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特開2023-26056印刷用シート及び印刷用シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023026056
(43)【公開日】2023-02-24
(54)【発明の名称】印刷用シート及び印刷用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 7/00 20060101AFI20230216BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230216BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230216BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230216BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230216BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230216BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20230216BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G03G7/00 J
B32B27/32
B32B27/30 A
C09D7/61
C09D133/00
C09D5/02
G03G7/00 M
D21H19/38
B32B27/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021131658
(22)【出願日】2021-08-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏
(72)【発明者】
【氏名】出井 晃治
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4L055
【Fターム(参考)】
4F100AA08
4F100AA08A
4F100AA08C
4F100AD01
4F100AD01A
4F100AD01C
4F100AK03
4F100AK03B
4F100AK07
4F100AK07B
4F100AK25
4F100AK25A
4F100AK25C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100EH17
4F100EH46
4F100EJ37
4F100GB90
4F100HB31
4F100JG01
4F100JK06
4F100JL09
4F100JM01
4F100JM01A
4F100JM01C
4J038CG141
4J038HA286
4J038HA526
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA06
4J038PB11
4J038PC08
4L055AF15
4L055AG11
4L055AG27
4L055AG71
4L055AH02
4L055AH35
4L055AH37
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA13
4L055FA15
4L055FA19
4L055GA37
(57)【要約】
【課題】インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも優れた印刷用シート、特に、基材とコート層の密着性・接着性が極めて良好な印刷用シート、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイが35質量%以上65質量%以下、重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるコート層を有している印刷用シートであって、前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であることを特徴とする印刷用シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイが35質量%以上65質量%以下、重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるコート層を有している印刷用シートであって、
前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であることを特徴とする印刷用シート。
【請求項2】
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む基材である請求項1に記載の印刷用シート。
【請求項3】
前記無機物質粉末が炭酸カルシウム粉末である請求項2に記載の印刷用シート。
【請求項4】
前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である請求項1~3の何れかに記載の印刷用シート。
【請求項5】
前記アクリル系ポリマーが(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1~4の何れかに記載の印刷用シート。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1種もしくは2種以上のものである請求項5に記載の印刷用シート。
【請求項7】
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中に乾燥質量でクレイが35質量%以上65質量%以下、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする印刷用シートの製造方法。
【請求項8】
ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理工程を介して、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする請求項7に記載の印刷用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用シート及び印刷用シートの製造方法に関する。詳しく述べると、本発明は、基材表面にコート層を有してなる印刷用シートにおける、基材に対するコート層の密着性・接着性、印刷適性、耐水性、耐候性、帯電防止性等の改良に係る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷用シートとしては、その基材に紙やポリエステル、ポリプロピレン等からなるプラスチックシート等を用いたものが知られている。特に、例えば、ポスターや屋外用印刷物等の耐水性、引裂強度等の特性が要求される用途においては、プラスチックシートや熱可塑性樹脂に無機充填剤と少量の添加剤を加えてシート状に成形する等により得られた合成紙が主として用いられている。
【0003】
また、環境保護が国際的な問題となってきた現在、熱可塑性プラスチック並びに紙資材の消費量を低減することが大いに検討されており、この様な観点から、無機物質粉末を熱可塑性プラスチック中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチック組成物が提唱され、上述した様な印刷用シートとしても実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
ところで、上述した様な材質からなるシートを、特に印刷用途として考える場合は、印刷面におけるインクとプラスチックシートとの接着力や、発色を向上するために、プラスチックシートの表面を改質することが多い。具体的には、クレイ・ラテックスやアクリル系ポリマーからなる塗工液をコーティングして、インク受容層乃至は印刷受容層等とも称されるコート層を形成している(例えば、特許文献2~4等参照。)。
【0005】
しかし、例えば前記クレイ・ラテックスをコーティングした場合は、クレイの成分が色を有しているため、コーティング後の印刷用シートの白色度が低く、紙代替としての色が気になる場合があった。また、使用するラテックスにポリスチレン成分が含有されているため、太陽光、特に紫外線による劣化が大きく、経時的に黄変するといった問題もあった。
【0006】
一方、引用文献2、3に示されるように従来のアクリル系ポリマーをコーティングした場合は、帯電防止効果を発揮するために添加している親水性のアクリル系ポリマー材料の環境依存性が高く、特に冬場の様な湿度が低い条件においては帯電防止効果が低くなり、静電気が発生しやすい問題があった。静電気が発生すると、印刷時に詰まりが発生したり、シート同士がブロッキングする問題が発生するため好ましくない。更に、ポリエチレンやポリプロピレンの様なオレフィン系プラスチックシートにアクリル系ポリマーをコーティングする場合、基材となるプラスチックシートの極性が小さいため、製造条件によっては基材であるプラスチックシートと塗工液の接着力が弱く、塗工してもシートとコーティングの界面から剥離してしまう問題もあった。また、アクリル系ポリマーのコーティングのみであると、印刷適性、特にレーザープリンター(LBP)印刷において、トナーの定着性が低く、高温度下で定着する必要があった。これにより、シートが熱により溶け、印刷装置内でシートが紙詰まり(ペーパージャム)を起こすトラブルが頻繁に発生するという問題があった。
