフュームを配合することで、二酸化ケイ素を配合してもよい。
前記焼成工程においては、二酸化ケイ素として、高温石英(別名:β石英)又は低温石英(別名:α石英)を用いてもよく、α石英の純度は、94質量%以上であることが好ましい。
【0021】
二酸化ケイ素の純度は、99質量%以上であることが好ましい。
【0022】
前記混合物において、二酸化ケイ素の含有量(モル)に対する、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムの合計含有量(モル)の比率([前記混合物の炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムの合計含有量(モル)]/[前記混合物の二酸化ケイ素の含有量(モル)]、本明細書においては、「(CaCO+CaOH)/SiOモル比」と称することがある)は、特に限定されないが、1~3であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。(CaCO+CaOH)/SiOモル比がこのような範囲であることで、ビーライトの収率及び純度がより高くなる。
【0023】
前記添加剤は、塩化リチウム(LiCl)、塩化アルミニウム(AlCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)及び硝酸リチウム(LiNO)からなる群より選択される1種又は2種以上である。
前記添加剤として用いる塩化アルミニウムは、無水和物であってもよいし、六水和物であってもよい。
前記添加剤として用いる塩化マグネシウムは、無水和物であってもよいし、二水和物、四水和物、六水和物、八水和物及び十二水和物のいずれかの水和物であってもよい。
前記添加剤として用いる塩化カルシウムは、無水和物であってもよいし、二水和物であってもよい。
前記添加剤として用いる硝酸カリウムは、無水和物である。
前記添加剤は、前記混合物において、焼成時には液状となり、残りの成分に浸透することによって焼成を促進する融剤として作用可能であると推測される。
【0024】
前記混合物が含有する前記添加剤が2種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、特に限定されない。
【0025】
ビーライトの製造がより容易であり、より効率的である点では、前記添加剤は、塩化リチウムであることが好ましい。
すなわち、前記焼成工程においては、前記添加剤として、少なくとも塩化リチウムを用いることが好ましい。より具体的には、前記焼成工程においては、前記添加剤として、塩化リチウムのみを用いるか、又は、塩化リチウムと、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム及び硝酸リチウムからなる群より選択される1種又は2種以上と、を用いることが好ましい。
【0026】
前記混合物の前記添加剤の含有量は、後述する焼成条件を考慮して、適宜調節できる。
通常、前記混合物において、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び二酸化ケイ素の合計含有量に対する、前記添加剤の含有量の割合([前記混合物の前記添加剤の含有量(質量部)]/([前記混合物の炭酸カルシウムの含有量(質量部)]+[前記混合物の水酸化カルシウムの含有量(質量部)]+[前記混合物の二酸化ケイ素の含有量(質量部)])×100)は、0.35質量%以上であることが好ましい。
【0027】
前記混合物としては、これを加圧することにより得られた加圧混合物(換言すると圧粉体)を用いることができる。すなわち、前記焼成工程においては、前記混合物を加圧することにより得られた前記加圧混合物を焼成できる。
前記混合物が加圧混合物であることは、例えば、前記混合物が固形状であり、粉末状ではないことで、確認できる。
【0028】
前記混合物としては、加圧されていない非加圧混合物も用いることができる。すなわち、前記焼成工程においては、前記混合物として、加圧されていない前記非加圧混合物を焼成できる。本実施形態においては、前記非加圧混合物を用いる場合、より単純な工程でビーライトを製造できる。
前記混合物が非加圧混合物であることは、例えば、前記混合物が粉末状であり、固形状ではないことで、確認できる。
【0029】
前記加圧混合物を用いる場合には、前記混合物(加圧混合物)において、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び二酸化ケイ素の合計含有量に対する、前記添加剤の含有量の割合は、0.35質量%以上であることが好ましく、例えば、0.45質量%以上であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、ビーライトの収率及び純度がより高くなる。
【0030】
前記混合物として前記加圧混合物を用いる場合、前記割合の上限値は、特に限定されない。前記添加剤の過剰使用が抑制される点では、前記割合は、1質量%以下であることが好ましい。
【0031】
