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  • 特開-薄肉鋳片の製造方法 図1
  • 特開-薄肉鋳片の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026036
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131620
(22)【出願日】2021-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴士
(72)【発明者】
【氏名】金川 浩太
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004SC05
4E004SE06
4E004SE07
(57)【要約】
【課題】均一な柱状晶組織を有する薄肉鋳片を、破断することなく安定して製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供する。
【解決手段】回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記冷却ドラムの抜熱量Wが7.5MW/m以上とされ、前記溶融金属プール部内の前記溶融金属の温度tが、前記溶融金属の液相線温度t1に対して、t1+10℃≦t≦t1+30℃の範囲内とされ、前記冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが24N/mm以上75N/mm以下の範囲内とされていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記冷却ドラムの抜熱量Wが7.5MW/m以上とされ、
前記溶融金属プール部内の前記溶融金属の温度tが、前記溶融金属の液相線温度t1に対して、t1+10℃≦t≦t1+30℃の範囲内とされ、
前記冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが24N/mm以上75N/mm以下の範囲内とされていることを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、前記冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をロールキス点で接合して圧下し、薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、例えば、特許文献1に示すように、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶融金属プール部に、タンディッシュから浸漬ノズルを介して溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法は、各種金属において適用されている。
上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、最終製品に近似した形状の薄肉鋳片を製造することができ、エネルギー消費および製造コストを低くすることが可能となる。
【0003】
また、上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、例えば特許文献2に示すように、冷却ドラム間にダミーシートを挟持しておき、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼プール部に溶鋼を供給しながら冷却ドラムを回転させて、ダミーシートに連結するように薄肉鋳片を形成し、冷却ドラム間からダミーシートおよびこのダミーシートに連結された薄肉鋳片を引き出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/239868号
【特許文献2】特開2019-098342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、前記冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力(以下、押付力と記すことがある)を強くした場合には、生成した柱状晶組織が破壊され、組織の均一性が損なわれるおそれがある。そこで、柱状晶組織を均一に形成するために、冷却ドラムの押付力を適正に制御する必要がある。
また、鋳造開始時に、ダミーシートと薄肉鋳片との連結部の強度を確保しない場合には、鋳造時に薄肉鋳片が破断し、鋳造が停止してしまう。このため、冷却ドラムの押付力を一定値以上確保し、十分に凝固を進行させる必要があった。
以上のように、冷却ドラムの押付力制御のみでは、柱状晶組織を均一化と、鋳造安定化と、を両立することは困難であった。
【0006】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、均一な柱状晶組織を有する薄肉鋳片を、破断することなく安定して製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討した結果、溶融金属プール部内の溶融金属の温度を適正の範囲内に設定することで、冷却ドラムの押付力を高く設定しても、柱状晶の破壊を抑制でき、柱状晶率が高くて均一な薄肉鋳片を安定して製造可能となる、との知見を得た。