【0007】
なお、特許文献4においては、アクリル系ポリマーとして20~60mgのKOH/gの酸価及び摂氏35度未満のTgを有するアクリル系ポリマーのラテックスと、少なくとも1つは摂氏90度を超えるTgを有するアクリル系ポリマーのラテックスとの少なくとも2種の混合物を用いて低温での高速印刷適正を高めること、塗工液組成物中に中空ポリマー粒子を配合して、コート層の断熱特性を改善すること、また塗工液組成物中に一次粒子径100nm未満を有するシリカ粒子を配合してコート層の平滑性を高めること等が開示されている。しかしながら、塗工液組成物においてこれらの配合を施した場合、基材であるプラスチックシートと塗工液との接着力の一層の低下が懸念され、また、上記した様な帯電防止効果の観点においても、特に改善は期待できないものであった。
【0008】
また特許文献5においては、酢酸ビニル、ビニル-アクリル、スチレン-アクリル又はスチレン-ブタジエン-アクリルポリマーからなるポリマーバインダーに対し、ピロリン酸四カリウムを分散剤として、チタニア粒子を所定量、クレイ及び炭酸カルシウム等と共に配合して、基材に塗工し、白色度の高いシートを得ることが開示されている。チタニア粒子を所定量配合することで、確かに白色度の向上は望めるものの、前記した様な基材とコート層の密着性の問題や、コート層の耐水性不良、耐候性不良といった点においては、特に改善は期待できない。
【0009】
さらに特許文献6においては、0.9mmを超える繊維長-加重平均を有する繊維からなる平滑性の基材表面に、アクリル系バインダーに対し、炭酸カルシウム沈殿アンゴナイト、クレイ、中空球状ポリエチレン顔料等の顔料を、バインダー:顔料が100:15~100:40の割合で配合してなる組成物をコーティングして平滑性の高い印刷用シートを得ることが提案されている。しかし、この様な組成物を用いた場合、シートの平滑性は高まることは期待できる一方で、シートの白色度、印刷適性、基材とコート層の密着性、帯電防止性等の改善は期待できない。
【0010】
また特許文献7においては、印刷用シートを得るため基材上に、DFコーター法により塗布される塗料組成物として、高アスペクト比クレイを5~30重量部と、2μmより小さい粒子を90%以上含む炭酸カルシウムを70~95重量部の割合で含有するものが示されており、これにより白色度の高いシートを経済的に得ることが開示されている。この文献において示される技術によっては、炭酸カルシウムの高配合によってシートの白色度の向上が期待できる一方で、炭酸カルシウムの高配合によって、シートの質感(印刷物のグロス感が高まる)が変わってしまうことが懸念される。なお、特許文献7においては、当該塗料組成物のバインダー成分としては、SBR樹脂が用いられており、上述した様なポリスチレン成分が含有されることによる耐候性不良や耐水性不良といった問題がある。
【0011】
特許文献8においては、インク受容層として、例えばポリメチルメタクリレートのような硬いポリマー粒子をフィルム形成用バインダ中に配合したもの、さらには、これにカオリン、仮焼クレー、構造化クレー、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、二酸化チタン、アルミニウムトリハイドライド、サテンホワイト、シリカ、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の粒子を添加した組成のものを、基材上に形成した印刷用シートが開示されている。ポリメチルメタクリレート粒子を配合することにより基材とコート層との密着性が高まることや耐水性の向上が期待できるものの、ポリメチルメタクリレート粒子を配することでシートのマット感が高まる恐れがある。また受容層に配合される粒子としてポリメチルメタクリレート粒子を主として用いた場合、例えばLBP印刷した場合に、トナーとの定着性が十分とならず、高温度下で定着する必要が生じ、これにより上記したと同様にシートが熱により溶けてペーパージャムを起こす虞があった。また、ポリメチルメタクリレート粒子は経済的な観点でも不利でありシートの価格上昇に繋がってしまうものであった。
【0012】
また特許文献9においては、ホログラムを作成する上で、受容層として、基材上に例えばスチレン-アクリル共重合体粒子のような高分子顔料をアクリル重合体、スチレン-アクリル共重合体等に配合し、さらにこれに沈降性炭酸カルシウム(PCC)、重質天然炭酸カルシウム、あるいはカオリン又はその他のクレーを配合した組成のものを、基材上に形成したシートを用いることが開示されている。しかしながら、上記特許文献8における技術と同様に、スチレン-アクリル共重合体粒子のような高分子粒子を用いた場合には、シートのマット感が高まる恐れがあり、さらに、LBP印刷でのトナーの付着性が十分とはならなかったり、プリンター内部でペーパージャムを起こす虞があった。また、高分子粒子は経済的な観点でも不利でありシートの価格上昇に繋がってしまうものであった。さらにスチレン成分を含むために耐湿性の上でも問題が残るものであった。
【0013】
特許文献10においては、インクジェット記録用シートとして、基材の片面に、非晶質シリカとバインダーを主成分とするインク受容層を設け、基材の該インク受容層を設けた面とは反対側の面に、デラミクレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、及びデラミクレーとタルクとの組合せよりなる群から選ばれる顔料とバインダーのラテックスとしてスチレン-アクリル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体又はエチレン酢酸ビニル共重合体を含むバック層を設けてなる構成が示されている。なお、この記録用シートにおいては、受容層と反対面にクレー及び炭酸カルシウムをバインダーのラテックスに配合してバック層を形成しているものであるが、当該バック層はシートの糊付け加工性等を良好とするために設けられるものであって、本願発明が課題とするような受容層における問題を解決する構成ではなく、かつバインダー成分としてスチレン成分を含むものであり耐湿性の問題が生じるものである。
【0014】
特許文献11においては、石膏ボードの表面を形成するペーパーライナーの外表面側に、酸化デンプンとサイジング剤とアクリル系ポリマーとからなる表面サイズ層を形成し、さらにその上に該1つの表面に炭酸カルシウム、クレー、ケイ酸アルミニウム、仮焼クレー、二酸化チタン及びそれらの混合物の少なくとも1種の無機フィラーとスチレン-アクリル共重合体等のバインダーとからなるコーティング層を設けてなる構成が開示されている。この文献におけるコーティング層には、装飾模様が印刷され得る旨が記載されているが、当該ペーパーライナーは、石膏ボードを形成する上での通水性が要求される等の理由からバインダーとしては親水性が高いものが使用されており、本発明に係るような印刷用シートにこのようなコーティング層を応用した場合にあっても、耐候性不良や耐水性不良といった課題は解決できないものとなる。
【0015】
特許文献12には、バインダー樹脂中に少なくとも3種類の無機顔料、例えば軽質炭酸カルシウム、クレー、及びシリカを2:1:2~2:3:2の比率で含んで成るインク吸水層が設けられたコーテッドフィルムが、開示されている。また、特許文献13には、沈降性炭酸カルシウムを主体とし、クレー及びバインダー樹脂を含む被覆組成物が開示されている。しかしながらこれら特許文献に記載されたような、コート層がクレーよりも他の無機顔料、特に軽質炭酸カルシウムを多量に含有する印刷用シートでは、十分な光沢が発現し難く、印刷適性もしばしば不良となる。
【0016】
本出願人は先に、上記のような課題を解決すべく、基材の片面又は両面のコート層の組成について検討を行った。その結果、アクリル系ポリマーからなるコート層中に、クレイと軽質炭酸カルシウムとをバランスよく所定の割合で配合することによって、基材とコート層との接着性不良、コート層の耐水性不良、耐候性不良による黄変、帯電による印刷工程における紙詰まり等の不具合が解決され、LBPに対する印刷適性(定着性及び転写性)やオフセット印刷適性が向上した印刷用シートが得られることを見出した。この技術は既に特許出願され、特許文献14にて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第WO2014/109267号明細書
【特許文献2】特公平7-20739号公報
【特許文献3】特開2015-6793号公報
【特許文献4】国際公開第WO2006/051092号明細書
【特許文献5】特開2014-189941号
【特許文献6】特表2007-520642号
【特許文献7】国際公開第WO2011/114456号明細書
【特許文献8】特表2005-520065号
【特許文献9】特表2004-533922号
【特許文献10】特許第4403131号
【特許文献11】特表2002-513873号
【特許文献12】特開2001-225422号
【特許文献13】特表2018-508607号