前記混合物として前記加圧混合物を用いる場合、前記割合は、例えば、0.35~1質量%、及び0.45~1質量%のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記割合の一例である。
【0032】
例えば、前記混合物を加圧することなく用いる場合(非加圧混合物を用いる場合)には、前記混合物において、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び二酸化ケイ素の合計含有量に対する、前記添加剤の含有量の割合は、3質量%以上であることが好ましく、例えば、5質量%以上であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、ビーライトの収率及び純度がより高くなる。
【0033】
前記混合物を加圧することなく用いる場合、前記割合の上限値は、特に限定されない。前記添加剤の過剰使用が抑制される点では、前記割合は、15質量%以下であることが好ましい。
【0034】
前記混合物を加圧することなく用いる場合、前記割合は、例えば、3~15質量%、及び5~15質量%のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記割合の一例である。
【0035】
前記混合物は、炭酸カルシウムと、水酸化カルシウムと、二酸化ケイ素と、前記添加剤と、のいずれにも該当しない他の成分を含有していてもよい。
前記他の成分は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。
前記混合物が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0036】
前記混合物において、前記混合物の総質量に対する、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、二酸化ケイ素及び前記添加剤の合計含有量の割合(([前記混合物の炭酸カルシウムの含有量(質量部)]+[前記混合物の水酸化カルシウムの含有量(質量部)]+[前記混合物の二酸化ケイ素の含有量(質量部)]+[前記混合物の前記添加剤の含有量(質量部)])/[前記混合物の総質量(質量部)]×100)は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、ビーライトの収率、純度及び白色度がより高くなる。
換言すると、上記と同様の理由で、前記混合物において、前記混合物の総質量に対する、前記他の成分の含有量の割合([前記混合物の前記他の成分の含有量(質量部)]/[前記混合物の総質量(質量部)]×100)は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であってもよい。
【0037】
前記混合物を調製するときの、各成分(炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、二酸化ケイ素、前記添加剤、必要に応じて前記他の成分)の配合順序は、特に限定されず、例えば、1種の成分又は2種以上の成分の混合物(本明細書にいては、焼成対象の前記混合物と区別するために、「中間混合物」と称することがある)に対して、残りの成分を1種ずつ配合してもよいし、残りの2種以上の成分を同時に配合してもよいし、残りの2種以上の成分の別の中間混合物を配合してもよい。
【0038】
なかでも、前記混合物を調製するときは、前記添加剤を最後に配合することが好ましい。このようにすることで、前記添加剤が、焼成時に前記混合物において、残りの成分に対してより均一に浸透することによって、焼成を促進する融剤として、より有効に作用すると推測される。また、前記添加剤のうち、塩化リチウム及び塩化アルミニウムは潮解性を有しており、塩化マグネシウムは吸湿性を有しているため、前記添加剤を最後に配合することによって、これらの取り扱い性がより良好となる。
このような観点では、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、二酸化ケイ素、及び必要に応じて前記他の成分が配合された中間混合物に、前記添加剤を配合することで、前記混合物を調製することが好ましい。
【0039】
前記混合物は前記加圧混合物であることが好ましい。前記加圧混合物においては、その焼成時に、前記添加剤が残りの成分により均一に浸透することによって、焼成を促進する融剤として、より有効に作用すると推測される。そして、このように前記添加剤が浸透するために、前記加圧混合物においては、前記添加剤の含有量を低減できる。
【0040】
このような加圧時の効果がより高くなる点では、前記混合物は、10MPa以上の圧力で加圧された加圧混合物であることが好ましく、50MPa以上及び90MPa以上のいずれかの圧力で加圧された加圧混合物であってもよい。
【0041】
前記混合物を加圧時の圧力の上限値は、特に限定されない。例えば、150MPa以下の圧力で加圧された加圧混合物は、過剰な加圧が不要であり、より容易に作製できる。