【0008】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記冷却ドラムの抜熱量Wが7.5MW/m以上とされ、前記溶融金属プール部内の前記溶融金属の温度tが、前記溶融金属の液相線温度t1に対して、t1+10℃≦t≦t1+30℃の範囲内とされ、前記冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが24N/mm以上75N/mm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0009】
この構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、冷却ドラムの抜熱量Wが7.5MW/m以上とされ、前記溶融金属プール部内の溶融金属の温度tが上述の範囲内とされているので、柱状晶組織が十分に生成されるとともに、薄肉鋳片の強度を確保することができる。さらに、前記冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが上述の範囲内とされているので、柱状晶組織が破壊されることを抑制できるとともに、薄肉鋳片の強度を確保することができる。
よって、均一な柱状晶組織を有する薄肉鋳片を、破断することなく安定して製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
上述のように、本発明によれば、均一な柱状晶組織を有する薄肉鋳片を、破断することなく安定して製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す双ドラム式連続鋳造装置の冷却ドラム付近の拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが1.0mm以上2.4mm以下の範囲内とされている。
【0013】
まず、本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる双ドラム式連続鋳造装置10について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置10は、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール12、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼プール部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ20と、このタンディッシュ20から溶鋼プール部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル18と、を備えている。
なお、本実施形態では、図1に示すように、冷却ドラム11の鉛直方向下方側に向けて薄肉鋳片1が製出され、この薄肉鋳片1を湾曲させ、ピンチロール13によって水平方向に搬送する構造とされている。
【0014】
ここで、本実施形態においては、冷却ドラム11の抜熱量Wが7.5MW/m以上とされている。
なお、冷却ドラム11は、内部に冷却水が流通する構造とされており、冷却ドラム11の材質、冷却水の流通条件等によって、冷却ドラム11の抜熱量Wを調整することが可能となる。
【0015】
次に、上述の双ドラム式連続鋳造装置10を用いた本実施形態の薄肉鋳片1の製造方法について説明する。
【0016】
一対の冷却ドラム11,11とサイド堰15,15によって形成された溶鋼プール部16に、タンディッシュ20から浸漬ノズル18を介して溶鋼3を供給するとともに、一対の冷却ドラム11、11を回転方向Rに向けて、すなわち、一対の冷却ドラム11,11同士が近接する領域が薄肉鋳片1の引抜方向(図1においては下方向)に向かうように、それぞれの冷却ドラム11,11を回転させる。このとき、冷却ドラム11,11同士を互いに近接する方向に押圧しておく。
【0017】
すると、冷却ドラム11の周面には、凝固シェル5が形成される。そして、冷却ドラム11の周面上で凝固シェル5が成長し、一対の冷却ドラム11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5,5同士がドラムキス点で圧着されることにより、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0018】
なお、本実施形態において、薄肉鋳片1の厚さが1.0mm以上2.4mm以下の範囲内である場合には、冷却ドラム11と溶鋼3との接触時間Tが0.1秒以上0.5秒以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、冷却ドラム11と溶鋼3との接触時間Tは、0.12秒以上であることがさらに好ましく、0.15秒以上であることがより好ましい。また、冷却ドラム11と溶鋼3との接触時間Tは、0.4秒以下であることがさらに好ましく、0.35秒以下であることがより好ましい。
【0019】
冷却ドラム11と溶鋼3との接触時間Tは、冷却ドラム11と溶鋼3との接触長さL(m)と鋳造速度v(m/min)とから、以下の式で算出される。
T(秒)=L/v×60
また、冷却ドラム11と溶鋼3との接触長さL(m)は、図2に示すように、鋳造弧角θ(°),冷却ドラム11の直径D(m)から、以下の式で算出される。
L(m)=D×π×(θ/360)
よって、冷却ドラム11と溶鋼3との接触時間Tは、冷却ドラム11の直径Dに応じて、鋳造速度vおよび鋳造弧角θを調整することにより、上述の範囲内に設定することができる。
【0020】
また、本実施形態においては、溶鋼プール部16内の溶鋼3の温度tは、溶鋼3の液相線温度t1に対して、t1+10℃≦t≦t1+30℃の範囲内となるように設定されている。溶鋼プール部16内の溶鋼3の温度tは、タンディッシュ20内の溶鋼3の温度を調整することにより、上述の範囲内に設定することができる。