【特許文献14】特開2021-011080号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献14の印刷用シートは、印刷適性に優れ、基材とコート層の密着性が良好であり、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも良好で、優れた印刷適性を示す。しかしながら近年は、印刷手法の多様化や印刷後のシートの用途拡大に伴い、基材とコート層の密着性・接着性を始めとする、各種物性のさらなる改善が求められている。
【0019】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、さらに改良された印刷用シート及びその製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも優れた印刷用シート、特に、基材とコート層の密着性・接着性が極めて良好な印刷用シート、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、アクリル系ポリマーからなるコート層の配合について再度検討し、軽質炭酸カルシウムの代わりに特定の平均粒子径を有する重質炭酸カルシウムを用い、これをタルクと組み合わせて所定量配合することにより、上記のような課題が解決され、特に基材とコート層の密着性・接着性に優れる印刷用シートが得られることを見出した。
【0021】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイが35質量%以上65質量%以下、重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるコート層を有している印刷用シートであって、前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であることを特徴とする印刷用シートである。
【0022】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む基材である印刷用シートが示される。
【0023】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記無機物質粉末が炭酸カルシウム粉末である印刷用シートが示される。
【0024】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である印刷用シートが示される。
【0025】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記アクリル系ポリマーが(メタ)アクリル酸アルキルエステルである印刷用シートが示される。
【0026】
本発明の印刷用シートの一態様においては、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1種もしくは2種以上のものである印刷用シートが示される。
【0027】
上記課題を解決する本発明は、基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中に乾燥質量でクレイが35質量%以上65質量%以下、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする印刷用シートの製造方法である。
【0028】
本発明の印刷用シートの製造方法の一態様においては、ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理工程を介して、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする印刷用シートの製造方法が示される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも優れた印刷用シートを与えることができる。さらに本発明によれば印刷用シートの白色度や質感(適度なグロス感)も良好であり、また油性オフセット印刷、UVオフセット印刷等に用いられた場合におけるインクの速乾性も良好であって、オフセット適性にも優れた印刷用シートとなる。本発明の印刷用シートはまた、基材とコート層の密着性・接着性に優れるので、印刷時やその後の折り曲げ等の加工時、さらには使用時に、コート層が剥離する不具合も生じ難い。そのため、様々な印刷・加工工程に付すことができ、メニュー表やポスターのような汎用印刷物は勿論、牛乳パックを始めとする食品用途や折り畳みコップ等の医療・衛生用途、薬液保存用容器等、種々の用途に活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0031】
≪印刷用シート≫
本発明の印刷用シートは、シート状の基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成されたコート層とを備えるものであり、このコート層として、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイが35質量%以上65質量%以下、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるものを有する。
【0032】
なお、本発明にかかる印刷用シートとしては、基材の少なくとも一方の表面に上記したコート層を有する形態のものであれば、その他の構成については特に限定されるものではなく、例えば、基材とコート層の間に、なんらかの機能を有する中間層、例えば、基材とコート層との密着性を良くするためのシーラント層、印刷用シートに彩色及び柄等を与えるための内部印刷層、遮蔽層等、あるいはコート層を設けていない基材表面上への保護層、粘着層等、更にはコート層表面への保護層等を任意で設けることができる。
【0033】
(1)基材
本発明の印刷用シートにおける基材の材質としては、特に限定されず、樹脂系材料を主成分とするプラスチックシートから構成されていても良いし、紙系の材料から構成されていても良く、合成紙から構成されていても良い。更に、基材としては、無機物質粉末を熱可塑性プラスチック中に高充填してなる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシート、特に、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いることが、環境保全の観点から、また機械的強度、耐熱性等の特性が向上する観点から好ましい。
【0034】
(樹脂成分)
前記プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートを構成する樹脂としては、特に限定されるものではなく、印刷用シートの用途、機能等に応じて、各種のものが用いられ得る。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテル系樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
これらの熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等からポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的には、上記した様にポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等の何れによって得られたものであっても良い。
【0037】
前記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとしては、例えば、エチレンや、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等の炭素数4~10のα-オレフィンが例示される。プロピレン単独重合体としては、アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック及び種々の立体規則性を示す直鎖又は分枝状ポリプロピレン等の何れもが包含される。また上記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良く、更に二元共重合体のみならず三元共重合体であっても良い。具体的には、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等を例示できる。
【0038】
また、前記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等、更にそれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0039】
前記したポリオレフィン系樹脂の中でも、機械的強度と耐熱性とのバランスに特に優れることからポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
(無機物質粉末)
上記した様に、基材が無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合における、当該シート中に配合され得る無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、また、これらは単独又は2種類以上併用して使用され得る。
【0041】
更に、無機物質粉末の形状としても、特に限定される訳ではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られる様な球形のものであっても、あるいは、天然鉱物を粉砕にかけることにより得られる様な不定形状のものであっても良い。