例えば、前記混合物は、10~150MPa50~150MPa、及び90~150MPaのいずれかの圧力で加圧された加圧混合物であってもよい。ただし、これらは、前記加圧混合物の一例である。
【0042】
前記混合物の加圧時間は、特に限定されないが、30~180秒であることが好ましく、例えば、40~120秒、及び50~90秒のいずれかであってもよい。
【0043】
前記焼成工程においては、前記混合物の加圧の有無によらず(前記混合物が加圧混合物であるか否かによらず)、前記混合物を焼成する温度(本明細書においては、「焼成温度」と称することがある)は、前記混合物の焼成が可能であれば、特に限定されない。
【0044】
ビーライトの収率、純度及び白色度がより高くなり、ビーライトを製造時のエネルギー消費量と二酸化炭素排出量をより削減できる点では、前記混合物を810℃以下の温度で焼成することが好ましく、例えば、760℃以下、710℃以下、及び660℃以下のいずれかの温度で焼成してもよい。
【0045】
前記混合物をより短時間で焼成できる点では、前記混合物は、640℃以上の温度で焼成することが好ましく、例えば、670℃以上、690℃以上、740℃以上、及び790℃以上のいずれかの温度で焼成してもよい。
【0046】
前記混合物は、例えば、640~810℃、670~810℃、690~810℃、740~810℃、及び790~810℃のいずれかの温度で焼成してもよいし、640~760℃、640~710℃、及び640~660℃のいずれかの温度で焼成してもよいし、670~760℃、及び690~710℃のいずれかの温度で焼成してもよい。
【0047】
前記混合物は、前記添加剤の融点以上の温度で焼成することが好ましく、前記添加剤の融点以上の温度で、かつ、上述のいずれかの数値範囲の温度で焼成することがより好ましい。このような温度で焼成することで、ビーライトの収率、純度及び白色度がより一層高くなり、ビーライトを製造時のエネルギー消費量と二酸化炭素排出量をより一層削減できる。
【0048】
前記焼成工程においては、前記混合物の加圧の有無によらず(前記混合物が加圧混合物であるか否かによらず)、前記混合物を焼成する時間(本明細書においては、「焼成時間」と称することがある)は、前記混合物の焼成が可能であれば、特に限定されない。
【0049】
前記混合物の焼成時間は、例えば、焼成温度に応じて適宜調節できる。
通常、焼成時間は、0.05~7時間であることが好ましく、0.1~5時間であることがより好ましい。焼成温度が上述のいずれかの数値範囲である場合に、このような焼成時間は、特に好ましい。
【0050】
焼成温度が上述のいずれかの数値範囲内で低めである場合には、焼成時間は上述のいずれかの数値範囲内で長めであることが好ましく、焼成温度が上述のいずれかの数値範囲内で高めである場合には、焼成時間は上述のいずれかの数値範囲内で短めであることが好ましい。このようにすることで、ビーライトの収率、純度及び白色度がより一層高くなり、ビーライトを製造時のエネルギー消費量と二酸化炭素排出量をより一層削減できる。
【0051】
前記焼成工程は、大気下で行うことができる。
【0052】
前記焼成工程後は、前記焼成工程で得られた焼成物を冷却することにより、目的とするビーライトが得られる。
前記焼成物の冷却は、放冷(換言すると自然冷却)によって行ってもよいし、公知の冷却手段を用いて強制的に行ってもよい。従来の製造方法では、通常、焼成で得られたビーライトを、冷却手段を用いて急冷する必要があったが、本実施形態では、急冷は必須ではなく、放冷による冷却が可能である。
【0053】
前記製造方法は、前記焼成工程以外に、さらに、1種又は2種以上の他の工程を有していてもよい。
前記他の工程の種類は、本発明の効果を損なわなければ、特に限定されず、任意に選択できる。
前記他の工程を行うタイミングは、前記他の工程の種類に応じて、任意に選択でき、例えば、前記焼成工程の前後のいずれであってもよい。
【0054】
前記他の工程としては、例えば、前記焼成工程後に、前記焼成物から前記添加剤を除去する除去工程が挙げられる。前記除去工程を行うことで、ビーライトと、ビーライトを用いて得られた製品(例えばセメント)において、前記添加剤の残留量を低減でき、これら(ビーライト、前記製品)の品質を向上させることができる。
【0055】
前記除去工程は、例えば、前記焼成工程後の加熱された状態の前記焼成物から、気化された前記添加剤(換言すると、気体状の前記添加剤)を除去することにより、行うことができる。
【0056】
前記除去工程においては、例えば、前記焼成工程後に前記焼成物に対する加熱を行うことなく、前記焼成工程での余熱を利用して、加熱された状態の前記焼成物から、気化された前記添加剤(換言すると、気体状の前記添加剤)を除去できる。
また、前記除去工程においては、例えば、前記焼成工程後に前記焼成物に対する加熱を行い、加熱された状態の前記焼成物から、気化された前記添加剤(換言すると、気体状の前記添加剤)を除去できる。この場合、前記焼成物中の気化していない前記添加剤を、前記加熱によって気化させてもよい。
【0057】