液相線温度は、示差熱分析によって実測する方法、実験的に求めた液相線温度を鋼の組成の関数で表した式を用いて算定する方法、平衡状態図計算による方法などによって求めることができる。
なお、溶鋼プール部16内の溶鋼3の温度tは、t1+11℃以上であることが好ましく、t1+24℃以上であることがより好ましい。また、溶鋼プール部16内の溶鋼3の温度tは、t1+29℃以下であることが好ましく、t1+26℃以下であることがより好ましい。
【0021】
さらに、本実施形態においては、冷却ドラム11の単位幅長さ当たりの押付力Pが24N/mm以上75N/mm以下の範囲内とされている。
なお、冷却ドラム11の単位幅長さ当たりの押付力Pは、70N/mm以下であることが好ましく、50N/mm以下であることがより好ましい。
【0022】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法によれば、冷却ドラム11の抜熱量Wが7.5MW/m以上とされ、溶鋼プール部16内の溶鋼3の温度tが上述の範囲内とされているので、柱状晶組織が十分に生成されるとともに、薄肉鋳片1の強度を確保することができる。さらに、冷却ドラム11の単位幅長さ当たりの押付力Pが上述の範囲内とされているので、柱状晶組織が破壊されることを抑制できるとともに、薄肉鋳片1の強度を確保することができる。
よって、均一な柱状晶組織を有する薄肉鋳片1を、破断することなく安定して製造することが可能となる。
【0023】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、図1及び図2に示す双ドラム式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の構造の双ドラム式連続鋳造装置を用いたものであってもよい。
【実施例0024】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を用いて、C:0.02mass%,Si:3.5mass%,Al:0.6mass%,Mn:0.2mass%を含有する溶鋼により、薄肉鋳片を製造した。なお、本鋼種の液相線温度t1は、実験的に求めた液相線温度を鋼の組成の関数で表した式の一つである平居の式(日本鉄鋼協会編、第3版鉄鋼便覧I基礎、丸善、1981年、205頁)を用いて算定し、1490℃とした。
ここで、冷却ドラムの直径を600mm(0.6m)、冷却ドラム幅を400mm(0.4m)とした。また、薄肉鋳片の厚さを、表1,2に示すように、本発明例1~4および比較例1~5では1.0mm、本発明例5では1.9mm、本発明例6では2.4mmとした。
【0025】
そして、表に記載の条件で薄肉鋳片の鋳造を実施した。450kgの溶鋼を用いて連続鋳造した際の板破断の有無、および、得られた薄肉鋳片の柱状晶率を評価した。
なお、柱状晶率は、冷却ドラムの10回転毎に薄肉鋳片の全幅をサンプリングし、幅の両端20mmを除く幅方向の金属組織を観察し、薄肉鋳片の厚さに占める柱状晶の比率の最小値を、表に記載した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
比較例1においては、溶鋼プール部内の溶鋼温度tが溶鋼の液相線温度t1に対してt=t1+40℃とされており、鋳造中に鋳片の破断が発生した。溶鋼温度が高く、薄肉鋳片の強度が不足したためと推測される。
比較例2においては、冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが80N/mmとされており、柱状晶率が50%と低くなった。冷却ドラムの押圧によって柱状晶が破壊されたためと推測される。
比較例3においては、冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが20N/mmとされており、鋳造中に鋳片の破断が発生した。凝固が十分に進行せず、薄肉鋳片の強度が不足したためと推測される。
【0029】
比較例4においては、溶鋼プール部内の溶鋼温度tが溶鋼の液相線温度t1に対してt=t1+9℃とされており、柱状晶率が60%と低くなった。溶鋼温度が低く、柱状晶が十分に成長しなかったためと推測される。
比較例5においては、冷却ドラムの抜熱量Wが7.4MW/mとされるとともに、冷却ドラムの単位幅長さ当たりの押付力Pが15N/mmとされており、鋳造中に鋳片の破断が発生するとともに、柱状晶率が60%と低くなった。凝固が十分に進行せず、薄肉鋳片の強度が不足し、かつ、柱状晶が十分に成長しなかったためと推測される。
【0030】
これに対して、本発明で規定した条件を満足する本発明例1-6においては、鋳造中の鋳片の破断は発生せず、安定して鋳造することができた。また、柱状晶率が95%以上となり、柱状晶率の高い薄肉鋳片を得ることができた。
【0031】
以上の結果から、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法によれば、均一な柱状晶組織を有する薄肉鋳片を、破断することなく安定して製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0032】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼(溶融金属)
5 凝固シェル
10 双ドラム式連続鋳造装置
11 冷却ドラム
15 サイド堰
16 溶鋼プール部(溶融金属プール部)
18 浸漬ノズル
20 タンディッシュ
図1
図2