【0042】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウム粉末が好ましい。更に炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石等CaCOを主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムの何れであっても良く、これらを組合わせることも可能であるが、経済性の観点で、好ましくは、重質炭酸カルシウムである。
【0043】
ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、経済性の観点で、乾式法が好ましい。
【0044】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を予め常法に従い表面改質しておいても良い。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0045】
無機物質粉末は、粒子であることが好ましく平均粒子径は、0.1μm以上50.0μm以下が好ましく、1.0μm以上10.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることができる。特に、その粒子径分布において、粒子径50.0μmを超える粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形体の製造が困難になる虞がある。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。
【0046】
無機物質粉末は、繊維状、粉末状、フレーク状、又は顆粒状であっても良い。
【0047】
繊維状である無機物質粉末の平均繊維長は、好ましくは、3.0μm以上20.0μm以下である。平均繊維径は、好ましくは、0.2μm以上1.5μm以下である。また、アスペクト比は、通常、10以上30以下である。なお、繊維状である無機物質粉末の平均繊維長及び平均繊維径は、電子顕微鏡で測定したものであり、アスペクト比は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)である。
【0048】
基材が上述した様に無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合に、これに含まれる上記した熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との配合比(質量%)としては、前記した様に、50:50~10:90の比率であることが望ましいが、40:60~20:80の比率であることがより好ましく、40:60~25:75の比率であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との配合比において、無機物質粉末の割合が50質量%より低いものであると、無機物質粉末を配合したことによる無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物の所定の質感、耐衝撃性等の物性が得られないものとなり、一方90質量%よりも高いものであると、押出成形、真空成形等による成形加工が困難となるためである。
【0049】
(その他の添加剤)
また、基材が、前記プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートである場合には、その組成中に、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0050】
(紙系材料)
基材が紙系の材料から構成される場合の具体例として、グラシン紙、コート紙、上質紙、無塵紙、含浸紙等の紙基材、及び上記の紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙が挙げられる。
【0051】
(基材構成)
基材は上記した材料より構成される一層のシートにより構成されていても良いし、あるいは複数層が積層されて基材を構成していても良い。また、基材が前記プラスチックシートあるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートの場合には、当該シートは未延伸のものであっても良いし、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであっても良い。
【0052】
基材の厚さとしては、特に限定はないが、通常10μm以上300μm以下、好ましくは25μm以上200μm以下である。
【0053】
また、プラスチックシート、あるいは前記無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックシートからなる基材を用いる場合には、その表面に設けられるコート層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0054】
(2)コート層
本発明の印刷用シートが有するコート層は、前記基材の片面のみに設けられても良く、両面に設けられても良い。このコート層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下であることがより好ましく、3μm以上5μm以下であることが特に好ましい。この範囲内の厚さであると、コート層が、インクの受容層として十分に機能し良好な着色性、発色性等といったインク受容特性を発揮し、かつ、印刷用シートの耐水性、表面の帯電防止性、インクとの密着性等といった特性も良好となる。
【0055】
しかして、本発明においては、このコート層は、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、クレイが35質量%以上65質量%以下、より好ましくは38質量%以上60質量%以下、更に好ましくは40質量%以上55質量%以下の割合で、また体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下、より好ましくは7質量%以上27質量%以下、更に好ましくは9質量%以上25質量%以下の割合で添加されてなるものである。
【0056】
コート層おいてアクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイ及び所定の粒子径の重質炭酸カルシウムがそれぞれ上記した所定量においてバランス良く存在することで、印刷用シートの耐水性と白色度が所望のものに維持されると同時に、シート表面が平滑性を失うことなく、微細な凹凸が形成され、入射光の散乱による耐候性向上効果が得られる。また、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイが存在することにより、抵抗率、特に表面抵抗率が下がり、例えばLBP印刷を行う場合に高電圧をかけなくともトナーを転写させることが可能となる。さらに、アクリル系ポリマーからなる連続相中に重質炭酸カルシウムが存在することにより、クレイに起因する黄色みが緩和され白色度を維持することが可能であり、また、耐油性が向上し、インクの速乾性が上がり、油性オフセット印刷適性が向上する。本発明の印刷用シートではまた、上記のような所定粒子径の重質炭酸カルシウムと、クレイとが組み合わされてコート層中にバランスよく配合されているため、
基材とコート層の密着性・接着性が極めて良好である。
【0057】
本発明は特定の理論により限定されるものではないが、本発明が効果を奏する理由として、上記のような所定粒子径の重質炭酸カルシウムに起因する、アンカー効果の発現が考えれられる。重質炭酸カルシウムは、前述のように天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるため、同等の粒子径の軽質炭酸カルシウムに比べて、一般に凹凸の多い不定形状の粒子となっている。こうした重質炭酸カルシウムの内、特定の体積平均粒子径を有するものをクレイと共に配合することにより、コート層表面に物理的な凹凸が形成され、基材との接合界面においてアンカー効果によって接着性が向上している可能性がある。
【0058】
また、コート層表面にクレイ(及び重質炭酸カルシウム)が存在することによりシート表面に微細な凹凸が形成され入射光の散乱による耐候性向上効果が得られること、クレイに加えて重質炭酸カルシウムがコート層表面に存在することにより十分な耐水性が保持されること、更に、クレイが存在することで、良好な帯電防止効果が得られることが考えられる。さらにコート層中にクレイと重質炭酸カルシウムとをバランスよく所定の割合で配合することによって、得られる印刷用シートのLBPに対する印刷適性(定着性及び転写性)や、オフセット印刷適性の向上が可能となると推定される。
【0059】
尚、後記する比較例及び前記の特許文献14に示されるように、重質炭酸カルシウムとして体積平均粒子径が2.00μmを超えるサイズのものを用いると、同量の軽質炭酸カルシウムを用いた場合と比べ、基材とコート層との接着性はむしろ低下する。特許文献14の発明でタルクと共に軽質炭酸カルシウムを選定したのも、そのためである。しかしながら今回再検討したところ、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムを用いると、同等の粒子径の軽質炭酸カルシウムを用いた場合と比べても、高い接着性が発現することが判明した。体積平均粒子径が2.00μmを超える大粒子径の重質炭酸カルシウムでは、粒子表面の凹凸に起因する効果が発現し難く、むしろ粒子の脱落等に起因する接着性の低下が生じたのに対し、上記体積平均粒子径の重質炭酸カルシウムでは、粒子が脱落することもなく、小サイズ故に不定形状の影響が顕著に現れ、今回のような予想外の効果が発現した可能性がある。