前記製造方法においては、前記除去工程を、前記焼成工程後に直ちに連続して行うことが好ましい。このようにすることで、加熱された状態の前記焼成物から気体状の前記添加剤を直ちに除去できるため、前記添加剤を効率的に除去できる。
本明細書において、前記除去工程を前記焼成工程後に直ちに連続して行う、とは、例えば、前記焼成工程の終了時(前記混合物の焼成の終了時)から30分以内に、前記除去工程を開始することを意味する。そして、前記焼成工程の終了時とは、前記混合物の焼成によって、目的とするビーライトの生成量の増大が認められなくなった時点を意味する。
【0058】
前記除去工程は、例えば、加熱された状態の前記焼成物を、空気又は不活性ガスの気流下に置いて行うか、又は、加熱された状態の前記焼成物を減圧環境下に置いて行うことが好ましく、加熱された状態の前記焼成物を減圧環境下に置いて行うことがより好ましい。このようにすることで、加熱された状態の前記焼成物の温度を、前記添加剤の沸点以下としても、気体状の前記添加剤を除去できるため、前記除去工程をより短時間で行うことができる。なお、いずれかの添加剤が明確な沸点を有しない場合には、例えば、沸点ではなく、添加剤が分解する温度を指標にすることができる。
【0059】
加熱された状態の前記焼成物を不活性ガスの気流下に置いて、前記除去工程を行う場合、前記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0060】
加熱された状態の前記焼成物を、空気又は不活性ガスの気流下に置いて、前記除去工程を行う場合、加熱された状態の前記焼成物の温度は、除去対象の前記添加剤の沸点未満であってよく、700℃以上であることが好ましい。
【0061】
加熱された状態の前記焼成物を減圧環境下に置いて、前記除去工程を行う場合、前記減圧環境下の圧力は、除去対象の前記添加剤の種類(沸点)に応じて、適宜調節できる。通常、前記圧力は、前記添加剤の種類によらず、100Pa以下であることが好ましい。このようにすることで、気体状の前記添加剤をより容易に除去できる。
加熱された状態の前記焼成物を減圧環境下に置いて、前記除去工程を行う場合、加熱された状態の前記焼成物の温度は、除去対象の前記添加剤の沸点未満であってよく、650℃以上であることが好ましい。
【0062】
加熱された状態の前記焼成物を、空気又は不活性ガスの気流下と、減圧環境下と、のいずれにも置くことなく、前記除去工程を行う場合、加熱された状態の前記焼成物の温度は、除去対象の前記添加剤の沸点以上であることが必要である。
【0063】
前記除去工程は、例えば、前記焼成工程で得られた焼成物を、水により洗浄する(水洗を行う)ことでも、行うことができる。この場合、洗浄に用いる水の量は、特に限定されず、適宜調節できる。水による洗浄後の焼成物(ビーライト)は、公知の方法で乾燥させることが好ましい。
【0064】
前記製造方法は、前記除去工程以外の前記他の工程を有していないことが好ましい。このようにすることで、より単純な工程でビーライトを製造できる。
【0065】
<<ビーライト>>
本発明の一実施形態に係るビーライトのL表色系におけるbは、5以下である(本明細書においては、このようなビーライトを「ビーライト(1)」と称することがある)。
本発明の他の一実施形態に係るビーライトのL表色系におけるLは、90以上である(本明細書においては、このようなビーライトを「ビーライト(2)」と称することがある)。
前記ビーライト(1)及びビーライト(2)は、いずれも、結晶構造がβ型のβ-CS(β-2CaO・SiO)であり、従来のビーライト(β-CS)よりも、着色が顕著に少なく、白色である。
【0066】
ビーライト(1)及びビーライト(2)は、いずれも、白色であり、不純物量が少ないため、これらを用いて得られる製品(例えばセメント)は、従来よりも高品質である。
【0067】
ビーライト(1)及びビーライト(2)は、いずれも、上述の製造方法によって製造できる。
【0068】
ビーライト(1)のbは、5以下であり、例えば、2以下、及び-1以下のいずれかであってもよい。bがこのような条件を満たすビーライト(1)は、その白色度がより高い。
【0069】
ビーライト(1)のbの下限値は、特に限定されない。例えば、bが-4以上であるビーライト(1)は、より容易に製造できる。
【0070】
ビーライト(1)のbは、例えば、-4~5、-4~2、及び-4~-1のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記bの一例である。
【0071】
ビーライト(2)のLは、90以上であり、例えば、91.5以上、及び93以上のいずれかであってもよい。Lがこのような条件を満たすビーライト(2)は、その白色度がより高い。
【0072】
ビーライト(2)のLの上限値は、特に限定されない。例えば、Lが98.5以下であるビーライト(2)は、より容易に製造できる。
【0073】
ビーライト(2)のLは、例えば、90~98.5、91.5~98.5、及び93~98.5のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記Lの一例である。
【0074】
ビーライト(1)のLは、例えば、ビーライト(2)のLと同様の数値であってもよい。
すなわち、ビーライト(1)のLは、例えば、90以上、91.5以上、及び93以上のいずれかであってもよい。Lがこのような条件を満たすビーライト(1)は、その白色度がさらに高い。
ビーライト(1)のLの上限値は、特に限定されない。例えば、Lが98.5以下であるビーライト(1)は、より容易に製造できる。
ビーライト(1)のLは、例えば、90~98.5、91.5~98.5、及び93~98.5のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記Lの一例である。
【0075】
ビーライト(2)のbは、例えば、ビーライト(1)のbと同様の数値であってもよい。
すなわち、ビーライト(2)のbは、例えば、5以下、2以下、及び-1以下のいずれかであってもよい。bがこのような条件を満たすビーライト(2)は、その白色度がより高い。
ビーライト(2)のbの下限値は、特に限定されない。例えば、bが-4以上であるビーライト(2)は、より容易に製造できる。
ビーライト(2)のbは、例えば、-4~5、-4~2、及び-4~-1のいずれかであってもよい。ただし、これらは、前記bの一例である。
【0076】
ビーライト(1)のa、及びビーライト(2)のaは、それぞれ独立に、-3.5~-0.1、-2.5~-0.1、及び-1.5~-0.1のいずれかであってもよい。
【0077】
ビーライト(1)及びビーライト(2)はいずれも、例えば、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)法により、その構造を確認できる。
【0078】
ビーライト(1)及びビーライト(2)はいずれも、その着色の原因となる、酸化鉄(III)(酸化第二鉄、Fe)等の鉄化合物の含有量が、従来よりも大幅に少ないものとすることが可能である。
例えば、ビーライト(1)において、ビーライト(1)の総質量に対する、前記鉄化合物の含有量の割合([ビーライト(1)の前記鉄化合物の含有量(質量部)]/[ビーライト(1)の総質量(質量部)]×100)は、1質量%以下、0.5質量%以下、及び0.1質量%以下のいずれかとすることが可能である。
同様に、ビーライト(2)において、ビーライト(2)の総質量に対する、前記鉄化合物の含有量の割合([ビーライト(2)の前記鉄化合物の含有量(質量部)]/[ビーライト(2)の総質量(質量部)]×100)は、1質量%以下、0.5質量%以下、及び0.1質量%以下のいずれかとすることが可能である。
【0079】
ビーライト(1)及びビーライト(2)は、いずれも、白色であり、このようなビーライト(1)又はビーライト(2)を用いることで、例えば、白色セメントを製造可能である。また、このようなビーライト(1)又はビーライト(2)と、顔料等の着色剤を用いることで、白色以外の任意の着色セメント(白色以外の任意の色で着色されたセメント)を製造可能である。
このように、ビーライト(1)及びビーライト(2)は、種々の色のセメントを製造できる点で、極めて有用である。
【0080】
ビーライト(1)及びビーライト(2)の結晶は、いずれも、典型的には粒子状であり、繊維状ではない。
【実施例0081】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されない。
【0082】
<<ビーライトの製造>>
[実施例1]
常温下において、炭酸カルシウム(純度99.5質量%、5.0g)と二酸化ケイ素(純度99.9%、1.494g、炭酸カルシウムに対して0.5倍モル量)を混合し、さらにここへ塩化リチウム(0.0325g、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の合計量に対して0.5質量%)を添加して、混合物を得た。
得られた前記混合物を、圧力100MPa、加圧時間60秒の条件で、一軸加圧成形法により加圧成形し、直径約10mmのペレットを作製した。
【0083】
次いで、電気炉を用いて800℃で、このペレット(0.2g)を2時間焼成し、白色の焼成物を得た。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び2時間の段階で、試料を採取した。
そして、管電圧30kV、管電流16mA、スキャンスピード8°/minの条件により、X線回折法により、これら試料を分析した。分析には、これら試料の粉砕物を供した。このとき取得したスペクトルデータを図1に示す。
【0084】
図1から明らかなように、焼成開始から0.5時間後には、すでに十分な量のβ-CSが生成していた。焼成開始から0.5時間後、及び1時間後において、炭酸カルシウム及び二酸化ケイ素のピークは認められなかった。焼成開始から2時間後には、十分な量のビーライト(β-CS)が得られた。すなわち、上記で得られた白色の焼成物は、高純度のビーライト(β-CS)であった。
【0085】