【0060】
コート層において、クレイの配合量が上記範囲内よりも少なくなると、クレイを配合することによるシートの表面抵抗率の低下が十分なものとならず、抵抗率が上がり、例えば、LBP印刷に用いた場合にトナーの接着力が下がり、転写性も低下する虞があり、また、基材との接着性が低下する虞が生じる。一方、クレイの配合量が上記範囲内よりも多くなると、LBP印刷に用いた場合の転写性は良好ではあるものの、コート層の耐水性が低下し、外観に悪影響が生じ、またコート層が十分な強度を有する連続層として形成できなくなる虞が生じる。
【0061】
また重質炭酸カルシウムの量を上記範囲内のものとすることで、シートの白色度が所望のものに維持できる。すなわち、本発明の印刷用シートの有するコート層は、前記したようにクレイを30質量%以上の割合で含有するものであるため、シートの黄色差(b値)が上昇する虞があるが、上記したように重質炭酸カルシウムが5質量%以上の割合で配合されていることにより、効果的に白色度を改善することができる。さらに重質炭酸カルシウムの量を上記範囲内のものとすることで、適度な耐油性が発揮され、油性インクの速乾性があがり、耐油オフセット適性が向上する。さらに、このように重質炭酸ルシウムを30質量%以下の割合で配合することによって、コート層の表面を平滑化し、光沢度を高めることが可能である。なお、配合割合が30質量%を超えると光沢度が低下する。光沢度を高める上では特に、25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下の割合であることが好ましい。
【0062】
なお、本発明の印刷用シートが有するコート層は、前記したように所定の配合割合でクレイ及び重質炭酸カルシウムを配合することにより形成されるものであるため、配合されるクレイ及び重質炭酸カルシムの量及び粒子径、並びに形成されるコート層の厚さを、所定の範囲内で適宜調整することによって、コート層の表面をある程度の粗度を持ってマットなものとすることも、あるいは光沢度を高めたグロスなものとすることも可能である。
【0063】
以下、本発明のコート層を形成する各成分につき詳細に説明する。
【0064】
(連続相を形成するアクリル系ポリマー)
コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物が含まれる。なお、本明細書において用いられる「(メタ)アクリル」との用語は、「アクリル」と「メタクリル」との双方を含む意味で用いているものである。
【0065】
より具体的には、前記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、特に限定されるものではないが、下記の成分からなる群から選択される1種もしくは2種以上のものが挙げられる:
アクリル酸、メタクリル酸;
例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチル又はアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1~18のアクリル酸アルキルエステル;
例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1~18のメタクリル酸アルキルエステル;
例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;
例えば、エチレングリコール単位を分子内に持つポリエチレングリコール(nは3以上20以下が望ましい。)ジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)トリアクリレート、フェノールEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)アクリレート、
例えば、アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル、
例えば、アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;
例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;
例えば、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ-又はジ-アルキルアミノアルキルエステル;
例えば、側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基又は加水分解性アルコキシシリル基等を有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステル;
例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド;
例えば、N-メチロールアクリルアミド及びN-メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N-アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N-イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN-アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N-イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;
例えば、N-ブトキシメチルアクリルアミドやN-ブトキシメチルメタクリルアミド等のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド;及び、
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体も前記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として挙げることができる。
更に、アクリル系ポリマーに光硬化反応等により架橋構造を導入し、コート層の皮膜強度を高めようとする場合には、2官能乃至は多官能のアクリル系モノマー、具体的には例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを配合することも可能である。
【0066】
これらのモノマー成分は、単独で、又は複数を混合して使用することができる。
すなわち、本発明でコート層の連続相を構成するアクリル系ポリマーは、上記に例示の各種のモノマー成分の内の何れかのみから構成されるホモポリマーであっても、上記に例示する各種モノマー成分を複数組み合わせてなるコポリマー(共重合体)であっても良い。
更に、本発明の一実施態様においては、上記モノマー成分以外に他のモノマー成分を含有するコポリマーをアクリル系ポリマーとして用い得る。
【0067】
上記例示以外のモノマー成分としては、上記モノマー成分と共重合体を形成するものであれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニル等のビニル系単量体、エチレン、ブタジエン、スチレン等を挙げることができる。しかしながら、好ましくは得られるシートの耐候性の観点から、スチレンを含まないことが望ましい。
【0068】
なお、本発明の印刷用シートにおいてコート層を形成する方法としても特に限定されるものではないが、一般的には、この様なコート層を形成する上での塗工性の観点から、水に分散/又は有機溶剤に溶解した形態で用いることが望ましく、特に、水に分散させた形態、すなわち、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの形態であることが望ましい。このため上記アクリル系ポリマーとしては、コート層を形成する原料としての段階で水性エマルジョンの形態を有するものであることが好ましい。
【0069】
アクリル系ポリマー水性エマルジョンを製造する上での乳化重合自体は当業者に周知である。その乳化重合において用いられる界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、両性、ノニオン性のものを単独、又は2種以上併用することが可能である。これらのうち好ましくはノニオン性、カチオン性のものである。ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等がある。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、N-2-エチルヘキシルピリジニウムクロライド等があるが、最も好ましくはノニオン性界面活性剤である。又それらのうちポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルが特に好ましい。界面活性剤の量は、特に限定される訳ではないが、通常、単量体の総量の1~5質量%が好ましく用いられる。
【0070】
更に、保護コロイド剤としてゼラチン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを併用しても良い。
【0071】
また、乳化重合におけるラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等の水溶性タイプ、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプ等が例示されるが、水溶性のものが好ましい。重合開始剤は、特に限定される訳ではないが、例えば、単量体の総量の0.01~0.50質量%の割合で用いる。
【0072】
重合反応は、特に限定されるものではないが、通常35~90℃の温度で攪拌下に行われ、反応時間は通常3~40時間である。また、乳化重合の開始時あるいは終了時に塩基性物質を加えてpHを調整することで、エマルジョンの放置安定性、凍結安定性、化学的安定性等を向上させることができる。この場合、得られるエマルジョンは、pHが5~9となる様に調整することが好ましく、そのためにアンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、苛性ソーダ、苛性カリ等の塩基性物質を使用することができる。
【0073】
特に限定されないが、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを好ましく例示できる。
【0074】
(クレイ)
さらに本発明においては、マトリックスとなるアクリル系ポリマーの連続相に、後述する重質炭酸カルシウムと組み合わせて、所定の割合でクレイを配合する。
【0075】
本発明において用いられるクレイとしては特に限定されず、公知のクレイを適宜利用することができる。なお、本明細書において「クレイ」とは、層状構造を有する粘土鉱物の他、イモゴライトやアロフェン等の層状構造を有しない粘土鉱物も含むものとする。層状構造を有する粘土鉱物としては、スメクタイト、バーミキュライト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、ヘクトライト、ハロイサイト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、スメクタイト、雲母、脆雲母、セリサイト(絹雲母)、イライト、グローコナイト(海緑石)、ハイドロタルサイト等の膨潤性鉱物;カオリン鉱物(カオリナイト、高陵石)、サーペンティン、パイロフィライト、タルク(滑石)、クロライト(緑泥石)、ゼオライト(沸石)、等の非膨潤性鉱物が挙げられる。また、この様なクレイとしては、天然のクレイ、合成クレイ、有機化クレイが挙げられる。
【0076】
なお、前記有機化クレイとしては特に限定されず、公知の何れのものも包含され得るが、クレイが有機化剤により有機化されてなるものであることが好ましい。この様な有機化される前のクレイとしては特に限定されず、いわゆる粘土鉱物であれば良く、上記に例示した様な何れのものであっても良い。また、この様なクレイは天然物であっても合成物であっても良い。
【0077】
また、前記有機化剤としては特に限定されず、クレイを有機化することが可能な公知の有機化剤を適宜利用することができ、例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクタデシルアンモニウムイオン等を用いることができる。
【0078】
本発明において用いられるクレイとしては、特に限定されるものではないが、特に、カオリンクレイが、コート層における均一分散性の観点から好ましい。
【0079】
またこのクレイの粒子径としては、特に限定されるものではなく、形成しようとするコート層の厚さによってもある程度左右されるが、例えば、体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下、中でも0.1μm以上1.7μm以下、特に0.2μm以上1.5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0μm以下とする。この様な粒子径範囲を有するものであると、形成されるコート層においてクレイを分散性良く配合することができ、上述した基材接着性の向上、印刷適性の向上、帯電防止性能といった所期の効果をより好適に発揮し得るものとなる。
【0080】
なお、クレイの形状としては、特に限定されるものではなく、球状、楕円球状、扁平状、不定形状等の何れのものであっても良いが、その形状が球状に近いものであることが、コート層中における均一分散性の観点から望ましい。この観点から、クレイのアスペクト比は好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。上記アスペクト比は、長径/短径を示す。
【0081】
また、クレイとしては、粒子間の粒度が均一であることが、コート層の面内特性を均一にする上で望ましい。
【0082】
更に、クレイの比重としては、特に限定されるものではないが、例えば、1.5~3.0、より好ましくは、2.0~2.8であることが、形成されるコート層全体に均一に分散され得る上で望ましい。
【0083】
(重質炭酸カルシウム)
本発明において、前記コート層は、上記クレイと共に、所定粒子径の重質炭酸カルシウムを含有する。「重質炭酸カルシウム」とは、前述したように、石灰石等CaCOを主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して製造される炭酸カルシウムであり、化学的沈殿反応等によって製造される軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とは明確に区別される。
【0084】
本発明において用いられる重質炭酸カルシウムは、上記のように0.05μm以上2.00μm以下の体積平均粒子径を有する。体積平均粒子径は、例えば0.07μm以上1.50μm以下、中でも0.10μm以上1.00μm以下、特に0.20μm以上0.50μm以下であることが好ましい。この様な粒子径範囲を有するものであると、印刷用シートとして望まれる白色度を向上させる上で、併せて、コート層の平滑化及びシートの光沢性を向上できるものとなる。
【0085】
(その他の添加剤)
本発明において、前記コート層は、上記以外の添加剤等の他の成分を含有しても良い。
添加剤としては、具体的には、架橋剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、界面活性剤、離型剤、浸透剤、着色顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、インク定着剤、硬化剤、耐候材料等が挙げられる。
【0086】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、ホウ酸塩、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0087】
また、インク定着剤として、アクリル樹脂以外のカチオン性樹脂や、多価金属塩を含有することが好ましい。カチオン性樹脂としては、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物等が挙げられる。多価金属塩としては、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム化合物が好ましく、硝酸カルシウム四水和物がより好ましい。
【0088】
消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、鉱物油系、ポリエーテル系、シリコーン系の消泡剤が用いられ、好ましくは鉱物油系の消泡剤である。疎水性シリカタイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコ8034、ノプコ8034-L、SNデフォーマーAP、SNデフォーマーH-2、SNデフォーマーTP-33、SNデフォーマーVL、SNデフォーマー113、SNデフォーマー154、SNデフォーマー154S、SNデフォーマー313、SNデフォーマー314、SNデフォーマー316、SNデフォーマー317、SNデフォーマー318、SNデフォーマー319、SNデフォーマー321、SNデフォーマー323、SNデフォーマー364、SNデフォーマー414、SNデフォーマー456、SNデフォーマー474、SNデフォーマー476-L、SNデフォーマー480、SNデフォーマー777、SNデフォーマー1341、SNデフォーマー1361(サンノプコ社製)、BYK-1740(BYK社製)等が挙げられ、金属石鹸タイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコDF-122、ノプコDF-122-NS、ノプコNDW、ノプコNXZ、SNデフォーマー122-SV、SNデフォーマー269、SNデフォーマー1010(サンノプコ社製)等が挙げられ、アマイドワックスタイプの鉱物油系消泡剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ノプコ267-A、ノプコDF-124-L、SNデフォーマーTP-39、SNデフォーマー477T、SNデフォーマー477-NS、SNデフォーマー479、SNデフォーマー1044、SNデフォーマー1320、SNデフォーマー1340、SNデフォーマー1360、SNデフォーマー5100(サンノプコ社製)が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、消泡剤の使用量としては、特に限定されるわけではないが、コート層を形成する塗工液の全体に対して0.01~0.03質量%が望ましい。