上記で得られた、焼成開始から2時間後の試料(前記白色の焼成物)の粉砕物について、L表色系におけるL、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0086】
[実施例2]
表1に示すように、800℃に代えて750℃で、前記ペレットを焼成した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトを製造した。このとき、焼成開始から1時間、2時間及び3時間の段階で、試料を採取した。そして、実施例1の場合と同じ条件でX線回折法により、これら試料の粉砕物を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図2に示す。
また、焼成開始から3時間後の試料(焼成物)の粉砕物について、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0087】
図2から明らかなように、焼成開始から1時間後には、すでにβ-CSが生成していた。上記で得られたビーライト(β-CS)は、白色であり、高純度であった。
【0088】
[実施例3]
表1に示すように、800℃に代えて700℃で、前記ペレットを焼成した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトを製造した。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び3時間の段階で、試料を採取した。そして、実施例1の場合と同じ条件でX線回折法により、これら試料の粉砕物を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図3に示す。
また、焼成開始から3時間後の試料(焼成物)の粉砕物について、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0089】
図3から明らかなように、焼成開始から0.5時間後には、すでに十分な量のβ-CSが生成していた。上記で得られたビーライト(β-CS)は、白色であり、高純度であった。
【0090】
[実施例4]
表1に示すように、800℃に代えて680℃で、前記ペレットを焼成した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトを製造した。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び3時間の段階で、試料を採取した。そして、実施例1の場合と同じ条件でX線回折法により、これら試料の粉砕物を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図4に示す。
また、焼成開始から3時間後の試料(焼成物)の粉砕物について、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0091】
図4から明らかなように、焼成開始から0.5時間後には、すでにβ-CSが生成しており、最終的に十分な量のビーライト(β-CS)が生成していた。上記で得られたビーライト(β-CS)は、白色であり、高純度であった。
【0092】
[実施例5]
表1に示すように、800℃に代えて650℃で、前記ペレットを焼成した点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトを製造した。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び3時間の段階で、試料を採取した。そして、実施例1の場合と同じ条件でX線回折法により、これら試料の粉砕物を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図5に示す。
また、焼成開始から3時間後の試料(焼成物)の粉砕物について、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0093】
図5から明らかなように、焼成開始から0.5時間後では、β-CS以外にγ-CSのピークも見られ、酸化カルシウムと二酸化ケイ素のピークも見られ、反応の進行が不十分であった。そして、焼成の進行と共に、γ-CSと二酸化ケイ素のピークが小さくなり、これとは反対に、β-CSのピークが大きくなり、最終的にβ-CSが主生成物となった。この結果から、焼成時にγ-CSがβ-CSへと変化したことが示唆された。上記で得られたビーライト(β-CS)は、白色であり、高純度であった。
【0094】
[実施例6]