【0089】
なお、本発明に係るコート層は、上記したクレイ及び所定粒子径の重質炭酸カルシウム以外の微粒子に関しても、これらクレイ及び重質炭酸カルシウムの所定量の範囲内での併用による上述した優れた効果を阻害しない限り添加することは可能ではあるが、その他の微粒子は実質的に含まないことが望ましい。特に、例えば、ポリメチルメタクリレート粒子に代表される(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のようなポリマー微粒子は、実質的に含まないものとするのがよい。
【0090】
また、コート層を形成するための塗工液の調製は、例えば、コート層のマトリックスとなるアクリル系ポリマーとして、アクリル系ポリマー水性エマルジョンを用いる場合には、上記クレイ乃至はその水等への分散体、及び重質炭酸カルシウム乃至はその水等への分散体を、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの分散媒である水中に添加して、適当な攪拌乃至分散機、例えば、湿式コロイドミル、エッジドタービン、パドル翼等を用いて、500~3000rpmの回転条件で、通常1~5分間分散させることにより行い得る。なお、クレイ及び重質炭酸カルシウムを、アクリル系ポリマー水性エマルジョン中にそのまま投入すると凝集を生じる虞があるため、予め、必要に応じて分散剤を配合して、水等の媒体中にクレイ及び/又は重質炭酸カルシウムの分散させた分散体を調製した上で、アクリル系ポリマー水性エマルジョン中に配合することが望ましい。なお、クレイと重質炭酸カルシウムとは、その比重がほぼ等しいものであるため、分散体中でクレイと重質炭酸カルシウムとがそれぞれ偏在して存在するということはなく、双方が均一に分布した状態で分散させることができる。
【0091】
<印刷用シートの製造方法>
本発明の印刷用シートの製造方法としては、公知の基材表面にコート層を形成する方法を使用することができ、例えば、基材の片面又は両面に、乾燥質量でクレイが35質量%以上65質量%以下、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンからなる塗工液を、ロールコート、ブレードコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等の適当な手法により、塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化することによって行い得る。コート層の乾燥又は硬化の際の温度条件としては、特に限定されるものではないが、例えば90~120℃の温度にて行い得る。
【0092】
なお、基材として、上記した無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを用いる態様においては、例えば、ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理工程を介して、基材シートの片面又は両面に、乾燥質量でクレイが35質量%以上65質量%以下、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョンからなる塗工液を、適宜の方法により塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化することによって行い得る。無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを成形する上での、無機物質粉末とポリオレフィン樹脂との混合は、成形機にホッパーから投入する前にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良く、成形機による成形と同時にポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良い。無機物質粉末以外のその他の添加剤に関しても同様である。また、溶融混練は、ポリオレフィン樹脂に無機物質粉末を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましく、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。上記無機物質粉末をポリオレフィン樹脂に配合する際においては、高温となるほど臭気を発生させる傾向となるため、前記ポリオレフィン樹脂の融点+55℃以下、好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点以上でかつ融点+55℃以下、より好ましくは、前記ポリオレフィン樹脂の融点+10℃以上でかつ前記熱可塑性樹脂の融点+45℃以下の温度で処理する態様であることが望ましい。
なお、シート状に押出し成形する時における成形温度としては、同様の温度で成形することが好ましい。
【0093】
更に、シート状に成形する際における、延伸処理として特に限定されるものではなく、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、乃至は、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。
【0094】
成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シートの密度が低下する。密度が低下することによりシートの白色度が良好なものとなる。
【実施例0095】
以下本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解をより容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0096】
(評価方法)
以下の実施例及び比較例においての各物性値はそれぞれ以下の方法により評価されたものである。
【0097】
(接着性)
基材に対するコート層の密着性を調べるために、セロハン粘着テープによる剥離試験を行った。
・測定用テープ
JIS Z1522:2009に準拠するセロハン粘着テープ(幅:24mm)
・測定手順-1
(1)約75mmの長さにテープを取り出す。
(2)測定するシートにテープを貼り、透けて見える様に指でテープを擦る。なおこの際、爪を立てずに指の平で押すこととする。
(3)テープを貼って5分以内に、テープの端部を持ち上げ引き剥がし方向とコート層とが約60°の角度をなす様にして、0.5~1.0秒で確実に引き離す。剥離面を観察し、塗工層が付着しているかを目視により観察し、以下の評価基準に基づき、コート層と基材との密着性を評価する。
・評価基準
○ コート層の剥離が全くない。
△ コート層の剥離が20%未満である。
× コート層の剥離が20%以上である。
・測定手順-2
上記評価結果が〇であった試料については、上記(1)~(3)の操作をさらに5回繰り返し(貼付・剥離回数:各全6回)、コート層の剥離が見られなかった試料を「◎」と評価した。
【0098】
(表面抵抗率)
JIS K 6911:2006に準拠して測定した。測定には、試料を100mm角のシートとして用い、以下の条件で測定を行った。
温度23℃、湿度50%
【0099】
(白色度)
印刷用シート製造直後において、コート層表面の状態を目視観察し、L色空間色度図に対比して白色度(b)を測定した。
【0100】
(LBP印刷適性)
印刷用シートのLBP印刷適性を調べるために、各シートに対して、レーザープリンター(製品名:Versant 80 Press、富士ゼロックス株式会社製)にて、カラー及びモノクロテストパターンを印刷し、トナーの定着性を目視により観察し、以下の評価基準に基づき、印刷適性を評価した。
・評価基準
○ テストパターンが綺麗に印刷され、トナーの剥離が全くない。
△ テストパターンが良好に印刷されているが、トナーの剥離がやや生じている。
× テストパターンがうまく印刷されず、トナーの剥離が著しく生じている。
【0101】
(オフセット印刷適性)
印刷用シートのオフセット印刷適性を調べるために、各シートに対して、オフセット印刷機(製品名:RMGT920、リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社製)にて、油性オフセットインクを用いてテストパターンを印刷し、印刷のにじみ、ずれの定着性を目視により観察し、以下の評価基準に基づき、オフセット印刷適性(インク速乾性)を評価した。
・評価基準
○ テストパターンが綺麗に印刷され、印刷のにじみ、ずれが全くない。
△ テストパターンが良好に印刷されているが、印刷のにじみ、ずれがやや生じている。
× テストパターンがうまく印刷されず、印刷のにじみ、ずれが著しい。
【0102】
(耐水性)
濡らしたキムワイプ(日本製紙クレシア製 商品名)でコート層の表面を10秒間こすり、水跡が残らないかを目視観察し、以下の評価基準に基づき、耐水性を評価した。
・評価基準
○ コート層の表面に水跡が全く残らない。
△ コート層の表面に染みた様な水跡がわずかながら発生する。
× コート層の表面に染みた様な水跡が著しく残る。
【0103】
(耐候性)
メタルハライドウェザー試験において、ブラックパネル温度63℃(±2℃)、湿度50%(±5%)、照度1200W/mで24時間試験して、コート層表面の試験前後の状態を目視観察し、L色空間色度図に対比して色を測定し、以下の評価基準に基づき評価した。