表1に示すように、塩化リチウムの使用量を、0.0325g(炭酸カルシウム、水酸化カルシウム及び二酸化ケイ素の合計量(ここでは実質的に、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の合計量。以下、同様。)に対して0.5質量%)に代えて0.02596g(炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の合計量に対して0.4質量%)とした点、及び800℃に代えて680℃で、前記ペレットを焼成した点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトを製造した。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び3時間の段階で、試料を採取した。そして、実施例1の場合と同じ条件でX線回折法により、これら試料の粉砕物を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図6に示す。
また、焼成開始から3時間後の試料(焼成物)の粉砕物について、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0095】
図6から明らかなように、焼成開始から0.5時間後及び1時間後では、β-CS以外にγ-CSのピークも見られ、さらに、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等のピークも見られ、反応の進行が不十分であった。そして、焼成開始から3時間後には、これら不純物のピークがほぼ消失しており、十分な量のビーライト(β-CS)が生成していた。本実施例でも、実施例5の場合と同様に、焼成の進行と共に、γ-CSと二酸化ケイ素のピークが小さくなり、これとは反対に、β-CSのピークが大きくなっており、焼成時にγ-CSがβ-CSへと変化したことが示唆された。上記で得られたビーライト(β-CS)は、白色であり、高純度であった。
【0096】
[実施例7]
表1に示すように、純度99.5質量%の炭酸カルシウム(5.0g)に代えて、純度98質量%の炭酸カルシウム(1級炭酸カルシウム、5.0g)を用いた点、及び800℃に代えて680℃で、前記ペレットを焼成した点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトを製造した。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び3時間の段階で、試料を採取した。そして、実施例1の場合と同じ条件でX線回折法により、これら試料の粉砕物を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図7に示す。
また、焼成開始から3時間後の試料(焼成物)の粉砕物について、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0097】
図7から明らかなように、焼成開始から0.5時間後及び1時間後では、β-CS以外にγ-CSのピークも見られ、さらに、二酸化ケイ素及び酸化カルシウムのピークも見られ、反応の進行が不十分であった。そして、焼成開始から3時間後には、これら不純物のピークがほぼ消失しており、十分な量のビーライト(β-CS)が生成していた。本実施例でも、実施例5の場合と同様に、焼成の進行と共に、γ-CSと二酸化ケイ素のピークが小さくなり、これとは反対に、β-CSのピークが大きくなっており、焼成時にγ-CSがβ-CSへと変化したことが示唆された。上記で得られたビーライト(β-CS)は、白色であり、高純度であった。
【0098】
[参考例1]
表1に示すように、塩化リチウムの使用量を、0.03245g(炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の合計量に対して0.5質量%)に代えて0.01623g(炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の合計量に対して0.25質量%)とした点、及び800℃に代えて680℃で、前記ペレットを焼成した点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ビーライトの製造を試みた。このとき、焼成開始から0.5時間、1時間及び3時間の段階で、試料を採取した。その結果、焼成開始から3時間後でも、β-CSの生成を確認できなかった。なお、焼成時間の延長、焼成温度の800℃以下での高温化等、何らかの焼成条件の変更により、β-CSの生成が可能であると推測された。
【0099】
[比較例1]
表1に示すように、「国際公開第2012/105102号」(前記特許文献3)の実施例に記載の方法において、CaO/SiOモル比を2とし、Feの含有量を0.7%とし、Alの含有量を1.4%とし、焼成温度を1450℃とし、焼成時間を2時間とした方法で、ビーライト(β-CS)を製造した。その結果、茶色の目的物が得られた。このビーライトについて、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0100】
[比較例2]
表1に示すように、「国際公開第2012/105102号」(前記特許文献3)の実施例に記載の方法において、CaO/SiOモル比を2とし、Feの含有量を1.3%とし、Alの含有量を1.4%とし、焼成温度を1450℃とし、焼成時間を2時間とした方法で、ビーライト(β-CS)を製造した。その結果、濃茶色の目的物が得られた。このビーライトについて、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0101】
[比較例3]
炭酸カルシウム(純度99.5質量%)と、二酸化ケイ素と、酸化アルミニウムと、酸化マグネシウムと、酸化鉄(III)と、炭酸水素ナトリウムと、炭酸水素カリウムと、を混合し、混合物を得た。
得られた前記混合物を加圧成形し、厚さ約7mm、直径30mmのペレットを作製した。
【0102】
次いで、電気炉を用いて1500℃で、このペレットを3.5時間焼成した。
そして、得られた焼成物を、X線回折法により分析し、ビーライト(β-CS)が得られたことを確認した。得られたビーライト(β-CS)は、濃灰色であった。このビーライトについて、実施例1の場合と同じ方法で、L、a及びbを測定した。結果を表2に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
上記結果から明らかなように、実施例1~7においては、前記混合物の調製、前記ペレットの作製、及び前記ペレットの一段階焼成という単純な工程により、ビーライトを製造できた。さらに、前記ペレットは、650~800℃という従来よりも大幅に低い温度で、かつ2~3時間という短時間で焼成しており、工程時間の短縮と、製造時のエネルギー消費量と、製造時の二酸化炭素排出量と、の低減に寄与可能であった。そして、得られたビーライト(β-CS)は、いずれも白色であり、高純度であった。また、得られたビーライトを電子顕微鏡で確認した結果、いずれも粒子状であった。実施例4において、焼成開始から1時間の段階で採取した試料の、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)による撮像データを図8に示す。
【0106】
実施例1~7においては、前記混合物において、炭酸カルシウムと二酸化ケイ素の合計含有量に対する、添加剤(塩化リチウム)の含有量の割合が、0.4~0.5質量%であり、添加剤の使用量が少量であっても、高純度なビーライトが得られた。これは、前記混合物ではなく、前記混合物を加圧成形(圧力100MPa、加圧時間60秒)して得られた前記ペレットを焼成に供したためであった。
【0107】
実施例1~7においては、ビーライトのbが-1.2以下(-2.5~-1.2)であり、ビーライトのLが93.8以上(93.8~97.9)であった。
【0108】
これに対して、比較例1~3においては、原料の焼成温度が1450℃又は1500℃と極めて高温であった。また、その影響で、得られたビーライト(β-CS)は白色ではなく、着色しており、不純物量が多いと推測された。さらに、原料の1種としてFeを用いていることにより、その使用量の増大に伴い、ビーライトの着色が顕著であった。
【0109】
[試験例1]
上記の実施例1で得られたビーライト(0.5g)を、水(50mL)中に添加し、乾燥機内で40℃の温度で保持することにより、ビーライトを水和させた。そして、水和開始から3日後及び16日後に、ろ過により試料を採取し、管電圧30kV、管電流16mA、スキャンスピード8°/minの条件により、X線回折法により、この試料を分析した。このとき取得したスペクトルデータを図9に示す。
【0110】
上記の比較例3で得られたビーライトも、同様に水和させた。そして、水和開始から3日後及び37日後に、ろ過により試料を採取し、上記と同様の方法で、X線回折法により分析した。このとき取得したスペクトルデータを図10に示す。
【0111】
図9に示すように、実施例1のビーライトの場合、水和開始から16日後に、水和開始から3日後よりも、2θが20°~30°の領域で、回折X線強度が高くなっていた。これは、ビーライトの水和によって、シリカゲル又はケイ酸カルシウムが生成していることを示していた。また、水和開始から16日後に、水和開始から3日後よりも、2θが29°付近の領域で回折X線強度が顕著に高くなっていた。これは、ビーライトの水和によって、水酸化カルシウムが生成し、この水酸化カルシウムがさらに空気中の二酸化炭素と反応することで、炭酸カルシウムが生成していることを示していた。
【0112】
これに対して、比較例3のビーライトの場合、水和開始から37日後と、水和開始から3日後とでは、回折X線強度の明確な変化が認められなかった。例えば、水和開始から37日後でも、水和開始から3日後よりも、2θが20°~30°の領域で、回折X線強度が高くなっているとはいえず、また、水和開始から37日後に、水和開始から3日後よりも、2θが29°付近の領域で回折X線強度が高くなっているともいえなかった。これは、比較例3のビーライトでは、水和開始から37日後であっても、水和がほとんど進行していないことを示していた。
このように、実施例1のビーライトは、比較例3のビーライトよりも、水和の速度が顕著に速かった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、セメントの製造に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10