・評価基準
○ コート層の表面の試験前後において、明度L及び色度aの変化がほとんどなく黄変が実質的に生じていない。
△ コート層の表面の試験前後において、明度L及び色度aの変化はわずかであるが、色度bの値の増加があり、わずかに黄変している。
× コート層の表面の試験前後において、明度L及び色度aの変化があり、特に色度bの値の著しい増加があり、黄変している。
【0104】
(材料)
以下の実施例及び比較例において使用した成分はそれぞれ以下のものであった。
【0105】
・基材
S1:ポリプロピレン単独重合体(融点160℃)36.0質量部と、無機物質粉末として平均粒子径2.2μm(JIS M-1511に準じた空気透過法による平均粒子径)の重質炭酸カルシウム粉末60.0質量部と、更に滑剤としてアルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12)2.0質量部を、二軸スクリューを装備した押出成形機(Tダイ押出成形装置φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練し、混練した原料を成形温度220℃でTダイによりシート成形し、引き取り機で巻き取りながら延伸して基材となる無機物質粉末配合熱可塑性プラスチックからなるシートを作成した。なお、この様にして得られたシートの肉厚は200μmであった。
【0106】
・アクリル系ポリマー水性エマルジョン
M1:アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸、酢酸ビニル、ロジン誘導体とを、質量比26:16:44:8:6:3の割合で含有してなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=50:50(質量比))
Ma:スチレン、ベンジルアクリレート、ブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを、質量比84.0:26.0:32.0:0.1:0.9で含有してなるスチレン-アクリル酸エステル共重合体の水性エマルジョン(固形分:水=20:80(質量比))
【0107】
・クレイ
C1:カオリンクレイ(体積平均粒子径0.29μm、比重2.5)
C2:カオリンクレイ(体積平均粒子径1.50μm、比重2.6)
【0108】
・炭酸カルシウム粉末
H1:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.25μm、比重2.6)
H2:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.34μm、比重2.6)
H3:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径3.00μm、比重2.6)
L1:軽質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.05μm、比重2.6)
L2:軽質炭酸カルシウム(体積平均粒子径1.00μm、比重2.6)
【0109】
[実施例1~6、比較例1~8、及び参考例1]
アクリル系ポリマー水性エマルジョン、クレイの種類及び添加量、炭酸カルシウムの種類及び添加量をそれぞれ、下記表1に示すものとして配合し、エッジドタービンを用いて3000rpmで3分間攪拌混合して、コート層塗工液を調製した。なお、表1において示すクレイ及び炭酸カルシウムの添加量は、アクリル系ポリマー水性エマルジョンの乾燥質量換算の値である。なお、何れのコート層塗工液においても、分散媒として水を用い、固形分濃度は46質量%とした。また、何れのコート層塗工液においても、分散剤として界面活性剤を0.1質量%及び消泡剤として疎水性シリカタイプの鉱物油系消泡剤を0.1質量%配合したが、これらの分散剤及び消泡剤は必須の成分ではなく、これらを加えなくとも、コート層塗工液を調製することは可能であった。この様にして調製したコート層塗工液を、前記した基材表面に、表1に示す所定の膜厚となる様にマイクログラビア法によって塗工し、110℃にて乾燥させて、印刷用シートを作成した。得られた各印刷用シートに関して、接着性、表面抵抗率、白色度、LBP印刷適性、オフセット印刷適性、耐水性、耐候性に関して上記した条件により測定した。得られた結果を表2に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
本発明に従いタルクと特定粒子径の重質炭酸カルシウムとをコート層に所定量含む実施例の印刷用シートは、何れも基材に対するコート層の接着性・密着性に優れ、かつ、白色度、LBP印刷適性、油性オフセット印刷適性、表面抵抗率、耐水性、耐候性の観点で十分良好な特性を示した。
【0113】
一方でクレイと共に軽質炭酸カルシウムをコート層に含む比較例1や3及び4等の印刷用シートは、印刷適性等の特性に優れ、接着性も1回目の評価結果は良好であったが、複数回の貼付・剥離後の評価結果は、本発明に従う実施例の印刷用シートに比べて劣っていた。また、体積平均粒子径3.00μmの重質炭酸カルシウムH3をタルクと共にコート層に含む比較例2の印刷用シートは、印刷適性が良好でない上、コート層の接着性が低かった。炭酸カルシウム粉末として、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムを使用することの重要性が示された。
【0114】
また、従来のアクリル系コート層のみの構成である比較例5においては、接着性が悪く、かつ、LBP印刷適性、オフセット印刷適性、表面抵抗率、耐水性、耐候性の観点で問題があり黄変を生じるものであった。また、クレイのみで重質炭酸カルシウムを添加していない比較例6においては、オフセット印刷適性、耐水性や耐候性の観点でやや劣るところがあった。
【0115】
以上のように、本願発明により、インク受容のためのコート層を基材の少なくとも一方の表面に有する印刷用シートにおいて、印刷適性に優れ、帯電防止性能が良好であって印刷時における紙詰まり等の不具合が生じにくく、更に耐水性、耐候性等の諸特性にも優れた印刷用シート、特に、基材とコート層の密着性・接着性が極めて良好な印刷用シート、及びその製造方法が提供された。
【手続補正書】
【提出日】2021-11-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイが35質量%以上65質量%以下、重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるコート層(但し、前記コート層の全体の質量を100質量%とした場合に、前記連続相中に、ジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、及び/又は、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されているコート層を除く。)を有している印刷用シートであって、
前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であることを特徴とする印刷用シート。
【請求項2】
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む基材である請求項1に記載の印刷用シート。
【請求項3】
前記無機物質粉末が炭酸カルシウム粉末である請求項2に記載の印刷用シート。
【請求項4】
前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である請求項1~3の何れかに記載の印刷用シート。
【請求項5】
前記アクリル系ポリマーが(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項1~4の何れかに記載の印刷用シート。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1種もしくは2種以上のものである請求項5に記載の印刷用シート。
【請求項7】
基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマーからなる連続相中に乾燥質量でクレイが35質量%以上65質量%以下、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の重質炭酸カルシウムが5質量%以上30質量%以下の割合で配合されてなるアクリル系ポリマー水性エマルジョン(但し、前記アクリル系ポリマー水性エマルジョン全体の乾燥質量を100質量%とした場合に、前記連続相中に、ジンクピリチオンが0.40質量%以上2.00質量%以下、及び/又は、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の酸化亜鉛が0.10質量%以上1.00質量%以下の割合で配合されているアクリル系ポリマー水性エマルジョンを除く。)を塗工することを特徴とする印刷用シートの製造方法。
【請求項8】
ポリオレフィン樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む基材をシート状に押出し成形し、延伸処理工程を介して、基材シートの片面又は両面に前記アクリル系ポリマー水性エマルジョンを塗工することを特徴とする請求項7に記載の印刷用シートの製造方法。